以下、図面を参照して、本発明の第1から第3の実施形態である表面欠陥検出装置の構成及びその動作について説明する。
(第1の実施形態)
始めに、図1から図13を参照して、本発明の第1の実施形態である表面欠陥検出装置の構成及びその動作について説明する。
〔表面欠陥検出装置の構成〕
図1は、本発明の第1の実施形態である表面欠陥検出装置の構成を示す模式図である。図1に示すように、本発明の第1の実施形態である表面欠陥検出装置1は、図示矢印方向に搬送される円筒形状の鋼管Pの表面欠陥を検出する装置であり、光源2a,2b、ファンクションジェネレータ3、エリアセンサ4a,4b、画像処理装置5、及びモニター6を主な構成要素として備えている。
光源2a,2bは、ファンクションジェネレータ3からのトリガー信号に従って鋼管Pの表面上の同一の検査対象部位に弁別可能な照明光Lを照射する。光源2a,2bは、検査対象部位に対して対称に配置されることが望ましい。従って、光源2a,2bは、鋼管P表面の法線ベクトルに対して同一の角度だけずらし、照明光Lの照射方向ベクトルと鋼管P表面の法線ベクトルとが同一平面状となるように配置されている。ここで述べる入射角の同一性とは、異なる方向の光源を弁別したときに光学条件をできるだけ等しくし、スケールや無害模様を含む健全部の信号を差分処理によって大きく低減することを目的とする。また、健全部の信号は対象の表面性状に大きく依存し、同一性を一概に一定角度で保証することは困難である。従って、検査可能な条件であれば多少角度が異なっていても健全部の信号を差分処理によって低減できている限り同一角と表現する。後述するが、ここで述べる検査可能な条件とは、正反射成分が十分排除できなおかつ光量が足りる条件であり、光量が十分であれば入射角を可能な限り大きくしても良いものとする。なお、本実施形態では、光源の数を2つとしたが、弁別可能であれば光源の数を3つ以上にしてもよい。ここで述べる弁別可能な光源とは、対象から得られる反射光についてそれぞれの光源別に反射光量を求めることが可能となる光源を示す。
エリアセンサ4a,4bは、ファンクションジェネレータ3からのトリガー信号に従って光源2a,2bから照射された照明光Lの反射光による2次元画像を撮影する。エリアセンサ4a,4bは、撮影した2次元画像のデータを画像処理装置5に入力する。エリアセンサ4a,4bは、それぞれの撮像視野を確保した状態で可能な限り検査対象部位の法線ベクトル上に設置することが望ましい。
なお、位置合わせの問題を解決するため、エリアセンサ4a,4bをできる限り近づけ、それぞれの光軸をできる限り互いに平行にすることが望ましい。また、図2に示すように、ハーフミラー10、ビームスプリッター、及びプリズムのうちのいずれかを用いてエリアセンサ4a,4bの光軸が同軸になるように調整してもよい。これにより、後述する差分画像を精度よく取得することができる。
画像処理装置5は、エリアセンサ4a,4bから入力された2つの2次元画像間で後述する差分処理を行うことによって検査対象部位における表面欠陥を検出する装置である。画像処理装置5は、エリアセンサ4a,4bから入力された2次元画像や表面欠陥の検出結果に関する情報をモニター6に出力する。
このような構成を有する表面欠陥検出装置1は、以下に示す表面欠陥検出処理を実行することによって、検査対象部位におけるスケールや無害模様と表面欠陥とを弁別する。ここで述べる表面欠陥とは凹凸性の欠陥とする。また、スケールや無害模様とは、厚さ数〜数十μm程度の地鉄部分とは光学特性の異なる表面皮膜や表面性状を有する部分のことを意味し、表面欠陥検出処理においてノイズ要因となる部分である。以下、本発明の第1から第3の実施態様である表面欠陥検出処理について説明する。
〔第1の実施態様〕
始めに、図3から図6を参照して、本発明の第1の実施態様である表面欠陥検出処理について説明する。
図3は、光源2a,2bとエリアセンサ4a,4bとの駆動タイミングを示すタイミングチャートである。図中、dは光源2a,2bの発光時間、Tはエリアセンサ4a,4bによる2次元画像の撮影周期を表す。本発明の第1の実施態様である表面欠陥検出処理では、光源2a,2bをフラッシュ光源として、フラッシュ光源を互いの発光タイミングが重ならないように繰り返し発光させることによって光源2a,2bを弁別する。
すなわち、図3に示すように、本実施態様では、始めに、ファンクションジェネレータ3が光源2a及びエリアセンサ4aにトリガー信号を送信し、光源2aが照明光Lを照射し、時間d以内にエリアセンサ4aが2次元画像の撮影を完了する。そして、エリアセンサ4aによる2次元画像の撮影完了後にファンクションジェネレータ3が光源2bとエリアセンサ4bとにトリガー信号を送信し、同様に2次元画像を撮影する。本実施態様によれば、時間差dで光量低下を発生することなく各光源から照射された照明光Lに対する個々の反射光による2次元画像を撮影することができる。
なお、鋼管Pの搬送速度が速い場合には、フラッシュ光源は発光時間dが短いものであることが望ましい。これは、発光時間dが短ければ短いほど、エリアセンサ4a,4bによって得られる2つの2次元画像間のシャッター遅延が小さくなり、シャッター遅延による2次元画像の位置ずれを小さくできるためである。また、個々の反射光による2次元画像の差分画像を用いて表面欠陥を検出することを目的とした時、フラッシュ光源の発光時間dは以下の数式(1)に示す条件を満足する必要がある。
検出目標の表面欠陥の大きさを例えば20mmとすると、経験上、表面欠陥を検出するためには最小5角画素の信号が必要になるので、4mm/画素の分解能があればよい。また、この場合、許容される照明光Lの照射タイミングによる位置ずれは、経験上、0.2画素以内とする必要があるので、鋼管Pの搬送速度が1、3、5m/sである場合、光源2a,2bの発光時間はそれぞれ、800、270、160μsec以下でなくてはならない。なお、鋼管Pの搬送速度や搬送方向が一定である場合には、この位置ずれは2次元画像の撮影後に補正できる。
本実施態様では、画像処理装置5は、エリアセンサ4a,4bから入力された2次元画像に対して予め導出しておいたカメラパラメータを用いてキャリブレーション、シェーディング補正やノイズ除去等の画像処理を施した後、2次元画像間で差分処理を行うことによって検査対象部位における表面欠陥を検出する。
具体的には、光源2aから照明光Lを照射した時の2次元画像Iaを構成する各画素の輝度値をIa(x,y)(但し、画素数X×Yとし、x座標を1≦x≦X、y座標を1≦y≦Yとする)、光源2bから照明光Lを照射した時の2次元画像Ibを構成する各画素の輝度値をIb(x,y)とした時、その差分画像I_diffの各画素の輝度値I_diff(x,y)は以下に示す数式(2)で表される。
ここで、表面欠陥と欠陥でないスケール及び無害模様を撮像した2次元画像Ia、Ib及びその差分画像I_diffの例をそれぞれ図4(a),(b),(c)に示す。図4(a),(b),(c)に示すように、健全部では、スケールや無害模様に関わらず法線ベクトルと光源2aの成す角と法線ベクトルと光源2bの成す角とが等しいため、輝度値Ia(x,y)=輝度値Ib(x,y)、すなわち輝度値I_diff(x,y)=0となる。しかしながら、表面欠陥部分では、表面が凹凸形状を有するため、法線ベクトルと光源2aの成す角と法線ベクトルと光源2bの成す角とが等しくない箇所が必ず存在し、輝度値Ia(x,y)≠輝度値Ib(x,y)、すなわち輝度値I_diff(x,y)≠0となる。
従って、差分器11によって2つの2次元画像の差分画像を生成することによって欠陥でないスケールや無害模様が除去され、表面欠陥のみを検出することができる。そして、このようにして表面欠陥のみを検出し、様々な特徴量により表面欠陥が有害かどうか最終的な評価を行い、モニター6に評価結果を表示する。
なお、2つの2次元画像間に位置ずれがあり、差分画像に影響を与える場合には、2次元ローパスフィルタをかけ、2次元画像間の位置ずれの影響を軽減させることが望ましい。この場合、2次元ローパスフィルタをHとすると、差分画像の輝度値I’_diff(x,y)は以下に示す数式(3)で表される。
また、光源2a,2bは同一のものを用いて、各光源はなるべく均一な平行光となるように照射し、検査対象部位は平面に近い方がよい。しかしながら、表面が多少均一でない場合や鋼管Pのようななだらかな曲面に対する適用においても、一般的なシェーディング補正により表面欠陥を検出することができる。
また、照明光Lの入射角に関しては、健全部の反射光に鏡面反射成分が入らず、且つ、十分な光量を確保できる範囲にすることが望ましい。本発明の発明者らは、照明光Lの入射角と健全部(地鉄部分)の反射率との関係を調査する実験を行った。実験に用いた装置の構成を図5に示す。図5に示すように、本実験では、パワーメーター12を鋳片サンプル14の真上の位置に固定し、レーザー13の入射角θを0°から90°まで変化させた時のパワーメーター12の受光量を計測した。実験結果を図6に示す。図6に示すように、入射角θが0°から20°の範囲内では、鏡面反射成分が含まれているためにパワーメーター12の受光量は大きいが、入射角θが60°以上になるとパワーメーター12の受光量は大きく低下する。従って、照明光Lの入射角は、検出能に問題がない限りは小さく取る方が受光光量を大きくすることができる。
検査対象部位の深さ方向の分解能は、欠陥の傾斜角及びエリアセンサ4a,4bの分解能に依存する。ここで、欠陥の傾斜角とは、「欠陥部の法線ベクトル」を「検査対象部位の健全部表面の法線ベクトルと光源方向ベクトルとが成す平面」に正射影し、正射影されたベクトルと健全部表面の法線ベクトルとの成す角を取ったものである。検査対象部位の表面性状にも依存するが、例えば入射角45°で入射光を照射したとき、欠陥の傾斜角が光源方向に対して約10°以上であれば、差分処理によって欠陥信号を検出できることが確認されている。従って、1画素の分解能を0.5mmと仮定すると、理論上0.5×tan10°=0.09mm程度の深さ方向の分解能を持つことになる。
〔第2の実施態様〕
次に、図7を参照して、本発明の第2の実施態様である表面欠陥検出処理について説明する。
本発明の第2の実施態様である表面欠陥検出処理では、光源2a,2bを互いに波長領域が重ならない光源とすることによって光源2a,2bを弁別する。具体的には、図7に示すように、光源2a,2bに波長領域が重ならない2種類の波長選択フィルター20a,20bを設置し、照明光Lの波長領域を選択する。また、同一の波長選択特性を有する波長選択フィルター21a,21bをエリアセンサ4a,4bに設置する。
このような構成によれば、光源2aからの照明光Lの反射光は波長選択フィルター20a,21aによってエリアセンサ4aのみで受光され、光源2bからの照明光Lの反射光は波長選択フィルター20b,21bによってエリアセンサ4bのみで受光される。従って、エリアセンサ4a,4bの撮影タイミングを一致させることにより、位置ずれなく光源2a,2bからの照明光Lの反射光による2次元画像を撮影することができる。2次元画像を撮影した後の処理は第1の実施態様と同様である。
なお、検査対象部位の移動速度が大きい場合には、検査対象部位の移動による位置ずれを防止するために光源2a,2bをフラッシュ光源とし、光源2a,2bの照射タイミングを変化させずに2次元画像の撮影時間を短縮させてもよい。また、波長選択フィルター20aを青色透過フィルター、波長選択フィルター20bを緑色透過フィルターとし、1台のカラーカメラを用いて2次元画像を撮影することにより、青チャンネルには光源2aからの照明光Lの反射光のみが受光され、緑チャンネルには光源2bからの照明光Lの反射光のみが受光されるといったように構成してもよい。
〔第3の実施態様〕
次に、図8を参照して、本発明の第3の実施態様である表面欠陥検出処理について説明する。
本発明の第3の実施態様である表面欠陥検出処理では、光源2a,2bを互いに直交する直線偏光特性を有する光源とすることによって光源2a,2bを弁別する。具体的には、図8に示すように、光源2a,2bに直線偏光板30a,30bをγ°及び(γ+90)°(γは任意の角度)で設置し、それぞれ互いに直交する偏光成分の光のみ透過させる。ここで、直線偏光板とは、入射光に対して一定方向の直線偏光成分のみ透過させるフィルターのことを意味する。また、直線偏光板30a,30bと同一の直線偏光特性を有する直線偏光板31a,31bをγ°及び(γ+90)°でエリアセンサ4a,4bに設置する。
このような構成によれば、光源2aからの照明光Lの反射光はエリアセンサ4aのみで受光され、光源2bからの照明光Lの反射光はエリアセンサ4bのみで受光される。従って、エリアセンサ4a,4bの撮影タイミングを一致させることにより、位置ずれなく各光源からの照明光の反射光による2次元画像を撮影することができる。
なお、検査対象部位の移動速度が大きい場合には、光源2a,2bをフラッシュ光源とし、光源2a,2bの照射タイミングを変化させずに2次元画像の撮影時間を短縮させてもよい。以下、位置合わせ及び2次元画像撮影後の処理は第1及び第2の実施態様と同様である。
[実施例]
本実施例では、図9に示すように、光源2a,2bとしてフラッシュ光源を用い、光源2a,2bの発光タイミングを変化させる方法を用いて鋼管Pの表面欠陥を検出した。エリアセンサ4a,4bは並列させて2次元画像を撮影し、画像処理により位置合わせを行った。図10に表面欠陥の検出結果を示す。図10(a)が光源2aから照明光Lを照射した時の2次元画像、図10(b)が光源2bから照明光Lを照射した時の2次元画像、図10(c)が図10(a)に示す2次元画像と図10(b)に示す2次元画像との差分画像である。図10(a)〜(c)に示す画像のS/N比は順に3.5、3.5、6.0であり、単に一方向から照明光Lを照射した場合よりも差分画像のSN比が向上した。
図11は、スケールが発生した鋼管部分に対する表面欠陥検出処理結果を示す図である。図11(a)が光源2aから照明光Lを照射した時の2次元画像、図11(b)が光源2bから照明光Lを照射した時の2次元画像、図11(c)が図11(a)に示す2次元画像と図11(b)に示す2次元画像との差分画像である。図11(a),(b)に示す2次元画像全体に広がっている黒斑点がノイズとなるスケールである。スケールの形状は平らであるので、差分画像を取得することによってスケールの画像は除去された。また、差分画像では、単に一方向から照明光Lを照射した場合と比較して、ノイズとなるスケールの信号が1/4程度に低減された。
[変形例1]
図12は、本発明の第1の実施形態である表面欠陥検出装置の変形例の構成を示す模式図である。図12に示すように、本変形例は、1つの光源2aから照射した照明光を複数のミラー40a,40b,40c,40dにより分割し、最終的に2方向から鋼管P1の検査対象部位に照明光を照射する。この場合、照明光の各光路に波長選択フィルター20a,20bや直線偏光板30a,30bを設置することにより、第2及び第3の実施形態と同様の効果を得ることができる。なお、本変形例は照明光を2方向から照射するものであるが、3方向以上から照明光を照射する場合も同様である。
[変形例2]
図13は、本発明の第1の実施形態である表面欠陥検出装置の他の変形例の構成を示す模式図である。図13に示すように、本変形例は、図7に示す表面欠陥検出装置において、波長選択フィルター20a,20bによって光源の波長を限定するのではなく、パルスレーザー51a,51bと拡散板50a,50bとを用いて光源の波長を限定するものである。本変形例では、互いに波長領域が異なる2つのパルスレーザー51a,51bからのレーザー光を検査対象部位の左右方向から照射して光源を弁別する。このとき、パルスレーザー51a,51bから照射されたレーザー光を検査対象部位全域に照射するためにレーザー光の光路に拡散板50a,50bを挿入する。なお、本変形例は2方向から照明光を照射するものであるが、3方向以上から照明光を照射する場合も同様である。
[変形例3]
本変形例は、図7に示す表面欠陥検出装置において、エリアセンサ4a,4bに設置する波長選択フィルター21a,21bの代わりにダイクロックミラーを用いるものである。ダイクロックミラーとは、特定の波長成分の光を反射し、その他の波長成分の光を透過するミラーのことである。ダイクロックミラーを用いることによって波長選択フィルターが不要となる。なお、本変形例は2方向から照明光を照射するものであるが、3方向以上から照明光を照射する場合も同様である。
(第2の実施形態)
次に、図14から図22を参照して、本発明の第2の実施形態である表面欠陥検出装置の構成及びその動作について説明する。なお、本実施形態の表面欠陥検出装置の構成は上記第1の実施形態の表面欠陥検出装置の構成と同じであるので、以下ではその構成の説明を省略し、表面欠陥検出装置の動作についてのみ説明する。
本発明の第2の実施形態である表面欠陥検出装置1は、以下に示す表面欠陥検出処理を実行することによって、検査対象部位におけるスケールや無害模様と凹凸性の表面欠陥とを弁別する。なお、スケールや無害模様とは、厚さ数〜数十μm程度の地鉄部分とは光学特性の異なる表面皮膜や表面性状を有する部分のことを意味し、表面欠陥検出処理においてノイズ要因となる部分である。
〔表面欠陥検出処理〕
本発明の一実施形態である表面欠陥検出処理では、画像処理装置5が、エリアセンサ4a,4bから入力された2つの2次元画像に対して予め導出しておいたカメラパラメータを用いてキャリブレーション、シェーディング補正、及びノイズ除去等の画像処理を施した後、2次元画像間で差分処理を行うことによって差分画像を生成し、生成された差分画像から検査対象部位における凹凸性の表面欠陥を検出する。
具体的には、光源2aから照明光Lを照射した時に得られた2次元画像Iaを構成する各画素の輝度値をIa(x,y)(但し、画素数X×Yとし、x座標を1≦x≦X、y座標を1≦y≦Yとする)、光源2bから照明光Lを照射した時に得られた2次元画像Ibを構成する各画素の輝度値をIb(x,y)とした時、差分処理によって得られる差分画像I_diffの各画素の輝度値I_diff(x,y)は既に述べた数式(1)で表される。
ここで、図4に示したように、健全部では、スケールや無害模様の有無に関わらず表面の法線ベクトルと光源2aの成す角と表面の法線ベクトルと光源2bの成す角とが等しいため、輝度値Ia(x,y)=輝度値Ib(x,y)、すなわち輝度値I_diff(x,y)=0となる。しかしながら、凹凸性の表面欠陥部分では、表面が凹凸形状を有するため、表面の法線ベクトルと光源2aの成す角と表面の法線ベクトルと光源2bの成す角とが等しくない箇所が必ず存在し、輝度値Ia(x,y)≠輝度値Ib(x,y)、すなわち輝度値I_diff(x,y)≠0となる。従って、差分器11によって2つの2次元画像の差分画像I_diffを生成することによって表面欠陥でない健全なスケールや無害模様の画像を除去することができる。
次に、差分画像I_diffから凹凸性の表面欠陥を検出するロジックについて説明する。図14(a),(b)はそれぞれ、検査対象部位の表面形状が凹形状及び凸形状である場合における一方の光源から検査対象部位に照明光を照射した時の陰影を示す図である。図14(a)に示すように、検査対象部位の表面形状が凹形状である場合、光源の手前側が単位面積当たりの照射光の光量低下によって暗くなり、光源の奥側が正反射方向に近づくため明るくなる。これに対して、図14(b)に示すように、検査対象部位の表面形状が凸形状である場合には、光源の手前側が正反射方向に近づくため明るくなり、光源の奥側が凸形状の影となり暗くなる。
すなわち、検査対象部位の表面形状が凹形状である場合と凸形状である場合とで照明光の反射光の明暗パターンが異なる。従って、反射光の明暗パターンを認識することによって凹凸性の表面欠陥の有無を検出することができる。そこで、以下では、反射光の明暗パターンを認識することによって凹凸性の表面欠陥を検出する方法について述べる。なお、以下では、凹凸性の表面欠陥のうち、凹形状の表面欠陥を検出するものとするが、凸形状の表面欠陥も同様のロジックで検出することができる。また、以下で述べる明部とは、差分画像I_diffにおいて輝度が所定閾値以上である画素に対して連結処理を行うことによって得られる所定値以上の面積を持つブロブを意味する。また、以下で述べる暗部とは、差分画像I_diffにおいて輝度が所定閾値以下である画素に対して連結処理を行うことによって得られるある所定値以上の面積を持つブロブを指す。ブロブとはラベリングされた画素の集合を意味する。
本実施形態では、閾値処理を行うことによって明部と暗部とを抽出することにより明暗パターンを認識する。具体的には、本実施形態の表面欠陥検出装置1では、光源2a,2bは検査対象部位の法線ベクトルに対して左右対称に配置されているため、表面の凹凸形状に起因する反射光の明暗パターンは左右方向に発生する。明暗の左右は差分処理の順番によって逆となるため、ここでは右が明・左が暗である場合を凹形状、右が暗・左が明である場合を凸形状とする。従って、凹形状の表面欠陥の差分画像I_diffは図15に示すようになる。そこで、明部と暗部の画像をそれぞれ輝度閾値The,−Theによって二値化すると、明部及び暗部の二値化画像I_blight,I_darkはそれぞれ以下に示す数式(4)のように表される。
そして、このようにして明部及び暗部の画像を二値化し、必要に応じて連結・孤立点除去を行った後、明部及び暗部の位置関係を算出することによって凹凸性の表面欠陥の有無を検出する。なお、明部及び暗部の位置関係の算出方法には様々な方法があり、以下では代表的な3つの算出方法を述べるが、その他の算出方法であっても明部と暗部の位置関係が算出できればよい。
第1の位置関係算出方法は、明部及び暗部に対して特定方向の膨張収縮処理を施すことによって明部及び暗部の位置関係を算出する方法である。本算出方法のフローチャートを図16に示す。本実施形態では、凹形状の表面欠陥を検出するため、右が明、左が暗である明暗のパターンを認識する場合について説明する。右が明、左が暗ということは明部の左側には必ず暗部があり、暗部の右側には必ず明部があるということである。そこで、本算出方法では、始めに、画像処理装置5が、暗部に対して右方向に膨張処理を施し、明部に対しては左方向に膨張処理を施す(ステップS1a,S1b)。ここで、膨張処理が施された明部及び暗部の画像をそれぞれI_blight_extend、I_dark_extendとし、膨張する長さをWとすると膨張処理は以下に示す数式(5)のように表される。但し、二次元画像の左上を原点として下方向をy軸方向正、右方向をx軸方向正とする。
なお、本実施形態では、明部と暗部とを同じ長さWだけ膨張させているが、膨張する長さWは必ずしも同じである必要は無く、極端に述べれば明部及び暗部の一方のみに対して膨張処理を施してもよい。また、膨張する長さWは検出したい表面欠陥の大きさにも依存する。
次に、画像処理装置5は、以下に示す数式(6)のように膨張処理が施された明部及び暗部の画像I_blight_extend、I_dark_extendに対してand処理を行うことにより、膨張処理が施された明部及び暗部の画像I_blight_extend、I_dark_extendの重なり部分を欠陥候補部画像I_defectとして抽出する(ステップS2a,S2b)。
次に、画像処理装置5は、得られた各欠陥候補部画像I_defectに対して、必要に応じて連結・孤立点除去処理を行った後、ラベリング処理を行うことによって、欠陥候補ブロブI_defect_blobを生成する(ステップS3)。そして、画像処理装置5は、各欠陥候補ブロブI_defect_blobの特徴量を抽出し、抽出結果に基づいて各欠陥候補ブロブI_defect_blobが凹形状の表面欠陥であるか否かを判別する(ステップS4a,S4b)。なお、欠陥候補ブロブI_defect_blobの特徴量を調査するためには、明部及び暗部の情報が必要となるため、欠陥候補ブロブI_defect_blobから明部と暗部を復元する。
具体的には、欠陥候補部の右側には必ず明部が存在し、左側には必ず暗部が存在するため、画像処理装置5は、欠陥候補ブロブI_defect_blobの重心を起点として暗部二値化画像I_darkを左側に探索し、最初に見つかったブロブを暗部欠陥候補ブロブI_dark_blobとする。同様に、画像処理装置5は、欠陥候補ブロブI_defect_blobの重心を起点として明部二値化画像I_blightを右側に探索し、最初に見つかったブロブを明部欠陥候補ブロブI_blight_blobとする。そして、画像処理装置5は、こうして復元された明部欠陥候補ブロブI_blight_blob及び暗部欠陥候補ブロブI_dark_blobから特徴量を抽出し、抽出された特徴量に基づいて各欠陥候補ブロブI_defect_blobが凹形状の表面欠陥であるか否かを判別する。具体的な特徴量は欠陥により異なるため、ここでは述べず後述する実施例で一例を挙げる。
第2の位置関係算出方法では、上述の閾値処理を行い、必要に応じて連結・孤立点除去処理を行った後、明部及び暗部を抽出してラベリングを実施し、明部及び暗部の位置関係を認識することにより凹形状の表面欠陥を検出する。具体的には、始めに、画像処理装置5は、ラベリングにより明部及び暗部を個別に認識し、明部及び暗部の重心情報を得る。次に、画像処理装置5は、明部及び暗部の重心情報から各明部の右側の所定範囲内に暗部の重心が存在するか否かを判定する。そして、暗部の重心が存在する場合、画像処理装置5は、対となる明部と暗部との組み合わせを明暗パターンとして認識し、明暗パターンの特徴量解析を行うことによって、凹形状の表面欠陥であるか否かを判別する。なお、ここでは重心情報を用いて明暗パターンを認識したが、明部及び暗部の位置が把握できる情報(例えば上端位置や下端位置等)であれば、明暗パターンの認識に用いる情報は必ずしも重心情報でなくてよい。
第3の位置関係算出方法では、上述の閾値処理を行わず、フィルターを用いて明暗パターンを認識することによって、凹形状の表面欠陥を検出する。具体的には、図1に示す表面欠陥検出装置1では、光源2a,2bが検査対象部位の法線に対して左右対称に配置されているため、表面の凹凸に起因する明暗パターンは左右方向に発生する。図17(a),(b)はそれぞれ、差分画像の一例及び図17(a)に示す線分L4における明暗パターンの一次元プロファイルを示す図である。
図17(a),(b)に示すように、凹形状の表面欠陥では右が明、左が暗であるため、明暗パターンの一次元プロファイルは右側が山形、左側が谷形の特徴的な一次元プロファイルになる。そこで、本実施形態では、右側が山形、左側が谷形となるようなフィルターHを予め作成し、以下の数式(7)に示すように差分画像I_diffにフィルターHをかけることにより、高周波数のノイズが低減され、明暗パターンのみが強調された二次元画像I_contを生成する。
図18(a),(b)はそれぞれ予め作成したフィルターHの二次元画像及びその左右方向の一次元プロファイルの一例を示す図である。図19(a),(b)はそれぞれ、図18(a),(b)に示すフィルターHを用いたフィルター処理が施された差分画像及びその左右方向の一次元プロファイルを示す図である。図19(a),(b)に示すように、高周波数のノイズが低減され、明暗パターンのみが強調された二次元画像が得られることがわかる。
なお、必要に応じて、幅方向にレンジが異なるフィルターを数種類用意しておくことにより、多くの表面欠陥サイズに対応できるようにしてもよい。画像処理装置5は、このようにして明暗パターンが強調された二次元画像に対して、必要に応じて連結・孤立点除去処理を施した後、閾値処理を行うことによって欠陥候補部画像I_defectを抽出する。そして、画像処理装置5は、抽出された欠陥候補部画像I_defectに対して第1の位置関係算出方法と同様の処理を施すことによって、凹形状の表面欠陥を検出する。
以上の説明から明らかなように、本発明の一実施形態である表面欠陥検出処理は、2つの弁別可能な光源2a,2bを利用して同一の検査対象部位に異なる方向から略同一の入射角度で照明光Lを照射し、各照明光Lの反射光による画像を取得し、取得した画像間で差分処理を行うことによって得られた画像の明部及び暗部を抽出し、抽出された明部及び暗部の位置関係と照明光Lの照射方向とから凹凸性の表面欠陥の有無を判定するので、スケールや無害模様と凹凸性の表面欠陥とを精度よく弁別することができる。
なお、本実施形態では、光源を左右対称に設置したために左右の明暗パターンを認識したが、光源の設置位置が左右ではなく、上下対称又は対称でなかったとしても同様の処理によって凹凸性の表面欠陥を検出することができる。具体的には、光源が上下対称に配置されている場合には、明暗パターンが左右方向から上下方向に変わるだけであるので、明暗パターンを90度回転させれば同様の処理によって凹凸性の表面欠陥を検出することができる。
また、図20に示すように照明光の照射方向が90度異なるように光源2a,2bを設置した場合には、表面欠陥が凹形状であれば光源の手前側が暗く奥側が明るくなり、表面欠陥が凸形状であれば光源の手前側が明るく、奥側が暗くなる。具体的には、表面欠陥が凹形状である場合、光源2aからの照明光によって得られる二次元画像は図21(a)に示すようになり、光源2bからの照明光によって得られる二次元画像は図21(b)に示すようになる。このため、差分画像は図21(c)に示すような左下から右上にかけてコントラストがある明暗パターンとなる。従って、明暗パターンを45度回転させれば、左右方向の明暗パターンと同様の方法によって凹形状の表面欠陥を検出することができる。さらに、3つ以上の光源を用いることによって、それぞれ複数パターンの差分画像を得ることができるので、表面欠陥の検出精度をより向上させることができる。
また、本実施形態では検査対象部位の法線に対して対称となる方向から照明光を照射した場合について凹凸性の表面欠陥を検出したが、照明光の照射方向は必ずしも対称である必要はない。また、本実施形態の表面欠陥検出処理は熱間、冷間に関わらず鋼材の製造ライン全般に適用することができる。
[実施例]
本実施例では、ピット疵が形成されている検査対象部位とピット疵が形成されていない健全な検査対象部位に対して上記第1の位置関係算出方法を用いた表面欠陥検出処理を適用した。本実施例では、特徴量として、明部及び暗部の輝度比、面積比、及び円形度を算出した。円形度とは、明部及び暗部の面積をその周の長さの二乗で割って正規化した値であり、明部及び暗部の形状が円形状に近いか否かを判定する際に用いられる。同一起因の表面欠陥であれば、左右の信号で輝度や面積が著しく異なるということは考えにくく、輝度比や面積比を用いて左右のバランスを評価することによって表面欠陥の検出精度が向上する。また、陰影を評価するため明部及び暗部が円形状になることはほとんどなく、円形状に近いものは別起因であると判断できるために、特徴量に円形度を組み入れた。また、明部及び暗部の面積を算出し、面積が所定値以上である表面欠陥のみを検出できるようにした。検出結果を図22に示す。図22に示すように、本実施例によれば、ピット疵とピット疵が形成されていない健全部とを精度よく弁別できることが確認された。
〔照明光の入射角及び欠陥の検出能〕
次に、本発明に係る表面欠陥検出方法を用いて厚鋼板の表面欠陥を検出する場合における照明光の入射角及び表面欠陥の検出能について検討する。図23は、本発明に係る表面欠陥検出方法を用いて落ち込み疵と呼ばれる表面欠陥を検出した結果を示す図である。図23に示すように、明暗パターンによって落ち込み疵をしっかりと検出できていることがわかる。しかしながら、ロール疵と呼ばれる表面欠陥については、厚鋼板の幅方向に照明光を照射した時は、図24(a)に示すように、ロール疵の形状が細長いために欠陥信号をほとんど確認することができないが、厚鋼板の長手方向に照明光を照射した時には、図24(b)に示すように、欠陥信号の強度が強まることが確認された。
そこで、本発明の発明者らは、表面欠陥の形状を測定し、厚鋼板の幅方向から照明光を照射した時と厚鋼板の長手方向から照明光を照射した時とにおける表面欠陥の傾きを計算した。なお、ここで述べる傾きとは、厚鋼板の各表面の法線ベクトルと厚鋼板の基準面の法線ベクトルとをそれぞれ光源、エリアセンサ、及び検査対象位置が成す平面に正射影することによって得られる2つのベクトルの成す角度のことを意味する。図25に算出結果を示す。図25(a)に示すように、厚鋼板の幅方向から照明光を照射した時における表面欠陥の傾きは7°以下であったのに対して、図25(b)に示すように、厚鋼板の長手方向から照明光を照射した時における表面欠陥の傾きは20°から30°程度であった。なお、厚鋼板の幅方向から照明光を照射した際に縞のように見える模様は無害なスケール剥がれである。さらに、同様にして健全部の形状を測定し、厚鋼板の幅方向から照明光を照射した時における健全部の傾きを評価した所、図26に示すように、健全部の傾きは、3から5°程度であり、厚鋼板の幅方向から照明光を照射した時における表面欠陥の傾きと同程度であった。従って、表面欠陥の傾きの差が表面欠陥の検出能に影響すると考えられる。
以下、表面欠陥の検出能に関係する物理現象について説明するが、この物理現象をより詳細に検討するために以下では光学系をモデル化する。ここでは、光学シミュレーションにおいて幅広く用いられている物理現象に即した反射モデルの1つであるTorrance-Sparrowモデルを簡略化したものを用いる(参考文献(“物体の陰影に基づき光源環境の推定”、伊藤ら、情報処理学会論文誌:コンピュータビジョンとイメージメディア、vol.41、No.SIG 10、Dec.2000)参照)。なお、本来であれば、光学系を3次元モデルで扱うべきであるが、簡略化のため以下では2次元モデルを用いるものとする。
図27は、光学系の2次元モデルの構成を示す図である。図27に示すように、鋼材表面Sに対する光源2からの照明光Lの入射角をα、エリアセンサ4に入射する照明光Lの反射角をβ、鋼材表面Sの基準面の傾きを0として検査対象部位をミクロに捉えた時の傾きをφ、検査対象部位に対する光源2からの照明光Lの入射光量をI0、検査対象部位の表面性状を表すパラメータ(ベクトル量)をk=(K1,K2,σ)とすると、エリアセンサ4に入射する照明光Lの光量iは以下に示す数式(8)で表される。
また、数式(8)中のRは、照明光Lの反射強度の関数を示し、以下に示す数式(9)により算出される。
ここで、数式(9)の右辺第1項は照明光Lの拡散反射の強度を表し、第2項は照明光Lの鏡面反射の強度を表し、照明光Lの反射強度は第1項と第2項との和で表される。拡散反射では、照明光Lは、検査対象部位に入射した後、全方位に拡散する。一方、鏡面反射では、照明光Lは検査対象部位の法線ベクトルに対して対称な方向に一番強く反射し、照明光Lの強度はその方向から離れるに従ってガウス関数的に減衰する。また、k=(K1,K2,σ)は検査対象部位の表面性状に起因する項であり、鏡面反射の広がり具合や鏡面反射及び拡散反射の強度比を決定する。但し、入射角α及び傾きφが条件:π/2≦α+φ又はα+φ≦-π/2を満足する場合には、検査対象部位そのものが影となって照明光Lが照射されないため、照明光Lの反射強度は0となる。
このような2次元モデルを用いてエリアセンサ4が受光する画像信号の強度を表現し、一方(左側)の光源から照明光を照射した時及び他方(右側)の光源から照明光を照射した時の検査対象部位の画像上のある点(以後対象面と記載する)の輝度i1,i2を算出すると、輝度i1,i2は以下に示す数式(10),(11)により表される。
ここで、数式(10),(11)中、I1,I2は対象面への照明光Lの入射強度、α1,α2は対象面に対する各光源からの照明光の入射角、βはエリアセンサ4に入射する照明光Lの反射角、φは対象面の基準面の傾きを0として対称面をミクロに捉えた時の傾き、kは対象面の表面性状を現すパラメータである。
輝度i1,i2を算出すると、次に、光源2の光量むらや光学条件におけるむらを除去するため、輝度i1,i2に対してシェーディング補正を実施する。シェーディング補正には様々な方法があるが、ここでは一般的によく使われている、各画素の輝度を縦方向に足し上げて平均を取った行ベクトル(「縦方向平均ベクトル」と呼ぶ)を作成し、画像の全ての行を縦方向平均ベクトルで引き算・割り算を行い、さらに信号を定数倍し正規化する方法により行った。また、その結果の画像に対し、さらに横方向も同様の処理を行いシェーディング補正とした。詳しくは、対象面が健全部であった場合の信号をi10,i20は、健全部の表面性状をk0で表すと、以下に示す数式(12),(13)のように表される。
従って、シェーディング補正後の画像と差分画像上の輝度値は以下に示す数式(14)〜(16)のように表される。なお、数式(14)はシェーディング補正後の輝度i1を示し、数式(15)はシェーディング補正後の輝度i2を示し、数式(16)は差分画像上の輝度を示している。
本検討では、上記モデルを用いて健全部及び表面欠陥部の画像信号の強度から照明光の入射角の最適な範囲を導出した。導出に際しては、始めに、鋼材表面の表面性状を表すパラメータを実験的に求めた。具体的には、実際に一般的な表面性状を有する鋼材の画像をエリアセンサで撮影し、同一の光学系をシミュレーションして求めた理論的な画像信号の輝度プロファイル(理論曲線)に対して実際の画像信号の輝度プロファイル(画像プロファイル)の合わせ込みを行った。合わせ込みの結果を図28、実験に用いた光学系の構成を図29に示す。その結果、鋼材表面の表面性状を表すパラメータはk=(K1,K2,σ)=(1000,200,0.21)と求められた。
次に、求められた表面性状を表すパラメータkを用いて、照明光の入射角(投光角)αが45°,60°,75°である時の表面欠陥の斜面角度(傾き)の変化に対する信号強度の変化をシミュレーションした。ここで、簡易化のため、エリアセンサの撮影方向は基準面の法線上、すなわちβ=0とし、左右対称な位置から照明光を照射し、表面欠陥部及び健全部における表面性状を表すパラメータは同一であるとした。なお、この表面欠陥検出処理において寄与する項は鋼材表面の傾きである。図30は、照明光の入射角αが45°,60°,75°である時の表面欠陥の斜面角度の変化に対する信号強度の変化を示す図である。図30に示すように、表面欠陥の斜面角度が大きくなればなるほど、信号強度が大きくなっている。すなわち、厚鋼板の幅方向、すなわちロール疵に関して幅方向から照明光を照射した場合、表面欠陥部分の傾きが表面性状と同等の傾きであるために、信号強度は表面性状と大きく変わらない。これに対して、厚鋼板の長手方向から照明光を照射した場合には、表面欠陥部の傾きが健全部の傾きと比較して大きいために、信号強度が大きくなり、表面欠陥を検出することができる。
なお、本例は、厚鋼板の幅方向に長い表面欠陥の例であるが、厚鋼板の長手方向に長い表面欠陥も同様に存在する。従って、表面欠陥の見逃しを抑制し、全ての表面欠陥を検出するためには、厚鋼板の幅方向及び長手方向の2方向から照明光を照射する必要がある。また、斜め方向に長い表面欠陥も存在するため、単純に斜め方向から照明光を照射しても欠陥の見逃しが発生する。このため、この場合においても、厚鋼板の幅方向及び長手方向の2方向から照明光を照射する必要がある。
〔表面欠陥の検査範囲及びノイズ要因〕
最後に、表面欠陥の検査範囲及びノイズ要因について検討する。本発明は、2つ以上の異なる方向から検査対象部位に照明光を照射して差分画像を取得することを特徴としているが、以下では簡易化のため鋼材表面の法線ベクトルに関して互いに対称な斜め方向から照明光を照射する場合を例として、光学系の条件について検討する。この場合、一方の光源から照明光を照射した時(便宜上、右方向からの照射とする)と他方の光源から照明光を照射した時(便宜上、左方向からの照射とする)とで照明光の入射及び反射に関する条件は同じであることが好ましい。
ここで述べる条件が同じであるとは、凹凸のない平面上において、照明光の入射角及び反射角が同一であることを意味する。条件が同じであることが好ましい理由は、左方向及と右方向とで照明光の入射角や反射角が異なれば、表面自体の持つ鏡面性や拡散性といった表面性状の変化がそのままノイズ要因となり、表面欠陥の検出が阻害されるためである。本発明を厚鋼板に適用した例を図31(a),(b)に示す。図31(a)は健全部表面における照明光の反射モデルを示し、図31(b)は拡散性が高い表面における照明光の反射モデルを示している。また、図31(a),(b)において線の太さが照明光の光量を表している。
図31(a),(b)に示すように、健全部と比較して拡散性が高い表面において左方向と右方向とで照明光の照射のバランスが崩れた場合、右方向からの照明光L2については、鏡面反射条件に近いため、健全部における反射光RL2の強度と比較して拡散性が高い表面における反射光RL2の強度が低くなる。これに対して、左方向からの照明光L1については、拡散反射条件に近いため、健全部における反射光RL1の強度と比較して拡散性が高い表面における反射光RL1の強度が高くなる。このため、健全部の表面性状を示す信号を用いて得られた画像信号に対してシェーディング補正を行った場合、拡散性の強い表面における画像信号は健全部における信号強度とは異なる。なお、上述の鏡面反射条件とは、健全部表面の法線ベクトルに対して光源とエリアセンサとが対称な位置に存在する条件、すなわち照明光の入射角と反射角とが等しい条件のことである。
従って、照明光を右方向から照射した時に得られた画像と照明光を左方向から照射した時に得られた画像との差分画像を取ると、表面欠陥部の画像信号値は健全部と同一の表面部分と比較して高くなる。このような表面性状起因の鏡面性及び拡散性の変化は光源がエリアセンサの光軸に対して左右対称となる光学系、すなわち視野中心では発生しないため、照明光の左右の投受光角のバランスの崩れが本手法のノイズ要因と考えられる。厚鋼板から得られた差分画像の例を図32に示す。図32に示す例では、視野の位置によって表面欠陥の見え方が異なっている。差分画像において視野の左側(図32(a))では全体的に明るくなっており、右側(図32(c))では全体的に暗くなっている。その理由は表面欠陥部の拡散性が高いため、鏡面反射条件から遠ざかると健全部と比較し信号強度が高くなるためである。このため、視野中央で(図32(b))は明暗パターンがしっかりと確認できるが、視野端では拡散性によって画像輝度にオフセットが発生して明部又は暗部のみとなっている。従って、本発明では明暗のパターンを用いて表面欠陥を検出するので、視野端では表面欠陥を検出することが困難となる。
図33(a),(b)はそれぞれ、凹凸のない表面に拡散性の高いスケールが付着している厚鋼板に対して右側方向及び左側方向から照明光を照射した時に得られた画像を示す図である。図34は、右側方向から照明光を照射した時に得られた画像と左側方向から照明光を照射した時に得られた画像との差分画像を示す図である。ここで、視野の中で左側方向から投光した場合における画面左側を「手前側」、画面右側を「奥側」、右側方向から照射の場合における画面左側を「奥側」、画面右側を「手前側」と表現する。
図34に示すように、左側方向及び右側方向のどちらの方向からの照射であっても、手前側の正反射に近い条件では、スケールと健全部との間に輝度の差がなく、奥側のスケールが周囲の健全部と比較し明るくなっている。従って、右側方向から照明光を照射した時に得られた画像と左側方向から照明光を照射した時に得られた画像との差分画像を取ると、各スケール部において、平坦部にも関わらず左側方向では高く、右側方向では低い信号となってしまい、凹凸部を検出することができない。
そこで、照明光の左右の投受光角のバランスを定量的に評価するために、実際の試料を用いて試験を行った。試料は凹凸が小さくスケール剥れにより局所的に鏡面性及び拡散性が大きく異なっているものを選定し、ツイン投光差分方式を適用した場合における試料の差分画像においてノイズ信号を評価した。実験に用いた光学系を図35に示す。図35に示すように、試料Sの正面にエリアセンサ4を設置し、エリアセンサ4の光軸に対して対称となる位置に光源2を設置した。光源2からの照明光の試料S中心への入射角をθとし、θ=30°,40°,50°,60°,70°,80°として照明光を左右方向から照射した際の画像を得た。そして、同一の入射角θに対する左右方向から照明光を照射した2枚の画像を用いて差分画像を算出した。
以下に差分画像の評価方法を述べる。まず各差分画像の光量むらを除去するためにシェーディング補正を行う。シェーディング補正方法は、上述の数式(4),(5)に相当する健全部を1枚の画像から算出することが困難であったため、まず各画素の輝度を縦方向に足し上げて平均を取った行ベクトル(「縦方向平均ベクトル」と呼ぶ)を作成し、画像の全ての行を縦方向平均ベクトルで引き算・割り算を行い、さらに信号を定数倍し正規化することにより行った。また、その結果の画像に対し、さらに横方向も同様の処理を行いシェーディング補正とした。こうしてシェーディング補正を実施した画像の差分画像を取った結果を図36に示す。なお、図36では、視野を確保するために同一の表面性状の試料を2枚横に並べて試験を実施したため、中央部につなぎ目が発生しているが、その部分は除外して周辺の画素で穴埋めをしている。図36に示すように、照明光の入射角(投光角)θが大きくなるにつれてノイズ信号のない範囲が広くなっている様子が確認できた。なお、入射角θが70°,80°である場合には、表面の微細な凹凸に起因する信号が強調されノイズ要因となっており、表面性状起因のノイズと区別することが困難であるため以降の検討から除外する。
本結果について、幅方向におけるノイズ信号の分布を定量的に評価するために、長手方向に関してノイズ信号強度の標準偏差を算出した。算出結果を図37に示す。図37に示すように、長手方向端部に近づくほど、ノイズ信号強度の標準偏差が増大している。ここで、幅方向の位置によりばらつきが大きいため、図37に示す波形に対して移動平均フィルタ処理を実施して波形を滑らかにした。その結果、図38に示すように、中心部において最もノイズ信号強度の標準偏差が小さく2程度であり、端部に向かうにつれてノイズ信号強度の標準偏差が増大した。検出しようとする表面欠陥の信号強度は15程度であるため、一般的に検出可能といわれているSN比3以上を確保しようとすると、ノイズ信号強度の標準偏差は5以下でなくてはならない。
そこで、ノイズ信号強度の標準偏差が5以下となる範囲の長さを測定し、さらにその範囲の両端における照明光の投受光角の条件及び試料中心部の光学系からの差異(投受光差異)Δθを計算した。ここで述べる投受光差異Δθとは、検査対象部位における照明光の欠陥位置への入射角α及び反射角βを用いて以下に示す数式(17)で表され、照明光の投受光角が正反射方向にどれだけ近づいたか又は遠ざかったかを示す値である。符号は、正反射から遠ざかる向きを正にしている。算出結果を図39,40に示す。図39は、ノイズ信号強度の標準偏差が5以下となる範囲の端部における、照明光の入射角の変化に対する手前側及び奥側における投受光差異Δθの変化を示す図である。図40は、ノイズ信号強度の標準偏差が5以下となる範囲の端部における、照明光の入射角の変化に対する手前側における正反射条件からの角度ずれθ+Δθ1及び奥側における投受光差異θ+Δθ2の和の変化を示す図である。
図39に示すように、ノイズ信号強度の標準偏差が5以下となる範囲の端部において、手前側及び奥側における投受光差異Δθ1、Δθ2は照明光の入射角に応じて変化している。そして、図40に示すように、ノイズ信号強度の標準偏差が5以下となる範囲の端部では、照明光の入射角に関係なく手前側における投受光差異Δθ1と奥側における投受光差異Δθ2との差の絶対値|Δθ1−Δθ2|が22°より大きくなっている。このことから、手前側における投受光差異Δθ1と奥側における投受光差異Δθ2との差の絶対値|Δθ1−Δθ2|が22°以下であれば、ノイズ信号強度の標準偏差が5以下になると言える。従って、試料の中心部の光学系から投光角及び受光角が上記条件を満たすように本発明による表面欠陥検出処理を実行すれば、表面性状に起因するノイズをある程度抑えられることがわかる。
ここで、上記検討は2次元モデルを用いて行ったが、上記検討を3次元モデルに拡張する。この場合、2つの光源のうちの一方の光源から検査対象部位に入射した照明光の正反射方向を示すベクトルをa1、検査対象部位における一方の光源から入射された照明光のエリアセンサ4方向への反射方向を示すベクトルをb1、2つの光源のうちの他方の光源から検査対象部位に入射した照明光の正反射方向を示すベクトルをa2、検査対象部位における他方の光源から入射された照明光のエリアセンサ4方向への反射方向を示すベクトルをb2と表すと、ベクトルa1,b1,a2,b2は以下に示す数式(18)を満たせばよい。すなわち、ベクトルa1,b1を用いてΔθ1を、ベクトルa2,b2を用いてΔθ2を表現している。なお、上記の説明では、鋼材は厚鋼板であるとしたが、本発明は薄鋼板に対しても同様に適用可能である。
なお、本発明に係る表面欠陥検出方法を用いて厚鋼板の表面欠陥を検出する場合において全幅検査を仮定すると、厚鋼板の板幅が広いために、エリアセンサや光源の台数が膨大となり、検査に多くの費用が必要になる。ここで、厚鋼板の幅方向から照明光を照射する場合と厚鋼板の長手方向から照明光を照射する場合との2つの場合を考える。上記数式(18)に示す条件を満たす光学系を設計するにあたって、厚鋼板の幅方向において条件を満足するように光学系を設計しようとすると、エリアセンサ1台当たりの幅方向視野を制限するように光学系を設計しなければならず、エリアセンサの台数を増やす必要がある。
しかしながら、エリアセンサ1台当たりの長手方向視野に関しては、厚鋼板の移動速度に合わせて取り込み周期を設計することにより任意に設計できる。そこで、厚鋼板の幅方向及び長手方向の2方向のうち、厚鋼板の長手方向から照明光を照射する場合のみ数式(18)に示す条件を満足するように光学系を設計し、厚鋼板の幅方向から照明光を照射する場合は補助的に用いるようにすることで、コストを抑制しながら最適な光学系で検査を行うことができる。その極端な場合として、厚鋼板の長手方向には1ラインのみの画像を撮影するラインセンサカメラを利用することが考えられる。この場合、ラインセンサカメラの光軸中心が厚鋼板の移動方向に直交するようにラインセンサカメラを配置し、2つの照明光を同じ入射角で厚鋼板に入射させると、上記数式(18)に示す左辺第1項と左辺第2項とがどの位置でも完全に一致するようになるので、厚鋼板上の任意の位置で理想的な検査を行うことができる。そして、この場合、ラインセンサカメラでは、時間をずらして2つの照明からの画像を取得することは難しいので、波長が異なる2照明と2台のラインセンサカメラ又はカラーラインセンサカメラ等の2つ以上のラインセンサカメラを内蔵しているカメラとを用いることが考えられる。また、波長の代わりに異なる偏光方向を利用することも考えられる。
最後に、数式(18)に示す条件を満たす光学系を用いて厚鋼板の表面欠陥を検出した実験結果を示す。図41は、実験で用いた光学系の構成を示す模式図である。図41に示す光学系では、照明光の視野中心への入射角αは70°、エリアセンサの解像度は1.0mm/pixel、検査範囲は350mm×270mmとした。図42は表面欠陥の検出結果を示す。図42(d)に示すように、表面欠陥部の画像が明暗パターンを有し、表面欠陥を検出できることが確認できた。なお、表面欠陥の検出結果は明部と暗部とを膨張させて重なった部分を表しており、信号強度の閾値は15とした。
また、図43は、バリオシ疵と呼ばれる長手方向に長い表面欠陥の検出結果を示す図である。図43に示すように、厚鋼板の長手方向から照明光を照射した場合は信号強度が非常に低いが、厚鋼板の幅方向から照明光を照射した場合には明暗のパターンをしっかりと確認できた。また、図44は、厚鋼板の長手方向のみ視野を抑制して表面欠陥を検査した結果を示す図である。ここでは、検査対象は表面性状が悪い鋼板とした。図44に示すように、照明光の投受光角のバランスが悪い位置はノイズ要因となり、検査範囲を限定することによって投受光角のバランスが良い条件で検査できることが確認された。
また、極端な例として、長手方向の視野を1ラインに限定したラインセンサカメラを用いた実施例を図45に示す。本実施例では、光源2a,2bはそれぞれ赤色及び青色の線状照明光Lを厚鋼板Pに照射し、カラーラインセンサカメラ4で線状照明光の反射光を受光する。また、線状照明光は、光が進行する方向を厚鋼板Pの表面に正射影した方向が厚鋼板Pの移動方向と一致するように照射する。赤色及び青色の線状照明光は、カラーLEDを用いたり、白色光にカラーフィルタを用いたりすることにより実現できる。また、カラーラインセンサ4の代わりに、カラーフィルタを設置した2台のラインセンサカメラの視野位置を合わせて設置することでもよい。また、上述したように、波長の代わりに異なる偏光方向を利用することも考えられる。この場合、厚鋼板に水平な方向と垂直な方向の2つの偏光方向を選定すると、厚鋼板の反射による偏光方向の変化が小さく、弁別性がよい。
また、この場合、厚鋼板Pの進行方向に長い疵については、表面の傾きの問題によって検出能が低下する可能性がある。その場合、図46に示すように、照明光Lが進行する方向を厚鋼板Pの表面上に正射影した方向が、厚鋼板Pの移動方向と所定の角度ξ以上成すようにすることにより対応可能である。このような照明は、指向性のあるLEDをその方向に向けたり、照明光を受ける光ファイバを一列に並べたラインライトガイドにおいて、光ファイバを傾けて配置したりすることによって実現できる。所定の角度ξを45°とすれば、鋼材の幅方向及び進行方向のどちらの方向に伸びている疵に対しても同様の感度を持たせることができる。なお、本実験例は本発明を厚鋼板に適用したものであるが、本発明は一般的な鋼材に対しても適用可能である。
以上、本発明者らによってなされた発明を適用した実施の形態について説明したが、本実施形態による本発明の開示の一部をなす記述及び図面により本発明は限定されることはない。例えば、本発明に係る表面欠陥検出方法を利用して鋼材の表面欠陥を検出し、検出結果に基づいて鋼材を製造するようにしてもよい。このように、本実施形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施の形態、実施例、及び運用技術等は全て本発明の範疇に含まれる。