JP6366430B2 - テラヘルツ帯域電磁波発振素子およびテラヘルツ帯域電磁波発振装置 - Google Patents
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Description
一般に、超伝導体の単結晶は、テラヘルツ波を発振する際に、印加される直流電流によって発熱する。後述するが、超伝導体の単結晶は超伝導層と絶縁層の積層構造を有する。発熱による温度上昇は、超伝導体の絶縁層の絶縁性を低下させる。また、この発熱は、条件によっては超伝導体に部分的なホットスポットと呼ばれる高温部を形成し、当該部分は短絡抵抗として振る舞う。これらの事象により、超伝導体の単結晶に印加できる電圧がテラヘルツ波を発振するのに必要な電圧を下回り、テラヘルツ波の発振を阻害するという問題があった。
そのため、排熱性能が十分とは言えなかった従来のテラヘルツ帯域電磁波発振素子では、その超伝導体の転移温度が窒素の沸点以上の温度でも、その素子の駆動には液体ヘリウムを使用する必要があり、完全に液体ヘリウムを用いずに液体窒素のみでの動作を実現することができなかった。液体ヘリウムは高価であり、その扱いも液体窒素と比較すると格段に難しい。そのため、安価で簡便なテラヘルツ帯域電磁波発振素子を実現することができなかった。
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、発生する熱を効率的に排熱することができるテラヘルツ帯域電磁波発振素子およびテラヘルツ帯域電磁波発振装置を提供することを目的とする。
本発明者らは、鋭意検討の結果、従来の排熱方向である基板側以外の面に排熱手段を設けても、テラヘルツ波の出力がほとんど阻害されないことを見出した。さらに、この排熱手段を設けることで、完全に液体ヘリウムを用いずに駆動することができると共に、広い周波数域のテラヘルツ波を発振することができるという非常に優れた効果を見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を提供する。
なお、以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などは実際とは異なっていることがある。また、以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
図1は、本発明のテラヘルツ帯域電磁波発振素子の斜視模式図である。図1に示すように、本発明のテラヘルツ帯域電磁波発振装置10は、基板1上に形成され、交流ジョセフソン効果を利用して複数のジョセフソン接合が協調して振動することによりテラヘルツ帯域電磁波を発振できる多重積層型ジョセフソン接合を有し、その形状が基板に対してメサ構造を有する超伝導体の単結晶2と、単結晶2を少なくとも基板1と反対側の面から排熱する排熱手段3とを有する。
図1では、発明の構成を理解しやすくするために、排熱手段を離して図示しているが、実際には単結晶2の基板と反対側の面に排熱手段3が接合されている。
図2では、単結晶2の一例としてBi2212を提示したが、単結晶2は交流ジョセフソン効果を生じることができれば、当該結晶構造に限られない。例えば、結晶構造の異なるBi2Sr2Ca2Cu3O10+δ(Bi2223)等を用いることもできる。
単結晶2は、基板側の面と、基板と反対側の面に電圧を印加すると、交流ジョセフソン効果が生じる。交流ジョセフソン効果は、極めて薄い絶縁層を介した二つの超伝導体の間に一定の電圧VJを印加すると、交流電流が流れる現象のことを言う。このときの交流電流の振動数fJは以下の式(1)で表示することができる。eは電気素量、hはプランク定数である。
fJ=(2e/h)VJ ・・・(1)
電気素量およびプランク定数は一定であるため、式(1)で示すように、交流電流の振動数fJは、ジョセフソン接合一層当りに印加した電圧VJに比例する。
単結晶2がメサ構造を有すると、その単結晶の端面で波は反射する。すなわち、メサ構造内部には定在波が形成される。この定在波の振動数は、メサ構造の形状・サイズにより影響をうける。すなわち、単結晶2のメサ構造は、幾何学的共振周波数fcを有する。
この幾何学的共振周波数fcと交流ジョセフソン効果に伴う振動電流の周波数fJが一致すると積層するジョセフソン接合間で共振が生じ、振動電流が位相を揃えて(コヒーレントに)流れることでテラヘルツ波が発生する。
これに対し、広い周波数域でテラヘルツ波を発振ためには、単結晶2の断面が台形形状となっていることが好ましい。断面が台形形状となると、その上底部から下底部にかけて幅が徐々に変化するため、形成されるメサ構造に伴う幾何学的共振周波数fcも範囲を有する。そのため、幾何学的共振周波数fcと、交流ジョセフソン効果に伴う振動電流の周波数fJが一致する周波数にも範囲が生じ、広い周波数域でテラヘルツ波を発振することができる。すなわち、メサ構造の形状は、その目的に合わせて変更することができる。
また排熱手段3は、上述のような板に限られず、例えば図3に示すように、単結晶2の周囲をサーマルグリース等の熱伝導性の高い物質で覆ってもよい。
さらに、排熱手段3は、例えば図5のように、それらを組み合わせて用いてもよい。
図1や図3で示すように、熱伝導性の高い物質を用いる場合は、発生した熱を逃がすことで、単結晶2の温度が上昇するのを抑制することができるため、素子を冷却する装置をより小型化することが可能となり、持ち運び等も容易となる。
しかしながら、本発明のテラヘルツ帯域電磁波発振素子は、そのテラヘルツ波の出力方向の一部である単結晶の上面に少なくとも排熱手段を有する。この排熱手段を設けることで、従来実現できなかった効率的な排熱を行うことが可能となった。出力されるテラヘルツ波の阻害に係る影響に関しても、排熱手段によっては軽微な影響であった。また、この出力されるテラヘルツ波の阻害等の軽微な影響よりも、効率的な排熱に伴い得られる有利な効果による利点の方がはるかに大きいものであった。
排熱手段としてサファイア基板やサーマルグリースを用いた際は、これらの物質はテラヘルツ波の波長領域帯において透明な物質である。しかし、現実には、物質を介するため、完全に透明ということはない。そのため、排熱手段としてサファイア基板やサーマルグリースを用いた場合の軽微な影響とは、サファイア基板やサーマルグリースによるわずかなテラヘルツ波の吸収及び反射に過ぎない。
また、冷却温度を上げることで、ホットスポット形成によって超伝導転移温度以上の温度となる局所領域が発生することを避けることができる。ホットスポットは、テラヘルツ波の発振にとっては障害となっていると考えられている。そのため、効率的に排熱することで、ホットスポットの発生に伴うテラヘルツ波の発生が阻害されることを避け、高い発振強度を実現することができる。
さらに、効率的に排熱することで単結晶2の温度上昇を抑えることができるため、単結晶2に印加する電圧を高めることができる。前述のように、交流ジョセフソン効果に伴う振動電流の周波数fJは印加する電圧に比例する。そのため、印加する電圧を高めることができれば、発振できるテラヘルツ波の周波数域を拡げることができる。
また基板1上に複数配置された単結晶2が、一次元または二次元に配列したストリップライン構造であることがより好ましい。ストリップライン構造とは、図5に示すように、メサ構造を備える単結晶(導体)2が薄い誘電体(絶縁体)3aを介して広い金属(導体)面3bに接合された構造を意味する。このような構造とすることで、複数の単結晶2が協調して動作することができ、テラヘルツ波の発振強度を飛躍的に高めることができる。
このとき得られる発振強度は、複数の単結晶2の協調動作に影響を受けるため、単結晶の個数の2乗に比例する。また一つの単結晶に積層されたジョセフソン接合同士も同様に協調動作するため、発振強度は積層数の2乗にも比例する。すなわち、M層積層されて形成された単結晶が、N個並列に配列されていると、M2×N2の発振強度を実現することができ、極めて強いテラヘルツ波の発振を実現することができる。
図6は、本発明の一態様にかかるテラヘルツ帯域電磁波発振装置を模式的に示した斜視模式図である。本発明のテラヘルツ帯域電磁波発振装置100は、上記のテラヘルツ帯域電磁波発振素子10と、多重積層型ジョセフソン接合を有する超伝導体の単結晶2における積層面と垂直な方向に電圧を印加する電圧印加手段20とを備える。単結晶2は基板1上に形成され、その基板1と反対側の面には排熱手段3が形成されている。テラヘルツ帯域電磁波発振装置100は、図視略する冷却装置をさらに備える。冷却装置は、テラヘルツ帯域電磁波発振素子10を冷却できるものであれば、特に限定されない。本発明では、液体ヘリウムを用いる必要が無いため、冷却装置として安価で小型のものを用いることができる。
電圧印加手段20は特に限定されるものでなく、超伝導体の単結晶に直流を流すことができるものであればよい。
このテラヘルツ帯域電磁波発振素子を液体窒素に浸し、外部から電圧を印加した。その時、発生したテラヘルツ波は、パイプ5を通って室温へと導かれ、ショットキーバリアダイオード(SBD)検出器を用いて計測した。
図8に示すように、電流電圧特性はジョセフソン効果に伴うヒステリシスループを描いている。すなわち、ジョセフソン接合として機能していることがわかる。また特定のバイアス点(1V付近)で、ショットキーバリアダイオードに急峻な電圧変化が生じており、テラヘルツ波が検出されていることがわかる。
実線は、電圧0.868V、電流46.73mAをテラヘルツ帯域電磁波発振素子に印加した際のテラヘルツ波の発振スペクトルを示し、点線は、電圧0.814V、電流44.24mAをテラヘルツ帯域電磁波発振素子に印加した際のテラヘルツ波の発振スペクトルを示す。
図9で示すように、特定の電圧、電流を印加した際に得られる発振スペクトルは、極めてシャープであり、単色のテラヘルツ波が得られていることがわかる。ただし、図9に示した発振スペクトルの線幅は分光装置の分解能により制限された幅を有しており、真の線幅は2〜3桁程度狭い。また電圧、電流値を変化させると、発振する周波数を変化させることができる。これは、電圧を変化させることで、交流ジョセフソン効果に伴う交流電流の振動数fJが変化するためであり、積層するジョセフソン接合の共振により得られるテラヘルツ波の発振周波数も交流電流の振動数fJに合せて変化している。すなわち、本発明のテラヘルツ帯域電磁波発振素子は、印加する電圧を変化させるだけで発振するテラヘルツ波の周波数を変化させることができる。
Claims (6)
- 基板上に形成され、交流ジョセフソン効果を利用して複数のジョセフソン接合が協調して振動することによりテラヘルツ帯域電磁波を発振できる多重積層型ジョセフソン接合を有し、その形状が基板に対してメサ形状を有する超伝導体の単結晶と、
前記単結晶を少なくとも前記基板と反対側の面から排熱する排熱手段とを有し、
前記単結晶の積層方向からの平面視において、前記排熱手段は前記単結晶より面積が大きい、テラヘルツ帯域電磁波発振素子。 - 前記基板がサファイア、ダイヤモンドまたは銅のいずれかである請求項1に記載のテラヘルツ帯域電磁波発振素子。
- 前記単結晶が、基板上に複数配置されている請求項1または2のいずれかに記載のテラヘルツ帯域電磁波発振素子。
- 前記排熱手段が少なくとも前記単結晶の前記基板と反対側の面に接合された誘電体と金属体であり、
基板上に複数配置された前記単結晶が、一次元または二次元に配列したストリップライン構造を有する請求項3に記載のテラヘルツ帯域電磁波発振素子。 - 前記排熱手段が少なくとも前記単結晶の前記基板と反対側の面に接合された誘電体と金属体であり、
前記金属体の非接合部の基板側の面が、前記基板から離れるように傾斜している請求項1〜4のいずれか一項に記載のテラヘルツ帯域電磁波発振素子。 - 請求項1〜5のいずれか一項に記載のテラヘルツ帯域電磁波発振素子と、
前記多重積層型ジョセフソン接合を有する超伝導体の単結晶における積層面と垂直な方向に電圧を印加する電圧印加手段とを備えるテラヘルツ帯域電磁波発振装置。
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