JP6352778B2 - 浮体式風力発電装置及びその運転方法 - Google Patents
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Description
ロータの回転数を定格回転数に維持するようにブレードのピッチ角を制御するモードを実行している間に、浮体の動揺に起因した風力発電機の風上側への移動(傾斜)に伴ってロータに対する相対風速が増大すると、ロータの回転数を定格回転数に維持するためにブレードのピッチ角を増大させる制御が行われることになる。風力発電機が風上側へ移動している時にブレードのピッチ角を増大させると、ロータが風から受けるスラスト力が減少するので、風力発電機の風上側への移動が助長されてしまい、風力発電機が風上側へ大きく傾くことになる。
一方、ロータの回転数を定格回転数に維持するようにブレードのピッチ角を制御するモードを実行している間に、浮体の動揺に起因した風力発電機の風下側への移動(傾斜)に伴ってロータに対する相対風速が減少すると、ロータの回転数を定格回転数に維持するためにブレードのピッチ角を減少させる制御が行われることになる。風力発電機が風下側へ移動している時にブレードのピッチ角を減少させると、ロータが風から受けるスラスト力が増大するので、風力発電機の風下側への移動が助長されてしまい、風力発電機が風下側へ大きく傾くことになる。
このような疲労荷重による風力発電機の損傷を防ぐために、ピッチ制御に起因して生じる浮体動揺を監視し、異常な浮体動揺、すなわち異常振動を適切に検出することが望まれる。
この点、特許文献1には、ピッチ制御に起因して生じる浮体の異常振動を検出するための具体的な方策については何ら記載されていない。
浮体と、
ハブと該ハブに取り付けられたブレードとを含むロータを有し、前記浮体上に立設された風力発電機と、
前記ロータの回転数を定格回転数に維持するように前記ブレードのピッチ角を制御する制御モードを実行可能な制御装置と、
前記浮体の振動を監視するための監視装置と、を備え、
前記監視装置は、前記浮体の傾斜角度又は傾斜角速度の少なくとも一方を示す信号から得られる数値の変動量を用いた前記浮体の浮体動揺固有周期以上の長さの期間における統計値に基づいて、前記制御装置による前記制御モードの実行に起因する異常振動を検出するように構成される。
上記(1)の構成では、ピッチ制御に起因して生じる浮体動揺における浮体の傾斜角度又は傾斜角速度の変動量を用いた統計値を用いて浮体の異常振動を検出する。この統計値は、ピッチ制御に起因して生じる浮体動揺における浮体の傾斜角度や傾斜角速度の変動成分を表している。よって、風力発電機に生じる応力振幅に影響を与え得る傾斜角度又は傾斜角速度の変動成分を表す上記統計値を用いることで、ピッチ制御に起因して生じる浮体の異常振動を適切に検出することができる。
上記(2)の構成では、浮体の異常振動の検出において、ピッチ制御に起因して生じる浮体動揺における浮体の傾斜角度又は傾斜角速度と、これらの平均値との差に基づく統計値を用いる。この統計値は、ピッチ制御に起因して生じる浮体動揺における浮体の傾斜角度や傾斜角速度の変動成分を表している。よって、風力発電機に生じる応力振幅に影響を与え得る傾斜角度又は傾斜角速度の変動成分を表す上記統計値を用いることで、ピッチ制御に起因して生じる浮体の異常振動を適切に検出することができる。
上記(3)の構成によれば、浮体の異常振動の検出において、ピッチ制御に起因して生じる浮体動揺における浮体の傾斜角度又は傾斜角速度を示す信号から、浮体の浮体動揺固有周期よりも長周期の成分を除去又は低減して得られる信号に基づく変動量を用いた統計値を用いる。この統計値は、ピッチ制御に起因して生じる浮体動揺における浮体の傾斜角度や傾斜角速度の変動成分を表している。よって、風力発電機に生じる応力振幅に影響を与え得る傾斜角度又は傾斜角速度の変動成分を表す上記統計値を用いることで、ピッチ制御に起因して生じる浮体の異常振動を適切に検出することができる。
浮体式風力発電装置は様々な方向において動揺するが、ピッチ制御により助長されるのは、主に、風力発電機の前後方向における動揺である。
上記(4)の構成によれば、風力発電機の前後方向における浮体の傾斜角度又は傾斜角速度に基づいた評価を行うので、ピッチ制御に起因して生じる浮体の異常振動をより的確に検出することができる。
なお、本明細書において「風力発電機の前後方向」とは、風力発電機のロータの回転面に直交する方向を意味する。他箇所においても、「前後方向」という表現は、特記しない限り、この意味で用いることとする。
ただし、式(A)において、xaiは前記浮体の傾斜角度又は傾斜角速度を示す数値の変動量であり、Nは前記期間におけるxaiのデータ数である。
上記(5)の構成では、浮体の傾斜角度又は傾斜角速度の変動量を用いた統計値として、浮体の傾斜角度又は傾斜角速度のばらつきを表す統計値を用いる。傾斜角度等のばらつきの大きさは、傾斜角度等に起因して風車に加わる荷重や、それに応じて生じる応力のばらつきの大きさに対応する。よって、傾斜角度等のばらつきが大きいほど、風力発電機に生じる応力の応力振幅が大きい。
よって、上記(5)の構成によれば、傾斜角度又は傾斜角速度のばらつきを表す統計値を用いて、ピッチ制御に起因して生じる浮体の異常振動を適切に検出することができる。
浮体の傾斜角度や傾斜角速度に関する統計値を算出するための期間(以降において統計期間とも称する)が短すぎると、統計期間内のサンプル数が少ないために、算出される統計値が影響を受けて、適切な評価ができないことがある。例えば、統計値として上記式(A)で表されるσを用いる場合、サンプル数が少ないほど値が大きくなる場合が起こり得るので、このため閾値を高くせざるを得ない。
上記(6)の構成では、統計期間を150秒以上という十分に長い期間とした。このため、統計期間において、統計値を算出するためのサンプル数を十分に確保することができ、ピッチ制御に起因して生じる浮体の異常振動をより適切に検出することができる。また、統計期間を十分に長い期間としたので、波応答などの突発的な外力応答の検知を避けることができ、風力発電機に加わる疲労荷重の増加の原因である継続的な不安定振動を適切に監視することができる。
一方、浮体の傾斜角度や傾斜角速度に関する統計値を算出するための統計期間が長すぎると、該統計期間内に風況が著しく変化した場合に、風況の著しい変化により算出される統計値が影響を受けて、適切な評価ができないことがある。例えば、ある統計期間において、風速および波高が小さく、浮体の傾斜角度が略ゼロであった期間が存在したとする。この場合、傾斜角度の平均値算出にあたって、傾斜角度がゼロであった期間を含めて全てを平均するため、他の期間において急激に風速や波高が大きくなったときがあったとしても、その影響を捉えにくくなってしまうことがある。
この点、上記(6)の構成では、統計期間を3600秒以下としたので、統計期間内の風況の変化を考慮したうえで、ピッチ制御に起因して生じる浮体の異常振動をより適切に検出することができる。
本発明者らによる鋭意検討の結果、算出した統計値σと比較すべき閾値として上記範囲内の値を用いることで、異常振動の発生を正確に判定可能となることが明らかになった。よって、上記(7)の構成によれば、異常振動の発生の判定を正確に行うことができる。
ピッチ制御に起因する浮体動揺の大きさと風速との間には、所定の相関関係が存在する。
上記(8)の構成では、風速の平均値に応じて可変な閾値を設けるようにしたので、浮体の異常振動の検知の精度を向上させることができる。
可変速風車と称される一般的な風力発電機では、定格風速未満の低風速域において出力を制御してロータ回転数を風速に応じて最適な値に維持する可変速運転を行うとともに、定格風速以上の高風速域ではピッチ角を制御してロータ回転数を一定に維持するようになっている。
そして、ピッチによるロータ回転数制御に起因する浮体動揺は、ピッチによりロータ回転数を制御する制御モードの実行時、すなわち、風速が定格風速以上のときに発生する。また、ピッチ制御に起因する浮体動揺は、定格風速において最も起きやすく、定格風速以上の高風速域では風速が大きくなるほど起きにくくなる傾向がある。このため、風速が大きいほど、異常な浮体動揺を高い感度で検知することが望ましい。
上記(9)の構成では、風速の平均値が定格風速以上である領域において、閾値を、定格風速以上の風速V1にて最大となり、ピッチ角又は風速の平均値の増加とともに減少するように設定するので、風速の平均値が大きいほど高い感度で異常振動を検知できる。このため、浮体の異常振動の検知の精度を向上させることができる。
前記監視装置は、前記信号から、少なくとも前記浮体に作用する波の周波数成分を除去又は低減するための第2フィルタを備え、前記第2フィルタによる処理後の前記信号から得られる数値に基づく前記変動量を用いた統計値に基づいて、前記異常振動を検出するように構成される。
上記(10)の構成では、傾斜角度又は傾斜角速度を示す信号から、浮体動揺を評価するうえで大きな妨げとなる波の周波数成分を除去又は低減した信号に基づいた評価を行うので、ピッチ制御に起因する浮体の異常振動をより的確に検出することができる。
前記浮体の傾斜角度又は傾斜角速度の少なくとも一方を示す物理量を計測するためのセンサと、
前記センサによる検出信号に基づいて、前記浮体の傾斜角度又は傾斜角速度の少なくとも一方を示す前記信号を取得するための信号取得部と、をさらに備える。
この場合、浮体の傾斜角度又は傾斜角速度を計測するためのセンサによる検出信号に基づいて、浮体の異常振動を検出するための統計値を算出することができる。
風力発電機において、ロータの回転面の向きが風上を向くようにヨー角が制御されている場合、「風力発電機の前後方向」は、タワー又は浮体に対して、ヨー角に応じて変化する。
上記(12)の構成によれば、風力発電機のヨー角に基づいて、タワー又は浮体に設けられたセンサで取得された、任意の方向における傾斜角度又は傾斜角速度を示す信号から、該ヨー角に対応した風力発電機の前後方向における信号を取得することができる。
(13)幾つかの実施形態では、上記(1)〜(12)のいずれかの構成において、前記監視装置は、前記ロータが受ける風の風速が定格風速以上であるとき又は前記制御装置による前記制御モードの実行中にのみ、前記統計値に基づいて、前記異常振動を検出する。
上記(13)の構成によれば、風速が定格風速以上であるとき又はピッチ制御を実行中のときにのみ統計値の計算及び統計値と閾値との比較を行うので、監視装置の計算負荷を低減することができる。
上記(14)の構成によれば、異常振動が検出されたときにアラームが出力されるので異常振動検出後の対応(例えば、アラームにより異常振動の検出を認知した作業員が風力発電装置を停止するための手順を行う等)を迅速に行うことができる。
あるいは、上記(14)の構成によれば、異常振動が検出されたときに風力発電機を停止する信号が制御装置に送られることにより、風力発電機を制御装置により速やかに停止させることができる。
浮体と、
ハブと該ハブに取り付けられたブレードとを含むロータを有し、前記浮体上に立設された風力発電機と、を備える浮体式風力発電装置の運転方法であって、
前記ロータの回転数を定格回転数に維持するように前記ブレードのピッチ角を制御する制御モードを実行するピッチ制御ステップと、
前記浮体の傾斜角度又は傾斜角速度の少なくとも一方を示す信号を取得する信号取得ステップと、
前記信号取得ステップで取得した信号から得られる数値の変動量を用いた前記浮体の浮体動揺固有周期以上の長さの期間における統計値に基づいて、前記ピッチ制御ステップにおける前記制御モードの実行に起因する異常振動を検出する異常振動検出ステップと、を備える。
図1に示すように、浮体式風力発電装置1は、水面に浮かぶ浮体20と、浮体20上に立設された風力発電機10と、を備える。また、浮体式風力発電装置1は、後述する制御装置50及び監視装置30を備える。なお、浮体20は、係留装置26(26a〜26h)により水底に係留されている。
一実施形態では、浮体式風力発電装置1は、ロータ13の回転数(回転速度)を計測するための回転数計51をナセル内に備えており、ブレード15のピッチ角を調節するためのピッチ角調節機構53をハブ内に備えている。
ブレードのピッチ角とは、コード155の延長線L1と、ブレード回転方向(ロータ回転面)に平行な直線L2との間の角度を意味し、図3に示される角度Θである。風力発電機10の通常運転時における各ブレード15のピッチ角は典型的には概ね0度であり、このときのピッチ角はファイン位置と称されることがある。これに対し、風力発電機10の完全停止時における各ブレード2のピッチ角は典型的には概ね90度(最大角)であり、このときのピッチ角はフェザー位置と称されることがある。各ブレード15のピッチ角をファイン位置(約0度)からフェザー位置(約90度)に向けて大きくすると、空力的な制動力がロータ13に作用して、ロータ13の回転数は低下する。逆に、各ブレード15のピッチ角をフェザー位置(約90度)からファイン位置(約0度)に向けて小さくすると、各ブレード15に加わる揚力が増大し、ロータ13の回転数は上昇する。
監視装置30は、このような浮体20の振動を監視するために設けられる。この監視装置30は、浮体20の傾斜角度又は傾斜角速度の少なくとも一方を示す信号から得られる数値の変動量を用いた浮体20の浮体動揺固有周期以上の長さの期間における統計値に基づいて、制御装置50によるピッチ角制御モードの実行に起因する異常振動を検出するように構成される。
ピッチ制御に起因して生じる浮体動揺における浮体20の傾斜角度又は傾斜角速度の変動量を用いた統計値は、ピッチ制御に起因して生じる浮体動揺における浮体の傾斜角度や傾斜角加速度の変動成分を表す。よって、風力発電機10に生じる応力振幅に影響を与え得る浮体20の傾斜角度又は傾斜角速度の変動成分を表す統計値を用いることで、ピッチ制御に起因して生じる浮体の異常振動を検出することができる。
一実施形態では、傾斜計28を含むセンサは、所定のサンプリング周期S(例えば20Hz)で浮体20の傾斜角度又は傾斜角速度の少なくとも一方を示す物理量を計測するように構成される。
ここで、図4を用いて一実施形態に係る監視装置30の構成について説明する。図4は、一実施形態に係る風力発電機、浮体、制御装置及び監視装置の構成を示すブロック図である。図4に示すように、一実施形態に係る監視装置30は、信号取得部32と、平均値算出部36と、統計値算出部38と、比較部40と、を備える。また、一実施形態では、監視装置30は、フィルタ(第2フィルタ)34を備えていてもよい。なお、図4には、浮体20の傾斜角度又は傾斜角速度の少なくとも一方を示す物理量を計測するためのセンサとして、浮体20の傾斜角度を示す物理量を計測するための傾斜計28が採用された実施形態が示されている。
なお、以降においては、浮体20の傾斜角度を示す信号から得られる数値の変動量を用いて浮体20の異常振動を検出する実施形態について説明するが、浮体20の傾斜角速度を示す信号から得られる数値の変動量を用いて浮体20の異常振動を検出する場合についても同様に説明できる。
ただし、上記式(B)において、xiは浮体20の傾斜角度を示す数値であり、Nは統計期間T[s]におけるxiのデータ数である。ここで、傾斜計28による浮体20の傾斜角度を示す信号のサンプリング周期をS[Hz]とすれば、N=T×Sである。
ただし、上記式(A)において、nは任意の数である。
この統計値σは、統計期間Tにおける浮体20の傾斜角度のばらつきを表す。浮体20の傾斜角度のばらつきの大きさは、浮体20の傾斜角度等に起因して風力発電機10に加わる荷重や、それに応じて生じる応力のばらつきの大きさに対応する。すなわち、浮体20の傾斜角度のばらつきが大きいほど、風力発電機10に生じる応力の応力振幅が大きい。よって、浮体20の傾斜角度のばらつきを表す統計値σを用いて、浮体式風力発電装置1のピッチ制御に起因して生じる浮体20の異常振動を適切に検出することができる。
なお、上記式(A)において|xi−m|の項は、浮体動揺の振幅を示す。よって、上記式(A)により算出される統計値σは、統計期間Tにおける浮体20の浮体動揺の振幅のばらつきを表す、と言い換えることもできる。
一実施形態では、上記式(A)におけるnは、疲労荷重が加わる箇所における材料のSN曲線の傾きの逆数に(−1)を乗じた数としてもよい。例えば、タワー基部に加わる疲労荷重を問題とするとき、タワーの鋼材のSN曲線の傾きは−1/4である場合には、n=4としてもよい。
一実施形態では、統計期間Tは、上述したように、浮体20の浮体動揺固有周期以上の長さの期間である。統計期間Tが少なくとも浮体20の浮体動揺固有周期の長さであれば、該浮体動揺固有周期の1周期の間に取得された傾斜角度のデータを用いて、統計値σを算出するために適切な平均値mを算出することができる。
なお、浮体動揺固有周期は、浮体の種類や固体にもよるが、20〜30秒であってもよい。
そこで、一実施形態では、統計期間Tを浮体動揺固有周期の5倍以上、又は150秒以上としてもよい。この場合、統計期間Tにおいて、統計値σを算出するためのサンプル数を十分に確保することができ、ピッチ制御に起因して生じる浮体20の異常振動をより適切に検出することができる。また、統計期間Tを十分に長い期間としたので、波応答などの突発的な外力応答の検知を避けることができ、風力発電機10に加わる疲労荷重の増加の原因である継続的な不安定振動を適切に監視することができる。
そこで、一実施形態では、統計期間Tを10800秒以下としてもよく、又は、3600秒以下としてもよい。この場合、統計期間T内の風況の変化を考慮したうえで、ピッチ制御に起因して生じる浮体20の異常振動をより適切に検出することができる。
第1フィルタを用いることで、傾斜計28により取得した浮体20の傾斜角度を示す信号のドリフト成分や、係留装置26(係留索)と浮体20からなる固有振動数等の低周波数応答成分により、浮体20の傾斜角度を示す信号から取り除くことができる。また、第1フィルタを用いることで、周波数ゼロの時間変化しない成分を浮体20の傾斜角度を示す信号から取り除くことができる。これにより、浮体20の浮体動揺固有周期を有する平均が略ゼロの波形が得られ、浮体動揺の振幅を示す数値が浮体20の傾斜角度を示す信号から直接得られる。そして、統計期間Tにおける該振幅を示す数値の変動量から、浮体20の異常振動を検出することができる。
一実施形態では、比較部40にて浮体20の異常振動が検出されとき、監視装置30はアラームを出力する。浮体20の異常振動が検出されたときにアラームが出力されることで、異常振動検出後の対応(例えば、アラームにより異常振動の検出を認知した作業員が風力発電機10を停止するための手順を行う等)を迅速に行うことができる。
また、一実施形態では、比較部40にて浮体20の異常振動が検出されとき、監視装置30は、風力発電機10を停止するための信号を制御装置50に送る。浮体20の異常振動が検出されたときに風力発電機10を停止する信号が制御装置50に送られることにより、風力発電機10を制御装置50により速やかに停止させることができる。
本発明者らの検討によれば、ブレードのピッチ角制御に起因する浮体の自励振動による浮体動揺への影響は、浮体20のタイプによって異なることがわかった。
例えば、図1に示したようなセミサブ型の浮体の場合、自励振動による浮体動揺への影響が比較的小さく、例えば、海洋の波よりも影響が小さい。このため、閾値を比較的小さくすることで精度良く異常振動を検出することができる。セミサブ型の浮体の場合の閾値σTHは、例えば、0.5°〜3°の範囲内としてもよい。
また、円柱状のスパー型の浮体の場合、自励振動による浮体動揺への影響が比較的大きく、自励振動による傾きが現れやすい構造となっている。このため、閾値を比較的大きくすることで精度良く異常振動を検出することができる。スパー型の浮体の場合の閾値σTHは、例えば、3°〜5°の範囲内としてもよい。
ピッチ制御に起因する浮体動揺の大きさとロータ13が受ける風の風速との間には、所定の相関関係が存在する。また、ピッチ角制御部54により制御されるブレード15のピッチ角は、ロータ13が受ける風速に依存する場合がある。よって、ロータ13が受ける風の風速又はブレード15のピッチ角の平均値に応じて可変な閾値を設けることで、浮体20の異常振動の検知の精度を向上させることができる。
上述のロータ13が受ける風速は、風力発電機10に設けた風速計(図示せず)により計測した実測値であってもよいし、ブレード15のピッチ角、ロータ13の回転数及びトルク等に基づいて推定される推定値であってもよい。また、上述のピッチ角は、実測値であってもよいし、ピッチ角制御モード実行時にピッチ角制御部54により算出されたピッチ指令角であってもよい。
一実施形態では、統計値算出部38により算出された統計値σと比較される閾値σTHは、ロータ13が受ける風速の平均値が風力発電機10の定格風速以上である領域において、該定格風以上の風速V1にて最大であり、風速の増加とともに減少するように設定される。
ピッチ制御に起因する浮体動揺は、ピッチ角制御モードの実行時、すなわち、風速が定格風速以上のときに発生する。また、ピッチ制御に起因する浮体動揺は、定格風速において最も起きやすく、定格風速以上の高風速域では風速が大きくなるほど起きにくくなる傾向がある。このため、風速が大きいほど、異常な浮体動揺を高い感度で検知することが望ましい。
そこで、例えば図5に示すように、ロータ13が受ける風の風速の平均値が定格風速以上である領域における閾値σTHを、定格風速以上の風速V1にて最大(σTH_Max)となり、風速の増加とともに減少するように設定することで、ロータ13が受ける風の風速の平均値が大きいほど高い感度で異常振動を検知できる。このため、浮体20の異常振動の検知の精度を向上させることができる。
一実施形態では、前記閾値は、ロータ13が受ける風の風速の平均値が定格風速であるときに最大となるように設定される。
一実施形態では、前記閾値は、ロータ13が受ける風の風速の平均値が(定格風速+1)m/s以上(定格風速+3)m/s以下の範囲内で最大となるように設定される。風速が定格風速未満のピッチ角制御モードが実行されない風速領域では、ピッチ制御に起因する浮体動揺は生じない。よって、統計期間Tにおける風速の平均が定格風速よりも少し(例えば1〜3m/s)大きい場合の閾値σTHを最大のσTH_Maxに設定し、風速の平均が定格風速での閾値σTHは、風速が定格風速未満である場合も考慮された、σTH_Maxよりも小さい値(例えば、図5のσTH_Rated)に設定することで、浮体20の異常振動をより適切に検知することができる。
一実施形態では、監視装置30は、風力発電機10の前後方向における浮体20の傾斜角度又は傾斜角速度を示す信号から得られる数値と、浮体20の浮体動揺固有周期以上の長さの期間における前記数値の平均値との差を用いた統計値に基づいて、制御装置50によるピッチ角制御モードの実行に起因する異常振動を検出するように構成される。
浮体式風力発電装置は様々な方向において動揺するが、ピッチ制御により助長されるのは、主に、風力発電機10の前後方向(風力発電機10のロータ13の回転面に直交する方向;図6参照)における動揺である。そこで、風力発電機10の前後方向における浮体20の傾斜角度又は傾斜角速度に基づいた評価を行うことで、ピッチ制御に起因して生じる浮体20の異常振動をより的確に検出することができる。
一実施形態では、監視装置30は、風力発電機10の前後方向及び該前後方向に直交する方向における浮体20の傾斜角度又は傾斜角速度を示す信号から得られる数値(例えば、風力発電機10の前後方向における傾斜角度等を示す信号と該直交方向における傾斜角度等を示す信号とを合成したもの)と、浮体20の浮体動揺固有周期以上の長さの期間における前記数値の平均値との差を用いた統計値に基づいて、制御装置50によるピッチ角制御モードの実行に起因する異常振動を検出するように構成されてもよい。
なお、本明細書においてヨー角とは、タワー11の垂直方向軸Oを中心として、タワー11の規定の位置が向く方向を基準方向としたときに、該基準方向と、ロータ13の回転面に直交する方向(即ち風力発電機10の前後方向)とのなす角θzのことを言う。
一実施形態では、信号取得部32は、上述の角度差Δαがゼロとなる際の傾斜計28による検出信号を、風力発電機10の前後方向における信号として取得するように構成される。
また、信号取得部32は、加速度計52で取得されたナセル12の加速度を示す信号を演算処理することにより、浮体20の傾斜角度を示す信号に変換するように構成されてもよい。より具体的には、例えば、加速度計52に取得された風力発電機10の前後方向におけるナセル12の加速度を積分することにより、風力発電機10の前後方向におけるナセル12の移動速度vを算出する。浮体20の回転中心である浮体式風力発電装置1の重心からナセル12までの長さ(より詳細には浮体式風力発電装置1の重心から加速度計52までの長さ)をhとすると、ナセル12の角速度ωはv/hであるので、ωを積分することにより風力発電機10の前後方向におけるナセル12の傾斜角度、すなわち風力発電機10の前後方向における浮体20の傾斜角度を算出することができる。
この場合、傾斜角度を示す信号から、浮体動揺を評価するうえで大きな妨げとなる波の周波数成分を除去又は低減した信号に基づいた評価を行うので、ピッチ制御に起因する浮体の異常振動をより的確に検出することができる。
通常、浮体20の動揺の固有振動数(例えば0.03〜0.05Hz)に対して、波の周波数(例えば0.05〜0.2Hz)のほうが高い。そこで、第2フィルタ34として、例えば、遮断周波数が0.1Hzのローパスフィルタを用いることで、0.1Hz以上の周波数成分を低減又は除去するようにしてもよい。
図7(A)は傾斜角度を示す信号の波形の一例であり、図7(B)は図7(A)の波形に対して一実施形態に係る第2フィルタ(上述のローパスフィルタ)による処理を行った後の波形を示す図である。図7に示すように、浮体20の傾斜角度を示す信号を第2フィルタを用いて処理することで、波周期などの浮体動揺固有周期より短周期成分のノイズを取り除くことができる。
また、第2フィルタ34は、さらに、浮体式風力発電装置1に含まれる浮体20以外の構造物(例えばタワー11)に関する固有振動数の成分を低減又は除去するように構成されてもよい。
風速が定格風速以上であるとき又はピッチ制御を実行中のときにのみ統計値σの計算及び統計値σと閾値σTHとの比較を行うことで、監視装置30の計算負荷を低減することができる。
制御装置50によるピッチ角制御モードが実行中であるかどうかは、ピッチ角制御部54で算出されるピッチ指令角が閾値以上であるか否か、又は複数のブレード15におけるピッチ角の平均値が閾値以上であるか否かにより判断するようになっていてもよい。
一実施形態では、監視装置30は、ロータ13が受ける風の風速の統計期間Tにおける平均値が定格風速以上であるときにのみ、統計値σに基づいて浮体20の異常振動を検出するように構成されてもよい。
まず、浮体20の傾斜角度を示す信号を取得する(S2)。
次に、ロータ13の回転数を定格回転数に維持するように15ブレードのピッチ角を制御するピッチ角制御モードが実行中であるか否かを判定する(S4)。
S4にてピッチ角制御モードが実行中であると判定されれば(S4のYes)、S2で取得した傾斜角度について、浮体20の浮体動揺固有周期以上の長さの期間(統計期間T)における平均値mを算出する(S6)。なお、平均値mは、例えば上述の式(B)によって算出することができる。
次に、S2で取得した信号から得られる浮体20の傾斜角度と、S6で取得した浮体20の傾斜角度の統計期間Tにおける平均値mとの差を用いて、統計値σを算出する(S8)。なお、統計値σは、例えば上述の式(A)によって算出することができる。
続いて、S8で算出された統計値σを、あらかじめ設定された閾値σTHと比較する(S10)。
S10において、算出された統計値σが閾値σTHよりも大きければ、ピッチ角制御モードの実行に起因する異常振動があったと判定し、アラームを出力するか、風力発電機10を停止する(S12)。
例えば、「同一」、「等しい」及び「均質」等の物事が等しい状態であることを表す表現は、厳密に等しい状態を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の差が存在している状態も表すものとする。
また、本明細書において、一の構成要素を「備える」、「含む」、又は、「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
2 ブレード
4 ロータ
5 油圧ポンプ
6 油圧モータ
7 発電機
10 風力発電機
11 タワー
12 ナセル
13 ロータ
14 ハブ
15 ブレード
16 メインシャフト
17 高圧油ライン
18 低圧油ライン
20 浮体
22 コラム
24 ロワーハル
26 係留装置
28 傾斜計
30 監視装置
32 信号取得部
34 第2フィルタ
36 平均値算出部
38 統計値算出部
40 比較部
50 制御装置
51 回転数計
52 加速度計
53 ピッチ角調節機構
54 ピッチ角制御部
Claims (14)
- 浮体と、
ハブと該ハブに取り付けられたブレードとを含むロータを有し、前記浮体上に立設された風力発電機と、
前記ロータの回転数を定格回転数に維持するように前記ブレードのピッチ角を制御する制御モードを実行可能な制御装置と、
前記浮体の振動を監視するための監視装置と、を備え、
前記監視装置は、前記浮体の傾斜角度又は傾斜角速度の少なくとも一方を示す信号から得られる数値の変動量を用いた前記浮体の浮体動揺固有周期以上の長さの期間における統計値に基づいて、前記制御装置による前記制御モードの実行に起因する前記浮体動揺固有周期の異常振動を検出するように構成され、
前記変動量は、前記数値と前記期間における前記数値の平均値との差から得られる
ことを特徴とする浮体式風力発電装置。 - 前記監視装置は、前記信号から、前記浮体の浮体動揺固有周期よりも長周期の成分を除去又は低減するための第1フィルタを備え、
前記変動量は、前記数値を前記第1フィルタで処理することで得られることを特徴とする請求項1に記載の浮体式風力発電装置。 - 前記監視装置は、前記風力発電機の前後方向における前記浮体の傾斜角度又は傾斜角速度の少なくとも一方を示す信号から得られる数値の変動量を用いた前記浮体の浮体動揺固有周期以上の長さの期間における統計値に基づいて、前記制御装置による前記制御モードの実行に起因する異常振動を検出するように構成されたことを特徴とする請求項1又は2に記載の浮体式風力発電装置。
- 浮体と、
ハブと該ハブに取り付けられたブレードとを含むロータを有し、前記浮体上に立設された風力発電機と、
前記ロータの回転数を定格回転数に維持するように前記ブレードのピッチ角を制御する制御モードを実行可能な制御装置と、
前記浮体の振動を監視するための監視装置と、を備え、
前記監視装置は、前記浮体の傾斜角度又は傾斜角速度の少なくとも一方を示す信号から得られる数値の変動量を用いた前記浮体の浮体動揺固有周期以上の長さの期間における統計値に基づいて、前記制御装置による前記制御モードの実行に起因する異常振動を検出するように構成され、
前記統計値は、下記式(A)で表されるσであることを特徴とする浮体式風力発電装置。
- 前記期間の長さは、150秒以上3600秒以下であることを特徴とする請求項1乃至4の何れか一項に記載の浮体式風力発電装置。
- 前記監視装置は、前記浮体の傾斜角度を示す数値と、前記期間における前記数値との差を用いた統計値σが閾値よりも大きい場合に前記異常振動が発生したと判定するように構成され、
前記閾値は、0.5°以上5°以下の範囲内で設定されることを特徴とする請求項4に記載の浮体式風力発電装置。 - 前記監視装置は、前記期間における、前記ピッチ角又は前記ロータが受ける風の風速の平均値に応じて前記閾値が可変であるように構成されていることを特徴とする請求項6に記載の浮体式風力発電装置。
- 前記閾値は、前記風速の平均値が前記風力発電機の定格風速以上である領域において、前記定格風速以上の風速V1にて最大であり、前記風速の増加とともに減少するように設定されたことを特徴とする請求項7に記載の浮体式風力発電装置。
- 前記監視装置は、前記信号から、少なくとも前記浮体に作用する波の周波数成分を除去又は低減するための第2フィルタを備え、前記第2フィルタによる処理後の前記信号から得られる数値に基づく前記変動量を用いた統計値に基づいて、前記異常振動を検出するように構成されたことを特徴とする請求項1乃至8のいずれか一項に記載の浮体式風力発電装置。
- 前記浮体の傾斜角度又は傾斜角速度の少なくとも一方を示す物理量を計測するためのセンサと、
前記センサによる検出信号に基づいて、前記浮体の傾斜角度又は傾斜角速度の少なくとも一方を示す前記信号を取得するための信号取得部と、
をさらに備えることを特徴とする請求項1乃至9の何れか一項に記載の浮体式風力発電装置。 - 浮体と、
ハブと該ハブに取り付けられたブレードとを含むロータを有し、前記浮体上に立設された風力発電機と、
前記ロータの回転数を定格回転数に維持するように前記ブレードのピッチ角を制御する制御モードを実行可能な制御装置と、
前記浮体の振動を監視するための監視装置と、を備え、
前記監視装置は、前記浮体の傾斜角度又は傾斜角速度の少なくとも一方を示す信号から得られる数値の変動量を用いた前記浮体の浮体動揺固有周期以上の長さの期間における統計値に基づいて、前記制御装置による前記制御モードの実行に起因する異常振動を検出するように構成され、
前記浮体の傾斜角度又は傾斜角速度の少なくとも一方を示す物理量を計測するためのセンサと、
前記センサによる検出信号に基づいて、前記浮体の傾斜角度又は傾斜角速度の少なくとも一方を示す前記信号を取得するための信号取得部と、
をさらに備え、
前記信号取得部は、前記風力発電機のヨー角に基づき、前記風力発電機の前後方向と前記センサが計測対象とする傾斜方向との間の平面視における角度差を求め、該角度差に基づいて、前記センサによる検出信号から前記風力発電機の前後方向における前記信号を取得するように構成されたことを特徴とする浮体式風力発電装置。 - 浮体と、
ハブと該ハブに取り付けられたブレードとを含むロータを有し、前記浮体上に立設された風力発電機と、
前記ロータの回転数を定格回転数に維持するように前記ブレードのピッチ角を制御する制御モードを実行可能な制御装置と、
前記浮体の振動を監視するための監視装置と、を備え、
前記監視装置は、前記浮体の傾斜角度又は傾斜角速度の少なくとも一方を示す信号から得られる数値の変動量を用いた前記浮体の浮体動揺固有周期以上の長さの期間における統計値に基づいて、前記制御装置による前記制御モードの実行に起因する異常振動を検出するように構成され、
前記監視装置は、前記ロータが受ける風の風速が定格風速以上であるとき又は前記制御装置による前記制御モードの実行中にのみ、前記統計値に基づいて、前記異常振動を検出するように構成されたことを特徴とする浮体式風力発電装置。 - 浮体と、
ハブと該ハブに取り付けられたブレードとを含むロータを有し、前記浮体上に立設された風力発電機と、
前記ロータの回転数を定格回転数に維持するように前記ブレードのピッチ角を制御する制御モードを実行可能な制御装置と、
前記浮体の振動を監視するための監視装置と、を備え、
前記監視装置は、前記浮体の傾斜角度又は傾斜角速度の少なくとも一方を示す信号から得られる数値の変動量を用いた前記浮体の浮体動揺固有周期以上の長さの期間における統計値に基づいて、前記制御装置による前記制御モードの実行に起因する異常振動を検出するように構成され、
前記監視装置は、前記異常振動を検出したときに、アラームを出力し、又は、前記風力発電機を停止するための信号を前記制御装置に送るように構成されたことを特徴とする浮体式風力発電装置。 - 浮体と、
ハブと該ハブに取り付けられたブレードとを含むロータを有し、前記浮体上に立設された風力発電機と、を備える浮体式風力発電装置の運転方法であって、
前記ロータの回転数を定格回転数に維持するように前記ブレードのピッチ角を制御する制御モードを実行するピッチ制御ステップと、
前記浮体の傾斜角度又は傾斜角速度の少なくとも一方を示す信号を取得する信号取得ステップと、
前記信号取得ステップで取得した信号から得られる数値の変動量を用いた前記浮体の浮体動揺固有周期以上の長さの期間における統計値に基づいて、前記ピッチ制御ステップにおける前記制御モードの実行に起因する前記浮体動揺固有周期の異常振動を検出する異常振動検出ステップと、を備え、
前記変動量は、前記数値と前記期間における前記数値の平均値との差から得られる
ことを特徴とする浮体式風力発電装置の運転方法。
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