以下、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。
<1:潜熱蓄熱材>
本発明は、式(I):
で表される化合物と、非極性化合物とを含有する潜熱蓄熱材に関する。
一般に、長鎖長を有する脂肪族炭化水素化合物及び脂環式炭化水素化合物のような非極性化合物は、潜熱を放出する温度が低温であることから、低温の温度領域で使用し得る潜熱蓄熱材と考えられる。しかしながら、非極性化合物は、過冷却効果を殆ど発現しないことが知られていた。本発明者らは、非極性化合物と式(I)で表される化合物とを含有する潜熱蓄熱材は、過冷却効果を発現して約0℃の低温の温度領域で安定的に潜熱を放出できることを見出した。式(I)で表される化合物は、本発明の潜熱蓄熱材において、過冷却付与材料として機能し得る。長鎖長を有する脂肪族炭化水素化合物及び脂環式炭化水素化合物のような非極性化合物と組み合わせることで過冷却効果を発現し得る化合物は、これまで知られていなかった。それ故、式(I)で表される化合物と非極性化合物とを組み合わせることによって、非極性化合物に過冷却効果を付与することができる。これにより、約0℃の低温の温度領域で安定的に潜熱を放出し得る潜熱蓄熱材を提供することができる。
本発明の潜熱蓄熱材が、前記のような作用効果を奏する理由は、以下のように説明することができる。なお、本発明は、以下の作用・原理に限定されるものではない。本発明の潜熱蓄熱材を加熱溶融した後、放冷することにより、相溶した式(I)で表される化合物及び非極性化合物が凝集する。凝集の際、式(I)で表される化合物は、その分子間でミクロフィブリル状のネットワーク構造を形成すると考えられる。式(I)で表される化合物によるネットワーク構造の形成により、潜熱蓄熱材の粘度が増加してゲル状態となる。他方、非極性化合物は、式(I)で表される化合物のネットワーク構造の内部に取り込まれると考えられる。このようなネットワーク構造に取り込まれることにより、非極性化合物は、その溶融温度以下でも凝固することなく、安定な溶融状態を維持することができる。この安定な溶融状態において、さらに温度を低下させることにより、非極性化合物は、式(I)で表される化合物のネットワーク構造の内部で凝固し、凝固熱を発生すると考えられる。一般に、増粘剤を含有する蓄熱材料はよく知られている(例えば、特開2014-189779号公報)。しかしながら、これら公知の蓄熱材料において、増粘剤は、通常は、該蓄熱材料の粘度を増加させることによって液漏れを防止することを主な目的として使用される。式(I)で表される化合物のように、増粘効果を有する化合物が、潜熱蓄熱材の過冷却付与材料として使用し得ることは、これまで知られていなかった新規な知見である。
本明細書において、化学式中の基に使用される接頭辞「n」はノルマルを、「i」若しくは「iso」はイソを、「s」若しくは「sec」はセカンダリーを、「t」若しくは「tert」はターシャリーを、「c」はシクロを、「o」はオルトを、「m」はメタを、「p」はパラを、それぞれ意味する。
本明細書において、「アルキル」は、特定の数の炭素原子を含む、直鎖又は分枝鎖の飽和脂肪族炭化水素基を意味する。例えば、「C1〜C6アルキル」は、少なくとも1個且つ多くても6個の炭素原子を含む、直鎖又は分枝鎖の飽和脂肪族炭化水素基を意味する。また、本明細書において、「アルキレン」は、前記アルキルからさらに1個の水素原子を除いた2価基を意味する。好適なアルキルは、限定するものではないが、例えばメチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、sec-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、1-メチル-n-ブチル、2-メチル-n-ブチル、3-メチル-n-ブチル、1,1-ジメチル-n-プロピル、1,2-ジメチル-n-プロピル、2,2-ジメチル-n-プロピル、1-エチル-n-プロピル、n-ヘキシル、1-メチル-n-ペンチル、2-メチル-n-ペンチル、3-メチル-n-ペンチル、4-メチル-n-ペンチル、1,1-ジメチル-n-ブチル、1,2-ジメチル-n-ブチル、1,3-ジメチル-n-ブチル、2,2-ジメチル-n-ブチル、2,3-ジメチル-n-ブチル、3,3-ジメチル-n-ブチル、1-エチル-n-ブチル、2-エチル-n-ブチル、1,1,2-トリメチル-n-プロピル、1,2,2-トリメチル-n-プロピル、1-エチル-1-メチル-n-プロピル及び1-エチル-2-メチル-n-プロピル等の直鎖又は分枝鎖のC1〜C6アルキルを挙げることができる。また、好適なアルキルは、限定するものではないが、例えば、1-メチル-1-エチル-n-ペンチル、1-ヘプチル、2-ヘプチル、1-エチル-1,2-ジメチル-n-プロピル、1-エチル-2,2-ジメチル-n-プロピル、1-オクチル、3-オクチル、4-メチル-3-n-ヘプチル、6-メチル-2-n-ヘプチル、2-プロピル-1-n-ヘプチル、2,4,4-トリメチル-1-n-ペンチル、1-ノニル、2-ノニル、2,6-ジメチル-4-n-ヘプチル、3-エチル-2,2-ジメチル-3-n-ペンチル、3,5,5-トリメチル-1-n-ヘキシル、1-デシル、2-デシル、4-デシル、3,7-ジメチル-1-n-オクチル、3,7-ジメチル-3-n-オクチル、n-ウンデシル、n-ドデシル、n-トリデシル、n-テトラデシル、n-ペンタデシル、n-ヘキサデシル、n-ヘプタデシル及びn-オクタデシル等の直鎖又は分枝鎖のC6〜C18アルキルを挙げることができる。
本明細書において、「アルケニル」は、前記アルキルの1個以上のC-C単結合が二重結合に置換された基を意味する。また、本明細書において、「アルケニレン」は、前記アルケニルからさらに1個の水素原子を除いた2価基を意味する。好適なアルケニルは、限定するものではないが、例えばビニル、1-プロペニル、アリル、1-メチルエテニル(イソプロペニル)、1-ブテニル、2-ブテニル、3-ブテニル、1-メチル-2-プロペニル、2-メチル-2-プロペニル、1-メチル-1-プロペニル、2-メチル-1-プロペニル、1-ペンテニル及びヘキセニル等の直鎖又は分枝鎖のC2〜C6アルケニルを挙げることができる。また、好適なアルケニルは、限定するものではないが、例えば、ヘプテニル、オクテニル、ノネニル、デセニル、n-ウンデセニル、n-ドデセニル、n-トリデセニル、n-テトラデセニル、n-ペンタデセニル、n-ヘキサデセニル、n-ヘプタデセニル及びn-オクタデセニル等の直鎖又は分枝鎖のC6〜C18アルケニルを挙げることができる。
本明細書において、「アルキニル」は、前記アルキルの1個以上のC-C単結合が三重結合に置換された基を意味する。また、本明細書において、「アルキニレン」は、前記アルキニルからさらに1個の水素原子を除いた2価基を意味する。好適なアルキニルは、限定するものではないが、例えばエチニル、1-プロピニル、2-プロピニル、1-ブチニル、2-ブチニル、3-ブチニル、1-メチル-2-プロピニル、1-ペンチニル及びヘキシニル等の直鎖又は分枝鎖のC2〜C6アルキニルを挙げることができる。また、好適なアルキニルは、限定するものではないが、例えば、ヘプチニル、オクチニル及びノニニル、デシニル、n-ウンデシニル、n-ドデシニル、n-トリデシニル、n-テトラデシニル、n-ペンタデシニル、n-ヘキサデシニル、n-ヘプタデシニル及びn-オクタデシニル等の直鎖又は分枝鎖のC6〜C18アルキニルを挙げることができる。
本明細書において、「シクロアルキル」は、特定の数の炭素原子を含む、脂環式アルキルを意味する。例えば、「C3〜C6シクロアルキル」は、少なくとも3個且つ多くても6個の炭素原子を含む、環式の炭化水素基を意味する。また、本明細書において、「シクロアルキレン」は、前記シクロアルキルからさらに1個の水素原子を除いた2価基を意味する。好適なシクロアルキルは、限定するものではないが、例えばシクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、1-メチルシクロブチル、2-メチルシクロブチル、3-メチルシクロブチル、1,2-ジメチルシクロプロピル、2,3-ジメチルシクロプロピル、1-エチルシクロプロピル、2-エチルシクロプロピル、シクロヘキシル、1-メチルシクロペンチル、2-メチルシクロペンチル、3-メチルシクロペンチル、1-エチルシクロブチル、2-エチルシクロブチル、3-エチルシクロブチル、1,2-ジメチルシクロブチル、1,3-ジメチルシクロブチル、2,2-ジメチルシクロブチル、2,3-ジメチルシクロブチル、2,4-ジメチルシクロブチル、3,3-ジメチルシクロブチル、1-n-プロピルシクロプロピル、2-n-プロピルシクロプロピル、1-イソプロピルシクロプロピル、2-イソプロピルシクロプロピル、1,2,2-トリメチルシクロプロピル、1,2,3-トリメチルシクロプロピル、2,2,3-トリメチルシクロプロピル、1-エチル-2-メチルシクロプロピル、2-エチル-1-メチルシクロプロピル、2-エチル2-メチルシクロプロピル及び2-エチル-3-メチルシクロプロピル等のC3〜C6シクロアルキルを挙げることができる。
本明細書において、「シクロアルケニル」は、前記シクロアルキルの1個以上のC-C単結合が二重結合に置換された基を意味する。また、本明細書において、「シクロアルケニレン」は、前記シクロアルケニルからさらに1個の水素原子を除いた2価基を意味する。好適なシクロアルケニルは、限定するものではないが、例えばシクロブテニル、シクロペンテニル及びシクロヘキセニル等のC4〜C6シクロアルケニルを挙げることができる。
本明細書において、「シクロアルキニル」は、前記シクロアルキルの1個以上のC-C単結合が三重結合に置換された基を意味する。また、本明細書において、「シクロアルキニレン」は、前記シクロアルキニルからさらに1個の水素原子を除いた2価基を意味する。好適なシクロアルキニルは、限定するものではないが、例えばシクロブチニル、シクロペンチニル及びシクロヘキシニル等のC4〜C6シクロアルキニルを挙げることができる。
本明細書において、「ヘテロシクロアルキル」は、前記シクロアルキル、シクロアルケニル又はシクロアルキニルの1個以上の炭素原子が、それぞれ独立して窒素(N)、硫黄(S)及び酸素(O)から選択される1個以上のヘテロ原子に置換された基を意味する。また、本明細書において、「ヘテロシクロアルキレン」は、前記ヘテロシクロアルキルからさらに1個の水素原子を除いた2価基を意味する。この場合において、N又はSによる置換は、それぞれN-オキシド又はSのオキシド若しくはジオキシドによる置換を包含する。好適なヘテロシクロアルキルは、限定するものではないが、例えばピロリジニル、テトラヒドロフラニル、ジヒドロフラニル、テトラヒドロチエニル、テトラヒドロピラニル、ジヒドロピラニル、テトラヒドロチオピラニル、ピペリジニル、モルホリニル、チオモルホリニル及びピペラジニル等の3〜6員のヘテロシクロアルキルを挙げることができる。
本明細書において、「アルコキシ」は、ヒドロキシルの水素原子が、前記アルキル、アルケニル又はアルキニルに置換された基を意味する。好適なアルコキシは、限定するものではないが、例えばメトキシ、エトキシ、n-プロポキシ、イソプロポキシ、n-ブトキシ、イソブトキシ、sec-ブトキシ、tert-ブトキシ、n-ペントキシ、1-メチル-n-ブトキシ、2-メチル-n-ブトキシ、3-メチル-n-ブトキシ、1,1-ジメチル-n-プロポキシ、1,2-ジメチル-n-プロポキシ、2,2-ジメチル-n-プロポキシ、1-エチル-n-プロポキシ、n-ヘキシルオキシ、1-メチル-n-ペンチルオキシ、2-メチル-n-ペンチルオキシ、3-メチル-n-ペンチルオキシ、4-メチル-n-ペンチルオキシ、1,1-ジメチル-n-ブトキシ、1,2-ジメチル-n-ブトキシ、1,3-ジメチル-n-ブトキシ、2,2-ジメチル-n-ブトキシ、2,3-ジメチル-n-ブトキシ、3,3-ジメチル-n-ブトキシ、1-エチル-n-ブトキシ、2-エチル-n-ブトキシ、1,1,2-トリメチル-n-プロポキシ、1,2,2-トリメチル-n-プロポキシ、1-エチル-1-メチル-n-プロポキシ、及び1-エチル-2-メチル-n-プロポキシ等のC1〜C6アルコキシを挙げることができる。
本明細書において、「シクロアルコキシ」は、ヒドロキシルの水素原子が、前記シクロアルキル、シクロアルケニル又はシクロアルキニルに置換された基を意味する。好適なシクロアルコキシは、限定するものではないが、例えばシクロプロポキシ、シクロブトキシ、1-メチル-シクロプロポキシ、2-メチル-シクロプロポキシ、シクロペンチルオキシ、1-メチル-シクロブトキシ、2-メチル-シクロブトキシ、3-メチル-シクロブトキシ、1,2-ジメチル-シクロプロポキシ、2,3-ジメチル-シクロプロポキシ、1-エチル-シクロプロポキシ、2-エチル-シクロプロポキシ、シクロヘキシルオキシ、1-メチル-シクロペンチルオキシ、2-メチル-シクロペンチルオキシ、3-メチル-シクロペンチルオキシ、1-エチル-シクロブトキシ、2-エチル-シクロブトキシ、3-エチル-シクロブトキシ、1,2-ジメチル-シクロブトキシ、1,3-ジメチル-シクロブトキシ、2,2-ジメチル-シクロブトキシ、2,3-ジメチル-シクロブトキシ、2,4-ジメチル-シクロブトキシ、3,3-ジメチル-シクロブトキシ、1-n-プロピル-シクロプロポキシ、2-n-プロピル-シクロプロポキシ、1-イソプロピル-シクロプロポキシ、2-イソプロピル-シクロプロポキシ、1,2,2-トリメチル-シクロプロポキシ、1,2,3-トリメチル-シクロプロポキシ、2,2,3-トリメチル-シクロプロポキシ、1-エチル-2-メチル-シクロプロポキシ、2-エチル1-メチル-シクロプロポキシ、2-エチル-2-メチル-シクロプロポキシ及び2-エチル-3-メチル-シクロプロポキシ等のC3〜C6シクロアルコキシを挙げることができる。
本明細書において、「ヘテロシクロアルコキシ」は、ヒドロキシルの水素原子が、前記ヘテロシクロアルキルに置換された基を意味する。好適なシクロアルコキシは、限定するものではないが、例えば3〜6員のヘテロシクロアルコキシを挙げることができる。
本明細書において、「アリール」は、芳香環基を意味する。また、本明細書において、「アリーレン」は、前記アリールからさらに1個の水素原子を除いた2価基を意味する。好適なアリールは、限定するものではないが、例えばフェニル、o-ビフェニル、m-ビフェニル、p-ビフェニル、テルフェニル、α-ナフチル、β-ナフチル及びアントラセニル等のC4〜C20アリールを挙げることができる。
本明細書において、「アリールアルキル」は、前記アルキル、アルケニル又はアルキニルの水素原子の1個が前記アリールに置換された基を意味する。好適なアリールアルキルは、限定するものではないが、例えばベンジル、1-フェネチル、2-フェネチル、ビフェニルメチル、テルフェニルメチル及びスチリル等のC7〜C20アリールアルキルを挙げることができる。
本明細書において、「ヘテロアリール」は、前記アリールの1個以上の炭素原子が、それぞれ独立してN、S及びOから選択される1個以上のヘテロ原子に置換された基を意味する。また、本明細書において、「ヘテロアリーレン」は、前記ヘテロアリールからさらに1個の水素原子を除いた2価基を意味する。この場合において、N又はSによる置換は、それぞれN-オキシド又はSのオキシド若しくはジオキシドによる置換を包含する。好適なヘテロアリールは、限定するものではないが、例えばフラニル、チエニル(チオフェンイル)、ピロリル、イミダゾリル、ピラゾリル、トリアゾリル、テトラゾリル、チアゾリル、オキサゾリル、イソオキサゾリル、オキサジアゾリル、チアジアゾリル、イソチアゾリル、ピリジル、ピリダジニル、ピラジニル、ピリミジニル、キノリニル、イソキノリニル及びインドリル等の5〜15員のヘテロアリールを挙げることができる。
本明細書において、「ヘテロアリールアルキル」は、前記アルキル、アルケニル又はアルキニルの水素原子の1個が前記ヘテロアリールに置換された基を意味する。好適なヘテロアリールアルキルは、限定するものではないが、例えばピリジルメチル等の5〜15員のヘテロアリール-C1〜C9アルキルを挙げることができる。
本明細書において、「アリールオキシ」は、ヒドロキシルの水素原子が、前記アリールに置換された基を意味する。好適なアリールオキシは、限定するものではないが、例えばフェノキシ、ビフェニルオキシ、ナフチルオキシ及びアントリルオキシ(アントラセニルオキシ)等のC6〜C15アリールオキシを挙げることができる。
本明細書において、「アリールアルキルオキシ」は、ヒドロキシルの水素原子が、前記アリールアルキルに置換された基を意味する。好適なアリールアルキルオキシは、限定するものではないが、例えばベンジルオキシ、1-フェネチルオキシ、2-フェネチルオキシ及びスチリルオキシ等のC7〜C20アリールアルキルオキシを挙げることができる。
本明細書において、「ヘテロアリールオキシ」は、ヒドロキシルの水素原子が、前記ヘテロアリールに置換された基を意味する。好適なヘテロアリールオキシは、限定するものではないが、例えばフラニルオキシ、チエニルオキシ(チオフェンイルオキシ)、ピロリルオキシ、イミダゾリルオキシ、ピラゾリルオキシ、トリアゾリルオキシ、テトラゾリルオキシ、チアゾリルオキシ、オキサゾリルオキシ、イソオキサゾリルオキシ、オキサジアゾリルオキシ、チアジアゾリルオキシ、イソチアゾリルオキシ、ピリジルオキシ、ピリダジニルオキシ、ピラジニルオキシ、ピリミジニルオキシ、キノリニルオキシ、イソキノリニルオキシ及びインドリルオキシ等の5〜15員のヘテロアリールオキシを挙げることができる。
本明細書において、「ヘテロアリールアルキルオキシ」は、ヒドロキシルの水素原子が、前記ヘテロアリールアルキルに置換された基を意味する。好適なヘテロアリールアルキルオキシは、限定するものではないが、例えば5〜15員のヘテロアリール-C1〜C9アルキルオキシを挙げることができる。
本明細書において、「アシル」は、前記で説明した基から選択される1価基とカルボニルとが連結した基を意味する。好適なアシルは、限定するものではないが、例えばホルミル、アセチル及びプロピオニル等のC1〜C6脂肪族アシル、並びにベンゾイル等のC4〜C20芳香族アシルを挙げることができる。
本明細書において、「エステル」は、前記で説明した基から選択される1価基を有するアルコールとカルボキシルとがエステル結合を形成した構造を有する基(すなわちアルコキシカルボニル、アリールオキシカルボニル、アリールアルキルオキシカルボニル、ヘテロアリールオキシカルボニル又はヘテロアリールアルキルオキシカルボニル)を意味する。
前記で説明した基は、それぞれ独立して、非置換であるか、或いは1個以上の前記で説明した1価基によってさらに置換することもできる。
本明細書において、「ハロゲン」又は「ハロ」は、フッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)又はヨウ素(I)を意味する。
式(I)において、nは、2〜5の整数であることが必要である。nは、2〜3の整数であることが好ましく、3であることがより好ましい。nが前記下限値未満の場合、式(I)で表される化合物の分子間でミクロフィブリル状のネットワーク構造を形成することが困難となる可能性がある。nが前記上限値を超える場合、-C(=O)-NH-R1で表される鎖式基の密度が高くなり過ぎ、式(I)で表される化合物のネットワーク構造によって形成されるゲル状態が不安定となる可能性がある。それ故、nが前記範囲の場合、式(I)で表される化合物のネットワーク構造を安定的に形成して、所望の過冷却効果を発現することができる。
式(I)において、Xは、シクロヘキサン環又はベンゼン環に由来する基であることが必要である。Xは、1,3,5-位に-C(=O)-NH-R1で表される鎖式基が結合する構造を有するシクロヘキサン環又はベンゼン環に由来する基であることが好ましい。Xが前記構造を有する基である場合、式(I)で表される化合物のネットワーク構造を安定的に形成して、所望の過冷却効果を発現することができる。
式(I)において、R1は、非極性の一価基である。本発明の一実施形態において、式(I)におけるR1は、例えば、置換若しくは非置換の直鎖若しくは分岐鎖のC6〜C18アルキル、置換若しくは非置換の直鎖若しくは分岐鎖のC6〜C18アルケニル、又は置換若しくは非置換の直鎖若しくは分岐鎖のC6〜C18アルキニルである。前記基は、1個以上の-O-、-S-、-NH-、置換若しくは非置換のC3〜C6シクロアルキレン、置換若しくは非置換のC3〜C6シクロアルケニレン、置換若しくは非置換のC3〜C6シクロアルキニレン、置換若しくは非置換の5〜15員のC3〜C6ヘテロシクロアルキレン、置換若しくは非置換のC7〜C20アリーレン又は置換若しくは非置換の5〜15員のヘテロアリーレンで中断されていてもよい。R1は、置換若しくは非置換の直鎖若しくは分岐鎖のC6〜C10アルキル、置換若しくは非置換の直鎖若しくは分岐鎖のC6〜C10アルケニル、又は置換若しくは非置換の直鎖若しくは分岐鎖のC6〜C10アルキニルであることが好ましく、非置換の直鎖若しくは分岐鎖のC6〜C10アルキルであることがより好ましく、非置換の直鎖若しくは分岐鎖のC8〜C10アルキルであることがさらに好ましく、オクチル又は3,7-ジメチルオクチルであることが特に好ましい。R1が前記構造を有する基である場合、式(I)で表される化合物のネットワーク構造を安定的に形成し、且つ該ネットワーク構造の内部に非極性化合物を安定的に取り込み、所望の過冷却効果を発現することができる。
式(I)において、前記基が置換されている場合、該置換基は、それぞれ独立して、ハロゲン、C1〜C6アルキル、C2〜C6アルケニル、C2〜C6アルキニル、C3〜C6シクロアルキル、C3〜C6シクロアルケニル、C3〜C6シクロアルキニル、C1〜C6アルコキシ、C6〜C15アリールオキシ、C7〜C20アリールアルキルオキシ、5〜15員のヘテロアリールオキシ、5〜15員のヘテロアリール-C1〜C6アルキルオキシ、C1〜C6アルコキシカルボニル、C3〜C6シクロアルコキシカルボニル、及びC1〜C6アシルオキシからなる群より選択される1個以上の1価基である。前記基がこれらの置換基を有する場合であっても、式(I)で表される化合物のネットワーク構造を安定的に形成して、所望の過冷却効果を発現することができる。
特に好ましい式(I)で表される化合物は、以下:
nが、3であり、
Xが、1,3,5-位に-C(=O)-NH-R1で表される鎖式基が結合する構造を有するシクロヘキサン環又はベンゼン環に由来する基であり、且つ
R1が、オクチル又は3,7-ジメチルオクチルである。
とりわけ特に好ましい式(I)で表される化合物は、以下:
N,N',N''-トリス(3,7-ジメチルオクチル)-1,3,5-ベンゼントリカボキサミド;又は
N,N',N''-トリス(3,7-ジメチルオクチル)-1,3,5-シクロヘキシルトリカボキサミド;
である。
式(I)で表される化合物は、加熱溶融した後、放冷することにより、その分子間でミクロフィブリル状のネットワーク構造を形成してゲル状態となる。ゲル状態となった式(I)で表される化合物は、そのネットワーク構造の内部に、長鎖長を有する脂肪族炭化水素化合物及び脂環式炭化水素化合物のような非極性化合物を取り込んで過冷却効果を発現することができる。それ故、式(I)で表される化合物は、長鎖長を有する脂肪族炭化水素化合物及び脂環式炭化水素化合物のような非極性化合物に対する過冷却付与材料として使用することができる。
本発明の潜熱蓄熱材において、非極性化合物は、置換若しくは非置換の直鎖若しくは分岐鎖のC6〜C30脂肪族炭化水素化合物、及び置換若しくは非置換のC3〜C10の脂環式炭化水素化合物からなる群より選択される非極性化合物であることが必要である。非極性化合物は、置換若しくは非置換の直鎖若しくは分岐鎖のC6〜C18脂肪族炭化水素化合物、及び置換若しくは非置換のC3〜C10の脂環式炭化水素化合物からなる群より選択される非極性化合物であることが好ましい。前記置換若しくは非置換の直鎖若しくは分岐鎖のC6〜C30脂肪族炭化水素化合物は、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン、テトラデカン、ペンタデカン、ヘキサデカン、ヘプタデカン、オクタデカン、エイコサン及びトリアコンタンからなる群より選択されるC6〜C30脂肪族炭化水素化合物であることが好ましく、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン、テトラデカン、ペンタデカン、ヘキサデカン、ヘプタデカン及びオクタデカンからなる群より選択されるC6〜C18脂肪族炭化水素化合物であることがより好ましく、テトラデカン、ペンタデカン、ヘキサデカン、ヘプタデカン及びオクタデカンからなる群より選択されるC14〜C18脂肪族炭化水素化合物であることがさらに好ましく、テトラデカンであることが特に好ましい。前記置換若しくは非置換のC3〜C10の脂環式炭化水素化合物は、シクロプロパン、シクロブタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、シクロノナン及びシクロデカンからなる群より選択されるC3〜C10の脂環式炭化水素化合物であることが好ましく、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、シクロノナン及びシクロデカンからなる群より選択されるC5〜C10の脂環式炭化水素化合物であることがより好ましく、シクロヘキサンであることがさらに好ましい。特に好ましい前記非極性化合物は、シクロヘキサン又はテトラデカンである。前記非極性化合物は、潜熱を放出する温度が低温である。それ故、前記化合物を、式(I)で表される化合物を含有する本発明の潜熱蓄熱材に使用することにより、過冷却効果を発現して低温領域で安定的に潜熱を放出することができる。
本発明において、式(I)で表される化合物、並びに以下において説明する式(III)及び(IV)で表される化合物は、該化合物自体だけでなく、その塩も包含する。本発明の前記各式で表される化合物の塩としては、限定するものではないが、例えば、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、炭酸若しくはリン酸のような無機酸、又はギ酸、酢酸、マレイン酸、フマル酸、安息香酸、アスコルビン酸、コハク酸、ビスメチレンサリチル酸、メタンスルホン酸、エタンジスルホン酸、プロピオン酸、酒石酸、サリチル酸、クエン酸、グルコン酸、アスパラギン酸、ステアリン酸、パルミチン酸、イタコン酸、グリコール酸、p-アミノ安息香酸、グルタミン酸、ベンゼンスルホン酸、シクロヘキシルスルファミン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、イセチオン酸、p-トルエンスルホン酸若しくはナフタレンスルホン酸のような有機酸アニオンとの塩が好ましい。式(I)で表される化合物が前記の塩の形態である場合であっても、本発明の潜熱蓄熱材に適用することができる。
式(I)で表される化合物、並びに以下において説明する式(III)及び(IV)で表される化合物は、該化合物自体だけでなく、該化合物又はその塩の溶媒和物も包含する。前記化合物又はその塩と溶媒和物を形成し得る溶媒としては、限定するものではないが、例えば、低級アルコール(例えば、メタノール、エタノール若しくは2-プロパノール(イソプロピルアルコール)のような1〜6の炭素原子数を有するアルコール)、高級アルコール(例えば、1-ヘプタノール若しくは1-オクタノールのような7以上の炭素原子数を有するアルコール)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、酢酸、エタノールアミン若しくは酢酸エチルのような有機溶媒、又は水が好ましい。式(I)で表される化合物又はその塩が前記の溶媒との溶媒和物の形態である場合であっても、本発明の潜熱蓄熱材に適用することができる。
式(I)で表される化合物、並びに以下において説明する式(III)及び(IV)で表される化合物は、該化合物自体だけでなく、その保護形態も包含する。本明細書において、「保護形態」は、1個又は複数の官能基(例えばヒドロキシル基又はアミノ基)に保護基が導入された形態を意味する。本明細書において、特定の化合物の保護形態を、該特定の化合物の保護誘導体と記載する場合がある。また、本明細書において、「保護基」は、望ましくない反応の進行を防止するために、特定の官能基に導入される基であって、特定の反応条件において定量的に除去され、且つそれ以外の反応条件においては実質的に安定、即ち反応不活性である基を意味する。前記化合物の保護形態を形成し得る保護基としては、限定するものではないが、例えば、ヒドロキシル基の保護基の場合、ベンジル、トシル、シリル(例えば、t-ブチルジメチルシリル(TBS)、トリイソプロピルシリル(TIPS)若しくはtert-ブチルジフェニルシリル(TBDPS))、アルコキシ(例えば、メトキシメトキシ(MOM)若しくはメトキシ(Me))又は環状アセタール(例えば、ベンジリデンアセタール若しくはジメチルアセタール)が、アミノ基の保護基の場合、フタルイミド、tert-ブチルオキシカルボニル(Boc)又はベンジルオキシカルボニル(Z)が、それぞれ好ましい。前記保護基による保護化及び脱保護化は、公知の反応条件に基づき、当業者が適宜実施することができる。式(I)で表される化合物が前記の保護基による保護形態である場合であっても、本発明の潜熱蓄熱材に適用することができる。
また、式(I)で表される化合物、並びに以下において説明する式(III)及び(IV)で表される化合物が1又は複数の立体中心(キラル中心)を有する場合、前記化合物は、該化合物の個々のエナンチオマー及びジアステレオマー、並びにラセミ体のようなそれらの混合物も包含する。
本発明の潜熱蓄熱材において、式(I)で表される化合物は、前記非極性化合物の総質量に対して1〜30質量%の範囲で含有されることが好ましく、5〜30質量%の範囲で含有されることがより好ましく、15〜30質量%の範囲で含有されることがさらに好ましい。式(I)で表される化合物の含有量が前記下限値未満の場合、式(I)で表される化合物のネットワーク構造を安定的に形成できず、所望の過冷却効果を発現できない可能性がある。式(I)で表される化合物の含有量が前記上限値を超える場合、式(I)で表される化合物が十分に溶融しない可能性がある。それ故、式(I)で表される化合物の含有量が前記範囲内の場合、式(I)で表される化合物のネットワーク構造を安定的に形成して、所望の過冷却効果を発現することができる。
本発明の潜熱蓄熱材は、式(I)で表される化合物を準備する工程、非極性化合物を準備する工程、式(I)で表される化合物と非極性化合物とを混合し、所定の温度で加熱して、該化合物を溶融させる工程を含む方法によって製造することができる。
式(I)で表される化合物を準備する工程は、予め調製された化合物を購入等して準備してもよく、例えば、Chem. Lett., 1997年, p. 429及びChem. Lett., 1997年, p. 191等の公知文献を参照して、当該技術分野で通常使用される合成的手段により、自ら合成して準備してもよい。
式(I)で表される化合物を準備する工程は、式(III):
で表される化合物と、式(IV):
R
1-NH
2 (IV)
で表される化合物とを反応させる工程を含む、式(I)で表される化合物を製造する方法を適用することにより、実施することが好ましい。
式(III)及び(IV)において、n、X及びR1は、前記と同義である。
式(III)において、Lは、カルボン酸の活性化基である。本発明において、「カルボン酸の活性化基」は、カルボン酸とアミンとの縮合反応において、カルボキシル基に導入されて、アミド結合を形成する縮合反応を促進する脱離基を意味する。Lは、ハロゲンであるか、又は1,3-ジシクロヘキシルカルボジイミド若しくは1-エチル-3-(3’-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドのような縮合剤とカルボン酸との反応によって形成される活性化中間体の残基であることが好ましく、ハロゲンであることがより好ましく、塩素であることがさらに好ましい。Lがハロゲンの場合、式(III)で表される化合物は、酸ハロゲン化物の形態となる。Lが前記特徴を有する基の場合、式(IV)で表される化合物の1級アミノ基と縮合反応して、目的の式(I)で表される化合物を高収率で得ることができる。
前記製造方法において、式(III)及び(IV)で表される化合物は、予め調製された化合物を購入等して準備してもよく、当該技術分野で通常使用される合成的手段により、自ら合成して準備してもよい。前記化合物を自ら合成する実施形態の場合、式(III)及び(IV)で表される化合物、並びにそれらの原料化合物は、該化合物自体であってもよく、それらの保護誘導体であってもよい。いずれの場合も、前記製造方法の実施形態に包含される。
非極性化合物を準備する工程において、該化合物は、予め調製された化合物を購入等して準備してもよく、当該技術分野で通常使用される合成的手段により、自ら合成して準備してもよい。前記化合物を自ら合成する実施形態の場合、非極性化合物、並びにそれらの原料化合物は、該化合物自体であってもよく、それらの保護誘導体であってもよい。いずれの場合も、本工程の実施形態に包含される。
式(I)で表される化合物及び非極性化合物を溶融させる工程は、非極性化合物の溶融温度を超える温度でこれらの化合物を加熱することにより、実施される。前記加熱温度は、通常は10℃以上であり、10〜100℃の範囲であることが好ましく、10〜50℃の範囲であることがより好ましい。加熱温度が前記下限値未満の場合、非極性化合物が十分に溶融しない可能性がある。それ故、前記範囲内の温度で加熱することにより、非極性化合物を十分に溶融させて、式(I)で表される化合物のネットワーク構造の内部に取り込ませ、所望の過冷却効果を発現することができる。
以上詳細に説明したように、本発明の潜熱蓄熱材は、式(I)で表される化合物による過冷却効果によって、約0℃の低温の温度領域で安定的に潜熱を放出することができる。それ故、本発明の潜熱蓄熱材は、例えば、自動車の排熱利用システム、又は住宅等の空調システムに使用することができる。前記用途に本発明の潜熱蓄熱材を使用することにより、熱エネルギーを効率的に利用して、燃料の消費量及びそれに要する費用を削減して、燃費を向上させることができる。
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
<1:過冷却付与材料の調製>
以下の合成において、化合物の機器分析は以下の条件で行った。
1H-NMR:
分析装置:JEOL PMX60SI
周波数:60 MHz
掃引幅:0〜600 Hz
IR:
分析装置:Shimadzu FTIR-8300
HPLC:
分析装置:Shimadzu LC-10A
カラム:Mightysil RP-18 GP 250 mm×4.6 mm(5 μm)
カラム温度:40℃
溶離液:テトラヒドロフラン(THF):アセトニトリル=1:4
流速:0.5 ml/分
検出:UV(254 nm)
〔1-1:N,N',N''-トリス(3,7-ジメチルオクチル)-1,3,5-ベンゼントリカボキサミド(化合物1)の調製〕
[1-1-1:アミンの合成(1)]
200 mLの4つ口フラスコに、1-ブロモ-3,7-ジメチルオクタン(29.2 g, 0.132 mol, 1 eq)及びフタルイミドカリウム塩(25.7 g, 0.138 mol, 1.05 eq)を、DMF(126 mL)を用いて流し込んだ。この混合物を、外温60℃で2時間反応させた。放冷後、反応液を濾過した。濾液に水(500 mL)を加えた後、得られた水相をジエチルエーテル(200 mL)で2回抽出した。合わせた有機相を、水(100 mL)で2回、飽和食塩水(100 mL)で1回洗浄した。Na
2SO
4で有機相を脱水した。有機層を濾過して濃縮後、乾燥した。2-(3,7-ジメチルオクチル)イソインドリン-1,3-ジオン(36.8 g、収率97%)を、無色透明のオイルとして得た。
[1-1-2:アミンの合成(2)]
1 Lのナスフラスコに、2-(3,7-ジメチルオクチル)イソインドリン-1,3-ジオン(36.6 g, 0.127 mol, 1 eq)を、MeOH(384 mL)を用いて溶かし入れた。この混合物に、80% ヒドラジン水和物(7.92 g, 0.126 mol, 0.995 eq)を添加した。混合物を、4時間加熱還流した。反応液を濃縮して、析出した白色固体をアセトニトリル(200 mL)で洗浄濾過した。濾液を濃縮し、2 N HCl(300 mL)を加えた。得られた混合物を濾過し、濾液を濃縮した。得られた粗生成物をアセトン(50 mL)で洗浄し、乾燥した。3,7-ジメチルオクタン-1-アミン塩酸塩(20.05 g, 収率81%)を、微黄色固体として得た。
[1-1-3:化合物1の合成]
100 mLの4つ口フラスコに、3,7-ジメチルオクタン-1-アミン塩酸塩(5.91 g, 30.51 mmol, 4.5 eq)を入れ、トルエン(20 mL)で懸濁させた。この混合物に、トリエチルアミン(5.48 g, 54.24 mmol, 8 eq)を加えて氷冷した。この混合物に、トルエン(10 mL)に溶かした1,3,5-ベンゼントリカルボニルクロリド(1.8 g, 6.78 mmol, 1 eq)を、内温5℃以下で滴下した。滴下終了後、混合物を室温で終夜攪拌した。反応液に、水(30 mL)及び酢酸エチル(50 mL)を加えて相分離した。有機層を、1N HCl(30 mL)及び水(30 mL)で順次洗浄した。得られた水層を、酢酸エチル(30 mL)で抽出した。合わせた有機層を、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(40 mL)、及び飽和食塩水(30 mL)で順次洗浄し、Na
2SO
4で乾燥した。得られた有機層を濾過し、濾液を濃縮した。得られた粗生成物(6 g)を、カラムクロマトグラフィー(シリカゲル:120 g, 展開溶媒:3% MeOH/クロロホルム)で精製した。得られた生成物を、MeOH:水(1:3)で懸濁洗浄し、乾燥した。N,N',N''-トリス(3,7-ジメチルオクチル)-1,3,5-ベンゼントリカボキサミド(化合物1)(3.70 g, 収率87%、HPLC純度99%)を、白色固体として得た。反応の進行は、TLC及び高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で確認した。
1H-NMR (60 MHz, CDCl3+TMS) δ; 0.80-1.10 (m, 27H), 1.20-1.80 (m, 30H), 3.48 (m, 6H), 6.75 (m, 3H), 8.12 (s, 3H)。
〔1-2:N,N',N''-トリス(3,7-ジメチルオクチル)-1,3,5-シクロヘキシルトリカボキサミド(化合物2)の調製〕
[1-2-1:酸クロリドの合成]
300 mLの2つ口フラスコに、アルゴン雰囲気下で、(1α,3α,5α)-1,3,5-シクロヘキサン-トリカルボン酸(1.5 g, 6.938 mmol, 1 eq)を入れ、ジクロロメタン(15 mL)で懸濁させた。この混合物に、DMFを1滴添加した。次いで、この混合物に、チオニルクロリド(7.43 g, 62.442 mmol, 9 eq)を滴下した。滴下終了後、混合物を外温40℃で3時間反応させた。反応液から、チオニルクロリドを留去した。(1α,3α,5α)-1,3,5-シクロヘキサン-トリカルボニルトリクロリドを得た。
[1-2-2:化合物2の合成]
100 mLの3つ口フラスコに、アルゴン雰囲気下で、3,7-ジメチルオクタン-1-アミン塩酸塩(6.05 g, 31.221 mmol, 4.5 eq)を入れ、トルエン(20 mL)で懸濁させた。この混合物に、トリエチルアミン(5.62 g, 55.504 mmol, 8 eq)を添加して氷冷した。次いで、この混合物に、トルエン(10 mL)に溶かした(1α,3α,5α)-1,3,5-シクロヘキサン-トリカルボニルトリクロリドを内温8℃以下で滴下した。滴下終了後、混合物を室温で終夜攪拌した。反応液を、トルエン(200 mL)で希釈した後、水(30 mL)、1 N HCl(30 mL)、及び水(50 mL)で順次洗浄した。得られた水層を、トルエン(30 mL)で抽出した。合わせた有機層を、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(50 mL)、及び飽和食塩水(50 mL)で順次洗浄し、Na
2SO
4で乾燥した。得られた有機層を濾過し、濾液を濃縮した。得られた粗生成物を、クロロホルム(500 mL)及びMeOH(3 mL)の混合溶液に溶かした。この混合物に、活性炭(200 mg)及びシリカゲル(1 g)を入れ、30分攪拌した。得られた混合物を濾過し、濾液を濃縮した。得られた固体を、MeOH:水(1:1)で洗浄して乾燥した。N,N',N''-トリス(3,7-ジメチルオクチル)-1,3,5-シクロヘキシルトリカボキサミド(化合物2)(2.73 g, 収率62%)を、白色固体として得た。反応の進行は、TLCで確認した。
1H-NMR (60 MHz, CDCl3+TMS) δ; 0.82 (bs, 27H), 1.10-1.60 (m, 33H), 2.15 (bs, 6H), 3.28 (bs, 6H), 5.40 (bs, 3H)。
<2:潜熱蓄熱材の調製>
サンプル瓶に、所定割合の過冷却付与材料及び非極性化合物を入れて、実施例の潜熱蓄熱材を調製した。過冷却付与材料としては、前記で調製した化合物1及び2を使用した。ジアミノアルカンとしては、シクロヘキサン及びテトラデカンを使用した。各実施例の組成は、下記表1〜3に示した通りである。
<3:潜熱蓄熱材の特性解析>
〔3-1:状態観察〕
調製した実施例の潜熱蓄熱材を、密閉下で約80℃に加熱して溶融させた。溶融した実施例の潜熱蓄熱材を、25℃に放冷して、該潜熱蓄熱材が凝固する状態を目視で観察した。観察した状態を、下記の基準で分類した。
状態(1):潜熱蓄熱材の各成分が互いに混じり合わない。
状態(2):潜熱蓄熱材の各成分が互いに混じり合うものの、粘度が増加しない。
状態(3):潜熱蓄熱材の各成分が互いに混じり合い且つ粘度が増加して、ゲル状態のまま過冷却する。
〔3-2:熱量測定〕
前記手順で状態観察の実験を実施した実施例の潜熱蓄熱材を、それぞれ所定量(3〜5 mg)秤量した。示差走査熱量計(DSC)(DSC Q1000、テキサスインスツルメンツ社製)を用いて、秤量した実施例の潜熱蓄熱材のサンプルの溶融温度、溶融熱量、凝固温度及び凝固熱量を測定した。前記測定結果から、実施例の潜熱蓄熱材の過冷却温度を下記の式に基づき算出した。
過冷却温度=溶融温度−凝固温度
〔3-3:結果〕
実施例の潜熱蓄熱材を、非極性化合物の溶融温度を超える約80℃まで加熱した後、この潜熱蓄熱材を25℃に放冷した結果、該潜熱蓄熱材の粘度が増加し、非極性化合物の溶融温度よりも低い温度で凝固した。この際、過冷却温度に相当する凝固熱を発生した。前記のように、実施例の潜熱蓄熱材において、増粘効果が確認された場合に過冷却効果が発現したのは、以下の原理に基づくと考えられる。実施例の潜熱蓄熱材を加熱溶融した後、放冷することにより、相溶した過冷却付与材料及び非極性化合物が凝集する。凝集の際、過冷却付与材料は、その分子間でミクロフィブリル状のネットワーク構造を形成すると考えられる。過冷却付与材料によるネットワーク構造の形成により、潜熱蓄熱材の粘度が増加してゲル状態となる。他方、非極性化合物は、過冷却付与材料のネットワーク構造の内部に取り込まれると考えられる。このようなネットワーク構造に取り込まれることにより、非極性化合物は、その溶融温度以下でも凝固することなく、安定な溶融状態を維持することができる。この安定な溶融状態において、さらに温度を低下させることにより、非極性化合物は、過冷却付与材料のネットワーク構造の内部で凝固し、凝固熱を発生すると考えられる。
実施例1-1、2-1及び2-2の潜熱蓄熱材において、過冷却付与材料である式(I)で表される化合物の含有量と過冷却温度との関係を図1に示す。表1〜3に示すように、実施例1-1、2-1及び2-2の潜熱蓄熱材は、いずれも増粘効果を示し、且つ過冷却効果を発現した。また、図1に示すように、実施例1-1、2-1及び2-2の潜熱蓄熱材における過冷却効果は、式(I)で表される化合物の含有量依存的に発現した。
<4:潜熱蓄熱材の極性と過冷却効果との関係>
実施例の潜熱蓄熱材の調製において、非極性化合物に替えて、極性の潜熱蓄熱材として知られるジアミノドデカンを用いた他は前記と同様の手順で、比較例の潜熱蓄熱材を調製した。化合物1及びジアミノドデカンを含有する潜熱蓄熱材を比較例1-1、化合物2及びジアミノドデカンを含有する潜熱蓄熱材を比較例1-2と記載する。前記と同様の手順で比較例1-1及び1-2の潜熱蓄熱材の過冷却温度を測定した。
実施例1-1、2-1及び2-2、並びに比較例1-1及び1-2の潜熱蓄熱材において、過冷却付与材料を含有しない場合の凝固温度と過冷却付与材料を含有する場合の凝固温度との温度差(ΔT)を算出した。実施例1-1、2-1及び2-2、並びに比較例1-1及び1-2の潜熱蓄熱材において、過冷却付与材料である式(I)で表される化合物の含有量とΔTとの関係を図2に示す。図2に示すように、実施例1-1、2-1及び2-2の潜熱蓄熱材において確認された、式(I)で表される化合物の含有量依存的な過冷却効果は、比較例1-1及び1-2の潜熱蓄熱材においては確認されなかった。
なお、本発明は、前記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、前記した実施例は、本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加、削除及び/又は置換をすることが可能である。