A.第1実施例:
A−1:複合機600の構成
次に、本発明の実施の形態を実施例に基づき説明する。図1は、本発明の一実施例としての複合機600のブロック図である。この複合機600は、制御装置100と、印刷実行部200と、スキャナ部400と、を含む。
制御装置100は、複合機600の動作を制御するコンピュータである。制御装置100は、CPU110と、DRAM等の揮発性メモリ120と、EEPROM等の不揮発性メモリ130と、タッチパネル等の操作部170と、液晶ディスプレイ等の表示部180と、外部装置との通信のためのインタフェースである通信部190と、を備える。通信部190は、例えば、いわゆるUSBインタフェース、または、IEEE802.3に準拠したインタフェースであってよい。
不揮発性メモリ130は、プログラム132と、誤差マトリクスを規定する誤差マトリクスデータ136と、後述する位置ずれ補正係数Pcを規定する補正係数データ138と、を格納している。CPU110は、プログラム132を実行することによって、印刷データ生成部M100の機能を含む種々の機能を実現する。印刷データ生成部M100は、印刷対象画像を表す画像データを利用して、印刷実行部200に印刷を実行させる。対象画像データは、例えば、外部装置(例えば、コンピュータまたはUSBフラッシュメモリ)から複合機600に供給された画像データである。
本実施例では、印刷データ生成部M100は、画像データ取得部M102と、多階調値補正部M104と、ハーフトーン処理部M106と、誤差マトリクス取得部M108と、を備える。さらに、印刷データ生成部M100は、評価画像データ生成部M110と、画質評価取得部M112と、印刷設定決定部M114と、を備えても良い。これらの各機能部が実行する処理については後述する。
スキャナ部400は、対象物(原稿)からの透過光または反射光を、光電変換素子(例えば、CCD(Charge Coupled Device))によって受光して、対象物を表す画像データ(スキャンデータ)を生成する。
印刷実行部200は、インクを印刷媒体に向かって吐出することによって、印刷媒体上にインクドットを形成する。印刷実行部200は、制御回路210と、印刷ヘッド250と、主走査部240と、副走査部260と、を備える。
図1に加えて、図2を参照しながら、印刷実行部200について、さらに説明する。図2は、複合機600の印刷実行部200の概略構成を示す図である。図2(A)は、印刷実行部200の全体構成の概略を示し、図2(B)は、印刷ヘッド250のノズル形成面の構成を示している。図2には、3つの方向Dx、Dy、Dzが示されている。2つの方向Dx、Dyは、それぞれ、水平な方向であり、Dz方向は、鉛直上方向である。Dy方向とDx方向は互いに直行する。以下、Dx方向を「+Dx方向」とも呼び、Dx方向の反対方向を「−Dx方向」とも呼ぶ。+Dy方向、−Dy方向、+Dz方向、−Dz方向についても、同様である。
副走査部260は、印刷媒体300(例えば、A3、A4サイズの用紙)を、−Dx方向に搬送する副走査を実行する。この結果、印刷媒体300に対して印刷ヘッド250は、+Dx方向に移動する(以下、+Dx方向を「副走査方向」とも呼ぶ)。
具体的には、副走査部260は、搬送モータ263と、第1ローラ261と、第2ローラ262と、プラテン265と、を含む。プラテン265は、印刷媒体300を、下面から水平に、支持する。2つのローラ261、262は、プラテン265の上面と対向する位置に、配置されている。第1ローラ261は、プラテン265の印刷ヘッド250から見て+Dx方向側の部分と対向し、第2ローラ262は、プラテン265の印刷ヘッド250から見て−Dx方向側の部分と対向する。各ローラ261、262は、Dy方向と平行なローラであり、搬送モータ263によって、回転駆動される。印刷媒体300は、ローラ261、262とプラテン265との間に挟持され、回転するローラ261、262によって−Dx方向に搬送される。
主走査部240は、印刷ヘッド250を、副走査方向と直交する方向(+Dy方向、または、−Dy方向)に往復移動させる主走査を実行する。以下では、+Dy方向および−Dy方向を「主走査方向」とも呼び、主走査方向のうち、+Dy方向を「往路方向」とも呼び、−Dy方向を「復路方向」とも呼ぶ。
具体的には、主走査部240は、移動モータ242と支持軸244とを含む。支持軸244は、第1ローラ261と第2ローラ262との間に配置され、主走査方向と平行に延びる。支持軸244は、印刷ヘッド250を、支持軸244に沿ってスライド可能に、支持する。移動モータ242は、図示しないベルトによって印刷ヘッド250に接続され、主走査の動力を供給する。
印刷ヘッド250は、印刷媒体300と対向する面に、複数のノズル列NC、NM、NY、NKを備えている(図2(B))。複数のノズル列NC、NM、NY、NKは、印刷に用いられる4色(シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロ(Y)、ブラック(K)の各インクを吐出する。各ノズル列は、同一色のインクを吐出して印刷媒体300上にドットを形成する複数(例えば、200個)のノズル250nをそれぞれ有している。各ノズル250nには、各ノズル250nを駆動してインクを吐出させるための駆動素子としてのピエゾ素子(図示せず)が設けられている。1つのノズル列に含まれる複数のノズル250nは、副走査方向にノズルピッチNで並んでいる。なお、複数のノズルは、図2(B)に示すように、直線状に並んでいる必要はなく、例えば、千鳥状に並んでいても良い。図の煩雑を避けるために、図3以降に図示する印刷ヘッド250の図には、1種類のインクを吐出する少数のノズル250n(例えば、4つ)を備えた簡略図を用いる。
制御回路210は、主走査部240を制御する主走査制御部212と、印刷ヘッド250を駆動してノズル250nからインクを吐出させるヘッド駆動部214と、副走査部260を制御する副走査制御部216と、を含む。制御回路210は、制御装置100からの供給される印刷データに従って主走査部240と、印刷ヘッド250と、副走査部260と、を制御して印刷を実行する。具体的には、制御回路210は、単位印刷と単位副走査とが交互に繰り替し実行して、画像の印刷を行う。単位印刷は、印刷媒体300が停止した状態で、主走査を行いつつ、印刷ヘッド250を駆動してインクを吐出することによって行われる印刷である。1回の単位印刷に対応する1回の主走査をパスとも呼ぶ。制御回路210は、上述した単位印刷として、往路方向の主走査(往路パスとも呼ぶ)を行いつつ印刷を行う往路印刷と、復路方向の主走査(復路パスとも呼ぶ)を行いつつ印刷を行う復路印刷とを実行することができる。単位副走査は、所定の単位送り量だけ副走査を実行することである。
図3は、印刷ヘッド250から吐出されたインクI1、I2の、シート上の着弾位置を説明する図である。第1インクI1は、往路パス中に印刷ヘッド250から吐出されるインクを示し、第2インクI2は、復路パス中に印刷ヘッド250から吐出されるインクを示す。
図3(A)は、第1インクI1と第2インクI2の両方が、印刷媒体300の狙い位置Py1に理想的に着弾する場合を示している。ここで、往路パスと復路パスの少なくとも一方で、インクの吐出タイミングが理想的なタイミングからずれると、第1インクI1の着弾位置(ドット形成位置)と第2インクI2の着弾位置が相対的にずれる。このように、往路パスで印刷されるドットD1と、復路パスで印刷されるドットD2との間で生じる位置ずれを、以下では双方向ずれと呼ぶ。
図3(B)は、図3(A)の場合と比較して、往路パスと復路パスとの両方でインクの吐出タイミングが遅れた場合を示している。この場合には、第1インクI1の着弾位置は、狙い位置Py1より往路方向にずれる。第2インクI2の着弾位置は、狙い位置Py1より復路方向にずれる。したがって、この例では、往路パスで印刷されるラスタライン(主走査ライン)である往路ラスタラインのドットD1(画素)から見て、復路パスで印刷されるラスタラインである復路ラスタラインのドットD2は、復路方向にずれる。そして、復路ラスタラインのドットD2から見て、往路ラスタラインのドットD1は、往路方向にずれる。以下では、この方向の双方向ずれを、正方向の双方向ずれと呼ぶ。
図3(B)の例とは、逆に、図3(A)の場合と比較して、往路パスと復路パスとの両方でインクの吐出タイミングが早い場合には、往路ラスタラインのドットD1から見て、復路ラスタラインのドットD2は、往路方向にずれる。そして、復路ラスタラインのドットD1から見て、往路ラスタラインのドットD2は、復路方向にずれる。以下では、この方向の双方向ずれを、負方向の双方向ずれと呼ぶ。
なお、図3中のギャップGPは、ノズル面npと印刷媒体300との間のギャップを示す。ここで、ノズル面npは、複数のノズル250nの位置を含む平面であり、移動するノズル250nが通過し得る位置を含む平面である。ギャップGPは、ノズル面npと印刷媒体300との距離である。
上述したドットの位置ずれ(画素位置ずれとも呼ぶ)に起因して印刷画像の画質が低下する場合がある。一般に、画像を印刷するために、互いに離れた複数のドットが形成される。例えば、画素位置ズレに起因して、一部のドットが他のドットに近づく場合があり、さらに、一部のドットが他のドットと繋がる場合がある。この結果、画素位置ズレが無い場合と比べて、印刷画像が粗く見える場合がある(印刷画像を表す粒(ドット)のパターンが粗く見える場合がある)。すなわち、画素位置ずれに起因する画質低下として、粒状性の悪化が発生する場合がある。画素位置ずれに起因した画質の低下を抑制するために、複合機600の印刷データ生成部M100は、後述するように特定の誤差マトリクスを用いたハーフトーン処理を行う。
A−2:印刷処理の概要:
図4は、複合機600(図1)によって実行される印刷処理のフローチャートである。印刷データ生成部M100は、ユーザの指示(例えば、ユーザによる操作部170の操作や、通信部190に接続されたコンピュータ(図示せず)からのコマンド)に応じて、印刷処理を開始する。印刷データ生成部M100の画像データ取得部M102は、印刷対象の対象画像データを、通信部190に接続された外部装置から取得する。
ステップS200では、画像データ取得部M102は、対象画像データを、ビットマップデータBDに変換する(ラスタライズ処理)。ビットマップデータBDを構成する画素データは、例えば、赤(R)と緑(G)と青(B)の3つの色成分の階調値(例えば、0〜255の256階調)で画素の色を表すRGB画素データである。また、本実施例では、ビットマップデータBDの解像度は、印刷解像度(ドットの記録解像度)と同じである。
ステップS210では、画像データ取得部M102は、ビットマップデータBDを構成するRGB画素データを、インクの色に対応する4つの色成分(C、M、Y、K)の階調値(成分値)で画素の色を表すCMYK画素データに変換する(色変換処理)。色変換処理は、RGB画素データとCMYK画素データとを対応付けるルックアップテーブルを用いて行われる。CMYK画素データの各成分値の階調数は、ドット形成状態の種類数(本実施例では、後述するように4種)よりも多い(例えば、0〜255の256階調)。
ステップS220では、ハーフトーン処理が実行される。ハーフトーン処理は、ビットマップデータBDを構成するCMYK画素データを、各画素毎のドット(印刷画素)の形成状態を表すドットデータ(印刷画素値)に変換する処理である。ハーフトーン処理は、誤差マトリクスを利用した誤差拡散法を用いて実行される。このステップS220の詳細については、後述する。
ステップS230では、印刷データ生成部M100は、ドットデータから印刷データを生成する。印刷データは、印刷実行部200によって解釈可能なデータ形式で表されたデータである。印刷データ生成部M100は、例えば、後述する双方向インタレース印刷などの印刷方式に応じて、印刷に用いられる順にドットデータを並べ代えるとともに、各種のプリンタ制御コードや、データ識別コードを付加して印刷データを生成する。
ステップS240では、印刷データ生成部M100は、印刷データを印刷実行部200に供給する。印刷実行部200は、受信した印刷データに従って、画像を印刷する。
A−3:ハーフトーン処理:
本実施例におけるハーフトーン処理では、使用する誤差マトリクスが印刷方式に応じて異なり得る。本実施例では、印刷方式が、双方向インタレース印刷である場合を例に説明する。図5は、双方向インタレース印刷時の双方向ずれを説明する図である。図5の中央部には、処理対象のビットマップデータBDが概念的に示されている。升目PXは、ビットマップデータBDを構成する画素を表している。図5の左側には、ビットマップデータBDを印刷する際の各パスにおける、印刷ヘッド250の副走査方向の位置が示されている。印刷ヘッド250の4つのノズル250nを、図5の上側から順にノズル1、2、3、4とも呼ぶ。図5におけるパスの符号Pmにおける「m」はパスが実行される順番を表している。図5において、パスの符号Pmに続いて、そのパスが往路パスである場合には(F)を付し、復路パスである場合には(R)を付した。
図5から解るように、本実施例における双方向インタレース印刷は、ノズルピッチNの半分のドットピッチで印刷を行う2パス印刷である。この双方向インタレース印刷では、奇数番目のパスが往路パスであり、偶数番目のパスが復路パスである。また、往路パスと、次の復路パスとの間に、ドットピッチ分の単位副走査が行われ、復路パスと、次の往路パスとの間に、ヘッド長(図5の例では、ノズルピッチNの4倍)分の単位副走査が行われる。図5に示すように、ビットマップデータBDの上端から奇数番目のラスタライン(奇数行ライン)は、往路パスで印刷され、偶数番目のラスタライン(偶数行ライン)は、復路パスで印刷される。
本実施例では、ずれ量sの正方向の双方向ずれが発生するものとする。図5の右側には、双方向ずれの説明として、往路パスで印刷されるドットD1(1重丸)と、復路パスで印刷されるドットD2(2重丸)との位置関係が図示されている。これらのドットD1、D2は、理想的には(双方向ずれが無い場合には)、副走査方向に沿って一直線に並ぶべきドットである。各ドットの中の数字は、そのドットを印刷するノズルの番号(図5の左側)を示している。例えば、中に「2」が記述された2重丸は、復路パスにおいてノズル2によって印刷されるドットを示している。
さらに、図5の右側には、双方向ずれの説明として、ラスタラインの相対的な画素位置ずれの態様を表すボックスZBが図示されている。このボックスZBは、基準のラスタラインに対する第1近接ラスタラインの画素位置ずれと、基準のラスタラインに対する第2近接ラスタラインの画素位置ずれと、を表している。第1隣接ラスタラインは、基準のラスタラインの副走査方向に隣接するラスタラインである。第2近接ラスタラインは、基準のラスタラインより2行だけ副走査方向に位置するラスタライン(第1近接ラスタラインの副走査方向に隣接するラスタライン)である。ボックスZBは、3つの升目を含んでいる。「*」マークが記述された第1の升目は、基準のラスタラインの位置を表している。第1の升目の副走査方向に隣接する第2の升目には、第1隣接ラスタラインの画素位置ずれが記述されている。第2の升目の副走査方向に隣接する第3の升目には、第2隣接ラスタラインの画素位置ずれが記述されている。ボックスZBの内容から解るように、各ラスタラインに対する第2近接ラスタラインの画素位置ずれは「0」である。そして、往路ラスタラインに対する復路ラスタラインの画素位置ずれは、「−s」であり、復路ラスタラインに対する往路ラスタラインの画素位置ずれは、「+s」であることが解る。「+s」の画素位置ずれは、往路方向(+Dy方向)にずれ量sだけずれていることを表し、「−s」の画素位置ずれは、復路方向(−Dy方向)にずれ量sだけずれていることを表す。
図6は、ハーフトーン処理の概略図である。図7は、ハーフトーン処理のフローチャートである。ハーフトーン処理(図7)は、インク色毎、かつ、画素毎に、実行される。図5における破線PLは、1つのインク色についてハーフトーン処理において、処理対象とされる画素の順序を示している。本実施例では、奇数行ラインの画素PXは、往路方向(+Dy方向)に順次に処理対象とされ、偶数行ラインの画素PXは、復路方向(−Dy方向)に順次に処理対象とされる。この処理順序の場合には、奇数行ラインの画素PXには往路方向処理用の誤差マトリクスが用いられ、偶数行ラインの画素PXには復路方向処理用の誤差マトリクスが用いられる。往路方向処理用の誤差マトリクス(例えば、図5のマトリクスMAa)と、復路方向処理用の誤差マトリクス(例えば、図5のマトリクスMAb)とは、一般的に、主走査方向に対称である。なお、図5の例では、偶然に一致しているが、あるラスタラインのハーフトーン処理の処理方向と、該ラスタラインを印刷する場合のパスの方向とは、無関係である。全ての実施例において、印刷方式(双方向印刷、片方向印刷など)に拘わらず、ハーフトーン処理の処理方向(処理順序)は同じである。
このハーフトーン処理によって、ドットの形成状態を表すドットデータが生成される。本実施例では、ドットの形成状態は、インク量(すなわち、ドットのサイズ(ドットによって表現される濃度))が異なる以下の4つの状態の中から決定される。
A)大ドット
B)中ドット(中ドットの濃度<大ドットの濃度)
C)小ドット(小ドットの濃度<中ドットの濃度)
D)ドット無し
従って、ドットデータの階調数は、4である。
ステップS502では、誤差マトリクス取得部M108は、補正係数データ138に記録されている双方向ずれ用の位置ずれ補正係数Pc(単に補正係数Pcとも呼ぶ)を取得する。例えば、この補正係数Pcは、上述した印刷実行部200における双方向ずれの大きさと方向に対応している。例えば、補正係数Pcは、主走査方向のドットピッチを単位として表される。もし、補正係数Pcが、図5において説明した双方向ずれに正確に対応していれば、補正係数Pc=+sである。補正係数Pcは、例えば、印刷されたテスト画像において、実際に生じている双方向ずれを測定することによって、図5において説明した「s」の値を特定することによって定められる。あるいは、後述するように、印刷された評価画像に対する画質評価(例えば、粒状性評価)の結果に基づいて定められても良い。
ステップS504では、誤差マトリクス取得部M108は、使用する誤差マトリクスを取得する。図8は、双方向ずれが生じている場合に用いられる誤差マトリクス(双方向ずれ用誤差マトリクスとも呼ぶ)の例を示す図である。図8(A)は、標準誤差マトリクスMAa、MAbを示している。符号の末尾が「a」である誤差マトリクスは、上述した往路方向処理用の誤差マトリクスを示し、符号の末尾が「b」である誤差マトリクスは、上述した復路方向処理用の誤差マトリクスを示す。以下、往路方向処理用と復路方向処理用とを区別しない場合には、符号の末尾の「a」または「b」を適宜に省略する。標準誤差マトリクスMAは、画素位置ずれが発生していない場合に、好適な画質を実現するように設計された誤差マトリクスである。
誤差マトリクスは、処理対象画素から見て特定範囲内に位置する周辺画素について、誤差の分配比を規定している。本実施例の誤差マトリクスは、標準誤差マトリクスMAのように、3行分のラインマトリクスLM1〜LM3を含んでいる。第1ラインマトリクスLM1は、処理対象画素が位置する対象ラスタラインに位置する周辺画素について誤差分配比を規定している。第2ラインマトリクスLM2は、対象ラスタラインの第1近接ラスタラインに位置する周辺画素について誤差分配比を規定している。第3ラインマトリクスLM3は、対象ラスタラインの第2近接ラスタラインに位置する周辺画素について誤差分配比を規定している。
誤差マトリクス取得部M108は、標準誤差マトリクスMAのシフト対象ラインマトリクスを、補正係数Pcを用いて主走査方向にシフトすることによって、使用誤差マトリクスを作成する。シフト対象ラインマトリクスは、対象ラスタラインとは異なるラスタラインであって、処理対象画素に対する画素位置ずれが生じている周辺画素が位置するラスタラインに対応するラインマトリクスである。具体的には、誤差マトリクス取得部M108は、図5の右側のボックスZBに示されている相対ずれを打ち消すように、シフト対象マトリクスをシフトさせる。シフト対象マトリクスは、ラインマトリクスLM2、LM3のうち、処理対象画素に対して相対ずれが生じているラスタラインに対応するラインマトリクスである。相対ずれを打ち消すとは、シフト対象ラインマトリクスを、相対ずれと同じ量だけ、相対ずれと反対方向にシフトさせることである。本実施例の双方向ずれの場合には、図5の右側のボックスZBから解るように、第2ラインマトリクスLM2がシフト対象マトリクスである。
シフト対象ラインマトリクスがシフトされるシフト方向は、画素位置ずれの方向とは、反対方向である。上述したように、正方向の双方向ずれの場合(図5の右側のボックスZBにおける「s」の値が正である場合)には、往路ラスタラインの画素から見て、復路ラスタラインの画素は、復路方向(−Dy方向)にずれる。したがって、往路ラスタライン(本実施例では奇数行ライン)が処理対象画素である場合の使用誤差マトリクスは、第2ラインマトリクスLM2が、往路方向(+Dy方向)にシフトされたマトリクスである。そして、正方向の双方向ずれの場合には、復路ラスタラインの画素から見て、往路ラスタラインの画素は、往路方向(+Dy方向)にずれる。したがって、復路ラスタライン(本実施例では偶数行ライン)が処理対象画素である場合の使用誤差マトリクスは、第2ラインマトリクスLM2が、復路方向(−Dy方向)にシフトされたマトリクスである。
シフト対象ラインマトリクスがシフトされるシフト量は、画素位置ずれの量と同じであることが好ましい。本実施例では、誤差マトリクス取得部M108は、画素位置ずれの量「s」(図5)分だけシフト対象ラインマトリクスをシフトする。
図8(B)は、双方向ずれが+1画素である場合、すなわち、s=+1である場合の使用誤差マトリクスMBを示している。使用誤差マトリクスMBaの第2ラインマトリクスLM2は、標準誤差マトリクスMAaの第2ラインマトリクスLM2(図8(A))と比較して、往路方向に1画素分だけシフトしていることが解る。使用誤差マトリクスMBbの第2ラインマトリクスLM2は、標準誤差マトリクスMAb(図8(A))の第2ラインマトリクスLM2と比較して、復路方向に1画素分だけシフトしていることが解る。
図8(A)(シフト前)および図8(B)(シフト後)の例に示すように、シフト量が整数値である場合におけるシフト対象ラインマトリクスのシフトは、シフト前の各画素の誤差分配比を、当該整数値分だけシフト方向に位置する画素に移動させることによって実行される(整数分シフトと呼ぶ)。
双方向印刷の場合、シフト対象ラインマトリクスのシフト方向が互いに逆向きである2つの誤差マトリクスの組合せ(誤差マトリクスセットとも呼ぶ)が使用誤差マトリクスとして用いられる。図8(B)の例では、右側の誤差マトリクスMBaと、左側の誤差マトリクスMbとの組合せである。誤差マトリクスセットのうちの一方(例えば、誤差マトリクスMBa)は、処理対象画素が位置するラスタラインが往路パスで印刷され、シフト対象ラインマトリクスに対応するラスタラインが復路パスで印刷される場合に用いられる。誤差マトリクスセットのうちの他方(例えば、誤差マトリクスMBb)は、処理対象画素が位置するラスタラインが復路パスで印刷され、シフト対象ラインマトリクスに対応するラスタラインが往路パスで印刷される場合に用いられる。
図8(B)は、双方向ずれが+0.5画素である場合、すなわち、s=+0.5である場合の使用誤差マトリクスMCを示している。この例の場合には、シフト対象マトリクス(標準誤差マトリクスMAの第2ラインマトリクスLM2)を0.5画素分だけシフトすることによって、使用誤差マトリクスMCが得られる。
この例のように、シフト量Nが、0<N<1の範囲にある場合のシフト(小数分シフトと呼ぶ)の方法について説明する。最初に、誤差マトリクス取得部M108は、シフト対象ラインマトリクスに規定された各画素の分配比にシフト量Nを乗じて得られる乗算分配比を、各画素の分配比から減ずる。次に、誤差マトリクス取得部M108は、乗算分配比を各画素のシフト方向に隣接する画素の分配比に加える。この2つの処理によって、誤差マトリクス取得部M108は、シフト対象マトリクスの小数分シフトを行う。
標準誤差マトリクスMAa(図8(A))の第2ラインマトリクスLM2を、0.5画素だけ往路方向(+Dy方向)にシフトさせて、使用誤差マトリクスMCa(図8(C))を算出する例を用いて説明する。この例では、シフト前のシフト対象マトリクス(標準誤差マトリクスMAaの第2ラインマトリクスLM2)は、LM=(0、1、2、1、0)と表される(図8(A))。ここで、行列LMの5つの成分は、図8(A)に示す周辺画素PX1、PX2、PX3、PX4、PX5の誤差分配比である。シフト量N=0.5の場合には、乗算分配比を表す行列K=N×LM=(0、0.5、1、0.5、0)である。各周辺画素の乗算分配比をシフト方向(+Dy方向)に隣接する画素に移動させた行列KS=(0、0、0.5、1、0.5)である。したがって、シフト後のシフト対象マトリクス(使用誤差マトリクスMCaの第2ラインマトリクスLM2)を、LMsとすると、LMs=LM−K+KSとなる。
したがって、LMs=(0、1、2、1、0)−(0、0.5、1、0.5、0)+(0、0、0.5、1、0.5)=(0、0.5、1.5、1.5、0.5)となることが解る(図8(C))。
同様の計算によって、標準誤差マトリクスMAbの第2ラインマトリクスLM2を、0.5画素だけ復路方向(−Dy方向)にシフトさせて、使用誤差マトリクスMCbを算出することができる。誤差分配比は、比率を表しているから、各誤差分配比に同じ数を乗じても実質的に同義である。したがって、図8(C)上側の使用誤差マトリクスMCa、MCbの各誤差分配比に2を乗じると、誤差分配比が整数で表された同義の使用誤差マトリクスMC2a、MC2bが得られる(図8(C)下側)。
以上の説明から解るように、上述した小数分シフトを行うことによって、誤差マトリクス取得部M108は、1画素より細かい任意の精度で、シフト対象ラインマトリクスのシフトを実行することができる。すなわち、誤差マトリクス取得部M108は、1画素より細かい任意の画素位置ずれに対応した使用誤差マトリクスを取得することができる。一例として、図8(D)には、双方向ずれが+1/16画素である場合、すなわち、補正係数Pc=+1/16である場合の使用誤差マトリクスMDが示されている。
より一般的に説明すると、シフト量N=N1+N2(N1は整数、N2は0<N2<1の値(小数成分))である場合、誤差マトリクス取得部M108は、シフト対象ラインマトリクスに対してN1だけ整数分シフトを実行し、整数分シフト後のシフト対象ラインマトリクスに対してN2だけ小数分シフトを実行する。
図7に戻って説明を続ける。使用誤差マトリクスが取得されると、ステップS506では、多階調値補正部M104は、入力値Vin1(処理対象画素のCMYK画素データのうち、処理対象のインク色の成分値)を補正して、補正入力値Vin2を取得する。多階調値補正部M104は、画素位置ずれの方向とは反対方向にラスタラインをシフトするように、入力値Vin1を補正する。多階調値補正部M104は、補正係数Pcを用いて、入力値Vin1を補正する。
図9は、入力値補正について説明する図である。図9には、ビットマップデータBDを構成する画素PXごとに、入力値が図示されている。図9(A)は、補正前の入力値を示している。図9(B)は、双方向ずれ+1画素である場合、すなわち、s=+1である場合における補正後の入力値の一例を示している。s=+1である場合には、印刷画像において、往路ラスタライン(本実施例では奇数行ライン)に対して復路ラスタライン(本実施例では偶数行ライン)が+Dy方向に1画素分だけずれる。したがって、多階調値補正部M104は、往路ラスタラインに対して復路ラスタラインが−Dy方向に1画素分だけシフトするように、入力値Vin1を補正する。図9(B)の例では、多階調値補正部M104は、往路ラスタラインの画素を0.5画素分だけ+Dy方向にシフトするとともに、復路ラスタラインの画素を0.5画素分だけ−Dy方向にシフトするように、入力値Vin1を補正する。多階調値補正部M104は、往路ラスタラインの画素に対しては入力値補正を行わず、復路ラスタラインの画素を1画素分だけ−Dy方向にシフトするように、入力値Vin1を補正しても良い。
多階調値補正部M104は、補正量Q(シフト量)が整数である場合には、処理対象画素から見て、補正量Q(整数)分だけシフト方向の反対方向に位置する画素の入力値Vin1を、処理対象画素の補正入力値Vin2とする。多階調値補正部M104は、補正量Qが小数(0<Q<1)である場合には、以下の式(1)を用いて入力値補正を行う。
Vin2=(1−Q)×Vin1+Q×Vne ...(1)
ここで、Vneは、処理対象画素から見てシフト方向の反対方向に隣接する画素の入力値である。
図9(C)は、双方向ずれ+0.5画素である場合、すなわち、s=+0.5である場合における補正後の入力値の一例を示している。この例では、多階調値補正部M104は、往路ラスタラインの画素を0.25画素分だけ+Dy方向にシフトするとともに、復路ラスタラインの画素を0.25画素分だけ−Dy方向にシフトするように、入力値Vin1を補正する。
図7に戻って説明を続ける。ステップS508では、ハーフトーン処理部M106は、補正入力値Vin2に分配誤差値Etを加算して、修正入力値Vaを取得する。分配誤差値Etは、誤差バッファEBから取得される。分配誤差値Etについては、後述する。
ステップS510では、ハーフトーン処理部M106は、修正入力値Vaと、3つの閾値Th1〜Th3との間の大小関係に基づいて、処理対象画素のドットデータDout(ドット形成状態を表す印刷画素値)を決定する。閾値Th1〜Th3は、それぞれ、1、85、170である。ハーフトーン処理部M106は、修正入力値Vaが第1閾値Th1以上、かつ、第2閾値Th2未満である場合には、小ドットを形成すると決定する。ハーフトーン処理部M106は、修正入力値Vaが第2閾値Th2以上、かつ、第3閾値Th3未満である場合には、中ドットを形成すると決定する。ハーフトーン処理部M106は、修正入力値Vaが第3閾値Th3以上である場合には、大ドットを形成すると決定する。
ステップS512では、ハーフトーン処理部M106は、ドットデータDoutを相対ドット値Drに変換する。相対ドット値Drは、ドットデータDoutが取り得る4値(4種類のドットの形成状態を表す)に対応付けられた階調値である。この相対ドット値Drは、4種類のドットの形成状態によって表現される濃度を、256階調の濃度で表した値である。本実施例では、以下のように相対ドット値Drが設定されている。
A)大ドット:相対ドット値Dr=255
B)中ドット:相対ドット値Dr=170
C)小ドット:相対ドット値Dr=85
D)ドット無し:相対ドット値Dr=0
相対ドット値Drは、相対値テーブルDTとして、ハーフトーン処理部M106のプログラムに予め組み込まれている。
ステップS514では、ハーフトーン処理部M106は、対象誤差値Eaを、使用誤差マトリクスに従って周辺画素に分配する。具体的には、ハーフトーン処理部M106は、以下の式で、対象誤差値Eaを算出する。
対象誤差値Ea=修正入力値Va−相対ドット値Dr
対象誤差値Eaは、処理対象画素におけるドットデータ(相対ドット値Drに変換されたドットデータ)と、処理対象画素における入力値(修正入力値Va)の間に生じた誤差ということができる。ハーフトーン処理部M106は、対象誤差値Eaを、上述した使用誤差マトリクスに規定された分配比で、周辺画素に分配する。誤差バッファEBには、ハーフトーン処理の処理対象とされていない未処理画素毎に、このステップS514で分配された対象誤差値Eaの累積加算値が記録される。上述したステップS508において取得される分配誤差値Etは、処理対象画素について誤差バッファEBに記録された対象誤差値Eaの累積加算値である。すなわち、分配誤差値Etは、ハーフトーン処理の処理対象とされた処理済み画素(ドットデータが決定済みの決定済み画素)における対象誤差値Eaのうち、使用誤差マトリクスを用いて処理対象画素に分配された誤差の累積加算値である。
以上説明したハーフトーン処理によって、印刷画素のドットデータで構成されたビットマップデータが、インク色毎に、生成される。
以上説明した第1実施例によれば、ハーフトーン処理部M106は、使用誤差マトリクスを用いてハーフトーン処理を実行する。使用誤差マトリクスは、ビットマップデータBDにおける主走査方向画素位置に対する、印刷媒体300に印刷されたときの印刷媒体300上における画素位置ずれに応じて、調整されている。この結果、画素位置ずれが生じる場合であっても、画素位置ずれに起因する印刷画質の低下を抑制できる。
具体的には、使用誤差マトリクスの第2ラインマトリクスLM2は、標準誤差マトリクスの第2ラインマトリクスLM2を、画素位置ずれとは反対方向にシフトしたマトリクスである。この結果、処理対象画素と、処理対象画素が位置するラスタラインとは異なるラスタラインの画素との画素位置ずれに起因する画質の低下を抑制することができる。
そして、第2ラインマトリクスLM2のシフト量は、画素位置ずれの量と同じであるので、画素位置ずれの量に応じて効果的に印刷画質が低下することを抑制することができる。
画素位置ずれの量がN画素(0<N<1)である場合に、上述した小数分シフトの方法によって、第2ラインマトリクスLM2をシフトさせるので、1画素より細かい画素位置ずれが生じている場合であっても、画素位置ずれに起因する画質の低下を容易に抑制することができる。特に、印刷実行部200がインクの吐出タイミングを十分な精度で調整できない場合、例えば、コスト上の制約のために印刷実行部200が十分な精度で制御できる能力を持たない場合であっても、本実施例によれば、容易に画素位置ずれに起因する画質の低下を容易に抑制することができる。逆に言えば、本実施例におけるハーフトーン処理を用いることによって、画素位置ずれに起因する画質低下を増大させることなく、印刷実行部200の低コスト化を図ることができる。
また、第2ラインマトリクスLM2のシフト方向は、往路ラスタラインの画素用の誤差マトリクス(例えば、使用誤差マトリクスMBa(図8))と、復路ラスタラインの画素用の誤差マトリクス(例えば、使用誤差マトリクスMBb(図8))と、の間で逆向きである。この結果、双方向印刷において往路印刷と復路印刷との間に生じる位置ずれに起因する印刷画質の低下を抑制することができる。
図10は、本実施例の効果を説明する図である。図10は、双方向ずれが+1画素である場合を例に示している。図10(A)は、画像データ(ビットマップデータBD)における画素位置、言い換えれば、画素位置ずれ(本実施例では双方向ずれ)がない場合の画素位置を示している。図10(B)は、印刷媒体300上の印刷画像PGにおける画素位置(画素位置ずれの有る画素位置)の画素位置を示している。本実施例では、画像データ上の画素位置(理想的な画素位置)にある多階調値(CMYK画素データの階調値)に対して、標準誤差マトリクスMAのシフト対象ラインマトリクス(第2ラインマトリクスLM2)を予め画素位置ずれを考慮してシフトさせた使用誤差マトリクスMB(図8(B))を適用している。
そうすると、対象誤差値Eaが分配される画像上の位置が、画像データ(画素位置ずれ無)では、画素位置ずれの反対方向にずれた位置となる。この結果、印刷画像PG(画素位置ずれ有)で見れば、本来、対象誤差値Eaを分配すべき位置に、対象誤差値Eaを分配することができる。図10(B)に示すように、印刷画像PG(画素位置ずれ有)で見れば、使用誤差マトリクスMBによる対象誤差値Eaの分配先は、画素位置ずれがない場合における標準誤差マトリクスMAによる分配先と同じになっていることが解る。
また、画素位置ずれに応じて1画素よりも細かい精度でシフト対象ラインマトリクスをシフトさせる場合であっても同様である。図10(C)には、シフト量が0.5画素分である場合の例が示されている。この場合でも、印刷画像PG(画素位置ずれ有)で見れば、使用誤差マトリクスMCaによる対象誤差値Eaの分配先は、画素位置ずれがない場合における標準誤差マトリクスMAaによる分配先に近いことが解る。具体的には、図10(C)における3つの黒丸の位置における分配比を、それぞれ線形補間によって計算すると、1、2、1となっている。これらの値は、画素位置ずれがない場合に標準誤差マトリクスMAaによって3つの黒丸の位置に規定される分配比に等しい。
この結果、特に、濃度が均一な画像領域において、印刷画像PG(画素位置ずれ有)におけるドットの配置状態を、画像位置ずれが無い場合に標準誤差マトリクスMAで実現されるドットの配置状態に、近づけることができる。この結果、特に、濃度が均一な領域において、画素位置ずれに起因する画質の低下を抑制することができる。例えば、粒状性の悪化は、特に、濃度が均一な領域において目立ちやすいので、本実施例によって粒状性の悪化を改善する意義は大きいと考えられる。
さらに、本実施例では、ハーフトーン処理に先立って、多階調値補正部M104が入力値Vin1を画素位置ずれに応じて補正している。この結果、特に、画素位置ずれに起因する印刷画像のエッジ部分の画質低下(エッジのがたつきなど)を抑制することができる。上述した使用誤差マトリクスを使用したハーフトーン処理は、濃度が均一な領域における画質改善効果と比較して、印刷画像のエッジ部分の画質改善効果が低い。本実施例では、画素位置ずれに起因する画質劣化のうち、エッジ部分の画質劣化は、入力階調値Vinの補正によって、濃度が比較的均一な領域の画質劣化は、上述した使用誤差マトリクスを使用したハーフトーン処理によって、それぞれ効果的に改善することができる。
なお、本実施例では、エッジ部分であるか否かに拘わらず入力値Vin1の補正を行っているが、エッジ部分を画像処理によって検出してエッジ分の画素に対してのみ入力値Vin1の補正を行ってもよい。少なくとも印刷対象画像におけるエッジ部分の画素に対して、画素位置ずれに応じて入力値Vin1を補正することが好ましい。ただし、本実施例における入力値Vin1の補正方法は、濃度が均一な領域の入力値Vin1には変化をもたらさないので、実質的には、エッジ分の画素に対してのみ入力値Vin1の補正を行っているとも言える。
B.第2実施例:
B−1:画素位置ずれ
第2実施例では、印刷ヘッド250におけるノズル250nの位置ずれ(ノズルずれ)に起因して生じる画素位置ずれに応じたハーフトーン処理について説明する。複合機600の構成は、第1実施例の複合機600(図1)の構成と同じである。本実施例において考慮するノズルずれは、主走査方向ずれと、対向方向ずれである。
図11は、ノズルの主走査方向ずれを説明する図である。ノズルの主走査方向ずれは、第1のノズルの位置に対して、第2のノズルの位置が、設計上の位置より主走査方向にずれていることである。第1のノズルと第2のノズルは、同一色を吐出するためのノズル列(図2(B))に含まれる複数のノズル250nのうちの、2つのノズルである。ノズルの主走査方向ずれは、図11に示すように、例えば、印刷ヘッド250が主走査方向(+Dy方向および−Dy方向)と副走査方向(+Dx方向)とに平行な面に沿って、設計上の位置より傾いている場合(水平傾き)に生じる。言い換えれば、ノズルの主走査方向ずれは、例えば、印刷ヘッド250がDz方向を回転軸として、設計上の位置より回転している場合に生じる。
図11において、副走査方向(+Dx方向)に等間隔Nで並んでいる4つのノズル250nを、副走査方向の上流側から、ノズル1、2、3、4とする。印刷ヘッド250の水平傾きに起因するノズルの主走査方向ずれは、ノズル1を基準にすると、ノズル1からの距離が離れているノズルほど大きくなる。このために、印刷ヘッド250の水平傾きに起因する画素位置ずれ(ヘッド水平傾きずれ)は、ノズル1によって印刷されるラスタラインの画素を基準にすると、ノズル1からの距離が離れているノズルによって印刷されるラスタラインの画素ほど大きくなる。
図11には、往路パスでノズル1〜4からそれぞれ吐出されたインクで形成されるドットD11〜D14と、復路パスでノズル1〜4からそれぞれ吐出されたインクで形成されるドットD21〜D24が図示されている。図11から解るように、ヘッド水平傾きずれの場合には、ドットD11に対するドットD12のずれ量をkとすると、ドットD11に対するドット13のずれ量は2k、ドットD11に対するドットD14のずれ量は3kとなる。同様に、ドットD21に対するドットD22のずれ量をkとすると、ドットD21に対するドット23のずれ量は2k、ドットD21に対するドットD24のずれ量は3kとなる。そして、ヘッド水平傾きずれの場合には、往路パスで印刷する場合の画素位置のずれ方向と、復路パスで印刷する場合の画素位置のずれ方向は、同じ方向になる。
図12は、ノズルの対向方向ずれを説明する図である。ノズルの対向方向ずれは、第1のノズルの位置に対して、第2のノズルの位置が、設計上の位置より対向方向(図12:Dz方向)にずれていることである。対向方向は、ノズル(印刷ヘッド250のノズル形成面)と印刷媒体300とが対向する方向である。第1のノズルと第2のノズルは、同一色を吐出するためのノズル列(図2(B))に含まれる複数のノズル250nのうちの、2つのノズルである。ノズルの対向方向ずれは、図12(A)に示すように、例えば、印刷ヘッド250が副走査方向(+Dx方向)を含む鉛直面に沿って、設計上の位置より傾いている場合(鉛直傾き)に生じる。言い換えれば、ノズルの対向方向ずれは、例えば、印刷ヘッド250が主走査方向(+Dy、−Dy方向)を回転軸として、設計上の位置より回転している場合に生じる。
ノズルの対向方向ずれに起因して、ノズル間で印刷媒体との間のギャップに差が生じる。例えば、ノズル1と印刷媒体300との間のギャップGP1と、ノズル2と印刷媒体300との間のギャップGP2とに差が生じる(図12(B))。このギャップの差によって、ノズル1から吐出されたインクで形成されるドットD11、D21と、ノズル2から吐出されたインクで形成されるドットD12、D22との間に主走査方向の画素位置ずれが生じる(図12(B))。
図12(A)に示すように、印刷ヘッド250の鉛直傾きに起因するノズルの対向方向ずれは、ノズル1を基準にすると、ノズル1からの距離が離れているノズルほど大きくなる。このために、印刷ヘッド250の鉛直傾きに起因する画素位置ずれ(ヘッド鉛直傾きずれ)は、ノズル1によって印刷されるラスタラインの画素を基準にすると、ノズル1からの距離が離れているノズルによって印刷されるラスタラインの画素ほど大きくなる。
図12(C)には、図11と同様に、往路パスでノズル1〜4からそれぞれ吐出されたインクで形成されるドットD11〜D14と、復路パスでノズル1〜4からそれぞれ吐出されたインクで形成されるドットD21〜D24が図示されている。図12(C)から解るように、ヘッド鉛直傾きずれの場合には、ドットD11に対するドットD12のずれ量をhとすると、ドットD11に対するドット13のずれ量は2h、ドットD11に対するドットD14のずれ量は3hとなる。同様に、ドットD21に対するドットD22のずれ量をhとすると、ドットD21に対するドット23のずれ量は2h、ドットD21に対するドットD24のずれ量は3hとなる。そして、ヘッド鉛直傾きずれの場合には、往路パスで印刷する場合の画素位置のずれ方向と、復路パスで印刷する場合の画素位置のずれ方向は、互いに逆方向になる。
B−2:ハーフトーン処理:
本実施例におけるハーフトーン処理では、第1実施例と同様に、使用する誤差マトリクスが印刷方式に応じて異なり得る。本実施例では、印刷方式が、双方向ノンインタレース印刷である場合を例に説明する。
B−2−1:ヘッド水平傾きずれが生じている場合:
図13は、双方向ノンインタレース印刷時のヘッド水平傾きずれを説明する図である。図13の左側には、図5と同様に、ビットマップデータ(図示省略)を印刷する際の各パスにおける、印刷ヘッド250の副走査方向の位置が示されている。
図13から解るように、本実施例における双方向ノンインタレース印刷は、ノズルピッチNと同じドットピッチで印刷を行う1パス印刷である。この双方向ノンインタレース印刷では、奇数番目のパスが往路パスであり、偶数番目のパスが復路パスである。この双方向ノンインタレース印刷では、奇数番目のパスが往路パスであり、偶数番目のパスが復路パスである。また、1回のパスと次のパスとの間に、ヘッド長(図13の例では、ノズルピッチNの4倍)分の単位副走査が行われる。
本実施例では、ずれ量kの正方向のヘッド水平傾きずれが発生するものとする。図13には、ヘッド水平傾きずれの説明として、図5と同様に、往路パスで印刷されるドットD1と、復路パスで印刷されるドットD2との位置関係が図示されている。図13には、さらに、図5と同様に、ボックスZBが図示されている。図13において、基本領域のラスタラインを基準のラスタライン(*印の位置)とするボックスZBと、パス境界領域のラスタラインを基準のラスタライン(*印の位置)とするボックスZBとで、内容が異なっている。上述したように、使用誤差マトリクスは、ボックスZBに示される相対ずれを打ち消すように、標準誤差マトリクスMAのシフト対象ラインマトリクスをシフトさせることによって、作成される。したがって、ヘッド水平傾きずれの場合には、基本領域のラスタラインの画素に対して適用される使用誤差マトリクスと、パス境界領域のラスタラインの画素に対して適用される使用誤差マトリクスとは、異なることが解る。
パス境界領域は、往路パスで印刷される領域と復路パスで印刷される領域との境界に位置する2本のラスタライン分の領域である。基本領域は、パス境界領域を除いた領域である。基本領域に含まれるラスタラインの画素を処理対象としたハーフトーン処理では、誤差マトリクスに対応する3本のラスタライン(対象ラスタラインと、対象ラスタラインの第1近接ラスタラインと、対象ラスタラインの第2近接ラスタライン)は、いずれも同じパス(往路パスまたは復路パス)で印刷される。パス境界領域に含まれるラスタラインの画素を処理対象としたハーフトーン処理では、誤差マトリクスに対応する3本のラスタラインのうち、一部は往路パスで印刷され、他の一部は復路パスで印刷される。図13では、図の煩雑を避けるために、印刷ヘッド250のノズル数を4つとしているが、実際のノズル数は、4つより遙かに多い(例えば、200個)ので、実際には、印刷画像のほとんどの領域は、基本領域である。
基本領域における各ラスタラインに対する第1近接ラスタラインの画素位置ずれは、「k」であり、第2近接ラスタラインの画素位置ずれは「2k」である。このように、ヘッド水平傾きずれの場合には、ヘッドの傾きに応じて、段階的に画素位置すれが増えていく。そして、ヘッド水平傾きずれの場合には、往路パスで印刷される領域と、復路パスで印刷される領域とで、位置ずれの態様(ボックスZBの内容)が同じである。したがって、往路パスで印刷される領域における使用誤差マトリクスと、復路パスで印刷される領域における使用誤差マトリクスとは、同じになる。
図14は、ヘッド傾きずれが生じている場合に用いられる使用誤差マトリクス(ヘッド傾きずれ用誤差マトリクスとも呼ぶ)の例を示す図である。図14(A)は、標準誤差マトリクスMAを示している。図14(B)は、ヘッド水平傾きずれが(+1/16)画素である場合、すなわち、k=+1/16である場合の使用誤差マトリクスMEを示している。使用誤差マトリクスMEa、MEbの第2ラインマトリクスLM2は、標準誤差マトリクスMAa、MAbの第2ラインマトリクスLM2(図14(A))と比較して、復路方向に(1/16)画素分だけシフトしていることが解る。そして、使用誤差マトリクスMEa、MEbの第3ラインマトリクスLM3は、標準誤差マトリクスMAa、MAbの第3ラインマトリクスLM3と比較して、復路方向に(2/16)画素分だけシフトしていることが解る。この使用誤差マトリクスMEは、往路パスで印刷される領域における基本領域、および、復路パスで印刷される領域における基本領域の各ラスタラインに対して適用される。以上の説明から解るように、ヘッド水平傾きずれの場合には、往路パスで印刷される領域と、復路パスで印刷される領域との間で、ラインマトリクスLM2、LM3のシフト方向が同じである。
パス境界領域の各ラスタラインに対して適用される使用誤差マトリクスについては、図示は省略するが、図13おいてボックスZBによって示される相対ずれを打ち消すように、標準誤差マトリクスMAのシフト対象ラインマトリクスをシフトさせることによって、作成されても良い。あるいは、パス境界領域は、基本領域と比較して、小さい領域であるので、専用の使用誤差マトリクスを作成せずに、基本領域用の使用誤差マトリクスを適用しても良い。
B−2−2:ヘッド鉛直傾きずれが生じている場合:
図15は、双方向ノンインタレース印刷時のヘッド鉛直傾きずれを説明する図である。図15の左側には、図13と同様に、ビットマップデータ(図示省略)を印刷する際の各パスにおける、印刷ヘッド250の副走査方向の位置が示されている。
本実施例では、ずれ量hの正方向のヘッド鉛直傾きずれが発生するものとする。図15には、ヘッド水平傾きずれの説明として、図13と同様に、往路パスで印刷されるドットD1と、復路パスで印刷されるドットD2との位置関係が図示されている。図15には、さらに、図13と同様に、ボックスZBが図示されている。図15において、基本領域のラスタラインについてのボックスZBと、パス境界領域のラスタラインについてのボックスZBとで、内容が異なっている。したがって、ヘッド水平傾きずれの場合と同様に、ヘッド鉛直傾きずれの場合には、基本領域のラスタラインの画素に対して適用される使用誤差マトリクスと、パス境界領域のラスタラインの画素に対して適用される使用誤差マトリクスとは、異なることが解る。
図15に示すように、往路パスで印刷される基本領域における各ラスタラインに対する第1近接ラスタラインの画素位置ずれは、「h」であり、第2近接ラスタラインの画素位置ずれは「2h」である。このように、往路パスで印刷される領域における画素位置ずれの態様は、ヘッド水平傾きずれの場合の画素位置ずれの態様と同様である。一方、復路パスで印刷される基本領域における各ラスタラインに対する第1近接ラスタラインの画素位置ずれは、「−h」であり、第2近接ラスタラインの画素位置ずれは「−2h」である。このように、往路パスで印刷される領域における画素位置ずれの態様は、ヘッド水平傾きずれの場合の画素位置ずれの態様と比較して、画素位置ずれの方向が逆向きである。したがって、ヘッド鉛直傾きずれの場合には、往路パスで印刷される領域における使用誤差マトリクスと、復路パスで印刷される領域における使用誤差マトリクスとは、異なる。
図14(C)は、ヘッド鉛直傾きずれが(+1/16)画素である場合、すなわち、h=+1/16である場合の使用誤差マトリクスMFを示している。この使用誤差マトリクスMFは、往路パスで印刷される基本領域に適用される。この使用誤差マトリクスは、上述したヘッド水平傾きずれの基本領域に適用される使用誤差マトリクスME(図14(B))と同一である。
図14(D)は、ヘッド鉛直傾きずれが(+1/16)画素である場合、すなわち、h=+1/16である場合の使用誤差マトリクスMGを示している。この使用誤差マトリクスMGは、復路パスで印刷される基本領域に適用される。この使用誤差マトリクスMGa、MGbのラインマトリクスLM2、LM3のシフト量は、使用誤差マトリクスMFa、MFbのラインマトリクスLM2、LM3のシフト量と同じである。そして、使用誤差マトリクスMGa、MGbのラインマトリクスLM2、LM3のシフト方向は、使用誤差マトリクスMFa、MFbのラインマトリクスLM2、LM3のシフト方向と逆向きである。
パス境界領域の各ラスタラインに対して適用される使用誤差マトリクスについては、図示は省略するが、図15おいてボックスZBによって示される相対ずれを打ち消すように、標準誤差マトリクスMAのシフト対象ラインマトリクスをシフトさせることによって、作成されても良い。あるいは、専用の使用誤差マトリクスを作成せずに、基本領域用の使用誤差マトリクスを適用しても良い。
第2実施例におけるハーフトーン処理は、使用誤差マトリクスが異なる点を除いて、第1実施例におけるハーフトーン処理(図7)と同様である。例えば、誤差マトリクス取得部M108は、図7:ステップS502において、上述したヘッド水平傾きずれを表す値k、および、ヘッド鉛直傾きずれを表す値hを、位置ずれ補正係数Pcとして取得する。そして、ステップS504において、誤差マトリクス取得部M108は、当該補正係数Pcを用いて、上述した使用誤差マトリクスを取得する。
以上説明した第2実施例によれば、ハーフトーン処理部M106は、ヘッド水平傾きずれやヘッド鉛直傾きずれなどのノズルずれに基づく画素位置ずれに応じて調整された使用誤差マトリクスを用いて、ハーフトーン処理を行う。この結果、同一色ノズルのノズル位置ずれに基づく画素位置ずれに起因して、印刷画質が低下することを抑制することができる。
また、ハーフトーン処理部M106は、ヘッド水平傾きずれに代表される主走査方向のノズルずれに応じて調整された使用誤差マトリクスを用いて、ハーフトーン処理を行う。この結果、主走査方向のノズルずれに基づく画素位置ずれに起因して、印刷画質が低下することを抑制することができる。この場合に用いられる使用誤差マトリクスME(図14(B))は、往路印刷で印刷されるラスタラインに適用されるとともに、復路印刷で印刷されるラスタラインにも適用される。
また、ハーフトーン処理部M106は、ヘッド鉛直傾きずれに代表される対向方向のノズルずれに応じて調整された使用誤差マトリクスを用いて、ハーフトーン処理を行う。この結果、対向方向のノズルずれに基づく画素位置ずれに起因して、印刷画質が低下することを抑制することができる。この場合には、往路印刷で印刷されるラスタラインに適用される使用誤差マトリクスMF(図14(C))と、復路印刷で印刷されるラスタラインに適用される使用誤差マトリクスMG(図14(D))と、用いられる。
C.第3実施例:
第3実施例では、第1実施例における双方向ずれと、第2実施例におけるノズルずれとの両方が生じた場合に生じる複合画素位置ずれに応じたハーフトーン処理について説明する。複合機600の構成は、第1実施例の複合機600(図1)の構成と同じである。本実施例において考慮する複合画素位置ずれは、双方向ずれとヘッド水平傾きずれとの複合ずれと、双方向ずれとヘッド鉛直傾きずれとの複合ずれ(第2の複合画素位置ずれとも呼ぶ)である。
C−1:ハーフトーン処理:
本実施例におけるハーフトーン処理では、第1実施例と同様に、使用する誤差マトリクスが印刷方式に応じて異なり得る。本実施例では、印刷方式が、第1実施例と同じ双方向インタレース印刷(図5)である場合を例に説明する。
C−1−1:双方向ずれとヘッド水平傾きずれとの複合ずれが生じている場合:
図16は、双方向インタレース印刷時の双方向ずれとヘッド水平傾きずれとの複合ずれ(第1の複合画素位置ずれとも呼ぶ)を説明する図である。図16の左側には、図5と同様に、ビットマップデータ(図示省略)を印刷する際の各パスにおける、印刷ヘッド250の副走査方向の位置が示されている。
本実施例では、第1実施例で説明したずれ量sの双方向ずれ(図5)と、第2実施例で説明したずれ量kのヘッド水平傾きずれ(図13)と、が複合するものとする。第1の複合画素位置ずれのずれ量、および、ずれ方向は、双方向ずれの寄与分と、ヘッド水平傾きずれの寄与分との和によって定まる。図16には、双方向ずれの寄与分が、往路パスで印刷されるドットD1と復路パスで印刷されるドットD2との位置関係で概念的に示されている。同様に、ヘッド水平傾きずれの寄与分が、同様に、図示されている。
これらの概念図から解るように、双方向ずれの寄与分によって、画像データの偶数行目のラスタライン(偶数行ライン)は、奇数行目のラスタライン(奇数行ライン)に対して、復路方向(−Dy方向)にsだけずれる。そして、ヘッド水平傾きずれの寄与分によって、同じパスで印刷される範囲内では、偶数行ラインに対して、当該偶数行ラインの副走査方向に隣接する奇数行ラインが往路方向(+Dy方向)に、kだけずれる。
これらの寄与分の和をとると、ラスタラインの相対的な画素位置ずれの態様は、図16においてボックスZBで示すようになる。すなわち、奇数行ラインに対して、当該奇数行ラインの副走査方向に隣接する偶数行ラインは、復路方向にsだけずれる。そして、奇数行ラインに対して、当該奇数行ラインから2行分だけ副走査方向に位置する奇数行ラインは、往路方向にkだけずれる。そして、偶数行ラインに対して、当該偶数行ラインの副走査方向に隣接する奇数行ラインは、往路方向に(s+k)だけずれる。そして、偶数行ラインに対して、当該偶数行ラインから2行分だけ副走査方向に位置する偶数行ラインは、往路方向にkだけずれる。
使用誤差マトリクスは、ボックスZBに示される相対ずれを打ち消すように、標準誤差マトリクスMAのシフト対象ラインマトリクスをシフトさせることによって、作成される。図17は、複合画素位置ずれが生じている場合に用いられる誤差マトリクスの例を示す図である。図17(B)は、双方向ずれが+1画素、かつ、ヘッド水平傾きずれが+1/16画素である場合、すなわち、s=+1、k=+1/16である場合の使用誤差マトリクスMHを示している。使用誤差マトリクスMHaは、標準誤差マトリクスMAaの第2ラインマトリクスLM2を往路方向(+Dy方向)に1画素だけシフトさせ、第3ラインマトリクスLM3を復路方向(−Dy方向)に(1/16)画素だけシフトさせて得られる。使用誤差マトリクスMHbは、標準誤差マトリクスMAbの第2ラインマトリクスLM2を復路方向(−Dy方向)に(17/16)画素だけシフトさせ、第3ラインマトリクスLM3を復路方向(−Dy方向)に(1/16)画素だけシフトさせて得られる。使用誤差マトリクスMHaは、奇数行ラインの画素が処理対象画素である場合の使用誤差マトリクスである。使用誤差マトリクスMHbは、偶数行ラインの画素が処理対象画素である場合の使用誤差マトリクスである。
C−1−2:双方向ずれとヘッド鉛直傾きずれが生じている場合:
図18は、双方向インタレース印刷時の双方向ずれとヘッド鉛直傾きずれとの複合ずれ(第2の複合画素位置ずれとも呼ぶ)を説明する図である。図17の左側には、図5と同様に、ビットマップデータ(図示省略)を印刷する際の各パスにおける、印刷ヘッド250の副走査方向の位置が示されている。
本実施例では、第1実施例で説明したずれ量sの双方向ずれ(図5)と、第2実施例で説明したずれ量hのヘッド鉛直傾きずれ(図15)と、が複合するものとする。第2の複合画素位置ずれのずれ量、および、ずれ方向は、双方向ずれの寄与分と、ヘッド鉛直傾きずれの寄与分との和によって定まる。図18には、双方向ずれの寄与分が、往路パスで印刷されるドットD1と復路パスで印刷されるドットD2との位置関係で概念的に示されている。同様に、ヘッド鉛直傾きずれの寄与分が、同様に、図示されている。
これらの概念図から解るように、双方向ずれの寄与分によって、画像データの偶数行目のラスタライン(偶数行ライン)は、奇数行目のラスタライン(奇数行ライン)に対して、復路方向(−Dy方向)にsだけずれる。そして、ヘッド鉛直傾きずれの寄与分によって、同じパスで印刷される範囲内では、1行目のラスタラインに対して2行目のラスタラインはずれないが、1行目を除く奇数行ラインに対して、当該奇数行ラインの副走査方向に隣接する偶数行ラインが復路方向(−Dy方向)に、2×(n−1)×hだけずれる。ここで、nは、当該奇数行ラインを印刷するノズル250nのノズル番号(副走査方向の上流側から数えたノズル番号)である。また、ヘッド鉛直傾きずれの寄与分によって、同じパスで印刷される範囲内では、偶数行ラインに対して、当該偶数行ラインの副走査方向に隣接する奇数行ラインが往路方向(+Dy方向)に、(2×n−1)×hだけずれる。
これらの寄与分の和をとると、ラスタラインの相対的な画素位置ずれの態様は、図18においてボックスZBで示すようになる。すなわち、奇数行ラインに対して、当該奇数行ラインの副走査方向に隣接する偶数行ラインは、復路方向に{s+2×(n−1)×h}だけずれる。そして、奇数行ラインに対して、当該奇数行ラインから2行分だけ副走査方向に位置する奇数行ラインは、往路方向にhだけずれる。そして、偶数行ラインに対して、当該偶数行ラインの副走査方向に隣接する奇数行ラインは、往路方向に{s+(2×n−1)×h}だけずれる。そして、偶数行ラインに対して、当該偶数行ラインから2行分だけ副走査方向に位置する偶数行ラインは、復路方向にhだけずれる。
使用誤差マトリクスは、ボックスZBに示される相対ずれを打ち消すように、標準誤差マトリクスMAのシフト対象ラインマトリクスをシフトさせることによって、作成される。図17(C)は、双方向ずれが+1画素、かつ、ヘッド鉛直傾きずれが(+1/16)画素である場合、すなわち、s=+1、h=+1/16である場合の使用誤差マトリクスMHを示している。使用誤差マトリクスMJaは、往路パス(例えば、図18のパスP1(F))においてノズル1で印刷されるラスタラインの画素を処理対象とするときに用いられる。使用誤差マトリクスMJbは、復路パス(例えば、図18のパスP2(R))においてノズル1で印刷されるラスタラインの画素を処理対象とするときに用いられる。使用誤差マトリクスMJcは、往路パスにおいてノズル2で印刷されるラスタラインの画素を処理対象とするときに用いられる。使用誤差マトリクスMJdは、復路パスにおいてノズル2で印刷されるラスタラインの画素を処理対象とするときに用いられる。このように、図18の例では、1回の往路パスと1回の復路パスとの組合せで印刷される領域に含まれるラスタライン毎に、使用誤差マトリクスが異なる。
以上説明した第3実施例によれば、第1の複合画素位置ずれや第2の複合画素位置ずれのような複合ずれが生じている場合であっても、ハーフトーン処理部M106は、当該複合ずれに応じて調整された使用誤差マトリクス(図17)を用いて、ハーフトーン処理を実行することができる。この結果、このような複合ずれに起因する印刷画質の低下を抑制することができる。
D.第4実施例:
D−1:第4実施例の副走査部260(用紙搬送部)の構成:
図19は、第4実施例における主走査部240と副走査部260(図2参照)との拡大斜視図を示す。第4実施例における複合機600は、副走査部260(用紙搬送機構)の構成が第1実施例とは異なる。具体的には、第4実施例における複合機600の副走査部260は、印刷媒体300(用紙)を主走査方向に沿って波状に変形させた状態で、用紙の搬送(副走査)を実行することができる(図19)。
図19(A)には、プラテン265の断面(副走査方向+Dxと垂直な断面:2つのローラ261、ローラ262(図2参照)の間の位置の断面)も示されている。図示するように、プラテン265は、複数の低支持部265aと、複数の高支持部265bと、を含む。高支持部265bと、低支持部265aとは、それぞれ副走査方向に沿った用紙支持面を有している。高支持部265bの用紙支持面は、低支持部265aの用紙支持面と比べて、高い位置で印刷媒体300を支持する。低支持部265aと高支持部265bとは、主走査方向(+Dy、−Dy方向)に沿って交互に並んで配置されている。
低支持部265aの用紙支持面の上方には、押圧部269が配置されている。押圧部269は、第1ローラ261によって送り出された印刷媒体300は、押圧部269によって曲げられて、印刷ヘッド250と対向する位置(印刷がなされる位置)では、波状に変形している。すなわち、印刷媒体300は、低支持部265aの上方に位置する谷部と、高支持部265bの上方に位置する山部と、を有する、主走査方向に沿った波状の形状に保持される。印刷媒体300は、このような波状の形状に保持された状態で、副走査部260によって搬送される。
印刷媒体300を波状に変形させる理由は、印刷媒体300が丸まることに起因して印刷媒体300がプラテン265から印刷ヘッド250側へ浮き上がることを抑制するためである。
図19(B)には、印刷ヘッド250から吐出されたインクI1、I2によって形成されるドットD1、D2の位置が示されている。ドットD1は、+Dy方向に移動する印刷ヘッド250から吐出される第1インクI1によって形成され、ドットD2は、−Dy方向に移動する印刷ヘッド250から吐出される第2インクI2によって形成される。
図19(B)中のギャップGP3、GP4は、ノズル面npと印刷媒体300との間のギャップを示す。ギャップGP3は、波状に変形している印刷媒体300の山部Pybにおけるギャップである。ギャップGP4は、波状に変形している印刷媒体300の谷部Pyaにおけるギャップである。
図示するように、印刷媒体300上の領域は、主走査方向に沿って交互に並ぶ第1種領域A1と第2種領域A2とに区分される。第1種領域A1は、押圧部269によって押さえられる谷部Pyaを含む領域である。第2種領域A2は、高支持部265bによって支持される山部Pybを含む領域である。第1種領域A1は、例えば、ノズル面npと印刷媒体300との間のギャップが、ギャップGP3とギャップGP4との中間値よりも大きい領域である。また、第2種領域A2は、例えば、ノズル面npと印刷媒体300との間のギャップが、ギャップGP3とギャップGP4との中間値以下である領域である。
インクI1,I2の吐出タイミングは、山部Pybを通る水平面SHに印刷することを想定して、調整されている。したがって、山部Pyb近傍の第2種領域A2では、画素位置ずれが比較的小さいが、谷部Pya近傍の第1種領域A1では、画素位置ずれが比較的大きい。図19(B)には、谷部Pyaにドットを形成するために吐出されたインクI2、I2によって形成されるドットD1、D2が示されている。谷部PyaのギャップGP4は、山部PybのギャップGP3と比較して大きい。この結果、谷部Pyaを含む第1種領域A1に印刷を行う場合には、インクI1、I2の着弾位置(ドット形成位置)は、目標位置Pyaからずれてしまう(図19(B))。
以上の説明から解るように、第4実施例では、同じラスタラインであっても、主走査方向の位置によって、双方向ずれ(第1実施例参照)が異なる。すなわち、第1種領域A1における双方向ずれは、第2種領域A2における双方向ずれよりも大きくなる。
図20は、第4実施例におけるハーフトーン処理を説明する図である。図20(A)は、対象画像データ(印刷対象の画像データ)が表す対象画像IDを示す。対象画像データは、階調値の均一な画像を表す。図20(B)は、対象画像データを本実施例におけるハーフトーン処理を行わずに印刷して得られる、印刷画像IPを示す。図示するように、第1種領域A1と第2種領域A2との間で、粒状性ムラが生じる。これは、上述したように、第1種領域A1と第2種領域A2との間の双方向ずれの違いによって、第1種領域A1と第2種領域A2との間で粒状性の差が生じるからである。
D−2:ハーフトーン処理:
図20(C)には、第4実施例における補正係数データ138の内容が図示されている。本実施例における補正係数データ138には、印刷媒体300における主走査方向の位置と対応付けられた複数種類の参照補正係数Prefが記述されている。図19(B)を参照して説明した複数の谷部Pyaの位置を、印刷媒体300の+Dy方向の上流側から下流側に向かって、Pya1、Pya2、...、Pya6とする(図20(B))。また、複数の山部Pybの位置を、印刷媒体300の+Dy方向の上流側から下流側に向かって、Pyb1、Pyb2、...、Pyb7とする(図20(B))。谷部Pyaおよび山部Pybの位置は、例えば、印刷画像の画素を単位として記録されている。そして、谷部Pyaの位置Pya1、Pya2、...、Pya6には、谷部Pyaにおける双方向ずれに対応した参照補正係数Pref(本実施例では、1.0)が対応付けられている。一方で、上述した山部Pybの位置Pyb1、Pyb2、...、Pyb7には、山部Pybにおける双方向ずれに対応した参照補正係数Pref(本実施例では、0.0)が対応付けられている。すなわち、本実施例では、印刷媒体300における山部Pybの位置では、双方向ずれは生じておらず、印刷媒体300における谷部Pyaの位置では、最大の双方向ずれが生じているものとして、補正係数データ138が記述されている。
第4実施例におけるハーフトーン処理の概要は、図7に示す第1実施例におけるハーフトーン処理と同じである。ただし、図7のステップS502において、誤差マトリクス取得部M108は、図20(C)に示す補正係数データ138を用いて、処理対象画素の主走査方向における位置に応じた補正係数Pcを取得する。具体的には、誤差マトリクス取得部M108は、補正係数データ138に記述された参照補正係数Prefを用いた線形補間によって、補正係数Pcを取得する。
図20(D)には、誤差マトリクス取得部M108によって取得される補正係数Pcが概念的に図示されている。このように、例えば、谷部Pyaと山部Pybとの中間の位置では、谷部Pyaに対応付けられた参照補正係数Pref(1.0)と山部Pybに対応付けられた参照補正係数Pref(0.0)との中間の値が、補正係数Pcとして取得される。図19(B)を参照して説明したように、ノズル面npと印刷媒体300との間のギャップは、谷部Pyaにおいて最大となり、山部Pybにおいて最小となるように、主走査方向の位置に応じて、連続的に変化している。したがって、本実施例において取得される補正係数Pcは、ノズル面npと印刷媒体300との間のギャップの大きさに対応していると言うこともできる。
このような補正係数Pcが取得される結果、本実施例において、誤差マトリクス取得部M108は、図7のステップ504において、処理対象画素の主走査方向の位置に応じてシフト対象ラインマトリクスのシフト量が異なる使用誤差マトリクスを取得することができる。
以上説明した第4実施例によれば、双方向印刷に用いられる使用誤差マトリクスとして、印刷媒体300における主走査方向の位置に応じて異なる画素位置ずれ(双方向ずれ)に応じて調整された複数の誤差マトリクスセット(補正係数Pcが異なる使用誤差マトリクスのセット)を用いる。そして、ハーフトーン処理部M106は、これらの使用誤差マトリクスセットのうち、用いる誤差マトリクスセットを、処理対象画素の主走査方向の位置に応じて変更しながら、ハーフトーン処理を実行する。
この結果、印刷媒体300における処理対象画素の主走査方向の位置に応じて、画素位置ずれ(例えば、双方向ずれ)が異なる場合であっても、当該画素位置ずれに起因して、印刷画質が低下することを抑制することができる。
より具体的には、本実施例における複合機600は、印刷媒体300とノズル250nとの間のギャップが主走査方向に沿って変化するように印刷媒体を変形させた状態で副走査を実行する副走査部260を備えている。そして、複数の誤差マトリクスセット(補正係数Pcが異なる使用誤差マトリクスのセット)は、シフト対象ラインマトリクスのシフト量が、ギャップの大きさに応じて誤差マトリクスセットごとに異なっている。
この結果、印刷実行部200が、印刷媒体300とノズル250nとの間のギャップが主走査方向に沿って変化するように変形させた状態で副走査を行う場合であっても、当該印刷媒体の変形に基づく画素位置ずれに起因して、印刷画質が低下することを抑制することができる。例えば、図20(B)に示す第1種領域A1と第2種領域A2との間の粒状性ムラを低減して、印刷画像の画質を向上することができる。
E.第5実施例:
上記第1〜第4実施例では、ハーフトーン処理部M106は、図6、7を参照して説明した誤差拡散法を用いてハーフトーン処理を実行しているが、これに代えて、誤差収集法を採用しても良い。
図21は、誤差収集法の概要を示す図である。誤差拡散法では、図7のステップS514において、ハーフトーン処理部M106は、算出された対象誤差値Eaの分配先の周辺画素(処理対象とされていない未処理画素)と分配先毎の分配比を、使用誤差マトリクスに従って決定している。そして、ハーフトーン処理部M106は、周辺画素毎に、誤差バッファEBに格納している。誤差収集法では、ハーフトーン処理部M106は、算出された対象誤差値Eaを処理対象画素で発生した誤差値として、誤差バッファEBに格納する。そして、処理順が後の画素について、図7のステップS508を実行するときに、補正入力値Vin2に加算すべき分配誤差値Etを決定するときに、ハーフトーン処理部M106は、誤差収集用の誤差マトリクス(後述)を用いて、分配誤差値Etを算出する。具体的には、ハーフトーン処理部M106は、誤差収集用の誤差マトリクスを用いて、既に処理対象とされた処理済み画素(ドットデータが決定済みの決定済画素)である周辺画素の対象誤差値Eaから、処理対象画素に分配される分の誤差を収集して分配誤差値Etを算出する。このような、ステップS514における対象誤差値Eaの誤差バッファEBへの格納態様や、ステップS508における分配誤差値Etの取得態様に、違いがあるものの、誤差拡散法と誤差収集法とは、基本的には同質のハーフトーン処理方法である。
図22および図23は、誤差収集法用の使用誤差マトリクスの例を示す図である。図22(A)は、誤差収集用の標準誤差マトリクスMKa、MKbを示している。この標準誤差マトリクスMKは、誤差拡散用の標準誤差マトリクスMA(図8(A))と、ほぼ等価であり、画素位置ずれが発生していない場合に、好適な画質を実現するように設計された誤差マトリクスである。この標準誤差マトリクスMKは、3行分のラインマトリクスLM1〜LM3を含んでいる。第1ラインマトリクスLM1は、処理対象画素が位置する対象ラスタラインに位置する周辺画素について誤差分配比を規定している。誤差収集用の誤差マトリクスにおける第2ラインマトリクスLM2は、対象ラスタラインの第1逆近接ラスタラインに位置する周辺画素について誤差分配比を規定している。誤差収集用の誤差マトリクスにおける第3ラインマトリクスLM3は、対象ラスタラインの第2逆近接ラスタラインに位置する周辺画素について誤差分配比を規定している。ここで、第1逆近接ラスタラインは、上述した第1近接ラスタラインとは逆方向に対象ラスタラインに対して隣接しているラスタラインである。すなわち、第1逆近接ラスタラインは、対象ラスタラインに対して副走査方向の反対方向(−Dx方向)に隣接するラスタラインである。第2逆近接ラスタラインは、対象ラスタラインより2行だけ副走査方向の反対方向(−Dx方向)に位置するラスタラインである。
誤差収集用の使用誤差マトリクスは、誤差拡散用の使用誤差マトリクスと同様に、標準誤差マトリクスMKのシフト対象ラインマトリクスを、相対ずれに応じてシフトすることによって作成される。シフト対象ラインマトリクスは、第2ラインマトリクスLM2と第3ラインマトリクスLM3のうち、対応するラスタライン(第1逆近接ラスタライン、第2逆近接ラスタライン)において相対ずれが生じているラインマトリクスである。相対ずれは、対象ラスタラインの処理対象画素に対する、画素位置ずれである。シフト対象ラインマトリクスのシフトは、誤差拡散用の使用誤差マトリクスの作成と同様に、相対ずれを打ち消すように、実行される。すなわち、相対ずれとは反対方向に、相対ずれのずれ量と同じ量だけ、シフト対象マトリクスが第1ラインマトリクスLM1に対してシフトされる。
図22(B)に示す誤差収集用の使用誤差マトリクスMLa、MLbは、s=+1の双方向ずれが生じている場合に、好適な誤差マトリクスであり、誤差拡散用の使用誤差マトリクスMBa、MBb(図8(B))と、ほぼ等価である。図22(C)に示す誤差収集用の使用誤差マトリクスMMa、MMbは、s=+0.5の双方向ずれが生じている場合に、好適な誤差マトリクスであり、誤差拡散用の使用誤差マトリクスMC2a、MC2b(図8(C))と、ほぼ等価である。図23に示す誤差収集用の使用誤差マトリクスMNa、MNbは、k=+1/16のヘッド水平傾きずれが生じている場合に、好適な誤差マトリクスであり、誤差拡散用の使用誤差マトリクスMEa、MEb(図14(B))と、ほぼ等価である。
以上説明した第5実施例では、ハーフトーン処理部M106は、上述した第1〜第4実施例と同様なハーフトーン処理を、誤差拡散法に代えて、誤差収集法を用いて実行する。第5実施例によれば、上述した第1〜第4実施例と同様の作用・効果を奏する。すなわち、各種の画素位置ずれが生じる場合であっても、当該画素位置ずれに起因する印刷画質の低下を抑制できる。
F.第6実施例:
第6実施例では、補正係数データ138を生成するための構成および処理について説明する。図24は、評価画像印刷処理のフローチャートである。評価画像印刷処理は、例えば、利用者からの印刷指示を複合機600の制御装置100が受け付けた場合に実行される。この印刷指示は、例えば、評価画像の印刷を直接的に指示する印刷指示であっても良いし、粒状性などの画質の改善を要求する画質改善指示であってもよい。
評価画像印刷処理が開始されると、最初のステップS1010では、印刷データ生成部M100の評価画像データ生成部M110は、CMYK評価画像データを取得する。CMYK評価画像データは、CMYK画素データで構成されたビットマップデータであり、複数の評価画像を含む評価用印刷画像IM1を表す画像データである。図25は、評価用印刷画像IM1の内容を示す概略図である。
評価用印刷画像IM1には、複数の評価画像として、シアン(C)単色のカラーパッチ群CGと、マゼンタ(M)単色のカラーパッチ群MGと、イエロー(Y)単色のカラーパッチ群YGと、ブラック(K)単色のカラーパッチ群KGとが含まれる。各色のカラーパッチ群CG、MG、YG、KGに含まれる複数のカラーパッチは、C、M、Y、Kのうちの対応する成分値が特定値を有し、他の成分値がゼロである単色画素データで表されている。特定値は、例えば、粒状性の評価に適した濃度を表す値(例えば、256階調の中間値である128)に設定されている。各色のカラーパッチ群CG、MG、YG、KGは、それぞれ、主走査方向(+Dy、−Dy方向)に沿って並んだ3つのパッチ行を有している。各色の3つのパッチ行は、第1種の評価パッチCPb、MPb、YPb、KPbの行と、第2種の評価パッチCPf、MPf、YPf、KPfの行と、第3種の評価パッチCPr、MPr、YPr、KPrの行と、を含んでいる。第1種の評価パッチCPb、MPb、YPb、KPbは、双方向ずれを評価するための評価パッチである。第2種の評価パッチCPf、MPf、YPf、KPfは、往路印刷時におけるヘッド傾きずれを評価するための評価パッチである。第3種の評価パッチCPr、MPr、YPr、KPrは、復路印刷時におけるヘッド傾きずれを評価するための評価パッチである。
図24のステップS1020では、評価画像データ生成部M110は、各評価パッチに用いる位置ずれ補正係数Pcを取得する。具体的には、評価画像データ生成部M110は、第1種の評価パッチCPb、MPb、YPb、KPbのための補正係数Pcbと、第2種および第3種の評価パッチCPf、MPf、YPf、KPf、CPr、MPr、YPr、KPrのための補正係数Pcgとを取得する。補正係数Pcbは、双方向ずれを評価するための位置ずれ補正係数であり、補正係数Pcgは、ヘッド傾きずれを評価するための補正係数である。
ステップS1030では、評価画像データ生成部M110は、取得された補正係数Pcg、Pcbに基づいて、評価パッチ毎に、用いる補正係数Pcを変更しながらハーフトーン処理を実行する。具体的には、評価画像データ生成部M110は、用いる補正係数Pcの値と誤差マトリクスのタイプとを、評価パッチごとに決定する。ハーフトーン処理部M106は、決定された補正係数Pcを用いて、決定されたタイプの誤差マトリクスを作成して、評価パッチごとにそれぞれハーフトーン処理を実行させる。この結果、各評価パッチを表すCMYK画素データがドットデータに変換される。
図26は、評価画像データの生成に用いられる使用誤差マトリクスを説明する図である。図26(A)は、第1種の評価パッチに対するハーフトーン処理で用いられる使用誤差マトリクスの例である。ある評価パッチに対するハーフトーン処理に用いられる使用誤差マトリクスを、当該評価パッチに対応する使用誤差マトリクスとも呼ぶ。この例では、補正係数Pc=Pcbである場合の使用誤差マトリクスMOa、MObを示している。図26において、各使用誤差マトリクスのラインマトリクスLM2、LM3の中にはシフト量が記述されている。例えば、使用誤差マトリクスMOaは、標準誤差マトリクスMAa(図8(A))のラインマトリクスLM2を往路方向にPcbだけシフトさせて作成されることが解る。また、使用誤差マトリクスMObは、標準誤差マトリクスMAb(図8(A))のラインマトリクスLM2を復路方向にPcbだけシフトさせて作成されることが解る。このシフト態様から解るように、使用誤差マトリクスMOa、MObは、双方向ずれが生じている場合に用いられるタイプの使用誤差マトリクスである。使用誤差マトリクスMOa、MObを、補正係数Pc=Pcbに対応する双方向ずれ用誤差マトリクスとも呼ぶ。
図26(B)は、第2種および第3種の評価パッチに対応付けられる使用誤差マトリクスの例を示している。この例では、補正係数Pc=Pcgである場合の使用誤差マトリクスMPa、MPbを示している。使用誤差マトリクスMPaは、標準誤差マトリクスMAa(図8(A))のラインマトリクスLM2を往路方向にPcgだけシフトさせるとともに、標準誤差マトリクスMAaの第3ラインマトリクスLM3を往路方向に2×Pcgだけシフトさせて得られることが解る。使用誤差マトリクスMPbは、標準誤差マトリクスMAb(図8(A))を同様にシフトさせて得られることが解る。このシフト態様から解るように、使用誤差マトリクスMPa、MPbは、ヘッド傾きずれが生じている場合に用いられるタイプの使用誤差マトリクスである。使用誤差マトリクスMPa、MPbを、補正係数Pc=Pcgに対応するヘッド傾きずれ用誤差マトリクスとも呼ぶ。
図25に示す評価用印刷画像IM1における各評価パッチ(長方形の四角)の中に示されている値は、その評価パッチに対応する使用誤差マトリクスの作成に用いられた補正係数Pcの値を示している。この値を、評価パッチに対応する補正係数とも呼ぶ。例えば、シアンの第1種の評価パッチCPbの行(図25の最上端の行)には、7つの第1種の評価パッチCPbが並んでいる。これらの7つ第1種の評価パッチCPbは、それぞれ対応する補正係数Pcの値が異なる7種類の双方向ずれ用誤差マトリクスと対応している。7種類の双方向ずれ用誤差マトリクスに対応する位置ずれ補正係数Pcは、Pcbを刻み幅とし、ゼロを中心とする7種の値−3Pcb〜+Pcbである。
シアンの第2種の評価パッチCPfの行(図25:上から2番目の行)、および、シアンの第3種の評価パッチCPrの行(図25:上から3番目の行)には、それぞれ7つの評価パッチCPf、CPrが並んでいる。各行の7つの評価パッチCPf、CPrには、それぞれ対応する補正係数Pcの値が異なる7種類のヘッド傾きずれ用誤差マトリクスと対応している。7種類のヘッド傾きずれ用誤差マトリクスに対応する位置ずれ補正係数Pcは、Pcgを刻み幅とし、ゼロを中心とする7種の−3Pcg〜+Pcgである。ここで、刻み幅となるPcbやPcgの大きさは、1つの印刷画素分(1ドット分)より細か単位であっても良い。画素単位で表した大きさが、0<Pcb、Pcg<1である場合には、第1実施例で説明した小数分シフトの手法を用いることによって、補正係数Pcに応じた使用誤差マトリクスを作成することができる。
シアンのカラーパッチ群CGの構成について、その詳細を説明したが、他の色のカラーパッチ群MG、YG、KGの構成は、図25から解るように、シアンのカラーパッチ群CGの構成と同様である。
ハーフトーン処理によって評価用印刷画像IM1の全体のドットデータが生成されると、ステップS1040では、評価画像データ生成部M110は、評価用印刷画像IM1を印刷するための評価画像印刷データを生成する。評価画像データ生成部M110は、第1種の評価パッチCPb、MPb、YPb、KPbの各行が、双方向インタレース印刷(図5)によって印刷されるように、評価画像印刷データを生成する。また、評価画像データ生成部M110は、第2種の評価パッチCPf、MPf、YPf、KPfの各行が、往路印刷のみによる片方向印刷によって印刷され、第3種の評価パッチCPr、MPr、YPr、KPrの各行が、復路印刷のみによる片方向印刷によって印刷されるように、評価画像印刷データを生成する。
ここで、評価画像データ生成部M110は、双方向インタレース印刷によって印刷される行(例えば、シアンの第1種の評価パッチCPbの行)は、1回の往路パスと1回の復路パスとの組合せから成る2回のパスで、行全体が印刷されるように、評価画像印刷データを生成する。ここで、図5における往路パスP1(F)と復路パスP2(R)との組合せのように、1回の往路パスと1回の復路パスとの間の副走査の走査量が、副走査方向のドットピッチと同じ量(この例では、ノズルピッチの半分)とされる。このように、最小の副走査量を用いることによって、少ない主走査数で評価パッチを印刷するにも拘わらずに、評価パッチの副走査方向の幅を広くとることができる。すなわち、少ない主走査数で、画質の評価が行いやすい評価パッチを印刷することができる。
ステップS1050では、評価画像データ生成部M110は、印刷実行部200に対して生成された評価画像印刷データを供給する。印刷実行部200は、評価画像用印刷データを印刷して、印刷媒体300上に評価用印刷画像IM1を印刷する。
評価画像印刷処理が終了すると、すなわち、評価用印刷画像IM1が印刷されると、印刷データ生成部M100は、印刷設定処理を実行する。図27は、印刷設定処理の処理ステップを示すフローチャートである。
ステップS2010では、印刷データ生成部M100の画質評価取得部M112は、印刷された評価用印刷画像IM1に対するユーザの目視評価結果を取得する。目視評価結果は、評価用印刷画像IM1における評価パッチの行ごと、すなわち、印刷方式ごと、かつ、インク色ごと、に取得される。画質評価取得部M112は、例えば、操作部170を介して、ユーザが画質(例えば、粒状性)が良いと感じた評価パッチのパッチ番号を、評価パッチの行ごとに受け付ける。
ステップS2020では、印刷設定決定部M114は、取得された目視評価結果に基づいて、印刷方式ごと、かつ、インク色ごと、に適正な位置ずれ補正係数Pcの値を決定する。具体的には、印刷設定決定部M114は、ユーザが画質が良いと指定した評価パッチに対応する補正係数Pc(図25参照)を、適正な補正係数Pcとして決定する。例えば、シアンの印刷について適正な補正係数Pcとして、第1種の評価パッチCPbについての評価結果に基づいて双方向印刷に適した補正係数Pcが、第2種の評価パッチCPfについての評価結果に基づいて往路印刷に適した補正係数Pcが、第3種の評価パッチCPrについての評価結果に基づいて復路印刷に適した補正係数Pcが、それぞれ決定される。印刷設定決定部M114は、決定した複数種類の補正係数Pcを、補正係数データ138として不揮発性メモリ130に格納する。ここで決定された補正係数Pcは、例えば、上述した双方向インタレース印刷や双方向ノンインタレース印刷を実行する際に、使用誤差マトリクスを作成するために用いられる。
以上説明した第6実施例によれば、画像データ(たとえば、ビットマップデータBD)における主走査方向画素位置に対する、印刷媒体300における主走査方向画素位置のずれ(画素位置ずれ)にに起因する印刷画質の変化(例えば、粒状性の変化)を評価することができる複数の評価パッチを印刷実行部200に容易に印刷させることができる。具体的には、インクの吐出タイミングの調整などの煩雑な制御を行うことなく、位置ずれ補正係数Pcの値を変更することによって、使用誤差マトリクスを変更して、適切な評価用印刷画像IM1を印刷することができる。
使用誤差マトリクスは、補正係数Pcに基づいて、標準誤差マトリクスMAのシフト対象ラインマトリクスを主走査方向にシフトして得られる。この結果、印刷媒体300における、対象ラスタラインの画素と他のラスタラインの画素との位置ずれに起因する印刷画質の変化を評価できる評価用印刷画像IM1を印刷実行部200に容易に印刷させることができる。
さらに、補正係数Pcの刻み幅であるPcbやPcgの値が、画素を単位として小数(0<Pcb、Pcg<1)である場合であっても、小数分シフトの手法を用いて、使用誤差マトリクスを作成できる。この結果、1画素より細かい画素位置ずれに起因する印刷画質の変化を評価することができる評価用印刷画像IM1を印刷実行部200に容易に印刷させることができる。
ここで、第1種の評価パッチは、双方向印刷について評価する評価パッチである。上記第6実施例では、第1種の評価パッチに対するハーフトーン処理には、使用誤差マトリクスMOaと使用誤差マトリクスMObとのセットのような誤差マトリクスセットを用いている。使用誤差マトリクスMOaは、処理対象画素が位置するラスタラインが往路印刷によって印刷される場合に用いられる往路用誤差マトリクスの例であり、使用誤差マトリクスMObは、処理対象画素が位置するラスタラインが復路印刷によって印刷され場合に用いられる復路用誤差マトリクスの例である。使用誤差マトリクスMOaのシフト対象ラインマトリクス(第2ラインマトリクスLM2)のシフト方向と、使用誤差マトリクスMOaのシフト対象ラインマトリクスのシフト方向とは、逆向きである(図26)。この構成によって、双方向印刷における画素位置ずれに起因する印刷画質の変化を評価することができる第1種の評価パッチを印刷実行部200に容易に印刷させることができる。
さらには、第2種の評価パッチは、往路印刷のみを用いた片方向印刷を用いて印刷され、第3種の評価パッチは、復路印刷のみを用いた片方向印刷を用いて印刷される。そして、これらの評価パッチには、ヘッド傾きずれ用誤差マトリクスMP(図26(B))を用いたハーフトーン処理が利用される。この結果、ヘッド傾きずれなどの同一色ノズルのノズル位置ずれに基づく画素位置ずれに起因する印刷画質の変化を評価することができる評価用印刷画像IM1を印刷実行部200に容易に印刷させることができる。
また、往路印刷の場合と復路印刷の場合との間でヘッド傾きずれに起因する画素位置ずれの程度が異なる場合がある。これは、ヘッド水平傾きずれ(図13)と、ヘッド鉛直傾きずれ(図15)とが複合したヘッド傾きずれが生じる場合に起こり得る。本実施例では、往路印刷のみを用いた片方向印刷で印刷された第2種のパッチと、復路印刷のみを用いた片方向印刷で印刷された第3種のパッチとの両方を含む評価用印刷画像IM1を印刷する。この結果、ヘッド傾きずれのような主走査方向のノズル位置ずれに基づく画素位置ずれに起因する印刷画質の変化を適切に評価することができる。
さらに、本実施例では、評価用印刷画像IM1の印刷結果に対する画質評価を取得して、取得した画質評価を用いて、後の印刷に使用される補正係数データ138(補正係数Pc)を作成している。したがって、評価用印刷画像IM1を用いて、補正係数データ138を適切に決定することができる。この結果、後の印刷において、画素位置ずれに起因する印刷画質の低下を抑制することができる。
さらに、評価用印刷画像IM1では、主走査方向に沿って、同じ印刷方式によって印刷される評価パッチを並べて配置している。すなわち、主走査方向に沿った同じ行の中に、異なる印刷方式によって印刷される評価パッチを混在させていない。この結果、同じ主走査で、複数の評価パッチを効率良く印刷することができる。この結果、評価用印刷画像IM1を短時間で容易に印刷することができる。本実施例では、同種の評価パッチ間における画質特性の変化を使用誤差拡散マトリクスに対応する補正係数Pcを変化させることで実現している。この事実も評価用印刷画像IM1を短時間で印刷することに貢献している。例えば、主走査中におけるインクの吐出タイミングを変化させることによって、画素位置ずれを生じさせることによって、評価パッチの画質特性を変化させる場合には、たとえ主走査方向に評価パッチを並べたとしても同じ主走査では印刷できない可能性がある。同じ主走査の途中でインクの吐出タイミングを精度良く変更することは困難であるので、複数の評価パッチをそれぞれ別々の主走査で印刷せざるを得ない可能性があるからである。
G.第7実施例:
評価用印刷画像IM1(図25)とは、異なる態様の評価用印刷画像IM2について、第7実施例として説明する。図28は、評価用印刷画像IM2の内容を示す概略図である。この評価用印刷画像IM2は、第4実施例において説明した副走査部260(図19)を備える印刷装置において用いられる。すなわち、印刷媒体300を主走査方向に沿って波状に変形させた状態で、用紙の搬送(副走査)を実行する副走査部260を備える構成において用いられる。
評価用印刷画像IM2では、図20を参照して説明した複数の第1種領域A1のそれぞれに第1パッチ群PG1が配置され、複数の第2種領域A2のそれぞれに第2パッチ群PG2が配置されている。第1パッチ群PG1は、副走査方向に並べられた7つの第1種の評価パッチKPbを含んでいる。第2パッチ群PG2は、副走査方向に並べられた7つの第1種の評価パッチKPbを含んでいる。
第1パッチ群PG1の7つの第1種の評価パッチKPbは、それぞれ対応する補正係数Pcの値が異なる7種類の双方向ずれ用誤差マトリクスと対応している。これらの7種類の双方向ずれ用誤差マトリクスに対応する位置ずれ補正係数Pcは、Pcbを刻み幅とし、1.0を中心とする7種の値(1−3Pcb)〜(1+3Pcb)である。同様に、第2パッチ群PG2の7つの第1種の評価パッチKPbは、それぞれ対応する補正係数Pcの値が異なる7種類の双方向ずれ用誤差マトリクスと対応している。これらの7種類の双方向ずれ用誤差マトリクスに対応する位置ずれ補正係数Pcは、Pcbを刻み幅とし、ゼロを中心とする7種の値−3Pcb〜+3Pcbである。すなわち、第1パッチ群PG1の第1種の評価パッチKPbに対応する補正係数Pcの範囲と、第2パッチ群PG2の第1種の評価パッチKPbに対応する補正係数Pcの範囲とは異なっている。補正係数Pcは、双方向ずれ用誤差マトリクスにおける第2ラインマトリクスLM2のシフト量に対応する。
図19(B)を参照して説明したように、第2種領域A2は、ノズル面npと印刷媒体300との間のギャップが比較的小さい(図19(B)に示すギャップGP3に近い範囲)領域である。第2種領域A2は、ギャップが比較的大きい((図19(B)に示すギャップGP4に近い範囲)領域である。
図19(B)を参照して説明したように、主走査中のインクの吐出タイミングは、山部pybを含む第2種領域A2を基準に調整されているから、第2種領域A2において生じる双方向ずれ(画素位置ずれ)はゼロに近く、第1種領域A1において生じる双方向ずれは比較的大きいことは、容易に推定できる。このために、第2種領域A2に配置される第2パッチ群PG2の第1種の評価パッチKPbには、シフト量がゼロを中心とした範囲にある双方向ずれ用誤差マトリクスを対応させている。そして、第1種領域A1に配置される第1パッチ群PG1の第1種の評価パッチKPbには、シフト量が比較的大きい値(本実施例では、補正係数Pc=1.0に対応するシフト量)を中心とした範囲にある双方向ずれ用誤差マトリクスを対応させている。
評価用印刷画像IM2を用いて、画質評価を行うことによって、複数の第1種領域A1と、複数の第2種領域A2とのそれぞれにおいて、適正な補正係数Pcを取得することができる。取得された補正係数Pcを用いて、適切な補正係数データ138(図20(C)参照)を作成することができる。
この評価用印刷画像IM2を用いることによって、印刷実行部200が、印刷媒体300とノズルとの間のギャップが主走査方向に沿って変化するように変形させた状態で副走査を行う場合に、印刷媒体300の変形に基づく双方向ずれ(画素位置ずれ)に起因する印刷画質の変化を評価することができる。
さらに、対応する誤差マトリクスのシフト量は、第1種領域A1に配置される第1種の評価パッチKPbと、第2種領域A2に配置される第1種の評価パッチKPbとの間で、対応する誤差マトリクスのシフト量の範囲が互いに異なっている。この結果、第1種の評価パッチKPbの数の増大を抑制することができる。
H.変形例:
(1)上記第7実施例において、図27を参照して説明した印刷設定処理において、画質評価取得部M112および印刷設定決定部M114は、上述したステップS2010およびS2020に代えて、図27において破線で示すステップS2040〜S2060を実行しても良い。
ステップS2040では、画質評価取得部M112は、評価用印刷画像IM1が印刷された印刷原稿をスキャナ部400(図1)を利用して読み取ることによって生成されたスキャンデータを取得する。
ステップS2050では、画質評価取得部M112は、取得されたスキャンデータを解析して粒状性評価値GEを取得する。粒状性評価値GEは、印刷画像の粒状性(画像の粗さ)を数値化したものであり、以下の式に従って算出される。
粒状性評価値GEが大きいほど、印刷画像が粗い。ここで、uは空間周波数(単位は、サイクル/ミリメートル)であり、WS(u)は、印刷画像の空間周波数スペクトル(ウイナースペクトラム)である。VTF(u)は、視覚の空間周波数特性である。Dは、印刷画像の平均濃度である。画質評価取得部M112は、スキャンデータをグレースケールに変換した後、スキャンデータに対して二次元のFFT(Fast Fourier Transform)を実行する。画質評価取得部M112は、次に、二次元FFTの結果を、極座標系で表されたデータに変換する。画質評価取得部M112は、極座標系で表されたデータを、角度についての平均化を利用して、一次元化することによって、空間周波数スペクトルWS(u)を得る。なお、空間周波数スペクトルWS(u)と粒状性評価値GEとの算出方法は、例えば、以下の文献「日本写真学会誌 第60巻 第6号(1997年) インクジェットプリンタの画質評価 藤野真」で説明されている。
ステップS2060では、印刷設定決定部M114は、取得された粒状性評価値GEに基づいて、適正な位置ずれ補正係数Pcの値を決定する。具体的には、印刷設定決定部M114は、同一色、同一種の評価パッチ群の中で、粒状性評価値GEの値が最も小さい評価パッチを特定する。そして、特定された評価パッチに対応する補正係数Pc(図25参照)を、適正な補正係数Pcとして決定する。
本変形例によれば、スキャンデータを解析して画質評価を決定するので、ユーザの負担を軽減することができる。
(2)上記各実施例は、適宜に組み合わせることが可能である。例えば、印刷実行部200は、第1実施例における双方向インタレース印刷(2パス印刷)を実行する第1の印刷モードと、第2実施例における双方向ノンインタレース印刷(1パス印刷)を実行する第2の印刷モードを実行可能であっても良い。この場合には、印刷データ生成部M100は、例えば、使用誤差マトリクスとして、第1の印刷モードに用いられる双方向ずれ用誤差マトリクス(図8)と、第2の印刷モードに用いられるヘッド傾きずれ用誤差マトリクス(図14)と、を取得できる。第1の印刷モードでは奇数行ラインと偶数行ラインとの間で双方向ずれが発生するが、第2の印刷モードでは発生しない。このような場合には、第1の印刷モードと第2の印刷モードとの画素位置ずれの差分だけ、第1の印刷モード用の使用誤差マトリクスの特定のラインマトリクスと、第2の印刷モード用の使用誤差マトリクスの対応するラインマトリクスとは、互いに主走査方向にずれていることが好ましい。
上記構成によれば、互いに画素位置ずれが異なる第1の印刷モードと第2の印刷モードとのそれぞれにおいて、画素位置ずれに起因して、印刷画質が低下することを抑制することができる。
(3)上記実施例における印刷実行部200は、インクジェット式の印刷機構であるが、これに代えて、レーザ式の印刷機構であっても良い。特に、複数の主走査ラインについて感光体に同時にレーザを照射できるマルチビームレーザが用いられる場合には、複数の主走査ラインのうちの一方の画素に対して、他方の主走査ラインの画素の位置が主走査方向にずれる場合がある。このような場合には、上記実施例と同様に、かかる画素位置ずれに応じて調整された誤差マトリクスを用いてハーフトーン処理を行うことで、画素位置ずれに起因する印刷画像の画質低下を抑制することができる。
(4)上記第6実施例では、印刷設定決定部M114は、印刷設定として、補正係数データ138に記述される補正係数Pcの値を決定しているが、これに限られない。補正係数Pcは、画素位置ずれの方向と大きさに対応しているから、印刷設定決定部M114は、最も画質が良い(例えば、最も粒状性評価値GEが小さい)評価パッチを特定することによって、印刷実行部200に生じている画素位置ずれの大きさや方向を取得することができる。印刷設定決定部M114は、取得された画素位置ずれに応じたインクの吐出タイミングの変更などを、印刷設定として決定しても良い。
(5)上記各実施例において、誤差マトリクス取得部M108は、補正係数Pcを用いて、標準誤差マトリクスMAのラインマトリクスをシフトさせることによって、使用誤差マトリクスを取得している。これに代えて、予めラインマトリクスがシフトされた、すなわち、予め作成された使用誤差マトリクスが、誤差マトリクスデータ136として不揮発性メモリ130に格納されていても良い。
(6)上記第1実施例では、双方向ずれが生じる態様として、2パスの双方向インタレース印刷を例として説明したが、双方向ずれが生じる他のあらゆる印刷方式についても同様の手法で、画質の向上を図ることができる。例えば、3パス印刷、4パス印刷、8パス印刷などのパス数や、均等送り、変則送りなどの副走査の態様などを考慮して、処理対象画素に対する第1近接ラスタラインおよび第2近接ラスタラインの画素の位置ずれを特定し、当該位置ずれに応じて、対応するラインマトリクスをシフトさせて、印刷方式に応じた使用誤差マトリクスを作成すれば良い。
(7)上記各実施例において、制御装置100と、印刷実行部200とが、互いに異なる筐体に収容された独立の装置として、実現されてもよい。また、上記各実施例において、ネットワークを介して互いに通信可能な複数のコンピュータが、印刷のための画像処理に要する機能を一部ずつ分担して、全体として、印刷のための画像処理の機能を提供してもよい(このようなコンピュータシステムを利用する技術は、クラウドコンピューティングとも呼ばれる)。例えば、評価用印刷画像IM1のスキャンデータを解析して、粒状性評価値GEを算出する処理(上記変形例(1))などは、複合機600と通信可能に接続されたサーバ(例えば、いわゆるクラウドサーバ)にて実行されても良い。
(8)上記各実施例において、ハードウェアによって実現されていた構成の一部をソフトウェアに置き換えるようにしてもよく、逆に、ソフトウェアによって実現されていた構成の一部あるいは全部をハードウェアに置き換えるようにしてもよい。
また、本発明の機能の一部または全部がソフトウェアで実現される場合には、そのソフトウェア(コンピュータプログラム)は、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に格納された形で提供することができる。「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」は、メモリーカードやCD−ROMのような携帯型の記録媒体に限らず、各種のRAMやROM等のコンピュータ内の内部記憶装置や、ハードディスクドライブ等のコンピュータに接続されている外部記憶装置も含んでいる。
以上、実施例、変形例に基づき本発明について説明してきたが、上記した発明の実施の形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨並びに特許請求の範囲を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれる。