例えば閉塞性動脈硬化症、バージャー病、塞栓血栓症等の疾患により、下肢に向かう動脈の閉塞による血液障害を起こし、足部や足趾に潰瘍や壊死を起こすことがある。このような状態を「重症虚血肢」という。重症虚血肢の、より確実な治療は、患者自身の静脈(以下、自家静脈)を、閉塞を起こした下腿動脈等の動脈へのバイパスとして使用するバイパス手術である。このようなバイパス手術には、例えば大腿膝窩動脈血行再建等がある。近年、平均寿命の延長による高齢化や、糖尿病患者や透析患者の増加、血管疾患の啓蒙等により、閉塞性動脈硬化症が増加している。特にその末期状態である重症虚血肢の罹患者数の増加が危惧されている。しかし、それにもかかわらず、大腿膝窩動脈血行再建の手術を行うことができる血管外科医が相対的に不足していることが、現在、問題となっている。
大腿膝窩動脈血行再建では、動脈の閉塞部(以下、単に閉塞部〕の中枢側(心臓に近い方)と末梢側(心臓から遠い方)をバイパスさせ、閉塞部より末梢側に動脈血を送るためのバイパスが要求される。例えば大伏在静脈等の自家静脈が、バイパスの材料としての最適な材料となる。また大腿膝窩動脈血行再建の術式としては、リバース法(reverse法)、ノンリバース法(non−reverse法)、及びインサイチュ法(in situ法)がある。
図1は、静脈1と静脈弁2の血流に対する動作を示している。図1(A)は、末梢側Pから中枢側Cに向かって静脈血が流れたときの静脈弁2の動作(開放)を示し、図1(B)は、中枢側Cから末梢側Pに向かって静脈血が流れたときの静脈弁2の動作(閉鎖)を示している。
動脈は、多くの場合静脈1に併走した状態で心臓から末梢に向けて存在する。動脈は、弾力性のある分厚い血管壁をもち、心臓の拍動により心臓から末梢に向けて流れる動脈血を通す。それに対し静脈1は、動脈より薄く弾力性が少ない血管壁5を有する。そして足先などの末梢を循環した静脈血は、下肢や上肢の筋肉によるポンプ機能と、静脈血の逆流を防ぐ静脈弁2の働きとにより、末梢から心臓に向けて送られる。なお、正常な静脈弁2は末梢側Pに反転できない構造となっている。
静脈1の内腔3には、図1に示すように複数の静脈弁2が形成されている。静脈弁2は二葉弁であり、図1(A)に示すように末梢から中枢に向かう血液のみを通過させる。中枢から末梢に向かって血液が流れると、図1(B)のように静脈弁2は閉鎖し、その流れを阻害する。静脈弁2の周囲の中枢側Cには、静脈弁洞4(sinus valvulae)と呼ばれる膨大節が形成されている。
大腿膝窩動脈血行再建の手術のうち、リバース法は、自家静脈1を採取して移植片とした後に中枢側Cと末梢側Pとを逆転させ、移植片の中枢側C結部を閉塞節より末梢側Pの動脈に吻合し、末梢側P結節を閉塞部より中枢側Cの動脈に吻合する術式である。
ノンリバース法は、自家静脈1を採取して移植片とした後に自家静脈1を逆転させずに吻合する術式である。ノンリバース法では、移植斤の中枢側C結部を閉塞部より中枢側Cの動脈に吻合し末梢側P結節を閉塞部より末梢側Pの動脈に吻合する点が、リバース法と異なる。
インサイチュ法は、閉塞する動脈に並走する静脈1を隣接する動脈に吻合させ、バイパスとして使用する術式である。インサイチュ法では、自家静脈1を採取しない点がリバース法やノンリバース法と異なる。すなわちインサイチュ法では、閉塞部より中枢側Cと末梢側Pに位置する部位の静脈1のみを剥離して切断し、その中間部分から分岐する静脈1の枝6の血液を遮断させ、その上端と下端を並走する動脈に吻合する術式である。
リバース法では移植片の中枢側Cと末梢側Pとを逆転させるため、移植片(すなわち自家静脈1)の内部を流れる血流の方向は、手術前後で変化しない。そのためリバース法で自家静脈1を、静脈弁2をカットせずに動脈に吻合させても、動脈流は滞りなく流れる。しかし血管は、心臓に近い程太い傾向がある。また中枢側Cと末梢側Pとで同じ太さであったとしても、中枢側Cの血管の方が末梢側Pの血管よりも血管壁5に弾力性があり、伸縮性に富む。そのためリバース法を採用した場合、中枢側Cでは太い動脈に細い径の移植片端部を吻合しなければならず、末梢側Pでは細い動脈に太い径の移植片端部を吻合しなければならない。
一方、ノンリバース法やインサイチュ法であれば、動脈の太い部分に、太く柔らかい部分(中枢側C端部)の静脈1を吻合することができ、動脈の細い部分には細い部分(末梢側P端部)の静脈1を吻合することができる。その結果、血管壁5のテーパリングが自然な流れになる。しかし中枢側Cから末梢側Pに向かって流れる動脈流の方向は、自家静脈1にとっては逆流であるため、何の処理もせずに自家静脈1を動脈に吻合すると、静脈弁2によりその血液が阻害されてしまう。そのためノンリバース法やインサイチュ法を行うためには、自家静脈1の静脈弁2を破壊する処理が必要である。
静脈弁2の破壊に使用する器具として、従来からは、例えば特許文献1や非特許文献1、2に開示されるものがある。図2(A)〜(E)は特許文献1や非特許文献1に開示された静脈弁切開器10の説明図である。図2(A)は静脈弁切開器10の全体説明図である。図2(B)は、静脈弁切開器10を静脈1内に挿入したときの図2(A)のHの拡大図であり、図2(C)は図2(B)のA−A矢視図である。図2(D)は、図2(B)の静脈弁切開器10)を90°回転させて静脈1内に挿入したときの図2(A)のHの拡大図であり、図2(E)は図2(D)のB−B矢視図である。なお説明を分かりやすくするため図2(C)と図2(E)では、第二棒状体12の描写を省略している。また図2(C)と図2(E)の黒丸は、静脈弁切開器10の切刃15aの先端の位置を表している。
特許文献1や非特許文献1に開示された静脈弁切開器10は、静脈弁洞4に適合する全体形状をもつ第一棒状体15と、第一棒状体15と同じ直径をもつ第二棒状体12を有する。また静脈弁切開器10は、第一棒状体15と第二棒状体12とを連結する連結部材14と、第二棒状体12の後端から延びる柔軟性ワイヤ16とからなる。第一棒状体15と第二棒状体12は、合成樹脂で形成されている。第一棒状体15は、丸みを帯びた円錐状の前端と円筒状の胴体をもつ。円筒状の胴体の後端は、わずかに円錐状もしくは先細りになっており、V字型に切り込まれ、鈍性の切刃15aを形成している。特許文献1には、第一棒状体15の全体形状が静脈弁洞4に適合するように形成されることが開示されており、非特許文献1には、第一棒状体15が、静脈弁洞4を逆向きにした形状をしていることが開示されている。第二棒状体12は、丸み帯びた前端と、円筒状の胴体と、円錐状の後端を有する。
非特許文献2の静脈弁カッターは、外側に向けた刃を一部に有する弓なりに湾曲した細長い4枚の金属(以下、ブレード)を有し、弧を外側にした状態で一端がワイヤに結合されている。ブレードは血管の太さに応じて、術者がブレードの太さを調節できる構造となっている。しかし特許文献1や非特許文献1に開示された静脈弁切開器10は下記に示す問題があり、十分に、短時間に安全にかつ確実に静脈弁を切開するという目的を達成できない。
上述の特許文献1や非特許文献1に開示された静脈弁切開器10の問題点を次に説明する。第一棒状体15の胴体がテーバの無い円筒形状であり、それをV字型に切り込むことにより静脈弁洞4に似せた形状に形成されている。それにより静脈弁切開器10は、一葉の静脈弁2に1つの切刃15aが対応している。このV宇型に切り込まれた形状により、2つの切刃15aの間にV宇型の隙間が開いた形状となってしまう。第一棒状体15が円筒形状をV宇型に切り込む形状をしているため、切刃15aを横から見たとき(図2(B))と、その位置から連結部材14を中心として周方向に90°移動した位置から切刃15aを見たときでは、第一棒状体15の後端の形状が異なる。前者の形状は円筒形状であるのに対し(図2(B)、後者の形状は円錐形状である(図2(D))。言い換えると、第一棒状体15の後端は、後方に向かうに従い平たくなる形状、すなわち厚みが漸減する形状となっている。
静脈1からは多数の枝6(図1を参照)が分岐しているため、自家静脈1の静脈弁2を破壊する処理を行う際には、枝6に器具を引っ掛けて静脈1を割くことがないように、慎重に行わなければならない。しかし特許文献1や非特許文献1に開示された静脈弁切開器10は後端に行くに従い平たくなり2つの切刃15aの間にV宇型の隙間が開いた形状となっているため、第一棒状体15と第二棒状体12の間に静脈1の血管壁5が入りやすいおそれがあった。また静脈弁切開器10は2つの切刃15aの先端を通る面では第一棒状体15の外面よりわずかに内側に切刃15aの先端が設けられているが、2つの切刃15aの先端を通る面に垂直な方向では、切刃15aの先端が第一棒状体15の外面に近接して位置する。そのため枝6などの血管組織が切刃15aの先端に近づきやすく、枝6を切刃15aで引っ掛けるおそれがあった。
また静脈弁切開器10の切刃15aの先端が鈍性であるため、静脈弁2の破壊は、閉じた静脈弁2に先端を引っ掛けた状態で術者が静脈弁切開器10の柔軟性ワイヤ16を引くことにより、静脈弁2を鈍性にちぎることで行われる。そのため静脈弁切開器10によって静脈弁2を破壊すると、静脈弁2の創面が粗雑になってしまっていた。
さらに静脈弁切開器10は、後端に行くに従い厚みが漸減する形状となっているため、静脈弁切開器10の角度が二葉の静脈弁2の間に2つの切刃15aの先端がある角度だと切刃15aが静脈弁2を素通りしてしまう(図2(D)と図2(E)を参照)。そのため静脈弁切開器10が各切刃15aの先端を結ぶ線が二葉の静脈弁2の辺縁に対して直角となる角度であり(図2(B)と図2(C)を参照)、かつ閉じた状態の静脈弁2を通過しなければ、静脈弁2を破壊することはできない。なお、ここで閉じた状態の静脈弁2とは、第一棒状体15と第二棒状体12の間に静脈弁2がはまった状態のことをいう。
そのため静脈
弁切開器10で静脈弁2を確実に破壊するためには非特許文献1に開示されているように静脈弁切開器10を静脈1に挿入して引き抜くという作業を、静脈弁切開器10を90°〜45°回転させながら2〜3回繰り返さなければならなかった。それにより静脈弁切開器10を何度も往復させることから血管の内皮を傷つけるおそれがあり、手術時間も長くなる可能性があった。また非特許文献2のブレードは、先端の刃が鋭利に尖り、外側を向いているため、枝6に刃が引っ掛かり静脈1を割いてしまう可能性があった。
このように従来の静脈弁切開器10や静脈弁カッターはいずれも枝6に引っ掛かるおそれがあった。そのためノンリバース法やインサイチュ法であれば血管壁5のテーパリングが自然な流れになるという利点があり、インサイチュ法であれば患者にかかる負担や手術侵襲が少ないという利点があるにも関わらず、現在、これらの術式はほとんど普及していない。
本発明は上述した問題点を解決するために創案されたものである。すなわち本発明の目的は、血管の内皮や枝を傷付ける可能性が少なく、静脈内を一回往復させるだけで、経験の少ない術者でもより安全かつ容易に静脈弁を切開することができ、静脈弁の切り口を滑らかな切創にすることができる静脈弁切開刀とその製造方法を提供することにある。静脈弁を切開すると、中枢から末梢への血液の逆流を阻止するという静脈弁が有する機能は失われ、動脈の閉塞部をこの静脈でバイパスさせたときには、その静脈に動脈血を中枢から末梢に流すことができる。
本発明では、静脈弁切開刀が一部に回転体形状を有する先端カッターに当該先端カッターに連結したガイドに面した後方部に当該先端カッターの外周囲面を一面としかつ当該ガイドの方に刃先が向けられた切削刃が当該先端カッターの外周囲に設けられているため、術者が回転軸のどの回転角度で静脈内に静脈弁切開刀を挿入しても、切削刃を静脈弁に当てることができ、そのため術者は、静脈弁切開刀を一回挿入しそれを引き出すだけで、静脈弁を切開することができることを主な特徴とする。この特徴は、静脈弁切開刀の切削刃が、回転体形状を有する先端カッターの回転体形状の外周囲面を一面として構成され当該先端カッターの外周囲に設けられているため、静脈弁切開刀が静脈内にあってどの回転角度であっても切削刃が静脈弁に当たるとの効果による。
上記の静脈内にあってどの回転角度であっても本発明に係る静脈弁切開刀は切削刃が静脈弁に当たるとの効果を奏するについて、より具体的な構成の一つのとして、上記の先端カッターに設けられた切削刃が、前記後方部の回転体形状の回転面周囲に等間隔で4つ以上設けられ、かつ、その刃先を頂点とし一面が前記後方部の回転体形状の外周面の一部であり他の二面が当該先端カッターの後方部に形成され当該外周面の裏側にある平面から構成された3つの稜線を有する略三角錐形状を有する先端カッターを、本発明では提供する。さらに、本発明に係る静脈弁切開刀が静脈を移動しやすくかつ静脈壁を傷つけにくい効果を奏するために、上記の先端カッターの前方部は回転半楕円体であってその長軸半径が前記先端カッターの最大径の半径より長く、後方部は当該長軸半径より短い回転半楕円の長軸半径を有する回転半楕円体の一部若しくは半径が前記先端カッターの最大径の半径と等しい半球の一部である回転体形状、又は前記回転軸と共通の回転軸を有する卵型回転形状の一部である回転体形状を有することを特徴とする先端カッターの形状を、本発明では提供する。
上記の静脈内にあってどの回転角度であっても本発明に係る静脈弁切開刀は切削刃が静脈弁に当たるとの効果を奏し、更に当該静脈弁切開刀が静脈を移動しやすくかつ静脈壁を傷つけにくい効果を奏する具体的な構成の一つとして、前後に延びる軸心を回転中心とし直径が静脈の内腔の径より小さい円筒面と該軸心を中心とした回転半楕円体形状の前端部と後端部とをもつ形状、もしくは前記軸心上に長軸をもち短軸の長さが前記内腔の径より小さい回転楕円体形状、を有し、前記軸心を前記静脈の走向に沿わせるガイドと、前記ガイドの前端に連結され前記軸心に沿って前方に延びガイドより小さい径をもつ連結棒と、前記連結棒の前端に連結され前記軸心に直交する平面による断面の外縁として前記軸心を中心とした正円の円弧を有する先端カッターと、前記ガイドの後端に連結され後方に延びる可撓性のあるワイヤと、を備え、前記先端カッターは、後方に向かって湾曲した曲面をもつ後端部を後端に有し、前記先端カッターの最大径は、前記連結棒の径より大きく、前記後端部は、前記軸心の両方向に互いに間を隔てて4つ以上の略三角錐形状の切刃錐を有し、前記切刃錐は、頂点を後方に向け前記正円の円弧からなる前記先端カッターの外周面を前記頂点に接する側面の1つとし前記頂点から発生する3つの稜線が先の尖った鋭い刃を形成する略三角錐形状であり、3つの前記稜線のうちの1つは、前記頂点から前記軸心に向けて延びる、ことを特徴とする静脈弁切開刀を、本発明では提供する。
また、上記の静脈弁切開刀が静脈内を更に移動しやする形状として、前記先端カッターは、前後方向の長さが前記正円の半径より長い回転楕円体を、その中心点を通り前記軸心に直交する平面で切断しその曲面が前方に向かって湾曲する半楕円体形状である前端部と、前記前端部の回転楕円体より前後方向の長さが短い回転楕円体を、その中心点を通り前記軸心に直交する平面で切断した半楕円体形状、もしくは半球である前記後端部と、を有する形状、もしくは先の細い曲面を前方に向けた卵型形状を、本発明では提供する。
また、前記切刃錐の前記頂点は、前記先端カッターの最大径の位置の外周面よりも内側に位置し先が尖った鋭い刃もしくは丸み帯びた鈍性の刃である。
また、3つの前記稜線のうち前記先端カッターの外周面と接する前記稜線となる外切刃は、外側に向かって湾曲する。
また、3つの前記稜線のうち前記先端カッターの外周面と接する前記稜線となる外切刃は、前記軸心を中心として全周にわたり連続する。
また、互いに隣り合った前記外切刃の接点のうち前方側に位置する接点は、前記先端カッターの最大径の位置の外周面に位置する。
また、前記先端カッターの最大半径をx、前記切刃錐の前記頂点から前記軸心までの距離をy、前記切刃錐の前記頂点から前記ガイドの前端までの距離をh、前記軸心を含む平面による前記先端カッターの断面の前記後端部の弧の垂直距離をzとしたときに、y/xは1/3〜1/2であり、z/2xは0.8〜1.3であり、かつx/hは1.3以上である。ここで、x/hに有意義な上限がないのは、hを限りなくゼロとしても、静脈弁2が先端カッター30とガイド22の間に入りこむことができるからである。
本発明に係る静脈弁切開刀が静脈を移動しやすくする構成として、前記ガイドは、主ガイドと1又は2以上の副ガイドとこれらを連結するガイド間連結棒から構成されている静脈弁切開刀の構造がある。
静脈内を一回往復させるだけで、経験の少ない術者でもより安全かつ容易に静脈弁を切開することができ具体的な構成としては、前記先端カッター及びガイドとを連結する連結部材が当該先端カッターと当該ガイドの間の距離を調整可能とする可変長連結棒である静脈弁切開刀を本発明では提案する。加えて、当該連結部材が、前記先端カッターと前記ガイドの間の距離を調整可能とする可変長連結棒と当該可変長連結棒を内包し当該先端カッターと当該ガイドに固着した連結バネから構成されている静脈弁切開刀を、更に本発明では提案する。
また、本発明によれば、上述した静脈弁切開刀の製造方法であって、前記先端カッターの前記後端部に前記軸心を中心として異なる角度の切れ込みを複数回入れることにより前記切刃錐を形成する、ことを特徴とする静脈弁切開刀の製造方法が提供される。例えば、4つの略三角錐形状の切刃錐を有する先端カッターであれば、その後端部において、軸心に対して一定の傾斜角を持つ平面内にあって後端部の外部より軸心まで先端カッターの直径を含む平面にまで切削する。さらに先端カッターを、軸心を中心に90度回転させるごとに360度にわたって同じ切削を行う。このように先端カッターの後端部を合計4回傾斜切削する。180度回転した切削はV字形状の切除谷を形成する。このV字形状の切除谷に対して90度回転させた位置には、さらにもう一つのV字形状の切除谷が形成される。これらのV字形状の切除谷により、略三角錐形状の2つの平面が形成され、先端カッターの外周曲面と合わさって略三角錐形状の切刃錐を製造することができる。軸心の付近に切削しきれない残部があるときは、軸心周りをドリル刃又はフライス刃によりこれを削除しても良い。また、4つを超す偶数個の略三角錐形状の切刃錐を有する先端カッターであれば、上記「90度回転させるごと」を「360度を当該偶数個の数で除した角度で回転させるたびごと」に当該先端カッターの全周である360度にわたって上記と同じ切削を行う。
更に、奇数個の略三角錐形状の切刃錐を有する先端カッターであれば、その後端部において、軸心に対して一定の傾斜角を持つ平面内にあって後端部の外部より軸心まで先端カッターの半径を含む平面にまで切削する。この切削を上記の奇数個と同じ回数で軸心を中心に360度にわたって行う。これにより、略三角錐形状の一方の平面が形成される。略三角錐形状の他方の平面は、略三角錐形状の刃先となる点を含み軸心に対して前記の傾斜角と同じ角度を持つ平面内にあって後端部の外部より軸心を含む平面まで切削する。この切削を上記の奇数個の数で除した角度で回転させるたびごとに軸心を中心に当該先端カッターの全周である360度にわたって行う。軸心の付近に切削しきれない残部があるときは、軸心周りをドリル刃又はフライス刃によりこれを削除しても良い。前記製造方法における切削面の表面及び前記切削面の縁に生じたバリは削除し、必要であれば切刃錐の稜線は切削面をさらに研削又は研磨して鋭利にしても良い。
上述した本発明の静脈弁切開刀によれば、回転体形状を有する先端カッターに当該先端カッターに連結したガイドに面した後方部に当該先端カッターの外周囲面を一面としかつ当該ガイドの方に刃先が向けられた切削刃を有しているため、術者が回転軸のどの回転角度で静脈内に静脈弁切開刀を挿入しても、切刃錐を静脈弁に当てることができ、そのため術者は、静脈弁切開刀を一回挿入しそれを引き出すだけで、静脈弁を切開することができることを主な特徴とする。
本発明の静脈弁切開刀の先端カッターはその後端部に軸心の両方向に互いに間を隔てて4つ以上の切刃錐を有するので、術者が、軸心を中心としたどの角度で静脈内に静脈弁切開刀を挿入しても、切刃錐を静脈弁に当てることができる。そのため術者は、静脈弁切開刀を一回挿入しそれを引き出すだけで、静脈弁を切開することができる。
また、本発明の静脈弁切開刀に4つ以上の切刃錐が設けられていることにより、一の切刃錐の頂点に横方向から血管内皮や枝の分岐部が近づくのを一の切刃錐の外周面や他の切刃錐の外周面で防ぐことができる。そのため本発明の静脈弁切開刀は、血管の内皮や枝を傷付ける可能性が少なく、ノンリバース法やインサイチュ法による大腿膝窩動脈血行再建の手術の経験が少ない術者でもより安全かつ容易に静脈弁を切開することができる。それにより患者にとって、より安全な手術が担保される。また、本発明の静脈弁切開刀は、切刃錐が、先の尖った鋭い刃を形成する3つの稜線を有した略三角錐形状であるため、切り口を滑らかな切創にして、静脈弁を切開することができる。
本発明の静脈弁切開刀を使用すること
により、先端カッター及びガイドを連結する連結部材が可変長連結棒であるため、静脈内を移動しやすくかつ静脈壁を傷つけること少なく、容易に確実に静脈弁を切開することができる。
また、上述した本発明の静脈弁切開刀の製造方法により、容易に先端カッターの後端に切刃錐を設けることができる。
また、本発明の静脈弁切開刀を使用することにより大腿膝窩動脈血行再建の手術の経験が少ない術者でも安全に手術することができるため、大腿膝窩動脈血行再建の手術を行うことができる血管外科医を増やすことが期待できる。そしてそれは多くの重症虚血肢の患者を、処置が遅れることによる手遅れや断脚から救うことができることに繋がる。
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。図3は、本発明の静脈弁切開刀20の全体説明図である。
図4(A)は、本発明の第1実施形態に係る静脈弁切開刀20における図3のJの拡大図である。図4(B)は、図4(A)のC−C矢視図である。
本発明のガイド22は、図3に示すように、前後に延びる軸心Tを有し、軸心Tを静脈1の走向に沿わせるガイドである。ガイド22は、前後に延びる軸心Tを中心とし直径が静脈1の内控3の径より小さい円筒面22aと軸心Tを中心とした半楕円体形状の前端部22bと後端部22cとをもつ形状を有する。もしくはガイド22は、軸心T上に長軸をもち短軸の長さが内腔3の径より小さい回転楕円体形状、を有する。ガイド22の形状は、円筒面22aを有する胴体と半球もしくは半楕円体の前端部22b及び後端部22cを有する形状が最も好ましい。しかしこれに限らず、ガイド22の形状は卵型やレモン型でもよい。
本発明の静脈弁切開刀20は、このガイド22を有することにより、静脈1を常に張った状態(すなわち静脈1の内腔3が開いており、つぶれていない状態)に保持することができる。ガイド22がない場合、静脈1の内腔3がつぶれてしまい、静脈弁2をうまく切ることができない。反対に静脈1を常に張った状態に保持することで、先端カッター30とガイド22との間の窪みに静脈弁2を嵌めることができる。
本発明の連結棒24は、ガイド22の前端に連結され軸心Tに沿って前方に延びガイド22より小さい径をもつ棒である。連結棒24の直径はガイド22と先端カッター30の直径より小さい。例えば連結棒24の直径は、先端カッター30の直径の1/8〜1/4であり、ガイド22の直径の1/9〜1/3であることが好ましい。
静脈弁2が開いた状態では、先端カッター30の刃(後述する切刃錐34)が静脈弁2を素通りするので、静脈弁切開刀20は原理的に静脈弁2を切ることができない。しかしながら、本発明の静脈弁切開刀20は、ガイド22と連絡棒24を有し、連結棒24がガイド22と先端カッター30よりも細いことにより、先端カッター30の後端とガイド22の前端の間で静脈弁2を閉じさせることができる。
なおガイド22の円筒面22aの直径、もしくは回転楕円体形伏の短軸の長さは、先端カッター30の最大径と同じであることが好ましい。しかし静脈1の内腔3を広げ静脈弁2を閉じさせるという機能をガイド22が果たすことができるのであれば、それに限らず、ガイド22の円筒面22aの直径、もしくは回転楕円体形状の短軸の長さは、先端カッター30の最大径より大きくても小さくてもよい。
本発明のワイヤ26は、ガイド22の後端に連結され後方に延びる可撓性のあるワイヤである。ワイヤ26は、ねじれやうねりなどの癖がない、直線状にのびたワイヤであることが好ましい。また血管内皮を損傷しないように、ワイヤ26の側面は丸み帯びた局面で構成されていることが好ましい。
本発明の先端カッター30は、連結棒24の前端に連結され平面による断面の外縁として軸心Tを中心とした正円の円弧を有する。また先端カッター30は、連結棒24の径より大きい最大径を有する。また先端カッター30は、軸心Tに向かって湾曲した回転面の一部からなる後方部32を有している。
先端カッター30は、先の細い曲面を前方に向けた卵型形状であることが好ましい。もしくは先端カッター30は、半楕円体形状である前端部48と、半楕円体形状もしくは半球である後端部32と、を有していてもよい。このとき、前端部48は、前方方向に半楕円体形状の長軸を有し、当該長軸は軸心Tと一致する。後端部32が有する回転楕円体の長軸又は半球の半径は、前端部48の半楕円体形状の長軸より短い。この場合、前端部48の後方側端面と後端部32の前方側端面とが連結され卵型を形成していてもよく、もしくは前端部48と後端部32との間に円筒面をもつ胴体部を有していてもよい。なお、前端部48と後端部32、もしくは前端部48と胴体部と後端部32は、一体に成形される。
すなわち、軸心Tに対して垂直な方向(図4のK。以下、横方向)から先端カッター30を見たときに軸心Tを中心としたどの角度から見ても先端カッター30のシルエットの形状が同じとなる。そのため、軸心Tを中心とする横方向のうち、どの方向から静脈1の枝6が先端カッター30に近接したとしても、枝6が先端カッター30の頂点42に近づくのを外周面36が防ぐことができる。したがって本発明の静脈弁切開刀20は、先端カッター30の形状と、4つ以上の切刃錐34を有することにより、枝6を割くのを防ぐことができる。
先端カッター30の半径方向の最大径(最大直径)は、2.0mm〜5.0mmであることが好ましく、3.0mmが最も好ましい。しかし先端カッター30の最大径はこれに限らず、自家静脈1の内腔3の直径に合わせて、これよりも大きくても小さくてもよい。
後端部32は、頂点42を後方に向けた略三角錐形状の切刃錐34を、軸心Tの両方向に互いに間を隔てて4つ以上有する。切刃錐34は、正円の円弧からなる先端カッター30の外周面36を頂点42に接する側面の1つとし頂点42から発生する3つの稜線が先の尖った鋭い切削刃40a(「外切刃」と呼ぶ)、40b(「中切刃」と呼ぶ)を形成する略三角錐形状の刃である。この形状により本実施形態の先端カッター30は、その前端から後端までのすべての軸心Tに直交する平面による断面の外縁が、軸心Tを中心とした正円の円弧を含む構成となっている。各切刃錐34は、軸心Tを中心として等間隔に配置されていることが好ましい。
本発明の静脈弁切開刀20は、切刃錐34の3つの稜線が先の尖った鋭い切削刃40a,40bを形成することにより、メスや剪刀のように静脈弁2を鋭利な刃で切ることができる。後端部32は4つから8つの切刃錐34を有することが好ましく、4つが最も好ましい。それにより、どのような角度で静脈弁切開刀20が静脈1内に挿入されても、確実に静脈弁2を切開することができる。また切刃錐34の数は、偶数であることが好ましい。それにより後述するように容易に切刃錐34を形成することができる。
切刃錐34の頂点42は、先端カッター30の外周面36と軸心Tに交わる面である2つの交面38とにより形成される。また、切刃錐34の3つの稜線は、外周面36と各交面38とからなる稜線となる外切刃40aの2つと、2つの交面38からなる稜線である中切刃40bである。中切刃40bは、3つの稜線のうちの1つであり、頂点42から軸心Tに向けて延びる刃を形成する。外切刃40aは、切刃錐34の3つの稜線のうち先端カッター30の外周面36に現れる稜線である。外切刃40aは外側に向かって湾曲することが好ましい。外切刃40aが外側に向かって湾曲する形状であることにより、切刃錐34の外周面36の面積が増え、隣接する外切刃40aの間の切れ込み46の幅を小さくすることができる。それにより、切れ込み46の間に枝6の分岐部7(図5を参照)が入り込むことを防ぐことができる。また2つの交面38と外周面36とからなる切刃錐34の頂点42は、先端カッター30の最大径の位置の外周面36aよりも内側に位置する。それにより、頂点42の分岐部7(図5を参照)への引っ掛かりを防ぐことができる。
本実施形態の切刃錐34の頂点42は、先が尖った鋭い刃である。それにより術者は、本実施形態の静脈弁切開刀20を、薄くて柔らかい静脈弁2に容易に突き刺すことができる。また、外切刃40aは、軸心Tを中心として全周にわたり設けられ,ている。外切刃40aは全周にわたり連続して設けられていることが好ましい。また、互いに隣り合った外切刃40aの接点44のうち前方側に位置する接点44は、先端カッター30の最大径の位置の外周面36aに位置することが好ましい。しかしこれに限らず、接点44は先端カッター30の最大径の位置の外周面36aより前方にあってもよく、後方にあってもよい。なお、接点44は、互いに隣り合った外切刃40aを構成するそれぞれの稜が共通して終わる終点でもある。
次に先端カッター30の最大径と、頂点42の位置、後端部32の曲面、もしくは先端カッター30とガイド22との距離との関係について説明する。先端カッター30の最大半径をx、切刃錐34の頂点42から軸心Tまでの距離をyとする。また切刃錐34の頂点42からガイド22の前端までの距離をh、軸心Tを含む平面による先端カッター30の断面の後端部32の弧の垂直距離をzとする。この場合、本発明の静脈弁切開刀20は、y/xは1/3〜1/2であり、z/2xは0.8〜1.3であり、かつx/hは1.3以上であることが好ましい。さらに y/xは2/3であることが最も好ましく、z/2xは1〜1.1 2 5が最も好ましい。またx/hは、1.5であることが最も好ましいが、これに限らずx/hは、自家静脈1の直径の大きさや弾力性、伸縮性に応じて、1.5よりも大きくても小さくてもよい。なお、先端カッター30の後端とガイド22の前端との間の窪みから4つの切刃錐34の間に枝6の分岐部7が入るのを防ぐため、x/hは、1.5か、1.5より大きい方が良い。もしくは、先端カッター30の最大径の位置から頂点42までの前後方向の距離をzとしたときに、z/hが0.81〜0.89であることが最も好ましい。
次に本発明の第1実施形態に係る静脈
弁切開刀20の製造方法を説明する。工程1では、削り出しもしくは鋳造により、上述の先端カッター30の形状(2つの半楕円体を有する形状もしくは卵型形状)に金属を形成する。なお、先端カッター30はその他の方法でこれらの形状を形成されてもよい。
工程2では、工程1で作成した先端カッター30の後端部32に軸心Tを中心として異なる角度の切れ込み46を複数回入れることにより切刃錐34を形成する。図4の場合は、十字に切れ込み46を入れることにより4つの切刃錐34を形成している。なお、切れ込み46を入れる回数は、これより多くても、少なくてもよい。また切れ込み46の形状は、これに限らず、他の形状でもよい。
工程3では、工程2に続き先端カッター30の中心と連結棒24の前端部、連結棒24の後端部とガイド22の前端部、ガイド22の後端部とワイヤ26の先端とを連結する。連結の方法としては焼き嵌めが好ましいが、それ以外の方法で連結してもよい。なお、ワイヤ26をガイド22に貫通させて固定し、ワイヤ26の先端と先端カッター30とを連結させることにより、先端カッター30の後端部32とガイド22の前端の間に位置するワイヤ26で連結棒24を構成してもよい。
次に本発明の第1実施形態に係る静脈弁切開刀20を用いた本発明に係る第1使用方法について、ノンリバース法を例にして説明する。なお、本発明の第1実施形態に係る静脈弁切開刀20は、ノンリバ−ス法に限らずインサイチュ法にも使用することができる。また、本実施形態の静脈弁切開刀20の使用方法の説明を、大腿膝窩動脈血行再建を例にして説明するが、大腿膝窩動脈血行再建以外の手術にも本発明の静脈弁切開刀20を使用することができる。例えばシャントの手術や心臓の手術で自家静脈1を移植片として使うときにも本発明の静脈弁切開刀20を使用できる可能性がある。
図5(A)〜図5(D)は、本発明の静脈弁切開刀20の使用説明図であり、図5(A)から図5(D)にかけて時間が経過する。次に示すように静脈弁切開刀20を使用する方法を第1の使用方法と呼ぶ。図5(A)から図5(D)に示す進行するそれぞれの段階に対応して、ステップ(1)からステップ(7)と呼ぶ。
ステップ(1)では、先ず移植片とする静脈1の周囲を剥離して摘出し移植片(自家静脈1)の中枢側Cの端部を閉塞部より中枢側Cの動脈に吻合する。
ステップ(2)では、静脈弁2の位置を確認する。動脈から自家静脈1に流れ込む動脈血は、自家静脈1の最も中枢側Cの静脈弁2まで流れるが、その静脈弁2より末梢側Pに流れない。そのため術者は、最も中枢側Cの静脈弁2より中枢側Cの静脈1を指で触ると拍動を確認できるが、その静脈弁2より末梢側Pの静脈1を触ると拍動を触知しない。まず術者は、このように自家静脈1の拍動の有無を触知することにより、静脈弁2の位置を確認する。
ステップ(3)では、図5(A)に示すように静脈1の内腔3に静脈弁切開刀20を挿入し、図5(B)に示すように最も中枢側Cの静脈弁2より中枢側Cにガイド22の前端部が到達するまで、本発明の静脈弁切開刀20を進める。図5(A)に示すように本発明の先端カッター30の前端部48やガイド22の前端部で静脈弁2を中枢側Cに押せば、静脈弁切開刀20を静脈1に容易に進入させることができる。
ステップ(4)では、術者は、最も中枢側Cの静脈弁2より中枢側Cにガイド22の前端部が到連したことを確認した後、ワイヤ26を手元に向けて引く。すると、図5(C)に示すように先端カッター30の後端とガイド22の前端との間の径が細くなった部位(すなわち連結棒24の周囲)で静脈弁2が閉じる。このとき術者は、指先の感触で、先端カッター30が静脈弁2に引っ掛かったことを触知することができる。
ステップ(5)では、術者がさらにワイヤ26を引くと、先端カッター30の切刃錐34の頂点42が静脈弁2に刺さり、そこから外切刃40aと中切刃40bに沿って3方向に静脈弁2が切開される。このとき術者は、先端カッター30で静脈弁2を切ったときの感触を、指に感じることができる。
ステップ(6)では、拍動を感じられる自家静脈1の範囲が、数cm末梢側Pの次の静脈弁2まで進む。次の静脈弁2の位置をステップ(2)で上述したように確認し、ワイヤ26を更に引き、自家静脈1の他,の静脈弁2についてステップ(3)からステップ(5)を繰り返す。そして動脈血が切断した自家静脈1の末梢端から放出されることにより、全ての静脈弁2を切開したことを確認し、静脈弁2の切開する一連のステップを停止する。
ステップ(7)では、切断した自家静脈1の末梢端を、閉塞部より末梢側P側Cの動脈に吻合する。
このように静脈弁切開刀20は、ガイド22が静脈弁2を通過することにより静脈弁2を一旦開き、先端カッター30が静脈弁2より中枢側Cに到達した後に術者がワイヤ26を手元側に向けて引くことで、開いた静脈弁2を閉じさせ、最終的には静脈弁切開刀20の切刃錐34が静脈弁2を切開することができる。それにより、一回の操作で静脈弁2を切ることができる。
また、静脈弁切開刀20は、最も中枢側Cの静脈弁2より中枢側Cにガイド22が至るまで静脈1に進入されることにより、自家静脈1に一回挿入され引き出されるだけで、連続して全ての静脈弁2を切開することができる。その後、切断した自家静脈1の末梢端を、閉塞部より末梢側P側Cの動脈に吻合することにより、動脈の閉塞部をバイパスした動脈血の通路を確保し動脈血行を再建することができる。
次に本発明の静脈弁切開刀20の機能について説明する。図6は、本発明の第1実施形態に係る静脈弁切開刀20の機能の説明図である。図6(A)は、図5(C)のD−D矢視図である。図6(B)は、図6(A)を使用した本発明の静脈弁切開刀20の機能の説明図である。図6(C)は、図5(C)の本発明の静脈弁切開刀20を45°回転させたときの図5(C)のD−D矢視図である。図6(D)は、図6(C)を使用した本発明の静脈弁切開刀20の機能の説明図である。なお説明を分かりやすくするため図6では、ガイド22の描写を省略し、静脈弁2より中枢側Cの先端カッター30の形状を細線で描写している。また図6(B)と図6(D)の黒丸は、切刃錐34の頂点42の位置を表している。
静脈弁切開刀20は、外切刃40aが軸心Tを中心として全周にわたり設けられ、互いに隣り合った外切刃40aの接点44のうち前方側に位置する接点44が先端カッター30の最大径の位置の外周面36aに位置する。それにより、静脈弁切開刀20は、4箇所の頂点42から、隣接する頂点42との間の接点44に向かって静脈弁2を切り進む。それにより静脈弁2の前後に静脈弁切開刀20の先端カッター30を一回通すだけで、一の外切刃40aによる切開線45を隣接する他の外切刃40aによる切開線45と繋げて静脈弁2を切ることができる。もしくは静脈弁切開刀20の先端カッター30を静脈弁2の前後に一回通すだけで、各外切刃40aによる切開線45を接点44に近接する位置まで切り進め、静脈弁2の機能を失わせることができる。そのため本発明の静脈弁切開刀20を使用することにより、先端カッター30に静脈弁2の前後を通過させる処理を一回で済ますことができるので、内腔3を往復する回数が少ない分、血管内皮や枝6等の血管組織を傷つける可能性を減らすことができる。
また、図6(B)と図6(D)に示すように静脈弁切開刀20は中切刃40bによる切開線45を頂点42から軸心Tに向けて設けることができる。それにより、軸心Tを中心にどのような角度で静脈弁切開刀20を静脈1に挿入しても、中切刃40bが静脈弁2の辺縁を切開することができる。辺縁が切開されると、静脈弁2は容易に末梢側Pに反転される。それにより静脈弁切開刀20は、静脈弁2の機能を失わせることができる。
次に本発明の第2実施形態の静脈弁切開刀201について説明する。図7は、本発明の第2実施形態の静脈弁切開刀201における図3のJの拡大図である。
静脈血管壁には静脈弁がついているため、動脈にみられるような血流の乱れによる血管壁の損傷とそれに伴う血管壁の不整形状は、静脈血管壁では少ない。そのため、第1実施形態の切刃錐34が、先の尖った鋭い刃である頂点42を有していても、静脈では、管壁の不整形状に引っ掛かり血管壁を傷つけることはほとんどない。しかし、静脈血管は血管壁が薄いため、血管内の形状が外部の影響により変化して非円形の形状や、外部の力が転写して血流の方向に対してそれを塞ぐような不整形状となりやすい。そのよう場合、の切刃錐34の頂点42は、先が尖った鋭い刃であると、静脈血管壁を傷つけてしまうことがある。
このような、不用意な静脈血管壁の破損を防ぐため、本発明の第2実施形態の切刃錐34の頂点42は、丸み帯びた鈍性の刃を採用している。また本実施形態の先端カッター30は、この鈍性の頂点42を除いた前端から後端までのすべての軸心Tに直交する平面による断面の外縁が、軸心Tを中心とした正円の円弧含む構成となっている。その他の本実施形態の静脈弁切開刀201の構成、使用方法、機能は、第1実施形態の静脈弁切開刀20と同様である。
次に本発明の第2実施形態の静脈弁切開刀201の製造方法について説明する。本発明の第2実施形態の静脈弁切開刀201は、第1実施形態の静脈弁切開刀20の頂点42をヤスリ等で削ることにより、形成する。例えば、2つの隣り合う交面38が形成する稜線の頂点42付近を先端カッター30における軸心Tからの先端カッター30の外部に向けてヤスリにより削る。その結果、やすりにより削ってできた平面と先端カッター30の後端部の半楕円体形状、もしくは半球の外周面の交線として丸み帯びた無先鋭性の刃を形成している。この場合、前記前記切削刃は、略三角錐形状の前記頂点の付近に、当該頂点を含む小さな平面を更に含み錐先が無先鋭であって全体として略三角錐形状を有する。その他の本実施形態の静脈弁切開刀201の使用方法及び製造方法は、第1実施形態のおけるものと同様である。
次に本発明の第3実施形態の静脈弁切開刀202について説明する。図8は、第3実施形態の静脈弁切開刀202の全体説明図である。第3実施形態の静脈弁切開刀202は、第1実施形態の静脈弁切開刀20で用いられている単体のガイド22に代えて、回転楕円体形状または回転楕円体の半球を前方と後方にこれらの中間部を円筒とする形状の主ガイド25aと、主ガイド25aと同様の形状の1又は2以上の副ガイド25bと、これらを連結するガイド間連結棒25cとを用いて構成されている。
静脈血管は血管壁が薄いため、第1実施形態のようにガイド22が長いと、ガイド22が曲げることのできない非屈曲性であるため、図5(A)に示すように静脈1の内腔3に静脈弁切開刀20を挿入する際、静脈1の形状方向に沿わない場合があり、どうしても静脈1に物理的なダメージを与えやすくなる。さらに、ガイド22はその周囲外形が単純な円筒表面であるため、静脈1の内腔3に静脈弁切開刀20を挿入する際時にガイド22と静脈1の血管壁との摩擦が大きく、やはり静脈1の血管壁との擦れ及び静脈1を摘持して保持する力によって生じる物理的なダメージを与えやすくなる。
第3実施形態の静脈弁切開刀202に係るガイド25dは、主ガイド25aと1又は2以上の副ガイド25bとこれらを連結するガイド間連結棒25cから構成されているため、ガイド22に比べて、ガイド間連結
棒25cにおいて弾性的に曲がりやすくガイド25d全体として可撓性を有する。そのため、ガイド25dを用いることにより第1実施形態の静脈弁切開刀20で用いられている単体のガイド22に比べると、静脈弁切開刀202を挿入する際、静脈1の長手の形状方向に沿いやすく静脈1に対して挿入のための無理な外力を加えることがなくなる。
更に、ガイド25dはガイド間連結棒25cにおいては血管壁とは接触しないため、静脈弁切開刀202を挿入する際、静脈1との摩擦が小さくなり、挿入のための無理な外力を静脈1に加えることがなくなる。また、ガイド25dはガイド22にみられるバルク材に代えてガイド間連結棒25cを採用しているため部材の容量が僅かであり、その結果ガイド22と比べて重量が軽い。このことは、静脈弁切開刀202を静脈1に挿入する際、静脈1への挿入抵抗があるときその抵抗を指先で知覚しやすい。その結果、挿入のための無理な外力を静脈1に加えることが少なくなる。
以上、第3実施形態の静脈弁切開刀202は、可撓性、小さな摩擦、軽量の特徴により、静脈1への挿入が容易となりかつ静脈1にダメージを与えることが少ない。これにより、術後に移植された静脈血管に動脈血を流しても損傷を受けることが少なく、長期間の安定した血液循環が確保できる。なお、主ガイド25aと副ガイド25bは何れも回転体形状を有し、主ガイド25aの直径は、第1実施形態の静脈弁切開刀20と同様に先端カッター30の最大径より大きくても小さくてもよい。一方、ガイド25dは静脈1の血管壁との摩擦を減らすこと目的であるため、副ガイド25bの直径は主ガイド25aの直径と同じかそれより小さいことが望ましい。なお、静脈弁切開刀202の使用方法は、第1実施形態のおけるものと同様である。
次に第3実施形態の静脈弁切開刀202の製造方法を説明する。工程1及び工程2はそれぞれに第1実施形態の静脈弁切開刀20の製造方法における工程1及び工程2と同じである。しかし、工程3では、先端カッター30の後端部と連結棒24の前端部、連結棒24の後端部と主ガイド25a前端部とを連結し、更に主ガイド25a後端部と副ガイド25bの前端部とをガイド間連結棒25cで連結する。副ガイド25bが2以上あるとき、更に継続的に副ガイド25bの後端部と次の副ガイド25bの前端部とをガイド間連結棒25cで連結して全ての副ガイド25bを連続的に連結し、最後の副ガイド25bの後端部とワイヤ26の先端とを連結する。先端カッター30、連結棒24、主ガイド25a、ガイド間連結棒25c、副ガイド25b、ワイヤ26が全て金属の場合は、連結の方法としては焼き嵌めが好ましいが、それ以外の方法で結合して連結してもよい。
次に本発明の第4実施形態の静脈弁切開刀203について説明する。第1実施形態の静脈弁切開刀20では、それを静脈から引き抜く際、血管内皮、静脈から分岐する枝、さらに静脈の内皮のできた不整内膜を静脈弁切開刀20の先端カッター30が傷付けることを避けることを目的として、これらが切刃錐34とガイド22の前端までの間に入り込みにくくするため、切刃錐34の外周面36で防ぎ、かつ、切刃錐34の頂点42からガイド22の前端までの距離hを先端カッター30の最大半径に対してその長さを制限した構造を採用している。このような構造であるため、本静脈切開刀20で切るべき静脈弁2にし接近し先端カッター30の後端とガイド22の前端との間に静脈弁2が位置しても、静脈弁2の形状や、距離hによっては、図9に示すように静脈弁2が先端カッター30の後端とガイド22の前端との間に入り込まないことがある。静脈弁切開刀20と切るべき静脈弁2とがこのように干渉するときは、静脈弁切開刀20を静脈1から引き抜いても先端静脈弁2を切開することができない。
第4実施形態に係る静脈弁切開刀203は図10に示すように、第1実施形態の連結部材である連結棒24を可変長にして、先端カッター30とガイド22dとの間の距離を調整可能としている。具体的には、第1実施形態の静脈弁切開刀20で用いられている単体のガイド22に代えて、ガイド全体をそのガイド前部51とガイド後部52に分割したガイド22dを用いる。カッター30とガイド22dとの間の距離を固定している可変長連結棒24aについては、ガイド22dを可変長連結棒24aに対して位置を変えうるような構造とすることにより、先端カッター30とガイド22dとの間の距離を調整可能としている。具体的には、可変長連結棒24aは先端カッター30の内部に嵌合されかつガイド22dのガイド前部51を貫くために、ガイド前部51には軸心部に可変長連結棒24aを通す挿通穴24bが穿たれている。ガイド前部51の後部であってガイド後部52に対抗する部分に、可変長連結棒24aを通すための中心穴とスリットを有するテーパー雄ネジ54を設ける。ガイド後部52には、可変長連結棒24aの余りを収納する円筒空間53と、テーパー雄ネジ54に螺合するテーパー雌ネジ55を設けている。テーパー雄ネジ54は縦方向にスリットが入りテーパー雌ネジ55を締め付けることによりテーパー雄ネジ54の内面が可変長連結棒24aに強く圧着されることとなり、変長連結棒24aはガイド22dに対して固定されることになる。
第4実施形態の静脈弁切開刀203はその他の点では、第1実施形態の静脈弁切開刀20と同じ構造である。なお、ガイドの分割とテーパーネジの使用は先端カッターとガイドの間の距離を調整可能な可変長連結棒を実現するための構造であって、他の構造により可変長連結棒を構成しても良い。このネジの構造により、テーパー雌ネジ55を緩めて可変長連結棒24aを全部に対し移動可能とし、その後、先端カッター30とガイド22dの間の間隔(従って距離h)を調整する。調整に対しては、静脈弁2が先端カッター30の後端とガイド22dの前端との間に入り込みやすいように、hを大きくし、かつ血管内皮、静脈から分岐する枝、さらに静脈の内皮のできた不整内膜を静脈弁切開刀203の先端カッター30が傷付けることがない程度を限度とした適切なものとする。
このように、第4実施形態では、先端カッター30の後端とガイド22dの前端との間の距離を可変調整することにより、静脈血管の内径や、静脈から分岐する枝、さらに静脈の内皮のできた不整内膜の形態に合わせて静脈弁切開刀203の先端カッター30が傷付けることがなく、静脈弁2を切開することができる。なお、静脈弁切開刀203の使用方法は、第1実施形態のおけるものと同様である。ただし、静脈弁切開刀203の使用においては、先端カッター30の後端とガイド22dの前端との間の距離を調整する準備的ステップを有する点においてのみ異なる。
次に第4実施形態の静脈弁切開刀203の製造方法を説明する。工程1及び工程2はそれぞれに第1実施形態の静脈弁切開刀20の製造方法における工程1及び工程2と同じである。
工程3では、連結棒24に変えてそれよりは長い可変長連結棒24aが用いられる。ガイド22dとして、ガイド全体をガイド前部51とガイド後部52に分割したガイド22dを鋳造あるいは切削により製作し、ガイド前部51には軸心部に可変長連結棒24aを通す挿通穴24bを穿つ。ガイド前部51には、ガイド後部52に対抗する部分にテーパー雄ネジ54を形成し、ガイド後部52には、可変長連結棒24aの余りを収納する円筒空間53と、テーパーネジ雄54に螺合するテーパー雌ネジ55を設ける。可変長連結棒24aを挿通穴24b及び円筒空間53に挿入し、テーパー雌ネジ55を締め付けることにより変長連結棒24aはガイド22dに対して固定する。
工程4では、ガイド後部52の後端部とワイヤ26の先端とを連結する。先端カッター30、可変長連結棒24a、ガイド後部52、ワイヤ26が全て金属の場合は、連結の方法としては焼き嵌めが好ましいが、それ以外の方法で連結してもよい。
次に本発明の第5実施形態の静脈弁切開刀204について説明する。第4実施形態では、可変長連結棒24aを全部に対し移動可能とし、先端カッター30とガイド22dの間の間隔を調整し、静脈弁2が先端カッター30の後端とガイド22dの前端との間に入り込みやすくかつ血管内皮、静脈から分岐する枝、さらに静脈の内皮のできた不整内膜を先端カッター30が傷付けることがない程度を限度とした適切なものとしている。
しかし、先端カッター30とガイド22dの間の間隔を調整するためには、テーパーネジ54とそれに螺合するテーパー雌ネジ55とが設けられたガイド22dのガイド前部51とガイド後部52を捩じってテーパーネジ雄54とテーパー雌ネジ55の螺合を緩め、可変長連結棒24aをガイド22dに対して相対的に移動させる必要がある。この事は、静脈弁切開刀203を静脈に挿入した後に静脈弁2を切開するのに先端カッター30とガイド22dの間の距離hを調整することが必要となったときは静脈弁切開刀203を静脈の外に引き出す必要があり、静脈に損傷を与える可能性がある。そこで、いったん静脈弁切開刀を静脈に挿入した後は、静脈弁切開刀を静脈に挿入したまま距離hを調整する機構が必要である。
第5実施形態の静脈弁切開刀204は図11の(A)と(B)に示す。図11(B)は、図11(A)のE−E矢視図である。
第5実施形態の静脈弁切開刀204では、第1実施形態の静脈弁切開刀20で使用されている連結部材として、図4に示す先端カッター30とガイド22を固定的に繋ぐ連結棒24に代えて、図11(A)に示すようにガイド22eに対して摺動できる可変長連結棒24aと先端カッター30とガイド22eを繋ぐ連結バネ27が用いられている。この構造により、先端カッター30とガイド22eはその距離を伸縮可能に連結されている。第5実施形態の静脈弁切開刀204はその他の点では、第1実施形態の静脈弁切開刀20と同じ構造である。
可変長連結棒24aはガイド22eに形成された収納穴24cに沿って摺動することが可能であり、その摺動により先端カッター30とガイド22eの距離が変わる。連結バネ27は可変長連結棒24aを内包し、その端部は先端カッター30とガイド22eに固着している。この構造のため、例えば外力により先端カッター30をガイド22eから引き離す力を加えると連結バネ27は伸び、先端カッター30とガイド22eの間の距離が大きくなる。なお、連結バネ27は、指で押さえて伸びた場合にその長さがバネ27の弾性限界内である限り、密巻きコイルバネでも、非密巻きコイルバネであっても良い。
次に、第5実施形態の静脈弁切開刀204を用いた本発明に係る第2使用方法を、図12を用いて説明する。静脈弁切開刀204を静脈1の内腔3に挿入し、最も中枢側Cの静脈弁2より中枢側Cにガイド22eの前端部が到達するまで、本発明の静脈弁切開刀204を進めるところまでは上記の第1使用方法に示したスッテプ(3)までと同じである。ここから、第2使用方法では新たな使用のステップが始まる(以下、新ステップ(1)〜新ステップ(6)と呼ぶ)
新ステップ(1)から新ステップ(3)はそれぞれにステップ(1)からステップ(3)と同じである。新ステップ(4)では、術者は、最も中枢側Cの静脈弁2より中枢側Cにガイド22eの前端部が到達したことを確認した後、ワイヤ26を手元に向けて引く。すると、図5(C)に示すと同様に先端カッター30の後端とガイド22eの前端との間の径が細くなった部位で静脈弁2が閉じれば、指先の感触で、先端カッター30が静脈弁2に引っ掛かったことを触知することができる。一
方、静脈弁2が閉じない場合でも、静脈弁2のある位置を、静脈1を外部より指先で摘まむことによりその摘まんだ指先の感触で、先端カッター30とガイド22eの間に静脈弁2が位置していることを触知することができる。その後、指先で静脈1を摘まむ力を大きくする。そうすると図12(B)に示すように、連結バネ27が伸び先端カッター30とガイド22eの間の距離は大きくなり、その間に静脈弁2が入り込ませることが可能となる。
新ステップ(4)の後はいずれの場合においても、新ステップ(5)と新ステップ(6)は静脈弁切開刀20に代えて静脈弁切開刀204を用いること以外はステップ(5)及びステップ(6)と同じであり、術者は新ステップ(5)と新ステップ(6)を経て、先端カッター30の外切刃40aと中切刃40bに沿って3方向に静脈弁2が切開し、更に数cm末梢側Pの次の静脈弁2についてもワイヤ26を引きステップ(3)、新ステップ(4)ステップ(5)を繰り返し、動脈血が自家静脈1の末梢端から放出されることにより、全ての静脈弁2を切開したことを確認する。
静脈弁切開刀204を用いることの利点は、先端カッター30とガイド22eの間の距離を比較的小さくし血管の内皮や枝を傷付ける可能性を極力抑えることが可能であることにある。上記の距離を比較的小さくした結果、静脈弁2を切開することが困難な場合には、術者が指先で静脈を摘まむ力を大きくすることにより、この距離を大きくし静脈弁を先端カッター30とガイド22eの間に入るようにすることができ、当初の目的の通り静脈弁2を切開することができる。この方法においては静脈弁切開刀204を静脈から引き抜くことなく、静脈弁切開刀204を一度静脈に挿入した後は一連の操作で静脈弁2を切開することができる。従って、第5実施例の静脈弁切開刀204は安全性が高く、静脈内を一回往復させるだけで経験の少ない術者でもより安全かつ容易に静脈弁2を切開することができる。
なお、可変長連結棒24aには、図12には現れていないが、ガイド22e内にストッパーが設けられていて、先端カッター30とガイド22eの間の距離が一定以上に広がらないようになっている。そのため、静脈弁2が先端カッター30とガイド22eの間に入ると、ワイヤ26を引いても先端カッター30とガイド22eの間の距離の広がりがこのストッパーにより制限され、静脈弁2が先端カッター30とガイド22eの間から抜け出ることがない。また、先端カッター30とガイド22eの間隔を伸縮可能とするための連結バネ27は、可変長連結棒24aを内包しその端部は先端カッター30とガイド22eに固着している構成を採用しているが、これに限らず、連結バネ27をガイド22e内に収納しかつストッパーを可変長連結棒24aの外部に取り付け、常に可変長連結棒24aをそのストッパーがガイド22eに係止する位置を限度にして、かつ連結バネ27がガイド側に引き入れる方向に弾性力を持たせて先端カッター30とガイド22eの間の距離を伸縮可能にしても良い。こうすることにより、連結バネ27は静脈弁切開刀204の外部表面には露出しない。そのため、静脈弁切開刀204の洗浄と滅菌は容易にかつ確実にすることができる。
次に第5実施形態の静脈弁切開刀204の製造方法を説明する。工程1及び工程2はそれぞれに第1実施形態の静脈弁切開刀20の製造方法における工程1及び工程2と同じである。ただし、連結棒24に変えてそれよりは長い可変長連結棒24aが用いられている。
工程3では、ガイド22eを鋳造あるいは切削により製作し、その軸心部に可変長連結棒24aを収納する収納穴24c(先端カッター30とは反対側の端部は塞がっている)を穿つ。
工程4では、可変長連結棒24aの外周に連結バネ27を嵌め、可変長連結棒24aをガイド22eの収納穴24cに挿入する。その後、先端カッター30及びガイド22eに連結バネ27を固着、又は先端カッター30及びガイド22eに形成した螺穴に連結バネ27を螺入させることにより、先端カッター30とガイド22eの距離を伸縮可能に連結する。なお、固着には、好ましくはスポット溶接を使用するが、その他の固着方法でも良い。
本発明の第3、第4及び第5実施形態の先端カッター30における後端部32に設けた切刃錐34あるいは外切刃40aは図4に示す先の尖った鋭い刃のみならず、図7に示す丸み帯びた鈍性の刃であっても良い。
本発明に係る先端カッター30、ガイド22、22d、22e、25d、連結棒24、ガイド間連結棒25c、ワイヤ26、連結バネ27は金属で形成される。金属材料として、例えばSUS304等のステンレスであることが好ましい。しかし本発明のこれら部材の材質はこれに限らず、人体に無害で、無菌処理に耐え得る耐熱性を有している他の金属、更に人体に無害で無菌処理に耐える合成樹脂であっても良い。
上述した本発明の静脈弁切開刀20、201、202、203、204によれば、先端カッター30がその後端部32に、軸心Tの両方向に互いに間を隔てて4つ以上の切刃錐34を有するので、術者が、軸心Tを中心としたどの角度で静脈1内に静脈弁切開刀20、201、202、203、204を挿入しても、切刃錐34を静脈弁2に当てることができる。そのため術者は、静脈弁切開刀20、201、202、203、204を一回挿入しそれを引き出すだけで、静脈弁2を切開することができる。
また本発明の静脈弁切開刀20、201、202、203、204に4つ以上の切刃錐34が設けられていることにより、一の切刃錐34の頂点42に横方向から血管内皮や枝6の分岐部7が近づくのを一の切刃錐34の外周面36や他の切刃錐34の外周面36で防ぐことができる。そのため本発明の静脈弁切開刀20、201、202、203、204は、血管の内皮や枝6を傷付ける可能性が少なく、ノンリバース法やインサイチュ法による大腿膝窩動脈血行再建の手術の経験が少ない術者でもより安全に静脈弁2を切開することができる。それにより患者にとって、より安全な手術が担保される。
また本発明の静脈弁切開刀20、201、202、203、204は、切刃錐34が、先の尖った鋭い刃40a,40bを形成する3つの辺を有した略三角錐形状であるため、切り口を滑らかな切創にして、静脈弁2を切開することができる。
また上述した本発明の静脈弁切開刀20、201、202、203、204の製造方法により、容易に先端カッター30の後端に切刃錐34を設けることができる。
また本発明の静脈弁切開刀20、201、202、203、204を使用することにより大腿膝窩動脈血行再建の手術の経験が少ない術者でも安全に手術することができるため、大腿膝窩動脈血行再建の手術を行うことができる血管外科医を増やすことが期待できる。そしてそれは多くの重症虚血肢の患者を、処置が遅れることによる手遅れや断脚から救うことができることに繋がる。
なお本発明は上述した実施の形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変更を加え得ること、あるいは各実施形態に現れた技術用を交換又は組み合わせをし得ることは勿論である。例えば、略三角錐形状の切刃錐に換えて、先端カッターの外周囲面を1面とし、他の面が先端カッターの内側に形成した1以上の曲面又は1又は3以上の平面で構成され、刃先が当該ガイドの方に向けられた切削刃であっても良い。