本発明者らは上記の要請に鑑み、サイアロンとcBNを含有する焼結体の組織、特に前記焼結体中のサイアロン粒子の形態に着目して、耐欠損性を向上させる方法について鋭意検討を重ねた。その結果、サイアロン粒子の表面に特定の窒化物や炭窒化物の被覆層を存在させることにより、耐摩耗性に優れるという前記焼結体の特長を生かしつつ、前記焼結体を用いた切削工具の刃先の耐欠損性を向上させ得ることを見出し、本発明を完成させたものである。
以下、本発明の第1の態様である焼結体の実施形態について説明する。
本発明の焼結体は、第1硬質相粒子、第2硬質相粒子および結合材を有する焼結体であって、前記第1硬質相粒子は被覆層を備えるサイアロン粒子であり、前記第2硬質相粒子はcBN粒子である焼結体である。
サイアロンとcBNを含有する焼結体を用いた切削工具は、インコネルなどの難削材の加工において優れた耐摩耗性を発揮する。しかしながら、結合材としてAlやTiの金属あるいは金属間化合物を用いると、焼結過程でサイアロンが結合材と反応して分解し、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、金属窒化物、金属ケイ化物等の反応生成物が生じることがある。これは結合材の金属が高温で溶融して液相となり、サイアロンの分解を促進するとともに、分解によって生じたSi、Al、O、Nの元素が前記液相を介して再結合して、前記反応生成物が晶出するためと考えられる。結合材にCoを用いた場合には、焼結過程で金属窒化物や金属ケイ化物が生成することはないが、サイアロンの分解が著しく、焼結体中に酸化ケイ素や酸化アルミニウムが多量に生成する。前記反応生成物は硬度が低いものや脆性であるものが多いため、焼結体の機械的特性を低下させる。
本発明者らは、サイアロンとcBNを含有する焼結体工具を用いてインコネルを高速切削加工した際の刃先の損傷形態を調べた結果、工具の境界部分においてV字形状の損傷が生じていることを見出した。インコネルを加工する際にこのような工具損傷が発生するメカニズムを解明するために、切削時に発生する切屑と工具の刃先の損傷の関係を調べた結果、インコネルを切削すると被削材よりも硬度の高い切屑が発生し、前記切屑が工具のすくい面を連続的に擦りながら通過することによって、工具の逃げ面側から観察するとV字形状を呈する深い境界損傷が生じることが判明した。前記損傷が工具内部まで進展するに伴い、刃先強度が低下する。加えて、本発明者らは、前記焼結体の破壊靭性と工具損傷の関係を調べた結果、焼結体の破壊靭性が小さくなるにつれて前記損傷が大きくなることが分かった。
上記の知見を踏まえてサイアロン粒子とcBN粒子を含む焼結体の切削性能の向上策を検討した結果、焼結過程でサイアロンを分解しない物質をサイアロン粒子の表面に被覆することにより、焼結過程において結合材と反応してサイアロンが分解することを抑制できるようになった。これに伴い脆い反応生成物の生成が抑制でき、前記焼結体の破壊靭性を増大させることが可能になった。その結果、インコネルを高速切削加工した際に工具の刃先の境界部分に発生するV字形状の損傷を顕著に抑制することができるようになった。また、焼結過程において結合材との反応によるサイアロンの分解を抑制できたことにより、硬度の低い反応生成物の発生が減少し前記焼結体の硬度が増大したことも相まって、インコネルの高速切削加工における工具寿命を顕著に向上させることが可能になった。
前記焼結体において、前記サイアロン粒子は少なくとも立方晶型サイアロンを含むことが好ましい。立方晶型サイアロンは金属との反応性が低いというサイアロン特有の性質を備えていることに加え、α型サイアロンやβ型サイアロンに比べて硬度が高いため、立方晶型サイアロンを含む焼結体は切削工具として用いた際に耐摩耗性が向上するからである。
また、焼結の前後におけるサイアロンの相変態の挙動を調べたところ、サイアロンの分解を促進する結合材を添加して焼結すると、焼結過程で立方晶型サイアロンがβ型サイアロンに相変態することを促進する傾向があることが判明した。これに対して、焼結過程でサイアロンを分解しない物質をサイアロン粒子の表面に被覆すると、焼結の際に立方晶型サイアロンがβ型サイアロンに相変態することを抑制できることも分かった。立方晶型サイアロン粒子の表面に存在する被覆層は、焼結過程で結合材と反応して立方晶型サイアロンが分解することを抑制する働きに加え、立方晶型サイアロンがβ型サイアロンに相変態することを抑制する働きも有していることが考えられる。
前記焼結体において、前記被覆層は、Ti、Zr、CrおよびAlからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素の、窒化物、炭窒化物のいずれか少なくとも1種の化合物を含むことが好ましい。前記化合物としては、例えばTiN、AlN、TiAlN、TiZrN、AlCrN、TiCNなどが好適に用いられる。前記化合物は焼結過程において結合材とサイアロンが接触することを防ぎ、結合材との反応によってサイアロンが分解することを抑制する。加えて、前記化合物は結合材およびcBN粒子との結合力にも優れるため、前記化合物を被覆したサイアロン粒子と、結合材およびcBN粒子との結合が強固になる。その結果、前記焼結体の破壊靭性が増大し、前記焼結体を用いた切削工具の耐欠損性が向上するという副次的な効果も奏する。
前記焼結体において、前記被覆層の厚みは0.01μm以上かつ2μm以下であることが好ましい。前記被覆層の厚みが0.01μm未満の場合サイアロン粒子と結合材が近接するため、被覆層がサイアロン粒子と結合材の接触を防止する効果が減少し、焼結過程におけるサイアロン粒子の分解抑制が不十分となることがある。一方、前記被覆層の厚みが2μmを超えると、第1硬質相に占める被覆層の割合が大きくなるため、前記焼結体の硬度が低下し、高速切削用の工具として用いた場合に耐摩耗性が不足することがある。
前記被覆層の厚みは以下のようにして測定する。前記焼結体の断面をCP(日本電子(株)製、クロスセクションポリッシャ)またはFIB(Field Ion Beam)を用いてビーム加工し、加工後の断面をTEM(Transmission Electron Microscope、透過型電子顕微鏡)、またはFE−SEM(Field Emission Scanning Electron Microscope、電界放射型走査型電子顕微鏡)を用いて50,000倍を超える程度の倍率で観察することにより、前記被覆層の厚みが測定できる。被覆層と結合材の組成が類似している場合は、第1硬質相粒子のみを樹脂に埋め込み、ビーム加工して得られた断面をTEM観察することによって、前記被覆層の厚みを測定する。焼結の前後で被覆層の厚みはほとんど変化せず、前記焼結体の被覆層の厚みは第1硬質相粒子のみを樹脂に埋め込んで測定した被覆層の厚みにほぼ一致していた。
前記焼結体において、前記第1硬質相粒子の体積に対する前記第2硬質相粒子の体積の割合は、0.5以上かつ7以下であることが好ましい。前記割合が0.5未満であると、靱性および強度の高いcBN粒子が少ないために前記焼結体の破壊靭性が低下し、前記焼結体を用いた切削工具の耐欠損性が不足することがある。一方、前記割合が7を超えると、前記焼結体中にcBN粒子が過剰に存在するため、金属との反応性が低いサイアロンを添加しても耐摩耗性の向上が不十分となることがある。このとき、特に切削工具の耐摩耗性が要求されるような用途に対しては、前記割合が0.5以上かつ2以下となるようにサイアロンを比較的多く含む組成とすることがより好ましい。一方、切削工具の欠損が許されないような耐欠損性を重視する用途に対しては、前記割合が2を超えかつ7以下となるようにcBNを比較的多く含む組成とすることがより好ましい。
前記第1硬質相粒子と前記第2硬質相粒子は、焼結する前にそれぞれ粉末の状態で所定量を添加し、混合する。前記焼結体における前記第1硬質相粒子の体積に対する前記第2硬質相粒子の体積の割合は、CP装置等を用いて鏡面研磨した焼結体断面をSEM(Scanning Electron Microscope、走査型電子顕微鏡)観察し、EDX(Energy Dispersive X−ray spectrometry、エネルギー分散型X線分析)を用いて結晶粒子を構成する元素を調べ、第1硬質相と第2硬質相の粒子を特定することによってその面積比率を求め、体積比率とみなすというやり方によって特定することができる。
前記焼結体において、前記焼結体に含まれるα型サイアロン、β型サイアロン、立方晶型サイアロンおよびSiO2の、それぞれのX線回折のメインピークの強度の合計に対する、SiO2のX線回折のメインピークの強度の比率RSは0.3以下であることが好ましい。SiO2は主に焼結過程でサイアロンが分解することによって生成する。このときSiO2は脆性材料であるため、RSが0.3を超えると焼結体の破壊靱性が減少し、前記焼結体を切削工具に用いた場合に耐欠損性が不足することがある。
RSは第1硬質相に対するSiO2の割合に相当する指標である。前記焼結体を400番のダイヤ砥石を用いて平面研削し、Cu−Kαの特性X線を用いて前記平面研削面を測定したX線回折パターンから、立方晶型サイアロンのメインピークである(311)面のピーク強度Ic(311)と、α型サイアロンのメインピークである(201)面のピーク強度Iα(201)と、β型サイアロンのメインピークである(200)面のピーク強度Iβ(200)と、SiO2のメインピークである(300)面のピーク強度IS(300)を求めることができる。これらのピーク強度の値を用いて、RSは下記の(I)式から算出することができる。
RS=IS(300)/(Ic(311)+Iα(201)+Iβ(200)+IS(300)) ・・・(I)
前記焼結体において、前記焼結体に含まれるα型サイアロン、β型サイアロン、立方晶型サイアロンおよびTiSi2の、それぞれのX線回折のメインピークの強度の合計に対する、TiSi2のX線回折のメインピークの強度の比率RTは0.3以下であることが好ましい。TiSi2は焼結過程でサイアロンが分解することによって生じたSi元素と、結合材の金属Tiが結合することによって生成する。このときTiSi2は脆性材料であるため、RTが0.3を超えると焼結体の破壊靱性が減少し、前記焼結体を切削工具に用いた場合に耐欠損性が不足することがある。
RTは第1硬質相に対するTiSi2の割合に相当する指標である。前記焼結体を400番のダイヤ砥石を用いて平面研削し、Cu−Kαの特性X線を用いて前記平面研削面を測定したX線回折パターンから、立方晶型サイアロンのメインピークである(311)面のピーク強度Ic(311)と、α型サイアロンのメインピークである(201)面のピーク強度Iα(201)と、β型サイアロンのメインピークである(200)面のピーク強度Iβ(200)と、TiSi2のメインピークである(311)面のピーク強度IT(311)を求めることができる。これらのピーク強度の値を用いて、RTは下記の(II)式から算出することができる。
RT=IT(311)/(Ic(311)+Iα(201)+Iβ(200)+IT(311)) ・・・(II)
前記焼結体において、前記サイアロン粒子に含まれるα型サイアロン、β型サイアロンおよび立方晶型サイアロンの、それぞれのX線回折のメインピークの強度の合計に対する、立方晶型サイアロンのX線回折のメインピークの強度の比率Rcは0.2以上であることが好ましい。Rcは第1硬質相に占める立方晶型サイアロンの割合に相当する指標である。前記焼結体を400番のダイヤ砥石を用いて平面研削し、Cu−Kαの特性X線を用いて前記平面研削面を測定したX線回折パターンから、立方晶型サイアロンのメインピークである(311)面のピーク強度Ic(311)と、α型サイアロンのメインピークである(201)面のピーク強度Iα(201)と、β型サイアロンのメインピークである(200)面のピーク強度Iβ(200)を求めることができる。これらのピーク強度の値を用いて、Rcは下記の(III)式から算出することができる。Rcが0.2未満では、前記焼結体の硬度が低下し、切削工具として用いた場合に耐摩耗性が不足することがある。
Rc=Ic(311)/(Ic(311)+Iα(201)+Iβ(200)) ・・・(III)
前記焼結体において、前記結合材はTi、Zr、Al、NiおよびCoからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素、もしくは前記元素の窒化物、炭化物、酸化物、炭窒化物およびそれらの固溶体のいずれか少なくとも1種、またはその両方を含むことが好ましい。例えば、Al、Ni、Coなどの金属元素、TiAlなどの金属間化合物、TiN、ZrN、TiCN、TiAlN、Ti2AlN、Al2O3などの化合物が、前記結合材として好適に用いられる。前記結合材を含有することにより、前記焼結体中の前記第1硬質相粒子と前記第2硬質相粒子の結合が強固になる。加えて、前記結合材自体の破壊靭性が大きい場合には前記焼結体の破壊靭性も増大するため、切削工具として用いた場合の耐欠損性が増大する。
前記焼結体において、前記焼結体中の前記第1硬質相粒子と前記第2硬質相粒子の合計含有率は、60体積%以上かつ90体積%以下であることが好ましい。前記合計含有率が60体積%未満であると、焼結体の硬度が低下し、切削工具として用いた場合に耐摩耗性が不足することがある。一方、前記合計含有率が90体積%を超えると、焼結体の破壊靭性が低下し、切削工具として用いた場合に工具の刃先が欠損し易くなることがある。
前記第1硬質相粒子、前記第2硬質相粒子および前記結合材は、焼結する前にそれぞれ粉末の状態で所定量を添加し、混合する。前記焼結体をX線回折することによって得られた回折強度データを、リートベルト法を用いて解析することにより、前記焼結体に含まれる第1硬質相粒子、第2硬質相粒子および結合材の体積比率を特定することができる。上記のX線回折以外にも、CP装置等を用いて鏡面研磨した焼結体断面をSEM観察し、EDXを用いて結晶粒子を構成する元素を調べ、第1硬質相、第2硬質相および結合材の粒子を特定することによってその面積比率を求め、体積比率とみなすというやり方によっても、前記焼結体に含まれる第1硬質相粒子、第2硬質相粒子および結合材の体積比率を特定することができる。
前記焼結体において、そのビッカース硬度は22GPa以上であることが好ましい。ビッカース硬度が22GPa未満になると、切削工具として用いた場合に耐摩耗性が不足し、摩耗によって工具寿命が短くなることがある。さらに、工具材料としての焼結体のより好ましいビッカース硬度は、25GPa以上である。
焼結体のビッカース硬度は、ベークライト樹脂に埋め込んだ焼結体を9μmと3μmのダイヤモンド砥粒を用いてそれぞれ30分間研磨した後、焼結体の研磨面にビッカース硬度計を用いて、10kgfの荷重でダイヤモンド圧子を押し込むことにより測定した。ダイヤモンド圧子を押し込むことによって生じた圧痕からビッカース硬度Hv10を求めた。さらに、圧痕から伝播している亀裂長さを測定し、JIS R 1607(ファインセラミックスの室温破壊じん(靱)性試験方法)に準拠したIF法により破壊靭性値を求めた。
本発明の第2の態様は、上記の焼結体を用いた切削工具である。前記切削工具は耐熱合金やチタン合金などの難加工性材料を、高速度で切削加工するのに好適に用いることができる。航空機や自動車のエンジン部品に使用されるNi基耐熱合金は、高い高温強度を有しているために切削抵抗が高く、切削工具が摩耗、欠損しやすい難加工性材料であるが、本発明の焼結体を用いた切削工具は、Ni基耐熱合金の切削加工においても、優れた耐摩耗性、耐欠損性を発揮する。とりわけ、100m/分以上の高速度の切削加工において優れた工具寿命を有している。
本発明の焼結体の製造方法の実施形態について、以下、工程順に説明する。
(第1硬質相粉末を作製する工程)
Si6−ZAlZOZN8−Z(Zは0を超え、4.2以下の数値)の化学式で示されるβ型サイアロンは、SiO2、Al2O3と炭素を出発原料として、一般的な大気圧の窒素雰囲気下での炭素還元窒化法を用いて合成することができる。また、下記の(IV)式で示される、大気圧以上の窒素雰囲気下での金属シリコンの窒化反応を応用した高温窒化合成法を用いることによっても、β型サイアロンの粉末を得ることができる。
3(2−0.5Z)Si+ZAl+0.5ZSiO2+(4−0.5Z)N2
→Si6−ZAlZOZN8−Z ・・・(IV)
Si粉末(平均粒径0.5〜45μm、純度96%以上、より好ましくは純度99%以上)、SiO2粉末(平均粒径0.1〜20μm)およびAl粉末(平均粒径1〜75μm)を所望のZ値に応じて秤量した後、ボールミルやシェイカーミキサー等で混合し、β型サイアロン合成用の原料粉末を準備する。このとき上記の(IV)式以外にも、Al成分としてAlNやAl2O3を適宜組み合わせて用いることも可能である。β型サイアロン粉末を合成する温度としては、2300〜2700℃が好ましい。また、β型サイアロンを合成する容器に充填する窒素ガスの圧力は1.5MPa以上であることが好ましい。このようなガス圧に耐え得る合成装置としては、燃焼合成装置、あるいはHIP(Hot Isostatic Pressing、熱間静水圧プレス)装置が適している。
また、市販のα型サイアロン粉末やβ型サイアロン粉末を用いてもよい。
次に、前記α型サイアロン粉末や前記β型サイアロン粉末を1800〜2000℃の温度、かつ40〜60GPaの圧力で処理することにより、その一部を立方晶型サイアロンに相変態させることができる。例えば、前記の処理に衝撃圧縮プロセスを用いる場合には、衝撃圧力を40GPa程度とし、温度を1800〜2000℃とすることによって、立方晶型サイアロンと、α型サイアロンもしくはβ型サイアロンまたはその両方が混在したサイアロン粉末を得ることができる。このとき、衝撃圧力と温度を変化させることにより、第1硬質相に占める立方晶型サイアロンの割合を制御することができる
立方晶型サイアロンと、α型サイアロンもしくはβ型サイアロンまたはその両方が混在した前記サイアロン粉末の表面に、Ti、Zr、CrおよびAlからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素の、窒化物、炭窒化物のいずれか少なくとも1種の化合物を被覆することにより、第1硬質相粉末を得ることができる。前記サイアロン粉末の表面に前記化合物を被覆するにあたっては、PVD(Physical Vapor Deposition、物理気相成長)法やボールミル法、ゾル−ゲル法などの手法を用いることができる。
PVD法を用いて前記化合物を被覆する場合、蒸着、イオンプレーティング、スパッタリングなどの装置を用いて、前記サイアロン粉末を揺動させながら、その表面に前記化合物を被覆する。例えば、TiやTiAlなどを金属源に用いて、窒素雰囲気中で前記金属のイオンと窒素ガスを反応させながらサイアロン粉末の表面に付着させることにより、TiNやTiAlNなどの窒化物を被覆することができる。このとき、処理時間を調節することによって、被覆層の厚みを制御することができる。
ボールミル法を用いて前記化合物を被覆する場合、前記サイアロン粉末と前記化合物の粉末を準備し、遊星型ボールミル等の高加速度ボールミルを用いて10〜150G程度の加速度で前記粉末を混合することによって、前記サイアロン粉末の表面に前記化合物を被覆する。このとき、最初に前記化合物粉末と粉砕ボールだけをポットに投入し、ボールミルを行って前記化合物粉末を予備粉砕した後、サイアロン粉末をポットに追加投入してさらにボールミルを行うと、サイアロン粉末の表面に前記化合物を均一に被覆することが容易になる。10Gよりも小さな加速度では前記化合物が粉末のままの状態で存在することがあるため、サイアロン粉末の表面に前記化合物を均一に被覆することが難しくなる。一方、150Gよりも大きな加速度ではサイアロン粉末自体が過度に粉砕されることがあり、好ましくない。また、前記化合物粉末の投入量を調節することによって、被覆層の厚みを制御することができる。
ゾル−ゲル法を用いて前記化合物を被覆する場合、前記サイアロン粉末の表面に、アルコキシドなどを用いた溶液プロセスにより、金属成分もしくは金属成分と炭素成分をゾル状態で析出させる。その後加熱によって前記析出物をゲル化し、前記ゲルをさらに1000℃程度の窒素雰囲気中で熱処理することにより、サイアロン粉末の表面に前記化合物を均一に被覆することができる。アルコキシド溶液の濃度、前記溶液へのサイアロン粉末の浸漬時間等を調節することによって、被覆層の厚みを制御することができる。
(第1硬質相粉末、第2硬質相粉末と結合材粉末を混合する工程)
上記のようにして作製した第1硬質相粉末と、第2硬質相粉末である平均粒径0.1〜3μmのcBN粉末に、Ti、Zr、Al、NiおよびCoからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素、もしくは前記元素の窒化物、炭化物、酸化物、炭窒化物およびそれらの固溶体のいずれか少なくとも1種、またはその両方の結合材粉末を添加して混合する。前記結合材粉末としては、例えば平均粒径0.01〜1μmのAl、Ni、Coなどの金属元素粉末、平均粒径0.1〜20μmのTiAlなどの金属間化合物粉末、平均粒径0.05〜2μmのTiN、ZrN、TiCN、TiAlN、Ti2AlN、Al2O3などの化合物粉末が好適に用いられる。前記結合材粉末は、第1硬質相粉末、第2硬質相粉末および結合材粉末の合計に対して10〜40体積%添加することが好ましい。結合材粉末の添加量が10体積%未満であると、焼結体の破壊靭性が低下し、切削工具として用いた場合に工具の刃先が欠損し易くなることがある。一方、前記添加量が40体積%を超えると、焼結体の硬度が低下し、切削工具として用いた場合に耐摩耗性が不足することがある。
混合に際しては、メディアとしてφ3〜10mm程度の窒化ケイ素製またはアルミナ製のボールを用いて、エタノールなどの溶媒中で12時間以内の短時間のボールミル混合を行うか、超音波ホモジナイザーや湿式ジェットミルなどのメディアレス混合装置を用いて混合することにより、第1硬質相粉末、第2硬質相粉末および結合材粉末が均一分散された混合スラリーを得ることができる。とりわけ、サイアロン粉末の表面に被覆層を形成した第1硬質相粉末を粉砕せず、前記表面の被覆層を維持するという観点から、メディアレス混合装置を用いることが好ましい。また、予めボールミルやビーズミルを用いて第2硬質相粉末と結合材粉末のみを十分に混合したスラリーを、第1硬質相粉末に加えて短時間のボールミル混合やメディアレス混合を行うことが効果的である。
上記のようにして得られたスラリーを、自然乾燥、スプレードライヤーあるいはスラリードライヤーなどにより乾燥させて、混合粉末を得る。
(焼結工程)
前記混合粉末を油圧プレスなどを用いて成形した後、ベルト型超高圧プレス装置などの高圧発生装置を用いて、3〜7GPaの圧力下、1200〜1800℃の温度域で焼結する。焼結に先立って混合粉末の成形体を予備焼結し、ある程度緻密化させたものを焼結することも可能である。また、パルス通電焼結(SPS、Spark Plasma Sintering)装置を用いて、30〜200MPaの圧力下、1200〜1600℃の温度域に保持することによっても焼結することができる。
(実施例1)
第1硬質相粉末を作製するため、組成がZ=2のβ型サイアロン粉末(Zibo Hengshi Technology Development Co.,Ltd製、品名:Z−2)500gと、ヒートシンクとして作用する銅粉末9500gを混合し、前記混合物を鋼管に封入した後、温度1900℃、衝撃圧力40GPaとなるように設定した量の爆薬を用いて衝撃圧縮することにより、立方晶型サイアロンを合成した。衝撃圧縮後鋼管内の混合粉末を取り出し、酸洗浄により銅粉を除去して合成粉末を得た。X線回折装置(リガク製MiniFlex600、Cu−Kα線、2θ−θ法、電圧×電流:45kV×15mA、測定範囲:2θ=20〜100°、スキャンステップ:0.02°、スキャン速度:1ステップ/秒)を用いて、前記合成粉末を分析したところ、立方晶型サイアロン(JCPDSカード:01−074−3494)とβ型サイアロン(JCPDSカード:01−077−0755)が同定された。前記合成粉末のX線回折パターンから、立方晶型サイアロンのメインピークである(311)面のピーク強度Ic(311)と、β型サイアロンのメインピークである(200)面のピーク強度Iβ(200)を求め、(III)式からRcを算出した結果、Rcは0.95であった。
上記のようにして衝撃圧縮で合成したRcが0.95の前記合成粉末に、それぞれ所定量のβ型サイアロン粉末を添加し、試料No.1−1〜1−3および1−11〜1−13の焼結体の作製に用いるサイアロン粉末を調製した。前記X線回折装置を用いて、試料No.1−1〜1−3および1−11〜1−13のサイアロン粉末のRcを測定した結果を表1に示す。試料No.1−4〜1−10および1−14についてはβ型サイアロン粉末を添加せず、衝撃圧縮で合成したRcが95%の前記合成粉末をそのまま使用した。
第1硬質相粉末を作製するため、前記試料No.1−1〜1−13のサイアロン粉末の表面にTiNの被覆層を形成した。一方、前記試料No.1−14のサイアロン粉末には、TiNの被覆層を形成しなかった。
試料No.1−1〜1−7に用いる第1硬質相粉末は、スパッタリング法を用いて被覆層を形成した。このとき、純Ti(純度99.9%)をターゲットとして、高純度窒素JIS1級の雰囲気中で前記サイアロン粉末100gを揺動させながらスパッタし、前記cBN粉末の表面にTiNの被覆層を形成することにより、第1硬質相粉末を作製した。前記第1硬質相粉末を熱硬化性樹脂に埋め込んだ後、CP装置を用いて被覆層厚み測定用の断面サンプルを作製した。前記サンプルをFE−SEMを用いて観察した結果、TiN被覆層の厚みは0.05μmであった。
試料No.1−8〜1−13に用いる第1硬質相粉末は、ボールミル法を用いて被覆層を形成した。このとき、前記サイアロン粉末50g、粒径20μm以下の純Ti粉末(東邦チタニウム(株)製、品名:TC−459)25g、およびTiN被覆を施したφ6mmの超硬合金製ボール100gを、容量200ccの超硬合金製ポットに封入し、前記ポット内部の雰囲気を高純度窒素JIS1級に置換した後、遊星ボールミルを用いて混合した。遊星ボールミルを行う際に、遠心力15Gで10分間回転させた後、Tiの窒化により減量する窒素ガスを前記ポット内に補充し、混合を再開した。この処理を10回繰り返して第1硬質相粉末を作製した。前記第1硬質相粉末を熱硬化性樹脂に埋め込んだ後、CP装置を用いて被覆層厚み測定用の断面サンプルを作製した。前記サンプルをFE−SEMを用いて観察した結果、TiN被覆層の厚みは0.4μmであった。
第2硬質相粉末は、平均粒径2μmのcBN粉末(昭和電工(株)製、品名:SBN−T G1−3)を使用した。
試料No.1−1〜1−13のそれぞれについて、第1硬質相粉末と第2硬質相粉末の合計量30gに、結合材としてTi3Al粉末(平均粒径:2μm)を表1に示す割合で添加した。表1に記載する結合材粉末の添加量(体積%)は、第1硬質相粉末、第2硬質相粉末および結合材粉末の合計量に対する結合材粉末の体積割合である。このとき、試料No.1−1〜1−13のそれぞれについて、第1硬質相粉末の体積に対する第2硬質相粉末の体積の割合が表1に示す値になるように、第1硬質相粉末と第2硬質相粉末を配合した。配合後の試料No.1−1〜1−13の粉末をそれぞれ、60ミリリットルのエタノールおよびφ6mmの窒化ケイ素ボール200gと共に、容量150ミリリットルのポリスチレン製ポットに投入し、12時間のボールミル混合を行い、スラリーを調整した。ポットから取り出したスラリーを自然乾燥させた後、目開き45μmの篩を通して焼結用粉末を作製した。
比較のため、被覆層を形成していないサイアロン粉末と第2硬質相粉末の合計量30gに、結合材として前記Ti3Al粉末を表1に示す割合で添加した。このとき、被覆層を形成していないサイアロン粉末の体積に対する第2硬質相粉末の割合が1になるように配合した。配合後の粉末を試料No.1−1〜1−13と同様にボールミル混合、自然乾燥と篩分を行い、試料No.1−14の焼結用粉末を作製した。
上述のようにして作製した試料No.1−1〜1−14の焼結用粉末を、直径φ20mmの高融点金属カプセルに真空封入した後、ベルト型超高圧プレス装置を用いて圧力5GPaに加圧しながら、温度1500℃に通電加熱して焼結体を作製した。
CP装置を用いて前記焼結体の断面を鏡面研磨した後、FE−SEMを用いて前記断面を観察することにより、被覆層の厚みを測定した。焼結の前後で被覆層の厚みはほとんど変化せず、前記焼結体の被覆層の厚みは第1硬質相粉末のみを樹脂に埋め込んで測定した被覆層の厚みにほぼ一致していた。
CP装置を用いて前記焼結体の断面を鏡面研磨した後、FE−SEMを用いて前記焼結体の組織を観察し、FE−SEMに付属のEDXを用いて前記組織の結晶粒子を構成する元素を調べ、前記SEM画像における第1硬質相、第2硬質相および結合材の粒子を特定した。前記SEM画像を三谷商事製WinROOFを用いて画像処理することにより、第1硬質相粒子、第2硬質相粒子および結合材の面積比率を求め、前記面積比率を体積比率とみなすというやり方によって、前記焼結体に含まれる第1硬質相粒子、第2硬質相粒子および結合材の体積比率を特定した。その結果を表2に示す。
前記焼結体の表面を400番のダイヤ砥石を用いて平研研削した後、前記X線回折装置を用いて前記研削面のX線回折を行った。前記研削面のX線回折の回折パターンから、立方晶型サイアロンの(311)面のピーク強度Ic(311)とβ型サイアロンの(200)面のピーク強度Iβ(200)、SiO2(JCPDSカード:01−073−3440)の(300)面のピーク強度IS(300)、および、TiSi2(JCPDSカード:03−065−2522)の(311)面のピーク強度IT(311)を求め、(I)式からRSを算出した。また、(II)式からRTを算出した。その結果を表2に示す。表2の結果から、焼結の際にRcの減少が大きい試料ほど、焼結体のRSやRTが増大する傾向があることが分かる。
前記研削面のX線回折の回折パターンから、立方晶型サイアロンの(311)面のピーク強度Ic(311)とβ型サイアロンの(200)面のピーク強度Iβ(200)を求め、これらの強度比Rc(Ic(311)/(Ic(311)+Iβ(200)))を算出した。その結果を表2に示す。サイアロン粉末の表面にTiNを被覆した試料No.1−1〜1−13の焼結体においては、焼結の前後でRcの値の変化が小さかった。それに対して、サイアロン粉末の表面にTiNを被覆しなかった試料No.1−14の焼結体においては、焼結によってRcの値が大きく減少した。
前記焼結体から硬度測定用の試料を切り出し、ベークライト樹脂に埋め込んだ後、前記試料を9μmと3μmのダイヤモンド砥粒を用いてそれぞれ30分間研磨した。前記試料の研磨面にビッカース硬度計(AKASHI製、HV−112)を用いて、10kgfの荷重でダイヤモンド圧子を押し込み、ダイヤモンド圧子を押し込むことによって生じた圧痕からビッカース硬度Hv10を求めた。さらに、圧痕から伝播している亀裂長さを測定し、JIS R 1607(ファインセラミックスの室温破壊じん(靱)性試験方法)に準拠したIF法により破壊靭性値を求めた。その結果を表2に示す。
次に、焼結体をCNGA120408型のロウ付けチップ形状に加工し、インコネル718(大同スペシャルメタル社製、登録商標、二段時効硬化処理品、ロックウェル硬度HRC=42)の旋削加工における工具寿命を評価した。下記の条件で外径円筒旋削試験を行い、工具刃先の逃げ面摩耗量または欠損量のいずれかが、先に0.2mmに達する切削距離を求め、前記切削距離を工具寿命(km)とした。その結果を表2に示す。工具寿命に到った原因が摩耗によるものか、あるいは欠損によるものかという寿命要因についても表2に記載する。
<切削条件>
・被削材:インコネル718(二段時効硬化処理品、ロックウェル硬度HRC=42相当品)
・工具形状:CNGA120408(ISO型番)
・刃先形状:チャンファー角度−20°×幅0.1mm
・切削速度:300m/分
・切り込み:0.3mm
・送り速度:0.2mm/rev
・湿式条件(水溶性油剤)
試料No.1−1においては、焼結体を構成する第1硬質相のRcが0.18と小さく、第1硬質相に含まれる立方晶型サイアロンの割合が小さいため、ビッカース硬度が21.8GPaに止まった。その結果、切削距離0.3kmで摩耗により工具寿命に到った。
試料No.1−5においては、焼結体を構成する第1硬質相粒子の体積に対する第2硬質相粒子の体積の割合が0.4と小さいため、破壊靱性が4.7MPa・m1/2に止まった。その結果、切削距離0.3kmで欠損により工具寿命に到った。
試料No.1−7においては、焼結体を構成する第1硬質相粒子の体積に対する第2硬質相粒子の体積の割合が7.5と大きく、インコネル718との反応性が低いサイアロンの含有量が少なくなったために、工具の刃先が摩耗することにより切削距離0.4kmで工具寿命に到った。
試料No.1−8においては、焼結体中の第1硬質相粒子と第2硬質相粒子の合計含有率が92.9体積%と大きいため、破壊靭性が4.8MPa・m1/2となった。その結果、工具の刃先が欠損することにより切削距離0.3kmで工具寿命に到った。
試料No.1−10においては、焼結体中の第1硬質相粒子と第2硬質相粒子の合計含有率が52体積%と小さいため、ビッカース硬度が20.3GPaに止まった。その結果、切削距離0.3kmで摩耗により工具寿命に到った。
これに対して、焼結体を構成する第1硬質相のRc、焼結体を構成する第1硬質相粒子の体積に対する第2硬質相粒子の体積の割合、焼結体中の第1硬質相粒子と第2硬質相粒子の合計含有率を適切な範囲に制御した試料No.1−2〜1−4、1−6、1−9、1−11〜1−13では、ビッカース硬度と破壊靭性をうまくバランスさせることができ、結果として、摩耗もしくは欠損により工具寿命に到る切削距離を0.6km以上に延ばすことができた。
一方、被覆層を形成していないサイアロン粉末を用いた試料No.1−14は、焼結体のRcが0.31に減少した。また、焼結体のRTが0.32に増加し、破壊靭性が4.2MPa・m1/2と低かった。その結果、切削中に工具の刃先が欠損することにより切削距離0.1kmで工具寿命に到った。
(実施例2)
第1硬質相粉末を作製するため、実施例1と同様にして衝撃圧縮で合成したRcが0.95のサイアロン粉末を準備した。試料No.2−1〜2−15について、前記サイアロン粉末の表面にそれぞれ表3に示す材料の被覆層を形成した。
試料No.2−1〜2−9に用いる第1硬質相粉末は、スパッタリング法を用いて被覆層を形成した。このとき、純Ti(純度99.9%)、TiAl合金(純度99.9%)、TiZr合金(純度99%)、純Al(純度99.9%)、AlCr合金(純度99%)のいずれかをターゲットとして用いて、高純度窒素JIS1級の雰囲気中で前記cBN粉末200gを揺動させながらスパッタし、前記サイアロン粉末の表面に表3に示す材料の被覆層を形成することにより、第1硬質相粉末を作製した。試料No.2−1〜2−5については、スパッタ時間を調整することにより、サイアロン粉末表面のTiN被覆層の厚みを変化させた。前記第1硬質相粉末を熱硬化性樹脂に埋め込んだ後、CP装置を用いて被覆層厚み測定用の断面サンプルを作製した。前記サンプルをFE−SEMを用いて観察した結果、試料No.2−1〜2−9の前記被覆層の厚み(層厚)は表3に示す通りであった。
試料No.2−10〜2−15に用いる第1硬質相粉末は、ボールミル法を用いて被覆層を形成した。まず、TiCN粉末(日本新金属(株)製、品名:TiN−TiC 50/50、平均粒径:1μm)13g、およびTiN被覆を施したφ6mmの超硬合金製ボール100gを、容量200ccの超硬合金製ポットに封入し、前記ポット内部の雰囲気を高純度窒素JIS1級に置換した後、遠心力15Gの遊星ボールミルを用いて60分予備粉砕した。その後、前記ポットに前記サイアロン粉末50gを追加投入し、再度前記ポット内部の雰囲気を高純度窒素JIS1級に置換して、遠心力15Gの遊星ボールミルを用いて60分混合することにより、第1硬質相粉末を作製した。前記第1硬質相粉末を熱硬化性樹脂に埋め込んだ後、CP装置を用いて被覆層厚み測定用の断面サンプルを作製した。前記サンプルをFE−SEMを用いて観察した結果、TiCN被覆層の厚みは0.25μmであった。
第2硬質相粉末として実施例1と同じcBN粉末を準備し、試料No.2−1〜2−15のそれぞれについて、第1硬質相粉末と第2硬質相粉末の合計量30gに、第1硬質相粉末、第2硬質相粉末および結合材粉末の合計量に対する結合材粉末の体積割合が20体積%となるように、表3に示す結合材粉末を配合した。このとき、試料No.2−1〜2−15のそれぞれについて、第1硬質相粉末の体積に対する第2硬質相粉末の体積の割合が1となるように、第1硬質相粉末と第2硬質相粉末を配合した。また、結合材粉末としてTi3Al粉末(平均粒径:2μm)、Ti粉末(東邦チタニウム(株)製、品名:TC―459を湿式ボールミルにて平均粒径5μmまで粉砕したもの)、TiN粉末+Al粉末(日本新金属(株)製、品名:TiN−1、平均粒径:1μmと、ミナルコ(株)製、品名:900F、平均粒径:2.5μmとを、質量比4:1の割合で配合したもの)、Ti2AlN粉末(平均粒径:1μm)、Al2O3粉末(大明化学工業(株)製、品名:TM−D)、Co粉末(Umicore製、品名:HMP)、およびZrN粉末(日本新金属(株)製、品名:ZrN−1)を使用した。配合後の試料No.2−1〜2−15の粉末をそれぞれ、60ミリリットルのエタノールおよびφ6mmの窒化ケイ素ボール200gと共に、容量150ミリリットルのポリスチレン製ポットに投入し、12時間のボールミル混合を行い、スラリーを調整した。ポットから取り出したスラリーを自然乾燥させた後、目開き45μmの篩を通して焼結用粉末を作製した。
比較のため、被覆層を形成していないRcが95%のサイアロン粉末と第2硬質相粉末の合計量30gに、結合材粉末として前記Co粉末を配合した。このとき、第1硬質相粉末、第2硬質相粉末および結合材粉末の合計量に対する結合材粉末の体積割合が20体積%となるようにした。また、被覆層を形成していないサイアロン粉末の体積に対する第2硬質相粉末の体積の割合が1になるように配合した。配合後の粉末を試料No.2−1〜2−15と同様にボールミル混合、自然乾燥と篩分を行い、試料No.2−16の焼結用粉末を作製した。
上述のようにして作製した試料No.2−1〜2−16の焼結用粉末を、直径φ20mmの高融点金属カプセルに真空封入した後、ベルト型超高圧プレス装置を用いて圧力5GPaに加圧しながら、温度1500℃に通電加熱して焼結体を作製した。
CP装置を用いて前記焼結体の断面を鏡面研磨した後、FE−SEMを用いて前記断面を観察することにより、被覆層の厚みを測定した。焼結の前後で被覆層の厚みはほとんど変化せず、前記焼結体の被覆層の厚みは第1硬質相粉末のみを樹脂に埋め込んで測定した被覆層の厚みにほぼ一致していた。
CP装置を用いて前記焼結体の断面を鏡面研磨した後、実施例1と同様のやり方によって、前記焼結体に含まれる第1硬質相粒子、第2硬質相粒子および結合材の体積比率を特定した。その結果を表4に示す。
前記焼結体の表面を400番のダイヤ砥石を用いて平研研削した後、前記X線回折装置を用いて前記研削面のX線回折を行った。得られたX線回折強度値から実施例1と同様にして焼結体のRSとRTを求めた。その結果を表4に示す。試料No.2−1〜2−5の結果から、サイアロン粉末の表面に形成する被覆層の厚みが大きくなるに従い、焼結体のRSとRTが減少することが分かる。一方、サイアロン粉末の表面に被覆を施さなかった試料No.2−16の焼結体においては、焼結体のRSが著しく増大した。
前記研削面のX線回折の回折パターンから、立方晶型サイアロンの(311)面のピーク強度IC(311)とβ型サイアロンの(200)面のピーク強度Iβ(200)を求め、これらの強度比Rc(IC(311)/(IC(311)+Iβ(200)))を算出した。その結果を表4に示す。試料No.2−1〜2−5の結果から、サイアロン粉末の表面に形成する被覆層の厚みが大きくなるに従い、焼結体のRcの値が増大することが分かる。一方、サイアロン粉末の表面に被覆を施さなかった試料No.2−16の焼結体においては、焼結によってRcの値が大きく減少した。
前記焼結体から硬度測定用の試料を切り出し、実施例1と同様にして、試料No.2−1〜2−16のそれぞれの焼結体のビッカース硬度Hv10と破壊靭性値を求めた。その結果を表4に示す。
次に、焼結体をCNGA120408型のロウ付けチップ形状に加工し、インコネル718の旋削加工における工具寿命を評価した。下記の条件で外径円筒旋削試験を行い、工具刃先の逃げ面摩耗量または欠損量のいずれかが、先に0.2mmに達する切削距離を求め、前記切削距離を工具寿命(km)とした。その結果を表4に示す。工具寿命に到った原因が摩耗によるものか、あるいは欠損によるものかという寿命要因についても表4に記載する。
<切削条件>
・被削材:インコネル718(二段時効硬化処理品、ロックウェル硬度HRC=42相当品)
・工具形状:CNGA120408(ISO型番)
・刃先形状:チャンファー角度−20°×幅0.1mm
・切削速度:500m/分
・切り込み:0.2mm
・送り速度:0.1mm/rev
・湿式条件(水溶性油剤)
試料No.2−1においては、焼結体の第1硬質相粒子を構成するサイアロン粒子表面のTiN被覆層の厚みが0.01μmと小さいため、焼結体中のRcが0.55に減少し、焼結体のRTが0.35に増大した。その結果、破壊靱性が4.8MPa・m1/2に減少して、刃先の境界損傷が増大し、工具の刃先が欠損することにより切削距離0.3kmで工具寿命に到った。
試料No.2−5においては、焼結体の第1硬質相粒子を構成するサイアロン粒子表面のTiN被覆層の厚みが2.3μmと大きいため、ビッカース硬度が21.8GPaに止まった。その結果、切削距離0.3kmで摩耗により工具寿命に到った。
これに対して、焼結体の第1硬質相粒子を構成するサイアロン粒子表面の被覆層の厚みを適切な範囲に制御した試料No.2−2〜2−4、2−6〜2−15では、ビッカース硬度と破壊靭性をうまくバランスさせることができ、結果として、摩耗もしくは欠損により工具寿命に到る切削距離を0.5km以上に延ばすことができた。
一方、被覆層を形成していないサイアロン粉末を用いた試料No.2−16は、焼結体のRcが0.25に減少し、焼結体のRSが0.36に増加した。その結果、破壊靱性が4.2MPa・m1/2に減少して、刃先の境界損傷が急激に進行し、工具の刃先が欠損することにより切削距離0.1kmで工具寿命に到った。
今回開示された実施形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではない。本発明の技術的範囲は上記の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の範囲でのすべての変更が含まれる。