本発明の一実施形態について図を参照して説明する。以下に示す図において、水平方向に前後及び左右、鉛直方向に上下を用いて説明するが、これらの方向は説明のために用いるのであって、本発明を限定する趣旨ではない。
本実施形態に係る蒸発材料補充装置は、図1及び図2に示すように、収容部3に収容された蒸発材料保持部材300を、取出装置8により取り出し、第1の搬送ユニット9と第2の搬送ユニット10により筒状部材6内まで搬送し、蒸着部15により蒸発材料保持部材300内の材料をターゲット7に蒸着させる装置である。
蒸発材料補充装置1は、図1に示すように、第1のモジュール2と、収容部3と、回収機構4と、第2のモジュール5と、筒状部材6と、ターゲット7と、を含む。
また、第1のモジュール2には、図2に示すように、取出装置8と、第1の搬送ユニット9とが収容されており、第2のモジュール5には、第2の搬送ユニット10と、加速器12が収容されている。そして、加速器12と、筒状部材6と、ターゲット7とで中性子発生装置14を構成する。また、第1の搬送ユニット9と第2の搬送ユニット10とで、搬送機構11を構成する。
第1のモジュール2と第2のモジュール5とは、対向する外面において接続されており、内部の空間は連通している。第1のモジュール2と第2のモジュール5の内部空間は、真空ポンプ(図示せず)に真空引きされることにより、所定の真空状態を維持している。
収容部3は、円筒形状の収容容器であり、複数の蒸発材料保持部材300を上下方向に重畳して収容するものである。
収容部3は、第1のモジュール2の上部に装着され、その下端部は第1のモジュール2の空間内に突出している。収容部3の形状は蒸発材料保持部材300の断面形状に応じて変更することができ、蒸発材料保持部材300を重畳して収容することができれば、どのような断面形状であってもよい。
また、収容部3の第1のモジュール2の空間内に突出している下端部には、蒸発材料保持部材300を第1のモジュール2内に取り出すための取出口3aが設けられている。取出口3aは、取出装置8の取出爪802が侵入して、収容部3内の蒸発材料保持部材300を掻き出すだけの大きさの開口であればよい。なお、収容部3は、第1のモジュール2に対して着脱可能であり、収容部3の蒸発材料保持部材300が全てなくなったときに収容部3を取り外し、新たに蒸発材料保持部材300を充填した収容部3を取付ける。又は、収容部3の一部に複数の蒸発材料保持部材300を取り入れるための取入口を備えていてもよく、収容された蒸発材料保持部材300の数が少なくなったとき、又は蒸発材料保持部材300がなくなったときに、蒸発材料保持部材300を取入口から補充してもよい。
蒸発材料保持部材300は、所定量の材料を液体、固体、気体のいずれかの状態で保持し、後述する蒸着部15に保持されて加熱されることで、蒸発材料を蒸着させるものである。
蒸発材料保持部材300は、図3Cに示すように、フィラメント303と、フィラメント台304とから構成される。フィラメント303は、図3A、3Bに示すように、本体部301と、本体部301の一端部に設けられた一対のフィラメント電極302からなる。本体部301は、円筒形状であり、内部に蒸発材料が保持されている。以下、本実施態様では蒸発材料にリチウム金属を用いるものとする。本体部301の形状は、円筒形状には限定されず、収容される材料の性質や収容部3の形状等に応じて、種々の断面形状を採用することができる。フィラメント303は用途に応じて、種々の材料を保持することができる。また、本体部301の下面は、保持された蒸発材料が後述する蒸着部15により加熱されてターゲットに蒸着できるように、全体又は一部が開口している。
図3Cに示すように、フィラメント303は、フィラメント台304に載置される。フィラメント台304は2本の支柱305を備え、支柱305を重ね合わせてフィラメント台304を重畳し、支柱内部空間306にフィラメント303を保持する。複数の蒸着材料保持部材300は、支柱305を重畳することで、収容部3内に重畳されて収容される。このとき、重畳によるに荷重は支柱305に加わるため、フィラメント303を変形なく重畳することができる。フィラメント台304の底面には円錐形状の突起307があり、フィラメント台304を重ね合わせた状態で、上段のフィラメント台304の突起307が下段のフィラメント台304の支柱内部空間306に収容される。
フィラメント303に蒸発材料を充填する作業は、蒸発材料補充装置1の外部にて行う。図3A、3Bに示すフィラメント303を上下逆にした状態で、本体部301の円筒内部に所定量のリチウム金属切断片を収容し、フィラメント電極302方向に金属片を押圧することにより、本体部301内にリチウム金属を圧着する。リチウム金属塊から所定量ずつ切断してリチウム金属切断片を本体部内に収容した時点で形状にばらつきがあるが、金属片を押圧することで、材料形状を一定に保つことができる。材料形状が一定であることにより、蒸発分布のばらつきを低減する。収容部3内には、蒸発材料が充填された状態の蒸発材料保持部材300を重畳する。リチウム金属は大気中で反応しやすいため、フィラメント303は真空パック状態で搬送し、グローブボックス等を用いて収容部3内に組み立てる。
なお、本実施形態では、リチウム金属を例に説明したが、蒸発材料としてはベリリウム等の金属など種々の材料を用いることができる。
一対のフィラメント電極302は、板状であり、後述する蒸着部15のフィラメント保持部153により保持される。フィラメント電極302は、蒸着部15により加熱されて、本体部301内の蒸発材料を溶融させて気化させる。
取出装置8は、収容部3の取出口3aから蒸発材料金属保持部材300を1つずつ取り出す装置である。取出装置8は、図2に示すように、収容部3の取出口3aの近傍に配置される。また、取出装置8は、図4に示すように、回転軸801と、回転軸801の周囲に所定の間隔をあけて取り付けられた複数の取出爪802と、回転軸801を回転させるモータ803とからなる。モータ803の回転力は、ベベルギア等の動力変換部材を介して、回転軸801に伝達される。
取出爪802は、回転軸801がモータ803により回転されることで、回転軸801を中心に所定の回転方向に回転される。そして、回転された取出爪802は、収容部3の最下層に位置する蒸発材料保持部材300を1つずつ掻き出して取り出す。取り出された蒸発材料保持部材300は、自然落下により下方に位置する第1の搬送ユニット9まで落下する。最下層の蒸発材料保持部材300が取出爪802で掻き出されることにより、重畳された複数の蒸発材料保持部材300は、全体として自重により下方に移動する。最下層に移動した蒸発材料保持部材300が、次に取り出される蒸発材料保持部材300となる。
なお、本実施形態では、取出装置8が取出爪802を備え、取出爪802で蒸発材料保持部材300を掻き出して取り出すように説明したが、本発明は、これに限定されない。例えば、取出口3aから蒸発材料保持部材300を把持する部材を設けて、この部材により下方に引き抜くように取り出すこととしてもよい。
第1の搬送ユニット9は、蒸発材料保持部材300を、取出装置8により取り出された位置から、第2の搬送ユニット10への受渡位置、及び受渡位置から回収機構まで搬送するユニットである。すなわち、第1の搬送ユニット9は、第1のモジュール2の底部に配置され、取出装置8により収容部3の蒸発材料保持部材300が取り出される位置(落下する位置)と、蒸発材料保持部材300のフィラメント303を第2搬送ユニット10に受け渡す位置と、蒸発材料保持部材300を回収機構4に回収させる位置との間で移動する。
具体的には、第1の搬送ユニット9は、図9A〜9C、及び図10A〜10Cに示すように、収容部3から蒸発材料保持部材300が取り出されて、落下する位置Pと、第1の搬送ユニット9によって搬送された蒸発材料保持部材300のフィラメント303が、第2の搬送ユニット10に受け渡される位置Qと、蒸着処理が終了した蒸発材料保持部材300が回収機構4により回収される位置Sと、の間で、搬送方向A又はBに移動する。
第1の搬送ユニット9は、図5A及び図5Bに示すように、ボールねじ部901と、回転駆動部902と、搬送アーム部903とを備える。
ボールねじ部901は、第1のモジュール2内で左右方向に伸びるボールねじである。回転駆動部902は、モータなどから構成され、ボールねじ部901を回転させる。
搬送アーム部903は、ボールねじ部901に螺合しており、ボールねじ部901の回転に応じて左右方向に移動して、蒸発材料保持部材300を搬送する。搬送アーム部903は、ナット部904と、アーム部905と、把持部906を有する。
ナット部904は、ボールねじ部901と螺合するナットを有する。アーム部905は、ナット部904から前方向に伸びたアームである。アーム部905は、右方向端部の上面に第1の保持部である把持部906を有する。
把持部906は、蒸発材料保持部材300を挟持して把持するものである。把持部906は、アーム部905の長辺方向の両端部に設けられる。そして、把持部906は、アーム部905の上面から突出する一対の突出部材を備える。この一対の突出部材の対向する内側の面で蒸発材料保持部材300のフィラメント台304の外周部を挟持して保持する。一対の突出部材は、後述する解放部401により蒸発材料保持部材300を把持する状態と、解放する状態とに切り替えることができる。
なお、把持部906は、一対の突出部材で蒸発材料保持部材300の外周部を挟持して保持するものに限定されない。例えば、半径方向に拡大又は縮小することで蒸発材料保持部材300を把持する状態と解放する状態に切り替えることも可能である。
把持部906は、底面に図示しない円錐形状の凹部を有する。把持部906内の円錐形状凹部は、蒸発材料保持部材300のフィラメント台304に設けられた円錐形状の突起307に嵌合し、蒸発材料保持部材300の位置決めをする。円錐形状の突起307と凹部は、取出装置8により取り出された蒸発材料保持部材300を、把持部906により把持できるように案内する。
このような第1の搬送ユニット9によれば、ボールねじ部901が、回転駆動部902により回転駆動されると、この回転方向に応じて、第1の保持部である把持部906が左右方向に移動する。
把持部906は、収容部3から取出装置8により取り出されて落下した蒸発材料保持部材300を、テーパー状の側面(前記円錐形状の凹部)により案内して受け取る。そして、受け取られた蒸発材料保持部材300は、第1の搬送ユニット9により搬送されて、後述する第2の搬送ユニット10の受渡位置Qまで搬送される。また、把持部906は、後述する蒸着部15により蒸着が終了した蒸発材料保持部材300を、受渡位置Qから回収機構4まで搬送する。
第2の搬送ユニット10は、図2に示すように、第2のモジュール5内に配置され、上下方向に伸びる一対のレール10a、10b、レール10a及びレール10bを保持するベース10c、加速器12から陽子を照射するときに使用する照射ポート10d、ベース10cと照射ポート10dを回転軸10eに中心に回転駆動する回転ベース10f、から構成されている。レール10a、10bは、ベース10cに沿って上下方向に移動する。
レール10aとレール10bとは、レール面同士が重ねられて上下方向に相対移動可能である。本実施形態ではレール10bに取付けたプーリーベルトを真空モータ等の回転駆動部により稼動させ、ベルトクランプにより接続したレール10aをレール10bに対して相対移動させる。ベース10cとレール10bは、一方のレールの長さ方向の端辺に設けられたラック(図示せず)が、モータ等の回転駆動部(図示せず)により回転するピニオンギア(図示せず)と噛み合うことにより、上下方向に移動する。ピニオンギアがモータによって所定の方向に回転駆動されることにより、レール10bは、上下方向に伸びるように移動し、ピニオンギアが所定の方向と反対方向に回転することで上下方向に縮むように移動する。本実施形態では、ベース10cに対してレール10bをラック&ピニオンで駆動し、レール10bに対してレール10aをプーリーベルトにより駆動する。一つの真空モータを用いてピニオンギアとプーリーベルトを回転駆動させることで、レール10aをレール10bの2倍の速度で移動させることができる。
蒸着部15は、フィラメント303を保持し、保持したフィラメント303に通電し、フィラメント303に保持された金属を蒸発させて気化し、蒸発材料を蒸着させる部材である。この蒸着部15は、抵抗加熱蒸着装置において、蒸着材料を加熱して蒸気圧を上げ、蒸着材料を気体として蒸発させる加熱部材である蒸発源として機能する。
蒸着部15は、一方のレール10aの端部に取り付けられている。一対のレール10a、10bが伸縮移動することにより、蒸着部15も上下移動する。回転ベース10fは図示しない回転駆動源を備え、回転ベース10fを筒状部材6の軸と平行な軸を中心に回転させると、ベース10c、レール10a、10bも一体となって回転する。回転ベース10fの回転駆動時は、第1の搬送ユニット9を退避させ、レール10a、10bを縮めた状態とする。回転ベース10fを、回転軸10eを中心に180度回転させると、ベース10c、レール10a、10bは筒状部材6の直上に配置される。この状態で、筒状部材6内部にレール10a、10bを伸長させることで、蒸着部15をターゲット7の前面に対面させることができる。また、照射ポート10dは、回転ベース10fの回転により、ベース10c、レール10a、10bと位置が入れ替わる。
蒸着部15は、図6Aに示すように、一対の電極板151と、一対の電極板151に電流を流す一対の電極152と、フィラメント303のフィラメント電極302を保持するための一対のフィラメント保持部材153とからなる。この一対のフィラメント保持部材153が、第2の搬送ユニット10の第2の保持部を構成する。
一対の電極152は、第2の搬送ユニット10のレール10aの下端部に接続されており、それぞれの電極板151は、一対の電極152にそれぞれ接続されている。一対の電極板151は、その一端部が下方に向けて伸長され、伸長された部分に一対のフィラメント保持部材153がねじ止めされている。
フィラメント保持部材153は、フィラメント303の一対のフィラメント電極302を保持する部材である。抵抗加熱蒸発処理をするときに、電極152から電極板151に電流を流し、フィラメント保持部材153で保持されたフィラメント303を加熱する。
フィラメント保持部材153は、図6Bに示すように、板状部材であり、板面には、複数のスリット153aが形成されている。フィラメント保持部材153は、図8に示すように、第1の搬送ユニット9の把持部906で保持されて搬送されたフィラメント303を、所定の受渡位置Qで、把持部906から受け取る。
本実施形態では、図6Bで示すように、フィラメント保持部材153にはスリット153aが2本入っているが、数は限定されない。また、図8に示すように、フィラメント保持部材153は、平坦な板状部材でなく、屈曲部を有する部材であってもよい。また、本実施形態では、フィラメント保持部材153は、スリットが入っているとして説明したが、スリットはなくてもよい。
また、フィラメント保持部材153にスリット153aを設けたときには、スリット153aがあることにより、フィラメント保持部材153とフィラメント電極302の接触ポイントを複数確保することができる。スリット153aがない場合、フィラメント保持部材153とフィラメント電極302の接触部分が点状となってしまい、電流を流すとその接触部分が発熱して溶着がおき、フィラメントを外すことができなくなってしまう。フィラメント電極302にスリット153aを設けて接触ポイントを複数確保することによりフィラメント電極302が過熱されることでフィラメント電極302が溶融し、フィラメントがフィラメント保持部材153に接着することを防止することができる。したがって、フィラメント保持部材153から、フィラメント303のフィラメント電極302を容易に離脱させることができる。また、接触面積を確保することにより、フィラメントに安定して給電することができる。
加速器12は、陽子を加速して筒状部材6を通過させて、筒状部材6の一端部に設けられたターゲット7に衝突させ、中性子を発生させるものである。加速器12は、第2のモジュール5内の上方に配置され、下方に向けて陽子を加速させて、照射ポート10dと筒状部材6内を通過させる。
ターゲット7は、加速器12により加速された陽子が衝突することで、ターゲット7内に蒸着されている金属から中性子を発生させ、対象物に中性子を照射するものである。
ターゲット7は、第2のモジュール5の下端から突出する筒状部材6の下端部に取り付けられる。ターゲット7は、リチウム金属よりなり、円錐形状に形成され、頂部を下方に向けて配置される。
なお、ターゲット7の形状は円錐形状に限定されることはなく、板状など他の形状を備えたターゲットを利用することができる。
また、ターゲット7には、図2に示すようにターゲット7の膜厚を検知する膜厚検知部16が接続されている。膜厚検知部16により検知された膜厚にしたがって、後述する制御部17は、取出装置8によるフィラメント303の取り出し開始時期の制御、第1の搬送ユニット9の制御、第2の搬送ユニット10の制御、蒸着部15の制御等を行う。
次に、回収機構4について、図7を参照して説明する。回収機構4は、把持部906に保持された蒸発材料保持部材300を、把持部906から解放して回収する機構である。説明の便宜上、図7にはフィラメント303は図示されていない。
回収機構4は、解放部401と、回収容器402とからなる。解放部401は、開閉部材403と、羽状部材404とからなる。羽状部材404は、第1のモジュール2内部に固定されている。
開閉部材403は、把持部906と一体に形成され、把持部906の上面と平行に延出する一対の延出部材403a、403bを備える。この一対の延出部材403a、403bは、互いに平行に配置され、把持部906の一対の突出部材にそれぞれ対応して取り付けられている。
羽状部材404は、上面から見てV字形状に形成され、V字の頂部が開閉部材403の一対の延出部材403a、403bの間に入り込むことで、把持部906を開くように移動させて、把持部906に把持されていたフィラメント303と、フィラメント台304を、第1の搬送ユニット9から解放させる。
把持部906から解放されたフィラメント303とフィラメント台304は、落下して解放部401の下方に配置されたた回収容器402内に回収される。
なお、本実施形態では、回収機構4の解放部401は、第1のモジュール2内の第1の搬送ユニット9の端部近傍に固定した羽状部材404に、開閉部材403を第1の搬送ユニット9により移動させる構成としたが、開閉部材403を停止させた状態で羽状部材404を移動させる構成としてもよい。
次に制御部17について説明する。制御部17は、メモリ、CPU(Central Processing Unit)などから構成され、蒸発材料補充装置1の全体を制御する。制御部17は、図11に示すように、膜厚制御部171と、取出制御部172、第1の搬送制御部173と、第2の搬送制御部174と、蒸着制御部175と、回収制御部176と、からなる。また、第1の搬送制御部173と、第2の搬送制御部174とで、搬送制御手段を構成する。
膜厚制御部171は、膜厚検知部16により検知された膜厚の信号を受信して、ターゲット7に蒸着されている金属膜の厚さを制御する。具体的には、膜厚制御部171は、検知された膜厚が所定値以下の場合には、ターゲット7の金属を補充する時期であると判断して、取出制御部172に、取出装置8から蒸発材料保持部材300を取り出すように制御する。さらに、膜厚制御部171は、検知された膜厚が所定値以下の場合には、蒸着部15により蒸着させる金属の量を計算して、蒸着部15に所定期間の蒸着処理をさせる。
第1の搬送制御部173は、取出装置8により蒸発材料保持部材300が取り出されたことを検知部(図示せず)により検知して、第1の搬送ユニット9の把持部906が、蒸発材料保持部材300が取出装置8により取り出されて落下した位置Pから、第2の搬送ユニット10への受渡位置Qまで搬送されるように制御する。
また、第1の搬送制御部173は、蒸着が終了したフィラメント303が、筒状部材6内から受渡位置Qまで第2搬送ユニット10により移動されたことを検知部(図示せず)が検知すると、第1の搬送ユニット9が、第2の搬送ユニット10からフィラメント303を受取り、受取位置Qから回収機構4のある回収位置Sまで搬送するように制御する。
第2の搬送制御部174は、フィラメント303が、第1の搬送ユニット9の把持部906から第2搬送ユニット10の蒸着部15に受け渡されたことを検知部(図示せず)が検知すると、フィラメント303を、第2搬送ユニット10の蒸着部15により、受渡位置Qから筒状部材6内まで搬送するように制御する。
蒸着制御部175は、膜厚制御部171により検知された膜厚が所定値以下の場合には、膜厚制御部171で算出された金属の量に基づいて、蒸着部15に所定期間の蒸着処理をさせる。
なお、膜厚制御部171は、ターゲット7の膜厚をターゲット7の位置ごとに検知して、必要な蒸着量をターゲットの位置ごとに算出することもできる。そのときには、第2の搬送制御部174は、蒸着部15が取り付けられた第2搬送ユニット10を、上下移動させるとともに、移動速度を制御する。これにより、ターゲット7の膜厚の薄い箇所では長い時間蒸着処理をし、膜厚の比較的厚い箇所では短い時間蒸着処理をするように、制御することができる。
第2の搬送制御部174は、蒸着処理が完了すると、第2の搬送ユニット10を筒状部材6から搬出して、第1の搬送ユニット9の受渡位置Qまで搬送するように制御する。第1の搬送制御部173は、フィラメント303が、第2の搬送ユニット10の蒸着部15から第1の搬送ユニット9の把持部906に受け渡されたことを検知部(図示せず)が検知すると、フィラメント303を、回収機構4が配置された回収位置Sまで搬送するように制御する。
回収制御部176は、回収位置Sまで搬送された蒸発材料保持部材300を、把持部906から解放部401により解放させるように、回収機構4を制御する。
以上のような構成を有する蒸発材料補充装置において、フィラメント303が収容部3から筒状部材6まで搬送され、蒸着部15がフィラメント303に保持された金属を用いてターゲット7に金属を蒸着し、蒸着が終了したフィラメント303が回収機構まで搬送されるまでの動作について、図9A〜9C、図10A〜10C、及び図12に示すフローチャートを参照して説明する。
図12に示すフローチャートにおいて、蒸発材料補充処理は、膜厚検知部16により膜厚を検知することにより開始する(ステップS1001)。
膜厚検知部16がターゲット7の金属の膜厚が所定値以下か否かを判断する(ステップS1002)。膜厚が所定値以下でなければ、膜厚測定を継続する(ステップS1002:NO)。膜厚が所定値以下であれば、取出装置8が、収容部3から蒸発材料保持部材300を取り出す(ステップS1002:YES)。
具体的には、膜厚検知部16により、ターゲット7に蒸着されているリチウム金属の膜厚が所定の膜厚以下になったことが検知されると、膜厚検知部16は、膜厚制御部171に検知信号を出力する。膜厚制御部171は、ターゲットの金属を補充するために蒸発材料保持部材300を取り出すことを指示する信号を取出制御部172に出力する。取出制御部172は、蒸発材料保持部材300を取り出すことを指示する信号を受信すると、取出装置8に、収容部3の取出口3aから取出爪802により、蒸発材料保持部材300を1つ取り出すように指示する。
また、膜厚制御部171が、ターゲットに蒸着されている金属の膜厚が所定の膜厚以下になったことの検知信号を受信すると、膜厚制御部171は、第1の搬送制御部173に当該検知信号を出力する。当該検知信号を受信した第1の搬送制御部173は、第1の搬送ユニット9の把持部906を、図9A、図10Aに示すように、蒸発材料保持部材300が取り出されて落下する位置Pまで移動させて待機するように制御する。
そして、取り出された蒸発材料保持部材300は、収容部3から落下して、落下位置Pに待機している第1の搬送ユニット9の把持部906に受け入れられる。このとき、蒸発材料保持部材300は、把持部906の一対の突出部材の間に案内される。一対の突出部材は、対向する内壁面において、蒸発材料保持部材300のフィラメント台304を把持する。また、蒸発材料保持部材300が取り出された収容部3内では、蒸発材料保持部材300が1つ取り出されたことにより、自重で全体が下にさがり、取り出された蒸発材料保持部材300の上にあった蒸発材料保持部材300が、次に取り出される位置に移動する。
次に、第1の搬送ユニット9及び第2の搬送ユニット10は、取り出された蒸発材料保持部材300のフィラメント303を、筒状部材6内に搬送させる(ステップS1003)。
具体的には、第1の搬送制御部173は、第1の搬送ユニット9の搬送アーム部903を移動させ、搬送アーム部903の把持部906により把持された蒸発材料保持部材300を、落下位置Pから図9A、図10Bに示す第2の搬送ユニット10への受渡位置Qまで移動させる。
すなわち、ナット部903と螺合するボールねじ部901が回転駆動部902により所定の方向に回転され、搬送アーム部903は、ボールねじ部901に沿って、右方向に移動する。そして、最終的には、第1の搬送制御部173は、把持部906を、受渡位置Qまで、移動させる。
この受渡位置Qにおいて、第1の搬送ユニット9よって搬送された蒸発材料保持部材300のフィラメント303は、第1の搬送ユニット9から第2の搬送ユニット10に受け渡される。すなわち、第1の搬送ユニット9により搬送されたフィラメント303は、受渡位置Qにおいて、第1の搬送ユニット9の把持部906から第2の搬送ユニット10の蒸着部15に受け渡される。
一方、第2の搬送制御部174は、第1の搬送ユニット9の把持部906が受渡位置Qまで移動したことを検知部が検知すると、第2の搬送ユニット10を受渡位置Qの近傍まで移動させるように制御する。
具体的には、第1の搬送ユニット9の把持部906が、受渡位置Qまで移動したことを検知部が検知すると、ピニオンギア及びプーリーベルトが所定の方向に回転することによって、一対のレール10a、10bは、伸長するように相対移動され、レール10aは下降するように移動する。そして、レール10aの端部に取り付けられた蒸着部15は、受渡位置Qの上方で待機する。なお、第2の搬送ユニット10を受渡位置Qの近傍まで移動させるタイミングは、膜厚検知部16によりターゲットの金属の膜厚が所定の膜厚以下になったことを検知したときでもよい。
そして、第2の搬送制御部174が、レール10aをさらに下降させることにより、レール10aの端部に設けられた蒸着部15の第2の保持部、すなわちフィラメント保持部材153が、フィラメント303の一対のフィラメント電極302を保持する。第2の搬送ユニット10の上下動によりフィラメント保持部153は、蒸発材料保持部材300のフィラメント303のみを掴んで保持する。
第2の搬送制御部174は、蒸着部15の一対のフィラメント保持部材153が、フィラメント303の一対のフィラメント電極302を保持したことを検知部が検知すると、ピニオンギア及びプーリーベルトを所定の方向とは逆の方向に回転させる。この回転により、一対のレール10a、10bは、縮むように相対移動し、第1の搬送ユニット9上端より高い位置まで移動されて、停止する。
第1の搬送制御部173は、第1の搬送ユニット9を第2のモジュール5内まで移動させる。回転ベース10fにより、筒状部材6の軸と平行な軸である回転軸10eを中心にしてベース10c、レール10a、10bを180度、回転する。この回転により、蒸着部15は、筒状部材6の直上に位置する。そして、ピニオンギア及びプーリーベルトが所定の方向に回転することにより、一対のレール10a、10bが伸長するように相対移動し、レール10aに取り付けられた蒸着部15は、筒状部材6内を下降移動する。
次に、蒸着制御部175は、蒸着部15に、フィラメント303に保持された金属を、所定量、ターゲット7に蒸着させる(ステップS1004)。
具体的には、蒸着制御部175は、筒状部材6の下端部にあるターゲット近傍まで移動された蒸着部15に、膜厚制御部171によって算出された蒸着に必要な金属量の金属を、フィラメント303の金属を用いて、ターゲット7に蒸着させる。蒸着は、所定期間、フィラメント303のフィラメント電極302を、電極板151により通電させて行う。このとき、膜厚制御部171は、ターゲット7に蒸着されている金属が減少している位置、量に応じて、蒸着制御部175がフィラメント電極302に通電する時間、第2の搬送制御部174が上下移動する距離と時間を制御することにしてもよい。
次に、蒸着処理が終了すると、フィラメント303は、第1の搬送ユニット9及び第2の搬送ユニット10により、筒状部材6の外に搬送され(ステップS1005)、回収機構4まで搬送される(ステップS1006)。
具体的には、第2の搬送制御部174は、所定量の金属をターゲット7に蒸着した後に、ピニオンギア及びプーリーベルトを所定の方向と反対方向に回転させる。ピニオンギア及びプーリーベルトが回転されると、一対のレール10a、10bは縮むように相対移動し、レール10aの蒸着部15に保持されたフィラメント303は、筒状部材6内を上昇する。フィラメント303を保持した蒸着部15が筒状部材6の上端部に到達すると、筒状部材6内に進入したときと同様に、一対のレール10a、10bは、筒状部材6の軸と平行な軸である回転軸10eを中心にして、回転ベース10fにより180度回転される。この回転により、蒸着部15は、受渡位置Qの直上に位置される。そして、今度は、ピニオンギア及びプーリーベルトが所定の方向に回転されて、一対のレール10a、10bは伸長するように相対移動する。この移動により、フィラメント303を保持した蒸着部15は、筒状部材6の長さ方向に沿って下降し、受渡位置Qの上方において待機する。待機位置は、蒸着部15に保持されたフィラメント303の最下端がフィラメント台304の支柱305より低い位置とする。
そして、受渡位置Qで待機している第1の搬送ユニット9の把持部906に、蒸着部15のフィラメント保持部材153で保持されているフィラメント303を受け渡す。第1の搬送ユニット9を図9CのB方向に移動させることにより、フィラメント303の本体部301が支柱305に接触し、フィラメント保持部材153からフィラメント電極302がスライドしながら外れる。第1の搬送制御部173は、フィラメント303を保持した第1の搬送ユニット9の把持部906を、受渡位置Qから、フィラメント303を回収する位置S、すなわち、図9C及び図10Cに示すSの位置まで移動させる。
第1の搬送ユニット9の把持部906は、第1の搬送制御部173によって、落下位置、受渡位置、回収位置の間を移動する。この落下位置、受渡位置、回収位置は、第1の搬送ユニット9の搬送方向A及びBに沿って配置されており、短い距離で効率よく蒸発材料補充処理を行うことができる。
なお、本実施形態においては、回収位置、落下位置、受渡位置の順で搬送方向Aに沿って配置されているが、蒸発材料補充処理に干渉しなければ、いかなる順に配置されてもかまわない。
次に、回収機構4まで搬送されたフィラメント303は、回収機構4により回収されて(ステップS1007)、処理を終了する。
具体的には、回収位置Sまで把持部906が移動されると、回収制御部176は、解放部401の羽状部材404の頂部が、開閉部材403の一対の延出部材403a、403bの間に入るように移動させ、延出部材403a、403bを移動させる。この移動により、一対の延出部材403a、403bは開く方向に移動され、一対の延出部材403a、403bが開く方向に移動することで、把持部906により把持されていた蒸発材料保持部材300(フィラメント303及びフィラメント台304)は、把持部906から解放される。解放された蒸発材料保持部材300は、回収容器402内に落下する。
本実施形態では、収容部3内において、複数の蒸発材料保持部材300が重畳して収容されるので、収容部3の設置スペースを小さくすることができ、装置の小型化を実現することができる。
本実施形態では、蒸発材料保持部材300を1つずつ取り出して、蒸着処理をすることができるので、必要なときに必要な量を蒸着することができる。
本実施形態の蒸発材料補充装置1は、蒸着部15が搬送機構に取り付けられているので、別途に蒸着装置を設ける必要がなく、装置を小型化することができる。
本実施形態の蒸発材料補充装置1は、回収機構4を備えるので、蒸発材料保持部材300を回収して、使用済みの蒸発材料保持部材を容易に装置外に搬出することができる。
本実施形態では、第1のモジュール2に収容部3を取り付け、第1の搬送ユニット9と取出装置8を収容し、第2のモジュール5に第2の搬送ユニット10と、中性子発生装置14を収容したので、既存の中性子発生装置に、収容部3と第1の搬送ユニット9と取出装置8を収容した第1のモジュールを取り付けることで、容易に蒸発材料補充装置を構成することができる。
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれまで説明した実施形態に限定されるものではなく、適宜変更が加えられたものを含む。
本実施形態では、フィラメント303は、第1の搬送ユニット9と第2の搬送ユニット10とにより、筒状部材6の中に搬送されるように説明したが、本発明はこれに限定されない。すなわち、第1の搬送ユニット9、第2の搬送ユニット10という複数の搬送ユニットによりフィラメント303を搬送するのではなく、ひとつの搬送ユニットにより、フィラメント303を取出位置8から筒状部材6内、筒状部材6内から回収機構4まで搬送するようにしてもよい。
本実施形態では、第1の搬送ユニット9を第1の搬送制御部173により制御し、第2の搬送ユニット10を第2の搬送制御部174により制御しているが、第1の搬送ユニット9と第2の搬送ユニット10を同一の搬送制御部によって制御することにしてもよい。
本実施形態では、膜厚検知部16により膜厚を検知することにより、蒸発材料補充処理を開始することにしていたが、本発明はこれに限定されない。
本実施形態では、中性子発生装置を例にしているが、本発明は、抵抗加熱式蒸発装置に蒸発材料を供給するものであればよい。抵抗加熱式蒸発ではフィラメントも消耗品であるが、本発明により蒸発材料とフィラメントをセットで供給することにより蒸発装置の稼動時間を大幅に延長することができる。また、フィラメントに蒸発材料をセットする作業を装置外で行うことができるため、蒸発材料のセットを確実にすることができる。