以下、本発明の鋳片引抜装置および鋳片引抜方法について、その一般的形態を詳細に説明する。ただし、本発明は、以下に説明する形態によって限定されるものではない。
本発明の鋳片引抜装置は、鋳型の鋳型下部から鉛直方向に下降する鋳片を鉛直方向に、すなわち水平面に対して垂直方向に引抜く装置である。その用途としては、例えば垂直型連続鋳造装置を構成する引抜装置として好適である。前記鋳型は、注入された溶湯を冷却して、未凝固部および当該未凝固部の外周部に凝固殻を有する鋳片を形成する。鋳型としては金型を用いることが可能であり、溶湯を注入することのできる上下方向に貫通した空間部を有する鋳型であることが好ましい。当該空間部上部から鋳型に溶湯を注入し、注入された溶湯を冷却して製造した鋳片を当該空間部下部から垂直方向に引抜くことが可能となり、製造効率を上げることができるからである。
そして、本発明の鋳片引抜装置は、把持手段と、下降手段を少なくとも備える。前記把持手段は、把持具を有し、当該把持具は把持面を備える。当該把持面が、前記鋳片を水平方向に把持する。
鋳型の下部から下降する鋳片の表面温度は、約800℃となる場合がある。そのため、把持具の素材としては、この温度に耐えることのできる、合金工具鋼や耐熱鋼等の耐熱性の素材を使用することができる。また、把持具の配置や把持面の形状等は、鋳片を水平方向に把持することができるものであれば、特に限定されない。把持具の配置の一例としては、把持面が鋳片の表面と向かい合う一対の把持具が同一水平線上に位置し、かつ、鋳片を挟んで鋳片の中心軸を通る同一直線上に位置するように配置している配置が挙げられる。この配置であれば、一対の把持具が鋳片の中心軸へ水平方向に移動することにより、把持面が鋳片の表面にある被把持面を捕捉し、さらに把持具が鋳片へ荷重を付加することにより鋳片を把持することができる。把持具は一対に限定されず、例えば、3つの把持具が鋳片を挟んで同一水平線上に位置し、かつ、これら3つの把持具が均等な距離に位置するように配置することも可能である。また、前記一対の把持具をさらにもう一対加えて、4つで二対の把持具により把持することも可能である。
把持具の形状としては、鋳片を把持する把持面を備えていれば、特に限定されない。把持面の形状は、鋳片を的確に把持できるように、鋳片の表面の被把持面に密着可能な形状とすることができる。例えば、断面が四角形や六角形といった多角形形状である多角柱形状の鋳片を把持するためには、鋳片の平面部分のみを把持する場合や、平面部分に加えて角を把持する場合がある。平面部分のみを把持する場合、把持面も平面形状とすることが可能である。また、平面部分と角を把持する場合、把持面をくの字に曲がった形状とすることにより、2面の平面と角とを1つの把持面で把持することができる。また、断面が円形状である円柱状の鋳片を把持する場合には、把持面を円弧状とすることにより、鋳片を的確に把持することができる。
前記把持面は、滑り止め形状を有する。滑り止め形状が、スリップの発生を防止し、鋳片の把持を確実なものとする。滑り止め形状としては、例えば突起物や凹凸形状が挙げられる。
前記突起物は、鋳片の被把持面を安定して捕捉することができるよう、複数有することができる。例えば平面形状の把持面に複数の突起物が固着した形態が挙げられる。3個〜9個の突起物が把持面に均等に配置していれば、鋳片を確実に把持することができる。突起物の素材としては、鋳片の表面温度に耐えることのできる、合金工具鋼や耐熱鋼等の耐熱性の素材を使用することができる。また、突起物の形状としては、鋳片の被把持面に食い込んで鋳片を確実に把持することができれば特に限定されない。例えば、円錐形状、先端が丸みのある略円錐形状、円錐台形状、円柱形状、多面体形状、球形状等が挙げられる。前記突起物は、前記把持具と同一の素材を用いることが可能であり、別の素材を用いることも可能である。また、前記突起物は、前記把持具と一体形成することが可能であり、また、別途作製した突起物を把持具の表面に固定化させることも可能である。
また、前記凹凸形状は、滑り止め効果を発揮するものであれば、形状に限定はない。例えば、タイヤのトレッドパターンのようなリブ型、ラグ型、リブラグ型、ブロック型等の形状や、靴底のソールパターン等の形状が挙げられる。前記凹凸形状は、前記把持具と同一の素材を用いることが可能であり、別の素材を用いることも可能である。また、前記凹凸形状は、把持面と一体形成することが可能であり、平滑な把持面を加工して凹凸形状とすることや、凹凸形状に加工した板等を把持面に固定化させることも可能である。凹凸形状となる材料の素材としては、鋳片の表面温度に耐えることのできる、合金工具鋼や耐熱鋼等の耐熱性の素材を使用することができる。
そして、本発明の鋳片引抜装置が備える下降手段は、前記把持具を下降させて把持した鋳片を引抜く手段である。下降手段は、把持具を下降させることが可能であれば、特に限定されないが、例えばサーボモータ等の電動の動力シリンダー等が挙げられる。
本発明の鋳片引抜装置において、前記把持手段が、前記把持具を水平方向に移動する水平移動手段を備えることができる。鋳片の把持や解放のために把持具を移動させることが容易となるからである。前記水平移動手段は、把持具を水平方向に移動させることが可能であれば、特に限定されないが、例えば鋳片の自重を支持する油圧駆動システムと、鋳片のセンタリングを維持し、パスラインの乱れを調整するサーボモータ等の電動の駆動システムとを組み合わせた動力シリンダー等が挙げられる。
本発明の鋳片引抜装置は、前記把持具を上昇させる上昇手段をさらに備えることができる。下降した把持具を上昇させることにより、当該把持具により鋳片を再度把持することが可能となるからである。前記上昇手段は、把持具を上昇させることが可能であれば、特に限定されないが、例えばサーボモータ等の電動の動力シリンダー等が挙げられる。前記把持具の上昇および下降は、同一の手段とすることが可能である。例えば、把持具を下降させる下降手段としての動力シリンダーを、把持具を上昇させる上昇手段としての動力シリンダーとすることができる。
本発明の鋳片引抜装置は、把持具の水平移動や上昇、下降、その他の移動を制御する制御手段等を備えることができる。制御手段は、特に限定されないが、前記移動手段をプログラミングでコントロールするシーケンサー等が挙げられる。
本発明の鋳片引抜装置は、前記鋳片の冷却を抑制する冷却抑制手段をさらに備えることができる。前記冷却抑制手段は、前記鋳型の鋳型下部より垂直方向に下降する前記鋳片の冷却を抑制する手段である。前記鋳型より下降した前記鋳片は鋳造環境下の室温雰囲気下において冷却される。冷却抑制手段を用いることにより、金属材料に発生し得る鋳片の中心部分の割れ等の内部欠陥を防止することができる。また、鋳造後に行われる次工程である熱間加工等において、鋳片を再結晶温度以上に加熱する負担を軽減することができる。
前記冷却抑制手段は、耐熱性を有する断熱材を少なくとも備えることができる。断熱材としては、例えば、セラミックファイバーブランケット、耐火レンガ、ロックウール、断熱ボード、および断熱レンガ等を使用することができる。冷却抑制手段としては、前記鋳片の凝固殻の周辺を前記断熱材で被覆することのできる手段が挙げられる。例えば、鋳片の形状に応じて、上下方向に貫通した空間部を有する箱型形状や筒型形状等であり、鋳片の熱の影響を受ける内壁を断熱材で被覆したものを冷却抑制手段とすることができる。前記断熱材は、前記鋳片の凝固殻と接触してもよく、非接触でもよい。ただし、冷却を抑制する効果を十分に得るためには、前記鋳片の凝固殻と断熱材との距離は、0mm〜100mmであることが好ましい。
本発明の鋳片引抜装置は、鉄系、アルミニウム系、銅系およびこれらの合金等、さまざまな金属材料に対応することが可能である。
次に、本発明の鋳片引抜方法について、説明する。本発明の鋳片引抜方法は、鋳型の鋳型下部から下降する鋳片を垂直方向に引抜く方法である。例えば、垂直型連続鋳造装置を用いて鋳造する際に、鋳片を引抜く方法として好適である。前記鋳型は、注入された溶湯を冷却して、未凝固部および当該未凝固部の外周部に凝固殻を有する鋳片を形成する。鋳型としては金型を用いることが可能であり、溶湯を注入することのできる上下方向に貫通した空間部を有する鋳型であることが好ましい。当該空間部上部から鋳型に溶湯を注入し、注入された溶湯を冷却して製造した鋳片を当該空間部下部から垂直方向に引抜くことが可能となり、製造効率を上げることができるからである。
そして、本発明の鋳片引抜方法は、把持工程と、下降工程を少なくとも含む。前記把持工程は、前記鋳片を、滑り止め形状を有する把持面を備えた把持具により水平方向に把持する工程である。前記把持工程としては、鋳片を水平方向に把持することができるものであれば、特に限定されない。例えば、把持工程は、把持具の把持面を鋳片の表面と向かい合うよう配置する工程、一対の把持具を同一水平線上に位置し、かつ、鋳片を挟んで鋳片の中心軸を通る同一直線上に位置するように配置する工程、当該一対の把持具が鋳片の中心軸へ向かって水平方向に移動する工程、前記把持面が鋳片の表面にある被把持面を捕捉する工程、および前記把持具が鋳片へ荷重を付加することにより当該鋳片を把持する工程等を含むことができる。前記把持工程において、把持具は一対に限定されず、例えば、3つの把持具が鋳片を挟んで同一水平線上に位置し、かつ、これら3つの把持具が均等な距離に位置するように配置する工程を含めることも可能である。また、前記一対の把持具をさらにもう一対加えて、4つで二対の把持具により把持する工程とすることも可能である。水平方向に把持する方法としては、特に限定されないが、例えば油圧駆動システムとサーボモータ等の電動駆動システムとを組み合わせた動力シリンダー等により把持具を水平移動させる方法が挙げられる。
滑り止め形状としては、スリップの発生を防止し、鋳片の把持を確実なものとするものであれば、特に限定されない。例えば、複数の突起物や凹凸形状が挙げられる。また、把持具や把持具の把持面等については、上記にて説明したとおりである。
本発明の鋳片引抜方法が含む下降工程は、前記把持工程後、前記把持具を下降する工程である。前記把持具を下降させることにより、把持した鋳片を引抜くことができる。把持具を下降させる方法としては、特に限定されないが、例えばサーボモータ等の電動の動力シリンダー等により把持具を下降させる方法が挙げられる。
本発明の鋳片引抜方法において、前記把持工程は、待機位置に位置する複数の前記把持具が、前記鋳片の中心軸へ水平方向に移動して前記鋳片の被把持面を把持する工程とすることができる。ここで、前記把持工程は、前記鋳片の被把持面と前記把持具の待機位置との間に位置する第1位置まで前記把持具が移動する第1移動工程と、前記第1位置に位置する前記把持具を前記鋳片の被把持面まで移動して、当該被把持面に前記把持面が接触する第2移動工程と、前記把持具が前記鋳片に荷重を付加する荷重付加工程と、前記把持具が前記荷重を維持する荷重維持工程とを少なくとも含むことができる。
前記第2移動工程における前記把持具の移動速度は、前記第1移動工程における前記把持具の移動速度よりも遅くすることができる。鋳片の引抜を速やかに行うためには、前記把持具の移動速度を速めることが重要である。しかしながら、その一方で、鋳片を正確に把持すると共に、把持による鋳造パスラインのぶれを防止する必要がある。第1移動工程と第2移動工程の移動速度を変えることで、鋳片の迅速な引抜と正確な把持、およびパスラインのぶれの防止を達成することができる。前記第1移動工程における前記移動速度は、10mm/秒〜50mm/秒とすることが可能である。この範囲内の移動速度であれば、鋳片の引抜を速やかに行うことが可能であり、20mm/秒であれば、前記第1移動工程から前記第2移動工程への速度の変更を問題なく行うことができる。また、前記第2移動工程における前記移動速度は、0.5mm/秒〜5mm/秒とすることが可能である。この範囲内の移動速度であれば、鋳片を正確に把持することができると共に、把持によってパスラインがぶれるおそれもない。移動速度が、2mm/秒であれば、連続鋳造する場合において、製造効率の低下のおそれがなく、鋳片を問題なく把持することができる。前記待機位置および前記第1位置は、任意の位置とすることができる。
前記荷重付加工程では、前記把持具が前記鋳片に荷重を付加することにより、鋳片を確実に把持する工程である。荷重は、鋳片の形状や固さ等に応じて任意とすることができ、鋳片を把持するまで付加する。荷重の付加は、例えば、シーケンサーによって動力シリンダーを制御することにより行うことができる。
前記荷重維持工程では、前記把持具が前記荷重を維持することにより、鋳片の把持を維持する工程である。荷重は、前記荷重付加工程における荷重と同じである。例えば、前記鋳片の材料を鉄鋼材料とした場合、鋳片の未凝固部は、自然冷却により凝固してオーステナイト組織となり、さらに冷却されることでフェライト組織となる。炭素を含有する炭素鋼の場合には、鋳片の未凝固部は、自然冷却により凝固してオーステナイトとセメンタイトの2相混合物となり、さらに冷却されることでフェライトとセメンタイトの2相混合物であるパーライト組織となる。一方、凝固殻は、オーステナイトからさらに冷却されてフェライトとなり、炭素鋼の場合にはオーステナイトとセメンタイトの2相混合物からパーライトとなる。オーステナイトは面心立方格子構造をとり、原子充填率は74%である。一方で、フェライトは体心立方格子構造をとり、原子充填率は68%である。オーステナイトからフェライトへ変態することで、原子充填率は低下するため、鋳片の体積は膨張する。鋳片は、外部から冷却することによって鋳片の表面から内部に向けてオーステナイトからフェライトへ変態し、体積の膨張も鋳造の表面から内部へと進む。また、液状の溶湯は、固化により体積が収縮する。このように、鋳片は、鋳造工程の過程において体積の膨張収縮変化が認められ、この変化の際の鋳片は、伸びや曲げに弱いもろい性質を有する。そこで、荷重を付加した後も、鋳片の体積や温度等に応じて、前記把持具を水平方向に移動させて、鋳片が極端に変形しないよう適切な荷重を維持することが好ましい。この荷重維持工程は、鋳片を正確に把持すると共に、把持による鋳造パスラインのぶれを防止することができる。荷重の維持は、例えば、鋳片の体積や温度を随時測定し、測定結果に応じて、シーケンサーを用いて動力シリンダーを制御することにより行うことができる。
本発明の鋳片引抜方法において、前記下降工程が、前記鋳片を把持した前記把持具を移動して前記鋳片のパスラインを調整するパスライン調整工程をさらに含むことができる。パスラインのぶれは、前記第2移動工程における把持具の移動速度の制御や、荷重付加工程における荷重の付加、および荷重維持工程における荷重の維持等により十分に防止することができる。ただし、これらの制御によってもパスラインがぶれてしまう場合に備え、当該パスライン調整工程を含んでいれば、パスラインを確実に調整することができる。当該工程は、パスラインの調整が可能な工程であれば、特に限定されない。例えば、目標としているパスラインからの鋳片の位置のずれを随時測定し、測定結果に応じて、シーケンサーを用いて動力シリンダーを制御して把持具を移動することにより、行うことができる。
本発明の鋳片引抜方法は、前記下降工程後、前記把持具が前記鋳片の把持を解放する解放工程と、前記解放工程後、前記把持具が前記待機位置に移動する第3移動工程とをさらに含むことができる。解放工程により鋳片の把持を解放した把持具が待機位置に移動することで、当該把持具により鋳片を再度把持することが可能となる。前記解放工程および第3移動工程としては、特に限定されないが、前記把持工程および下降工程と同様に、例えば油圧、電動等の動力シリンダー等により把持具を移動させる方法が挙げられる。
前記解放工程が、前記鋳片に付加された荷重を前記把持具が解放する荷重解放工程と、前記荷重解放工程後、前記把持具が前記第1位置まで移動する第4移動工程と、を少なくとも含むことができる。把持具が荷重を解放する工程と把持具の移動工程とを分けることにより、把持具が荷重を解放することによる鋳片への影響を減らし、パスラインのぶれを防止することができる。
前記第4移動工程における前記把持具の移動速度は、前記第3移動工程における前記把持具の移動速度よりも遅くすることができる。鋳片を把持していた把持具によって、鋳片の再度の把持を速やかに行うためには、前記把持具の移動速度を速めることが重要である。しかしながら、その一方で、鋳片を正確に解放すると共に、解放による鋳造パスラインのぶれを防止する必要がある。第3移動工程と第4移動工程の移動速度を変えることで、鋳片の迅速な再把持と正確な解放、およびパスラインのぶれの防止を達成することができる。前記第3移動工程における前記移動速度は、10mm/秒〜50mm/秒とすることが可能である。この範囲内の移動速度であれば、鋳片の再度の把持を速やかに行うことが可能であり、20mm/秒であれば、前記第4移動工程から前記第3移動工程への速度の変更を問題なく行うことができる。また、前記第4移動工程における前記移動速度は、0.5mm/秒〜5mm/秒とすることが可能である。この範囲内の移動速度であれば、鋳片を正確に解放することができると共に、解放によってパスラインがぶれるおそれもない。移動速度が、2mm/秒であれば、連続鋳造する場合において、製造効率の低下のおそれがなく、鋳片を問題なく解放することができる。
本発明の鋳片引抜方法は、前記鋳片の冷却を抑制する冷却抑制工程をさらに含むことができる。前記冷却抑制工程は、前記鋳型の鋳型下部より垂直方向に下降する前記鋳片の冷却を抑制する工程である。前記鋳型より下降した前記鋳片は、鋳造環境下の室温雰囲気下において冷却される。冷却抑制工程により、金属材料に発生し得る鋳片の中心部分の割れ等の内部欠陥を防止することができる。また、鋳造後に行われる次工程である熱間加工等において、鋳片を再結晶温度以上に加熱する負担を軽減することができる。冷却の抑制は、鋳片の中心部分の割れが発生する時期や、前記割れが発生する時期に加えて、当該時期の前後においても行うこともできる。また冷却の開始から終わりまで、冷却を抑制することも可能である。
前記冷却抑制工程は、冷却抑制手段により前記鋳片の冷却を抑制する工程を含むことができる。前記冷却抑制手段は、耐熱性を有する断熱材を少なくとも備えることができる。断熱材としては、例えば、セラミックファイバーブランケット、耐火レンガ、ロックウール、断熱ボード、および断熱レンガ等を使用することができる。冷却抑制手段としては、前記鋳片の凝固殻の周辺を前記断熱材で被覆することのできる手段が挙げられる。例えば、鋳片の形状に応じて、上下方向に貫通した空間部を有する箱型形状や筒型形状等であり、鋳片の熱の影響を受ける内壁を断熱材で被覆したものを冷却抑制手段とすることができる。前記断熱材は、前記鋳片の凝固殻と接触してもよく、非接触でもよい。ただし、冷却を抑制する効果を十分に得るためには、前記鋳片の凝固殻と断熱材との距離は、0mm〜100mmであることが好ましい。
本発明の鋳片引抜方法は、鉄系、アルミニウム系、銅系およびこれらの合金等、さまざまな金属材料に対応することが可能である。
以下、本発明の鋳片引抜装置および鋳片引抜方法について、その実施の形態を、図面を参照して説明する。この場合において、本発明は図面の実施形態に限定されるものではない。
図12は、従来の垂直型連続鋳造装置を示す断面図である。図示の連続鋳造装置101は、溶湯102を保持するタンデッシュ103、鉄製の水冷モールド104、水冷モールド104の下部から下降する鋳片105を垂直方向に引抜く1対のピンチロール106、および鋳片105を切断する鋳片切断装置107を備える。タンデッシュ103が保持する溶湯102は、タンデッシュ103の底部に設けたノズル108から溶湯流109として、スラグ110を配置した水冷モールド104に注入される。水冷モールド104に注入された溶湯102は、水冷モールド104に注入されることにより冷却され、融液Aから融液と固相の混合物Bを経て、さらに固相Cとなる。水冷モールド104により冷却されて固相Cによる凝固殻が形成された鋳片105は、ピンチロール106により水冷モールド104から引き抜かれ、冷却される。連続鋳造装置101は、溶湯102を外気から遮断するシールド111、および鋳片105を水冷する2次冷却帯(図示せず)等をさらに備えることができる。ピンチロール106を備える連続鋳造装置101は、1.0m/分〜1.5m/分といった通常の引抜速度であれば、問題なく鋳造できる。しかしながら、偏析の発生を防止し、微細組織を形成することができるよう、0.01m/分〜0.1m/分といった通常よりも遅い引抜速度により連続鋳造する場合がある。この場合には、ピンチロールが鋳片の表面の微細な肌荒れ等の凹凸を上手く捕捉できないためにスリップが発生する場合がある。また、鋳造条件によっては、引抜速度は一定ではなく、タンデッシュから水冷モールドへ溶湯流を注入する注入条件に応じて、引抜速度を増減する場合や、引抜を一時停止する場合がある。このような引抜速度の増減等によっても、ピンチロールによるスリップが発生し得る。スリップが発生すると、鋳片の引抜速度を計画どおりに制御することが困難となるおそれや、パスラインが乱れるおそれがあり、鋳片の品質を維持することが困難となる。
図1は、本発明の鋳片引抜装置の一態様を示す。図1(a)に図示した鋳片引抜装置1−1は、把持具2と、把持具2を垂直方向に昇降する昇降レール3、把持具2を昇降レール3と接続する接続部材4、把持具2と接続部材4を接続し、把持具2を水平方向に移動させるアーム5を備える。把持具2は、油圧駆動システムとサーボモータを組み合わせたシリンダー(図示せず)によってアーム5が水平方向に伸縮することにより、鋳片を把持または解放する。また、把持具2は、サーボモータによる電動シリンダー(図示せず)によって昇降レール3をガイドとして垂直方向に昇降する。
図1(b)に、図1(a)とは異なる形態の鋳片引抜装置の一態様を示す。鋳片引抜装置1−2は、把持具2、接続部材4、アーム5を複数備える点、および昇降レール3に代えて、把持具が周回可能な周回レール6を備える点が、鋳片引抜装置1−1とは異なる。鋳片引抜装置1−1と同様に、把持具2は、油圧駆動システムとサーボモータを組み合わせたシリンダー(図示せず)によってアーム5が水平方向に伸縮することにより、鋳片を把持または解放する。また、把持具2は、サーボモータによる電動シリンダー(図示せず)によって周回レール6をガイドとして周回する。
把持具2は、鋳片を水平方向に把持する把持面7を有し、把持面7は滑り止め形状を有する。滑り止め形状としては、例えば、把持面7に円錐形状に突起したポンチ8や(図2(a))、タイヤのトレッドパターンのようなリブ型の凹形状9が挙げられる。
図3は、ピンチロールに代えて、鋳片を挟んで一対の鋳片引抜装置1−1を備えた垂直型連続鋳造装置を示す図である。図示の連続鋳造装置11は、溶湯12を保持するタンデッシュ13、鉄製の水冷モールド14、水冷モールド14の下部から下降する鋳片15を垂直方向に引抜く1対の鋳片引抜装置1−1、および鋳片15を切断する鋳片切断装置17を備える。タンデッシュ13が保持する溶湯12は、タンデッシュ13の底部に設けたノズル18から溶湯流19として、スラグ20を配置した水冷モールド14に注入される。水冷モールド14に注入された溶湯12は、水冷モールド14に注入されることにより冷却され、融液Aから融液と固相の混合物Bを経て、さらに固相Cとなる。水冷モールド14により冷却されて固相Cによる凝固殻が形成された鋳片15は、鋳片引抜装置1−1により水冷モールド14から引き抜かれ、冷却される。連続鋳造装置11は、溶湯12を外気から遮断するシールド21、および鋳片15を水冷する2次冷却帯(図示せず)等をさらに備えることができる。
鋳片引抜装置1−1は、把持具2の把持面7を鋳片の表面22と向かい合うよう配置する。把持具2は、油圧駆動システムとサーボモータを組み合わせたシリンダーによってアーム5が水平方向に伸長し、鋳片15を把持する。そして、鋳片15を把持した把持具2は、サーボモータによる電動シリンダーによって昇降レール3をガイドとして垂直方向に下降する。これらの動作により、鋳片引抜装置1−1は鋳片15を引抜くことができる。また、把持具2は、油圧駆動システムとサーボモータを組み合わせたシリンダーによってアーム5が水平方向に収縮し、鋳片15を把持から解放する。そして、サーボモータによる電動シリンダーによって昇降レール3をガイドとして垂直方向に上昇する。これらの動作により、把持具2は鋳片15を再度把持することができる。
図4は、鋳片を挟んで一対の鋳片引抜装置1−1を垂直方向に2組備えた垂直型連続鋳造装置を示す図である。このように、鋳片引抜装置1−1を垂直方向に2組備えれば、例えば一対の鋳片引抜装置が昇降レールの最下流まで鋳片を把持し、昇降レールの最上流まで移動して再度鋳片を把持するまでの間、もう一対の鋳片引抜装置が鋳片を把持して引抜くことが可能となる。このように、2組の鋳片引抜装置が連携して動作することで、鋳片を連続して引抜くことができる。
図5は、鋳片を挟んで一対の鋳片引抜装置1−2を備えた垂直型連続鋳造装置を示す図である。鋳片引抜装置1−2は、把持具2の把持面7を鋳片の表面22と向かい合うよう配置する。把持具2は、油圧駆動システムとサーボモータを組み合わせたシリンダーによってアーム5が水平方向に伸長し、鋳片15を把持する。そして、鋳片15を把持した把持具2は、サーボモータによる電動シリンダーによって周回レール6をガイドとして垂直方向に下降する。これらの動作により、鋳片引抜装置1−2は鋳片15を引抜くことができる。また、把持具2は、油圧駆動システムとサーボモータを組み合わせたシリンダーによってアーム5が水平方向に収縮し、鋳片15を把持から解放する。そして、サーボモータによる電動シリンダーによって周回レール6をガイドとして垂直方向に上昇する。これらの動作により、把持具2は鋳片15を再度把持することができる。また、同一の周回レールに把持具を複数接続することにより、1つの把持具が鋳片を把持している間、他の把持具が鋳片の把持に備えて移動等することができる。
図6は、さまざまな断面形状を有する鋳片と鋳片を把持する把持具の配置について説明する図である。鋳片15の断面が四角形形状である場合、平面形状の把持面7は鋳片15の表面22と向かい合うよう配置し、さらに一対の把持具2は同一水平線上に位置し、かつ、鋳片15を挟んで鋳片の中心軸23を通る同一直線24上に把持具2の中心が位置するように配置することができる(図6(a))。このような配置とすることにより、鋳片を正確に把持し、把持を安定して維持することができる。
図6(b)では、図6(a)に示す一対の把持具2に加え、さらに鋳片15の図6(a)とは異なる表面を把持するための一対の把持具2を配置する。図6(a)の把持具2と同様に、把持面7は鋳片15の表面22と向かい合うよう配置し、さらに一対の把持具2は同一水平線上に位置し、かつ、鋳片15を挟んで鋳片の中心軸23を通る同一直線24上に把持具2の中心が位置するように配置する。これらの把持具2は、二対の把持具2が鋳片15を把持することが可能であり、一対のみが鋳片15を把持することもできる。このように四角形形状の鋳片15の全ての面を把持することが可能な配置とすれば、鋳片の把持をより安定して維持することができる。
図6(c)では、図6(a)、(b)の把持具2のように、鋳片15の表面22の平面部分の把持に代えて、鋳片15の角を把持するための一対の把持具2を配置する。把持面7は、くの字に曲がった形状であり、鋳片15の2面の平面と角とを1つの把持面で把持することができる。図6(a)、(b)の把持具2と同様に、一対の把持具2は同一水平線上に位置し、かつ、鋳片15を挟んで鋳片の中心軸23を通る同一直線24上に把持具2の中心が位置するように配置する。このような配置とすることにより、鋳片を正確に把持し、把持を安定して維持することができる。
図6(d)では、図6(a)〜(c)とは異なり、断面が円形状の鋳片15を把持する場合の3つの把持具2の配置を示す。把持面7は円弧状であり、断面が円形状の鋳片を的確に把持することができる。3つの把持具2は、鋳片15を挟んで同一水平線上に位置し、かつ、これら3つの把持具のそれぞれが均等な距離に位置すると共に、それぞれの把持具2の中心が鋳片の中心軸23を通る同一直線24上に位置するように配置する。このような把持面の形状と把持具の配置とすることにより、断面が円柱状の鋳片を正確に把持し、把持を安定して維持することができる。
図6(e)では、図6(a)〜(d)とは異なり、断面が六角形形状の鋳片15を把持する場合の4つの把持具2の配置を示す。鋳片15の平面を把持する平面形状の把持面7を有する一対の把持具2と、鋳片15の2面の平面と角とを把持するくの字に曲がった形状の把持面7を有する一対の把持具2が配置されている。図6(a)〜(c)の把持具2と同様に、一対の把持具2は同一水平線上に位置し、かつ、鋳片15を挟んで鋳片の中心軸23を通る同一直線24上に把持具2の中心が位置するように配置する。これら4つの把持具のそれぞれが均等な距離に位置する。このような配置とすることにより、断面が六角形形状の鋳片を正確に把持し、把持を安定して維持することができる。
図7は、本発明の鋳片引抜方法における把持工程について、その実施形態の一例を説明する図である。図3における鋳片15の一部と把持具2のみを抜き出した図である。そして、図6(a)において説明したように、鋳片15の断面が四角形形状である場合であって、平面形状の把持面7が鋳片15の表面22と向かい合うよう配置し、さらに一対の把持具2は同一水平線上に位置し、かつ、鋳片15を挟んで鋳片の中心軸23を通る同一直線24上に把持具2の中心が位置するように配置した把持具2を例として説明する図である。
把持工程では、把持面7が待機位置25に位置する一対の把持具2が、鋳片15の中心軸となるパスライン27へ水平方向に移動して、鋳片15の表面22を把持する。ここで、前記把持工程は、表面22と待機位置25との間に位置する第1位置26まで把持具2の把持面7が移動する第1移動工程と(図7(a)、(b))、第1位置26に位置する把持具2を鋳片15の表面22まで移動して、表面22に把持面7が接触する第2移動工程と(図7(b)、(c))、把持具2が鋳片15に荷重を付加する荷重付加工程と、把持具2が荷重を維持する荷重維持工程とを含む。一対の把持具2は、向かい合った配置から鋳片15の中心軸の方向へ近づくように移動する他は、第1移動工程、第2移動工程、荷重付加工程、および荷重維持工程の各工程において、同様の移動挙動を示す。第2移動工程における把持具2の移動速度は、第1移動工程における把持具2の移動速度よりも遅い。
前記荷重付加工程では、把持具2が鋳片15に荷重を付加して、鋳片15を確実に把持する(図7(c))。荷重は、鋳片を把持するまで付加し、荷重の付加は、シーケンサー(図示せず)によって動力シリンダー(図示せず)を制御することにより行う。
前記荷重維持工程では、把持具2が荷重を維持して、鋳片15の把持を維持する。荷重を付加した後も、鋳片の体積や温度等に応じて、把持具2を水平方向に移動させて適切な荷重を維持する。これにより、鋳片15を正確に把持すると共に、把持によるパスラインのぶれを防止することができる。荷重の維持は、鋳片の体積や温度を任意の測定手段(図示せず)によって随時測定し、測定結果に応じて、シーケンサーを用いて動力シリンダーを制御することにより行う。
図8は、本発明の鋳片引抜方法における解放工程、および第3移動工程について、その実施形態の一例を説明する図である。図7と同様に、図3における鋳片15の一部と把持具2のみを抜き出すとともに、図6(a)において説明した把持具2の配置を例として説明する。解放工程は、把持具2が鋳片15に付加した荷重を把持具が解放し、その後、把持具2の把持面7が第1位置26まで移動する第4移動工程を含む(図8(a)、(b))。第3移動工程は、解放工程後に把持具2の把持面7が待機位置25に移動する工程である(図8(b)、(c))。一対の把持具2は、鋳片15の中心軸23の方向から遠ざかるように移動する他は、解放工程および第3移動工程の各工程において同様の移動挙動を示す。第4移動工程における把持具2の移動速度は、第3移動工程における把持具2の移動速度よりも遅い。解放工程および第3移動工程では、動力シリンダー(図示せず)により把持具を移動させる。
図9は、本発明の鋳片引抜方法におけるパスライン調整工程について、その実施形態の一例を説明する図である。図7、図8と同様に、図3における鋳片15の一部と把持具2のみを抜き出すとともに、図6(a)において説明した把持具2の配置を例として説明する。本発明の鋳片引抜方法における下降工程が含むパスライン調整工程では、鋳片15を把持した把持具2を移動して鋳片15のパスラインを調整する。目標としているパスライン27からの鋳片15の位置のずれを任意の測定手段(図示せず)によって随時測定し、測定結果に応じて、シーケンサーを用いて動力シリンダーを制御して把持具を移動することにより、行うことができる(図9(a)、(b))。パスライン調整工程は、荷重維持工程と同時に行うことができる工程である。
図10は、冷却抑制手段の一態様を示す図である。図10(a)は、箱28の斜視図であり、箱本体29は、上下方向に貫通した空間部30を有し、内壁が断熱材31で被覆されている。箱28は、例えばその側面に箱28の内部と外部とを連通可能な連通部32が上下方向に開いていることにより、アーム5が箱28の内部と外部とを橋渡しして、把持具2を内蔵することができる(図10(b))。箱28の断面は、図10(c)〜(e)に示すように四角形、円形、多角形等の形状を取ることができ、鋳片15の断面形状に応じてさまざまな形状をとることができる。箱28の連通部32の長さは、昇降レールや周回レールの垂直方向の長さに応じて、任意に設定することができ、箱28の垂直方向の長さと同じか、または短くすることができる。また、箱28の垂直方向の長さは、鋳片15の冷却を抑制したいパスラインの長さに応じて、任意に設定することができる。
図11は、冷却抑制手段として箱28を備えた鋳片引抜装置1−3を備えた垂直型連続鋳造装置を示す図である。箱28を備える他は、鋳片引抜装置1−1と同様の構成となっている。図10(b)において説明したように、アーム5が連通部を介して箱28の内部と外部とを橋渡しして、把持具2を内蔵することにより、鋳片の引抜と冷却の抑制を同時に行うことができる。
以上説明したように、本発明の鋳片引抜装置および鋳片引抜方法によれば、鋳片を確実に把持することが可能となることから、通常よりも遅い引抜速度による連続鋳造のみならず、通常の引抜速度による連続鋳造にも対応することができる。また、引抜速度を増減する場合や、引抜を一時停止する場合等によっても、パスラインが乱れることがなく、鋳片の引抜速度を計画どおりに制御することが可能であり、鋳片の品質を維持することが容易となる。さらに、鋳片の引抜と冷却の抑制を同時に行うことができる。