JP6351608B2 - 付加開裂剤を含む歯科用組成物 - Google Patents

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Description

発明の詳細な説明
[背景]
硬化性高分子材料は、修復材、セメント、及び接着剤などの広範な歯科用途で使用される。多くの場合、このような材料は硬化に際して収縮する。この収縮は、例えば、材料が歯科用充填剤又は修復材などの限定された環境下にある場合に特に問題となる。一定の環境にありながら収縮に応じ寸法が変化することで、材料内部にひずみが生じ、すなわち、典型的には周囲環境(例えば、歯)に対する圧力に変換される恐れがある。このような力により、歯と高分子材料との間に界面破壊が生じ、物理的に隙間が生まれ、それにより虫歯に微小な漏出が生じてしまう場合がある。あるいは、このような力により、歯及び/又は複合材の内部に破砕が生じ得る。
一般的に、硬化性高分子歯科材料に関係する従来の工程は、接着剤により複合材を口腔表面で保持することを含み、接着剤を硬化させ、続いて複合材を硬化させることを含む。より詳細には、従来の方法は次の工程のうちの1つ以上を利用する:歯を表面処理する工程(例えば、エッチング、プライミング)、硬化性接着剤を歯の表面に適用する工程、接着剤を硬化させる工程、硬化させた接着剤の上に複合材(例えば、修復材)を配置する工程、並びに複合材を硬化させる工程。歯科材料、例えば、硬化中又は硬化後に歯科用材料及び周囲環境にかかる圧力を減少させる、歯科用接着剤及び歯科用複合材が必要とされている。
[概要]
様々な硬化性歯科用組成物が報告されているが、十分な機械的特性又は硬化深度を維持しながら、応力たわみの低減及び/又は収縮の低減等の改善された特性を有する組成物の利点が業界で見出されている。
一部の実施形態では、本開示は、自己接着性であり、かつ個別のエッチング液又はエッチング工程を必要としない、硬化性歯科用組成物を提供する。
う蝕し、象牙質の衰えた又はエナメル質の衰えた歯系組織の再建は、多くの場合、関連する歯系構造に歯科用接着剤を適用した後、歯科用材料(例えば、修復材)を適用することにより行われる。同様にして、接着剤はまた、歯科用材料(例えば、一般的に歯科矯正用接着剤を使用する歯列矯正器具)を歯系構造の表面に接着するために使用することもできる。多くの場合、象牙質又はエナメル質に対する歯科用接着材の結合を促進するために、各種前処理工程が用いられる。典型的には、このような前処理工程は、歯構造とそれを覆う接着剤との間の接着を高めるための、例えば、無機酸又は有機酸を使用したエッチング、それに続くプライミングを含む。
歯系構造表面に対し、歯科用修復材(例えば、樹脂改質されたガラスアイオノマーなどの硬化又は未硬化複合体;充填剤;シーラント封止材;インレー;オンレー;クラウン;ブリッジ;など)又は歯科矯正装置のいずれを適用する場合にも、エッチング剤、プライマー材、及び接着剤が、典型的には段階的に適用されることになる。1つ以上のすすぎ及び乾燥工程を使用してもよい。その結果、歯の修復及び歯列矯正器具の適用は、典型的には複数の手順を伴う。
従来の修復及び/又は歯科矯正の手順を単純化するため、例えば、エッチング及びプライミングの両方を行うことのできる単一の組成物を提供することが望ましい。したがって、基材表面(例えば、象牙質、エナメル質、骨、又は他の硬質組織などの歯系構造)に対する接着剤(例えば、歯科用接着剤)の結合を改善し、かつ従来のエッチングのすすぎ及び乾燥工程を除外することのできるセルフエッチング歯科用プライマー、特に、セルフエッチング用歯科用プライマーが必要とされている。更に、自己エッチング接着剤として提供することのできる新しい組成物、すなわち、1回の前処理工程で適用することができ、プライミング及びエッチング特性を有する歯科用組成物が今もなお必要とされている。更に他の歯科及び歯科矯正治療法では、未処理の歯系構造(すなわち、エッチング剤、プライマー剤、又は結合剤により前処理されていない構造)に結合することのできる自己接着剤組成物(好ましくは、すなわち、一成分系保存安定性組成物)として提供することのできる修復材組成物(例えば、充填剤及び歯列矯正用接着剤)が必要とされている。本開示の好ましい実施形態は、これらの必要とされている事柄を満たすものである。
本明細書で使用するとき、「歯科用組成物」は、任意に、フィラーを含む、口腔表面に接着又は結合し得る材料を指す。硬化性歯科用組成物は、歯の表面に歯科用物品を固着させるために用いられたり、コーティング(例えば、シーラント又はワニス)を歯の表面上に形成するために用いられたり、口内に直接配置され、その場で硬化する修復材として用いられたり、あるいは、後に口内で接着される義歯を口の外で製作したりするために用いることができる。
硬化性歯科用組成物としては、例えば、接着剤(例えば、歯科用及び/又は歯科矯正用接着剤)、セメント(例えば、樹脂変性グラスアイオノマーセメント及び/又は歯科矯正用セメント)、プライマー(例えば、歯科矯正用プライマー)、ライナー(歯の過敏性を低減するために窩洞の基部に適用される)、シーラント等のコーティング(例えば、くぼみ及び亀裂)、及びワニス;並びに歯科用充填材等のレジン修復材(直接的複合材料とも呼ばれる)に加えて、クラウン、ブリッジ、及び歯科インプラント用物品が挙げられる。充填剤を多く含む歯科用組成物は、クラウンが製作され得る、ミルブランクにもまた使用される。複合材料は、歯牙構造の実質的な欠損を充填するために好適なように設計される、充填剤を多く含むペーストである。歯科用セメントは、複合材料と比べて比較的充填剤が少なく粘稠度の低い材料であり、典型的には、インレー及びオンレーなどのような追加的材料の結合剤として作用するか、又は層に適用されて硬化される場合は、それ自体で充填材料として作用する。また、歯科用セメントは、歯の表面又はインプラントアバットメントにクラウン又はブリッジ等の歯科用修復材を永続的に固着させるために用いられる。
本明細書において使用する場合、
「歯科用物品」とは、歯牙構造体又は歯科用インプラントに接着(例えば、固着)することが可能な物品をいう。歯科用物品としては、例えば、クラウン、ブリッジ、ベニヤ、インレー、オンレー、充填材、歯科矯正装具及び装置が挙げられる。
「歯列矯正装具」は、歯列矯正用ブラケット、バッカルチューブ、舌固定装置、歯列矯正用バンド、開口器(bite openers)、ボタン、及びクリートが挙げられるが、これらに限定されない、歯牙構造に固着させることを意図する任意の装置を指す。装具は、接着剤を受け入れる基部を有し、それは金属、プラスチック、セラミック、又はこれらの組み合わせで作られるフランジであってよい。あるいは、基部は、1つ以上の硬化した接着剤層(すなわち、単層若しくは多層接着剤)から形成される特注基部であってもよい。
「口腔表面」とは、口腔環境における軟質の又は硬質の表面をいう。硬質表面としては、典型的には、例えば、天然の及び人工の歯の表面、骨等を含む歯牙構造が挙げられる。
「硬化性」は、化学線照射により重合及び/又は架橋を誘導するなどといったフリーラジカル法により重合又は架橋することのできる材料又は組成物についての説明であり、「硬化した」は、材料又は組成物が既に硬化している(例えば、重合又は架橋されている)ことを意味する。
「開始剤」は、樹脂の硬化を開始することのできるものを指す。開始剤としては、例えば、重合開始剤系、光反応開始剤系、熱反応開始剤系及び/又は酸化還元開始剤系を挙げることができる。
「セルフエッチング」組成物とは、歯構造体表面をエッチング剤で前処理せずとも歯構造体の表面に固着させる組成物を指す。好ましくは、セルフエッチング性組成物はまた、個別のエッチング剤又はプライマーが使用されない場合に、セルフプライマーとして機能させることもできる。
「自己接着性」組成物とは、歯構造体の表面をプライマー又は固着剤で前処理せずとも、歯構造体表面に固着させることができる組成物を指す。好ましくは、自己接着性組成物は、別個のエッチング剤を使用しないセルフエッチング性組成物でもある。
「歯系構造表面」は、歯構造(例えば、エナメル質、象牙質、及びセメント質)及び骨を指す。
「アンカット(uncut)」歯牙組織表面は、切削、研削(grinding)、又は穿孔(drilling)などによって加工されていない歯牙組織表面を指す。
「未処理」の歯系構造表面は、本発明のセルフエッチング接着剤又はセルフ接着剤組成物の適用前に、エッチング剤、プライマー剤、又は結合剤による処理を受けていない歯又は骨表面を指す。
「未エッチング」の歯系構造表面は、本発明のセルフエッチング接着剤又はセルフ接着剤組成物の適用前に、エッチング剤による処理を受けていない歯又は骨表面を指す。
用語「(メタ)アクリレート」は、アクリレート、メタクリレート、又はこれらの組み合わせを指す省略形であり、「(メタ)アクリル酸」は、アクリル酸、メタクリル酸、又はこれらの組み合わせを指す省略形であり、「(メタ)アクリル」は、アクリル、メタクリル、又はこれらの組み合わせを指す省略形である。
「アクリロイル」は一般的な意味で用いられ、アクリル酸の誘導体だけなく、アミン誘導体及びアルコール誘導体もそれぞれ意味する。
「(メタ)アクリロイル」は、アクリロイル基及びメタクリロイル基の両方を含む。すなわち、エステル及びアミドの両方を包含する。
「アルキル」は、直鎖状、分枝鎖状、及び環状アルキル基を含み、非置換及び置換アルキル基の両方を含む。特に指定がない限り、アルキル基は、典型的には、1〜20個の炭素原子を含有する。本明細書で使用するとき、「アルキル」の例としては、メチル、エチル、n−プロピル、n−ブチル、n−ペンチル、イソブチル、t−ブチル、イソプロピル、n−オクチル、n−ヘプチル、エチルヘキシル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、アダマンチル、及びノルボルニルなどが挙げられるが、これらに限定されない。特に記載しない限り、アルキル基は、一価であっても多価であってもよく、すなわち、一価アルキルであっても多価アルキレンであってもよい。
「ヘテロアルキル」は、未置換及び置換アルキル基の両方と共にS、O、及びNから独立して選択される1個以上のヘテロ原子を有する直鎖、分枝状、及び環状のアルキル基をいずれも包含する。別途記載のない限り、ヘテロアルキル基は、典型的には、1〜20個の炭素原子を含有する。「ヘテロアルキル」は、以下に記載の「1個以上のS、N、O、P、又はSi原子を含有するヒドロカルビル」の部分集合である。本明細書で使用するとき、「ヘテロアルキル」の例としては、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、3,6−ジオキサへプチル、3−(トリメチルシリル)−プロピル、4−ジメチルアミノブチル、及びこれらに類するものが挙げられるが、これらに限定されない。別途記載のない限り、ヘテロアルキル基は、一価であっても多価であってもよく、すなわち、一価ヘテロアルキルであっても多価ヘテロアルキレンであってもよい。
「アリール」は、5〜18個の環原子を含有する芳香族であり、任意の縮合環を含有してもよく、これは、飽和であっても、不飽和であっても、又は芳香族であってもよい。アリール基の例としては、フェニル、ナフチル、ビフェニル、フェナントリル、及びアントラシルが挙げられる。ヘテロアリールは、窒素、酸素、又は硫黄等の1〜3個のヘテロ原子を含有するアリールであり、縮合環を含有してもよい。ヘテロアリール基のいくつかの例は、ピリジル、フラニル、ピロリル、チエニル、チアゾリル、オキサゾリル、イミダゾリル、インドリル、ベンゾフラニル、及びベンゾチアゾリルである。別途記載のない限り、アリール及びヘテロアリール基は、一価であっても多価であってもよく、すなわち、一価アリールであっても多価アリーレンであってもよい。
「(ヘテロ)ヒドロカルビル」は、ヒドロカルビルアルキル及びアリール基、並びにヘテロヒドロカルビルヘテロアルキル及びヘテロアリール基を含み、後者は、エーテル又はアミノ基等の1つ以上のカテナリー(鎖内)酸素ヘテロ原子を含む。ヘテロヒドロカルビルは、任意に、エステル、アミド、尿素、ウレタン、及びカーボネート官能基等の1つ以上のカテナリー(鎖内)官能基を含有してもよい。別途記載のない限り、非高分子(ヘテロ)ヒドロカルビル基は、典型的には、1〜60個の炭素原子を含有する。このようなヘテロヒドロカルビルのいくつかの例には、本明細書で使用するとき、上記「アルキル」、「ヘテロアルキル」、「アリール」、及び「ヘテロアリール」について記載したものに加えて、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、4−ジフェニルアミノブチル、2−(2’−フェノキシエトキシ)エチル、3,6−ジオキサヘプチル、3,6−ジオキサへキシル−6−フェニルが挙げられるが、これらに限定されない。
「結合」は、表面結合官能基という文脈において、付加開裂剤と基材との間の共有結合又はイオン性結合の形成を指す。結合はまた、表面結合官能基による基材のエッチング、例えば、酸性基による歯科用基材のエッチングを含む。
[詳細な説明]
歯科用組成物、歯科用物品、及び使用方法を本明細書に記載する。歯科用組成物は、以下の官能基、1)切断及び再形成してひずみを軽減することができる不安定付加開裂基、並びに2)共有又はイオン性結合を形成することにより基材(歯系構造又は物品など)の表面に結合する少なくとも2つの表面結合官能基を有する、少なくとも1つの付加開裂剤を含む。表面結合基には、酸官能基による象牙質のエッチングなど、歯系構造又は物品をエッチングするものが含まれる。
付加開裂剤は、不安定であり、フリーラジカルにより切断可能である。一部の実施形態では、歯科用組成物は自己接着性である。すなわち、歯系構造への歯科用組成物の結合を促進するために酸によるエッチングの別個の工程を必要としない。
付加開裂剤は、一般式:
−AF−Rのものであり、
式中、
AFが付加開裂剤であり、
及びRがそれぞれ独立して、Y−Q’−、(ヘテロ)アルキル基、又は(ヘテロ)アリール基であるが、但し、付加開裂剤が少なくとも2つのY基を有し、Q’が、共有結合、又は価数がp+1である(ヘテロ)ヒドロカルビル連結基であり、Yが、付加開裂剤が配置される基材と関連付けられる表面結合有機官能基である。
付加開裂剤「AF」は、付加し、断片化させ、再度付加して、ポリマーの成長時にポリマー鎖に対しかかる応力を減少させることができる不安定な基である。有用な付加開裂基としては、1,5−ジアシル、2,2−ジメチル−4−メチレン(すなわち、2,2−ジメチル−4−メチレングルタル酸)、ジチオエステル、ジチオカルバメート、トリチオカーボネート、チウラムジスルフィド、キサンテートビニルエーテル、アリルスルフィド、アリルスルホン、アリルスルホキシド、アリルホスホナート、及びアリルペルオキシドが挙げられる。
本発明に使用するための好適な付加開裂官能基又は剤としては、従来の可逆的付加開裂連鎖移動(RAFT)剤に特徴的な官能基も包含される。RAFT剤は、当業者に既知であり、G.Moadら、Radical addition−fragmentation chemistry in polymer synthesis,Polymer,Vol.49,No.5.(2008年3月3日),pp.1079〜1131に記載される。RAFT剤の例は、米国特許第6,153,705号、同第7250479号(Moad)、同第6812291号(Corpartら)、同第6747111号(Moadら)、及び同第6153705号に示される。アリルスルフィド連鎖移動基は、Meijsら、Macromolecules,21(10),3122〜3124,1998により記載される。好適な付加開裂鎖移動剤としては、トリチオ炭酸又はアリルスルフィド官能基が挙げられる。
ある特定の好ましい実施形態では、付加開裂基は、下式:
Figure 0006351608

の1,5−ジアシル,2,2−ジメチル−4−メチレンで表されるものであり、式中、
が、Y−Q’−、(ヘテロ)アルキル基、又は(ヘテロ)アリール基であり、
Q’は共有結合又は連結基であり、好ましくは価数がp+1である有機(ヘテロ)ヒドロカルビル連結基であり、
Yが、表面結合有機官能基であり、
pが少なくとも2であり、
nが0又は1である。
付加開裂剤は、下式:
Figure 0006351608

の2,2−ジメチル−4−メチレングルタル酸誘導体であることが好ましく、式中、
、R、及びRがそれぞれ独立して、Y−Q’−、(ヘテロ)アルキル基、又は(ヘテロ)アリール基であるが、但し、R、R、及びRのうちの少なくとも2つはY−Q’−であり、
Q’が共有結合又は連結基であり、好ましくは価数がp+1である有機(ヘテロ)ヒドロカルビル連結基であり、
Yが表面結合有機官能基であり、
pが1又は2であり、
が独立して、−O−又は−NR−であり、式中、Rは、H又はC〜Cアルキルであり、
nが0又は1である。R、R、及びRのうちのそれぞれは、2つ以上のY−Q’−基を含有することが、更に理解されるであろう。
式Iに記載の付加開裂剤は、参照により本明細書に組み込まれる、2012年11月12日に同時に提出された、米国仮出願第61/725061号(弁理士整理番号71111US002)に記載される。
望ましい実施形態では、式R−AF−Rの付加開裂物質(「AFM」)、又は式Iのそれを、少なくとも1つのエチレン性不飽和モノマー又はオリゴマーを含む歯科用組成物に添加することができる。理論に束縛されるものではないが、そのような付加開裂物質を含むことで、参照により本明細書に組み込まれる、2012年11月12日に同時に提出された、米国特許仮出願第61/725061号(弁理士整理番号71111US002)に記載の機構などによって、重合により誘導される応力が減少するものと推測される。
付加開裂剤は、以下のスキーム1に示す付加開裂経路に従うと考えられる。このスキームでは、nが0である式Iの付加開裂基/剤を示す。工程1では、フリーラジカル種P・は付加開裂剤を助長する。付加開裂剤はその後、工程2に示すように開裂して、安定したα−カルボニル第三級ラジカル、及びフリーラジカル種P・の残基を担持するα,β−不飽和エステルを形成する。このα,β−不飽和エステルは、工程5に示すようにラジカル付加され得る。ラジカル付加は、反応開始剤又はポリマーラジカルによって開始し得る。
同時に、α−カルボニル第三級ラジカルは、工程3に示すように、モノマーの重合を開始させ得る。例示のために、メタクリレートモノマーを示す。モノマーが付加されると、メタクリレート末端ラジカル中間体が生成される。式1の付加開裂剤の存在下では(工程4に示す)、第三級ラジカルが得られる付加及び開裂の両方が生じる。工程4から得られるポリマーは、追加的なモノマー(複数可)を更に開裂し、再結合又は付加し得る。
Figure 0006351608
応力軽減はまた、付加開裂剤の存在下で反応速度が低下した(硬化速度が減速した)結果でもあり得る。ラジカルを付加開裂剤に付加した結果、寿命の長い可能性がある第三級ラジカル(スキーム1、工程1の生成物)が生成された。この寿命の長いラジカル中間体は、出発物質に戻って、モノマーに付加、又は開裂し得る。開裂、逆付加(retro-addition)、及びモノマー付加が、付加と比べて緩徐である場合、中間体第三級ラジカルは、比較的長い寿命を有する。この寿命の長いラジカル中間体は、次いで、ラジカルリザーバとして作用し、全体的重合プロセスを減速させる。硬化速度の低下は、粘稠な物質から弾性又は粘弾性固体への物質の移行を遅延させ、ゲル化点を遅延させる働きをし得る。ゲル化後の収縮は、応力発生の主な要素であり、したがって、わずかであってもゲル化点が遅延すると、硬化プロセス中に物質が流動する更なる時間を与えることによって応力の軽減を導くことができる。したがって、式Iの化合物でさえも、重合応力を低減するために使用することができる。
更に式Iに関しては、自己接着又はセルフエッチングし得る有用なY−Q’基(R−X−基及び任意にR−X−並びにR−X−基)としては、モノホスフェート、ホスホネート、ホスホン酸、ヒドロキサム酸、カルボン酸、及びアセト酢酸、無水物、イソニトリル基、シリル基、ジスルフィド基、チオール基、アミノ基、スルフィン酸基、スルホン酸基、ホスフィン基、フェノール基(カテコール及び1,2,3−トリヒドロキシベンゼン誘導体を含む)、又はヘテロ芳香環基が挙げられる。歯科用途において特に対象となるのは、歯系構造に結合することができるもの、歯系構造をエッチングできるもの、あるいはこれに結合することができるY基のものである。好ましいY基としては、モノホスフェート、ホスホネート、ホスホン酸、及びカルボン酸が挙げられる。Q’基は、−O−、−S−、−N(R)−、−SO−、−PO−、−CO−、−OCO−、−R−、−N(R)−CO−、−N(R)−、−N(R)−CO−O−、−N(R)−CO−NR−、−CO−O−R−、−CO−N(R)−R−、−R−CO−O−R−、−O−R−、−S−R−、−N(R)−R−、−SO−R−、−PO−R−、−CO−R−、−OCO−R−、−N(R)−CO−R−、N(R)−R−CO−O−、及び−N(R)−CO−N(R)−から選択され、式中、各Rは、水素、C〜Cアルキル基、又はアリール基であり、各Rは、上記Q基について記載の(ヘテロ)ヒドロカルビル基である。
別の実施形態では、Yは、式−SiR のシリル基であり、式中、各R基は独立して、アルコキシ基、アセトキシ基、及びハライド基から選択される。このようなシリル官能性の付加開裂剤を、歯科用装置及び組成物のシリカフィラー又は他のセラミック材に結合させることができる。
未充填の硬化性歯科用組成物の重合性樹脂部分中の付加開裂剤(複数可)の総量は、典型的には15重量%以下である。付加開裂モノマーの濃度が上昇するにつれて、応力たわみ及びワット収縮は、典型的に、低下する。しかしながら、付加開裂剤の量が最適量を超過する場合、ダイヤメトラル引張強度及び/若しくはバーコル硬度等の機械的特性、又は硬化深度が不十分になり得る。
本明細書に記載の硬化性歯科用組成物の重合性樹脂部分には、少なくとも0.1重量%の付加開裂剤(複数可)が含まれる。一般的に、付加開裂剤の量は、未充填の歯科用組成物重合性成分の約0.5〜10重量%である。
本明細書に記載の充填硬化性歯科用組成物は、典型的には、少なくとも0.1重量%の付加開裂剤(複数可)を含む。充填硬化性歯科用組成物中の付加開裂剤(複数可)の総量は、典型的には5重量%以下である。
硬化時に高重合応力が発生する材料は、歯の表面にひずみを生じさせる。このような応力の1つの臨床的帰結は、修復の寿命の短縮であり得る。複合体中に存在する応力は、接着界面を通過して歯の表面に達し、周囲の象牙質及びエナメル質において咬合たわみ及び亀裂を生じさせ、それによってR.R.Cara et al,Particulate Science and Technology 28;191〜206(2010)に記載の通り術後過敏を引き起し得る。本明細書に記載する好ましい(例えば、充填)歯科用組成物(充填材及びクラウン等の修復材に有用)は、典型的に、2.0、又は1.8、又は1.6、又は1.4、又は1.2、又は1.0、又は0.8、又は0.6マイクロメートル以下の応力たわみを呈する。
式Iの化合物は、置換、変位、又は縮合反応によって、(メタ)アクリレートダイマー及びトリマーから調製することができる。出発(メタ)アクリレートダイマー及びトリマーは、参照により本明細書に援用される米国特許第4,547,323号の方法を用いて、フリーラジカル反応開始剤及びコバルト(II)錯体触媒の存在下で、(メタ)アクリロイルモノマーのフリーラジカル付加によって調製することができる。あるいは、(メタ)アクリロイルダイマー及びトリマーは、参照により本明細書に援用される米国特許第4,886,861号(Janowicz)又は同第5,324,879号(Hawthorne)の方法を用いて、コバルトキレート錯体を用いて調製することができる。いずれのプロセスでも、反応混合物は、ダイマー、トリマー、より高級なオリゴマー、及びポリマーの複合混合物を含有し得、所望のダイマー又はトリマーは、蒸留によって混合物から分離することができる。そのような合成は、参照により本明細書に組み込まれる、2012年11月12日に同時に提出された、米国特許仮出願第61/725061号(弁理士整理番号71111US002)及び後述の実施例に更に記載される。
本明細書に記載の硬化性組成物は、付加開裂剤と共に、少なくとも1つのエチレン性不飽和樹脂モノマー又はオリゴマーを更に含む。プライマー等のいくつかの実施形態では、エチレン性不飽和モノマーは、単一の(例えば、末端の)エチレン性不飽和基を有する単官能性であってよい。歯科用修復材等の他の実施形態では、エチレン性不飽和モノマーは、多官能性である。「多官能性エチレン性不飽和」という表現は、モノマーがそれぞれ、少なくとも2つの、(メタ)アクリレート基等のエチレン性不飽和(例えば、フリーラジカル)重合性基を含むことを意味する。
歯科用組成物中の硬化性樹脂の量は、所望の最終用途(接着剤、セメント、修復材など)に関係する関数であり、かつ歯科用組成物の(すなわち未充填)重合性樹脂に対して表すことができる。組成物がフィラーを更に含む好ましい実施形態では、モノマーの濃度は、総(すなわち、充填)組成物に対して表すこともできる。組成物がフィラーを含まない場合、重合性樹脂部分は、総組成物と同じである。
望ましい実施形態では、このような硬化性歯科用樹脂のエチレン性不飽和基としては、(メタ)アクリルアミド及び(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリロイルが挙げられる。他のエチレン性不飽和重合性基としては、ビニル及びビニルエーテルが挙げられる。エチレン性不飽和末端重合性基(複数可)は、特に化学線(例えば、UV及び可視線)に曝露することによって硬化される組成物に対しては、(メタ)アクリレート基であることが望ましい。更に、メタクリレート官能性は、典型的に、硬化性歯科用組成物においてアクリレート官能性よりも好ましい。エチレン性不飽和モノマーは、歯科用組成物で使用する場合、当該技術分野において既知である通り、様々なエチレン性不飽和モノマーを含んでよい。
望ましい実施形態では、(例えば、歯科用)組成物は、収縮性モノマー(shrinkagemonomer)を少量有する1つ以上の歯科用樹脂を含む。好ましい(例えば、充填された)硬化性歯科用樹脂(充填材及びクラウンなどの復元に有用)は、組成物の示すワッツ収縮が約2%、好ましくは1.80%以下、更に1.60%以下になるよう、1つ以上の収縮樹脂を少量含む。好ましい実施形態では、ワット収縮は、1.50%以下、又は1.40%以下、又は1.30%以下であり、いくつかの実施形態では、1.25%以下、又は1.20%以下、又は1.15%以下、又は1.10%以下である。
好ましい低体積収縮モノマーとしては、それぞれ参照により本明細書に組み込まれる、U.S.S.N.第2011/027523号(Abuelyamanら)に記載のもの等のイソシアヌレート樹脂、U.S.S.N第2011/041736号に記載のもの等のトリシクロドデカン樹脂、米国特許第7,888,400号(Abuelyamanら)に記載のもの等の少なくとも1つの環状アリルスルフィド部分を有する重合性樹脂、米国特許第6,794,520号(Mosznerら)に記載のもの等のメチレンジチエパンシラン、並びに米国特許第2010/021869号(Abuelyamanら)に記載のもの等の、ジ、トリ、及び/又はテトラ(メタ)アクリロイル含有樹脂が挙げられる。
好ましい実施形態では、(例えば、無充填)重合性樹脂組成物の大部分は、1以上の低体積収縮モノマー(「低収縮モノマー」)を含む。例えば、(例えば、無充填)重合性樹脂組成物のうちの少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、又はそれ以上は、低体積収縮モノマーを含んでよい。
1つの実施形態では、歯科用組成物は、少なくとも1つのイソシアヌレート樹脂を含む。イソシアヌレート樹脂は、イソシアヌレートコア構造としての三価イソシアヌル酸環と、(例えば、二価)連結基を介してイソシアヌレートコア構造の窒素原子のうちの少なくとも2つに結合している少なくとも2つのエチレン性不飽和(例えば、フリーラジカル)重合性基とを含む。連結基は、イソシアヌレートコア構造の窒素原子と末端エチレン性不飽和基との間の原子の鎖全体である。エチレン性不飽和(例えば、フリーラジカル)重合性基は、一般的に、(例えば、二価)連結基を介してコア又は骨格ユニットに結合する。
三価イソシアヌレートコア構造は、一般的に、式:
Figure 0006351608

を有する。
二価連結基は、少なくとも1つの窒素、酸素又は硫黄原子を含む。このような窒素、酸素又は硫黄原子は、ウレタン、エステル、チオエステル、エーテル、又はチオエーテル結合を形成する。エーテル及び特にエステル結合は、収縮の低減等の特性の改善、及び/又は機械的特性、例えば、ダイヤメトラル引張強度(DTS)の増大を提供するためにウレタン結合を含むイソシアヌレート樹脂よりも有益であり得る。したがって、一部の実施形態では、イソシアヌレート樹脂の二価連結基は、ウレタン結合を含まない。いくつかの好ましい実施形態では、二価連結基は、脂肪族又は芳香族のジエステル結合等のエステル結合を含む。
イソシアヌレートモノマーは、典型的に、以下の一般式を有する。
Figure 0006351608

式中、Rは、直鎖、分岐鎖若しくは環状アルキレン、アルキレン、又はアルカリーレンを含み、かつ任意にヘテロ原子(例えば、酸素、窒素、又は硫黄)を含む、(ヘテロ)ヒドロカルビル基であり、Rは水素又はC1〜C4アルキルであり、Rは、ウレタン、エステル、チオエステル、エーテル、又はチオエーテル、及びそのような部分の組み合わせから選択される少なくとも1つの部分を含むアルキレン、アリーレン、又はアルカリーレン連結基を含むヘテロヒドロカルビル基であり、少なくとも1つのR基は、
Figure 0006351608

である。
は、典型的に、任意にヘテロ原子を含む、12個以下の炭素原子を有する直鎖、分枝鎖又は環状アルキレンである。一部の好ましい実施形態では、Rは8個以下、6個以下、又は4個以下の炭素原子を有する。一部の好ましい実施形態では、Rは、少なくとも1つのヒドロキシル部分を含む。
一部の実施形態では、Rは、ジエステル結合等の脂肪族又は芳香族エステル結合を含む。
一部の実施形態では、Rは1つ以上のエーテル部分を更に含む。したがって、連結基はエステル又はジエステル部分と1つ以上のエーテル部分との組み合わせを含むことができる。
イソシアヌレートモノマーがジ(メタ)アクリレートモノマーである実施形態については、Rは、任意にヘテロ原子を含む、水素、アルキル、アリール、又はアルカリルである。
本明細書に記載の硬化性無充填歯科用組成物の重合性樹脂部分は、少なくとも10重量%、15重量%、20重量%、又は25重量%の多官能性エチレン性不飽和イソシアヌレート樹脂(複数可)を含んでもよい。イソシアヌレート樹脂は、単一のモノマー、又は2以上のイソシアヌレート樹脂のブレンドを含んでよい。硬化性歯科用組成物の無充填重合性樹脂部分中のイソシアヌレート樹脂(複数可)の総量は、典型的に、90重量%、85重量%、80重量%、又は75重量%以下である。
本明細書に記載する充填硬化性歯科用組成物は、
典型的には、少なくとも5重量%、6重量%、7重量%、8重量%、又は9重量%の多官能性エチレン性不飽和イソシアヌレート樹脂(複数可)を含む。充填硬化性(すなわち、重合性)歯科用組成物のイソシアヌレート樹脂(複数可)の総量は、典型的に、20重量%、又は19重量%、又は18重量%、又は17重量%、又は16重量%、又は15重量%以下である。
別の実施形態では、歯科用組成物は、少なくとも1つのトリシクロデカン樹脂を含む。トリシクロデカン樹脂は、単一のモノマー、又は2以上のトリシクロデカン樹脂の混成物を含んでもよい。(すなわち、無充填)重合性樹脂部分又は充填硬化性(すなわち、重合性)組成物中の多官能性エチレン性不飽和トリシクロデカンモノマーの濃度は、多官能性エチレン性不飽和イソシアヌレートモノマーについて上述したものと同一であってよい。
トリシクロデカンモノマーは、一般的に、コア構造(すなわち、骨格ユニット(U)):
Figure 0006351608

を有する。
トリシクロデカン樹脂が典型的にエーテル結合を介して骨格ユニット(U)に結合している場合、骨格ユニット(U)は、1つ又は2つのスペーサーユニット(複数可)(S)を含む。少なくとも1つのスペーサーユニット(S)は、CH(R10)−OG鎖(各基Gは、(メタ)アクリレート部分を含み、R10は、水素、アルキル、アリール、アルカリル及びこれらの組み合わせから選択される少なくとも1つの基を含む)を含む。一部の実施形態では、R10は、水素、メチル、フェニル、フェノキシメチル、及びこれらの組み合わせである。Gは、ウレタン部分を介してスペーサーユニット(S)に結合してよい。
一部の実施形態では、スペーサーユニット(複数可)(S)は、典型的に、
Figure 0006351608

を含み、式中、mは1〜3であり、nは1〜3であり、R10は水素、メチル、フェニル、フェノキシメチルである。
他の実施形態では、スペーサーユニット(複数可)(S)は、典型的に、
Figure 0006351608

を含み、式中、M=アリールである。
一部の実施形態では、組成物は、約1.5:1〜1:1.5の範囲の重量比で、多官能性エチレン性不飽和イソシアヌレートモノマーと多官能性エチレン性不飽和トリシクロデカンモノマーとを含む。
一部の実施形態では、硬化性歯科用組成物は、少なくとも1つの(メタ)アクリロイル部分と共に少なくとも1つの環状アリルスルフィド部分を有する重合性樹脂を含む。
環状アリルスルフィド部分は、典型的に、環内に2つのヘテロ原子を有し、そのうちの1つが硫黄である、少なくとも1つの7又は8員環を含む。最も典型的には、ヘテロ原子の両方が硫黄であり、これらは、任意に、SO、SO、又はS−S部分の一部として存在してもよい。他の実施形態では、環は、硫黄原子に加えて、酸素又は窒素等、環内に第2の異なるヘテロ原子を含んでもよい。更に、環状アリル部分は、複数の環構造を含んでもよい。すなわち、2以上の環状アリルスルフィド部分を有してもよい。(メタ)アクリロイル部分は、好ましくは、(メタ)アクリロイルオキシ(すなわち、(メタ)アクリレート部分)又は(メタ)アクリロイルアミノ(すなわち、(メタ)アクリルアミド部分)である。
一実施形態では、低収縮樹脂としては、式:
Figure 0006351608

によって表されるものが挙げられる。
上記式中、各Aは独立して、S、O、N、C(例えば、各R10が独立してH又は有機基である、C(R10)、SO、SO、N−アルキル、N−アシル、NH、N−アリール、カルボキシル又はカルボニル基から選択することができるが、但し、少なくとも1つのXは、S、又はSを含む基である。好ましくは、各Aは硫黄である。
Bは、任意にヘテロ原子、カルボニル、若しくはアシルを含むアルキレン(例えば、メチレン、エチレン等)であるか、又は、存在せず、それによって、典型的に7〜10員環である環の大きさを示すが、より大きな環も想定される。好ましくは、環は、Yを含む7又は8員環であり、したがって、それぞれ、存在しないか又はメチレンである。いくつかの実施形態では、Yは、存在しないか、又は任意に、ヘテロ原子、カルボニル、アシル、若しくはこれらの組み合わせを含むC1〜C3アルキレンである。
は独立して、−O−又は−NR−であり、Rは、H又はC〜Cアルキルである。
11基は、アルキレン(典型的に、2つ以上の炭素原子を有する、すなわち、メチレンを除外する)、任意にヘテロ原子(例えば、O、N、S、S−S、SO、SO2)を含むアルキレン、アリーレン、環状脂肪族、カルボニル、シロキサン、アミド(−CO−NH−)、アシル(−CO−O−)、ウレタン(−O−CO−NH−)、及び尿素(−NH−CO−NH−)基、並びにこれらの組み合わせから選択されるリンカーを表す。特定の実施形態では、R’は、直鎖又は分枝鎖のいずれであってもよく、かつ非置換であっても、アリール、シクロアルキル、ハロゲン、ニトリル、アルコキシ、アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、アルキルチオ、カルボニル、アシル、アシルオキシ、アミド、ウレタン基、ウレア基、環状アリルスルフィド部分、又はこれらの組み合わせで置換されていてもよいアルキレン基、典型的に、メチレン又はより長い基を含む。
は、H又はC〜Cアルキルであり、「a」及び「b」は独立して1〜3である。
任意に、環状アリルスルフィド部分は、環において、直鎖又は分枝鎖のアルキル、アリール、シクロアルキル、ハロゲン、ニトリル、アルコキシ、アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、アルキルチオ、カルボニル、アシル、アシルオキシ、アミド、ウレタン基、及びウレア基から選択される1以上の基で更に置換されてもよい。好ましくは、選択される置換基は、硬化反応に干渉しない。非置換メチレンメンバーを含む環状アリルスルフィド構造が好ましい。
典型的な低収縮モノマーは、環内の2つの硫黄原子、及びアシル基で環の3位に直接結合するリンカー(すなわち、環−OC(O)−)と共に8員環状アリルスルフィド部分を含んでよい。典型的に、ハイブリッドモノマーの重量平均分子量(MW)は、約400〜約900の範囲であり、いくつかの実施形態では、少なくとも250、より典型的には少なくとも500、最も典型的には少なくとも800である。
少なくとも1つの環状アリルスルフィド部分を有する重合性化合物を含むと、高いダイヤメトラル引張強度と低体積収縮との相乗的組み合わせを得ることができる。
別の実施形態では、歯科用組成物は、以下の一般式を有する少なくとも1つのジ−、トリ−、及び/又はテトラ(メタ)アクリロイル含有樹脂を含む低収縮樹脂を含む。
Figure 0006351608

式中、各Xは独立して、−O−又は−NR−であり、Rは、H又はC〜Cアルキルであり、
D及びEはそれぞれ独立して有機基を表し、R12は−C(O)C(CH)=CH、並びに/又は(ii)q=0及びRは、−H、−C(O)CH=CH、又は−C(O)C(CH)=CHを表すが、但し、少なくとも1つのR12は(メタ)アクリレートであり、各mは1〜5であり、p及びqは独立して0又は1である。この物質はビスフェノールAの誘導体であるが、イソシアヌレート及び/又はトリシクロデカンモノマー等の他の低体積収縮モノマーを使用する場合、歯科用組成物は、ビスフェノールAに由来する(メタ)アクリレートモノマーを含まない。
他の実施形態では、歯科用低収縮樹脂は、参照により本案件に組み込まれる米国特許第6,794,520号(Mosznerら)に記載のメチレンジチエパンシラン樹脂から選択され得る。このような樹脂は、一般式:
Figure 0006351608

を有し、式中、R14は、1つ以上の酸素及び/又は硫黄原子により中断されてよく、かつ1つ以上のエステル、カルボニル、アミド、及び/又はウレタン基を含有し得る、炭素原子1〜10個の、飽和又は不飽和脂肪族又は脂環式炭化水素ラジカルであり、あるいは、炭素原子6〜18個の、芳香族又はヘテロ芳香族炭化水素ラジカルであり、炭化水素ラジカルは置換又は非置換であってよく、R15は、R14について与えられた定義のうちの1つを有するか、又は存在せず、R16は、R14について与えられた定義のうちの1つを有するか、又は存在せず、R17は、−(CHR19−、−W−CO−NH−(CHR19−、−Y−CO−NH−R18−、−(CHR19、−SR18−、−CO−O−R18−に等しいか、又は存在せず、nは1〜4に等しく、R19は、水素、C〜C10アルキル、又はC〜C10アリールであり、R18は、R14について与えられた定義のうちの1つを有し、WはO若しくはS原子を表すか、又は存在せず、R18及びR19は置換又は非置換であってよく、R20は加水分解性基であり、d、e、f及びxは、それぞれ互いに独立して、1、2又は3であり、d+xの合計は2〜4である。
多官能性低収縮樹脂は、約25℃にて粘稠(例えば、高粘度)な液体であるものの、流動性である。2010年7月2日出願の欧州特許出願第10168240.9号に記載のようなHaake RotoVisco RV1装置で測定することができるとき、粘度は、典型的に、少なくとも300、又は400、又は500Pasかつ10,000パスカル秒(Pas)以下である。いくつかの実施形態では、粘度は、5000又は2500Pas以下である。
歯科用組成物のエチレン性不飽和樹脂は、典型的に、約25℃で安定な液体であり、これは、少なくとも、30、60、又は90日間の典型的な貯蔵寿命の間室温(約25℃)で保存したとき、樹脂が、実質的に重合、結晶化、又は他の方法で固化しないことを意味する。樹脂の粘度は、典型的に、初期粘度の10%を超えて変化(例えば、増加)しない。
特に、歯科用修復材組成物の場合、エチレン性不飽和樹脂は、一般的に、少なくとも1.50の屈折率を有する。いくつかの実施形態では、屈折率は、少なくとも1.51、1.52、1.53、又はそれ以上である。硫黄原子を含むこと及び/又は1以上の芳香族部分の存在は、(このような置換基を含まない同じ分子量の樹脂に対して)屈折率を上昇させ得る。
一部の実施形態では、(無充填)重合性樹脂は、単独で、付加開裂剤と共に1以上の低収縮樹脂を含んでもよい。他の実施形態では、(無充填)重合性樹脂は、低濃度の他のモノマーを含む。「他の」とは、低体積収縮モノマーではない(メタ)アクリレートモノマー等のエチレン性不飽和モノマーを意味する。
このような他のモノマーの濃度は、典型的に、(無充填)重合性樹脂部分の20重量%、19重量%、18重量%、17重量%、16重量%、又は15重量%以下である。このような他のモノマーの濃度は、典型的に、充填重合性歯科用組成物の5重量%、4重量%、3重量%、又は2重量%以下である。
一部の実施形態では、歯科用組成物の「他のモノマー」は、低粘度反応性(すなわち、重合性)希釈剤を含む。2010年7月2日出願の欧州特許出願第10168240.9号に記載のようなHaake RotoVisco RV1装置で測定することができるとき、反応性希釈剤は、典型的に、300Pas以下、好ましくは、100Pas、又は50Pas、又は10Pas以下の粘度を有する。いくつかの実施形態では、反応性希釈剤は、1又は0.5Pas以下の粘度を有する。反応性希釈剤は、典型的に、600g/モル、又は550g/モル、又は500g/モル未満の分子量を有する、比較的低分子量である。反応性希釈剤は、典型的に、モノ(メタ)アクリレート又はジ(メタ)アクリレートモノマーの場合等、1又は2つのエチレン性不飽和基を含む。
いくつかの実施形態では、反応性希釈剤は、イソシアヌレート又はトリシクロデカンモノマーである。トリシクロデカン反応性希釈剤は、上記と同じ一般的構造を有してよい。好ましい実施形態では、トリシクロデカン反応性希釈剤は、
参照により本明細書に組み込まれる米国特許第2011/041736号(Eckertら)に記載のような、エーテル結合を介して骨格ユニット(U)に結合している1つ又は2つのスペーサーユニット(S)を含む。
低体積収縮組成物中に付加開裂剤を含むことは、典型的に、最低応力及び/又は最低収縮を提供するが、本明細書に記載の付加開裂剤は、エトキシ化ビスフェノールAジメタクリレート(BisEMA6)、2−ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)、ビスフェノールAジグリシジルジメタクリレート(bisGMA)、ウレタンジメタクリレート(UDMA)、トリエチレングリコールジメタクリレート(TEGDMA)、グリセロールジメタクリレート(GDMA)、エチレングリコールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート(NPGDMA)、及びポリエチレングリコールジメタクリレート(PEGDMA)等の従来の硬化性(メタ)アクリレートモノマーを含む歯科用組成物の応力も低減することができる。
硬化性歯科用組成物の硬化性成分は、広範囲の「他の」エチレン性不飽和化合物(酸官能性を有する又は有しない)、エポキシ官能性(メタ)アクリレート樹脂、ビニルエーテル等を含むことができる。
(例えば、光重合性)歯科用組成物は、1以上のエチレン性不飽和基を有するフリーラジカル重合性モノマー、オリゴマー、及びポリマーを含んでよい。好適な化合物は、少なくとも1つのエチレン性不飽和結合を含有し、付加重合を受けることが可能である。有用なエチレン性不飽和化合物の例としては、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、ヒドロキシ官能性アクリル酸エステル、ヒドロキシ官能性メタクリル酸エステル、及びこれらの組み合わせが挙げられる。
このようなフリーラジカル重合性化合物としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)メタクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、グリセロールトリ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリゴールジ(メタ)アクリレート、1,3−プロパンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、1,2,4−ブタントリオールトリ(メタ)アクリレート、1,4−シクロヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ソルビトールヘキサ(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ビス[l−(2−アクリロキシ)]−p−エトキシフェニルジメチルメタン、ビス[l−(3−アクリロキシ−2−ヒドロキシ)]−p−プロポキシフェニルジメチルメタン、エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、及びトリスヒドロキシエチル−イソシアヌレートトリ(メタ)アクリレート等のモノ−、ジ−又はポリ(メタ)アクリレート(すなわち、アクリレート及びメタアクリレート);(メタ)アクリルアミド、メチレンビス−(メタ)アクリルアミド及びジアセトン(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド(すなわち、アクリルアミド及びメタアクリルアミド);ウレタン(メタ)アクリレート;ポリエチレングリコールのビス−(メタ)アクリレート(分子量が200〜500のものが好ましい)、並びにスチレン、ジアリルフタレート、ジビニルスクシネート、ジビニルアジペート、及びジビニルフタレート等のビニル化合物が挙げられる。他の好適なフリーラジカル重合性化合物としては、シロキサン官能性(メタ)アクリレートが挙げられる。必要に応じて、2つ以上のフリーラジカル重合性化合物の混合物を使用することが可能である。
硬化性歯科用組成物はまた、例えば、「その他のモノマー」の例として、ヒドロキシル基及びエチレン性不飽和基を有するモノマーも含有し得る。こうした物質の例としては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート及び2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートのようなヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;グリセロールモノ−又はジ−(メタ)アクリレート;トリメチロールプロパンモノ−又はジ−(メタ)アクリレート;ペンタエリスリトールモノ−、ジ−、及びトリ−(メタ)アクリレート;ソルビトールモノ−、ジ−、トリ−、テトラ−、又はペンタ−(メタ)アクリレート;並びに2,2−ビス[4−(2−ヒドロキシ−3−メタクリルオキシプロポキシ)フェニル]プロパン(bisGMA)が挙げられる。好適なエチレン性不飽和化合物は、多種多様な商業的供給元、例えば、Sigma−Aldrich,St.Louisから入手可能である。
硬化性歯科用組成物は、無充填組成物の総重量に基づいて、少なくとも1重量%、少なくとも3重量%、又は少なくとも5重量%のヒドロキシ官能性を有するエチレン性不飽和化合物を含み得る。組成物は、最高80重量%、最高70重量%、又は最高60重量%のヒドロキシル官能性を有するエチレン性不飽和化合物を含み得る。
本明細書に記載の歯科用組成物には、例えば、「その他の」モノマーの例として、酸官能性を有するエチレン性不飽和化合物の形態で、1つ以上の硬化性成分を含むことができる。存在する場合、重合性成分は、任意に、酸官能性を有するエチレン性不飽和化合物を含む。好ましくは、酸官能性は、炭素、硫黄、リン、又はホウ素のオキシ酸(すなわち、酸素含有酸)を含む。このような酸官能性の「その他の」モノマーは、参照により本案件に組み込まれる米国特許第2005/017966号(Falsafiら)に記載の通りの歯科用組成物の自己接着又はセルフエッチングに関与する。
本明細書で使用する時、酸官能性を有するエチレン性不飽和化合物は、エチレン性不飽和並びに酸官能性及び/又は酸前駆体官能性を有する、モノマー、オリゴマー、及びポリマーを含むことを意味する。酸前駆体官能基としては、例えば、無水物、酸ハロゲン化物、及びピロリン酸塩が挙げられる。酸性官能基としては、カルボン酸官能基、リン酸官能基、ホスホン酸官能基、スルホン酸官能基、又はこれらの組み合わせを挙げることができる。
酸官能性を有するエチレン性不飽和化合物としては、例えば、グリセロールリン酸モノ(メタ)アクリレート、グリセロールリン酸ジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート(例えば、HEMA)リン酸、ビス((メタ)アクリルオキシエチル)リン酸、((メタ)アクリルオキシプロピル)リン酸、ビス((メタ)アクリルオキシプロピル)リン酸、ビス((メタ)アクリルオキシ)プロピルオキシリン酸、(メタ)アクリルオキシヘキシルリン酸、ビス((メタ)アクリルオキシヘキシル)リン酸、(メタ)アクリルオキシオクチルリン酸、ビス((メタ)アクリルオキシオクチル)リン酸、(メタ)アクリルオキシデシルリン酸、ビス((メタ)アクリルオキシデシル)リン酸、カプロラクトンメタクリレートリン酸、クエン酸ジ−又はトリ−メタクリレート、ポリ(メタ)アクリレート化オリゴマレイン酸、ポリ(メタ)アクリレート化ポリマレイン酸、ポリ(メタ)アクリレート化ポリ(メタ)アクリル酸、ポリ(メタ)アクリレート化ポリカルボキシル−ポリホスホン酸、ポリ(メタ)アクリレート化ポリクロロホスホン酸、ポリ(メタ)アクリレート化ポリスルホン酸、ポリ(メタ)アクリレート化ポリホウ酸等のα,β−不飽和酸性化合物が挙げられ、成分として使用することができる。(メタ)アクリル酸、芳香族(メタ)アクリル化酸(例えば、メタクリレート化トリメリット酸)等の不飽和炭酸のモノマー、オリゴマー、及びポリマー、並びにこれらの無水物を使用することも可能である。
歯科用組成物は、少なくとも1つのP−OH部分を有する酸官能性を有する、エチレン性不飽和化合物を含んでよい。このような組成物は、自己接着性及び非水性である。例えば、このような組成物は、少なくとも1つの(メタ)アクリルオキシ基及び少なくとも1つの−O−P(O)(OH)基を含む第1の化合物(式中、xが1又は2であり、少なくとも1つの−O−P(O)(OH)基及び少なくとも1つの(メタ)アクリルオキシ基がC〜Cの炭化水素基によって共に結合している)と、少なくとも1つの(メタ)アクリルオキシ基及び少なくとも1つの−O−P(O)(OH)基を含む第2の化合物(式中、xが1又は2であり、少なくとも1つの−O−P(O)(OH)基及び少なくとも1つの(メタ)アクリルオキシ基がC〜C12の炭化水素基によって共に結合している)と、酸官能基を持たないエチレン性不法飽和化合物と、反応開始剤系と、フィラーとを含むことができる。
硬化性歯科用組成物は、無充填組成物の総重量に基づいて、少なくとも1重量%、少なくとも3重量%、又は少なくとも5重量%の酸官能性を有するエチレン性不飽和化合物を含み得る。組成物は、最高80重量%、最高70重量%、又は最高60重量%の酸官能性を有するエチレン性不飽和化合物を含み得る。
硬化性歯科用組成物としては、米国特許第5,130,347号(Mitra)、同第5,154,762号(Mitra)、同第5,925,715号(Mitraら)及び同第5,962,550号(Akahane)に記載のものなどの樹脂改質されたグラスアイオノマーセメントが挙げられるこのような組成物は、粉末−液体、ペースト−液体、又はペースト−ペースト系であってよい。あるいは、米国特許第6,126,922号(Rozzi)に記載されているもの等のコポリマー製剤は、本発明の範囲に含まれる。
開始剤は、典型的には、重合性材料(すなわち、硬化性樹脂及びAFM)の混合物に添加される。開始剤は、重合性組成物を容易に溶解する(及び、重合性組成物からの分離を阻止する)ことを可能にするために、樹脂系と十分に混和性があるべきである。典型的に、開始剤は、組成物中に、組成物の総重量に基づいて、約0.1重量%〜約5.0重量%などの有効な量で存在する。
付加開裂剤は、一般的に、フリーラジカルにより切断可能である。光重合は、フリーラジカルを発生させるための1つの機構であるが、他の硬化機構もフリーラジカルを発生させる。したがって、付加開裂剤は、硬化中の応力を低減するために、化学線の照射(例えば、光硬化)を必要としない。
いくつかの実施形態では、樹脂の混合物は光重合性であり、組成物は、化学線の照射時に組成物の重合(又は硬化)を開始させる光開始剤(すなわち、光開始剤系)を含有する。こうした光重合性組成物は、フリーラジカル重合性であってよい。光開始剤は、典型的には、約250nm〜約800nmの機能性波長範囲を有する。
フリーラジカル光重合性組成物を重合するのに好適な光開始剤(すなわち、1つ以上の化合物を含む光開始剤系)としては、第2及び第3系が挙げられる。典型的な第3光開始剤としては、米国特許第5,545,676号(Palazzottoら)に記載されているような、ヨードニウム塩、光増感剤、及び電子供与体化合物が挙げられる。ヨードニウム塩としては、ジアリールヨードニウム塩、例えば、ジフェニルヨードニウムクロリド、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロホスフェート及びジフェニルヨードニウムテトラフルオロボレート(tetrafluoroboarate)が挙げられる。一部の好ましい光開始剤としては、約300nm〜約800nm(好ましくは約400nm〜約500nm)の範囲内の一部の光を吸収するモノケトン及びジケトン(例えば、アルファジケトン)、例えば、カンファーキノン、ベンジル、フリル、3,3,6,6−テトラメチルシクロヘキサンジオン、フェナントラキノン及び他の環状アルファジケトンを挙げてもよい。これらのうち、カンファーキノンが典型的には好ましい。好ましい電子供与体化合物としては、置換アミン、例えば、エチル 4−(N,N−ジメチルアミノ)ベンゾエートが挙げられる。
フリーラジカル光重合性組成物を重合するために好適な他の光開始剤としては、典型的には約380nm〜約1200nmの範囲の有効波長を有するホスフィンオキシドの部類が挙げられる。約380nm〜約450nmの機能性波長範囲を有する好ましいホスフィンオキシドフリーラジカル開始剤は、アシル及びビスアシルホスフィンオキシドである。
約380〜約450nmの波長範囲で照射されるとフリーラジカル反応を開始することができる市販のホスフィンオキシド光開始剤としては、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド(IRGACURE 819(Ciba Specialty Chemicals(Tarrytown,N.Y.)))、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−(2,4,4−トリメチルペンチル)ホスフィンオキシド(CGI 403(Ciba Specialty Chemicals))、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキシドと2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オンとの重量で25:75の混合物(IRGACURE 1700(Ciba Specialty Chemicals))、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシドと2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オンとの重量で1:1の混合物(DAROCUR 4265(Ciba Specialty Chemicals)、及びエチル−2,4,6−トリメチルベンジルフェニルホスフィネート(LUCIRIN LR8893X(BASF Corp.(Charlotte,N.C.))が挙げられる。
第三級アミン還元剤を、アシルホスフィンオキシドと組み合わせて使用してもよい。代表的な第三級アミンとしては、エチル−4−(N,N−ジメチルアミノ)ベンゾエート及びN,N−ジメチルアミノエチルメタクリレートが挙げられる。存在する場合、アミン還元剤は、光重合可能な組成物中に、組成物の総重量に基づいて約0.1重量%〜約5.0重量%の量で存在する。いくつかの実施形態では、硬化性歯科組成物は、紫外線(UV)で照射されてもよい。この実施形態では、好適な光反応開始剤としては、Ciba Speciality Chemical Corp.(Tarrytown,N.Y.)からIRGACURE及びDAROCURの商品名で入手可能なものが挙げられ、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(IRGACURE 184)、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン(IRGACURE 651)、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド(IRGACURE 819)、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン(IRGACURE 2959)、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)ブタノン(IRGACURE 369)、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノプロパン−1−オン(IRGACURE 907)、及び2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン(DAROCUR 1173)が挙げられる。
光開始剤はまた、フリーラジカルにより重合可能な基及び光開始剤基を有する重合性光開始剤であってもよい。そのような重合性光開始剤としては、4−ベンゾイルペニルアクリレート、2−(4−ベンゾイルフェノキシ)エチルアクリレート、及び2−[4−(2−ヒドロキシ−2−メチルプロパノイル)フェノキシ]エチル−N−アクリロイル−2−メチルアリネートが挙げられ、参照により本明細書に組み込まれる、米国特許第7,838,110号(Zhuら)、同第5,506,279(Babuら)、及びTemel et al.「Photopolymerization and photophysical properties of amine linked benzophenone photoinitiators for free rradical polymerization」,Journal of Photochemistry and Photobiology A,Chemistry 219(2011),pp.26〜31に記載される。
開始剤は、付加開裂架橋剤に対するフリーラジカルによる付加を促進させるのに効果的な量で使用され、この量は、例えば、開始剤の種類、ポリマーの分子量、及び所望される官能度に基づき、変化する。反応開始剤は、全モノマー100部に基づいて、約0.001重量部〜約5重量部の量で使用することができる。
光重合可能な組成物は、典型的には、組成物の様々な構成成分を混合することにより、調製される。光重合可能な組成物が空気の存在下で硬化しない実施形態では、光開始剤は、「安全な光」条件(すなわち、組成物の硬化を早発させない条件)下で組み合わせられる。混合物を調製する際、必要であれば、好適な不活性溶媒を取り入れてもよい。
硬化は、線源、好ましくは可視光源に組成物を曝露することによって起こる。石英ハロゲン電球、タングステンハロゲン電球、水銀アーク、炭素アーク、低、中、及び高圧水銀電球、プラズマアーク、発光ダイオード、並びにレーザ等の250nm〜800nmの化学線(特に、380nm〜520nmの波長の青色光)を発する光源を使用するのが便利である。一般に、有用な光源は、0.200〜1000W/cmの範囲の強度を有する。このような組成物を硬化させるための様々な従来の光を使用することができる。
この曝露は、複数の方法で達成され得る。例えば、重合性組成物は、全硬化プロセス(例えば、約2秒〜約60秒)にわたって放射線に持続的に曝露されてもよい。また、組成物を、放射線の単回投与に曝露し、その後、放射線源を取り外し、それにより重合を生じさせておくこともまた可能である。一部の場合には、物質は、低強度から高強度へ徐々に増強する光源に曝すことができる。二重曝露が採用される場合、それぞれの投与の強度は、同一でもよく、又は異なっていてもよい。同様に、各曝露の全体のエネルギーは、同一でもよく、又は異なっていてもよい。
多官能性エチレン性不飽和モノマーを含む歯科用組成物は、化学硬化性であってもよく、すなわち、組成物は、化学放射線の照射に依存せずに組成物を重合、硬化、又は他の方法で硬化させることができる化学反応開始剤(すなわち、開始剤系)を含有する。このような化学硬化性(例えば、重合性又は硬化性)組成物は、「自己硬化」組成物とも呼ばれることもあり、レドックス硬化系、熱硬化系及びこれらの組み合わせを包含してもよい。更に、重合性組成物は、異なる複数の開始剤の組み合わせを含んでもよく、これらの開始剤のうちの少なくとも1つはフリーラジカル重合を開始するのに好適である。
化学硬化性組成物は、重合性成分(例えば、エチレン性不飽和重合性成分)並びに酸化剤及び還元剤を包含するレドックス剤を含むレドックス硬化系を含んでもよい。
樹脂系(例えば、エチレン性不飽和成分)の重合を開始することが可能なフリーラジカルを製造するために、還元剤及び酸化剤は、互いに反応するか、ないしは別の方法で協働する。この種の硬化は、暗反応である、すなわち、光の存在に依存せずかつ光が存在しない状態下で進行可能である。還元剤及び酸化剤は、好ましくは十分に貯蔵安定性があり、不快な着色がなく、典型的条件下においての保存及び使用を可能にする。
有用な還元剤としては、アスコルビン酸、アスコルビン酸誘導体及び米国特許第5,501,727号(Wangら)に記載されているようなアスコルビン酸化合物;アミン、特に4−t−ブチルジメチルアニリンなどの第三級アミン;p−トルエンスルフィン酸塩及びベンゼンスルフィン酸塩などの芳香族スルフィン酸塩;1−エチル−2−チオウレア、テトラエチルチオウレア、テトラメチルチオウレア、1,1−ジブチルチオウレア及び1,3−ジブチルチオウレアなどのチオウレア;及びこれらの混合物が挙げられる。他の二級還元剤としては、塩化コバルト(II)、塩化第一鉄、硫酸第一鉄、ヒドラジン、ヒドロキシルアミン(酸化剤の選択に依存する)、亜ジチオン酸塩又は亜硫酸塩アニオンの塩、及びこれらの混合物を挙げてもよい。好ましくは、還元剤はアミンである。
好適な酸化剤はまた、当業者によく知られており、例えば、ナトリウム、カリウム、アンモニウム、セシウム、及びアルキルアンモニウム塩などの過硫酸及びその塩が挙げられるが、これらに限定されない。更なる酸化剤としては、過酸化物、例えば、過酸化ベンゾイル、ヒドロペルオキシド(例えば、クミルヒドロペルオキシド)、t−ブチルヒドロペルオキシド、及びアミルヒドロペルオキシド、並びに遷移金属の塩、例えば、塩化コバルト(III)及び塩化第二鉄、硫酸セリウム(IV)、過ホウ酸並びにこれらの塩、過マンガン酸及びその塩、過リン酸及びその塩、並びにこれらの混合物が挙げられる。
2以上の酸化剤又は2以上の還元剤を使用することが望ましい場合がある。少量の遷移金属化合物を添加して、レドックス硬化速度を速めてもよい。還元剤又は酸化剤は、米国特許第5,154,762号(Mitraら)に記載されているように、マイクロカプセル化することができる。これは、一般に、重合性組成物の貯蔵安定性を増強し、必要であれば、還元剤及び酸化剤を共にパッケージングすることを許容するであろう。例えば、封入剤を適切に選択することにより、酸化剤及び還元剤を酸官能基成分及び任意のフィラーと組み合わせて、貯蔵安定状態に維持することができる。
硬化性歯科用組成物はまた、熱的に活性化されたすなわち熱により活性化されたフリーラジカル開始剤を用いて硬化することができる。典型的な熱反応開始剤としては、過酸化ベンゾイル等の過酸化物、及びアゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物、並びにミルブランクに好ましい過酸化ジクミル等が挙げられる。
歯科用組成物が歯科用修復材(例えば、歯科用充填材又はクラウン)又は歯列矯正用セメントとして使用される好ましい実施形態では、歯科用組成物は、典型的に、相当量の(例えば、ナノ粒子)フィラーを含む。そのようなフィラーの量は、本明細書に更に記載の通り、最終用途の関数である。このような組成物は、組成物の総重量に基づいて、好ましくは、少なくとも40重量%、より好ましくは少なくとも45重量%、最も好ましくは少なくとも50重量%のフィラーを含有する。一部の実施形態では、フィラーの総量は、最大で90重量%、好ましくは最大で80重量%、並びにより好ましくは最大で75重量%のフィラーである。
(例えば、充填)歯科用複合材料は、典型的に、少なくとも約70、75、又は80MPaのダイヤメトラル引張強度(DTS)及び/又は少なくとも約60、又は65、又は70のバーコル硬度を呈する。硬化深度は、市販の修復材用の(例えば、充填)歯科用組成物と同等である、約4〜約5の範囲である。
歯科用接着剤としての使用に好適な歯科用組成物はまた、任意に、組成物の総重量に基づいて、少なくとも1重量%、2重量%、3重量%、4重量%、又は5重量%の量のフィラーを含むことができる。このような実施形態では、フィラーの総濃度は、組成物の総重量に基づいて、最大で40重量%、好ましくは最大で20重量%、並びに好ましくは最大で15重量%である。
フィラーは、例えば、歯科修復材組成物に現在使用されているフィラー等、歯科用途に使用されている組成物内への組み込みに適した多種多様な物質の1種以上から選択されてよい。
フィラーは、無機物質であり得る。また、フィラーは、重合性樹脂に不溶性である架橋済み有機材料であることもでき、それは任意に、無機フィラーと一緒に充填される。フィラーは概して非毒性で、口内の使用に好適であるべきである。フィラーは、放射線不透過性、放射線透過性、又は非放射線不透過性であり得る。歯科用途に使用されるフィラーの性質は、典型的には、セラミックである。
好適な無機フィラー粒子としては、石英(すなわち、シリカ)、サブミクロンのシリカ、ジルコニア、サブミクロンのジルコニア、及び米国特許第4,503,169号(Randklev)に記載される種類の非ガラス質微小粒子が挙げられる。
フィラーはまた、酸反応性フィラーであってもよい。好適な酸反応性フィラーとしては、金属酸化物、ガラス、及び金属塩が挙げられる。典型的な金属酸化物としては、酸化バリウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、及び酸化亜鉛が挙げられる。典型的なガラスとしては、ホウ酸ガラス、リン酸ガラス、及びフルオロアルミノシリケート(「FAS」)ガラスが挙げられる。ガラスが硬化性組成物の構成成分と混合される時、硬化された歯科用組成物が形成されるように、FASガラスは、典型的に十分な溶出性カチオンを含有する。ガラスは更に、典型的には、十分な溶出性フッ化物イオンを含有し、これにより硬化した組成物が抗う蝕性を有する。このガラスは、フッ化物、アルミナ、及び他のガラス形成成分を含有する溶解物から、FASガラス製造技術における当業者に周知の技術を使用して作製することができる。FASガラスは、典型的には、十分に超微粒子状の粒子の形態であるので、他のセメント構成成分と都合よく混合することができ、得られた混合物が口内に使用される時に良好に機能する。
一般に、FASガラスの平均粒径(典型的には、直径)は、例えば、沈殿分析器を使用して測定した場合、12マイクロメートル以下、典型的には10マイクロメートル以下、より典型的には5マイクロメートル以下である。好適なFASガラスは、当業者によく知られており、かつ多種多様な供給元から入手可能であり、多くは、商品名VITREMER、VITREBOND、RELY X LUTING CEMENT、RELY X LUTING PLUS CEMENT、PHOTAC−FIL QUICK、KETAC−MOLAR、及びKETAC−FIL PLUS(3M ESPE Dental Products(St.Paul,MN))、FUJI II LC及びFUJI IX(G−C Dental Industrial Corp.(Tokyo,Japan))、及びCHEMFIL Superior(Dentsply International(York,PA))として市販されているもの等現在利用可能なガラスアイオノマーセメント内に見出される。必要に応じて、フィラーの混合物を使用することが可能である。
他の好適なフィラーは、米国特許第6,387,981号(Zhangら)及び同第6,572,693号(Wuら)、並びに国際公開第01/30305号(Zhangら)、米国特許第6,730,156号(Windischら)、国際公開第01/30307号(Zhangら)、及び同第03/063804号(Wuら)に開示されている。これらの参考文献に記載されたフィラー構成要素としては、ナノサイズのシリカ粒子、ナノサイズの金属酸化物粒子、及び組み合わせが挙げられる。ナノフィラーはまた、米国特許第7,090,721号(Craigら)、同第7,090,722号(Buddら)、同第7,156,911号、及び同第7,649,029号(Kolbら)に記載されている。
好適な有機フィラー粒子の例としては、充填又は非充填粉砕ポリカーボネート、ポリエポキシド、ポリ(メタ)アクリレート及びこれらに類するものが挙げられる。共通に採用される歯科用フィラー粒子は、石英、サブミクロンシリカ、及び米国特許第4,503,169号(Randklev)に記載されている種類の非ガラス質微小粒子である。
また、これらのフィラー、並びに有機及び無機材料から作製された組み合わせフィラーを使用してもよい。
フィラーは、本質的に、粒子状又は繊維状のいずれかであり得る。粒子状フィラーは、一般に、20:1以下、より一般的には10:1以下である長さ対幅の比率、すなわち縦横比を有するものとして定義され得る。繊維は、20:1より大きい、より一般的には100:1より大きい縦横比を有するものとして定義され得る。球形から楕円形、又はフレーク若しくはディスクのようなより平面的なものの範囲で、粒子の形状は多様であり得る。巨視的特性は、フィラー粒子の形状、具体的には形状の均一性に大きく依存し得る。
ミクロンサイズ粒子は、硬化後の磨耗性を改善するために非常に有効である。対照的に、ナノスケールフィラーは、一般的に、粘度及びチキソトロピー変性剤として使用される。それらのサイズの小ささ、高い表面積、及び関連する水素結合のために、これらの物質は、凝集したネットワーク構造を構築することが知られている。
一部の実施形態では、歯科用組成物は、好ましくは約0.100マイクロメートル(すなわち、ミクロン)未満、並びにより好ましくは0.075マイクロメートル未満の平均一次粒径を有するナノスケール粒子状フィラー(すなわち、ナノ粒子を含むフィラー)を含む。本明細書で使用するとき、用語「一次粒径」は、非会合型の単一粒子のサイズを指す。平均一次粒径は、硬化した歯科用組成物の細長い試料を切断し、300,000倍で透過電子顕微鏡を使用して約50〜100個の粒子の粒径を測定し、平均を計算することにより、決定することができる。フィラーは、単峰性又は複峰性(例えば、二峰性)の粒径分布を有することができる。ナノスケール粒子状物質は、典型的には、少なくとも約2ナノメートル(nm)、並びに好ましくは少なくとも約7nmの平均一次粒径を有する。好ましくは、ナノスケール粒子状物質は、約50nm以下、より好ましくは約20nm以下のサイズの平均一次粒径を有する。このようなフィラーの平均表面積は、グラム当たり、好ましくは少なくとも約20平方メートル(m/g)、より好ましくは少なくとも約50m/g、最も好ましくは少なくとも約100m/gである。
いくつかの好ましい実施形態では、歯科用組成物は、シリカナノ粒子を含む。好ましいナノサイズのシリカはNalco Chemical Co.(Naperville,IL)から製品表記NALCO COLLOIDAL SILICASで市販されている。例えば、好ましいシリカ粒子は、NALCO製品1040、1041、1042、1050、1060、2327及び2329を使用することで得られる。
シリカ粒子は、好ましくは、シリカの水性コロイド分散系(すなわち、ゾル又はアクアゾル)から製造される。コロイドシリカは、典型的には、シリカゾル中に約1〜50重量パーセントの濃度で存在する。使用できるコロイドシリカゾルは、様々なコロイドサイズを有して市販されており、Surface & Colloid Science,Vol.6,ed.Matijevic,E.,Wiley Interscience,1973を参照されたい。フィラーの作製に使用するために好ましいシリカゾルは、水性媒質中の非晶質シリカの分散液として供給されており(例えば、Nalco Chemical Company製のNalcoコロイドシリカ)、ナトリウム濃度が低く、好適な酸と混合することにより酸性化することができる(例えば、E.I.Dupont de Nemours & Co.製のLudoxコロイドシリカ又はNalco Chemical Co.製のNalco 2326)。
好ましくは、ゾル中のシリカ粒子は、約5〜100nm、より好ましくは10〜50nm、並びに最も好ましくは12〜40nmの平均粒径を有する。特に好ましいシリカゾルは、NALCO(商標)1042又は2327である。
一部の実施形態では、歯科用組成物は、ジルコニアナノ粒子を含む。好適なナノサイズのジルコニアナノ粒子は、米国特許第7,241,437号(Davidsonら)に記載されているように水熱技術を使用して調製することができる。
一部の実施形態では、より低い屈折率の(例えば、シリカ)ナノ粒子は、重合性樹脂の屈折率にフィラーの屈折率を調和させる(0.02以内の屈折率)ために、より高い屈折率の(例えば、ジルコニア)ナノ粒子と組み合わせて採用される。
いくつかの実施形態では、ナノ粒子は、ナノクラスター、すなわち、硬化性樹脂中に分散させた場合でも粒子を凝集させる比較的弱い分子間力により会合した2個以上の粒子の集団の形態である。
好ましいナノクラスターは、非重(例えば、シリカ)粒子とジルコニアなどの非晶質重金属酸化物(すなわち、原子番号が28よりも大きい)粒子の実質的に非晶質のクラスターを含むことができる。ナノクラスターの一次粒子は、約100nm未満の平均直径を有することが好ましい。好適なナノクラスターフィラーは、参照により本明細書に組み込まれる、米国特許第6,730,156号(Windischら)に記載される。
いくつかの好ましい実施形態では、歯科用組成物は、フィラーと樹脂との間の結合を強化するために、有機金属カップリング剤で処理されたナノ粒子及び/又はナノクラスター表面を含む。有機金属カップリング剤は、アクリレート基、メタクリレート基、ビニル基などの反応性硬化基により官能化されていてよく、かつシラン、ジルコネート又はチタネート系カップリング剤を含み得る。好ましいカップリング剤としては、γ−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、及びこれらに類するものが挙げられる。
好適な共重合性又は反応性有機金属化合物は、一般式CH=C(R22)−R21Si(OR)3−n、又はCH=C(R22)−C=OOR21Si(OR)3−nを有してもよく、式中、RはC〜Cアルキルであり、R21は二価有機ヘテロヒドロカルビル連結基、好ましくはアルキレンであり、R22はH又はC1〜C4アルキルであり、nは1〜3である。好ましいカップリング剤としては、γ−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、及びこれらに類するものが挙げられる。
ナノ粒子の表面を改質するには、例えば、ナノ粒子に表面改質剤(例えば、粉末又はコロイド分散液の形態で)を加えて、表面改質剤をナノ粒子と反応させるなどの多くの方法がある。他の有用な表面改質法は、それぞれ参照により本案件に組み込まれる米国特許第2,801,185号(Iler)、同第4,522,958号(Dasら)、同第6,586,483号(Kolbら)が挙げられる。
表面修飾基は表面改質剤から誘導することができる。模式的に、表面改質剤は、式A−Bにより表すことができ、式中、A基は粒子の表面(すなわち、シリカ粒子のシラノール基)に結合することができ、B基は、組成物の成分に対して反応性であっても非反応性であってもよい官能基である。非官能基は系(例えば、基材)中の他の成分と反応しないものである。非反応性官能基は、粒子の極性を比較的高く、比較的低く、又は比較的非極性とするように、選択することができる。一部の実施例では、非反応性官能基「B」は、酸基(カルボキシレート、スルホネート及びホスホネート基)、アンモニウム基又はポリ(オキシエチレン)基、又はヒドロキシル基などの親水性基である。他の実施形態では、「B」は、フリーラジカルにより重合性樹脂又はモノマーと重合させることのできる、ビニル、アリル、ビニルオキシ、アリルオキシ、及び(メタ)アクリロイルなどといった、エチレン性不飽和重合性基などの反応性官能基であってよい。
このような、場合に応じて用いられる表面改質剤は、シリカナノ粒子の表面官能基(Si−OH基)の0〜100%、一般には1〜90%(存在する場合)が官能化されるような量で使用することができる。官能基の数は、所定量のナノ粒子を、利用可能な反応部位がすべて表面改質剤によって官能化されるように過剰量の表面改質剤と反応させることによって実験的に決定される。この結果から、より低い官能化率を計算することができる。一般に表面改質剤は、無機ナノ粒子の重量に対して同じ重量の表面改質剤の最大で2倍の重量が与えられるだけの充分な量で使用される。表面改質されたシリカナノ粒子が望ましい場合、コーティング組成物に添加する前にナノ粒子を改質することが好ましい。表面修飾剤の量は、特定のフィラー、そのサイズ、及び所望の官能化の程度によって異なるであろう。表面改質されたシリカナノ粒子が望ましい場合、コーティング組成物に添加する前にナノ粒子を改質することが好ましい。
一部の好ましい実施形態では、フィラー、特にシリカフィラーは、式Iの付加開裂剤により表面修飾され得る。したがって、本開示は、付加開裂剤によりモノマー改質されたフィラー粒子を提供する。本明細書に記載の通り、これらの表面改質されたフィラー粒子を重合性混合物と混ぜあわせ、硬化させることができ、結果として、フィラー粒子が硬化性組成物に組み込まれる。式Iを参照する際、表面改質された粒子フィラーは、次の通りに記載することができる:
Figure 0006351608

式中、
Fillerは無機フィラー粒子であり、
は、Y−Q’−、(ヘテロ)アルキル基、又は(ヘテロ)アリール基であり、
Q’は共有結合又は連結基であり、好ましくは価数がp+1である有機(ヘテロ)ヒドロカルビル連結基であり、
Y’は、付加開裂剤を配置した基材と結合する表面結合有機官能基の残基であり、
pは1又は2であり、
は独立して、−O−又は−NR−(式中、Rは、H又はC〜Cアルキルである)であり、
nは0又は1である、付加開裂剤を提供する。
式IのR及びR基は「Y−Q’−」表面結合基で選択されたこと、及びRはそのように示され得たことが、上の式において理解されるであろう。R、R及びRのうちのそれぞれはY−Q’−基を含有し得ること、及びそれぞれは1つ以上のY基を含有できることが、更に理解されるであろう。
本明細書で使用するとき、用語「残基」は、官能基と無機粒子の表面との反応後に残留している官能基の部分を定義するために使用される。例えば、式−SiR のシラン官能基Yの「残基」は、−O−Si(R−である。
更なる例示に際し、粒子フィラーは、シリカ(又はシリカ複合体)から選択することができ、表面結合有機官能基「Y」は、式−SiR のシリル基から選択することができ、各R基は独立して、アルコキシ基、アセトキシ基、及びハライド基から選択する。これにより、シリカ粒子と付加開裂剤との間に、シリカ−O−Si(R−結合により例示される共有結合が生じ得る。シリル基がシリカ粒子と1つ(例示される通り)又は1つ以上のシロキサン結合を形成し得ること、あるいはオチルシリル(othyl sily)基とシロキサン結合を形成し得ることは理解されるであろう。式Iに関し、Yには、高屈折率コーティング/フィルムに、並びに歯科用組成物に使用されるフィラーであるジルコニアに結合することのできるヒドロキサム酸又はN−ヒドロキシ尿素を選択することができ、またアルミナフィラーには、Yがホスフェート及びホスホネートであることも有用であり、金の場合にはYはチオールである。
一般的に、無機フィラー粒子の表面官能基のすべて又は一部は、式Iの付加開裂剤によりそのようにして改質することができる。フィラーは、未改質であっても、表面改質剤、式Iの表面改質剤、又は表面改質剤と式Iのものとの混合物により表面改質されていてもよい。付加開裂剤は、フィラー粒子の重量に対して0.5〜30重量%、好ましくは10〜25重量%の量で使用されることが好ましい。
一部の実施形態では、表面改質剤の組み合わせが有用な可能性があり、剤の少なくとも1つは、硬化性樹脂と共重合可能な官能基を有する。硬化製樹脂と一般に反応しない他の表面改質剤が、分散性又はレオロジー特性を強化するために含まれ得る。この種類のシランの例としては、例えば、アリールポリエーテル、アルキル、ヒドロキシアルキル、ヒドロキシアリール、又はアミノアルキル官能性シランが挙げられる。
表面修飾は、モノマーとの混合に続いて、混合中又は混合後のどちらかに行うことができる。樹脂へ組み込む前に、オルガノシラン表面処理化合物をナノ粒子と組み合わせることが典型的には好ましい。表面修飾剤の必要量は、粒子サイズ、粒子タイプ、修飾剤の分子量、及び修飾剤のタイプ等のいくつかの因子に応じ異なる。一部の実施形態では、改質剤の単層は、粒子の表面に付着する。
表面改質されたナノ粒子は、実質的に完全に結晶性であり得る。完全に結晶性のナノ粒子(シリカを例外として)の結晶化度(単離金属酸化物粒子として測定)は、典型的には55%を超え、好ましくは60%を超え、より好ましくは70%を超える。例えば、結晶化度は、約86%まで又はそれ以上の範囲であってよい。結晶化度は、X線回折法によって割り出すことができる。結晶性(例えば、ジルコニア)のナノ粒子は高い屈折率を有するが、非晶質ナノ粒子は典型的にはより低い屈折率を有する。
一部の実施形態では、本開示は、以下のものを含む汎用修復材複合体を提供する:
a)少なくとも2つの重合性エチレン性不飽和基を含む硬化性歯科用樹脂を15〜30重量%、
b)無機フィラー、好ましくは、表面改質されたフィラーを70〜85重量%、
c)付加開裂剤を、a)及びb)の100重量部に対して0.1〜10重量部(前記硬化性組成物は、開始剤、及び2%未満の安定剤、色素などを更に含む)。
一部の実施形態では、本開示は、以下のものを含む流動性修復材(流動性)複合体を提供する:
a)少なくとも2つの重合性エチレン性不飽和基を含む硬化性歯科用樹脂を25〜50重量%、
b)無機フィラー、好ましくは、表面改質されたフィラーを50〜75重量%、
c)付加開裂剤をa)及びb)の100重量部に対して0.1〜10重量部(前記硬化性組成物は、開始剤、及び2%未満の開始剤、安定剤、色素などを更に含む)。
一部の実施形態では、本開示は、以下のものを含む樹脂改質されたグラスアイオノマー接着剤を提供する:
a)部分的に(メタ)アクリレート化したポリ(メタ)アクリル酸を10〜25重量%、
b)ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートを5〜20%、
c)フルオロアルミノシリケート(FAS)酸反応性ガラスを30〜60%、
d)非酸反応性フィラー、好ましくは表面処理されたものを0〜20%、
e)水を10〜20%、並びに
f)a)及びb)の100重量部に対して付加開裂剤を0.1〜10重量%、
g)開始剤及び2%未満の安定化剤、色素などを更に含む前記硬化性組成物。
好ましくは、フルオロアルミノシリケートは、シランメタクリレート表面処理フルオロアルミノシリケートである。
一部の実施形態では、本開示は、以下のものを含む歯科用接着剤を提供する:
a)モノ(メタ)アクリレートモノマーを30〜8重量%、
b)多官能性(メタ)アクリレートモノマーを1〜10重量%、
c)酸官能性基(ホスフェート、ホスホネート、カルボキシレート、スルホン酸を含む)を有するモノマーを5〜60重量%、
d)ポリ(メタ)アクリル酸メタクリレートモノマーを0〜10、好ましくは1〜10重量%、
e)付加開裂剤をa)〜d)の100重量部に対して0.1〜10重量%、
f)開始剤、
g)無機フィラーa)〜d)の100重量部に対して、好ましくは表面改質されたものを0〜30重量%、
h)溶媒を、a)〜d)の100重量部に対して0〜25重量%、
i)水を、a)〜d)の100重量部に対して0〜25重量%;並びに、
2%未満の安定剤、色素など。
一部の実施形態では、歯科用組成物は、硬化した歯系構造とは異なる初期色を有し得る。色は、光退色性又は熱変色性の染料を使用することによって組成物に付与され得る。本明細書で使用するとき、「光退色性」は、化学線に曝露した際の色の消失を指す。組成物は、組成物の総重量に基づいて、少なくとも0.001重量%の光退色性又は熱変色性染料、典型的には、少なくとも0.002重量%の光退色性又は熱変色性染料を含み得る。組成物は、典型的には、組成物の総重量に基づいて、最高1重量%の光退色性又は熱変色性染料、より典型的には、最高0.1重量%の光退色性又は熱変色性染料を含む。光退色性及び/又は熱変色性染料の量は、その吸光係数、人間の目が初期色を識別する能力、及び所望の色変化に応じて変えることができる。好適な熱変色性染料は、例えば、米国特許第6,670,436号(Burgathら)に開示される。
光退色性染料を含む実施形態において、光退色性染料の色形成及び退色特性は、例えば、酸強度、誘電率、極性、酸素量、及び大気の湿分含量を含む様々な要因によって変動する。しかしながら、染料の退色特性は、組成物を放射線照射し、色の変化を評価することによって容易に判定できる。光退色性染料は、一般的に、硬化性樹脂に少なくとも部分的に可溶性である。
光退色性染料には、例えば、ローズベンガル、メチレンバイオレット、メチレンブルー、フルオレセイン、エオシンイエロー、エオシンY、エチルエオシン、エオシンブルイッシュ、エオシンB、エリトロシンB、エリトロシンイエロイッシュブレンド、トルイジンブルー、4’,5’−ジブロモフルオレセイン、及びこれらの組み合わせが挙げられる。
色変化は、十分な量の時間、可視光又は近赤外(IR)光を放射する歯科用硬化光によって提供される等の化学線によって開始され得る。組成物において変色を開始させる機構は、樹脂を硬化する硬化機構とは別個であってもよいし、又は実質的に同時であってもよい。例えば、化学的(例えば、酸化還元開始)又は熱的に重合が開始されると組成物は硬化し、初期色から最終色への色変化は、この硬化プロセスの後に化学線に暴露されて発生してもよい。
場合により、組成物は、溶媒(例えば、アルコール(例えば、プロパノール、エタノール)、ケトン(例えば、アセトン、メチルエチルケトン)、エステル(例えば、酢酸エチル)、他の非水性溶媒(例えば、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、1−メチル−2−ピロリジノン))、及び水を含有してもよい。
所望により、組成物は、添加剤、例えば、インジケーター、色素、顔料、阻害剤、促進剤、粘度調整剤、湿潤剤、緩衝剤、ラジカル及びカチオン性安定剤(例えば、BHT)、並びに、当業者には明白である他の類似成分を含有することができる。
更に、薬剤又は他の治療用物質を、任意に、歯科用組成物に添加することができる。例としては、歯科用組成物に使用されることが多い種類の、フッ化物源、増白剤、抗う歯剤(例えば、キシリトール)、カルシウム源、リン源、無機成分補給剤(例えば、リン酸カルシウム化合物)、酵素、息清涼剤、麻酔剤、凝固剤、酸中和剤、化学療法剤、免疫反応変性剤、チキソトロピー剤、ポリオール、抗炎症剤、抗菌剤(抗菌性脂質成分に加えて)、抗真菌剤、口腔乾燥症治療剤、減感剤などが挙げられるが、これらに限定されない。上述の添加剤のうち任意のものの組み合わせもまた用いてよい。このような添加剤のどれか1つの選択及び量は、過度な実験なしで所望の結果を達成するために、当業者によって選択することができる。
当該技術分野において既知のように、硬化性歯科用組成物は歯等の経口表面を取り扱う用途に使用できる。一部の実施形態において組成物は、歯科用組成物の適用後に硬化することによって硬化できる。例えば、歯科用硬化性組成物が歯科用詰め物として修復のために使用される場合、この方法は一般的に、硬化性組成物を経口表面(例えば、空洞)に適用する工程と、組成物を硬化する工程と、を含んで構成される。いくつかの実施形態では、歯科用接着剤は、本明細書に記載する硬化性歯科用修復材の塗布前に塗布してよい。また、歯科用接着剤は、典型的に、高度に充填された歯科用修復組成物の硬化と同時に硬化することによって硬化する(hardened)。経口表面を取り扱う方法は、歯科用物品を準備する工程と、経口(例えば、歯)表面に歯科用物品を接着する工程と、を含み得る。
他の実施形態では、組成物は、適用前に歯科用物品に硬化させることができる。例えば、クラウン等の歯科用物品は、本明細書に記載の硬化性歯科用組成物から予備形成し得る。歯科用複合材(例えば、クラウン)物品は、成形型に接触させながら硬化性組成物を流延し、組成物を硬化させることにより、本明細書に記載の硬化性組成物から製造することができる。あるいは、歯科用複合材料又は物品(例えば、クラウン)は、まず組成物を硬化させ、ミルブランクを形成した後、組成物を機械にかけて所望の物品に削ることによって製造できる。
歯面を処理する別の方法は、硬化性(部分的に硬化された)自己担持型の可鍛性構造の形態であり、第1の半仕上げ形状を有する、本明細書に記載の歯科用組成物を準備することと、硬化性歯科用組成物を被検者の口内の歯の表面上に配置することと、硬化性歯科用組成物の形状をカスタマイズすることと、硬化性歯科用組成物を硬化させることと、を含む。本願明細書に参照により引用されている米国特許第7,674,850号(Karimら)に記載されているように、カスタマイゼーションは患者の口内、又は患者の口外のモデルで発生し得る。
一部の実施形態では、付加開裂剤(AFM)それ自体が、プライマー(プライマーによって薬剤が歯系構造表面に適用され、それに結合する)として働いてもよい。これらの実施形態では、式IのAFMの薄層を歯系構造表面に適用し、その後、歯科用樹脂の追加層をAFMで下塗りした歯系構造表面に適用してもよい。特異的結合基Yは、自己接着又はセルフエッチングし、かつモノホスフェート、ホスホネート、ホスホン酸、ヒドロキサム酸、カルボン酸、及びアセト酢酸、無水物、イソニトリル基、シリル基、ジスルフィド基、チオール基、アミノ基、スルフィン酸基、スルホン酸基、ホスフィン基、フェノール基(カテコール及び1,2,3−トリヒドロキシベンゼン誘導体を含む)、又はヘテロ芳香環基を含むものから選択される。好ましいY基としては、モノホスフェート、ホスホネート、ホスホン酸、及びカルボン酸が挙げられる。
歯系構造表面に結合したAFMは、
Figure 0006351608

によって表されてもよく、
破線は歯系構造の表面を表し、基材と結合基Y’との間の結合は、上記の通り、共有又はイオン性結合であってもよい。残りの基は、表面修飾フィラー粒子について以前に記載した通りである。見て分かる通り、そのような歯系構造表面には、歯科用樹脂と共重合され得るα,β−エチレン性不飽和基が提供される。具体的には、AFM表面改質された歯系構造は、AFMを含有する歯科用樹脂で、続いてコーティング及び硬化され得る。硬化中にエチレン性不飽和基を重合性組成物に組み込むことで、基材とコーティングとの間の確実な結合が得られると考えられる。
目的及び利点は、以下の実施例によって更に例示されるが、これらの実施例において列挙された特定の材料及びその量は、他の諸条件及び詳細と同様に、本発明を不当に制限するものであると解釈すべきではない。別段の指定がない限り、部及び百分率はすべて、重量基準である。
本発明で使用する場合、別途記載のない限り、全ての比及び百分率は、重量による。付加開裂剤は、付加開裂リガンド(AFL)として実施例では言及する。全ての市販の材料は、販売業者から入手したまま使用した。別途記載のない限り、物質は、Sigma−Aldrich(Milwaukee,WI)から入手可能である。
試験方法
ダイヤメトラル引張強度(DTS)試験方法
本試験では、硬化性組成物のダイヤメトラル引張強度を測定した。未硬化の試験サンプル組成物を4mm(内径)のガラス管に注入し、管にシリコーンゴムのプラグで蓋をした。管を5分間、約2.88kg/cmの圧力で軸方向に圧縮した。その後、XL 1500歯科用硬化光(3M ESPE(St.Paul,MN))に曝露することにより、サンプルを80秒間光硬化させ、続いてKulzer UniXS硬化ボックス(Heraeus Kulzer GmbH(Germany))内で90秒間照射した。試験サンプルをダイヤモンドの鋸で切断して、厚さ約2mmのディスクを形成し、これを試験前に約24時間37℃の蒸留水中で保存した。測定は、ISO規格7489(又はAmerican Dental Association(ADA)規格番号27)に従って、10キロニュートン(kN)のロードセルを用い、クロスヘッド速度1mm/分でInstron試験機(Instron 4505、Instron Corp.(Canton,MA))で実施した。試験結果は、複数の測定値の平均として、MPa(メガパスカル)で記録した。
応力試験方法(尖点偏向)
応力試験法により、硬化工程時に試験サンプル複合体に発生する応力を測定する。15×8×8mmの矩形アルミニウムブロック内に、8×2.5×2mmスロットを機械加工し、各試験サンプル用の試験装置を形成した。スロットは端に沿って2mmの位置に配置し、したがって、試験する組成物を含有させた2mm幅の空洞に隣接し並行した2mm幅のアルミニウム尖点を形成した。線状可変変位変換器(モデルGT 1000、E309アナログ増幅器とともに使用、両方ともRDP Electronics(United Kingdom))を図示の通りに配置して、組成物を室温で光硬化させたときの尖点の変位を測定した。試験前に、アルミニウムブロックにおけるスロットをRocatec Plus Special Surface Coating Blasting Material(3M ESPE(St.Paul,MN))を用いて砂で磨き、RelyX Ceramic Primer(3M ESPE)で処理し、最後に、歯科用接着剤Adper Easy Bond(3M ESPE)で処理した。約100mgの試験組成物によりスロットを完全に充填した。スロット中の材料とほぼ接触するように(<1mm)配置された歯科用硬化ランプ(Elipar S−10(3M ESPE))を用いて材料に1分間照射し、次いで、ランプを消した9分後に尖点の変位をマイクロメートルで記録した。
材料
・2−メルカプトエタノール−Alfa Aesar(Ward Hill,MA,USA)
・3−クロロ−2−クロロメチル−1−プロペン−Secant Chemicals,Inc.(USA)
・3−トリエトキシシリルプロピルイソシアネート−Sigma Aldrich(St.Louis,MO,USA)
・BHT−ブチル化ヒドロキシトルエン、Sigma−Aldrich(Milwaukee,WI,USA)
・酢酸コバルト(II)四水和物−Alfa Aesar(Ward Hill,MA,USA)
・CPQ−カンファキノン、Sigma−Alrich
・DDDMA−ドデカンジオールジメタクリレート、Sartomer
・ジブチルスズジラウレート−Alfa Aesar(Ward Hill,MA,USA)
・ジメチルグリオキシム−Alfa Aesar(Ward Hill,MA,USA)
・DI水−脱イオン水
・ジオール2−米国特許公開第2012/0208965号、実施例2−ジオール2によるAFM−2の調製に記載の通りに調製したジオール
・DPIHFP−ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロホスフェート(≧98%)、Sigma−Aldrich
・ENMAP−エチルN−メチル−N−フェニル−3−アミノプロピオネート、CAS番号2003−76−1;これは、米国特許出願第2010−0311858号(Holmes)中の式1−aの化合物である。化合物は、Adamson,et al.,JCSOA9;J.Chem.Soc.;1949;spl.144,152に記載の方法により合成することができる(この文献は参照により本明細書に組み込まれる)。
・ERGP−IEM−EP特許公開番号第EP 2401998号の実施例の節に記載の通りに調製
・エタノール−Pharmaco−AAPER(Brookfield,CT,USA)
・酢酸エチル−EMD Chemicals Inc.(Gibbstown,NJ,USA)
・GF−31シラン−3−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、Wacker Chemie AG(Munich,Germany);Silquest A−174、Momentive Performance Materials(Albany,NY)も使用
・HEMA−2−ヒドロキシエチルメタクリレート、Sigma−Aldrich
・NHOH溶液−水酸化アンモニウム溶液、水中30%のNHOH−Sigma Aldrich
・ナノジルコニアフィラー−SILQUEST A−1230の代わりにGF−31シランを使用したことを除き、米国特許第7,156,911号、調製例1Aに記載の通りに調製した、シラン処理ナノジルコニア粉末GF−31シランを、約1.2ミリモルのシラン/g酸化物で充填した。
・ナノシリカフィラー(20nmのシリカとしても言及される)−名目粒径20nmのシラン処理ナノシリカ粉末、米国特許第6,572,693号(第21段、第63〜67行、ナノ化粒子フィラー、タイプ2)に記載の通りに調製
・粒子A(125m/gシリカ/ジルコニアナノクラスター)−米国特許第6,730,156号、調製例Aに概して記載の通りに調製した凝集粒子クラスター材料。材料の表面積は125m/gであり、シリカ/ジルコニア重量比は73/27である。材料の調製は、米国特許第20110196062号のジルコニア及びシリカナノ粒子(Bradley)を含むフィラー及び複合材の段[0067]〜[0073](2009年10月9日出願)、並びにその参照文献(すなわち、米国特許第6,376,590号(Kolbら)(1999年10月28日出願)、又は同第7,429,422号(Davidsonら)(2007年6月7日出願))に、より詳細に記載されており、これらの文献のそれぞれは、参照により本明細書に組み込まれる。
・ピリジン−Alfa Aesar(Heysham,Lanc,England)
・UDMA−Rohamere(商標)6661−0(ジウレタンジメタクリレート、CAS番号41 137−60−4)、Rohm Tech,Inc.(Malden,MA)
・YbF−フッ化イッテルビウム、100ナノメートル粒度、Sukgyung(Korea)
調製例P1−ジオール1
Figure 0006351608
炉で乾燥させた三つ口の250mL丸底フラスコに、マグネチックスターラーバー、ガス注入アダプタ、及びゴム製セプタムで蓋をした250mL等圧滴下ロート、及びゴム製セプタムを装備した。装置を窒素下で室温に冷却させた。HEMA(100mL、107.3g、824.5mmol)及びVazo(商標)67(0.215g、1.12mmol)を反応フラスコに添加し、混合物を撹拌した。滴下ロートに、HEMA(200mL、214.6g、1649mmol)及びVazo(商標)67(0.430g、2.24mmol)を充填した。HEMA中のVazo(商標)67の溶液に30分間窒素を散布し、その後、反応物を窒素下で維持した。次に、酢酸コバルト(II)四水和物(0.104g、0.418mmol)、ジメチルグリオキシム(0.158g、1.36)、及びピリジン(0.250mL、0.245g、3.10mmol)をポットに添加し、油浴中で75℃に加熱しながら撹拌した。HEMA及びVazo(商標)67の溶液を1.5時間かけてポットに滴加した。更に1時間後、Vazo(商標)67(0.0164g、0.0853mmol)をポットに添加した。反応物を更に18時間75℃で撹拌させ、次に、室温に冷却させた。短経路蒸留装置を使用して、二量体生成物を反応混合物から蒸留した。二量体は、0.09mmHgの圧力で、約140℃で蒸留された。無色透明の粘稠液を得た(136.2g)。50gの蒸留生成物を酢酸エチル(250mL)中に溶解し、脱イオン水(3×125mL)で洗浄した。酢酸エチル溶液を30分間硫酸ナトリウム上で乾燥させ、次に真空濾過して、乾燥剤を除去した。酢酸エチル溶液を真空濃縮して、ジオール1を得た(26.13g)。
実施例1−AFL−1
Figure 0006351608
40mL褐色瓶に、ジオール1(7.500g、28.82mmol)及び3−イソシアナトプロピルトリエトキシシラン(14.255g、57.63mmol)を充填した。マグネチックスターラーバーを瓶に加えた。撹拌しながらジブチルスズジラウレートを添加し(ガラスピペットの先から2滴)、反応物を、テフロン張りのプラスチックキャップで密封した。3日後に反応物をサンプリングすると、H NMR分析は、所望の生成物AFL−1と一貫した。無色透明粘稠物質のAFL−1(21.73g、28.79mmol、99.9%)を得た。
実施例2−AFL−2
Figure 0006351608
40mL褐色瓶に、ジオール2(10.00g、21.16mmol)及び3−イソシアナトプロピルトリエトキシシラン(10.47g、42.33mmol)を充填した。マグネチックスターラーバーを瓶に加えた。撹拌しながらジブチルスズジラウレートを添加し(ガラスピペットの先から2滴)、反応物を、テフロン張りのプラスチックキャップで密封した。反応混合物を撹拌しながら50℃に加熱した。2日後、反応物を室温に冷却し、サンプリングした。H NMR分析は、所望の生成物AFL−2と一貫した。極淡黄色で透明な粘稠物質のAFL−2(20.33g、21.02mmol、99.3%)を得た。
実施例3−AFL−3
Figure 0006351608
マグネチックスターラーバー、コンデンサ、及び滴下ロートを装備した500mL二つ口丸底フラスコ中で、2−メルカプトエタノール(25.60g、0.328mol)を100mLのエタノール中に溶解して、溶液を調製した。激しく撹拌しながら、ナトリウム金属(8.20g、0.356mol)を少量ずつゆっくりと添加することで、添加中の発熱を制御した。ナトリウム金属の添加完了後、混合物を、フラスコの内容物が室温に冷却されるまで窒素ブランケット下で撹拌した。3−クロロ−2−クロロメチル−1−プロペン((20g、0.16mol)50mLのエタノール中)の溶液を、滴下ロートを使用して滴下して、白濁混合物を形成させ、次に、全てのジクロロプロペン成分を添加して、白色固体を伴う異種混合物を形成させた。フラスコの内容物を45分間還流させ、その後室温に冷却した。白色固体を真空濾過によって除去し、濾塊を、原濾液に加えて過剰エタノールで洗浄した。溶媒をロータリーエバポレーター中で除去し、次いで、真空ポンプ中で乾燥させて、無色の液体を得た。粗生成物を真空(6〜7トル(800〜930Pa))及び135〜150C下で蒸留して、所望の生成物2−メチレンプロパン−1,3−ビス(硫化2−ヒドロキシエチル)を75〜80%の回収率で得た。
2−メチレンプロパン−1,3−ビス(硫化2−ヒドロキシエチル)(7.0g、0.034mol)、3−トリエトキシシリルプロピルイソシアネート(16.60g、0.067mol)、BHT(0.016g)、及びジブチルスズジラウレート触媒(3滴)を、100mLガラス瓶に充填して、混合物を調製した。瓶を2分間手で回し、その間に、混合物は混ざり反応を開始した。混合物は、多少の発熱を伴って透明となった。瓶を放置し室温に冷却させた。IRスペクトルは、NCO帯の完全消失を示した(約2200〜2400cm−1)。NMRを記録し、AFL−3の所望の構造と一貫することが判明した。反応物の収率は定量的であった。
実施例4〜5、対照実施例C1−官能化フィラー
実施例4において、10gの粒子A、1.0502gのAFL−1、10.64gの酢酸エチル、及び0.21gのNHOH溶液を混合し、室温で一晩撹拌して、官能化フィラーを調製した。次に、混合物をフラッシュ乾燥させ、次に、80℃の炉の中で30分間乾燥させた。
実施例5において、組成物が10グラムの粒子A、1.055gのAFL−3、0.944gのGF−31シラン、10.473gの酢酸エチル、及び0.203gのNHOH溶液であったことを除き、官能化フィラーを実施例4の通りに調製した。
組成物が10gの粒子A、2.0999gのGF−31シラン、20.5632gの酢酸エチル、及び0.4002gのNHOH溶液であったことを除き、対照実施例C1を実施例4の通りに調製した。
実施例6〜7、対照実施例C2−樹脂
表1に示す組成物を手で混合し、均一な混合物を形成して、樹脂組成物を調製した。
Figure 0006351608
実施例6において、2.675gの樹脂混合物、0.5493gのYbF、0.2855gのナノシリカフィラー、0.1536gのナノジルコニアフィラー、0.0669gの実施例4のフィラー、及び6.2269gの実施例C1のフィラーを、スピードミキサで混合して、歯科用樹脂に好適なペーストを調製した。
組成物が、2.675gの樹脂、0.5497gのYbF3、0.2862gのナノシリカフィラー、0.1539gのナノジルコニアフィラー、及び6.3361gの実施例5のフィラーであったことを除き、実施例6の通りに、実施例7を調製した。
実施例C1のフィラーを使用したことを除き、実施例7の通りに対照実施例C2を調製した。
接着剤の直径強度(DTS)及び応力(尖点偏向)を、上の試験方法に従って試験した。結果を表2に示す。
Figure 0006351608

Claims (11)

  1. a)少なくとも2つのエチレン性不飽和基を含む少なくとも1つの歯科用樹脂、
    b)付加開裂剤、及び
    c)任意に無機酸化物フィラーを含み、
    前記b)付加開裂剤が、1)不安定付加開裂基、及び3)少なくとも2つの表面結合官能基、を含み、
    前記b)付加開裂剤が、下式で表されるものである、硬化性歯科用組成物。
    Figure 0006351608

    [式中、R、R、及びRがそれぞれ独立して、Y−Q’−、(ヘテロ)アルキル基又は(ヘテロ)アリール基であるが、但し、R、R、及びRのうちの少なくとも2つがY−Q’−であり、
    Q’が共有結合、又は価数がp+1である有機(ヘテロ)ヒドロカルビル連結基であり、
    Yが表面結合有機官能基であり、
    pが1又は2であり、
    が独立して、−O−又は−NR−(式中、Rは、H又はC〜Cアルキルである。)であり、
    nが0又は1であり、
    がモノホスフェート、ホスホネート、ホスホン酸、ヒドロキサム酸、カルボン酸、アセト酢酸、無水物、イソニトリル基、シリル基、ジスルフィド基、チオール基、アミノ基、スルフィン酸基、スルホン酸基、ホスフィン基、フェノール基又はヘテロ芳香環基である。]
  2. 、R、及びRのうちの少なくとも2つがY−Q’−を含有し、
    Q’が共有結合又は価数がp+1である(ヘテロ)ヒドロカルビル連結基であり、
    pが1又は2であり、
    Yが表面結合官能基である、請求項1に記載の歯科用組成物。
  3. Q’が、式−C2r−(式中、rが1〜10である。)で表されるアルキレンである、請求項1に記載の歯科用組成物。
  4. Q’が−CH−CH(OH)−CH−で表されるヒドロキシル置換アルキレンである、請求項1に記載の歯科用組成物。
  5. Q’がアリールオキシ置換アルキレン又はアルコキシ置換アルキレンである、請求項1に記載の歯科用組成物。
  6. 前記歯科用樹脂が低体積収縮樹脂である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の歯科用組成物。
  7. 前記歯科用組成物が、エトキシ化ビスフェノールAジメタクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、ビスフェノールAジグリシジルジメタクリレート、ウレタンジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、グリセロールジメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート(NPGDMA)、ポリエチレングリコールジメタクリレート、及びこれらの混合物から選択される、少なくとももう1つの(メタ)アクリレートモノマーを更に含む、請求項1〜6のいずれか一項に記載の歯科用組成物。
  8. 前記無機酸化物フィラーがナノ粒子を含む、請求項1〜7のいずれか一項に記載の歯科用組成物。
  9. 表面改質された無機酸化物フィラーを含む、請求項1〜8のいずれか一項に記載の歯科用組成物。
  10. 下式で表される表面改質された無機フィラーを更に含む、請求項1〜のいずれか一項に記載の歯科用組成物。
    Figure 0006351608

    [式中、
    Fillerは無機フィラー粒子であり、
    が、Y−Q’−、(ヘテロ)アルキル基、又は(ヘテロ)アリール基であり、
    Q’が共有結合、又は価数がp+1である有機(ヘテロ)ヒドロカルビル連結基であり、
    Y’が表面結合官能基Yの残基であり、
    pが1又は2であり、
    が独立して、−O−又は−NR−(式中、Rは、H又はC〜Cアルキルである。)であり、
    nが0又は1である]。
  11. 基Filler−Y’−が、式Silica−O−Si(R−(式中、各R基が独立して、アルコキシ、アセトキシ、及びハロゲン化物の群から選択される。)で表されるものである、請求項10に記載の歯科用組成物。
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