本発明を実施するための形態について、図面を参照して説明する。しかしながら、本発明は、以下に述べる実施するための形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲記載における技術的思想の範囲内であれば、その他のいろいろな実施の形態が含まれる。
(第1の実施の形態)
第1の実施の形態では、潜像印刷物(1)の動画効果が、原画像要素の形状が変化せず、一定の方向にのみ移動する、最も単純な形態について説明する。図1に、本発明における潜像印刷物(1)を示す。図1(a)に示すのは、潜像印刷物(1)の正面図であり、図1(b)に示すのは、潜像印刷物(1)のA−A’ラインにおける断面図である。
潜像印刷物(1)は、基材(2)上の一部に、印刷画像(3)を備えている。基材(2)は、印刷画像(3)が形成できれば、紙であってもプラスティックであっても、金属等であってもよく、その材質は問わない。印刷画像(3)は、いかなる色彩であっても良く、また透明や半透明であっても良い。また、基材(2)の大きさについても、特に制限はない。
本発明の印刷画像(3)の構成の概要を図2に示す。印刷画像(3)は、蒲鉾状画線群(4)及び集合潜像画線群(5)から成る。積層順としては、蒲鉾状画線群(4)の上に集合潜像画線群(5)が重なって成る。
まず、蒲鉾状画線群(4)について具体的に説明する。図3に示すのは、蒲鉾状画線群(4)であり、盛り上がりを有する、特定の画線幅(W1)の蒲鉾状画線(6)が第1の方向(S1)に第1のピッチ(P1)で万線状に配置されることで形成されて成る。
図3において蒲鉾状画線(6)の中に縦縞の線が複数配列されているように示されているが、これは他の線と区別するためのパターンであり、実際には単純な一本の線である(以下、他の画線も同様)。拡散反射光下において、蒲鉾状画線(6)の色彩は問わず、いかなる色彩であっても良く、透明であっても半透明であっても良い。なお、本発明における「万線状に配置する」とは、蒲鉾状画線(6)や潜像画線(9)等の印刷画像(3)の一部を構成する特定の要素が特定の方向に特定のピッチで連続して規則的に配置されることを指す。
また、蒲鉾状画線(6)は、明暗フリップフロップ性又はカラーフリップフロップ性の少なくともどちらか一方の特性を有し、正反射光下では強い反射光を発する特性を有する必要がある。本発明における「明暗フリップフロップ性」とは、物質に光が入射した場合に、物質の明度が変化する性質を指し、「カラーフリップフロップ性」とは、物質に光が入射した場合に、物質の色相が変わる性質を指す。
明暗フリップフロップ性を備えた印刷で用いるインキとしては、金色や銀色等のメタリック系の金属インキや、グロスタイプの着色インキがある。一般的に艶があると感じられる物質は、明暗フリップフロップ性を備える。例えば、銀インキは、光を強く反射しない拡散反射光下では暗い灰色にしか見えないが、光を強く反射する正反射光下では、より淡い灰色か、あるいは白色に見える。このように、「明暗フリップフロップ性」を有するインキは、正反射光下で明度が変化する。
一方のカラーフリップフロップ性を備えた印刷で用いるインキとしては、パールインキや液晶インキ、OVI(Optical Variable Ink)、CSI(Color Shifting Ink)等が存在する。多くのインキは物体色を有するが、虹彩色パールインキは、無色透明である。例えば、赤色の虹彩色パールインキは、拡散反射光下では無色透明だが、正反射光下では赤色の干渉色を発する。このように、「カラーフリップフロップ性」を備えたインキは、正反射光下で色相が変化する。蒲鉾状画線(6)は、以上のような光学特性を備える必要がある。
それぞれの蒲鉾状画線(6)には、一定の盛り上がり高さが必要であり、少なくとも3μm以上の盛り上がり高さを有することが、好ましい。3μmより低い高さで形成した場合でも、要素のピッチを狭く形成することで、本発明の効果を再現することは可能であるものの、潜像の視認性が極端に低くなったり、前述のように出現する原画像が不鮮明にぼやけて再生されたりする場合が多いため好ましい形態とはいえない。また、盛り上がりの高さの上限に関しては性能上の上限は存在しないが、大量に積載した場合の安定性や耐摩擦性、流通適正等を考慮し1mm以下とする。
本発明における蒲鉾状画線群(4)は、構成する蒲鉾状画線(6)に一定の盛り上がり高さが必須であることから、印刷画線に盛り上がりを形成可能な印刷方式で印刷することが好ましい。すなわち、フレキソ印刷やグラビア印刷、凹版印刷やスクリ−ン印刷等で形成してもよい。また、実施の形態のように、印刷で直接画線の盛り上がりを形成するのではなく、エンボス加工や透き入れによって基材(2)上に凹凸構造を形成して、その上に印刷皮膜を形成したり、フィルムを貼付したりして蒲鉾状画線群(4)としてもよい。
また、蒲鉾状画線(6)に高いカラーフリップフロップ性を付与したい場合には、蒲鉾状画線(6)の画線の表面にカラーフリップフロップ性を有する顔料が揃って配向していることが好ましい。このような状態は、一般にリーフィングと呼ばれ、優れたリーフィング効果を得る方法としては、例えば、特開2001−106937号公報に記載の技術のように顔料に撥水及び撥油性を付与する方法がある。この方法を用いた場合には、蒲鉾状画線(6)が正反射光下で発する反射光の色彩をより豊かにすることができるため好ましい。
前述のようなリーフィング効果を有する機能性顔料と着色顔料を単一のインキ中に配合した場合、単一のインキで印刷したにも関わらず、リーフィング効果を有する機能性顔料と着色顔料が蒲鉾状画線(6)の上層と下層に別々の層構造を形成するため、一見すると着色インキ層と機能性顔料層を別々のインキで印刷した場合と同等の、極めて高いカラーフリップフロップ性を発揮するため、特に有効である。
次に、集合潜像画線群(5)について説明する。本発明の集合潜像画線群(5)の基本的な画線構成とは、引用文献1や引用文献2と同様にパラパラ漫画方式の動画効果(相関のある複数の画像をチェンジさせる効果)を実現させるための画線構成であり、出現させたいと意図する画像を特定のピッチ及び画線幅の画線で分断して分断画線化し、最終的にそれぞれの画線を集合させる分断画線の集合体の構造を有する。以下に具体的に説明する。
図4に示すのは、集合潜像画線群(5)であり、一定の画線幅(W2)の集合潜像画線(8)が、蒲鉾状画線(6)の配置ピッチと同じ第1のピッチ(P1)で第1の方向(図中S1方向)に連続して配置されて成る。集合潜像画線(8)の画線幅(W2)の値は、第1のピッチ(P1)以下であれば良い。第1の実施の形態の例においては、それぞれの集合潜像画線(8)の中には、任意の画線幅(W3、W4、W5、W6、W7)の5種類の潜像画線(9−1、9−2、9−3、9−4、9−5)が互いに重なり合うことなく配置されて成る。また、潜像画線間の空隙(非画線部)はあってもなくても良い。
それぞれの画線幅については、すべての潜像画線(9−1、9−2、9−3、9−4、9−5)の画線幅(W3、W4、W5、W6、W7)の合計の幅が集合潜像画線(9)の画線幅(W2)以下である条件を満たせば、同じであっても異なっていても良い。画線幅が大きい潜像画線(9−1、9−2、9−3、9−4、9−5)で形成された画像は、相対的に広い角度範囲で視認可能であり、画線幅が小さい潜像画線(9−1、9−2、9−3、9−4、9−5)で形成された画像は、相対的に狭い角度範囲で視認される。
それぞれの潜像画線(9−1、9−2、9−3、9−4、9−5)の画線幅を変更した上でスムーズな動画効果を実現することは可能だが、画線設計がより複雑になる傾向にある。このことからスムーズで安定した動画効果を容易に実現するには、それぞれの画線幅は同じにすることが好ましい。
図5に、集合潜像画線群(5)を構成する5種類の潜像画線群(5−1、5−2、5−3、5−4、5−5)を示す。集合潜像画線群(5)は、第1の潜像画線群(5−1)、第2の潜像画線群(5−2)、・・・、第5の潜像画線群(5−5)から成るが、代表例として、特定の画線幅(W3)の第1の潜像画線(9−1)によって構成された第1の潜像画線群(5−1)を拡大して示す。図5(a)に示すすべての潜像画線群(5−1、5−2、5−3、5−4、5−5)は、図5(b)に示す、潜像要素(13)が、第2の方向(図中S2方向)に複数配列されて成る。潜像要素(13)は、有意味情報となるアルファベットの「JAPAN」の文字が第1の方向(S1)に分断された構成から成る。
有意味情報とは、一つで意味のある図柄のことであり、文字、図形、記号等を意図して配置して成る。なお、第1の潜像画線群(5−1)における潜像要素(13)については、第1の有意味情報となる第1の潜像要素(13−1)といい、第2の潜像画線群(5−2)における潜像要素(13)については、第2の有意味情報となる第2の潜像要素(13−2)といい、・・・、第5の潜像画線群(5−5)における潜像要素(13)については、第5の有意味情報となる第5の潜像要素(13−5)という。
各潜像画線群(5−1、5−2、5−3、5−4、5−5)は、図5(c)に示すように、それぞれ特定の画線幅(W3、W4、W5、W6、W7)の各潜像画線(9−1、9−2、9−3、9−4、9−5)が蒲鉾状画線(6)の配置ピッチと同じ第1のピッチ(P1)で第1の方向(図中S1方向)に万線状に配列して成る各潜像要素(13−1、13−2、13−3、13−4、13−5)が、第2の方向(S2)に連続して配置され、それぞれ異なる画像を表して成る。なお、第1の潜像要素(13−1)を構成する潜像画線は、第1の潜像画線(9−1)といい。第2の潜像要素(13−2)を構成する潜像画線は、第2の潜像画線(9−2)といい、・・・、第5の潜像要素(13−5)を構成する潜像画線は、第5の潜像画線(9−5)という。
図6に5種類の潜像画線群(5−1、5−2、5−3、5−4、5−5)の表す画像の基になる5種類の原画像(7−1、7−2、7−3、7−4、7−5)を示す。すべての原画像(7−1、7−2、7−3、7−4、7−5)において、二列に並んだアルファベットの「JAPAN」の文字が第2の方向(S2)に位相をずらして連続して複数配置された構成を有する。この、図6(b)に示す、アルファベットの「JAPAN」の文字を、原画像要素(10)という。なお、第2の方向は、第1の実施の形態において、第1の方向と直交する方向とするが、第2の方向はこれに限定されるものではない。
それぞれの潜像画線群(5−1、5−2、5−3、5−4、5−5)は、基になる5種類の原画像(7−1、7−2、7−3、7−4、7−5)を特定の幅(W3、W4、W5、W6、W7)の潜像画線(9−1、9−2、9−3、9−4、9−5)によって、特定のピッチである第1のピッチ(P1)で分断した構造を有する。
なお、これ以後、具体的に個別の原画像(7−1、7−2、7−3、7−4、7−5)を指すのではなく、原画像全般を指す場合には原画像(7)と記し、同じく個別の潜像画線(9−1、9−2、9−3、9−4、9−5)を指すのではなく、潜像画線全般を指す場合には潜像画線(9)と記す。また、これ以後登場する複数の同列の物体が存在する要素についても、具体的な個別の要素を指すのではなく、要素全般を指す意味では場合には「名称(単体数字)」と表記する。
ここで本発明の特徴である、蒲鉾状画線群(4)と潜像画線群(5)の刷り合わせがずれた場合でも、刷り合わせに依存せず、正反射光下でスムーズなパラパラ漫画方式の動画効果を生じさせるための、原画像(7)構成上の工夫について説明する。なお、説明を簡潔にするために、原画像(7)にある二列の原画像要素(10)であるアルファベットの「JAPAN」の文字列のうち、図6(a)に示すA辺側にある一列の原画像要素(10)であるアルファベットの「JAPAN」の文字列に限定して説明する。
まず、本発明では、従来の循環型の動画効果を有した技術と同様に、原画像(7)全体がループする循環構成を有する。例えば、第1の原画像(7−1)→第2の原画像(7−2)→第3の原画像(7−3)→、・・・、→第nの原画像(7−n)を一サイクルとした画像の繋がりを有し、かつ、終点となる原画像(7−n)が、始点となる原画像(7−1)と連続した画像として繋がる構成を有する(nは3以上の整数)。
図7の例では、第1の原画像(7−1)→第2の原画像(7−2)→第3の原画像(7−3)→第4の原画像(7−4)→第5の原画像(7−5)を一サイクルとし、第5の原画像(7−5)から再び第1の原画像(7−1)へと繋がる循環構成を有する。
なお、ここで、循環構成の原画像(7)において再生順に並べた場合に隣り合う原画像(7)の関係を「隣り合う関係」と定義する。例えば、第1の実施の形態では第2の原画像(7−2)は、第1の原画像(7−1)及び第3の原画像(7−3)と隣り合う関係にあり、第5の原画像(7−5)は、第4の原画像(7−4)及び第1の原画像(7−1)と隣り合う関係にある。
本発明の独自の工夫は、原画像(7)が循環する構成のみにあるのではなく、図8に示すようにそれぞれ共通する画像要素である原画像要素(10−1、10−2、10−3、・・・、10−n)の集合によってすべての原画像(7)を構成し、それぞれの原画像要素(10)が位相、配置角度、形状及び大きさのうちの、少なくともいずれか一つが異なる関係を有してすべての原画像(7)において循環する構成を有することである。この基本的な原画像(7)の構成は、モアレ拡大現象によって生じた拡大モアレが、一定の規則性を有して複数連続して出現する構成に由来するものであり、本発明では原画像要素(10)を拡大モアレに見立てて原画像(7)を構成する。以下に原画像(7)の画像構成について具体的に説明する。
前述のとおり、第1の実施の形態におけるそれぞれの原画像要素(10)とはアルファベットの「JAPAN」の文字を指す。図8(a)に示すのは、第1の原画像(7−1)であり、画像の左上端に第1−1の原画像要素(10−1(1))があり、第1−1の原画像要素(10−1(1))に対して第2の方向(S2)に位相がずれた位置に第1−2の原画像要素(10−1(2))があり、同じく第1−2の原画像要素(10−1(2))に対して第2の方向に位相がずれた位置に第1−3の原画像要素(10−1(3))があり、・・・、第1−iの原画像要素(10−1(i))がある(iは3以上の整数)。なお、これ以後、それぞれの原画像要素(10)を示す場合、第X−Yの原画像要素(10−X(Y))と記載する。それぞれの第X−Yの原画像要素(10−X(Y))のXの数字は、第Xの原画像(7−X)の中に含まれる原画像要素(10)であることを指し、Yはひとつの原画像(7)の中の第一番目の原画像要素(10)から第Y番目に配置された原画像要素(10)であることを指す。
ここで、一つの原画像(7)の中で第2の方向及び第2の方向と正反対の方向において、最も近くに存在する原画像要素(10)同士の関係を「隣接した関係」と呼ぶ。
具体的には、第1−2の原画像要素(10−1(2))は、第1−1の原画像要素(10−1(1))及び第1−3の原画像要素(10−1(3))と隣接した関係にある。第1の実施の形態においては、それぞれの原画像要素(10)同士が特定の方向に位相をずらして配置されてなるが、配置角度が異なっていたり、形状及び大きさのいずれか一つが異なっていたりしても良い。なお、原画像要素(10)の配置角度と位相の両方が異なる具体例については、第2の実施の形態で説明し、配置角度が異なる具体例については、第3の実施の形態で説明し、大きさが異なる具体例については、第4の実施の形態で説明し、大きさと形状の両方が異なる具体例については、第5の実施の形態で説明する。
本発明では、原画像要素(10)において「位相、配置角度、形状及び大きさの、少なくともいずれか一つが異なる」形状を「略相似である形状」、すなわち「略相似形状」と定義する。これら、隣接した原画像要素(10)が略相似形状である画像の構成は、モアレ拡大現象を用いた動画効果で出現する拡大モアレがそれぞれ略相似形状である画像の構成に倣った構成である。
以上の構成を適用することで、画線構成は、パラパラ漫画方式の動画効果と同じであって、原画像(7)の画像の構成は、モアレ拡大現象を利用した動画形態と同じである一つの潜像画線群(5)を形成することができる。加えて、本発明においては、複数の潜像画線群(5)に連続してスムーズに変化する動画としての繋がりを与えるために、すべての原画像要素(10)に対し、以下に説明する構成が必要となる。
印刷画像(3)の領域から外れて原画像要素(10)が見切れている場合や、出現や消失のために原画像要素(10)に対して特殊な画像処理を施している場合(後述する)を除いて、それぞれの原画像(7)の中には、基本的に同じ数の原画像要素(10)が存在する。そして隣り合う原画像(7)において、略相似形状の原画像要素(10)が配置されて成る。
この隣り合う原画像(7)において、略相似形状の原画像要素(10)同士の関係を「対応した関係」と呼ぶ。それぞれ対応した関係で配置された互いの原画像要素(10)同士は、先に説明した隣接した関係の原画像要素(10)同士と同様に、位相、配置角度、形状及び大きさの、少なくともいずれか一つが異なる。
加えて、隣り合って配置される原画像(7)間では、他のすべての原画像要素(10)よりも、対応した関係で配置された原画像要素(10)同士は位相、配置角度、形状及び大きさの、少なくともいずれか一つが異なるものの、他のすべての原画像要素(10)と比較して、その異なる割合が小さい。すなわち、隣り合う原画像(7)間で対応した関係で配置された原画像要素(10)同士は、隣接した関係の原画像要素(10)同士を含む、他の原画像要素(10)すべてと比較して、最も近い位置にあったり、最も近い形状をしていたりする必要がある。このように、他の原画像要素(10)すべてと比較して、最も近い位置にあったり、最も近い形状をしていたりすることを、「最も近似した略相似形状である」と定義する。
そして、第1の原画像(7−1)における任意の第1−iの原画像要素(10−1(i))は、第2の原画像(7−2)において対応した関係で配置された第2−iの原画像要素(10−2(i))と最も近似した略相似形状であり、第2の原画像(7−2)の第2−iの原画像要素(10−2(i))は、同時に第3の原画像(7−3)において対応した関係で配置された第3−iの原画像要素(10−3(i))と最も近似した略相似形状であり、・・・、第n−1の原画像(7−(n−1))の第(n−1)−iの原画像要素(10−(n−1)(i))は、同時に第nの原画像(7−n)において対応した関係で配置された第n−iの原画像要素(10−n(i))と最も近似した略相似形状である。そして、第nの原画像(7−n)において対応した関係で配置された第n−iの原画像要素(10−n(i))は、第1の原画像(7−1)において第1−iの原画像要素(10−1(i))と隣接した、略相似形状の第1−(i+1)の原画像要素(10−1(i+1))または、第1−(i−1)の原画像要素(10−1(i−1)と最も近似した略相似形状である。
ここで重要なことは、任意の第1−iの原画像要素(10−1(i))は、第1の原画像(7−1)から第nの原画像(7−n)まで対応する関係の原画像要素(10)を有するが、第nの原画像(7−n)の第n−iの原画像要素(10−n(i))は、再び同じ第1の原画像(7−1)の第1−iの原画像要素(10−1(i))に対応する関係となるのではなく、第1−iの原画像要素(10−1(i))と隣接する関係にあって略相似形状の第1−(i+1)の原画像要素(10−1(i+1))又は第1−(i−1)の原画像要素(10−1(i−1))に対応する関係となる。
本発明において、任意の第1−iの原画像要素(10−1(i))が、第1の原画像(7−1)から第nの原画像(7−n)まで対応する関係の原画像要素(10)を有し、第nの原画像(7−n)の第n−iの原画像要素(10−n(i))が、再び同じ第1の原画像(7−1)の第1−iの原画像要素(10−1(i))に対応する関係となることを「円環状の循環構成」と定義し、任意の第1−iの原画像要素(10−1(i))が、第1の原画像(7−1)から第nの原画像(7−n)まで対応する関係の原画像要素(10)を有し、第nの原画像(7−n)の第n−iの原画像要素(10−n(i))が、第1−iの原画像要素(10−1(i))と隣接する関係にあって略相似形状の第1−(i+1)の原画像要素(10−1(i+1))又は第1−(i−1)の原画像要素(10−1(i−1))に対応する関係となることを「螺旋状の循環構成」と定義する。本発明のすべての原画像要素(10)は、螺旋状の循環構成で配置されることを最大の工夫とする。
簡潔にイメージで説明すると、第1−iの原画像要素(10−1(i))は、第1から第nまでの原画像(7−1、・・・7−n)を一巡して再び第1の原画像(7−1)に戻った場合に、第1−(i−1)の原画像要素(10−1(i−1))又は第1−(i+1)の原画像要素(10−1(i+1))となる。そして再び、第1から第nまでの原画像(7−1、・・・7−n)を一巡して再び第1の原画像(7−1)に戻った場合に、第1−(i−2)の原画像要素(10−1(i−2))又は第1−(i+2)の原画像要素(10−1(i+2))となる。
図8(b)で具体的に説明すると、第1の原画像(7−1)における第1−1の原画像要素(10−1(1))は、第2の原画像(7−2)の第2−1の原画像要素(10−2(1))と対応した関係で配置され、第2の原画像(7−2)の第2−1の原画像要素(10−2(1))は、第3の原画像(7−3)の第3−1の原画像要素(10−3(1))と対応した関係で配置され、第3の原画像(7−3)の第3−1の原画像要素(10−3(1))は、第4の原画像(7−4)の第4−1の原画像要素(10−4(1))と対応した関係で配置され、第4の原画像(7−4)の第4−1の原画像要素(10−4(1))は、第5の原画像(7−5)の第5−1の原画像要素(10−5(1))と対応した関係で配置された構成を有する。そして、第5の原画像(7−5)の第5−1の原画像要素(10−5(1))は、第1の原画像(7−1)の第1−2の原画像要素(10−1(2))と対応した関係で配置されている。
それぞれの原画像(7)において原画像要素(10)の関係を閉じられた円環状の循環構成とするのではなく、変化し続ける螺旋状の循環構成を適用することによって、従来の循環型の動画効果のように対の動きを必要とせずに、すべての原画像要素(10)が印刷画像(3)中で留まることなく一定の方向に変化し続ける動画効果を得ることができる。
以上が、本発明の原画像(7)を構成する上での最大の工夫であり、すなわち原画像(7)を略相似形状の複数の原画像要素(9)の集合から構成し、螺旋状の循環し、かつ、対応した関係で配置された原画像要素(10)を最も近似した略相似形状に設計することについての説明である。この対応する関係にある原画像要素(10)同士を必ず最も近似した略相似形状とすることは、動画効果を奏するパラパラ漫画方式の分断画線の集合体の構造と、モアレ拡大現象によって出現する画像の構成を融合させるために不可欠な構成である。
よって、本発明の集合潜像画線群(5)の特徴とは、基本的な画線構成についてはパラパラ漫画方式の動画効果を実現するための分断画線の集合体の構造を有するが、一方で原画像(7)の基本的な画像の構成は、モアレ拡大現象によって生じる拡大モアレの構成と同様に、隣接する原画像要素(10)を一定の規則に従って複数配置した構成(本発明においては略相似形状の構成)とし、そして最後に、対応した関係で配置された原画像要素(10)を最も近似した略相似形状とすることで二つの技術を動画として無理なく結びつけたことにある。結果としてパラパラ漫画方式の動画形態の画線構成とモアレ拡大現象の動画形態の画像の構成を組み合わせた動画とすることで二つの技術のそれぞれの長所を無理なく融合させたものである。
以上のように、原画像(7)が複数の原画像要素(10)の集合から成り、対応した関係で配置された原画像要素(10)が最も近似した略相似形状である画線構成で原画像(7)を構成すると、結果としてすべての原画像(7)は、目視上いずれも似通った画像となり、原画像(7)間の違いをほとんど認識できず、それぞれ区別がつかない。このため、仮にいずれか一つの原画像(7)が再生されなかったとしても、いずれの原画像(7)が再生されなかったかを観察者が判断することは極めて難しい。
一方、蒲鉾状画線(6)の上に重なった潜像画線(9)が再生されて動画効果が発現した場合、原画像(7)中のすべての原画像要素(10)が対の動きを必要とすることなく、傾ける方向を途中で変えないことを前提として一定の方向にのみ動いたり、一定方向にのみ回転したり、一定の方向性を有して大きさや形状が変化したりする効果が延々とループすることから、従来の循環型の動画効果と比較してよりスムーズな動画効果を実現でき、より容易に観察者は、動画効果を認識することができる。
このように、本発明の原画像(7)の構成を用いると、画像全体のデザインや動き自体のデザインにおいて制約が生じるものの、認識しやすい動画効果が生じる上、いずれかの原画像(7)が再生されなかったとしても観察者がその差異を認識できない、安定した品質を担保できる。
ここで、本発明の略相似形状に関する具体的な数値について以下に述べる。ここでは対応した関係にある原画像要素(10)における最も近似した略相似形状の関係を満たす、原画像要素(9)間の位相、大きさ、配置角度等の差異の具体的な数値について記載する。
印刷画像(3)のサイズにも影響するが、例えば30mm×30mm以下の印刷画像(3)を設計すると仮定すると、位相が変化したり、角度が変化したり、大きさが変化するといったいかなる変化であっても、まず大前提として対応する原画像要素(9)の変化の大きさがいずれの部分においても3mmを越えてはならない。3mmを越える場合には、動きの変化が大きすぎてスムーズな動きとは認識されないためである。更に2mm以下とすることが好ましい。
個別の例について説明すると、前述の動きの大きさを3mm以下とすることを満足することが大前提であることに加えて、第2の方向(S2)に位相が変化する場合、対応する関係にある原画像要素(9)間の第2の方向(S2)への位相のずれは原画像要素(9)の第2の方向(S2)の長さ以下の距離で設計することが望ましく、よりスムーズな動画効果を実現するためには、第2の方向(S2)の長さの50%以下とすることがより好ましい。
大きさの変化に関しては、約3mm×3mm以下の極端に小さな原画像要素(10)を構成するのでなければ、対応する関係にある原画像要素(10)間の大きさの違いは、70〜130%の間に止めることが望ましく、特に90〜110%の違いに制限することがより好ましい。また、配置角度変化に関しては、対応する関係にある原画像要素(10)間の配置角度差を20°以内、より望ましくは10°以内とすることが好ましい。
略相似形状な形状の違いに関しては、最も近似した略相似形状の範囲を具体的に述べることは難しいが、形状が変化するには物体の一部の位相や大きさ、配置角度等が単独に、あるいは同時に変化する必要があることを考慮すると、前述した位相や配置角度、大きさの好ましい範囲で成される形状変化であることが好ましいと言える。
また、引用文献3(特許第5131789号公報)で示した「モアレ拡大現象」を利用して変化させることが可能な形状変化と同等な形状変化は実現可能であり、特許第5131789号公報に記載した技術で表現できる程度の形状変化の範囲であれば本技術を用いて実現可能である。これは、本発明における原画像(7)の画像の構成が、引用文献3の技術のモアレ拡大現象によって出現する画像の構成を利用した画像としているためである。形状変化における望ましくない具体例としては、図52で用いた鳥の画像における、最も大きく羽根の開きが最大の大きさに達した原画像(A−4)や、あるいは羽根の開きが最小である原画像(A−1)のような形状の特徴が顕著に異なる画像を原画像(7)として設定してはならない。以上が、本発明における具体的な略相似形状の構成である。
なお、図8(a)を用いて前述したように、原画像(7)は、複数の原画像要素(10)から構成されていることから、図6(b)に示した、原画像(7)を分断して成る潜像画線群(5−1、5−2、5−3、5−4、5−5)においては、複数の原画像要素(10)を分断して成る複数の潜像要素(13)を有する。また、一つの原画像(7)において、隣接する原画像要素(10)同士が互いに略相似形状であることから、原画像要素(10)を分断することで構成される潜像要素(13)においても、一つの潜像画線群(5)において、隣り合う潜像要素(13)同士が互いに略相似形状となる。
さらに、図8(b)を用いて前述したように、隣り合う原画像(7)において、それぞれ対応した関係で配置された原画像要素(10)同士は、最も近似した略相似形状であることから、原画像(7)を分断することで構成した潜像画線群(5−1、5−2、5−3、5−4、5−5)を構成する潜像要素(13)においても、隣り合う潜像画線群(5−1、5−2、5−3、5−4、5−5)において、それぞれ対応した関係で配置された潜像要素(13)同士は、最も近似した略相似形状となる。
以上のような構成の原画像(7)を潜像画線(9)に分断化して潜像画線群(5−1、5−2、5−3、5−4、5−5)とし、図4に示すような構成で集合潜像画線群(5)を構成する。この集合潜像画線群(5)は、正反射光下で蒲鉾状画線(6)が発する色彩と異なる色彩である必要がある。この特性は、正反射光下で潜像を一定のコントラストで可視化させるために必要となる特性である。
また、拡散反射光下で集合潜像画線群(5)は、不可視であることが好ましいため、透明や半透明であるか、あるいは淡い色彩であることが好ましい。本発明でいう半透明とは完全な透明ではないが、下地を完全に隠蔽しない程度の透過性を有する状態を指す。
また、集合潜像画線群(5)は、正反射光下において集合潜像画線群(5)の下に存在する蒲鉾状画線群(4)に光が入射するのを防ぎ、結果として印刷画像(3)内に反射光の強弱を作り出して原画像(7)を出現させる働きを成すために、低光沢(マット)であったり、光遮断性に優れる特性を有したりすることが好ましい。なお、集合潜像画線群(5)には、蒲鉾状画線(6)のような明暗フリップフロップ性やカラーフリップフロップ性は必須ではないが、これらの性質を備えていても問題ない。
集合潜像画線群(5)は、特に盛り上がりは必須ではなく平坦な構造でよいが、盛り上がりを有していても良い。すなわち、オフセット印刷や凸版印刷、フレキソ印刷、グラビア印刷、凹版印刷やスクリ−ン印刷等で形成してもよく、インクジェットプリンタやレーザープリンタ等で形成しても問題ない。
この集合潜像画線群(5)を蒲鉾状画線群(4)の上に重ね合わせて潜像印刷物(1)が完成する。設計上最も適正な蒲鉾状画線群(4)と集合潜像画線群(5)の重ね合わせの位置関係とは、図9に示す関係であり、一つの蒲鉾状画線(6)の上に、A辺側から順に第1の潜像画線(9−1)、第2の潜像画線(9−2)、第3の潜像画線(9−3)、第4の潜像画線(9−4)、第5の潜像画線(9−5)が順に少なくとも一部重なった状態である。本発明では、第1の潜像画線群(5−1)から第5の潜像画線群(5−5)を各々構成している潜像画線(9)が、一つの蒲鉾状画線(6)の上に、第1の潜像画線(9−1)から第5の潜像画線(9−5)と順に積層して配置された構成を「対応した積層配置」と定義する。
図9に示す蒲鉾状画線群(4)と集合潜像画線群(5)を対応した積層配置とした重ね合わせの位置関係で、本発明の潜像印刷物(1)を形成した場合の効果を図10に示す。なお、図10(a)は、蒲鉾状画線群(4)と集合潜像画線群(5)の刷り合わせの位置関係が理想的な位置関係である場合を示す断面図であり、一つの蒲鉾状画線(6)上に、潜像画線(9)が積層されて成る。潜像印刷物(1)に光源(11)から直接光が入射しない、いわゆる拡散反射光下で潜像印刷物(1)を観察した場合、いずれの原画像(7)も出現せず、単に印刷画像(3)が蒲鉾状画線群(4)の物体色で視認される(図示せず)。
一方、正反射光下において図10(b)のようにA辺側が光源(11)に向けて上がって傾いた状態で観察した場合、印刷画像(3)中に第1の原画像(7−1)が第一の潜像画像(15−1)として出現する。なお、肉眼においては第1の原画像(7−1)が出現しているように視認されるが、実際には、集合潜像画線群(5)内における第1の潜像画線群(5−1)がサンプリングされて、可視化されている。しかしながら、第1の潜像画線群(5−1)の原画像は第1の原画像(7−1)であり、かつ、第1の原画像(7−1)を分断して成る構成であることから、肉眼においては、第1の原画像(7−1)が第一の潜像画像(15−1)として出現しているように、視認される。この場合、第1の原画像(7−1)は、集合潜像画線群(5)の正反射光下における色彩で、その他の背景となる印刷画像(3)全体は、蒲鉾状画線群(4)の正反射光下の色彩となる。以下、正反射光の観察状態を説明する場合、実際に視認されている画像は、潜像画像(15)が視認されているとして説明する。
また、潜像印刷物(1)を図10(b)から図10(c)の角度へと徐々に変化させると、印刷画像(3)中から第一の潜像画像(15−1)が消失して、第二の潜像画像(15−2)が出現する。そして、より角度を大きく変化させると第二の潜像画像(15−2)が消失して、第三の潜像画像(15−3)が出現する。
第1の原画像(7−1)と第2の原画像(7−2)とは、それぞれの原画像要素(10)である「JAPAN」の文字の印刷画像(3)中の位相が、A辺側にある「JAPAN」については、第2の方向(S2)に位相がわずかにずれた関係にあることから、第一の潜像画像(15−1)から第二の潜像画像(15−2)へと画像がチェンジすることによって、A辺側に現れた「JAPAN」は、第2の方向(S2)に移動して見える。
肉眼においては、第1の原画像要素(10−1)が出現しているように視認されるが、前述した原画像(7)と同様に、実際には、第1の潜像画線群(5−1)内の第1の潜像要素(13−1)がサンプリングされて、可視化されている。しかしながら、第1の潜像要素(13−1)の原画像は、第1の原画像要素(10−1)であり、かつ、第1の原画像要素(10−1)を分断して成る構成であることから、肉眼においては、第一の潜像画像(15−1)が出現しているように視認される。以下、正反射光の観察状態を説明する場合、実際には原画像要素(10)が視認されているが、潜像画像(15)が視認されているとして説明する。
なお、図6から図9において、説明を簡潔にするために、原画像(7)にある二列の「JAPAN」の文字列のうち、図6に示すA辺側に配置された原画像要素(10)である「JAPAN」の文字列に限定して説明をしてきたが、図6に示すA’辺側に配置された原画像要素(10)である「JAPAN」については、A辺側にある「JAPAN」の文字列と同様に、第2の方向(S2)に位相がわずかにずれた関係にある場合、第一の潜像画像(15−1)から第二の潜像画像(15−2)へと画像がチェンジすることによって、A辺側に現れた「JAPAN」及びA’辺側にある「JAPAN」は、いずれも第2の方向(S2)に移動して見える。
また、他の構成として、A辺側に配置された原画像要素(10)である「JAPAN」については、第2の方向(S2)に、A’辺側に配置された原画像要素(10)である「JAPAN」については、A辺側と正反対の方向である略180度異なる方向にわずかにずれた関係とすることも、可能である。A辺側にある「JAPAN」とA’辺側にある「JAPAN」を、A辺側と正反対の方向に位相がわずかにずれた関係とした場合、図10(e)に示すように、第一の潜像画像(15−1)から第二の潜像画像(15−2)へと画像がチェンジすることによって、A辺側に現れた「JAPAN」は第2の方向(S2)に、A’辺側に現れた「JAPAN」は、第2の方向(S2)と正反対の方向に移動して見える。
A’辺側の「JAPAN」が第2の方向(S2)と正反対の方向に移動する構成については、A辺側の「JAPAN」の動きの方向である第2の方向(S2)と正反対の角度か、正反対に近い角度に動く構成を同じ印刷画像(3)中に設けることによって、それぞれの動きを相対的に大きく見せ、動画効果を強く印象付けるために有効な構成である。
第二の潜像画像(15−2)と第三の潜像画像(15−3)の関係も同様であることから、同様にA辺側に現れた「JAPAN」は第2の方向(S2)に、A’辺側に現れた「JAPAN」は、第2の方向(S2)と正反対の方向に移動して見える。本発明の潜像印刷物(1)において画像のチェンジ効果は数度の角度の変化によって生じるから、潜像印刷物(1)を正反射光下でわずかに傾けるだけで出現した「JAPAN」の文字、は極めてスムーズに第2の方向(S2)、あるいは第2の方向(S2)と正反対の方向に動いて見える。
続いて、潜像印刷物(1)を図10(c)から図10(d)の角度へ変化させると、印刷画像(3)中の第三の潜像画像(15−3)が消失して、第四の潜像画像(15−4)が出現する。そして、より角度を大きく変化させると第四の潜像画像(15−4)が消失して、第五の潜像画像(15−5)が出現する。
第三の潜像画像(15−3)と第四の潜像画像(15−4)の関係、及び第四の潜像画像(15−4)と第五の潜像画像(15−5)の関係も、第一の潜像画像(15−1)から第二の潜像画像(15−2)の関係と同じく、それぞれの原画像要素(10)である「JAPAN」の文字の印刷画像(3)中の位相がA辺側にある「JAPAN」では、第2の方向(S2)に、A’辺側にある「JAPAN」では、第2の方向(S2)と正反対の方向に位相がわずかにずれた関係にあることから、A辺側に現れた「JAPAN」は第2の方向(S2)に、A’辺側に現れた「JAPAN」は、第2の方向(S2)と正反対の方向に移動して見える。出現した「JAPAN」の文字は極めてスムーズに第2の方向(S2)、あるいは第2の方向(S2)と正反対の方向に動いて見える。なお、理想的な光源の状態で観察した場合には、第五の潜像画像(15−5)が出現した後に角度を同じ方向に傾けると、再び第一の潜像画像(15−1)が出現し、二サイクル目の動画が再生される。
以上のように、図9の適正な位置関係で構成された本発明の潜像印刷物(1)を正反射光下で傾けて観察した場合、A辺側に現れた有意味情報である「JAPAN」は、第2の方向(S2)に、A’辺側に現れた有意味情報である「JAPAN」は、第2の方向(S2)と正反対の方向に、潜像画像(15)がスムーズに移動するパラパラ漫画方式の動画効果が生じる。
なお、本発明で言う「正反射」とは、物質にある入射角度で光が入射した場合に、入射した光の角度と略等しい角度に強い反射光が生じる現象を指し、「拡散反射」とは、物質にある入射角度で光が入射した場合に、入射した光の角度と異なる角度に弱い反射光が生じる現象を指す。例えば、虹彩色パールインキを例とすると、拡散反射の状態では無色透明に見えるが、正反射した状態では特定の干渉色を発する。また、「正反射光下で観察する」とは、印刷物に入射した光の角度と略等しい反射角度に視点をおいて観察する状態を指し、「拡散反射光下で観察する」とは、印刷物に入射した光の角度と大きく異なる角度で観察する状態を指す。
以上の効果が生じる原理について説明する。まず、拡散反射光下では蒲鉾状画線群(4)及び集合潜像画線群(5)に直接入射する光が存在せず、強い正反射光を発することがないことから、蒲鉾状画線群(4)と集合潜像画線群(5)間に色差が生じることがない。そのため拡散反射光下では、集合潜像画線群(5)は、完全に不可視か、ほぼ不可視である。
一方、正反射光下においては、蒲鉾状画線群(4)の有する光学特性である明暗フリップフロップ性あるいはカラーフリップフロップ性によって色彩が大きく変化するために、蒲鉾状画線群(4)と集合潜像画線群(5)との間に大きな色差が生じ、集合潜像画線群(5)が可視化される。ただし、蒲鉾状画線(6)は盛り上がりを有しているため、蒲鉾状画線群(4)全体が一斉に光を反射することはなく、集合潜像画線群(5)全体が一度に可視化されることはない。正反射光下においては、蒲鉾状画線(6)の画線表面のうち、入射した光と直交する画線表面だけが強く光を反射し、その領域だけ蒲鉾状画線群(4)と集合潜像画線群(5)間に大きな色差が生じる。結果として入射した光と直交した蒲鉾状画線群(4)の画線表面の上に重ねられた集合潜像画線群(5)の画像情報のみがサンプリングされ、可視化されることとなる。
以上のことから、正反射光下において図10(b)のように潜像印刷物(1)のA辺側が光源(11)に近づいて傾いた状態の潜像印刷物(1)を観察した場合、蒲鉾状画線(6)の画線表面のうちの、入射光と直交する角度を成すA辺側の画線表面が強く光を正反射し、その上に存在する集合潜像画線群(5)の画像情報のみがサンプリングされて可視化される。この例において、蒲鉾状画線(6)の上のA辺側の画線表面に重なっているのは第1の潜像画線(9−1)であるため、印刷画像(3)全体で第1の潜像画線群(5−1)がサンプリングされて第一の潜像画像(15−1)が出現する。これが、正反射光下の図10(a)の観察角度で第一の潜像画像(15−1)が出現した原理である。
次に、正反射光下において図10(b)の状態から図10(c)の状態まで潜像印刷物(1)を徐々に傾けた場合、光源(11)から入射する光と潜像印刷物(1)との角度の関係が変化することから集合潜像画線群(5)の情報がA辺側から蒲鉾状画線(6)の頂点へ向かってサンプリングされる。第1の潜像画線(9−1)のA辺側にある画線とは、第1の潜像画線(9−1)であり、その隣に第2の潜像画線(9−2)、集合潜像画線(8)の中心近くには、第3の潜像画線(9−3)が存在する。このため、正反射光下で潜像印刷物(1)の傾きを図10(b)の状態から図10(c)の状態まで変化させた場合、集合潜像画線(8)の情報がA辺側から頂点側(画線中心)へ向かってサンプリングされることで、第一の潜像画像(15−1)から第二の潜像画像(15−2)にチェンジし、その後、第二の潜像画像(15−2)から第三の潜像画像(15−3)へとチェンジする。
次に、正反射光下において図10(c)の状態から図10(d)の状態まで潜像印刷物(1)を徐々に傾けた場合、集合潜像画線群(5)の情報が蒲鉾状画線(6)の頂点からA’辺側へ向かってサンプリングされる。集合潜像画線群(5)の頂点(中心)近辺にある画線とは、第3の潜像画線(9−3)であり、A辺側へかけて第4の潜像画線(9−4)、第5の潜像画線(9−5)が存在する。このため、正反射光下で潜像印刷物(1)の傾きを図10(c)の状態から図10(d)の状態まで変化させた場合、集合潜像画線群(5)の情報が頂点(中心)からA’辺側へ向かってサンプリングされることで、第三の潜像画像(15−3)から、第四の潜像画像(15−4)にチェンジし、その後、第四の潜像画像(15−4)から第五の潜像画像(15−5)へと画像がチェンジする。
それぞれの原画像(7)は、対応した関係で配置された原画像要素(10)同士が略相似形状な関係に構成されて成ることから、結果としてわずかな角度変化で、第一の潜像画像(15−1)、第二の潜像画像(15−2)、第三の潜像画像(15−3)、第四の潜像画像(15−4)、第五の潜像画像(15−5)と順次チェンジすることで、それぞれの原画像要素(10)の略相似形状な関係に応じた動画効果を生じる。
第1の実施の形態においては、それぞれの原画像(7)において、それぞれの対応した関係で配置された原画像要素(10)同士が、螺旋状に循環して配置され、第2の方向(S2)、あるいは第2の方向(S2)と正反対の方向に位相を変えた状態の略相似形状であることから、A辺側に現れた「JAPAN」は、第2の方向(S2)に、A’辺側に現れた「JAPAN」は、第2の方向(S2)と正反対の方向に、潜像画像(15)がスムーズに移動する動画効果が生じるものである。
以上が、正反射光下のある特定の観察角度において、印刷画像(3)の中に潜像画像(15)が出現し、観察角度を変えることで印刷画像(3)の中の潜像要素(13)に動画効果が生じる原理である。
続いて、蒲鉾状画線群(4)と集合潜像画線群(5)の刷り合わせの位置関係が図9に示した理想的な位置関係からズレた場合の効果について説明する。図11に示すのは、図9及び図10に示した蒲鉾状画線群(4)と集合潜像画線群(5)の刷り合わせの位置関係からズレが生じ、図11(a)に示すように、蒲鉾状画線(6)と蒲鉾状画線(6)の間にある非画線部に第5の潜像画線(9−5)が完全に嵌った例である。この例において第5の潜像画線(9−5)は、いずれの蒲鉾状画線(6)の上にも重なっていない。
図11の蒲鉾状画線群(4)と集合潜像画線群(5)の刷り合わせの位置関係では、図11(b)のようにA辺側が光源(10)に向けて上がって傾いた状態で観察した場合、印刷画像(3)中に第一の潜像画像(15−1)が出現する。また、潜像印刷物(1)を図11(b)から図11(d)の角度へと徐々に変化させると、印刷画像(3)中から第一の潜像画像(15−1)が消失して、第二の潜像画像(15−2)にチェンジし、傾きを大きくすることによって第三の潜像画像(15−3)、第四の潜像画像(15−4)が次々とチェンジする。
その結果、観察者は、図10に示した例と同様に、A辺側に現れた「JAPAN」は、第2の方向(S2)に、A’辺側に現れた「JAPAN」は、第2の方向(S2)と正反対の方向である略180度異なる方向に、潜像画像(15)がスムーズに移動する動画効果を認識できる。この図11の形態においては、第五の潜像画像(15−5)は出現しないが、前述のとおり、本発明においては、原画像(7)が複数の原画像要素(10)の集合から成り、対応した関係で配置された原画像要素(10)が最も近似した略相似形状である画線構成で原画像(7)が構成されたことで、すべての原画像(7)は、目視上いずれも似通った画像となり、原画像(7)間の違いをほとんど認識できず、それぞれ区別がつかない。よって、図10に示した刷り合わせが適正な状態の潜像印刷物(1)との間に認識できる程度に動画効果の明確な差異は生じないため、観察者は、図10に示した潜像印刷物(1)と、図11に示した潜像印刷物(1)とで視認された動画効果の違いに気が付くことはない。
続いて、蒲鉾状画線群(4)と集合潜像画線群(5)の刷り合わせの位置関係が、図11よりも、さらに大きくズレた場合の効果について図12を用いて説明する。図12の例は、図10に示した蒲鉾状画線群(4)と集合潜像画線群(5)の刷り合わせの位置関係が適正な位置から約半ピッチ(P1/2)の距離ずれた構成であり、これは蒲鉾状画線(6)と集合潜像画線(8)の位置関係としては、図12の状態が適正な状態から最も大きく離れた位置関係となる。また、この例においては、図12(a)に示すように、蒲鉾状画線(6)と蒲鉾状画線(6)の間にある非画線部に第3の潜像画線(9−3)が完全に嵌った例である。この例において第3の潜像画線(9−3)は、いずれの蒲鉾状画線(6)の上にも重なっていない。
図12の蒲鉾状画線群(4)と集合潜像画線群(5)の刷り合わせの位置関係では、図12(b)のようにA辺側が光源(10)に向けて上がって傾いた状態で潜像印刷物(1)を観察した場合、印刷画像(3)中に第四の潜像画像(15−4)が出現する。また、潜像印刷物(1)を図12(b)から図12(d)の角度へと徐々に変化させると、印刷画像(3)中から第四の潜像画像(15−4)が消失して、第五の潜像画像(15−5)にチェンジし、傾きを大きくすることによって第一の潜像画像(15−1)、第二の潜像画像(15−2)が次々とチェンジする。
その結果、観察者は、図10に示した例及び図11に示した例と同じようにA辺側に現れた「JAPAN」が第2の方向(S2)に、A’辺側に現れた「JAPAN」が第2の方向(S2)と正反対の方向に、潜像画像(15)がスムーズに移動する動画効果を認識できる。この図12の形態においては、第三の潜像画像(15−3)は出現しないが、図11と同様に、図10や図11に示した潜像印刷物(1)との間に認識できる程度に明確な差異は生じないため、観察者は、図10や図11に示した潜像印刷物(1)と、図12に示した潜像印刷物(1)との違いに気が付くことはない。
以上のように、本発明の潜像印刷物(1)においては、蒲鉾状画線群(4)と集合潜像画線群(5)の刷り合わせの位置関係に関係なく、出現した原画像要素(10)が略相似形状に変化する(第1の実施の形態においては第2の方向(S2)及び第2の方向(S2)と正反対の方向である略180度異なる方向に移動する)動画効果を認識できる。そして、仮に一部の潜像画像(15)が出現しなかったとしてもその動画効果の違いを認識することができない。よって、蒲鉾状画線群(4)と集合潜像画線群(5)の刷り合わせの位置関係に関係なく、目視上同じ動画効果が認識される効果が生じる。これは従来の循環型の動画効果にはなかった、モアレ拡大現象を利用した動画効果の利点である。
第1の実施の形態における動画効果は、潜像画像(15)が第2の方向(S2)(あるいは第2の方向(S2)と正反対の方向)に移動する効果であったが、本発明の潜像印刷物(1)における動画効果はこれに限定されるものではない。潜像画像(15)が回転したり、回転しながら移動したり、大きさが変化したり、形状が変化する等、対応した関係で配置された原画像要素(10)同士が略相似形状の関係を維持しながら変化できる範囲の変化であれば、いかなる動画表現であっても実現できる。これは従来のモアレ拡大現象を利用した動画効果にはなかった、パラパラ漫画方式の動画効果の利点である。これらの動画表現のバリエーションの具体例は、第2の実施の形態から第6の実施の形態の中で説明する。
ここで原画像要素(10)が移動する、あるいは回転する場合の移動方向となる第2の方向(S2)について説明する。第1の実施の形態においては、第2の方向(S2)は、第1の方向(S1)に直交する方向であったが、図13(a)に示すように、第1の方向(S1)に水平方向であっても、図13(b)に示すように、第1の方向(S1)に斜め方向であっても良く、その方向については特に問わない。また、第2の方向(S2)が直線方向である必要はなく、図13(c)に示すように、時計回りの回転方向を第3の方向(S3)と定め、回転する形態としても良い。また、図13(d)に示すようにそれぞれの原画像要素(10)ごとに第2の方向(S2)が異なる形態としてもよい。また移動する距離についても、それぞれの原画像要素(10)において同じ長さである必要はなく、図13(d)に示すように、それぞれの原画像要素(10)ごとに第2の方向(S2)に移動する距離が異なっていても良い。
また、図14に第1−1の原画像要素(10−1(1))の出現位置と第1−iの原画像要素(10−1(i))の消失位置における画像処理の一例を示す。原画像要素(10)が移動する形態においては、印刷画像(3)中に自ら出現する位置と消失する位置が生まれる。これらの見せ方によっては動画効果が小さく感じられたり、同じ動画効果が生じなくなったりする場合もあるため、いくつかの出現位置と消失位置における画像処理の例を示す。
図14(a)に示すのは、潜像画像(15)が出現及び消失の基本的な形態であり、第1−1の原画像要素(10−1(1))の出現と第1−iの原画像要素(10−1(i))の消失の処理で、印刷画像(3)の枠内から見切れる位置まで描画する形態である。当然のことながら、印刷画像(3)の枠自体は移動しないことから、動かない枠と第2の方向(S2)に移動する原画像要素(10)の対比によって動画効果が強調されるため、原画像要素(10)が移動する形態の出現及び消失の見せ方として好ましい。
図14(b)に示すのは、印刷画像(3)中の特定の位置で第1−1の原画像要素(10−1(1))が出現したり、第1−iの原画像要素(10−1(i))が消失したりする例である。特に正確な位置において原画像要素(10)を出現させたり、消失させたりを意図する場合には、出現した瞬間の第1−1の原画像要素(10−1(1))に対応した関係で配置された第2−1の原画像要素(10−2(1))や、消失する瞬間の第1−iの原画像要素(10−1(i))と対応した関係で配置された第2−iの原画像要素(10−2(i))もほぼ同じ位置に原画像要素(10)がある状態とすることで、仮にそれぞれの原画像(7)が出現しなかった場合でも同じ位置で潜像画像(15)が出現及び消失する効果を担保できる。
図14(c)に示すのは、第1−1の原画像要素(10−1(1))が徐々に濃くなりながら出現したり、第1−iの原画像要素(10−1(i))が淡く成りながら消失したりする形態である。これに関しても、図14(b)と同様に、出現した瞬間の第1−1の原画像要素(10−1(1))に対応した関係で配置された第2−1の原画像要素(10−2(1))や、消失する瞬間の第1−iの原画像要素(10−1(i))と対応した関係で配置された第2−iの原画像要素(10−2(i))もほぼ同じ位置に原画像要素(10)がある状態とすることが好ましい。以上のように、これらはそれぞれを組み合わせて構成しても良い。
(第2の実施の形態)
次に、第2の実施の形態において、潜像画像(15)が第2の方向(S2)に移動し、かつ、回転する動画効果を構成した例について説明する。
図15に第2の実施の形態における潜像印刷物(1’)を示す。図16には潜像印刷物(1’)の印刷画像(3’)の構成の概要を示す。印刷画像(3’)は、蒲鉾状画線群(4’)の上に集合潜像画線群(5’)が重ねて形成されて成る。基材(2’)や印刷画像(3’)、蒲鉾状画線群(4’)の構成や材料構成、条件等については、第1の実施の形態と同様であることから説明を省略する。また、集合潜像画線群(5’)の画線構成についても第1の実施の形態と同様であることから説明を省略する。以下では、集合潜像画線群(5’)の基と成る原画像(7’)の構成について説明する。
図17(a)に、集合潜像画線群(5’)を構成する5種類の潜像画線群(5−1’、5−2’、5−3’、5−4’、5−5’)及び、それぞれの基になる5種類の原画像(7−1’、7−2’、7−3’、7−4’、7−5’)を示す。
第2の実施の形態においても、図18に示すように原画像(7’)全体が画像の繋がりを有してループする循環構成を有する。すなわち、第1の原画像(7−1’)→第2の原画像(7−2’)→第3の原画像(7−3’)→第4の原画像(7−4’)→第5の原画像(7−5’)を一サイクルとし、第5の原画像(7−5’)から再び第1の原画像(7−1’)へと繋がる循環構成を有する。
第2の実施の形態では、原画像(7’)は、全て桜の花びらの集合を表し、それぞれの原画像(7’)の中の桜の花びらが位置を変えながら回転する様子を表わしている。原画像(7’)を構成する原画像要素(10’)は、全て桜の花びらであり、一つの原画像(7’)の中の桜の花びらは同じであるが、それぞれ隣り合った原画像(7’)において、図19(b)に示すように、対応した関係で配置された原画像要素(10’)は、第2の方向(S2)に位相がずれ、図19(c)に示すように、同時に配置角度も異なる形態の略相似形状である。
図19(a)に示すのは、第1の原画像(7−1’)における原画像要素(10’)の配置であり、第1−1の原画像要素(10−1(1)’)と隣接した第1−2の原画像要素(10−1(2)’)は、第2の方向(S2)に位相がずれた略相似形状である。
また、第1の原画像(7−1’)において、垂直軸(L1)から約−14度傾いた第1−1の原画像要素(10−1(1)’)と、第2の原画像(7−2’)において垂直軸(L1)と平行であって第2の方向(S2)に位相が異なる第2−1の原画像要素(10−2(1)’)が対応した関係で配置され、この第2−1の原画像要素(10−2(1)’)と、第3の原画像(7−3’)において垂直軸(L1)から約14度傾いて第2の方向(S2)に位相が異なる第3−1の原画像要素(10−3(1)’)が対応した関係で配置され、この第3−1の原画像要素(10−3(1)’)と、第4の原画像(7−4’)において垂直軸(L1)から約28度傾いて第2の方向(S2)に位相が異なる第4−1の原画像要素(10−4(1)’)が対応した関係で配置され、この第4−1の原画像要素(10−4(1)’)と第5の原画像(7−5’)において垂直軸(L1)から約42度傾いて第2の方向(S2)に位相が異なる第5−1の原画像要素(10−5(1)’)が対応した関係で配置される。
そして、第5の原画像(7−5’)の第5−1の原画像要素(10−5(1)’)と、第1の原画像(7−1’)の垂直軸(L1)から約56度傾いて第2の方向(S2)に位相が異なる第1−2の原画像要素(10−1(2)’)が対応する関係にある。つまり、本第2の実施の形態においても、第1の原画像要素(10−1’)から第nの原画像要素(10−n’)において、対応した関係で配置された原画像要素(10’)は、螺旋状に循環して配置される。これ以後、隣り合う原画像(7’’)において、対応した関係で配置された原画像要素(10’)同士は、約14度ずつ配置角度が異なり、同時に第2の方向(S2)に位相が異なる最も近似した略相似形状の関係にある。
以上のような構成の原画像(7’)を、所定の画線幅で分断し、潜像画線(9’)から成る潜像画線群(5−1’、5−2’、5−3’、5−4’、5−5’)とすることで、集合潜像画線群(5’)を構成する。
また、原画像(7’)は、複数の原画像要素(10’)から構成されていることから、原画像(7’)を分断して成る潜像画線群(5−1’、5−2’、5−3’、5−4’、5−5’)においては、図17(b)に示すように、複数の原画像要素(10’)を分断して成る複数の潜像要素(13’)を有する。また、原画像(7’)において、隣り合う原画像要素(10’)同士が互いに略相似形状であることから、分断することで構成される潜像要素(13’)においても、隣り合う潜像要素(13’)同士が互いに略相似形状となる。さらに、第1の潜像要素(13−1’)から第nの潜像要素(13−n’)において、対応した関係で配置された潜像要素(13’)は、螺旋状に循環して配置される。この集合潜像画線群(5’)の構成や、材料構成、形成方法等は、第1の実施の形態と同様であることから省略する。
図20(a)に示す、蒲鉾状画線群(4’)と集合潜像画線群(5’)の重ね合わせの位置関係で本発明の潜像印刷物(1’)を形成した場合の効果を、図20(e)に示す。潜像印刷物(1’)に光源(11’)から直接光が入射しない、いわゆる拡散反射光下で潜像印刷物(1’)を観察した場合、いずれの原画像(7’)も出現せず、単に印刷画像(3’)が蒲鉾状画線群(4’)の物体色で視認される(図示せず)。
一方、正反射光下において図20(b)のようにA辺側が光源(11’)に向かって上がって傾いた状態で潜像印刷物(1’)を観察した場合、印刷画像(3’)中に第一の潜像画像(15−1’)が出現する。この場合、第一の潜像画像(15−1’)は、集合潜像画線群(5’)の正反射光下における色彩で、その他の背景の印刷画像(3)全体は、蒲鉾状画線群(4’)の正反射光下の色彩となる。
また、潜像印刷物(1’)を図20(b)から図20(c)を経て図20(d)の角度へと徐々に変化させると、印刷画像(3’)中で第一の潜像画像(15−1’)、第二の潜像画像(15−2’)、第三の潜像画像(15−3’)、第四の潜像画像(15−4’)、第五の潜像画像(15−5’)が順次単独で出現する。これによって、それぞれの原画像(7’)の中の原画像要素(10’)の桜の花びらが回転しながら第2の方向(S2)に移動する効果が発現する。また、第1の実施の形態と同様に、それぞれの原画像(7’)は、略相似形状であることから、いずれかの原画像(7’)が出現されなかった場合でも、観察者がその変化を認識できることはない。以上のように、本発明の構成を用いることで、潜像画像(15)が回転しながら同時に移動する動画効果を実現することができる。
(第3の実施の形態)
第3の実施の形態では原画像要素(10’’)が回転する動画効果を実現する例について説明する。また、第3の実施の形態で説明するのは、原画像要素(10’’)が単独で存在するのではなく、原画像要素(10’’)が組み合わされることで画像全体として複雑な意匠を構成した例である。なお、原画像要素(10’’)が組み合わされることで形成された複雑な意匠性のある潜像画像(15’’)は、集合潜像画線群(5’’)を、拡散反射光下において基材と異なる有色の色彩を有するように形成することで、拡散反射光下において意匠性の高い彩紋状模様(16)として視認できる。したがって、以降、第3の実施の形態の説明において集合潜像画線群(5’’)は、拡散反射光下において透明以外の有色の色彩で形成されていることとして説明する。また、既に第1の実施の形態及び第2の実施の形態で説明した内容と同じところは省略する。
第3の実施の形態では、正反射光下で出現する潜像が一定の方向に回転する形態について説明する。図21に、本発明における潜像印刷物(1’’)を示す。図21(a)に示すのは潜像印刷物(1’’)の正面図であり、図21(b)に示すのは、潜像印刷物(1’’)のA−A’ラインにおける断面図である。
第3の実施の形態における印刷画像(3’’)の構成の概要を図22に示す。前述した実施の形態と同様、印刷画像(3’’)は、蒲鉾状画線群(4’’)及び集合潜像要素群(5’’)から成る。積層順としては、蒲鉾状画線群(4’’)の上に集合潜像要素群(5’’)が重なって成る。
蒲鉾状画線群(4’’)については、前述の第1の実施の形態で説明した内容と同様なので、説明を省略する。
次に、集合潜像画線群(5’’)について説明する。この集合潜像画線群(5’’)の構成が本第3の実施の形態においての最も大きな特徴である。説明を明瞭にするために、まず循環型の動画効果を発現させるための潜像画線群における画線構成と、その元となる原画像の構成について説明し、その後に潜像画線群に一定の意匠性を付与するための構成について説明する。
図23に示すのは、集合潜像画線群(5’’)であり、一定の画線幅(W2)の集合潜像画線(8’’)が、蒲鉾状画線(6’’)の配置ピッチと同じピッチ(P1)で、第1の方向(S1)に連続して配置されて成る。それぞれの原画像(7’’)の構成が決まったら、それぞれの原画像(7’’)を特定のピッチ(P1)で任意の画線幅(W)で分断し、それぞれの原画像(7’’)を基にして潜像画線群(5’’)を作製し、それぞれの潜像画線群を第1の方向(S1)に位相をずらして互いの画線が重なり合わないように配置することで、集合潜像画線群(5’’)が完成するのは、第1の実施の形態と同様である。
図24に、集合潜像画線群(5’’)を構成する5種類の潜像画線群(5−1’’、5−2’’、5−3’’、5−4’’、5−5’’)を示す。図24に示す全ての潜像画線群(5−1’’、5−2’’、5−3’’、5−4’’、5−5’’)は、雪の結晶のような幾何学模様を表した画像(雪の結晶模様と呼ぶ)を分断した分断画線から成る。
また、図24に、5種類の潜像画線群(5−1’’、5−2’’、5−3’’、5−4’’、5−5’’)を表す画像の基となる5種類の原画像(7−1’’、7−2’’、7−3’’、7−4’’、7−5’’)を示す。全ての原画像(7−1’’、7−2’’、7−3’’、7−4’’、7−5’’)及びその原画像(7’’)から形成された潜像画線群(5’’)は、原画像(7’’)及び潜像画線群(5’’)の中心点(O)に対して回転方向に順次配列されている。なお、本第3の実施形態では、図24に示すように、回転方向は第3の方向(S3)として、反時計回りとなっている。したがって、第3の方向(S3)に角度(α)の異なる雪の結晶模様を表した構成を有する。
図25に5種類の潜像画線群(5−1’’、5−2’’、5−3’’、5−4’’、5−5’’)を代表して、第1の潜像画線群(5−1’’)の画線構成を示す。第1の潜像画線群(5−1’’)は、特定の画線幅(W3)の第1の潜像画線(9−1’’)が蒲鉾状画線(6’’)の配置ピッチと同じピッチ(P1)で、第1の方向(S1)に連続して配置されて雪の結晶模様を表して成る。このように、第1の潜像画線群、第2の潜像画線群、・・・、第5の潜像画線群(5−1’’、5−2’’、5−3’’、5−4’’、5−5’’)とは、基になる5種類の原画像となる第1の原画像、第2の原画像、・・・、第5の原画像(7−1’’、7−2’’、7−3’’、7−4’’、7−5’’)を特定の幅(W3、W4、W5、W6、W7)の第1の潜像画線から第5の潜像画線(9−1’’、9−2’’、9−3’’、9−4’’、9−5’’)によって、特定のピッチ(P1)で分断した構造を有する。
図24では、5種類の潜像画線群(5−1’’、5−2’’、5−3’’、5−4’’、5−5’’)、更には、5種類の原画像(7−1’’、7−2’’、7−3’’、7−4’’、7−5’’)についての例として説明したが、前述した潜像画線(9’’)と同様、これに限定されるものではなく、第n’’の潜像画線群及び第n’’の原画像まで設定することは可能である。
前述したとおり、本発明は、蒲鉾状画線群(4’’)と潜像画線群(5’’)の刷り合わせがずれた場合でも、刷り合わせに依存せず、正反射光下でスムーズなパラパラ漫画方式の動画効果を生じさせるための、原画像(7’’)の構成上に工夫している。
本第3の実施の形態では、従来の循環型の動画効果を有した技術と同様に、原画像(7’’)全体がループする循環構成を有する。すなわち、第1の原画像(7−1’’)→第2の原画像(7−2’’)→第3の原画像(7−3’’)→、・・・、→第nの原画像(7−n’’)(nは3以上の整数)を一サイクルとした画像の繋がりを有し、かつ、終点となる原画像(7−n’’)が、始点となる原画像(7−1’’)と連続した画像として繋がる、所謂循環した構成を有する。
図26の例では、第1の原画像(7−1’’)→第2の原画像(7−2’’)→第3の原画像(7−3’’)→第4の原画像(7−4’’)→第5の原画像(7−5’’)を一サイクルとし、第5の原画像(7−5’’)から再び第1の原画像(7−1’’)へと繋がる循環構成を有する。したがって、隣り合う原画像(7’’)同士は、「隣り合う関係」となっている。
第3の実施の形態におけるそれぞれの原画像要素(10’’)とは、雪の結晶模様全体を指すのではなく、図27に示すように、雪の結晶模様の8分の1を構成する矢印が重なったような模様を指す。図27(a)に示すのは、第1の原画像(7−1’’)であり、画像の上部で垂直な角度で第1−1の原画像要素(10−1(1)’’)があり、第1−1の原画像要素(10−1(1)’’)の中心点(O)に対して反時計回りである第3の方向(S3)に角度(α)が9度傾いた第1−2の原画像要素(10−1(2)’’)があり、同じく第1−2の原画像要素(10−1(2)’’)に対して、第3の方向(S3)に角度が9度傾いた第1−3の原画像要素(10−1(3)’’)があり、・・・、第1−nの原画像要素(10−1(i)’’)がある。
第1−2の原画像要素(10−1(2)’’)は第1−1の原画像要素(10−1(1)’’)及び第1−3の原画像要素(10−1(3)’’)と「隣接した関係」にある。第3の実施の形態においては、それぞれの原画像要素(10’’)同士が特定の方向に位相をずらして配置されてなるが、配置角度(α)が異なっていたり、形状及び大きさのいずれか一つが異なっていたりしても良い。第3の実施の形態においては、それぞれ隣接した関係の原画像要素同士(10’’)は、配置角度(α)が9度異なる。
図27(b)において、第1の原画像(7−1’’)における第1−1の原画像要素(10−1(1)’’)は、第2の原画像(7−2’’)の第2−1の原画像要素(10−2(1)’’)と対応した関係で配置され、第2の原画像(7−2’’)の第2−1の原画像要素(10−2(1)’’)は、第3の原画像(7−3’’)の第3−1の原画像要素(10−3(1)’’)と対応した関係で配置され、第3の原画像(7−3’’)の第3−1の原画像要素(10−3(1)’’)は、第4の原画像(7−4’’)の第4−1の原画像要素(10−4(1)’’)と対応した関係で配置され、第4の原画像(7−4’’)の第1の原画像要素(10−4(1)’’)は、第5の原画像(7−5’’)の第5−1の原画像要素(10−5(1)’’)と対応した関係で配置された構成を有する。そして、第5の原画像(7−5’’)の第1の原画像要素(10−5(1)’’)は、第1の原画像(7−1’’)の第1−2の原画像要素(10−1(2)’’)に対応した関係である。
それぞれの原画像(7’’)における原画像要素(10’’)の関係を閉じられた円環状の循環構成とするのではなく、変化し続ける螺旋状の循環構成を適用することによって、従来の循環型の動画効果のように対の動きを必要とせずに、全ての原画像要素(10’’)が印刷画像(3’’)中で留まることなく一定の方向に変化し続ける動画効果を得ることができる。
なお、集合潜像画線群(5’’)を作製するために原画像要素(10’’)を要することとなるが、実際に潜像印刷物(1’’)として形成された集合潜像画線群(5’’)において、潜像画像(15’’)として出現した際には、原画像要素(10’’)では無く、潜像要素(13’’)と定義する。したがって、第一の潜像画像(15−1’’)は、第1−1の潜像要素(13−1(1)’’)から第1−iの潜像要素(13−1(i)’’)によって構成されていることとなる。また、第二の潜像画像(15−2’’)は、第2−1の潜像要素(13−1(2)’’)から第2−iの潜像要素(13−2(i)’’)によって構成されていることとなる。同様に、第nの潜像画像(15−n’’)は、第n−1の潜像要素(13−n(1)’’)から第n−iの潜像要素(13−n(i)’’)によって構成されていることとなる。
続いて、本第3の実施の形態における集合潜像画線群(5’’)自体を意匠性に富んだユニークな模様とするための集合潜像画線群(5’’)の構成上の工夫について説明する。本第3の実施の形態においては、集合潜像画線群(5’’)を着色し、拡散反射光下では集合潜像画線群(5’’)自体を模様として認証する構成であることから、集合潜像画線群(5’’)自体を鑑賞に耐えうる意匠性を有する模様とする必要がある。集合潜像画線群(5’’)は、原画像群を構成した時点でその模様は自動的に決定されるため、実際には原画像(7’’)を構成する段階で一定の工夫を施しておく必要である。
本第3の実施の形態において、集合潜像画線群(5’’)自体が一定の意匠性を有する模様を構成する必要があるが、意匠性の高低については審美性が関わるため、「一定の意匠性を有する」ことの基準を定義することは困難である。そこで、本発明においては、集合潜像画線群(5’’)が彩紋に準じる「彩紋状模様(16)」を構成できた場合に、集合潜像画線群(5’’)が一定の意匠性を有する構成を成すと定義する。本発明における「彩紋状模様(16)」とは、実際には彩紋のような連続した線では構成されず、分断された不連続な画線(潜像画線(9’’))の集合で構成されている模様であるが、一見した印象として彩紋であると認識できる幾何学模様と定義する。
ここで本来の彩紋自体について具体的に説明する。彩紋とは、銀行券や証券類等のセキュリティ印刷物に付与されてきた直線、波状線、弧線又は円形等を組み合わせた精密な幾何学模様である。多くの場合、手書きでは再現不可能な滑らかな線の集合で構成されるため、かつては彩紋彫刻機と呼ばれる専用の機械を用い、経験を積んだ専門の職人が操作しなければ模様を再現できなかったことから、セキュリティ印刷物の偽造防止策の一つとして用いられた。
近年では、スキャナーやコピー機、デジタル描画ソフト等の普及によって既に偽造防止策としての機能は低下したが、緻密かつ重厚感のある意匠性の高い模様であるがゆえに、今なお、セキュリティ印刷物に不可欠なデザイン要素として付与され続けている。例として証券に付与される実用的な意匠を図28に示す。いずれも意匠登録された彩紋模様(意匠登録1097697号、1100077号)であり、精密かつ重厚感のある意匠性に優れた模様である。
彩紋彫刻機を用いた場合の、古典的な彩紋模様においては円図形の軌跡に別の円図形を描くことを基本とし、さらにその軌跡にそった別の円図形の軌跡を模様として描くことでより複雑な模様を構成するものであった。現在の彩紋においてもその基本的な構成は変わらず、デジタル描画ソフトを用いて、三角関数による周波数変調を繰り返すことで複雑な模様を描画する。これらの技法を用いて作製される彩紋は多種多様であるが、このような方法で描画されるいずれの彩紋も高い意匠性を備えている。
図28に示したような全ての彩紋が、本発明の集合潜像画線群(5’’)の彩紋状模様(16)として適用できるわけではない。本発明の集合潜像画線群(5’’)において彩紋状模様(16)として用い得る彩紋は、図28に示したほどの複雑さを有している必要はなく、より単純な模様であって、かつ以下に説明する規則性を有していることを特徴とする。図29を例として説明する。図29に示す4種類の彩紋は、いずれも多少の加工を施すことで、本発明の集合潜像画線群(5’’)の彩紋状模様(16)として用い得る構成を満たしている。その構成とは、いずれも彩紋が同じ模様か、あるいは略相似な模様の規則性のある繰り返しによって成るということである。
図29(a)の彩紋(意匠登録1097457号)は、楕円状の微小模様の繰り返し模様から成り、楕円状の模様を原画像要素(10’’)として同じ角度で回転させることによって構成できる。図29(b)の彩紋(意匠登録1097427号)は、波状線の微小模様が微妙に変化しながら繰り返された模様から成り、波状線を原画像要素(10’’)として形状をわずかに変化させながら三つの楕円の軌跡に沿って回転させることによって構成できる。図29(c)、図29(d)の彩紋(意匠登録1097685号及び意匠登録1097689号)は、バツ状、又は十字状の微小模様が微妙に形状を変化させながら大きさを変えた模様から成り、バツ状、又は十字状の模様を原画像要素(10’’)として形状を変化させながら大きさを変えることで構成できる。
以上のように、彩紋のうち、特定の同じ微小模様の繰り返し、または略相似形状の微小模様の繰り返しから成る彩紋については、同じ又は相似形の微小模様を原画像要素(10’’)とすることで、本発明の集合潜像要素群(5’’)の彩紋状模様(16)に適用することができる。なお、第1の実施の形態の潜像印刷物(1’’)の集合潜像要素群(5’’)については登録された意匠ではないが、微細模様の繰り返しから成る彩紋の特徴を有した幾何学模様であり、彩紋状模様(16)の要件を満たしていると言える。
彩紋における微小模様(原画像要素(10’’))の配置方向である第3の方向(S3)について説明する。彩紋の中には微小模様を直線的に配置する帯彩紋と呼ばれる形態の彩紋も存在するものの、彩紋としての美しさや潜像が出現した場合の動きの豊かさを重視すると、ゆるやかな波線や弧線、円や楕円等のように画線方向が変化する曲線として第3の方向(S3)を連続的に変化した模様であることが好ましい。
なお、本発明の集合潜像要素群(5’’)の構成方法としては、第3の実施の形態のように集合潜像要素群(5’’)が彩紋に準じる画像になることを見越して、あらかじめ原画像要素(10’’)の集合によって原画像(7’’)を構成しても良いし、集合潜像要素群(5’’)に適用する彩紋をあらかじめ選択して、選択した彩紋をもとにして原画像要素(10’’)の集合としての原画像(7’’)を構成しても良い。上段の方法については、第3の実施の形態のように原画像要素(10’’)を円や楕円に沿って回転させる形態や、後述する第5の実施の形態のように原画像要素(10’’)の中心位置を揃えた状態で原画像要素(10’’)の大きさを変えた拡大、縮小を伴った形態として集合潜像要素群(5’’)を構成すれば、多くの場合、集合潜像要素群(5’’)は、彩紋に準じる画像となる。下段のあらかじめ彩紋を選択した後に、その彩紋を基に各原画像(7’’)を構成する方法については、第4の実施の形態で説明する。
続いて、この第3の実施の形態における集合潜像要素群(5’’)の色彩について具体的に説明する。前述したとおり、本第3の実施の形態における集合潜像要素群(5’’)は、拡散反射光下で観察者に集合潜像要素群(5’’)自体を模様として認識させるために、透明や半透明ではなく、目視可能な色彩を有している。色彩は、蒲鉾状画線群(4’’)の拡散反射光下の色彩とその色差ΔEが大きいほど、拡散反射光下で視認できる模様の視認性が高まり、蒲鉾状画線群(4’’)の正反射光下の色彩とその色差ΔEが大きいほど、正反射光下で出現する潜像の視認性も高まる。
しかし、蒲鉾状画線群(4’’)の明暗フリップフロップ性やカラーフリップフロップ性が充分でない場合、すなわち、蒲鉾状画線群(4’’)の正反射時の色彩変化が小さく、反射光量も充分でない場合には、集合潜像要素群(5’’)と蒲鉾状画線群(4’’)との色差ΔEが大き過ぎてしまい、正反射光下で出現する潜像が一つ一つの原画像単独で出現せず、複数の原画像が同時に混ざり合った状態で出現する場合がある。このため、蒲鉾状画線群(4’’)の明暗フリップフロップ性やカラーフリップフロップ性の強弱に応じて、集合潜像要素群(5’’)と蒲鉾状画線群(4’’)との色差ΔEを調節する必要がある。すなわち、蒲鉾状画線群(4’’)の明暗フリップフロップ性やカラーフリップフロップ性に応じて、集合潜像要素群(5’’)の色彩を決定する必要がある。
また、集合潜像要素群(5’’)は、少なくとも目視可能な色彩を有している必要があるが、それに加えて集合潜像要素群(5’’)は、正反射光下において集合潜像要素群(5’’)の下に存在する蒲鉾状画線群(4’’)に光が入射するのを防ぎ、結果として印刷画像(3’’)内に反射光の強弱を作り出して原画像(7’’)を出現させる働きを成すために、低光沢(マット)であったり、光遮断性に優れる特性を有したりすることが好ましいことは第一の実施の形態や第二の実施の形態と同様である。なお、集合潜像要素群(5’’)には、蒲鉾状画線(6’’)のような明暗フリップフロップ性やカラーフリップフロップ性は必須ではないが、これらの性質を備えていても問題ない。
この集合潜像画線群(5’’)を蒲鉾状画線群(4’’)の上に重ね合わせて潜像印刷物(1’’)が完成する。設計上、最も適正な蒲鉾状画線群(4’’)と集合潜像画線群(5’’)の重ね合わせの位置関係とは、図30に示す関係であり、一つの蒲鉾状画線(6’’)の上に、A辺側から順に、第1の潜像画線(9−1’’)、第2の潜像画線(9−2’’)、第3の潜像画線(9−3’’)、第4の潜像画線(9−4’’)、第5の潜像画線(9−5’’)が、順に少なくとも一部重なった状態である。
図30に示す蒲鉾状画線群(4’’)と集合潜像画線群(5’’)の重ね合わせの位置関係で、本発明の潜像印刷物(1’’)を形成した場合の効果を図31に示す。潜像印刷物(1’’)に光源(11’’)から直接光が入射しない、いわゆる拡散反射光下で潜像印刷物(1’’)を観察した場合、図31(b)に示すように、一定の意匠性を有する集合潜像画線群(5’’)自体の彩紋状模様(16)が視認される。
一方、正反射光下において図31(c)のように、A辺側が光源(11’’)に向けて上がって傾いた状態で観察した場合、印刷画像(3’’)中から彩紋状模様(16)が消失し、代わりに集合潜像画線群(5’’)を構成する原画像(7’’)の一つである第1の原画像(7−1’’)のみが第一の潜像画像(15−1’’)として出現する。この角度において、第一の潜像画像(15−1’’)以外の集合潜像画線群(5’’)は不可視となる。この場合、第一の潜像画像(15−1’’)は、集合潜像画線(8’’)の正反射光下における色彩で、その他の印刷画像(3’’)は、蒲鉾状画線群(4’’)の正反射光下の色彩となる。
また、潜像印刷物(1)を図31(c)から図31(d)の角度へと徐々に変化させると、印刷画像(3’’)中から第一の潜像画像(15−1’’)が消失して第二の潜像画像(15−2’’)が出現する。そして、より角度を大きく変化させると第二の潜像画像(15−2’’)が消失して、第三の潜像画像(15−2’’)が出現する。
第一の潜像画像(15−1’’)と第二の潜像画像(15−2’’)とは、それぞれの潜像要素(13’’)の配置角度(α)が第3の方向(反時計回り(S3))に9度回転した関係にあることから、第一の潜像画像(15−1’’)から第二の潜像画像(15−2’’)へと画像がチェンジすることによって、出現した潜像要素(13’’)の集合である、雪の結晶模様が反時計回りに9度回転する。なお、回転方向については、時計回りも反時計回りも、いずれも第3の方向(S3)とする。併せて、中心から放射状に外側へ向かう方向も、外側から中心へ向かう方向も、いずれも第4の方向(S4)とする。
第二の潜像画像(15−2’’)と第三の潜像画像(15−2’’)の関係も同様であることから、第二の潜像画像(15−2’’)から第三の潜像画像(15−2’’)へと画像がチェンジすることによって、出現した潜像要素(13’’)の集合である、雪の結晶模様が反時計回り(S3)に更に9度回転する。本発明の潜像印刷物(1’’)において画像のチェンジ効果は、数度の角度の変化によって生じるから、潜像印刷物(1’’)を正反射光下でわずかに傾けるだけで、雪の結晶模様は、反時計回り(S3)に回転して見える。
続いて、潜像印刷物(1’’)を図31(d)から図31(e)の角度へ変化させると、印刷画像(3’’)中の第三の潜像画像(15−2’’)が消失して、第四の潜像画像(15−4’’)が出現する。そして、より角度を大きく変化させると、第四の潜像画像(15−4’’)が消失して、第五の潜像画像(15−5’’)が出現する。
第三の潜像画像(15−3’’)と第四の潜像画像(15−4’’)の関係及び第四の潜像画像(15−4’’)と第五の潜像画像(15−5’’)の関係も、第一の潜像画像(15−1’’)から第二の潜像画像(15−2’’)の関係と同じく、それぞれの潜像要素(13’’)の配置角度(α)が第3の方向(反時計回り)(S3)に9度回転した関係にあることから、雪の結晶模様が反時計回りに9度回転し、更に9度回転する。なお、理想的な光源の状態で観察した場合には、第五の潜像画像(15−5’’)が出現した後に、基材(2’’)の観察角度を同じ方向に傾けると再び第一の潜像画像(15−1’’)が出現し、二サイクル目の動画が再生される。
以上のように、拡散反射光下では印刷画像(3’’)の中に有色の彩紋状模様(16)が視認され、一方で正反射光下のある特定の観察角度において印刷画像(3’’)の中から彩紋状模様(16)が消失して潜像画像(15’’)が出現し、正反射光下で傾けて観察した場合には、潜像画像である雪の結晶模様が反時計回りにスムーズに回転するパラパラ漫画方式の動画効果が生じる。
以上の効果が生じる原理については、第一の実施の形態及び第二の実施の形態と同様である。ただし、第一の実施の形態及び第二の実施の形態と異なり、集合潜像要素群(5’’)が有色の色彩で形成されることから、拡散反射光下では集合潜像要素群(5’’)自体が視認される、すなわち、集合潜像要素群(5’’)が構成する彩紋状模様(16)が視認される点は、第一の実施の形態及び第二の実施の形態との違いである。その一方で、集合潜像要素群(5’’)は有色であっても、蒲鉾状画線群(4’’)が一定の強さで光を反射することで、透明である場合と同様なチェンジ効果を生じるのは第一の実施の形態及び第二の実施の形態と同様である。
続いて、蒲鉾状画線群(4’’)と集合潜像画線群(5’’)の刷り合わせの位置関係が図30に示した理想的な位置関係からズレた場合の効果について説明する。図32に示すのは、図30及び図31に示した蒲鉾状画線群(4’’)と集合潜像画線群(5’’)の刷り合わせの位置関係からズレが生じ、蒲鉾状画線(6’’)と蒲鉾状画線(6’’)の間にある非画線部に第3の潜像画線(9−3’’)が完全に嵌った例である。この例において、第3の潜像画線(9−3’’)は、いずれの蒲鉾状画線(6’’)の上にも重なっていない。
図32の蒲鉾状画線群(4’’)と集合潜像画線群(5’’)の刷り合わせの位置関係では、図32(c)のようにA辺側が光源(11’’)に向けて上がって傾いた状態で観察した場合、印刷画像(3’’)中に第四の潜像画像(15−4’’)が出現する。また、潜像印刷物(1’’)を図32(c)から図32(d)の角度へと徐々に変化させると、印刷画像(3’’)中から第四の潜像画像(15−4’’)が消失して、第五の潜像画像(15−5’’)にチェンジし、傾きを大きくすることによって第一の潜像画像(15−1’’)、第二の潜像画像(15−2’’)が次々とチェンジする。
その結果、観察者は、前述の図31に示した例と同じように、雪の結晶模様がスムーズに回転する動画効果を認識できる。この図32の形態においては、第三の潜像画像(15−3’’)は出現しないが、図31に示した潜像印刷物(1’’)との間に認識できる程度に明確な差異は生じないため、観察者は、図31に示した潜像印刷物(1’’)と、図32に示した潜像印刷物(1’’)との違いに気が付くことはない。
以上のように、本第3の実施の形態の潜像印刷物(1’’)においても、蒲鉾状画線群(4’’)と集合潜像画線群(5’’)の刷り合わせの位置関係に関係なく、出現した潜像要素(13’’)が略相似形状に変化する(第3の実施の形態においては、第3の方向(S3)に回転する)動画効果を認識できる。そして、仮に刷り合わせにズレが生じることによって、一部の潜像画像(15’’)が出現しなかったとしても、その動画効果の違いを認識することができない。よって、蒲鉾状画線群(4’’)と集合潜像画線群(5’’)の刷り合わせの位置関係に関係なく、目視上、同じ動画効果が認識される効果が生じる。これは、第一の実施の形態及び第二の実施の形態同様に、従来の循環型の動画効果には無かったモアレ拡大現象を利用した動画効果の利点である。
第3の実施の形態における動画効果は、潜像要素(13’’)が第3の方向(S3)に回転する効果であったが、本発明の潜像印刷物(1’’)における動画効果はこれに限定されるものではない。潜像要素(13’’)が彩紋状模様(16)を構成さえしていれば、回転したり、回転しながら移動したり、大きさが変化したり、形状が変化する等、対応した関係で配置される潜像要素(13’’)同士が略相似形状の関係を維持しながら変化できる範囲の変化であれば実現できる。これは、従来のモアレ拡大現象を利用した動画効果には無かったパラパラ漫画方式の動画効果の利点である。彩紋状模様(16)を構成した上で実現可能な動画表現のバリエーションの具体例は、第4の実施の形態及び第5の実施の形態の中で説明する。
(第4の実施の形態)
第4の実施の形態では、第3の実施の形態で説明した彩紋状模様(16)を形成することは同様ではあるが、はじめに集合潜像画線群(5’’’)の彩紋状模様(16’)を定めた上で原画像(7’’’)を構成するものである。
図33に第4の実施の形態における潜像印刷物(1’’’)を示す。図34には、潜像印刷物(1’’’)の印刷画像(3’’’)の構成の概要を示す。印刷画像(3’’’)は、蒲鉾状画線群(4’’’)の上に集合潜像画線群(5’’’)が重ねて形成されて成る。この第4の実施の形態では、あらかじめ集合潜像画線群(5’’’)の彩紋状模様(16’)に適用する彩紋を選択した上で、原画像(7’’’)を構成する作製方法を用いる。
なお、基材(2’’’)や印刷画像(3’’’)、蒲鉾状画線群(4’’’)の構成や材料構成、条件等については、前述の各実施の形態と同様であることから説明を省略する。また、集合潜像画線群(5’’’)の色彩や形成方法についても、第3の実施の形態と同様であることから説明を省略する。以下では、彩紋(14’)を基にして集合潜像画線群(5’’’)を作製する方法について具体的に説明する。
第4の実施の形態の彩紋状模様(16’)に適用する彩紋とは、図35に示す彩紋(14’)である。この彩紋(14’)は、小さな彩紋(14A’)と大きな彩紋(14B’)の組合せから成り、それぞれの模様が原画像要素(10’’’)の角度を変えながら回転した繰り返しによって構成されて成ることから、本発明の集合潜像画線群(5’’’)に用いる彩紋状模様(16’)に適用可能な彩紋である。
まず、基になる彩紋(14’)が決まったら、小さな彩紋(14A’)と大きな彩紋(14B’)のように彩紋を構成する要素に分解し、それぞれの彩紋を構成する特定の模様を原画像要素(10A’’’、10B’’’)とする。そして、それぞれの彩紋(14’)を構成している原画像要素(10A’’’、10B’’’)の数、及びどのような配置でそれぞれの彩紋(14B’)を構成しているのかを把握する。図35の小さな彩紋(14A’)と大きな彩紋(14B’)は、それぞれ原画像要素(10A’’’、10B’’’)が30個集合することで構成されて成り、それぞれ同じ中心を有して角度差12度の違いで回転した構成となっている。以上の情報を把握したのち、それぞれの彩紋(14A’、14B’)を原画像(7’’’)へと分解する作業を行う。
なお、ここでは説明を明瞭とするために大きな彩紋(14B’)のみについて説明する。まず、用いる原画像(7’’’)の数を決める。一つの潜像印刷物(1’’’)において用いる原画像(7’’’)の数は、潜像印刷物(1’’’)の画像をチェンジさせる性能自体に依存するため、その性能の範囲内の数とする必要がある。第4の実施の形態においては5枚の原画像(7’’’)によって構成している。本発明の潜像印刷物(1’’’)を印刷によって証券に付与できるサイズで付与する場合には8枚以下の原画像(7’’’)とすることが好ましく、更には、6枚以下で構成することがより好ましい。
以上のように、原画像(7’’’)の数が決まったら、先ほどの彩紋(14B’)を構成している30個の原画像要素(10B’’’)を各原画像(7’’’)に振り分ける。通常、それぞれの原画像(7’’’)に含まれる原画像要素(10B’’’)の数は同じであるほうが、作製は容易であるため、原画像要素(10B’’’)の数を原画像(7’’’)の数で割って、原画像(7’’’)一枚あたりの原画像要素(10B’’’)の数を決めれば良い。第4の実施の形態においては、30を6で除した値となり、五枚の原画像(7’’’)には、それぞれ6個の原画像要素(10B’’’)が含まれる構成とした。
図36(a)に、第1の原画像(7−1’’’)を示す。第1の原画像(7−1’’’)は、図35に示す彩紋(14B’)を構成する任意の原画像要素(10B’’’)の一つを、第1の原画像(7−1’’’)における第1−1の原画像要素(10−1(1)’’’)とし、第1−1の原画像要素(10−1(1)’’’)から数えて第3の方向(S3)に六番目にある彩紋(14B’)を構成する原画像要素(10B’’’)を、第1−2の原画像要素(10−1(2)’’’)とし、第1−2の原画像要素(10−1(2)’’’)から数えて第3の方向(S3)に六番目にあたる彩紋(14B’)を構成する原画像要素(10B’’’)を、第1−3の原画像要素(10−1(3)’’’)とし、第1−3の原画像要素(10−1(3)’’’)から数えて第3の方向(S3)に六番目にある彩紋(14B’)を構成する原画像要素(10B’’’)を、第1−4の原画像要素(10−1(4)’’’)とし、第1−4の原画像要素(10−1(4)’’’)から数えて第3の方向(S3)に六番目にある彩紋(14B’)を構成する原画像要素(10B’’’)を、第1−5の原画像要素(10−1(5)’’’)とし、第1−5の原画像要素(10−1(5)’’’)から数えて第3の方向(S3)に六番目にある彩紋(14B’)を構成する原画像要素(10B’’’)を、第1−6の原画像要素(10−1(6)’’’)とした構成を有する。以上のように、6個の原画像要素(10B’’’)が均等な60度の角度差で回転して配置された画像が第1の原画像(7−1’’’)となる。
第1の原画像(7−1’’’)と隣り合う第2の原画像(7−2’’’)は、第1の原画像(7−1’’’)における原画像要素(10B’’’)に対して第3の方向(S3)に12度回転した原画像要素(10B’’’)を彩紋(14B’)から取り出して構成する。第2の原画像(7−2’’’)と隣り合う第3の原画像(7−3’’’)は、第2の原画像(7−2’’’)における原画像要素(10B’’’)に対して第3の方向(S3)に12度回転した原画像要素(10B’’’)を彩紋(14B’)から取り出して構成する。第3の原画像(7−3’’’)と隣り合う第4の原画像(7−4’’’)は、第3の原画像(7−3’’’)における原画像要素(10B’’’)に対して第3の方向(S3)に12度回転した原画像要素(10B’’’)を彩紋(14B’’’)から取り出して構成する。第4の原画像(7−4’’’)と隣り合う第5の原画像(7−5’’’)は、第4の原画像(7−4’’’)における原画像要素(10B’’’)に対して第3の方向(S3)に12度回転した原画像要素(10B’’’)を彩紋(14B’)から取り出して構成する。
以上のような作製方法を用いることで、特定の彩紋(14’)をあらかじめ選択して集合潜像要素群(5’’’)を構成する方法においても、集合潜像要素群(5’’’)を構成する全ての原画像(7’’’)が循環する構成を有し、かつ、全ての原画像要素(10’’’)が第1の原画像(7−1’’’)から第5の原画像(7−5’’’)の中で対応した関係で配置された原画像要素(10’’’)を有し、対応した関係で配置される原画像要素(10’’’)同士は、最も近似した略相似の関係を満たすことができる。以上のような方法を用いることで、あらかじめ集合潜像画線群(5’’’)に用いる彩紋(14’)を決めた上で、本発明の構成の要件を満たす各原画像(7’’’)を設計することができる。
なお、当然のことながら彩紋(14’)の構成によっては、原画像要素(10’’’)の数が原画像(7’’’)の数で割り切れなかったり、彩紋(14’)中の原画像要素(10’’’)同士の距離が離れ過ぎていたりして、原画像(7’’’)が容易に設計できない場面が存在する。このような場合は、彩紋(14’)中の原画像要素(10’’’)の数を変えたり、距離や角度等を調整したりする等、彩紋(14’)自体をアレンジすることが好ましい。
図37に、小さな彩紋(14A’)を含んで構成した全ての原画像(7’’’)を示す。小さな彩紋(14A’)内部の原画像要素(10A’’’)の動きの方向は、大きな彩紋(14B’)内部の原画像要素(10B’’’)の動きの方向である第3の方向(S3)とは正反対の向きに回転する方向に角度変化する構成とし、それぞれの原画像(7’’’)に割り当てた。この例のように、彩紋(14’)の一部が正反対の向きに動く効果を付与することは、それぞれの動きをより強調できるため好ましい構成である。
それぞれの原画像(7’’’)の構成が決まったら、それぞれの原画像(7’’’)を特定のピッチ(P1)で任意の画線幅(W)で分断し、それぞれの原画像(7’’’)を基にして潜像画線群(5’’’)を作製し、それぞれの潜像画線群(5’’’)を第1の方向(S1)に位相をずらして互いの画線が重なり合わないように配置することで、集合潜像画線群(5’’’)が完成するのは、第3の実施の形態と同様である。
図38に、集合潜像画線群(5’’’)を構成する5種類の潜像画線群(5−1’’’、5−2’’’、5−3’’’、5−4’’’、5−5’’’)を示す。図38に示す全ての潜像画線群(5−1’’’、5−2’’’、5−3’’’、5−4’’’、5−5’’’)は、小さな彩紋(14A’)の中の複数の原画像要素(10A’’’)から成る幾何学模様と、大きな彩紋(14B’)の中の複数の原画像要素(10B’’’)から成る幾何学模様を組合せた何学模様を表した画像を分断した分断画線から成る。
図38に5種類の潜像画線群(5−1’’’、5−2’’’、5−3’’’、5−4’’’、5−5’’’)の表す画像の基になる5種類の原画像(7−1’’’、7−2’’’、7−3’’’、7−4’’’、7−5’’’)を示す。全ての原画像(7−1’’’、7−2’’’、7−3’’’、7−4’’’、7−5’’’)において、角度の異なる幾何学模様を表した構成を有する。
図39(a)に示す蒲鉾状画線群(4’’’)と集合潜像画線群(5’’’)の重ね合わせの位置関係で本発明の潜像印刷物(1’’’)を形成した場合の効果を示す。潜像印刷物(1’’’)に光源(11’’’)から直接光が入射しない、いわゆる拡散反射光下で潜像印刷物(1’’’)を観察した場合、図39(b)に示すように、一定の意匠性を有する集合潜像画線群(5’’’)自体の彩紋状模様(16’)が視認される。
一方、正反射光下において図39(c)のようにA辺側が光源(11’’’)に向かって上がって傾いた状態で潜像印刷物(1’’’)を観察した場合、印刷画像(3’’’)中から彩紋状模様(16’)が消失し、代わりに第一の潜像画像(15−1’’’)が出現する。この場合、第一の潜像画像(15−1’’’)は、集合潜像画線(5’’’)の正反射光下における色彩で、その他の印刷画像(3’’’)は蒲鉾状画線群(4’’’)の正反射光下の色彩となる。
また、潜像印刷物(1’’’)を図39(c)から図39(d)を経て図39(e)の角度へと徐々に変化させると、印刷画像(3’’’)中で第一の潜像画像(15−1’’’)、第二の潜像画像(15−2’’’)、第三の潜像画像(15−3’’’)、第四の潜像画像(15−4’’’)、第五の潜像画像(15−5’’’)が順次単独で出現する。これによって、大きな彩紋(14B’)内部の幾何学模様は、第3の方向(時計回り)(S3)に、小さな彩紋(14A’)内部の幾何学模様は、第3の方向(反時計回り)(S3)に回転する効果が発現する。
また、第3の実施の形態同様に、それぞれの原画像(7’’’)は極めて似た構成であることから、いずれかの潜像画像(15’’’)が出現しなかった場合でも、観察者がその変化を認識できない。
(第5の実施の形態)
次に、第5の実施の形態として、原画像要素(10’’’’)の大きさが変化する動画効果を構成した例について説明する。また、この例においても、集合潜像画線群(4’’’’)に適用する彩紋(14’’)を設定した上で、各原画像(7’’’’)を構成する方法で作製する例で説明する。
図40に第5の実施の形態における潜像印刷物(1’’’’)を示す。図41には、潜像印刷物(1’’’’)の印刷画像(3’’’’)の構成の概要を示す。印刷画像(3’’’’)は、蒲鉾状画線群(4’’’’)の上に集合潜像画線群(5’’’’)が重ねて形成されて成る。この第5の実施の形態でも、第4の実施の形態同様、あらかじめ集合潜像画線群(5’’’’)の彩紋状模様(16’’)に適用する彩紋(14’’)を選択した上で、原画像(7’’’’)を構成する作製方法を用いる。
なお、基材(2’’’’)や印刷画像(3’’’’)、蒲鉾状画線群(4’’’’)の構成や材料構成、条件等については、前述の実施の形態と同様であることから説明を省略する。また、集合潜像画線群(5’’’’)の色彩や形成方法についても第3の実施の形態と同様であることから説明を省略する。以下では、彩紋(14’’)を基にした集合潜像画線群(5’’’’)の構成について具体的に説明する。
第5の実施の形態の彩紋状模様(16’’)に適用する彩紋(14’’)とは、図42に示す彩紋(14’’)である。この彩紋(14’’)は、バツ状の彩紋(14A’’)と十字状の彩紋(14B’’)の組合せから成り、それぞれの模様が大きさを変えながら繰り返された構成によって成ることから、本発明の集合潜像画線群(5’’’’)に用いる彩紋状模様(16’’)に適用可能な彩紋(14’’)である。
基になる彩紋(14’’)は、バツ状の彩紋(14A’’)と十字状の彩紋(14B’’)はいずれも30個の原画像要素(10A’’’’、10B’’’’)から成る。第5の実施の形態においては5枚の原画像(7’’’’)によって構成することから、それぞれ五枚の原画像(7’’’’)には、第4の実施の形態と同様に各6個の原画像要素(10B’’’’)が含まれる構成とした。
図43にそれぞれの原画像(7’’’’)を示す。本第5の実施の形態においては、中心点(O’)から放射状に拡大・縮小する方向を第四の方向とした。バツ状の彩紋(14A’’)は、中心点(O’)に向かって縮小する方向を第4の方向(S4)として、それぞれの原画像要素(10A’’’’)は、第1の原画像(7−1’’’’)において最も大きく、第2の原画像(7−2’’’’)においてやや小さく、第3の原画像(7−3’’’’)において更に小さくなり、最終的に、第5の原画像(7−5’’’’)において最も小さくなる構成とした。
逆に、十字状の彩紋(14B’’)は、中心点(O’)から拡大する方向を第4の方向(S4)として、それぞれの原画像要素(10B’’’’)は、第1の原画像(7−1’’’’)において最も小さく、第2の原画像(7−2’’’’)においてやや大きくなり、第3の原画像(7−3’’’’)において更に大きくなり、最終的に、第5の原画像(7−5’’’’)において最も大きくなる構成とした。以上のように、それぞれの原画像(7’’’’)は、循環する構成を有し、かつ、それぞれの原画像要素(10’’’’)が第1の原画像(7−1’’’’)から第5の原画像(7−5’’’’)の中で対応した関係で配置された原画像要素(10’’’’)を有し、対応した関係で配置された原画像要素(10’’’’)は、最も近似した略相似の関係を満たす構成となった。
以上のような構成としたそれぞれの原画像(7’’’’)を特定のピッチ(P1)で任意の画線幅(W)で分断し、それぞれの原画像(7’’’’)を基にして潜像画線群(5’’’’)を作製し、それぞれの潜像画線群(5’’’’)を第1の方向(S1)に位相をずらして互いの画線が重なり合わないように配置することで、集合潜像画線群(5’’’’)が完成するのは、第3の実施の形態及び第4の実施の形態と同様である。
図44に、集合潜像画線群(5’’’’)を構成する5種類の潜像画線群(5−1’’’’、5−2’’’’、5−3’’’’、5−4’’’’、5−5’’’’)を示す。図44に示す全ての潜像画線群(5−1’’、5−2’’、5−3’’、5−4’’、5−5’’)は、バツ状の彩紋(14A’’)の中の複数の原画像要素(10A’’’’)から成る幾何学模様と十字状の彩紋(14B’’)の中の複数の原画像要素(10A’’’’)から成る幾何学模様とを組合せた幾何学模様を分断した分断画線から成る。
図44に5種類の潜像画線群(5−1’’’’、5−2’’’’、5−3’’’’、5−4’’’’、5−5’’’’)の表す画像の基になる5種類の原画像(7−1’’’’、7−2’’’’、7−3’’’’、7−4’’’’、7−5’’’’)を示す。全ての原画像(7−1’’’’、7−2’’’’、7−3’’’’、7−4’’’’、7−5’’’’)において、角度の異なる幾何学模様を表した構成を有する。
図45(a)に示す蒲鉾状画線群(4’’’’)と集合潜像画線群(5’’’’)の重ね合わせの位置関係で本発明の潜像印刷物(1’’’’)を形成した場合の効果を示す。潜像印刷物(1’’’’)に光源(11’’’’)から直接光が入射しない、いわゆる拡散反射光下で潜像印刷物(1’’’’)を観察した場合、図45(b)に示すように、一定の意匠性を有する集合潜像画線群(5’’’’)自体の彩紋状模様(16’’)が視認される。
一方、正反射光下において図45(c)のように、A辺側が光源(11’’’’)に向かって上がって傾いた状態で潜像印刷物(1’’’’)を観察した場合、印刷画像(3’’’’)中から彩紋状模様(16’’)が消失し、代わりに第一の潜像画像(15−1’’’’)が出現する。この場合、第一の潜像画像(15−1’’’’)は、集合潜像画線(5’’’’)の正反射光下における色彩で、その他の印刷画像(3’’’’)は、蒲鉾状画線群(4’’’’)の正反射光下の色彩となる。
また、潜像印刷物(1’’’’)を図45(c)から図45(d)を経て図45(e)の角度へと徐々に変化させると、印刷画像(3’’’’)中で第一の潜像画像(15−1’’’’)、第二の潜像画像(15−2’’’’)、第三の潜像画像(15−3’’’’)、第四の潜像画像(15−4’’’’)、第五の潜像画像(15−5’’’’)が順次単独で出現する。これによって、バツ状の彩紋(14A’’)は縮小し、十字状の彩紋(14B’’)は、拡大する効果が発現する。
また、第3の実施の形態同様に、それぞれの原画像(7’’’’)は、極めて似た構成であることから、いずれかの潜像画像(15’’’’)が出現しなかった場合でも、観察者がその変化を認識できない。以上が、潜像画像が拡大又は縮小する効果を有する第5の実施の形態の説明である。
(第6の実施の形態)
第6の実施の形態として、第5の実施の形態と同様に潜像が拡大・縮小する効果が生じる形態であるが、彩紋状模様(16)を構成しない例について説明する。
図46に第6の実施の形態における潜像印刷物(1’’’’’)を示す。図47には潜像印刷物(1’’’’’)の印刷画像(3’’’’’)の構成の概要を示す。印刷画像(3’’’’’)は、蒲鉾状画線群(4’’’’’)の上に集合潜像画線群(5’’’’’)が重ねて形成されて成る。基材(2’’’’’)、印刷画像(3’’’’’)、蒲鉾状画線群(4’’’’’)及び集合潜像画線群(5’’’’’)の構成や材料構成、条件等については、前述までの実施の形態と同様であることから説明を省略する。以下では、集合潜像画線群(5’’’’’)の基と成る原画像(7’’’’’)の構成について説明する。
図48に、集合潜像画線群(5’’’’’)を構成する5種類の潜像画線群(5−1’’’’’、5−2’’’’’、5−3’’’’’、5−4’’’’’、5−5’’’’’)及び、それぞれの基になる5種類の原画像(7−1’’’’’、7−2’’’’’、7−3’’’’’、5−4’’’’’、7−5’’’’’)を示す。
第6の実施の形態においても図49に示すように原画像(7’’’’’)全体が画像の繋がりを有してループする循環構成を有する。すなわち、第1の原画像(7−1’’’’’)→第2の原画像(7−2’’’’’)→第3の原画像(7−3’’’’’)→第4の原画像(7−4’’’’’)→第5の原画像(7−5’’’’’)を一サイクルとし、第5の原画像(7−5’’’’’)から再び第1の原画像(7−1’’’’’)へと繋がる循環構成を有する。
第6の実施の形態では、原画像(7’’’’’)はすべて円の集合によって波紋を表し、それぞれの原画像(7’’’’’)の中の波紋が中心から外側へ向かって拡大し、最後に徐々に薄くなって消失する様子を表わしている。原画像(7’’’’’)を構成する原画像要素(10’’’’’)はすべて円であり、対応した関係で配置された原画像要素(10’’’’’)は大きさが異なる形態の略相似形状である。
図50に示すのは、第1の原画像(7−1’’’’’)から第5の原画像(7−5’’’’’)における原画像要素(10’’’’’)をすべて重ね合わせた概要図である。第1−1の原画像要素(10−1(1)’’’’’)と隣接した第1−2の原画像要素(10−1(2)’’’’’)は大きさが異なる略相似形状である。
また、第1の原画像(7−1’’’’’)における第1−1の原画像要素(10−1(1)’’’’’)と、第2の原画像(7−2’’’’’)において約5%大きな略相似形状である第2−1の原画像要素(10−2(1)’’’’’)が対応した関係で配置され、この2−1の原画像要素(10−2(1)’’’’’)と、第3の原画像(7−3’’’)において約20%大きな略相似形状である第3−1の原画像要素(10−3(1)’’’’’)が対応した関係で配置され、この第3−1の原画像要素(10−3(1)’’’’’)と、第4の原画像(7−4’’’’’)において約10%大きな略相似形状である第4−1の原画像要素(10−4(1)’’’’’)が対応した関係で配置され、この第4−1の原画像要素(10−4(1)’’’’’)と第5の原画像(7−5’’’’’)において約7.5%大きな略相似形状である第5−1の原画像要素(10−5(1)’’’’’)が対応した関係で配置される。
そして、第5の原画像(7−5’’’’’)の第5−1の原画像要素(10−5(1)’’’’’)と、第1の原画像(7−1’’’’’)において約5%大きな略相似形状である第1−2の原画像要素(10−1(2)’’’’’)が対応する関係にある。これ以後、隣り合う原画像(7’’’’’)において対応した関係で配置された原画像要素(10’’’’’)同士は、約5%大きな略相似形状である最も近似した略相似形状の関係にある。
なお、本実施の形態において、第1の原画像(7−1’’’’’)の第1−1の原画像要素(10−1(1)’’’’’)は円が出現する起点となる画像であるため、隣接する第2の原画像(7−2’’’’’)の第2−1の原画像要素(10−2(1)’’’’’)の画像もほぼ同じ大きさの画像とし、第1の原画像(7−1’’’’’)が出現しなかった場合でも、隣接する第2の原画像(7−2’’’’’)においてほぼ同じ起点の位置に第2−1の原画像要素(10−2(1)’’’’’)が出現し、起点が変わらないように見える構成とした。
また、終点と成る第5−iの原画像要素(10−5(i)’’’’’)は、第1の原画像(7−1’’’’’)における第1−iの原画像要素(10−1(i)’’’’’)から第5の原画像(7−5’’’’’)における第5−iの原画像要素(10−5(i)’’’’’)にかけて徐々に濃度を低くして徐々に消失する構成とした。このような構成を用いることで、水の波紋が徐々に弱まりながら消失するような効果を表現することができる。なお、本実施の形態においては、水の波紋の消失を、原画像要素(10’’’’’)の濃度を徐々に低くして成る構成としたが、原画像要素(10’’’’’)の画線幅を徐々に狭くして成る構成としても同様の効果を奏することが、可能である。
以上のような構成の原画像(7’’’’’)を、所定の画線幅で分断し、潜像画線(9’’’’’)から成る潜像画線群(5−1’’’’’、5−2’’’’’、5−3’’’’’、5−4’’’’’、5−5’’’’’)とすることで、集合潜像画線群(5’’’’’)を構成する。
また、原画像(7’’’’’)は、複数の原画像要素(10’’’’’)から構成されていることから、原画像(7’’’’’)を分断して成る潜像画線群(5−1’’’’’、5−2’’’’’、5−3’’’’’、5−4’’’’’、5−5’’’’’)においては、図48(b)に示すように、複数の原画像要素(10’’’’’)を分断して成る複数の潜像要素(13’’’’’)を有する。また、原画像(7’’’’’)において、隣り合う原画像要素(10’’’’’)同士が互いに略相似形状であることから、分断することで構成される潜像要素(13’’’’’)においても、隣り合う潜像要素(13’’’’’)同士が互いに略相似形状となる。この集合潜像画線群(5’’’’’)の構成や、材料構成、形成方法等は、前述の実施の形態と同様であることから省略する。
図51(a)に示す、蒲鉾状画線群(4’’’’’)と集合潜像画線群(5’’’’’)の重ね合わせの位置関係で本発明の潜像印刷物(1’’’’’)を形成した場合の効果を、図51(e)に示す。潜像印刷物(1’’’’’)に光源(11’’’’’)から直接光が入射しない、いわゆる拡散反射光下で潜像印刷物(1’’’’’)を観察した場合、いずれの原画像(7’’’’’)も出現せず、単に印刷画像(3’’’’’)が蒲鉾状画線群(4’’’’’)の物体色で視認される(図示せず)。
一方、正反射光下において図51(b)のようにA辺側が光源(11’’’’’)に向かって上がって傾いた状態で潜像印刷物(1’’’’’)を観察した場合、印刷画像(3’’’’’)中に第1の原画像(7−1’’’’’)が出現する。この場合、第1の原画像(7−1’’’’’)は集合潜像画線群(5’’’’’)の正反射光下における色彩で、その他の原画像(7−2’’’’’、7−3’’’’’、7−4’’’’’、7−5’’’’’)は蒲鉾状画線群(4’’’’’)の正反射光下の色彩となる。
また、潜像印刷物(1’’’’’)を図51(b)から図51(c)を経て図51(d)の角度へと徐々に変化させると、印刷画像(3’’’’’)中で第一の潜像画像(15−1’’’’’)、第二の潜像画像(15−2’’’’’)、第三の潜像画像(15−3’’’’’)、第四の潜像画像(15−4’’’’’)、第五の潜像画像(15−5’’’’’)が順次単独で出現する。これによって、それぞれの潜像画像(15’’’’’)の中の潜像要素(13’’’’’)の円が徐々に印刷画像(3’’’’’)中央を中心に第4の方向へと拡大する効果が発現する。結果として画像全体としては印刷画像(3’’’’’)の中心から生じた波紋が拡がりながら消えていく動画効果が生じる。
また、前述の実施の形態と同様に、それぞれの原画像(7’’’’’)は、略相似形状であることから、いずれかの原画像(7’’’’’)が出現されなかった場合でも、観察者がその変化を認識できることはない。以上のように、本発明の構成を用いることで画像が拡大する動画効果を実現することができる。以上が、第6の実施の形態の説明である。
以上、第1の実施の形態から第6の実施の形態で説明したように、本発明の原画像(7)の構成における技術的の特徴は、循環型の動画形態であっても、モアレ拡大現象を用いて出現する画像に近い構成を原画像の構成に適用することで、デザイン上の制約の多いモアレ拡大現象を用いることなく、刷り合わせに依存しない動画効果を実現できることを見出したことにある。
このため、本発明における原画像(7)の構成とは、モアレ拡大現象によって再現できる画像と一部の特徴が一致し、かつ、その効果も一部が一致する。例えば、原画像(7)において略同一の原画像要素(10)が複数配置される必要があることは、モアレ拡大現象を利用した画像において拡大モアレが周期性を有して複数出現する構成と一致し、また、同じ動画効果が繰り返し出現するにも関わらず、対の動きを必要としないことも一致する。
また、モアレ拡大現象と異なっている点としては、印刷によって引用文献3に記載の技術を形成した場合、本発明の原画像要素(10)にあたる拡大モアレは、極めて単純な画像、例えばアルファベットの1、2文字程度以下の低解像度の図柄しか表現できなかったが、本発明では、それらの制約はなく、自由に原画像要素(10)をデザインでき、また、動きの方向に関する制約もない。
以上のように、本発明は、パラパラ漫画方式の動画効果とモアレ拡大現象を利用した動画効果を融合させることで生まれた技術であって、モアレ拡大現象の刷り合わせに依存しない製造容易性と、パラパラ漫画方式の動画効果におけるデザインの自由度の高さを両立させた技術であると言える。また、集合潜像画線群(5)自体を一定の意匠性を有した彩紋状模様化して着色することで、拡散反射光下でもユニークな彩紋状模様(16)を視認させることを可能とし、同時に正反射光下での潜像画像の視認性を高めることも可能とした。
本発明が意図するスムーズな動画効果を得るためには、まず出現する潜像画像(15)の数が一定の数以上に達している必要がある。本発明の構成において、二画像以下の潜像画像(15)の数では、スムーズな動画効果を得ることは極めて困難であり、少なくとも三画像以上の潜像画像(15)の数が必要である。潜像画像(15)の数が多ければ多いほど、その効果は高まる。逆に言えば、本発明における潜像画像(15)の構成と、それによる効果は、少なくとも三画像以上の潜像画像(15)をチェンジさせる性能を有した技術、例えばパララックスバリアやレンチキュラーを用いた画像遷移技術やホログラム等に応用することができる。
本発明の潜像印刷物は、いずれの潜像画像(15)が出現しなくとも動画において判別できない程度の差異しか生じない効果を担保できる技術であるが、当然のことながら、いくつかの潜像画像(15)は出現しなければその効果は生じない。少なくとも潜像画像(15)の全数の半分以上の数は出現する効果がある場合にのみ、本発明の効果を得ることができる。仮に、五つの原画像(7)を用いる場合では、そのうち少なくとも三つの潜像画像(15)が出現する必要がある。
前述の理由から、本発明の効果を担保するためには、全原画像(7)のうち、可能な限り多くの原画像(7)が再生される工夫を施すことが好ましい。本来、それぞれの潜像画線(9)の画線幅(W)を非画線の幅を越える設計とした場合、必ず全ての原画像(7)が再生される効果が生じるが、印刷画像(3)が小さな面積の場合、この条件を満たす構成では、潜像画像(15)の数が制限される結果となることから、スムーズな動画効果を生じさせること自体が困難となる。そこで一つの工夫として、本発明の原画像(7)の構成を満たした上で、それぞれの潜像画線(9)の画線幅を非画線の幅の2分の1を越える設計とすることが現実的に好ましい構成となる。この構成においては、二つ以上の原画像(7)が非画線に完全に重なってしまうことがなくなり、原画像(7)の数の制約も小さくなるため、好ましい。
本発明の潜像印刷物の動画効果は、単体で用いる方法に限定されるものではなく、例えば特許第4682283号公報や特許第4660775号公報等の基本的な画像のチェンジ効果と組み合わせて用いてもよい。また、同じように動画効果を発現可能な技術、例えばモアレ拡大現象を利用して動画効果を発現する特許第5131789号公報に記載の技術や、インテグラルフォトグラフィ方式の動画効果を発現する特許5200284号公報に記載の技術と共に一つの印刷画像(3)中に配置して、視覚効果のバリエーションに富んだ構成としても良い。
以下、前述の発明を実施するための形態にしたがって、具体的に作製した潜像印刷物(1)の実施例について詳細に説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。実施例の説明においては、第1の実施の形態と同様に図1から図12を用いて説明する。
図1に潜像印刷物(1)を示す。図1(a)に示すのは、潜像印刷物(1)の正面図であり、図1(b)に示すのは、潜像印刷物(1)のA−A’ラインにおける断面図である。潜像印刷物(1)は、基材(2)の上に、透明な印刷画像(3)が形成されて成る。基材(2)は、一般的な白色コート紙(エスプリコートFM 日本製紙製)を用いた。
本発明の印刷画像(3)の構成の概要を図2に示す。印刷画像(3)は、蒲鉾状画線群(4)と集合潜像画線群(5)を有する。図3に示すのは蒲鉾状画線群(4)であり、画線幅(W1)0.32mmの蒲鉾状画線(6)を第1の方向(S1方向)へ第1のピッチ(P1)0.4mmで万線状に配置した。また、図4に示すのは集合潜像画線群(5)であり、画線幅(W2)0.39mmの集合潜像画線(8)を第1の方向(S1の方向)に第1のピッチ(P1)0.4mmで交互に連続して配置した。
図5に示すのは、集合潜像画線群(5)であり、5種類の潜像画線群(5−1、5−2、5−3、5−4、5−5)から成る。5種類の潜像画線群(5−1、5−2、5−3、5−4、5−5)は、それぞれ画線幅(W3、W4、W5、W6、W7)0.07mmの第1の潜像画線、第2の潜像画線、第3の潜像画線、第4の潜像画線、第5の潜像画線(9−1、9−2、9−3、9−4、9−5)をそれぞれ0.01mmずつの間隔に挟んで第1の方向(S1方向)に重ならないように第1のピッチ(P1)0.4mmで万線状に配置した。それぞれの原画像(7)の構成は、第1の実施の形態と同様であるから説明を省略する。
以上の構成の二つの画像を、まず基材(2)上に蒲鉾状画線群(4)をUV乾燥方式のスクリーン印刷方式で印刷した。インキは、表1に示すUVスクリーンインキを用いた。本インキは、拡散反射光下では半透明であり、正反射光下では緑色の干渉色を発する。続いて、蒲鉾状画線群(4)の上に集合潜像画線群(5)をUV乾燥方式のオフセット印刷方式で印刷した。インキは、透明なマットニス(マットメジュウム T&K TOKA製)を使用した。また、蒲鉾状画線(6)の盛り上がり高さは約12μmであった。二つの要素群の重なり合いの位置関係については、図9及び図10(a)に示すような位置関係で重ね合わせた。
以上の手順で作製した本発明の潜像印刷物(1)の効果を確認した。拡散反射光下において、印刷画像(3)中にはいずれの潜像画像(15)も出現せず、完全に不可視であった(図示せず)。一方、正反射光下において図10(b)のようにA辺側が光源(11)に向けて上がって傾いた状態の潜像印刷物(1)を観察した場合、パール顔料の干渉色である緑色を呈する背景の中に第1の潜像画像(15−1)が印刷画像(3)中に出現した。
次に、正反射光下において図10(b)の状態から図10(c)の状態を経て、図10(d)の状態まで潜像印刷物(1)を徐々に傾けた場合、図10(e)に示すように第一の潜像画像(15−1)から、第二の潜像画像(15−2)、第三の潜像画像(15−3)、第四の潜像画像(15−4)を経て、第五の潜像画像(15−5)へと画像が変化した。結果として、A辺側に現れた「JAPAN」は、第2の方向に、A’辺側に現れた「JAPAN」は、第2の方向と略180度異なる方向にスムーズに移動する動画効果が生じた。
また、図11(a)や図12(a)に示すような、最も好ましい刷り合わせの関係からズレた位置関係で潜像印刷物(1)を構成した場合でも、図11(e)や図12(e)に示すように図10(e)と目視上同一の動画効果が生じた。以上のように、本発明の潜像印刷物(1)において、刷り合わせの位置関係によらず、同じ動画効果が生じることが確認できた。
図21に潜像印刷物(1’’)を示す。図21(a)に示すのは、潜像印刷物(1’’)の正面図であり、図21(b)に示すのは、潜像印刷物(1’’)のA−A’ラインにおける断面図である。潜像印刷物(1’’)は、基材(2’’)の上に、灰色の印刷画像(3’’)の中に淡い青色の彩紋状模様(16)が形成されて成る。基材(2’’)は、一般的な白色コート紙(エスプリコートFM 日本製紙製)を用いた。
本発明の印刷画像(3’’)の構成の概要を図22に示す。印刷画像(3’’)は、蒲鉾状画線群(4’’)と集合潜像画線群(5’’)を有する。蒲鉾状画線群(4’’)は、画線幅(W1)が0.32mmの蒲鉾状画線(6−1’’)を第1の方向(S1方向)へピッチ(P1)0.4mmで万線状に配置した。また、図23に示すのは、集合潜像画線群(5’’)であり、画線幅(W2)が0.39mmの集合潜像画線(8’’)を第1の方向(S1の方向)にピッチ(P1)0.4mmで交互に連続して配した。
集合潜像画線(8’’)は、それぞれ画線幅(W3〜W7)0.07mmの第1の潜像画線、第2の潜像画線、第3の潜像画線、第4の潜像画線、第5の潜像画線(9−1’’、9−2’’、9−3’’、9−4’’、9−5’’)を、それぞれ0.01mmずつの間隔に挟んで第1の方向(S1方向)に重ならないようにピッチ(P1)0.4mmで万線状に配置した。それぞれの原画像(7’’)の構成は、第3の実施の形態と同様であるから説明を省略する。
以上の構成の二つの画像を、まず基材(2’’)上に蒲鉾状画線群(4’’)をUV乾燥方式のスクリーン印刷方式で印刷した。インキは、表1に示すUVスクリーンインキを用いた。本インキは、拡散反射光下では灰色であり、正反射光下では明度が上昇して白色となる。
続いて、蒲鉾状画線群(4’’)の上に集合潜像要素群(5’’)をUV乾燥方式のオフセット印刷方式で印刷した。インキは、透明なマットニス(マットメジュウム T&K TOKA製)に微量の青色顔料を配合した。また、蒲鉾状画線(6’’)の盛り上がり高さは約12μmであった。二つの要素群の重なり合いの位置関係については、図30に示すような位置関係で重ね合わせた。
以上の手順で作製した本発明の潜像印刷物(1’’)の効果を確認した。拡散反射光下において、印刷画像(3)中には図31(b)のように青色の彩紋状模様(16)が視認された。一方、正反射光下において図31(c)のようにA辺側が光源(11’’)に向けて上がって傾いた状態の潜像印刷物(1’’)を観察した場合、白色を呈する印刷画像(3’’)中に青色の第一の潜像画像(15−1’’)の画像が出現した。
次に、正反射光下において図31(c)の状態から図31(d)の状態を経て、図31(e)の状態まで潜像印刷物(1’’)を徐々に傾けた場合、図31(f)に示すように、第一の潜像画像(15−1’’)から、第二の潜像画像(15−2’’)、第三の潜像画像(15−3’’)、第四の潜像画像(15−4’’)を経て、第五の潜像画像(15−5’’)へと画像が変化した。結果として、雪の結晶模様が反時計回りにスムーズに移動する動画効果が生じた。
また、図32に示すような、最も好ましい刷り合わせの関係からズレた位置関係で潜像印刷物(1’’)を構成した場合でも、図31(f)と目視上同一の動画効果が生じた。以上のように、本発明の潜像印刷物(1’’)において、刷り合わせの位置関係によらず、同じ動画効果が生じることが確認できた。