JP6304594B2 - 芳香環含有化合物並びに癌の予防剤および/または治療剤 - Google Patents

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Description

本発明は、新規な芳香環含有化合物、並びに癌の予防剤および/または治療剤に関する。
癌は本邦の死亡原因の第一位であり、年間30万人以上が命を落としている。ゲノム・プロテオミクス研究の進展により、癌細胞のみに発現するタンパク質の存在が明らかとなった。例えば慢性骨髄性白血病(一部の急性白血病)のBcr/Ablや、一部の肺癌(非小細胞肺がんの4〜5%)に発現するEML4/ALKが見い出された。これらの融合遺伝子は染色体転座により腫瘍細胞にのみ発現するが、その融合タンパク質を阻害する化合物が癌の「特効薬」としてすでに臨床応用され、画期的な治療効果を発揮している。癌治療薬の理想は、癌細胞のみの増殖を阻害する一方で、健常細胞にはほとんど影響を及ぼさないことである。そのような理由から、癌細胞のみに発現するBcr/Ablを阻害するイマチニブ(商品名グリベック)や、癌細胞のみに発現するEML4/ALKを阻害するクリゾチニブ(商品名ザーコリ)は理想的な治療薬である。しかしながら、このような癌特異的な発現プロファイルを示す融合タンパク質は極少数であって一握りの癌にしか見出されておらず、標的タンパク質を有しないその他の多くの癌に対しては適応がない状況である。
一方、現在使用されている他の抗癌剤は副作用も多く、癌細胞に特異性が高いとは言えない。すなわち、より多くの癌に効果を示す抗癌剤を開発するためには、多くの癌に特異的に発現している融合タンパク質(または、癌細胞に特異的にみられるタンパク質相互作用)をさらに探し出す必要がある。
ここで、癌原遺伝子産物であるc-Mycタンパク質は、細胞の生命活動に極めて重要であり、細胞の増殖、分化、細胞死(アポトーシス)を制御する転写因子として知られている。このc-myc遺伝子(c-Mycタンパク質)の発現それ自体も、細胞周期や分化に伴い、多くの転写因子によって厳密に制御されている。一方、細胞内外からの刺激に素早く対応し恒常性を維持するために、c-myc遺伝子にはタンパク質合成を介しない、転写により発生する二本鎖DNAの物理的・力学的変化を感知する未知のメカニズムが存在し、それによって転写レベルが一定に維持されていると考えられる。これまでに、c-myc遺伝子の上流のどの部位がc-myc遺伝子の転写に影響を与えるか調べられ、c-myc遺伝子の転写開始部位の1.5kb上流のわずか百数十塩基の部位がc-myc遺伝子の転写に極めて重要であることが示され、FUSE(Far UpStream Element)と名付けられた。すなわち、転写の活性化によって発生する二本鎖DNAの物理的ひずみがプロモーターの上流にnegative supercoilingを生じさせ、これにより二本鎖DNAが一本鎖DNAにほどける部位があり、同部位がc-myc遺伝子の転写制御に極めて重要であることが報告されている。このFUSEに結合するタンパク質をオリゴヌクレオチドアフィニティクロマトグラフィによって同定したところ、70kDaの分子量を有するFBP(FUSE結合タンパク質;FUSE Binding Protein)であった。このFBPは強力な転写活性を有しており、このFBPに結合するタンパク質として、FIR(FBP Interacting Repressor)がYeast Two-Hybrid Systemにより同定された。このFIRは、TFIIH/p89/XPBのヘリカーゼ活性を抑制することによりc-myc遺伝子の転写を抑制すると考えられている。THIIHの変異はFIRによるc-myc遺伝子の転写調節に害を及ぼし、結果として腫瘍の成長をもたらすことも報告されている。
ところで、スプライシング因子3b(SF3b)は、スプライソソーム中のU2核内低分子リボ核タンパク質(snRNP)のsubcomplexであり、ほぼ等しい化学量(等モル比)のSAP130、SAP145、SAP155(別名SF3B1であり、以下単に「SF3B1」とも称する)、およびp14の4つのサブユニットから構成される(図13(「Kotake Y, Sagane K, Owa T, Mimori-Kiyosue Y, Shimizu H, Uesugi M, Ishihama Y, Iwata M, Mizui Y. Splicing factor SF3b as a target of the antitumor natural product pladienolide.Nat Chem Biol. 2007 Sep;3(9):570-5. Epub 2007 Jul 22.」より引用)を参照)。
p14サブユニットは、スプライソソーム内のpre-mRNAイントロンのBranch-point(分岐点)のアデノシンに結合しており、SF3B1を含むSF3bと安定的に相互作用している。これにより、SF3bはイントロン認識に必須のものとなっている。また、天然の化学物質の誘導体であるスプライソスタチンA(SSA)およびプラジェノライドがSF3bを阻害し、これにより抗癌作用を発揮することが報告されている。これらのことから、癌細胞において高発現しているSF3b(特にSF3B1)は腫瘍増殖に寄与しているものと考えられる。
本発明者らは、近年のオミックス技術を駆使して、ヒト臨床検体を用い、癌細胞で主に活性化している(強固な相互作用を示す)タンパク質相互作用を標的として癌治療薬剤の開発を行っている。ここで、本発明者らは以前に、c-myc遺伝子転写抑制因子FIRのスプライシングにSF3B1が必要であって、c-myc遺伝子の発現増大が認められる消化器(大腸)癌組織中では転写抑制部位を含むエキソン2を欠損したFIRスプライシングバリアント(FIRΔexon2)が癌特異的に発現増大していることを見出している(特許文献1、非特許文献1)。また、近年、ヒト臨床検体のゲノム・プロテオーム解析に基づく研究により、骨髄異形成症候群(MDS)や固形癌(乳癌、腎癌)においてSF3B1のゲノム変異が起こっていることが報告された(非特許文献2、非特許文献3)。さらに、本発明者らは、大腸癌ではFIR-SF3B1の相互作用により上記FIRスプライシングバリアント(FIRΔexon2)が誘導され、その結果c-Myc発現増大が惹き起こされることを報告し(非特許文献4)、この知見に基づいて、SF3B1阻害剤、FIR-SF3B1阻害剤またはFIRΔexon2-SF3B1阻害剤が癌の予防剤および/または治療剤として有用であることを提案している(特許文献2)。このように、癌ではFIR-SF3B1の強い相互作用により種々の遺伝子のスプライシングとc-myc転写抑制の両者が同時に阻害されていると考えられている(非特許文献5)。
国際公開第2007/086342号パンフレット 特開2013−184887号公報
Matsushita et al., Cancer Res 2006;66:1409-17 Yoshida et al., Nature 2011;478(7367):64-9 Papaemmanuil et al. N Engl J Med 2011;365(15):1384-95 Matsushita et al. Mol Can Res 2012;10(6):787-99 Matsushita et al. Mol Can Res 2013;11(7):689-98
上述したように、明らかに癌細胞にのみ発現しているタンパク質は、一部の白血病のBcr/Ablと一部肺癌のEML4/ALKの2つ(融合タンパク質)である。つまり、これらの融合タンパク質を発現していない癌はそれぞれの治療薬の対象にならない。そこで本発明は、多くの癌に対して、癌細胞特異的に治療効果を発揮できる癌の予防・治療手段を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意研究を行った。その結果、特定の構造を有する新規な芳香環含有化合物が癌細胞の増殖抑制作用を示すことを見出した。そして、上記芳香環含有化合物はSF3B1の有するタンパク質認識部位であるWD構造に類似していることから、上記芳香環含有化合物による癌細胞の増殖抑制作用はFIR-SF3B1の相互作用の阻害によるものである可能性が非常に高いとの推定に基づき、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明の一形態によれば、下記化学式1:
化学式1中、
mは、0または1であり、
およびAは、それぞれ独立して、下記化学式2または下記化学式3:
で表される基であり、
は、下記化学式4または下記化学式5:
化学式4中、Rは、置換またはは非置換の芳香環基である、
で表される基である、
で表される芳香環含有化合物が提供される。
本発明によれば、多くの癌に対して、癌細胞特異的に治療効果を発揮できる癌の予防・治療手段が提供される。
実施例において、Jurkat細胞を用いたMTSアッセイにより癌細胞の増殖抑制作用を評価した結果を示すグラフである。 Fbw7タンパク質の有するWD繰り返し領域の三次元モデルを示す図である。 Fbw7タンパク質によってユビキチン化されるタンパク質のC末端側のアミノ酸配列を示す図である。 X線結晶構造解析から導かれた、Fbw7タンパク質によってユビキチン化されるタンパク質におけるリン酸化されたペプチド(緑色)が3つのR(Arg)残基によって捕捉されている様子を示す図である。 X線結晶構造解析から導かれた、SPF45がSF3B1と相互作用している構造を示す図である。 図5をもう少し遠くから見た図である。 SF3B1のタンパク質認識部位の三次元構造を示す図である。 Fbw7のタンパク質認識部位の三次元構造を示す図である。 図7に示すSF3B1のWD構造(黄色)を抜き出したものを示す図である。 Fbw7タンパク質がT細胞性急性リンパ性白血病(T-ALL)の発症に関与するメカニズムを説明するための図である。 Fbw7の基質タンパク質を説明するための図である。 Fbw7タンパク質によるプロテオソーム系とオートファジー系のタンパク質分解のスイッチングにFIR-SF3B1(SAP155)の複合体形成が関与しているという本発明者らの仮説を説明するための図である。 スプライソソーム中のU2核内低分子リボ核タンパク質(snRNP)のsubcomplexであるスプライシング因子3b(SF3b)が、ほぼ等しい化学量(等モル比)のSAP130、SAP145、SAP155(SF3B1)、およびp14の4つのサブユニットから構成される様子を示した図である(「Kotake Y, Sagane K, Owa T, Mimori-Kiyosue Y, Shimizu H, Uesugi M, Ishihama Y, Iwata M, Mizui Y. Splicing factor SF3b as a target of the antitumor natural product pladienolide.Nat Chem Biol. 2007 Sep;3(9):570-5. Epub 2007 Jul 22.」より引用))。
本発明の一形態は、下記化学式1:
で表される芳香環含有化合物に関する。
化学式1において、AおよびAは、それぞれ独立して、下記化学式2または下記化学式3:
で表される基である。好ましい一実施形態において、Aは化学式2で表される基である。また、他の好ましい一実施形態において、Aは化学式3で表される基である。なかでも、Aは化学式2で表される基であることがより好ましい。
化学式1に示すように、ベンゼン環のAおよびAの結合位置に挟まれた炭素原子(AおよびAの双方に対するオルト位)には水素原子が結合している。一方、ベンゼン環を構成する炭素原子のうち、AおよびAの結合位置の炭素原子並びに上述した水素原子が結合した炭素原子以外の3つの炭素原子のいずれか1つにAが結合する。
そして、化学式1において、mは、0または1である。m=0であるとき、化学式1におけるベンゼン環へのAの結合位置は以下の3通り存在する。
また、m=0であるとき、化学式1におけるベンゼン環へのAの結合位置は、Aのパラ位であることが好ましい。
ここで、本発明において、m=0の場合よりもm=1の方が好ましいが、AおよびAの定義は等価であることから、m=1であるとき、化学式1におけるベンゼン環へのAの結合位置は以下の2通り存在する。
m=1であるとき、化学式1におけるベンゼン環へのAの結合位置は、A(またはA)のオルト位であることが好ましい。そして、上述したように、mが1であるとき、Aは、Aと同様に上記化学式2または上記化学式3で表される基である。mが1であるとき、好ましい一実施形態ではAは化学式2で表される基であり、他の好ましい一実施形態ではAは化学式3で表される基であり、なかでも、Aは化学式2で表される基であることがより好ましい。
化学式1において、Aは、下記化学式4または下記化学式5:
で表される基である。なかでも、Aは、上記化学式4で表される基であることが好ましい。化学式4から明らかなように、化学式4で表される基は二重結合を有しており、トランス型異性体である。
ここで、化学式4において、Rは、置換または非置換の芳香環基である。本発明において「芳香環基」とは、芳香族性を有する環状の基を意味し、単環でも縮合環でもよく、芳香族炭化水素環式基(アリール基)でも芳香族へテロ環式基(ヘテロアリール基)でもよく、またさらに置換基を有していてもよい。芳香環基を構成する芳香環としては、例えば、アリール基をもたらすものとしてベンゼン環、ナフタレン環等が挙げられ、ヘテロアリール基をもたらすものとしてフラン環、チオフェン環、ピロール環、イミダゾール環、トリアゾール環、テトラゾール環、チアゾール環、ピラゾール環、オキサゾール環、イソオキサゾール環、イソチアゾール環、フラザン環、チアジアゾール環、オキサジアゾール環、ピリジン環、ピラジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、トリアジン環、プリン環、プテリジン環、キノリン環、イソキノリン環、ナフチリジン環、キノキサリン環、シンノリン環、キナゾリン環、フタラジン環、イミダゾピリジン環、イミダゾチアゾール環、イミダゾオキサゾール環、ベンゾチアゾール環、ベンゾオキサゾール環、ベンゾイミダゾール環、インドール環、イソインドール環、インダゾール環、ピロロピリジン環、チエノピリジン環、フロピリジン環、ベンゾチアジアゾール環、ベンゾオキサジアゾール環、ピリドピリミジン環、ベンゾフラン環、ベンゾチオフェン環、ベンゾ[1,3]ジオキソール環、チエノフラン環等が挙げられるが、これらに限定されない。
アリール基の例としては、芳香環であるベンゼン環由来のフェニル基や芳香環であるナフタレン基由来の1−ナフチル基および2−ナフチル基等が挙げられる。また、ヘテロアリール基は1以上のヘテロ原子を含むヘテロ芳香族環基であり、ヘテロ原子の例としては、酸素、窒素および硫黄が挙げられる。ヘテロアリール基は、ヘテロ原子を含めて5〜14個、さらに好ましくは5または6個の環原子を有することが好ましい。ヘテロアリール基の具体例としては、フリル基、チエニル基、ピロリル基、イミダゾリル基、ピロリジル基、イソキサゾリル基、ピラジニル基、ピリミジニル基等が挙げられる。
上述したように、本発明におけるRとしての「芳香環基」は置換されていてもよく、芳香環基が「置換」されている場合の置換基としては、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子およびヨウ素原子);アミノ基;モノまたはジアルキルアミノ基(例えば、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基およびジブチルアミノ基);ニトロ基;シアノ基;アルキル基(例えば、C1−6アルキル基);C1−6アルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基);C3−8シクロアルキル基などが挙げられるがこれらに限定されない。ここで、C1−6アルキル基としては、メチル基、エチル基、1−プロピル基、2−プロピル基、2−メチル−1−プロピル基(sec−ブチル基)、2−メチル−2−プロピル基(tert−ブチル基)、1−ブチル基、2−ブチル基、1−ペンチル基、2−ペンチル基、3−ペンチル基、2−メチル−1−ブチル基、3−メチル−1−ブチル基、2−メチル−2−ブチル基、3−メチル−2−ブチル基、2,2−ジメチル−1−プロピル基、1−へキシル基、2−へキシル基、3−へキシル基、2−メチル−1−ペンチル基、3−メチル−1−ペンチル基、4−メ チル−1−ペンチル基、2−メチル−2−ペンチル基、3−メチル−2−ペンチル基、4−メチル−2−ペンチル基、2−メチル−3−ペンチル基、3−メチル−3−ペンチル基、2,3−ジメチル−1−ブチル基、3,3−ジメチル−1−ブチル基、2,2−ジメチル−1−ブチル基、2−エチル−1−ブチル基、3,3−ジメチル−2−ブチル基、2,3−ジメチル−2−ブチル基等が挙げられる。また、C3−8シクロアルキル基としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
本発明の好ましい一実施形態では、Aが上記化学式4で表される基である場合に、Rが置換または非置換のアリール基である。この際、Rはパラ位に置換基を有するp−置換フェニル基であることがより好ましく、前記置換基がフッ素原子またはtert−ブチル基であることがさらに好ましい。
本発明のさらに好ましい一実施形態では、化学式1で表される芳香環含有化合物は、下記化合物1〜5のいずれかである。なかでも、化合物2および化合物3が優れた細胞増殖抑制作用を示すという観点から好ましいものであり、化合物3が特に好ましいものである。
化学式1で表される芳香環含有化合物の合成方法について特に制限はなく、当業者であれば従来公知の知見を適宜参照することにより、いずれも合成が可能である。例えば、後述する実施例の欄に化合物1および化合物2の合成方法を記載したが、骨格中心のベンゼン環に対してA(および必要に応じてA)として化学式2で表される基(2−チオキソプロパノイル基)を導入するには、ベンゼン環にヒドロキシメチル基などの炭素含有基が結合した化合物の当該炭素含有基を酸化剤によって対応するアルデヒドへと酸化し、このアルデヒド基にロダニンを反応させた後、塩基を用いて加水分解することによって、上記所望の化学式2で表される基(2−チオキソプロパノイル基)を導入することができる。また、骨格中心のベンゼン環に対してA(および必要に応じてA)として化学式3で表される基(2−メルカプトプロペニル基)の導入された構造は、化学式2で表される基が結合した化学構造の共鳴構造体である。
また、骨格中心のベンゼン環に対してAとして化学式5で表されるアルデヒド基を導入するには上述したのと同様の方法が用いられ、Aとして化学式4で表される基を導入するには、骨格中心のベンゼン環を有する化合物にCH=CH−Rの化学構造を有するビニル化合物を反応させるという手法を採用することができる。これにより、通常はトランス型の構造を有する化学式4で表される基が骨格中心のベンゼン環に導入されうる。
本発明の他の形態によれば、上述した本発明の一形態に係る芳香環含有化合物の1種または2種以上を有効成分として含有する、癌の予防剤および/または治療剤が提供される。
ここで、本形態に係る癌の予防剤および/または治療剤が予防・治療の対象とする癌の種類について特に制限はなく、例えば、大腸癌、肝癌、下咽頭癌、食道癌、乳癌、肺癌、前立腺癌、胃癌、胆道癌、脾臓癌、腎癌、膀胱癌、子宮癌、卵巣癌、精巣癌、甲状腺癌、膵臓癌、脳腫瘍、造血器腫瘍(例えば、急性骨髄性白血病、急性前骨髄性白血病、急性リンパ性白血病、慢性骨髄性白血病、慢性リンパ性白血病等の白血病など)が挙げられる。なかでも、大腸癌、肝癌、下咽頭癌、食道癌などの消化器癌または造血器腫瘍が好ましく、大腸癌または白血病が特に好ましい。
さらに、本形態に係る癌の予防剤および/または治療剤は、上述した芳香環含有化合物に加えて、薬学的に許容される通常の担体、結合剤、賦形剤、希釈剤(例えば蒸留水)、pH緩衝剤(例えばリン酸緩衝生理食塩水)、崩壊剤、可溶化剤、溶解補助剤、等張剤等の各種調剤用配合剤成分を含有することができる。
また本形態に係る癌の予防剤および/または治療剤は、その使用形態に応じて経口的にまたは非経口的に投与されうる。経口的な投与としては、通常用いられる投与形態、例えば粉末、顆粒、錠剤、カプセル剤、液剤、懸濁液、油剤、乳化剤等の投与形態が採用されうる。また、非経口的な投与としては、通常用いられる投与形態、例えば上記の液剤、懸濁液等にしたものを直接損傷部位に投与する形態が採用されうる。
本形態に係る癌の予防剤および/または治療剤の投与量は、患者の体重、性別、疾患の進行の程度、投与の方法に応じて適宜選択されうる。
以下、実施例を用いて本発明を詳述するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
≪癌細胞の増殖抑制作用を有する化合物の設計≫
本発明者らによる予備研究から、下記の構造を有する天然物物質(化合物6)が、FIRΔexon2と相互作用すること、さらには癌細胞の増殖抑制作用を有することが判明している。
これを踏まえて、化合物データベースからのスクリーニングにより、上述した天然物物質と類似のファーマコフォアを有する合成化合物を探索した。探索の結果に基づいて、いくつかの化合物分子を購入して癌細胞の増殖抑制作用について評価したところ、下記の構造を有する化合物(化合物7)が癌細胞の増殖抑制作用を有することが判明した。
さらに、上記化合物に類似の構造を有する化合物をデータベースより探索して購入し、下記の構造を有する化合物(化合物8)も癌細胞の増殖抑制作用を有することを見出した。
上記化合物6がFIRΔexon2と相互作用すること、並びに、上記化合物7および上記化合物8がともに癌細胞の増殖抑制作用を有することから、これらの化合物による増殖抑制作用は、FIRΔexon2の機能を阻害することによるものと推察される。
上記の知見から、本発明者らは、FIRΔexon2の機能を阻害することによる癌細胞の増殖阻害作用の発現には、上記化合物7および上記化合物8のように、芳香環から離れた位置カルボキシ基が存在することが必須ではないかとの仮説を設定した。そして、以下に記載するように、当該仮説に基づいていくつかの化合物について癌細胞の増殖抑制作用をMTSアッセイにより調べた。
≪MTSアッセイによる癌細胞の増殖抑制作用の評価≫
(細胞の調製)
接着性細胞株であるHeLa細胞(ヒト子宮頸癌由来の細胞)については、化合物処理の前日に、平底96ウェルプレートのウェル(培地100μL)中、37℃/5%COの条件下で24時間、化合物処理の時点で40〜80%コンフルエントとなるように培養を行った。
一方、浮遊細胞株であるJurkat細胞(ヒト白血病由来の細胞)については、化合物処理の直前に、平底96ウェルプレートのウェル(培地100μL)中で0.9×10〜3.6×10細胞/ウェルとなるように培養を行った。
(化合物処理後の処理)
化合物処理の後に37℃にて24時間インキュベーションを行い、CellTiter 96(登録商標)Aqueous One Solution Reagent(Promega社製)を、製造者の指示書に従って各ウェルに添加した。この操作について概説すると、CellTiter 96(登録商標)Aqueous One Solution Reagentを加温し、各ウェルに20μL/ウェルの量で添加し、37℃にてさらに1時間インキュベーションを行った。次いで、10%SDS溶液を各ウェルに添加した(25μL/ウェル)。細胞の生育性については、550 Bio-Radプレートリーダーを用いた波長490nmでの吸光度を測定することにより評価した。すべての試料について2回ずつ実験を行い、吸光度の測定は3回ずつ行った(つまり、6回の測定の平均値を算出して比較した)。なお、すべての実験において、ネガティブコントロール(陰性対照)としてはジメチルスルホキシド(DMSO)を用い、ポジティブコントロール(陽性対照)としては3%過酸化水素水を用いた。
(Jurkat細胞を用いたMTSアッセイ)
本願発明の実施例に相当する以下の化合物1〜3について、Jurkat細胞を用いたMTSアッセイにより、細胞増殖抑制作用を評価した。なお、評価に用いる化合物試料としては、まずDMSOを溶媒とした10mM溶液を調製しておき、この10mM溶液を各ウェル(培地100μL)に対して1μLずつ(すなわち、100μMの濃度で)添加して、MTSアッセイに供した。吸光度の測定結果を図1に示す。
ここで、上記化合物1および上記化合物2の合成方法を以下に記載する。
≪化合物1≫
分子量:440.6
NMRデータ:1H-NMR(400MHz,DMSO-D6) 7.72(s,1H),7.74(s,1H),7.92(s,1H),7.97(dd,J=8.4Hz,1H)
(合成方法)
(4−ブロモ−1,3−フェニレン)ジメタノールの合成
アルゴン雰囲気・氷冷下にて、水素化ホウ素ナトリウム(2.70g,71.4mmol)のテトラヒドロフラン(20ml)溶液に、4−ブロモイソフタル酸(4.98g,20.3mmol)のテトラヒドロフラン(80ml)溶液を加え撹拌した。氷冷したままボロントリフルオリドジエチルエーテル錯体(7.6ml,60.9mmol)を1時間かけて加え、室温に戻し1時間撹拌した。反応溶液に1mol/lの水酸化ナトリウム水溶液(40ml)を加え、酢酸エチルで抽出した。水層を酢酸エチルでさらに2回抽出し、有機層を飽和食塩水で洗浄後、無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。減圧下で溶媒を留去し、残渣をカラムで精製して、(4−ブロモ−1,3−フェニレン)ジメタノール(3.52g,80%)を白色固体として得た。
4−ブロモイソフタルアルデヒドの合成
(4−ブロモ−1,3−フェニレン)ジメタノール(3.03g,16.2mmol)のテトラヒドロフラン(300ml)溶液に、二酸化マンガン(IV)(22.7g,261mmol)を加え60℃で2時間加熱した。その後セライト濾過を行い、減圧下で濾液から溶媒を除去した。4−ブロモイソフタルアルデヒド(1.69g,49%)が白色固体として得られた。
(E)−4−(4−(t−ブチル)スチリル)イソフタルアルデヒドの合成
4−ブロモイソフタルアルデヒド(0.49g,2.3mmol)に、酢酸パラジウム(II)(78mg,0.35mmol)、リン酸三カリウム(0.79g,3.7mmol)、4−t−ブチルスチレン(4.3ml,23.7mmol)、N,N−ジメチルホルムアミド(20ml)を順に加え、140℃で1時間加熱した。反応溶液に水を加え、吸引濾過し、濾液を酢酸エチルで抽出した。水層を酢酸エチルでさらに2回抽出し、有機層を1mol/lの塩酸、飽和食塩水で順に洗浄後、無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。減圧下で溶媒を留去し、残渣をカラム(ヘキサン:酢酸エチル=3:1)で精製して、(E)−4−(4−(t−ブチル)スチリル)イソフタルアルデヒド(0.25g,37%)を黄色油状物質として得た。
(5Z,5’Z)−5,5’−((4−((E)−4−(t−ブチル)スチリル)−1,3−フェニレン)ビス(メタニリリデン))ビス(2−チオキソチアゾリジン−4−オン)の合成
(E)−4−(4−(t−ブチル)スチリル)イソフタルアルデヒド(0.25g,0.86mmol)に、ロダニン(0.47g,3.5mmol)、酢酸ナトリウム三水和物(6.0g,44mmol)、酢酸(20ml)を加え、100℃で3時間加熱した。その後反応溶液を氷に入れ、氷が解け室温になったら吸引濾過した。残留物を水に溶かし吸引濾過した後、デシケーターで乾燥させた。(5Z,5’Z)−5,5’−((4−((E)−4−(t−ブチル)スチリル)−1,3−フェニレン)ビス(メタニリリデン))ビス(2−チオキソチアゾリジン−4−オン)がオレンジ色固体として得られた。
(E)−3,3’−(4−(4−(t−ブチル)スチリル)−1,3−フェニレン)ビス(2−チオキソプロパノン酸)の合成
(5Z,5’Z)−5,5’−((4−((E)−4−(t−ブチル)スチリル)−1,3−フェニレン)ビス(メタニリリデン))ビス(2−チオキソチアゾリジン−4−オン)に、1mol/lの水酸化ナトリウム水溶液(20ml)を加え60℃で10分加熱した。反応溶液に氷を加え、氷が溶けたら酢酸エチルで洗浄した。水層を酢酸エチルでさらに3回洗浄し、水層に2mol/lの塩酸(10ml)を加えて中和した。水層を酢酸エチルで3回抽出し、有機層を飽和食塩水で洗浄後、無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。減圧下で溶媒を留去して、(E)−3,3’−(4−(4−(t−ブチル)スチリル)−1,3−フェニレン)ビス(2−チオキソプロパノン酸)(0.14g)をオレンジ色固体として得た。
≪化合物2≫
分子量:440.6
NMRデータ:1H-NMR(400MHz,DMSO-D6) 7.38(dd,j=9.1Hz,2H),7.44(dd,j=8.2Hz,2H),7.53(s,1H),7.59(dd,j=8.3Hz,2H),7.73(s,2H),7.92(s,2H)
(合成方法)
(5−ブロモ−1,3−フェニレン)ジメタノールの合成
アルゴン雰囲気・氷冷下にて、水素化ホウ素ナトリウム(2.76g,73.0mmol)のテトラヒドロフラン(20ml)溶液に、5−ブロモイソフタル酸(5g,20.4mmol)のテトラヒドロフラン(80ml)溶液を加え撹拌した。氷冷したままボロントリフルオリドジエチルエーテル錯体(7.6ml,60.9mmol)を1時間かけて加え、室温に戻し1時間撹拌した。反応溶液に0.5mol/lの水酸化ナトリウム水溶液(40ml)を加え、酢酸エチルで抽出した。水層を酢酸エチルでさらに2回抽出し、有機層を飽和食塩水で洗浄後、無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。減圧下で溶媒を留去し、残渣をカラムで精製して、(5−ブロモ−1,3−フェニレン)ジメタノール(3.60g,81%)を白色固体として得た。
5−ブロモイソフタルアルデヒドの合成
(5−ブロモ−1,3−フェニレン)ジメタノール(3.60g,16.6mmol)のテトラヒドロフラン(250ml)溶液に、二酸化マンガン(IV)(35.5g,408mmol)を加え60℃で4時間加熱した。その後セライト濾過を行い、減圧下で濾液から溶媒を除去した。5−ブロモイソフタルアルデヒド(1.61g,46%)が白色固体として得られた。
(E)−5−(4−(t−ブチル)スチリル)イソフタルアルデヒドの合成
5−ブロモイソフタルアルデヒド(0.49g,2.3mmol)に、酢酸パラジウム(II)(82mg,0.37mmol)、リン酸三カリウム(0.78g,3.7mmol)、4−t−ブチルスチレン(4.3ml,23.7mmol)、N,N−ジメチルホルムアミド(20ml)を順に加え、140℃で1時間加熱した。反応溶液に水を加え、吸引濾過し、濾液を酢酸エチルで抽出した。水層を酢酸エチルでさらに2回抽出し、有機層を飽和食塩水で洗浄後、無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。減圧下で溶媒を留去し、残渣をカラム(ヘキサン:酢酸エチル=3:1)で精製して、(E)−5−(4−(t−ブチル)スチリル)イソフタルアルデヒド(0.37g,55%)を黄色固体として得た。
(5Z,5’Z)−5,5’−((5−((E)−4−(t−ブチル)スチリル)−1,3−フェニレン)ビス(メタニリリデン))ビス(2−チオキソチアゾリジン−4−オン)の合成
(E)−5−(4−(t−ブチル)スチリル)イソフタルアルデヒド(0.37g,1.3mmol)に、ロダニン(1.02g,7.7mmol)、酢酸ナトリウム三水和物(6.0g,44mmol)、酢酸(20ml)を加え、100℃で2時間加熱した。その後反応溶液を氷に入れ、氷が解け室温になったら吸引濾過した。残留物を水に溶かし吸引濾過した後、デシケーターで乾燥させた。(5Z,5’Z)−5,5’−((5−((E)−4−(t−ブチル)スチリル)−1,3−フェニレン)ビス(メタニリリデン))ビス(2−チオキソチアゾリジン−4−オン)がオレンジ色固体として得られた。
(E)−3,3’−(5−(4−(t−ブチル)スチリル)−1,3−フェニレン)ビス(2−チオキソプロパノン酸)の合成
(5Z,5’Z)−5,5’−((5−((E)−4−(t−ブチル)スチリル)−1,3−フェニレン)ビス(メタニリリデン))ビス(2−チオキソチアゾリジン−4−オン)に、1mol/lの水酸化ナトリウム水溶液(20ml)を加え60℃で10分加熱した。反応溶液に氷を加え、氷が溶けたら酢酸エチルで洗浄した。水層を酢酸エチルでさらに3回洗浄し、水層に2mol/lの塩酸(15ml)を加えて中和した。水層を酢酸エチルで3回抽出し、有機層を飽和食塩水で洗浄後、無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。減圧下で溶媒を留去して、(E)−3,3’−(5−(4−(t−ブチル)スチリル)−1,3−フェニレン)ビス(2−チオキソプロパノン酸)を山吹色固体として得た。
図1に示すように、上記化合物1〜3はいずれも、ブランクおよび陰性対照に対して有意に低い吸光度の測定値を示しており、高い細胞増殖抑制作用を有していることがわかる。なかでも、化合物3が特に優れた(陽性対照よりも高い)細胞増殖抑制作用を有することもわかる。なお、本発明者らは、下記の化合物4〜5も上記化合物1〜3と同様に有意な細胞増殖抑制作用を示すことを確認している。
上述したように、本発明者らは、上記化合物1〜5が癌細胞(ヒト白血病細胞)の増殖抑制作用を有することを確認した。一方、図1に示すように、下記の化合物9〜14については、癌細胞(ヒト白血病細胞)の増殖抑制作用はないか、あっても低いものであった。
また、以下の化合物群についても評価を行ったが、以下の化合物群についても、癌細胞(ヒト白血病細胞)の増殖抑制作用はないか、あっても低いものであった。
以上の結果から、癌細胞の増殖抑制作用の発現には、化合物の中心に位置するベンゼン環に対して、当該ベンゼン環とπ電子共鳴構造を取りうる基が結合していることが必要であることがわかる。また、ベンゼン環に対して1つまたは2つの2−チオキソプロパノイル基または2−メルカプトプロペノイル基が結合していることも必要であることがわかる。
≪MTSアッセイによる化合物3の癌細胞の増殖抑制作用におけるIC50の測定≫
上述したJurkat細胞を用いたMTSアッセイにおいて最も優れた細胞増殖抑制作用を示した化合物3について、癌細胞の増殖抑制作用におけるIC50を測定した。
具体的には、癌細胞として接着性細胞株であるHeLa細胞または浮遊細胞株であるJurkat細胞を用い、上記で調製した化合物3の10mM DMSO溶液をDMSOを用いて5mM、2.5mM、1.25mM、0.625mMおよび0.3125mMに希釈した希釈系列を調製した。そして、それぞれの希釈倍率の溶液を1μLずつ用いて上記と同様の手法によりMTSアッセイを行った(最終濃度は100μM、50μM、25μM、12.5μM、6.25μMおよび3.0625μMである)。そして、得られた吸光度の測定値をプロットしたグラフから、癌細胞の増殖を50%まで抑制する化合物3の濃度を、IC50として求めた。その結果、40%コンフルエントのHeLa細胞に対するIC50は45μMであり、3.6×10細胞/ウェルの細胞濃度のJurkat細胞に対するIC50は10.8μMであり、1.8×10細胞/ウェルの細胞濃度のJurkat細胞に対するIC50は9.5μMであった。このことから、本願発明に係る化合物(特に化合物3)は、HeLa細胞のような接着性細胞株よりも、Jurkat細胞のような浮遊細胞株に対して優れた細胞増殖抑制作用を示すことがわかる。
ここで、本発明者らは、ヒト白血病細胞においてFIRのスプライシング変異が生じてFIRΔexon2が発現していることを裏付けるデータを有している。
ところで、Fbw7((F-box and WD repeat domain-containing 7)タンパク質は、癌細胞において発現が著明に低下していることが知られているが、このFbw7タンパク質は、トリプトファン残基(W;Trp)とアスパラギン酸残基(D;Asp)の繰り返し領域を有している。図2にこの領域の三次元モデルを示すが、WおよびDの残基は黄色で示されている。これら黄色で示した6つのWD残基は、丸い分子構造を形成する役割を担っていると思われる。一方、図2の中央にもマジェンタで示されるWDが存在しており、これがFIRとの相互作用に関与しているものと本発明者らは推察している。
このFbw7タンパク質は、多くの重要なタンパク質のユビキチン化に関与するタンパク質である。Fbw7によって認識されるタンパク質は数多く存在するが、いずれも図3に示すようにタンパク質のC末端側に特定のアミノ酸配列(具体的には、--TP--S--または--TP--E--の配列)を有している。このアミノ酸配列におけるT(Thr)残基やS(Ser)残基などがリン酸化を受けると、Fbw7の丸い形の中央に位置する3つのR(Arg)残基(塩基性)がリン酸化された上記アミノ酸を静電相互作用によって捉えるのである。
図4は、X線結晶構造解析から導かれた、リン酸化されたペプチド(緑色)が3つのR(Arg)残基によって捕捉されている様子を示している。このとき、中央にマジェンタで示したW(Trp)残基およびD(Asp)残基はほとんど結合に関与していない。また、T(Thr)残基およびS(Ser)残基の双方がリン酸化を受けた場合は、一方のみがリン酸化を受けた場合と比較して結合親和性が高いことも報告されている。
ここで、スプライソソーム中のU2核内低分子リボ核タンパク質(snRNP)のsubcomplexであるスプライシング因子3b(SF3b)を構成するサブユニットSF3B1(SAP155)もまた、やはりWD繰り返し領域を有している。このSF3B1(SAP155)におけるWD繰り返し領域のアミノ酸配列は、Fbw7のWD繰り返し領域とは異なっている。ただし、スプライシングに関係するタンパク質でSF3B1と相互作用する分子としてSPF45(KDA-splicing factor, RNA-Binding Motif protein17)タンパク質が知られており、このSPF45がSF3B1と相互作用している構造がX線結晶構造解析により示されている(図5)。図5において、SPF45は緑で示されており、SF3B1のWD繰り返し領域のアミノ酸の一部が黄色で示されている。つまり、SF3B1の有するWD繰り返し領域は分子認識に深く関与していることがわかる。図6は、図5をもう少し遠くから見た図である。図6においても図5と同様に、SPF45は緑で示されており、SF3B1のWD繰り返し領域のアミノ酸の一部が黄色で示されている。
ここで、SPF45および野生型FIRのC末端側のアミノ酸配列を比較すると、以下のようになる。
このように、FIRはそのC末端側に、SPF45がSF3B1によって認識捕捉されるアミノ酸配列に極めて類似したアミノ酸配列を有していることがわかる。このことから、FIRもSF3B1によって認識捕捉されるのである。
一方、SF3B1のタンパク質認識部位の三次元構造を図7に示し、Fbw7のタンパク質認識部位の三次元構造を図8に示す。これらの対比から明らかなように、図7に示すSF3B1のWD構造(黄色)と図8に示すFbw7のWD構造(マジェンタ)とは、ほぼ同じ構造を有することがわかる。したがって、上述したようにFIRがSF3B1と相互作用するのであれば、FIRはFbw7とも相互作用するものと推察される(論文投稿予定)。
ここで、図7に示すSF3B1のWD構造(黄色)を抜き出したものを図9に示す。このSF3B1のWD構造は、上述した化合物7および化合物8の構造に類似している。このことから、本発明に係る芳香環含有化合物は、SF3B1のWD構造を模倣したものであることにより、癌細胞におけるFIR-SF3B1相互作用を阻害し、結果として癌細胞の増殖抑制作用を発現しているものと推察される。また、これと同時に、SF3B1をはじめとした各種タンパク質に存在するWD構造が、新規な癌治療の標的となりうる可能性も示唆される。
また、図10に示すように、Fbw7タンパク質は、T細胞性急性リンパ性白血病(T-ALL)の発症において極めて重要な働きを担っていると考えられている(例えば、Fbw7の機能低下によってc-MycやNotch1の発現が増大し、これにp53の機能喪失が重なるとT-ALLが発症すると考えられている)。なお、本発明者らは、FIRヘテロノックアウトマウスおよびp53ホモノックアウト(FIR+/-p53-/-)でT-ALLが高率に発症すること、並びにp53ホモノックアウトマウス(FIR+/+p53-/-)では胸腺リンパ腫は発生するがT-ALLの発症は少ないことを確認している(論文投稿予定)。
そして、近年では食道癌、胃癌、大腸癌をはじめとする固型癌でもFbw7タンパク質の発現が低下していることが報告されている。これは、Fbw7タンパク質がc-MycやcyclinE、mTORなどの細胞増殖に影響を与えるタンパク質をポリユビキチン化する酵素であることから、Fbw7の機能が喪失するとこれらのタンパク質はプロテアソーム系で分解されずに長く細胞内に止まることとなり、結果として癌化が促進されるものと考えられる。
また、図11に示すように、Fbw7の基質タンパク質には、癌化・増殖・細胞死に関連する重要なタンパク質が多く存在している。例えば、Fbw7はmTORの分解を促進する。ここで、mTORは癌細胞内の様々なシグナルにおける重要な機能が知られているが、近年ではオートファジーを誘導することが報告されている。上述したようにFbw7がmTORを分解すること、FIRがFbw7と相互作用する可能性があること、オートファジーの作用に重要なApg16L、Fbw7、SF3B1(SAP155)などが全てWD繰り返し配列を有するタンパク質であることなどから、本発明者らは、このFbw7によるプロテオソーム系とオートファジー系のタンパク質分解のスイッチにFIR-SF3B1(SAP155)の複合体形成が関与しているのではないかと考えている(図12)。
腫瘍では、FIRΔexon2などがFwb7タンパク質に結合することにより、リン酸化されたタンパク質ペプチドのFwb7への競合阻害が起こっている可能性がある。つまり細胞増殖に関わるいくつかの重要なタンパク質がユビキチン化によって排除されないために、これらのタンパク質が細胞内で過剰に存在する原因にもなっていると推察される。このことからすると、FIRΔexon2に結合してFwb7への相互作用を抑える物質は、Fwb7による細胞内のシグナルタンパク質量の制御機能を回復させる働きがあるものと期待される。
〔配列番号1〕
SPF45のC末端側のアミノ酸配列(第372〜384番目のアミノ酸)を表す。
〔配列番号2〕
野生型FIRのC末端側のアミノ酸配列(第505〜517番目のアミノ酸)を表す。
〔配列番号3〕
Cyclin E(T380)のC末端側のアミノ酸配列を表す。
〔配列番号4〕
Cyclin E(T62)のC末端側のアミノ酸配列を表す。
〔配列番号5〕
MYC(T58)のC末端側のアミノ酸配列を表す。
〔配列番号6〕
JUN(T239)のC末端側のアミノ酸配列を表す。
〔配列番号7〕
SREBP1(T456*)のC末端側のアミノ酸配列を表す。
〔配列番号8〕
SV40 large T antigen(T701)のC末端側のアミノ酸配列を表す。
〔配列番号9〕
Notch1(T2512*)のC末端側のアミノ酸配列を表す。
〔配列番号10〕
Presenilin1(T116)のC末端側のアミノ酸配列を表す。

Claims (13)

  1. 下記化学式1:
    化学式1中、
    mは、0または1であり、
    およびAは、それぞれ独立して、下記化学式2または下記化学式3:
    で表される基であり、
    は、下記化学式4または下記化学式5:
    化学式4中、Rは、置換または非置換の芳香環基である、
    で表される基である、
    で表される芳香環含有化合物。
  2. が前記化学式2で表される基である、請求項1に記載の芳香環含有化合物。
  3. が前記化学式3で表される基である、請求項1に記載の芳香環含有化合物。
  4. mが1である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の芳香環含有化合物。
  5. が前記化学式2で表される基である、請求項4に記載の芳香環含有化合物。
  6. が前記化学式4で表される基である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の芳香環含有化合物。
  7. Rが置換または非置換のアリール基である、請求項6に記載の芳香環含有化合物。
  8. Rがp−置換フェニル基である、請求項7に記載の芳香環含有化合物。
  9. 前記p−置換フェニル基のパラ位における置換基が、フッ素原子またはtert−ブチル基である、請求項8に記載の芳香環含有化合物。
  10. が前記化学式5で表される基である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の芳香環含有化合物。
  11. 下記化合物1〜5のいずれかである、芳香環含有化合物:
  12. 請求項1〜11のいずれか1項に記載の芳香環含有化合物の1種または2種以上を有効成分として含有する、癌の予防剤および/または治療剤。
  13. 前記癌が白血病である、請求項12に記載の予防剤および/または治療剤。
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