次に、本発明に係る好適実施形態を挙げ、図面に基づき詳細に説明する。
まず、本実施形態に係る乳頭洗浄装置1の構成について、図1〜図8を参照して具体的に説明する。
乳頭洗浄装置1は、基本的な構成として、接続ラインUsにより接続した洗浄ユニットU1と本体部U2を備え、具体的な形態の一例を図6に示す。本体部U2は、洗浄ユニットU1に対して洗浄液Lf,Lsを供給する洗浄液供給手段6及び電力を供給する電力供給手段7を備える。
図6に示す乳頭洗浄装置1は、洗浄ユニットU1と本体部U2を台車部81に搭載したものであり、自由に移動させることができる。台車部81は、底面に複数の移動用の車輪部82…を備えるとともに、上面にハンドル部83を備える。また、台車部81の上面であってハンドル部83側(後側)位置には、洗浄液Lf,Lsを収容する洗浄液貯留部11を搭載するとともに、台車部81の上面であって前側位置には、本体ユニットUmを搭載する。したがって、本体部U2は、洗浄液貯留部11と本体ユニットUmにより構成される。
洗浄液貯留部11は、二つの独立した洗浄液タンク11f,11sを備え、一方の洗浄液タンク11fには第一洗浄液Lfを収容するとともに、他方の洗浄液タンク11sには第二洗浄液Lsを収容する。なお、本発明における洗浄の概念は本発明を実効たらしめる各種処理を含む概念である。したがって、本発明における洗浄には、本来の洗浄のみならず、清拭,殺菌,保護(コーティング)等の各種処理を含むとともに、洗浄液には、水,湯,酸性水(微酸性水),トロクロセン水,ヨウ素系液剤等の各種液体を含み、洗浄液であるか薬液(殺菌剤,コーティング保護剤等)であるかなどの用途は問わない。実施形態として例示する、第一洗浄液Lfは、乳頭Mに対するディッピング処理を行うための薬液であり、第二洗浄液Lsは、乳頭Mに対する清拭処理(洗浄処理)を行うための洗浄液である。
一方、本体ユニットUmは、第一ユニットUmfと第二ユニットUmsを備え、それぞれ台車部81の上面に起立したポスト部21により支持される。ポスト部21は、台車部81の上面に固定した固定ポスト部21cと、この固定ポスト部21cに着脱可能な被支持ポスト部21sを有し、この被支持ポスト部21sの外周面後側上部に第一ユニットUmfを固定するとともに、被支持ポスト部21sの外周面前側下部に第二ユニットUmsを固定する。被支持ポスト部21sは所定長さのパイプ部材を使用する。これにより、この被支持ポスト部21sの下端開口を固定ポスト部21cに装着し、固定ピン又はボルトナット等の固定部材22,22により両者間を固定できるとともに、固定部材22,22を外すことにより、被支持ポスト部21sを固定ポスト部21cから離脱することができる。
また、被支持ポスト部21sの上端付近には、洗浄ユニットU1を着脱可能に保持するユニットホルダ部23を取付ける。このユニットホルダ部23は、L形に折曲したカバー機能を兼用する取付部23cを備え、この取付部23cは被支持ポスト部21sの上端付近に取付ける。この取付部23cには一対の保持ロッド部23f,23fを取付ける。この保持ロッド部23fと23f間の間隔は、後述する洗浄ユニットU1のブラシカップ部2の直径よりも稍大きく選定し、かつ平行に配する。さらに、取付部23cには、保持ロッド部23f,23fに、洗浄ユニットU1が保持されたことを検出するユニット検出部(リミットスイッチ)25を付設する。
他方、洗浄ユニットU1は、図7及び図8に示ように、基本的な構成として、乳牛C(図12)の乳頭Mを挿入口2iから内部に挿入可能なブラシカップ部2,このブラシカップ部2に挿入した乳頭Mを洗浄するブラシ機構部3,このブラシ機構部3を回転させる回転駆動部4及びブラシカップ部2の内部に洗浄液Lf,Lsを放出する洗浄液放出部5u,5dを備える。
この場合、ブラシカップ部2は、全体を円筒形に形成し、上端開口が挿入口2iとなる。また、図8に示すように、ブラシカップ部2の上端位置より稍下側の位置となる外周面には、ブラシカップ部2の直径よりも大きいリング盤状の鍔部30を一体形成する。この鍔部30は、図2〜図4に示すように、ブラシカップ部2(洗浄ユニットU1)を一対の保持ロッド部23fと23f間に収容した際に、鍔部30の両側下面が各保持ロッド部23f,23fの上に載置可能な直径を選定する。
さらに、ブラシカップ部2の上部に位置する内周面には、上下二段に配した洗浄液放出部5u,5dを設ける。この洗浄液放出部5u,5dを設けるに際しては、ブラシカップ部2の内周面の上部にリング形の噴射部形成部材31を嵌め入れて構成する。この場合、噴射部形成部材31は、その外周面に、周方向に沿ったリング状の凹溝による上下一対の液通路32f,32s(図2,図3参照)を有するとともに、各液通路32f,32sと内周面間に複数の放出口Hu…,Hd…を貫通形成する。これにより、図2及び図4に示すように、上側の洗浄液放出部(上放出部)5uに、周方向に沿って等間隔に配した六つの放出口(上放出口)Hu…が設けられるとともに、図3に示すように、下側の洗浄液放出部(下放出部)5dに、周方向に沿って等間隔に配した六つの放出口(下放出口)Hd…が設けられる。上放出部5uと下放出部5dは、それぞれ上下に離間して設けられ、上放出部5u(上放出口Hu…)は、後述する洗浄部材35の上方に配されるとともに、下放出部5d(下放出口Hd…)は、洗浄部材35の下方に配される。
また、上放出部5uには、下放出部5dにおける下放出口Hd…に連通する一つの放出口(補助放出口)Hdpを設ける。この放出口Hdpは、配置部位として上放出部5uに位置しているが上放出部5uには連通していない。即ち、放出口Hdpは、図4に示すように、上放出部5uを貫通し、ブラシカップ部2の内周面に臨む。この際、放出口Hdp先端の放出方向Fpは、ブラシカップ部2の中心に向き、かつ図3に示すように、水平線Xhに対して稍下方に向くように下向角度Qsを選定する。これにより、上放出部5uは、第一洗浄液Lfb及び第二洗浄液Lsの双方を放出可能な独立した二組の放出口、即ち、上放出口Hu…及び補助放出口Hdpを備えた構成となるとともに、下放出部5dは、第二洗浄液Lsのみを放出可能な独立した一組の下放出口Hd…を備えた構成となる。この場合、放出口Hdpの下向角度Qsを選定するに際しては、第二洗浄液Lsが乳頭Mに対して効果的に降りかかり広く行き渡ること、挿入口2iから外部に溢れ出ないこと等を考慮して選定する。
このように、洗浄液放出部5u,5dを構成するに際しては、洗浄液放出部5u(又は5d)に、第一洗浄液Lfb又は第二洗浄液Lsの一方のみを放出可能な独立した一組の放出口Hu…(又はHd…)を設けて構成してもよいし、或いは第一洗浄液Lfb及び第二洗浄液Lsの双方を放出可能な独立した二組の放出口Hu…,Hdpを設けて構成してもよいなど、各種の実施形態を選択可能なため、各種洗浄液に対応した処理の最適化及び高性能化、更には多機能化及び多様化を実現できる
ブラシ機構部3は、図8に示すように、底面部下面を回転駆動部4の回転シャフトに結合し、この回転駆動部4により回転するカップ状(円筒状)をなすブラシホルダ部41と、このブラシホルダ部41の周面に保持され、ブラシカップ部2に挿入した乳頭Mの周面部Mfを洗浄(清拭)する周面部洗浄ブラシ部42と、ブラシホルダ部41により軸方向Fsの所定範囲にわたって変位自在に支持されるとともに、三つのスプリング43…(二つのスプリング43…は図示を省略)により挿入口2i側に付勢され、乳頭Mにおける少なくとも先端部Msの洗浄(清拭)を行う先端部洗浄ブラシ部44を備える。
周面部洗浄ブラシ部42は、図7及び図8に示すように、連結リング部34r(図8)及びこの連結リング部34rの下面から下方に延設した三つのブラシ支持部34p…を備え、各ブラシ支持部34p…は連結リング部34rの周方向に沿って120〔゜〕間隔で配される。したがって、各ブラシ支持部34p…の装着時にはブラシホルダ部41に係合(嵌合)し、ブラシホルダ部41と一体に回転する。そして、各ブラシ支持部34p…の内側面に周面ブラシ42x…を取付ける。周面ブラシ42xは、シリコンゴムを用いたシート材の前端辺から複数の切込みを設けることにより複数のブラシ片を形成したブラシシート部42xp…を軸方向Fsに所定間隔おきに配列させて構成する。この際、各ブラシシート部42xp…は、当該ブラシシート部42xp…の面を回転方向(旋回方向)に対して略平行に配する。
連結リング34rの上面には洗浄部材35を取付ける。洗浄部材35は、円盤リング状に形成し、中央に乳頭Mが挿通する挿通孔を有する。洗浄部材35は、上面から上方に突出する複数のフィン状部35f…を有する。この場合、各フィン状部35f…は放射方向に形成するとともに、周方向に沿って一定間隔おきに配する。洗浄部材35はシリコンゴムにより一体成形する。これにより、洗浄部材35は、ブラシカップ部2の挿入口2iに配され、ブラシ機構部3と一体に回転することにより乳頭Mにおける根元部位Mbを洗浄する。
先端部洗浄ブラシ部44は、図7及び図8に示すように、先端面ブラシ44sと三つの境曲面ブラシ44r…を備える。先端面ブラシ44sは、乳頭Mの先端部Msにおける先端面Mssに当接して当該先端面Mssの洗浄を行うものであり、硬度の低いシリコンゴムを用いて全体を、中心から120〔゜〕間隔で放射三方向に延出した形状に形成し、上面には多数の円柱突起部46…を設ける。円柱突起部46…は、上端にエッジ部が形成され、乳頭M上の汚れを掻き取ることができる。境曲面ブラシ44r…は、先端面Mssから周面Mfに至る境曲面Msrに当接して当該境曲面Msrの洗浄を行うものであり、シリコンゴムにより形成し、図8に示すように、複数の切り溝を入れた二枚のシートを組み合わせた形態に形成する。
一方、回転駆動部4は、ケーシング51にブラシモータ52を内蔵して構成し、ケーシング51の上端面からブラシモータ52の回転シャフトが上方に突出する。そして、ケーシング51の上端はブラシカップ部2の下端開口に取付けるとともに、ケーシング51の下面にはコネクタ53を取付ける。また、ケーシング51には、ブラシカップ部2の内部に連通する排液口部54を一体に形成する。なお、ブラシカップ部2の外周面には手で持った状態で操作できる運転スイッチ55s(図1)を付設する。
他方、本体ユニットUmにおける第一ユニットUmfは、全体が第一ハウジング56により覆われ、内部に、第一洗浄液Lfを泡沫化する泡沫生成手段13を備える。なお、図面は、泡沫生成手段13の理解を容易にするため、泡沫生成手段13として泡沫生成部14を用いた場合を示す。この泡沫生成部14は、図1に示すように、薬液ポンプ71及びエアポンプ72を備え、薬液ポンプ71の吸入側は接続チューブを介して前述した洗浄液タンク11fに接続するとともに、エアポンプ72の吸入側は大気に臨ませる。また、薬液ポンプ71の吐出側とエアポンプ72の吐出側はそれぞれ接続チューブを介して気液混合部73の取込口に接続する。気液混合部73の一例を図5に示す。例示の気液混合部73は、内部に、薬液ポンプ71から供給される第一洗浄液(薬液)Lfとエアポンプ72から供給される空気Aを混合することにより第一洗浄液Lfを泡沫化(ムース化)する混合室73rを有しており、この混合室73rにより泡沫化した第一洗浄液Lfbは、気液混合部73の吐出口から吐出する。
一方、本発明では、泡沫生成手段13として、界面活性させた第一洗浄液Lfを洗浄液放出部5uに供給し、ブラシ機構部3の回転により泡沫化する泡沫生成機能Fbを用いる。この場合、構成上は、図1に示すように、薬液ポンプ71の吐出側と継手管68fを接続チューブ100により直接接続して泡沫生成機能Fbを実現することができる。また、界面活性させた第一洗浄液Lfには、界面活性能力の高い第一洗浄液Lf又は界面活性剤を添加した第一洗浄液Lfが含まれる。このように、泡沫生成機能Fbに基づく泡沫生成手段13を採用すれば、別途構成する泡沫生成部が不要となるため、部品点数の削減を図れるとともに、これに基づく装置の小型化及び低コスト化を実現できる。
一方、本体ユニットUmにおける第二ユニットUmsは、全体が本体ハウジング60により覆われ、図1に示すように、下側に配した洗浄液処理ユニットUpと上側に配した制御ユニットUcを内蔵する。この場合、制御ユニットUcは、防水構造のケーシング61を備え、このケーシング61の内部に制御部(コントローラ)62を配設する。制御部62は各種制御を実行するマイクロコンピュータ及びメモリを含むコンピューティング機能を備える。したがって、制御部62は、少なくとも、所定の洗浄条件を設定する機能を備えるとともに、設定された所定の洗浄条件に従って洗浄液Lf(Lfb),Lsを各放出部5u,5dから放出(噴射)させるシーケンス制御を実行するための制御プログラムを格納する。また、ケーシング61にはバッテリ63を内蔵し、制御部62に接続する。なお、制御部62は、外部電源によって使用可能であり、本体ハウジング60には外部電源端子を備えている。バッテリ63は着脱式であり、外部電源端子を使用する場合には、ケーシング61から外部に取出すことができる。
他方、前述した、ユニット検出部25(リミットスイッチ),ブラシモータ52,運転スイッチ55sは、それぞれ第二ユニットUmsに内蔵する制御部62に接続するとともに、ブラシカップ部2の下端付近に処理スイッチ55pを取付け、この処理スイッチ55pを制御部62に接続する。また、洗浄ユニットU1におけるケーシング51に設けた排液口部54は、廃液チューブ58を介して洗浄液処理ユニットUpの廃液チューブ接続口67iに接続する。洗浄液処理ユニットUpは廃液回収タンク67を備え、この廃液回収タンク67に廃液チューブ接続口67iが連通する。さらに、洗浄液チューブ59f,59sは廃液チューブ58の内部に挿通させ、一端となる流出端を、洗浄ユニットU1におけるブラシカップ部2の内部に設けた接続口部及びブラシカップ部2の内部流路を介して、上放出部5u(液通路32f),下放出部5d(液通路32s)にそれぞれ接続する。各洗浄液チューブ59f,59sの他端となる流入端は、廃液チューブ接続口67iを通して、廃液回収タンク67に付設した継手管68f,68sの下端口にそれぞれ接続する。これにより、本体ユニットUmと洗浄ユニットU1は、洗浄液チューブ59f,59sを含む廃液チューブ58と接続ケーブル65を有する接続ラインUsにより接続される。
洗浄液処理ユニットUpに備える廃液回収タンク67には吸気ファン69を臨ませる。また、一方の継手管68fの上端口は接続チューブを介して第一ユニットUmfに内蔵する気液混合部73の吐出口に接続するとともに、他方の継手管68sの上端口は接続チューブを介して第二ユニットUmsに内蔵する送液ポンプ75の吐出口に接続する。吸気ファン69は制御部62に接続する。なお、廃液回収タンク67において、67eは自動排出を行うオートドレインであり、回収された洗浄液(廃液)Lrはオートドレイン67e及び排水管91を通して外部における所定の排出場所(糞尿溝等)に排出される。
次に、本実施形態に係る乳頭洗浄方法を含む乳頭洗浄装置1の使用方法及び動作(機能)について、図9に示すフローチャート及び図10及び図11を含む各図を参照して説明する。
搾乳作業を開始するに当たり搾乳に必要な段取りを行う。まず、図示を省略した搾乳機を接続した搾乳システムにおける吸引系の真空度が規定レベルか否かを確認し、規定レベルを外れている場合には必要な調整(設定)を行う(ステップS1)。また、本実施形態に係る乳頭洗浄装置1を準備するとともに、搾乳に必要なその他の用具(衛生用手袋等)を準備する(ステップS2)。図6は、乳頭洗浄装置1の非使用時における状態を示す。乳頭洗浄装置1を準備するに際しては、一方の洗浄液タンク11fに第一洗浄液(薬液)Lfを収容するとともに、他方の洗浄液タンク11sに第二洗浄液(洗浄剤)Lsを収容する。この場合、第一洗浄液Lfは、泡沫化して使用するため、泡沫化が良好に行われるように、予め、希釈液により薄めるなどにより第一洗浄液Lfの濃度を最適化する。
搾乳に必要な段取りが終了したなら、最初に、乳頭洗浄装置1を使用して乳牛Cの乳頭Mに対するプレディッピング処理を行う(ステップS3)。プレディッピング処理を行う際には、作業者は洗浄ユニットU1を手で持ち、ユニットホルダ部23から離脱するとともに、図12に示すように、ブラシカップ部2の挿入口2iに乳牛Cの乳頭Mを挿入する。なお、洗浄ユニットU1における先端部洗浄ブラシ部44は、スプリング43…により上方に付勢されるため、乳頭Mが未挿入のときは、図8に示す最上昇位置にあるが、乳頭Mが挿入されれば、下降変位する。
そして、処理スイッチ55pをONにするとともに、このON状態をプレディッピング処理用の目標時間(例えば、5〜30〔秒〕程度)継続する。これにより、泡沫化(ムース化)した第一洗浄液Lfbが洗浄液チューブ59fを介して上放出部5uに供給され、図10及び図2に示すように、各上放出口Hu…から放出される。この結果、泡沫化した第一洗浄液Lfbがブラシカップ部2の内部に充満し、ブラシカップ部2の内部に挿入した乳頭Mの表面における略全面に塗布される。即ち、殺菌処理及び洗浄(清拭)効果を高めるための前処理となる乳頭Mに対するプレディッピング処理が行われる。
また、プレディッピング処理時にはブラシ機構部3を回転作動させ、乳頭Mに対して、泡沫化した第一洗浄液Lfbをまんべんなく塗布する。これにより、少量の洗浄液でも高い洗浄効果(殺菌効果)を得ることができることに加え、使用する第一洗浄液Lfの使用量を減らすことができ、洗浄液コストの削減にも寄与できる。
図14には、この効果を裏付けるためのデータを示す。同図中、試験区D3は、泡沫化した第一洗浄液Lfbを使用するもブラシ機構部3は回転させない条件で行ったものである。また、試験区D4は、泡沫化した第一洗浄液Lfbを使用すると同時にブラシ機構部3を回転させる本実施形態に係る標準的洗浄方法である。この際、第一洗浄液Lfは、試験区D3では24〔g/頭〕を使用し、試験区D4では10〔g/頭〕を使用した。この結果、乳頭付着菌残存率は、試験区D3では0.7〔%〕になり、試験区D4では0.8〔%〕になった。なお、乳頭付着菌残存率は、(清拭後の乳頭菌数〔logCFU〕)/(清拭前の乳頭菌数〔logCFU〕)〔%〕から求めた。また、乳頭菌数〔logCFU〕は、乳頭端周辺部における略3平方センチメートルの領域を試験用スワブで拭取り、10ミリリットル希釈液中で懸濁捕集したものを略50倍に希釈するとともに、一般好気性細菌用フィルム培地で培養し、コロニー数を計数したものを指数化した。その他の条件として、洗浄液供給時間は、試験区D3を5.2〔秒〕とし、試験区D4を3.8〔秒〕とした。ブラシ機構部3の動作時間はいずれの試験区も1乳頭当たり1.6〔秒〕間とし、吸引動作時間は1乳頭当たり5.0〔秒〕間とした。なお、第一洗浄液Lfにはトロクロセン溶液を用いた。
したがって、図14から明らかなように、一般的なタオルを用いた清拭方法における乳頭付着菌残存率が13.5〔%〕である点を考慮すれば、試験区D3とD4の洗浄効果には明確な有意差を見ることはできない。しかし、第一洗浄液Lf(Lfb)の使用量は、試験区D3が24〔g/頭〕であるにも拘わらず、試験区D4が10〔g/頭〕で済んでおり、この点を考慮すれば、試験区D4における第一洗浄液Lfの使用量は半分以下で足り、明確な有意差を見ることができる。このように、本実施形態に係る洗浄方法は、洗浄液コストの大幅な削減に寄与できる。
一方、プレディッピング処理中には、吸引ファン69を作動させ、乳頭Mに付着している余剰洗浄液を吸引・除去する。これにより、プレディッピング処理時に、乳頭Mに付着した余剰洗浄液が落下し、牛床を汚損してしまう不具合を排除できる。なお、本実施形態の場合、ブラシ機構部3の回転作動の有無は任意に選択できるため、必要により、ブラシ機構部3を回転させない選択も可能である。
この後、プレディッピング処理用の目標時間が経過したなら処理スイッチ55pをOFFにする。これにより、薬液ポンプ71とエアポンプ72の作動が停止し、プレディッピング処理が終了する(ステップS4)。プレディッピング処理の終了により、洗浄ユニットU1を乳頭Mから離脱させる。なお、このプレディッピング処理は、各乳頭M…に対して行う。プレディッピング処理が全ての乳頭M…に対して行ったなら、洗浄ユニットU1をユニットホルダ部23に戻す。このように、ディッピング処理に、乳頭Mに対する洗浄処理の前処理となるプレディッピング処理を含ませれば、洗浄処理(清拭処理)に対するより望ましい前処理を行うことができるため、後に続く洗浄処理に係わる洗浄効果をより高めることができる。プレディッピング処理が終了したなら前搾りを行う(ステップS5)。前搾りでは、作業者は衛生用手袋を装着し、各分房(乳頭M…)に対して設定回数(望ましくは、5回以上)行う。この前搾りにより第一洗浄液Lfbがより浸透し、プレディッピング処理の効果もより高められる。
前搾りの終了により乳頭清拭処理を行う(ステップS6,S7)。乳頭清拭処理においても乳頭洗浄装置1を使用する。乳頭清拭処理を行う際には、作業者は洗浄ユニットU1を手で持ち、ブラシカップ部2の挿入口2iに乳牛Cの乳頭Mを挿入する。そして、運転スイッチ55sをONにすれば、一連の清拭処理を行うことができる。即ち、運転スイッチ55sのONにより、送液ポンプ75,ブラシモータ52及び吸気ファン69がONになり、洗浄液タング11s内の第二洗浄液(洗浄剤)Lsは、洗浄液チューブ59sを介して下放出部5dに供給される。この結果、第二洗浄液Lsは、図11及び図3に示すように、下放出部5dにおける各下放出口Hd…からブラシカップ部2の内部に放出(噴射)されるとともに、上放出部5uに配した補助放出口Hdpから洗浄部材35の上方であって中心に向けた放出方向Fpに放出(噴射)される。
この清拭処理は、予め設定された処理パターンに従って実行される。一例を示せば、次のようになる。ブラシモータ52は正転と逆転を交互に繰り返す。ブラシモータ52の回転により、先端面ブラシ44s,三つの境曲面ブラシ44r…,周面ブラシ42x…及び洗浄部材35が一体に回転し、乳頭Mに対する洗浄が行われる。さらに、吸気ファン69のONにより、廃液チューブ58内が吸気されるため、ブラシカップ部2の内部におけるプレディッピング処理で使用した第一洗浄液Lfdの残留分及び使用済の第二洗浄液Lsを含む廃液Lrは、廃液チューブ58を介して第二ユニットUmsの廃液回収タンク67内に回収される。廃液回収タンク67に回収された廃液Lrは、オートドレイン67eから自動排出される。この動作は、運転スイッチ55sをONにしている期間だけ行われる。このため、作業者は、乳頭Mの汚れ度合等を考慮して、運転スイッチ55sのON時間を任意に変更できる。また、洗浄部材35の回転により、フィン状部35f…による乳頭Mにおける根元部位Mbの洗浄が行われ、この洗浄には洗浄部材35の上方に配した補助放出口Hdpから噴射される第二洗浄液Lsが用いられる。さらに、吸気ファン69により、廃液チューブ58内が吸引されるため、ブラシカップ部2の内部における廃液Lrは、廃液チューブ58を介して廃液回収タンク67に回収される。廃液回収タンク67に回収された廃液Lrは、オートドレイン67eから自動排出される。
そして、作業者が目標時間を経過したものと判断して運転スイッチ55sをOFFし、又は予め設定した最大時間の経過により自動で停止すれば、ブラシモータ52の回転は、正転方向にのみ回転し、フィン状部35f…による液切り及び乾燥を開始する。また、送液ポンプ75はそのままONを継続し、予め設定した設定時間の経過後にOFFするとともに、同時にブラシモータ52もOFFする。したがって、運転スイッチ55sをOFFにした後に洗浄ユニットU1を乳頭Mから離脱し、洗浄ユニットU1をユニットホルダ部23に戻す。これにより乳頭清拭処理が終了する(ステップS8)。
以上により、搾乳に対する全ての前処理が終了するため、続いて乳牛Cに対する搾乳処理を行う。搾乳に際しては、乳牛Cの各乳頭M…に対して、搾乳ユニットに備える各ティートカップを装着する(ステップS9)。装着が終了したなら、搾乳ユニットのアライメント調整を行う(ステップS10)。アライメント調整は搾乳ユニット及びミルクチューブ等の位置及び角度等が正しい状態となるように調整する作業であり、このアライメント調整を行うことにより、乳房のバランスを保ち、安定した搾乳を行うことができる。
アライメント調整が終了したなら、搾乳ユニットの搾乳開始ボタンをONにして搾乳を開始する。これにより、搾乳ユニットが動作し、通常の搾乳処理が行われる(ステップS11)。そして、搾乳処理が進行し、所定の搾乳終了条件を満たしたなら搾乳処理を終了させるとともに、各ティートカップを各乳頭M…から離脱させる搾乳ユニットの離脱処理を行う(ステップS12,S13)。
搾乳ユニットを離脱させたなら、乳頭洗浄装置1を使用して乳牛Cの乳頭Mに対するポストディッピング処理を行う(ステップS14)。ポストディッピング処理に係わる処理方法は基本的に前述したプレディッピング処理と同じである。即ち、作業者は、ユニットホルダ部23から離脱させた洗浄ユニットU1を手で持ち、図12に示すように、ブラシカップ部2の挿入口2iに乳牛Cの乳頭Mを挿入する。そして、処理スイッチ55pをONにするとともに、このON状態をポストディッピング処理用の目標時間(例えば、5〜30〔秒〕程度)継続する。
これにより、薬液ポンプ71とエアポンプ72が作動し、泡沫化した第一洗浄液Lfbが洗浄液チューブ59fを介して上放出部5uに供給され、図10及び図2に示すように、各上放出口Hu…から放出される。この結果、泡沫化した第一洗浄液Lfbがブラシカップ部2の内部に充満し、ブラシカップ部2の内部に挿入した乳頭Mの表面における全面に付着し、乳頭Mに対するポストディッピング処理が行われる。ポストディッピング処理においても基本的には前述したプレディッピング処理と同様の処理を行うことができる。即ち、ブラシ機構部3を回転作動させ、乳頭Mに対して、泡沫化した第一洗浄液Lfbをまんべんなく塗布するとともに、処理中は、吸引ファン69を作動させ、乳頭Mに付着している余剰洗浄液を吸引・除去する。したがって、ポストディッピング処理時においても、前述したプレディッピング処理と同様の効果を得ることができる。ポストディッピング処理を行うことにより、搾乳後の乳頭Mに対する伝染性細菌感染防止や表皮保護を図ることができる。このように、ディッピング処理に、搾乳後の乳頭Mに対するポストデッィピング処理を含ませれば、プレディッピング処理及びポストデッィピング処理の双方を合わせた省力化が可能になるため、搾乳作業全体の作業性及び作業能率の更なる向上を実現できるとともに、作業全体の更なる労力軽減及び作業内容の単純化に寄与できる。
一方、ポストディッピング処理用の目標時間が経過したなら処理スイッチ55pをOFFにする。これにより、薬液ポンプ71とエアポンプ72の作動が停止し、ポストディッピング処理が終了する(ステップS15)。ポストディッピング処理の終了により、洗浄ユニットU1を乳頭Mから離脱させる。なお、このポストディッピング処理は、各乳頭M…に対して行う。そして、ポストディッピング処理が全ての乳頭M…に対して行ったなら、洗浄ユニットU1をユニットホルダ部23に戻す。この際、乳頭洗浄装置1が自己洗浄モードを備えている場合には、必要により、自己洗浄モードをONにし、洗浄ユニットU1の自己洗浄を行うことができる。自己洗浄モードでは、制御部62に設定された洗浄条件に基づく自己洗浄処理が自動で行われる。即ち、第二洗浄水Lsが非装着の洗浄ユニットU1に供給され、先端面ブラシ44s,三つの境曲面ブラシ44r…,周面ブラシ42x…及び洗浄部材35自身の洗浄(自己洗浄)が行われる。自己洗浄処理は設定時間が経過することにより自動で終了する。自己洗浄モードは、作業者の判断により任意にONさせてもよいし、洗浄ユニットU1をユニットホルダ部23に戻した際に、ユニット検出部25による検出により自動でONさせてもよい。
以上、一頭の乳牛Cに対する搾乳処理について説明したが、搾乳を予定している乳牛Cが残っている場合には、同様の処理手順に従って搾乳処理を行う(ステップS16,S3…)。そして、予定している乳牛C…の全頭に対する搾乳処理が終了したなら、搾乳ユニットに対する洗浄を行う(ステップS16,S17)。これにより、一連の搾乳作業が終了する。
よって、このような本実施形態に係る乳頭洗浄装置1は、ディッピング装置を兼用するため、ディッピング処理及び洗浄処理(清拭処理)の双方の処理を行うことが可能となり、別途のディッピング装置が不要となる。したがって、従来のように異なる二台の独立した装置を用意しなければならない難点を解消できる。この結果、イニシャルコストの削減及び保管や準備等に係わる作業の半減を図れるとともに、二台の装置の使い分けが不要となり、作業性及び作業能率の向上を図ることができる。また、ディッピング処理は、乳頭洗浄装置1の自動化機構(電動化機構)を利用できるため、泡沫化(ムース化)するためのマニュアル操作による作業が不要となる。したがって、手作業用具を用いることに伴う難点を解消、具体的には、処理作業の単純化及びこれに伴う処理作業時の労力軽減を図れる。しかも、ディッピング処理に係わる処理品質のバラツキを低減し、処理品質の安定化を図れるとともに、処理能力の向上による殺菌効果や表皮保護効果等のディッピング処理の総合的な効果をより高めることができる。加えて、ブラシ機構部3を利用できるため、泡沫化した第一洗浄液Lfbをまんべんなく塗布することが可能となり、洗浄効果を高めることができることに加え、結果的に、使用する第一洗浄液Lfの量を減らすことが可能となる。さらに、処理後の余剰洗浄液は、外部に漏れることなく回収されるため、落下により牛床を汚損してしまう不具合も解消できる。
以上、好適実施形態について詳細に説明したが、本発明は、このような実施形態に限定されるものではなく、細部の構成,形状,素材,数量等において、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、任意に変更,追加,削除することができる。
例えば、図13に示すように、四ポートの切換バルブ102等を追加し、洗浄ユニットU1に接続した洗浄液チューブ59f,59sを、切換バルブ102の流出側ポートに接続するとともに、気液混合部73の吐出口に接続した接続チューブ101mと送液ポンプ75の吐出口に接続した接続チューブ101wを、切換バルブ102の流入側ポートに接続することも可能である。これにより、泡沫化した第一洗浄液Lfbを洗浄液チューブ59fと59sの双方に供給することも選択できるとともに、第二洗浄液Lsを洗浄液チューブ59fと59sの双方に供給することも選択できる。なお、接続チューブ101m,101w側へ逆流しないことを条件として二ポートの切換バルブでも同様の機能回路を実現できる。このように、各種バルブを追加して様々な機能回路を実現できる。
また、例示した実施形態において、各放出部5u,5dにおける各放出口Hu…,Hd…は、それぞれ六つずつ設ける場合を示したが、その数量は任意である。したがって、各放出口Hu…,Hd…は、各放出部5u,5dに、少なくとも一つ以上設ける場合を包含する。さらに、補助放出口Hdpは、上放出部5uに一つ配した場合を例示したが、必ずしも設けることを要しない。また、二つ以上設けてもよいし、或いは下放出部5dに、上放出部5uの上放出口Huに連通する補助放出口を配してもよい。一方、洗浄液放出部5u,5dは、少なくとも、上下二段に配した構成を含む構成であれば足り、全体として三段以上の構成であってもよい。他方、ディッピング処理として、プレディッピング処理とポストデッィピング処理を例示したが、例示以外の作業工程で使用しても勿論よく、その用途は問わない。したがって、搾乳以外の用途において利用することも可能である。