JP6297950B2 - こもり音低減装置及びそれを備えた補聴器、オーディオ用イヤホン、耳せん、並びに電気音響変換器 - Google Patents

こもり音低減装置及びそれを備えた補聴器、オーディオ用イヤホン、耳せん、並びに電気音響変換器 Download PDF

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Description

本発明は、外耳道の密閉によるこもり感などを低減するこもり音低減装置と、このこもり音低減装置を備えた補聴器、オーディオ用イヤホン、耳せん、並びに電気音響変換器に関する。
一般に、耳あな型補聴器や耳せんなどは、外耳道を密閉した状態で装着されるため、音が外耳道から外部の空間に放射されない構造となっている。そのため、補聴器等の使用者の自声の響き音や咀嚼音などにより、使用者にとって不快なこもり感を与えることが問題となる。ここで、上述の構造を有する補聴器等においては、こもり感などの要因となる外耳道内の自声の響き音や咀嚼音など(以下、「こもり音」と呼ぶ)は、主に約1kHz以下の低域周波数成分からなる。従来から、この種のこもり音に起因するこもり感を解消する対策が提案されている(特許文献1、2参照)。
上記従来の対策としては、例えば、外耳道と外部を連通するベントを形成し、このベントを通して外耳道内のこもり音を放出する手法が知られている。また例えば、特許文献1に開示されているように、外耳道内の音を電気信号に変換する外耳道用マイクロホンを設け、この外耳道用マイクロホンの出力信号を用いて負帰還をかける負帰還回路を設ける手法が知られている。また例えば、特許文献2に開示されているように、前述の外耳道用マイクロホン及び負帰還回路を設ける構成において、レシーバの振動板と外耳道用マイクロホンの振動板が前室を共有する構造の電気音響変換器を用いる手法が知られている。
特開平6−19486号公報 特開2014−33298号公報
しかしながら、上記ベントを設ける手法を採用する場合、ハウリングを防止するためにゲインや出力音圧を制限しなくてはならないため、使用者が聴こえやすい程度の十分な音圧を得ることが難しい場合がある。また、特許文献1、2のように、外耳道用マイクロホンの出力信号に基づき、外耳道用マイクロホンと負帰還回路を設ける手法を採用する場合、発振することがあるので、それを防止するための調整が容易でない。具体的には、レシーバから外耳道用マイクロホンに最短距離で伝搬する音の位相が180度に近づくと発振しやすくなるので、負帰還のゲインを大きくできなくなる。そのため、こもり音を十分に抑制できない。さらに、特許文献2のように、レシーバの振動板と外耳道用マイクロホンの振動板が前室を共有する場合であっても、レシーバから外耳道用マイクロホンに達する音のレベルに比べ、相対的にこもり音のレベルが小さくなるので、こもり音の抑制が不十分になる。
また、耳あな型補聴器の場合は、ケースの肉厚や配置の制約により、レシーバと外耳道用マイクロホンのそれぞれの開口部とケースの表面との間を接続するチューブを設ける構造が必要となる。このようなチューブは長さ5mm程度であるため、レシーバから外耳道内を経由して外耳道用マイクロホンに至る音響インピーダンスの影響により、位相回転の変化が大きくなること等が懸念される。以上のように、従来の補聴器等によれば、比較的簡素な構成で、外耳道内の密閉時のこもり音を有効に低減する手法は提案されていなかった。
本発明はこれらの問題を解決するためになされたものであり、外耳道用マイクロホンと負帰還部を用いる構成で問題となる発振等の不具合を有効に防止しつつ、使用者にとって不快な外耳道内のこもり音を十分に低減し得るこもり音低減装置等を提供することを目的とする。
上記課題を解決するために、本発明のこもり音低減装置は、電気信号を音に変換し、前記音を出力する第1の開口部(48)が形成された音出力部(40)、音を電気信号に変換し、前記音を入力する第2の開口部(54)が形成された集音部(50)と、前記第1及び第2の開口部と外耳道内の空間を連通する音導部(60)と、前記集音部の電気信号のうち所定の低域周波数成分を前記音出力部に負帰還させる負帰還部とを備え、前記音導部の内部空間は、前記第1及び第2の開口部の間に設けた分離部(61)により、前記第1の開口部側の第1の空間(100)と、前記第2の開口部側の第2の空間(101)と、前記外耳道内の空間と前記第1及び第2の空間のそれぞれに連通する共通空間(102)とに区画され、前記分離部は、当該分離部の先端から前記外耳道内の空間に至る方向における前記共通空間の長さ(L2)が所定の長さとなるように形成され、前記第1の開口部から出力された音は、前記第1の空間及び前記共通間を経由して前記外耳道内に伝搬し、前記外耳道内の音は前記共通間を経由して前記第2の開口部へ伝搬し、前記第1の開口部から出力された音は、前記第1の空間、前記共通空間及び前記第2の空間を経由して、前記第2の開口部に伝搬することを特徴としている。
本発明のこもり音低減装置によれば、外耳道内を密閉したときのこもり音への対策のため、音出力部と集音部と音導部とを一体的に組み合わせ、負帰還部により負帰還ループを構成することにより、こもり音の低周波成分を低減させる。このとき、音導部に設けた分離部によって第1及び第2の空間と共通空間がそれぞれ区画され、音出力部からの音は、第1の開口部、第1の空間、共通空間に達し、そこから第2の空間と外耳道内の両方に伝搬する。そして、外耳道内の空間に伝搬した音はこもり音とともに共通空間から、第2の空間、第2の開口部を経由して集音部にフィードバックされる。このように、音導部に形成した共通空間を介して音出力部からの音が集音部に至るまで外耳道内を経由することなく到達する経路を負帰還経路に含めた構成にすることで、外耳道内の位相回転に起因する発振等の不具合を有効に防止することができる。そして、分離部の相対的な長さを適切に設定することにより、フィードバックの安定性やこもり音の抑制性能などのバランスを考慮した最適な負帰還経路を構成することができる。
本発明において、前記第1の空間には音響抵抗(音響ダンパ)設けることができる。これにより、音出力部の出力音が特定の周波数帯域で持つピークを減衰させつつ、こもり音の伝搬経路に音響抵抗が介在しないため、こもり音の抑制性能を良好に保つことができる。例えば、第1の開口部を覆うように音響抵抗を配置することができる。
本発明において、前記音導部は、多様な材料及び構造で形成することができる。例えば、音導部として、音出力部及び集音部のハウジングに接合された音口とこの音口に連結されたチューブを用いることができる。あるいは、音口とチューブの一方を用いて音導部を形成してもよい。
本発明において、前記共通空間の前記所定の長さは、1.25mmから3.75mmの範囲内に設定することが望ましい。共通空間の長さが短過ぎると音出力部からの出力音が外耳道内を伝搬することによって位相回転し、共通空間の長さが長過ぎると音出力部から集音部に直接達する音が相対的に増加して、こもり音の抑制性能が低下する。
また、上記課題を解決するために、本発明の補聴器は、上述のこもり音低減装置と、外来音を電気信号に変換する外部マイクロホンと、前記外部マイクロホンの出力信号に対し補聴処理を施す補聴処理部と、前記補聴処理部の出力信号に対し、前記負帰還部による前記低域周波数成分の減衰分を予め補正する低域補正部と、を備えて構成される。また、本発明のオーディオ用イヤホンは、上述のこもり音低減装置と、外部からの入力信号に対し、前記負帰還部による前記低域周波数成分の減衰分を予め補正する低域補正部と、を備えて構成される。また、本発明の耳せんは、上述のこもり音低減装置を備えて構成される。これらの補聴器、オーディオ用イヤホン、耳せんのいずれに関しても、上記こもり音低減装置により得られる作用、効果を実現することができる。
さらに、上記課題を解決するために、本発明の電気音響変換器は、電気信号を音に変換し、前記音を出力する第1の開口部が形成された音出力部と、音を電気信号に変換し、前記音を入力する第2の開口部が形成された集音部と、前記第1及び第2の開口部と外耳道内の空間を連通する音導部とを備え、前記音導部の内部空間は、前記第1及び第2の開口部の間に設けた分離部により、前記第1の開口部側の第1の空間と、前記第2の開口部側の第2の空間と、前記外耳道内の空間と前記第1及び第2の空間のそれぞれに連通する共通空間とに区画され、前記分離部は、前記第1及び第2の開口部と前記外耳道内の空間とが対向する方向における前記共通空間の長さが所定の長さとなるように形成され、前記第1の開口部から出力された音は、前記第1の空間及び前記共通区間を経由して前記外耳道内に伝搬し、前記外耳道内の音は前記共通区間を経由して前記第2の開口部へ伝搬し、前記第1の開口部から出力された音は、前記第1の空間、前記共通空間及び前記第2の空間を経由して、前記第2の開口部に伝搬することを特徴としている。
本発明によれば、外耳道用マイクロホンを用いて負帰還をかける手法を前提としつつ、外耳道内における音響インピーダンスの変動に起因する発振等の不具合を防止でき、かつ、こもり音の十分な抑制効果を保つことが可能となる。これにより、使用者にとって不快なこもり音を防止し得るこもり音低減装置と、それを備えた補聴器、オーディオ用イヤホン、耳せんと、これらの基幹部品である電気音響変換器をそれぞれ実現することができる。
本実施形態の補聴器の主要部の構成を示すブロック図である。 本発明に係る電気音響変換器の構造の一例を示す断面図である。 図1の補聴器の主要部のうち、こもり音低減部、電気音響変換器及び外耳道内を含む範囲内の音響インピーダンスに着目した模式図である。 図3との対比のための第1の比較例を示す図である。 図3との対比のための第2の比較例を示す図である。 仕切り板の長さL1とこもり音の抑制量についての周波数特性の検証結果を示す図である。 電気音響変換器の第1の変形例を示す断面図である。 電気音響変換器の第2の変形例を示す断面図である。 本実施形態のオーディオ用イヤホンの主要部の構成を示すブロック図である。 本実施形態の耳せんの主要部の構成を示すブロック図である。
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照しながら説明する。以下の実施形態は、使用者の外耳道内に装着可能な補聴器、耳せん、オーディオ用イヤホンと、これらの機器の主要部であるこもり音低減装置のそれぞれに対し、本発明を適用した例である。
[補聴器]
以下、本発明を適用した補聴器の実施形態を説明する。図1は、本実施形態の補聴器の主要部の構成を示すブロック図である。図1に示す補聴器1は、外部マイクロホン10と、補聴処理部11と、低域補正部12と、こもり音低減部13と、レシーバ14及び外耳道用マイクロホン15を含む電気音響変換器2とを備えて構成される。このうち補聴処理部11、低域補正部12、こもり音低減部13は、例えば、ディジタル信号処理を実行可能なDSP(Digital Signal Processor)や、アナログ信号処理を実行可能なアナログ回路により一体的に構成される。
図1の構成において、外部マイクロホン10は、外部空間から伝わる音を収集し、それを電気信号に変換して補聴処理部11に出力する。レシーバ14は、こもり音低減部13から出力される電気信号(信号S2)を音に変換する。また、外耳道用マイクロホン15は、外耳道内の空間から後述の伝搬経路を経由して伝わる音を収集し、それを電気信号(信号S3)に変換する。ここで、レシーバ14及び外耳道用マイクロホン15は一体的に本発明の電気音響変換器2に組み込まれている。電気音響変換器2の構造及び動作について詳しくは後述する。
補聴処理部11は、外部マイクロホン10の出力信号に対し、使用者の聴力特性や使用環境に応じて個別に設定された所定の補聴処理を施す手段である。補聴処理部11によって施される補聴処理としては、例えば、外部マイクロホン10の出力信号に対するマルチバンドコンプレッション、ノイズリダクション、トーンコントロール、ボリュームコントロール、出力制限処理などの多様な処理を適用可能である。
低域補正部12は、補聴処理後の信号に対し、こもり音低減部13の後述の動作による低域周波数成分の減衰分を予め補正する手段である。図1の例では、低域補正部12が、低域増強部20を含んで構成される。これにより、補聴処理部11の出力信号のうち、補正の必要のない周波数成分はそのまま通すとともに、補正が必要な周波数成分(主に低域周波数)は、低域増強部20を介して増幅される。なお、低域補正部12は、図1の構成には限られず、所望の補正を実現し得る多様な構成を適用することができる。
こもり音低減部13は、外耳道内のこもり音を低減する役割がある。すなわち、使用者が補聴器1を装着した状態では、そのケース(不図示)により外耳道の開口が塞がれるので、補聴器の使用者の自声や咀嚼音などにより、その音が大きく聞こえ(こもり音)、使用者に不快感(こもり感)を与える恐れがある。よって、本実施形態では、こもり音への対策として、電気音響変換器2及びこもり音低減部13を用いて、こもり音を低減可能な構成を採用している。
こもり音低減部13は、低域反転増幅部30及び加算部31により構成される。低域反転増幅部30は、外耳道用マイクロホン15から出力される信号S3に含まれる低域周波数成分を抽出して所定のゲインで増幅し、その極性を反転して信号−S4を出力する。こもり音は主に約1kHz以下の低域周波数成分からなるので、低域反転増幅部30は、こもり音の成分の負帰還のために約1kHz以下の低域周波数を抽出するフィルタを含んで構成される。加算部31は、低域補正部12から出力される信号S1と、低域反転増幅部30から出力される信号−S4を加算し、レシーバ14に入力される信号S2を生成する。つまり、信号S2は、次式で表すことができる。
S2=S1−S4
なお、低域反転増幅部30及び加算部31は、外耳道用マイクロホン15からの信号S3と同じ極性の信号S4を出力する低域増幅部と、信号S1から信号S4を減算する減算部とで置き換えて考えても同様の機能を実現できる。
加算部31により生成された上記信号S2はレシーバ14で音に変換される。この音は、電気音響変換器2内の後述の空間を経由して外耳道用マイクロホン15に入力され、信号S3に変換される。以上のように、低域反転増幅部30と、加算部31と、電気音響変換器2は、負帰還ループを構成し、主に低域周波数からなるこもり音の成分を負帰還により低減する役割がある。
次に、図1の電気音響変換器2の具体的な構造について説明する。図2は、本発明に係る電気音響変換器2の構造の一例を示す断面図である。図2に示す電気音響変換器2は、図1のレシーバ14として機能する音出力部40と、図1の外耳道用マイクロホン15として機能する集音部50と、音出力部40、集音部50、外耳道のそれぞれの間の音の伝搬路となる音導部60とを一体的に備えた構造を有する。なお、図2には、説明の便宜上、互いに直交するX軸及びZ軸を表記している。
音出力部40は、例えば、バランストアーマチュア型のレシーバを用いて構成され、アーマチュア41と、マグネット42、43と、ヨーク44と、コイル45と、振動板46と、前室47と、開口部48(本発明の第1の開口部)を備えており、全体がハウジングに収納されている。このうち、アーマチュア41、マグネット42、43、ヨーク44、コイル45は磁気回路を構成し、コイル45に印加される電気信号(信号S2)により磁気回路が変位し、アーマチュア41を介して振動板46を振動させることにより、電気信号に応じた音が出力される。音出力部40から出力される音は、前室47及び開口部48を介して音導部60に伝搬する。
集音部50は、例えば、エレクトレットコンデンサ型のマイクロホンを用いて構成され、振動板51と、インピーダンス変換器52と、前室53と、開口部54(本発明の第2の開口部)を備えており、全体がハウジングに収納されている。音導部60から開口部54及び前室53を介して入力された音が振動板51を振動させると、インピーダンス変換器52を介して振動板51の振動に応じた電気信号(信号S3)が発生する。図2の例では、集音部50のX方向のサイズが音出力部40に比べて小さい場合を示しているが、集音部50のX方向のサイズを音出力部40と同程度あるいは大きくしてもよい。
音導部60は、音出力部40の開口部48と、集音部50の開口部54と、外耳道内の空間とをそれぞれ連通する内部構造を有する。また、音導部60の内部空間は、音導部のX方向の一端に取り付けられた仕切り板(本発明の分離部)61により、空間100(本発明の第1の空間)、空間101(本発明の第2の空間)、共通空間102の3つに区画されている。すなわち、図2の仕切り板61を挟んで、一方の空間100は音出力部40の開口部48に面し、他方の空間101は集音部50の開口部54に面している。また、仕切り板61の先端(分岐部)61aから図2の右側に位置する共通空間102は、一方の端部が空間100、101に連通し、他方の端部が外耳道内の空間に連通している。
音導部60としては、多様な材料及び形態を採用することができる。例えば、金属製の音口やゴム製のチューブを用いることができる。この場合、音口又はチューブの一方からなる音導部60を用いる場合のほか、開口部48、54のそれぞれに接続された音口とチューブの両方を組み合わせた音導部60を用いてもよい。例えば、開口部48、54側となる音導部60の基端側が音口で形成され、その音口を覆うようにチューブを接続した構造を採用することができる。
図2の構造において、音出力部40の振動板46を介して出力された音は、前室47を伝搬し、開口部48から音導部60の空間100に達する。この音は空間100から共通空間102に伝搬した後、空間101と外耳道内の空間の両方に伝搬する。このとき、外耳道内の空間に伝搬した音はこもり音(図1)とともに、共通空間102から空間101に伝搬することになるので、それらの音はともに開口部54を介して前室53を伝搬し、集音部50の振動板51を介してインピーダンス変換器52に達する。
すなわち、音出力部40から出力される音に関しては、空間100及び共通空間102を経由して外耳道内の空間に至る伝搬経路と、空間100、共通空間102、空間101を経由して集音部50に至る伝搬経路が存在する。また、外耳道内の音に関しては、共通空間102及び空間101を経由して集音部50に至る伝搬経路が存在する。以上の3つの伝搬経路は、図1の右側の3つの破線矢印として表されている。
また、図2に示すように、X方向に沿った長さとして、空間100、101の長さL1と、共通空間102の長さL2をそれぞれ示している。なお、長さL1は、仕切り板61の長さに一致し、長さL1、L2の和は、音導部60の長さに一致する。本実施形態では、長さL1、L2の設定に応じて、こもり音の抑制性能等が変化する。このうち、共通空間の長さL2は、こもり音の抑制性能に与える影響が大きいが、詳しくは後述する。
次に図3は、補聴器1の主要部(図1)のうち、こもり音低減部13、電気音響変換器2及び外耳道内を含む範囲内の音響インピーダンスに着目した模式図である。図3では、図1の外部マイクロホン10、補聴処理部11、低域補正部12については表記を省略している。図3には、音響インピーダンスZ1、Z2、Z3、Z3’をそれぞれ表記している。音響インピーダンスZ1は図2の前室47から空間100までの範囲の音響インピーダンスであり、音響インピーダンスZ2は図2の空間101から前室53までの範囲の音響インピーダンスある。また、共通空間102に関連して、音響インピーダンスZ3は、空間100から空間101に至る音に対する音響インピーダンスであり、音響インピーダンスZ3’は外耳道内から各空間100、101に至るこもり音に対する音響インピーダンスである。なお、こもり音は、自声が口腔内の音響インピーダンスZearを含む経路を介して共通空間102に入力されるものとして表される。
図3において、レシーバ14の出力音は、音響インピーダンスZ1、Z3、Z2の順に伝搬し、外耳道用マイクロホン15に入力されるとともに、音響インピーダンスZ3’を伝搬して外耳道内に至る。一方、外耳道内のこもり音を含む音は、音響インピーダンスZ3’、Z2の順に伝搬し、外耳道用マイクロホン15に入力される。このうち、音響インピーダンスZ1、Z2は主に空間100、101の構造に基づいてそれぞれ得られるものであり、音響インピーダンスZ3、Z3’は主に共通空間102の構造に基づいて得られるものである。本実施形態では、空間100、101(仕切り板61)の長さL1と共通空間102の長さL2の設定に応じて各音響インピーダンスZ1、Z2、Z3、Z3’を変化させることができる。
ここで、図3との対比のため、前述の長さL1、L2が境界値に設定されている場合について説明する。図4は、仕切り板61の長さL1を延長して共通空間102が存在しない状態(L2=0)の第1の比較例を示している。また、図5は、仕切り板61を設けず(L1=0)、かつ、音出力部40及び集音部50の各前室47、53を一体化した状態(1つの前室を挟んで音出力部40及び集音部50の各振動板46、51が対向する状態)の第2の比較例を示している。
まず、図4の第1の比較例によれば、仕切り板61の長さL1を延長して共通空間102が存在しないので、レシーバ14の出力音は、音響インピーダンスZ4、外耳道内、音響インピーダンスZ5の順に伝搬し、外耳道用マイクロホン15に入力される。一方、こもり音は、外耳道内から空間101の音響インピーダンスZ5を経由して外耳道用マイクロホン15に入力される。このうち音響インピーダンスZ4、Z5は、図3の音響インピーダンスZ1、Z2に対応するが、負帰還経路に外耳道内の空間が介在する点で図3とは異なる。そのため、第1の比較例の場合、外耳道内における音響インピーダンスの変動の影響を受けて不安定になり、音の位相が回転することによる発振等の不具合を生じやすい。
また、図5の第2の比較例は、特許文献2の図1の構造を想定(仕切り板61を取り外して共通の前室を設けた)したものであり、レシーバ14の出力音は、極めて小さい音響インピーダンスZ7を経由して外耳道用マイクロホン15に入力されるとともに、音響インピーダンスZ6’を伝搬して外耳道内に至る。一方、こもり音を含む音は、外耳道内から前述の音響インピーダンスZ6’を経由して外耳道用マイクロホン15に入力される。つまり、音響インピーダンスZ7が極めて小さく、かつ、負帰還経路に図3の音響インピーダンスZ1、Z2や図4の音響インピーダンスZ4、Z5が介在しないので、レシーバ14から外耳道用マイクロホン15に達する音のレベルは大きくなるのに対して、外耳道内のこもり音が外耳道用マイクロホン15に入力されるレベルは音響インピーダンスZ6’により、相対的に小さくなるので、こもり音の抑制性能が低下することが問題となる。また、図5において、後述の音響ダンパ(音響抵抗)を音導部60に設ける場合、音響インピーダンスZ6’に音響ダンパが追加されることになるので、こもり音のレベルがさらに小さくなってしまい、こもり音の抑制性能もさらに低下するという問題がある。
これに対し、本実施形態の図3の構成は、仕切り板61の長さL1が第1の比較例(図4)に比べて短く、かつ、第2の比較例(図5)に比べて長く設定できるので、第1及び第2の比較例のそれぞれの欠点をカバーすることができる。すなわち、共通空間の長さL2を所定の値に設定することにより、こもり周波数成分以外で、負帰還経路に外耳道内の空間が介在しないようにして、発振の防止を図るとともに、レシーバ14の出力音と外耳道内のこもり音がそれぞれ適度なレベルで外耳道用マイクロホン15に入力されるようにし、こもり音の抑制性能の向上を図ることができる。
図6には、仕切り板61の長さL1(共通空間102の長さL2)とこもり音の抑制量についての周波数特性の検証結果を示している。本検証においては、音導部60のX方向の長さL1+L2=5mmとし、それに対して仕切り板61の長さL1を0〜5mmの範囲内において数段階で変化させ、周波数100〜700Hzの範囲内においての比較を行っている。図6の抑制性能の結果から、仕切り板61の長さL1が、1.25mm、2.5mm、3.75mmの場合には、特にこもり感などの低減に有効な100〜300Hzにおいて−20dBを下回る抑制性能であり、このうちL1=3.75mmのときに最も良好な抑制性能となる。一方、L1=0mmの場合には、200Hzにおいて−20dBを下回っているものの100Hz、300Hzでは約−20dBである。また、L1=5mmの場合には、全ての周波数において、−20dB以下を満たしていないことがわかる。
ここで、共通空間102の長さL2に着目すると、L1=1.25〜3.75(mm)の範囲は、L2=3.75〜1.25(mm)の範囲に対応する。ここで、発明者の知見により、音導部60の長さが変化する状況で、仕切り板61の長さL1よりも、共通空間102の長さL2に依存してこもり音の抑制性能が定まることが確認されている。従って、音導部60の長さに関わらず、共通空間102の長さL2を、1.25〜3.75(mm)の範囲内に設定することが望ましい。
本発明を適用した電気音響変換器2については、図2に示す構造例には限られず、多様な変形例がある。図7は、電気音響変換器2の第1の変形例を示す断面図である。第1の変形例においては、音出力部40の開口部48を覆う音響ダンパ(音響抵抗)62を配置した点が特徴的である。なお、音響ダンパ62以外の構造は図2と同様であるため、説明を省略する。例えば、音響ダンパ62は、所定の音響抵抗値を有する材料により形成される。補聴器1に用いるレシーバ14は特定の周波数帯にピークを有するので、音響ダンパ62を設けることにより、音出力部40の出力音における前述のピークを効果的に低減することが可能となる。
なお、第1の変形例において音響ダンパ62を設ける位置は、開口部48の近傍には限られず、空間100の内部における開口部48と共通空間102の間の所望の位置とすることができる。第1の変形例では、外耳道内のこもり音の伝搬経路に音響ダンパ62が介在しない配置となるので、こもり音を確実に低減して、その抑制性能が劣化する事態を防止することができる。
次に図8は、電気音響変換器2の第2の変形例を示す断面図である。第2の変形例においては、二股状の断面形状を有する音導部63を用いた点が特徴的である。すなわち、図8に示すように、音導部63の構造は、分岐部63aの左側で2本のチューブに分岐し、分岐部63aの右側で1本のチューブとなっている。そして、音出力部40と集音部50が若干離れて配置されており、それぞれの開口部48、54が音導部63の二股の2本のチューブの各先端に接続されている。このような音導部63を用いる場合であっても、夫々開口部48、54から分岐部63aまでのチューブの長さL1と、分岐部63aから右端までの長さL2については、図2の長さL1、L2と同様の役割がある。
[オーディオ用イヤホン]
以下、本発明を適用したオーディオ用イヤホンの実施形態を説明する。本実施形態のオーディオ用イヤホンは、多くの点で上述の補聴器と共通であるため、以下で主に異なる点について説明する。図9は、本実施形態のオーディオ用イヤホン70の主要部の構成を示すブロック図である。図9には、オーディオ用イヤホン本体(不図示)に内蔵される構成要素と、外部に設けたオーディオ装置71が示される。このうち、低域補正部12、及びこもり音低減部13と、レシーバ14と、外耳道用マイクロホン15については、上述の補聴器(図1)と同様であるため、説明を省略する。一方、図9の構成のうち図1と異なるのは、外部マイクロホン10及び補聴処理部11を設けることなく、オーディオ装置71を低域補正部12に接続可能に構成した点である。また、一般に、オーディオ用イヤホン70は音楽を聴くなどの用途に用いられ、例えば、補聴器に比べても周波数帯域が広くなるので、その点を考慮して低域補正部12や低域反転増幅部30の周波数特性を設定することが望ましい。
図9において、オーディオ装置71から送出されるオーディオ信号は、低域補正部12及びこもり音低減部13を経由してレシーバ14から音として出力される。レシーバ14、外耳道用マイクロホン15及びこもり音低減部13による負帰還の動作と電気音響変換器2の構造については、既に説明した通りであり、負帰還経路における発振を防止しつつ、こもり音を十分に低減することができる。
[耳せん]
以下、本発明を適用した耳せんの実施形態を説明する。本実施形態の耳せんは、その主要部が上述の補聴器の部分的な構成と共通であるため、以下では主に異なる点について説明する。図10は、本実施形態の耳せん80の主要部の構成を示すブロック図である。図10には、例えば、シリコン系、ウレタン系、ABS系などの樹脂材料により形成される耳せん本体(不図示)に内蔵される構成要素が示される。また、図10の耳せん80は、電気回路に電力を供給する電池等の電源(不図示)を備えている。このうち、こもり音低減部13、レシーバ14、外耳道用マイクロホン15については、上述の補聴器(図1)と同様であるため、説明を省略する。図10の構成のうち図1と異なるのは、外部マイクロホン10、補聴処理部11、低域補正部12を設けない点と、こもり音低減部13に対して信号S1を入力することなく閉じた負帰還ループを構成した点である。
一般的な耳せんは、補聴器やオーディオ用イヤホンのように外部からの入力信号は不要であり、通常は電気回路が不要である。しかし、耳せんを使用者が装着している際に外耳道を密閉した状態になると、こもり音により不快感は避けられない。よって、本実施形態の耳せん80は、こもり音低減部13の電気回路を搭載することにより、こもり感を低減して使用者の不快感の解消を図っている。この場合、こもり音だけではなく、使用者の頭部周囲から外耳道に侵入する音についても有効に低減できる。レシーバ14、外耳道用マイクロホン15及びこもり音低減部13による負帰還の動作と電気音響変換器2の構造については、既に説明した通りであり、負帰還経路における発振を有効に防止しつつ、こもり音を十分に低減することができる。
[こもり音低減装置]
上記各実施形態では、本発明を、補聴器1、オーディオ用イヤホン70、耳せん80にそれぞれ適用する場合を説明したが、本発明は、これらに限らず多様な形態のこもり音低減装置に適用することができる。すなわち、図1、図9、図10にそれぞれ示したこもり音低減部13と、レシーバ14及び外耳道用マイクロホン15を含む電気音響変換器2を備えたこもり音低減装置を構成し、単独で、あるいは他の機器に組み込んで本発明を適用することができる。このようなこもり音低減装置は、使用者の外耳道に装着可能で、こもり音を低減する機能を有していれば、それ以外の点については多様な機能や構成を持たせることができる。
以上、本実施形態に基づき本発明の内容を具体的に説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で多様な変更を施すことができる。例えば、本実施形態の主要部の構成(図1、図9、図10)や電気音響変換器2の構造(図2、図7、図8)については、上記実施形態で開示した内容に限定されるものではなく、本発明の作用効果を得られる限り、適宜に変更可能である。
1…補聴器
2…電気音響変換器
10…外部マイクロホン
11…補聴処理部
12…低域補正部
13…こもり音低減部
14…レシーバ
15…外耳道用マイクロホン
20…低域増強部
30…低域反転増幅部
31…加算部
40…音出力部
41…アーマチュア
42、43…マグネット
44…ヨーク
45…コイル
46…振動板
47…前室
48…開口部
50…集音部
51…振動板
52…インピーダンス変換器
53…前室
54…開口部
60、63…音導部
61…仕切り板
62…音響ダンパ
70…オーディオ用イヤホン
71…オーディオ装置
80…耳せん
100、101…空間
102…共通空間

Claims (7)

  1. 電気信号を音に変換し、前記音を出力する第1の開口部が形成された音出力部と、
    音を電気信号に変換し、前記音を入力する第2の開口部が形成された集音部と、
    前記第1及び第2の開口部と外耳道内の空間を連通する音導部と、
    前記集音部の電気信号のうち所定の低域周波数成分を前記音出力部に負帰還させる負帰還部と、
    を備え、
    前記音導部の内部空間は、前記第1及び第2の開口部の間に設けた分離部により、前記第1の開口部側の第1の空間と、前記第2の開口部側の第2の空間と、前記外耳道内の空間と前記第1及び第2の空間のそれぞれに連通する共通空間とに区画され、
    前記分離部は、当該分離部の先端から前記外耳道内の空間に至る方向における前記共通空間の長さが所定の長さとなるように形成され、
    前記第1の開口部から出力された音は、前記第1の空間及び前記共通間を経由して前記外耳道内に伝搬し、前記外耳道内の音は前記共通間を経由して前記第2の開口部へ伝搬し、前記第1の開口部から出力された音は、前記第1の空間、前記共通空間及び前記第2の空間を経由して、前記第2の開口部に伝搬する、
    ことを特徴とするこもり音低減装置。
  2. 前記第1の空間には、音響抵抗が設けられていることを特徴とする請求項1に記載のこもり音低減装置。
  3. 前記音導部は、前記音出力部及び前記集音部のハウジングに接合された音口と当該音口に連結されたチューブとにより構成されることを特徴とする請求項1又は2に記載のこもり音低減装置。
  4. 前記共通空間の前記所定の長さが1.25mmから3.75mmの範囲内に設定されることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のこもり音低減装置。
  5. 請求項1から4までのいずれか1項に記載のこもり音低減装置と、
    外来音を電気信号に変換する外部マイクロホンと、
    前記外部マイクロホンの出力信号に対し補聴処理を施す補聴処理部と、
    前記補聴処理部の出力信号に対し、前記負帰還部による前記低域周波数成分の減衰分を予め補正する低域補正部と、
    を備えることを特徴とする補聴器。
  6. 請求項1から4までのいずれか1項に記載のこもり音低減装置と、
    外部からの入力信号に対し、前記負帰還部による前記低域周波数成分の減衰分を予め補正する低域補正部と、
    を備えることを特徴とするオーディオ用イヤホン。
  7. 請求項1から4までのいずれか1項に記載のこもり音低減装置を備えることを特徴とする耳せん。
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