本発明の第一の形態のシリンダボア壁の保温具及び本発明の内燃機関について、図1〜図15を参照して説明する。図1〜図4は、本発明の第一の形態のシリンダボア壁の保温具が設置されるシリンダブロックの形態例を示すものであり、図1及び図4は、本発明の第一の形態のシリンダボア壁の保温具が設置されるシリンダブロックを示す模式的な平面図であり、図2は、図1のx−x線断面図であり、図3は、図1に示すシリンダブロックの斜視図である。図5は、本発明の第一の形態のシリンダボア壁の保温具の形態例を示す模式的な斜視図である。図6は、図5中の保温具36aを上から見た図である。図7は、図5中の保温具36aを横から見た図であり、内側から見た図である。図8は、図5中の保温具36aを横から見た図であり、背面側から見た図である。図9は、図7のy−y線断面図である。図10は、図5中の保温具36aの各部材の位置関係を示す図であり、内側から見た図である。図11は、図5中の保温具36aを組み立てる様子を示す図である。図12は、図1に示すシリンダブロック11に、シリンダボア壁の保温具36aが挿入される様子を示す模式図である。図13は、図1に示すシリンダブロック11の溝状冷却水流路14内に、シリンダボア壁の保温具36aを設置した後且つ感熱膨張ゴムが膨張する前の様子を示す模式図である。図14は、図1に示すシリンダブロック11に、シリンダボア壁の保温具36aが設置されている様子を示す模式図であり、(A)は、図13中のz−z線端面図であり、感熱膨張ゴムが膨張する前の様子を示す図であり、(B)は、感熱膨張ゴムが膨張した後の様子を示す図である。図15は、溝状冷却水流路14内で感熱膨張ゴム35が膨張した後の様子を示す拡大断面図である。
図1〜図3に示すように、シリンダボア壁の保温具が設置される車両搭載用内燃機関のオープンデッキ型のシリンダブロック11には、ピストンが上下するためのボア12、及び冷却水を流すための溝状冷却水流路14が形成されている。そして、ボア12と溝状冷却水流路14とを区切る壁が、シリンダボア壁13である。また、シリンダブロック11には、溝状冷却水流路11へ冷却水を供給するための冷却水供給口15及び冷却水を溝状冷却水流路11から排出するための冷却水排出口16が形成されている。
このシリンダブロック11には、2つ以上のボア12が直列に並ぶように形成されている。そのため、ボア12には、1つのボアに隣り合っている端ボア12a1、12a2と、2つのボアに挟まれている中間ボア12b1、12b2とがある(なお、シリンダブロックのボアの数が2つの場合は、端ボアのみである。)。直列に並んだボアのうち、端ボア12a1、12a2は両端のボアであり、また、中間ボア12b1、12b2は、一端の端ボア12a1と他端の端ボア12a2の間にあるボアである。端ボア12a1と中間ボア12b1の間の壁、中間ボア12b1と中間ボア12b2の間の壁及び中間ボア12b2と端ボア12a2の間の壁(ボア間壁191)は、2つのボアに挟まれる部分なので、2つのシリンダボアから熱が伝わるため、他の壁に比べ壁温が高くなる。そのため、溝状冷却水流路14のシリンダボア側の壁面17では、ボア間壁191の近傍が、温度が最も高くなるので、溝状冷却水流路14のシリンダボア側の壁面17のうち、各シリンダボアのボア壁の境界192及びその近傍の温度が最も高くなる。
また、本発明では、溝状冷却水流路14の壁面のうち、シリンダボア13側の壁面を、溝状冷却水流路のシリンダボア壁17と記載し、溝状冷却水流路14の壁面のうち、溝状冷却水流路のシリンダボア壁17とは反対側の壁面を、シリンダボア壁の対壁18と記載する。
また、本発明において、片側半分とは、シリンダブロックをシリンダボアが並んでいる方向で垂直に二分割したときの片側の半分を指す。よって、本発明において、全シリンダボアのボア壁のうちの片側半分のボア壁とは、全シリンダボア壁をシリンダボアが並んでいる方向で垂直に二分割したときの片側の半分のボア壁を指す。例えば、図4では、シリンダボアが並んでいる方向がZ−Z方向であり、このZ−Z線で垂直に二分割したときの片側半分のボア壁のそれぞれが、全シリンダボアのボア壁のうちの片側半分のボア壁である。つまり、図4では、Z−Z線より20a側の片側半分のボア壁が、全シリンダボアのボア壁のうちの一方の片側半分のボア壁21aであり、Z−Z線より20b側の片側半分のボア壁が、全シリンダボアのボア壁のうちの他方の片側半分のボア壁21bである。また、全シリンダボア壁のうちの片側とは、片側半分のボア壁21a又は片側半分のボア壁21bのいずれかを指し、片側の一部とは、片側半分のボア壁21aの一部又は片側半分のボア壁21bの一部を指す。
また、本発明において、各シリンダボアのボア壁とは、1つ1つのシリンダボアに対応する各ボア壁部分を指し、図4では、両矢印22a1で示す範囲が、シリンダボア12a1のボア壁23a1であり、両矢印22b1で示す範囲が、シリンダボア12b1のボア壁23b1であり、両矢印22b2で示す範囲が、シリンダボア12b2のボア壁23b2であり、両矢印22a2で示す範囲が、シリンダボア12a2のボア壁23a2であり、両矢印22b3で示す範囲が、シリンダボア12b1のボア壁23b3であり、両矢印22b4で示す範囲が、シリンダボア12b2のボア壁23b4である。つまり、シリンダボア12a1のボア壁23a1、シリンダボア12b1のボア壁23b1、シリンダボア12b2のボア壁23b2、シリンダボア12a2のボア壁23a2、シリンダボア12b1のボア壁23b3及びシリンダボア12b2のボア壁23b4が、それぞれ、各シリンダボアのボア壁である。
図5に示すシリンダボア壁の保温具36aは、図4中、一方の片側半分(20b側)のボア壁21bを保温するための保温具である。シリンダボア壁の保温具36aには、冷却水流れ仕切り部材45が付設されている。冷却水流れ仕切り部材45は、図4に示すシリンダブロック11では、冷却水供給口15から溝状冷却水流路14へ供給された冷却水が、直ぐに近傍にある冷却水排出口16から排出されることなく、先ず、20b側の片側半分の溝状冷却水流路14を、冷却水供給口15の位置とは反対側の端に向かって流れ、20b側の片側半分の溝状冷却水流路14の冷却水供給口15の位置とは反対側の端まで来ると、20a側の片側半分の溝状冷却水流路14に回り、次いで、20a側の片側半分の溝状冷却水流路14を、冷却水排出口16に向かって流れ、最後に、冷却水排出口16から排出されるように、冷却水の供給口15と排出口16との間を仕切るための部材である。また、図4には、20a側の片側半分の溝状冷却水流路14を端まで流れた冷却水が、シリンダブロック11の横側に形成されている冷却水排出口16から排出される形態のシリンダブロックを記載したが、他には、例えば、20a側の片側半分の溝状冷却水流路14を一方の端から他方の端まで流れた冷却水が、シリンダブロックの横側から排出されるのではなく、シリンダヘッドに形成されている冷却水流路に流れ込む形態のシリンダブロックがある。
図5〜図9に示すように、シリンダボア壁の保温具36aは、合成樹脂の成形体であり、上から見たときに、4つの円弧が連続する形状に成形されており、溝状冷却水流路14の片側半分に沿う形状である基体部材34aと、感熱膨張ゴム35と、金属板の成形体である背面金属板31と、を有する。
基体部材34aには、基体部材34aの背面側に配設されている感熱膨張ゴム35が、感熱膨張時に基体部材を通り抜けて、基体部材34aの内側面より内側に膨出することができるようにするための感熱膨張ゴム膨出用開口33が、各ボア部毎に形成されている。シリンダボア壁の保温具36aは、図4に示すシリンダブロック11の片側半分のボア壁21bを保温するための保温具であり、シリンダブロック11の片側半分のボア壁21bには、シリンダボア12a1のボア壁23a1、シリンダボア12b1のボア壁23b3、シリンダボア12b2のボア壁23b4及びシリンダボア12a2のボア壁23a2と、4つの各シリンダボアのボア壁がある。そして、シリンダボア壁の保温具36aでは、この4つの各シリンダボアのボア壁を保温するために、感熱膨張ゴム35が配設される。そのため、シリンダボア壁の保温具36aには、保温対象であるシリンダボア12a1のボア壁23a1、シリンダボア12b1のボア壁23b3、シリンダボア12b2のボア壁23b4及びシリンダボア12a2のボア壁23a2のそれぞれに対応する位置に、感熱膨張ゴム膨出用開口33が形成されている。
図10では、基体部材34aの背面側にある感熱膨張ゴム35の輪郭を符号42の点線で示し、背面金属板31を符号41の点線で示すが、図10に示すように、感熱膨張ゴム35が、感熱膨張ゴム膨出用開口33を背面側から覆っており、且つ、背面金属板31が、感熱膨張ゴム35を背面側から覆っている。そのため、シリンダボア壁の保温具36aでは、背面金属板31が固定され、基体部材34に固定された背面金属板31と、基体部材34aの感熱膨張ゴム膨出用開口33の周縁部46とで、感熱膨張ゴム35の外縁部40が挟み込まれることにより、感熱膨張ゴム35が基体部材34aに固定されている。
感熱膨張ゴム35は、膨張前は、ベースフォーム材が熱可塑性物質により圧縮されて拘束された状態であり、加熱されることにより、熱可塑性樹脂による拘束が解け、圧縮される前の状態、すなわち、開放状態まで膨張するゴム材である。感熱膨張ゴム35は、基体部材34aの背面側に配設され、感熱膨張ゴム膨出用開口33を覆っている、この感熱膨張ゴム35は、シリンダブロック11の溝状冷却水流路14に設置された後、加熱されることにより膨張し、加熱により膨張(感熱膨張)することにより、感熱膨張ゴム膨出用開口33を通り抜けて、基体部材34aの内側面より内側に膨出し、接触面26が溝状冷却水流路14のシリンダボア壁に接触するまで膨張する。そして、感熱膨張して、感熱膨張ゴム35が、溝状冷却水流路14のシリンダボア壁17の壁面を覆うことにより、溝状冷却水流路14のシリンダボア壁17が保温される。感熱膨張ゴム35は、その外縁部40が、基体部材34aの感熱膨張ゴム膨出用開口33の周縁部46と背面金属板31とに挟み込まれることにより、基体部材34aに固定される。また、感熱膨張ゴム35が基体部材34aに固定されることにより、溝状冷却水流路14内での感熱膨張ゴム35の位置が位置決めされる。
シリンダボア壁の保温具36aでは、感熱膨張ゴム35の背面側は、背面金属板31で覆われている。そして、感熱膨張ゴム35の背面側が、背面金属板31で覆われていることにより、感熱膨張ゴム35がシリンダボア壁の対壁18に向けて膨張することが妨げられる。
シリンダボア壁の保温具36aでは、背面金属板31には、付勢部材32が付設されている。シリンダボア壁の保温具36aでは、背面金属板31の両方の横側に、金属板バネが形成されており、この金属板バネが折り曲げられることにより、付勢部材32が形成されている。そして、シリンダボア壁の保温具36aがシリンダブロック11の溝状冷却水流路14に設置され、感熱膨張ゴム35が感熱膨張して、付勢部材32が、溝状冷却水流路14のシリンダボア壁の対壁18に接触し且つ弾性変形することにより、付勢部材32の付勢力が生じ、その付勢直により、感熱膨張ゴム35が、背面側から溝状冷却水流路14のシリンダボア壁17に向かって押し付けられる。このことにより、感熱膨張ゴム35の接触面26が、溝状冷却水流路14のシリンダボア壁17に密着する。
シリンダボア壁の保温部36aでは、基体部材34aの上には、基体部材34aから上に向けて、押え部材39が立設されている。シリンダボア壁の保温部36aが溝状冷却水流路14内に設置されると、押え部材39の上端が、シリンダヘッド又はシリンダヘッドガスケットに接する。このことにより、溝状冷却水流路14内でのシリンダボア壁の保温部36aの上下方向の移動が制限される。
シリンダボア壁の保温具36aは、例えば、図1に示すシリンダブロック11の溝状冷却水流路14に設置される。図12に示すように、シリンダボア壁の保温具36aを、シリンダブロック11の溝状冷却水流路14に挿入して、図13に示すように、シリンダボア壁の保温具36aを、溝状冷却水流路14内に設置する。シリンダボア壁の保温具36aを、溝状冷却水流路14に挿入するときには、未だ、感熱膨張ゴム35は、膨張していないので、シリンダボア壁の保温具36aの幅は、溝状冷却水流路14の流路幅より小さい。そのため、シリンダボア壁の保温具36aを、溝状冷却水流路14内に挿入するときには、大きな抵抗なく、シリンダボア壁の保温具36aを、溝状冷却水流路14に設置することができる。
そして、シリンダボア壁の保温具36aが、溝状冷却水流路14に設置された後、加熱前は、図14(A)に示すように、シリンダボア壁の保温具36aとシリンダボア壁17の間には、隙間301が存在するが、図14(B)に示すように、感熱膨張ゴムが加熱されると、感熱膨張ゴム35は、シリンダボア壁17に接触するまで膨張する。このとき、付勢部材32が弾性変形し、付勢部材32の付勢力が生じ、その付勢力により、背面金属板31が、感熱膨張ゴム35を背面側からシリンダボア壁17に向かって押し付ける。
シリンダボア壁の保温具36aは、例えば、図11に示すように、感熱膨張ゴム膨出用開口33が形成されている基体部材34aと、感熱膨張ゴム膨出用開口33を覆う形状に成形されている感熱膨張ゴム35と、上側及び下側に折り曲げ部37が形成され、右側及び左側に嵌合口38及び板バネ部32が形成されている背面金属板31と、を用意し、次いで、基体部材34aに、感熱膨張ゴム35及び背面金属板31を順に重ね、次いで、背面金属板31の嵌合口38を、基体部材34aの背面側に形成されている嵌合突起44に嵌め合わせると共に、背面金属板31の折り曲げ部37を折り曲げて、背面金属板31を基体部材34aに固定することにより作製される。なお、本発明のシリンダボア壁の保温具は、上記に示す方法により製造されるものに限定されるものではない。
本発明の第一の形態のシリンダボア壁の保温具は、シリンダボアを有する内燃機関のシリンダブロックの溝状冷却水流路に設置され、全シリンダボアのボア壁の全部又は全シリンダボアのボア壁のうちの一部を保温するための保温具であり、
合成樹脂製であり、該保温具の設置位置の該溝状冷却水流路の形状に沿う形状を有し、シリンダボア壁の保温部位に対向する位置に、背面側に配設されている感熱膨張ゴムが、感熱膨張時に基体部材を通り抜けるための感熱膨張ゴム膨出用開口が形成されている基体部材と、
該基体部材の背面側に配設され、該感熱膨張ゴム膨出用開口を覆う感熱膨張ゴムと
該感熱膨張ゴムの背面側を覆い、該基体部材に固定され、該基体部材との間で、該感熱膨張ゴムの外縁部を挟み込むことにより、該感熱膨張ゴムを該基体部材に固定する背面金属板と、
を有し、
該背面金属板には、感熱膨張後の該感熱膨張ゴムをシリンダボア壁に向かって付勢するための付勢部材が付設されていること、
を特徴とするシリンダボア壁の保温具である。
本発明の第一の形態のシリンダボア壁の保温具は、内燃機関のシリンダブロックの溝状冷却水流路に設置される。本発明の第一の形態のシリンダボア壁の保温具が設置されるシリンダブロックは、シリンダボアが直列に2つ以上並んで形成されているオープンデッキ型のシリンダブロックである。シリンダブロックが、シリンダボアが直列に2つ並んで形成されているオープンデッキ型のシリンダブロックの場合、シリンダブロックは、2つの端ボアからなるシリンダボアを有している。また、シリンダブロックが、シリンダボアが直列に3つ以上並んで形成されているオープンデッキ型のシリンダブロックの場合、シリンダブロックは、2つの端ボアと1つ以上の中間ボアとからなるシリンダボアを有している。なお、本発明では、直列に並んだシリンダボアのうち、両端のボアを端ボアと呼び、両側が他のシリンダボアで挟まれているボアを中間ボアと呼ぶ。
本発明の第一の形態のシリンダボア壁の保温具が設置される位置は、溝状冷却水流路である。内燃機関の多くでは、シリンダボアの溝状冷却水流路の中下部に相当する位置が、ピストンの速さが速くなる位置なので、この溝状冷却水流路の中下部を保温することが好ましい。図2では、溝状冷却水流路14の最上部9と最下部8の中間近傍の位置10を、点線で示しているが、この中間近傍の位置10から下側の溝状冷却水流路14の部分を、溝状冷却水流路の中下部と呼ぶ。なお、溝状冷却水流路の中下部とは、溝状冷却水流路の最上部と最下部の丁度中間の位置から下の部分という意味ではなく、最上部と最下部の中間位置の近傍から下の部分という意味である。また、内燃機関の構造によっては、ピストンの速さが速くなる位置が、シリンダボアの溝状冷却水流路の下部に当たる位置である場合もあり、その場合は、溝状冷却水流路の下部を保温することが好ましい。よって、溝状冷却水流路の最下部からどの位置までを本発明の第一の形態のシリンダボア壁の保温具で保温するか、つまり、ゴム部材の上端の位置を溝状冷却水流路の上下方向のどの位置にするかは、適宜選択される。
本発明の第一の形態のシリンダボア壁の保温具は、周方向に見たときに、溝状冷却水流路のシリンダボア側の壁面の全部又は溝状冷却水流路のシリンダボア側の壁面のうちの一部を保温するための保温具である。つまり、本発明の第一の形態のシリンダボア壁の保温具は、周方向に見たときに、全シリンダボアのボア壁の全部又は全シリンダボアのボア壁の一部を保温するための保温具である。本発明のシリンダボア壁の保温具のとしては、例えば、図5に示す形態例のように、全シリンダボアのボア壁のうち片側半分を保温するための保温具、図16に示す形態例のように、全シリンダボアのボア壁のうち片側の一部を保温するための保温具、図17に示す形態例のように、全シリンダボアのボア壁の全部を保温するための保温具が挙げられる。なお、本発明において、片側半分又は片側の一部とは、シリンダボア壁又は溝状冷却水流路の周方向の片側半分又は片側の一部との意味である。
本発明の第一の形態のシリンダボア壁の保温具は、基体部材と、感熱膨張ゴムと、背面金属板と、を有する。
本発明の第一の形態のシリンダボア壁の保温具に係る基体部材は、合成樹脂製である。基体部材は、上から見たときに、2以上の円弧が連続する形状を有しており、感熱膨張ゴムにより保温する範囲に亘って、円弧が連続して繋がった形状を有している。つまり、基体部材は、本発明の第一の形態のシリンダボア壁の保温具が設置される溝状冷却水流路の形状に沿う形状に成形された合成樹脂の成形体である。
基体部材は、背面金属板が固定される部材であり、且つ、感熱膨張ゴムを基体部材に固定するために、感熱膨張ゴムの外縁部を、基体部材の感熱膨張ゴム膨出用開口の周縁部と背面金属板との間に挟み込む部材である。つまり、基体部材は、感熱膨張ゴムが固定される部材である。また、基体部材は、感熱膨張後に、感熱膨張ゴムの弾性力と付勢部材の付勢力により、溝状冷却水流路内での基体部材の位置が固定されることにより、溝状冷却水流路内での感熱膨張ゴムの位置決めをする部材である。
基体部材には、基体部材の背面側に配設されている感熱膨張ゴムが、感熱膨張時に基体部材を通り抜けて、基体部材の内側面より内側に膨出し、感熱膨張ゴムの接触面が溝状冷却水流路のシリンダボア壁に接触することができるようにするための感熱膨張ゴム膨出用開口が、各ボア部毎に形成されている。そのため、保温対象となる各シリンダボアのボア壁のそれぞれに対向する位置に、感熱膨張ゴム膨出用開口が形成されている。なお、本発明において、各シリンダボアのボア壁とは、1つ1つのシリンダボアに対応する各ボア壁部分を指す。また、基体部材の各ボア部とは、各シリンダボアのボア壁1つ側の基体部材の部分のことであり、上から見たときの基体部材を形成する円弧形状の1つ分である。
基体部材を形成する合成樹脂は、通常、内燃機関のシリンダブロックの溝状冷却水流路内に設置されるシリンダボア壁の保温具やウォータージャケットスペーサに用いられる合成樹脂であれば、特に制限されず、適宜選択される。
本発明の第一の形態のシリンダボア壁の保温具に係る感熱膨張ゴムは、溝状冷却水流路内で、接触面が溝状冷却水流路のシリンダボア壁に接触するまで感熱膨張して、シリンダボア壁を覆うことにより、シリンダボア壁を保温するための部材である。この感熱膨張ゴムは、感熱膨張ゴム膨出用開口を、基体部材の背面側から覆うことができる形状に成形され、外縁部が、基体部材の感熱膨張ゴム膨出用開口の周縁部と背面金属板との間に挟み込まれて、基体部材に固定されることにより、基体部材の感熱膨張ゴム膨出用開口を背面側から覆うように配設されている。そして、感熱膨張ゴムは、溝状冷却水流路内で、感熱膨張時に、感熱膨張ゴム膨出用開口を、基体部材の背面側から内側に通り抜け、更に、基体部材の内側面よりも内側に膨出して、溝状冷却水流路のシリンダボア壁に接触するまで膨張する。
感熱膨張ゴムは、膨張前は、ベースフォーム材が熱可塑性物質により圧縮されて拘束された状態であり、加熱されることにより、熱可塑性樹脂による拘束が解け、圧縮される前の状態、すなわち、開放状態まで膨張するゴム材である。感熱膨張ゴム(圧縮状態)は、ベースフォーム材にベースフォーム材より融点が低い熱可塑性物質を含浸させ圧縮した複合体であり、常温では少なくともその表層部に存在する熱可塑性物質の硬化物により圧縮状態が保持され、且つ、加熱により熱可塑性物質の硬化物が軟化して圧縮状態が開放される材料である。感熱膨張ゴムとしては、例えば、特開2004−143262号公報に記載の感熱膨張ゴムが挙げられる。
感熱膨張ゴムに係るベースフォーム材としては、ゴム、エラストマー、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂等の各種高分子材料が挙げられ、具体的には、天然ゴム、クロロプロピレンゴム、スチレンブタジエンゴム、ニトリルブタジエンゴム、エチレンプロピレンジエン三元共重合体、シリコーンゴム、フッ素ゴム、アクリルゴム等の各種合成ゴム、軟質ウレタン等の各種エラストマー、硬質ウレタン、フェノール樹脂、メラミン樹脂等の各種熱硬化性樹脂が挙げられる。
感熱膨張ゴムに係る熱可塑性物質としては、ガラス転移点、融点又は軟化温度のいずれかが120℃未満であるものが好ましい。感熱膨張ゴムに係る熱可塑性物質としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、ポリアクリル酸エステル、スチレンブタジエン共重合体、塩素化ポリエチレン、ポリフッ化ビニリデン、エチレン酢酸ビニル共重合体、エチレン酢酸ビニル塩化ビニルアクリル酸エステル共重合体、エチレン酢酸ビニルアクリル酸エステル共重合体、エチレン酢酸ビニル塩化ビニル共重合体、ナイロン、アクリロニトリルブタジエン共重合体、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニル、ポリクロロプレン、ポリブタジエン、熱可塑性ポリイミド、ポリアセタール、ポリフェニレンサルファイド、ポリカーボネート、熱可塑性ポリウレタン等の熱可塑性樹脂、低融点ガラスフリット、でんぷん、はんだ、ワックス、鋳鉄、ステンレス、アルミニウムなどの金属材料等の各種熱可塑性物質が挙げられる。
感熱膨張ゴムの厚みは、感熱膨張ゴムの膨張率、溝状冷却水流路の幅、基体部材の内側面とシリンダボア壁との距離、背面金属板の内側面とシリンダボア壁との距離等を考慮して、適宜選択される。
本発明の第一の形態のシリンダボア壁の保温具に係る背面金属板は、金属製であり、金属板の成形体である。背面金属板は、感熱膨張ゴムの背面側を覆っている。背面金属板の形状は、上から見たときに、弧状である。背面金属板は、基体部材の感熱膨張ゴム膨出用開口の周縁部とで、感熱膨張ゴムの外縁部を挟み込むことにより、感熱膨張ゴムを基体部材に固定すると共に、感熱膨張ゴムが基体部材の背面側に膨張するのを妨げる部材である。
背面金属板を形成する金属は、通常、内燃機関のシリンダブロックの溝状冷却水流路内に設置されるシリンダボア壁の保温具やウォータージャケットスペーサに用いられる金属であれば、特に制限されず、適宜選択される。背面金属板の材質としては、例えば、ステンレス鋼(SUS)、アルミニウム合金、軟鋼、硬鋼、合金鋼等が挙げられる。
背面金属板を基体部材に固定する方法としては、特に制限されず、例えば、背面金属板に折り曲げ部を形成させ、その折り曲げ部を折り曲げて、折り曲げた折り曲げ部と背面金属板との間で基体部材の端部を挟み込むことにより固定する方法や、背面金属板に嵌合口を形成させ、その嵌合口を基体部材に形成されている嵌合突起に嵌合させることにより固定する方法や、金具により固定する方法や、リベットにより固定する方法や、これらの方法の組み合わせ等が挙げられる。つまり、背面金属板は、背面金属板に形成されている固定用部位を介して、基体部材に固定されている。
本発明の第一の形態のシリンダボア壁の保温具では、背面金属板には、付勢部材が付設されている。付勢部材の形態は、特に制限されず、例えば、板状の付勢部材、コイル状の付勢部材、重ね板バネ、トーションバネ、弾性ゴム等が挙げられる。付勢部材の材質は、特に制限されないが、耐LLC性が良く及び強度が高い点で、ステンレス鋼(SUS)、アルミニウム合金等が好ましい。付勢部材としては、金属板バネ、コイルバネ、重ね板バネ、トーションバネ等の金属製の付勢部材が好ましい。
付勢部材は、図5に示す形態例では、背面金属板が金属板から加工されるときに、背面金属板を基体部材に固定するための固定用部位(図11では、符号37で示す折り曲げ部及び符号38で示す嵌合口)と共に形成されている金属板バネであるが、本発明ではこれに制限されない。付勢部材としては、金属板から背面金属板に加工されるときに、背面金属板及び固定用部位と共に形成された付勢部材であってもよいし、あるいは、背面金属板とは別に作製され、背面金属板に接着、溶接、カシメなどの物理的な固定等の適宜の付設方法により付設された付勢部材であってもよい。付勢部材の付設位置は、適宜選択される。付勢部材が、金属板を加工して背面金属板を作製するときに、背面金属板と共に加工されて作製された付勢部材であること、すなわち、金属板から背面金属板と共に一体成形された付勢部材であることが、簡便に付勢部材を背面金属板に付設できる点で好ましい。
付設部材の付設位置は、適宜選択され、例えば、背面金属板の右側及び左側、背面金属板の上側及び下側、背面金属板の上側、下側、左側及び右側、それらの位置に加えて、更に、背面金属板の中央又はその近傍等の位置が挙げられる。また、付設部材の付設数は、適宜選択される。
本発明の第一の形態のシリンダボア壁の保温具がシリンダブロックの溝状冷却水流路に設置された後、感熱膨張ゴムが感熱膨張することにより、付勢部材が、溝状冷却水流路のシリンダボア壁の対壁に接触し且つ弾性変形する。そして、付勢部材が弾性変形することで生じる付勢部材の付勢力により、感熱膨張ゴムが、背面側から、背面金属板を介して、溝状冷却水流路のシリンダボア壁に向かって押し付けられる。このことにより、感熱膨張ゴムの接触面が、溝状冷却水流路のシリンダボア壁に密着して、溝状冷却水流路のシリンダボア壁を覆い、シリンダボア壁が保温される。
本発明の第一の形態のシリンダボア壁の保温部は、基体部材の上に、基体部材から上に向けて立設される押え部材を有することができる。押え部材は、本発明の第一の形態のシリンダボア壁の保温部が溝状冷却水流路内に設置されたときに、上端が、シリンダヘッド又はシリンダヘッドガスケットに接することにより、溝状冷却水流路内での本発明のシリンダボア壁の保温部の上下方向の移動を制限する部材である。
本発明の第一の形態のシリンダボア壁の保温具を、溝状冷却水流路に設置するために挿入するときには、未だ、感熱膨張ゴムは、膨張していないので、本発明のシリンダボア壁の保温具の幅は、溝状冷却水流路の流路幅より小さい。そのため、本発明の第一の形態のシリンダボア壁の保温具を、溝状冷却水流路内に挿入するときには、大きな抵抗なく、本発明の第一の形態のシリンダボア壁の保温具を、溝状冷却水流路内に設置することができる。
本発明の第一の形態のシリンダボア壁の保温具は、図5に示す形態例のように、一端側に、冷却水流れ仕切り部材を有することができる。また、本発明の第一の形態のシリンダボア壁の保温具は、その他の冷却水の流れを調節するための部材等を有することもできる。
図5に示すシリンダボア壁の保温具36aは、図4に示すシリンダブロック11の全シリンダボア壁のうちの片側半分のボア壁の保温用の保温具であるが、本発明の第一の形態のシリンダボア壁の保温具としては、図16に示す形態例のように、全シリンダボア壁のうちの片側の一部のボア壁の保温用の保温具が挙げられる。図16に示すシリンダボア壁の保温具36bは、図4に示すシリンダブロック11の片側半分のボア壁21aのうちの一部、すなわち、シリンダボア12b1と12b2のボア壁の保温用の保温具である。なお、図16は、本発明の第一の形態のシリンダボア壁の保温具の形態例の模式的な斜視図であり、図16(A)は内側斜め上から見た斜視図であり、図16(B)は背面側斜め上から見た斜視図である。また、本発明の第一の形態のシリンダボア壁の保温具としては、図17に示す形態例のように、全シリンダボアのボア壁の全部の保温用の保温具が挙げられる。図17に示すシリンダボア壁の保温具36cは、図4に示すシリンダブロック11の全シリンダボアのボア壁の全部の保温用の保温具である。つまり、本発明の第一の形態のシリンダボア壁の保温具は、シリンダブロックの全シリンダボアのボア壁の全部の保温用の保温具であってもよいし、シリンダブロックの全シリンダボアのボア壁のうちの一部、例えば、片側半分や片側の一部の保温用の保温具であってもよい。なお、図17は、本発明の第一の形態のシリンダボア壁の保温具の形態例の模式的な斜視図である。
本発明の第二の形態のシリンダボア壁の保温具及び本発明の内燃機関について、図1〜図4及び図18〜図28を参照して説明する。図1〜図4は、本発明の第二の形態のシリンダボア壁の保温具が設置されるシリンダブロックの形態例を示すものである。図18は、本発明の第二の形態のシリンダボア壁の保温具の形態例を示す模式的な斜視図である。図19は、図18中の保温具36dを上から見た図である。図20は、図18中の保温具36dを横から見た図であり、内側から見た図である。図21は、図18中の保温具36dを横から見た図であり、背面側から見た図である。図22は、図20のy−y線断面図である。図21は、図18中の保温具36dの各部材の位置関係を示す図であり、内側から見た図である。図24は、図18中の保温具36dを組み立てる様子を示す図である。図25は、図1に示すシリンダブロック11に、シリンダボア壁の保温具36dが挿入される様子を示す模式図である。図26は、図1に示すシリンダブロック11の溝状冷却水流路14内に、シリンダボア壁の保温具36dを設置した後且つ感熱膨張ゴムが膨張する前の様子を示す模式図である。図27は、図1に示すシリンダブロック11に、シリンダボア壁の保温具36dが設置されている様子を示す模式図であり、(A)は、図26中のz−z線端面図であり、感熱膨張ゴムが膨張する前の様子を示す図であり、(B)は、感熱膨張ゴムが膨張した後の様子を示す図である。図28は、溝状冷却水流路14内で感熱膨張ゴム35が膨張した後の様子を示す拡大断面図である。
図1〜図3に示すように、シリンダボア壁の保温具が設置される車両搭載用内燃機関のオープンデッキ型のシリンダブロック11には、ピストンが上下するためのボア12、及び冷却水を流すための溝状冷却水流路14が形成されている。そして、ボア12と溝状冷却水流路14とを区切る壁が、シリンダボア壁13である。また、シリンダブロック11には、溝状冷却水流路11へ冷却水を供給するための冷却水供給口15及び冷却水を溝状冷却水流路11から排出するための冷却水排出口16が形成されている。
このシリンダブロック11には、2つ以上のボア12が直列に並ぶように形成されている。そのため、ボア12には、1つのボアに隣り合っている端ボア12a1、12a2と、2つのボアに挟まれている中間ボア12b1、12b2とがある(なお、シリンダブロックのボアの数が2つの場合は、端ボアのみである。)。直列に並んだボアのうち、端ボア12a1、12a2は両端のボアであり、また、中間ボア12b1、12b2は、一端の端ボア12a1と他端の端ボア12a2の間にあるボアである。端ボア12a1と中間ボア12b1の間の壁、中間ボア12b1と中間ボア12b2の間の壁及び中間ボア12b2と端ボア12a2の間の壁(ボア間壁191)は、2つのボアに挟まれる部分なので、2つのシリンダボアから熱が伝わるため、他の壁に比べ壁温が高くなる。そのため、溝状冷却水流路14のシリンダボア側の壁面17では、ボア間壁191の近傍が、温度が最も高くなるので、溝状冷却水流路14のシリンダボア側の壁面17のうち、各シリンダボアのボア壁の境界192及びその近傍の温度が最も高くなる。
また、本発明では、溝状冷却水流路14の壁面のうち、シリンダボア13側の壁面を、溝状冷却水流路のシリンダボア壁17と記載し、溝状冷却水流路14の壁面のうち、溝状冷却水流路のシリンダボア壁17とは反対側の壁面を、シリンダボア壁の対壁18と記載する。
また、本発明において、片側半分とは、シリンダブロックをシリンダボアが並んでいる方向で垂直に二分割したときの片側の半分を指す。よって、本発明において、全シリンダボアのボア壁のうちの片側半分のボア壁とは、全シリンダボア壁をシリンダボアが並んでいる方向で垂直に二分割したときの片側の半分のボア壁を指す。例えば、図4では、シリンダボアが並んでいる方向がZ−Z方向であり、このZ−Z線で垂直に二分割したときの片側半分のボア壁のそれぞれが、全シリンダボアのボア壁のうちの片側半分のボア壁である。つまり、図4では、Z−Z線より20a側の片側半分のボア壁が、全シリンダボアのボア壁のうちの一方の片側半分のボア壁21aであり、Z−Z線より20b側の片側半分のボア壁が、全シリンダボアのボア壁のうちの他方の片側半分のボア壁21bである。また、全シリンダボア壁のうちの片側とは、片側半分のボア壁21a又は片側半分のボア壁21bのいずれかを指し、片側の一部とは、片側半分のボア壁21aの一部又は片側半分のボア壁21bの一部を指す。
また、本発明において、各シリンダボアのボア壁とは、1つ1つのシリンダボアに対応する各ボア壁部分を指し、図4では、両矢印22a1で示す範囲が、シリンダボア12a1のボア壁23a1であり、両矢印22b1で示す範囲が、シリンダボア12b1のボア壁23b1であり、両矢印22b2で示す範囲が、シリンダボア12b2のボア壁23b2であり、両矢印22a2で示す範囲が、シリンダボア12a2のボア壁23a2であり、両矢印22b3で示す範囲が、シリンダボア12b1のボア壁23b3であり、両矢印22b4で示す範囲が、シリンダボア12b2のボア壁23b4である。つまり、シリンダボア12a1のボア壁23a1、シリンダボア12b1のボア壁23b1、シリンダボア12b2のボア壁23b2、シリンダボア12a2のボア壁23a2、シリンダボア12b1のボア壁23b3及びシリンダボア12b2のボア壁23b4が、それぞれ、各シリンダボアのボア壁である。
図18に示すシリンダボア壁の保温具36dは、図4中、一方の片側半分(20b側)のボア壁21bを保温するための保温具である。シリンダボア壁の保温具36dには、冷却水流れ仕切り部材45が付設されている。冷却水流れ仕切り部材45は、図4に示すシリンダブロック11では、冷却水供給口15から溝状冷却水流路14へ供給された冷却水が、直ぐに近傍にある冷却水排出口16から排出されることなく、先ず、20b側の片側半分の溝状冷却水流路14を、冷却水供給口15の位置とは反対側の端に向かって流れ、20b側の片側半分の溝状冷却水流路14の冷却水供給口15の位置とは反対側の端まで来ると、20a側の片側半分の溝状冷却水流路14に回り、次いで、20a側の片側半分の溝状冷却水流路14を、冷却水排出口16に向かって流れ、最後に、冷却水排出口16から排出されるように、冷却水の供給口15と排出口16との間を仕切るための部材である。また、図4には、20a側の片側半分の溝状冷却水流路14を端まで流れた冷却水が、シリンダブロック11の横側に形成されている冷却水排出口16から排出される形態のシリンダブロックを記載したが、他には、例えば、20a側の片側半分の溝状冷却水流路14を一方の端から他方の端まで流れた冷却水が、シリンダブロックの横側から排出されるのではなく、シリンダヘッドに形成されている冷却水流路に流れ込む形態のシリンダブロックがある。
図18〜図22に示すように、シリンダボア壁の保温具36dは、合成樹脂の成形体であり、上から見たときに、4つの円弧が連続する形状に成形されており、溝状冷却水流路14の片側半分に沿う形状である基体部材34bと、感熱膨張ゴム35と、金属板の成形体である背面金属板31と、を有する。
基体部材34bには、基体部材34bの背面側に配設されている感熱膨張ゴム35が、感熱膨張時に基体部材を通り抜けて、基体部材34bの内側面より内側に膨出することができるようにするための感熱膨張ゴム膨出用開口33が、各ボア部毎に形成されている。シリンダボア壁の保温具36dは、図4に示すシリンダブロック11の片側半分のボア壁21bを保温するための保温具であり、シリンダブロック11の片側半分のボア壁21bには、シリンダボア12a1のボア壁23a1、シリンダボア12b1のボア壁23b3、シリンダボア12b2のボア壁23b4及びシリンダボア12a2のボア壁23a2と、4つの各シリンダボアのボア壁がある。そして、シリンダボア壁の保温具36dでは、この4つの各シリンダボアのボア壁を保温するために、感熱膨張ゴム35が配設される。そのため、シリンダボア壁の保温具36dには、保温対象であるシリンダボア12a1のボア壁23a1、シリンダボア12b1のボア壁23b3、シリンダボア12b2のボア壁23b4及びシリンダボア12a2のボア壁23a2のそれぞれに対応する位置に、感熱膨張ゴム膨出用開口33が形成されている。
図23では、基体部材34bの背面側にある感熱膨張ゴム35の輪郭を符号42の点線で示し、背面金属板31を符号41の点線で示すが、図23に示すように、感熱膨張ゴム35が、感熱膨張ゴム膨出用開口33を背面側から覆っており、且つ、背面金属板31が、感熱膨張ゴム35を背面側から覆っている。そのため、シリンダボア壁の保温具36dでは、背面金属板31が固定され、基体部材34に固定された背面金属板31と、基体部材34aの感熱膨張ゴム膨出用開口33の周縁部46とで、感熱膨張ゴム35の外縁部40が挟み込まれることにより、感熱膨張ゴム35が基体部材34bに固定されている。
感熱膨張ゴム35は、膨張前は、ベースフォーム材が熱可塑性物質により圧縮されて拘束された状態であり、加熱されることにより、熱可塑性樹脂による拘束が解け、圧縮される前の状態、すなわち、開放状態まで膨張するゴム材である。感熱膨張ゴム35は、基体部材34bの背面側に配設され、感熱膨張ゴム膨出用開口33を覆っている、この感熱膨張ゴム35は、シリンダブロック11の溝状冷却水流路14に設置された後、加熱されることにより膨張し、加熱により膨張(感熱膨張)することにより、感熱膨張ゴム膨出用開口33を通り抜けて、基体部材34bの内側面より内側に膨出し、接触面26が溝状冷却水流路14のシリンダボア壁に接触するまで膨張する。そして、感熱膨張して、感熱膨張ゴム35が、溝状冷却水流路14のシリンダボア壁17の壁面を覆うことにより、溝状冷却水流路14のシリンダボア壁17が保温される。感熱膨張ゴム35は、その外縁部40が、基体部材34bの感熱膨張ゴム膨出用開口33の周縁部46と背面金属板31とに挟み込まれることにより、基体部材34bに固定される。また、感熱膨張ゴム35が基体部材34bに固定されることにより、溝状冷却水流路14内での感熱膨張ゴム35の位置が位置決めされる。
シリンダボア壁の保温具36dでは、感熱膨張ゴム35の背面側は、背面金属板31で覆われている。そして、感熱膨張ゴム35の背面側が、背面金属板31で覆われていることにより、感熱膨張ゴム35がシリンダボア壁の対壁18に向けて膨張することが妨げられる。
シリンダボア壁の保温具36dでは、基体部材34bの背面側には、基体部材34bの背面から突出し、シリンダボア壁の対壁18に当接するための当接部材30が付設されている。そして、シリンダボア壁の保温具36dがシリンダブロック11の溝状冷却水流路14に設置され、感熱膨張ゴム35が感熱膨張することにより、当接部材30が、溝状冷却水流路のシリンダボア壁の対壁18に当接する。そして、当接部材30がシリンダボア壁の対壁18に当接した状態で、つまり、感熱膨張ゴム35の背面側の位置が固定された状態で、感熱膨張ゴム35が更に膨張することで生じる弾性力により、感熱膨張ゴム35の接触面26が、溝状冷却水流路のシリンダボア壁17に向かって押し付けられる。このことにより、感熱膨張ゴム35の接触面26が、溝状冷却水流路のシリンダボア壁17に密着する。
シリンダボア壁の保温部36dでは、基体部材34bの上には、基体部材34bから上に向けて、押え部材39が立設されている。シリンダボア壁の保温部36dが溝状冷却水流路14内に設置されると、押え部材39の上端が、シリンダヘッド又はシリンダヘッドガスケットに接する。このことにより、溝状冷却水流路14内でのシリンダボア壁の保温部36dの上下方向の移動が制限される。
シリンダボア壁の保温具36dは、例えば、図1に示すシリンダブロック11の溝状冷却水流路14に設置される。図25に示すように、シリンダボア壁の保温具36dを、シリンダブロック11の溝状冷却水流路14に挿入して、図26に示すように、シリンダボア壁の保温具36dを、溝状冷却水流路14内に設置する。シリンダボア壁の保温具36dを、溝状冷却水流路14に挿入するときには、未だ、感熱膨張ゴム35は、膨張していないので、シリンダボア壁の保温具36dの幅は、溝状冷却水流路14の流路幅より小さい。そのため、シリンダボア壁の保温具36dを、溝状冷却水流路14内に挿入するときには、大きな抵抗なく、シリンダボア壁の保温具36dを、溝状冷却水流路14に設置することができる。
そして、シリンダボア壁の保温具36dが、溝状冷却水流路14に設置された後、加熱前は、図27(A)に示すように、シリンダボア壁の保温具36dとシリンダボア壁17の間には、隙間301が存在するが、図27(B)に示すように、感熱膨張ゴムが加熱されると、感熱膨張ゴム35は、シリンダボア壁17に接触するまで膨張する。そして、感熱膨張ゴム35が膨張することにより、シリンダボア壁の保温具36dの背面側に付設されており、シリンダボア壁の対壁18に向かって突出している当接部材30が、背面金属板31を介して、シリンダボア壁の対壁18に押し付けられる。また、当接部材30が、シリンダボア壁の対壁18に当接することにより、感熱膨張ゴム35の背面側の位置が固定されるので、感熱膨張ゴム35自らが膨張することにより、弾性力が発生する。そして、この弾性力により、感熱膨張ゴム35の接触面26が、シリンダボア壁17に向かって押し付けられる。
シリンダボア壁の保温具36dは、例えば、図24に示すように、感熱膨張ゴム膨出用開口33が形成されている基体部材34bと、感熱膨張ゴム膨出用開口33を覆う形状に成形されている感熱膨張ゴム35と、上側及び下側に折り曲げ部37が形成され、右側及び左側に嵌合口38が形成されている背面金属板31と、を用意し、次いで、基体部材34bに、感熱膨張ゴム35及び背面金属板31を順に重ね、次いで、背面金属板31の嵌合口38を、基体部材34bの背面側に形成されている嵌合突起44に嵌め合わせると共に、背面金属板31の折り曲げ部37を折り曲げて、背面金属板31を基体部材34bに固定することにより作製される。なお、本発明のシリンダボア壁の保温具は、上記に示す方法により製造されるものに限定されるものではない。
本発明の第二の形態のシリンダボア壁の保温具は、シリンダボアを有する内燃機関のシリンダブロックの溝状冷却水流路に設置され、全シリンダボアのボア壁の全部又は全シリンダボアのボア壁のうちの一部を保温するための保温具であり、
合成樹脂製であり、該保温具の設置位置の該溝状冷却水流路の形状に沿う形状を有し、シリンダボア壁の保温部位に対向する位置に、背面側に配設されている感熱膨張ゴムが、感熱膨張時に基体部材を通り抜けるための感熱膨張ゴム膨出用開口が形成されている基体部材と、
該基体部材の背面側に配設され、該感熱膨張ゴム膨出用開口を覆う感熱膨張ゴムと
該感熱膨張ゴムの背面側を覆い、該基体部材に固定され、該基体部材との間で、該感熱膨張ゴムの外縁部を挟み込むことにより、該感熱膨張ゴムを該基体部材に固定する背面金属板と、
を有し、
該基体部材の背面側には、該基体部材の背面から突出し、シリンダボア壁の対壁に当接するための当接部材が付設されていること、
を特徴とするシリンダボア壁の保温具である。
本発明の第二の形態のシリンダボア壁の保温具は、内燃機関のシリンダブロックの溝状冷却水流路に設置される。本発明の第二の形態のシリンダボア壁の保温具が設置されるシリンダブロックは、シリンダボアが直列に2つ以上並んで形成されているオープンデッキ型のシリンダブロックである。シリンダブロックが、シリンダボアが直列に2つ並んで形成されているオープンデッキ型のシリンダブロックの場合、シリンダブロックは、2つの端ボアからなるシリンダボアを有している。また、シリンダブロックが、シリンダボアが直列に3つ以上並んで形成されているオープンデッキ型のシリンダブロックの場合、シリンダブロックは、2つの端ボアと1つ以上の中間ボアとからなるシリンダボアを有している。なお、本発明では、直列に並んだシリンダボアのうち、両端のボアを端ボアと呼び、両側が他のシリンダボアで挟まれているボアを中間ボアと呼ぶ。
本発明の第二の形態のシリンダボア壁の保温具が設置される位置は、溝状冷却水流路である。内燃機関の多くでは、シリンダボアの溝状冷却水流路の中下部に相当する位置が、ピストンの速さが速くなる位置なので、この溝状冷却水流路の中下部を保温することが好ましい。図2では、溝状冷却水流路14の最上部9と最下部8の中間近傍の位置10を、点線で示しているが、この中間近傍の位置10から下側の溝状冷却水流路14の部分を、溝状冷却水流路の中下部と呼ぶ。なお、溝状冷却水流路の中下部とは、溝状冷却水流路の最上部と最下部の丁度中間の位置から下の部分という意味ではなく、最上部と最下部の中間位置の近傍から下の部分という意味である。また、内燃機関の構造によっては、ピストンの速さが速くなる位置が、シリンダボアの溝状冷却水流路の下部に当たる位置である場合もあり、その場合は、溝状冷却水流路の下部を保温することが好ましい。よって、溝状冷却水流路の最下部からどの位置までを本発明の第二の形態のシリンダボア壁の保温具で保温するか、つまり、ゴム部材の上端の位置を溝状冷却水流路の上下方向のどの位置にするかは、適宜選択される。
本発明の第二の形態のシリンダボア壁の保温具は、周方向に見たときに、溝状冷却水流路のシリンダボア側の壁面の全部又は溝状冷却水流路のシリンダボア側の壁面のうちの一部を保温するための保温具である。つまり、本発明の第二の形態のシリンダボア壁の保温具は、周方向に見たときに、全シリンダボアのボア壁の全部又は全シリンダボアのボア壁の一部を保温するための保温具である。本発明のシリンダボア壁の保温具のとしては、例えば、図18に示す形態例のように、全シリンダボアのボア壁のうち片側半分を保温するための保温具、図29に示す形態例のように、全シリンダボアのボア壁のうち片側の一部を保温するための保温具、図30に示す形態例のように、全シリンダボアのボア壁の全部を保温するための保温具が挙げられる。なお、本発明において、片側半分又は片側の一部とは、シリンダボア壁又は溝状冷却水流路の周方向の片側半分又は片側の一部との意味である。
本発明の第二の形態のシリンダボア壁の保温具は、基体部材と、感熱膨張ゴムと、背面金属板と、を有する。
本発明の第二の形態のシリンダボア壁の保温具に係る基体部材は、合成樹脂製である。基体部材は、上から見たときに、2以上の円弧が連続する形状を有しており、感熱膨張ゴムにより保温する範囲に亘って、円弧が連続して繋がった形状を有している。つまり、基体部材は、本発明の第二の形態のシリンダボア壁の保温具が設置される溝状冷却水流路の形状に沿う形状に成形された合成樹脂の成形体である。
基体部材は、背面金属板が固定される部材であり、且つ、感熱膨張ゴムを基体部材に固定するために、感熱膨張ゴムの外縁部を、基体部材の感熱膨張ゴム膨出用開口の周縁部と背面金属板との間に挟み込む部材である。つまり、基体部材は、感熱膨張ゴムが固定される部材である。また、基体部材は、感熱膨張後に、感熱膨張ゴムの弾性力により、溝状冷却水流路内での基体部材の位置が固定されることにより、溝状冷却水流路内での感熱膨張ゴムの位置決めをする部材である。
基体部材には、基体部材の背面側に配設されている感熱膨張ゴムが、感熱膨張時に基体部材を通り抜けて、基体部材の内側面より内側に膨出し、感熱膨張ゴムの接触面が溝状冷却水流路のシリンダボア壁に接触することができるようにするための感熱膨張ゴム膨出用開口が、各ボア部毎に形成されている。そのため、保温対象となる各シリンダボアのボア壁のそれぞれに対向する位置に、感熱膨張ゴム膨出用開口が形成されている。なお、本発明において、各シリンダボアのボア壁とは、1つ1つのシリンダボアに対応する各ボア壁部分を指す。また、基体部材の各ボア部とは、各シリンダボアのボア壁1つ側の基体部材の部分のことであり、上から見たときの基体部材を形成する円弧形状の1つ分である。
基体部材を形成する合成樹脂は、通常、内燃機関のシリンダブロックの溝状冷却水流路内に設置されるシリンダボア壁の保温具やウォータージャケットスペーサに用いられる合成樹脂であれば、特に制限されず、適宜選択される。
本発明の第二の形態のシリンダボア壁の保温具では、基体部材の背面側には、基体部材の背面から突出し、シリンダボア壁の対壁に当接するための当接部材が付設されている。当接部材は、基体部材と共に一体成形されたものであってもよいし、あるいは、基体部材とは別に作製されたものであってもよい。つまり、基体部材を成形するときに、基体部材と当接部材を一体成形することにより、基体部材の背面側に当接部材を付設してもよいし、先に、基体部材を成形しておき、次いで、その基体部材に、別に作製した当接部材を固定することにより、基体部材の背面側に当接部材を付設してもよい。当接部材の材質は、特に制限されないが、当接部材が基体部材と一体成形されている場合は、当接部材の材質は、基体部材と同じ材質の合成樹脂であり、また、基体部材に、それとは別に作製された当接部材が固定されている場合は、当接部材の材質としては、合成樹脂、ステンレス鋼(SUS)、アルミニウム合金等が挙げられる。
当接部材の付設位置は、適宜選択され、例えば、基体部材の各ボア部の上側の円弧方向に見たときの中央及びその近傍に亘る範囲と基体部材の各ボア部の下側の円弧方向に見たときの中央及びその近傍に亘る範囲、それらの位置に加え、更に、基体部材の各ボア部の上側の円弧方向に見たときの端側の近傍と基体部材の各ボア部の下側の円弧方向に見たときの端側の近傍が挙げられる。また、当接部材の付設数は、適宜選択される。
本発明の第二の形態のシリンダボア壁の保温具に係る感熱膨張ゴムは、溝状冷却水流路内で、接触面が溝状冷却水流路のシリンダボア壁に接触するまで感熱膨張して、シリンダボア壁を覆うことにより、シリンダボア壁を保温するための部材である。この感熱膨張ゴムは、感熱膨張ゴム膨出用開口を、基体部材の背面側から覆うことができる形状に成形され、外縁部が、基体部材の感熱膨張ゴム膨出用開口の周縁部と背面金属板との間に挟み込まれて、基体部材に固定されることにより、基体部材の感熱膨張ゴム膨出用開口を背面側から覆うように配設されている。そして、感熱膨張ゴムは、溝状冷却水流路内で、感熱膨張時に、感熱膨張ゴム膨出用開口を、基体部材の背面側から内側に通り抜け、更に、基体部材の内側面よりも内側に膨出して、溝状冷却水流路のシリンダボア壁に接触するまで膨張する。
感熱膨張ゴムは、膨張前は、ベースフォーム材が熱可塑性物質により圧縮されて拘束された状態であり、加熱されることにより、熱可塑性樹脂による拘束が解け、圧縮される前の状態、すなわち、開放状態まで膨張するゴム材である。感熱膨張ゴム(圧縮状態)は、ベースフォーム材にベースフォーム材より融点が低い熱可塑性物質を含浸させ圧縮した複合体であり、常温では少なくともその表層部に存在する熱可塑性物質の硬化物により圧縮状態が保持され、且つ、加熱により熱可塑性物質の硬化物が軟化して圧縮状態が開放される材料である。感熱膨張ゴムとしては、例えば、特開2004−143262号公報に記載の感熱膨張ゴムが挙げられる。
感熱膨張ゴムに係るベースフォーム材としては、ゴム、エラストマー、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂等の各種高分子材料が挙げられ、具体的には、天然ゴム、クロロプロピレンゴム、スチレンブタジエンゴム、ニトリルブタジエンゴム、エチレンプロピレンジエン三元共重合体、シリコーンゴム、フッ素ゴム、アクリルゴム等の各種合成ゴム、軟質ウレタン等の各種エラストマー、硬質ウレタン、フェノール樹脂、メラミン樹脂等の各種熱硬化性樹脂が挙げられる。
感熱膨張ゴムに係る熱可塑性物質としては、ガラス転移点、融点又は軟化温度のいずれかが120℃未満であるものが好ましい。感熱膨張ゴムに係る熱可塑性物質としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、ポリアクリル酸エステル、スチレンブタジエン共重合体、塩素化ポリエチレン、ポリフッ化ビニリデン、エチレン酢酸ビニル共重合体、エチレン酢酸ビニル塩化ビニルアクリル酸エステル共重合体、エチレン酢酸ビニルアクリル酸エステル共重合体、エチレン酢酸ビニル塩化ビニル共重合体、ナイロン、アクリロニトリルブタジエン共重合体、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニル、ポリクロロプレン、ポリブタジエン、熱可塑性ポリイミド、ポリアセタール、ポリフェニレンサルファイド、ポリカーボネート、熱可塑性ポリウレタン等の熱可塑性樹脂、低融点ガラスフリット、でんぷん、はんだ、ワックス、鋳鉄、ステンレス、アルミニウムなどの金属材料等の各種熱可塑性物質が挙げられる。
感熱膨張ゴムの厚みは、感熱膨張ゴムの膨張率、溝状冷却水流路の幅、基体部材の内側面とシリンダボア壁との距離、背面金属板の内側面とシリンダボア壁との距離等を考慮して、適宜選択される。
本発明の第二の形態のシリンダボア壁の保温具に係る背面金属板は、金属製であり、金属板の成形体である。背面金属板は、感熱膨張ゴムの背面側を覆っている。背面金属板の形状は、上から見たときに、弧状である。背面金属板は、基体部材の感熱膨張ゴム膨出用開口の周縁部とで、感熱膨張ゴムの外縁部を挟み込むことにより、感熱膨張ゴムを基体部材に固定する共に、感熱膨張ゴムが基体部材の背面側に膨張するのを妨げる部材である。
背面金属板を形成する金属は、通常、内燃機関のシリンダブロックの溝状冷却水流路内に設置されるシリンダボア壁の保温具やウォータージャケットスペーサに用いられる金属であれば、特に制限されず、適宜選択される。背面金属板の材質としては、例えば、ステンレス鋼(SUS)、アルミニウム合金、軟鋼、硬鋼、合金鋼等が挙げられる。
背面金属板を基体部材に固定する方法としては、特に制限されず、例えば、背面金属板に折り曲げ部を形成させ、その折り曲げ部を折り曲げて、折り曲げた折り曲げ部と背面金属板との間で基体部材の端部を挟み込むことにより固定する方法や、背面金属板に嵌合口を形成させ、その嵌合口を基体部材に形成されている嵌合突起に嵌合させることにより固定する方法や、金具により固定する方法や、リベットにより固定する方法や、これらの方法の組み合わせ等が挙げられる。つまり、背面金属板は、背面金属板に形成されている固定用部位を介して、基体部材に固定されている。
本発明の第二の形態のシリンダボア壁の保温具がシリンダブロックの溝状冷却水流路に設置された後、感熱膨張ゴムが感熱膨張することにより、当接部材が、溝状冷却水流路のシリンダボア壁の対壁に当接する。そして、当接部材がシリンダボア壁の対壁に当接した状態で、つまり、感熱膨張ゴムの背面側の位置が固定された状態で、感熱膨張ゴムが更に膨張することで生じる弾性力により、感熱膨張ゴムの接触面が、溝状冷却水流路のシリンダボア壁に向かって押し付けられる。このことにより、感熱膨張ゴムの接触面が、溝状冷却水流路のシリンダボア壁に密着して、溝状冷却水流路のシリンダボア壁を覆い、シリンダボア壁が保温される。
本発明の第二の形態のシリンダボア壁の保温部は、基体部材の上に、基体部材から上に向けて立設される押え部材を有することができる。押え部材は、本発明の第二の形態のシリンダボア壁の保温部が溝状冷却水流路内に設置されたときに、上端が、シリンダヘッド又はシリンダヘッドガスケットに接することにより、溝状冷却水流路内での本発明のシリンダボア壁の保温部の上下方向の移動を制限する部材である。
本発明の第二の形態のシリンダボア壁の保温具を、溝状冷却水流路に設置するために挿入するときには、未だ、感熱膨張ゴムは、膨張していないので、本発明のシリンダボア壁の保温具の幅は、溝状冷却水流路の流路幅より小さい。そのため、本発明の第二の形態のシリンダボア壁の保温具を、溝状冷却水流路内に挿入するときには、大きな抵抗なく、本発明の第二の形態のシリンダボア壁の保温具を、溝状冷却水流路内に設置することができる。
本発明の第二の形態のシリンダボア壁の保温具は、図18に示す形態例のように、一端側に、冷却水流れ仕切り部材を有することができる。また、本発明の第二の形態のシリンダボア壁の保温具は、その他の冷却水の流れを調節するための部材等を有することもできる。
図18に示すシリンダボア壁の保温具36dは、図4に示すシリンダブロック11の全シリンダボア壁のうちの片側半分のボア壁の保温用の保温具であるが、本発明の第一の形態のシリンダボア壁の保温具としては、図29に示す形態例のように、全シリンダボア壁のうちの片側の一部のボア壁の保温用の保温具が挙げられる。図29に示すシリンダボア壁の保温具36eは、図4に示すシリンダブロック11の片側半分のボア壁21aのうちの一部、すなわち、シリンダボア12b1と12b2のボア壁の保温用の保温具である。なお、図29は、本発明の第二の形態のシリンダボア壁の保温具の形態例の模式的な斜視図であり、図29(A)は内側斜め上から見た斜視図であり、図29(B)は背面側斜め上から見た斜視図である。また、本発明の第二の形態のシリンダボア壁の保温具としては、図30に示す形態例のように、全シリンダボアのボア壁の全部の保温用の保温具が挙げられる。図30に示すシリンダボア壁の保温具36fは、図4に示すシリンダブロック11の全シリンダボアのボア壁の全部の保温用の保温具である。つまり、本発明の第一の形態のシリンダボア壁の保温具は、シリンダブロックの全シリンダボアのボア壁の全部の保温用の保温具であってもよいし、シリンダブロックの全シリンダボアのボア壁のうちの一部、例えば、片側半分や片側の一部の保温用の保温具であってもよい。なお、図30は、本発明の第二の形態のシリンダボア壁の保温具の形態例の模式的な斜視図である。
本発明の内燃機関は、溝状冷却水流路が形成されているシリンダブロックを有し、
該溝状冷却水流路内に、本発明のシリンダボア壁の保温具(本発明の第一の形態のシリンダボア壁の保温具又は本発明の第二の形態のシリンダボア壁の保温具)が設置されていること、
を特徴とする内燃機関である。
本発明の内燃機関に係るシリンダブロックは、本発明のシリンダボア壁の保温具に係るシリンダブロックと同様である。
本発明の内燃機関は、シリンダブロック及びその溝状冷却水流路内に設置されている本発明のシリンダボア壁の保温具の他に、シリンダヘッド、カムシャフト、バルブ、ピストン、コンロッド、クランクシャフトを有する。
本発明の自動車は、本発明の内燃機関を有することを特徴とする自動車である。