以下、本発明の実施の形態を説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態のみには限定されない。また、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
また、本明細書において、範囲を示す「X〜Y」は「X以上Y以下」を意味し、「重量」と「質量」、「重量%」と「質量%」及び「重量部」と「質量部」は同義語として扱う。また、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20〜25℃)/相対湿度40〜50%の条件で測定する。
本発明の第一の側面は、芳香環ジオキシゲナーゼ遺伝子群および芳香環ジヒドロジオールデヒドロゲナーゼ遺伝子を導入した形質転換微生物を、5〜100μMのIPTGを含む液で培養することを有する、形質転換微生物の調製方法に関する。本発明の第一の側面によれば、芳香環ジオキシゲナーゼ遺伝子群および芳香環ジヒドロジオールデヒドロゲナーゼ遺伝子を導入した、効率的にカテコール化合物を合成する形質転換微生物の調製方法が提供される。本発明の一実施形態は、芳香環ジオキシゲナーゼ遺伝子群および芳香環ジヒドロジオールデヒドロゲナーゼ遺伝子を導入した形質転換微生物を、5〜30μMのIPTGを含む液で培養することを有する、形質転換微生物の調製方法に関する。
下記反応式(1)は、芳香環ジオキシゲナーゼと芳香環ジヒドロジオールデヒドロゲナーゼとにより触媒される、トルエンやベンゼン等の芳香族化合物原料(以下、カテコール化合物の生成に用いられる芳香族化合物原料を、「基質」ともいう。)からカテコール化合物が生成される反応を表す。下記反応式(1)中、Rは、上記一般式(1)と同様である。トルエンジオキシゲナーゼをはじめとする芳香環ジオキシゲナーゼは、トルエン、ベンゼン、ナフタレン、ビフェニル等の芳香族化合物の芳香環における隣接した2つの炭素原子に対し、水酸基を1つずつ付加する。芳香環ジオキシゲナーゼによって水酸基が付加された芳香族化合物(以下、「芳香環ジオキシゲナーゼによって水酸基が付加された芳香族化合物」を、単に「ジヒドロジオール誘導体」とも称する。)から、cis−トルエンジヒドロジオールデヒドロゲナーゼ等の芳香環ジヒドロジオールデヒドロゲナーゼによって水素原子が抜き取られ、カテコール化合物が合成される。
[形質転換微生物]
本発明において用いられる形質転換微生物は、芳香環ジオキシゲナーゼ遺伝子群および芳香環ジヒドロジオールデヒドロゲナーゼ遺伝子を宿主微生物に導入して作製される。
芳香環ジオキシゲナーゼは、ラージサブユニット、スモールサブユニット、フェレドキシン、およびフェレドキシン還元酵素からなる4つのサブユニットによって構成され、酸素分子(O2)由来の酸素原子を、水酸基として芳香環に導入する反応を触媒する(反応式(1)における前半の反応)。本明細書においては、芳香環ジオキシゲナーゼのラージサブユニット、スモールサブユニット、フェレドキシン、およびフェレドキシン還元酵素をそれぞれコードする遺伝子をまとめて、「芳香環ジオキシゲナーゼ遺伝子群」と称する。芳香環ジオキシゲナーゼは4つのサブユニットが共役し、ベンゼン等の芳香族化合物の芳香環における隣接した2つの炭素原子に対し、水酸基を1つずつ付加する。芳香環ジオキシゲナーゼは、酸素分子(O2)由来の酸素原子を水酸基として芳香環に導入する反応を触媒するもの(例えば、EC 1.14.12.−に分類されるもの)であれば特に制限されない。より具体的には、本発明に用いることができる芳香環ジオキシゲナーゼとしては、EC 1.14.12.11に分類されるトルエンジオキシゲナーゼ、EC 1.14.12.3に分類されるベンゼン−1,2−ジオキシゲナーゼ、EC 1.14.12.18に分類されるビフェニル−2,3−ジオキシゲナーゼ、EC 1.14.12.22に分類されるカルバゾール−1,9a−ジオキシゲナーゼ、EC 1.14.12.15に分類されるテレフタル酸−1,2−ジオキシゲナーゼ、EC 1.14.12.21に分類されるベンゾイルCoA−2,3−ジオキシゲナーゼ等が挙げられる。これらの芳香環ジオキシゲナーゼ以外にも、芳香族化合物の芳香環における隣接した2つの炭素原子に対し、水酸基を1つずつ付加する、上記反応式(1)に記載の反応を触媒することができる芳香環ジオキシゲナーゼも同様に、本発明に含まれる。
トルエンを基質とした場合、トルエンジオキシゲナーゼは以下の反応式(2)で表わされる化学反応を触媒することが知られている。本発明においては、以下の反応式(2)で表わされる反応を触媒する芳香環ジオキシゲナーゼをコードする芳香環ジオキシゲナーゼ遺伝子群が好ましく用いられる。
これらの芳香環ジオキシゲナーゼのうち、本発明においては、トルエンジオキシゲナーゼまたはベンゼン−1,2−ジオキシゲナーゼ(すなわち、トルエンジオキシゲナーゼ遺伝子群またはベンゼン−1,2−ジオキシゲナーゼ遺伝子群)がより好ましく、トルエンジオキシゲナーゼが更に好ましい。すなわち、本発明の一実施形態では、芳香環ジオキシゲナーゼ遺伝子群が、トルエンジオキシゲナーゼ遺伝子群である形質転換微生物の調製方法が提供される。トルエンジオキシゲナーゼは、トルエンのほか、ベンゼン、ハロゲン化ベンゼン、エチルベンゼン、キシレン、またはフェニルアルコール(例えば、2−フェニルエタノール)等を基質とする。また、本発明者は、トルエンジオキシゲナーゼがフェノキシアルコール(例えば、2−フェノキシエタノール)を基質とすることを見出した。
芳香環ジオキシゲナーゼ(芳香環ジオキシゲナーゼ遺伝子群)が由来する生物もまた、特に限定されない。多くの細菌が芳香環ジオキシゲナーゼを発現することが知られており、例えば、シュードモナス・プチダ(例えば、P.putida F1株(ATCC 700007)、P.putida T−12株、P.putida IH−2000株、P.putida DOT−T1E株、またはP.putida T−57株)、シュードモナス・エルギノーサ(P.aeruginosa)、シュードモナス・シュードアルカリゲネス(P.pseudoalcaligenes)(例えば、P.pseudoalcaligenes KF707株)またはシュードモナス・エスピー(P.sp.)(例えば、P.sp. NCIB 9816−4株)などのシュードモナス(Pseudomonas)属に由来するトルエンジオキシゲナーゼのほか、バークホルデリア(Burkholderia)属(例えば、B.cepacia LB400株)、ボルデテラ(Bordetella)属(例えば、B.sp. IITR02株)、スフィンゴモナス(Sphingomonas)属、リゾビウム(Rhizobium)属(例えば、R.sp. TSY03b株)、ロドコッカス(Rhodococcus)属(例えば、R.jostii RHA1株)、ジャニバクター(Janibacter)属(例えば、J.sp. TYM3221株)、アスペルギルス(Aspergillus)属(例えば、A.kawachii IFO 4308株)、ラルストニア(Ralstonia)属(例えば、R.sp. JS705株)等の微生物に由来するものであってもよい。これらの微生物は、ATCCやNBRC等から入手することができる。
このうち、活性の高さから、シュードモナス属の芳香環ジオキシゲナーゼ(特に、トルエンジオキシゲナーゼ;すなわち、シュードモナス属に由来するトルエンジオキシゲナーゼ遺伝子群)が好ましく、シュードモナス・プチダ(すなわち、シュードモナス・プチダに由来するトルエンジオキシゲナーゼ遺伝子群)がより好ましい。配列番号1〜4に、シュードモナス・プチダ F1株由来のトルエンジオキシゲナーゼのラージサブユニット、スモールサブユニット、フェレドキシン、およびフェレドキシン還元酵素のアミノ酸配列を示す。
本発明においては、アミノ酸配列1〜4において、1または数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ酸素分子(O2)由来の酸素原子を、水酸基として芳香環に導入する反応を触媒する活性を有する酵素をコードする遺伝子も好適に用いられる。ここで、「数個」とは、通常2〜5個、好ましくは2〜3個である。異なるアミノ酸残基間の保存的置換の例としては、グリシン(Gly)とアラニン(Ala);バリン(Val)、ロイシン(Leu)とイソロイシン(Ile);グルタミン酸(Glu)とアスパラギン酸(Asp);グルタミン(Gln)とアスパラギン(Asn);スレオニン(Thr)とセリン(Ser);またはリジン(Lys)とアルギニン(Arg)等のアミノ酸の間での置換が知られている。
芳香環ジヒドロジオールデヒドロゲナーゼは、芳香族化合物のジヒドロジオール誘導体をカテコール化合物に酸化する反応を触媒する(反応式(1)における後半の反応)。本発明に用いることができる芳香環ジヒドロジオールデヒドロゲナーゼとしては、より具体的には、cis−トルエンジヒドロジオールデヒドロゲナーゼ、EC 1.3.1.19に分類されるcis−ベンゼンジヒドロジオールデヒドロゲナーゼ、EC 1.3.1.56に分類されるcis−2,3−ジヒドロビフェニル−2,3−ジオールデヒドロゲナーゼ、EC 1.3.1.29に分類されるcis−1,2−ジヒドロ−1,2−ジヒドロキシナフタレンデヒドロゲナーゼ、EC 1.3.1.64に分類されるフタル酸−4,5−cis−ジヒドロジオールデヒドロゲナーゼ、EC 1.3.1.66に分類されるcis−1,2−ジヒドロエチルカテコールデヒドロゲナーゼ等が挙げられる。
cis−トルエンジヒドロジオールデヒドロゲナーゼは、EC 1.3.1.19に分類される、以下の反応式(3)で表わされる化学反応を触媒する。本発明においては、以下の反応式(3)で表わされる反応を触媒する芳香環ジヒドロジオールデヒドロゲナーゼをコードする芳香環ジヒドロジオールデヒドロゲナーゼ遺伝子が好ましく用いられる。
上記の芳香環ジヒドロジオールデヒドロゲナーゼのうち、本発明においては、cis−トルエンジヒドロジオールデヒドロゲナーゼがより好ましい。すなわち、本発明の一実施形態では、芳香環ジヒドロジオールデヒドロゲナーゼ遺伝子が、cis−トルエンジヒドロジオールデヒドロゲナーゼ遺伝子である形質転換微生物の調製方法が提供される。cis−トルエンジヒドロジオールデヒドロゲナーゼは、cis−トルエンジヒドロジオールのほか、ベンゼン、ハロゲン化ベンゼン、エチルベンゼン、キシレン、またはフェニルアルコール(例えば、2−フェニルエタノール)等の芳香環ジオキシゲナーゼによる代謝物(ジヒドロジオール誘導体)を基質とし、反応式(3)に準じた反応を触媒する。また、本発明者は、cis−トルエンジヒドロジオールデヒドロゲナーゼが、フェノキシアルコール(例えば、2−フェノキシエタノール)の芳香環ジオキシゲナーゼによる代謝物(ジヒドロジオール誘導体)を基質とすることを見出した。
芳香環ジヒドロジオールデヒドロゲナーゼ(芳香環ジヒドロジオールデヒドロゲナーゼ遺伝子)が由来する生物は、特に限定されない。例えば、芳香環ジオキシゲナーゼを発現するものとして例示した上述の細菌が挙げられる。芳香環ジオキシゲナーゼ遺伝子が由来する生物と、芳香環ジヒドロジオールデヒドロゲナーゼ遺伝子が由来する生物とは、同一であっても、異なっていても良いが、好ましくは同一である。
このうち、活性の高さから、シュードモナス属の芳香環ジヒドロジオールデヒドロゲナーゼ(特に、cis−トルエンジヒドロジオールデヒドロゲナーゼ;すなわち、シュードモナス属に由来するcis−トルエンジヒドロジオールデヒドロゲナーゼ遺伝子)が好ましく、シュードモナス・プチダ(すなわち、シュードモナス・プチダに由来するcis−トルエンジヒドロジオールデヒドロゲナーゼ遺伝子)がより好ましい。配列番号5に、シュードモナス・プチダ F1株由来のcis−トルエンジヒドロジオールデヒドロゲナーゼのアミノ酸配列を示す。
本発明においては、アミノ酸配列5において、1または数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、芳香族化合物のジヒドロジオール誘導体をカテコール化合物に酸化する反応を触媒する活性を有する酵素をコードする遺伝子も好適に用いられる。ここで、「数個」とは、通常1〜10個、好ましくは2〜8個である。
本発明にかかる調製方法に用いられる形質転換微生物は、上記の芳香環ジオキシゲナーゼおよび芳香環ジヒドロジオールデヒドロゲナーゼをコードする遺伝子をまたはその一部を適当なベクターに連結し、得られた組換えベクターを目的の遺伝子が発現し得るように宿主中に導入することにより、または相同組換えによってゲノム上の任意の位置に目的の遺伝子もしくはその一部を挿入することにより作製できる。「一部」とは、宿主中に導入された場合に各遺伝子がコードするタンパク質を発現することができる各遺伝子の一部分を指す。本発明において遺伝子には、DNA及びRNAが包含され、好ましくはDNAである。
微生物のゲノムから所望の遺伝子をクローニングにより取得する方法は、分子生物学の分野において周知である。例えば遺伝子の配列が既知の場合、制限エンドヌクレアーゼ消化により適したゲノムライブラリを作り、所望の遺伝子配列に相補的なプローブを用いてスクリーニングすることができる。配列が単離されたら、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)(米国特許第4,683,202号明細書)のような標準的増幅法を用いてDNAを増幅し、形質転換に適した量のDNAを得ることができる。芳香環ジオキシゲナーゼ遺伝子群および芳香環ジヒドロジオールデヒドロゲナーゼ遺伝子は、既知の遺伝子以外にも、既知の遺伝子の塩基配列に基づいて適当に設計された合成プライマーを用いてハイブリダイゼーション法、PCR法などにより取得することもできる。
遺伝子のクローニングに用いるゲノムDNAライブラリーの作製、ハイブリダイゼーション、PCR、プラスミドの調製、DNAの切断及び連結、形質転換等の方法は、Sambrook, J et al., Molecular Cloning 2nd ed., 9.47−9.58, Cold Spring Harbor Lab. press(1989)に記載されている。
遺伝子を連結するベクターとしては、外来遺伝子導入に利用されているプラスミド、ファージ、コスミド等、宿主で複製可能なものであれば特に限定されないが、IPTGによる発現誘導が可能なプロモーターを有するものが好ましく用いられる。すなわち、本発明の一態様では、IPTGによる発現誘導が可能なプロモーターの下流に組込まれた芳香環ジオキシゲナーゼ遺伝子群および芳香環ジヒドロジオールデヒドロゲナーゼ遺伝子を導入した形質転換微生物が用いられる。IPTGによる発現誘導が可能なプロモーター配列としては、T7プロモーター、lacプロモーター、tacプロモーター、trcプロモーターまたはspacプロモーター等が挙げられる。このうち、プロモーター活性の高さ(転写の頻度)の観点から、好ましくはT7プロモーターまたはtacプロモーターが用いられ、より好ましくはT7プロモーターが用いられる。遺伝子を連結するベクターとしては、より具体的には、pET(Novagen社製)、pGEX(GEヘルスケア社製)、pHAT20、pTV118N(以上、タカラバイオ社製)、pMAL(ニューイングランドバイオラボ社製)、pQE(キアゲン社製)、pMUTIN(Vagner V., et. al. Microbiology (1998), 144,3097−3104)、pHT(MoBiTec社製)、pCDFDuet−1(Novagen社製)、pUC18(タカラバイオ社製)等の、T7プロモーター、T5プロモーター、lacプロモーター、tacプロモーター、trcプロモーター、lppプロモーターまたはspacプロモーターを有するプラスミドのほか、λgt10、M13mp18、M13mp19等のファージが挙げられる。芳香環ジオキシゲナーゼ遺伝子群および芳香環ジヒドロジオールデヒドロゲナーゼ遺伝子が単一のベクターに連結されても良いし、それぞれ別々のベクターに連結されても良い。
配列番号6〜9にシュードモナス・プチダ F1株のトルエンジオキシゲナーゼのラージサブユニット(todC1)、スモールサブユニット(todC2)、フェレドキシン(todB)、およびフェレドキシン還元酵素(todA)をそれぞれコードする遺伝子配列を、ならびに配列番号10にシュードモナス・プチダ F1株のcis−トルエンジヒドロジオールデヒドロゲナーゼ(todD)をコードする遺伝子配列を例示する。
ここで、芳香環ジオキシゲナーゼ遺伝子群のラージサブユニット、スモールサブユニット、フェレドキシン、およびフェレドキシン還元酵素をコードする遺伝子(すなわち、芳香環ジオキシゲナーゼ遺伝子群)、ならびに芳香環ジヒドロジオールデヒドロゲナーゼ遺伝子として、それぞれ、配列番号6、7、8、9、および10で表される塩基配列からなる遺伝子と機能的に同等の遺伝子も好適に用いられる。「機能的に同等の遺伝子」とは、対象となる遺伝子によってコードされるタンパク質が、各配列番号で表される塩基配列からなる遺伝子によってコードされるタンパク質と同等の生物学的機能、生化学的機能を有することを指す。
あるタンパク質と機能的に同等のタンパク質をコードする遺伝子を調製する当業者によく知られた方法としては、ハイブリダイゼーション技術を利用する方法が挙げられる。
例えば、配列番号6で表される塩基配列の全長において、種々の人為的処理、例えば部位特異的変異導入、変異剤処理によるランダム変異、制限酵素切断による核酸断片の変異、欠失、連結等により、部分的にその配列が変化したものであっても、これらの変異型遺伝子が配列番号6で表される塩基配列と相補的な塩基配列からなる遺伝子とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、芳香環ジオキシゲナーゼのラージサブユニットの活性、すなわち、芳香環ジオキシゲナーゼのスモールサブユニット、フェレドキシン、およびフェレドキシン還元酵素と一緒になって芳香環ジオキシゲナーゼの活性を示すタンパク質をコードする限り、芳香環ジオキシゲナーゼのラージサブユニットをコードする遺伝子として用いられうる。その他のサブユニットをコードする遺伝子、および芳香環ジヒドロジオールデヒドロゲナーゼをコードする遺伝子についても同様である。
ストリンジェントな条件とは、特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいい、すなわち、各遺伝子に対し高い相同性を有するDNAがハイブリダイズする条件をいう。より具体的には、このような条件は、0.5〜1MのNaCl存在下42〜68℃で、または50%ホルムアミド存在下42℃で、または水溶液中65〜68℃で、ハイブリダイゼーションを行った後、0.1〜2倍濃度のSSC(saline sodium citrate)溶液を用いて室温(25℃)〜68℃でメンブレンを洗浄することにより達成できる。
上記のようなストリンジェントな条件においては、対象となる塩基配列と少なくとも80%の同一性、好ましくは少なくとも85%の同一性、より好ましくは少なくとも90%の同一性、更に好ましくは少なくとも95%の同一性、特に好ましくは少なくとも99%(上限100%)の同一性を有する塩基配列からなる遺伝子が、対象となる塩基配列と相補的な塩基配列からなる遺伝子とハイブリダイズすることができる。
本発明における宿主微生物としては、大腸菌(Escherichia coli)、枯草菌(Bacillus subtilis)、放線菌や酵母等が例示できるが、これらに制限されない。このうち、原料である芳香族化合物、および生成物であるカテコール化合物の代謝活性の低さから、大腸菌または枯草菌を用いることが好ましく、大腸菌がより好ましい。
本発明において好ましく用いられる大腸菌は、タンパク質の発現に用いられる一般的な菌株を採用することができ、特に制限されるものではないが、例えば、E.coli AD494、E.coli B834、E.coli BL21、E.coli BLR、E.coli HMS174、E.coli Origami(登録商標)、E.coli Rosetta(登録商標)、E.coli Tuner(登録商標)、E.coli JM109、E.coli AD494(DE3)、E.coli B834(DE3)、E.coli BL21(DE3)、E.coli BLR(DE3)、E.coli HMS174(DE3)、E.coli Origami(DE3)、E.coli Rosetta(登録商標)(DE3)、E.coli Tuner(登録商標)(DE3)等が例示できる。
宿主として用いられる微生物は、原料である芳香族化合物、および生成物であるカテコール化合物代謝活性の低いものが好ましい。原料である芳香族化合物、およびカテコール化合物代謝活性が本来的に低い微生物(例えば、大腸菌)であっても良いが、遺伝子破壊等によって、3−メチルカテコール2,3−ジオキシゲナーゼ(todE)などのカテコール化合物代謝性酵素の機能を失わせた微生物であっても良い。原料である芳香族化合物代謝活性の低い微生物を宿主として用いることにより、カテコール化合物の合成以外の経路にて芳香族化合物が消費されることを防止し得る。また、カテコール化合物代謝活性の低い微生物を宿主として用いることにより、カテコール化合物の収率が改善し得る。
さらに、宿主として用いられる微生物は、遺伝子破壊等によって、アルコールデヒドロゲナーゼおよび/またはアルデヒドデヒドロゲナーゼの機能を失わせた微生物であっても良い。これにより、2−フェニルエタノールのような側鎖がヒドロキシアルキル基であるような芳香族化合物原料を用いる場合や、一般式(1)で表わされるカテコール化合物において側鎖Rがヒドロキシアルキル基であるものを合成するような場合において、側鎖の酸化を抑えることができる。
遺伝子破壊の方法については、公知の方法を使用できる。具体的には、標的遺伝子の任意の位置で相同組換えを起こすベクター(ターゲティングベクター)を用いて当該遺伝子を破壊する方法(ジーンターゲティング法)や、標的遺伝子の任意の位置にトラップベクター(プロモーターを持たないレポーター遺伝子)を挿入して当該遺伝子を破壊しその機能を失わせる方法(遺伝子トラップ法)、それらを組み合わせた方法等の当技術分野でノックアウト細胞、トランスジェニック動物(ノックアウト動物含む)等を作製する際に用いられる方法を用いることが出来る。また、破壊したい遺伝子のアンチセンスcDNAを発現するベクターを導入する方法や、破壊したい遺伝子の2重鎖RNAを発現するベクターを細胞に導入する方法も利用できる。当該ベクターとしては、ウイルスベクターやプラスミドベクター等が包含され、通常の遺伝子工学的手法に基づき作製することができる。また、市販されているベクターを任意の制限酵素で切断し所望の遺伝子等を組み込んで半合成することもできる。相同置換を起こす位置またはトラップベクターを挿入する位置は、破壊したい標的遺伝子の発現を消失させる変異を生じる位置であれば特に限定されないが、好ましくは転写調節領域を置換する。
本発明のおいて用いられる形質転換微生物は、芳香環ジオキシゲナーゼ遺伝子群および/または芳香環ジヒドロジオールデヒドロゲナーゼ遺伝子を組み込んだ組換えベクターを、目的の遺伝子が発現し得るように宿主中に導入することにより、または相同組換えによってゲノム上の任意の位置に目的の遺伝子もしくはその一部を挿入することにより得られる。芳香環ジオキシゲナーゼ遺伝子群および芳香環ジヒドロジオールデヒドロゲナーゼ遺伝子を大腸菌等の微生物に導入・発現する方法は、常法により行うことができる。特に制限されないが、例えば、微生物へのベクター導入に一般的に利用されているカルシウムイオンを用いる方法、プロトプラスト法、エレクトロポレーション法、ヒートショック法等を挙げることができる。
相同組換えによってゲノム上の任意の位置に目的の遺伝子を挿入する方法は、ゲノム上の配列と相同な配列に目的遺伝子をプロモーターとともに挿入し、この核酸断片をエレクトロポレーション等によって細胞内に導入して相同組換えを起こさせることにより実施できる。ゲノムへの導入の際には目的遺伝子と薬剤耐性遺伝子を連結した核酸断片を用いると容易に相同組換えが起こった株を選抜することができる。また、薬剤耐性遺伝子と特定の条件下で致死的になる遺伝子を連結した遺伝子をゲノム上に上記の方法で相同組換えによって挿入し、その後、薬剤耐性遺伝子と特定の条件下で致死的になる遺伝子を置き換える形で目的遺伝子を相同組換えにより導入することもできる。
目的とする遺伝子が導入された形質転換微生物を選択する場合、その方法は、特に制限されないが、目的とする遺伝子が導入された形質転換微生物のみを、容易に選択できる手法によるものが好ましい。例えば、抗生物質耐性遺伝子およびこれらの抗生物質耐性遺伝子に対応したアンピシリン、カナマイシン、ストレプトマイシン、クロラムフェニコール等の抗生物質を利用する方法や、蛍光タンパク質やタグと標的タンパク質との融合タンパク質として発現させる方法など、従来公知の手段が採用され得る。SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動やウェスタンブロッティング等によって、標的タンパク質の発現を確認することもできる。また、後述の方法により、2−フェニルエタノールを原料としたときの2−(2,3−ジヒドロキシフェニル)エタノールの生成速度を指標として、形質転換微生物を選択することもできる。
本発明の好ましい一実施形態では、芳香環ジオキシゲナーゼ遺伝子群および芳香環ジヒドロジオールデヒドロゲナーゼ遺伝子は、以下のカセット(1)とカセット(2)とのコピー数の比が、1:1〜5:1となるように微生物に導入し、形質転換を行う;
カセット(1): IPTG誘導性プロモーター(1)、ならびに、プロモーター(1)と作動的に連結された芳香環ジオキシゲナーゼ遺伝子群および前記芳香環ジヒドロジオールデヒドロゲナーゼ遺伝子を含む
カセット(2): IPTG誘導性プロモーター(2)、およびプロモーター(2)と作動的に連結された芳香環ジヒドロジオールデヒドロゲナーゼ遺伝子を含む。
なお、カセット(1)やカセット(2)は、さらに、プロモーターと遺伝子とを連結するリンカー配列や、遺伝子終端にターミネーター領域を更に含み得る。
図8は、カセット(1)およびカセット(2)の構造を模式的に示す。図8に示す通り、カセット(1)では、プロモーター(1)の下流に、芳香環ジオキシゲナーゼ遺伝子群(todC1遺伝子、todC2遺伝子、todB遺伝子、todA遺伝子)と芳香環ジヒドロジオールデヒドロゲナーゼ遺伝子(todD遺伝子)とが作動的に連結されている(以下、「カセット(1)のような、プロモーター(1)の下流に芳香環ジオキシゲナーゼ遺伝子群と芳香環ジヒドロジオールデヒドロゲナーゼ遺伝子とが作動的に連結されているポリヌクレオチドを有するベクター」を、単に「ベクター(1)」とも称する。)。また、図8に示す通り、カセット(2)では、プロモーター(2)の下流に、芳香環ジヒドロジオールデヒドロゲナーゼ遺伝子(todD遺伝子)が作動的に連結されている(以下、「カセット(2)のような、プロモーター(2)の下流に芳香環ジヒドロジオールデヒドロゲナーゼ遺伝子が作動的に連結されているポリヌクレオチドを有するベクター」を、単に「ベクター(2)」とも称する。)。なお、本明細書において、「作動的に連結された」とは、発現誘導剤(例えば、IPTG)の添加によって遺伝子(芳香環ジオキシゲナーゼ遺伝子群、芳香環ジヒドロジオールデヒドロゲナーゼ遺伝子)の発現をプロモーターが誘導するように、プロモーターと遺伝子とが連結されていることを意味する。
本発明の一実施形態では、形質転換微生物は、芳香環ジオキシゲナーゼ遺伝子群および芳香環ジヒドロジオールデヒドロゲナーゼ遺伝子を、イソプロピルβ−チオガラクトピラノシド誘導性プロモーター(1)ならびに前記プロモーター(1)と作動的に連結された芳香環ジオキシゲナーゼ遺伝子群および芳香環ジヒドロジオールデヒドロゲナーゼ遺伝子を含むカセット(1)と、イソプロピルβ−チオガラクトピラノシド誘導性プロモーター(2)ならびにプロモーター(2)と作動的に連結された芳香環ジヒドロジオールデヒドロゲナーゼ遺伝子を含むカセット(2)とを、カセット(1)とカセット(2)とのコピー数の比が1:1〜5:1となるように導入したものである。このような手法により調製した芳香環ジオキシゲナーゼ遺伝子群および芳香環ジヒドロジオールデヒドロゲナーゼ遺伝子を導入した形質転換微生物を用いてカテコール化合物を生成すると、後述するカテコール化合物の選択率を高めることができ、さらに、単位時間・単位菌体濃度当りのカテコール化合物の生成速度を高めることができる。本発明の技術的範囲を制限するものでは無いが、これは、以下のメカニズムによるものと推測される。ベクター(2)とベクター(1)とをコピー数の比が1:1以上の条件で組み合わせて宿主に導入した場合、ベクター(1)のみを宿主に導入した場合と比べて、上記反応式(1)における後半の反応が促進されることとなる。これにより、ジヒドロジオール誘導体が速やかにカテコール化合物に変化することとなり、カテコール化合物の選択率や、単位時間・単位菌体濃度当りのカテコール化合物の生成速度が高くなるものと推測される。ベクター(1)とベクター(2)とのコピー数の比が5:1以下であることにより、反応式(1)における前半と後半の反応が適度にバランスされる。
カセット(1)やカセット(2)は、上述のpET等のベクターに組込まれた状態で(ベクター(1)やベクター(2)として)、宿主に導入される。カセット(1)およびカセット(2)は、同一のベクター内にタンデムに組込まれていても良く、それぞれ別のベクターに組込まれていても良いが、好ましくは同一のベクターにタンデムに組込まれる。カセット(1)とカセット(2)とが同一のベクター内にタンデムに組込まれていることにより、形質転換微生物の選択に用いる抗生物質の種類を少なくする(例えば、1種類とする)ことができる。このため、おそらくは抗生物質による微生物へのダメージ、プラスミド増幅の負荷、薬剤耐性遺伝子の発現の負荷が低減されて酵素産生が促進する。従って、カテコール化合物の選択率、および単位時間・単位菌体濃度当りのカテコール化合物の生成速度がより高い形質転換微生物を調製することができる。
宿主に導入するカセット(1)とカセット(2)とのコピー数の比は、1:1〜5:1であることが好ましく、1.5:1〜4:1であることがより好ましく、2:1〜3:1であることが更に好ましい。上記範囲であれば反応式(1)における前半の反応と後半の反応との反応速度がバランスされてカテコール化合物の選択率が高くなり、また、カテコール化合物の生成速度も高くすることができる。上記のコピー数の比は、ベクターへの挿入配列中に含まれるカセット(1)やカセット(2)の数を適宜設計することで、任意に設定することができる。また、上記のコピー数の比は、ベクター(1)およびベクター(2)のコピー数の比に相当するため、宿主に導入する際のベクター(1)およびベクター(2)のコピー数を調整すること等によっても任意に設定することができる。
プロモーター(1)やプロモーター(2)は、IPTG誘導性であれば特に制限されず、例えば、上述のT7プロモーター、lacプロモーター、tacプロモーター、trcプロモーターおよびspacプロモーター等を用いることができる。このうち、プロモーター活性の高さの観点から、好ましくはT7プロモーターが用いられる。カセット(1)およびカセット(2)のそれぞれに含まれるプロモーター(1)およびプロモーター(2)は、同一のプロモーターであっても異なるプロモーターであっても良いが、誘導制御が容易であるという観点から、好ましくは同一である。
また、カセット(1)および(2)に含まれる芳香環ジオキシゲナーゼ遺伝子群および芳香環ジヒドロジオールデヒドロゲナーゼ遺伝子は、同一の生物種に由来しても良く、異なる生物に由来しても良い。カセット(1)に含まれる芳香環ジオキシゲナーゼ遺伝子群は、好ましくはトルエンジオキシゲナーゼ遺伝子群であり、より好ましくはシュードモナス属に由来するトルエンジオキシゲナーゼ遺伝子群である。また、カセット(1)および(2)に含まれる芳香環ジヒドロジオールデヒドロゲナーゼ遺伝子は、好ましくはcis−トルエンジヒドロジオールデヒドロゲナーゼ遺伝子であり、より好ましくはシュードモナス属に由来するcis−トルエンジヒドロジオールデヒドロゲナーゼ遺伝子である。
形質転換微生物を維持培養する場合、形質転換微生物の維持培養に通常用いられる培地(以下、IPTGを含まない、形質転換微生物の培養に通常用いられる維持培地を、「IPTGフリー培地」とも称する。)を用いた通常の培養方法により維持すればよい。形質転換微生物の維持培養に使用するIPTGフリー培地は、使用する微生物が資化しうる炭素源、適量の窒素源、無機塩及びその他の栄養素を含有する培地であれば、合成培地または天然培地のいずれでもよい。通常、IPTGフリー培地は、炭素源、窒素源および無機物を含む。
IPTGフリー培地に使用できる炭素源としては、使用する菌株が資化できる炭素源であれば特に制限されない。具体的には、微生物の資化性を考慮して、グルコース、フラクトース、セロビオース、ラフィノース、キシロース、マルトース、ガラクトース、ソルボース、グルコサミン、リボース、アラビノース、ラムノース、スクロース、トレハロース、α−メチル−D−グルコシド、サリシン、メリビオース、ラクトース、メレジトース、イヌリン、エリスリトール、グルシトール、マンニトール、ガラクチトール、N−アセチル−D−グルコサミン、デンプン、デンプン加水分解物、糖蜜、廃糖蜜等の糖類、麦、米等の天然物、グリセロール、メタノール、エタノール等のアルコール類、酢酸、乳酸、コハク酸、グルコン酸、ピルピン酸、クエン酸等の有機酸類、ヘキサデカン等の炭化水素などが挙げられる。上記炭素源は、培養する微生物による資化性を考慮して適宜選択される。また、上記炭素源を1種または2種以上選択して使用することができる。
また、IPTGフリー培地に使用できる窒素源としては、肉エキス、ペプトン、ポリペプトン、トリプトン、酵母エキス、麦芽エキス、大豆加水分解物、大豆粉末、カゼイン、ミルクカゼイン、カザミノ酸、グリシン、グルタミン酸、アスパラギン酸等の各種アミノ酸、コーンスティープリカー、その他の動物、植物、微生物の加水分解物等の有機窒素源;アンモニア、硝酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウムなどのアンモニウム塩、硝酸ナトリウムなどの硝酸塩、亜硝酸ナトリウムなどの亜硝酸塩、尿素等の無機窒素源などが挙げられる。上記窒素源は、培養する微生物による資化性を考慮して適宜選択される。また、上記窒素源を1種または2種以上選択して使用することができる。
IPTGフリー培地に使用できる無機物としては、マグネシウム、マンガン、カルシウム、ナトリウム、カリウム、銅、鉄、亜鉛、タングステンおよびモリブデンなどの、リン酸塩、塩酸塩、硫酸塩、酢酸塩、炭酸塩、塩化物等のハロゲン化物、ならびにこれらの水和物などが挙げられる。上記無機物は、培養する微生物による要求性を考慮して適宜選択される。また、上記無機物を1種または2種以上選択して使用することができる。また、IPTGフリー培地中に、必要に応じて、植物油、界面活性剤、消泡剤(例えば、アデカノール(登録商標) LG−109)等を添加してもよい。また、抗生物質耐性遺伝子をコードする配列を有するベクターにより形質転換を行ったような場合は、形質を維持し、他の微生物によるコンタミネーションを防止するため、抗生物質耐性遺伝子に対応したアンピシリン、カナマイシン、ストレプトマイシン、クロラムフェニコール等の抗生物質をIPTGフリー培地中に添加しても良い。
維持培養の条件は、培養する微生物の種類、培地の組成や培養法によって適宜選択され、微生物が増殖できる条件であれば特に制限されない。通常は、培養温度が、好ましくは15〜50℃、より好ましくは15〜37℃である。また、培養に適当な培地のpHは、好ましくは3〜10、より好ましくは5〜8である。
[イソプロピルβ−チオガラクトピラノシドを含む液(IPTGを含む液)]
本発明においては、芳香環ジオキシゲナーゼ遺伝子群および芳香環ジヒドロジオールデヒドロゲナーゼ遺伝子を導入した形質転換微生物を、5〜100μMのIPTGを含む液で培養する。一実施形態では、芳香環ジオキシゲナーゼ遺伝子群および芳香環ジヒドロジオールデヒドロゲナーゼ遺伝子を導入した形質転換微生物を、5〜30μMのIPTGを含む液で培養する。芳香環ジオキシゲナーゼ遺伝子群および芳香環ジヒドロジオールデヒドロゲナーゼ遺伝子を導入した形質転換微生物をIPTGを含む液で培養することで、芳香環ジオキシゲナーゼおよび芳香環ジヒドロジオールデヒドロゲナーゼのタンパク質発現が誘導される。
一般的に、IPTGによってタンパク質の発現誘導を行う場合、例えば、非特許文献1のSUPPLEMENTARY MATERIALに記載されているように、IPTGの終濃度が1mM程度となるように行われる。さらに、目的とする酵素活性を高めようとする場合、一般的には、培養液中のIPTG濃度を高くすることにより、誘導される標的タンパク質の発現量を増加させる方法が採用される。一方、本発明にかかる調製方法においては、芳香環ジオキシゲナーゼ遺伝子群および芳香環ジヒドロジオールデヒドロゲナーゼ遺伝子を導入した形質転換微生物を、5〜100μM(例えば、5〜30μM)といった低濃度のIPTGを含む液で培養する。低濃度のIPTGを含む液で形質転換微生物を培養することにより、効率的にカテコール化合物を合成する形質転換微生物を得ることができる。本発明の技術的範囲をなんら制限するものではないが、これは、IPTGの添加濃度を下げることで、発現誘導によるタンパク質の生成速度が低下し、これにより、タンパク質のミスホールディングが抑制され、活性を有する可溶性のタンパク質の生成量が増加するためであると推定される。
IPTGを含む液は、上述の形質転換微生物の培養に通常用いられる培地(IPTGフリー培地)にIPTGを添加して調製される。IPTGを含む液全体におけるIPTGの濃度は、5〜100μMであれば良い。例えば、IPTGを含む液全体におけるIPTGの濃度は、例えば5〜30μMであり、好ましくは6〜25μMであり、より好ましくは6〜24μMであり、更に好ましくは7〜23μMであり、特に好ましくは10〜20μMであり、かようなIPTGの濃度にした場合のカテコール化合物の効率的な合成という効果は、T7プロモーターと作動的に連結された芳香環ジオキシゲナーゼ遺伝子群および芳香環ジヒドロジオールデヒドロゲナーゼ遺伝子を導入した形質転換微生物を用いるときに特に顕著に得られる。また、例えば、tacプロモーターと作動的に連結された芳香環ジオキシゲナーゼ遺伝子群および芳香環ジヒドロジオールデヒドロゲナーゼ遺伝子を導入した形質転換微生物を用いるときは、IPTGを含む液全体におけるIPTGの濃度は、例えば15〜100μMであり、好ましくは25〜100μMであり、より好ましくは30〜95μMであり、更に好ましくは35〜80μMであり、特に好ましくは35〜60μMである。IPTGを含む液全体におけるIPTGの濃度が上記数値範囲である場合、調製された形質転換微生物によりカテコール化合物を効率的に製造できる。
IPTGを含む液での形質転換微生物の培養方法は、当該微生物が生育・増殖できるものであれば、いずれのものであってよい。具体的には、上述の維持培養の条件が参酌される。IPTGを含む液における培養時間は、特に制限されず、培養する微生物の種類、培地の量、培養条件などによって異なる。25℃で培養する場合は、培養時間は、5〜96時間、好ましくは5〜72時間、より好ましくは12〜48時間である。
本発明においては、IPTGを含む液の溶存酸素濃度が、0mg/Lを超えて5mg/L以下であることが好ましい。溶存酸素濃度が0mg/Lを超えて5mg/L以下であるIPTGを含む液で形質転換微生物を培養することにより、特に培養ボリュームが1L以上の大容量で培養した場合に、カテコール化合物を効率的に生成する形質転換微生物を調製できる。本発明の技術的範囲を制限するものでは無いが、これは、溶存酸素による酵素の失活や培地成分を基質とした反応の進行に伴う酵素の失活が抑制されることによるものと推測される。IPTGを含む液の溶存酸素濃度は0.1〜5mg/Lであることがより好ましく、0.1〜2mg/Lであることが更に好ましく、0.7〜1.6mg/Lであることが更に好ましい。ここで、上記数値範囲は、IPTGによる発現誘導開始直後(5分以内)における溶存酸素濃度(初期溶存酸素濃度)を指す。培養中、溶存酸素濃度が変動することがあるが、IPTGを含む液で形質転換微生物を培養する期間を通じて、溶存酸素濃度が0〜5mg/L、0mg/Lを超えて5mg/L以下、0mg/Lを超えて2mg/L以下であることが、この順番でさらに好ましい。
なお、グルコース代謝に関与するグリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子や6−ホスホフルクトキナーゼ遺伝子などのプロモーター領域、および大腸菌において耐酸性機構に関与するグルタミン酸脱炭酸酵素遺伝子などのプロモーター領域を有する発現ベクターを導入した形質転換微生物においても、上記のような溶存酸素濃度で培養することにより、カテコール化合物の生成効率を向上することができる。
IPTGを含む液の溶存酸素濃度は、例えば、培地に通気するガス(通気ガス)の組成、通気量、攪拌速度を調節することにより、任意に設定できる。通気ガスに窒素やアルゴン等の不活性ガスを使用したり、通気量を下げたり、攪拌速度を下げたりすることで、IPTGを含む液の溶存酸素濃度低くすることができる。通気ガス中の空気と不活性ガスとの混合割合は、空気:不活性ガスが1:0.5〜20(v:v)であることが好ましく、1:3〜9(v:v)であることがより好ましく、1:4〜9(v:v)であることが更に好ましい。通気量は、例えば、1LのIPTGを含む液に対し、10L/分以下であり、好ましくは0.1〜5L/分である。
IPTGを含む液で形質転換微生物を培養する際には、培養中に培地のpHが変動することがあるため、適宜酸やアルカリを加えて、所望のpHに調整しても良い。酸やアルカリとしては、特に制限されないが、塩酸、硝酸、硫酸、酢酸などの酸や、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリが用いられる。
IPTGによってタンパク質発現が誘導されると、微生物増殖が阻害される場合がある。従って、本発明にかかる調製方法においては、(i)IPTGフリー培地中で形質転換微生物を培養し;その後、(ii)終濃度が5〜100μM(例えば5〜30μMや、15〜100μM)となるようにIPTGを培地に添加することにより、芳香環ジオキシゲナーゼおよび芳香環ジヒドロジオールデヒドロゲナーゼの発現誘導を行う(IPTGを含む液で培養する)ことが好ましい。また培地中に終濃度0.5〜1%(w/v)のグルコースを添加することで、発現誘導を遅らせることもできる。IPTGフリー培地中で培養後にIPTGを含む液で形質転換微生物を培養する場合、IPTGを添加するタイミングは、濁度測定等により微生物の菌体濃度を測定して決定すればよい。IPTGを添加するタイミングは、例えば、OD660が0.1〜1となった時点である。また、上述の(i)(IPTGフリー培地中での形質転換微生物の培養)の前に、形質転換微生物を前培養しても良い。前培養により、形質転換微生物の菌体濃度を調節することが容易となる。前培養の条件は、上述の維持培養の条件が参酌される。
本発明にかかる調製方法により調製された形質転換微生物は、カテコール化合物を効率的に生成する。カテコール化合物の生成速度(以下、「反応速度」とも称する。)は、例えば、2−フェニルエタノールを原料としたときに生成する、単位時間・単位菌体濃度当りの2−(2,3−ジヒドロキシフェニル)エタノールの量(mM/(h・OD660))で求められる。2−フェニルエタノールを原料としたときに生成する、単位時間・単位菌体濃度当りの2−(2,3−ジヒドロキシフェニル)エタノールの量(mM/(h・OD660))によるカテコール化合物の生成速度は、実施例に記載される方法によって求められる。
より具体的には、以下の方法により求めればよい。すなわち、形質転換微生物と4mlのIPTGフリー培地(例えば、大腸菌や枯草菌であれば、抗生物質耐性遺伝子に対応した抗生物質を任意に含むLB培地)とを試験管に入れたものを2〜3本用意し、30℃で一晩(約14〜18時間)、300rpmで振盪培養する(前培養)。次に、前培養後の培養液のOD660を測定し、ジャーファーメンター内で培養液を希釈し、菌体濃度を調節する。菌体濃度の調節は、OD660(初期OD660)が0.05であり、反応ボリュームが1LとなるようにIPTGフリー培地で培養液を希釈すればよい。希釈に用いられるIPTGフリー培地は、大腸菌や枯草菌であれば、以下の組成のものを用いればよい。なお、宿主として放線菌や酵母を用いる場合、ISP培地(放線菌)やYPD培地(酵母)など、使用する培地は培養する微生物によって任意に選択すればよい。
希釈後の培養液を培養し(25℃、725rpm)、OD660が0.4〜0.6となった時点で終濃度が10μMとなるようにIPTGを添加する。IPTGを添加後、温度25℃、攪拌数725rpmでpHを調整(pHの下限が6.0となるように、2N NaOHを添加)しつつ、通気量1L/分(通気ガス 空気:窒素ガスが1:4)で24時間培養する。培養後、以下の組成のリン酸緩衝液(pH7.0)にて集洗菌する。上記のように調製した微生物は、カテコール化合物の生成反応まで、−80℃で保管する。
調製した微生物に上記のリン酸緩衝液(pH7.0)を加えてOD660を測定する(緩衝液を加えて調製した微生物懸濁液を、「微生物懸濁液」とも称する。)。測定した微生物懸濁液のOD660から、OD660が5.0となる希釈倍率を求める。反応溶液調製後の微生物懸濁液の希釈倍率が、こうして求めた希釈倍率となるように、下記の反応液を調製する。調製した反応溶液を用いて、反応を行う(30℃、300rpm、4時間)。
反応後、生成した2−(2,3−ジヒドロキシフェニル)エタノールをLC−MSにより分析する。2−(2,3−ジヒドロキシフェニル)エタノールは、UVのピーク(保持時間:5.2分、m/z:155、137)から定量すればよい。
(LC−MSによる分析条件)
MS: 3200QTRAP (AB Sciex)
移動層: A液 0.1% ギ酸
B液 アセトニトリル
カラム: カプセルパックAQ 粒子径3μm 内径2mm 長さ25cm
カラム温度: 40℃
検出波長: 254nm
流速: 0.2mL/min
分析時間: 15 min
MASSモード:Q1 posi
測定m/z: 100−250
グラジエント:
生成した2−(2,3−ジヒドロキシフェニル)エタノールの定量結果から、20mMの2−フェニルエタノールを原料としたときに生成する、単位時間・単位菌体濃度当りの2−(2,3−ジヒドロキシフェニル)エタノールの量(mM/(h・OD660))を算出する。このとき、時間(h)は反応時間である4時間を採用し、OD660は反応液の調製時の5.0を採用する。
本発明にかかる調製方法においては、IPTGを含む液で培養した形質転換微生物の、2−フェニルエタノールを原料としたときの2−(2,3−ジヒドロキシフェニル)エタノールの上記方法により算出される生成速度が、0.45mM/(h・OD660)以上であることが好ましい。より好ましくは、上記方法により算出される2−フェニルエタノールを原料としたときの2−(2,3−ジヒドロキシフェニル)エタノールの生成速度が0.50mM/(h・OD660)以上であり、より好ましくは0.70mM/(h・OD660)以上である。2−フェニルエタノールを原料としたときの2−(2,3−ジヒドロキシフェニル)エタノールの生成速度の上限は特に制限されるものではないが、例えば、1.60mM/(h・OD660)以下(例えば、1.57mM/(h・OD660)以下)である。本発明にかかる調製方法によれば、2−フェニルエタノールを原料としたときに、2−(2,3−ジヒドロキシフェニル)エタノールを0.45mM/(h・OD660)以上の速度で生成する、形質転換微生物を得ることができる。
本発明の一実施形態では、形質転換微生物は、イソプロピルβ−チオガラクトピラノシド誘導性プロモーター(1)ならびに前記プロモーター(1)と作動的に連結された芳香環ジオキシゲナーゼ遺伝子群および芳香環ジヒドロジオールデヒドロゲナーゼ遺伝子を含むカセット(1)と、イソプロピルβ−チオガラクトピラノシド誘導性プロモーター(2)ならびに前記プロモーター(2)と作動的に連結された芳香環ジヒドロジオールデヒドロゲナーゼ遺伝子を含むカセット(2)とを、前記カセット(1)と前記カセット(2)とのコピー数の比が1:1〜5:1となるよう微生物に導入されてなる。本発明の更なる実施形態では、前記プロモーター(1)および前記プロモーター(2)が、T7プロモーターまたはtacプロモーターである。
[カテコール化合物の製造方法]
本発明の第二の側面は、上記の調製方法により調製された形質転換微生物を用いた、下記一般式(1)で表されるカテコール化合物の製造方法に関する。本発明の第二の側面によれば、該方法により調製された形質転換微生物を利用した、カテコール化合物の効率的な製造方法が提供される。本発明の第二の側面によれば、該方法により調製された形質転換微生物を利用した、カテコール化合物の効率的な製造方法が提供される。
前記一般式(1)中、Rは水素原子、ハロゲン原子、フェニル基、複素環基または下記一般式(2)で示される基である。本明細書において「複素環基」は、員数5〜10のヘテロ環により構成される基であり、複素環の具体例としては、フラン、チオフェン、ピロール、イミダゾール、ピラゾール、チアゾール、イソチアゾール、オキサゾール、ピロリジン、ピラン、ピリジン、ピリミジン、ピラジン、ピペリジン、ピペラジン、モルホリン、インドール、インダノン、ベンゾフラン、ベンゾイミダゾール、ベンゾチアゾール、ベンゾオキサゾール、プリン、キノリン、イソキノリン、クロメン、クロメン−4−オン、クロマンおよびクロマン−4−オンが例示できる。
好ましくは、一般式(1)中、Rは水素原子、ハロゲン原子、または下記一般式(2)で表わされる。
前記一般式(2)中、xは0または1であり、Yは炭素数1〜5の直鎖または分岐鎖のアルキレン基であり、Zは水素原子または水酸基である。好ましくは、xは0または1であり、Yは炭素数1〜3の直鎖または分岐鎖のアルキレン基であり、Zは水素原子または水酸基である。より好ましくは、xは0または1であり、Yは−(CH2)n−(nは1〜3の整数)であり、Zは水酸基である。
一般式(1)で表わされるカテコール化合物としては、より具体的には、カテコール、3−フルオロカテコール、3−クロロカテコール、3−ブロモカテコール、3−ヨードカテコール、3−フェニルカテコール、3−メチルカテコール、3−エチルカテコール、3−n−プロピルカテコール、3−イソプロピルカテコール、3−n−ブチルカテコール、3−sec−ブチルカテコール、3−tert−ブチルカテコール、3−メトキシカテコール、3−エトキシカテコール、3−n−プロポキシカテコール、3−イソプロポキシカテコール、3−n−ブトキシカテコール、3−sec−ブトキシカテコール、3−tert−ブトキシカテコール、2,3−ジヒドロキシベンジルアルコール、(2,3−ジヒドロキシフェノキシ)メタノール、1−(2,3−ジヒドロキシフェニル)エタノール、1−(2,3−ジヒドロキシフェノキシ)エタノール、2−(2,3−ジヒドロキシフェニル)エタノール、2−(2,3−ジヒドロキシフェノキシ)エタノール、1−(2,3−ジヒドロキシフェニル)−1−プロピルアルコール、1−(2,3−ジヒドロキシフェニル)−2−プロピルアルコール、1−(2,3−ジヒドロキシフェノキシ)−1−プロピルアルコール、1−(2,3−ジヒドロキシフェノキシ)−2−プロピルアルコール、2−(2,3−ジヒドロキシフェニル)−1−プロピルアルコール、2−(2,3−ジヒドロキシフェニル)−2−プロピルアルコール、2−(2,3−ジヒドロキシフェノキシ)−1−プロピルアルコール、2−(2,3−ジヒドロキシフェノキシ)−2−プロピルアルコール、3−(2,3−ジヒドロキシフェニル)−1−プロピルアルコール、3−(2,3−ジヒドロキシフェノキシ)−1−プロピルアルコール、2−(2,3−ジヒドロキシフェニル)−ピリジン、2−(2,3−ジヒドロキシフェニル)−インドール、2−(2,3−ジヒドロキシフェニル)−インダン−1−オン、3−(2,3−ジヒドロキシフェニル)−インダン−1−オン、2−(2,3−ジヒドロキシフェニル)−キノリン、2−(2,3−ジヒドロキシフェニル)−ベンゾオキサゾール、2−(2,3−ジヒドロキシフェニル)−クロメン−4−オン、2−(2,3−ジヒドロキシフェニル)−クロマン−4−オン、等が例示できる。
本発明にかかる製造方法では、上記方法にて調製された形質転換微生物を、芳香族化合物原料に接触させることにより行う。芳香族化合物原料としては、ベンゼン、フルオロベンゼン、クロロベンゼン、ブロモベンゼン、ヨードベンゼン、ビフェニル、トルエン(メチルベンゼン)、アニソール(メトキシベンゼン)、ベンジルアルコール(フェニルメタノール)、フェノキシメタノール、フェニルエタン、フェノキシエタン、1−フェニルエタノール、2−フェニルエタノール、1−フェノキシエタノール、2−フェノキシエタノール、1−フェニル−プロパン、1−フェノキシ−プロパン、1−フェニル−1−プロピルアルコール、1−フェニル−2−プロピルアルコール、1−フェノキシ−1−プロピルアルコール、1−フェノキシ−2−プロピルアルコール、2−フェニル−プロパン、2−フェノキシ−プロパン、2−フェニル−1−プロピルアルコール、2−フェニル−2−プロピルアルコール、2−フェノキシ−1−プロピルアルコール、2−フェノキシ−2−プロピルアルコール、3−フェニル−1−プロピルアルコール、3−フェノキシ−1−プロピルアルコール、2−フェニル−ピリジン、2−フェニル−インドール、2−フェニル−インダン−1−オン、3−フェニル−インダン−1−オン、2−フェニル−キノリン、2−フェニル−ベンゾオキサゾール、2−フェニル−クロメン−4−オン、2−フェニル−クロマン−4−オン等が例示できる。
本発明にかかる製造方法では、上記方法にて調製された形質転換微生物を含む培養液(IPTGを含む液)中に、芳香族化合物原料を添加してカテコール化合物の合成反応を行うこともできる。すなわち、反応溶媒としては、培地成分を含む液を用いることもできる。しかしながら、反応場に培地成分が含まれると、酢酸等のグルコース代謝産物により反応が阻害されたり、生成物の精製が困難になったり、副生成物が生じたりすることがある。従って、本発明においては、上記方法にて調製された形質転換微生物を集菌し、培地成分を含まない液中でカテコール化合物の合成反応を行う、休止菌体反応によってカテコール化合物が製造されることが好ましい。休止菌体反応によってカテコール化合物の合成反応を行う場合、用いる反応溶媒としては、BES、HEPES、TES、ビシン、トリシン等のGOOD緩衝液、グリシン−NaOH等のアミノ酸系緩衝液、リン酸緩衝液、トリス−塩酸緩衝液、酢酸緩衝液、ホウ酸緩衝液などの緩衝液が好ましい。緩衝液のpHとしては、通常、pH4.0〜10.0程度のものが用いられる。緩衝液には、酵素の性質等に応じて、マグネシウム、カルシウム、ナトリウム、カリウム、銅、および鉄、などの、リン酸塩、塩酸塩、硫酸塩、酢酸塩、炭酸塩、塩化物等のハロゲン化物などの無機成分を添加しても良い。
集菌は、例えば、1000〜10000×gで培養液を遠心分離し、沈殿(菌体画分)を回収すればよい。こうして回収した微生物に、微生物に応じて適宜選択される緩衝液を加え、菌体を懸濁して微生物を洗浄しても良い。微生物の洗浄に用いる緩衝液としては、例えば、上述の休止菌体反応に用いられる緩衝液が例示できる。洗浄は複数回行っても良い。IPTGを含む液で培養することにより調製された形質転換微生物は、カテコール化合物の生成反応まで、冷凍(例えば、−80℃)で保管してもよい。調製後の形質転換微生物の冷凍は、液量を減らすため、集菌後に行うことが好ましい。
反応液中における芳香族化合物原料の濃度は、基質阻害による影響が出ない範囲で調整できる。本発明にかかる製造方法では、芳香族化合物原料の濃度が、1〜100mMであることが好ましく、5〜50mMであることがより好ましい。また、上記で回収した形質転換微生物の反応液中の量は、例えば、反応開始時において、OD660が0.5〜100となる量であり、好ましくはOD660が1〜40となる量である。形質転換微生物の反応液中のOD660を上記の範囲に調整するには、本発明に係る調製方法にて調製した形質転換微生物を必要に応じて希釈してOD660を求め、反応液中のOD660が所望の値となる希釈率を算出し、反応液への菌体の添加量を決定すればよい。
本発明にかかる製造方法では、カテコール化合物の製造に用いられる芳香族化合物原料を、反応液に逐次添加しても良い。基質を逐次添加することで、製造のスケールアップが容易となり、選択率を高くすることができる。この場合、「選択率」とは、以下の数式1で表わされる値である。基質を逐次添加する場合、形質転換微生物(形質転換微生物懸濁液)をも追加添加しても良い。
カテコール化合物の生成における反応温度は、任意に設定すればよいが、例えば10〜60℃であり、好ましくは20〜40℃である。反応温度を10℃以上とすることにより、反応速度の低下を防止し得る。また、60℃以下で反応を行うことにより、芳香環ジオキシゲナーゼや芳香環ジヒドロジオールデヒドロゲナーゼの失活を防ぐことができる。反応は、例えば100〜1000rpmで撹拌しながら行うことが好ましい。反応時間も、製造スケール等によって任意に設定すればよいが、通常、1〜48時間である。
得られた生成物は、溶媒抽出、蒸留、晶析、塩析、クロマトグラフィー、活性炭等の吸着材による処理など、任意の方法によって精製し得る。また、合成によって得られた生成物(カテコール化合物)の構造や生成量は、例えば実施例に記載のLCやGC、およびこれらに組み合わせたMSを用いた方法や、NMR、赤外分光法など、当業者に知られた手段によって確認できる。
[組成物、美白剤、酸素吸収剤]
本発明の第三の側面では、下記一般式(1)で表されるカテコール化合物および下記一般式(3)で表される一水酸化物を含み、100モルの前記カテコール化合物に対する前記一水酸化物の割合が、0.002〜5モルである、組成物が提供される。本発明の第三の側面によれば、安定性に優れたカテコール化合物含有組成物が提供される。
前記一般式(1)中、Rは水素原子、ハロゲン原子、フェニル基、複素環基または下記一般式(2)で示される基である。
前記一般式(2)中、xは0または1であり、Yは炭素数1〜5の直鎖または分岐鎖のアルキレン基であり、Zは水素原子または水酸基である。
本発明の第三の側面において、上記一般式(1)および(2)におけるR、x、Y、およびZの定義は、上記第二の側面における定義と同様であり、第二の側面における説明が適宜修飾されて第三の側面にも適用される。
前記一般式(3)中、R’は複素環基または下記一般式(4)で示される基である。
前記一般式(4)中、x’は0または1であり、Y’は炭素数1〜5の直鎖または分岐鎖のアルキレン基であり、Z’は水素原子または水酸基である。
本発明の第三の側面において、上記一般式(3)におけるR’は、上記一般式(1)におけるRについての説明が適宜修飾されて適用される。また、本発明の第三の側面において、上記一般式(4)におけるx’、Y’、およびZ’はそれぞれ、上記一般式(2)におけるx、Y、およびZとそれぞれ同様の定義であり、上記一般式(2)についての説明が適宜修飾されて適用される。上記一般式(3)において、水酸基はオルト位、メタ位またはパラ位のいずれであっても良いが、好ましくはオルト位またはメタ位であり、より好ましくはオルト位である。
一般式(3)で表わされる一水酸化物は、より具体的には、例えば、2−ヒドロキシベンジルアルコール、3−ヒドロキシベンジルアルコール、4−ヒドロキシベンジルアルコール、2−ヒドロキシフェノキシメタノール、3−ヒドロキシフェノキシメタノール、4−ヒドロキシフェノキシメタノール、1−(2−ヒドロキシフェニル)エタノール、1−(3−ヒドロキシフェニル)エタノール、1−(2−ヒドロキシフェノキシ)エタノール、1−(3−ヒドロキシフェノキシ)エタノール、2−(2−ヒドロキシフェニル)エタノール、2−(3−ヒドロキシフェニル)エタノール、2−(4−ヒドロキシフェニル)エタノール(チロソール)、2−(2−ヒドロキシフェノキシ)エタノール、2−(3−ヒドロキシフェノキシ)エタノール、2−(4−ヒドロキシフェノキシ)エタノール、1−(2−ヒドロキシフェニル)−1−プロピルアルコール、1−(2−ヒドロキシフェニル)−2−プロピルアルコール、1−(2−ヒドロキシフェノキシ)−1−プロピルアルコール、1−(2−ヒドロキシフェノキシ)−2−プロピルアルコール、2−(2−ヒドロキシフェニル)−1−プロピルアルコール、2−(2−ヒドロキシフェニル)−2−プロピルアルコール、2−(2−ヒドロキシフェノキシ)−1−プロピルアルコール、2−(2−ヒドロキシフェノキシ)−2−プロピルアルコール、3−(2−ヒドロキシフェニル)−1−プロピルアルコール、3−(2−ヒドロキシフェノキシ)−1−プロピルアルコール、2−(2−ヒドロキシフェニル)−ピリジン、2−(2−ヒドロキシフェニル)−インドール、2−(2−ヒドロキシフェニル)−インダン−1−オン、3−(2−ヒドロキシフェニル)−インダン−1−オン、2−(2−ヒドロキシフェニル)−キノリン、2−(2−ヒドロキシフェニル)−ベンゾオキサゾール、2−(2−ヒドロキシフェニル)−クロメン−4−オン、2−(2−ヒドロキシフェニル)−クロマン−4−オン、等が例示できる。
組成物に含まれる一般式(1)で表されるカテコール化合物のRと、一般式(3)で表わされる一水酸化物のR’とは、同一であることが好ましい。
後述のように、上記一般式(1)で表されるカテコール化合物には、美白作用が認められる。一方、一般式(1)で表されるカテコール化合物に加えて上記一般式(3)で表わされる一水酸化物を所定の範囲で含む組成物は、カテコール化合物単独の場合に比べて、高い安定性(特に、カテコール化合物の分解および着色の抑制)が達成されることを本発明者は見出した。本発明の技術的範囲を制限するものでは無いが、これは、以下のメカニズムによるものと推測される。すなわち、一般式(3)で表わされるような酸化されやすい一水酸化物が組成物中に含まれることにより、組成物中の酸素がトラップされ、カテコール化合物の酸化安定性が増すためであると推測される。
本発明に係る組成物は、100モルの一般式(1)で表わされるカテコール化合物(「一般式(1)で表わされるカテコール化合物」を、単に「本発明に係るカテコール化合物」とも称する。)に対して、一般式(3)で表わされる一水酸化物(「一般式(3)で表わされる一水酸化物」を、単に「本発明に係る一水酸化物」とも称する。)を0.002〜5モルの割合で含む。100モルの本発明に係るカテコール化合物に対して、0.002モル以上の割合で本発明に係る一水酸化物を組成物が含むことにより、高い酸化安定性を得ることができる。また、100モルの本発明に係るカテコール化合物に対して、本発明に係る一水酸化物の割合が5モル以下であることにより、本発明に関わるカテコール化合物の美白効果等の機能への影響が抑えられるという利点がある。一般式(1)で表わされるカテコール化合物と一般式(3)で表わされる一水酸化物の組成物中の含量は、例えば実施例に記載のガスクロマトグラフィー法により測定され得る。ガスクロマトグラフィー法等により一般式(3)で表わされる一水酸化物の組成物中の含量を測定する際は、必要に応じて測定試料を濃縮してから測定しても良い。好ましくは、本発明に係る組成物は、100モルの一般式(1)で表わされるカテコール化合物に対して、一般式(3)で表わされる一水酸化物を0.005〜5モルの割合で含み、より好ましくは0.01〜1モルの割合で含む。
一般式(1)で表わされるカテコール化合物の含量は、組成物中、例えば、95〜99.998モル%である。また、一般式(3)で表わされる一水酸化物の含量は、組成物中、例えば、0.002〜5モル%である。
本発明の更なる実施形態では、発明に係る組成物は、組成物全体に対し、99.998〜95モル%の一般式(1)で表わされるカテコール化合物、および0.002〜5モル%の一般式(3)で表わされる一水酸化物からなる(ただし、一般式(1)で表わされるカテコール化合物と、一般式(3)で表わされる一水酸化物との合計量は100モル%である。)。好ましい別の実施形態では、本発明に係る組成物は、0.005〜5モル%の一般式(1)で表わされるカテコール化合物、および95〜99.995モル%の一般式(3)で表わされる一水酸化物からなる(ただし、一般式(1)で表わされるカテコール化合物と、一般式(3)で表わされる一水酸化物との合計量は100モル%である。)。より好ましい別の実施形態では、本発明に係る組成物は、0.01〜1モル%の一般式(1)で表わされるカテコール化合物、および99〜99.99モル%の一般式(3)で表わされる一水酸化物からなる(ただし、一般式(1)で表わされるカテコール化合物と、一般式(3)で表わされる一水酸化物との合計量は100モル%である。)。
本発明に係るカテコール化合物および本発明に係る一水酸化物を含む組成物は、分離・精製した本発明に係るカテコール化合物に対して、所望の割合で本発明に係る一水酸化物を添加して調製することもできる。
また、芳香環ジオキシゲナーゼおよび芳香環ジヒドロジオールデヒドロゲナーゼを導入した形質転換微生物(例えば、本発明に係る調製方法により調製した形質転換微生物)を用いてカテコール化合物を製造した場合、副生成物として本発明に係る一水酸化物をも生じ得る。本発明の技術的範囲を制限するものでは無いが、これは、以下のメカニズムによるものと推測される。すなわち、上記の反応式(1)において、芳香環ジオキシゲナーゼによって隣接した2つの炭素原子に対して1つずつ水酸基が芳香族化合物に付加された後、水分子が自発的に脱離し、本発明に係る一水酸化物が生成するものと推測される。従って、本発明の一実施形態では、組成物に含まれる一般式(1)で表わされるカテコール化合物および一般式(3)で表わされる一水酸化物は、芳香環ジオキシゲナーゼおよび芳香環ジヒドロジオールデヒドロゲナーゼを導入した形質転換微生物を用いて、芳香族化合物原料を酸化することにより製造される。一実施形態では、当該形質転換微生物は、上記の調整方法によって調製された形質転換微生物である。
芳香環ジオキシゲナーゼおよび芳香環ジヒドロジオールデヒドロゲナーゼを導入した形質転換微生物を用いてカテコール化合物を製造した場合、通常は、一般式(1)で表されるカテコール化合物のRと、一般式(3)で表わされる一水酸化物のR’とは、同一となる。また、この場合、一般式(3)で表わされる一水酸化物において、水酸基はオルト位、またはメタ位となる。
芳香環ジオキシゲナーゼおよび芳香環ジヒドロジオールデヒドロゲナーゼを導入した形質転換微生物を用いて本発明に係るカテコール化合物および本発明に係る一水酸化物を製造する場合、一般式(1)で表されるカテコール化合物の選択率を上げる(例えば、カセット(1)に加えてカセット(2)を微生物に導入する、反応時間を長くする)ことにより、生成物中の本発明に係る一水酸化物含量を少なく(本発明に係るカテコール化合物量を多く)することができる。一方、一般式(1)で表されるカテコール化合物の選択率を下げることにより、生成物中の本発明に係る一水酸化物含量を多く(本発明に係るカテコール化合物量を少なく)することができる。かような手法により得られた生成物を、本発明に係る組成物として用いることができる。また、組成物中の本発明に係るカテコール化合物量や本発明に係る一水酸化物含量は、形質転換微生物を用いたカテコール化合物の生成後、分離・精製手法を適宜組み合わせて調整しても良い。この場合、一実施形態では、本発明の組成物において、本発明に係るカテコール化合物と本発明に係る一水酸化物との合計量は、組成物全体に対して、98〜100質量%、好ましくは99〜100質量%となるように、分離・精製を行う。組成物中に含まれる本発明に係るカテコール化合物、および本発明に係る一水酸化物の含量は、下記の実施例に記載の方法により測定することができる。
(美白剤)
一般式(1)で表されるカテコール化合物は美白作用を有する。本発明に係る組成物は、一般式(1)で表されるカテコール化合物に加えて、一般式(3)で表わされる一水酸化物を含むため、安定性に優れる。従って、本発明に係る組成物を、安定性に優れた美白剤として利用することができる。本発明の一実施形態では、本発明の組成物を含む、美白剤が提供される。
美白剤として本発明に係る組成物を用いる場合、一般式(2)中、xは1であることが好ましい。また、美白剤として本発明に係る組成物を用いる場合、一般式(4)中、x’は1であることが好ましい。xやx’が1であることにより、より高い美白効果を得ることができる。
美白剤に含まれる本発明の組成物は、例えば0.0005質量%以上、好ましくは0.001質量%以上、より好ましくは0.003質量%以上である。美白剤に含まれる本発明の組成物の上限は、特に制限されないが、製造コストの観点から、例えば1質量%以下であり、好ましくは0.1質量%以下である。美白剤の形態としては、例えば、化粧水、化粧用乳液、美容液、化粧用ゲル、化粧石鹸、クレンジングクリーム、洗顔料、スキンクリーム、スキンミルク、エモリエントクリーム、化粧油、パック、日焼けオイル、日焼け止めオイル、日焼けローション、日焼け止めローション、日焼けクリーム、日焼け止めクリーム、ファンデーション、口紅、リップクリーム、歯磨き、デオドランド剤、リップクリームなどが挙げられる。
また、美白剤は、本発明の効果を損なわない範囲で、本発明に係るカテコール化合物以外の他の美白成分、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテルなどの界面活性剤、スクワラン、流動パラフィン、パラフィンワックス、ワセリンなどの炭化水素類、パルミチン酸イソプロピル、ステアリン酸ブチルなどの脂肪酸エステル、ジメチコン、シクロメチコンなどのシリコーン油、ミツロウ、オリーブ油、サフラワー油などの油剤、エタノール、セチルアルコール、2−オクチルドデカノール、イソステアリルアルコールなどのアルコール類、グリセリン、プロピレングリコール、ブチレングリコールなどの多価アルコール、塩化ナトリウム、硫酸マグネシウムなどの安定剤、ビタミンA、ビタミンB群、ビタミンC、ビタミンEなどのビタミン類、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、カラギーナンなどの増粘剤、シリカ、タルク、マイカ、カオリン、ベントナイトなどの粘土鉱物、メチルパラベンなどの防腐剤、グリチルレチン酸塩などの抗炎症剤、PABA系、桂皮酸系、ベンゾフェノン系、サリチル酸系などの有機系紫外線吸収剤、アミノ酸類、グリチルリチン酸塩、乳化剤、香料、色素、顔料、酸化防止剤、収斂剤、細胞賦活剤、保湿剤、肌荒れ改善剤、美容成分、pH調節剤、バインダー、角質改良剤などの公知成分を適宜配合してもよい。
(酸素吸収剤)
一般式(1)で表されるカテコール化合物は酸素吸収作用を有する。本発明の一実施形態では、本発明の組成物を含む、酸素吸収剤が提供される。
酸素吸収剤は本発明に係る組成物のみから構成されても良いが、例えば、グリセリン、エチレングリコール等のアルコール類、ソルビトール等の糖アルコール、アスコルビン酸、ヒドロキノン、ピロガロール、没食子酸、レゾルシンやその誘導体等の従来公知の脱酸素剤の主剤;主剤の反応の触媒である鉄、銅、マンガン、ニッケル等の遷移金属や、これらのハロゲン化物(例えば、塩化物)、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩、炭酸塩、酸化物、水酸化物等の遷移金属化合物;活性炭、黒鉛、カーボンブラック、シリカ、カオリン、タルク、ベントナイト、ゼオライト、パーライト、珪藻土、活性白土、ケイ酸カルシウム、酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等の担体等を任意の割合で含んでも良い。
酸素吸収剤に含まれる本発明の組成物は、酸素吸収剤全体に対して、例えば0.0001〜20重量%である。一実施形態では、100重量部の担体に対して、0.001〜0.1重量部の本発明に係る組成物が用いられる。
本発明に係る酸素吸収剤は、例えば、食品、化粧品、医薬品、化成品、電子材料等に利用することができる。
[実施形態]
以下に、本発明の好ましい実施形態を示す。
1. 芳香環ジオキシゲナーゼ遺伝子群および芳香環ジヒドロジオールデヒドロゲナーゼ遺伝子を導入した形質転換微生物を、5〜100μMのイソプロピルβ−チオガラクトピラノシドを含む液で培養することを有する、形質転換微生物の調製方法。
2. 前記イソプロピルβ−チオガラクトピラノシドを含む液の溶存酸素濃度が、0mg/Lを超えて5mg/L以下である、1に記載の調製方法。
3. 前記微生物が、大腸菌である、1または2に記載の調製方法。
4. 前記芳香環ジオキシゲナーゼ遺伝子群が、トルエンジオキシゲナーゼ遺伝子群である、1〜3のいずれか1つに記載の調製方法。
5. 前記トルエンジオキシゲナーゼ遺伝子群が、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)に由来する、4に記載の調製方法。
6. 前記芳香環ジヒドロジオールデヒドロゲナーゼ遺伝子が、cis−トルエンジヒドロジオールデヒドロゲナーゼ遺伝子である、1〜5のいずれか1つに記載の調製方法。
7. 前記cis−トルエンジヒドロジオールデヒドロゲナーゼ遺伝子が、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)に由来する、6に記載の調製方法。
8. 前記イソプロピルβ−チオガラクトピラノシドを含む液で培養した形質転換微生物が、2−フェニルエタノールを原料としたときに、2−(2,3−ジヒドロキシフェニル)エタノールを0.45mM/(h・OD660)以上の速度で生成する、1〜7のいずれか1つに記載の調製方法。
9. 前記形質転換微生物は、前記芳香環ジオキシゲナーゼ遺伝子群および前記芳香環ジヒドロジオールデヒドロゲナーゼ遺伝子を、
イソプロピルβ−チオガラクトピラノシド誘導性プロモーター(1)ならびに前記プロモーター(1)と作動的に連結された前記芳香環ジオキシゲナーゼ遺伝子群および前記芳香環ジヒドロジオールデヒドロゲナーゼ遺伝子を含むカセット(1)と、
イソプロピルβ−チオガラクトピラノシド誘導性プロモーター(2)ならびに前記プロモーター(2)と作動的に連結された前記芳香環ジヒドロジオールデヒドロゲナーゼ遺伝子を含むカセット(2)とを、
前記カセット(1)と前記カセット(2)とのコピー数の比が1:1〜5:1となるように導入した、1〜8のいずれか1つに記載の調製方法。
10. 1〜9のいずれか1つに記載の調製方法により調製された形質転換微生物を用いた、下記一般式(1):
前記一般式(1)中、Rは水素原子、ハロゲン原子、フェニル基、複素環基または下記一般式(2)で示される基である:
前記一般式(2)中、xは0または1であり、Yは炭素数1〜5の直鎖または分岐鎖のアルキレン基であり、Zは水素原子または水酸基である;
で表されるカテコール化合物の製造方法。
11. 前記カテコール化合物が、休止菌体反応によって製造される、10に記載の製造方法。
12. 2−フェニルエタノールを原料としたときに、2−(2,3−ジヒドロキシフェニル)エタノールを0.45mM/(h・OD660)以上の速度で生成する、形質転換微生物。
13. イソプロピルβ−チオガラクトピラノシド誘導性プロモーター(1)ならびに前記プロモーター(1)と作動的に連結された芳香環ジオキシゲナーゼ遺伝子群および芳香環ジヒドロジオールデヒドロゲナーゼ遺伝子を含むカセット(1)と、
イソプロピルβ−チオガラクトピラノシド誘導性プロモーター(2)ならびに前記プロモーター(2)と作動的に連結された芳香環ジヒドロジオールデヒドロゲナーゼ遺伝子を含むカセット(2)とを、
前記カセット(1)と前記カセット(2)とのコピー数の比が1:1〜5:1となるよう微生物に導入されてなる、12に記載の形質転換微生物。
14. 前記プロモーター(1)および前記プロモーター(2)が、T7プロモーターまたはtacプロモーターである、13に記載の形質転換微生物。
15. 下記一般式(1):
前記一般式(1)中、Rは水素原子、ハロゲン原子、フェニル基、複素環基または下記一般式(2)で示される基である:
前記一般式(2)中、xは0または1であり、Yは炭素数1〜5の直鎖または分岐鎖のアルキレン基であり、Zは水素原子または水酸基である;
で表されるカテコール化合物、および
下記一般式(3):
前記一般式(3)中、R’は水素原子、ハロゲン原子、フェニル基、複素環基または下記一般式(4)で示される基である:
前記一般式(4)中、x’は0または1であり、Y’は炭素数1〜5の直鎖または分岐鎖のアルキレン基であり、Z’は水素原子または水酸基である;
で表される一水酸化物を含み、
100モルの前記カテコール化合物に対する前記一水酸化物の割合が、0.002〜5モルである、組成物。
16. 15に記載の組成物を含む、美白剤、または酸素吸収剤。
本発明の効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。
[形質転換微生物の作製]
シュードモナス・プチダF1株(ATCC700007)のトルエンジオキシゲナーゼ遺伝子群(todA:配列番号9、todB:配列番号8、todC1:配列番号6、todC2:配列番号7)およびcis−トルエンジヒドロジオールデヒドロゲナーゼ遺伝子(todD:配列番号10)を含むDNA領域を発現ベクターpET21−b(+)(Novagen社製、T7プロモーター配列およびアンピシリン耐性遺伝子をコードする配列を有する。)に挿入した組換えプラスミド、todA−D/pET21−b(+)を、以下の手法により構築した。
すなわち、P.putida F1株のゲノムDNAをテンプレートとし、以下のプライマーおよびPhusion High−Fidelity DNA Polymerase(Finnzymes社)を用いてPCR増幅を行い、todA−D断片1を得た。
pET21−b(+)をテンプレートとし、以下のプライマーおよびPhusion High−Fidelity DNA Polymerase(Finnzymes社)を用いてPCR増幅を行い、pET21−b(+)断片を得た。
前記のPCR増幅により得たtodA−D断片1およびpET21−b(+)断片(T7プロモーター配列を含む)を用いて、In−Fusion PCRクローニングキット(Takara社)のプロトコールに従ってクローニングを行い、組換えプラスミド、todA−D/pET21−b(+)を構築した。なおクローニングの宿主としては、E.coli DH5α(タカラバイオ社)を用いた。
得られた組換えプラスミドおよび遺伝子を導入していないpET21−b(+)をE.coli BL21(DE3)(Invitrogen社)にヒートショック法にて形質転換し、形質転換大腸菌:E.coli BL21(DE3)/(todA−D/pET21−b(+))およびE.coli BL21(DE3)/pET21−b(+)を得た。得られた形質転換大腸菌のグリセロールストックを調製し、後述の形質転換微生物の調製(実施例1〜5)まで、−80℃で保管した。
[実施例1: 2−フェニルエタノール(PEA)を基質とした反応]
(1)形質転換微生物の調製
形質転換大腸菌E.coli BL21(DE3)/(todA−D/pET21−b(+))を以下の手順でIPTG発現誘導培養した。
菌株を4mLの液体培地Aに植菌し(試験管)、インキュベートした(30℃、300rpm、一晩、前培養)。続いて、液体培地A(100ml)に初期OD660が0.05となるように前培養物を植菌し(坂口フラスコ)、インキュベートした(25℃、120rpm)。OD660が0.4〜0.5(培養経過4時間程度)の時点で、終濃度が100μMになるようにIPTG(和光純薬社製)を添加し、インキュベートした(25℃、120rpm、培養開始から24時間)。リン酸緩衝液A(pH7.0)にて集洗菌した後、カテコール化合物の合成に使用するまで、−80℃にて凍結保存した。
(2)形質転換微生物を用いたカテコール化合物の合成
凍結菌体をリン酸緩衝液A(pH7.0)にて懸濁し、下記の反応液(3ml)を調製し、反応を開始した(30℃、300rpm、24時間)。2−フェニルエタノールは、和光純薬より購入した。なお、菌体濃度は以下のように調整した。すなわち、上述の方法により調製した微生物に上記のリン酸緩衝液Aを加えて微生物懸濁液を調製し、OD660を測定した。測定した微生物懸濁液のOD660から、OD660が10.0となる希釈倍率を求めた。反応溶液調製後の微生物懸濁液の希釈倍率が、こうして求めた希釈倍率となるよう、菌体量を調整した。以下の実施例においても同様である。
反応液をLC−MSおよびGC−MSにより分析した。TICクロマトグラムにおいて、基質を添加したときにのみ検出されるピークが保持時間13.7分に確認された。プロダクトイオンより、当該ピークが2−(2,3−ジヒドロキシフェニル)エタノールであることを確認した。TICクロマトグラムと保持時間13.7分のピークについてのマススペクトルを、図1および2に示す。また、LC−MSおよびGC−MSの分析条件、およびMS分析結果のまとめを、以下に示す。
(LC−MSの分析条件)
MS: 3200QTRAP (AB Sciex)
移動層: A液 0.1% ギ酸
B液 アセトニトリル
カラム: カプセルパックAQ 粒子径3μm 内径2mm 長さ25cm
カラム温度: 40℃
検出波長: 254nm
流速: 0.2mL/min
分析時間: 15 min
MASSモード:Q1 posi
測定m/z: 100−250
(GC−MSの分析条件)
装置: GCMS−QP2010(株式会社島津製作所製)
カラム: DB−17HT(Agilent社製)
カラムオーブンプログラム:
気化室温度: 250℃
注入モード: スプリット
制御モード: 線速度
線速度: 38.1cm/sec
圧力: 77.0kPa
イオン源温度: 200℃
インターフェース温度:250℃
基質として用いた2−フェニルエタノール、および生成物であるカテコール化合物2−(2,3−ジヒドロキシフェニル)エタノールの構造を、以下に示す。
[実施例2: 2−フェノキシエタノールを基質とした反応]
(1)形質転換微生物の調製
形質転換大腸菌E.coli BL21(DE3)/(todA−D/pET21−b(+))を以下の手順でIPTG発現誘導培養した。
菌株を4mLの液体培地Aに植菌し(試験管)、インキュベートした(30℃、300rpm、一晩、前培養)。続いて、液体培地A(100ml)に初期OD660が0.05となるように前培養物を植菌し(坂口フラスコ)、インキュベートした(25℃、120rpm)。OD660が0.4〜0.5(培養経過4時間程度)の時点で、終濃度が10μMになるようにIPTG(和光純薬社製)を添加し、インキュベートした(25℃、120rpm、培養開始から24時間)。リン酸緩衝液B(pH7.0)にて集洗菌した後、カテコール化合物の合成に使用するまで、−80℃にて凍結保存した。
(2)形質転換微生物を用いたカテコール化合物の合成
凍結菌体をリン酸緩衝液B(pH7.0)にて懸濁し、下記の反応液(3ml)を調製し、反応を開始した(30℃、300rpm、2〜24時間)。2−フェノキシエタノールは、東京化成工業より購入した。
反応時間2時間の反応液をLC−MSおよびGC−MSにより分析した。TICクロマトグラムにおいて、基質を添加したときにのみ検出されるピークが保持時間13.9分に確認された。プロダクトイオンより、当該ピークが2−(2,3−ジヒドロキシフェノキシ)エタノールであることを確認した。また反応時間24時間の反応液をGCにより分析したところ、生成物の濃度は11.2mM(1.91g/L)、選択率96.6%であった。TICクロマトグラムと保持時間13.9分のピークについてのマススペクトルを、図3および4に示す。LC−MSおよびGC−MSの分析条件は上述のとおりである。GCの分析条件、およびMS分析結果のまとめを、以下に示す。
(GC分析条件)
装置: GC−2010(株式会社島津製作所製)
カラム: DB−17HT(Agilent社製)
カラムオーブンプログラム:
気化室温度: 250℃
注入モード: スプリット
スプリット比: 25
制御モード: 線速度
線速度: 45.1cm/sec
圧力: 90.7kPa
検出器温度(FID): 340℃。
基質として用いた2−フェノキシエタノール、および生成物であるカテコール化合物2−(2,3−ジヒドロキシフェノキシ)エタノールの構造を、以下に示す。
[実施例3: IPTG濃度を変更した場合]
(1)形質転換微生物の調製
形質転換大腸菌E.coli BL21(DE3)/(todA−D/pET21−b(+))を以下の手順でIPTG発現誘導培養した。
菌株を4mLの液体培地Aに植菌し(試験管)、インキュベートした(30℃、300rpm、一晩、前培養)。続いて、液体培地A(100ml)に初期OD660が0.05となるように前培養物を植菌し(坂口フラスコ)、インキュベートした(25℃、120rpm)。OD660が0.4〜0.5になった時点で、終濃度が10〜500μMになるようにIPTG(和光純薬社製)を添加し、インキュベートした(25℃、120rpm、培養開始から24時間)。リン酸緩衝液B(pH7.0)にて集洗菌した後、カテコール化合物の合成に使用するまで、−80℃にて凍結保存した。
(2)形質転換微生物を用いたカテコール化合物の合成
凍結菌体をリン酸緩衝液B(pH7.0)にて懸濁し、下記の反応液(3ml)を調製し、反応を開始した(30℃、300rpm、2〜3時間)。
反応液をLC−MSにより分析し、UVのピークよりカテコール化合物を定量した。その結果、下表に示すように、IPTG濃度が5〜100μMの場合、特に5〜30μMの場合、反応速度(カテコール化合物の生成速度)が高く、カテコール化合物(2−(2,3−ジヒドロキシフェニル)エタノール)が効率的に生成されていた。カテコール化合物の生成速度は、IPTG濃度が10μMとした際に、最も速かった。下表中、「初期PEA」は反応液開始時の2−フェニルエタノールの反応液中の濃度を、「Conc.」は反応後の2−(2,3−ジヒドロキシフェニル)エタノールの反応液中の濃度を指す。LC−MSの分析条件は、上記と同様である。
[実施例4: 溶存酸素濃度を変更した場合]
(1)形質転換微生物の調製
坂口フラスコ培養時には、多量の気泡が発生するため、ベンチレーションが悪化し、培養液中の溶存酸素濃度が低下する。しかしながら、坂口フラスコ培養では溶存酸素濃度を調節できないため、溶存酸素濃度が微生物に与える影響を評価できない。溶存酸素濃度が微生物に与える影響を評価し、さらに、スケールアップのため、ジャーファーメンターにて形質転換大腸菌E.coli BL21(DE3)/(todA−D/pET21−b(+))を以下の手順でIPTG発現誘導培養した。
試験管に液体培地Aを4mL入れたものを2本用意し、そこに菌株を植菌し(試験管)、インキュベートした(30℃、300rpm、一晩、前培養)。続いて、初期OD660が0.05となるよう、2Lジャーファーメンター(ABLE社製)内の液体培地B(1L)に前培養物を植菌した。pH調整下(pHの下限が6.0となるように、2N NaOHを随時添加)、表20のいずれかの通気ガスを通気量1L/分で通気し、インキュベートした(25℃、725rpm)。
通気ガス組成を以下の表に示す。なお、下記表中、ガス組成比は体積比である。
培養開始から4.5時間後に、終濃度が10μMになるようにIPTG(和光純薬社製)を添加し、温度25℃、攪拌数725rpmで24時間培養した。
上記の通気ガスを用いて培養した場合の、培養液のpH、溶存酸素濃度(DO)およびOD660の値を図5〜7に示す(図中、「ppm」は「mg/L」と同義で用いられる。)。
培養後の微生物をリン酸緩衝液B(pH7.0)にて集洗菌した後、使用するまで、−80℃にて凍結保存した。
(2)形質転換微生物を用いたカテコール化合物の合成
凍結菌体をリン酸緩衝液B(pH7.0)にて懸濁し、下記の反応液を調製し、反応を開始した(30℃、300rpm、4時間)。
反応開始から2時間(表22)または4時間(表23)の時点で、反応液をLC−MSにより分析し、UVのピークよりカテコール化合物を定量した。その結果、下表に示すように、空気のみや空気:N2=1:1のガスを通気した場合に比べて、空気:N2が1:3、1:4または1:9のガスを通気した場合の方が、生成物であるカテコール類化合物(2−(2,3−ジヒドロキシフェニル)エタノール)の生成量が多かった。下表中、「開始時酸素濃度」は反応開始時の反応液の溶存酸素濃度を(表中、「ppm」は「mg/L」と同義で用いられる。)、「初期溶存酸素濃度」はIPTG添加直後(5分以内)の反応液の溶存酸素濃度を、「初期PEA」は反応液開始時の2−フェニルエタノールの反応液中の濃度を、「Conc.」は反応後の2−(2,3−ジヒドロキシフェニル)エタノールの反応液中の濃度を指す。LC−MSの分析条件は、上記と同様である。いずれの試験区においても、反応期間を通じて、初期酸素濃度よりも溶存酸素濃度が高くなることは無かった。
[実施例5: 基質を逐次添加した場合]
(1)形質転換微生物の調製
形質転換大腸菌E.coli BL21(DE3)/(todA−D/pET21−b(+))を以下の手順でIPTG発現誘導培養した。
菌株を4mLの液体培地Aに植菌し(試験管)、インキュベートした(30℃、300rpm、一晩、前培養)。続いて、初期OD660が0.05となるよう、2Lジャーファーメンター(ABLE社製)内の液体培地B(1L)に前培養物を植菌した。pH調整下(pHの下限が6.0となるように、2N NaOHを随時添加)、空気:N2が1:4である通気ガスを通気量1L/分で通気し、インキュベートした(25℃、725rpm)。
培養開始から4.5時間後(OD660=0.59)、終濃度が10μMになるようにIPTG(和光純薬社製)を添加し、温度25℃、攪拌数725rpmで24時間培養した。培養後の微生物をリン酸緩衝液B(pH7.0)にて集洗菌した後、使用するまで、−80℃にて凍結保存した。
(2)形質転換微生物を用いた2−(2,3−ジヒドロキシフェニル)エタノールの合成
凍結菌体をリン酸緩衝液B(pH7.0)にて懸濁し、OD660=70とした微生物懸濁液を調製した。600mLのリン酸緩衝液B、100mLの20%(w/v)グルコース水溶液、90mLの微生物懸濁液(OD660=70)、500μLのアデカノール(登録商標)LG−109(アデカ社製)、および2.5gの2−フェニルエタノールを2Lジャーファーメンター(ABLE社製)に添加し、インキュベートした(25℃、7時間、500rpm、空気 1vvm)。
続いて、凍結菌体をリン酸緩衝液B(pH7.0)にて懸濁し、OD660=75とした微生物懸濁液を調製した。85mLの微生物懸濁液(OD660=75)、および2.5gの2−フェニルエタノールを上記の2Lジャーファーメンター(ABLE社製)に追加添加し、インキュベートした(25℃、14時間、500rpm、空気 1vvm)。得られた反応液(880.5mL)をGCにより分析したところ、2−フェニルエタノールは検出されず、2−(2,3−ジヒドロキシフェニル)エタノールが46.5mM(7.2g/L)、選択率97.0%で生成していることを確認した。
(3)形質転換微生物を用いた2−(2,3−ジヒドロキシフェノキシ)エタノールの合成
凍結菌体をリン酸緩衝液B(pH7.0)にて懸濁し、OD660=124とした微生物懸濁液を調製した。660mLのリン酸緩衝液B、40mLの50%(w/v)グルコース水溶液、200mLの微生物懸濁液(OD660=124)、1mLのアデカノール(登録商標)LG−109(アデカ社製)、および2.2g(2mL)の2−フェノキシエタノールを2Lジャーファーメンター(ABLE社製)に添加し、インキュベートした(25℃、4時間、500rpm、空気 1vvm)。
続いて、200mLの微生物懸濁液(OD660=124)、および2.2g(2mL)の2−フェニルエタノールを上記の2Lジャーファーメンター(ABLE社製)に追加添加し、インキュベートした(25℃、18時間、500rpm、空気 1vvm)。得られた反応液(1105mL)をGCにより分析したところ、2−フェニルエタノールは4.2mM、2−(2,3−ジヒドロキシフェノキシ)エタノールが24.3mM(3.8g/L)、選択率98.2%で生成していることを確認した。
[比較例1: シュードモナス・プチダF1株(ATCC700007)を用いた反応]
(1)微生物の調製
シュードモナス・プチダF1株(ATCC700007)を以下の手順でIPTG発現誘導培養した。
菌株を4mLのLB培地に植菌し(試験管)、インキュベートした(30℃、300rpm、一晩、前培養)。続いて、0.1% トルエン添加LB培地(100mL)に初期OD660が0.05となるように前培養物を植菌し(坂口フラスコ)、インキュベートした(30℃、120rpm、培養開始から24時間)。リン酸緩衝液A(pH7.0)にて集洗菌した後、使用するまで、−80℃にて凍結保存した。
(2)微生物を用いたカテコール化合物の合成
凍結菌体をリン酸緩衝液A(pH7.0)にて懸濁し、下記の反応液を調製し、反応を実施した(30℃、300rpm、24時間)。
反応液をLC−MSにより分析した。その結果、2−フェニルエタノールの転化率は25.1%であったが、カテコール化合物である2−(2,3−ジヒドロキシフェニル)エタノールは確認できなかった。この場合、「転化率」とは、以下の数式2で表わされる値である。
確認できた主な生成物はフェニル酢酸であった(0.77mM、選択率62.1%)。これは、アルコールデヒドロゲナーゼによって2−フェニルエタノールが酸化され、生じたアルデヒドがアルデヒドデヒドロゲナーゼによって酸化されたためであると推定される。上記推定は本発明の技術的範囲を制限するものではない。
[比較例2: E.coli BL21(DE3)/pET21−b(+)を用いた反応]
(1)形質転換微生物の調製
E.coli BL21(DE3)/pET21−b(+)を以下の手順でIPTG発現誘導培養した。
4mLのLB培地(100mg/Lアンピシリン添加)に菌株を植菌し(試験管)、インキュベートした(30℃、300rpm、一晩、前培養)。続いて、液体培地A(100mL)に初期OD660が0.05となるように前培養物を植菌し(坂口フラスコ)、インキュベートした(25℃、120rpm)。OD660が0.4〜0.6になった時点で、終濃度が10μMになるようにIPTG(和光純薬社製)を添加し、インキュベートした(25℃、120rpm、培養開始24時間)。リン酸緩衝液A(pH7.0)にて集洗菌した後、使用するまで、−80℃にて凍結保存した。
(2)形質転換微生物を用いたカテコール化合物の合成
凍結菌体をリン酸緩衝液A(pH7.0)にて懸濁し、下記の反応液を調製し、反応を開始した(30℃、300rpm)。
反応液をLC−MSにより分析した。その結果を表26に示す。反応開始24時間での2−フェニルエタノールの転化率は5.4%であったが、カテコール化合物である2−(2,3−ジヒドロキシフェニル)エタノールは確認できなかった。
[実施例6: カセット(1)のコピー数と、カセット(2)のコピー数との比]
(1)形質転換微生物の作製
上記の手法に準じて、下表の組み合わせで宿主に対して組換えベクターをヒートショック法またはエレクトロポレーション法にて導入して、カセット(1)のコピー数とカセット(2)のコピー数との比を変更した各形質転換微生物(IPTG誘導性プロモーター(1)およびIPTG誘導性プロモーター(2)が、ともにT7プロモーター)を作製した。各形質転換株に導入した組換えプラスミド中のカセットを、図9に模式的に示す。得られた形質転換大腸菌のグリセロールストックを調製し、後述の形質転換微生物の調製まで、−80℃で保管した。
上記のうち、株No.3(tod2+todD株)は、株No.2(tod2株)に対して組換えプラスミドtodD/pCDFを導入して作製した。すなわち、tod2株を4mlのLB培地(100mg/Lのアンピシリン、1質量%のグルコースを含む)に植菌し、30℃で一晩、300rpmで撹拌しながら前培養した。前培養液のOD660を測定したところ9.05であった。次に、OD660が0.05となるように、前培養液を100mlのLB培地(100mg/Lのアンピシリン、1質量%のグルコースを含む)に植菌し、30℃で4.5時間、120rpmで撹拌しながら培養した。培養後、遠心分離(7000rpm、10分間、4℃)を行い、沈殿(菌体)を回収した。菌体に5mlの10重量%グリセロール水溶液を加えて懸濁し、遠心分離(7000rpm、10分間、4℃)を行い、沈殿(菌体)を回収した(洗浄工程)。洗浄工程を計4回繰り返した後、菌体を2mlの10質量%グリセロール水溶液で懸濁した。懸濁液を用い、エレクトロポレーション法にて組換えプラスミド(todD/pCDF)を上記表中の株No.2(tod2株)に導入した。todD/pCDFの導入処理をしたtod2株を、LB培地(100mg/Lのアンピシリン、20mg/Lのストレプトマイシン、1質量%のグルコースを含む)に植菌し、抗生物質耐性により形質転換株を選別して株No.3(tod2+todD株)を得た。
各組換えプラスミドの作製に用いたDNA断片を下表に示す。
上記の各DNA断片の合成に用いたプライマーおよびテンプレートを、下表に示す。
なお、E.coli BL21(DE3)はタカラバイオ社より購入した。また、pET21−b(Novagen社製、アンピシリン耐性遺伝子をコードする配列を有する。)、およびpCDF Duet−1(Novagen社製、ストレプトマイシン(Sm)耐性遺伝子をコードする配列を有する。)はT7プロモーター配列を有する。
(2)形質転換微生物の調製
上記のtod1株、tod2株、tod2+todD株、todD_tod1株、およびtod2_todD株を用いて、実施例4における条件4(空気:N2=1:4、通気量1L/分、培養開始から4.5時間後に終濃度が10μMになるようにIPTGを添加)に準じて形質転換微生物の調製を行った。なお、pHの下限が6.5となるように、2N NaOHを随時添加して培養した。
tod1株、tod2株、tod2+todD株、todD_tod1株、およびtod2_todD株を培養した際の、培養液の溶存酸素濃度(DO)を図10に示す。
(3)形質転換微生物を用いたカテコール化合物の合成
反応開始時の菌体OD660を2.5に変更した以外は実施例4と同様の方法により、2−フェニルエタノール(PEA)を原料として2−(2,3−ジヒドロキシフェニル)エタノール(3−(ヒドロキシエチル)カテコール、HEC)を合成した。
反応開始から2時間後、および4時間後における反応液中の2−フェニルエタノール(PEA)および2−(2,3−ジヒドロキシフェニル)エタノール(HEC)量を、上記手法により測定した。また、2−フェニルエタノール(PEA)および2−(2,3−ジヒドロキシフェニル)エタノール(HEC)量から、カテコール化合物の選択率および反応速度を求めた。結果を図11〜13、および下表に示す。下表において、実施例4と比較して反応速度がやや低下しているが、これは、反応に用いた菌体量が実施例4よりも少ないためである。
図11に示す2−フェニルエタノール(PEA)消費量は、反応式(1)における前半の反応速度に対応する。また、図12に示す2−(2,3−ジヒドロキシフェニル)エタノール(HEC)生成量は、反応式(1)における後半の反応速度に対応する。図12、図13、および上表より、カセット(1)とカセット(2)とのコピー数の比を1:1〜5:1とすることにより、反応式(1)における後半の反応が促進され、カテコール化合物の生成速度が向上し、選択率も向上していることが分かる。図11より、カセット(1)とカセット(2)とを同一のベクターにタンデムに組込んだ場合(todD_tod1株、tod2_todD株)、カセット(1)とカセット(2)とを別々のベクターに組込んだ場合(tod2+todD株)と比べて、反応式(1)における前半の反応が促進されることが分かる。
[実施例7: プロモーターの種類]
(1)形質転換微生物の作製
上記の手法に準じて、T7プロモーターに代えて、tacプロモーターの下流に作動的に芳香環ジオキシゲナーゼ遺伝子群および芳香環ジヒドロジオールデヒドロゲナーゼ遺伝子を連結したカセット(1)を含む発現ベクターを導入した形質転換微生物(tacP−tod1株)を作製した。得られた形質転換大腸菌のグリセロールストックを調製し、後述の形質転換微生物の調製まで、−80℃で保管した。
組換えプラスミドの作製に用いたDNA断片を下表に示す。
上記の各DNA断片の合成に用いたプライマーおよびテンプレートを、下表に示す。
なお、E.coli JM109はタカラバイオ社より購入した。また、pUC18(Clontech社製、アンピシリン耐性遺伝子をコードする配列を有する。)が有するプロモーターはlacプロモーターであるため、tacプロモーター配列を含むプライマーを用いて増幅したTacP/pUC18断片を用いて発現ベクターの構築を行った。なお、宿主としてJM109を用いた場合は、In−Fusion PCRクローニングキット(Takara社)のプロトコールに従ってクローニング後、クローニングの宿主としてE.coli JM109を用いた。
(2)形質転換微生物の調製
tacP−tod1株を用いて、実施例3の条件(坂口フラスコ、OD660が0.4〜0.5になった時点で終濃度が10〜500μMになるようにIPTGを添加)に準じて形質転換微生物の調製を行った。
(3)形質転換微生物を用いたカテコール化合物の合成
実施例3の方法に準じて、反応開始時の菌体OD660を2.5とし、2−フェニルエタノール(PEA)を原料として2−(2,3−ジヒドロキシフェニル)エタノール(HEC)を合成した。
上記表に示す通り、IPTG濃度が5〜100μMの場合、特に15〜100μMの場合、反応速度(カテコール化合物の生成速度)が高く、カテコール化合物(2−(2,3−ジヒドロキシフェニル)エタノール)が効率的に生成されていた。
[組成物]
(組成物(1))
上記実施例5において2−(2,3−ジヒドロキシフェニル)エタノールを合成した反応液から、以下の手順により2−(2,3−ジヒドロキシフェニル)エタノール(本発明に係るカテコール化合物、3−(ヒドロキシエチル)カテコール、HEC)および2−(2−ヒドロキシフェニル)エタノール(本発明に係る一水酸化物)を含む組成物(1)を得た。
すなわち、1Lの反応液を遠心分離(5,000×g、30min、4℃)し、上清を回収し、塩酸により、pHを3に調整した。その後、pHを調整した上清をさらに遠心分離(5,000×g、30min、4℃)し、再度上清を回収し、100gの無水硫酸ナトリウムを添加した。その後、1Lの酢酸エチルにより抽出作業を2回行った。酢酸エチル相を無水硫酸ナトリウムにより脱水し、ろ紙(桐山製作所、No.4)にて溶液をろ過した。ろ液をロータリーエバポレーターにより濃縮し、濃縮物を得た。
次に、濃縮物に対し、シリカゲル60(Merck社製)を、シリカゲル表面が乾燥するまで添加し、シリカゲル60を充填したカラムにロードした。カラムに溶離液(酢酸エチル:トルエン:酢酸=1:8:1(v:v:v))を通液し、50mlずつ分取した。サンプルの一部をTLC(酸化アルミニウム150F254中性(タイプT))により展開し、HEC以外にスポットが見られない画分をろ紙(桐山製作所、No.4)にてろ過し、ろ液を濃縮乾固し、組成物(1)を得た。
組成物(1)は、100モルの2−(2,3−ジヒドロキシフェニル)エタノールに対し、0.13モルの2−(2−ヒドロキシフェニル)エタノールを含む。なお、2−(2,3−ジヒドロキシフェニル)エタノールおよび2−(2−ヒドロキシフェニル)エタノールの含有量は、下記条件のガスクロマトグラフィー分析により確認した。
(GC分析条件)
装置: GC−2010(株式会社島津製作所製)
カラム: DB−17HT(Agilent社製)
カラムオーブンプログラム:
気化室温度: 250℃
注入モード: スプリット
スプリット比: 25
制御モード: 線速度
線速度: 45.1cm/sec
圧力: 90.7kPa
検出器温度(FID): 340℃(内部標準物質:5mM 1−オクタノール)。
(組成物(2))
上記実施例5において2−(2,3−ジヒドロキシフェノキシ)エタノールを合成した反応液から、組成物(1)と同様の方法により、2−(2,3−ジヒドロキシフェノキシ)エタノール(本発明に係るカテコール化合物、3−(ヒドロキシエトキシ)カテコール、HEOC)および2−(2−ヒドロキシフェノキシ)エタノール(本発明に係る一水酸化物)を含む組成物(2)を得た。
組成物(2)は、100モルの2−(2,3−ジヒドロキシフェノキシ)エタノールに対し、0.78モルの2−(2−ヒドロキシフェノキシ)エタノールを含む。なお、2−(2,3−ジヒドロキシフェノキシ)エタノールおよび2−(2−ヒドロキシフェノキシ)エタノールの含有量は、組成物(1)と同様の方法により確認した。
図13に示す通り、カセット(1)とカセット(2)とのコピー数の比を任意に設定することにより、カテコール化合物の選択率を調節することができる。合成に用いた芳香族化合物原料のモル数をM1とし、ある反応時間の時点において残存している芳香族化合物原料のモル数をM2、反応式(1)の前半の反応により生成したジヒドロジオール誘導体のモル数をM3、生成したカテコール化合物のモル数をM4とすると、以下の数式3の関係が成立する。なお、任意の反応時間におけるM2、およびM4は、上記のLC−MS、GC−MSおよびガスクロマトグラフィーによる測定方法を任意に組み合せて測定することができる。
反応式(1)の前半の反応により生成したジヒドロジオール誘導体は、酸性条件下で容易に脱水して一水酸化物が生成する(例えば、J Ind Microbiol Biotechnol (2005) 32: 542−547)。従って、上記のM3を任意に設定することで、組成物に含まれる一水酸化物の量を調整することができる。
(安定性評価)
シリカゲル60を充填したカラムを用い、上記の組成物(2)をさらに2回カラム精製することで、HEOCを単離した(HEOC高純度品)。単離したHEOCでは、組成物(1)の欄で記載したGC分析においてHEOC以外のピークが検出されないことを確認した。このHEOC高純度品に、2−(2−ヒドロキシフェノキシ)エタノール(Ardrich社製)を添加することで、下表に示す組成物を調製した。
調製した組成物を空気下で60℃にて4日間保持し、目視によりこの組成物の着色の度合いを観察した。また、HEOCと一水酸化物との合計量が10mg/mLとなるようにエタノールにて組成物を希釈し、UV−VIS検出器(SPD−20A、株式会社島津製作所製)にて、UV−VISスペクトルを測定した。保存前後でのエタノール溶液のUV−VISスペクトルを、図14および15に示す。図14および15中、「0モル」、「0.01モル」、「0.05モル」および「1モル」は、それぞれの組成物において、100モルのHEOCに対する一水酸化物の量(モル)を意味する。
保存試験の結果、一水酸化物を含まないHEOC高純度品と比較して、一水酸化物を含む組成物の方が、目視での観察で着色が薄かった。また、UV−VISスペクトルについては、試験に供した全ての組成物において、60℃で4日間保持した後は0日目でのスペクトルと比較して広い範囲にわたって吸光度が増加しているが、一水酸化物の添加によって吸光度の上昇が抑えられていることが分かる。UV−VISスペクトルのうち、褐変の指標として用いられるOD440については、100モルのHEOCに対して0.01モルの一水酸化物を含む組成物では50.1%の増加抑制率であった。なお、下表において、「OD440増加量」は、4日目のOD660の値から0日目のOD440を引くことによって求められる。
(美白剤)
B16メラノーマ細胞を用いて、上記組成物(1)および組成物(2)のメラニン合成阻害活性を評価した。具体的には、細胞数が1×104細胞/ウェルとなるようにB16メラノーマ細胞(DSファーマメディカル社より購入)を6ウェルプレートに播種し、4mlのD−MEM培地(DSファーマメディカル社より購入、2mMグルタミン(和光純薬工業社製)、10%(w/v)ウシ胎児血清(AusGeneX社製)、および抗生物質(Penicillin G 100units/ml、Streptomycin Sulfate 100μg/ml(いずれも和光純薬工業社製))を含む)中で、37℃の5%CO2インキュベーター内にて24時間培養した。
次いで、本発明に係るカテコール化合物の終濃度が0.2mMとなるように組成物(1)または組成物(2)を培地に加えて48時間培養した。その後、同じ濃度のカテコール化合物を含む培地に培地交換し、24時間培養した。なお、メラニン合成阻害活性が知られている比較対象として、ヒドロキシチロソール(2−(3,4−ジヒドロキシフェニル)エタノール、東京化成工業、HT)およびコウジ酸(東京化成工業)を用いた(終濃度0.2mM)。
次いで、細胞をPBS(−)にて洗浄し、0.25%(w/v)トリプシン/EDTA溶液2mlで細胞をプレートから剥がし、1mlの培地で細胞を回収した。細胞懸濁液を遠心分離(1,000×g、3min、4℃)して上清を廃棄した後、沈殿に1mlのリン酸緩衝液を加えて懸濁した。懸濁液の細胞数を粒子計数分析装置 CDA−1000 (sysmex社製)にて測定した。細胞懸濁液に1mlの0.5N水酸化ナトリウム水溶液を加え、超音波破砕機により2分間処理し、細胞を破砕した。細胞溶解液中のタンパク質濃度をCoomassie Protein Assay Kit(Pierce社)により測定した。また、細胞溶解液の475nmの吸光度(UV−VIS検出器(SPD−20A、株式会社島津製作所製)を測定し、メラニン濃度を測定した。なお、メラニン濃度は、合成メラニン(Sigma社)により検量線を作成して定量した。タンパク質濃度あたりのメラニン濃度を算出し、各試験試料によるメラニン合成阻害活性を評価した。その結果を図16に示す。
図16に示すとおり、本発明に係る組成物は、高い美白効果を有することが分かる。
以下に、美白剤の製造例を示す。
(酸素吸収剤)
グリセリン(100重量部)、塩化マンガン4水和物(6重量部)、上記の組成物(1)または組成物(2)(0.05重量部)および純水(65重量部)の混合液を調製した。この混合液を水酸化カルシウム(500重量部)に含浸させ、酸素吸収剤を得た。上記の酸素吸収剤約200mgを内径24mm、長さ20cmの試験管(容積62mL)に入れ、Wキャップ(アズワン製)にて蓋をして密封した。これを25℃にて20または24時間保持した後、下記のGC分析法にて、試験管内の酸素濃度を測定した。なお、比較対象として、上記のカテコール化合物に代えて、0.05または0.6重量部の5−メチルレゾルシンを用いた試験区を設定した。
その結果、組成物(1)を含む酸素吸収剤は、重量あたりの酸素吸収速度が0.890mL−O2/(g・h)であった。組成物(2)を含む酸素吸収剤は、重量あたりの酸素吸収速度が0.708mL−O2/(g・h)であった。5−メチルレゾルシンを0.05重量部含む酸素吸収剤は、重量あたりの酸素吸収速度が0.291mL−O2/(g・h)であった。5−メチルレゾルシンを0.6重量部含む酸素吸収剤は、重量あたりの酸素吸収速度が0.753mL−O2/(g・h)であった。結果を下表、図17および図18に示す(下表、図17、および18における値はn=3の平均値である)。
上記のように、本発明に係る組成物を用いた酸素吸収剤は、高い酸素吸収性を示すことが分かる。5−メチルレゾルシンと比較した場合、本発明に係る組成物を用いた酸素吸収剤は、10分の1以下の少ない添加量でも同程度の酸素吸収性を示した。
(GC分析条件)
装置: GC−2014(株式会社島津製作所製)
カラム: Molecular Sieve 13X 6.0m3.00mmID(ジーエルサイエンス社製)
カラム温度: 60℃
検出器温度(TCD):140℃。
本出願は、2014年3月31日に出願された日本特許出願番号2014−074406号に基づいており、その開示内容は、参照され、全体として、組み入れられている。