以下に、ダクタイル鋳鉄管(以下、「鉄管」と記す。)を用いた上水道管に対する配管の接合作業を例に、本発明による管継手接合装置を説明する。尚、本発明は、特に鉄管の接合に好適に用いられ、上水道管に対する配管施工以外に、下水道管に対する配管施工等にも広く適用できる。以下の実施形態では鉄管を単に管と記す。
図1(a)に示すように、管2,3には一端側に受口2Aが形成されるとともに他端側に挿口3Aが形成されている。受口側の管2の受口2Aに挿口側の管3の挿口3Aを挿入することにより管2,3が接合される。
図1(b)には、接合された管2,3の継手部の断面が示されている。一方の管2の端部に形成された受口2Aの内部に他方の管3の端部に形成された挿口3Aが挿入されている。受口2Aの内周面と挿口3Aの外周面との間でシール用のゴム輪4が圧縮されるように介装され、ロックリング5aと挿口3Aに形成された突部3aが係合して抜止めされる。図中、符号5bはロックリング心出し用部材であり、符号Lは管種類を示す二次元バーコードラベルである。
図2(a)には、地表面Gが掘削されて形成された管布設溝110の溝底Fに管2,3が敷設され、管継手接合装置1によって管2,3が接合される様子が示されている。管2,3はそれぞれ一端側に受口が形成され、他端側に挿口が形成されている。
管継手接合装置1は、複数の脚部Sである車輪に支持され管布設溝110を跨ぐように配置される基台UCと、基台UCに支持され、管布設溝100に布設された一方の管2の受口2Aに他方の管3の挿口3Aを挿入する接合機構JMと、基台UCと各脚部Sとの高さ方向距離が個別に調整可能に構成され、仮想の水平面に対する基台UCの前後左右の傾動角度を可変に設定する高さ調節機構HAとを備えている。先ず接合機構JMについて詳述し、その後に高さ調節機構HAについて詳述する。
本実施形態では、前後左右に2輪ずつ合計8輪の脚部Sで基台UCが支持された例を基に説明するが、少なくとも前後左右に1輪ずつ合計4輪の脚部Sで基台UCが支持されていればよい。
接合機構JMには、受口側支持部10と、挿口側支持部20と、案内軸30と、牽引操作部40が組み込まれている。
受口側支持部10は、上端側が昇降機構50によって昇降自在に支持された垂直姿勢の受口側支軸11と、受口側支軸11の先端側に一体に形成され、一方の管2の受口2A近傍で上方から管周面に添うように当接する受口側当接片12とを備えている。昇降機構50は、受口側支軸11に形成されたラックギヤと、ラックギヤに噛合うピニオンギヤと、ピニオンギヤを回転駆動する電動モータで構成され、ピニオンギヤの正逆回転により受口側支軸11が上下に昇降する。
図2(d)に示すように、受口側当接片12は管2の周面の曲率と同等または少し小さな曲率の凹陥部が形成され、管2の上方から降下させることによって管周面に当接される。受口側支軸11及び受口側当接片12は鋼材で構成されている。図中、符号13で示す孔部は、後述する牽引ワイヤー40の挿通孔である。
図2(a),(b),(c)に示すように、挿口側支持部20は、垂直姿勢の挿口側支軸21と、他方の管3の挿口3A近傍で上方から管周面に添うように当接する挿口側当接片22と、管3の軸心と直交する回動軸心P周りに回動することにより挿口側当接片22を押圧して管を挟持する回動機構23とを備えている。
挿口側支軸21及び挿口側当接片22は、鋼材以外に例えばアルミ合金等の金属や樹脂等で構成することも可能であり、管との当接部位には管表面に傷がつかないようにゴムや樹脂等のクッション材が設けられていることが好ましい。また、回動機構23も鋼材以外に例えばアルミ合金等の金属で構成することも可能である。
案内軸30は一方の管2の軸心と平行姿勢になるように基端側が受口側支持部10のスリーブに固定され、挿口側支持部20が案内軸30に摺動可能に嵌入されている。
牽引操作部40は、受口側支持部10側から回動機構23を回動操作して挿口側当接片22により管3を挟持し、さらに挟持状態で挿口3Aを受口2A側に引き込む牽引ワイヤー(以下、符号「40」を付す。)で構成されている。
挿口側支持部20が案内軸30に沿って摺動可能なように、挿口側支軸21の頂部には軸受21aを介して案内軸30が嵌入され、また、挿口側支軸21の下端部には連結機構25を介して一対の挿口側当接片22(22a,22b)がボルト連結されている。
図3(a),(b)に基づいて詳述する。挿口側当接片22は左右2片の幅広の屈曲板22a,22bを備え、管3の周面に添うように屈曲板22a,22bの相対距離dが長短調整可能な長孔25bが形成された連結板25aにボルト25cで連結されている。つまり、長孔25bが形成された連結板25aとボルト25cとで連結機構25が構成されている。
左右2片の屈曲板22a,22bの相対距離dが変化可能なように連結機構25を介して連結すれば、挿口側当接片22が管3の上面に当接する際に容易に当接できるように左右2片の屈曲板22a,22bの相対距離dが長い状態であっても、回動機構23の回動操作によって生じる押圧力が付与されたときには、左右2片の屈曲板22a,22bの相対距離dが容易に短くなるので、挿口側当接片22で管3を円滑に挟持できるようになる。
尚、呼び径に対応して予め複数の挿口側当接片22が準備され、挿口側当接片22が挿口側支軸21に対して着脱自在に構成されている。同様に、呼び径に対応して予め複数の受口側当接片12が取り付けられた受口側支軸11が準備されている。図2(d)の例では受口側当接片12と受口側支軸11を一体に構成する例が示されているが、受口側支軸11に対して呼び径に対応した複数の受口側当接片12が着脱自在に構成されていてもよい。
図2(a),(b),(c)に戻り、回動機構23は、管3を側方から挟むように両端部23a,23bが回動軸心P上に位置する回動部材としてのアーチ状部材23cと、アーチ状部材23cの頂部に回転自在に取り付けられた環状部材23dを備えて構成され、環状部材23dに牽引ワイヤー40の一端部が固定される。そして牽引ワイヤー40の他端部は、基台UCに搭載された電動式の巻上げ装置52に取り付けられている。そして、アーチ状部材23cの両端部23a,23bと屈曲板22a,22bの両端部との間に、それぞれカム機構24が設けられている。
図4(a),(b)に示すように、カム機構24は、傾斜方向が逆方向の傾斜カム面24cが対向するように一対のカム部材24a,24bが共通軸心周りに相対回転可能に配置され、一方のカム部材24aが屈曲板22a,22bに取り付けられ、他方のカム部材24bがアーチ状部材23cの両端部23a,23bに取り付けられている。
牽引ワイヤー40の牽引力でアーチ状部材23cが回動軸心P周りに回動すると、傾斜カム面24cに沿ってカム部材24bがカム部材24aに対して回動し、カム部材24aが管3側に付勢されるようになる。尚、図4(a),(b)に示すカム機構は一例に過ぎず、同様の機能を実現するために公知の各種のカム機構を採用することができる。
つまり、アーチ状部材23cの両端部23a,23bが挿口側当接片22である屈曲板22a,22bの両下端部を管3に向けて押圧するように機能し、管3が挿口側当接片22で挟持される。尚、回動軸心Pと管3の軸心とは直交する位置関係に設定されていることが好ましい。
回動部材は本実施形態のようにアーチ状の部材23cに限るものではなく、カム部材24aを回動させることができればよく、例えば下側が開口した「コ」の字状の部材でもよい。
牽引ワイヤー40の牽引力でアーチ状部材23cが回動軸心P周りに回動する際に、環状部材23dが管3の上面に当接することにより、管3に対する挿口側当接片22の挟持力が制限され、管3が歪むような大きな力が発生しないように構成されている。
同様の機能はカム機構に形成された傾斜カム面24cの形状を工夫することによっても実現できる。ある程度の挟持力が作用すると、その後カム部材24bがカム部材24aに対して回動しても押圧力が一定に維持されるように、傾斜カム面24cの傾斜領域を制限するのである。
以上のように、接合機構JMによって、管布設溝110に布設された一方の管2の受口に他方の管3の挿口を引き込む牽引機構が構成されている。
図5(a)〜(d)には、図2〜図4に示す管継手接合装置1によって管2,3が接合される手順が示されている。
図5(a)に示すように、先ず、操舵用のハンドルST(図2(a)参照)を操作しつつ、管布設溝110に沿って管2,3の接合対象位置まで基台UCを移動させる。この時点で、受口2Aには滑材が塗布されたゴム輪が装着され、挿口3Aの外周面には滑材が塗布されている。
図5(b)に示すように、次に、昇降機構50を操作して接合機構JMを降下させて、受口側当接片12を受口2A近傍で上方から管周面に添うように当接させる。この状態で、挿口側支持部20の挿口側当接片22も、管3の挿口3A近傍で上方から管周面に添うように当接する。
図5(c)に示すように、巻上げ装置52(図5(b)参照)を起動して牽引ワイヤー40でアーチ状部材23cを牽引操作して、回動軸心P周りにアーチ状部材23cを回動させると、上述したカム機構24(図4参照)が作動して挿口側当接片22によって管3が挟持される。
図5(d)に示すように、その状態でさらに牽引ワイヤー40を牽引すると、さらにカム機構24(図4参照)による挟持力が強くなり、挿口側当接片22で挟持された挿口側の管3が受口側の管2に引き寄せられて両管が接合される。
尚、このとき受口側当接片12に掛かる反力は管2の中央部から受口2a側に到る拡径部(段差部)で受けられる。また、図5(c),(d)に示す回動機構23の環状部材の形状は、図2(c)で示す環状部材23dと構造が若干異なるが、説明の便宜等のため簡略化したものである。
尚、案内軸30には、撮像装置Cが取り付けられている。受口側の管2に貼付された管情報ラベルLを撮像し、接合の後の継手部を夫々上方から撮像するために用いられる。管情報ラベルLに二次元コード情報であるQRコード(登録商標)が用いられ、管情報には、製造年月日、製造工場、型式、管種、呼び径、管の個体番号等が含まれる。このような管情報ラベルLを撮像装置Cで読み取り、画像解析することで、施工対象となる管の管情報が誤りなく取得できるようになる。
図1(a)には管情報ラベルLが示されている。施工時に受口側の管2が軸心周りに多少回転していることがあり、必ずしも真上に管情報ラベルLが位置しない場合があるため、同じ管情報ラベルLが縦横に9枚配列され、何れかの管情報ラベルLが撮像装置Cで読み込まれるように構成されている。
挿口側の管3が受口側の管2に引き寄せられる際に、受口側の管2の軸心と平行姿勢に固定された案内軸30に沿って挿口側支持部20が摺動しつつ受口側の管2に向かうので、挿口側の管3が異形管や短尺管であっても管3の上方への傾斜が阻止され、両管2,3の軸心の傾きが所定の許容角度内に収まるように接合される。
鉄管の場合、他の管材に比べて継手部分の径寸法公差が大きく、接合後のシール性を確保するために、シール材の圧縮代が多めに設定されている。そのため鉄管の継手を接合する場合にはシール材圧縮のために挿入抵抗が比較的大きくなり、管同士の姿勢が接合に支障を来す方向に変化しやすい。
つまり、挿入しようとする管の後端が相手側の管の軸心から外れる方向に傾斜して接合不能な状態になりやすい。特に挿入側の管が短尺であると、管の自重によるモーメントよりも、挿入のために加える外力によって管の後端が浮き上がる方向のモーメントが非常に大きくなり、これに抗して浮き上がりを防止するために溝の外から極めて大きな力を付与する必要がある。そのため人手では間に合わず、非常に大掛かりな装置が必要となる。
しかし、上述の案内軸30を設けることにより、管の後端が浮き上がる方向のモーメントが案内軸30で受けられるので、両管2,3の軸心が大きく傾くことなく円滑に接合できるようになる。尚、案内軸30は1本で構成する以外に、強度面から複数本備えていてもよい。例えば管を挟んで2本平行に配置したり、管の直上に上下2本平行に配置してもよい。
以上のように、受口側の管に受口側支持部を当接させるとともに、挿口側の管に挿口側当接片を当接させて、受口側支持部を介して回動機構と接続された牽引操作部を受口2A側から牽引することにより、回動軸心周りに回動機構を回動させて、挿口側当接片を押圧して管を挟持するとともに、挟持状態で挿口を受口側に引き込むことによって管2,3が接合される。
図6(a),(b)には、基台UCに収容された接合機構JMが昇降機構50を介して降下される状態が示されている。角柱形状の受口側支軸11の一側面にはラックギヤ50aが形成され、基台UCに固定された昇降用の電動モータ50cの出力軸に固定されたピニオンギヤ50bがラックギヤ50aと噛合するように配置されている。電動モータ50cを正転駆動すれば受口側支軸11とともに接合機構JMが降下し、電動モータ50cを逆転駆動すれば受口側支軸11とともに接合機構JMが上昇する。尚、電動モータ50cには減速機構及び制動機構が内蔵され、停止時はロックされる。
基台UCに収容された巻上げ装置52は、巻上げドラム50aと巻上げドラム50aを回転駆動する電動モータ52bで構成され、電動モータ52bを正転駆動すると牽引ワイヤー40が巻き取られ、逆転駆動すると牽引ワイヤー40が繰り出される。電動モータ50cにも減速機構が内蔵されている。
接合機構JMを構成する受口側支軸11は、基台UCに対して垂直方向に昇降自在に固定され、接合機構JMを構成する案内軸30が基台UCの前後方向に平行な姿勢で固定されている。従って、接合機構JMは、管布設溝に沿うように基台UCが設置されると、案内軸30が接合対象となる管2,3の軸心方向に平行姿勢になるように基台UCに取り付けられている。
図7には、巻上げ装置52の他の例が示されている。
当該巻上げ装置52は、案内軸30及び回動機構23を含む挿口側支持部20が、受口側支軸11に固定されたケーシングCSに収容され、当該ケーシングCSに巻上げプーリ52aと電動モータ52bで構成される巻上げ装置52が設置されている。
電動モータ52bを正転駆動すると二つの巻上げプーリ52aを介して牽引ワイヤー40が巻き取られ、回動機構23が回動され、挿口3Aが引き込まれる。回動機構23側に配置された巻上げプーリにより牽引ワイヤー40が水平姿勢に規制され、電動モータ52b側に配置された巻上げプーリにより牽引ワイヤー40が巻き取られる。
回動機構23の頂部には、一端がケーシングCSに固定された支持部42に支持される圧縮コイルばね41が取り付けられている。電動モータ52bが駆動されて回動機構23が回動すると、圧縮コイルばね41が圧縮変形して回動機構23が回動方向とは逆方向に付勢される。この状態で電動モータ52bを停止させて巻上げプーリ52aを開放すると、圧縮コイルばね41の付勢力で回動機構23が初期の姿勢に自動復帰されるようになる。
また、受口側支軸11の上端側には、ラックギヤが形成された延長用支軸11Aを連結可能な連結部11Bが設けられ、任意の数の延長用支軸11Aを延長接続することができるように構成されている。このような構成を採用することにより、管布設溝110が深く形成されている場合であっても、底部の管2,3まで接合機構JMを降下させることが可能になる。
図8(a)には、高さ調節機構HAが示されている。
左右一対の前輪FW(脚部S)及び左右一対の後輪RW(脚部S)は、それぞれが支持板60F,60Rにブラケットを介して水平軸心周りに回転可能に取り付けられている。さらに、後輪RWの支持板60Rとの間には操舵用の回動軸61を介して後輪RWが垂直軸心周りに回転可能に構成されている。
左右一対の回動軸61は、操舵用のハンドルSTと連動するようにボールジョイントを介して連結され、ハンドルSTを右方にシフトさせると各後輪RWが垂直軸心周りに左方に回転し、ハンドルSTを左方にシフトさせると各後輪RWが垂直軸心周りに右方に回転するように構成されている。
前後左右の4つの支持板60F,60Rは、それぞれダンパーとしても機能する2本の姿勢保持軸62,63と、1本の電動シリンダ64を介して基台UCに連結されている。姿勢保持軸62,63は基台UCに対する垂直方向姿勢を保持する軸で、基台UCに備えた保持用のブラケット62a,63aに上下移動自在に保持されている。電動シリンダ64は、下端部が支持板60F,60Rに固定され、上端部が基台UCに備えたブラケット64aに固定されている。
電動シリンダ64に備えた伸縮用の電動モータ64bを正転駆動または逆転駆動することによりシリンダ機構64cが伸縮し、支持板60F,60Rと基台UCとの相対距離、即ち基台UCと各脚部Sとの高さ方向距離が個別に調整可能になる。つまり、支持板60F,60R、姿勢保持軸62,63及び1本の電動シリンダ64によって高さ調節機構HAが構成されている。
前輪FWの左右の姿勢保持軸62,63の上端には、ブラケットを介してそれぞれに走行モータ70が設けられ、走行モータ70の回転力が走行モータ70側のスプロケット71と、車輪側のスプロケット72の間に巻回されたチェーン73を介して各前輪FWに伝達されるように構成されている。
図8(b)には、左右一対の前輪FW(脚部S)及び左右一対の後輪RW(脚部S)が、それぞれ4つの車輪で構成され、それぞれ共通の支持板60F,60Rに取り付けられた例が示されている。この場合も、高さ調節機構HAによってそれぞれ4つの車輪の高さが一体的に調整される。管布設溝110の肩部地表面に小さな凹凸がある場合でも、4つの車輪の何れかが接地されるようになり、安定姿勢で移動可能になり、仮に内側の車輪が管布設溝110に脱輪しても外側の車輪で基台UCが支持されるので、安全性が確保できるとともに、移動の際の直進性が向上し、管継手接合装置1を管敷設溝110に沿って移動させることが容易となる。
上述した高さ調節機構HAによって、仮想の水平面に対する基台UCの前後左右の傾動角度が適切に調整されるようになる。
図9上部に示すように、例えば、紙面左方から右方に傾斜する傾斜地に傾斜方向とは直交する方向(紙面表側から裏側への方向)に管布設溝110が形成されている場合には、基台UCが右方に傾斜するため、接合機構JMを降下させても受口側支軸11が管2,3の直上に降下せず、接合作業に支障を来す虞がある。さらに同様の姿勢では、管継手接合装置1を管布設溝110に沿って移動させることが非常に困難になる。
図9下部に示すように、そのような場合でも、高さ調節機構HAを作動させて谷側の前後輪と基台UCとの高さ方向距離を長くなるように調整し、山側の前後輪と基台との高さ方向距離を短くなるように調整すれば、基台UCの姿勢を仮想水平面に沿うように調整でき、接合機構JMの受口側支軸11を管2,3の直上に降下させることができるようになり、また、管継手接合装置1を管布設溝110に沿って安定的に移動させることができるようになる。
図10上部に示すように、例えば、紙面左方から右方に傾斜する傾斜地に傾斜方向に沿って水平に管布設溝110が形成されている場合には、基台UCの前後が傾斜するため、接合機構JMを降下させても案内軸30が接合対象となる管2,3の軸心方向に平行姿勢にならず、接合作業に支障を来す虞がある。さらに同様の姿勢では、管継手接合装置1を管布設溝110に沿って移動させることも困難になる。
図10下部に示すように、そのような場合でも、高さ調節機構HAを作動させて谷側の左右輪と基台UCとの高さ方向距離を長くなるように調整し、山側の左右輪と基台との高さ方向距離を短くなるように調整すれば、基台UCの姿勢を仮想水平面に沿うように調整でき、接合機構JMの受口側支軸11を管2,3の直上に降下させることができるようになり、また、管継手接合装置1を管布設溝110に沿って安定的に移動させることができるようになる。
紙面左方から右方に傾斜する傾斜地に傾斜方向とは任意の角度で交差する方向に管布設溝110が形成されている場合でも同様で、高さ調節機構HAを作動させて前後左右の車輪と基台の高さを個別に調整することにより、基台の姿勢を仮想水平面に沿うように調整でき、安全且つ容易に移動させ、接合作業を行なえるようになる。
尚、図10では、管布設溝110が地表面と平行でない場合を例示したが、管布設溝110が地表面と平行であれば、少なくとも接合作業時に案内軸30が接合対象となる管2,3の軸心方向に平行姿勢となるように、高さ調節機構HAを作動させればよい。つまり、基台の姿勢を仮想水平面に沿うように調整する以外に、基台の姿勢を仮想水平面に対して任意の傾動角度に調整することで所期の目的を達成できる。
高さ調節機構HAを作動させる具体的な態様は特に限定されず、複数の電動シリンダ64を個別に駆動または停止制御可能な有線または無線のリモート制御装置を構築し、基台の姿勢を目視しつつ調整すればよい。
図11(a)には、受口側支軸11の先端側に設けた受口側当接片12が受口側支軸11に対して搖動自在に軸支され、挿口側支軸21の先端側に設けた挿口側当接片22が挿口側支軸21に対して搖動自在に軸支された例が示されている。
図11(b)に示すように、接合機構JMの案内軸30の軸心と管2,3の軸心が水平方向(溝幅方向)に僅かにずれる場合であっても、受口側当接片12及び挿口側当接片22が搖動して管2,3の外表面に適切に当接し、支障なく接合できるようになる。
図11(c)に示すように、基台UCが仮想水平面に対して僅かに傾動するような場合であっても、接合機構JMの案内軸30の軸心と管2,3の軸心が平行姿勢であれば、高さ調節機構HAを作動させなくても、受口側当接片12及び挿口側当接片22が搖動して管2,3の外表面に適切に当接し、支障なく接合できるようになる。
以上の説明では、前後左右の脚部Sが車輪で構成される場合を説明したが、全てが車輪で構成される必要はなく、少なくとも左右一対のクローラを含み、それぞれが高さ調節機構HAを介して基台UCに固定されていてもよい。そして、この場合はクローラに駆動用のモータが組み込まれていることが好ましい。
さらに、本発明による管継手接合装置1は、基台UCの移動方向を規制する規制部材を備えている。
図2(a)及び図7には、規制部材80が例示されている。規制部材80は、管布設溝110の内部に進入するように配置され、管布設溝110に沿う移動経路から基台UCの移動軌跡がずれた場合に、規制部材80が管布設溝110の壁面SWに接触することにより、それ以上の移動経路のずれが抑制され、その結果、管布設溝110から大きく離脱し或いは一部が管布設溝に脱輪するようなことが無く、基台UCを管布設溝110に沿って安定的に移動させることができるようになる。
図2(a)及び図12に示すように、規制部材80は、管布設溝110から離脱した水平姿勢と管布設溝110に進入した垂直姿勢に姿勢変更可能な位置規制板81を備えている。
位置規制板81は、基台UCにブラケット85を介して固定されたスリーブ83に回転自在に嵌入された円柱状の支軸82の先端にボルト固定されている。支軸82に備えた搖動操作レバー84を操作することにより水平姿勢と垂直姿勢の何れかに姿勢変更される。
本実施形態では、位置規制板81を水平姿勢で固定する固定ピンの挿通孔が、スリーブ83から支軸82を貫くように形成され、当該固定ピンを引抜くことにより位置規制板81が自重で垂直姿勢に姿勢変更し、搖動操作レバー84を上方に搖動操作することで水平姿勢に戻して固定ピンで姿勢を固定するように構成されている。
管継手接合装置1が管の布設現場に搬入され、搬入車両からクレーン装置等で懸架されて、管布設溝110を跨ぐようにして配置される。位置規制板81を水平姿勢から垂直姿勢に姿勢変更した後に管布設溝110に沿って移動される。
本実施形態では、移動方向に沿って基台UCの前方側及び後方側に突出するように、左右に一対ずつ規制部材80が設けられている。少なくとも基台UCの移動方向先端側に規制部材80が配置されていることが好ましく、管布設溝110に沿う移動経路から基台UCの移動軌跡がずれた場合でも、基台の移動方向先端側に配置された規制部材80が先ず管布設溝110の壁面に接触することによって、そのずれが大きくならないように適切に移動方向が規制されるようになる。
規制部材80には、管布設溝110の壁面SWと接合対象管2,3の継手部位との間を仕切るカバー部材87を着脱自在に取り付ける取付部86であるフックが設けられている。
管布設溝110に沿って基台UCを移動させる際に、管布設溝110の肩部や壁面SWから崩れた土砂が接合対象管2,3の継手部位に降りかかると適正に接合できなくなる。例えば、継手部位に塗布した滑材の上に降りかかった土砂で継手部のシール性能が低下する虞がある。そのような場合でも、規制部材80に備えた取付部86にカバー部材87を取り付けて、管布設溝110の壁面SWと接合対象管2,3の継手部位との間を仕切ることにより、接合対象管2,3の継手部位に土砂が降りかかるようなことが回避できる。
図13(a)には平面視した規制部材80が示され、図13(b)には側面視した規制部材80が示されている。規制部材80は基台UCの移動方向先端側で管布設溝110の内向きに傾斜する傾斜部81a、つまり、位置規制板81の壁面SWに対向する面のうち、進行方向先端側が壁面SWから離隔する方向に傾斜するように構成されている。傾斜面は湾曲面であってもよいし平面であってもよい。
管布設溝110に沿う移動経路から基台UCの移動軌跡がずれた場合に、規制部材80(81)が管布設溝110の壁面SWに接触してそのまま壁面SWに食い込むと、そこから移動できなくなる虞がある。そのような場合に備えて、基台UCの移動方向先端側で管布設溝110の内向きに傾斜する傾斜部81aが規制部材80(81)に形成されていると、管布設溝110の壁面SWに最初に接触した傾斜部81aが壁面SWからの反力を受けて壁面SWから離隔する方向に付勢されるようになるので、規制部材80(81)が壁面SWに食い込むようなことが無い状態で、基台UCを管布設溝110に沿って安定的に移動させることができるようになる。
尚、本実施形態では、進行方向先端側のみならず進行方向後端側にも同様の傾斜部81aが形成されているので、基台UCが後方に移動する場合でも同様の効果が得られるようになる。
図13(a)に示すように、支軸82の先端に固定された位置規制板81が溝幅方向に位置調整可能に、支軸82がスリーブ83に対して軸心方向にスライド移動可能に構成されている。図13(a)中、破線で示した位置規制板81は側壁SWから離隔するようにスライド移動された位置が示されている。このように、位置規制板81が溝幅方向に位置調整可能に構成されているので、管布設溝110の溝幅の多少の変動にも容易に対応できるようになる。
図13(c),(d)には他の例が示され、断面が弧状に形成され、基台UCの移動方向先端側で管布設溝110の内向きに傾斜する傾斜部81aが設けられた位置規制板81が示されている。
図13(e),(f)には、上述した位置規制板81に替えて、管布設溝110の壁面SWを転動可能な遊転ローラ81Aを備えて構成される規制部材80が示されている。規制部材80が壁面SWを転動可能に構成されていると、管布設溝110の壁面SWに接触した規制部材80(81A)と壁面SWとの間に発生する摩擦力が規制部材80(81A)の転動によって逃がされるようになり、基台UCを管布設溝110に沿って安定的に移動させることができるようになる。
図13(g),(h)には、上述の遊転ローラ81Aよりも小径の3本の遊転ローラ81Aが、軸心が平行になるように並設された態様が示されている。このような態様によれば、規制部材80(81A)の溝幅方向の厚みを薄くできるというよさがある。尚、壁面SWを転動可能な部材であればよく、遊転ローラ81Aに限るものではない。例えば、支軸周りに回転する環状ベルトで構成されていてもよい。
図2(a)に示すように、規制部材80は、脚部Sに取り付けられるよりも基台UCに取り付けられていることが好ましく、管布設溝110に対して基台の位置を適正に規制することができるようになる。
管布設溝110に沿うように管布設溝110近傍の地表面、壁面SWまたは底部に案内部材90を設置し、当該案内部材90に案内されるように基台UCが移動する案内機構95を備えてもよい。
図14(a)には、管布設溝110近傍の地表面に案内部材90としてレールが布設され、脚部Sである車輪を案内機構95として機能させて、レールに沿って基台UCが移動するように構成された例が示されている。同様のレールを壁面SWに布設し、規制部材80に備えた遊転ローラ81A(図13(e)参照)を案内機構95として機能させて、レールに沿って基台UCが移動するように構成されていてもよい。
図14(b)には、管布設溝110近傍の地表面に案内部材90として帯状の反射部材が布設され、基台UCに搭載されたセンサによって検出される反射部材を追尾するように操舵する自動操舵機構が搭載された例が示されている。センサと自動操舵機構によって案内機構95が構成された例である。
管布設溝110の内部または地表面に管布設溝に沿うように案内部材90を設置し、基台UCを当該案内部材90に沿って移動させる案内機構95を設けると、管布設溝110から大きく偏移することなく基台UCを移動させることができ、管布設溝110から多少偏移した場合でも規制部材80が管布設溝110の壁面SWから大きな反力を受けることがないので、適正に位置規制されながら移動することができる。
規制部材80という観点からすれば、基台UCが管布設溝110を跨ぐように配置される場合以外にも適用可能である。管布設溝110の近傍の左右何れかの地表面を移動する基台UCに管布設溝110に延びるアームを取り付けて、アームの先端側に位置規制板81や転動体81Aを設けて、壁面SWに進入するように構成すればよい。
上述した実施形態では、管布設溝110が地面を掘削して得られた掘削溝である場合を説明したが、管布設溝110は掘削溝に限るものではなく、蓋体で被覆されたコンクリート製の施設溝等、管を敷設可能であれば任意の溝であってもよい。
上述した実施形態では、管布設溝110に布設された一方の管2の受口に他方の管3の挿口を引き込む牽引機構によって接合機構JMが構成された例を説明したが、接合機構の具体的な構造は上述の例に限るものではなく、一方の管2の受口に他方の管3の挿口を引き込むような構造であればよい。
一方の管2の受口に他方の管3の挿口を押し込む押込み機構によって接合機構JMが構成されていてもよい。例えば、受口を支点にして、挿口を挟持した把持部を受口側に押し込むシリンダ機構を備えればよい。
図8(b)に示すように、このような管継手接合装置1を用いれば、管布設溝110の溝底に配置された管2,3の上方から受口側当接片及び挿口側当接片を降下させて、それぞれを管2,3の周面に添うように当接させることができ、その後牽引操作部を操作するだけで接合作業が完結するので、作業者が溝に入って作業を行なう必要が無い。その結果掘削する溝も細幅で済むようになる。
上述した実施形態は、管継手接合装置1の一実施形態であり、該記載により本発明の範囲が限定されるものではなく、各部の具体的な形状、サイズ、材料、構成等は本発明の作用効果が奏される範囲で適宜変更設計可能である。