以下、本発明に係る操作特性調整装置の実施形態について説明する。各図において、同一記号で表現されるものは、同一機能を有するため、説明が省略される場合がある。
<本発明に係る操作特性調整装置を備える車両の全体構成>
本発明に係る操作特性調整装置を備える車両には、図1に示すように、制動操作部材BP、弾性部材DSB、操作変位取得手段BPA、車両状態量取得手段JPA、電子制御ユニットECU、電源(バッテリ)BAT、反力調整手段(反力調整アクチェータ)ACT、及び、制動手段BRKが備えられている。
制動操作部材BP(例えば、ブレーキペダル)は、運転者の足によって操作される。制動操作部材BPの操作によって、車両の制動手段BRKが調整され、車両の減速状態(結果として、車両速度)が制御される。制動操作部材BPは、車体BDYに回転可能な状態で固定される。制動操作部材BPは、運転者が足で操作するための操作面(踏面)PTM、及び、車体BDYに対して回転可能に取り付けられた第1リンクLN1にて構成される。操作面PTMは、第1リンクLN1に固定されている。
第1固定端ジョイントKT1は、第1リンクLN1の車体BDYでの取り付け部であり、第1固定端ジョイントKT1を中心に第1リンクLN1(即ち、操作面PTM)は回転可能である。制動操作部材BPには、操作面PTMの変位(即ち、第1リンクLN1の回転角)に応じた操作力Fbpを発生するため、弾性部材(例えば、コイルスプリング)DSBが設けられる。
弾性部材DSBは、所謂、パッシブな(外部からのエネルギ供給を必要としない受動的な)ばね要素であり、制動操作部材BPの変位に対して操作力Fbp(弾性部材DSB単独の発生力Fds)を発生させる。加えて、制動操作部材BPの全体における操作力Fbpは、反力調整手段ACTの電気モータMTRによっても発生される。従って、制動操作部材BPの操作特性(操作変位Bpaと操作力Fbpとの関係)は、弾性部材DSBが発生するばね力Fdsが、電気モータMTRが発生する力(出力)Fmtよって調整可能とされる。即ち、全体の操作力Fbpは、弾性部材DSBによる成分(ばね力)Fds、及び、電気モータMTRによる成分(調整力)Fmtによって発生される(Fbp=Fds+Fmt)。
操作変位取得手段BPAが設けられ、運転者によって操作された制動操作部材BPの操作変位Bpaが取得(検出)される。例えば、操作変位取得手段BPAは、第1リンクLN1の第1固定端ジョイントKT1における回転角センサであり、第1固定端ジョイントKT1に取り付けられる。第1リンクLN1は、第1固定端ジョイントKT1を中心に回転可能であるが、第1固定端ジョイントKT1に対する第1リンクLN1の回転角が、操作変位Bpaとして取得される(図1右側のA視図)。また、電気モータMTRの回転角取得手段MKAが、操作変位取得手段BPAとして採用され得る(即ち、MTRの回転角Mkaが、操作変位Bpaとして採用され得る)。操作変位Bpaは、電子制御ユニットECUに入力される。
車両状態量取得手段JPAが設けられ、車両状態量Jpaが取得される。車両状態量Jpaは、反力調整手段ACTの駆動制御に供される状態量(変数)である。具体的には、車両状態量Jpaは、運転者による操作特性の指示状態Swaである。また、車両状態量Jpaとして、車両の走行状態Jva(例えば、車両速度Vxa、車両の旋回状態)が採用され得る。即ち、JPAとして、運転者による指示状態取得手段(マニュアルスイッチ)SWA、及び、走行状態取得手段JVA(例えば、車速取得手段VXA)のうちの少なくとも1つが採用される。車両状態量Jpaは、電子制御ユニットECUに入力される。
指示状態取得手段SWAにて、運転者が所望する操作特性の指示状態Swaが取得(入力)される。具体的には、指示状態取得手段SWAは、多段階の入力スイッチであり、上記の多段階のうちから、運転者によって決定された1つの段(選択段)によって、指示状態Swaが指示される。従って、上記の選択段が、指示状態Swaとして取得される。
走行状態取得手段JVAにて、車両の走行状態量Jvaが取得(検出)される。具体的には、走行状態量Jvaは、車両の走行速度、及び、車両の旋回状態量のうちの少なくとも1つである。従って、車両速度取得手段VXAによって取得される車両速度Vxa、ヨーレイト取得手段YRAによって取得されるヨーレイトYra、横加速度取得手段GYAによって取得される横加速度Gya、及び、操舵角取得手段SAAによって取得されるステアリングホイールSWの操舵角Saaのうちの少なくとも1つが、走行状態量Jvaとして採用される。
電子制御ユニットECUでは、各種入力信号(操作変位Bpa等)に基づいて、反力調整手段ACT、及び、制動手段BRKを制御するための信号(Imt等)が演算される。該演算処理は、電子制御ユニットECU内のマイクロコンピュータにプログラムされている制御手段(制御アルゴリズム)CTLによって実行される。電子制御ユニットECU内の制御手段CTLにて、操作変位Bpa、及び、車両状態量Jpaに基づいて、反力調整手段ACTの電気モータMTRを駆動するための目標通電量Imtが演算される。目標通電量Imtは、操作変位Bpaの増加に従って変化する演算マップに基づいて決定される。演算マップにおいては、操作変位Bpaの増加量に対する目標通電量Imtの変化量が、車両状態量Jpaに基づいて調整されるよう構成されている。目標通電量Imtは、反力調整手段ACT(例えば、電気モータMTRの駆動手段DRV)に送信される。
さらに、電子制御ユニットECU(即ち、制御手段CTL)では、制動手段BRK(制動アクチュエータ)を制御するための目標制動トルクBrtが演算される。具体的には、制動操作変位Bpa、及び、演算特性(演算マップ)に基づいて、目標制動トルクBrtが決定される。演算マップは、操作変位Bpaが増加するに従って目標制動トルクBrtが増加するよう設定されている。目標制動トルクBrtは、制動手段BRKに送信される。
蓄電池(バッテリ)BATが、電子制御ユニットECU、制動手段BRK、及び、反力調整手段ACTに電力供給するために設けられる。即ち、蓄電池BATは、操作特性調整装置、及び、制動手段BRKにとっての電力源である。
反力調整手段(アクチュエータ)ACTによって、弾性部材DSBによって発生される弾性力(ばね力)Fdsが調整され、最終的な制動操作部材BPの操作力Fbpが決定される。ここで、「操作力Fbp」は、運転者の制動操作部材BPの操作に対抗する力であり、制動操作部材BPを初期位置(制限手段SG1に当接する位置)に戻そうとする反力である。基本的には、弾性部材DSBのばね力Fds(BPの変位に応じて生じる力)によって、操作力Fbpが発生される。ばね力Fdsは、常に、制動操作部材BPを初期位置に戻す方向(一方向)に作用する。反力調整手段ACTを構成する電気モータMTRの出力トルクによって、弾性力Fdsが、増加又は減少されて、操作力Fbpが調節される。反力調整手段ACTは、電気モータMTR、及び、動力伝達機構DDBにて構成される。
電気モータMTRによって、操作力Fbpを調整するための力(調整力)Fmtが発生される。調整力Fmtは、弾性部材DSBのばね力(弾性力)Fdsが増加される方向(操作力Fbpが増加し、BPの操作が重く感じられる方向)に発生される。換言すれば、電気モータMTRが発生する力(調整力)Fmtによって、制動操作部材BPに対する弾性力Fdsの影響度合が増加される。
また、調整力Fmtは、ばね力Fdsが減少される方向(操作力Fbpが減少し、BPの操作が軽く感じられる方向)に発生される。即ち、電気モータMTRが発生する力(調整力)Fmtによって、制動操作部材BPに対する弾性力Fdsの影響度合が減少される。このように、電気モータMTRの正転駆動/逆転駆動が利用され、調整力Fmtは双方向(2つの方向)に作用する。
電気モータMTRには、駆動手段DRVが設けられ、目標通電量Imtに基づいてパワー素子(例えば、MOS−FET、IGBT)がスイッチング駆動される。その結果、電気モータMTRの出力(発生トルクの大きさと方向)が制御される。電気モータMTRの出力(トルク)は、動力伝達機構DDBを介して、制動操作部材BP(具体的には、第1リンクLN1)に伝達される。
動力伝達機構DDBによって、電気モータMTRの出力が制動操作部材BPに伝達される。例えば、電気モータMTRの出力軸MTJのトルクが、減速されて、第1固定端ジョイントKT1まわりのトルクとして伝達される。第1固定端ジョイントKT1は、第1リンクLN1に固定されるため、電気モータMTRの出力が制動操作部材BPに伝達される。
制動手段BRKが、車両の各車輪WHに設けられる。電子制御ユニットECUから送信される、目標制動トルクBrt(信号)に基づいて、制動手段BRKが駆動される。制動手段BRKによって、各車輪WHの制動トルクが制御され、車両の減速度が調整される(最終的には、車両の速度が制御される)。制動手段BRKとして、制動流体(ブレーキ液)による制動トルク調整(所謂、液圧システム)、及び、電気モータによる制動トルク調整(所謂、EMB;Electro-Mechanical Brake)のうちの少なくとも1つが採用される。
<反力調整手段(反力調整アクチュエータ)>
図2の構成図を参照しながら、動力伝達機構DDBとして、4節リンク機構LNKが採用される場合の反力調整手段(反力調整アクチュエータ)ACTについて説明する。ここで、「リンク機構」とは、複数のリンクを組み合わせて構成した機械的な機構のことであり、リンク(節)と称呼される変形しない物体が、ジョイント(関節)と称呼される可動部分によって接続され、1つ以上の閉路を構成するものである。従って、「4節リンク機構」は、4つのリンクを備える機構である。具体的には、3つの実際のリンク(第1リンクLN1、第2リンクLN2、及び、中間リンクLNC)、及び、車体フロアFLRに固定されることによる仮想的なリンクである固定リンクLNVにて、4節リンク機構LNKが構成される。
図1において、同一記号を付された部材は、図2においても同一の機能を有する。しかし、装置の構成に多少の違いがあるため、先ず、その相違点について説明する。
図1の構成では、第1リンクLN1が車体BDYから吊り下げられ(所謂、吊り下げ式の制動操作部材BP)、弾性部材DSBが第1リンクLN1に固定される。従って、弾性部材DSBは、直接、制動操作部材BPを初期位置に戻そうとする力(ばね力)Fdsを発生させる。一方、図2の構成では、第1リンクLN1は、車体BDYのフロアFLRに支持され(所謂、オルガンペダル式の制動操作部材BP)、第2リンクLN2と一体である支持リンクLNSに弾性部材DSBが固定される(弾性部材DSBの固定点Pd1,Pd2)。弾性部材DSBは、第1リンクLN1(最終的には、操作面PTM)に力を付与するためのばね要素であり、制動操作部材BPを初期位置に戻す方向の力(ばね力)Fdsを発生する。ここで、「初期位置」は、運転者によって制動操作部材BPが操作されていない場合(即ち、非操作時)に、制限手段SG1によって、BPの動きが制限された位置である。4節リンク機構LNKの第1リンクLN1と、電気モータMTRの出力軸MTJとの間の動力伝達経路において、任意の箇所に弾性部材DSBが設けられ得る。
動力伝達機構DDBを形成する4節リンク機構LNKは、第1リンクLN1、第1固定端ジョイントKT1、中間リンクLNC、第1自由端ジョイントJY1、第2リンクLN2、第2自由端ジョイントJY2、及び、第2固定端ジョイントKT2にて構成される。ここで、「固定端ジョイント」は、車体BDYに回転可能な状態で固定されている。「自由端ジョイント」は、車体BDYには固定されておらず、各リンクで拘束される位置に、自由に移動され得る。
4節リンク機構LNKを介して、第1リンクLN1と電気モータMTRとの間で動力伝達が行われる。第1リンクLN1には、運転者による操作力が入力される。第2リンクLN2は、運転者の操作力に対抗する力(操作反力)を発生させるために、電気モータMTRに接続されている。そして、第1、第2リンクLN1,LN2は、中間リンクLNCを介して、接続されている。第1、第2リンクLN1,LN2と、中間リンクLNCとの接続部位が、第1、第2自由端ジョイントJY1,JY2である。この接続部位JY1,JY2とは反対側で、第1、第2リンクLN1,LN2は、車体BDYに回転可能な状態で支持されている。車体BDYの支持部位が、第1、第2固定端ジョイントKT1,KT2である。
制動操作部材BPの操作面PTM(運転者の足が触れる部分)への力(操作力)は、第1リンクLN1、及び、中間リンクLNCを介して、第2リンクLN2に伝達される。第2リンクLN2には、電気モータMTRの動力(トルク)が伝達され、操作面PTMから伝達される力に対抗する。第2リンクLN2の固定端ジョイントKT2には、大径歯車DKHが固定される。そして、大径歯車DKHは、電気モータMTRの出力軸MTJに固定される小径歯車SKHとかみ合わされる。従って、電気モータMTRの発生力(出力)は、減速されて(即ち、発生力が増加されて)、第2固定端ジョイントKT2に伝達される。なお、電気モータMTRは、車体フロアFLRに固定されたマウントMNTに固定されている。即ち、電気モータMTRは、車体BDYに固定されている。
第1制限部材(第1制限手段)SG1、及び、第2制限部材(第2制限手段)SG2によって、4節リンク機構LNKの動きが制限される。換言すれば、第1、第2制限部材SG1,SG2によって、4節リンク機構LNK(例えば、第1リンクLN1)の動作可能な範囲が限定される。制限手段SG1は、制動操作部材BPが操作されていない場合(即ち、非制動時)の初期位置(Bpa=0に対応する位置)を制限する。例えば、第1制限部材SG1は、車体BDYのフロアFLRに固定されるマウントMNTに設置され、車体BDYに対する、第2リンクLN2の動きを制限する。第2制限部材SG2は、制動操作部材BPが最大に操作される場合の最大操作位置(Bpa=bp1に対応する位置)を制限する。例えば、第2制限部材(制限手段に相当)SG2は、車体フロアFLRに固定され、車体BDYに対する、第1リンクLN1の動作を制限する。
第1制限部材SG1において、第2リンクLN2と接触し得る部分には、弾性体(例えば、ゴム部材)が設けられ、第2リンクLN2と第1制限部材SG1とが接触する際の衝撃が緩和され得る。同様に、第2制限部材SG2において、第1リンクLN1と接触し得る部分には、弾性体(例えば、ゴム部材)が設けられ、第1リンクLN1と第2制限部材SG2とが接触する際の衝撃が緩和され得る。制限手段(ストッパ)SG1,SG2は、4節リンク機構LNKの可動範囲を制限するものであるため、車体BDYに対して、第1リンクLN1、第2リンクLN2、及び、中間リンクLNCのうちの少なくとも1つの動きを制限するように構成され得る。
<目標通電量Imtの演算処理、及び、電気モータMTRの駆動制御処理>
図3の機能ブロック図を参照しながら、制御手段CTL(制御アルゴリズム)での目標通電量Imtの演算処理、及び、目標通電量Imtに基づく、駆動手段DRVでの電気モータMTRの駆動制御処理について説明する。
制御手段CTL内に、目標通電量演算ブロックIMTが設けられ、目標通電量Imtが演算される。ここで、「通電量」とは、電気モータMTRが生じる力(出力トルク)を制御するための状態量(変数)である。電気モータMTRは電流に概ね比例するトルクを出力するため、通電量の目標値(目標通電量)として電気モータMTRの電流目標値が用いられ得る。また、電気モータMTRへの供給電圧を増加すれば、結果として電流が増加されるため、目標通電量として供給電圧値が用いられ得る。さらに、パルス幅変調におけるデューティ比によって供給電圧値が調整され得るため、このデューティ比(1周期における通電時間の割合)が通電量として用いられ得る。
電気モータMTRは、双方向(正転方向、又は、逆転方向)に出力を発生させるが、目標通電量Imtの符号(正符号、或いは、負符号)に基づいて、電気モータMTRの回転方向が決定される。例えば、電気モータMTRの回転方向は、正転方向Fwdが正(プラス)の値、逆転方向Rvsが負(マイナス)の値として設定される。目標通電量Imtの大きさに基づいて、電気モータMTRが発生する力(即ち、出力トルク)が決定される。
目標通電量演算ブロックIMTには、制動操作部材BPの操作変位Bpa、及び、車両状態量Jpaが入力される。目標通電量演算ブロックIMTには、目標通電量Imtを決定するための演算特性(演算マップ)が記憶されている。目標通電量Imtの演算特性(演算マップ)には、制動操作変位Bpaの増加に従って目標通電量Imtがゼロから増加される増加モードMdz、及び、操作変位Bpaの増加に従って目標通電量Imtがゼロから減少される減少モードMdgが存在する。
増加モードMdzでは、調整力Fmt(MTRの発生力)は、弾性力Fds(DSBの発生力)と同じ方向に作用する。従って、制動操作部材BPの操作力Fbpは、弾性力Fdsのみによって発生される場合に比較して、大きくされる。換言すれば、増加モードMdzでは、調整力Fmtによって、制動操作部材BPに対する弾性力Fdsの影響度合が増加される。一方、減少モードMdgでは、調整力Fmtは、弾性力Fdsを打ち消す方向(Fdsとは逆向きの方向)に作用する。従って、制動操作部材BPの操作力Fbpは、弾性力Fdsのみによって発生される場合に比較して、小さくされる。換言すれば、減少モードMdgでは、調整力Fmtによって、制動操作部材BPに対する弾性力Fdsの影響度合が減少される。
増加モードMdz、及び、減少モードMdgのうちから何れのモードが選択されるかは、車両状態量取得手段JPAによって取得された車両状態量Jpa(指示状態量Swa、走行状態量Jva)に基づいて決定される。ここで、指示状態量Swaは、運転者によって操作される指示取得手段SWA(例えば、多段階で設定可能なマニュアルスイッチ)にて取得(検出)される信号である。また、走行状態量Jvaは、車両の走行状態(車両の走行速度、車両の旋回状態、等)を表現する変数(信号)であり、走行状態取得手段JVAによって取得(検出)される。
車両状態量Jpaとして、指示取得手段SWAにて取得(検出)される指示状態Swaが採用される場合を例に説明する。
指示取得手段SWAが、指示状態量Swaとして、「重めの操作感」を取得する場合、増加モードMdzが選択される。ここで、増加モードMdzは、演算特性において、Imt=0の特性(Z)から特性CImaxまでの領域である。増加モードMdzでは、操作変位Bpaが増加するに従って、目標通電量Imtがゼロから増加される。そして、操作変位Bpaが値bp1(第2制限部材SG2によって制限され始める位置に相当)に達すると、目標通電量Imtは一定値(>0)に保持される。
増加モードMdzでは、目標通電量Imtは正の値(>0)に演算され、電気モータMTRは正転方向Fwdに駆動される。従って、増加モードMdzでは、調整力Fmtは、弾性部材DSBの弾性力(制動操作部材BPを初期位置に戻そうとするばね力)Fdsと同じ向きに発生される。即ち、増加モードMdzでは、運転者が制動操作部材BPを相対的に大きな踏力で操作することが必要となる。このため、制動操作部材BPの操作において剛性感が向上される。なお、Imt=0の場合には、操作力Fbpが、弾性部材DSB単体が生じる、ばね力Fdsと一致する(即ち、電気モータMTRによる調整が行われない)。
一方、指示取得手段SWAが、指示状態量Swaとして、「軽めの操作感」を取得する場合、減少モードMdgが選択される。ここで、減少モードMdgは、演算特性において、Imt=0の特性(Z)から特性CIminまでの領域である。減少モードMdgでは、操作変位Bpaが増加するに従って、目標通電量Imtがゼロから減少される。Mdzの場合と同様に、操作変位Bpaが値bp1(第2制限部材SG2によって制限され始める位置に相当)に達すると、目標通電量Imtは一定値(<0)に保持される。
減少モードMdgでは、目標通電量Imtは負の値(<0)に演算され、電気モータMTRは正転方向Fwdとは異なる逆転方向Rvsに駆動される。従って、減少モードMdgでは、調整力Fmtは、弾性部材DSBの弾性力(制動操作部材BPを初期位置に戻そうとするばね力)Fdsとは逆向きに発生される。即ち、減少モードMdgでは、運転者が制動操作部材BPを相対的に小さな踏力で操作できるようになる。このため、制動操作部材BP操作の軽快感が向上される。
このように、1つの電気モータMTRの回転方向によって、制動操作部材BPの操作力Fbpを増大(MTRの正転に対応)、又は、減少(MTRの逆転に対応)するよう調整される。このため、操作変位Bpaと操作力Fbpとの関係において、その調整幅が拡大され得る。換言すれば、調整幅が同じである場合には、電気モータMTRが小型化され得る(サイズとして、概略1/2となる)。電気モータMTRの一方向駆動のみが利用される場合、電気モータMTRの最大出力は、特性CImaxから特性CIminまでの範囲に対応する必要があるが、電気モータMTRの双方向の駆動が利用されるため、Imt=0(無調整の特性(Z))から特性CImax(又は、特性CImin)までの範囲に限って対応すれば足りることに因る。
指示状態量Swaの場合と同様に、走行状態量Jvaに基づいて、増加モードMdz、又は、減少モードMdgが選択される。車両の走行状態量Jvaとして、車速Vxaが採用される場合、車速Vxaが相対的に高い条件で(即ち、車両が高速で走行しているとき)、増加モードMdzが決定される。逆に、車速Vxaが相対的に低い条件で(即ち、車両が低速で走行しているときであり、例えば、渋滞走行中)、減少モードMdgが決定される。このため、高速では制動操作部材BPの剛性感が増加される。一方、低速では制動操作部材BPの操作性が向上され、利便性が増大され得る。
車両の走行状態量Jvaとして、車両の旋回状態量(Saa、Yra、及び、Gyaのうちの少なくとも1つ)が採用される場合、旋回状態量が大きいときに増加モードMdzが選択され、旋回状態量が小さいときに減少モードMdgが選択される。上記同様の効果を奏する。
目標通電量Imtは、車両状態量Jpa(Swa、Vxa等)に基づいて、その程度に応じて段階的に決定される。例えば、指示状態量Swaが、第1段(重め)〜第5段(軽め)の5ステップで指示される場合、第1段が指示されるときに特性CImax(増加モードMdzの最大特性)、第3段が指示されるときにImt=0(弾性部材DSBのみの特性)、及び、第5段が指示されるときに特性CImin(減少モードMdgの最大特性)が用いられて、目標通電量Imtが演算される。そして、これらの中間の条件である第2段が指示される場合には、増加モードMdzにおいて、特性CImaxと特性(Z)との中間特性である特性(A)が、演算マップとして採用される。また、中間の条件である第4段が指示される場合には、減少モードMdgにおいて、特性CIminと特性(Z)との中間特性である特性(B)が、演算マップとして採用される。
車両状態量Jpaとして、連続的に変化する状態量(変数)が採用される場合には、「Imt=K(Jpa)×Bpa」の関数式に基づいて、目標通電量Imtが演算される。ここで、係数K(Jpa)は、Bpaに対するImtの傾きを決定する値であり、正負の符号を有して決定される。例えば、車両状態量Jpaが車速Vxaである場合、車速Vxaが大きいほど、係数K(Vxa)は正符号をもつ大きい値に決定され、車速Vxaが小さいほど、係数K(Vxa)は負符号をもつ小さい値に決定される。
表1に、車両状態量Jpaと各モード(増加モードMdz、又は、減少モードMdg)との関係をまとめる。表1では、例えば、指示状態Swaが、操作感の「重め」を指示している場合には増加モードMdzが採用され、操作感の「軽め」を指示している場合には減少モードMdgが選択されることを表現している。また、車速Vxaが相対的に高い場合(即ち、高速走行時)には増加モードMdzが採用され、車速Vxaが相対的に低い場合(即ち、低速走行時)には減少モードMdgが採用されることを表している。
目標通電量演算ブロックIMTでは、目標通電量Imtの演算において、制動操作部材BPの操作が開始される開始時点で、増加モードMdz、及び、減少モードMdgのうちから何れか1つのモードが選択される。そして、開始時点から制動操作部材BPの操作が終了される終了時点までは、選択された1つのモードから、そのモードとは異なる他方のモードへの変更が禁止される。換言すれば、一連の制動操作(開始時点から終了時点までの連続した制動操作)において、その操作の途中でのモード変更が禁止される。例えば、制動開始時点で増加モードMdzが決定された場合、制動操作の途中で、減少モードMdgには変更されない。同様に、減少モードMdgが決定された場合、制動操作の途中で、増加モードMdzには変更されない。
制動操作部材BPの一連の操作の途中で操作特性が変更されると、運転者への違和感となる場合があり得る。また、動力伝達機構DDBには、バックラッシ(ガタ)が含まれるため、電気モータMTRが反転する場合(回転方向が変更になる場合)に、このバックラッシの影響によって、操作特性が不連続となり得ることが懸念される。上記のモード変更の禁止によって、軽い操作特性(減少モードMdg)から重い操作特性(増加モードMdz)に変更されること、或いは、重め操作特性(Mdz)から軽め操作特性(Mdg)に変更されることが回避され、運転者への違和感が抑制され得る。さらに、装置のバックラッシに起因する操作の不連続感が低減され得る。
また、目標通電量演算ブロックIMTでは、目標通電量Imtの演算において、車両状態量Jpaとして、制動操作部材BPの操作が開始される開始時点での車両速度vxsが採用される。制動操作部材BPの操作によって、車両速度Vxaは、順次、減少していく。例えば、車速Vxaが高い場合に、制動操作部材BPの剛性感を重視して、増加モードMdzが選択され、車速Vxaが低下するにつれて、操作性を重視して、減少モードMdgが選択される場合が想定され得る。車速Vxaの変化に伴う操作特性の変化が、運転者への違和感となる場合もあり得る。制動操作の開始時点(瞬間)における車両速度vxsが取得され、この固定値vxsに基づいて、目標通電量Imtが演算されるため、制動操作部材BPの操作特性は、概ね一定とされ、運転者への違和感が抑制され得る。
電気モータMTRの駆動回路(駆動手段)DRVでは、目標通電量Imtに基づいて、電気モータMTRの回転動力(出力トルク)と、その方向(回転方向)が調整される。駆動手段DRVは、電気モータMTRを駆動するための複数のスイッチング素子にて構成されるブリッジ回路、パルス幅変調ブロックPWM、スイッチング制御ブロックSWT、及び、通電量取得手段IMAにて構成される。
電気モータMTRとして、ブラシレスモータが採用される場合には、ブリッジ回路は、6つのスイッチング素子(S1乃至S6)で構成される(所謂、3相ブリッジ回路)。3相ブリッジ回路では、回転角取得手段MKAの検出結果(回転角Mka)に基づいて、U相(端子Tu)、V相(端子Tv)、及び、W相(端子Tw)のコイル通電量の方向(即ち、励磁方向)が順次切り替えられて、電気モータMTRが駆動される。なお、ブラシレスモータの回転方向(Fwd方向、又は、Rvs方向)は、ロータと励磁する位置との関係によって決定される。
パルス幅変調ブロックPWMでは、目標通電量Imtに基づいて、各スイッチング素子S1〜S6についてパルス幅変調(PWM、Pulse Width Modulation)を行うための指示値(目標値)が演算される。例えば、目標通電量Imt、及び、予め設定される特性(演算マップ)に基づいて、パルス幅のデューティ比Dut(1周期に対するオン時間の割合)が決定される。併せて、目標通電量Imtの符号(正符号、或いは、負符号)に基づいて、電気モータMTRの回転方向が決定される。電気モータMTRの回転方向は、正転方向Fwdが正(プラス)の値、逆転方向Rvsが負(マイナス)の値として設定される。
スイッチング制御ブロックSWTでは、デューティ比(目標値)Dutに基づいて、ブリッジ回路を構成するスイッチング素子S1〜S6の駆動信号が演算される。これらの駆動信号に基づいて、各スイッチング素子S1〜S6の通電、又は、非通電の状態が制御される。具体的には、デューティ比Dutが大きいほど、スイッチング素子S1乃至S6において、単位時間当りの通電時間が長くされ、より大きな電流が電気モータMTRに流され、電気モータMTRの発生力(出力トルク)が大とされる。
駆動手段DRVには、図示しない通電量取得手段(例えば、電流センサ)IMAが備えられ、実際の通電量(例えば、実際の電流値)Imaが取得(検出)される。そして、スイッチング制御ブロックSWTにおいて、所謂、電流フィードバック制御が実行される。実際の通電量Imaと目標通電量Imtとの偏差ΔImに基づいて、デューティ比Dutが修正(微調整)される。この電流フィードバック制御によって、高精度なモータ制御が達成され得る。
<操作変位Bpaに対する制動操作部材BPの操作力Fbpの関係>
図4の特性図を参照しながら、制動操作変位Bpaに対する操作力Fbpの関係(操作特性)について説明する。図4は、図3に示した目標通電量演算ブロックIMTにおける演算特性(演算マップ)に対応している。具体的には、特性CImaxが特性CHmaxに、特性(Z)が特性CHdsに、特性CIminが特性CHminに、夫々、対応している。破線で示す特性CHdsは、パッシブなばね要素である弾性部材DSB単体の特性(ばね定数)を表現している。従って、Imt=0の場合には、電気モータMTRは調整力Fmtを発生しない(出力トルクがゼロである)ため、制動操作変位Bpaに対する操作力Fbpの関係は、特性CHdsと一致する。
車両状態量Jpaに基づいて増加モードMdzが選択される場合には、操作変位Bpaの増加に従って、目標通電量Imtが、ゼロから増加される。このため、電気モータMTRが正転方向Fwdに駆動され、制動操作変位Bpaに対する操作力Fbpの関係が、特性CHds(弾性部材DSB単独の特性)に対して増加される。そして、制動操作部材BPの動作が第2制限部材SG2によって制限され始めると(即ち、操作変位Bpaが所定値bp1に達すると)、目標通電量Imtは一定値に維持される。第2制限部材SG2に設けられたゴム部材の弾性力によって、「Bpa>bp1」の範囲では、操作力Fbpが急激に増大される。例えば、目標通電量Imtが、図3における特性CImaxに基づいて演算された場合、その結果として、操作特性(制動操作変位Bpaと操作力Fbpとの関係)は、特性CHmaxに調整される。
一方、車両状態量Jpaに基づいて減少モードMdgが選択される場合には、操作変位Bpaの増加に従って、目標通電量Imtが、ゼロから減少される。このため、電気モータMTRが逆転方向Rvsに駆動され、制動操作変位Bpaに対する操作力Fbpの関係が、特性CHds(弾性部材DSBのばね力のみが作用する特性)に対して減少される。同様に、制動操作部材BPの動作が第2制限部材SG2によって制限され始めると、SG2のゴム部材の弾性力によって、操作変位Bpaが値bp1(SG2への当接開始位置に対応)より大きい領域では、操作力Fbpが急増される。例えば、目標通電量Imtが、図3における特性CIminに基づいて演算された場合、その結果として、操作特性(BpaとFbpとの関係)は、特性CHminに調整される。制動操作部材BPの操作特性(BpaとFbpとの関係)は、特性CHmaxと特性CHminとで囲まれる範囲内で調整可能である。
<4節リンク機構によるトルク伝達>
図5の構成図を参照しながら、4節リンク機構LNKによる動力伝達について説明する。図2と同様に、第1リンクLN1の第1固定端ジョイントKT1、及び、第2リンクLN2の第2固定端ジョイントKT2が、車体フロアFLRに、回転可能な状態で固定される。第1リンクLN1と第2リンクLN2とは、中間リンクLNCを介して接続される。具体的には、第1リンクLN1と中間リンクLNCとが、第1自由端ジョイントJY1で回転可能な状態で接続され、第2リンクLN2と中間リンクLNCとが、第2自由端ジョイントJY2で回転可能な状態で接続される。一方、図2では、第2固定端ジョイントKT2と電気モータMTR(MTJ)とが減速機(DKH、SKH)を介して接続されているが、図5では、固定端ジョイントKT2が、直接、電気モータMTRの出力軸MTJに接続される(所謂、ダイレクトドライブ機構)。
先ず、4節リンク機構LNKの幾何的関係を定義する。図中の点は、正確には、各ジョイント(KT1等)の回転中心(回転軸)と表現されるべきである。しかし、記載の煩雑さを回避するため、幾何的関係を説明する場合には、各ジョイント(KT1等)の位置は、その回転の中心点(KT1等の中心軸と4節リンク機構LNKが形成する面の交点)を意味する。例えば、「第1固定端ジョイントKT1と第1自由端ジョイントJY1との距離」は、「第1固定端ジョイントKT1の回転中心(回転軸)と、第1自由端ジョイントJY1の回転中心(回転軸)との距離」を意味する。
第1固定端ジョイントKT1と第1自由端ジョイントJY1との距離をL1(「第1リンクLN1の長さL1」ともいう)、第2固定端ジョイントKT2と第2自由端ジョイントJY2との距離をL2(「第2リンクLN2の長さL2」ともいう)、第1自由端ジョイントJY1と第2自由端ジョイントJY2との距離をLc(「中間リンクLNCの長さLc」ともいう)、及び、第1固定端ジョイントKT1と第2固定端ジョイントKT2との距離をLv(「固定リンクLNVの長さLv」ともいう)とする。また、第1自由端ジョイントJY1と第2固定端ジョイントKT2とを結ぶ直線を「第1直線S1」と称呼し、第1直線S1と固定リンクLNVとがなす角をα1、第1直線S1と第2リンクLN2とがなす角をα2、第1直線S1と第1リンクLN1とがなす角をα3、及び、第1直線S1と中間リンクLNCとがなす角をα4とする。
さらに、中間リンクLNCを延長した直線を「延長線Sen」と称呼し、延長線Senと第1固定端ジョイントKT1との距離をR1、延長線Senと第2固定端ジョイントKT2との距離をR2とする。換言すれば、距離R1は、「点KT1を通り延長線Senと直交する線と、延長線Senとの交点Pr1から点KT1までの長さ」であり、距離R2は、「点KT2を通り延長線Senと直交する線と、延長線Senとの交点Pr2から点KT2までの長さ」である。なお、図5において、角括弧にて記載される記号(例えば、[L1]、[R1])は、距離に関するものであることを表している。
4節リンク機構LNKのジオメトリにおいて、以下の2つの式が成立する。
R1=L1×sin(π−α3−α4)=L1×sin(α3+α4) …(1)
R2=L2×sin(π−α2−α4)=L2×sin(α2+α4) …(2)
即ち、距離R1は、長さL1に「α3+α4」の正弦を乗算した値と一致し、距離R2は、長さL2に「α2+α4」の正弦を乗算した値と一致する。運転者の踏力によって生じる第1固定端ジョイントKT1まわりのトルクをT1とする。また、電気モータMTRの出力トルク、及び、弾性部材DSBの弾性力(ばね力)によって、T1に対抗するように発生する第2固定端ジョイントKT2まわりのトルクをT2とする。トルクT1と、トルクT2との関係は、以下のように表現される。
T2/T1=R2/R1={L2×sin(α2+α4)}/{L1×sin(α3+α4)} …(3)
式(3)からも明らかなように、値「R2/R1」は、4節リンク機構LNKのジオメトリによって決定される。具体的には、各ジョイント(KT1等)の位置、及び、各リンク(LN1等)の長さ(L1等)に基づいて、幾何学的に決定される。この関係において、値「R2/R1」が小さく設定されると、第1固定端ジョイントKT1まわりのトルクT1に対する、第2固定端ジョイントKT2まわりのトルクT2の値は、相対的に小さくなる。即ち、値「R2/R1」が相対的に小さい値としてリンク比Hlnkが形成されると、電気モータMTRの最大出力が抑制され、電気モータMTRが小型化され得る。ここで、値「R2/R1」が、「リンク比Hlnk」と称呼される。
<4節リンク機構におけるリンク比の特性>
図6の特性図を参照しながら、リンク比Hlnk(=R2/R1)について説明する。上述するように、距離R1は、「点KT1を通り延長線Senと直交する線と延長線Senとの交点Pr1から点KT1までの長さ」であり、距離R2は、「点KT2を通り延長線Senと直交する線と延長線Senとの交点Pr2から点KT2までの長さ」であって、値「R2/R1」が、「リンク比Hlnk」と定義される。
制動操作部材BPの作動領域(動作範囲)内において、リンク比Hlnkは、制動操作部材BPの操作変位Bpaがゼロから増加するに従って、上に凸の特性CHhaで設定される。制動操作部材BPの作動領域は、第1制限手段SG1によって拘束される初期位置(制動操作部材BPの非操作状態であり、Bpa=0に対応)から、第2制限手段SG2によって拘束される最大操作位置(制動操作部材BPの最大操作状態であり、Bpa=bp1)までの範囲である。即ち、制動操作部材BPの作動領域は、非操作から最大操作までの可動範囲に相当する。
操作変位Bpaの増加に従って目標通電量Imtの大きさ(絶対値)が増加され、電気モータMTRの出力が増大される。この電気モータMTRの出力に、リンク比Hlnkを乗じたものが、第2固定端ジョイントKT2まわりのトルクT2に相当する。制動操作部材BPの動作範囲内において、リンク比Hlnkが上に凸の特性(特性CHha)となるよう4節リンク機構LNKのジオメトリ(各ジョイントの位置、及び、リンクの長さ)が設定される。このため、トルクT1が最大となる最大操作変位(Bpa=bp1)において、リンク比Hlnkが相対的に小さくなる。結果、トルクT1に対抗すべきトルクT2が相対的に小さくなり、トルクT2の動力源(発生元)である電気モータMTRが小型化され得る。
動力伝達機構DDBとして、減速のみが行われる減速機(例えば、歯車伝達機構)が採用される場合を想定し、4節リンク機構LNKが採用される場合と比較する。歯車伝達機構では、値「R2/R1」は、各歯車の径(例えば、R1はKT1を回転軸とする歯車の有効半径、R2はKT2を回転軸とする歯車の有効半径)で決まる。このため、リンク比Hlnkに相当する値は、一定値hl0となる(破線で示した特性CHhb)。この条件では、操作変位Bpaに対して線形に電気モータMTRの出力を増加する場合、目標通電量Imtは、操作変位Bpaの増加に従って、概ね線形に増加するように決定される(破線で示した特性CHib)。この構成では、電気モータMTRへの最大通電量として、値imbが必要となる。
一方、動力伝達機構DDBとして、4節リンク機構LNKが採用され、リンク比Hlnkが特性CHhaにて設定される場合を考える。ここで、特性CHhaは、操作変位Bpaの初期位置(Bpa=0)から最大操作位置(Bpa=bp1)の動作範囲内で、「操作変位Bpaの増加に対して、リンク比Hlnkが上に凸であって極大となる」特性である。特性CHhaにおいて、リンク比Hlnkは、「Bpa=bpb」で極大となる(極大値hl2を生じる)。
操作変位Bpaが値bpa以上、且つ、値bpc未満の領域では、4節リンク機構LNKのリンク比Hlnkは、単なる減速機(例えば、歯車装置)のリンク比hl0よりも大きい。このため、4節リンク機構LNKでは、単なる減速機と比較して、相対的に大きな通電量が必要とされる。しかし、操作変位Bpaが値bpc以上の領域では、4節リンク機構LNKのリンク比Hlnkは、リンク比が一定である単なる減速機のリンク比hl0よりも小さくなる。このため、4節リンク機構LNKで必要とされる通電量は低減される。結果、電気モータMTRへの最大通電量として、値ima(<imb)が要求されるに留まり、リンク比一定の場合に比較して、大幅に通電量が減少され得る。
電気モータMTRの体格(サイズ)は、最大通電量に対応した最大出力での特性に基づいて決定される。このため、動力伝達機構DDBとして、4節リンク機構LNKが採用され、制動操作部材BPの動作範囲内(BPがSG1、SG2で制限される範囲内)で、LNKのリンク比Hlnkが、「上に凸」、且つ、「極大となる」ように、LNKの構成要素の幾何的関係(即ち、各リンクの長さ、及び、各ジョイントの位置)が決定される。この結果、電気モータMTRの最大出力時に要求される通電量が低減され、低出力化される。換言すると、電気モータMTRとして、小型なものが採用され、4節リンク機構LNKを含めた装置全体がコンパクト化され得る。
リンク比Hlnkが操作変位Bpaの増加に従って、概ね線形で単純減少する特性CHhcを満足するジオメトリによっても、MTRの最大出力時に要求される通電量が低減され得る。しかし、一点鎖線で示した特性CHhcのジオメトリが採用されるためには、4節リンク機構LNKを構成するリンクが、相対的に長くなる。結果、装置全体が大型となる。電気モータMTRの最大出力を考慮すると、リンク比Hlnkを小さくする必要があるのは、MTRへの通電量が大きい領域に限ったことである(即ち、通電量が小さい領域は無視され得る)。このため、リンク比Hlnkの変化特性が、制動操作部材BPの操作範囲内で、2つの条件(「上に凸である」、且つ、「極大となる(即ち、極大値をもつ)」)が満足されるよう、4節リンク機構LNKのジオメトリ(各リンク長さ、及び、各ジョイント位置)が決定されている。この結果、電気モータMTRが低出力化されるとともに、4節リンク機構LNKを含めた装置全体が小型化され得る。
<4節リンク機構におけるリンク面の形状>
図7の構成図を参照しながら、4節リンク機構LNKにて形成されるリンク面について説明する。ここで、「リンク面」とは、4節リンク機構LNKを構成する各ジョイント(KT1等)によって形成される平面のことであり、図7の斜線部分にて表される部分である。
図7の構成は、図2と同様に、第1リンクLN1の第1固定端ジョイントKT1、及び、第2リンクLN2の第2固定端ジョイントKT2が車体フロアFLRに、回転可能な状態で固定される。第1リンクLN1と第2リンクLN2とは、中間リンクLNCを介して接続される。具体的には、第1リンクLN1と中間リンクLNCとが、第1自由端ジョイントJY1で回転可能に接続され、第2リンクLN2と中間リンクLNCとが、第2自由端ジョイントJY2で回転可能に接続される。一方、図2では、第2固定端ジョイントKT2と電気モータMTR(出力軸MTJ)とが減速機(DKH、SKH)を介して接続されているが、図7では、固定端ジョイントKT2が、直接、電気モータMTRの出力軸MTJに固定される。
先ず、4節リンク機構LNKの幾何的関係を定義する。上述の場合と同様に、各点は、正確には、各ジョイント(KT1等)の回転中心(回転軸)である。しかし、記載の煩雑さを回避するため、幾何的関係を説明する場合には、各ジョイント(KT1等)は、その回転中心の点(KT1等の中心軸と4節リンク機構LNKが形成する面の交点)を意味する。同様に、角括弧にて記載される記号(例えば、[L1]、[R1])は、距離に関するものである。
第1制限手段SG1、及び、第2制限手段SG2によって制限される4節リンク機構LNKの動きの範囲内(即ち、制動操作部材BPの可動範囲内)で、第1固定端ジョイントKT1、第2固定端ジョイントKT2、第1自由端ジョイントJY1、及び、第2自由端ジョイントJY2にて形成される平面が、「1つの凹四角形」、及び、「2つの三角形(KT1−JY1−Pc、及び、KT2−JY2−Pc)」のうちで少なくとも1つによって構成される。上記の平面が、「リンク面」と称呼される(斜線部分)。即ち、リンク面が、制動操作部材BPの可動範囲内において、「1つの凸四角形」よって構成されることがない。
具体的には、図7(a)は、制動操作部材BPが操作されない非操作時であり、第1制限手段(第1ストッパ)SG1によって、4節リンク機構LNKの動作が制限されている状態である。この場合、リンク面KT1−JY1−JY2−KT2は、「1つの凹四角形」を形成している。「四角形」は、4つの線分で囲まれた図形であるが、4つの内角が全て180度より小さい「凸四角形(convex)」と、優角(180度よりも大きく360度よりも小さい角)を含む「凹四角形(concave)」とに分類される。「凹四角形」では、1つの内角が180degを超え、他の内角は、鋭角、直角、及び、鈍角のうちの1つとなる。
また、図7(b)は、制動操作部材BPが最大に操作される最大操作時であり、第2制限手段(第2ストッパ)SG2によって、4節リンク機構LNKの動作が制限されている状態である。この場合、リンク面KT1−JY1−JY2−KT2は、「2つの三角形KT1−JY1−Pc、及び、KT2−JY2−Pc」を形成する。ここで、点Pcは、中間リンクLNCと固定リンクLNVとの交点である。
なお、制動操作部材BPの動作範囲(第1制限部材SG1で制限される初期位置から第2制限部材SG2で制限される最大操作位置までの範囲)におけるリンク面の形状は、4節リンク機構LNKのジオメトリによって決定される。具体的には、各ジョイント(KT1等)の位置、及び、各リンク(LN1等)の長さに基づいて、幾何学的に、リンク面の形状が設定される。
表2を参照して、制動操作部材BPの操作状態において、非操作位置(初期位置)から最大操作位置までの遷移に対応する、リンク面形状の変化について説明する。
表2において、図7で示されたリンク面の遷移状態は、No.1に対応している。ここで、リンク面形状の変化状態において、上記のNo.1で示された「1つの凹四角形から2つの三角形への遷移」に代えて、「2つの三角形から2つの三角形への遷移(No.2)」、「2つの三角形から1つの凹四角形への遷移(No.3)」、及び、「1つの凹四角形から1つの凹四角形への遷移(No.4)」のうちの1つが採用され得る。No.2〜No.4の何れの場合においても、No.1の場合と、同様の効果を奏する。なお、制動操作部材BPの操作変位が増加される状況下において、1つの四角形と2つの三角形との間でリンク面形状が遷移する瞬間が存在する。この瞬間には、第2リンクLN2と固定リンクLNVとが重なり、リンク面が1つの三角形で構成される。
制動操作部材BPの動作範囲において、リンク面KT1−JY1−JY2−KT2が、1つの凸四角形で構成されると、その占有面積が相対的に大きくなり、装置全体が大型化される。このため、制動操作部材BPの可動範囲の全域に亘って、リンク面が凸四角形を形成することが回避される。即ち、第1、第2制限手段SG1,SG2によって制限される4節リンク機構LNKの動きの範囲内で、4節リンク機構のリンク面が、1つの凸四角形として形成されることがなく、「1つの凹四角形」、及び、「2つの三角形」のうちで少なくとも1つによって形成されるよう、4節リンク機構LNKの幾何的形状が構成される。このため、4節リンク機構LNKの各ジョイント(KT1、JY1等)で形成されるリンク面の占有面積が相対的に小さくされ、装置が小型化され得る。
<作用・効果>
以下、本発明の作用・効果をまとめる。
操作特性調整装置は、制動操作部材BPの変位に応じた弾性力(ばね力)Fdsを発生させる弾性部材DSB、及び、電気モータMTRの発生する力(調整力)Fmtによって制動操作部材BPの操作力Fbpを調整(増減)する反力調整手段ACTにて構成される。該装置には、制動操作部材BPの操作変位Bpaを取得する操作変位取得手段BPAが備えられる。さらに、運転者による指示状態Swa、及び、車両の走行状態Jvaのうちの少なくとも1つを車両状態量Jpaとして取得する車両状態量取得手段JPAが設けられる。そして、電気モータMTRは、操作変位Bpa、及び、車両状態量Jpaに基づいて、調整力Fmtを増減して制動操作部材BPの操作力Fbpを制御する。
具体的には、電気モータMTRは、電子制御ユニットECUにプログラムされた制御手段CTLによって制御される。電気モータMTRの駆動制御には、2つのモードが存在する。一方のモードは、電気モータMTRが発生する力(調整力)Fmtが、弾性部材DSBが発生する弾性力Fdsと同一方向に発生される「増加モードMdz」である。換言すれば、増加モードMdzでは、制動操作部材BPの操作力Fbpにおいて、調整力Fmtによって弾性力Fdsの影響度合が増加される。増加モードMdzが選択される場合には、電気モータMTRは正転方向Fwdに駆動される。
他方のモードは、電気モータMTRが発生する力(調整力)Fmtが、弾性部材DSBが発生する弾性力Fdsとは反対方向に発生される「減少モードMdg」である。換言すれば、減少モードMdgでは、制動操作部材BPの操作力Fbpにおいて、調整力Fmtによって弾性力Fdsの影響度合が減少される。減少モードMdgが選択される場合には、電気モータMTRは逆転方向Rvs(正転方向Fwdとは反対方向)に駆動される。何れのモードが採用されるかは、車両状態量Jpaに基づいて決定される。
制動操作部材BPの操作力Fbpの調整において、電気モータMTRの双方向(正転方向Fwd、及び、逆転方向Rvs)の駆動が利用される。このため、一方向に限って駆動される場合に比べ、操作特性の調整範囲が拡大され得る(或いは、同一の調整範囲である場合には、電気モータMTRが小型化され得る)。
制動操作部材BPの操作が開始される開始時点で、増加モードMdz、及び、減少モードMdgのうちから何れか1つのモードが選択される。そして、開始時点から制動操作部材BPの操作が終了される終了時点まで、選択されたモードは、異なるモードに変更されない(変更が禁止される)。制動操作部材BPの一連の操作(BPが踏まれ始めてから開放されるまでの連続した操作)の途中において、操作特性が変更されると運転者への違和感となる場合があり得る。また、動力伝達機構DDBにはバックラッシ等が含まれるため、電気モータMTRの回転方向が変更されると、バックラッシに起因して、操作特性の不連続感が生じ得る。上記のモード変更禁止によって、これらの課題が抑制され得る。
制動操作部材BPの操作が開始される開始時点における車両速度vxsが、車両状態量Jpaとして採用される。そして、車両速度vxsに基づいて、増加モードMdz、及び、減少モードMdgのうちから何れか1つのモードが選択される。車両速度vxsに基づいて選択されたモードは、制動操作部材BPの操作が終了される終了時点まで、異なるモードに変更されない(変更が禁止される)。車両の減速に従って徐々に操作特性が変更されると、運転者への違和感を生じ得る。制動操作部材BPの操作が開始される開始時点における車両速度vxs(固定値)が、車両状態量Jpaとして採用され、その後のモード変更が禁止されるため、制動操作部材BPの操作特性は、概ね一定とされ、運転者への違和感が抑制され得る。
操作特性調整装置の動力伝達機構DDBとして、4節リンク機構LNKが採用される。そして、4節リンク機構LNKのリンク比Hlnkが、制動操作部材BPの動作範囲内(BPがSG1、SG2で制限される範囲内)で、「上に凸」、且つ、「極大となる(極大値を有する)」ように、LNKの構成要素の幾何的関係(即ち、各リンクの長さ、及び、各ジョイントの位置)が設定される。ここで、「リンク比Hlnk」は、「点KT2を通り延長線Senと直交する線と延長線Senとの交点Pr2から点KT2までの長さR2」を「点KT1を通り延長線Senと直交する線と延長線Senとの交点Pr1から点KT1までの長さR1」によって除した値(=R2/R1)である。
電気モータMTRの体格(サイズ)は、その最大出力特性に基づいて決定されるが、4節リンク機構LNKのジオメトリが、制動操作部材BPの動作範囲において、「リンク比Hlnkが極大となり(即ち、極大値hl2が存在し)、操作変位Bpaとリンク比Hlnkとの関係が上に凸である」特性とされることによって、電気モータMTRの最大出力時に要求される通電量が低く抑えられ得る。結果、電気モータMTRが小型化され、装置全体がコンパクト化され得る。
操作特性調整装置の動力伝達機構DDBとして、4節リンク機構LNKが採用される。そして、4節リンク機構LNKのリンク面(KT1−JY1−JY2−KT2)が、制動操作部材BPの動作範囲内で、1つの凹四角形、及び、2つの三角形(KT1−JY1−Pc、及び、KT2−JY2−Pc)のうちで少なくとも1つによって構成される。即ち、リンク面が、BPの動作範囲内で、1つの凸四角形によって形成されることがない。ここで、「リンク面」とは、4節リンク機構LNKを構成する4つのジョイント(KT1等)によって形成される平面である。
4節リンク機構LNKのリンク面が凸四角形で構成されると、それが占める面積が相対的に大きいものとなる。このため、リンク面が、「1つの凹四角形」、及び、「2つの三角形」のうちで少なくとも1つによって構成される。リンク面の占有面積が相対的に小さくされるため、装置が小型化され得る。