JP6351328B2 - 高付加価値脂質の生産方法 - Google Patents

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Description

本発明は高付加価値脂質の生産方法に関する。
ドコサヘキサエン酸(DHA)、アスタキサンチン、スクアレン等の高付加価値脂質の需要が高まっている。しかし、これらの高付加価値脂質は、天然から安全に且つ安定的に得ることが難しいことから、微生物によって高付加価値脂質を発酵生産する方法が検討されている。
例えば、引用文献1には、グリセロール、マンニトール、ソルビトール、サッカロース等のポリオール類を有する培地で、クリプテコディニウム・コーニー等の海洋性微細藻類を培養することによって、藻体が安定して増殖し、藻体の脂質中のドコサヘキサエン酸(DHA)の含量が顕著に上昇することが記載されている。
高付加価値脂質の発酵生産に利用する微生物として、高付加価値脂質の生産能力に優れることから、ラビリンチュラ類オーランチオキトリウム(Aurantiochytrium)属微生物が注目されている。
例えば、引用文献2には、オーランチオキトリウム属微生物等の従属栄養微生物を、窒素および炭素の含有量が異なる2種類の培地を用いて段階的に培養することによって、従属栄養微生物に効率よく油脂を生産させることができ、より短期間で大量に油脂を生産することができることが記載されている。引用文献3には、オーランチオキトリウム属微生物等の従属栄養微生物を、糖類およびグリセリンの含有量が異なる2種類の培地を用いて段階的に培養することによって、より短期間で大量に油脂を生産できることが記載されている。
特開平7−87988号公報(1995年 4月 4日公開) 特開2013−126404号公報(2013年 6月27日公開) 特開2013−183687号公報(2013年 9月19日公開)
ところで、大型藻類は海洋に多量に存在する未利用資源であり、低炭素かつ持続可能な資源として注目されている。大型藻類は、穀物等の食糧供給と競合しないため、資源として安定的な供給が可能である。また、土地利用の観点でも、大型藻類は穀物等の食糧供給と競合しない上に、外洋や海岸線の有効利用にも繋がる。このため、海洋バイオマスとしての大型藻類の有効活用が望まれている。コンブ等の褐藻綱藻類は、アルギン酸塩やマンニトールを多く含んでいる(図1の(a))。これまでに、海洋バイオマスとして、アルギン酸塩を利用する試みはあるが、マンニトールはあまり利用されていない。
上述したように、高付加価値脂質の発酵生産に利用する微生物として、オーランチオキトリウム属微生物が注目されているが、オーランチオキトリウム属微生物は、マンニトールを炭素源として直接利用することができない。高付加価値脂質の発酵生産においてマンニトールを炭素源として利用することが可能となれば、高付加価値脂質の高まる需要を満たす供給源として大型藻類に由来するマンニトールを利用できる上に、高付加価値脂質の低価格化によるさらなる需要増大も期待できる。
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、マンニトールを炭素源として利用して、オーランチオキトリウム属微生物において高付加価値脂質を生産する方法を提供することにある。
本発明者らは、フルクトース生成微生物とオーランチオキトリウム属微生物とを組み合わせて培養することにより、マンニトールを炭素源として利用して、オーランチオキトリウム属微生物において高付加価値脂質を生産することができること、およびフルクトース生成微生物とオーランチオキトリウム属微生物とを組み合わせて培養する際に、これらの微生物の塩類要求性の差を利用することによって、フルクトース生成微生物の生育を制御しつつ、オーランチオキトリウム属微生物を増殖させるような複合培養系を容易に実現できることを初めて見出し、かかる新規知見に基づいて本発明を完成させるに至った。
つまり、上記の課題を解決するために、本発明に係る高付加価値脂質の生産方法は、(a)マンニトールと窒素源とを少なくとも含有している培養培地に、フルクトース生成微生物とオーランチオキトリウム属微生物とを植菌して培養するか、または(b)当該培養培地に当該フルクトース生成微生物を植菌し培養した後に、当該オーランチオキトリウム属微生物を植菌し培養する、培養工程と、
塩化ナトリウムを上記培養培地に添加する、塩化ナトリウム添加工程と、
を包含し、
上記フルクトース生成微生物は、マンニトールをフルクトースに変換し、且つ当該フルクトースを菌体外に分泌可能な微生物であり、
上記塩化ナトリウム添加工程は、上記培養培地中の上記マンニトールのフルクトースへの変換率が50%以上になったときに行われ、
上記塩化ナトリウムは、上記培養培地における最終濃度が、上記オーランチオキトリウム属微生物が生育可能な濃度で、且つ上記フルクトース生成微生物の生育を阻害する濃度となるように、上記培養培地に添加されることを特徴としている。
本発明に係る高付加価値脂質の生産方法では、上記フルクトース生成微生物は、グルコノバクター属細菌であることが好ましい。
本発明に係る高付加価値脂質の生産方法では、上記塩化ナトリウム添加工程では、上記塩化ナトリウムは、上記培養培地における最終濃度が1〜4%(w/v)となるように、上記培養培地に添加されてもよい。
本発明に係る高付加価値脂質の生産方法では、上記フルクトース生成微生物に作用する抗生物質を上記培養培地に添加する抗生物質添加工程をさらに包含し、
上記抗生物質添加工程は、上記培養培地中の上記マンニトールのフルクトースへの変換率が50%以上になったときに行われてもよい。
本発明に係る高付加価値脂質の生産方法では、上記培養工程において、マンニトールと窒素源とを少なくとも含有している培養培地において前培養された、フルクトース生成微生物を培養培地に植菌することが好ましい。
本発明に係る高付加価値脂質の生産方法では、上記培養培地は、マンニトールのみを炭素源として含有していることが好ましい。
本発明に係る高付加価値脂質の生産方法では、上記培養培地は、褐藻綱藻類抽出物を含有していてもよい。
本発明に係る高付加価値脂質の生産方法では、上記褐藻綱藻類は、コンブ科藻類であり得る。
本発明に係る高付加価値脂質の生産方法では、上記培養工程が(b)である場合において、上記塩化ナトリウム添加工程後に、上記オーランチオキトリウム属微生物を上記培養培地に植菌してもよい。
本発明に係る高付加価値脂質の生産方法では、上記培養工程が(b)である場合において、上記フルクトース生成微生物の培養上清に、上記オーランチオキトリウム属微生物を植菌し培養してもよい。
本発明に係る高付加価値脂質の生産方法では、上記オーランチオキトリウム属微生物は、オーランチオキトリウム(Aurantiochytrium sp. KH105、受領番号:FERM AP−22267)であり得る。
本発明に係る高付加価値脂質の生産方法によれば、マンニトールを炭素源として利用して、オーランチオキトリウム属微生物によって高付加価値脂質を生産することができる。このため、大型藻類に由来するマンニトールを、高付加価値脂質を生産するための原料として利用することができる。これにより、未利用資源であった大型藻類の有効活用が可能となるという効果を奏する。さらには、原料の低価格化により高付加価値脂質の供給価格の低減が可能となるという効果を奏する。
また、本発明に係る高付加価値脂質の生産方法によれば、培地に添加する塩化ナトリウムの濃度および添加のタイミングを制御するだけで、フルクトース生成微生物の生育を制御しつつ、オーランチオキトリウム属微生物を増殖させるような複合培養系を容易に実現することができる。これにより、高付加価値脂質を、より簡単且つ効率よく生産することができるようになり、その結果、高付加価値脂質の大量生産が可能となるという効果を奏する。
(a)は、褐藻綱藻類に特異的な糖類および単糖類の成分を示す図であり、(b)は、Aurantiochytrium sp. KH105の各糖類を資化する能力を示すグラフである。 (a)は、マンニトールを含有している培養培地における Gluconobacter oxydans(NBRC 14819)の増殖、糖類の消費量および糖類の生成量を示すグラフであり、(b)は、異なる培養時間に回収したG. oxydans(NBRC 14819)の培養上清を含む培地中でのAurantiochytrium sp. KH105の増殖を示すグラフである。 (a)は、異なる濃度のマンニトールを含有しているグルコノバクター培地中でG. oxydans(NBRC 14819)を増殖させた場合の600nmの吸光度(OD600)を示すグラフであり、(c)は、その時の培地のpHの変化を示すグラフである。(b)は、G. oxydans(NBRC 14819)の増殖に対する人工海水の塩濃度の影響を示すグラフであり、(d)は、その時の培地のpHの変化を示すグラフである。 (a)は、マンニトール−PY培地またはコンブ抽出物−PY培地中でG. oxydans(NBRC 14819)を培養した後の培養液を用いてAurantiochytrium sp. KH105を培養した場合の、フラスコスケールの試験におけるAurantiochytrium sp. KH105の脂肪酸生産量を示すグラフであり、(b)は、カロテノイドの生産量を示すグラフである。 (a)は、コンブ抽出物−PY培地を用いてジャー・ファーメンタースケールでの二段階発酵を行った場合の、吸光度、細胞の乾燥重量、マンニトール濃度およびフルクトース濃度の変化を示すグラフであり、(b)は、脂肪酸の濃度の変化を示すグラフであり、(c)は、カロテノイドの濃度の変化を示すグラフである。
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。ただし、本発明はこれに限定されるものではなく、記述した範囲内で種々の変形を加えた態様で実施できるものである。また、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。なお、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A〜B」は、「A以上、B以下」を意味する。また本書における「%」は特記しない限りにおいて、「%(w/v)」を意味する。
〔1.高付加価値脂質の生産方法〕
本発明に係る高付加価値脂質の生産方法(以下、「本発明の高付加価値脂質の生産方法」と称する。)は、(a)マンニトールと窒素源とを少なくとも含有している培養培地に、フルクトース生成微生物とオーランチオキトリウム属微生物とを植菌して培養するか、または(b)当該培養培地に当該フルクトース生成微生物を植菌し培養した後に、当該オーランチオキトリウム属微生物を植菌し培養する、培養工程と、塩化ナトリウムを上記培養培地に添加する、塩化ナトリウム添加工程と、を少なくとも包含している。
ここで、本明細書において「高付加価値脂質」とは、オーランチオキトリウム属微生物によって生産可能な脂質の内、特に機能性が高いものを意味し、例えば、エイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサペンタエン酸(DPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)、オレイン酸(OA)、リノール酸(LA)、リノレン酸、アラキドン酸(ARA)、ジホモ-γ-リノレン酸(DGLA)等の不飽和脂肪酸;アスタキサンチン、フェニコキサンチン、カンタキサンチン、エキネノン、β−カロテン、リコペン等のカロテノイド;スクアレン、ステロール等の炭化水素化合物等が、高付加価値脂質として挙げられる。
(1−1.培養工程)
培養工程は、(a)マンニトールと窒素源とを少なくとも含有している培養培地に、フルクトース生成微生物とオーランチオキトリウム属微生物とを植菌して培養するか、または(b)当該培養培地に当該フルクトース生成微生物を植菌し培養した後に、当該オーランチオキトリウム属微生物を植菌し培養する工程である。
ここで、上記「フルクトース生成微生物」としては、マンニトールをフルクトースに変換し、且つ当該フルクトースを菌体外に分泌可能な微生物であれば特に限定されない。なお、上記「微生物」は、原核生物であってもよく、真核生物であってもよい。
対象微生物がマンニトールをフルクトースに変換し、且つ当該フルクトースを菌体外に分泌可能な微生物であるか否かを確認する方法(フルクトース生成微生物確認方法)としては、例えば、マンニトールを含有している培地中で対象微生物のみを培養し、培養終了後の培地に含まれているマンニトールおよびフルクトースの量を測定する。その結果、培養終了後の培地中に含まれているマンニトールの量が、培養開始前の培地中に含まれているマンニトールの量よりも減少しており、且つ培養終了後の培地中に含まれているフルクトースの量が、培養開始前の培地中に含まれているフルクトースの量よりも増加している場合に、対象微生物がマンニトールをフルクトースに変換し、且つ当該フルクトースを菌体外に分泌可能な微生物であると判断することができる。
培地中のマンニトールおよびフルクトースの量は、例えば、Sugar-D Cosmosilカラム(Nacalai Tesque, Kyoto, Japan)を備えた高速液体クロマトグラフィー(HPLC)装置を用いて、オーブン温度を40℃、検出器温度を39℃に設定し、溶離液として1.0ml/分の流速に設定したアセトニトリル:HO(75:25,v/v)を用いて測定することができる。
フルクトース生成微生物確認方法において対象微生物を培養する培地は、マンニトール以外に、対象微生物が増殖するために必要な成分を少なくとも含有しているものであれば特に限定されない。培養条件(温度、時間等)は、対象微生物の種類に応じて適宜設定することができるが、対象微生物の増殖曲線が対数増殖期から定常期に移行する前に培養を終了することが好ましい。
このような「フルクトース生成微生物」としては、特に限定されないが、例えば、グルコノバクター属細菌、アセトバクター属細菌(参考文献:米国特許4734366)、グルコノアセトバクター属細菌(参考文献:Oikawa et al. (1997) Biosci Biotechnol Biochem, 61, 1778-82)等を挙げることができる。グルコノバクター属細菌は、フルクトースの菌体外への放出率が高いため好ましい。
上記「グルコノバクター属細菌」としては、特に限定されないが、例えば、Gluconobacter oxydansを挙げることができる。Gluconobacter oxydansとしては、特に限定されるものではなく、保存機関(NBRC、JCM、IFO、ATCC等)に保存され、当業者が入手可能な株を利用することが可能である。例えば、NBRC 14819株、JCM 7642株、 IFO 12528株、ATCC 15163株等が本発明において利用可能である。
また、上記「オーランチオキトリウム属微生物」としては、ラビリンチュラ類オーランチオキトリウム(Aurantiochytrium)属に分類される微生物であれば特に限定されない。例えば、Aurantiochytrium sp. KH105(受領番号:FERM AP−22267)を挙げることができる。なお、上記「オーランチオキトリウム属微生物」は、「シゾキトリウム(Schizochytrium)属微生物」とも称される。
上記「培養工程」において使用する上記「培養培地」は、フルクトース生成微生物の培養開始時点で、マンニトールと窒素源とを少なくとも含有していればよい。上記「培養培地」は、特に限定されないが、大量培養に適していること、培養条件を制御しやすいこと等の理由から、液体培地であることが好ましい。
上記「マンニトール」としては、マンニトールの単体であってもよく、マンニトールと他の物質との混合物であってもよい。また、上記「マンニトール」は、天然供給源より抽出されたものであってもよく、化学合成されたものであってもよく、微生物等によって生産されたものであってもよい。
培養培地に添加するマンニトールの濃度は、5〜200g/Lであることが好ましく、30〜200g/Lであることがより好ましい。培養培地中のマンニトール濃度が5g/L以上であれば、フルクトース生成微生物の培養上清を利用してオーランチオキトリウム属微生物が成育することができる。また、培養培地中のマンニトール濃度が30g/L以上であれば、フルクトース生成微生物の培養上清を利用してオーランチオキトリウム属微生物が成育し、高濃度の高付加価値脂質を生産することができる。なお、培養培地におけるマンニトールの上記濃度は、フルクトース生成微生物の培養開始前の濃度である。
マンニトールは、炭素源として培養培地に添加されるが、上記「培養培地」は、マンニトールの他の炭素源を含んでいてもよい。上記「他の炭素源」としては、フルクトース生成微生物および/またはオーランチオキトリウム属微生物が資化し得るものであれば特に限定されず、例えば、炭水化物(単糖、オリゴ糖、多糖、糖アルコール等)、有機酸、アルコール類、脂質類等を挙げることができる。他の炭素源としては、一種類のみを用いてもよく、複数種類を組み合わせて用いてもよい。他の炭素源を培養培地に添加する場合は、培養培地に添加する他の炭素源の濃度は、5〜100g/Lであることが好ましく、50〜100g/Lであることがより好ましい。培養培地中の他の炭素源の濃度が5g/L以上であれば、フルクトース生成微生物が当該炭素源のみを利用して生育することができる。また、培養培地中の他の炭素源の濃度が50g/L以上であれば、フルクトース生成微生物が当該炭素源のみを利用してより高度に生育することができる。なお、培養培地における他の炭素源の上記濃度は、フルクトース生成微生物の培養開始前の濃度である。他の炭素源として、複数種類を組み合わせて用いる場合は、複数種類の他の炭素源の総濃度が上記範囲になるように、他の炭素源を培養培地に添加すればよい。
培養培地がマンニトール以外の炭素源を含有している場合に、フルクトース生成微生物が、その炭素源をマンニトールよりも優先的に利用することによって、マンニトールからフルクトースへの転換率が低下する場合がある。このため、フルクトース生成微生物によってマンニトールをフルクトースに効率よく転換させる観点から、上記「培養培地」は、フルクトース生成微生物によってマンニトールよりも優先的に利用される炭素源を含有していないことが好ましい。フルクトース生成微生物によってマンニトールよりも優先的に利用される炭素源としては、例えば、グルコース、ガラクトース、マンノース等を挙げることができる。よって、上記「培養培地」は、グルコース、ガラクトース、マンノース等を含有していないことが好ましく、グルコースを含有していないことがより好ましく、炭素源としてマンニトールのみを含有していることがさらに好ましい。これにより、培養培地に含まれているマンニトールを、フルクトース生成微生物によってフルクトースに効率よく転換させることができる。ただし、フルクトース生成微生物によって、優先的に利用されうるマンニトール以外の炭素源が完全に枯渇するまで培養し、その後にマンニトールを添加すれば、マンニトールからフルクトースへの転換率を低下させずに目的を達成することも可能である。
上記「窒素源」としては、フルクトース生成微生物および/またはオーランチオキトリウム属微生物が資化し得るものであれば特に限定されず、例えば、ポリペプトン、酵母エキス、ペプトン、大豆粉、コーンスティープリカー等の含窒素化合物;硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、リン酸アンモニウム等の無機酸若しくは有機酸のアンモニウム塩等を挙げることができる。窒素源としては、一種類のみを用いてもよく、複数種類を組み合わせて用いてもよい。
培養培地に添加する窒素源の濃度は、1〜50g/Lであることが好ましく、5〜20g/Lであることがより好ましい。培養培地中の窒素源濃度が1g/L以上であれば、フルクトース生成微生物が良好に成育することができる。また、培養培地中の窒素源濃度が5g/L以上であれば、フルクトース生成微生物とオーランチオキトリウム属微生物が良好に成育することができる。なお、培養培地における窒素源の上記濃度は、フルクトース生成微生物の培養開始前の濃度である。窒素源として、複数種類を組み合わせて用いる場合は、複数種類の窒素源の総濃度が上記範囲になるように、窒素源を培養培地に添加すればよい。
上記「培養培地」には、炭素源および窒素源以外の他の成分を含有していてもよい。上記「他の成分」としては、微生物の培養に一般的に用いられるものであれば特に限定されず、例えば、無機塩類、ビタミン等の補酵素、色素類等を挙げることができる。培養培地における上記「他の成分」の濃度は、適宜設定することができる。
上述したような「培養培地」としては、例えば、後述する実施例で用いたマンニトール−PY培地(30g/Lマンニトール,10g/Lポリペプトン,5g/L酵母エキス(pH6.0))を好適に用いることができる。
上記「培養培地」は、褐藻綱藻類抽出物を含有していてもよい。上記「褐藻綱藻類抽出物」とは、褐藻綱藻類由来の成分として少なくともマンニトールを含有しているものであればよい。上記褐藻綱藻類抽出物中のマンニトールの濃度は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)装置を用いて確認することができる。
上記「褐藻綱藻類抽出物」の調製方法としては、褐藻綱藻類からマンニトールを抽出可能な方法であれば特に限定されない。例えば、Khomtimchenko, S.V. & Kulikova, I.V. 1999. Lipids of two species of brown algae of the genus Laminaria. Chem Nat Prod, 35(1), 17-20.に記載された方法の改変法に従って調製することができる。具体的には、褐藻綱藻類の乾燥粉末を蒸留水に添加し、20分間撹拌した後に、遠心分離し、上清を回収することによって褐藻綱藻類抽出物を調製することができる。褐藻綱藻類の乾燥粉末は、例えば、褐藻綱藻類を風乾したのちに粉砕することによって調製することができる。褐藻綱藻類は風乾したのちにブレンダーによって断片化したものでもよく、また、風乾せずに湿藻体のまま用いてもよい。褐藻綱藻類抽出物は、一種類の褐藻綱藻類のみから調製されたものを用いてもよく、複数種類の褐藻綱藻類から調製されたものを組み合わせて用いてもよい。
また、上記「褐藻綱藻類抽出物」におけるマンニトールの純度は特に限定されない。しかし、褐藻綱藻類抽出物中には、フルクトース生成微生物および/またはオーランチオキトリウム属微生物に対して特定の作用を及ぼす成分が含まれている可能性がある。例えば、後述する実施例では、コンブ抽出物には、グルコノバクター属細菌のマンニトールからフルクトースへの変換効率に負の影響を及ぼす成分や、オーランチオキトリウム属微生物の増殖を促進する成分が含まれている可能性が示唆された。よって、高付加価値脂質の生産において、褐藻綱藻類抽出物中に含まれているマンニトール以外の成分の影響を低減させるために、褐藻綱藻類抽出物は、さらなる精製を行ってマンニトールの純度を高めたものを用いてもよい。
上記「培養培地」が、褐藻綱藻類抽出物を含有している場合は、マンニトール源として褐藻綱藻類抽出物のみを含有していてもよく、褐藻綱藻類抽出物以外のものに由来するマンニトールをさらに含有していてもよい。
培養培地に添加する褐藻綱藻類抽出物の濃度は、褐藻綱藻類抽出物に含まれているマンニトール換算で、5〜200g/Lであることが好ましく、30〜200g/Lであることがより好ましい。培養培地中の褐藻綱藻類抽出物の濃度が5g/L以上であれば、フルクトース生成微生物の培養上清を利用してオーランチオキトリウム属微生物が成育することができる。また、培養培地中の褐藻綱藻類抽出物の濃度が30g/L以上であれば、フルクトース生成微生物の培養上清を利用してオーランチオキトリウム属微生物が成育し、高濃度の高付加価値脂質を生産することができる。なお、培養培地における褐藻綱藻類抽出物の上記濃度は、フルクトース生成微生物の培養開始前の濃度である。
褐藻綱藻類抽出物の原料となる「褐藻綱藻類」としては、マンニトールを抽出可能な藻類であれば特に限定されず、例えば、コンブ目コンブ科藻類、コンブ目チガイソ科、ヒバマタ目ホンダワラ科等を挙げることができる。
上記「コンブ目コンブ科藻類」としては、特に限定されず、例えば、マコンブ(Laminaria japonica)等のカラフトコンブ属のほか、ゴヘイコンブ属、ネコアシコンブ属等に属する藻類を挙げることができる。
培養工程では、以下の2種類の培養法の内のどちらかを行えばよい。
(i)第1の実施形態(培養法(a))
第1の実施形態では、マンニトールと窒素源とを少なくとも含有している培養培地に、フルクトース生成微生物とオーランチオキトリウム属微生物とを植菌して培養する。つまり、第1の実施形態では、フルクトース生成微生物の培養開始時には、培養培地中にオーランチオキトリウム属微生物が存在している。
第1の実施形態では、上記培養培地に対して、フルクトース生成微生物をオーランチオキトリウム属微生物よりも先に植菌してもよいし、オーランチオキトリウム属微生物をフルクトース生成微生物よりも先に植菌してもよいし、フルクトース生成微生物とオーランチオキトリウム属微生物とを同時に植菌してもよい。
(ii)第2の実施形態(培養法(b))
第2の実施形態では、マンニトールと窒素源とを少なくとも含有している培養培地にフルクトース生成微生物を植菌し培養した後に、オーランチオキトリウム属微生物を植菌し培養する。つまり、第2の実施形態では、フルクトース生成微生物の培養開始時には、培養培地中にオーランチオキトリウム属微生物が存在しておらず、フルクトース生成微生物の培養開始から一定時間経過した後に、フルクトース生成微生物を培養している培養液に、オーランチオキトリウム属微生物を植菌する。
この場合、オーランチオキトリウム属微生物を植菌するタイミングとしては特に限定されないが、塩化ナトリウム添加工程(後述する)後に、オーランチオキトリウム属微生物を培養培地に植菌することが好ましい。オーランチオキトリウム属微生物は、0.5〜4%、好ましくは1.5〜3%の塩化ナトリウムを含有している培地中で好適に増殖することができる。このため、塩化ナトリウム添加工程後に、オーランチオキトリウム属微生物を培養培地に植菌することによって、増殖により適した条件でオーランチオキトリウム属微生物の培養を開始することができる。
また、第2の実施形態では、フルクトース生成微生物の培養上清に、オーランチオキトリウム属微生物を植菌して培養してもよい。
なお、培養培地中のマンニトールおよび窒素源は、フルクトース生成微生物によって消費されるので、追加供給しない限りは、フルクトース生成微生物の培養の間に培養培地中のマンニトールおよび窒素源は減少する。このため、第2の実施形態では、オーランチオキトリウム属微生物を植菌した時点では、培養培地中にマンニトールおよび窒素源が含まれていなくてもよい。
培養工程では、必要に応じて、培養培地に窒素源を適宜追加供給してもよい。
培養工程では、マンニトールと窒素源とを少なくとも含有している培養培地において前培養された、フルクトース生成微生物を培養培地に植菌することが好ましい。フルクトース生成微生物の前培養に用いる培養培地は、マンニトールと窒素源とを少なくとも含有していれば特に限定されないが、培養工程に用いる培養培地と同じ組成の培地であることが好ましい。また、前培養に用いる培養培地は、炭素源としてグルコースを含有していないものであることが好ましい。これにより、培養工程において、フルクトース生成微生物によってマンニトールをより効率よくフルクトースに変換させることができる。
また、培養工程では、前培養されたオーランチオキトリウム属微生物を培養培地に植菌してもよい。オーランチオキトリウム属微生物の前培養に用いる培養培地は、特に限定されないが、グルコースと窒素源とを少なくとも含有している培養培地であることが好ましい。例えば、3%GPY培地(30g/Lグルコース,6g/Lポリペプトン,2g/L酵母エキス,20g/L海塩,20g/L寒天)を用いることができる。また、オーランチオキトリウム属微生物の前培養する際の培養条件は特に限定されないが、例えば、上記3%GPY培地中で、28℃にて、振とうしながら2日間培養すればよい。
(1−2.塩化ナトリウム添加工程)
塩化ナトリウム添加工程は、塩化ナトリウムを上記培養培地に添加する工程である。なお、培養培地中のマンニトールはフルクトース生成微生物によって消費され、培養培地中の窒素源はフルクトース生成微生物およびオーランチオキトリウム属微生物によって消費されるので、追加供給しない限りは、これらの微生物の培養の間に培養培地中のマンニトールおよび窒素源は減少する。このため、塩化ナトリウム添加工程において、塩化ナトリウムを上記培養培地に添加した時点では、培養培地中にマンニトールおよび窒素源が含まれていなくてもよい。
塩化ナトリウム添加工程は、上記培養培地中のマンニトールのフルクトースへの変換率が50%以上になったときに行われる。「マンニトールのフルクトースへの変換率」は、フルクトース生成微生物の培養時のマンニトール初期濃度に対する、フルクトース生成量を意味する。
ここで、フルクトース生成微生物の培養を開始してt時間後のマンニトールのフルクトースへの変換率(以下、「変換率」と称する。)は、以下の式(1)で表される。
変換率(%)=フルクトース生成量/マンニトールの初発濃度×100 … (1)
(上記式(1)中、「フルクトース生成量」は、フルクトース生成微生物の培養を開始してt時間後のフルクトース生成量を意味し、「マンニトールの初発濃度」は、フルクトース生成微生物の培養開始前の培養培地中のマンニトールの濃度を意味する。)
上記「マンニトールの初発濃度」および上記「t時間後のフルクトース濃度」は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)装置等を用いて従来公知の方法により確認することができる。
塩化ナトリウム添加工程では、塩化ナトリウムは、上記培養培地における最終濃度が、オーランチオキトリウム属微生物が生育可能な濃度で、且つフルクトース生成微生物の生育を阻害する濃度となるように、上記培養培地に添加される。
ここで、上記「オーランチオキトリウム属微生物が生育可能な濃度」とは、その濃度の塩化ナトリウムを含んでいる培養培地中でオーランチオキトリウム属微生物が生育可能な濃度であればよく、オーランチオキトリウム属微生物が活発に増殖できる濃度でなくともよい。例えば、a%の塩化ナトリウムを含んでいる培養培地中でオーランチオキトリウム属微生物を一定期間(例えば、12時間)培養した後に、培養液中のオーランチオキトリウム属微生物の細胞数が培養前よりも増加していれば、この濃度「a%」が「オーランチオキトリウム属微生物が生育可能な濃度」であるといえる。
また、上記「フルクトース生成微生物の生育を阻害する濃度」とは、塩化ナトリウムを含んでいない培養培地におけるフルクトース生成微生物の増殖率を100%とした場合に、その濃度の塩化ナトリウムを含んでいる培養培地中におけるフルクトース生成微生物の増殖率が、80%以下となる濃度、好ましくは50%以下となる濃度、より好ましくは20%以下となる濃度、さらに好ましくは1%以下となる濃度、最も好ましくは限りなく0%に近くなる濃度であればよい。
「オーランチオキトリウム属微生物が生育可能な濃度で、且つフルクトース生成微生物の生育を阻害する濃度」は、特に限定されないが、1〜4%(w/v)、好ましくは1.5〜3%(w/v)、より好ましくは2〜2.5%(w/v)である。培養培地に添加する塩化ナトリウムの最終濃度が上記範囲であれば、オーランチオキトリウム属微生物を生育させつつ、フルクトース生成微生物の生育を阻害することができる。その結果、高付加価値脂質を効率よく生産することができる。
上記「塩化ナトリウム」としては、塩化ナトリウムの単体であってもよく、塩化ナトリウムと他の物質との混合物であってもよい。上記「塩化ナトリウムと他の物質との混合物」としては、例えば、海塩、岩塩等を挙げることができる。オーランチオキトリウム属微生物が天然において生育する海水では、ナトリウム以外のミネラルも存在することから、海塩を用いることが好ましい。
なお、上記「塩化ナトリウム」として塩化ナトリウムと他の物質との混合物を添加する場合は、塩化ナトリウム換算で、培養培地における最終濃度が上記範囲となるように添加すればよい。
海塩や岩塩等は、一種類のみを用いてもよく、複数種類を組み合わせて用いてもよい。海塩や岩塩等を複数種類組み合わせて用いる場合は、塩化ナトリウムの総濃度が上記範囲になるように培養培地に添加すればよい。
グルコノバクター属細菌等のフルクトース生成微生物は、高濃度塩類の存在下では生育できないが、オーランチオキトリウム属微生物は、むしろ、海水塩濃度か、その半量程度の塩類を要求する。本発明の高付加価値脂質の生産方法では、この塩類要求性の差を利用して塩化ナトリウム添加工程を包含することによって、グルコノバクター属細菌等のフルクトース生成微生物の生育を制御しつつ、オーランチオキトリウム属微生物を増殖させるような複合培養系を容易に実現することができる。
(1−3.抗生物質添加工程)
本発明の高付加価値脂質の生産方法は、フルクトース生成微生物に作用する抗生物質を上記培養培地に添加する、抗生物質添加工程をさらに包含していてもよい。フルクトース生成微生物に作用する抗生物質を上記培養培地に添加することによって、フルクトース生成微生物の生育を阻害することができる。一方、オーランチオキトリウム属微生物は、抗生物質耐性である。このため、本発明の高付加価値脂質の生産方法では、この抗生物質の作用性の差を利用して抗生物質添加工程をさらに包含することによって、グルコノバクター属細菌等のフルクトース生成微生物の生育を制御しつつ、オーランチオキトリウム属微生物を増殖させるような複合培養系を容易に実現することができる。
ここで、上記「フルクトース生成微生物に作用する抗生物質」としては、フルクトース生成微生物に作用するものである限り特に限定されないが、例えば、ストレプトマイシン、カナマイシン、ゲンタマイシン等のアミノグリコシド系抗生物質;ペニシリン、アンピシリン等のβ−ラクタム系抗生物質等を挙げることができる。上記抗生物質としては、一種類のみを用いてもよく、複数種類を組み合わせて用いてもよい。ただし、オーランチオキトリウム属微生物に作用する抗生物質を作用濃度以上に用いることはできない。
培養培地に添加する上記抗生物質の濃度は、フルクトース生成微生物の生育を阻害する濃度であれば特に限定されず、使用する抗生物質の種類によって適宜設定することができる。上記「フルクトース生成微生物の生育を阻害する濃度」とは、上記抗生物質を含んでいない培養培地におけるフルクトース生成微生物の増殖率を100%とした場合に、その濃度の上記抗生物質を含んでいる培養培地中におけるフルクトース生成微生物の増殖率が、80%以下となる濃度、好ましくは50%以下となる濃度、より好ましくは20%以下となる濃度、さらに好ましくは1%以下となる濃度、最も好ましくは限りなく0%に近くなる濃度であればよい。
抗生物質添加工程は、上記培養培地中の上記マンニトールのフルクトースへの変換率が50%以上になったときに行われる。上記「マンニトールのフルクトースへの変換率」は、上記「2.塩化ナトリウム添加工程」の項で説明したとおりである。
抗生物質添加工程は、上記塩化ナトリウム添加工程の前に行ってもよく、上記塩化ナトリウム添加工程の後に行ってもよく、上記塩化ナトリウム添加工程と同時に行ってもよい。
(1−4.その他の工程)
本発明の高付加価値脂質の生産方法は、上述した工程以外の工程をさらに包含していてもよい。
(i)前培養工程
本発明の高付加価値脂質の生産方法は、マンニトールと窒素源とを少なくとも含有している培養培地においてフルクトース生成微生物を前培養する、前培養工程を包含していてもよい。
前培養工程で用いる上記培養培地としては、マンニトールと窒素源とを少なくとも含有していれば特に限定されないが、培養工程に用いる培養培地と同じ組成の培地であることが好ましい。また、前培養工程で用いる上記培養培地は、炭素源としてグルコースを含有していないものであることが好ましい。これにより、マンニトールをフルクト―スに変換する酵素がフルクト―ス生成微生物においてより多く生産されることが期待され、培養工程において、当該フルクトース生成微生物によってマンニトールをより効率よくフルクトースに変換させることができる。
前培養工程におけるフルクトース生成微生物の培養条件は特に限定されないが、例えば、マンニトール−PY培地(30g/Lマンニトール,10g/Lポリペプトン,5g/L酵母エキス(pH6.0))中で、28℃にて、振とうしながら24時間培養すればよい。
(ii)高付加価値脂質回収工程
本発明の高付加価値脂質の生産方法は、高付加価値脂質を回収する、高付加価値脂質回収工程をさらに含有していてもよい。高付加価値脂質回収工程では、(a)高付加価値脂質をオーランチオキトリウム属微生物の菌体外に取り出してもよく、(b)高付加価値脂質がオーランチオキトリウム属微生物の菌体内に蓄積された状態で回収してもよい。
上記(a)の場合、高付加価値脂質の回収方法は、高付加価値脂質をオーランチオキトリウム属微生物の菌体外に取り出すことができる限りは特に限定されない。例えば、ヘキサンやクロロホルム/メタノール混液(2:1,v/v)を用いることによって、オーランチオキトリウム属微生物から脂肪酸を抽出することができる。抽出した脂肪酸は、その後エステル化してもよい。また、例えば、アセトン/メタノール混液(7:3,v/v)を用いることによって、オーランチオキトリウム属微生物からカロテノイドを抽出することができる。また、例えば、ヘキサンやクロロホルム/メタノール混液(2:1,v/v)を用いることによって、オーランチオキトリウム属微生物からスクアレンを抽出することができる。
上記(b)の場合、回収方法は、高付加価値脂質がオーランチオキトリウム属微生物の菌体内に蓄積された状態で回収できる限りは特に限定されない。例えば、オーランチオキトリウム属微生物を培養した培養液を遠心分離し、培養上清を廃棄することによって、高付加価値脂質含有菌体を回収することができる。
(iii)高付加価値脂質精製工程
本発明の高付加価値脂質の生産方法は、高付加価値脂質を精製する工程をさらに含有していてもよい。高付加価値脂質を精製する方法としては特に限定されないが、例えば、溶媒分画、超臨界流体抽出、吸着クロマトグラフィー等の方法によって、高付加価値脂質を精製することができる。
〔2.高付加価値脂質〕
本発明によって生産された高付加価値脂質は、高付加価値脂質を素材として利用する食品、化粧品および医薬品製造分野;炭化水素(テルペン類)を燃料として利用する産業分野;高付加価値脂質含有菌体を飼料として利用する水産分野および畜産分野;等に利用することができる。
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
<培地>
・グルコノバクター培地:40g/Lマンニトール、5g/L酵母エキス、2.5g/L硫酸マグネシウム7水和物、1g/L硫酸アンモニウム、1g/Lリン酸一カリウム二水素
・マンニトール培地(マンニトール−PY培地):30g/Lマンニトール,10g/Lポリペプトン,5g/L酵母エキス(pH6.0)
・3%グルコース−ポリペプトン−酵母エキス培地(3%GPY培地):30g/Lグルコース,6g/Lポリペプトン,2g/L酵母エキス,20g/L海塩,20g/L寒天(ただし、寒天は固体培地の場合のみ添加する)
・コンブ抽出物−PY培地:10%(w/v)コンブ抽出物,10g/Lポリペプトン,5g/L酵母エキス,pH6.0
・ポリペプトン−酵母エキス培地(PY培地):6g/Lポリペプトン,2g/L酵母エキス,20g/L海塩
・1%グルコース−ポリペプトン−酵母エキス培地(1%GPY培地):10g/Lグルコース,6g/Lポリペプトン,2g/L酵母エキス,20g/L海塩
・濃縮PY培地:0.6gポリペプトン,0.2g酵母エキス,2g海塩,70ml蒸留水,pH6.0,1ml抗生物質:抗真菌剤混合物
なお、上記培地に添加したマンニトールは、ナカライテスク社製の21303−32(品番)を使用し、ポリペプトンは、和光純薬製の392−02115(品番)を使用し、酵母エキスは、極東製薬製の551−01310−8(品番)を使用し、海塩は、シグマ・アルドリッチ社製のS9883(品番)を使用し、グルコースは、ナカライテスク社製の16805−64(品番)を使用し、抗生物質:抗真菌剤混合物は、ナカライテスク社製の09366−44(品番)を使用した。
なお上記海塩に含まれるナトリウムが全て塩化物として存在するとすれば、1gの海塩に含まれる塩化ナトリウムは0.72gとなる。
また、上記培地に添加したコンブ抽出物は、Khomtimchenko, S.V. & Kulikova, I.V. 1999. Lipids of two species of brown algae of the genus Laminaria. Chem Nat Prod, 35(1), 17-20.に記載された方法の改変法に従って調製した。具体的には、蒸留水に濃度が10%(w/v)となるように乾燥コンブ粉末を添加し、20分間撹拌した後に、遠心分離し、上清を回収した。抽出物のマンニトール濃度は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)装置を用いて測定した。乾燥コンブ粉末は、マコンブを風乾したのちに粉砕することによって調製した。
<微生物>
グルコノバクター属細菌としては、Biological Resource Center, NITE(NBRC)から取得したGluconobacter oxydans(NBRC 14819)を用いた。G. oxydans(NBRC 14819)は、試験培養を行う前に、マンニトール−PY培地中で、28℃にて、振とうしながら24時間前培養した。
オーランチオキトリウム属微生物としては、Aurantiochytrium sp. KH105株(受領番号:FERM AP−22267)を用いた。Aurantiochytrium sp. KH105は、試験培養を行う前に、3%GPY培地中で、28℃にて、振とうしながら2日間前培養した。
〔試験例1〕
図1の(a)は、褐藻綱藻類に特異的な糖類および単糖類の成分を示す図である。図1の(a)に示した褐藻綱藻類に由来する12種類の糖類を、最終濃度が1%(w/v)となるように、それぞれPY培地に添加した。Aurantiochytrium sp. KH105の発酵能は、28℃にて、4日間振とう培養した後の600nmの吸光度(OD600)を測定することによって評価した。試験は、三つ組みの試験管にて行った。吸光度は、吸光度計(CO7500、バイオクロム社製)を用いて測定した。
結果を図1の(b)に示す。図1の(b)は、Aurantiochytrium sp. KH105の各糖類を資化する能力を示すグラフである。Aurantiochytrium sp. KH105は、褐藻綱藻類に由来する12種類の糖類の内、グルコースを含む4種類の単糖類をそれぞれ含有している培地中で良好に増殖した。これに対して、多糖類であるアルギン酸塩、フコイダンおよびラミナランをそれぞれ含有している培地中でAurantiochytrium sp. KH105を培養した場合は、糖類を全く含有していないPY培地中で培養した場合(陰性対照)と比較して、吸光度に有意な差が認められなかった。また、Aurantiochytrium sp. KH105を、グルクロン酸塩を含有している培地中で培養した場合は、より低い吸光度を示した。これに対して、Aurantiochytrium sp. KH105を、フルクトースを含有している培地中で培養した場合は、グルコースを含有している培地中で培養した場合と比較して、有意に高い吸光度を示した。
〔試験例2〕
Aurantiochytrium sp. KH105を、G. oxydans(NBRC 14819)の培養上清(濃縮PY培地を添加したもの)中で増殖させた。
まず、G. oxydans(NBRC 14819)を、500mlのバッフル付フラスコを用いて、175mlのグルコノバクター培地中で培養した。培養上清の吸光度(OD600)の変化をモニタリングすることによって、G. oxydans(NBRC 14819)の増殖を測定し、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)装置を用いて糖類の消費量、および糖類の生成量を測定した。具体的には、糖類の濃度は、Sugar-D Cosmosilカラム(Nacalai Tesque, Kyoto, Japan)を備えたHPLCを用いて、オーブン温度を40℃、検出器温度を39℃に設定し、溶離液として1.0ml/分の流速に設定したアセトニトリル:HO(75:25,v/v)を用いて行った。定量のための内部標準として、マルトースを使用した。
異なる培養時間において4.5mlの培養上清を回収し、回収した培養上清を、それぞれ、10.5mlの濃縮PY培地に添加して混合した後に、3本の試験管に等量ずつ分注した。その後、Aurantiochytrium sp. KH105を植菌した。Aurantiochytrium sp. KH105を28℃、140rpmにて4日間(96時間)インキュベートした後に、吸光度(OD600)を測定することによってAurantiochytrium sp. KH105の増殖を測定した。
結果を図2に示す。図2の(a)は、マンニトールを含有している培養培地におけるG. oxydans(NBRC 14819)の増殖、糖類の消費量および糖類の生成量を示すグラフである。図2の(b)は、異なるタイムポイントで回収したG. oxydans(NBRC 14819)の培養上清中でのAurantiochytrium sp. KH105の増殖を示すグラフである。
18時間培養後に、マンニトール(初発濃度:32.0g/L)は完全に消費され、フルクトース濃度は28.0g/Lの最大値となった(図2の(a))。これは、G. oxydans(NBRC 14819)によるマンニトールからフルクトースへの変換率が87.5%であることを示している。
9時間培養後の培養上清中で、Aurantiochytrium sp. KH105は良好に増殖した。この時の培養上清中のフルクトース濃度は20.5g/L(濃縮PY培地を添加して2倍希釈する前の濃度)であった。9時間培養後の培養上清、12時間培養後の培養上清、15時間培養後の培養上清、18時間培養後の培養上清、および24時間培養後の培養上清におけるAurantiochytrium sp. KH105の最終的な吸光度は、ほぼ同じであった(図2の(b))。
〔試験例3〕
G. oxydans(NBRC 14819)を、異なる濃度(40g/L,80g/L,120g/L,160g/L)のマンニトールを含有しているグルコノバクター培地中で培養して増殖速度への影響を調べた。3つのバッフル付きフラスコを用いて、前培養したG. oxydans(NBRC 14819)を50mlの上記培地に植菌し、その後、G. oxydans(NBRC 14819)を28℃、140rpmにてインキュベートした。
結果を図3に示す。図3の(a)は、異なる濃度のマンニトールを含有しているグルコノバクター培地中でG. oxydans(NBRC 14819)を増殖させた場合の吸光度(OD600)を示すグラフであり、図3の(c)は、その時の培地のpHの変化を示すグラフである。図3の(a)のグラフ中に記載したエラーバーは、3回の反復試験の標準偏差を表している。
マンニトールの濃度を増加させても、G. oxydans(NBRC 14819)の増殖速度は速くならず、実際は、G. oxydans(NBRC 14819)の増殖が定常期に達するまでに要する培養時間が長くなった(図3の(a))。増殖が定常期に達した時点で、マンニトールが完全に消費されたと推測される。
また、培地中のマンニトールの濃度に関わらず、培地のpHは、培養期間に応じて同程度に低下した(図3の(c))。これは、おそらく、培地中のマンニトールの濃度に関わらず、G. oxydans(NBRC 14819)による酢酸の生成量が同じであることを示唆している。
さらに、マンニトール培地(40g/Lマンニトール,10g/Lポリペプトン,5g/L酵母エキスを含有)に種々の濃度の海塩を添加し、G. oxydans(NBRC 14819)の増殖に対する影響を調べた。
結果を図3に示す。図3の(b)は、G. oxydans(NBRC 14819)の増殖に対する海塩濃度の影響を示すグラフであり、図3の(d)は、その時の培地のpHの変化を示すグラフである。図3の(b)のグラフ中に記載したエラーバーは、3回の反復試験の標準偏差を表している。
海塩は、G. oxydans(NBRC 14819)の増殖を阻害し、海塩の濃度が高くなるとその影響が強くなることが明らかになった(図3(b))。培地中のpHの変化は、同じ傾向を示したが、海塩の濃度が1.8%(w/v)である場合に、培地中のpHはほとんど変化しなかった(図3(d))。これは、海塩の濃度が1.8%(w/v)である場合に、G. oxydans(NBRC 14819)の増殖率が低下することを示唆している。
〔試験例4〕
50mlのマンニトール−PY培地またはコンブ抽出物−PY培地をバッフル付フラスコに入れ、G. oxydans(NBRC 14819)を植菌して、28℃、140rpmにて、12時間培養した。コントロールとして、G. oxydans(NBRC 14819)を植菌していないPY培地および1%GPY培地をインキュベートした。ここまでの工程を「ステージ1」とした。
ステージ1の後に、4%(w/v)の海塩溶液を、等量の各培養液に添加した。十分に混合した後に、混合物のpHを6〜7になるように調整した。試験管スケールの試験を行うために、各培養液の培養上清(G. oxydans(NBRC 14819)を取り除いた、遠心分離した培地)を試験管に移した。また、フラスコスケールの試験を行うために、各培養液(G. oxydans(NBRC 14819)を含む培地)をフラスコに移した。前培養および洗浄を行ったAurantiochytrium sp. KH105を、これらの培地に植菌して、28℃、140rpmで振とうしながら4日間培養を行った。ここまでの工程を「ステージ2」とした。
600nmの吸光度(OD600)は、培養後に測定した。一方、糖類の濃度変化をモニタリングするために、全培養期間にわたって培地をサンプリングした。フラスコスケールの試験では、脂肪酸の生成およびカロテノイドの生成を確認した。
試験管スケールの試験の結果を表1に示す。表1は、マンニトール−PY培地またはコンブ抽出物−PY培地中でG. oxydans(NBRC 14819)を培養した後の培養上清を用いてAurantiochytrium sp. KH105を培養した場合の、試験管スケールの試験におけるAurantiochytrium sp. KH105の増殖および糖類の消費量を示している。
Figure 0006351328
また、フラスコスケール試験の結果を表2に示す。表2は、マンニトール−PY培地またはコンブ抽出物−PY培地中でG. oxydans(NBRC 14819)を培養した後の培養液を用いてAurantiochytrium sp. KH105を培養した場合の、フラスコスケールの試験におけるAurantiochytrium sp. KH105の増殖および糖類の消費量を示している。誤差は、2回の反復試験の値に基づいている。
Figure 0006351328
ステージ1では、マンニトール−PY培地を用いた場合には、G. oxydans(NBRC 14819)によるマンニトールの消費率は、試験管スケールの試験では73.8%であり、フラスコスケール試験では76.9%であり、同程度の消費率でマンニトールを消費した(表1および2)。一方、コンブ抽出物−PY培地を用いた場合は、G. oxydans(NBRC 14819)によるマンニトールの消費率は、試験管スケールの試験では67.8%であったのに対して、フラスコスケールの試験では86.4%と、わずかに高かった。また、マンニトール−PY培地を用いた場合には、G. oxydans(NBRC 14819)によってマンニトールがほぼ完全に消費されたのに対して、コンブ抽出物−PY培地を用いた場合には、消費されていないマンニトールが残存していた(表1および2)。
一方、Aurantiochytrium sp. KH105を植菌したステージ2では、試験管スケールの試験において、4日間の培養後にAurantiochytrium sp. KH105によって消費されたフルクトースは、マンニトール−PY培地を用いた場合には76.6%であったのに対して、コンブ抽出物−PY培地を用いた場合には96.9%であり、より多くのフルクトースが消費されていた(表1および2)。
フラスコスケールの試験では、この効果は認められず、マンニトール−PY培地を用いた場合およびコンブ抽出物−PY培地を用いた場合の両方において、4日間のインキュベーション後にAurantiochytrium sp. KH105によってフルクトースが完全に消費されていた。この結果は、コンブ抽出物培地中の特定の成分が、G. oxydans(NBRC 14819)のマンニトールからフルクトースへの変換効率に負の影響を及ぼすのに対して、Aurantiochytrium sp. KH105の増殖は促進する可能性があることが考えられた。
4日間のインキュベーション後に、最終的な吸光度(OD600)を測定した。フラスコスケールの試験では、試験管スケールの試験と比較して、吸光度が高かった。マンニトール−PY培地を用いた場合およびコンブ抽出物−PY培地を用いた場合の両方において、陽性対照(1%GPY培地)と比較して、Aurantiochytrium sp. KH105の最終的な吸光度が高かった(フラスコスケールの試験では、陽性対照では、最終的な600nmの吸光度(OD600)は3.63であった。)。
しかし、フラスコスケールの試験では、マンニトール−PY培地を用いた場合の最終的な吸光度は4.92であり、コンブ抽出物−PY培地を用いた場合の最終的な吸光度は5.09であり、Aurantiochytrium sp. KH105の最終的な吸光度は同程度であった。HPLC解析の結果、フラスコスケールの試験では、培地中のフルクトースが完全に消費されていた(表2)。これに対して、試験管スケールの試験では、培地中にフルクトースが残存していた(表1)。
〔試験例5〕
フラスコスケールの試験において、異なる培地(マンニトール−PY培地およびコンブ抽出物−PY培地)を用いた場合の、Aurantiochytrium sp. KH105における脂肪酸およびカロテノイドの生産性の違いを確認した。
試験例4で得られたAurantiochytrium sp. KH105の培養液5mlを遠心分離して上清を廃棄した。Aurantiochytrium sp. KH105を回収し、細胞を蒸留水で1回洗浄した。
回収、洗浄した細胞から、クロロホルム/メタノール混液(2:1,v/v)を用いて総脂肪酸(TFA)を抽出し、メタノールで希釈した10%塩酸を用いてエステル化したのち、窒素(N)ガス下で乾燥させた。これをヘキサンに溶解して、ガスクロマトグラフ装置(GC-17A; Shimadzu, Kyoto, Japan)に注入した。内部標準としてアラキジン酸(20:0)を用いた。ガスクロマトグラフ装置は、スプリットインジェクターと、190℃に設定したキャピラリーカラム(TC-70, 0.25 mm x 30 m; GL Science, Tokyo, Japan)と、270℃に設定した水素炎イオン化検出器とを備えたものを使用した。
カロテノイドは、アセトン/メタノール混液(7:3,v/v)を用いて複数回抽出し、濃縮し、その後、アセトンに溶解した。抽出物をシリカゲルプレート(Kieselgel 60; Merck Chemicals, Darmstadt, Germany)にスポットし、アセトン:ヘキサン(3:7,v/v)を用いて展開したのち、デンシトグラフィー解析によって定量した。標準物質として、β−カロテンおよびアスタキサンチンをスポットした。
結果を図4に示す。図4の(a)は、マンニトール−PY培地またはコンブ抽出物−PY培地中でG. oxydans(NBRC 14819)を培養した後の培養液を用いてAurantiochytrium sp. KH105を培養した場合の、フラスコスケールの試験におけるAurantiochytrium sp. KH105の脂肪酸生産量を示すグラフであり、図4の(b)は、カロテノイドの生産量を示すグラフである。
コンブ抽出物−PY培地を用いた場合の吸光度および総脂肪酸量は、マンニトール−PY培地を用いた場合の吸光度および総脂肪酸量よりも低かった(図4の(a))。マンニトール−PY培地において培養したAurantiochytrium sp. KH105から、22.7mg/Lの脂肪酸が抽出された。一方で、コンブ抽出物−PY培地において培養したAurantiochytrium sp. KH105から、14.2mg/Lの脂肪酸が抽出された。陽性対照(1%GPY培地)では、陰性対照(PY培地)と同程度の量の総脂質生産量であった(図4の(a))。
多価不飽和脂肪酸のうち、エイコサペンタエン酸(20:5n−3)の生産量(TFAの約10%)は、ドコサペンタエン酸(22:5n−3)の生産量(TFAの約20%)よりも少なかった。ドコサヘキサエン酸(22:6n−3)の生産量は、TFAの約40%であり、最も多かった。マンニトール−PY培地におけるDHAおよびEPA生産量は、それぞれ、9.4mg/Lおよび2.4mg/Lであった。これに対して、コンブ抽出物−PY培地におけるDHAおよびEPAの生産量は、それぞれ、5.9mg/Lおよび1.8mg/Lであった(図4の(a))。
カロテノイドの生産量は、薄層クロマトグラフィー法によって測定した。コンブ抽出物−PY培地を用いた場合に、カロテノイドの生産量が最も多く、15.9mg/Lであった。これは、陽性対照(1%GPY培地)でのカロテノイドの生産量(4.5mg/L)の3倍以上の量であった。マンニトール−PY培地を用いた場合のカロテノイドの生産量は、9.1mg/Lであった。
カロテノイドの組成分析によって、陽性対照(1%GPY培地)と、マンニトール含有培地(マンニトール−PY培地、コンブ抽出物−PY培地)を用いた場合とでは、組成が異なることが明らかになった。β−カロテンの割合は同程度(約15%)であったが、陽性対照(1%GPY培地)では、アスタキサンチンの割合が最も多く(63%)、カンタキサンチンの割合が最も少なかった(9.7%)。これに対して、マンニトール−PY培地またはコンブ抽出物−PY培地を用いた場合は、アスタキサンチンの割合が少なかった(それぞれ、総カロテノイドの26%および12%)。コンブ抽出物−PY培地を用いた場合は、カンタキサンチンは総カロテノイドの32%であり、アスタキサンチンは総カロテノイドの12%であった。マンニトール−PY培地を用いた場合は、カンタキサンチンおよびアスタキサンチンの生産量は、ほぼ同程度であった(それぞれ、22%および26%)。
マンニトール−PY培地を用いた場合に、アスタキサンチンおよびβ−カロテンの生産量は、それぞれ、2.3mg/Lおよび1.4mg/Lであった。コンブ抽出物−PY培地を用いた場合は、アスタキサンチンおよびβ−カロテンの生産量は、それぞれ、2.0mg/Lおよび2.5mg/Lであった。
〔試験例6〕
コンブ抽出物−PY培地を用いて、ジャー・ファーメンタースケールでの二段階発酵を行った。試験例4に記載した試験管スケールの試験と同じ実験系に従い、10L容量のジャー・ファーメンター(BE Marubishi, MDL-10L)を用いて、3Lのコンブ抽出物−PY培地にG. oxydans(NBRC 14819)を植菌し、その後、28℃、800rpmにて、pH6.0となるよう制御しながら5Sl/分の割合で給気して、12時間培養した(ステージ1)。その後、3Lの4%海塩溶液を、最終的な海塩濃度が2%となるように添加した。したがって、糖類の濃度は半分に希釈された。その後、Aurantiochytrium sp. KH105を植菌し、300rpmより遅く撹拌しながら、さらに7日間(168時間)培養した(ステージ2)。
異なる培養時間において培養液をサンプリングし、吸光度、糖類の濃度、並びに脂肪酸およびカロテノイドの濃度の変化を確認した。
ジャー・ファーメンター培養の間に、G. oxydans(NBRC 14819)およびAurantiochytrium sp. KH105の両方の増殖をモニタリングするために、吸光度および細胞の乾燥重量(cell dry weight:CDW)を測定した。さらに、糖類の消費量をモニタリングした。コンブ抽出物−PY培地は、G. oxydans(NBRC 14819)の植菌前(0時間培養後)には、24.2g/Lのマンニトールを含有していた。
結果を図5に示す。図5の(a)は、コンブ抽出物−PY培地を用いてジャー・ファーメンタースケールでの二段階発酵を行った場合の、吸光度、細胞の乾燥重量、マンニトール濃度およびフルクトース濃度の変化を示すグラフであり、図5の(b)は、脂肪酸の濃度の変化を示すグラフであり、図5の(c)は、カロテノイドの濃度の変化を示すグラフである。
ステージ1では、G. oxydans(NBRC 14819)の培養を開始して12時間後に、吸光度が最大値(2.85)に達した。この時、20.9g/Lのフルクトースが生産されていた。
ステージ2では、G. oxydans(NBRC 14819)の培養を開始して120時間後(Aurantiochytrium sp. KH105の培養を開始して108時間後)に、吸光度および細胞の乾燥重量が最大値に達した(それぞれ、9.4および4.3g/L)(図5の(a))。
この時点から、培養が終了するまで、吸光度および細胞の乾燥重量は急激に減少した。これは、G. oxydans(NBRC 14819)の培養を開始して132時間後に、マンニトールおよびフルクトースが消失(0g/L)した結果と一致していた。
脂肪酸およびカロテノイドの生産量に関して測定した。G. oxydans(NBRC 14819)の植菌前(0時間培養後)では、培地中に含まれている総脂肪酸は41.1mg/Lであった。この時点での脂肪酸組成を解析すると、オレイン酸(OA,18:1n−9)、リノール酸(LA,18:2n−6)、ジホモ-γ-リノレン酸(DGLA,20:3n−6)およびEPA(20:5n−3)等の不飽和脂肪酸が、脂肪酸の大部分を占めており、それぞれ、TFAの35.8%、8.5%、25.8%および6.2%であった。これらの脂肪酸はコンブに由来するものであると推測された。
総脂肪酸量(TFA)は、培養開始後から増加し、ステージ1の終わりには、最大値(176.1mg/L)に達した(図5の(b))。
ステージ2では、TFAは、G. oxydans(NBRC 14819)の培養を開始して132時間後(Aurantiochytrium sp. KH105の培養を開始して120時間後)に、最大値(118.1mg/L)に達し、その後、G. oxydans(NBRC 14819)の培養を開始して180時間後(Aurantiochytrium sp. KH105の培養を開始して168時間後)に最小値(20.9mg/L)になった。
ステージ1では、α−リノレン酸(ALA,18:3n−3)が0.8mg/Lから1.4mg/Lに増加し、DGLAは、10.5mg/Lから25.9mg/Lに増加した。しかし、α−リノレン酸およびDGLAは、Aurantiochytrium sp. KH105の植菌後に減少し、その後、完全に消失した。
EPAは、培養0時間の時点で存在している(1.4mg/L)。しかし、ステージ2において急激に増加し、G. oxydans(NBRC 14819)の培養を開始して60時間後(Aurantiochytrium sp. KH105の培養を開始して48時間後)に、最大値(22.2mg/L)となった(図5の(b))。
DPAおよびDHAは、ステージ2において蓄積し始めた。DPAおよびDHAは、G. oxydans(NBRC 14819)の培養を開始して60時間後(Aurantiochytrium sp. KH105の培養を開始して48時間後)に最大値に達した。生産されたDPAの最大値は14.9mg/Lであり、生産されたDHAの最大値は53.7mg/Lであった。
総カロテノイド量は、培養0時間の時点で、10.2mg/Lであった。これは、アスタキサンチンと、TLCにおける2つの未知のスポット(Rf=0.55および0.51)とに由来する。
アスタキサンチンは、G. oxydans(NBRC 14819)を植菌する前にも存在していたが、G. oxydans(NBRC 14819)の植菌によって一時的に消失した。2つの未知のスポットは、ステージ1の間にも存在していたが、Aurantiochytrium sp. KH105を添加したステージ2で消失した。
総カロテノイドの生産量は、G. oxydans(NBRC 14819)の培養を開始して156時間後(Aurantiochytrium sp. KH105の培養を開始して144時間後)に最大値(95.4mg/L)に達した。アスタキサンチンは、G. oxydans(NBRC 14819)の培養を開始して132時間後(Aurantiochytrium sp. KH105の培養を開始して120時間後)に最高濃度(18.0mg/L)となり、β−カロテンは、G. oxydans(NBRC 14819)の培養を開始して156時間後(Aurantiochytrium sp. KH105の培養を開始して144時間後)に、最高濃度(12.6mg/L)となった(図5(c))。
本発明によれば、マンニトールを炭素源として利用して高付加価値脂質を生産することができる。本発明によって生産された高付加価値脂質は、高付加価値脂質を素材として利用する食品、化粧品および医薬品製造分野;炭化水素(テルペン類)を燃料として利用する産業分野;高付加価値脂質含有菌体を飼料として利用する水産分野および畜産分野;等に利用することができる。

Claims (12)

  1. (a)マンニトールと窒素源とを少なくとも含有している培養培地に、フルクトース生成微生物とオーランチオキトリウム属微生物とを植菌して培養するか、または(b)当該培養培地に当該フルクトース生成微生物を植菌し培養した後に、当該オーランチオキトリウム属微生物を植菌し培養する、培養工程と、
    塩化ナトリウムを上記培養培地に添加する、塩化ナトリウム添加工程と、
    を包含し、
    上記フルクトース生成微生物は、マンニトールをフルクトースに変換し、且つ当該フルクトースを菌体外に分泌可能な微生物であり、
    上記塩化ナトリウム添加工程は、上記培養培地中の上記マンニトールのフルクトースへの変換率が50%以上になったときに行われ、
    上記塩化ナトリウムは、上記培養培地における最終濃度が、上記オーランチオキトリウム属微生物が生育可能な濃度で、且つ上記フルクトース生成微生物の生育を阻害する濃度となるように、上記培養培地に添加されることを特徴とする、高付加価値脂質の生産方法(ここで、上記高付加価値脂質は、エイコサペンタエン酸、ドコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、ジホモ-γ-リノレン酸、アスタキサンチン、フェニコキサンチン、カンタキサンチン、エキネノン、β−カロテン、リコペン、スクアレン、または、ステロールである。)
  2. 上記フルクトース生成微生物は、グルコノバクター属細菌であることを特徴とする、請求項1に記載の高付加価値脂質の生産方法。
  3. 上記塩化ナトリウム添加工程では、上記塩化ナトリウムは、上記培養培地における最終濃度が1〜4%(w/v)となるように、上記培養培地に添加されることを特徴とする、請求項2に記載の高付加価値脂質の生産方法。
  4. 上記フルクトース生成微生物に作用する抗生物質を上記培養培地に添加する抗生物質添加工程をさらに包含し、
    上記抗生物質添加工程は、上記培養培地中の上記マンニトールのフルクトースへの変換率が50%以上になったときに行われることを特徴とする、請求項1から3の何れか1項に記載の高付加価値脂質の生産方法。
  5. 上記培養工程において、マンニトールと窒素源とを少なくとも含有している培養培地において前培養された、フルクトース生成微生物を培養培地に植菌することを特徴とする、請求項1から4の何れか1項に記載の高付加価値脂質の生産方法。
  6. 上記培養工程における培養培地は、マンニトールのみを炭素源として含有していることを特徴とする、請求項1から5の何れか1項に記載の高付加価値脂質の生産方法。
  7. 上記培養培地は、褐藻綱藻類抽出物を含有していることを特徴とする、請求項1から6の何れか1項に記載の高付加価値脂質の生産方法。
  8. 上記褐藻綱藻類は、コンブ科藻類であることを特徴とする、請求項7に記載の高付加価値脂質の生産方法。
  9. 上記培養工程が(b)である場合において、
    上記塩化ナトリウム添加工程後に、上記オーランチオキトリウム属微生物を上記培養培地に植菌することを特徴とする、請求項1に記載の高付加価値脂質の生産方法。
  10. 上記培養工程が(b)である場合において、
    上記フルクトース生成微生物の培養上清に、上記オーランチオキトリウム属微生物を植菌し培養することを特徴とする、請求項1から9の何れか1項に記載の高付加価値脂質の生産方法。
  11. 上記オーランチオキトリウム属微生物は、オーランチオキトリウム(Aurantiochytrium sp. KH105、受領番号:FERM AP−22267)であることを特徴とする、請求項1から10の何れか1項に記載の高付加価値脂質の生産方法。
  12. 上記前培養における培養培地は、上記培養工程における培養培地と同じ組成であることを特徴とする、請求項5に記載の高付加価値脂質の生産方法。
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