JP6373842B2 - 自己抗体の検出方法、自己免疫疾患の罹患の可能性を試験する方法、自己抗体の検出試薬および自己免疫疾患用の試験試薬 - Google Patents

自己抗体の検出方法、自己免疫疾患の罹患の可能性を試験する方法、自己抗体の検出試薬および自己免疫疾患用の試験試薬 Download PDF

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Description

本発明は、自己抗体の検出方法、自己免疫疾患の罹患の可能性を試験する方法、自己抗体の検出試薬、自己免疫疾患用の試験試薬、自己抗体の検出試薬の製造方法および自己免疫疾患に関連する自己抗体に対する抗原タンパク質のスクリーニング方法に関する。
自己免疫疾患の診断には、一般的に、患者の症状等に基づく直接的な判断の他に、自己免疫疾患に特異的な自己抗体の検出に基づく間接的な判断が利用されている。前記自己抗体の検出は、通常、精製した抗原タンパク質を担体に固相化し、この固相化タンパク質との結合を確認するELISA法等が採用されている。しかしながら、医師により、症状に基づいて自己免疫疾患と診断された場合でも、それら全ての患者において、ELISA法により前記自己抗体が検出できるわけでは無かった。このため、ELISA法による自己抗体の検出のみでは偽陰性となることがあり、自己免疫疾患の診断には、その他の判断方法を併用する必要があった。そこで、信頼性に優れる自己免疫疾患の診断を行うために、優れた精度で自己抗体を検出できる方法の確立が求められている。
S.LOIZOU et.al.、「Measurement of anti−cardiolipin antibodies by anenzyme−linked immunosorbent assay (ELISA): standardization and quantitation of results」、Clin.exp.Immunol.、Wiley、1985年、vol.62、p.738-745
そこで、本発明は、自己免疫疾患の原因となる自己抗体を、優れた精度で検出できる自己抗体の検出方法の提供を目的とする。
前記本発明の課題を解決するために、本発明の自己抗体の検出方法は、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)クラスII分子により提示された変性タンパク質を含む抗原試薬と、サンプルとを接触させる接触工程、および、前記サンプルにおける自己抗体と前記抗原試薬における前記変性タンパク質との複合体を検出する検出工程を含むことを特徴とする。以下、「MHCクラスII分子により提示された変性タンパク質」を、「変性タンパク質/MHCクラスII」ともいう。
本発明の自己免疫疾患の罹患の可能性を試験する方法は、サンプルが、被検体から単離した生体試料であり、前記本発明の自己抗体の検出方法によって、前記サンプルにおける自己抗体とMHCクラスII分子により提示された変性タンパク質との複合体を検出する検出工程、および、前記検出工程における前記複合体の検出結果から、自己免疫疾患の罹患の可能性を試験する試験工程を含むことを特徴とする。
本発明の自己抗体の検出試薬は、前記本発明の自己抗体の検出方法に用いる自己抗体の検出試薬であって、MHCクラスII分子により提示された変性タンパク質を含むことを特徴とする。また、本発明の自己免疫疾患の試験試薬は、前記本発明の自己抗体の検出試薬を含むことを特徴とする。
本発明の自己抗体の検出試薬の製造方法は、前記本発明の検出試薬の製造方法であり、MHCクラスII分子の発現系細胞に、正常フォールドタンパク質をコードする遺伝子を導入することで、前記正常フォールドタンパク質が変性した前記変性タンパク質が提示されたMHCクラスII分子を調製する調製工程を含むことを特徴とする。
本発明のスクリーニング方法は、自己免疫疾患に関連する自己抗体に対する抗原タンパク質のスクリーニング方法であり、サンプルが、自己免疫疾患の被検体から単離した生体試料であり、前記本発明の自己抗体の検出方法によって、前記サンプルにおける自己抗体とMHCクラスII分子により提示された変性タンパク質との複合体を検出する検出工程、および、前記自己抗体との前記複合体を形成した前記変性タンパク質を、前記自己免疫疾患に関連する自己抗体に対する抗原タンパク質と判断する判断工程を含むことを特徴とする。
抗原提示細胞内において、タンパク質抗原はペプチド断片に分解され、前記ペプチド断片はMHCクラスII分子に結合して、前記細胞の表面まで運ばれ、前記細胞表面上に提示されることが知られている。しかしながら、本発明者らは、鋭意研究の結果、以下の知見を得た。すなわち、まず、前記MHCクラスII分子は、分解された前記ペプチド断片を提示するだけでなく、前記細胞の小胞体(ER)内でミスフォールドされた変性タンパク質と結合し、前記細胞表面に提示すること、さらに、自己抗体が、前記MHCクラスII分子により細胞表面に提示された前記変性タンパク質を認識して、前記変性タンパク質に結合するとの知見である。これらは、本願の出願当初には報告されていない機構であって、本発明者によって初めて見出されたものである。そして、本発明者らは、前述のように、従来のELISA法で使用される精製タンパク質、すなわち、正常にフォールディングされた正常フォールドタンパク質と、前記変性タンパク質/MHCクラスIIとを、それぞれ抗原試薬として使用し、自己抗体を検出した結果、前記変性タンパク質/MHCクラスIIは、前記正常フォールドタンパク質よりも高い特異性で、自己免疫疾患の患者の自己抗体に認識されることを確認し、本発明を確立にするに至った。このため、自己抗体を検出するための抗原試薬として、前記変性タンパク質/MHCクラスIIを使用する本発明によれば、自己免疫疾患に関与する自己抗体を優れた精度で検出できる。そして、例えば、前記正常フォールドタンパク質を使用するELISA法では検出できなかった自己抗体を検出できるため、従来のような偽陰性の問題を抑制し、優れた精度で自己免疫疾患の罹患の可能性を判断できる。このため、本発明は、例えば、臨床分野および生化学分野において極めて有用である。
前記変性タンパク質/MHCクラスIIを抗原試薬とすることにより、前記正常フォールドタンパク質を抗原試薬とするよりも優れた精度で自己抗体の検出が可能である理由は、以下のように考えられる。すなわち、前記サンプルにおける自己抗体は、正常フォールドタンパク質に対しては、交差反応性で結合しているのであって、前記変性タンパク質/MHCクラスIIに対しては、特異的に結合しているためと推測される。なお、この推定は本発明を何ら制限しない。
図1は、実施例1Aにおける、細胞表面のIgGおよびMHCクラスII分子の発現量を示したヒストグラムである。 図2は、実施例1Bにおける、IgGとMHCクラスII分子との結合を示したウェスタンブロットの写真である。 図3は、実施例1Cにおける、細胞表面のIgGもしくはMHCクラスII分子の発現量またはMHCクラスII分子に提示されたIgG重鎖へのリウマチ因子もしくはRF61リウマチ因子の結合量を示したヒストグラムである。 図4は、実施例1Dにおける、MHCクラスII分子に提示されたIgGへのリウマチ因子陰性もしくは陽性患者由来の血清中のIgMの結合量を示したグラフである。 図5は、実施例1Eにおける、細胞表面におけるIgG重鎖、もしくはHLA−DRの発現量、または自己抗体の結合量を示すヒストグラムである。 図6は、実施例1Fにおける、異なるハプロタイプMHCクラスII分子に提示されたIgGへのRFの結合量とリウマチ感受性のオッズ比とを比較したグラフである。 図7は、実施例1Gにおける、細胞表面における自己抗体の結合量を示すヒストグラムである。 図8は、実施例1Gにおける、抗HLA-DR/IgGH複合体抗体価(aHLA-DR/IgGH)の標準曲線を示すグラフである。 図9は、実施例1Gにおける、aHLA-DR/IgGH値とRF値とを比較したグラフである。 図10は、実施例2Aにおける、異なるハプロタイプのMHCクラスII分子を用いたときの細胞表面のサイログロブリン(TG)の発現量を示すヒストグラムである。 図11は、実施例2Bにおける、TGとMHCクラスII分子との結合を示したウェスタンブロットの写真である。 図12は、実施例2Cにおける、異なるハプロタイプのMHCクラスII分子に提示されたTGへの抗TG抗体陰性もしくは陽性の橋本病患者または健常者由来の血清中の抗体の結合量を示したヒストグラムである。 図13は、実施例2Dにおける、異なるハプロタイプのMHCクラスII分子に提示されたTGへの連続希釈した抗TG抗体陰性または陽性の橋本病患者由来の血清中の抗体の結合量を示したグラフである。 図14は、実施例2Eにおける、異なるハプロタイプのMHCクラスII分子に提示されたTGへの橋本病患者由来の血清中の抗体の結合量を比較したグラフである。 図15は、実施例3Aにおける、細胞表面におけるβ2グリコプロテインI(β2−GPI)もしくはMHCクラスII分子の発現量またはMHCクラスII分子に提示されたβ2−GPIへの抗カルジオリピン抗体の結合量を示すヒストグラムである。 図16は、実施例3Bにおける、異なるハプロタイプのMHCクラスII分子を用いたときの細胞表面のβ2−GPIの発現量を示すグラフである。 図17は、実施例3Bにおける、異なるハプロタイプのMHCクラスII分子に提示されたβ2−GPIへの抗カルジオリピン抗体の結合量を示すグラフである。 図18は、実施例3Cにおける、β2−GPIとMHCクラスII分子との結合を示したウェスタンブロットの写真である。 図19は、実施例3Dにおける、抗HLA-DR/β2-GPI複合体抗体価(aHLA-DR/β2-GPI)の標準曲線を示すグラフである。 図20は、実施例3Dにおける、抗リン脂質抗体症候群患者および健常者の血清のHLA-DR/β2-GPI複合体システムによる抗リン脂質抗体算出値(aHLA-DR/β2-GPI値)を示すグラフである。 図21は、実施例3Dにおいて、APS患者の血清について、HLA-DR/β2-GPI複合体システムによる自己抗体値(aHLA-DR/β2-GPI値)とELISA法による抗リン脂質抗体測定値または抗カルジオリピン抗体測定値とを比較したグラフである。 図22は、実施例4における、細胞表面におけるTSHRもしくはMHCクラスII分子の発現量、またはMHCクラスII分子に提示されたTSHRへの自己抗体の結合量を示すヒストグラムである。
<自己抗体の検出方法>
本発明の自己抗体の検出方法は、前述のように、MHCクラスII分子により提示された変性タンパク質を含む抗原試薬と、サンプルとを接触させる接触工程、および、前記サンプルにおける自己抗体と前記抗原試薬における前記変性タンパク質との複合体を検出する検出工程を含むことを特徴とする。
本発明の検出方法において、前記変性タンパク質は、例えば、正常タンパク質ではないことを意味する。本発明において、前記変性タンパク質は、例えば、正常フォールドタンパク質のフォールディングが変性したミスフォールドタンパク質である。
本発明の検出方法において、前記変性タンパク質が、MHCクラスII分子の発現系細胞に正常フォールドタンパク質のコード遺伝子を導入することで得られる、MHCクラスII分子により提示された変性タンパク質であることが好ましい。本発明において、前記変性タンパク質は、例えば、正常タンパク質のフォールディングと比較して、どのようにミスフォールドしているかにはかかわらず、前記発現系細胞に前記正常タンパク質のコード遺伝子を導入することで得られる、MHCクラスII分子により提示されたタンパク質であることが好ましい。
本発明の検出方法において、さらに、MHCクラスII分子の発現系細胞に、正常フォールドタンパク質をコードする遺伝子を導入することで、前記正常フォールドタンパク質が変性した前記変性タンパク質が提示されたMHCクラスII分子を調製する調製工程を含むことが好ましい。
本発明の検出方法において、前記変性タンパク質が、例えば、自己免疫疾患に関与する正常フォールドタンパク質が変性したタンパク質である。
本発明の検出方法において、前記変性タンパク質が、例えば、IgG重鎖、サイログロブリン、β2グリコプロテインIおよび甲状腺刺激ホルモン受容体からなる群から選択された少なくとも一つが変性したタンパク質である。
本発明の検出方法において、前記MHCクラスII分子が、HLA−DR、HLA−DPおよびHLA−DQからなる群から選択された少なくとも一つであることが好ましい。本発明において、前記MHCクラスII分子が、例えば、自己免疫疾患感受性MHCクラスII分子である。
本発明の検出方法において、例えば、前記MHCクラスII分子が、HLA−DRを含み、前記変性タンパク質が、IgG重鎖の変性タンパク質である。これにより、例えば、関節リウマチに関連する自己抗体を検出できる。
本発明において、例えば、前記MHCクラスII分子が、HLA−DRを含み、前記変性タンパク質が、サイログロブリンの変性タンパク質である。これにより、例えば、橋本病に関連する自己抗体を検出できる。
本発明において、例えば、前記MHCクラスII分子が、HLA−DRを含み、前記変性タンパク質が、β2グリコプロテインIの変性タンパク質である。これにより、例えば、抗リン脂質抗体症候群に関連する自己抗体を検出できる。
本発明において、例えば、前記MHCクラスII分子が、HLA−DPを含み、前記変性タンパク質が、甲状腺刺激ホルモン受容体の変性タンパク質である。これにより、例えば、バセドウ病(Graves病)に関連する自己抗体を検出できる。
本発明の自己抗体の検出方法は、前記検出工程において、前記サンプルにおける「自己抗体」と、前記抗原試薬における「MHCクラスII分子により提示された変性タンパク質(変性タンパク質/MHCクラスII)」との複合体を形成させ、これを検出することが特徴であって、その他の工程および条件は、特に制限されない。
本発明において、自己抗体とは、例えば、前記サンプルの由来となる被検体で生産される抗体であって、前記被検体の自己成分(自己抗原)に対する抗体を意味する。具体例として、例えば、動物個体において、前記個体の自己抗原に対して産生される抗体等があげられる。前記自己抗体は、前述のように、自己免疫疾患に関連し、その有無または量の測定が、自己免疫疾患の診断、治療または予後の判定において重要であることが知られている。このため、本発明の自己抗体の検出方法は、例えば、自己免疫疾患の診断等において、非常に有用である。
(1)抗原試薬
本発明において、自己抗体を検出するための抗原試薬は、自己抗体の検出試薬ということもできる。前記抗原試薬は、前述のように、MHCクラスII分子により提示された変性タンパク質である。前記変性タンパク質の形態は、特に制限されない。一例として、前記抗原試薬は、前記変性タンパク質が前記MHCクラスII分子の結合溝に結合した、前記変性タンパク質と前記MHCクラスII分子との複合体の形態があげられる。前記複合体は、例えば、前記複合体のみの形態でもよいし、前記複合体をその表面に提示した細胞(例えば、抗原提示細胞)の形態でもよい。また、その他の例として、前記抗原試薬は、例えば、前記MHCクラスII分子との結合を解離した、前記変性タンパク質(MHCクラスII分子未結合の変性タンパク質)の形態でもよい。
本発明において、前記変性タンパク質は、例えば、正常フォールドタンパク質のフォールディングが変性したタンパク質である。前記正常フォールドタンパク質とは、例えば、正常に折りたたまれたタンパク質を意味する。
(2)抗原試薬の調製
本発明において、前記変性タンパク質は、例えば、MHCクラスII分子の発現系細胞に正常フォールドタンパク質のコード遺伝子を導入することで得られる、MHCクラスII分子により提示された変性タンパク質であることが好ましい。このため、本発明は、例えば、前記接触工程に先立って、前記変性タンパク質/MHCクラスIIを調製する調製工程、すなわち、MHCクラスII分子の発現系細胞に、正常フォールドタンパク質をコードする遺伝子を導入することで、前記正常フォールドタンパク質が変性した前記変性タンパク質が提示されたMHCクラスII分子を調製する調製工程を含んでもよい。
前記MHCクラスII分子の発現系細胞に、正常フォールドタンパク質をコードする遺伝子を導入すれば、前述のように、前記発現系細胞において、前記遺伝子から発現したタンパク質は、正常フォールドタンパク質の正常なフォールディングではなく、ミスフォールドが生じ、このミスフォールドされた変性タンパク質が、発現した前記MHCクラスII分子と結合して、前記細胞の表面に提示される。
前記正常フォールドタンパク質は、例えば、自己免疫疾患に関与するタンパク質であり、具体例として、自己免疫疾患において、自己抗体の結合が知られているタンパク質があげられる。前述のように、従来から自己免疫疾患における自己抗原と考えられているタンパク質を合成し、その精製タンパク質を抗原タンパク質として担体に固定化し、前記抗原タンパク質と自己抗体との結合による複合体形成を検出することで、自己抗体の検出が行われている。しかしながら、同じ塩基配列からタンパク質を生成した場合でも、自己免疫疾患と自己抗体の検出結果との相関関係は、前述のように、従来の正常フォールドタンパク質に対して結合する自己抗体の検出結果よりも、前記MHCクラスII分子により提示されたミスフォールドされた変性タンパク質に対して結合する自己抗体の検出結果の方が、相関性に優れる。したがって、本発明においては、例えば、従来、自己抗体との結合が知られていた正常フォールドタンパク質のコード遺伝子を、前記MHCクラスII分子の発現系細胞に導入し、前記コード遺伝子から発現したタンパク質を、ミスフォールドされた変性タンパク質として、前記MHCクラスII分子により提示させ、これを抗原試薬とすることが好ましい。
前記正常フォールドタンパク質は、特に制限されず、例えば、公知のタンパク質あげられる。前記正常フォールドタンパク質の由来は、特に制限されず、例えば、ヒト、ヒトを除く非ヒト動物等があげられ、前記非ヒト動物は、例えば、マウス、ラット、イヌ、サル、ウサギ、ヒツジ、ウマ等があげられる。
前記正常フォールドタンパク質は、前述のように、自己免疫疾患に関与するタンパク質であり、具体例として、自己抗体との結合が知られているタンパク質があげられる。前記正常フォールドタンパク質は、特に制限されず、例えば、IgG重鎖、サイログロブリン、β2グリコプロテインI(β2−GPI)、インスリン、サイロイドペルオキシダーゼ、甲状腺刺激ホルモン受容体(TSHR)等、後述する表1に記載したもの等があげられる。そして、本発明において、前記変性タンパク質は、例えば、これらの正常フォールドタンパク質の正常フォールドに対して、ミスフォールドが生じた変性タンパク質である。具体例として、本発明において、IgG重鎖の変性タンパク質は、例えば、関節リウマチに関連する自己抗体に対する抗原試薬となり、サイログロブリンの変性タンパク質は、例えば、橋本病に関連する自己抗体に対する抗原試薬となり、β2グリコプロテインIの変性タンパク質は、抗リン脂質抗体症候群に関連する自己抗体に対する抗原試薬となり、TSHRの変性タンパク質は、バセドウ病に関連する自己抗体に対する抗原試薬となる。
前記MHCクラスII分子の由来は、特に制限されず、例えば、ヒト、ヒトを除く非ヒト動物等があげられ、前記非ヒト動物は、例えば、マウス、ラット、イヌ、サル、ウサギ、ヒツジ、ウマ等があげられる。前記MHCクラスII分子の由来は、例えば、前記正常タンパク質の由来と同じでもよいし、異なっていてもよい。
前記MHCクラスII分子は、α鎖およびβ鎖の複合体であり、それぞれの種類は特に制限されず、これらをコードする遺伝子のハロタイプは、特に制限されない。
前記MHCクラスII分子がヒト由来である場合、前記MHCクラスII分子のα鎖は、例えば、HLA−DPA遺伝子座、HLA−DQA遺伝子座またはHLA−DRA遺伝子座にコードされているMHCクラスII分子のα鎖があげられ、前記MHCクラスII分子のβ鎖は、例えば、HLA−DPB遺伝子座、HLA−DQB遺伝子座またはHLA−DRB遺伝子座にコードされているMHCクラスII分子のβ鎖があげられる。前記各遺伝子座におけるMHCクラスα鎖およびβ鎖のハプロタイプは、特に制限されない。前記MHCクラスII分子は、例えば、α鎖およびβ鎖のいずれか一方を含む分子であり、α鎖およびβ鎖の両方を含む分子であることが好ましい。
前記MHCクラスII分子は、例えば、HLA−DR、HLA−DPおよびHLA−DQ等が好ましく、特に、後述する表1に記載した自己免疫疾患に関連したMHCクラスII分子が例示できる。
前記HLA−DRは、例えば、HLA−DR1、HLA−DR2、HLA−DR3、HLA−DR4、HLA−DR5、HLA−DR6、HLA−DR7、HLA−DR8、HLA−DR9、HLA−DR10、HLA−DR11、HLA−DR12、HLA−DR13、HLA−DR14、HLA−DR15、HLA−DR52、HLA−DR53等があげられる。前記HLA−DRは、例えば、α鎖としてHLA−DRA1等のHLA−DRAと、β鎖としてHLA−DRB1、HLA−DRB3、HLA−DRB4またはHLA−DRB5等のHLA−DRBとを含む分子があげられ、具体的には、α鎖として、例えば、HLA−DRA1*01等のアリル、β鎖として、例えば、HLA−DRB1*01、HLA−DRB1*03、HLA−DRB1*04、HLA−DRB1*07、HLA−DRB1*08、HLA−DRB1*09、HLA−DRB1*10、HLA−DRB1*11、HLA−DRB1*12、HLA−DRB1*13、HLA−DRB1*14、HLA−DRB1*15、HLA−DRB1*16、HLA−DRB3*01、HLA−DRB4*01、HLA−DRB5*01等のアリルがあげられる。
前記HLA−DQは、例えば、HLA−DQ1、HLA−DQ2、HLA−DQ3、HLA−DQ4、HLA−DQ5、HLA−DQ6、HLA−DQ7、HLA−DQ8等があげられる。前記HLA−DQは、例えば、α鎖としてHLA−DQA1等のHLA−DQAと、β鎖としてHLA−DQB1等のHLA−DQBとを含む分子があげられ、具体的には、α鎖として、例えば、HLA−DQA1*01、HLA−DQA1*02、HLA−DQA1*03、HLA−DQA1*04、HLA−DQA1*05、HLA−DQA1*06、β鎖として、例えば、HLA−DQB1*02、HLA−DQB1*03、HLA−DQB1*04、HLA−DQB1*05、HLA−DQB1*06等のアリルがあげられる。
前記HLA−DPは、例えば、HLA−DP1、HLA−DP2、HLA−DP3、HLA−DP4、HLA−DP5等があげられる。前記HLA−DPは、例えば、α鎖としてHLA−DPA1等のHLA−DPAと、β鎖としてHLA−DPB1等のHLA−DPBとを含む分子があげられ、具体的には、α鎖として、例えば、HLA−DPA1*01、HLA−DPA1*02、HLA−DPA1*03、HLA−DPA1*04等、β鎖として、例えば、HLA−DPB1*02、HLA−DPB1*04、HLA−DPB1*05、HLA−DPB1*09等のアリルがあげられる。
前記各アリルは、特に制限されず、例えば、後述する表1に示す例示があげられる。
前記MHCクラスII分子は、例えば、前述のように、自己免疫疾患感受性MHCクラスII分子であってもよい。前記自己免疫疾患感受性MHCクラスII分子とは、例えば、他のMHCクラスα鎖およびβ鎖のハプロタイプ(アリル)に対して、前記自己免疫疾患を発症する確率が相対的に高いMHCクラスα鎖およびβ鎖の少なくとも一方を含むMHCクラスII分子である。前記MHCクラスII分子は、例えば、1種類を使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。
前記変性タンパク質/MHCクラスIIにおける、前記MHCクラスII分子と前記変性タンパク質との組合せは、特に制限されない。前記組合せの具体例として、例えば、前記自己免疫疾患、前記MHCクラスII分子および前記変性タンパク質との関係において、下記表1A〜Lの組合せがあげられる。前記組合せは、例えば、1種類を使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。
具体例としては、例えば、前記MHCクラスII分子が、HLA−DRを含み、前記変性タンパク質が、IgG重鎖の変性タンパク質である場合、関節リウマチに関連する自己抗体を検出できる。前記HLA−DRは、例えば、α鎖としてHLA−DRA1*01と、β鎖としてHLA−DRB1*01、HLA−DRB1*03、HLA−DRB1*04およびHLA−DRB1*15からなる群から選択された少なくとも1つとを含む分子が例示できる。また、例えば、前記MHCクラスII分子が、HLA−DRを含み、前記変性タンパク質が、サイログロブリンの変性タンパク質である場合、橋本病に関連する自己抗体を検出できる。前記HLA−DRは、例えば、α鎖としてHLA−DRA1*01と、β鎖としてHLA−DRB1*01、HLA−DRB1*04、HLA−DRB1*14、HLA−DRB1*15およびHLA−DRB4*01からなる群から選択された少なくとも1つとを含む分子が例示できる。また、例えば、前記MHCクラスII分子が、HLA−DRを含み、前記変性タンパク質が、β2グリコプロテインIの変性タンパク質である場合、抗リン脂質抗体症候群に関連する自己抗体を検出できる。前記HLA−DRは、例えば、α鎖としてHLA−DRA1*01と、β鎖としてHLA−DRB1*04およびHLA−DRB1*07の少なくとも一方とを含む分子が例示できる。また、例えば、前記MHCクラスII分子が、HLA−DPを含み、前記変性タンパク質が、TSHRの変性タンパク質である場合、バセドウ病に関連する自己抗体を検出できる。前記HLA−DPは、例えば、α鎖としてHLA−DPA1*02と、β鎖としてHLA−DPB1*05とを含む分子が例示できる。
前記MHCクラスII分子の発現系細胞は、特に制限されず、例えば、前記MHCクラスII分子を発現する細胞であり、前記導入された前記正常フォールドタンパク質のコード遺伝子を発現できればよい。前記細胞は、前記MHCクラスII分子のコード遺伝子を、内在性遺伝子として有する細胞でもよいし、外来性遺伝子として有する細胞でもよい。前者の場合は、例えば、前記MHCクラスII分子のコード遺伝子を、内在性遺伝子として有する宿主細胞に、前記正常フォールドタンパク質のコード遺伝子を導入すればよく、後者の場合は、宿主細胞に、例えば、前記正常フォールドタンパク質のコード遺伝子と前記MHCクラスII分子のコード遺伝子とを共導入すればよい。
前記正常フォールドタンパク質のコード遺伝子は、例えば、前記正常フォールドタンパク質をコードするポリヌクレオチド(例えば、cDNA)、前記ポリヌクレオチドを含む発現ベクター等があげられる。前記MHCクラスII分子のコード遺伝子は、例えば、前記MHCクラスII分子をコードするポリヌクレオチド(例えば、cDNA)、前記ポリヌクレオチドを含む発現ベクター等があげられる。
前記各コード遺伝子の導入方法は、特に制限されず、例えば、パーティクルガン等の遺伝子銃による導入法、リン酸カルシウム法、ポリエチレングリコール法、リポソームを用いるリポフェクション法、エレクトロポレーション法、超音波核酸導入法、DEAE−デキストラン法、微小ガラス管等を用いた直接注入法、ハイドロダイナミック法、カチオニックリポソーム法、導入補助剤を用いる方法、アグロバクテリウムを介する方法等があげられる。前記リポソームは、例えば、リポフェクタミンおよびカチオニックリポソーム等があげられ、前記導入補助剤は、例えば、アテロコラーゲン、ナノ粒子およびポリマー等があげられる。
前記宿主細胞は、特に制限されず、例えば、動物細胞、植物細胞、昆虫細胞等があげられる。前記動物細胞は、特に制限されず、例えば、HeLa細胞、293細胞、293T細胞、NIH3T3細胞、COS細胞、CHO細胞等の各種培養細胞、ES細胞、造血幹細胞等の幹細胞、T細胞、B細胞、樹状細胞、マクロファージ、グリア細胞等の免疫系細胞、初代培養細胞等の生体から単離した細胞等があげられる。前記細胞は、例えば、ヒト受精卵、ならびに、ヒト胚およびヒト個体内の細胞を除く。また、内在性遺伝子として前記MHCクラスII分子のコード遺伝子を有する宿主細胞は、例えば、前記免疫系細胞があげられる。
前記発現ベクターは、例えば、前記宿主において、前記ポリヌクレオチドがコードするタンパク質を発現可能なように、機能的に前記ポリヌクレオチドが連結されていればよく、その他の構成は、特に制限されない。
前記発現ベクターは、例えば、骨格となるベクター(以下、「基本ベクター」ともいう)に、前記ポリヌクレオチドを挿入することで作製できる。前記基本ベクターの種類は、特に制限されず、例えば、前記宿主の種類に応じて、適宜決定できる。動物細胞に形質転換を行う場合、前記基本ベクターとして、例えば、pME18S、pCAGGS等があげられる。
前記発現ベクターは、例えば、前記ポリヌクレオチドの発現を調節する調節配列を有することが好ましい。前記調節配列は、例えば、プロモーター、ターミネーター、エンハンサー、ポリアデニル化シグナル配列、複製起点配列(ori)等があげられる。前記プロモーターの由来は、特に制限されず、例えば、サイトメガロウイルス(CMV)、ラウス肉腫ウイルス(RSV)、シミアンウイルス−40(SV−40)、筋βアクチンプロモーター、単純ヘルペスウイルス(HSV)等があげられる。前記プロモーターは、この他に、例えば、チミジンキナーゼプロモーター等の組織特異的プロモーター、成長ホルモン調節性プロモーター等の調節性プロモーター、lacオペロン配列の制御下にあるプロモーター、亜鉛誘導性メタロチオネインプロモーター等の誘導性プロモーター等があげられる。前記発現ベクターにおいて、前記調節配列の配置は、特に制限されない。前記発現ベクターにおいて、前記調節配列は、例えば、前記ポリヌクレオチドの発現およびこれがコードする前記サブユニットの発現を、機能的に調節できるように配置されていればよく、公知の方法に基づいて配置できる。前記調節配列は、例えば、前記基本ベクターが予め備える配列を利用してもよいし、前記基本ベクターに、さらに、前記調節配列を挿入してもよいし、前記基本ベクターが備える調節配列を、他の調節配列に置き換えてもよい。
前記発現ベクターは、例えば、さらに、選択マーカーのコード配列を有してもよい。前記選択マーカーは、例えば、薬剤耐性マーカー、蛍光タンパク質マーカー、酵素マーカー、細胞表面レセプターマーカー等があげられる。
前記宿主細胞の培養方法は、特に制限されず、前記宿主細胞の種類に応じて、適宜決定できる。
このように、前記MHCクラスII分子の発現系細胞に、前記正常フォールドタンパク質をコードする遺伝子を導入することで、前記変性タンパク質/MHCクラスIIを提示する細胞を得ることができる。
本発明は、例えば、前記変性タンパク質/MHCクラスIIを提示する細胞を、そのまま抗原試薬として使用してもよいし、前記変性タンパク質/MHCクラスIIを提示する細胞から、前記変性タンパク質/MHCクラスIIを解離して、これを抗原試薬として使用してもよく、さらに、前記変性タンパク質と前記MHCクラスII分子との複合体から、前記変性タンパク質を解離して、これを抗原試薬として使用することもできる。この場合、例えば、前記細胞からの前記変性タンパク質/MHCクラスIIの精製、または、前記変性タンパク質/MHCクラスIIからの前記変性タンパク質の精製を行うことが好ましい。前記精製方法は、特に制限されず、公知の手法を用いることができる。前記精製方法は、例えば、塩析、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィー等があげられる。
本発明は、前記接触工程に先立って、前述のような、前記変性タンパク質/MHCクラスIIを調製する調製工程を含んでもよく、さらに、前記変性タンパク質/MHCクラスIIを精製する精製工程を含んでもよい。
本発明において、前記抗原試薬は、例えば、前記変性タンパク質/MHCクラスIIのみを含んでもよいし、さらにその他の成分を含んでもよい。前記抗原試薬において、前記変性タンパク質/MHCクラスIIの種類は、例えば、1種類でもよいし、2種類以上を併用してもよい。
前記変性タンパク質/MHCクラスIIは、例えば、遊離した状態で使用してもよいし、担体に固定化した状態で使用してもよい。後者の場合、前記抗原試薬は、例えば、前記その他の成分として前記担体を含む。前記担体は、特に制限されず、例えば、ウェルプレート等のプレート、ビーズ等があげられる。
前記その他の成分は、例えば、水、生理食塩水、緩衝液、生理緩衝液、培地等があげられる。
(3)接触工程
本発明において、前記接触工程は、前記変性タンパク質/MHCクラスIIを含む前記抗原試薬と前記サンプルとを接触させる工程である。
前記サンプルは、特に制限されず、例えば、自己抗体を含みうる試料があげられ、例えば、生体試料等があげられる。前記生体試料は、特に制限されず、血液、体液、組織等があげられる。前記血液試料は、例えば、全血、血清、血漿等があげられる。前記体液試料は、特に制限されず、例えば、関節液、尿、唾液等があげられる。前記組織試料は、特に制限されず、例えば、前記自己免疫疾患の標的組織があげられ、具体例として、例えば、甲状腺、膵臓、血管、大脳、小脳、脊髄、眼神経、関節、骨、唾液腺、滑膜、心臓、肝臓等があげられる。前記サンプルの由来は、特に制限されず、例えば、ヒト、ヒトを除く非ヒト動物等があげられ、前記非ヒト動物は、例えば、前述の通りである。
前記サンプルは、例えば、液体でも固体でもよく、例えば、取り扱いが容易であることから、液状の形態が好ましい。前記試料が液体の場合、例えば、前記試料の未希釈液をそのままサンプルとして使用してもよく、また、前記試料を媒体に懸濁、分散または溶解した希釈液を前記サンプルとして使用してもよい。前記試料が固体の場合、例えば、前記試料を前記媒体に懸濁、分散または溶解した希釈液を前記サンプルとして使用することが好ましい。前記媒体は、特に制限されず、例えば、水、生理食塩水、緩衝液、生理食塩緩衝液等があげられる。前記緩衝液は、特に制限されず、例えば、トリス緩衝液、リン酸緩衝液、酢酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、クエン酸緩衝液、ベロナール緩衝液、各種のグッド緩衝液等があげられる。
前記接触工程において、例えば、前記サンプルに前記抗原試薬を添加してもよいし、前記抗原試薬に前記サンプルを添加してもよい。前記サンプルと前記抗原試薬との添加割合は、特に制限されない。具体例として、前記サンプルとして血清を使用し、前記抗原試薬として前記変性タンパク質/MHCクラスIIを提示する細胞を使用することが好ましい。また、前記血清と前記細胞との添加割合は、特に制限されず、例えば、1000〜2000万個(例えば、約500万個)の細胞に対して、血清0.01〜1mlであり、前記血清は、例えば、50〜10000倍(例えば、約300倍)に希釈した希釈血清サンプルとして添加することが好ましい。
前記接触工程において、前記サンプルと前記抗原試薬とは、例えば、両者を接触させてから、一定期間インキュベートすることが好ましい。インキュベートの条件は、特に制限されず、温度は、例えば、0〜37℃、好ましくは0〜10℃、より好ましくは0〜5℃であり、pHは、例えば、pH6〜9、好ましくはpH7〜8、より好ましくはpH7.2〜7.6であり、時間は、例えば、3〜120分、好ましくは10〜90分、より好ましくは30〜60分である。
(4)検出工程
本発明において、前記検出工程は、前記サンプルにおける自己抗体と前記抗原試薬における前記変性タンパク質との複合体を検出する検出工程である。前記検出工程において、例えば、前記複合体の有無の確認(定性分析)、前記複合体の量の測定(定量分析)が可能である。前記複合体は前記自己抗体を含むことから、前記複合体の検出により、間接的に、前記自己抗体を検出できる。
前記複合体は、例えば、前記抗原試薬における前記変性タンパク質/MHCクラスIIの形態によって異なってもよい。前記抗原試薬が、前記変性タンパク質/MHCクラスIIを提示した細胞を含む場合、前記複合体は、例えば、前記自己抗体と、前記変性タンパク質/MHCクラスIIを提示した細胞との複合体であり、前記抗原試薬が、前記細胞から解離された前記変性タンパク質/MHCクラスIIを含む場合、前記複合体は、例えば、前記自己抗体と前記変性タンパク質/MHCクラスIIとの複合体であり、前記抗原試薬が、前記MHCクラスII分子から解離された前記変性タンパク質を含む場合、前記複合体は、例えば、前記自己抗体と前記変性タンパク質との複合体である。いずれの複合体も、例えば、前記自己抗体と前記変性タンパク質との結合により形成されていることが好ましい。
前記検出工程において、前記複合体を検出する方法は、特に制限されない。前記検出方法としては、例えば、前記複合体における前記自己抗体を検出する物質を使用し、前記検出物質を測定することで、間接的に前記複合体を検出する方法があげられる。
前記検出物質は、例えば、前記自己抗体(一次抗体)に結合する、ポリクローナル抗体等の二次抗体があげられる。前記二次抗体は、例えば、標識物質で標識された抗体が好ましい。前記標識物質は、特に制限されず、例えば、蛍光物質、色素、同位体、酵素等があげられる。前記蛍光物質は、例えば、ピレン、TAMRA、フルオレセイン、Cy3色素、Cy5色素等の蛍光団があげられ、前記色素は、例えば、Alexa488等のAlexa色素等があげられ、前記同位体は、例えば、安定同位体および放射性同位体があげられ、好ましくは安定同位体である。前記酵素は、特に制限されず、例えば、西洋わさび由来ペルオキシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、ルシフェラーゼ等があげられる。前記標識物質が前記酵素の場合、例えば、前記酵素に対する基質を併用することが好ましく、前記基質は、例えば、前記酵素の触媒反応により、例えば、蛍光、発光等を生じる物質が好ましい。
前記基質は、特に制限されず、例えば、過酸化水素、3,3’,5,5’-Tetramethylbenzidine(TMB)、1,2-Phenylenediamine(OPD)、2,2’-Azinobis(3-ethylbenzothiazoline-6-sulfonic Acid Ammonium Salt(ABTS)、3,3’-Diaminobenzidine(DAB)、3,3’-Diaminobenzidine Tetrahydrochloride Hydrate(DAB4HCl)、3-Amino-9-ethylcarbazole(AEC)、4-Chloro-1-naphthol(4C1N)、2,4,6-Tribromo-3-hydroxybenzoic Acid、2,4-Dichlorophenol、4-Aminoantipyrine、4-Aminoantipyrine Hydrochloride、ルミノール、ルシフェリン等があげられる。
また、前記検出方法は、例えば、前記複合体の形態によって、適宜選択できる。前記複合体が、前記自己抗体と、前記変性タンパク質/MHCクラスIIを提示した細胞との複合体の場合、例えば、フローサイトメトリー、蛍光強度計、蛍光顕微鏡等の方法により検出できる。
前記検出工程において、検出条件は、特に制限されず、前記検出方法に応じて、適宜決定できる。
<自己免疫疾患の罹患の可能性を試験する方法>
本発明の自己免疫疾患の罹患の可能性を試験する方法は、前述のように、サンプルが、被検体から単離した生体試料であり、前記本発明の自己抗体の検出方法によって、前記サンプルにおける自己抗体と前記MHCクラスII分子により提示された変性タンパク質(前記変性タンパク質/MHCクラスII)との複合体を検出する検出工程、および、前記検出工程における前記複合体の検出結果から、自己免疫疾患の罹患の可能性を試験する試験工程を含むことを特徴とする。
本発明の試験方法は、前記本発明の検出方法によって前記複合体を検出することにより、間接的に前記生体試料の自己抗体を検出することが特徴であって、その他の工程および条件は、特に制限されない。本発明の試験方法によれば、優れた精度で自己抗体を検出でき、これに伴い、優れた精度で自己免疫疾患の罹患可能性を試験できる。本発明の試験方法は、特に示さない限り、前記本発明の検出方法の記載を援用できる。
本発明の試験方法において、前記被検体は、特に制限されず、例えば、ヒト、ヒトを除く非ヒト動物等があげられ、前記非ヒト動物は、例えば、前述の通りである。
本発明の試験方法において、試験対象の自己免疫疾患は、特に制限されず、例えば、関節リウマチ、橋本病、バセドウ病(Graves病)、抗リン脂質抗体症候群、インスリン自己免疫疾患症候群、天疱瘡、類天疱瘡、強皮症、シェーグレン症候群、グッドパスチャー症候群(Goodpasture症候群)、膜性腎症、IgA腎症、全身性エリテマトーデス(ループスエリテマトーゼス)、拡張型心筋症、IgG4関連疾患、ANCA関連血管炎、重症筋無力症、原田病、ナルコレプシー、Burger病、I型糖尿病、多発性硬化症、視神経脊髄炎、原発性胆汁性肝硬変、Crohn病、潰瘍性大腸炎、混合結合組織病、Wegener肉芽腫症、尋常性白斑、多発性筋炎/皮膚炎、血小板減少性紫斑病(ITP)、突発性アジソン病、突発性自己免疫性肝炎、自己免疫性膵炎、萎縮性胃炎、原発性硬化性胆管炎、大動脈炎症候群(高安動脈炎)、自己免疫性溶血性貧血、自己免疫性内耳障害、特発性無精子症、急性散在性脳脊髄炎、円形脱毛症、自己免疫性心筋症、慢性炎症性脱髄性多発神経炎、チャーグ・ストラウス症候群、特発性肺線維症、ギランバレー症候群、硬化性苔癬、顕微鏡的多発血管炎、発作性夜間血色素尿症、再発性多発軟骨炎、サルコイドーシス、スティッフパーソン症候群等があげられる。前記自己免疫疾患と、前記変性タンパク質および前記MHCクラスIIとの関係の具体例は、例えば、前記表1を参照できる。
具体例として、前述のように、関節リウマチの試験の場合、例えば、前記MHCクラスII分子が、HLA−DRを含む分子であり、前記変性タンパク質が、IgG重鎖の変性タンパク質であり、橋本病の試験の場合、例えば、前記MHCクラスII分子が、HLA−DRを含む分子であり、前記変性タンパク質が、サイログロブリンの変性タンパク質であり、抗リン脂質抗体症候群の試験の場合、例えば、前記MHCクラスII分子が、HLA−DRを含む分子であり、前記変性タンパク質が、β2グリコプロテインIの変性タンパク質であり、バセドウ病の試験の場合、例えば、前記MHCクラスII分子が、HLA−DPを含む分子であり、前記変性タンパク質が、TSHRの変性タンパク質である。
前記検出工程は、前述のように、前記本発明の自己抗体の検出方法によって、前記生体試料における自己抗体と前記変性タンパク質/MHCクラスIIとの複合体を検出する検出工程である。前記複合体は前記自己抗体を含むことから、前記複合体の検出により、間接的に、前記生体試料における前記自己抗体を検出できる。
前記検出工程は、例えば、前述のように、前記複合体の形成量を測定する測定工程であってもよい。前記形成量の測定方法は、特に制限されず、例えば、前述のような前記複合体の検出方法が採用できる。前記複合体形成量から間接的に自己抗体量を求める方法は、特に制限されず、例えば、前記複合体の測定値と自己抗体量との関係を示す関係式(例えば、検量線を含む)等が利用できる。前記関係式は、例えば、前記自己抗体の量が既知の標準試料を用いて前記検出方法による複合体の検出を行うことで、前記複合体の測定値と前記自己抗体の既知量との関係を示す関係式を求めることができる。この関係式に基づけば、前記複合体の形成量の測定値から、前記関係式に基づいて前記自己抗体量を算出できる。このため、本発明において、「前記複合体の形成量」は、例えば、前記複合体の形成量から間接的に算出した「自己抗体量」ということもできる。
前記試験工程は、前述のように、前記検出工程における前記複合体の検出結果から、自己免疫疾患の罹患の可能性を試験する工程である。前記複合体の検出結果は、例えば、間接的に自己抗体の検出結果といえる。そして、自己抗体は、前記自己免疫疾患の標識となり得ることから、前記複合体の検出結果、すなわち、間接的な自己抗体の検出結果から、例えば、自己免疫疾患の罹患可能性がある、自己免疫疾患の罹患可能性がない等の判断が可能である。前記罹患可能性があるとは、例えば、自己免疫疾患に罹患している、罹患している可能性がある、将来、罹患(発症ともいう)する可能性がある等を意味し、前記罹患可能性がないとは、例えば、罹患していない、罹患していない可能性がある等を意味する(以下、同様)。
前記被検体の罹患可能性は、前記試験工程において、例えば、前記検出工程で前記複合体が検出された場合、前記被検体は、罹患可能性があると判断でき、前記複合体が検出されない場合、前記被検体は、罹患可能性がないと判断できる。
また、前記被検体の罹患可能性は、前記試験工程において、例えば、前記測定工程で測定した前記被検体の複合体形成量の測定値と基準値との比較によって判断できる。具体的には、例えば、前記試験工程において、前記測定値と基準値とを比較し、前記測定値が前記基準値よりも高い場合に、前記被検体は、罹患可能性があるとし、前記測定値が前記基準値よりも低い時に、前記被検体は、前記罹患可能性がないとすることができる。
前記基準値は、特に制限されず、例えば、自己免疫疾患には罹患していない健常者の生体試料における前記複合体の形成量があげられる。また、前記比較対象が、前記複合体の形成量の測定値から算出した自己抗体量の場合、前記健常者の複合体の形成量も、自己抗体量が好ましい。前記健常者の生体試料は、例えば、前記被検者の生体試料と同様の条件で単離した生体試料であることが好ましい。前記健常者の生体試料における前記複合体の形成量は、例えば、前記被検者の生体試料についての前記複合体の検出と、同様の方法および条件で行うことが好ましい。
なお、前記測定値と前記基準値との比較においては、前記複合体が形成された場合の測定値が正の値となることを前提として、罹患可能性の判断を例示したが、前記複合体が形成された場合の測定値が負の値となってもよい。この場合は、例えば、前記試験工程において、前記測定値と基準値とを比較し、前記測定値が前記基準値よりも低い場合に、前記被検体は、罹患可能性があるとし、前記測定値が前記基準値よりも高い時に、前記被検体は、前記罹患可能性がないとすることができる。
<自己免疫疾患の診断方法>
前述した本発明の自己免疫疾患の罹患の可能性を試験する方法は、例えば、自己免疫疾患の診断方法ということもできる。すなわち、本発明の自己免疫疾患の診断方法は、前述のように、サンプルが、被検体から単離した生体試料であり、前記本発明の自己抗体の検出方法によって、前記サンプルにおける自己抗体と前記MHCクラスII分子により提示された変性タンパク質(前記変性タンパク質/MHCクラスII)との複合体を検出する検出工程、および、前記検出工程における前記複合体の検出結果から、自己免疫疾患を診断する診断工程を含むことを特徴とする。
本発明の診断方法は、前述した前記本発明の試験方法の記載を援用でき、前記試験方法における罹患可能性の試験は、本発明において、自己免疫疾患に罹患しているか否かの診断を意味する。
<自己抗体の検出試薬>
本発明の自己抗体の検出試薬は、前述のように、前記本発明の自己抗体の検出方法に用いる自己抗体の検出試薬であって、MHCクラスII分子により提示された変性タンパク質を含むことを特徴とする。
本発明の検出試薬は、自己抗体に対する抗原試薬として、前記変性タンパク質/MHCクラスIIを含むことが特徴であって、その他の構成および条件は、特に制限されない。本発明の検出試薬は、前記本発明の検出方法における前記抗原試薬の記載を援用できる。本発明の検出試薬によれば、優れた精度で自己抗体を検出できる。
前記本発明の自己抗体の検出試薬は、例えば、前記自己抗体の検出に使用でき、前記自己抗体の検出から、前述のように、自己免疫疾患を診断できる。このため、本発明の自己抗体の検出試薬は、自己免疫疾患の診断試薬ということができる。
<自己抗体の検出試薬の製造方法>
本発明の自己免疫疾患の検出試薬の製造方法は、前述のように、MHCクラスII分子の発現系細胞に、正常フォールドタンパク質をコードする遺伝子を導入することで、前記正常フォールドタンパク質が変性した前記変性タンパク質が提示されたMHCクラスII分子を調製する調製工程を含むことを特徴とする。本発明の製造方法は、前記本発明の検出方法における前記抗原試薬の製造に関する記載を援用できる。
<自己免疫疾患に関連する自己抗体に対する抗原タンパク質のスクリーニング方法>
本発明のスクリーニング方法は、自己免疫疾患に関連する自己抗体に対する抗原タンパク質のスクリーニング方法であり、前述のように、サンプルが、自己免疫疾患の被検体から単離した生体試料であり、前記本発明の自己抗体の検出方法によって、前記サンプルにおける自己抗体とMHCクラスII分子により提示された変性タンパク質との複合体を検出する検出工程、および、前記自己抗体との前記複合体を形成した前記変性タンパク質を、前記自己免疫疾患に関連する自己抗体に対する抗原タンパク質と判断する判断工程を含むことを特徴とする。
本発明のスクリーニング方法によれば、自己免疫疾患に関連する自己抗体に対する抗原タンパク質をスクリーニングできる。前述のように、従来の自己抗体の検出方法では、正常にフォールディングされた正常フォールドタンパク質を抗原試薬としているが、自己免疫疾患の患者について、偽陰性の問題が生じる。このため、前記正常フォールドタンパク質を自己抗原の候補タンパク質としてスクリーニングを行っても、実際には、自己免疫疾患との関連性において優れた信頼性を示す自己抗原のスクリーニングを行えていない可能性がある。これに対して、前記MHCクラスII分子により提示された変性タンパク質を自己抗原の候補タンパク質とすることによって、例えば、自己免疫疾患との関連性において優れた信頼性を示す自己抗原をスクリーニングすることが可能となる。
発明のスクリーニング方法は、特に示さない限り、前記本発明の検出方法、前記本発明の試験方法等の記載を援用できる。
本発明のスクリーニング方法において、前記自己免疫疾患の種類は、特に制限されず、例えば、自己抗原が同定されていない自己免疫疾患でもよいし、自己抗原が推定または同定されている自己免疫疾患でもよい。
前記検出工程は、前述のように、前記本発明の自己抗体の検出方法によって、前記サンプルにおける自己抗体と前記変性タンパク質/MHCクラスIIとの複合体を検出する検出工程である。前記検出工程は、例えば、前述のように、前記複合体の形成量を測定する測定工程であってもよい。
前記判断工程は、前述のように、前記自己抗体との前記複合体を形成した前記変性タンパク質を、前記自己免疫疾患に関連する自己抗体に対する抗原タンパク質と判断する判断工程である。前記判断工程において、例えば、前記検出工程で前記複合体が検出された場合、前記変性タンパク質を前記抗原タンパク質と判断でき、前記複合体が検出されない場合、前記変性タンパク質は、前記抗原タンパク質ではないと判断できる。
また、前記抗原タンパク質か否かは、前記試験工程において、例えば、前記測定工程で測定した前記被検体の複合体形成量の測定値と基準値との比較によって判断できる。具体的には、例えば、前記試験工程において、前記測定値と基準値とを比較し、前記測定値が前記基準値よりも高い場合に、前記変性タンパク質を前記抗原タンパク質と判断し、前記測定値が前記基準値よりも低い時に、前記変性タンパク質は前記抗原タンパク質ではないと判断できる。
前記基準値は、特に制限されず、例えば、自己免疫疾患には罹患していない健常者の生体試料における前記複合体の形成量があげられる。また、前記比較対象が、前記複合体の形成量の測定値から算出した自己抗体量の場合、前記健常者の複合体の形成量も、自己抗体量が好ましい。前記健常者の生体試料は、例えば、前記被検者の生体試料と同様の条件で単離した生体試料であることが好ましい。前記健常者の生体試料における前記複合体の形成量は、例えば、前記被検者の生体試料についての前記複合体の検出と、同様の方法および条件で行うことが好ましい。
なお、前記測定値と前記基準値との比較においては、前記複合体が形成された場合の測定値が正の値となることを前提として、前記抗原タンパク質か否かの判断を例示したが、前記複合体が形成された場合の測定値が負の値となってもよい。この場合は、例えば、前記判断工程において、前記測定値と基準値とを比較し、前記測定値が前記基準値よりも低い場合に、前記変性タンパク質は前記抗原タンパク質であると判断し、前記測定値が前記基準値よりも高い時に、前記変性タンパク質は前記抗原タンパク質ではないと判断できる。
(1)発現ベクターの作製
(1−1)HLA-DR発現ベクター、HLA-DP発現ベクター
ヒト末梢血単核細胞(3H Biomedical社)またはヒト細胞株のcDNAから、下記表2AおよびBに示すHLA-DRのα鎖およびβ鎖、または下記表3AおよびBに示すHLA-DPのα鎖およびβ鎖をコードするポリヌクレオチドを、それぞれ、pME18Sベクターにクローニングした。なお、前記HLA-DRのcDNAの配列情報は、IMGT/HLA Database(http://www.ebi.ac.uk/imgt/hla/index/html)を参照した。前記クローニングにより作製した発現ベクターは、以下、下記表における遺伝子名で示す(以下、同様)。
(1−2)抗原タンパク質発現ベクター
マウス脾臓cDNAから、下記表4の分泌型IgG重鎖、膜型IgG重鎖、IgG軽鎖、IgαおよびIgβをコードするポリヌクレオチドを、それぞれ、pME18Sベクターにクローニングした。ヒト甲状腺cDNAから、下記表4のサイログロブリンをコードするポリヌクレオチドを、pME18Sベクターにクローニングした。ヒト末梢血単核球のcDNAから、下記表4のβ2グリコプロテインI(β2−GPI)をコードするポリヌクレオチドを、pME18Sベクターにクローニングした。ヒト甲状腺cDNAから、下記表4の甲状腺刺激ホルモン受容体(TSHR)を、pME18Sベクターにクローニングした。
マウス 膜型IgG重鎖(mIgGH)(配列番号1)
GTCTTGTCCCAGGTCACCTTGAAGGAGTCTGGTCCTGTGCTGGTGAAACCCACAGAGACCCTCACGCTGACCTGCAGCGTCTCTGGGTTCTCACTCAGCAACGGTAGAATGGGTGTGAGTTGGATCCGTCAGCCCCCAGGGAAGGCCCTGGAGTGGGTTGGACACATTTTTTCGAATGACGACAAATCTTACACCCCATCTCTGGAGAGCAGGCTCACCATCTCCCAGGACACCTTCAGAAGCCAGGTGGTCCTAACCATTACCAACTTGGCCCCCGTGGACACAGGCACATATTATTGTGCACGAATAAGTCGTTCCATTTATGGGGTGCTTACCCCCGGCAGCGTCTGGGGCCAAGGGACCATGGTCACCGTCTCCTCAGCCTCCACCAAGGGCCCATCGGTCTTCCCCCTGGCACCCTCCTCCAAGAGCACCTCTGGGGGCACAGCGGCCCTGGGCTGCCTGGTCAAGGACTACTTCCCCGAACCGGTGACGGTGTCGTGGAACTCAGGCGCCCTGACCAGCGGCGTGCACACCTTCCCGGCTGTCCTACAGTCCTCAGGACTCCACTCCCTCAGCAGCGTGGTGACCGTGCCCTCCAGCAGCTTGGGCACCCAGACCTACATCTGCAACGTGAATCACAAGCCCAGCAACACCAAGGTGGACAAGAAAGTTGAGCCCAAATCTTGTGACAAAACTCACACATGCCCACCGTGCCCAGCACCTGAACTCCTGGGGGGACCGTCAGTCTTCCTCTTCCCCCCAAAACCCAAGGACACCCTCATGATCTCCCGGACCCCTGAGGTCACATGCGTGGTGGTGGACGTGAGCCACGAAGACCCTGAGGTCAAGTTCAACTGGTACGTGGACGGCGTGGAGGTGCATAATGCCAAGACAAAGCCGCGGGAGGAGCAGTACAACAGCACGTACCGTGTGGTCAGCGTCCTCACCGTCCTGCACCAGGACTGGCTGAATGGCAAGGAGTACAAGTGCAAGGTCTCCAACAAAGCCCTCCCAGCCCCCATCGAGAAAACCATCTCCAAAGCCAAAGGGCAGCCCCGAGAACCACAGGTGTACACCCTGCCCCCATCCCGGGATGAGCTGACCAAGAACCAGGTCAGCCTGACCTGCCTGGTCAAAGGCTTCTATCCCAGCGACATCGCCGTGGAGTGGGAGAGCAATGGGCAGCCGGAGAACAACTACAAGACCACGCCTCCCGTGCTGGACTCCGACGGCTCCTTCTTCCTCTACAGCAAGCTCACCGTGGACAAGAGCAGGTGGCAGCAGGGGAACGTCTTCTCATGCTCCGTGATGCATGAGGCTCTGCACAACCACTACACGCAGAAGAGCCTCTCCCTGTCCCCGGAGCTGCAACTGGAGGAGAGCTGTGCGGAGGCGCAGGACGGGGAGCTGGACGGGCTGTGGACGACCATCACCATCTTCATCACACTCTTCCTGTTAAGCGTGTGCTACAGTGCCACCGTCACCTTCTTCAAGGTGAAGTGGATCTTCTCCTCGGTGGTGGACCTGAAGCAGACCATCATCCCCGACTACAGGAACATGATCGGACAGGGGGCCTAG
(1−3)その他のベクター
下記文献にしたがって、前記表1のHLA-DRB1*04:04に、リンカーペプチド(配列番号2:GSGSGS)とCw3ペプチド(配列番号3:GSHSMRYFYTAVSRPGR)とを結合させたCw3-pep-HLA-DRB1*04:04をコードするポリヌクレオチドを、pME18Sベクターにクローニングした。これにより、HLA−DRのペプチド結合溝における結合性が阻害される。
文献: Scott, C. A. et al., I. A. Crystal structures of two I-Ad-peptide complexes reveal that high affinity can be achieved without large anchor residues. Immunity 8, 319-329, (1998).
ヒト末梢血単核球のcDNAから、下記表5のインバリアント鎖をコードするポリヌクレオチドを、pME18Sベクターにクローニングした。
GFPをコードする配列番号4に示すポリヌクレオチドを、pME18Sベクターにクローニングした。
GFP(配列番号4)
atggtgagcaagggcgaggagctgttcaccggggtggtgcccatcctggtcgagctggacggcgacgtaaacggccacaagttcagcgtgtccggcgagggcgagggcgatgccacctacggcaagctgaccctgaagttcatctgcaccaccggcaagctgcccgtgccctggcccaccctcgtgaccaccctgacctacggcgtgcagtgcttcagccgctaccccgaccacatgaagcagcacgacttcttcaagtccgccatgcccgaaggctacgtccaggagcgcaccatcttcttcaaggacgacggcaactacaagacccgcgccgaggtgaagttcgagggcgacaccctggtgaaccgcatcgagctgaagggcatcgacttcaaggaggacggcaacatcctggggcacaagctggagtacaactacaacagccacaacgtctatatcatggccgacaagcagaagaacggcatcaaggtgaacttcaagatccgccacaacatcgaggacggcagcgtgcagctcgccgaccactaccagcagaacacccccatcggcgacggccccgtgctgctgcccgacaaccactacctgagcacccagtccgccctgagcaaagaccccaacgagaagcgcgatcacatggtcctgctggagttcgtgaccgccgccgggatcactctcggcatggacgagctgtacaagtaa
(2)発現ベクターの導入
発現ベクターを導入する宿主細胞として、293T(理化学研究所 バイオリソースセンター)を使用し、トランスフェクション試薬として、PEI max(商品名、Polyscience社製)を使用した。前記293T細胞への前記発現ベクターの導入は、PEI max(コスモバイオ社)を2mg/mlとなるように精製水で溶かしたPEI max溶液を使用した。具体的には、Lipofectamine(商標) 2000(Invitrogen社)の使用説明書に従い、Lipofectamine(商標) 2000に代えて、前記PEI max溶液を用いて、前記発現ベクターの導入を行った。前記293T細胞は、DMEM培地を使用し、37℃、培養日数2日の条件下で培養した。
(3)試薬
抗体等の試薬は、特に示さない限り、同じ名称のものは、同じ製品を使用した。
[実施例1]
本実施例1は、関節リウマチの指標である自己抗体の検出に関する。
(実施例1A)
HLA−DRとIgG重鎖とを発現させ、細胞表面に、HLA−DRによりIgG重鎖が提示されることを確認した。
α鎖用発現ベクターとして前記HLA-DRA*01:01ベクター、β鎖用発現ベクターとして前記HLA-DRB1*04:04ベクター、分泌型IgG重鎖の前記sIgGHベクターおよび前記GFPベクターを、293T細胞に導入し、培養した。前記培養後の細胞を、アロフィコシアニン(APC)標識抗ヒトIgG Fc抗体または抗HLA−DR抗体と反応させ、さらに、APC標識抗マウスIgG抗体と反応させた。そして、フローサイトメトリーによる分析を行った。具体的には、フローサイトメーター(商品名FACSCalibur(商標)、Becton Dickinson社)を用いて、GFP陽性細胞における細胞表面のIgG重鎖の発現およびHLA−DRの発現を確認した。コントロール1は、前記HLA−DR発現ベクターを導入しない以外は同様にして、また、コントロール2は、前記HLA−DR発現ベクターに代えて、前記Cw3-pep-HLA-DRB1*04:04ベクターを導入した以外は、同様にして測定した。前記Cw3-pep-HLA-DRB1*04:04ベクターは、HLA−DRのペプチド結合溝へのIgG重鎖の結合を阻害できる。
・APC標識抗ヒトIgG Fc抗体:Jackson ImmunoResearch社 Code: 109-136-098
・フローサイトメトリー用抗HLA−DR抗体:クローンHL-40、EXBIO社、モノクローナル抗体(mAb)
・APC標識抗マウスIgG 抗体:Jackson ImmunoResearch社 Code: 715-136-150
これらの結果を図1に示す。図1は、細胞表面におけるIgGまたはHLA−DRの発現量を示すヒストグラムである。図1において、横軸は、蛍光強度であり、HLA−DRに提示されたIgG発現量またはHLA−DR発現量を示し、縦軸は、細胞のカウント数を示す。図1に示すように、HLA-DRA*01:01、HLA-DRB1*04:04およびIgG重鎖を導入した細胞(HLA-DR0404)は、細胞表面のIgGおよびHLA−DRの発現が認められた。一方、前記コントロール1(without HLA-DR)は、細胞表面のIgGおよびHLA−DRの発現が認められず、また、前記コントロール2(Cw3-pep-HLA-DR0404)は、細胞表面のHLA−DRの発現は認められるが、細胞表面のIgGの発現は低かった。以上のことから、細胞表面におけるIgG重鎖の発現には、HLA-DRが必要であること、また、IgG重鎖は、HLA−DRのペプチド結合溝に結合し、細胞表面に提示されていることがわかった。なお、IgGは、重鎖と軽鎖のホモダイマーからなり、両方がなければ、正常にフォールディングされず、抗体として機能しないことが知られている。本実施例では、IgG重鎖のみを細胞に導入しており、軽鎖非存在下、重鎖のみが、HLA−DRにより細胞表面に発現している。このことから、前記細胞表面に提示されているIgGは、ミスフォールドタンパク質(変性タンパク質)といえる。
(実施例1B)
HLA−DRを免疫沈降し、IgG重鎖が、HLA−DRのペプチド結合溝で結合していることを確認した。
293T細胞に、α鎖発現用ベクターであるHLA-DRA*01:01の他に、後述する図2の図中に示す組合せとなるように各発現ベクターを導入し、培養した。前記培養後の細胞を、0.5% NP−40液(polyoxyethylene(9)octyiphenyl ether)に溶解し、前記溶解液について、ビオチン化抗HLA−DR抗体およびストレプトアビジンセファロース(GEヘルスケア社)を用いて免疫沈降を行った。
・免疫沈降用ビオチン化抗HLA−DR抗体:クローンL243、ATCC社、mAb
前記免疫沈降したサンプルについて、ウエスタンブロッティングを行った。すなわち、前記サンプルを電気泳動に供し、ペルオキシダーゼ標識抗ヒトIgG抗体またはウサギ抗HLA−DRα抗体と、ペルオキシダーゼ標識抗ウサギIgG抗体とを用いて、IgGおよびHLA−DRを検出した。コントロールは、前記溶解液について、プロテインAセファロース(GEヘルスケア社)を用いて免疫沈降を行った以外は、同様にして、ウエスタンブロッティングを行った。
・ペルオキシダーゼ標識抗ウサキIgG抗体:Thermo Fisher
Scientific社 Prod#: 1858415
・ペルオキシダーゼ標識抗ヒトIgG抗体:Jackson ImmunoResearch社 Code: 709-035-149
・ウサギ抗HLA−DRα抗体:品番FL-254、Santa Cruz Biotechnology, Inc.社
これらの結果を図2に示す。図2は、ウェスタンブロットの写真である。図2において、写真の上側は、レーン番号および発現ベクターの導入(+)と未導入(−)を示し、写真の左側は、検出したタンパク質の種類を示す。
図2において、IgG重鎖のみを導入した細胞(レーン1)およびHLA−DRのみを導入した細胞(レーン2−4)は、1段目および3段目の写真に示すように、IgG重鎖またはHLA−DRの発現は確認されたが、2段目の写真に示すように、両者の結合は確認されなかった。これに対して、IgG重鎖とリウマチに感受性であるHLA-DR4(HLA-DRA*01:01/HLA-DRB1*04:04)とを導入した細胞(レーン5)は、1段目および3段目の写真に示すように、IgG重鎖およびHLA−DRの発現が確認され、且つ、2段目の写真に示すように、両者の結合も確認できた。なお、IgG重鎖とリウマチに抵抗性であるHLA-DR3(HLA-DRA*01:01/HLA-DRB1*03:01)とを導入した細胞(レーン6)は、IgG重鎖およびHLA−DRの発現が確認されたが、リウマチに感受性であるHLA-DR4を導入した細胞(レーン5)と比較して、HLA−DRとIgG重鎖との結合は低下した。また、前記HLA-DRA*01:01/Cw3-pep-HLA-DRB1*04:04を導入した細胞(レーン7)は、IgG重鎖およびHLA−DRの発現が確認されたが、ペプチド結合部位における結合性がペプチドで阻害されているため、レーン5の細胞(HLA-DR4)と比較して、HLA−DRとIgG重鎖との結合が著しく低下した。これらの結果から、IgG重鎖の細胞表面への発現には、HLA−DRが必要であること、また、IgG重鎖は、HLA−DRのペプチド結合溝に結合し、細胞表面に提示されていることがわかった。
(実施例1C)
リウマチ因子(RF)およびRF61リウマチ因子抗体(RF61、mAb)が、HLA−DRに提示されたIgG重鎖を認識することを確認した。
RF61リウマチ因子抗体の重鎖およびラムダ軽鎖の可変部領域をコードするポリヌクレオチドを、それぞれ、アクセッションNo.X54437およびアクセッションNo.X54438に基づき合成した。前記重鎖のポリヌクレオチドは、分泌型マウスIgG1重鎖の定常領域をコードするポリヌクレオチド(アクセッションNo.L247437.1)を含むpME18Sベクターに、前記ラムダ軽鎖のポリヌクレオチド(アクセッションNo.X06876)は、ヒトラムダ鎖の定常領域をコードするポリヌクレオチドを含むpME18Sベクターに、それぞれ、機能的に連結するよう導入した。次に、前記重鎖を含むベクターおよび前記軽鎖を含むベクターを、前記実施例1Aと同様にして、293T細胞に導入し、培養した。前記培養後、RF61抗体を含む培養上清を回収し、前記上清を、RF61として用いた。
前記実施例1Aと同様にして、α鎖発現用ベクターである前記HLA-DRA*01:01ベクター、β鎖発現用ベクターである前記HLA-DRB1*04:04ベクター、分泌型IgG重鎖の前記sIgGHベクターおよび前記GFPベクターを導入した293T細胞を培養し、前記培養した細胞を各種抗体と反応させ、GFP陽性細胞について、フローサイトメトリー分析を行った。具体的には、RFの結合の確認には、前記細胞を、RFを含むリウマチ患者の希釈血清と反応させ、さらに、APC標識抗ヒトIgM抗体を反応させた。前記希釈血清は、前記患者の血清を300倍希釈したものを使用した。RF61の結合の確認には、予め、前記RF61と前記APC標識抗マウスIgG Fc抗体との2量体を形成させ、前記細胞を、前記2量体と反応させた。また、実施例1Aと同様に、細胞表面におけるIgG重鎖またはHLA−DRの発現の確認には、前記細胞を、前記抗IgG抗体または前記抗HLA−DR抗体と反応させ、さらに、前記APC標識抗マウスIgG Fab抗体と反応させた。
・APC化抗ヒトIgM抗体:Jackson ImmunoResearch社製 Code: 709-136-073
コントロール1は、前記HLA-DR発現ベクターを導入しない以外は同様にして、また、コントロール2は、分泌型IgG重鎖のsIgGHベクターに代えて、膜型IgG重鎖の前記mIgGHベクター、IgG軽鎖の前記IgGLベクター、前記Igαベクターおよび前記Igβベクターを導入した以外は同様にして、フローサイトメトリー分析を行った。
これらの結果を図3に示す。図3は、細胞表面におけるIgG重鎖もしくはHLA−DRの発現量、または細胞表面におけるRFもしくはRF61の結合量を示すヒストグラムである。図3において、横軸は、蛍光強度であり、HLA−DRに提示されたIgG重鎖もしくはHLA−DRの発現量、またはRFもしくはRF61の結合量を示し、縦軸は、細胞のカウント数を示す。図3において、上段は、分泌型IgG重鎖を導入した細胞の結果であり、下段は、膜型IgG重鎖、IgG軽鎖、IgαおよびIgβを導入した細胞(コントロール2)の結果である。
図3の上段に示すように、HLA−DRと分泌型IgG重鎖を導入した細胞(sIgGH)では、細胞表面におけるIgG重鎖およびHLA−DRの発現が確認され、且つ、RFおよびRF61の結合が確認された。これに対して、図3の下段に示すように、コントロール2(mIgGH+L+Igαβ)では、細胞表面におけるIgG重鎖およびHLA−DRの発現は確認されたが、RFおよびRF61の結合は確認されなかった。これは、RFおよびRF61が、重鎖と軽鎖を含み正常にフォールドされたIgGではなく、HLA-DRに提示されたミスフォールドIgGを認識するためと考えられる。これらの結果から、RFおよびRF61は、正常にフォールディングされたIgGよりも、HLA−DRに提示されたミスフォールドIgG重鎖を認識し、強く結合することがわかった。
(実施例1D)
リウマチ患者由来の血清中のIgMが、HLA−DRに提示されたIgG重鎖を認識することを確認した。
RF陽性患者由来の血清を採取し、300倍に希釈し、RF(+)血清サンプル(n=5)とした。また、RF陰性患者由来の血清を採取し、RF(−)血清サンプル(n=5)とした。293T細胞に、α鎖発現用ベクターである前記HLA-DRA*01:01ベクター、β鎖発現用ベクターである前記HLA-DRB1*04:04ベクター、前記分泌型IgG重鎖の前記IgGHベクター、前記IgG軽鎖ベクターおよび前記GFPベクターを導入し、培養した。前記培養後の細胞を、前記RF(+)サンプルまたは前記RF(−)サンプルと反応させ、さらに、前記APC化抗ヒトIgM抗体および前記APC標識ストレプトアビジンを順に反応させた。そして、前記実施例1Cと同様にして、フローサイトメトリーにより、前記細胞表面における自己抗体の結合を測定した。コントロールは、前記HLA-DR発現ベクターを導入しない以外は、同様にしてフローサイトメトリー分析を行った。
これら結果を図4に示す。図4は、細胞表面におけるGFPの発現量および自己抗体の結合量を示すグラフである。図4において、横軸は、GFPの発現量を示し、縦軸は、RFの結合量を示す。図4において、上段は、HLA−DR未導入の細胞(コントロール)の結果であり、下段は、分泌型IgG重鎖およびIgG軽鎖と共にHLA−DRを導入した細胞の結果である。そして、左の4列が、RF(−)血清サンプルの結果であり、右の4列が、RF(+)血清サンプルの結果である。
図4の下段に示すように、分泌型IgG重鎖およびIgG軽鎖と共にHLA−DRを導入した細胞(sIgGH+L+HLA-DR0404)は、RF(−)血清サンプルを用いた場合、自己抗体の結合が確認されず、RF(+)血清サンプルを用いた場合に、自己抗体の結合が確認された。これに対して、図4の上段に示すように、HLA−DR未導入の細胞(sIgGH+L)では、RF(+)血清サンプルおよびRF(−)血清サンプルの両者において、自己抗体の結合は確認されなかった。これは、HLA−DR未導入の細胞(sIgGH+L)では、分泌型IgGは、細胞外へ分泌されるのみであり、HLA−DRが発現しないことから、HLA−DRによって細胞表面にIgGが提示されることがなく、IgGは細胞表面に存在しないからである。このため、RF陽性患者由来の血清中のIgM抗体は、分泌型IgGのみを導入した細胞には結合しない。これらの結果から、RF陰性患者ではなく、陽性患者の血清中のみに、HLAクラスII分子に提示されたIgGに結合するIgM抗体が存在することがわかった。
(実施例1E)
異なるハプロタイプのHLA-DRのIgG重鎖の提示能およびリウマチ患者由来の血清中のIgMが、前記HLA−DRに提示されたIgG重鎖を認識することを確認した。
α鎖用発現ベクターとして前記HLA-DRA*01:01ベクター、β鎖用発現ベクターとして前記HLA-DRB1*03:01ベクター、前記HLA-DRB1*15:01ベクターおよび前記HLA-DRB1*04:01ベクターのいずれか1つ、前記分泌型IgG重鎖の前記sIgGHベクターおよび前記GFPベクターを、293T細胞に導入した。
前記細胞を培養した後、前記培養細胞について、前記実施例1Cと同様にして、フローサイトメトリー分析によって、細胞表面におけるIgG重鎖およびHLA−DRの発現量、ならびに、自己抗体の結合量の確認を行った。コントロールは、293T細胞に、ベクターとして、前記分泌型IgG重鎖の前記IgGHベクターおよび前記GFPベクターを導入した以外は、同様にして測定した。
これらの結果を、図5に示す。図5は、細胞表面におけるIgG重鎖、もしくはHLA−DRの発現量、または自己抗体の結合量を示すヒストグラムである。図5において、横軸は、蛍光強度であり、HLA-DRに提示されたIgG、もしくはHLA−DRの発現量または自己抗体の結合量を示し、縦軸は、細胞のカウント数を示す。図5において、左列が、前記HLA-DRB1*03:01導入細胞(HLA-DR3)、中列が、前記HLA-DRB1*15:01導入細胞(HLA-DR15)、右列が、前記HLA-DRB1*04:01導入細胞(HLA-DR4)である。また、図5において、陰影をつけたヒストグラムは、前記分泌型IgG重鎖を導入した細胞(コントロール)の結果である。
図5において、上段および下段に示すように、いずれのハロタイプのβ鎖を有するHLA−DRを導入した細胞においても、細胞表面におけるIgG重鎖およびHLA−DRの発現が確認された。そして、中段に示すように、HLA−DRに提示されたIgG重鎖の発現とRFの結合を確認した結果、いずれのハロタイプのβ鎖を有するHLA−DRを導入した細胞においても、自己抗体の結合が確認された。これらの結果から、前記HLA−DRのハプロタイプにかかわらず、前記HLA−DRがIgG重鎖を提示すること、および前記HLA−DRのハプロタイプにかかわらず、前記HLA−DRに提示されたIgG重鎖が自己抗体に認識されることがわかった。
(実施例1F)
異なるハプロタイプのβ鎖を有するHLA−DRについて、リウマチ感受性のオッズ比と自己抗原への自己抗体の結合量との相関関係を確認した。
異なるハロタイプのβ鎖を有するHLA−DRについて、リウマチ感受性のオッズ比は、下記文献を参照した。
参考文献:Raychaudhuri, S. et al. Five amino acids in three HLA proteins explain most of the association between MHC and seropositive rheumatoid arthritis. Nat. Genet. 44, 291-296, (2012).
α鎖用発現ベクターとして前記HLA-DRA*01:01ベクター、β鎖用発現ベクターとして前記表2の各種HLA-DRBベクター、前記分泌型IgG重鎖の前記sIgGHベクターおよび前記GFPベクターを、293T細胞に導入し、培養した。前記培養細胞について、GFP陽性細胞において前記各HLA−DRに提示されたIgG重鎖(自己抗原)と自己抗体との結合量を測定した。具体的には、前記培養細胞について、前記実施例1Cと同様にして、フローサイトメトリー分析を行い、GFP陽性細胞におけるRFの平均蛍光強度を算出した。
そして、前記平均蛍光強度と前記リウマチ感受性のオッズ比との関連性を、ピアソンの積率相関係数(Pearson product−moment correlation coefficient)により解析した。また、コントロールは、前記分泌型IgG重鎖の前記sIgGHベクターに代えて前記置換HELベクターを導入し、抗Flag抗体を用いた以外は、同様にして平均蛍光強度を測定し、前記平均蛍光強度と前記リウマチ感受性のオッズ比との関連性を解析した。
・抗Flag抗体:クローンM2、シグマ社
これらの結果を図6に示す。図6は、自己抗体の結合量を示す平均蛍光強度とリウマチ感受性のオッズ比との関連性を示すグラフである。図6において、横軸は、前記リウマチ感受性のオッズ比を示し、縦軸は、前記自己抗体の結合量の平均蛍光強度を示す。また、図6において、図中の数字は、HLA-DRにおけるHLA-DRB(β鎖)のハプロタイプを示す。
図6に示すように、異なるハプロタイプのHLA−DRについて、前記HLA−DRに提示されたIgG重鎖への前記自己抗体の結合量と前記リウマチ感受性のオッズ比とは、極めて高い相関性(r=0.81、P=0.000046)を示した。
(実施例1G)
HLA−DRに提示されたIgG重鎖へのリウマチ患者由来の血清中の自己抗体の結合量とRF値とが相関することを確認した。
(1)関節リウマチ患者由来血清における自己抗体の結合量とRF値との比較
リウマチ患者由来の血清および健常者由来の血清を採取し、300倍に希釈し、血清サンプルとした。293T細胞に、α鎖発現用ベクターである前記HLA-DRA*01:01ベクター、β鎖発現用ベクターである前記HLA-DRB1*04:04ベクター、前記分泌型IgG重鎖の前記IgGHベクターおよび前記GFPベクターを導入し、培養した。前記培養後の細胞を、前記実施例1Cと同様にして、フローサイトメトリーで分析を行った。また、前記血清サンプルは、公知のELISA法により、RF値を確認済である。具体的には、ヒトIgG Fc断片(Jackson ImmunoResearch社製)を、96マイクロウェルプレート(Costar社製)に吸着させた。次に、前記血清サンプルを加え、前記血清サンプル中のRFをヒトIgG Fc断片に結合させた。さらに、ペルオキシダーゼ標識ウサギ抗ヒトIgM抗体(Jackson ImmunoResearch社製)と反応させ、前記反応後、検出試薬(BD OptiEIA(商標)、BD Bioscience社製)を用い、ペルオキシダーゼ活性を測定した。また、RF値が1060U/mLの標準血清サンプル(GenWay Biotech,Inc社製)を用い、同様にしてペルオキシダーゼ活性を測定し、標準曲線を作製した。そして、前記標準曲線に基づき、前記血清サンプルのペルオキシダーゼ活性の測定値から、前記RF値を算出した。また、コントロールは、前記抗体に代えて、前記APC標識抗ヒトIgM抗体のみと反応させた以外は同様にして、測定した。
これらの結果を図7に示す。図7は、細胞表面における自己抗体の結合量を示すヒストグラムである。図7において、横軸は、蛍光強度であり、自己抗体の結合量を示し、縦軸は、細胞のカウント数を示し、図の上の数値は、各サンプルの前記RF値を示す。また、陰影をつけたヒストグラムは、コントロールの結果である。そして、図7において、左3列が、リウマチ患者由来の血清サンプルの結果であり、右3列が、健常者由来の血清サンプルの結果である。
図7に示すように、HLA−DR未導入のコントロールでは、自己抗体の結合は確認されなかった。また、図7に示すように、健常者由来の血清サンプルでは、前記RF値によらず自己抗体の結合は確認されなかった。これに対し、リウマチ患者由来の血清サンプルでは、前記RF値と相関的に、自己抗体の結合量が増加した。
(2)RF標準曲線の作製
前記標準血清サンプルを、0.1%BSA含有HANKS緩衝液で、100倍希釈から3.16倍ずつ希釈し、3.16×10倍希釈までの希釈系列を作成し、これらを標準サンプルとした。前記標準血清サンプルのRF値は、1060U/mlである。
前記RFを含むリウマチ患者の希釈血清に代えて、前記標準サンプルを用いた以外は、前記実施例1Cと同様にして、フローサイトメトリー分析により、前記細胞に対する前記標準サンプルのHLA-DR/IgGH複合体を認識する自己抗体の結合量を示す平均蛍光強度を算出した。このように、前記HLA−DRと前記IgGとの複合体を抗原試薬として結合量を測定したことを、以下、「HLA-DR/IgGH複合体システムによる測定」とし、それによって「抗HLA-DR/IgGH複合体抗体価」を評価した。
次に、前記標準サンプルについて、RF標準曲線を作製した。具体的には、前記ELISA法によってRF値が確定している前記標準サンプルの希釈倍率に対応した測定値を暫定的に抗HLA-DR/IgGH複合体抗体価(aHLA-DR/IgGH、自己抗体値)とし、これと、前記HLA-DR/IgGH複合体システムにより測定した前記HLA-DR4/IgGH複合体を認識する自己抗体の結合量を示す平均蛍光強度(human IgM−MFI)とから、前記RF標準曲線を作製した。
この結果を図8に示す。図8は、前記RF標準曲線を示したグラフである。図8において、横軸は、前記HLA-DR/IgGH複合体システムにより測定した、前記標準サンプル中のHLA-DR4/IgGH複合体を認識する自己抗体の結合量を示す平均蛍光強度(Human IgM−MFI)を示し、縦軸は、前記標準サンプルのELISA法による既知の測定値より暫定的に決定した抗HLA-DR/IgGH複合体抗体価(aHLA-DR/IgGH)を示す。
(3)他の疾患患者由来の血清における自己抗体の結合量とRF値との比較
リウマチ患者由来の血清(n=112)、全身性エリテマトーデス(SLE)患者由来の血清(n=19)およびAPS患者由来の血清(n=117)を採取し、前記(2)と同様にして、フローサイトメトリー分析により、前記細胞に対する前記血清中のHLA-DR4/IgGH複合体を認識する自己抗体の結合量を示す平均蛍光強度を算出した。さらに、前記図8の前記RF標準曲線に基づいて、間接的にaHLA-DR/IgGH複合体抗体値(HLA-DR/IgGH複合体システムによる自己抗体値)を算出した。コントロールは、健常者由来の血清(n=127)を用い、同様にして、HLA-DR4/IgGH複合体を認識する自己抗体の結合量の測定、および前記検量線に基づくaHLA-DR/IgGH値(HLA-DR/IgGH複合体システムによる自己抗体値)の算出を行った。また、前記血清サンプルは、前記(1)と同様にしてRF値を確認済である。
これらの結果を図9に示す。図9は、aHLA-DR/IgGH値とRF値とを比較したグラフである。図9において、横軸は、aHLA-DR/IgGH値を示し、縦軸は、RF値を示し、グラフは左から、リウマチ患者(RA)由来の血清サンプル、SLE患者由来の血清サンプル、APS患者由来の血清サンプルおよび健常者(Healthy donors)由来の血清サンプルを示す。図9に示すように、SLE患者由来の血清サンプル、APS患者由来の血清サンプルおよび健常者由来の血清サンプルでは、前記RF値によらず自己抗体の結合は確認されなかった。これに対し、リウマチ患者由来の血清サンプルでは、前記RF値と相関的に、aHLA-DR/IgGH値が増加した。これらの結果から、前記HLA−DRへ提示されたIgG重鎖への自己抗体の結合は、リウマチ特異的であることがわかった。
[実施例2]
本実施例2は、橋本病の指標である自己抗体の検出に関する。
(実施例2A)
異なるハプロタイプのβ鎖を有するHLA−DRとサイログロブリン(TG)とを発現させ、細胞表面に、前記HLA−DRによりTGが提示されることを確認した。
α鎖用発現ベクターとして前記HLA-DRB1*01:01ベクター、β鎖用発現ベクターとして前記HLA-DRB1*01:03ベクター、前記HLA-DRB1*14:03ベクター、前記HLA-DRB1*15:01ベクターおよび前記HLA-DRB4*01:03(HLA-DR53)ベクターのいずれか1つ、前記TGベクターおよび前記GFPベクターを、293T細胞に導入し、培養した。前記培養後の細胞を、抗ヒスチジン抗体と反応させ、さらに、APC標識抗マウスIgG抗体と反応させた。そして、前記実施例1Aと同様に、GFP陽性細胞について、フローサイトメトリー分析を行った。コントロール1は、前記HLA-DR発現ベクターを導入しない以外は、同様にして、また、コントロール2は、前記APC標識抗マウスIgG抗体のみを使用した以外は、同様にして測定した。
・抗ヒスチジン抗体:Wako社、クローン9F2、モノクローナル抗体(mAb)
・APC標識抗マウスIgG抗体:Jackson ImmunoResearch社製 Code: 715-136-150
これらの結果を、図10に示す。図10は、細胞表面におけるTGの発現量を示すヒストグラムである。図10において、横軸は、蛍光強度であり、HLA−DRに提示されたTGの発現量を示し、縦軸は、細胞のカウント数を示す。また、図10において、陰影をつけたヒストグラムは、コントロール2の結果である。
図10に示すように、いずれのハロタイプのβ鎖を有するHLA−DRを導入した細胞も、細胞表面においてHLA−DRに提示されたTGが確認された。一方、HLA−DR未導入のコントール1(Without DR)は、HLA−DRが発現されず、細胞表面において、TGの発現が認められなかった。これらの結果から、前記HLA−DRによってTGが提示されることがわかった。
(実施例2B)
HLA−DRを免疫沈降し、TGが、HLA−DRと結合していることを確認した。
293T細胞に、α鎖発現用ベクターである前記HLA-DRA*01:01の他に、後述する図11の図中に示す組合せとなるように各発現ベクターを導入し、培養した。前記培養後の細胞について、前記実施例1Bと同様にして、免疫沈降によるサンプル調製およびウエスタンブロッティングを行った。前記ウエスタンブロッティングでは、抗体として、抗ヒトTG抗体または前記ウサギ抗HLA−DRα抗体を使用し、TGおよびHLA−DRを検出した。コントロールは、前記実施例1Bと同様に、前記培養後の細胞を溶解したのみである非免疫沈降サンプルを使用した以外は、同様にして、ウエスタンブロッティングを行った。
抗ヒトTG抗体:Dako社
これらの結果を図11に示す。図11は、ウェスタンブロットの写真である。図11において、写真の上側は、レーン番号および発現ベクターの導入(+)と未導入(−)を示し、写真の左側は、検出したタンパク質の種類を示す。
図11において、レーン1は、前記コントロールであり、発現は確認されなかった。TGのみを導入した細胞(レーン2)およびHLA−DRのみを導入した細胞(レーン3)は、1段目と3段目の写真に示すように、TGまたはHLA−DRの発現は確認されたが、2段目の写真に示すように、両者の結合は確認されなかった。これに対して、TGとHLA−DRとを導入した細胞(レーン4)は、1段目および3段目の写真に示すように、TGおよびHLA−DRの発現が確認され、且つ、2段目の写真に示すように、両者の結合も確認できた。これらの結果から、TGの細胞表面への発現には、HLA−DRが必要であること、また、TGは、HLA−DRに結合して、細胞表面に発現することがわかった。なお、抗HLA−DR抗体および抗TG抗体を用いた免疫染色により、橋本病患者由来の甲状腺組織においても、同様に、HLA−DRにTGが提示されていることが確認できた。
(実施例2C)
橋本病患者由来の血清中のIgG抗体が、HLA−DRに提示されたTGを認識することを確認した。
抗TG抗体陽性(n=3)の橋本病患者、抗TG抗体陰性(n=3)の橋本病患者および健常者(n=1)から血清を採取し(n=53)、0.1%BSA含有HANKS緩衝液で300倍に希釈し、血清サンプルとした。ここでいう抗TG抗体とは、正常にフォールディングされているTGに結合する抗体を意味する。
293T細胞に、α鎖用発現ベクターとして前記HLA-DRA*01:01ベクター、β鎖用発現ベクターとして前記HLA-DRB1*01:01(HLA-DR0101)ベクターまたは前記HLA-DRB4*01:03(HLA-DR53)ベクター、前記TGベクターおよび前記GFPベクターを導入し、培養した。前記培養細胞を、前記血清サンプルと反応させ、さらに、ビオチン化抗ヒトIgG抗体および前記APC標識ストレプトアビジンを順に反応させた。そして、GFP陽性細胞について、前記実施例1Cと同様に、フローサイトメトリー分析により、前記細胞に対する前記血清中のIgG抗体の結合量を測定した。コントロール1は、前記HLA-DR発現用ベクターを導入しない以外は同様にして、また、コントロール2は、サンプルとして、前記健常者由来の血清サンプルを使用した以外は同様にして、測定した。
・ビオチン化抗ヒトIgG抗体:Jackson ImmunoResearch社製
これらの結果を図12に示す。図12は、血清IgG抗体の前記細胞への結合量を示すヒストグラムである。図12において、横軸は、蛍光強度であり、血清IgG抗体の前記細胞への結合量を示し、縦軸は、細胞のカウント数を示す。図12において、上段は、TGと橋本病抵抗性HLA−DR1(HLA-DRA*01:01/HLA-DRB1*01:01)を導入した細胞(TG/HLA-DR0101)の結果であり、下段は、TGと橋本病感受性のHLA−DR53(HLA-DRA*01:01/HLA-DRB4*01:03)を導入した細胞(TG/HLA-DR53)の結果である。また、図12において、左側から、Patient1-3の3列は、抗TG抗体陽性の血清サンプル、Patient4-6の3列は、抗TG抗体陰性の血清サンプル、右の1列は、健常者由来の血清サンプルを使用した結果である。
図12に示すように、抗TG抗体陽性の血清(Patient1-3)を用いた場合、抵抗性HLA−DRの細胞(TG/HLA-DR1)および感受性HLA−DRの細胞(TG/HLA-DR53)のいずれにおいても、血清IgG抗体の結合が確認された。一方、抗TG抗体陰性の血清(Patient4-6)を用いた場合、抵抗性HLA−DRの細胞(TG/HLA-DR1)では、血清IgG抗体の結合は確認されなかったが、感受性HLA−DRの細胞(TG/HLA-DR53)では、血清IgG抗体の結合が確認された。この結果から、感受性HLA−DRに提示されたTGによれば、正常にフォールディングされたTGを抗原とした場合には検出できない橋本病患者由来血清IgG抗体(自己抗体)をも検出できることがわかった。このため、前者の正常フォールドタンパク質抗原による自己抗体の検出では、偽陰性となる場合でも、前記自己抗体を検出でき、結果的に、優れた精度で橋本病患者の罹患の危険性の判断が可能といえる。
(実施例2D)
橋本病患者由来の血清中のIgG抗体が、HLA−DRに提示されたTGを認識することを確認した。
抗TG抗体陽性の橋本病患者由来の血清と抗TG抗体陰性の橋本病患者由来の血清を、それぞれ、所定の倍率(100、300、900、2,700、8,100または24,300倍)に希釈し、希釈サンプルとした。
293T細胞に、α鎖用発現ベクターとして前記HLA-DRA*01:01ベクター、β鎖用発現ベクターとして前記HLA-DRB1*01:01(HLA-DR0101)ベクターまたは前記HLA-DRB4*01:03(HLA-DR53)ベクター、前記TGベクターおよび前記GFPベクターを導入し、培養した。前記培養細胞を、前記希釈サンプルと反応させた以外は、前記実施例2Cと同様に、フローサイトメトリー分析により、前記細胞に対する前記血清中のIgG抗体の結合量を示す平均蛍光強度を算出した。
これらの結果を図13に示す。図13は、血清IgG抗体の前記細胞への結合量(平均蛍光強度)を示すグラフである。図13において、横軸は、血清の希釈倍率を示し、縦軸は、IgG抗体の結合量に対応する平均蛍光強度を示す。図13において、左側のグラフが、抗TG抗体陽性の血清サンプル、右側のグラフが、抗TG抗体陰性の血清サンプルを使用した結果である。
図13において、左のグラフに示すように、抗TG抗体陽性血清のIgG抗体は、抵抗性HLA−DRの細胞(TG/HLA-DR1、■)および感受性HLA−DRの細胞(TG/HLA-DR53、●)のいずれ対しても、相対的に低い希釈率で、相対的に高い平均蛍光強度を示し、血清の希釈率の増加にしたがって、平均蛍光強度が低下した。また、抗TG抗体陰性血清のIgG抗体は、抵抗性HLA−DRの細胞(TG/HLA-DR1、■)に対して、いずれの希釈率でも、平均蛍光強度がほとんど検出できなかったのに対し、感受性HLA−DRの細胞(TG/HLA-DR53、●)に対して、相対的に低い希釈率で、相対的に高い平均蛍光強度を示し、血清の希釈率の増加にしたがって、平均蛍光強度が低下した。
(実施例2E)
橋本病患者由来の血清中のIgG抗体が、HLA−DRに提示されたTGを認識することを確認した。
53名の橋本病患者由来の血清を、前記実施例2Cと同様にして300倍に希釈し、血清サンプルとして使用した以外は、前記実施例2Dと同様にして、フローサイトメトリー分析により、GFP陽性細胞に対する血清IgG抗体の結合量を示す平均蛍光強度を算出した。
これらの結果を図14に示す。図14は、血清IgG抗体の前記細胞への結合量(平均蛍光強度)を示すグラフである。図14において、横軸は、抵抗性HLA−DRの細胞(TG/HLA-DR1)に対するIgG抗体の結合量を示し、縦軸は、感受性HLA−DRの細胞(TG/HLA-DR53)に対するIgG抗体の結合量を示す。
図14に示すように、抵抗性HLA−DRの細胞(TG/HLA-DR1)へのIgG抗体の結合は、一部の橋本病患者由来の血清において検出されたのみであるのに対し、感受性HLA−DRの細胞(TG/HLA-DR53)へのIgG抗体の結合は、全ての橋本病患者由来の血清において検出された。これらの結果から、感受性HLA−DR(HLA−DR53)に提示されたTGを検出抗原として用いることで、より正確に、自己抗体の検出に基づく橋本病患者の診断が可能となることがわかった。
[実施例3]
本実施例3は、抗リン脂質抗体症候群(APS)の指標である自己抗体の検出に関する。
(実施例3A)
HLA−DRとβ2グリコプロテインI(β2−GPI)とを発現させ、細胞表面に、HLA−DRによりβ2−GPIが提示されること、および、抗β2−GPI抗体および抗カルジオリピン抗体(aCL)が、前記HLA−DRに提示されたβ2−GPIを認識することを確認した。
α鎖用発現ベクターとして前記HLA-DRA*01:01ベクター、β鎖用発現ベクターとして前記HLA-DRB1*04:04ベクター、前記β2-GPIベクターおよび前記GFPベクターを、293T細胞に導入し、培養した。前記培養後の細胞を、抗β2−GPI抗体または抗カルジオリピン抗体(aCL)と反応させ、さらに前記APC標識抗ヒトIgG抗体と反応させた。そして、前記実施例1Aと同様に、GFP陽性細胞について、フローサイトメトリー分析を行った。コントロール1は、前記β2-GPI発現ベクターのみを導入以外は同様にして、また、コントロール2は、前記GFPベクターのみを導入した以外は、同様にして測定した。
・抗β2−GPI抗体:ポリクローナル抗体、Atlas antibodies社
・ヒト抗カルジオリピン抗体:クローンEY2C9、北海道大学医学部渥美教授より分与、下記論文参照:Ichikawa, K., M. A. Khamashta, T. Koike, E. Matsuura, and G. R. V. Hughes. 1994. P2-Glycoprotein I reactivity of monoclonal anticardiolipin antibodies from patients with the antiphospholipid syndrome. Arthritis Rheum. 37:1453.
これらの結果を図15に示す。図15は、細胞表面におけるHLA−DR発現量もしくはβ2−GPI発現量または抗カルジオリピン抗体の結合量を示すヒストグラムである。図15において、横軸は蛍光強度であり、左のグラフが、HLA−DRの発現量を示し、中央のグラフ列が、β2−GPIの発現量を示し、右のグラフが、抗カルジオリピン抗体の結合量を示す。図15において、縦軸は、細胞のカウント数を示す。また、図15において、陰影をつけたヒストグラムは、前記GFPのみを導入した細胞(コントロール2)の結果である。
図15に示すように、HLA−DRおよびβ2−GPIを導入した細胞(β2-GPI+HLA-DR4)は、細胞表面においてHLA−DRに提示されたβ2−GPIが確認されまた、抗カルジオリピン抗体の結合も認められた。一方、HLA−DR未導入のコントロール1(β2GPI)は、細胞表面において、HLA−DRが発現されず、細胞表面において、β2−GPIの発現が認められず、また、抗カルジオリピン抗体の結合も認められなかった。以上のことから、細胞表面におけるβ2−GPIの発現には、HLA−DRが必要であること、また、抗カルジオリピン抗体は、HLA−DRに提示されたミスフォールドβ2−GPIを認識し、結合することがわかった。
(実施例3B)
異なるハプロタイプのHLA−DRによるβ2−GPIの提示能を確認した。
α鎖用発現ベクターとして前記HLA-DRA*01:01ベクター、β鎖用発現ベクターとして前記表2の各種HLA-DRBベクター、前記β2-GPIベクターおよび前記GFPベクターを、293T細胞に導入した。
前記細胞を培養した後、前記培養後の細胞について、前記実施例3Aと同様にして、フローサイトメトリー分析によって、細胞表面におけるβ2−GPIの発現量および前記抗カルジオリピン抗体の結合量の確認を行った。具体的には、前記フローサイトメトリー分析により、GFP陽性細胞における、β2−GPIおよび抗カルジオリピン抗体の平均蛍光強度を算出した。これらの結果を図16および図17に示す。
図16は、細胞表面におけるβ2−GPIの発現量を示すグラフである。図16において、横軸は、平均蛍光強度であり、β2−GPIの発現量を示し、縦軸は、前記HLA−DRBの種類を示す。
図16に示すように、いずれの前記HLA−DRBを発現させた場合においても、β2−GPIの高い発現量が確認できた。これらの結果から、前記HLA−DRのハプロタイプにかかわらず、前記HLA−DRがβ2−GPIを提示することがわかった。
次に、図17は、抗カルジオリピン抗体の結合量を示すグラフである。図17において、横軸は、平均蛍光強度であり、抗カルジオリピン抗体の結合量を示し、縦軸は、前記HLA−DRBの種類を示す。
図17に示すように、いずれの前記HLA−DRBを発現させた場合においても、抗カルジオリピン抗体の高い結合量が確認できた。これらの結果から、前記HLA−DRのハプロタイプにかかわらず、前記抗カルジオリピン抗体が、前記HLA−DRに提示されたβ2−GPIと結合することがわかった。
(実施例3C)
HLA−DRを免疫沈降し、β2−GPIが、HLA−DRと結合していることを確認した。
293T細胞に、α鎖発現用ベクターである前記HLA-DRA*01:01の他に、後述する図18の図中に示す組合せとなるように各発現ベクターを導入し、培養した。前記培養後の細胞について、前記実施例1Bと同様にして、免疫沈降によるサンプル調製およびウエスタンブロッティングを行った。前記免疫沈降では、抗HLA−DR抗体固定化ビーズ(ビオチン化抗HLA−DR抗体およびストレプトアビジンセファロース(GEヘルスケア社))を使用し、前記ウエスタンブロッティングでは、抗体として、前記抗β2−GPI抗体または前記ウサギ抗HLA−DRα抗体と、ペルオキシダーゼ標識抗ウサギIgG抗体とを使用し、β2−GPIおよびHLA−DRを検出した。コントロール1は、前記HLA-DRベクターおよび前記β2-GPIベクターを導入しない以外は、同様にしてウエスタンブロッティングを行った。また、コントロール2は、β2−GPIの発現確認のため、前記培養後の細胞を溶解したのみである非免疫沈降サンプルを使用した以外は、同様にして、ウエスタンブロッティングを行った。
これらの結果を図18に示す。図18は、ウェスタンブロットの写真である。図18において、写真の上側は、レーン番号および発現ベクターの導入(+)と未導入(−)を示し、写真の左側は、検出したタンパク質の種類を示す。
図18において、レーン1は、前記コントロール1であり、発現は確認されなかった。β2−GPIのみ導入した細胞(レーン2)およびHLA−DRのみを導入した細胞(レーン3)は、2段目および3段目の写真に示すように、β2−GPIまたはHLA−DRの発現は確認されたが、1段目の写真に示すように、両者の結合は確認されなかった。これに対して、β2−GPIとAPS感受性のHLA−DR7(HLA-DRA*01:01/HLA-DRB1*07:01)とを導入した細胞(レーン4)は、2段目および3段目の写真に示すように、β2−GPIおよびHLA−DRの発現が確認され、且つ、1段目の写真に示すように、両者の結合も確認できた。これらの結果から、β2−GPIの細胞表面への発現には、HLA−DRが必要であることがわかった。なお、抗HLA−DR抗体および抗β2−GPI抗体を用いた免疫染色により、APS患者由来の流産絨毛組織においても、同様に、HLA−DRにβ2−GPIが提示されていることが確認できた。
(実施例3D)
ELISA法を用いない新たなHLA-DR/β2-GPI複合体に対する自己抗体値(aHLA-DR/β2-GPI値)の測定系を構築し、APS患者由来の血清について、自己抗体の間接的な測定を行った。
(1)APS標準曲線の作製
APS患者由来の血清を、0.1%BSA含有HANKS緩衝液で、100倍希釈から3.16倍ずつ希釈し、3.16×10倍希釈までの希釈系列を作成し、これらを標準サンプルとした。前記APS患者由来の血清は、MESACUP(商標)カルジオリピンテストを使用した公知のELISA法により、抗カルジオリピン抗体測定値(aCL)が47.0U/mlであることを確認済みである。
293T細胞に、α鎖用発現ベクターとして前記HLA-DRA*01:01ベクター、β鎖用発現ベクターとして前記HLA-DRB1*07:01ベクター、前記β2-GPIベクターおよび前記GFPベクターを、前記実施例1Aと同様にして、導入し培養した。そして、前記培養後の細胞を、前記標準サンプルと反応させ、さらに、前記APC標識抗ヒトIgG抗体と反応させた。そして、GFP陽性細胞について、前記実施例3Aと同様に、フローサイトメトリー分析により、前記細胞に対する前記血清中のHLA-DR7/β2-GPI複合体を認識する自己抗体の結合量を示す平均蛍光強度を算出した。このように、前記HLA−DRと前記β2−GPIとの複合体を抗原試薬として結合量を測定したことを、以下、「HLA-DR/β2-GPI複合体システムによる測定」とし、それによって「抗HLA-DR/β2-GPI複合体抗体価」を評価した。
次に、前記標準サンプルについて、APS標準曲線を作製した。具体的には、前記ELISA法によってaCL測定値が確定している前記標準サンプルの希釈倍率に対応した測定値を暫定的に抗HLA-DR/β2-GPI複合体抗体価(aHLA-DR/β2-GPI、自己抗体値)とし、これと、前記HLA-DR/β2-GPI複合体システムにより測定した前記HLA-DR7/β2-GPI複合体を認識する自己抗体の結合量を示す平均蛍光強度(human IgG−MFI)とから、前記APS標準曲線を作製した。
この結果を図19に示す。図19は、前記APS標準曲線を示したグラフである。図19において、横軸は、前記HLA-DR/GPI複合体システムにより測定した、前記標準サンプル中のHLA-DR7/β2-GPI複合体を認識する自己抗体の結合量を示す平均蛍光強度(human IgG−MFI)を示し、縦軸は、前記標準サンプルのELISA法による既知の測定値より暫定的に決定した抗HLA-DR/β2-GPI複合体抗体価(aHLA-DR/β2-GPI)を示す。
(2)APS患者由来の血清中のaHLA-DR/β2-GPI値の測定
APS患者(n=120)から血清を採取し、0.1%BSA含有HANKS緩衝液で100倍に希釈し、血清サンプルとした。前記APS患者由来の血清は、前記(1)と同様に、前記ELISA法により抗カルジオリピン抗体測定値(aCL)を確認済みである。また、公知のELISA法により抗β2-GPI抗体値(aβ2GPI)を確認した。
次に、前記(1)と同様にして、前記培養後の細胞を、前記血清サンプルと反応させ、さらに、前記APC標識抗ヒトIgG抗体と反応させた。そして、GFP陽性細胞について、前記実施例3Aと同様に、フローサイトメトリー分析により、前記細胞に対する前記血清中のHLA-DR7/β2-GPI複合体を認識する自己抗体の結合量を示す平均蛍光強度を算出した。さらに、前記図19の前記APS標準曲線に基づいて、間接的にaHLA-DR/β2-GPI複合体抗体値(HLA-DR/GPI複合体システムによる自己抗体値)を算出した。コントロールは、健常者由来の血清(n=100)を用い、同様にして、HLA-DR7/β2-GPI複合体を認識する自己抗体の結合量の測定、および前記検量線に基づくaHLA-DR/β2-GPI値(HLA-DR/GPI複合体システムによる自己抗体値)の算出を行った。
まず、図20に、APS患者由来(n=120)および、健常者由来(n=100)の血清サンプルに関する、HLA-DR/GPI複合体システムによる自己抗体値(aHLA-DR/β2-GPI値)の分布を表すグラフを示す。図20において、横軸は、自己抗体値(aHLA-DR/β2-GPI Ab)の範囲を示し、縦軸は、各aHLA-DR/β2-GPI値の範囲の人数を示す。また、健常人100名のaHLA-DR/β2-GPI値の99パーセンタイルである、1.8U/mLを基準値とした。図20において、前記基準値以上のaHLA-DR/β2-GPI値の範囲は、白抜きのバーで、基準値未満のaHLA-DR/β2-GPI値の範囲は、グレーのバーで示している。図20に示すように、前記APS患者では、120名のうち100名(83.3%)が、前記基準値を超える値(陽性)となった。そして、APS患者と健常者との間で、前記aβ2-GPI/DR7値は、有意差が確認された(p=3.3×10−33)。これらの結果から、HLA-DR/β2-GPI複合体を抗原試薬とし、前記APS標準曲線を用いて間接的にHLA-DR/GPI複合体システムによる自己抗体値を算出することで、優れた精度でAPSの罹患の危険性を判断できることがわかった。
次に、図21に、前記APS患者由来の血清サンプルに関する、HLA-DR/GPI複合体システムにより算出した自己抗体値(aHLA-DR/β2-GPI値)と前記ELISA法による抗β2-GPI抗体測定値(aβ2GPI)および抗カルジオリピン抗体測定値(aCL)をそれぞれ比較したグラフを示す。(A)において、横軸は、ELISA法による抗β2-GPI抗体測定値を示し、(B)において、横軸は、抗カルジオリピン抗体測定値を示し、(A)および(B)において、縦軸は、HLA-DR/GPI複合体システムによる自己抗体値(aHLA-DR/β2-GPI値)を示す。(A)において、垂直方向の点線は、抗β2-GPI抗体測定値の基準値(2.2U/mL)を示し、(B)において、垂直方向の点線は、抗カルジオリピン抗体測定値の基準値(18.5U/mL)を示し、(A)および(B)において、水平方向の点線はaHLA-DR/β2-GPI値の基準値(1.8U/mL)を示す。なお、抗β2-GPI抗体測定値の基準値および抗カルジオリピン抗体測定値の基準値は、それぞれ、前記健常者由来の血清サンプルにおける抗β2-GPI抗体測定値および抗カルジオリピン抗体測定値の99パーセントタイルの値である。また、(A)および(B)において、白丸(○)は、前記aHLA-DR/β2-GPI値の基準値以上の血清サンプルを示し、黒丸(●)は、前記aHLA-DR/β2-GPI値の基準値未満の血清サンプルを示す。(A)および(B)において、図中の数字は、各分画の血清サンプルの割合を示す。
図21(A)に示すように、前記APS患者の35%が、抗β2-GPI抗体測定値が陽性であるのに対し、前記APS患者の84.6%が、前記HLA-DR/GPI複合体システムによる自己抗体値が陽性であった。また、(B)に示すように、前記APS患者の36.6%が、抗カルジオリピン抗体測定値が陽性であるのに対し、前記APS患者の83.3%が、前記HLA-DR/GPI複合体システムによる自己抗体値が陽性であった。さらに、(A)および(B)の左上の分画に示すように、抗β2-GPI抗体測定値または抗カルジオリピン抗体測定値が陰性のAPS患者の約80%が、HLA-DR/GPI複合体システムによる自己抗体値では、陽性を示した。これの結果から、HLA-DR/GPI複合体システムを抗原試薬として算出した自己抗体値によれば、例えば、従来のELISA法による抗β2-GPI抗体測定値または抗カルジオリピン抗体測定値に対して、優れた精度でAPS患者を陽性と判断できることがわかった。また、従来のELISA法では、陰性と判断されるAPS患者についても、正しく陽性と判断できることがわかった。このため、本発明によれば、従来の正常フォールドβ2−GPIを用いたELISA法よりも、優れた精度でAPSの罹患の危険性の判断が可能といえる。
[実施例4]
本実施例4は、バセドウ病(Graves病)の指標である自己抗体の検出に関する。
バセドウ病患者由来の血清中の自己抗体が、HLA−DRに提示されたTSHRを認識することを確認した。
バセドウ病患者および健常者から血清を採取し、300倍に希釈し、血清サンプルとした。前記実施例1Aと同様にして、α鎖発現用ベクターである前記HLA-DPA*02:02ベクター、β鎖発現用ベクターである前記HLA-DPB*05:01ベクター、前記TSHRベクターおよび前記GFPベクターを導入した293T細胞を培養し、前記培養した細胞を各種抗体または血清とそれぞれ反応させ、GFP陽性細胞について、フローサイトメトリー分析を行った。具体的には、バセドウ病患者由来の血清中の自己抗体の結合の確認には、前記細胞を、バセドウ患者の希釈血清と反応させ、さらに、APC標識抗ヒトIgM抗体を反応させた。また、細胞表面におけるTSHRまたはHLA−DPの発現の確認には、前記細胞を、抗TSHR抗体または抗HLA−DP抗体と反応させ、さらに、前記APC標識抗マウスIgG Fab抗体と反応させた以外は、前記実施例1Aと同様にして、フローサイトメトリー分析を行った。
・抗ヒトTSHR抗体:Santa Cruz社製 クローン2C11
・抗ヒトHLA−DP抗体:ExBio社製 クローンHL-38
コントロール1は、前記HLA-DP発現ベクターを導入しなかった以外は同様にして、コントロール2は、前記抗体に代えて、前記APC標識抗ヒトIgM抗体または前記APC標識抗マウスIgG Fab抗体のみと反応させた以外は同様にして、フローサイトメトリー分析を行った。
これらの結果を図22に示す。図22は、細胞表面におけるTSHRもしくはMHCクラスII分子の発現量、またはMHCクラスII分子に提示されたTSHRへの自己抗体の結合量を示すヒストグラムである。図22において、横軸は、蛍光強度であり、HLA−DP、TSHRの発現量または前記血清サンプル中の自己抗体の結合量を示し、縦軸は、細胞のカウント数を示す。図22において、上段は、TSHRを導入した細胞(コントロール1)の結果であり、下段は、TSHRおよびMHCクラスII分子を導入した細胞の結果である。
図22の下段に示すように、HLA−DRとTSHRを導入した細胞(TSHR+HLA−DP5)では、細胞表面におけるTSHRおよびHLA−DPの発現が確認され、且つ、バセドウ病(GD)患者由来の血清サンプル中の自己抗体の結合が確認された。これに対して、図22の上段に示すように、コントロール1(TSHR)では、細胞表面におけるTSHRの発現は確認されたが、バセドウ病患者由来の血清サンプル中の自己抗体の結合は確認されなかった。また、いずれの細胞においても、健常者由来の血清サンプル中の抗体との結合は確認されなかった。これらの結果から、バセドウ病患者由来の血清サンプル中の自己抗体は、正常にフォールディングされたTSHRよりも、HLA−DPに提示されたミスフォールドTSHRを認識し、強く結合することがわかった。
以上、実施形態を参照して本願発明を説明したが、本願発明は上記実施形態に限定されるものではない。本願発明の構成や詳細には、本願発明のスコープ内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。
この出願は、2013年7月17日に出願された日本出願特願2013−148833を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
本発明によれば、自己抗体を検出するための抗原試薬として、前記変性タンパク質/MHCクラスIIを使用することにより、自己免疫疾患に関与する自己抗体を優れた精度で検出でき、これに伴い、偽陰性の問題を抑制し、優れた精度で自己免疫疾患の罹患の可能性を判断できる。このため、本発明は、例えば、臨床分野および生化学分野において極めて有用である。

Claims (13)

  1. MHCクラスII分子により提示された変性タンパク質を含む抗原試薬と、サンプルとを接触させる接触工程、および、
    前記サンプルにおける自己抗体と前記抗原試薬における前記変性タンパク質との複合体を検出する検出工程を含み、
    前記変性タンパク質が、正常フォールドタンパク質のフォールディングが変性したミスフォールドタンパク質であることを特徴とする、自己抗体の検出方法。
  2. 前記変性タンパク質が、MHCクラスII分子の発現系細胞に正常フォールドタンパク質のコード遺伝子を導入することで得られる、MHCクラスII分子により提示された変性タンパク質である、請求項記載の検出方法。
  3. 前記変性タンパク質が、自己免疫疾患に関与する正常フォールドタンパク質が変性したタンパク質である、請求項1または2記載の検出方法。
  4. 前記変性タンパク質が、IgG重鎖、サイログロブリン、β2グリコプロテインIおよび甲状腺刺激ホルモン受容体からなる群から選択された少なくとも一つが変性したタンパク質である、請求項1からのいずれか一項に記載の検出方法。
  5. 前記MHCクラスII分子が、HLA−DR、HLA−DPおよびHLA−DQからなる群から選択された少なくとも一つである、請求項1からのいずれか一項に記載の検出方法。
  6. 前記MHCクラスII分子が、HLA−DR1、HLA−DR2、HLA−DR3、HLA−DR4、HLA−DR5、HLA−DR6、HLA−DR7、HLA−DR8、HLA−DR13、HLA−DR14、HLA−DR15、HLA−DQ3、HLA−DQ6、HLA−DQ8、HLA−DP4およびHLA−DP5からなる群から選択された少なくとも一つである、請求項1からのいずれか一項に記載の検出方法。
  7. 前記MHCクラスII分子と前記変性タンパク質との組合せが、下記(1)から(4)からなる群から選択された少なくとも一つである、請求項1からのいずれか一項に記載の検出方法。
    (1)前記MHCクラスII分子が、HLA−DRを含み、前記変性タンパク質が、IgG重鎖の変性タンパク質である
    (2)前記MHCクラスII分子が、HLA−DRを含み、前記変性タンパク質が、サイログロブリンの変性タンパク質である
    (3)前記MHCクラスII分子が、HLA−DRを含み、前記変性タンパク質が、β2グリコプロテインIの変性タンパク質である
    (4)前記MHCクラスII分子が、HLA−DPを含み、前記変性タンパク質が、甲状腺刺激ホルモン受容体の変性タンパク質である
  8. サンプルが、被検体から単離した生体試料であり、
    請求項1からのいずれか一項に記載の自己抗体の検出方法によって、前記サンプルにおける自己抗体とMHCクラスII分子により提示された変性タンパク質との複合体を検出する検出工程、および、
    前記検出工程における前記複合体の検出結果から、自己免疫疾患の罹患の可能性を試験する試験工程を含むことを特徴とする、自己免疫疾患の罹患の可能性を試験する方法。
  9. 前記検出工程が、前記複合体の形成量を測定する測定工程である、請求項記載の試験方法。
  10. 前記試験工程において、前記測定工程で測定した前記複合体形成量の測定値と基準値とを比較し、前記測定値が前記基準値よりも高い場合に、前記被験者は、前記自己免疫疾患の罹患可能性があるとし、
    前記基準値が、健常者から単離した生体試料における前記複合体の形成量である、請求項記載の試験方法。
  11. 請求項1からのいずれか一項に記載の自己抗体の検出方法に用いる自己抗体の検出試薬であって、
    MHCクラスII分子により提示された変性タンパク質を含み、
    前記変性タンパク質が、正常フォールドタンパク質のフォールディングが変性したミスフォールドタンパク質であることを特徴とする、自己抗体の検出試薬。
  12. 請求項11記載の検出試薬の製造方法であり、
    MHCクラスII分子の発現系細胞に、正常フォールドタンパク質をコードする遺伝子を導入することで、前記正常フォールドタンパク質が変性した前記変性タンパク質が提示されたMHCクラスII分子を調製する調製工程を含むことを特徴とする、検出試薬の製造方法。
  13. サンプルが、自己免疫疾患の被検体から単離した生体試料であり、
    請求項1からのいずれか一項に記載の自己抗体の検出方法によって、前記サンプルにおける自己抗体とMHCクラスII分子により提示された変性タンパク質との複合体を検出する検出工程、および、
    前記自己抗体との前記複合体を形成した前記変性タンパク質を、前記自己免疫疾患に関連する自己抗体に対する抗原タンパク質と判断する判断工程を含むことを特徴とする、自己免疫疾患に関連する自己抗体に対する抗原タンパク質のスクリーニング方法。
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