JP6427387B2 - 量子ドット複合光触媒 - Google Patents

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本発明は、量子ドットを複合化した光触媒に関する。
量子ドットとは、直径(以下、粒子径ともいう。)がシングル〜サブナノメートルのサイズの粒子を指す。特に半導体量子ドットの場合、粒子径が励起子ボーア半径以下になった際に、量子サイズ効果が発現し、バンド準位の離散化に伴うバンドギャップの増大が観測される。量子サイズ効果が発現するサイズ閾値は、物質の励起子ボーア半径に依存するため、物質の種類によって異なるが、多くの物質でシングル〜サブナノメートルの粒子径で発現する。特に、二酸化チタンや酸化タングステンに代表される遷移金属酸化物では、直径約3nm程度のサイズ以下で量子サイズ効果が観測され始め、1nm以下の領域で顕著になることが知られている。
量子ドットはバルクの物質と異なる物性を示すことが知られている。たとえば、蛍光量子ドットの場合、粒子サイズ制御による発光波長の制御や蛍光量子収率の向上の効果がある。また、非特許文献1では量子ドット化による光触媒活性の向上が報告されている。例えば、本発明者らは、特許文献1でシングル〜サブナノメートル領域で細孔径制御を実現するスーパーミクロポーラスシリカ(SMPS)の開発、および非特許文献2、3でその細孔内での種々の量子ドットの開発を報告している。
量子ドットは高い比表面積と高い励起量子収率、酸化・還元準位の制御性などの観点から、新たな光触媒として期待されている。しかし、光照射によって生成した励起子のボーア半径よりも量子ドットの粒子径の方が小さく、励起子は常に同じ空間内に存在するため、量子ドット内で励起電子とホールとが空間的に電荷分離ができない。図19に、量子ドット1における励起電子(e)とホール(h)とのモデルを示す。量子ドットからなる光触媒は、空間的電荷分離ができないため励起子の再結合確率が高い。励起子が再結合すると、生成した励起子が目的とする反応の光触媒として使われないため、触媒能が低いという問題がある。
特開2013−63895号公報
D. Tanaka, Y. Oaki, H. Imai, "Enhanced photocatalytic activity of quantum−confined tungsten trioxide nanoparticles in mesoporous silica", Chem. Commun., 46 (2010) 5286−5288. H. Watanabe, K. Fujikata, Y. Oaki, H. Imai, "Band−Gap Expansion of Tungsten Oxide Quantum Dots Synthesized in Sub−nano Porous Silica" Chemical Communications, 49 (2013) 8477−8479. H. Tamaki, H. Watanabe, S. Kamiyama, Y. Oaki, H. Imai, "Size−Dependent Thermochromism through Enhanced Electron-Phonon Coupling in 1 nm Quantum Dots" Angewandte Chem. Int. Ed. 53 (2014) 10706−10709.
量子ドットを用いた反応効率の高い光触媒を提供する。
1.粒子径が0.7nm〜3.0nmである遷移金属酸化物からなる量子ドットと、粒子径が0.7nm〜3.0nmであり、前記量子ドットとは異種の遷移金属酸化物からなる第二の量子ドットとが複合化していることを特徴とする量子ドット複合光触媒。
2.粒子径が0.7nm〜3.0nmである遷移金属酸化物からなる量子ドットと、電子供与性または電子受容性を有する有機化合物とが複合化していることを特徴とする量子ドット複合光触媒。
3.粒子径が0.7nm〜3.0nmである遷移金属酸化物からなる量子ドットと、粒子径が0.7nm〜3.0nmである0価の金属からなる金属ドットとが複合化していることを特徴とする量子ドット複合光触媒。
4.前記遷移金属酸化物が、酸化チタン、酸化バナジウム、酸化クロム、酸化マンガン、酸化鉄、酸化コバルト、酸化ニッケル、酸化銅、酸化亜鉛、酸化ニオブ、酸化モリブデン、酸化銀、酸化タングステン、チタン酸バリウムのいずれかであることを特徴とする1.〜3.のいずれかに記載の量子ドット複合光触媒。
5.前記電子供与性を有する有機化合物がフェノール性水酸基を有する有機化合物であることを特徴とする2.または4.に記載の量子ドット複合光触媒。
6.前記電子供与性を有する有機化合物が、フェノール、カテコール、ピロガロール、ナフトール、ジヒドロキシナフタレン、ヒドロキシアントラセン、カリックスアレーン、およびこれらの誘導体のいずれかであることを特徴とする2.4.5.のいずれかに記載の量子ドット複合光触媒。
7.前記電子受容性を有する有機化合物がキノン類であることを特徴とする2.または4.に記載の量子ドット複合光触媒。
8.前記電子受容性を有する有機化合物が、ベンゾキノン、ナフトキノン、アントラキノン、カリックスアレーン、及びこれらの誘導体であることを特徴とする2.4.7.のいずれかに記載の量子ドット複合光触媒。
9.前記0価の金属が、金、銀、銅、白金のいずれかであることを特徴とする3.または4.に記載の量子ドット複合光触媒。
10.平均細孔径が0.7nm〜3.0nmである細孔を有するマトリックスの細孔内に内包されていることを特徴とする1.〜9.のいずれかに記載の量子ドット複合光触媒。
本発明の光触媒は、光照射によって生成した励起電子とホールとを空間的に電荷分離させ、励起子の再結合確率を低下させることにより、量子ドットを用いながらも高い光触媒活性を有する。
たとえば、二酸化チタン量子ドットと酸化タングステン量子ドットとからなる量子ドット複合光触媒は、複合化していない各量子ドット単独の光触媒と比較して、約10倍の有機化合物の分解活性を示す。
また、量子ドットと電子供与性または電子受容性を有する有機化合物とからなる量子ドット複合光触媒は、空間的電荷分離の効果に加え、電子とホールの空間的な位置に選択性を獲得させるとともに、有機化合物のHOMO、またはLUMOのエネルギー準位を制御することで可視光による光触媒能を付与することができる。
量子ドットと金属ドットとからなる量子ドット複合光触媒は、金属ドットの集電効果を利用した空間的電荷分離により、光触媒活性が向上する。
粒子径の異なる酸化タングステン量子ドットのTEM画像。 有効質量近似法で算出される粒子径(点線)と、TEM画像から求めた粒子径の関係を示す図。 量子ドット1と、第二の量子ドット2とが複合化した第一の量子ドット複合光触媒における励起電子とホールのモデル。 量子ドット1と、電子供与性の有機化合物3とが複合化した第二の量子ドット複合光触媒における励起電子とホールのモデル。 量子ドット1と、金属ドット4とが複合化した第三の量子ドット複合光触媒における励起電子とホールのモデル。 ルチル型二酸化チタン量子ドット合成中のUV−Visスペクトル変化。 多孔質シリカに内包されているルチル型二酸化チタン量子ドットのUV−Visスペクトル(Taucプロット)。 多孔質シリカに内包されている酸化タングステン量子ドットのUV−Visスペクトル。 二酸化チタン量子ドットと酸化タングステン量子ドットからなる量子ドット複合光触媒合成中のUV−Visスペクトル変化。 UV照射によるフォトクロミズムの様子。 エタノール光分解活性を示す図。 エタノール光分解活性を示す拡大図。 2,3−ジヒドロキシナフタレンと複合化した酸化タングステン量子ドットのUV−Visスペクトル。 量子ドット−有機化合物複合体1における、バンドギャップが3.05eVのときのエネルギー状態図。 2,3−ジヒドロキシナフタレンと複合化した二酸化チタン量子ドットのUV−Visスペクトル(Taucプロット)。 2,3−ジヒドロキシナフタレンと複合化した二酸化チタン量子ドットのエネルギー状態図。 p−ベンゾキノンと複合化した二酸化チタン量子ドットのUV−Visスペクトル。 エタノール光分解活性を示す図。 単独の量子ドットにおける励起電子とホールのモデル。
本発明は、励起電子とホールとを空間的電荷分離することのできる量子ドット複合光触媒に関する。
本発明において「量子ドット」とは、粒子径が0.7〜3.0nmである遷移金属酸化物の微粒子を意味する。
量子ドットは、公知の方法で製造することができる。例えば、多孔質シリカ、ゼオライト、多孔質アルミナ等の平均細孔径が0.7〜3.0nmである細孔を有するマトリックスの細孔中に遷移金属酸化物前駆体を含有する溶液を含浸させた後に大気中で250℃〜700℃の範囲で焼成する、デンドリマー分子に金属イオンを配位・集積させた後に焼成する等して酸化物にすることにより製造することができる。
量子ドットの粒子径は、走査透過型電子顕微鏡、動的光散乱法等により測定することができる。これらの中で、走査透過型電子顕微鏡により観察した20個以上の粒子の最大径を平均した値を好ましく用いることができる。また、上記したマトリックスの細孔内に内包されやすい遷移金属酸化物前駆体から合成した量子ドットの粒子径は、マトリックスの細孔より僅かに小さいだけであり、マトリックスの平均細孔径で近似することができる。また、二酸化チタンや酸化タングステンのように電子とホールの有効質量が既知であり、有効質量近似法と実測値が良好な関係性を示すことが分かっている場合には、紫外可視吸収(UV−Vis)スペクトルの吸収端からバンドギャップを測定し、有効質量近似によるバンドギャップと粒子径との関係性を用いて粒子径を算出することも可能である。ただし、粒子径が1.0nm以下の量子ドットのように大きな量子サイズ効果が表れた量子ドットに関しては、有効質量近似法ではバンドギャップを大きく見積もる傾向にあるため、走査透過型電子顕微鏡での観察に適した試料を別途合成し、粒子径とバンドギャップの関係性を実測し、検量線を作成することがより望ましい。図1(a)〜(c)に粒子径の異なる酸化タングステン量子ドットのTEM画像を、図2に、有効質量近似法で算出される粒子径(点線)と、TEM画像から求めた粒子径の関係を示す。本明細書の実施例にある二酸化チタンと酸化タングステン量子ドットに関しては、バンドギャップの実測値と有効質量近似法を用いて粒子径を算出した値を量子ドットの粒子径として用いる。
光照射によって生じる励起電子とホールとを空間的電荷分離することのできる量子ドット複合光触媒としては、(1)粒子径が0.7nm〜3.0nmである遷移金属酸化物からなる量子ドットと、粒子径が0.7nm〜3.0nmであり、前記量子ドットとは異種の遷移金属酸化物からなる第二の量子ドットとが複合化している量子ドット複合光触媒(以下、第一の量子ドット複合光触媒という。)、(2)粒子径が0.7nm〜3.0nmである遷移金属酸化物からなる量子ドットと、電子供与性または電子受容性を有する有機化合物とが複合化している量子ドット複合光触媒(以下、第二の量子ドット複合光触媒という。)、(3)粒子径が0.7nm〜3.0nmである遷移金属酸化物からなる量子ドットと、粒子径が0.7nm〜3.0nmである0価の金属からなる金属ドットとが複合化している量子ドット複合光触媒(以下、第三の量子ドット複合光触媒という。)が挙げられる。
また、量子ドットが「複合化」するとは、遷移金属酸化物からなる量子ドットと、異なる遷移金属酸化物からなる第二の量子ドット、有機化合物、または金属ドットとが合一して一つの粒子となることを意味する。量子ドットが複合化したことは、走査透過型電子顕微鏡画像、紫外・可視吸収スペクトル等で確認することもできるが、複合化していない量子ドットと比較し、蛍光やフォトクロミズムなどの光化学的特性変化や光触媒としての挙動が異なるか否かで判別することもできる。
量子ドットを構成する遷移金属酸化物としては、光により励起子を生じるものであれば特に制限することなく使用することができる。例えば、酸化チタン、酸化バナジウム、酸化クロム、酸化マンガン、酸化鉄、酸化コバルト、酸化ニッケル、酸化銅、酸化亜鉛、酸化ニオブ、酸化モリブデン、酸化銀、酸化タングステン、チタン酸バリウム等が挙げられる。
電子供与性または電子受容性を有する有機化合物としては、量子ドットと電荷移動励起を起こすものであれば特に制限することなく使用することができる。電子供与性を有する有機化合物としては、フェノール性水酸基を有する有機化合物、具体的には、フェノール、カテコール、ピロガロール、ナフトール、ジヒドロキシナフタレン、ヒドロキシアントラセン、カリックスアレーン、およびこれらの誘導体等を挙げることができる。電子受容性を有する有機化合物としては、キノン類、具体的には、ベンゾキノン、ナフトキノン、アントラキノン、カリックスアレーン、及びこれらの誘導体等を挙げることができる。
0価の金属としては、集電効果を有するものであれば特に制限することなく使用することができる。例えば、金、銀、銅、白金等が挙げられる。
(1)第一の量子ドット複合光触媒
第一の量子ドット複合光触媒は、粒子径が0.7nm〜3.0nmである遷移金属酸化物からなる量子ドットと、粒子径が0.7nm〜3.0nmであり、前記量子ドットとは異種の遷移金属酸化物からなる第二の量子ドットとが複合化してなる。図3に、量子ドット1と、第二の量子ドット2とが複合化した第一の量子ドット複合光触媒における励起電子とホールのモデルを示す。第一の量子ドット複合光触媒において、励起電子とホールとは、異なる量子ドットに局在し、空間的電荷分離されている。
第一の量子ドット複合光触媒は、量子ドットと第二の量子ドットとの間で起こる電荷移動型再結合を利用したものである。
複数の光触媒を複合化させ電荷移動型再結合を含む多段階励起型の光触媒系は、その電子の流れ方から「Z−スキーム型光触媒」と呼ばれている。第一の量子ドット複合光触媒は、量子ドットと第二の量子ドットとを複合化することにより、量子ドットにおいてZ−スキーム型光触媒を構築したものである。
電荷移動型再結合は物質界面において進行するため、バルクでは物質全体に対してわずかな領域である物質界面でしか反応は進行しない。一方、第一の量子ドット複合光触媒では、粒子全体に対する表面の割合が非常に大きいため、非常に高い効率で電荷移動型再結合を進行させ、空間的電荷分離により高い光触媒活性を発現することができる。
(2)第二の量子ドット複合光触媒
第二の量子ドット複合光触媒は、粒子径が0.7nm〜3.0nmである遷移金属酸化物からなる量子ドットと、電子供与性または電子受容性を有する有機化合物とが複合化してなる。図4に、量子ドット1と、電子供与性の有機化合物3とが複合化した第二の量子ドット複合光触媒における励起電子とホールのモデルを示す。第二の量子ドット複合光触媒において、励起電子は量子ドット1に、ホールは有機化合物3に局在し、空間的電荷分離されている。
第二の量子ドット複合光触媒は、有機化合物を電子供与性の化合物とすることで量子ドット上で還元反応を、有機化合物を電子受容性の化合物とすることで量子ドット側で酸化反応をそれぞれ進行させることができる。
量子ドット表面に電子供与性を有する有機化合物を複合化することにより、有機化合物の最高非占有軌道(HOMO)から、量子ドットの伝導帯に直接電子が励起する電荷移動励起を起こすことができる。電荷移動励起の結果、励起電子は量子ドットに、ホールは有機化合物側に局在化し、空間的に電荷分離される。このタイプの励起モードは、バルクの遷移金属酸化物と有機化合物間で起こる電荷移動励起は表面近傍で起こる現象であるため、見かけの励起効率は低く、効率的に可視光を吸収して機能することはできない。一方、本発明の量子ドットと有機化合物の複合体の場合には、複合化した粒子全体が界面として機能するため、非常に高い励起効率を得ることができる。
また、量子ドット表面に電子受容性を有する有機化合物を複合化することにより、上記の場合とは逆に、量子ドット側から有機化合物の最低空軌道(LUMO)への電荷移動励起が起こり、量子ドットにはホールが、有機化合物側には励起電子が局在化する形で空間的電荷分離することができる。この二つを使い分けることにより、目的の光触媒反応に合わせて電子とホールの空間的な位置と反応準位をコントロールすることが可能になる。
さらに、遷移金属酸化物からなる量子ドットは、量子サイズ効果によりバンドギャップが増大し、紫外光による励起しかできなくなるが、有機化合物のHOMOあるいはLUMOの準位を適切に選択することで、それぞれ紫外光でしか励起できない量子ドットと有機化合物を組み合わせて、可視光で量子ドット複合光触媒の触媒能を発揮させることができる。すなわち、量子ドット、有機化合物ともに、可視光励起が不可能な物質であったとしても、励起に関与するのは量子ドットの伝導帯と有機化合物のHOMO、または量子ドットの価電子帯と有機化合物のLUMOであるため、それらの間のエネルギー差が可視光のエネルギーに相当する場合、可視光により励起することができる。なお、半導体表面に有機化合物が配位した系においては、電子供与性有機化合物のHOMO準位が半導体のフェルミ準位よりも負(高エネルギー)であった場合に、有機化合物のHOMO準位が半導体のフェルミ準位まで下降する(ピニングされる)ことが報告されている。そのため、複合化する有機化合物を選定する際には、有機化合物のHOMO準位のみではなく、半導体のフェルミ準位も考慮する必要がある。
(3)第三の量子ドット複合光触媒
第三の量子ドット複合光触媒は、粒子径が0.7nm〜3.0nmである遷移金属酸化物からなる量子ドットと、粒子径が0.7nm〜3.0nmである0価の金属からなる金属ドットとが複合化してなる。第三の量子ドット複合光触媒は、金属ドットの集電効果を応用して空間的電荷分離を起こすことができる。図5に、量子ドット1と、金属ドット4とが複合化した第三の量子ドット複合光触媒における励起電子とホールのモデルを示す。第三の量子ドット複合光触媒では、励起電子は集電効果により金属ドット4に、ホールは量子ドット1に局在化することで、空間的電荷分離されている。この場合も量子ドットの高い比表面積のため、非常に高い効率で電荷移動型再結合を進行させることができる。
次に、本発明を実施例に基づいて、さらに具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
「参考合成例1」
・ルチル型二酸化チタン量子ドットの合成
平均細孔径が1.2nmの多孔質シリカを20%の三塩化チタン溶液に浸漬させ、細孔内に前駆体溶液を浸透させた。細孔内に前駆体溶液が浸透することにより、多孔質シリカは赤紫色に変化した。これは、Ti3+に由来する光吸収のためである。その後、シリカの外表面をエタノールで洗浄、乾燥し、空気中600℃で3時間焼成することにより多孔質シリカに内包されたルチル型二酸化チタン量子ドットを得た。乾燥過程で三塩化チタンは徐々に空気中の酸素により酸化されTi4+の二酸化チタンとなるため、無色透明に変化した。図6に、ルチル型二酸化チタン量子ドット合成中のUV−Visスペクトル変化を示す。UV−Visスペクトルから求めたバンドギャップより計算した、二酸化チタン量子ドットの粒子径は約1.1nmであり、マトリックスである多孔質シリカの平均細孔径とほぼ等しいことが確認できた。
なお、本明細書中において、マトリックスの平均細孔径は、77.4Kの窒素ガスを吸着させて得られる窒素吸着等温線を、日本ベル株式会社の解析ソフト「BELMaster」に搭載されている細孔分布解析ソフト「BELSim」を用いてGCMC法(細孔モデル:シリンダー、吸着剤表面:酸素、分布関数:Gauss、ピーク数:1)により算出した値である。
平均細孔径が2.6nmの多孔質シリカを用いた以外は上記と同様にして、粒子径が1.7nmのルチル型二酸化チタン量子ドットを得た。
得られた多孔質シリカに内包されているルチル型二酸化チタン量子ドットのUV−Visスペクトル(Taucプロット)を図7に示す。粒子径が小さいほどバンドギャップ吸収に起因する吸収端が短波長側にシフト(ブルーシフト)し、粒子径に対応した顕著な量子サイズ効果が確認できた。
「参考合成例2」
・酸化タングステン量子ドットの合成
平均細孔径が0.8nmの多孔質シリカを0.2Mの過酸化タングステン酸溶液に浸漬させ、細孔内に前駆体を浸透させた。その後、シリカの外表面をエタノールで洗浄、乾燥し、空気中600℃で3時間焼成することにより多孔質シリカに内包された酸化タングステン量子ドットを得た。量子ドットの粒子径を制御する目的で、浸漬〜焼成までの工程を1〜5回繰り返し、様々なバンドギャップを有する酸化タングステン量子ドット内包多孔質シリカを得た。過酸化タングステン酸、及び酸化タングステンは無色透明であるため、反応中の色変化は観測されなかった。
平均細孔径が1.2nm、および2.6nmの多孔質シリカを用いた以外は上記と同様にして酸化タングステン量子ドットを得た。
得られた多孔質シリカに内包されている酸化タングステン量子ドットのUV−Visスペクトルを図8に示す。上記ルチル型二酸化チタン量子ドットと同様に、粒子径に対応した顕著な量子サイズ効果が確認できた。
「実施例1」
・二酸化チタン量子ドットと酸化タングステン量子ドットからなる量子ドット複合光触媒の合成
参考合成例2で得られた酸化タングステン量子ドットを内包する多孔質シリカを、20%の三塩化チタン溶液に浸漬させ、細孔内に前駆体溶液を浸透させた。その後、シリカの外表面をエタノールで洗浄、乾燥し、空気中600℃で3時間焼成することにより酸化タングステン量子ドットと二酸化チタン量子ドットとを複合化し、多孔質シリカに内包された量子ドット複合光触媒を得た。
二酸化チタン量子ドット単独の合成と異なり、三塩化チタン溶液に浸漬した後の試料の色は青色を呈していた。これは、W5+に由来する光吸収のためである。反応系では、酸化タングステン量子ドットのW6+がW5+に還元されるとともにTi3+がTi4+に酸化される。すなわち、この反応系において、酸化タングステン量子ドットは酸化剤として機能している。酸化タングステンが酸化剤として働くことにより、二酸化チタン量子ドットの生成する位置は、酸化タングステン量子ドットの表面に固定される。本実施例では、この反応形態をとることによって、二酸化チタン量子ドットと酸化タングステン量子ドットを確実に複合化させた。浸漬後呈していた青色は乾燥中に徐々に失われ、最終的に無色透明に変化した。これは、還元により生成したW5+が空気中の酸素により徐々に酸化され、W6+に戻ったためである。図9に、二酸化チタン量子ドットと酸化タングステン量子ドットからなる量子ドット複合光触媒合成中のUV−Visスペクトル変化を示す。
・量子ドット複合光触媒の電荷移動型再結合
参考合成例2で得られた酸化タングステン量子ドットは水やアルコールの存在下、紫外光を照射することにより、無色透明から青色に変化する。この現象はフォトクロミズムと呼ばれ、光照射によって生成する励起電子がW6+を還元し、W5+を生成することに起因する。一方、実施例1で得られた量子ドット複合光触媒は、酸化タングステン量子ドット上に生成した励起電子が二酸化チタン量子ドットのホールと速やかに電荷移動型再結合することにより、フォトクロミズムが観測されない。すなわち、フォトクロミズムの有無を観測することで、目的の電荷移動型再結合と空間的電荷分離の有無を確認することができる。
酸化タングステン量子ドットと量子ドット複合光触媒にそれぞれ水を10mL添加し、6Wの紫外線ランプを用い、254nmの紫外光を照射したときのフォトクロミズムの様子を図10に示す。図10で横軸は紫外線照射時間、縦軸は1000nmの吸光度の変化を示す。酸化タングステン量子ドットでは青色のフォトクロミズムが観測されるとともに、UV−VisスペクトルにW5+に由来する1000nmを中心とする吸収が現れた。一方、量子ドット複合光触媒では紫外線を照射しても目視ではその色味にほとんど変化はなかった。UV−Visスペクトルでは、W5+に由来する1000nmを中心とする吸収が現れたが、酸化タングステン量子ドットと比べて3分の1以下の強度であった。
このことから、量子ドット複合光触媒では、フォトクロミック特性が失われており、電荷移動型再結合に伴う空間的電荷分離が達成されていることが確認できた
・エタノールガスの光分解反応による光触媒活性の評価
エタノールガスの光触媒分解反応により光触媒活性を評価した。
約400mlの閉鎖空間内に、0.7〜1.0gの光触媒を均一に敷き、一定濃度のエタノールを含む空気を循環させ、エタノールを吸着させるため一時間放置した。その後、閉鎖系にして、光触媒に500Wの高圧水銀ランプを用いて紫外〜可視光を照射した。閉鎖系内は循環ポンプで空気を循環させ、一定時間経過後の二酸化炭素濃度をマイクロガスクロマトグラフィー(アジレント・テクノロジー株式会社製、装置名:Agilent 3000マイクロGC)で測定した。
光触媒としてバルクTiO(ルチル)、バルクWO、ならびに参考合成例1、参考合成例2、実施例1で合成した平均細孔径2.6nmの多孔質シリカに内包されている酸化タングステン量子ドット、二酸化チタン量子ドット、量子ドット複合光触媒を用いた。遷移金属酸化物1gあたりのエタノール分解で生じた二酸化炭素量を図11に、その拡大図を図12に示す。なお、多孔質シリカに内包されている遷移金属酸化物量は、XRFにより測定した。XRF測定は、ペレット成型した試料を、測定時間100秒、X線管電圧50kV、X線照射範囲φ100μmの条件で無作為に選んだ5箇所で行いし、その相加平均値を遷移金属酸化物量とした。検量線として、多孔質シリカとTiO、WOを任意の割合で混合し、ペレット成型したものを5回測定し、その平均値をつなぐ2次曲線の式を用いた。
バルクと量子ドットを比較すると約10倍の活性向上が見られた。これは、量子ドット化による比表面積の増大、量子サイズ効果による酸化・還元力の向上、及び、多孔質シリカの細孔内包効果によるものであると考えられる。量子ドットと量子ドット複合光触媒とを比較すると、さらに約10倍の活性向上が見られた。今回用いた二酸化チタン量子ドットと酸化タングステン量子ドットとは、両者の価電子帯、伝導帯の位置が大きく変わらないため、複合化による酸化・還元準位のシフトはわずかである。また、比表面積、細孔径、粒子の細孔内包状態はほぼ同一である。そのため、ここで観測された活性向上は複合化による空間的電荷分離の効果である。
すなわち、バルクと量子ドットとを比較すると、活性向上は見られるが、空間的電荷分離ができないため、約10倍程度しか触媒活性は増加しない。一方、量子ドット複合光触媒では、空間的電荷分離されることにより、バルクと比較して約100倍も触媒活性が向上した。以上の結果から、量子ドットを用いた光触媒の潜在能力を十分に引き出すためには複合化による空間的電荷分離が非常に効果的であることが示された。
「実施例2」
・量子ドット−有機化合物複合体1の合成
参考合成例2で得られた酸化タングステン量子ドットを内包する多孔質シリカに、電子供与性の有機化合物である2,3−ジヒドロキシナフタレンの飽和ベンゼン溶液を滴下・浸漬し、アセトンでシリカ外表面を洗浄、乾燥し、量子ドット−有機化合物複合体1を得た。
・量子ドット−有機化合物複合体1の評価
量子ドット−有機化合物複合体1のUV−Visスペクトルを図13に示す。
図7の酸化タングステン量子ドットのスペクトルと比較すると、酸化タングステン量子ドットが2,3−ジヒドロキシナフタレンと複合体を形成することにより、吸収端が大きく可視領域までシフトした。
表1に参考合成例2で合成した酸化タングステン量子ドットのバンドギャップ(E)、伝導帯下端準位(CBM)、量子ドット−有機化合物複合体1の価電子帯上端準位の吸収端(電荷移動励起波長)(ECT)、伝導帯下端と量子ドット−有機化合物複合体1の吸収端の差から求めた有機化合物のHOMO準位(CBM+ECT)を示す。
酸化タングステン量子ドットの場合、励起電子の有効質量の方がホールの有効質量よりも軽いため、量子サイズ効果は主に伝導帯に働き、粒子径が小さくなると伝導帯下端が大きく上方シフトするが、価電子帯上端はほとんど動かない。
量子ドット−有機化合物複合体1の吸収端は酸化タングステン量子ドットの伝導帯準位の上昇に伴いブルーシフトした。一方、伝導帯下端と複合後の吸収端の差から求めた有機化合物のHOMO準位(CBM+ECT)はすべての試料で1.3±0.03eVでほぼ一定であった。
ここで、Gaussianを用いて計算した2,3−ジヒドロキシナフタレンのHOMO準位は1.04V SHE(水素標準電極電位)である。有機化合物が半導体表面に配位したとき、有機化合物のHOMOが半導体のフェルミ準位(仕事関数)よりも高いエネルギーにある場合、半導体と有機化合物の間で電子の非局在化が起こり、HOMO準位が半導体のフェルミ準位にピニングされる。酸化タングステンのフェルミ準位は約+1.3V SHEと報告されており、本実施例で得られた酸化タングステン量子ドット内包シリカと2,3−ジヒドロキシナフタレンの複合体においても、酸化タングステンのフェルミ準位に2,3−ジヒドロキシナフタレンがピニングされている。図14にバンドギャップが3.05eVのときのエネルギー状態図を示す。
このことから、効果的な量子ドット−有機化合物の複合体が形成されていることが確認できた。また、図10に示すように、量子ドット−有機化合物複合体のUV−Visスペクトルには、約1000nmを中心とするW5+由来の吸収が観測されている。これは、合成中に照射された環境中の可視光により、フォトクロミズムが発現したことに起因する。このことは、可視光により酸化タングステン量子ドットの伝導帯に電子が励起されていることを示している。すなわち、酸化タングステン量子ドットと2,3−ジヒドロキシナフタレンとが量子ドット複合体光触媒を形成することで、可視光による電荷移動励起を達成することができた。
・量子ドット−有機化合物複合体2の合成
参考合成例1で得られたルチル型二酸化チタン量子ドットを内包する多孔質シリカに電子供与性の有機化合物である2,3−ジヒドロキシナフタレンの飽和ベンゼン溶液を滴下・浸漬し、アセトンでシリカ外表面を洗浄、乾燥し、量子ドット−有機化合物複合体2を得た。
・量子ドット−有機化合物複合体2の評価
量子ドット−有機化合物複合体2のUV−Visスペクトル(Taucプロット)を図15に示す。酸化タングステンの場合と同様に、吸収端は大きく可視領域までシフトした。
図16にルチル型二酸化チタン量子ドットのバンドギャップ、伝導帯下端準位、価電子帯上端準位複合後の吸収端(電荷移動励起波長)、伝導帯下端と複合後の吸収端の差から求めた2,3−ジヒドロキシナフタレンと複合化した二酸化チタン量子ドットのエネルギー状態図を示す。ルチル型二酸化チタン量子ドットの場合、励起電子の有効質量の方がホールの有効質量よりも重いため、量子サイズ効果は主に価電子帯に働き、価電子帯上端が大きく下方シフトし、伝導帯下端はほとんど動かない。
ルチル型二酸化チタン量子ドット内包シリカと2,3−ジヒドロキシナフタレンの複合体においても酸化タングステンの場合と同様に、HOMO準位の半導体のフェルミ準位へのピニングによる、2,3−ジヒドロキシナフタレンのHOMOの下方シフトが観測された。
酸化タングステンの場合と異なる点は、2,3−ジヒドロキシナフタレンのHOMOの下方シフト幅はルチル型二酸化チタン量子ドットの粒子径減少に伴い増加する点である。一般的に、量子ドットのフェルミ準位は、価電子帯上端のシフトに追随する形でシフトする。そのため、ルチル型二酸化チタン量子ドットにおいては価電子帯上端の下方シフトに伴い、フェルミ準位も下降し、ピニングにより2,3−ジヒドロキシナフタレンのHOMOが下方シフトすることで、電荷移動遷移のエネルギーが増大した。以上のように、ルチル型二酸化チタン量子ドットと2,3−ジヒドロキシナフタレンの複合体を合成することで可視光による、電荷移動励起を達成することができた。
・量子ドット−有機化合物複合体3の合成
参考合成例1で得られたルチル型二酸化チタン量子ドットを内包する多孔質シリカに電子受容性の有機化合物であるp−ベンゾキノンの飽和ベンゼン溶液を滴下・浸漬し、アセトンでシリカ外表面を洗浄、乾燥し、量子ドット−有機化合物複合体3を得た。
・量子ドット−有機化合物複合体3の評価
量子ドット−有機化合物複合体3のUV−Visスペクトルを図17に示す。吸収端は大きく可視領域までシフトした。粒子径が小さいほどバンドギャップ吸収に起因する吸収端が短波長側にシフト(ブルーシフト)し、粒子径に対応した顕著な量子サイズ効果が確認できた。
「実施例3」
・量子ドット−金属ドット複合体の合成
参考合成例1で得られた酸化チタン量子ドットを内包する多孔質シリカを真空中で5h放置後、真空下で0.02M塩化白金酸水溶液に浸漬させた。トルエンで表面を洗浄した後にろ過し、60℃で一晩乾燥させ、再び真空中に2h放置し、真空下であらかじめArガスで30分バブリングして脱気した蒸留水を滴下して少量の水を含ませ、真空状態を維持したまま紫外光を2h照射した。水で洗浄後に乾燥させ光電着法により酸化チタン量子ドット表面に白金を担持させて、量子ドット−金属ドット複合体を得た。
・エタノールガスの光分解反応による光触媒活性の評価
実施例1と同様にして、エタノールガスの光分解反応による光触媒活性を評価した。
図18に酸化チタン量子ドットと、量子ドット−金属ドット複合体による、エタノール分解で生じた二酸化炭素量を示す。金属ドットとの複合化による空間的電荷分離により、光触媒活性が約10倍向上することが確かめられた。
1.量子ドット
2.第二の量子ドット
3.電子供与性の有機化合物
4.金属ドット

Claims (10)

  1. 粒子径が0.7nm〜3.0nmである遷移金属酸化物からなる量子ドットと、粒子径が0.7nm〜3.0nmであり、前記量子ドットとは異種の遷移金属酸化物からなる第二の量子ドットとが複合化していることを特徴とする量子ドット複合光触媒。
  2. 粒子径が0.7nm〜3.0nmである遷移金属酸化物からなる量子ドットと、電子供与性または電子受容性を有する有機化合物とが複合化していることを特徴とする量子ドット複合光触媒。
  3. 粒子径が0.7nm〜3.0nmである遷移金属酸化物からなる量子ドットと、粒子径が0.7nm〜3.0nmである0価の金属からなる金属ドットとが複合化していることを特徴とする量子ドット複合光触媒。
  4. 前記電子供与性を有する有機化合物がフェノール性水酸基を有する有機化合物であることを特徴とする請求項2に記載の量子ドット複合光触媒。
  5. 前記電子供与性を有する有機化合物が、フェノール、カテコール、ピロガロール、ナフトール、ジヒドロキシナフタレン、ヒドロキシアントラセン、カリックスアレーン、およびこれらの誘導体のいずれかであることを特徴とする請求項2または4に記載の量子ドット複合光触媒。
  6. 前記電子受容性を有する有機化合物がキノン類であることを特徴とする請求項2に記載の量子ドット複合光触媒。
  7. 前記電子受容性を有する有機化合物が、ベンゾキノン、ナフトキノン、アントラキノン、カリックスアレーン、及びこれらの誘導体であることを特徴とする請求項2または6に記載の量子ドット複合光触媒。
  8. 前記0価の金属が、金、銀、銅、白金のいずれかであることを特徴とする請求項3に記載の量子ドット複合光触媒。
  9. 前記遷移金属酸化物が、酸化チタン、酸化バナジウム、酸化クロム、酸化マンガン、酸化鉄、酸化コバルト、酸化ニッケル、酸化銅、酸化亜鉛、酸化ニオブ、酸化モリブデン、酸化銀、酸化タングステン、チタン酸バリウムのいずれかであることを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の量子ドット複合光触媒。
  10. 平均細孔径が0.7nm〜3.0nmである細孔を有するマトリックスの細孔内に内包されていることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の量子ドット複合光触媒。
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