JP6387237B2 - ピストンリング及び該ピストンリングを備えるエンジン - Google Patents
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Description
この種のガスタイト形式のピストンリングとして、例えば、特許文献1には、ピストンリングの合口部の一部を切り欠いて合口部での折損事故を防止することが可能なピストンリングが開示されている。
上記事情に鑑みて、本発明の少なくとも一実施形態は、耐久性が向上したガスタイト形式のピストンリング、及び、該ピストンリングを備えるエンジンを提供することを目的とする。
エンジン運転中、ピストンリングは燃焼ガスによって加熱されるため高温になる。このときピストンリングの外周側は相対的に低温のシリンダ内周面に摺接しているため、ピストンリングの内周側の温度が外周側の温度より高くなる。このピストンリングの内周側と外周側の温度差のため、ピストンリングの熱膨張量は外周側より内周側の方が大きくなる。この結果、ガスタイト式のピストンリングでは、合口部がピストンリングの径方向外方へ膨らむように熱変形する。
特に、ピストンが上死点近傍に位置しているときには、シリンダ内周面に対するピストンの相対速度がゼロになってピストンリングとシリンダ内周面との間で油膜切れが生じ易い上に、燃料の爆発により燃焼室の圧力及び温度が高くなることから、ピストンリングとシリンダ内周面の摺動条件が厳しくなる。このため、シリンダ内周面の上死点近傍は、シリンダヘッドに向かって広がるように偏摩耗する。つまり、シリンダ内周面の上死点近傍は、シリンダの軸線に対して傾斜するように偏摩耗する。
逆に、第2舌部の先端角がシリンダ内周面に強く当接して、第1舌部の外周面とシリンダ内周面との間に大きな隙間が生じることもある。この場合、この大きな隙間を高温且つ高圧の燃焼ガスが高速で吹き抜け、第1舌部の外周面が損傷してしまう。
(1)本発明の少なくとも一実施形態に係るピストンリングは、軸線回りの周方向に沿って延在する本体部と、前記本体部の一端から他端に延在し、前記本体部の径方向外側において前記軸線方向の一方側に前記周方向に沿って延在する嵌合凹部が形成された第1舌部と、前記本体部の前記他端から前記本体部の前記一端に延在し、前記嵌合凹部に嵌合することにより前記第1舌部と共に合口部を形成する第2舌部とを備え、前記第1舌部及び前記第2舌部のうち少なくとも前記第1舌部において、径方向外側面の周方向先端面側の部分が傾斜面によって形成されるとともに、曲面によって構成されたコーナー部を介して前記傾斜面と前記周方向先端面が繋がっている。
従って、少なくとも第1舌部のコーナー部近傍において、第2舌部の径方向外側面とシリンダ内周面との間を高温且つ高圧の燃焼ガスが高速で吹き抜けることが防止され、第2舌部の径方向外側面の損傷が防止される。この結果、ピストンリングは優れた耐久性を有する。
傾斜量が大きすぎると、コーナー部と反対側の傾斜面の端縁がシリンダ内周面に強く当たるようになり、単にシリンダ内周面が強く押される位置が周方向に変化しただけになってしまう。
この点、傾斜面の傾斜量がピストンリングの平均1000時間の摩耗量の1倍以上30倍以下であれば、コーナー部と反対側の傾斜面72,76の端縁がシリンダ内周面に強く当たることを防止することができる。
この点、重ね合わせ領域の初期の長さと傾斜面の長さとの差がピストンリングの平均1000時間の摩耗量のπ倍以上30π倍以下であることによって、シリンダ内周面の偏摩耗によりピストンリングの外径が大きくなっても、合口部とシリンダ内周面との間におけるシール性が長期に渡って確保される。
前記バレル面のバレルセンタは前記第2舌部の径方向外側面内に位置している。
この点、上記(6)の構成によれば、第1舌部のコーナー部とシリンダ内周面との接触面圧が局所的に高くなるのが防止され、第1舌部のコーナー部近傍で、第2舌部の径方向外側面とシリンダ内周面の間に隙間が形成されるのが防止される。この結果として、燃焼ガスの吹き抜けが防止され、第2舌部の径方向外側面の損傷が防止される。
シリンダと、
該シリンダ内を往復動可能であり、前記シリンダ内に燃焼室を形成するピストンと、
前記ピストンに装着された上記(1)乃至(6)の何れか一つに記載のピストンリングを備える。
例えば、「ある方向に」あるいは「ある方向に沿って」という表現は、ある方向に対し厳密に平行な状態のみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の角度をもって傾斜している状態も表すものとする。同様に「直交」という表現は、ある方向に対し厳密に直交する状態のみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の角度をもって傾斜している状態も表すものとする。
また例えば、矩形形状等の形状を表す表現は、幾何学的に厳密な意味での矩形形状等のみならず、同じ効果が得られる範囲で、凹凸部や面取り部等を含む形状も表すものとする。
台板2は、クランク軸8のジャーナル部9を回転可能に支持しており、クランク軸8のクランクピン10には、連接棒11の下端部が連結されている。連接棒11の上端部は、ピン継手としてのクロスヘッド12を介してピストン棒13の下端部に連結されている。クロスヘッド12の両側には、上下方向に延在する摺動板14が設けられ、クロスヘッド12の上下動は摺動板14によって案内される。
図2に示したように、シリンダ15の上にはシリンダカバー(シリンダヘッド)17が配置され、シリンダカバー17は、シリンダ15の上端側を挟んだ状態で、カバーボルト18によってシリンダジャケット4に締結されている。
シリンダカバー17、シリンダ15及びピストン16は、シリンダ15の上端側に燃焼室19を形成している。シリンダカバー17には、燃焼室19に開口する排気ポート20が設けられ、排気ポート20は排気弁21によって開閉される。また、シリンダカバー17には、燃料噴射弁22が取り付けられている。
なお例えば、エンジン1が6気筒の場合、それぞれ6つのシリンダ15とピストン16が設けられ、6つの燃焼室19が1つの排気静圧管34に接続される。そして、1つの排気静圧管34に2つのターボチャージャ26のタービン28が接続される。
内周片56は、第1舌部48の径方向内側を形成しており、当接片58は、内周片56の軸線方向燃焼室19側から径方向にて外方に突出している。内周片56及び当接片58は、周方向直交断面にてL字状の断面形状を有しており、周方向に沿って延在する嵌合凹部60を形成している。第1舌部48において、嵌合凹部60は、径方向外側に位置し、且つ、軸線方向にてクロスヘッド12側(クランク室7)側に位置している。
従って、第1舌部48の径方向外側面64は、軸線方向にてバレルセンタBCから離れるほど第1舌部48の径方向厚さ(径方向幅)が徐々に短くなるように形成されている。一方、第2舌部50の径方向外側面66も、軸線方向にてバレルセンタBCから離れるほど、第2舌部50の径方向厚さ(径方向幅)が徐々に短くなるように形成されている。
第1舌部48では、径方向外側面(外周面)64の周方向先端面68側の部分が傾斜面72によって形成されるとともに、曲面によって構成されたコーナー部74を介して傾斜面72と周方向先端面68が繋がっている。なお傾斜面72は、第1舌部48が周方向先端面68に向かって先細形状になるように傾斜している。
幾つかの実施形態では、図7に示したように、コーナー部74,78は曲面によって構成され、コーナー部74,78の曲面は、例えば4分割円筒形状を有する。そして、本体部44の径方向厚さ(径方向幅)をDとしたとき(図4参照)、コーナー部74,78の曲面の曲率半径Rは、本体部44の厚さDの5%以上20%以下である。なお、コーナー部74,78の曲面の曲率中心は、軸線CLに平行な軸である。
なお、コーナー部74,78の曲面の中心角は、厳密に90°に限定されることはなく、例えば、80°以上100°以下の範囲に入っていればよい。また、コーナー部74の曲面の曲率は徐々に変化していてもよく、軸線直交断面にてコーナー部74の曲面がなす弧は、円の一部のみならず、楕円の一部によって形成されていてもよい。
この構成によれば、重ね合わせ領域S3の初期の長さcがシリンダ15の初期の内径の1%以上であることによって、摩耗によりシリンダ15の内径が拡大し、ピストンリング40の外径が拡大しても、重ね合わせ領域S3が確保される。この結果として、ピストンリング40の合口部46とシリンダ内周面42との間におけるシール性が長期に渡り確保される。
なお、ピストンリング40の平均1000時間の摩耗量δとは、エンジン1を通常の運転条件、例えば、負荷75〜85%の負荷での運転条件で1000時間動作させた場合における、ピストンリング40及びシリンダ内周面42の摩耗による、ピストンリング40の外径の拡大量である。
この点、傾斜面72,76の傾斜量aがピストンリング40の平均1000時間の摩耗量δの1倍以上30倍以下であれば、コーナー部74,78と反対側の傾斜面72,76の端縁がシリンダ内周面42に強く当たることを防止することができる。
重ね合わせ領域S3の初期の長さcと傾斜面72,76の長さbとの差(c−b)が短すぎると、シリンダ内周面42の偏摩耗によりピストンリング40の外径が大きくなったときに、合口部46とシリンダ内周面42との間におけるシール性が低下してしまう。
この点、重ね合わせ領域S3の初期の長さcと傾斜面72,76の長さbとの差(c−b)がピストンリング40の平均1000時間の摩耗量δのπ倍以上30π倍以下であることによって、シリンダ内周面42の偏摩耗によりピストンリング40の外径が大きくなっても、合口部46とシリンダ内周面42との間におけるシール性が長期に渡って確保される。
ピストン16が上死点近傍に位置しているときには、シリンダ内周面42に対するピストン16の相対速度がゼロになってピストンリング40とシリンダ内周面42との間で油膜切れが生じ易い上に、燃料の爆発により燃焼室19の圧力及び温度が高くなることから、ピストンリング40とシリンダ内周面42の摺動条件が厳しくなる。このため、シリンダ内周面42の上死点近傍は、シリンダカバー17に向かって広がるように偏摩耗する。つまり、シリンダ内周面42の上死点近傍は、シリンダ15の軸線CLに対して傾斜するように偏摩耗する。
図10Aと図10Bとを比較すると、コーナー部74と傾斜面72を設けることにより、第1舌部48のコーナー部74とシリンダ内周面42との間の接触面圧が、コーナー部74と傾斜面72を設けない場合に比べて抑制されているのがわかる。
図11Aの周方向位置は図10Aの周方向位置に対応しており、図11Bの周方向位置は図11Bの周方向位置に対応している。また、図11A及び図11Bには、吹き抜けが起きる最小隙間量(第1舌部クライテリア及び第2舌部クライテリア)が示されている。
例えば、上述した実施形態では、第1舌部48及び第2舌部50の両方にコーナー部74,78及び傾斜面72,76が設けられていたが、少なくとも第1舌部48にコーナー部74及び傾斜面72が設けられていればよい。
また、ピストンリング40は、複数のピストンリングがピストン16に装着される場合、燃焼室19の最も近くに配置されるトップリングに好適であるが、トップリング以外にも適用可能である。
更に、ピストンリング40が適用されるエンジン1は、舶用2サイクル大型ディーゼルエンジンが好適であるが、他のエンジンであってもよい。
2 台板
3 架構
4 シリンダジャケット
5 タイボルト
6 オイルパン
7 クランク室
8 クランク軸
9 ジャーナル部
10 クランクピン
11 連接棒
12 クロスヘッド
13 ピストン棒
14 摺動板
15 シリンダ
16 ピストン
17 シリンダカバー
18 カバーボルト
19 燃焼室
20 排気ポート
21 排気弁
22 燃料噴射弁
23 掃気ポート
24 掃気室
25 グランドパッキン
26 ターボチャージャ
27 コンプレッサ
28 タービン
29 空気導管
30 掃気トランク室
31 空気冷却器
32 水滴分離器
33 逆流防止扉
34 排気静圧管
40 ピストンリング
41 ピストンリング溝
42 シリンダ内周面
44 本体部
46 合口部
48 第1舌部
50 第2舌部
52 一端面
54 他端面
56 内周片
58 当接片
60 嵌合凹部
64 径方向外側面(外周面)
66 径方向外側面(外周面)
68 周方向先端面
70 周方向先端面
72 傾斜面
74 コーナー部
76 傾斜面
78 コーナー部
BC バレルセンタ
CL 軸線
S1,S2 非重ね合わせ領域
S3 重ね合わせ領域
Claims (9)
- 軸線回りの周方向に沿って延在する本体部と、
前記本体部の一端から他端に延在し、前記本体部の径方向外側において前記軸線方向の一方側に前記周方向に沿って延在する嵌合凹部が形成された第1舌部と、
前記本体部の前記他端から前記本体部の前記一端に延在し、前記嵌合凹部に嵌合することにより前記第1舌部と共に合口部を形成する第2舌部とを備え、
前記第1舌部及び前記第2舌部のうち少なくとも前記第1舌部において、径方向外側面の周方向先端面側の部分が傾斜面によって形成されるとともに、曲面によって構成されたコーナー部を介して前記傾斜面と前記周方向先端面が繋がっており、
前記第1舌部及び前記第2舌部の径方向外側面は、径方向外方に向かって膨らんだ一つのバレル面を形成し、
前記バレル面のバレルセンタは前記第2舌部の径方向外側面内に位置している
ことを特徴とするピストンリング。 - 軸線回りの周方向に沿って延在する本体部と、
前記本体部の一端から他端に延在し、前記本体部の径方向外側において前記軸線方向の一方側に前記周方向に沿って延在する嵌合凹部が形成された第1舌部と、
前記本体部の前記他端から前記本体部の前記一端に延在し、前記嵌合凹部に嵌合することにより前記第1舌部と共に合口部を形成する第2舌部とを備え、
前記第1舌部及び前記第2舌部の各々において、径方向外側面の周方向先端面側の部分が傾斜面によって形成されるとともに、曲面によって構成されたコーナー部を介して前記傾斜面と前記周方向先端面が繋がっていることを特徴とするピストンリング。 - 軸線回りの周方向に沿って延在する本体部と、
前記本体部の一端から他端に延在し、前記本体部の径方向外側において前記軸線方向の一方側に前記周方向に沿って延在する嵌合凹部が形成された第1舌部と、
前記本体部の前記他端から前記本体部の前記一端に延在し、前記嵌合凹部に嵌合することにより前記第1舌部と共に合口部を形成する第2舌部とを備え、
前記第1舌部及び前記第2舌部のうち少なくとも前記第1舌部において、径方向外側面の周方向先端面側の部分が傾斜面によって形成されるとともに、曲面によって構成されたコーナー部を介して前記傾斜面と前記周方向先端面が繋がっており、
前記第1舌部及び前記第2舌部の径方向外側面は、径方向外方に向かって膨らんだ一つのバレル面を形成している
ことを特徴とするピストンリング。 - 前記コーナー部の曲面の曲率半径は、前記径方向での前記本体部の厚さの5%以上20%以下である
ことを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載のピストンリング。 - 前記第1舌部と前記第2舌部とが重なり合う重ね合わせ領域の前記周方向に沿った初期の長さは、前記ピストンリングの摺動対象であるシリンダの初期の内径の1%以上4%以下であることを特徴とする請求項1乃至4の何れか一項に記載のピストンリング。
- 前記周方向に沿った前記傾斜面の長さ及び前記傾斜面の傾斜角度に基づいて規定される前記傾斜面の傾斜量は、前記ピストンリングの平均1000時間の摩耗量の1倍以上30倍以下であることを特徴とする請求項1乃至5の何れか一項に記載のピストンリング。
- 前記第1舌部と前記第2舌部とが重なり合う重ね合わせ領域の前記周方向に沿った初期の長さと前記周方向に沿った前記傾斜面の長さとの差は、前記ピストンリングの平均1000時間の摩耗量のπ倍以上30π倍以下であることを特徴とする請求項1乃至6の何れか一項に記載のピストンリング。
- 前記第1舌部及び前記第2舌部の径方向外側面は、径方向外方に向かって膨らんだ一つのバレル面を形成し、
前記バレル面のバレルセンタは前記第2舌部の径方向外側面内に位置している
ことを特徴とする請求項2に記載のピストンリング。 - シリンダと、
該シリンダ内を往復動可能であり、前記シリンダ内に燃焼室を形成するピストンと、
前記ピストンに装着された請求項1乃至8の何れか一項に記載のピストンリングを備えることを特徴とするエンジン。
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