JP6403839B2 - コプリナス・シネレウス(Coprinus cinereus)由来エンドグリコシダーゼ - Google Patents

コプリナス・シネレウス(Coprinus cinereus)由来エンドグリコシダーゼ Download PDF

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本発明は、糖タンパク質が有するN-結合型糖鎖を切断し遊離させ、かつ糖鎖を転移させる活性を有するエンドグリコシダーゼ、及び該エンドグリコシダーゼの改変体であって糖タンパク質が有するN-結合型糖鎖を切断し遊離させる活性を有さず、糖鎖を転移させる活性のみを有する酵素に関する。
エンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼ(エンドグリコシダーゼ)は、糖タンパク質の糖鎖の切断や転移に利用されている。
エンドグリコシダーゼとして、Endo A(非特許文献1)、Endo F(非特許文献2)、Endo H (非特許文献3)、Endo M(非特許文献4)等が挙げられる。これらの酵素は、特定の構造を有する糖鎖にのみ作用するか、あるいは特定の構造を有する糖鎖に対する作用が強かった。また、複合型糖鎖に対する反応性はそれほど大きくなかった。
また、これらの酵素をリコンビナント技術を用いて生産する場合、大腸菌(E.coli)を用いた場合に、生産できないという問題があった。
Takegawa K. et al. Appl. Environ. Microbiol. 55, 3107-3112 (1989) Takegawa K. et al., Eur. J. Biochem, 202, 175-180 (1991) Terentino A.L. et al. J. Biol. Chem. 274, 811 (1974) Kadowaki K. et al., Agric, Biol. Chem. 1988, 54, 97
本発明は、基質特異性の広い、糖タンパク質が有するN-結合型糖鎖を切断し遊離させ、かつ糖鎖を転移させる活性を有するエンドグリコシダーゼ、及び糖タンパク質が有するN-結合型糖鎖を切断し遊離させる活性を有さず、糖鎖を転移させる活性のみを有する酵素の提供を目的とする。
本発明者らは、従来のエンドグリコシダーゼ活性の糖鎖に対する基質特異性が必ずしも広くないことに鑑み、より基質特異性の広いエンドグリコシダーゼを得ようと鋭意検討を行った。その結果、コプリナス・シネレウス(Coprinus cinereus)由来のエンドグリコシダーゼが、高マンノース型糖鎖のみならず、複合型糖鎖等に対して広く切断活性を有するという広い基質特異性を有することを見出した。この酵素をEndo-CCと名付けた。
本発明者はさらに、糖鎖の切断活性を有さず、転移活性のみを有する酵素(グライコシンターゼ)を得ようと、アミノ酸に変異を加え、活性を検討した。その結果、特定の1アミノ酸を置換することにより、糖鎖切断活性を有さず、転移活性のみを有する酵素を得られることを見出し、この酵素を改変型Endo-CCと名付けた。
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1] 以下の(a)又は(b)のコプリナス・シネレウス由来であり、糖タンパク質が有するN-結合型糖鎖(アスパラギン結合型糖鎖)を切断し遊離させ、かつ糖鎖を転移させる活性を有するエンドグリコシダーゼ:
(a) 配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるエンドグリコシダーゼ;
(b) 配列番号2で表されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつ糖タンパク質が有するN-結合型糖鎖を切断し遊離させ、かつ糖鎖を転移させる活性を有するエンドグリコシダーゼ。
[2] 以下の(a)又は(b)のコプリナス・シネレウス由来であり、糖タンパク質が有するN-結合型糖鎖を切断し遊離させ、かつ糖鎖を転移させる活性を有するエンドグリコシダーゼをコードするDNA:
(a) 配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるエンドグリコシダーゼ;
(b) 配列番号2で表されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつ糖タンパク質が有するN-結合型糖鎖を切断し遊離させ、かつ糖鎖を転移させる活性を有するエンドグリコシダーゼ。
[3] 以下の(c)又は(d)のコプリナス・シネレウス由来であり、糖タンパク質が有するN-結合型糖鎖を切断し遊離させ、かつ糖鎖を転移させる活性を有するエンドグリコシダーゼをコードするDNA:
(c) 配列番号1で表される塩基配列を含むDNA;
(d) 配列番号1で表される塩基配列を含むDNAと相補的な配列を含むDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、糖タンパク質が有するN-結合型糖鎖を切断し遊離させ、かつ糖鎖を転移させる活性を有するタンパク質をコードするDNA。
[4] 以下の(e)又は(f)のコプリナス・シネレウス由来であり、糖タンパク質が有するN-結合型糖鎖を切断し遊離させる活性を有さず、糖鎖を転移させる活性のみを有する酵素:(e) 配列番号4で表されるアミノ酸配列からなる酵素;
(f) 配列番号4で表されるアミノ酸配列において180番目のグルタミン以外の1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつ糖タンパク質が有するN-結合型糖鎖を切断し遊離させる活性を有さず、糖鎖を転移させる活性のみを有する酵素。
[5] 以下の(e)又は(f)のコプリナス・シネレウス由来であり、糖タンパク質が有するN-結合型糖鎖を切断し遊離させる活性を有さず、糖鎖を転移させる活性のみを有する酵素をコードするDNA:
(e) 配列番号4で表されるアミノ酸配列からなる酵素;
(f) 配列番号4で表されるアミノ酸配列において180番目のグルタミン以外の1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつ糖タンパク質が有するN-結合型糖鎖を切断し遊離させる活性を有さず、糖鎖を転移させる活性のみを有する酵素。
[6] 以下の(g)又は(h)のコプリナス・シネレウス由来であり、糖タンパク質が有するN-結合型糖鎖を切断し遊離させる活性を有さず、糖鎖を転移させる活性のみを有する酵素をコードするDNA:
(g) 配列番号3で表される塩基配列を含むDNA;
(h) 配列番号3で表される塩基配列を含むDNAと相補的な配列を含むDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、第538番目から540番目の塩基配列がCAAであり、糖タンパク質が有するN-結合型糖鎖を切断し遊離させる活性を有さず、糖鎖を転移させる活性のみを有する酵素をコードするDNA。
[7] [2]又は[3]のDNAを含む発現ベクターを大腸菌に導入し、大腸菌を培養することを含む、[1]のコプリナス・シネレウス由来であり、糖タンパク質が有するN-結合型糖鎖を切断し遊離させ、かつ糖鎖を転移させる活性を有するエンドグリコシダーゼを作製する方法。
[8] [5]又は[6]のDNAを含む発現ベクターを大腸菌に導入し、大腸菌を培養することを含む、[4]のコプリナス・シネレウス由来であり、糖タンパク質が有するN-結合型糖鎖を切断し遊離させる活性を有さず、糖鎖を転移させる活性のみを有する酵素を作製する方法。
[9] [1]のエンドグリコシダーゼを糖タンパク質と接触させ、糖鎖を切断し、遊離糖鎖を得ることを含む、遊離糖鎖を作製する方法。
[10] [4]の酵素をタンパク質及びオキサゾリン化糖鎖と接触させ、糖鎖をタンパク質に転移させることを含む、糖タンパク質の作製方法。
本発明のエンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼ(エンドグリコシダーゼ)Endo-CCは、糖タンパク質が有するN-結合型糖鎖の根元部分に存在するジアセチルキトビオース部分(GlcNAc-GlcNAc)を加水分解により切断し遊離させ、かつ糖鎖を転移させる活性を有する。本酵素は、高マンノース型糖鎖のみならず複合型糖鎖等に対しても広く切断活性と糖転移活性を有する。このため、種々の糖鎖を切断し、切断した糖鎖をGlcNAcやD-Glucoseなど単糖が付加したリコンビナントタンパク質(以下、「GlcNAc-タンパク質」という)等に転移させることができる。また、本発明の糖タンパク質が有するN-結合型糖鎖を切断し遊離させる活性を有さず、糖鎖を転移させる活性のみを有する酵素である改変型Endo-CCは、遊離の糖鎖をGlcNAc-タンパク質に転移させ、糖タンパク質を作製することができる。Endo-CCで切断した糖鎖を、改変型Endo-CCでGlcNAc-タンパク質に転移することができ、抗体医薬品等の治療用タンパク質医薬品に均一な糖鎖を付加させることができる。
各種糖鎖の構造を示す図である。 本発明のEndo-CCの基質特異性を示す図である(その1)。 本発明のEndo-CCの基質特異性を示す図である(その2)。 SGP(シアリルグリコペプチド)、及びSGPが加水分解されて生じるSG(シアリル化糖鎖)の構造を示す図である。 本発明のEndo-CCの糖転移活性を示す図である。 糖転移反応を示す図である。 改変型Endo-CCの転移活性の検出結果を示す図である。
以下、本発明を詳細に説明する。
1.糖タンパク質が有するN-結合型糖鎖の根元部分に存在するジアセチルキトビオース部分(GlcNAc-GlcNAc)を切断し遊離させ、かつ糖鎖を転移させる活性を有するエンドグリコシダーゼ
本発明は糖タンパク質が有するN-結合型糖鎖(アスパラギン結合型糖鎖)の根元部分に存在するジアセチルキトビオース部分(GlcNAc-GlcNAc)を加水分解により切断し遊離させ、かつ糖鎖を転移させる活性を有するエンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼ(エンドグリコシダーゼ)である。N-結合型糖鎖は、タンパク質のアミノ酸配列のAsn-任意のアミノ酸-Ser/Thrで表される糖鎖結合配列のアスパラギン残基に結合する。
本発明のエンドグリコシダーゼは、真正担子菌網ハラタケ目ヒトヨタケ科に属するコプリナス・シネレウス(Coprinus cinereus;ネナガヒトヨタケ)由来であり、コプリナス・シネレウスから単離することができる。
本発明のエンドグリコシダーゼをコードするDNAの塩基配列を配列番号1に示す。また、本発明の酵素のアミノ酸配列を配列番号2に示す。
本発明の糖タンパク質が有するN-結合型糖鎖を切断し遊離させ、かつ糖鎖を転移させる活性を有するエンドグリコシダーゼをEndo-CCと呼ぶ。
本発明の酵素は、そのアミノ酸配列からなるタンパク質がN-結合型糖鎖を切断し遊離させ、かつ糖鎖を転移させる活性を有する限り、当該アミノ酸配列において少なくとも1個、好ましくは1若しくは数個のアミノ酸に欠失、置換、付加等の変異が生じてもよい。
例えば、配列番号2で表わされるアミノ酸配列の少なくとも1個、好ましくは1又は数個(例えば1〜10個、さらに好ましくは1〜5個、特に好ましくは1若しくは2個)のアミノ酸が欠失してもよく、配列番号2で表わされるアミノ酸配列に少なくとも1個、好ましくは1又は数個(例えば1〜9個、さらに好ましくは1〜5個、特に好ましくは1若しくは2個)のアミノ酸が付加してもよく、あるいは、配列番号2で表わされるアミノ酸配列の少なくとも1個、好ましくは1又は数個(例えば1〜9個、さらに好ましくは1〜5個、特に好ましくは1若しくは2個)のアミノ酸が他のアミノ酸に置換してもよい。
このような配列番号2のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列として、配列番号2のアミノ酸配列と、BLAST(Basic Local Alignment Search Tool at the National Center for Biological Information(米国国立生物学情報センターの基本ローカルアラインメント検索ツール))等(例えば、デフォルトすなわち初期設定のパラメータ)を用いて計算したときに、少なくとも85%以上、好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、特に好ましくは97%以上の配列同一性を有しているものが挙げられる。
このような配列番号2のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有するタンパク質は配列番号2のアミノ酸配列を有するタンパク質と実質的に同一である。
また、配列番号1に表される塩基配列からなるDNAと相補的な配列からなるDNAと下記のストリンジェントな条件下でハイブリダイズすることができるDNAであってN-結合型糖鎖を切断し、糖鎖を遊離させ、かつ糖鎖を転移させる活性を有するタンパク質をコードするDNAも本発明のエンドグリコシダーゼをコードするDNAに含まれる。すなわち、DNAを固定したフィルターを用いて、0.7〜1.0MのNaCl存在下、68℃でハイブリダイゼーションを行った後、0.1〜2倍濃度のSSC溶液(1倍濃度のSSCとは150mM NaCl、15mM クエン酸ナトリウムからなる)を用い、68℃で洗浄することにより同定することができる条件をいう。あるいは、サザンブロッティング法によりニトロセルロース膜上にDNAを転写、固定後、ハイブリダイゼーション緩衝液〔50% フォルムアミド、4×SSC、50mM HEPES(pH7.0)、10×デンハルツ(Denhardt, s)溶液、100μg/mlサケ精子DNA〕中で42℃で一晩反応させることによりハイブリッドを形成することができるDNAである。
また、配列番号1に表される塩基配列からなるDNAとBLAST(Basic Local Alignment Search Tool at the National Center for Biological Information(米国国立生物学情報センターの基本ローカルアラインメント検索ツール))等(例えば、デフォルトすなわち初期設定のパラメータ)を用いて計算したときに、少なくとも85%以上、好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、特に好ましくは97%以上の配列同一性を有しているDNAであって、N-結合型糖鎖を切断し遊離させ、かつ糖鎖を転移させる活性を有するタンパク質をコードするDNAも本発明のエンドグリコシダーゼをコードするDNAに包含される。
さらに、上記DNAに対するRNA、又は該RNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズすることができるRNAであってN-結合型糖鎖を切断し遊離させ、かつ糖鎖を転移させる活性を有するタンパク質をコードするRNAも本発明に含まれる。
本発明の糖タンパク質が有するN-結合型糖鎖を切断し遊離させ、かつ糖鎖を転移させる活性を有するエンドグリコシダーゼが、切断し転移させ得る糖鎖として、ジアセチルキトビオース(GlcNAc-GlcNAc)にマンノース(Man)のオリゴマーが結合した構造を有する高マンノース型糖鎖、ジアセチルキトビオースにMan並びにGlcNAc、ガラクトース(Gal)、シアル酸(Neu5Ac)の少なくとも1つが結合した複合型糖鎖、ジアセチルキトビオースに高マンノース型と複合型が混成した糖鎖構造を有する混成型糖鎖がある。これらの糖鎖の構造を図1に示す。高マンノース型糖鎖として、例えば、それぞれ、3個、5個、6個、8個及び9個のマンノースが結合したMan3型、Man5型、Man6型、Man8型及びMan9型と呼ばれる糖鎖がある。また、複合型糖鎖として、例えば、図1に構造を示す、3本鎖型、4本鎖型、Asialo2本鎖型、Agalacto2本鎖型、Bisecting2本鎖型、Sialo2本鎖型と呼ばれる糖鎖がある。
本発明の糖タンパク質が有するN-結合型糖鎖を切断し遊離させ、かつ糖鎖を転移させる活性を有するエンドグリコシダーゼは、糖鎖の根元に存在するジアセチルキトビオース間で糖鎖を切断する。本発明の酵素は、高マンノース型糖鎖、混成型糖鎖、複合型糖鎖のいずれにも反応する。例えば、図1に示す糖鎖のうち、4本鎖型、Bisecting2本鎖型の糖鎖は切断しないが、複合型糖鎖を含む他の糖鎖、Man3型、Man5型、Man6型、Man8型、Man9型、Asialo2本鎖型、Sialo2本鎖型、Agalacto2本鎖型を切断する。3本鎖型糖鎖は、僅かに切断する。
従来知られているエンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼ活性を有するエンドグリコシダーゼ酵素として、Endo A(Takegawa K. et al. Appl. Environ. Microbiol. 55, 3107-3112 (1989))、Endo F(Takegawa K. et al., Eur. J. Biochem, 202, 175-180 (1991))、Endo H (Terentino A.L. et al. J. Biol. Chem. 274, 811 (1974)、Endo M(Kadowaki K. et al., Agric, Biol. Chem. 1988, 54, 97)等が挙げられる。これらの酵素は、特定の構造を有する糖鎖にのみ作用するか、あるいは特定の構造を有する糖鎖に対する作用が強い。本発明の酵素は、Man3型、Man5型、Man6型、Man8型、Man9型で表される高マンノース型糖鎖に広く、かつ強く作用し、さらに、Asialo2本鎖型、Sialo2本鎖型、Agalacto2本鎖型で表される複合型糖鎖にも反応し加水分解により切断する。図2に本発明のEndo-CCと上記のEnd-Mの基質特異性の差異を示す。図2の結果は、各種糖鎖を結合させたピリジルアミノ化糖鎖を用いて基質特異性を検討した結果である。図2に示すように、本発明のEndo-CCは、Man3型、Man5型、Man6型、Asialo2本鎖型、Sialo2本鎖型及びAgalacto2本鎖型に対する反応性(加水分解活性)がEndo-Mより大きい。特に、複合型糖鎖であるAsialo2本鎖型、Sialo2本鎖型及びAgalacto2本鎖型に対する反応性、特にAgalacto2本鎖型に対する反応性が大きいのが特徴である。このため、本発明のEnodo-CCは、複合型糖鎖を効果的に切断し、転移させることができる。また、Man3型、Man5型、Man6型及びMan8型に対する反応性の糖鎖間の差がEndo-Mでは3倍以上あるのに対し、本発明のEndo-CCでは、2倍以内である。すなわち、本発明のEndo-CCは広範な糖鎖に対して強い切断、転移作用を有する。また、Man8型(Man8-GlcNAc2)に対する反応性を100とした場合に、本発明のEndo-CCのMan3型、Man5型、Man6型に対する反応性は、80〜90以上150〜160以下であるのに対して、End-Mでは、10〜20以上70〜80以下である。また、Man8型に対する反応性を100とした場合に、本発明のEndo-CCのMan3型、Man5型、Man6型、Man9型に対する反応性は、40〜50以上150〜160以下であるのに対して、End-Mでは、10〜20以上70〜80以下である。また、Asialo2本鎖型、Sialo3本鎖型、Agalact2本鎖型に対する反応性もEndo-Mよりも高い。例えば、本発明のEndo-CCのAgalacto2本鎖型に対する反応性は、Man8型(Man8-GlcNAc2)に対する反応性を100とした場合に、10以上、好ましくは15以上、さらに好ましくは20以上であるのに対して、End-Mでは、5以下である。このことは、本発明のEndo-CCがEnd-Mよりも広い基質特異性を有しており、広く多種類の糖鎖に対して糖鎖切断及び糖鎖転移を行うことを示している。
2.糖タンパク質が有するN-結合型糖鎖を切断し遊離させる活性を有さず、糖鎖を転移させる活性のみを有する酵素
さらに、本発明は配列番号2に表されるアミノ酸配列の180番目のアスパラギン酸(N)をグルタミン(Q)に置換したアミノ酸配列を有し、糖タンパク質が有するN-結合型糖鎖を切断し遊離させる活性を有さず、糖鎖を転移させる活性のみを有する酵素を含む。
本発明の糖鎖を転移させる活性のみを有する酵素のアミノ酸配列を配列番号4に、該酵素をコードするDNAの塩基配列を配列番号3に示す。配列番号3に示す塩基配列は、配列番号1に示すEndo-CCをコードする塩基配列において、538番目から540番目のAACがCAAに変異している。
本発明のN-結合型糖鎖を切断し遊離させる活性を有さず、糖鎖を転移させる活性のみを有する酵素は、そのアミノ酸配列からなるタンパク質が糖鎖を転移させる活性を有する限り、当該アミノ酸配列の180番目のグルタミン(Q)を除くアミノ酸において少なくとも1個、好ましくは1若しくは数個のアミノ酸に欠失、置換、付加等の変異が生じてもよい。
例えば、配列番号4で表わされるアミノ酸配列の180番目のグルタミン(Q)を除くアミノ酸の少なくとも1個、好ましくは1又は数個(例えば1〜10個、さらに好ましくは1〜5個、特に好ましくは1若しくは2個)のアミノ酸が欠失してもよく、配列番号4で表わされるアミノ酸配列の180番目のグルタミン(Q)を除くアミノ酸の少なくとも1個、好ましくは1又は数個(例えば1〜10個、さらに好ましくは1〜5個、特に好ましくは1若しくは2個)のアミノ酸が付加してもよく、あるいは、配列番号4で表わされるアミノ酸配列の180番目のグルタミン(Q)を除くアミノ酸の少なくとも1個、好ましくは1又は数個(例えば1〜10個、さらに好ましくは1〜5個、特に好ましくは1若しくは2個)のアミノ酸が他のアミノ酸に置換してもよい。
このような配列番号4のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列として、配列番号4のアミノ酸配列と、BLAST(Basic Local Alignment Search Tool at the National Center for Biological Information(米国国立生物学情報センターの基本ローカルアラインメント検索ツール))等(例えば、デフォルトすなわち初期設定のパラメータ)を用いて計算したときに、少なくとも85%以上、好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、特に好ましくは97%以上の配列同一性を有しているものが挙げられる。
このような配列番号4のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有するタンパク質は配列番号2のアミノ酸配列を有するタンパク質と実質的に同一である。
また、配列番号3に表される塩基配列からなるDNAと相補的な配列からなるDNAと下記のストリンジェントな条件下でハイブリダイズすることができるDNAであって、538番目から540番目の塩基配列がCAAであり、N-結合型糖鎖を切断し遊離させる活性を有さず、糖鎖を転移させる活性のみを有するタンパク質をコードするDNAも本発明の酵素をコードするDNAに含まれる。すなわち、DNAを固定したフィルターを用いて、0.7〜1.0MのNaCl存在下、68℃でハイブリダイゼーションを行った後、0.1〜2倍濃度のSSC溶液(1倍濃度のSSCとは150mM NaCl、15mM クエン酸ナトリウムからなる)を用い、68℃で洗浄することにより同定することができる条件をいう。あるいは、サザンブロッティング法によりニトロセルロース膜上にDNAを転写、固定後、ハイブリダイゼーション緩衝液〔50% フォルムアミド、4×SSC、50mM HEPES(pH7.0)、10×デンハルツ(Denhardt, s)溶液、100μg/mlサケ精子DNA〕中で42℃で一晩反応させることによりハイブリッドを形成することができるDNAである。
また、配列番号3に表される塩基配列からなるDNAとBLAST(Basic Local Alignment Search Tool at the National Center for Biological Information(米国国立生物学情報センターの基本ローカルアラインメント検索ツール))等(例えば、デフォルトすなわち初期設定のパラメータ)を用いて計算したときに、少なくとも85%以上、好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、特に好ましくは97%以上の配列同一性を有しており、538番目から540番目の塩基配列がCAAであるDNAであって、N-結合型糖鎖を切断し、糖鎖を遊離させる活性を有さず、糖鎖を転移させる活性のみを有する酵素を有するタンパク質をコードするDNAも本発明の酵素をコードするDNAに包含される。
さらに、上記DNAに対するRNA、又は該RNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズすることができるRNAであってN-結合型糖鎖を切断し遊離させる活性を有さず、糖鎖を転移させる活性のみを有する酵素を有するタンパク質をコードするRNAも本発明に含まれる。
本発明の糖タンパク質が有するN-結合型糖鎖を切断し遊離させる活性を有さず、糖鎖を転移させる活性のみを有する酵素を改変型Endo-CCと呼ぶ。改変型Endo-CCは、野生型のEndo-CCに対して、少なくとも5倍、好ましくは約7倍の糖転移活性を有している。
改変型Endo-CCは、Endo-CCが切断し、転移させ得る糖鎖の転移を触媒することができる。改変型Endo-CCは、上記のMan3型、Man5型、Man6型、Man8型、Man9型、Asialo2本鎖型、Sialo2本鎖型、Agalacto2本鎖型等の糖鎖の転移活性を有する。
糖転移は、本発明のEndo-CCを用いて切断した糖鎖であって、還元末端にGlcNAcを有する糖鎖をオキサゾリン化剤を用いて、オキサゾリン化糖鎖とし、オキサゾリン化糖鎖を基質として、本発明の改変型End-CCにより糖鎖をGlcNAc-タンパク質に転移させることにより行えばよい。オキサゾリン化剤として、CDMBI(2-Chloro-1,3-dimethyl-1H-benzimidazol-3-ium chloride)、DMC(2-Chloro-1,3-dimethyl-imidazolinium chloride)等が挙げられる。
3.本発明の酵素の産生
本発明の糖タンパク質が有するN-結合型糖鎖を切断し遊離させ、かつ糖鎖を転移させる活性を有するエンドグリコシダーゼであるEndo-CCは、コプリナス・シネレウスを培養し、製造することができ、コプリナス・シネレウスの培養液等の培養物から公知の方法を用いて単離することができる。また、本発明の糖タンパク質が有するN-結合型糖鎖を切断し遊離させ、かつ糖鎖を転移させる活性を有するエンドグリコシダーゼは、該酵素をコードするDNAを宿主微生物に導入し、該微生物を培養することにより組換え酵素として製造することができる。例えば、適当なベクターに本発明のDNAを連結(挿入)することにより発現ベクターを作製し、該発現ベクターを宿主微生物に導入し宿主微生物を形質転換すればよい。
同様に、本発明の糖タンパク質が有するN-結合型糖鎖を切断し遊離させる活性を有さず、糖鎖を転移させる活性のみを有する酵素である改変型Endo-CCは、該酵素をコードするDNAを宿主微生物に導入し、該微生物を培養することにより組換え酵素として製造することができる。例えば、適当なベクターに本発明のDNAを連結(挿入)することにより発現ベクターを作製し、該発現ベクターを宿主微生物に導入し宿主微生物を形質転換すればよい。
本発明のDNAを挿入するためのベクターは、大腸菌等の細菌、酵母又は動物細胞等の宿主細胞中で複製可能なものであれば特に限定されず、例えば、プラスミドDNA、ファージDNA等が挙げられる。発現ベクターの構築に用いられるベクターDNAは、広く普及した入手の容易なものが用いられる。例えば、pETベクター、pQEベクター、pColdベクター、pUC19ベクター等が挙げられる。
本発明の発現ベクターの構築方法は、特に限定されるものではなく常法により行うことができる。
本発明の発現ベクターで形質転換された宿主細胞は、本発明のDNAを発現し得るものであれば特に制限されないが、例えば、細菌としては大腸菌、枯草菌等が、酵母としてはサッカロマイセス・セレビィシエ等が、動物細胞としては、チャイニーズ・ハムスター・卵巣(CHO)細胞、サルCOS細胞、マウス線維芽細胞等が挙げられる。
この際、好ましくは大腸菌を用いて生産する。従来知られていたエンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼは大腸菌を用いて組換えタンパク質を作製しようとする場合、不溶性になってしまい、活性を有する酵素を大腸菌を用いて効率的に産生できないという問題があったが(Fujita et al., Archives of Biochemistry and Biophsics 432(2004)41-49)、本発明の酵素は、大腸菌を用いて生産しても上記のような問題は生じず効率的にリコンビナント酵素(エンドグリコシダーゼ)を産生することができる。
本発明は、上記DNAを含む宿主細胞をDNAの発現可能な条件下で培養して、糖タンパク質が有するN-結合型糖鎖を切断し遊離させ、かつ糖鎖を転移させる活性を有するエンドグリコシダーゼを産生させ、該酵素を回収することを含む糖タンパク質が有するN-結合型糖鎖を切断し遊離させ、かつ糖鎖を転移させる活性を有するエンドグリコシダーゼの製造方法を包含する。
さらに、本発明は、上記DNAを含む宿主細胞をDNAの発現可能な条件下で培養して、糖タンパク質が有するN-結合型糖鎖を切断し遊離させる活性を有さず、糖鎖を転移させる活性のみを有する酵素を産生させ、該酵素を回収することを含む酵素の製造方法を包含する。
宿主細胞により産生された酵素は、例えばゲル濾過クロマトグラフィー、限外濾過、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、クロマトフォカシング、等電点電気泳動法、ゲル電気泳動法等の公知の精製法を単独又は組み合わせて精製することができる。
4.本発明の酵素の利用
本発明のエンドグリコシダーゼEndo-CCは、糖タンパク質のN-結合型糖鎖を切断し遊離させる活性を有する。例えば、均一な糖ペプチドや糖タンパク質に本発明のEndo-CCを作用させることにより、糖鎖が切断され、均一な遊離の糖鎖を得ることができる。
得られた糖鎖をオキサゾリン化剤によりオキサゾリン化糖鎖とし、本発明の糖タンパク質が有するN-結合型糖鎖を切断し遊離させる活性を有さず、糖鎖を転移させる活性のみを有する酵素である改変型Endo-CCにより、GlcNAc-タンパク質に転移させ、糖タンパク質を作製することができる。
本発明のEndo-CC及び改変型Endo-CCを用いることにより、GlcNAc-タンパク質に糖鎖を結合させ、均一な糖鎖を有する糖タンパク質を作製することができる。抗体医薬品等の糖タンパク質医薬品の活性や、体内動態において、糖鎖の存在が非常に重要な役割を果たしており、本発明のEndo-CC及び改変型Endo-CCを用いることにより、均一な抗体医薬品等の糖タンパク質医薬品を作製することができる。
本発明を以下の実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
実施例1 酵素発現ベクターの作成
遺伝子を単離したCoprinus cinerea (Coprinopsis cinerea)はATCC (American Type Culture Collection)から購入した(ATCC No. MYA-4618)。
Coprinopsis cinerea をマツタケ培地(Ebios tablets 5g,Glucose 20g,total 1.0L)250ml液体培地で振盪培養した(25℃,100rpm,7day)。培養液をろ過して集菌して、菌体をメタルコーンと一緒にキャップ付き2mlマイクロチューブに入れ、-80℃で1時間凍結した。凍結したサンプルにRNAisoを1ml加え、安井機械製のMULTI-BEADS SHOCKERで破砕した(1500rpm,10sec)。破砕が終わったら機械から取り出し、室温で5分間インキュベートした。この間にメタルコーンを取り出しておいた。サンプルにクロロホルムを200μl加えて、30〜40回転倒混和し、その後遠心分離した(13200g,5min)。上清を別のチューブに移し、等量のイソプロパノールを加えて転倒混和し、その後遠心分離した(13200g,5min)。
上清を取り除き、100%エタノールを100μl加えて再び遠心分離した(13200g,5min)。上清を取り除き、室温で沈殿を乾燥させた。乾燥したサンプルにDEPC処理した滅菌水を55μl加えてRNA溶液を得た。
得られたRNA溶液をTOYOBO社製のReverTra Ace qPCR RT Master Mixを使って逆転写して、cDNAを作成した。
反応条件:5×RT Master Mix 2μl,RNA template 1μg,Nuclease-free Water, Total 10μl
逆転写反応する前にRNA溶液のABS260の吸光度を測定し、RNAの濃度をあらかじめ求めておき、またRNA溶液を65℃で5分間インキュベートし、その後氷上で急冷するという操作を行った。逆転写反応は、37℃,15min;50℃,5min;98℃,5min;4℃,holdという順で温度インキュベートして行った。
得られたcDNAの中から今度はEndo-CC遺伝子を増幅させた。その際プライマーの設計としてN末端側にNdeサイトを、C末端側にXhoサイトがつくようにした。DNA polymeraseとしてタカラバイオ社製のPrimeSTAR HSを用いた。
反応は、98℃,10sec;61℃,15sec;72℃,3min(これを30サイクル);4℃,holdという順の温度でインキュベートし行った。
また、pET-23bのベクターをマルチクローニングサイトのNdeサイトから始まってXhoサイトで終わるインバースPCRを行い、そのPCR産物を得た。このPCRもDNA polymeraseとしてタカラバイオ社製のPrimeSTAR HSを用いた。
反応は、98℃,10sec;50℃,15sec;72℃,7min(これを30サイクル);4℃,holdという順の温度でインキュベートし行った。
最後に制限酵素サイトのついたEndo-CC遺伝子断片とインバースPCRによって得られたpET-23bベクターをClontech社製のIn-Fusion HD Enzyme Premixを使ってつなぎ合わせた。
反応条件:Endo-CCの遺伝子のPCR産物 2μl,pET-23bのインバースPCR産物 1μl,In-Fusion Premix 0.5μl,ddw 1.5μl
50℃で15minインキュベート、反応終了後すぐに大腸菌XL1-Blueに形質転換して、大腸菌発現ベクターを得た。
得られた大腸菌発現ベクターを大腸菌に導入し、大腸菌を培養し、酵素(Endo-CC)を製造した。
実施例2 リコンビナント酵素の精製
5mlのMMI培地+Amp(アンピシリン)+Cm(クロラムフェニコル)培地に接種し、37℃で12時間培養した。この培養液を前培養液とした。次いで、250mlのLB培地+Amp+Cm液体培地にOD600=0.05となるように前培養液を接種し、15℃で48時間培養した。
得られた培養液を6000rpmで7分間遠心して集菌し、上清を捨てて、破砕バッファー5ml加えて懸濁した。超音波破砕(output=5,Duty=70,10回×4セット)により破砕した溶液を15000rpmで10分間遠心し、上清を回収した。タンパク質溶液をHis-Trapカラムを用いて精製した。
実施例3 基質特異性の検討
実施例2で作製したEndo-CCを用いて基質特異性を測定した。この際、比較のためにEndo-M(東京化成工業製品)を用いた。
酵素反応は、1pM PA化(ピリジルアミノ化)糖鎖(増田化学社製)2μl、1Mリン酸バッファーpH=6.0μl、超純水5μlを混合した溶液に、30μg/mlの酵素2μlを加えて37℃で15分反応を行った。PA化糖鎖の糖鎖は、Man3型、Man5型、Man6型、Man8型、Man9型、Asialo2本鎖型、Sialo2本鎖型、3本鎖型、Agalacto2本鎖型、4本鎖型及びBisecring2本鎖型であった。これらの糖鎖の構造を図1に示す。反応後、100℃で3分間加熱して酵素を失活させ反応を停止した。得られた反応液についてHPLCにより酵素生成物(PA-GlcNAc)の定量を行い、各ピリジルアミノ化糖鎖の分解量を測定した。HPLCの条件はGLサイエンス社のHPLC装置により、カラムはTOSOH社製のTSK-GEL Amide-80を用い、流速は0.5 ml/minで100%アセトニトリルと 50mMのギ酸バッファー(pH4.5)を用いてグラジエントにより溶出した。蛍光はexcitation 320 nm, emission 400 nmの蛍光検出器により解析を行った。
図2−1及び2−2に、Man8型が結合したピリジルアミノ化糖鎖であるMan8-GlcNAc2-PAが分解された量を100としたときの、各糖鎖が結合したピリジルアミノ化糖鎖の分解量を示した。図2−1においては棒グラフで示し、図2−2においては数値(相対値)で示す。
図2−1及び2−2に示すように、Endo-Mは特定の少数の糖鎖に対して強い加水分解活性を示す一方で他の糖鎖に対する加水分解活性は低かった。Endo-CCも糖鎖により加水分解活性は異なっていたが、Endo-Mよりもより多くの糖鎖に高い加水分解活性を有しており、基質特異性がEnd-Mよりも広かった。
実施例4 Endo-CCの糖転移活性
実施例2で作製したEndo-CCとSGP(シアリルグリコペプチド、図3上)(伏見製薬所)及び糖鎖のアクセプターであるGlcNAc、D-Glucose(グルコース)を混合し、SGPが加水分解されて生じたSG(シアリル化糖鎖:図3下)がGlcNAc、D-Glcoseに転移して、SG-GlcNAc、SG-D-Glucoseが生成するかどうかをTLC(Merck Millipore社 シリカゲル60)で確認を行った。SGP及びSGの構造を図3に示す。
Endo-CC 5μl、SGP 10μg/ml、並びに0.5M GlcNAc又はD-Glucose 4μlを最終容積20μLの50mMの酢酸バッファー(pH6.0)中で反応させた。GlcNAcについては、15分毎に75分まで経時的に反応を追跡し、D-Glucoseについては3時間後の反応をTLCで展開させ、調べた。
TLCには、左から、Blank(BLANKはGlcNAcやD-Glucoseを添加しないで3時間反応したもの)、GlcNAcと反応させた0分、15分、30分、45分、60分、75分、Blank(BLANKはGlcNAcやD-Glucoseを添加しないで3時間反応したもの)、D-Glucoseと3時間反応させたスポットがある。
展開溶媒は、プロパノール;酢酸;水=3:2:2で、オルシノール硫酸法で発色をさせた。
図4に結果を示す。原点はSGPを示す。GlcNAcに関しては、時間が経過するごとに、加水分解物の増加が認められるのと同時に、糖転移物(SG-GlcNAc)の増加が見られる。また、D-Glucoseについても同様に3時間後には、加水分解物と糖転移物(SG-D-Glucose)の確認ができた。
この結果は、本発明のEndo-CCが糖転移活性を有することを示す。
実施例5 改変型Endo-CCの活性
改変型Endo-CC(N180Q株)の糖転移活性を測定した。
(1)オキサゾリン化SGの調製
オキサゾリン化SGは野口らの方法(Helvetica Chimica Acta, 2012)に従い行った。
SG 12.3 mgを0.5 M CDMBI 61μlに溶解し、4℃に冷却した。その後、1.5 Mリン酸カリウム緩衝液61μlを加え、4℃で2時間撹拌した。4℃、14000 rpmで15分間遠心分離した後、0.2μmのフィルターでろ過し、以下の条件で高速液体クロマトグラフィーを行い、目的物の画分を回収した。
カラム:Inertsil ODS-3V (4.6×250 mm) GLサイエンス
溶媒:蒸留水100%
温度:30℃
流速:1.0 ml/min
検出器:UV(214 nm)
機器:ポンプ HITACHI L-2130
カラムヒーター スガイケミー U-620
UV GLサイエンス UV702
得られた画分の凍結乾燥を行い、オキサゾリン化SG6.8 mgを得た。回収率は55%であった。
(2)野生株およびN180Q株改変型Endo-CCの糖転移反応の確認
Endo-CCの糖転移活性の確認は以下のように行った。終濃度100 mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH 6.0)、1 0 mMオキサゾリン化SG、4 mMのアクセプター分子(p-ニトロフェニルN-アセチルグルコサミン)、及び野生株若しくはN180Q株Endo-CC酵素液(酵素量24.5μg)を含む反応液(計200μl)を30℃で3時間インキュベートし、99℃で5分間加熱することにより酵素反応を停止した。反応液全量を以下の条件で高速液体クロマトグラフィーに供した。
カラム:Inertsil ODS-3V (4.6×250 mm) GLサイエンス
溶媒:
A液:0.1%TFA
B液:0.1%TFAを含むアセトニトリル
A液:B液=90:10で溶出
温度:30℃
流速:1.0 ml/min
検出器:UV(300 nm)
機器:ポンプ HITACHI L-2130
カラムヒーター スガイケミー U-620
UV GLサイエンス UV702
糖転移反応物と思われる画分を分取し、MALDI-TOFMS(autoflexII、ブルカーダルトニクス)で質量分析を行うことにより、糖転移反応物の同定を行った。
改変型Endo-CCの転移活性の検出結果を図6に示した。なお、図5に糖転移反応の反応図を示す。糖転移反応物と思われるピーク(9.47 min)が検出された。このピークを分取してMS解析を行った結果、予測された糖転移反応物の分子量と一致する分子イオンピークが検出された(m/z=2366.683 [M+Na]+)。また、転移反応物のピーク面積から、N180Q株改変型Endo-CCが、野生株Endo-CCに比べ、約7倍の糖鎖転移活性を有していることが示された。
本発明のEndo-CC及び改変型Endo-CCを用いて、均一な糖鎖を有する抗体医薬等の治療用リコンビナント糖タンパク質を作製することができる。また、本発明のEndo-CC及び改変型Endo-CCを糖鎖研究のための試薬として用いることができる。

Claims (4)

  1. 以下の(e)又は(f)のコプリナス・シネレウス由来であり、糖タンパク質が有するN-結合型糖鎖を切断し遊離させる活性を有さず、糖鎖を転移させる活性のみを有する酵素:
    (e) 配列番号4で表されるアミノ酸配列からなる酵素;
    (f) 配列番号4で表されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつ糖タンパク質が有するN-結合型糖鎖を切断し遊離させる活性を有さず、糖鎖を転移させる活性のみを有する酵素(但し、180番目のアミノ酸はグルタミン)。
  2. 以下の(e)又は(f)のコプリナス・シネレウス由来であり、糖タンパク質が有するN-結合型糖鎖を切断し遊離させる活性を有さず、糖鎖を転移させる活性のみを有する酵素をコードするDNA:
    (e) 配列番号4で表されるアミノ酸配列からなる酵素;
    (f) 配列番号4で表されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつ糖タンパク質が有するN-結合型糖鎖を切断し遊離させる活性を有さず、糖鎖を転移させる活性のみを有する酵素(但し、180番目のアミノ酸はグルタミン)。
  3. 請求項2に記載のDNAを含む発現ベクターを大腸菌に導入し、大腸菌を培養することを含む、請求項1記載のコプリナス・シネレウス由来であり、糖タンパク質が有するN-結合型糖鎖を切断し遊離させる活性を有さず、糖鎖を転移させる活性のみを有する酵素を作製する方法。
  4. 請求項1記載の酵素を、タンパク質及びオキサゾリン化糖鎖と接触させ、糖鎖をタンパク質に転移させることを含む、糖タンパク質の作製方法。
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