次に、本発明の好ましい実施の形態について、図面を参照して説明する。
図1は本発明の実施の一形態の冷蔵庫の外観を示している。この冷蔵庫は、冷蔵室101と冷凍室102と野菜室103を備えるとともに自動製氷機能を備えたものである。製氷のために、冷蔵室101の内部には着脱可能な水タンク111が設けられており、水タンク111内の水が冷凍室102内の製氷トレー112に供給されるようになっている。冷凍室102内で製氷トレー112の下方には、製氷トレー112で生成したキューブ状の氷を貯える氷容器113が設けられている。この冷蔵庫では、水タンク111に硬度の高い水が供給されても、硬度成分が除去または低減された水から氷を生成できるようにしている。
図2は、図1に示した冷蔵庫における、製氷に用いられる水の供給経路とその供給経路に沿って配置される機器とを示している。図1に示した冷蔵庫は、硬度成分が除去または低減されたすなわち脱塩処理がなされた水が製氷トレー112に供給されるようにするために、水タンク111と製氷トレー112との間に脱塩モジュール10が設けられている。水タンク111と脱塩モジュール10の間には、水タンク111内の水を脱塩モジュール10に給送するポンプ121が設けられており、脱塩モジュール10によって脱塩処理された水すなわち脱塩水が電磁弁122を介して製氷トレー112に供給される。脱塩モジュール10は、例えば、冷蔵庫内に配置される。特に、冷蔵室101と同程度の温度(0℃以上10℃以下)となる場所に配置される。炭酸カルシウム及び炭酸マグネシウムの水に対する溶解度は低温であるほど大きいので、0℃以上ではあるが室温よりも低温の環境中に脱塩モジュール10を配置することによって、脱塩モジュール10内やそれに至るまでの配管におけるスケールの発生をより効果的に防止できる。バイポーラ膜やイオン交換樹脂、特に陰イオン交換樹脂やバイポーラ膜の陰イオン交換膜は、高温下での使用においてそのイオン交換性能が経時的に低下することが知られている。脱塩モジュール10は、脱塩・再生時ともに直流電圧を印加するため、電極面で熱を発生する。そのため、冷蔵室101と同程度の温度(0℃以上10℃以下)の場所に脱塩モジュールを配置することによって、冷却作用により電極12、13からの発熱の影響が小さくなり、電極近傍のイオン交換樹脂およびバイポーラ膜へのダメージを低減できる。その結果、長期的な脱塩性能の確保が可能となる。
後述するように脱塩モジュール10を継続して使用するためには再生処理を行う必要があり、その際、イオン濃度が高い濃縮水が脱塩モジュール10から排出される。濃縮水は、電磁弁123を介して濃縮水排水タンク124に貯えられるようになっている。
図3は、脱塩モジュール10の構成を模式的に示している。
脱塩モジュール10は、印加する直流電圧の極性反転が可能な一対の電極12,13と、一対の電極12,13によって電圧が印加される空間内に配置されたバイポーラ膜11と、を備え、供給された水に対して脱塩処理を行うものである。容器内に電極12,13が相互に離隔して設けられており、断面構成として見たときに電極12,13間の空間を複数の部分に仕切るように電極12,13から離れてバイポーラ膜11が配置している。さらに、極性反転が可能なように電極12,13に直流電圧を印加するために、直流電源21と、直流電源21と電極12,13の間に配置されて制御信号によって制御される切替スイッチ22とが設けられている。
電極12,13としては、陰極及び陽極として機能を発揮するものであればよく、例えば、白金、パラジウム、イリジウム等の貴金属、あるいはこれらの貴金属をチタン等に被覆した網状あるいは板状の電極を挙げることができる。電極12,13の形状としては、平板、エクスパンド、パンチング、丸棒、ワイヤーなどが考えられるが、バイポーラ膜11の形状にあわせ、バイポーラ膜11やバイポーラ膜11間の空間に対して均一に電圧をかけられるようなものである必要がある。
バイポーラ膜11は、陽イオン交換膜14と陰イオン交換膜15とを接合させた構造を有する。図3では、断面構成として、電極12,13間に複数枚のバイポーラ膜11が配置されているように描かれているが、平行平板状の電極12,13の間に相互に平行かつ電極12,13にも平行となるように実際に複数枚のバイポーラ膜11を配置してもよいし、あるいは、一方の電極を中心電極とし他方の電極を円筒電極として電極12,13を同心円状に配置し、これらの電極間で1枚のバイポーラ膜を渦巻き状に巻回するように配置してもよい。バイポーラ膜11の配置としてどのような構成を採用したとしても、水タンク111からポンプ121を経て脱塩モジュール10に供給された水が、電極12,13とバイポーラ膜11の間の空間やバイポーラ膜11の相互間の空間を均等に通水できるようにすることが必要である。このとき、いずれのバイポーラ膜11も、陽イオン交換膜14側の面が電極12に向き、陰イオン交換膜15側の面がもう1つの電極13に向くように、電極11,12の間に配置されている。言い換えれば、電極12,13の間で各バイポーラ膜11の荷電方向が同一にされている。
以上述べた脱塩モジュール10を備える冷蔵庫での製氷動作について説明する。ポンプ121の起動、電磁弁122,123の開閉、及び制御信号による切替スイッチ22の制御は、図示しない制御装置によって行われるものとする。
氷容器113から氷が取り出されると、氷容器113に設けられたセンサーにより、氷容器113内の氷の量が減ったことが検知される。それによりポンプ121が起動し、水タンク111内に補給されている水を吸い上げて脱塩モジュール10に供給する。このとき、電磁弁122を開け、電磁弁123を閉じるようにする。脱塩モジュール10では、ポンプ121の起動と同時に直流電源21及び切替スイッチ22によって、図4に示すように、バイポーラ膜11の陽イオン交換膜14側の電極12が陽極、陰イオン交換膜15側の電極13が陰極となるように、電極11,12間に直流電圧が印加される。すると脱塩モジュール10内に通水された水の中のカルシウムイオン(Ca2+)やマグネシウムイオン(Mg2+)などの陽イオンは、電極11,12間の電界によってバイポーラ膜11の陽イオン交換膜14側に移動し、そこで水素イオン(H+)とイオン交換して陽イオン交換膜14に吸着される。同様に、原水中に含まれる炭酸イオン(CO3 2-)や硫酸イオン(SO4 2-)などの陰イオンは、バイポーラ膜11の陰イオン交換膜15側に移動し、そこで水酸化物イオン(OH-)とイオン交換して陰イオン交換膜15に吸着される。イオン交換によって遊離した水素イオン及び水酸化物イオンは、それぞれ、電界により陰イオン交換膜15及び陽イオン交換膜14中を移動して水中に放出され、再結合して水となる。これにより、水タンク111から脱塩モジュール10に供給された水の脱塩処理が行われて硬度成分がバイポーラ膜11に吸着し、脱塩モジュール10から電磁弁121を経て、硬度成分が除去または低減された水が製氷トレー112に供給されることになる。
脱塩所定がなされた一定量の水が製氷トレー112に供給されると、ポンプ121が停止して脱塩モジュール10への水の供給が遮断され、同時に脱塩モジュール10への直流電圧の印加も停止し、電磁弁122が閉じられる。この時点までに製氷トレー112には一定量の水が貯えられており、この水が冷却されて氷となる。このように脱塩処理された水から生成された氷は、カルシウムやマグネシウムなどの硬度成分が除去されているので、白濁がなくて見栄えが良い。また、製氷トレー112にスケールが発生することが防がれるので、製氷トレー112に供給される水と製氷トレー112の有効な体積との間に差が生じることがなくなり、予定しない形状の氷が生成することが起こらなくなる。
脱塩処理がなされた水を製氷トレー112に対して供給し続けると、バイポーラ膜11には次第に硬度成分が蓄積し、ついには脱塩処理を行うことができなくなる。そのため、脱塩処理が行えなくなる前に、バイポーラ膜11に蓄積されているイオンを除去する再生処理を行う必要がある。
バイポーラ膜11の再生処理を行う場合には、脱塩モジュール10内に水が存在する状態で、バイポーラ膜11の陽イオン交換膜14側の電極12が陰極、陰イオン交換膜15側の電極13が陽極となるように電極12,13間に直流電圧を印加する。すると、バイポーラ膜11での陽イオン交換膜14と陰イオン交換膜15との界面で水の解離が起こり、水素イオンと水酸化物イオンが生成する。水素イオンは陽イオン交換膜14内を移動し、陽イオン交換膜14に捕捉されていたカルシウムイオンやマグネシウムイオンなどの陽イオンとイオン交換し、このイオン交換で遊離した陽イオンは水中に放出される。同様に、水酸化物イオンは陰イオン交換膜15内を移動し、陰イオン交換膜14に捕捉されていた炭酸イオンや硫酸イオンなどの陰イオンと陰イオン交換し、このイオン交換で遊離した陰イオンも水中に放出される。この処理により陽イオン交換膜14のイオン形が水素イオン形となり、陰イオン交換膜15のイオン形が水酸化物イオン形となって、バイポーラ膜11の再生が行われたことになる。このとき、バイポーラ膜11に捕捉されていたイオンが高濃度に脱塩モジュール10内の水の中に排出され、濃縮水となる。この濃縮水は、電磁弁123を開けることによって脱塩モジュール10から濃縮水排水タンク124に排出される。濃縮水排水タンク124に貯えられることとなった濃縮水は、高い硬度を有するので、例えば、硬度成分を利用した機能水として使用することが可能である。
このようなバイポーラ膜11の再生処理は、例えば、脱塩モジュール10の積算脱塩時間が予め設定された時間に達した場合や、製氷トレー112に対する給水回数が規定の回数に達した場合に行われる。
次に、本発明の別の実施形態の冷蔵庫について説明する。本発明が適用される冷蔵庫は自動製氷機能のみを有するものに限定されるものではなく、例えば、冷水を供給するディスペンサーを備える冷蔵庫にも本発明を適用することができる。図6は、本発明の別の実施形態の冷蔵庫を示している。
図6に示す冷蔵庫は、図1に示すものと同様に、冷蔵室101、冷凍室102及び野菜室103を備えている。図6には示されていないが、図1に示すものと同じく、冷蔵室101内に設けられた水タンク111と冷凍室102内に設けられた製氷トレー112及び氷容器113とからなる自動製氷機構が設けられている。冷蔵室101の扉104には、冷蔵庫外に冷水を供給する飲用ディスペンサー114が設けられている。飲用ディスペンサー114では、給水ボタン115を押すことにより、ノズル116からコップ117などの容器に一定量の冷水が供給されるようになっている。
図7は、図6に示した冷蔵庫における、冷水の供給や製氷に用いられる水の供給経路とその供給経路に沿って配置される機器とを示している。この冷蔵庫は、飲用ディスペンサー114で使用する水を供給するために給水栓などを経て水道管に接続しており、上述したものと同様の脱塩モジュール10は、給水栓からの配管から給水を受けている。水道管における給水圧を利用できるので、脱塩モジュール10からの脱塩水は、ポンプを介することなく、電磁弁122を経て製氷トレー112に供給され、電磁弁125を経て飲用ディスペンサー114に供給される。脱塩モジュール10やそれに接続する配管を冷蔵庫内において冷蔵室101と同程度の温度となる場所に配置することにより、脱塩モジュール10に供給された水が冷やされて、飲用ディスペンサー114から冷水を供給できるようになる。
この冷蔵庫では、氷容器113に設けられたセンサーにより氷容器113内の氷の量が減ったことが検知されると、電磁弁122が開き、同時に直流電源21及び切替スイッチ22によって、バイポーラ膜11の陽イオン交換膜14側の電極12が陽極、陰イオン交換膜15側の電極13が陰極となるように、電極11,12間に直流電圧が印加される。その結果、給水栓から脱塩モジュール10に供給された水が脱塩処理され、製氷トレー112に供給されることになる。同様に、冷蔵庫前面の扉104に配置された飲用ディスペンサー114の給水ボタン115が操作されると、電磁弁125が開き、同時にバイポーラ膜11の陽イオン交換膜14側の電極12が陽極、陰イオン交換膜15側の電極13が陰極となるように、電極11,12間に直流電圧が印加される。その結果、脱塩モジュール10で脱塩された冷水が飲用ディスペンサー114に供給されてノズル116が吐出する。
飲用ディスペンサー114には、ノズル116から滴り落ちる水やコップ117からあふれた水を受けて排水するために水受け皿126が設けられている。図1及び図2に示す冷蔵庫と同様に、脱塩モジュール10に対して再生処理を行う必要があるが、脱塩モジュール10で再生処理を行った結果発生する濃縮水は、電磁弁123を介して、水受け皿126からの排水の配管に合流するようになっている。この排水は、適切な排水処理が必要であればそれを行った後に下水道等に放流してもよいし、硬度成分の高い機能水として利用してもよい。再生処理は、例えば、脱塩モジュール10の積算脱塩時間が予め設定された時間に達した場合に行われる。
図6及び図7に示した冷蔵庫では、脱塩モジュール10によって脱塩処理がなされ、硬度成分が除去または低減された水が飲用ディスペンサー114及び製氷トレー112に供給される。その結果、水道水の硬度が高い地域であっても使用者の嗜好にあった硬度の冷水を飲用ディスペンサーから供給できる。またスケールが発生しないので、予定した形状であって、白濁がなくて見栄えが良い氷を作成することができる。
次に、本発明で用いることができる別の脱塩モジュールについて説明する。
本発明者らの知見によると、図3に示した脱塩モジュール10では、バイポーラ膜10を構成する陽イオン交換膜あるいは陰イオン交換膜の交換容量に対して十分な脱塩能力が発揮できず、バイポーラ膜10のイオン交換容量から理論的に算出される周期よりも頻繁にバイポーラ膜10の再生処理を行う必要が生じる。バイポーラ膜による脱塩処理での脱塩性能が低い理由の一つとして、バイポーラ膜の膜面が通水方向に対して平行になるようにバイポーラ膜を配置した上で、バイポーラ膜に接触した水から電界によって通水方向とは垂直な方向にイオンを移動させるため、膜に到達しないイオンは吸着されずに水に残存することになることが挙げられる。言い換えれば、脱塩性能が低いのは、イオン交換体として機能するバイポーラ膜と水との接触効率が悪いためである。そこで脱塩モジュールにおいて、バイポーラ膜間の空間、あるいはバイポーラ膜と電極との間の空間に、陽イオン交換体と陰イオン交換体とを通水性を損なわないように配置することが考えられる。陽イオン交換体及び陰イオン交換体が配置された領域をイオン交換領域と呼ぶ。陽イオン交換体及び陰イオン交換体は、弱酸性陽イオン交換体と弱塩基性陰イオン交換体との組み合わせ、弱酸性陽イオン交換体と強塩基性陰イオン交換体との組み合わせ、及び強酸性陽イオン交換体と弱塩基性陰イオン交換体との組み合わせのいずれかの組み合わせとすることが好ましい。このような陽イオン交換体と陰イオン交換体は、例えば、粒状の陽イオン交換樹脂と粒状の陰イオン交換樹脂である。この構成によれば、バイポーラ膜における陽イオン交換膜に面する電極が陽極、陰イオン交換膜に面する電極が陰極となるようにしてこれらの電極間に直流電圧を印加することによって、バイポーラ膜とイオン交換領域とによって効率よく脱塩を行なうことができ、また、電極に印加される直流電圧の極性を反転することにより、バイポーラ膜とイオン交換領域の両方を再生でき、脱塩処理と再生処理とを多数回にわたって繰り返し行うことができる。
図8に示す脱塩モジュール10は、図3に示したものと同様のものであるが、バイポーラ膜11間の空間、及びバイポーラ膜11と電極12,13との間の空間に、イオン交換樹脂層16を設けたものである。このイオン交換樹脂層16は、通水性を有しており、陽イオン交換体と陰イオン交換体とが混合して配置したイオン交換領域となるものである。陽イオン交換体は例えば陽イオン交換樹脂であり、陰イオン交換体は例えば陰イオン交換樹脂である。イオン交換樹脂層16を構成する陽イオン交換体と陰イオン交換体との組み合わせは、弱酸性陽イオン交換体と弱塩基性陰イオン交換体との組み合わせ、弱酸性陽イオン交換体と強塩基性陰イオン交換体との組み合わせ、及び強酸性陽イオン交換体と弱塩基性陰イオン交換体との組み合わせのいずれかである。なお、図3に示したものと同様に、電極12,13に対しては、極性反転のための切替スイッチ22を介して、直流電源21が接続している。バイポーラ膜11及び電極12,13としては、図3に示した脱塩モジュールにおいて用いられているものと同様のものを用いることができる。
図8に示したものでは、粒状の陽イオン交換樹脂と粒状の陰イオン交換樹脂とを混合して両者が均一に混じり合った状態のものをイオン交換樹脂層16とし、このようなイオン交換樹脂層16が、電極12,13とバイポーラ膜11の間の空間、及び、バイポーラ膜11の相互間の空間に充填されている。もっとも、本実施形態で利用可能なイオン交換樹脂層16は、これに限られるものではなく、バイポーラ膜11の陽イオン交換膜14に陽イオン交換樹脂が接し陰イオン交換膜15に陰イオン交換樹脂が接するように両方のイオン交換樹脂を配したものや、これとは逆に陽イオン交換膜14に陰イオン交換樹脂が接し陰イオン交換膜15に陽イオン交換樹脂が接するように両方のイオン交換樹脂を配したものであってもよい。また、バイポーラ膜11で仕切られた空間ごとに陽イオン交換樹脂と陰イオン交換樹脂のいずれかを充填して、全体として陽イオン交換樹脂と陰イオン交換樹脂とが交互に配置されるようにしてイオン交換樹脂層を設けてもよい。
次に、図8に示した脱塩モジュール10による脱塩処理について説明する。
図3に示した脱塩モジュールの場合と同様に、バイポーラ膜11において陽イオン交換膜14が陽極側となり、陰イオン交換膜15が陰極側となるように電極12,13の間に直流電圧を印加すると、脱塩モジュール10内の水に含まれる陽イオンは、バイポーラ膜11の陽イオン交換膜14側に移動し、そこで水素イオンとイオン交換して陽イオン交換膜14内に吸着される。同様に陰イオンは、バイポーラ膜11の陰イオン交換膜15側に移動し、そこで水酸化物イオンとイオン交換して陰イオン交換膜15内に吸着される。イオン交換によって水中に移動した水素イオン及び水酸化物イオンは、再結合して水となる。陽イオンや陰イオンのうち、バイポーラ膜11においてイオン交換されなかったものも、イオン交換樹脂層16でイオン交換されて吸着される。その結果、脱塩水が効率よく得られる。
この脱塩モジュールでは、イオン交換樹脂層16には、少なくとも弱酸性陽イオン交換樹脂と弱塩基性陰イオン交換樹脂の一方が含まれる。通常であれば、弱酸性陽イオン交換樹脂は液性がアルカリ性でなければ、弱塩基性陰イオン交換樹脂は液性が酸性でなければ、十分な脱塩性能を発揮しない。しかしながら図8に示す脱塩モジュールでは、電極12,13によって直流電圧を印加することにより被処理水内に微視的なpHの偏りが発生するので、脱塩モジュール10内の水の液性に関わらず弱酸性陽イオン交換樹脂や弱塩基性陰イオン交換樹脂を用いて脱塩処理を行うことが可能となり、それらのイオン交換樹脂の大きなイオン交換容量を活用することができるようになる。
次に、再生処理について説明する。
脱塩モジュール10内に水が存在する状態で、脱塩処理時とは電圧極性を反転させ、電極12が陰極、電極13が陽極となるように電極12,13間に直流電圧を印加する。すると、バイポーラ膜11での陽イオン交換膜14と陰イオン交換膜15との界面で水の解離が起こり、水素イオンと水酸化物イオンが生成される。水素イオンは陽イオン交換膜14内を移動し、それによって陽イオン交換膜14が再生され、水酸化物イオンは陰イオン交換膜15内を移動し、それによって陰イオン交換膜15が再生されて、バイポーラ膜11が再生されたことになる。さらに電圧印加を続けると、バイポーラ膜11で生成した水素イオン及び水酸化物イオンが、イオン交換樹脂層16内の陽イオン交換樹脂及び陰イオン交換樹脂にそれぞれ移動し、これらのイオン交換樹脂の再生が行われることになる。イオン交換樹脂層16は、少なくとも弱酸性陽イオン交換樹脂と弱塩基性陰イオン交換樹脂の一方を含んでいるが、弱酸性陽イオン交換樹脂や弱塩基性陰イオン交換樹脂は強酸性陽イオン交換樹脂や強塩基性陰イオン交換樹脂に比べて再生効率が高いので、この脱塩モジュール10では、省電力での再生処理が可能になる。
図8に示した脱塩モジュールでは、粒状の陽イオン交換樹脂と粒状の陰イオン交換樹脂とを混合することによってイオン交換領域を構成しているが、イオン交換領域の構成はこれに限られるものではない。例えば、バイポーラ膜における陽イオン交換膜に接して設けられて陽イオン交換体を有する通水性の陽イオン交換領域と、バイポーラ膜における陰イオン交換膜に接して設けられて陰イオン交換体を有する通水性の陰イオン交換領域と、から構成され、陽イオン交換領域と陰イオン交換領域とが相互に接するか対面するように配置されているイオン交換領域を用いることもできる。
図9は、このようにバイポーラ膜における陽イオン交換膜に接して陽イオン交換領域が設けられ、陰イオン交換膜に接して陰イオン交換領域が設けられた脱塩モジュールの構成を示している。この脱塩モジュール10では、容器内に一対の電極12,13が離隔して配置しており、その間の空間に対して電極12,13によって電圧を印加できるようになっている。断面構成として見たときに電極12,13間の空間を複数の部分に仕切るように電極12,13から離れてバイポーラ膜11が配置している。図示したものでは、電極12,13間の空間が、バイポーラ膜11によって5つの部分に仕切られている。ここでは、いずれのバイポーラ膜11も、陽イオン交換膜14側の面が電極12に向き、陰イオン交換膜15側の面がもう1つの電極13に向くように、電極12,13の間に配置されている。
このように仕切られた各部分に関し、電極12とバイポーラ膜11の間の空間では、電極12の表面に接して陰イオン交換樹脂層18が設けられ、バイポーラ膜11の陽イオン交換膜14に接して陽イオン交換樹脂層17が設けられている。隣接するバイポーラ膜11間の空間では、図面において電極12側に位置するバイポーラ膜11の陰イオン交換膜15に接して陰イオン交換樹脂層18が設けられ、電極13側に位置するバイポーラ膜11の陽イオン交換膜14に接して陽イオン交換樹脂層17が設けられている。電極13とバイポーラ膜11の間の空間では、電極13の表面に接して陽イオン交換樹脂層17が設けられ、バイポーラ膜11の陰イオン交換膜15に接して陰イオン交換樹脂層18が設けられている。バイポーラ膜11によって仕切られている各部分では、その部分内の陽イオン交換樹脂層17と陰イオン交換樹脂層18とがその部分のほぼ中央付近で相互に接している。後述するように、陽イオン交換樹脂層17と陰イオン交換樹脂層18との間に通水性のスペーサなどを配置して、陽イオン交換樹脂層17と陰イオン交換樹脂層18とが対面して配置するようにしてもよい。
バイポーラ膜11及び電極12,13としては、図3に示した脱塩モジュールで用いられるものと同様のものが用いられる。一方の電極を中心電極とし他方の電極を円筒電極として電極12,13を同心円状に配置し、これらの電極間で1枚のバイポーラ膜を渦巻き状に巻回するように配置する場合には、例えば、バイポーラ膜11の両面にそれぞれ陽イオン交換樹脂層17及び陰イオン交換樹脂層18を予め設けたシート状の積層体を用意して、この積層体を中心電極に巻き付ければよい。バイポーラ膜11の配置としてどのような構成を採用したとしても、脱塩モジュール10に供給された水が、電極12,13とバイポーラ膜11の間の空間やバイポーラ膜11の相互間の空間に設けられている陽イオン交換樹脂層17及び陰イオン交換樹脂層18を均等に通水できるようにすることが必要である。
次に、図9に示した脱塩モジュール10における陽イオン交換樹脂層17及び陰イオン交換樹脂層18について説明する。
陽イオン交換樹脂層17は、通水性を有し、陽イオン交換体が配置された陽イオン交換領域となるものであり、陰イオン交換樹脂層18は、通水性を有し、陰イオン交換体が配置された陰イオン交換領域となるものである。陽イオン交換体及び陰イオン交換体は、それぞれ、例えば、陽イオン交換樹脂及び陰イオン交換樹脂である。陽イオン交換樹脂層17を構成する陽イオン交換体と陰イオン交換樹脂層18を構成する陰イオン交換体との組み合わせは、弱酸性陽イオン交換体と弱塩基性陰イオン交換体との組み合わせ、弱酸性陽イオン交換体と強塩基性陰イオン交換体との組み合わせ、及び強酸性陽イオン交換体と弱塩基性陰イオン交換体との組み合わせのいずれかである。
図示したものでは、陽イオン交換樹脂層17は粒状の陽イオン交換樹脂の層からなり、陰イオン交換樹脂層18は粒状の陰イオン交換樹脂の層からなり、脱塩モジュール10においてバイポーラ膜11によって仕切られた各部分ごとに、陽イオン交換樹脂層17と陰イオン交換樹脂層18とが接して配置している。後述するように、再生処理での再生効率を高めるためには、粒状の陽イオン交換樹脂と粒状の陰イオン交換樹脂とが混ざり合わないようにすることが好ましいから、陽イオン交換樹脂層17と陰イオン交換樹脂層18との間に、例えば通水性のスペーサを設け、両方のイオン交換樹脂の混合を防ぐようにしてもよい。また、スペーサを設けることによって、陽イオン交換樹脂層17を構成する陽イオン交換樹脂と陰イオン交換樹脂層18を構成する陰イオン交換樹脂の充填作業の効率化を図ることもできる。さらには、陽イオン交換樹脂層17として、多孔性の陽イオン交換体や繊維状の陽イオン交換体、陽イオン交換繊維などを用いることができる。同様に、陰イオン交換樹脂層18として、多孔性の陰イオン交換体や繊維状の陰イオン交換体、陰イオン交換繊維などを用いることができる。
図9に示した脱塩モジュールにおいても、図3及び図8に示した脱塩モジュールと同様の過程により脱塩処理が行われる。このとき、被処理水中の陽イオンや陰イオンのうち、バイポーラ膜11においてイオン交換されなかったものは、陽イオン交換樹脂層17あるいは陰イオン交換樹脂層18を通過する際にイオン交換されてこれらのイオン交換樹脂層に吸着される。
図9に示した脱塩モジュール10では、陽イオン交換樹脂層17及び陰イオン交換樹脂層18とを合わせた領域内に、少なくとも弱酸性陽イオン交換樹脂と弱塩基性陰イオン交換樹脂の一方が含まれる。通常であれば、弱酸性陽イオン交換樹脂は被処理水の液性がアルカリ性でなければ、弱塩基性陰イオン交換樹脂は液性が酸性でなければ、十分な脱塩性能を発揮しない。しかしながら図9に示した脱塩モジュールでは、電極12,13によって直流電圧を印加することにより被処理水内に局所的にpHの偏りが発生するので、被処理水の液性に関わらず弱酸性陽イオン交換樹脂や弱塩基性陰イオン交換樹脂を用いて脱塩処理を行うことが可能となり、それらのイオン交換樹脂の大きなイオン交換容量を活用することができるようになって、高い脱塩性能を示すようになる。
再生処理に関しても、図9に示した脱塩モジュールでは、図3及び図8に示したものと同様の過程により再生処理が行われる。再生処理において電圧印加を続けると、バイポーラ膜11で生成した水素イオンが、陽イオン交換膜14に接して設けられている陽イオン交換樹脂層17内に移動し、陽イオン交換樹脂層17を構成する陽イオン交換樹脂が再生される。同様に、バイポーラ膜11で生成した水酸化物イオンが、陰イオン交換膜15に接して設けられている陰イオン交換樹脂層18内に移動し、陰イオン交換樹脂層18を構成する陰イオン交換樹脂が再生される。さらに再生処理時には、電極12とその電極12に接する陰イオン交換樹脂層18との界面でも水酸化物イオンが発生し、この水酸化物イオンによって、電極12に接する陰イオン交換樹脂層18が再生される。電極13とその電極13に接する陽イオン交換樹脂層17との界面では、水素イオンが発生し、この水素イオンによって、電極13に接する陽イオン交換樹脂層17が再生される。結局、再生処理時には、バイポーラ膜11だけでなく、陽イオン交換樹脂層17及び陰イオン交換樹脂層18の再生も行われることになる。
ここで、図8に示した脱塩モジュールのように、隣接するバイポーラ膜11間の空間に粒状の陽イオン交換樹脂と粒状の陰イオン交換樹脂とが混ざり合って存在する場合を考える。この場合、バイポーラ膜11の陽イオン交換膜14の近くに存在する陰イオン交換樹脂は、バイポーラ膜11の陰イオン交換膜15から放出された水酸化物イオンによって再生されるべきものであるが、この陰イオン交換樹脂の周辺には陽イオン交換膜14から放出された水素イオンが存在するので、陰イオン交換樹脂を再生すべき水酸化物イオンは、陰イオン交換樹脂に到達する前に水素イオンと反応して水となってしまう可能性があり、その結果、この陰イオン交換樹脂の十分な再生が行われなくなる可能性がある。同様の理由により、バイポーラ膜11の陰イオン交換膜15の近くに存在する陽イオン交換樹脂についても十分な再生が行われなくなる可能性がある。その結果、陽イオン交換樹脂と陰イオン交換樹脂とが混ざり合って存在する場合には、脱塩処理と再生処理とのサイクルを繰り返した場合に、脱塩性能が低下することが懸念される。
これに対し、陽イオン交換樹脂と陰イオン交換樹脂とが相互に混ざり合わないように、バイポーラ膜11の陽イオン交換膜14に接して陽イオン交換樹脂層17を設け、陰イオン交換膜15に接して陰イオン交換樹脂層18を設けた場合には、陽イオン交換膜14側から移動する水素イオンによる陽イオン交換樹脂層17の再生と、陰イオン交換膜15側から移動する水酸化物イオンによる陰イオン交換樹脂層18の再生とを効率よく行うことが可能になる。なお、図9に示した脱塩モジュールでは、陽イオン交換樹脂層17及び陰イオン交換樹脂層18とを合わせた領域内に、少なくとも弱酸性陽イオン交換樹脂と弱塩基性陰イオン交換樹脂の一方が含まれるが、弱酸性陽イオン交換樹脂や弱塩基性陰イオン交換樹脂は強酸性陽イオン交換樹脂や強塩基性陰イオン交換樹脂に比べて再生効率が高いので、この脱塩装置は、その点でも省電力での再生処理を可能とする。