以下に、本願発明を具体化した実施形態を、2基2軸方式の船舶に搭載される一対の推進兼発電機構に適用した場合の図面に基づいて説明する。
まず始めに、船舶の概要について説明する。図1〜図3に示すように、本実施形態の船舶1は、船体2と、船体2の船尾側に設けられたキャビン3(船橋)と、キャビン3の後方に配置されたファンネル4(煙突)と、船体2の後方下部に設けられた一対のプロペラ5及び舵6とを備えている。この場合、船尾側の船底7に一対のスケグ8が一体形成されている。各スケグ8には、プロペラ5を回転駆動させる推進軸9が軸支される。各スケグ8は、船体2の左右幅方向を分割する船体中心線CL(図3参照)を基準にして左右対称状に形成されている。すなわち、第1実施形態では、船体2の船尾形状としてツインスケグが採用されている。
船体2内の船首側及び中央部には船倉10が設けられており、船体2内の船尾側には機関室11が設けられている。機関室11には、プロペラ5の駆動源と船舶1の電力供給源とを兼ねる推進兼発電機構12が船体中心線CLを挟んだ左右に振り分けて一対配置されている。各推進兼発電機構12から推進軸9に伝達された回転動力にて、各プロペラ5は回転駆動する。機関室11の内部は、上甲板13、第2甲板14、第3甲板15及び内底板16にて上下に仕切られている。第1実施形態の各推進兼発電機構12は、機関室11最下段の内底板16上に設置されている。なお、詳細は図示していないが、船倉10は複数の区画に分割されている。
図2及び図3に示すように、各推進兼発電機構12は、プロペラ5の駆動源である中速エンジン装置21(実施形態ではデュアルフューエルエンジン)と、エンジン装置21の動力を推進軸9に伝達する減速機22と、エンジン装置21の動力にて発電する軸駆動発電機23とを組み合わせたものである。ここで、「中速」のエンジンとは、毎分500〜1000回転程度の回転速度で駆動するものを意味している。ちなみに、「低速」のエンジンは毎分500回転以下の回転速度で駆動し、「高速」のエンジンは毎分1000回転以上の回転速度で駆動する。実施形態のエンジン装置21は中速の範囲内(毎分700〜750回転程度)で定速駆動するように構成されている。
エンジン装置21は、エンジン出力軸(クランク軸)24を有するシリンダブロック25と、シリンダブロック25上に搭載されたシリンダヘッド26とを備えている。機関室11最下段の内底板16上に、直付け又は防振体(図示省略)を介してベース台27が据え付けられている。ベース台27上にエンジン装置21のシリンダブロック25が搭載されている。エンジン出力軸24は、船体2の前後長さ方向に沿う向きに延びている。すなわち、エンジン装置21は、エンジン出力軸24の向きを船体2の前後長さ方向に沿わせた状態で機関室11内に配置されている。
減速機22及び軸駆動発電機23がエンジン装置21よりも船尾側に配置されている。エンジン装置21の後面側からエンジン出力軸24の後端側が突出している。エンジン出力軸の後端側に減速機22が動力伝達可能に連結されている。減速機22を挟んでエンジン装置21と反対側に、軸駆動発電機23が配置されている。機関室11内の前方からエンジン装置21、減速機22、軸駆動発電機23の順に並べて配置されている。この場合、船尾側にあるスケグ8内又はその近傍に減速機22及び軸駆動発電機23が配置されている。従って、船舶1のバドックラインの制約に拘らず、エンジン装置21をできるだけ船尾側に寄せて配置することが可能になっていて、機関室11のコンパクト化に寄与している。
減速機22の動力伝達下流側に推進軸9が設けられている。減速機22の外形は、エンジン装置21及び軸駆動発電機23よりも下側に張り出している。当該張り出し部分の後面側に、推進軸9の前端側が動力伝達可能に連結されている。エンジン出力軸24(軸芯線)と推進軸9とは、平面視で同軸状に位置している。推進軸9は、エンジン出力軸24(軸芯線)に対して鉛直方向に異芯した状態で、船体2の前後長さ方向に延びている。この場合、推進軸9は、側面視で軸駆動発電機23及びエンジン出力軸24(軸芯線)よりも低く内底板16に近い位置に置かれている。すなわち、軸駆動発電機23と推進軸9とが上下に振り分けられ、互いに干渉しない。従って、各推進兼発電機構12のコンパクト化が可能になる。
エンジン装置21の定速動力は、エンジン出力軸24の後端側から減速機22を介して、軸駆動発電機23と推進軸9とに分岐して伝達される。エンジン装置21の定速動力の一部は、減速機22によって例えば毎分100〜120回転前後の回転速度に減速されて、推進軸9に伝達される。減速機22からの減速動力にてプロペラ5が回転駆動する。なお、プロペラ5には、プロペラ羽根の翼角変更によって船速を調節可能な可変ピッチプロペラが採用されている。また、エンジン装置21の定速動力の一部は、減速機22によって例えば毎分1200か1800回転程度の回転速度に増速されて、減速機22に回転可能に軸支されたPTO軸に伝達される。この減速機22のPTO軸の後端側が軸駆動発電機23に動力伝達可能に連結されており、減速機22からの回転動力に基づいて軸駆動発電機23が発電駆動する。軸駆動発電機23の駆動にて生じた発電電力が船体2内の電気系統に供給される。
エンジン装置21には、空気取り込み用の吸気経路(図示省略)と排気ガス排出用の排気経路28とが接続されている。吸気経路を通じて取り込まれた空気は、エンジン装置21の各気筒36内(吸気行程の気筒内)に送られる。また、エンジン装置21は2基あるため、排気経路28は2本存在する。各排気経路28はそれぞれ延長経路29に接続されている。延長経路29はファンネル4まで延びていて、外部に直接連通するように構成されている。各エンジン装置21からの排気ガスは、各排気経路28及び延長経路29を経由して、船舶1外に放出される。
以上の説明から明らかなように、エンジン装置21と、船舶推進用のプロペラ5を回転駆動させる推進軸9に前記エンジン装置21の動力を伝達する減速機22と、前記エンジン装置21の動力にて発電する軸駆動発電機23とを組み合わせた推進兼発電機構12を一対備えており、一対の推進兼発電機構12は、船体2内の機関室11に、船体中心線CLを挟んだ左右に振り分けて配置されるから、複数台のエンジン(主機関及び補機関)を機関室内に配置する従来構造に比べて、機関室11のエンジン設置スペースを縮小できる。このため、機関室11の前後長を短縮して機関室11をコンパクトに構成でき、ひいては、船体2における船倉スペース(機関室11以外のスペース)の確保がし易い。2つのプロペラ5の駆動によって、船舶1の推進効率向上も図れる。
しかも、主機関たるエンジン装置21が2基備わるため、例えば1基のエンジン装置21が故障して駆動不能になったとしても、もう1基のエンジン装置21によって航行可能であり、船舶用原動機装置ひいては船舶1の冗長性を確保できる。その上、前述の通り、エンジン装置21によってプロペラ5の回転駆動と軸駆動発電機23の駆動とを行えるから、通常航行時は、いずれか一方の軸駆動発電機23を予備にできる。従って、例えば1基のエンジン装置21又は軸駆動発電機23の故障によって電力供給が停止した場合、もう1基の軸駆動発電機23を起動させ、周波数及び電圧を確立して給電を復帰させればよい。また、1基のエンジン装置21だけでの航行時にエンジン装置21を停止させた場合は、もう1基の停止中のエンジン装置21、ひいてはこれに対応した軸駆動発電機23を起動させ、周波数及び電圧を確立して給電を復帰させればよい。
次に、上記船舶1における主機関として用いられるデュアルフューエルエンジン21の概略構成について、図4〜図7を参照して説明する。デュアルフューエルエンジン21(以下、単に「エンジン装置21」と呼ぶ)は、天然ガス等の燃料ガスを空気に混合させて燃焼させる予混合燃焼方式と、重油等の液体燃料(燃料油)を拡散させて燃焼させる拡散燃焼方式とを択一的に選択して駆動する。図4は、エンジン装置21に対する燃料系統を示す図であり、図5は、エンジン装置21における吸排気系統を示す図であり、図7は、エンジン装置21における制御ブロック図である。
エンジン装置21は、図4に示すように、二系統の燃料供給経路30,31から燃料が供給されるものであって、一方の燃料供給経路30にガス燃料タンク32が接続されるとともに、他方の燃料供給経路31に液体燃料タンク33が接続される。即ち、エンジン装置21は、燃料供給経路30から燃料ガスがエンジン装置21に供給される一方、燃料供給経路31から燃料油がエンジン装置21に供給される。燃料供給経路30は、液化状態の気体燃料を貯蔵するガス燃料タンク32と、ガス燃料タンク32の液化燃料(燃料ガス)を気化させる気化装置34と、気化装置34からエンジン装置21への燃料ガスの供給量を調整するガスバルブユニット35とを備える。即ち、燃料供給経路30は、ガス燃料タンク32からエンジン装置21に向かって、気化装置34及びガスバルブユニット35が順番に配置されて構成される。
エンジン装置21は、図5に示すように、シリンダブロック25に複数の気筒36(本実施形態では6気筒)を直列に並べた構成を有している。各気筒36は、シリンダブロック25内に構成される吸気マニホールド(吸気流路)67(図8参照)と吸気ポート37を介して連通している。各気筒36は、シリンダヘッド26上方に配置される排気マニホールド(排気流路)44と排気ポート38を介して連通している。各気筒36における吸気ポート37に、ガスインジェクタ98を配置する。従って、吸気マニホールド67からの空気が、吸気ポート37を介して各気筒36に供給される一方、各気筒36からの排ガスが、排気ポート38を介して排気マニホールド44に吐出される。また、エンジン装置21をガスモードで運転している場合には、ガスインジェクタ98から燃料ガスを吸気ポート37に供給し、吸気マニホールド67からの空気に燃料ガスを混合して、各気筒35に予混合ガスを供給する。
排気マニホールド44の排気出口側に、過給機49のタービン49aの排気入口を接続しており、吸気マニホールド67の空気入口側(新気入口側)に、インタークーラ51の空気吐出口(新気出口)を接続している。インタークーラ51の空気吸入口(新気入口)に、過給機49のコンプレッサ49bの空気吐出口(新気出口)を接続している。コンプレッサ49b及びインタークーラ51の間に、メインスロットル弁V1を配置しており、メインスロットル弁V1の弁開度を調節して、吸気マニホールド44に供給する空気流量を調整する。
コンプレッサ49b出口から排出される空気の一部をコンプレッサ49b入口に再循環させる給気バイパス流路17が、コンプレッサ49bの空気吸入口(新気入口)側とインタークーラ51の空気排出口側とを連結している。すなわち、給気バイパス流路17は、コンプレッサ49bの空気吸入口よりも上流側で外気に解放される一方で、インタークーラ51と吸気マニホールド67との接続部分に接続される。この給気バイパス流路17上に、給気バイパス弁V2を配置しており、給気バイパス弁V2の弁開度を調節して、インタークーラ51下流側から吸気マニホールド67へ流れる空気流量を調整する。
タービン49aをバイパスさせる排気バイパス流路18が、タービン49aの排気出口側と排気マニホールド44の排気出口側とを連結している。すなわち、排気バイパス流路18は、タービン49aの排気出口よりも下流側で外気に解放される一方で、タービン49aの排気出口とタービン49aの排気入口との接続部分に接続される。この排気バイパス流路18上に、排気バイパス弁V3を配置しており、排気バイパス弁V3の弁開度を調節することで、タービン49aに流れる排ガス流量を調整して、コンプレッサ49bにおける空気圧縮量を調整する。
エンジン装置21は、排気マニホールド44からの排気ガスにより空気を圧縮する過給機49と、過給機49で圧縮された圧縮空気を冷却して吸気マニホールド67に供給するインタークーラ51とを有している。エンジン装置21は、過給機49出口とインタークーラ51入口との接続箇所にメインスロットル弁V1を設けている。エンジン装置21は、排気マニホールド44出口と過給機49の排気出口とを結ぶ排気バイパス流路18を備えるとともに、排気バイパス流路18に排気バイパス弁V3を配置する。過給機49をディーゼルモード仕様に最適化した場合に、ガスモード時においても、エンジン負荷の変動に合わせて排気バイパス弁V3の開度を制御することで、エンジン負荷に最適な空燃比を実現できる。そのため、負荷変動時において、燃焼に必要な空気量の過不足を防止でき、エンジン装置21は、ディーゼルモードで最適化した過給機を使用した状態で、ガスモードでも最適に稼働する。
エンジン装置21は、過給機49をバイパスする給気バイパス流路17を備え、給気バイパス流路17に給気バイパス弁V2を配置する。エンジン負荷の変動に合わせて給気バイパス弁V2の開度を制御することにより、燃料ガスの燃焼に必要な空燃比に合わせた空気をエンジンに供給できる。また、応答性の良い給気バイパス弁V2による制御動作を併用することで、ガスモードにおける負荷変動への応答速度を速めることができる。
エンジン装置21は、インタークーラ51入口とメインスロットル弁V1との間となる位置に、給気バイパス流路17を接続し、コンプレッサ49bから吐出された圧縮空気をコンプレッサ49b入口に帰還させる。これにより、排気バイパス弁V3による流量制御の応答性を給気バイパス弁V2により補うと同時に、給気バイパス弁V2の制御幅を排気バイパス弁V3により補うことができる。従って、舶用用途での負荷変動や運転モードの切換時において、ガスモードにおける空燃比制御の追従性を良好なものとできる。
エンジン装置21は、図6に示すように、シリンダブロック25内に円筒形状のシリンダ77(気筒36)が挿入されており、シリンダ77内を上下方向にピストン78が往復動することで、シリンダ77下側のエンジン出力軸24を回転させる。シリンダブロック25上のシリンダヘッド26には、燃料油管42から燃料油(液体燃焼)が供給されるメイン燃料噴射弁79が、先端をシリンダ77に向けて挿入されている。この燃料噴射弁79は、シリンダ77の上端面の中心位置に先端を配置しており、ピストン78上面とシリンダ77の内壁面とで構成される主燃焼室に燃料油を噴射する。従って、エンジン装置21が拡散燃焼方式で駆動するとき、燃料噴射弁79から燃料油がシリンダ77内の主燃焼室に噴射されることで、主燃焼室では、圧縮空気と反応して拡散燃焼を発生させる。
各シリンダヘッド26において、メイン燃料噴射弁79の外周側に吸気弁80及び排気弁81を摺動可能に設置している。吸気弁80が開くことにより、吸気マニホールド67からの空気をシリンダ77内の主燃焼室に吸気させる一方で、排気弁81が開くことにより、シリンダ77内の主燃焼室での燃焼ガス(排気ガス)に排気マニホールド44へ排気させる。カムシャフト(図示省略)の回転に応じて、プッシュロッド(図示省略)それぞれが上下動することで、ロッカーアーム(図示省略)が揺動し、吸気弁80及び排気弁81それぞれを上下動させる。
主燃焼室に着火火炎を発生させるパイロット燃料噴射弁82が、その先端がメイン燃料噴射弁79先端の近傍に配置されるように、各シリンダヘッド26に対して斜傾させて挿入されている。パイロット燃料噴射弁82は、マイクロパイロット噴射方式を採用しており、先端にパイロット燃料が噴射される副室を有している。即ち、パイロット燃料噴射弁82は、コモンレール47から供給されるパイロット燃料を副室に噴射して燃焼させて、シリンダ77内の主燃焼室の中心位置に着火火炎を発生させる。従って、エンジン装置21が予混合燃焼方式で駆動するとき、パイロット燃料噴射弁82で着火火炎が発生することで、吸気弁80を介してシリンダ77内の主燃焼室に供給される予混合ガスが反応し、予混合燃焼を発生させる。
エンジン装置21は、図7に示すように、エンジン装置21の各部を制御するエンジン制御装置73を有している。エンジン装置21は、気筒36毎に、パイロット燃料噴射弁82、燃料噴射ポンプ89、及びガスインジェクタ98を設けている。エンジン制御装置73は、パイロット燃料噴射弁82、燃料噴射ポンプ89、及びガスインジェクタ98それぞれに制御信号を与えて、パイロット燃料噴射弁82によるパイロット燃料噴射、燃料噴射ポンプ89による燃料油供給、及びガスインジェクタ98によるガス燃料供給それぞれを制御する。
エンジン装置21は、図7に示すように、排気カム、吸気カム、及び燃料カム(図示省略)を気筒36毎に備えたカム軸200を備えている。カム軸200は、ギア機構(図示省略)を介して、クランク軸24からの回転動力が伝達されることで、排気カム、吸気カム、及び燃料カムを回転させて、気筒36毎に、吸気弁80及び排気弁81を開閉させるとともに、燃料噴射ポンプ89を駆動させる。また、エンジン装置21は、燃料噴射ポンプ89におけるコントロールラック202のラック位置を調整する調速機201を備えている。調速機201は、カム軸200先端の回転数からエンジン装置21のエンジン回転数を測定し、燃料噴射ポンプ89におけるコントロールラック202のラック位置を設定し、燃料噴射量を調整する。
エンジン制御装置73は、メインスロットル弁V1、給気バイパス弁V2、及び排気バイパス弁V3それぞれに制御信号を与えて、それぞれ弁開度を調節し、吸気マニホールド67における空気圧力(吸気マニホールド圧力)を調整する。エンジン制御装置73は、吸気マニホールド65における空気圧力を測定する圧力センサ39より測定信号を受け、吸気マニホールド圧力を検知する。エンジン制御装置73は、ワットトランスデューサやトルクセンサなどの負荷測定器19による測定信号を受け、エンジン装置21にかかる負荷を算出する。エンジン制御装置73は、クランク軸24の回転数を測定するパルスセンサなどのエンジン回転センサ20による測定信号を受け、エンジン装置21のエンジン回転数を検知する。
ディーゼルモードでエンジン装置21を運転する場合、エンジン制御装置73は、燃料噴射ポンプ89における制御弁を開閉制御して、各気筒36における燃焼を所定タイミングで発生させる。すなわち、各気筒36の噴射タイミングに合わせて、燃料噴射ポンプ89の制御弁を開くことで、メイン燃料噴射弁79を通じて各気筒36内に燃料油を噴射させ、気筒36内で発火させる。また、ディーゼルモードにおいて、エンジン制御装置73は、パイロット燃料及び燃料ガスの供給を停止させている。
ディーゼルモードにおいて、エンジン制御装置73は、負荷測定器19で測定されたエンジン負荷(エンジン出力)と、エンジン回転センサ20で測定されたエンジン回転数とに基づいて、各気筒36におけるメイン燃料噴射弁79の噴射タイミングをフィードバック制御する。これにより、エンジン21は、推進兼発電機構12で必要とされるエンジン負荷を出力すると同時に、船舶の推進速度に応じたエンジン回転数で回転する。また、エンジン制御装置73は、圧力センサ39で測定された吸気マニホールド圧力に基づいて、メインスロットル弁V1の開度を制御することで、必要なエンジン出力に応じた空気流量となる圧縮空気を過給機49から吸気マニホールド67に供給させる。
ガスモードでエンジン装置21を運転する場合は、エンジン制御装置73は、ガスインジェクタ98における弁開度を調節して、各気筒36内に供給する燃料ガス流量を設定する。そして、エンジン制御装置73は、パイロット燃料噴射弁82を開閉制御して、各気筒36における燃焼を所定タイミングで発生させる。すなわち、ガスインジェクタ98が、弁開度に応じた流量の燃料ガスを吸気ポート37に供給して、吸気マニホールド67からの空気に混合して、予混合燃料を気筒36に供給させる。そして、各気筒36の噴射タイミングに合わせて、パイロット燃料噴射弁82の制御弁を開くことで、パイロット燃料の噴射による点火源を発生させ、予混合ガスを供給した気筒36内で発火させる。また、ガスモードにおいて、エンジン制御装置73は、燃料油の供給を停止させている。
ガスモードにおいて、エンジン制御装置73は、負荷測定器19で測定されたエンジン負荷と、エンジン回転センサ20で測定されたエンジン回転数とに基づいて、ガスインジェクタ98による燃料ガス流量と、各気筒36におけるパイロット噴射弁82による噴射タイミングとをフィードバック制御する。また、エンジン制御装置73は、圧力センサ39で測定された吸気マニホールド圧力に基づいて、メインスロットル弁V1、給気バイパス弁V2、及び排気バイパス弁V3それぞれの開度を調節する。これにより、吸気マニホールド圧力を必要なンジン出力に応じた圧力に調節し、ガスインジェクタ98から供給される燃料ガスとの空燃比をエンジン出力に応じた値に調整できる。
次に、上記概略構成を有するデュアルフューエルエンジン21(エンジン装置21)の詳細構成について、図8〜図10を参照して説明する。以下の説明において、減速機22との接続側を後側として、エンジン装置21の構成における前後左右の位置関係を指定するものとする。
エンジン装置21は、図8〜図10に示すように、ベース台27(図2参照)上に据置されるシリンダブロック25に、複数のヘッドカバー40が前後一列に配列されたシリンダヘッド26を搭載している。エンジン装置21は、シリンダヘッド26の右側面に、ヘッドカバー40列と平行にガスマニホールド(気体燃料配管)41を延設する一方、シリンダブロック25の左側面に、ヘッドカバー40列と平行に燃料油管(液体燃料配管)42を延設している。また、ガスマニホールド41の上側において、後述の排気マニホールド(排気流路)44がヘッドカバー40列と平行に延設されている。
ヘッドカバー40列と排気マニホールド44との間には、シリンダヘッド26内の冷却水路と連結するシリンダヘッド上冷却水配管46が、ヘッドカバー40列と平行に延設されている。冷却水配管46の上側には、軽油等によるパイロット燃料を供給するコモンレール(パイロット燃料配管)47が、冷却水配管46と同様、ヘッドカバー40列と平行に延設されている。このとき、冷却水配管46が、シリンダヘッド26と連結して支持されるとともに、コモンレール47が、冷却水配管46と連結して支持される。
排気マニホールド44の前端(排気出口側)は、排気中継管48を介して、過給機49と接続されている。従って、排気マニホールド44を通じて排気される排気ガスが、排気中継管48を介して、過給機49のタービン49aに流入することで、タービン49aが回転して、タービン49aと同軸となるコンプレッサ49bを回転させる。過給機49は、エンジン装置21の前端上側に配置されており、その右側にタービン49aを、その左側にコンプレッサ49bをそれぞれ有する。そして、排気出口管50が、過給機49の右側に配置されるとともに、タービン49aの排気出口と連結し、タービン49aからの排気ガスを排気経路28(図2参照)に排気させる。
過給機49の下側には、過給機49のコンプレッサ49bからの圧縮空気を冷却させるインタークーラ51が配置されている。即ち、シリンダブロック25の前端側に、インタークーラ51が設置されるとともに、このインタークーラ51の上部に過給機49が載置される。過給機49の左右中層位置には、コンプレッサ49bの空気吐出口が、後方(シリンダブロック25側)に向かって開口するようにして設けられている。一方、インタークーラ51上面には、上方に向かって開口した空気吸入口が設けられており、この空気吸入口を通じて、コンプレッサ49bから吐出される圧縮空気が、インタークーラ51内部に流入する。そして、コンプレッサ49bの空気吐出口とインタークーラ51の空気吸入口とは、一端が接続されている吸気中継管52により連通される。この吸気中継管52は、上述のメインスロットル弁V1(図5参照)を有している。
エンジン装置21の前端面(正面)には、エンジン出力軸24の外周側に、冷却水ポンプ53、パイロット燃料ポンプ54、潤滑油ポンプ(プライミングポンプ)55、及び燃料油ポンプ56それぞれが設置されている。このとき、冷却水ポンプ53及び燃料油ポンプ56それぞれが左側面寄りの上下に配置され、パイロット燃料ポンプ54及び潤滑油ポンプ55それぞれが右側面寄りの上下に配置される。また、エンジン装置21の前端部分には、エンジン出力軸24の回転動力を伝達する回転伝達機構(図示省略)が設けられている。これにより、エンジン出力軸24からの回転動力が前記回転伝達機構を介して伝達されることで、エンジン出力軸24外周に設けられた冷却水ポンプ53、パイロット燃料ポンプ54、潤滑油ポンプ55、及び燃料油ポンプ56それぞれも回転する。更に、シリンダブロック25内において、冷却水ポンプ53の上側に、前後を軸方向とするカムシャフト(図示省略)が軸支されており、該カムシャフトも前記回転伝達機構を通じてエンジン出力軸24の回転動力が伝達されて回転する。
シリンダブロック25の下側には、オイルパン57が設けられており、このオイルパン57に、シリンダブロック25を流れる潤滑油が溜まる。潤滑油ポンプ55は、潤滑油配管を介してオイルパン57と下側の吸引口で接続されており、オイルパン57に溜まっている潤滑油を吸引する。また、潤滑油ポンプ55は、上側の吐出口が潤滑油配管を介して潤滑油クーラ58の潤滑油入口と接続することで、オイルパン57から吸引した潤滑油を潤滑油クーラ58に供給する。潤滑油クーラ58は、その前方を潤滑油入口とする一方で後方を潤滑油出口とし、潤滑油出口を潤滑油コシキ59と潤滑油配管を介して連結させる。潤滑油コシキ59は、その前方を潤滑油入口とする一方で後方を潤滑油出口とし、潤滑油出口をシリンダブロック25と接続している。従って、潤滑油ポンプ55から送られてくる潤滑油は、潤滑油クーラ58で冷却された後に、潤滑油コシキ59で浄化される。
過給機49は、左右それぞれに振り分けて配置されたコンプレッサ49b及びタービン49aを同軸で軸支し、排気中継管48を通じて排気マニホールド44から導入されるタービン49aの回転に基づき、コンプレッサ49bが回転する。また、過給機49は、新気取り入れ側となるコンプレッサ49bの左側に、導入する外気を除塵する吸気フィルタ63と、吸気フィルタ63とコンプレッサ49bとを接続する新気通路管64とを備える。これにより、タービン49aと同期してコンプレッサ49bが回転することにより、吸気フィルタ63により吸引された外気(空気)は、過給機49を通じてコンプレッサ49bに導入される。そして、コンプレッサ49bは、左側から吸引した空気を圧縮して、後側に設置されている吸気中継管52に圧縮空気を吐出する。
吸気中継管52は、その上部前方を開口させて、コンプレッサ49b後方の吐出口と接続している一方で、その下側を開口させて、インタークーラ51上面の吸気口と接続している。また、インタークーラ51は、前面の通気路に設けた分岐口において、給気バイパス管66(給気バイパス流路17)の一端と接続しており、インタークーラ51で冷却した圧縮空気の一部を給気バイパス管66に吐出する。給気バイパス管66の他端が、新気通路管64の前面に設けた分岐口に接続して、インタークーラ51で冷却された圧縮空気の一部が、給気バイパス管66を通じて新気通路管64に環流し、給気フィルタ63からの外気と合流する。また、給気バイパス管66は、その中途部に、給気バイパス弁V2が配置されている。
インタークーラ51は、吸気中継管52を通じてコンプレッサ49bからの圧縮空気を左側後方から流入させると、給水配管62から給水される冷却水との熱交換作用に基づいて、圧縮空気を冷却させる。インタークーラ51内部において、左室で冷却された圧縮空気は、前方の通気路を流れて右室に導入された後、右室後方に設けられた吐出口を通じて、吸気マニホールド67に吐出される。吸気マニホールド67は、シリンダブロック25の右側面に設けられており、ガスマニホールド41の下側において、ヘッドカバー40列と平行に前後に延設されている。なお、給気バイパス弁V2の開度に応じて、インタークーラ51からコンプレッサ49bに環流させる圧縮空気の流量が決定されることで、吸気マニホールド67へ供給する圧縮空気の流量が設定される。
また、過給機49のタービン49aは、後方の吸込口を排気中継管48と接続させており、右側の吐出口を排気出口管50と接続させている。これにより、過給機49は、排気中継管48を介して排気マニホールド44から排気ガスをタービン49a内部に導入させて、タービン49aを回転させると同時にコンプレッサ49bを回転させ、排気ガスを排気出口管50から排気経路28(図2参照)に排気する。排気中継管48は、その後方を開口させて、排気マニホールド44の吐出口と蛇腹管68を介して接続している一方で、その前方を開口させて、タービン49a後方の吸込口と接続している。
また、排気中継管48の中途位置において、右側面側に分岐口が設けられており、この排気中継管48の分岐口に排気バイパス管69(排気バイパス流路18)の一端が接続されている。排気バイパス管69は、その他端が排気出口管50の後方に設けられた合流口と接続され、排気マニホールド44から吐出される排気ガスの一部を、過給機49を介さずに排気出口管50にバイパスさせる。また、排気バイパス管69は、その中途部に、排気バイパス弁V3が配置されており、排気バイパス弁V3の開度に応じて、排気マニホールド44から排気出口管50にバイパスさせる排気ガスの流量を設定し、タービン49aに供給する排ガス流量を調節する。
エンジン装置21の始動・停止等の制御を行う機側操作用制御装置71が、支持ステー(支持部材)72を介してインタークーラ51の左側面に固定されている。機側操作用制御装置71は、作業者によるエンジン装置21の始動・停止を受け付けるスイッチとともに、エンジン装置21各部の状態を表示するディスプレイを具備する。調速機201が、シリンダヘッド26の左側面前端に固定されている。シリンダブロック25の左側面後端側には、エンジン装置21を始動させるエンジン始動装置75が固定されている。
また、エンジン装置21各部の動作を制御するエンジン制御装置73が、支持ステー(支持部材)74を介して、シリンダブロック25の後端面に固定される。シリンダブロック25の後端側には、減速機22と連結して回転させるフライホイール76が設置されており、フライホイール76の上部に、エンジン制御装置73が配置されている。このエンジン制御装置73は、エンジン装置21各部におけるセンサ(圧力センサや温度センサ)と電気的に接続して、エンジン装置21各部の温度データや圧力データ等を収集するとともに、エンジン装置21各部における電磁弁等に信号を与え、エンジン装置21の各種動作(燃料油噴射、パイロット燃料噴射、ガス噴射、冷却水温度調整など)を制御する。
シリンダブロック25は、その左側面上側に段差部が設けてあり、このシリンダブロック25の段差部上面に、ヘッドカバー40及びシリンダヘッド26と同数の燃料噴射ポンプ89が設置されている。燃料噴射ポンプ89は、シリンダブロック25の左側面に沿って一列に配列されており、その左側面が燃料油管(液体燃料配管)42と連結しているとともに、その上端が燃料吐出管90を介して右前方のシリンダヘッド26の左側面と連結している。上下2本の燃料油管42は、一方が燃料噴射ポンプ89へ燃料油を供給する給油管であり、他方が燃料噴射ポンプ89から燃料油を戻す油戻り管である。また、燃料吐出管90は、シリンダヘッド26内の燃料流路を介してメイン燃料噴射弁79(図6参照)と接続することで、燃料噴射ポンプ89からの燃料油をメイン燃料噴射弁79に供給する。
燃料噴射ポンプ89は、シリンダブロック25の段差部上において、燃料吐出管90で接続されるシリンダヘッド26の左側後方となる位置に、ヘッドカバー40列に対して左側に並設されている。また、燃料噴射ポンプ89は、シリンダヘッド26と燃料油管42に挟まれた位置で一列に配列されている。燃料噴射ポンプ89は、シリンダブロック25内のカムシャフト(図示省略)におけるポンプ用カムの回転によりプランジャの押し上げ動作を行う。そして、燃料噴射ポンプ89は、プランジャの押し上げにより燃料油管42から供給される燃料油を高圧に上昇させ、燃料吐出管90を介して、シリンダヘッド26内の燃料噴射ポンプ89に高圧の燃料油を供給する。
コモンレール47の前端が、パイロット燃料ポンプ54の吐出側と接続されており、パイロット燃料ポンプ54から吐出されるパイロット燃料がコモンレール47に供給される。また、ガスマニホールド41は、排気マニホールド44と吸気マニホールド67の間となる高さ位置で、ヘッドカバー40列に沿って延設されている。ガスマニホールド41は、ガス入口管97と前端が接続して前後に延びているガス主管41aと、ガス主管41aの上面からシリンダヘッド26に向けて分岐させた複数のガス枝管41bとを備える。ガス主管41aは、その上面に等間隔で接続用フランジを備えており、ガス枝管41bの入口側フランジと締結されている。ガス枝管41bは、ガス主管41aとの連結部分と逆側の端部を、ガスインジェクタ98が上側から挿入されたスリーブの右側面と連結している。
次に、上記構成を有するデュアルフューエルエンジン21(エンジン装置21)をガスモードで運転したときの空気流量制御について、主に図11などを参照して説明する。
エンジン制御装置73は、図11に示すように、エンジン負荷が低負荷域(負荷L4以下の負荷域)であって所定負荷L1より低い場合には、メインスロットル弁V1の弁開度に対してフィードバック制御(PID制御)を行う。このとき、エンジン制御装置73は、エンジン負荷に応じた吸気マニホールド圧力の目標値(目標圧力)を設定する。そして、エンジン制御装置73は、圧力センサ39からの測定信号を受け、吸気マニホールド圧力の測定値(測定圧力)を確認し、目標圧力との差分を求める。これにより、エンジン制御装置73は、目標圧力と測定圧力の差分値に基づき、メインスロットル弁V1の弁開度のPID制御を実行し、吸気マニホールド67の空気圧力を目標圧力に近づける。
エンジン制御装置73は、エンジン負荷が所定負荷L1以上となる場合には、メインスロットル弁V1の弁開度に対してマップ制御を行う。このとき、エンジン制御装置73は、エンジン負荷に対するメインスロットル弁V1の弁開度を記憶するデータテーブルDT1を参照し、エンジン負荷に対応したメインスロットル弁V1の弁開度を設定する。そして、エンジン制御装置73は、エンジン負荷が負荷L2(L1<L2<Lth<L4)以上となる場合には、メインスロットル弁V1を全開となるよう制御する。なお、負荷L2は、低負荷域であって、吸気マニホールド圧力が大気圧となる負荷Lthよりも低負荷に設定している。
エンジン制御装置73は、エンジン負荷が低負荷域であって所定負荷L3(Lth<L3<L4)より低い場合には、給気バイパス弁V2を全閉となるよう制御する。エンジン制御装置73は、エンジン負荷が所定負荷L3以上となる場合には、給気バイパス弁V2の弁開度に対してフィードバック制御(PID制御)を行う。このとき、エンジン制御装置73は、エンジン負荷に応じた目標圧力と圧力センサ39による測定圧力との差分値に基づき、給気バイパス弁V2の弁開度のPID制御を実行し、吸気マニホールド67の空気圧力を目標圧力に近づける。
エンジン制御装置73は、エンジン負荷全域で、排気バイパス弁V3の弁開度に対してマップ制御を行う。このとき、エンジン制御装置73は、エンジン負荷に対する排気バイパス弁V3の弁開度を記憶するデータテーブルDT2を参照し、エンジン負荷に対応した排気バイパス弁V3の弁開度を設定する。すなわち、エンジン負荷が所定負荷L1より低い場合には、排気バイパス弁V3を全開としており、所定負荷L1より高くなると、エンジン負荷に対して排気バイパス弁V3の開度を単調減少させて、所定負荷L2で、排気バイパス弁V3を全開とする。そして、エンジン負荷が所定負荷L2より高く所定負荷L3以下となる場合、排気バイパス弁V3を全閉としており、エンジン負荷が低負荷域の所定負荷L3より高くなると、エンジン負荷に対して排気バイパス弁V3の開度を単調増加させる。すなわち、排気バイパス弁V3を徐々に開ける。
図11に示すように、エンジン制御装置73は、エンジンにかかる負荷(エンジン負荷)が低負荷域であって第1所定負荷L3より高い場合に、メインスロットル弁V1の開度を全開とする。また、エンジン制御装置73は、給気バイパス弁V2に対してフィードバック制御(PID制御)を行うと同時に、排気バイパス弁V3に対してマップ制御を行うことで、吸気マニホールド67の圧力を負荷に応じた目標値に調整する。そして、エンジンに負荷が第1所定負荷L3となっているとき、給気バイパス弁V2及び排気バイパス弁V3それぞれを全閉としている。
過給機49をディーゼルモード仕様に最適化した場合に、ガスモード運転時においても、エンジン負荷の変動に合わせて給気バイパス弁V2の開度を制御することにより、吸気マニホールド67の圧力制御を応答性の良好なものとできる。そのため、負荷変動時において、燃焼に必要な空気量の過不足を防止でき、ディーゼルモードで最適化した過給機49を使用したエンジン装置21であっても、ガスモードで最適に稼働できる。
また、エンジン負荷の変動に合わせて排気バイパス弁V3の開度を制御することにより、気体燃料の燃焼に必要な空燃比に合わせた空気をエンジン装置21に供給できる。また、応答性の良い給気バイパス弁V2による制御動作を併用することで、ガスモードにおける負荷変動への応答速度を速めることができるため、負荷変動時において、燃焼に必要な空気量の不足に基づくノッキングを防止できる。
また、低負荷域において、第1所定負荷L3より低い値となる第2所定負荷L1よりエンジン負荷が低い場合に、メインスロットル弁V1に対してフィードバック制御(PID制御)を行う。一方、エンジン制御装置73は、エンジン負荷が第2所定負荷L1より高い場合に、メインスロットル弁V1に対してデータテーブルDT1に基づくマップ制御を行う。更に、エンジン負荷が所定負荷L1より低い場合には、給気バイパス弁V2を全閉とするとともに、排気バイパス弁V3を全開とする。すなわち、排気マニホールド44圧力が大気圧より低い負圧となる場合、排気バス弁V3を全開として、タービン49aの駆動を停止させることで、過給機49におけるサージングなどを防止できる。また、給気バイパス弁V2を全閉とすることで、低負荷時において、メインスロットル弁V1による吸気マニホールド圧力の制御を応答性の高いものとできる。
また、エンジン負荷が第2所定負荷L1以上であって、第1及び第2所定負荷L3,L1の間との値となる第3所定負荷L2よりも低い場合、メインスロットル弁V1に対してデータテーブルDT1に基づくマップ制御を行う。また、給気バイパス弁V2を全閉とするとともに、排気バイパス弁V3をデータテーブルDT2に基づくマップ制御を行う。そして、エンジン負荷が第1所定負荷L3となるとき、メインスロットル弁V1を全開とする一方、給気バイパス弁V2及び排気バイパス弁V3を全閉として、ディーゼルモードからガスモード切換可能な状態とする。
エンジン制御装置73は、ガスモード運転時において、図12に示すように、負荷測定器19で測定されたエンジン負荷(発電機出力又はエンジントルク)Acを受けると、目標点火時期マップM4を参照して、スパークプラグ82の目標点火時期(通常点火時期)を決定する。目標点火時期マップM4は、エンジン負荷Acと目標点火時期DTmとの相関を表すものであり、エンジン負荷Acに対して目標点火時期DTmを決定するものである。また、エンジン制御装置73は、気体燃料を空気に予混合させた予混合燃料における空気量が不足していると判定した場合、点火時期を段階的に遅角制御する一方、空気量が充足していると判定した場合、点火時期を段階的に進角制御する。
すなわち、エンジン制御装置73は、図12に示すように、目標点火時期マップM4を参照して目標点火時期DTmを設定するとともに、遅角設定マップM5を参照して、遅角量ΔDTdを設定することで、点火時期DTm+ΔDTdにスパークプラグ82を点火させる。目標点火時期マップM4は、負荷測定器19で測定されたエンジン負荷(発電機出力又はエンジントルク)Acと目標点火時期DTmとの相関を表すものであり、エンジン負荷Acに対して目標点火時期DTmを決定するものである。遅角設定マップM5は、空気量の不足状態を予測されるパラメータと遅角量ΔDTdとの相関を表すものであり、予測される空気量の不足状態に対して遅角量ΔDTdを決定するものである。
遅角設定マップM5は、図12に示すように、遅角量ΔDtdを、吸気マニホールド圧力の目標値Pa0(目標圧力)と吸気マニホールド圧力の実測値Pa(測定圧力)との差分(Pa0−Pa)に応じて段階的に変化させている。すなわち、吸気マニホールド圧力差(Pa0−Pa)がΔP1以上となると、遅角量ΔDtdを値ΔDT1に設定し、吸気マニホールド圧力差(Pa0−Pa)がΔP2(ΔP2>ΔP1)以上となると、遅角量ΔDtdを値ΔDT2(ΔDT2>ΔDT1)に設定し、吸気マニホールド圧力差(Pa0−Pa)がΔP3(ΔP3>ΔP2)以上となると、遅角量ΔDtdを値ΔDT3(ΔDT3>ΔDT2)に設定する。即ち、遅角設定マップM5は、目標圧力から測定圧力を減じた差分に対して遅角量を単純増加させた値を断続的に記憶している。
ガスモード運転時におけるエンジン制御装置73による点火時期の設定制御の詳細について、図12のフローチャートを参照して以下に説明する。エンジン制御装置73は、図12に示すように、負荷測定器19で測定されたエンジン負荷(発電機出力又はエンジントルク)Acを受けると(STEP101)、目標点火時期マップM4を参照して、スパークプラグ82の目標点火時期(通常点火時期)DTmを決定して記憶する(STEP102)。エンジン制御装置73は、目標点火時期DTmを決定した後、吸気マニホールド圧力センサ39による吸気マニホールド圧力の実測値Pa(測定圧力)を受ける(STEP103)。
次いで、エンジン制御装置73は、遅角設定マップM5を参照して、図12のフローチャートに基づく弁制御動作において設定した吸気マニホールド圧力の目標値Pa0(目標圧力)と吸気マニホールド圧力の実測値Pa(測定圧力)との差分(Pa0−Pa)に基づき、遅角量ΔDTdを決定する(STEP104)。そして、エンジン制御装置73は、STEP401で記憶した目標点火時期DTmとSTEP404で決定した遅角量ΔDTdより、点火時期DTm+ΔDTdを設定する(STEP105)。
このエンジン制御装置73による点火時期の設定制御において、遅角設定マップM5を参照して遅角量を決定するため、目標圧力Pa0と測定圧量Paの差分に基づいて推定される空気の不足量に合わせて段階的に点火時期を遅角させることができる。従って、出力の変動に基づくノッキングの発生率を低下させる一方で、熱効率(エンジン出力効率)の低下を最低限に抑制できる。
このガスモード運転時におけるエンジン制御装置73による点火時期の設定制御により、図13に示す如く、目標圧力Pa0と測定圧量Paの差分の大きさに応じて、点火時期DTdを遅角させることができる。従って、出力の変動に基づくノッキングの発生率を低下させることができるように点火時期DTdを遅角できる一方で、その遅角範囲を最適に制限できるため、点火時期の遅角に基づく熱効率(エンジン出力効率)の低下を最低限に抑制できる。
なお、上述のガスモード運転時における点火時期の設定制御では、目標圧力Pa0と測定圧量Paの差分に基づき空気量の過不足を確認するものとしたが、別のパラメータにより空気量の過不足を確認するものとしても構わない。以下では、エンジン制御装置73による点火時期の設定制御の第1変形例を、図14のフローチャートを参照して説明する。図14のフローチャートにおいて、図12のフローチャートと同一の動作ステップについては、上述の説明を参照するものとして、その詳細な説明は省略する。
本変形例では、エンジン制御装置73は、目標点火時期マップM4を参照して、エンジン負荷Acに基づいて、目標点火時期DTmを決定した後(STEP101〜STEP102)、吸気マニホールド67における空気流量(吸気マニホールド流量)の実測値Fa(測定流量)を流量センサ(図示省略)より受ける(STEP113)。その後、エンジン制御装置73は、遅角設定マップM5Aを参照して、エンジン負荷Acなどから設定した吸気マニホールド流量の目標値Fa0(目標流量)と吸気マニホールド流量の実測値Fa(測定流量)との差分(Fa0−Fa)に基づき、遅角量ΔDTdを決定し(STEP114)、点火時期DTm+ΔDTdを設定する(STEP105)。なお、遅角設定マップM5Aは、目標流量から測定流量を減じた差分に対して遅角量を単純増加させた値を断続的に記憶している。
次いで、エンジン制御装置73による点火時期の設定制御の第2変形例を、図15のフローチャートを参照して説明する。図15のフローチャートにおいて、図12のフローチャートと同一の動作ステップについては、上述の説明を参照するものとして、その詳細な説明は省略する。
本変形例では、エンジン制御装置73は、目標点火時期マップM4を参照して、エンジン負荷Acに基づいて、目標点火時期DTmを決定した後(STEP101〜STEP102)、エンジン負荷Acの変化量(出力変化量)ΔAcを算出する(STEP123)。このとき、例えば、前回測定したエンジン負荷Acとの差分により出力変化量ΔAcを算出するものとしてもよい。その後、エンジン制御装置73は、遅角設定マップM5Bを参照して、出力変化量ΔAcに基づき、遅角量ΔDTdを決定し(STEP124)、点火時期DTm+ΔDTdを設定する(STEP105)。なお、遅角設定マップM5Bは、出力変化量ΔAcに対して遅角量を単純増加させた値を断続的に記憶している。
更に、遅角設定マップM5を上記の2次元マップではなく、空気量の不足状態を予測されるパラメータ及びエンジン負荷(発電機出力又はエンジントルク)Acと遅角量ΔDTdとの相関を表す3次元マップとしても構わない。即ち、図12のフローチャートの例において、STEP104で、図16に示す遅角設定マップM5Cを参照して、目標圧力Pa0と測定圧力Paとによる差分(Pa0−Pa)とエンジン負荷Acとにより、遅角量ΔDtdを決定する。このように3次元の遅角設定マップM5Cを参照するものとすることで、より高精度に遅角制御を実行できるため、ノッキングの発生を未然に防止しながらも、熱効率(エンジン出力効率)の低下を抑制できる。
図16に示す遅角設定マップM5Cの例では、エンジン負荷AcがAc1以上Ac2未満である場合に、図中の2点鎖線に示すように、吸気マニホールド圧力差(Pa0−Pa)がΔP1以上となると、遅角量ΔDtdを値ΔDT1aに設定し、吸気マニホールド圧力差(Pa0−Pa)がΔP2以上となると、遅角量ΔDtdを値ΔDT2a(ΔDT2a>ΔDT1a)に設定し、吸気マニホールド圧力差(Pa0−Pa)がΔP3以上となると、遅角量ΔDtdを値ΔDT3a(ΔDT3a>ΔDT2a)に設定する。
また、エンジン負荷AcがAc2以上Ac3未満である場合に、図中の実線に示すように、吸気マニホールド圧力差(Pa0−Pa)がΔP1以上となると、遅角量ΔDtdを値ΔDT1b(ΔDT1b>ΔDt1a)に設定し、吸気マニホールド圧力差(Pa0−Pa)がΔP2以上となると、遅角量ΔDtdを値ΔDT2b(ΔDT2b>ΔDT1b且つΔDT2b>ΔDt2a)に設定し、吸気マニホールド圧力差(Pa0−Pa)がΔP3以上となると、遅角量ΔDtdを値ΔDT3b(ΔDT3b>ΔDT2b且つΔDT3b>ΔDt3a)に設定する。
更に、エンジン負荷AcがAc3以上である場合に、図中の1点鎖線に示すように、吸気マニホールド圧力差(Pa0−Pa)がΔP1以上となると、遅角量ΔDtdを値ΔDT1c(ΔDT1c>ΔDt1b)に設定し、吸気マニホールド圧力差(Pa0−Pa)がΔP2以上となると、遅角量ΔDtdを値ΔDT2c(ΔDT2c>ΔDT1c且つΔDT2c>ΔDt2b)に設定し、吸気マニホールド圧力差(Pa0−Pa)がΔP3以上となると、遅角量ΔDtdを値ΔDT3c(ΔDT3c>ΔDT2c且つΔDT3c>ΔDt3b)に設定する。
なお、遅角量ΔDTdを設定する際に3次元マップによる遅角設定マップを参照する場合、図14のフローチャートの例においては、目標流量Fa0と測定流量Faとによる差分(Fa0−Fa)とエンジン負荷Acとにより、遅角量ΔDtdを決定する。また、図15のフローチャートの例においては、エンジン負荷Acの変化量(出力変化量)ΔAcとエンジン負荷Acとにより、遅角量ΔDtdを決定する。
本実施形態において、上述の点火時期の設定制御のように、空気量の過不足を判定するパラメータ量に基づいて点火時期の遅角量をあらかじめ記憶させるものとしたが、例えば、進角量及び遅角量それぞれをΔtで一定として段階的に変化させるものとしても構わない。以下では、別実施形態(第2実施形態)となるエンジン装置におけるガスモード運転時の制御動作を、図17を参照して説明する。また、以下の実施形態では、吸気マニホールド圧力の目標値Pa0(目標圧力)と吸気マニホールド圧力の実測値Pa(測定圧力)との差分(Pa0−Pa)により、空気量の不足状態を予測する例を挙げて説明する。
第2実施形態におけるエンジン装置では、図17に示すように、ガスモード運転時において、エンジン制御装置73が、負荷測定器19で測定されたエンジン負荷Acを受けると(STEP301)、目標点火時期マップM4を参照して、目標点火時期DTmを決定して記憶する(STEP302)。エンジン制御装置73は、目標点火時期DTmを決定した後、吸気マニホールド圧力センサ39による吸気マニホールド圧力の実測値Pa(測定圧力)を受ける(STEP303)。その後、エンジン制御装置73は、設定した吸気マニホールド圧力の目標値Pa0(目標圧力)と吸気マニホールド圧力の実測値Pa(測定圧力)との差分(Pa0−Pa)に基づき、空気量の不足の有無を判定する(STEP304)。
エンジン制御装置73は、目標圧力Pa0と測定圧力Paの差分(Pa0−Pa)が所定圧力差Pathより大きい場合(STEP304でYes)、空気量が不足するものと判定し、STEP305以降の遅角制御に移行する。一方、目標圧力Pa0と測定圧力Paの差分(Pa0−Pa)が所定圧力差Path以下となる場合(STEP304でNo)、空気量が充足しているものと判定し、STEP307以降の進角制御に移行する。
エンジン制御装置73は、遅角制御に移行すると、まず、設定した点火時期DTdが遅角限界値となる点火時期(限界点火時期)DTlimであるか否かを確認する(STEP305)。そして、点火時期DTdが限界点火時期DTlimに至っていない場合に(STEP305でNo)、点火時期DTdを所定量Δdt(例えば、1°)だけ遅角させる(STEP306)。すなわち、エンジン制御装置73は、遅角制御中において、遅角限界値に達した場合、遅角制御を停止する。
このエンジン制御装置73による遅角制御により、目標圧力Pa0と測定圧量Paの差分に基づき空気量に不足があるものと推定される場合に、限界点火時期DTlimに至るまで段階的に点火時期DTdを遅角させることができる。従って、出力の変動に基づくノッキングの発生率を低下させることができるように点火時期DTdを遅角できる一方で、その遅角範囲を最適に制限できるため、点火時期の遅角に基づく熱効率(エンジン出力効率)の低下を最低限に抑制できる。
エンジン制御装置73は、進角制御に移行すると、まず、設定した点火時期DTdが目標点火時期DTmであるか否かを確認する(STEP307)。そして、点火時期DTdが目標点火時期DTmに至っていない場合に(STEP305でNo)、点火時期DTdを所定量Δdtだけ進角させる(STEP308)。すなわち、エンジン制御装置73は、進角制御中において、点火時期DTdが通常運転時のものとなった場合、進角制御を停止する。
このエンジン制御装置73による進角制御により、目標圧力Pa0と測定圧量Paの差分に基づき空気量が充足しているものと推定される場合に、通常運転時の目標点火時期DTmに至るまで段階的に点火時期DTdを進角させることができる。従って、出力が安定したものとして点火時期DTdを進角させてその熱効率を向上させると同時に、点火時期DTdを徐々に変化させていることから、出力が再変動した場合においても、ノッキングの発生率を抑制できる。
なお、本実施形態において、STEP304における、空気量の不足状態を予測されるパラメータを、吸気マニホールド圧力の目標値Pa0(目標圧力)と吸気マニホールド圧力の実測値Pa(測定圧力)との差分(Pa0−Pa)としたが、これに限られるものではない。即ち、遅角設定マップM5における、空気量の不足状態を予測されるパラメータを、上述の第1変形例と同様、吸気マニホールド流量の目標値Fa0(目標流量)と吸気マニホールド流量の実測値Fa(測定流量)との差分(Fa0−Fa)としても構わないし、上述の第2変形例と同様、エンジン負荷Acの変化量(出力変化量)ΔAcとしても構わない。
その他、各部の構成は図示の実施形態に限定されるものではなく、本願発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更が可能である。また、本実施形態のエンジン装置は、船体内の電気系統に電力を供給するための発電装置や陸上の発電施設における駆動源として構成するなど、上述の推進兼発電機構以外の構成においても適用可能である。更に、本願発明のエンジン装置として、デュアルフューエルエンジンを例に挙げて説明したが、気体燃料を燃焼させるガスエンジンにおいて、ガスモードにおける上述の各制御動作を適用できる。また、着火方式をマイクロパイロット噴射方式によるものとしたが、副室で火花点火させる構成としても構わない。