JP6403934B1 - 酸素還元触媒、電極、膜電極接合体および燃料電池 - Google Patents

酸素還元触媒、電極、膜電極接合体および燃料電池 Download PDF

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Abstract

燃料電池動作環境下において電極電位の高い酸素還元触媒、該酸素還元触媒を含む電極、カソードが前記電極である膜電極接合体および該膜電極接合体を備える燃料電池を提供する。
元素としてコバルトと硫黄と酸素とを含み、粉末X線回折測定においてCoS2の立方晶構造を有し、X線光電子分光分析のS2pのスペクトルにおけるS−Co/S−Oピーク面積比が6〜15である酸素還元触媒を用いる。

Description

本発明は、酸素還元触媒、該酸素還元触媒を含む触媒層を有する電極、該電極を有する膜電極接合体および燃料電池に関する。
固体高分子型燃料電池(PEFC)は、固体高分子電解質をアノードとカソードとで挟んで構成され、アノードに燃料を、カソードに酸素または空気をそれぞれ供給し、カソードにおいて酸素が還元されることで電気を取り出す形式を有する燃料電池である。燃料として水素ガスまたはメタノールなどが主として用いられる。従来、PEFCの反応速度を高め、PEFCのエネルギー変換効率を高めるために、燃料電池のカソード表面やアノード表面には、触媒を含む層が設けられている。
この触媒としては、一般的に貴金属が用いられており、貴金属の中でも活性が高い白金が主として用いられる。PEFCの用途拡大に向けては、触媒の低コスト化、とりわけカソードに用いられる酸素還元触媒を非白金化して安価な酸素還元触媒を得る試みがなされている。
一方、PEFCのカソードは強酸性かつ酸化性雰囲気下におかれ、さらに電位が高いことから、PEFCの作動環境下において安定な材料は非常に限られる。かかる環境においては、貴金属の中で特に安定な白金であっても、長期的な使用により酸化や溶解を起こし、活性が低下してしまうことが知られている。このことから、PEFCの発電性能を維持する点でも、カソードに多量の貴金属を使用する必要があり、コスト面・資源面の双方において大きな課題となっている。
前記問題を解決するため、具体的には、PEFCの用途拡大、とりわけ低コスト化等の点から、触媒活性が高く、なおかつPEFCの作動環境下において高い耐久性を有する非白金系の酸素還元触媒が求められていた。
ところで、金属硫化物は、バンドギャップが小さく金属並みの導電性を示すことから、光触媒や酸素還元反応に関わる電極触媒として用いられている。
例えば、特許文献1では、Mo−Ru−Sの3元系カルコゲナイド触媒中の各元素間の配位数比((遷移金属元素−硫黄配位数)/(遷移金属元素−硫黄−酸素配位数))が触媒の酸素還元特性に関係することを報告している。
非特許文献1では、Co/S組成比が異なる硫化コバルトの酸素還元触媒、硫化コバルトに遷移金属をドープしたときの酸素還元触媒、及びその合成法について報告している。
非特許文献2では、Co/S組成比が異なる硫化コバルトの酸素還元触媒、及びその合成方法について報告している。
しかしながら、特許文献1では、貴金属であるRuを触媒に使用しており、コストの面で好ましくない。また、各元素間の配位数比は触媒全体でのバルク分析結果で、酸素還元反応が起こる触媒表面の情報ではない。また、非特許文献1に記載のCo34は、そもそもCoS2よりも酸素還元触媒能が低い。非特許文献2では、硫化コバルトのCo/S組成比によって、酸素還元活性挙動が異なることを示しているが、酸素還元反応が起こる触媒表面組成に関する活性挙動について示されていない。また、CoS2の立方晶構造を有する硫化コバルトの記載はなく、酸素還元触媒能は十分ではなく、より高性能な触媒の開発が望まれていた。
特開2009−43618号公報
Electrochimica Acta 1975,20,111−117 Cryst.Eng.Comm.,2013,15,5087−5092
本発明は、前記問題を解決するためになされたものであり、従来の白金触媒と比較してきわめて安価であり、かつ従来のCoS2の立方晶構造を有する酸素還元触媒に比べ、燃料電池動作環境下において電極電位の高いCoS2の立方晶構造を有する酸素還元触媒を提供する。
本発明者は、前記課題を解決すべく鋭意検討した結果、下記構成例によれば、前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。本発明の構成例は以下の通りである。
本発明は、以下の[1]〜[4]に関する。
[1]
元素としてコバルトと硫黄と酸素とを含み、粉末X線回折測定においてCoS2の立方晶構造を有し、X線光電子分光分析のS2pのスペクトルにおけるS−Co/S−Oピーク面積比が6〜15である酸素還元触媒。
[2]
前項[1]に記載の酸素還元触媒を含む触媒層を有する電極。
[3]
カソードとアノードとの間に高分子電解質膜を配置した膜電極接合体において、前記カソードが前項[2]に記載の電極である膜電極接合体。
[4]
前項[3]に記載の膜電極接合体を備えた燃料電池。
本発明によれば、従来のCoS2の立方晶構造を有する酸素還元触媒に比べ、電極電位の高いCoS2の立方晶構造を有する酸素還元触媒を得ることができる。
実施例1で得た酸素還元触媒のX線回折(XRD)スペクトルである。●印は、CoS2の立方晶構造に帰属されるピークを示す。 実施例1で得た酸素還元触媒のS2pのX線光電子分光(XPS)スペクトルである。得られたスペクトルSと、符号1〜8で示すピーク分離した第1〜第8ピークを併せて示している。分離したピークを見やすくするため縦軸は対数表示とし、ピーク2,4,6および8を点線で示している。 実施例および比較例で求めたS−Co/S−Oピーク面積比と電極電位の相関を示すグラフである。グラフには、データ点と2次の多項式近似曲線を併せて示す。
発明を実施するため形態
(酸素還元触媒)
本発明の酸素還元触媒は、コバルトと硫黄と酸素とを含み、粉末X線回折測定においてCoS2の立方晶構造を有する酸素還元触媒であり、XPS分析におけるS−Co/S−Oピーク面積比が6〜15である。
(元素組成)
本発明の酸素還元触媒は構成元素として、コバルトと硫黄と酸素とを含む。コバルト硫化物を構成しない未反応の硫黄が残存すると、酸素還元触媒の耐久性を低くする可能性が有るが、酸素還元触媒の耐久性を劣下させない程度に未反応の硫黄を含んでいてもよい。
本発明の酸素還元触媒が含む硫黄のモル比は、コバルトに対して1:1.80〜1:2.20であり、好ましくは1:1.85〜1:2.15であり、より好ましくは1:1.90〜1:2.10である。以上の構成元素のモル比は、通常の元素分析方法により確認することができる。酸素還元触媒が含む硫黄の量は、例えば炭素・硫黄分析装置EMIA−920V(堀場製作所製)を用いて得ることができる。酸素還元触媒が含むコバルトの量は、試料を硫酸、硝酸およびフッ酸等を適宜用いて完全に加熱分解し、定容した溶液を作製し、例えば元素分析装置VISTA―PRO(SII社製)を用いて測定して得ることができる。酸素還元触媒が含む酸素の量は、例えば酸素・窒素分析装置(LECO社製TC600)を用いて酸素元素量を赤外吸収法により求めることができる。
(結晶構造)
本発明の酸素還元触媒は、粉末X線回折(XRD)測定によりCoS2の立方晶構造を有することが確認できる。触媒特性を減じない範囲において他の結晶構造を含んでいても構わないが、粉末X線回折測定において、主としてCoS2の立方晶の結晶構造に帰属されるピークが確認される。
粉末X線回折測定において、図1のX線回折スペクトルにおいて●印で示すように、リファレンスコード01−070−2865の結晶情報にある2θ=32.4°、36.3°、39.9°、46.4°および55.1°に相当する回折ピークが観測されたとき、触媒がCoS2の立方晶の結晶構造を有することが確認される。なお、XRDスペクトルにはCo由来の蛍光X線がバックグラウンドに大きな強度を示すが、結晶構造の同定には影響しない。
本発明の酸素還元触媒は、CoS2の立方晶構造の結晶含有率が好ましくは80%以上である。CoS2の立方晶の結晶含有率は、より好ましくは90%であり、さらに好ましくは100%である。CoS2の立方晶の結晶であると耐酸性が高いと考えられ、酸素還元触媒の耐久性が高くなるので、CoS2の立方晶構造の結晶含有率は高い方が好ましい。本願明細書において、CoS2の立方晶の結晶含有率(以下、「立方晶CoS2含有率」ともいう)とは、X線回折(XRD)測定において確認される結晶の全量に対するCoS2の立方晶の結晶の含有量の百分率をいう。この立方晶CoS2含有率は、以下のとおり、XRDスペクトルの回折ピーク強度から求めた値である。
酸素還元触媒のXRDスペクトルにおいて確認されるCoS2の立方晶構造の結晶を含むすべての結晶について、帰属されるピークのうち最も強い回折強度のピーク強度を結晶ごとにそれぞれ求める。そして、CoS2の立方晶に帰属されるピークのうち最も強いピークの回折強度を分子とし、CoS2の立方晶の結晶を含むすべての結晶系についてそれぞれ最も強いピークの回折強度の和を分母として比をとって100倍した強度比率(%)を立方晶CoS2含有率とする。
X線回折測定装置としては、例えばスペクトリス株式会社製パナリティカルMPDを用いることができる。測定条件としては、例えば、X線出力(Cu−Kα):45kV、40mA、走査軸 :θ/2θ、測定範囲(2θ):10° 〜90° 、測定モード:FT、読込幅 :0.02°、サンプリング時間:0.70秒、DS、SS、RS:0.5°、0.5°、0.15mm、ゴニオメーター半径:185mmを挙げることができる。
(XPS測定)
後述する実施例の方法で行うことができる。
(XPSピークの同定)
本発明の酸素還元触媒は、XPS分析のS2pのスペクトルにおけるS−Co/S−Oピーク面積比が6〜15である。このピーク面積比は、159〜173eVの結合エネルギー範囲のS2pのXPSスペクトルを測定し、XPSスペクトルのピーク分離を行い、ピーク面積の比を算出して求める。前述の結合エネルギー範囲には、複数の結合性分に由来するピークが観測される。装置付帯のアルバックファイ社製XPSハンドブック(1995年発行、p55)によると、160.5〜162.5eVがS−金属元素結合、162.0〜164.0eVがS−C結合、165.5〜168.5eVがS−O結合にそれぞれ由来するとされている。原材料としてチオ尿素を用いた本願実施例の合成法において、原材料が残存した場合、162.0〜164.0eVにS−C結合としてピークが観測される可能性は有る。しかしながら、原材料として有機化合物ではなく金属カルボニルを用いた熱分解法で作製したCoS2においても同様に162.0〜164.0eVにピークが観測されることを別に確認しており、本願においては、162.0〜164.0eVに観測されるピークはS−Co結合に由来するものと判断した。したがって、160.5〜164.0eVの範囲にみられるピークは、S−Co結合に由来するものとする。
(XPSピーク面積比の算出)
ピーク分離処理は、後述する実施例の手順に記すとおりX線光電子分光分析装置付属の解析ソフトを用いて行うことができる。S2pのXPSスペクトルの159〜173eVの結合エネルギー範囲には、S2pの1/2と3/2に由来して1つの結合成分につき2つのピークが観測される。再現性良くピーク分離できる条件であれば、ピーク分離条件は特に限定されない。ピーク分離されたピークは、前述した結合エネルギー範囲に従ってS−Co結合由来のピークとS−O結合由来のピークとに選別し、それぞれピーク面積の和をとり、S−Co/S−Oのピーク面積比を算出する。
S−Co/S−Oのピーク面積比は6〜15である。この範囲より低い場合では酸素還元触媒表面のSが硫酸構造となっているため、酸素還元される酸素分子が吸着しにくく、触媒性能が低い傾向にある。またこの範囲より高い場合では酸素還元触媒表面のSが燃料電池動作環境の強酸性下では酸化されやすく、触媒としての耐久性が低い傾向にある。S−Co/S−Oのピーク面積比は、好ましくは7〜14であり、より好ましくは8〜13.5である。これらの範囲内にあると、電極電位が高く好ましい。酸素還元触媒表面が完全なCoS2ではなく、一部がS−O結合を有する欠陥となっていると酸素が吸着しやすく、触媒能が高いと考えられる。
(酸素還元触媒の製造方法)
本発明の酸素還元触媒は、硫黄源およびコバルト化合物を含む原材料を用い、これらの原材料を酸素を含む雰囲気中で反応させて合成することができる。例えば、後述する、前駆体溶液作製工程と、続けて行うソルボサーマル処理工程によって製造することができる。
(前駆体溶液作製工程)
前駆体溶液作製工程では、コバルト化合物と硫黄源を溶媒に溶解させることで前駆体溶液を得る。
前記コバルト化合物は、溶媒に溶解するものであれば良く、コバルトのリン酸塩、硫酸塩、硝酸塩、有機酸塩、ハロゲン化物(あるいはハロゲン化物の中途加水分解物)などが挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
前記硫黄源は、溶媒に溶解するものであれば良く、チオ尿素、硫化ナトリウム、硫化カリウムなどが挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
前記溶媒は、前述のコバルト化合物と硫黄源を溶解させることができれば良く、エタノール、エチレングリコール、水などが挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
仕込時の原材料の硫黄/コバルトのモル比は、7〜12の範囲であることが好ましい。この範囲であると、高い収率でCoS2を得ることができるとともに、未反応の硫黄を少なく抑えることかでき好ましい。CoS2の合成に用いられなかった硫黄の大部分は、次に記すソルボサーマル工程の後に、反応に用いられずチオ尿素のまま除去されるか硫化水素ガスとなって系外へ除去されると考えられる。
(ソルボサーマル処理工程)
ソルボサーマル処理工程では、前記前駆体溶液を空気などの酸素ガスを含有する雰囲気でオートクレーブ等の加圧可能な容器に投入し、昇温して常圧以上の圧力下で反応させることでCoS2の立方晶構造を有する酸素還元触媒を得る。加圧可能な容器としては、例えば三愛科学株式会社製の高圧用反応分解容器セットを用いることができる。この高圧用反応分解容器セットはPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)製の内筒を有し、この内筒を容器として前述の前駆体溶液を調製し、そのまま外筒の高圧用反応分解容器(ステンレス304製)に挿入することができる。この高圧用反応分解容器セットを用いる場合、加熱は、高圧用反応分解容器を温度調節機能付きのホットスターラー上に置き、保温カバーで高圧用反応分解容器を被覆して行うことができる。例えば、三愛科学株式会社製のホットスターラー(型番:HM−19G−U)およびアルミ製外筒(型番:RDV-TMS-100)を用いることができる。前記反応温度は、反応性を高める観点から190〜220℃が好ましく、より好ましくは200〜210℃である。反応時間についても同じ観点から8〜20時間が好ましく、より好ましくは8〜16時間である。ソルボサーマル処理工程において前駆体溶液にかかる圧力は、前記反応温度によって、または前述の加圧可能な容器の容量と投入する前駆体溶液の量によって調整することもできる。ソルボサーマル処理後、前述の溶媒で洗浄し、乾燥して、得られた酸素還元触媒粉を回収する。
本触媒の酸素還元触媒が含有するS−O結合の量は、複数の方法を用いて制御することができる。酸素ガスを含有する雰囲気、例えば大気中でオートクレーブ等に投入することにより、前記前駆体溶液のソルボサーマル処理においてS−O結合が酸素還元触媒に形成される。投入時の雰囲気ガスを、大気などの酸素含有ガスと窒素ガス等の不活性ガスとの混合ガスとし、混合ガス中の酸素ガス含有量を少なくすることにより、形成されるS−O結合を少なくすることができる。また、オートクレーブ等投入時の雰囲気ガスの酸素ガス含有量が同じ場合には、反応時間を長くするとS−O結合を多くすることができる。さらに、前駆体溶液における硫黄源の仕込量を少なくすることによってもS−O結合を多くすることができる。
本触媒は、燃料電池動作環境下において、優れた酸素還元能、特に高い電極電位を示す。このため、本触媒は、燃料電池、特にPEFCのカソードに好適に用いることができる。本触媒は、従来の白金触媒と比較してきわめて安価である。
(電極)
本発明に係る電極は、前記本触媒を含む触媒層を有する。このため、前記電極は、白金を触媒として用いた場合と比較してきわめて安価である。電極は、カソードであっても、アノードであってもよいが、酸素還元能が高い点から、カソードであることが好ましい。
(触媒層)
前記触媒層は本触媒を含めば特に制限されず、本触媒を含む以外は従来公知の触媒層と同様であってもよい。触媒層は、本触媒と高分子電解質とを含むことが好ましく、電気抵抗をより低減させるために、さらに電子伝導性粒子を含んでいてもよい。触媒層に含まれる本触媒は、2種以上であってもよい。
前記高分子電解質としては特に制限されないが、例えば、従来の燃料電池に用いられる触媒層において一般的に用いられているものを用いることができる。具体的には、スルホ基を有するパーフルオロカーボン重合体(例えば、ナフィオン(NAFION(登録商標))、スルホ基を有する炭化水素系高分子化合物、リン酸などの無機酸をドープさせた高分子化合物、一部がプロトン伝導性の官能基で置換された有機/無機ハイブリッドポリマー、高分子マトリックスにリン酸溶液や硫酸溶液を含浸させたプロトン伝導体などが挙げられる。これらの中でも、ナフィオン(NAFION(登録商標))が好ましい。触媒層に含まれる高分子電解質は、2種以上であってもよい。
前記電子伝導性粒子の材質としては、炭素、導電性高分子、導電性セラミックス、金属、酸化タングステンや酸化イリジウムなどの導電性無機酸化物等が挙げられる。これらの材質のうち、2種以上の材質を含む粒子であってもよい。特に、炭素からなる電子伝導性粒子は比表面積が大きい傾向にあり、また、安価に小粒径の粒子を入手しやすく、耐薬品性に優れるため好ましい。
触媒層に含まれる電子伝導性粒子は、2種以上であってもよい。1種である場合、炭素粒子が好ましく、2種以上である場合、炭素粒子とその他の電子伝導性粒子との混合物が好ましい。前記炭素としては、カーボンブラック、グラファイト、活性炭、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンナノホーン、多孔体カーボン、グラフェンなどが挙げられる。
炭素からなる電子伝導性粒子の粒径は、小さすぎると電子伝導パスが形成されにくくなる傾向にあり、また大きすぎると触媒層のガス拡散性の低下や触媒の利用率の低下が起こる傾向にあるため、好ましくは10〜1000nmであり、より好ましくは10〜100nmである。なお、この一次粒子径は、透過型電子顕微鏡観察により、無作為に選んだ50個の電子伝導性粒子の直径を測定して得られたそれらの測定値の算術平均値である。
電子伝導性粒子として炭素粒子を用いる場合、触媒層中の前記本触媒と炭素粒子との質量比(本触媒:炭素粒子)は、好ましくは1:1〜100:1である。
前記触媒層の形成方法としては特に制限されないが、例えば、前記触媒層の構成材料を溶媒に分散させた懸濁液を、後述する電解質膜またはガス拡散層等に塗布する方法が挙げられる。塗布する方法としては、ディッピング法、スクリーン印刷法、ロールコーティング法、スプレー法、バーコーター塗布法などが挙げられる。また、前記触媒層の構成材料を溶媒に分散させた懸濁液を用い、塗布法またはろ過法により支持体上に触媒層を形成した後、転写法等で電解質膜やガス拡散層等の上に触媒層を形成する方法でもよい。触媒層の厚さ等の形状については、特に制限されず、従来公知の触媒層と同様の形状であればよい。
(膜電極接合体)
本発明に係る膜電極接合体は、カソード、高分子電解質膜およびアノードをこの順で含み、カソードおよび/またはアノード、好ましくはカソードが前記電極である。また、前記膜電極接合体は、カソードの高分子電解質膜側とは反対側、およびアノードの高分子電解質膜側とは反対側に、それぞれガス拡散層を有していてもよい。
前記高分子電解質膜としては、例えば、パーフルオロスルホン酸系高分子を含む高分子電解質膜または炭化水素系高分子を含む高分子電解質膜などが一般的に用いられるが、高分子多孔質膜に液体電解質を含浸させた膜または多孔質体に高分子電解質を充填させた膜などを用いてもよい。
前記ガス拡散層としては特に制限されず、従来公知の層を用いることができるが、例えば、多孔質であり、ガスの拡散を補助する層が挙げられる。ガス拡散層としては、電子伝導性を有し、ガス拡散性が高く、耐食性の高い層であることが好ましく、カーボンペーパー、カーボンクロスなどの炭素系多孔質材料などが用いられる。
前記膜電極接合体は、例えば、カソード、高分子電解質膜およびアノードをこの順で配置し、また、ガス拡散層を用いる場合には、ガス拡散層、カソード、高分子電解質膜、アノードおよびガス拡散層をこの順で配置し、プレスすることで得ることができる。なお、プレスする際には、熱をかけてもよい。膜電極接合体には、高分子電解質膜および/またはガス拡散層に前記触媒層を形成した積層物を用いてもよい。このような積層物を用いる場合には、該積層物の触媒層側が高分子電解質膜側となるように配置してプレスすればよい。
(燃料電池)
本発明に係る燃料電池は、前記膜電極接合体を備える。前記燃料電池としては特に制限されず、溶融炭酸塩型燃料電池(MCFC)、リン酸型燃料電池(PAFC)、固体酸化物型燃料電池(SOFC)、PEFC等が挙げられる。中でも、本発明の効果がより発揮される等の点から、前記燃料電池としては、燃料として水素やメタノール等を用いるPEFCが好ましい。前記本触媒は、PEFCの作動環境下において高い電極電位を有する。
以下に本発明の実施例を示し、本発明をより具体的に説明する。なお、これらは説明のための例示であって、本発明はこれらによって何ら制限されない。また、実施例および比較例における電気化学測定、粉末X線回折測定およびX線光電子分光の測定とピーク分離処理は、以下の方法および手順により行った。
(1)電気化学測定
(触媒電極作製)
酸素還元触媒15mg、2−プロパノール1.0mL、イオン交換水1.0mL及びナフィオン(NAFION(登録商標)、5%ナフィオン水溶液、和光純薬工業社製)62μLを含む溶液を超音波で攪拌、懸濁して混合した。この混合物20μLをグラッシーカーボン電極(東海カーボン社製、直径:5.2mm)に塗布し、70℃で1時間乾燥して触媒活性測定用の触媒電極を作製した。
(酸素還元触媒能評価)
酸素還元触媒の電気化学測定は、次のように行った。作製した触媒電極を、酸素ガス雰囲気及び窒素ガス雰囲気のそれぞれにおいて、0.5mol/dm3の硫酸水溶液中、30℃、5mV/秒の電位走査速度で分極し、電流―電位曲線を測定した。また、酸素ガス雰囲気において分極していない状態での電位として自然電位(開回路電位)を得た。その際、同濃度の硫酸水溶液中での可逆水素電極を参照電極とした。電気化学測定の結果より、酸素ガス雰囲気での還元電流から窒素ガス雰囲気での還元電流を引いて得られた電流−電位曲線から10μAにおける電極電位(以下、電極電位とも記す。)を得て、この電極電位により酸素還元触媒の酸素還元触媒能を評価した。
(2)粉末X線回折測定
粉末X線回折測定装置パナリティカルMPD(スペクトリス株式会社製)を用いて、酸素還元触媒の粉末X線回折測定を行った。測定条件としては、Cu−Kα線(出力45kV、40mA)を用いて2θ=10〜90°の範囲で行い、得られたX線回折スペクトルにおいて酸素還元触媒の結晶構造を同定した。
(3)X線光電子分光測定
(S2pスペクトル)
X線光電子分光分析装置QuanteraII(アルバックファイ社製)を用いて、酸素還元触媒のX線光電子分光分析を行った。試料固定は金属In埋め込みで行った。測定条件は、X線:Alモノクロ、25W・15kV、分析面積:400×400μm2、電子・イオン中和銃:ON、光電子取出し角:45°で行い、結合エネルギー補正はC1sスペクトルの汚染炭化水素由来のピークを284.6eVとして行った。
(ピーク分離処理)
ピーク分離処理は、X線光電子分光測定装置付属の解析ソフト(MULTI PACK(アルバックファイ社製))を用いて行った。バックグラウンド処理はShirley法で行い、ピークの分離には非線形最小二乗法によるカーブフィッティングを用いた。スペクトルの構造を計8ピークに分割してフィッティングすることで再現性の良いフィッティングとなった。S2p3/2のピークについて結合エネルギーの小さい方から順に、第1ピークの位置は161.6±0.6eV、半値幅は1.1±0.1とした。第3ピークの位置は163.1±0.5eV、半値幅は1.2±0.1とした。第5ピークの位置は166.3±0.7eV、半値幅は1.4±0.1とした。第7ピークの位置は168.2±0.4eV、半値幅は1.8±0.2とした。S2p1/2のピークに帰属される第2、第4、第6および第8のピークについては、解析ソフト内で自動的に設定された。第1〜4のピークをS−Co由来のピークとし、第5〜8のピークをS−O由来ピークとした。ピーク分離処理の結果示された第1〜4ピークの面積の和と第5〜8ピークの面積の和を用いて、S−Co/S−Oのピーク面積比を算出した。
実施例1:
(触媒作製工程)
容器として高圧用反応分解容器100mlセット(三愛科学株式会社製、型番HU−100)の容量100mlのPTFE内筒を用いて、硝酸コバルト六水和物(和光純薬工業社製)0.291gおよびチオ尿素(和光純薬工業社製)0.913gに超脱水エタノール(和光純薬社工業社製)40mLを添加し、撹拌して前駆体溶液を作製した。この前駆体溶液をPTFE製内筒に入った状態で、大気雰囲気下、前述の高圧用反応分解容器100mlセットの外筒の高圧用反応分解容器に挿入密閉し、三愛科学株式会社製のホットスターラー(型番:HM−19G−U)およびアルミ製外筒(型番:RDV-TMS-100)を用いて200℃で8時間処理することで、密封系において加圧熱処理した。処理後、エタノール(和光純薬工業社製)でろ過洗浄を行い、真空乾燥機にて6時間乾燥させ、酸素還元触媒(1)を得た。
得られた酸素還元触媒(1)を用いて触媒電極を作製し、電極電位を求めた。この電極電位を表1に示す。
酸素還元触媒(1)の粉末X線回折測定を行い、酸素還元触媒(1)はCoS2の立方晶構造を有することが確認された。得られたX線回折スペクトルを図1に示す。●印で示したピークは、前述したとおりCoS2の立方晶の構造に帰属される。●印をつけていないピークもすべて同様にCoS2の立方晶の構造に帰属され、X線回折スペクトルには他の結晶構造に帰属される回折ピークはみられなかった。
酸素還元触媒(1)のX線光電子分光測定を行い、得られたS2pのXPSスペクトルのピーク分離処理を行い、S−Co/S−Oピーク面積比を算出した。この値を表1に併せて示す。また、S2pのXPSスペクトルと分離したピークを併せて図2に示す。第1ピーク〜第8ピークはそれぞれ符号1〜8で示すピークである。
実施例2:
チオ尿素を0.685gに変更した以外は、実施例1と同様にして酸素還元触媒(2)を作製した。実施例1と同様に、電気化学測定、粉末X線回折測定、X線光電子分光測定を行った。酸素還元触媒(2)はCoS2の立方晶構造を有することが確認されるとともに、他の結晶構造に帰属される回折ピークはみられなかった。電極電位並びにS2pのXPSスペクトルから求めたS−Co/S−Oピーク面積比を表1に併せて示す。
実施例3:
200℃での処理時間を16時間に変更した以外は、実施例2と同様にして酸素還元触媒(3)を作製した。実施例1と同様に、電気化学測定、粉末X線回折測定、X線光電子分光測定を行った。酸素還元触媒(3)はCoS2の立方晶構造を有することが確認されるとともに、X線回折スペクトルには他の結晶構造に帰属される回折ピークはみられなかった。電極電位並びにS2pのXPSスペクトルから求めたS−Co/S−Oピーク面積比を表1に併せて示す。
比較例1:
チオ尿素を1.37gに変更した以外は、実施例1と同様にして酸素還元触媒(4)を作製した。実施例1と同様に、電気化学測定、粉末X線回折測定、X線光電子分光測定を行った。酸素還元触媒(4)はCoS2の立方晶構造を有することが確認されるとともに、X線回折スペクトルには他の結晶構造に帰属される回折ピークはみられなかった。電極電位並びにS2pのXPSスペクトルから求めたS−Co/S−Oピーク面積比を表1に併せて示す。
比較例2:
オートクレーブでの処理条件を180℃で72時間に変更した以外は、実施例2と同様にして酸素還元触媒(5)を作製した。実施例1と同様に、電気化学測定、粉末X線回折測定、X線光電子分光測定を行った。酸素還元触媒(5)はCoS2の立方晶構造を有することが確認されるとともに、X線回折スペクトルには他の結晶構造に帰属される回折ピークはみられなかった。電極電位並びにS2pのXPSスペクトルから求めたS−Co/S−Oピーク面積比を表1に併せて示す。
表1より、元素としてコバルトと硫黄と酸素とを含み、粉末X線回折測定においてCoS2の立方晶構造を有し、X線光電子分光分析のS2pのスペクトルにおけるS−Co/S−Oピーク面積比が所定の範囲である酸素還元触媒は、電極電位が高いことが分かる。
また、図3に示すように、実施例および比較例で求められたS−Co/S−Oピーク面積比と電極電位の間には、2次の多項式近似曲線で示されるように相関がみられる。

Claims (4)

  1. 元素としてコバルトと硫黄と酸素とを含み、粉末X線回折測定においてCoS2の立方晶構造を有し、X線光電子分光分析のS2pのスペクトルにおけるS−Co/S−Oピーク面積比が6〜15である酸素還元触媒。
  2. 請求項1に記載の酸素還元触媒を含む触媒層を有する電極。
  3. カソードとアノードとの間に高分子電解質膜を配置した膜電極接合体において、前記カソードが請求項2に記載の電極である膜電極接合体。
  4. 請求項3に記載の膜電極接合体を備えた燃料電池。
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