開示のセンシングシート及び測定システムでは、光ファイバは、固定部材により部分的に可撓性シートに固定されており、光ファイバが半周以上巻かれた捲回部を複数有する。固定部材は、1つの捲回部を表す円もしくは楕円、長円、円弧状の曲線と隣接する別の捲回部を表す円もしくは楕円、長円、円弧状の曲線を結ぶ接線のうち、光ファイバの接続経路と最も平行に近い接線と前記2つの曲線との各接点のどちらも通過しないように配置されている。
先ず、例えば200℃以上の高温と室温以下のヒートサイクルの影響について説明する。光ファイバが粘着剤により耐熱シートに接着されたセンシングシートでは、本発明者らの検討によれば、粘着剤及び耐熱シートに、初期の室温→高温(>200℃)→室温のヒートサイクル後に1%程度以上の応力収縮が発生することが確認された。また、例えばペルフルオロアルコキシフッ素樹脂(PFA:Perfluoroalkoxy)などの樹脂シートの場合、耐熱性は260℃程度であるが、応力収縮はPFAのグレードにもよるが、例えば1〜3%であることが確認された。
図1は、耐熱シートの全面に粘着剤を塗布して光ファイバを接着した例を説明する図である。図1中、(b)は取付処理の室温時の光ファイバの状態を模式的に示し、(a)は高温時の光ファイバの状態を模式的に示し、(c)はヒートサイクル後の室温時の光ファイバの状態を模式的に示す。図1中(a)にx1で示すように、高温時には耐熱シート及び粘着剤の膨張に伴う伸び歪みによる伝送損失が発生し、ヒートサイクル後には光ファイバの捲回部や捲回部間に発生する微小曲げによる伝送損失で光が伝搬しにくくなる。このように、図1中、(a)の高温時や(c)のヒートサイクル後では、伝送損失により光ファイバを用いた測定が難しくなることが確認された。
図2は、例えば応力収縮が3%以下の透明の樹脂収縮チューブ内の光ファイバの微小曲げの発生例を示す図である。耐熱シートの全面に粘着剤を塗布して図2の光ファイバを接着した場合、250℃以上まで加熱した後に室温に戻した後の様子を観察した結果、ヒートサイクル前では図3に示すように伝送損失の発生は見られなかったが、図4に示すようにヒートサイクル後には微小曲げ発生領域で伝送損失が発生していることが確認された。図3及び図4において、縦軸は光ファイバから得られる戻り光量を任意単位(a.u.)で示し、横軸は光ファイバ位置(m)を示す。光ファイバの捲回部の出入り口で微小曲げが発生するので、図3及び図4において破線で囲んだ収縮範囲で耐熱シートの収縮が発生すると、図3に示すヒートサイクル前では伝送損失はないが、図4に示すヒートサイクル後には伝送損失が発生する。
図5は、第1実施例におけるセンシングシートの一例を示す図である。図5に示すセンシングシート10−1は、光ファイバ11と、光ファイバ11を挟む第1及び第2の紡績布12,13と、光ファイバ11を部分的に少なくとも第1及び第2の紡績布の一方に接着する第1の粘着剤14と、第1及び第2の紡績布12,13を光ファイバ11を除く位置において部分的に接着する第2の粘着剤15を有する。本実施例では、第1及び第2の紡績布12,13は、第1及び第2の可撓性シートの一例である。また、第1及び第2の粘着剤14及び後述する第3の粘着剤16は、第1、第2及び第3の固定部材の一例である。粘着剤は315℃程度以上の高温使用には適さないが、光ファイバと可撓性シートの間の隙間で光ファイバが断線するのを避ける弾力性を保持していることや、指定した領域に小さい誤差で塗布することが可能であるなどの利点があり、使用される。粘着剤でなくても、例えば第1及び第2の固定部材は可撓性と耐熱性のある紡績紐を第1もしくは第2の可撓性シートに編み込んだものでも良く、また第3の固定部材としては磁性体紐などでも構わない。
この例では、第1の粘着剤14は、第1の紡績布12上に図5中縦方向に伸びるストライプ形状に配置されている。また、第2の粘着剤15は、第1の紡績布12上の外周縁部分に配置されている。本実施例においては、第1及び第2の可撓性シートとしてどちらも紡績布を用いている。紡績布は、高純度のSiO2やAl2O3などを用いたガラスマルチフィラメントを紡績糸として製作することができる。このような紡績布は、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)やポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などの低価格な有機系の高耐熱シートと異なり、不燃性を有し高温でガスを発生しないこと、通気性が保てるため、取付面の放熱を阻害しないことなどのメリットがあり、ガスの発生や炉面の温度に対して注意を要する化学プラント等での使用に好適である。
第1及び第2の粘着剤14,15は、同じ粘着材料により一体的に設けられていても良い。なお、センシングシート10−1における光ファイバ11の始端(例えば、図5の左上部分)と終端(例えば、図5の左下部分)には、後述する第2実施例のように保護部材を設けても良い。
光ファイバ11は、複数の捲回部111−1〜111−N(Nは2以上の自然数)を有し、捲回部111−i(i=1〜N−1)を表す円もしくは楕円、長円、円弧状の曲線と隣接する捲回部111−i+1を表す円もしくは楕円、長円、円弧状の曲線を結ぶ接線のうち、光ファイバ11の接続経路と最も平行に近い接線と前記2つの曲線との各接点のどちらも通過しないように第1の粘着剤14が配置されている。
各捲回部111−1〜111−Nを表す円もしくは楕円、長円、円弧状の曲線とは、捲回された光ファイバ11の捲回部入口から捲回部出口までの光ファイバ部分が形成する概ね円形、もしくは概ね楕円形、もしくは概ね長円形、もしくは概ね円弧の形状を言う。各捲回部111−iは、光ファイバ11が半周以上、例えば数周巻かれて形成される。この例では、光ファイバ11は、図5においてセンシングシート10−1の左端及び右端に、一対の捲回部が交互に配置されているが、捲回部111−1〜111−Nの配置は図5に示す配置に限定されるものではない。
センシングシート10−1は、第1及び第2の紡績布12,13のうち一方の光ファイバ11とは反対側の面に配置された第3の粘着剤16を有する。この例では、第3の粘着剤16は第2の紡績布13上に配置されている。第3の粘着剤16は、第1及び第2の紡績布12,13の平面図上で光ファイバ11の経路を避けて配置されている。
この例では、第1の粘着剤14は、第1の紡績布12にストライプ形状に配置され、光ファイバ11は、2つの隣接する捲回部(例えば、捲回部111−1,111−2)を接続する接続経路のうち長い方の接続経路(図5中、水平方向に延在する接続経路)が第1の粘着剤14のストライプ形状を横断している。また、第3の粘着剤16は、上記の長い方の接続経路と平行に、平面図上で上記の長い方の接続経路と重ならないように配置されている。これにより、センシングシート10−1の取付面への取付性が向上するが、光ファイバ11の捲回部111−1〜111−Nの接点は固定されない。例えば第3の固定部材が本例のように粘着剤でなく、可撓性のある磁性体紐を第2の紡績布13に縫い込む形の場合であっても、磁性体紐はわずかに凹凸を形成するが、本実施例によればそのような凹凸は光ファイバの固定部に及ぼす影響が小さくて済む。
図5において、センシングシート10−1を取り付ける取付面が例えば曲面の場合、第1及び第2の紡績布12,13の接着状態を安定に保つため、センシングシート10−1はx方向に沿って曲率が大きい曲面に取り付けるのに適しており、y方向に沿って曲率が小さい曲面に取り付けるのに適している。
第1及び第2の紡績布12,13は、例えばガラス繊維またはシリカ、アルミナ繊維などの無機繊維から作成された織物であり、柔軟性を有する。この例では、第1及び第2の紡績布12,13は、平織りまたは綾織りのガラスクロスであり、第1の紡績布12の厚さは例えば0.3mm〜0.5mm、センシングシート10−1を取付面に取り付けた際に測定対象に近い方の第2の紡績布13の厚さは例えば0.1mmである。第2の紡績布13の厚さを第1の紡績布12の厚さより薄くすることで、センシングシート10−1が取り付けられる取付面が例えば微小な凹凸を有していても、薄い方の第2の紡績布13が取付面の凹凸になじんでセンシングシート10−1の断線を防止することができる。なお、第1及び第2の紡績布12,13に用いられる無機繊維の織り方は、平織りまたは綾織りに限定されるものではなく、第1及び第2の紡績布12,13は互いに異なる織り方の無機繊維を用いても良い。また、第1及び第2の紡績布12,13の織り方は、例えばx方向よりもy方向に曲げやすくするものであっても良い。さらに、第1及び第2の紡績布12,13は、互いに異なる無機繊維で形成されていても良い。
第1及び第2の紡績布12,13は、光ファイバ11の2つの隣接する捲回部111−i,111−i+1を接続する接続経路及びこれらの捲回部111−i,111−i+1を跨ぐように図示を省略する糸で縫い付けられていても良い。この場合、糸にはガラス繊維またはシリカ、アルミナファイバなどを用いた撚糸、編組などを用いても良い。このように第1及び第2の紡績布12,13を糸で縫い付けることにより、例えば第1及び第2の粘着剤14,15が高温で劣化して接着性能が低下した場合でも、センシングシート10−1は安定した測定を続けることができる。
前述したとおり、本実施例においては、第1、第2及び第3の固定部材としては、第1、第2及び第3の粘着剤14,15,16を用いているが、これらは例えばシリコーンなどで形成可能であり、例えば両面粘着テープの形態であっても、塗布される形態であっても良く、要求される粘着性と耐熱性を有するものであれば粘着材料は特に限定されない。さらに、第1及び2の固定部材は、可撓性と耐熱性を有する紡績紐を第1の紡績布12もしくは第2の紡績布13に編み込んだものなどでも良い。また、第3の固定部材は、耐熱性を有する磁性体紐を第2の紡績布13に織り込む形としても良い。取付面が金属面であれば、センシングシート10−1に織り込まれた磁性体紐の磁性により取付面への密着度を向上することができる。さらに、第1、第2及び第3の固定部材は、上記の第1、第2及び第3の粘着剤14,15,16と、光ファイバ11を対応する第1及び第2の可撓性シートに縫い付ける或いは編み込む糸との組み合わせであっても良く、このような組み合わせは、後述する第4の固定部材に用いても良い。
なお、厚さが例えば0.3mm以下の薄いガラスクロスなどの無機繊維の場合、一般的に切断した場合に端部がほつれやすくなる。ほつれが進むと、光ファイバ11の断線リスクが増加する。そこで、本実施例では、第2の粘着剤15を第1の紡績布12上の外周縁部分に配置し、第2の紡績布13を第1の紡績布12に重ねて接着しているので、第1及び第2の紡績布12,13の端部のほつれを防止することができる。
図5に示す例では、第1及び第2の紡績布12,13が横長の矩形形状を有するが、縦長の矩形形状を有しても良い。また、第1及び第2の紡績布12,13の形状は矩形に限定されるものではなく、センシングシート10−1が取り付けられる取付面などに応じて適宜選定可能である。
図6は、光ファイバの捲回部の一例を説明する図である。図6及び後述する図7において、実線は上記の如きヒートサイクル前の光ファイバ11を示し、破線はヒートサイクル後の光ファイバ11を示す。本実施例では、光ファイバ11の隣接する2つの捲回部111−i,111−i+1または捲回部111−i−1,111−i(図6では111−iのみを図示)の夫々を表す2つの円を結ぶ接線のうち、光ファイバ11の接続経路と最も平行に近い接線と前記2つの円との接点のどちらも通過しないように第1の粘着剤14が配置されている。このため、光ファイバ11の接点は、図6に示すようにセンシングシート10−1の収縮に伴い移動可能な構造であり、第1の紡績布12は捲回部111−iの接点を固定しないで第2の紡績布13に接着することができる。図6に示す例では、光ファイバ11の接点11Aは、ヒートサイクルの前後のセンシングシート10−1の収縮に伴い光ファイバ11の接続経路11ti,i+1が変化すると、例えば11A'で示す位置へ移動可能な構造であり、第1の紡績布12は捲回部111−iの接点11Aを固定しないで第2の紡績布13に接着することができる。同様に、光ファイバ11の接点11Bは、ヒートサイクルの前後のセンシングシート10−1の収縮に伴い光ファイバ11の接続経路11ti−1,iが変化すると、例えば11B'で示す位置へ移動可能な構造であり、第1の紡績布12は捲回部111−iの接点11Bを固定しないで第2の紡績布13に接着することができる。
光ファイバ11の隣接する2つの捲回部111−i,111−i+1(または、捲回部111−i−1,111−i)は概ね円形である場合で説明したが、前述のとおり、概ね楕円形、もしくは概ね長円形、もしくは概ね円弧などの曲線でも構わず、光ファイバ11が例えば数周巻かれて形成される。例えば2つの捲回部111−i,111−i+1の夫々が概ね楕円形、概ね長円形、概ね円弧などの2つの曲線で表される場合でも、生成される2つの接線のうち、光ファイバ11の接続経路に最も平行に近い接線と前記2つの曲線との各接点のどちらもを通過しないように第1の粘着剤14が配置されるため、各捲回部111−i,111−i+1がセンシングシート10−1の膨張または収縮に伴い移動可能な構造である点は同じである。
図7は、光ファイバの捲回部の他の例を説明する図である。図7に示す例では、捲回部111−iが部分的に第1の粘着剤14の隣接する2本のストライプ形状に接着している。この場合も、光ファイバ11の接点11A,11Bは、図7に示すようにヒートサイクル前後のセンシングシート10−1の収縮に伴い光ファイバ11の接続経路11ti,i+1,11ti−1,iが変化すると、例えば11A',11B'で示す位置へ移動可能な構造であり、第1の紡績布12は捲回部111−iの接点11A,11Bを固定しないで第2の紡績布13に接着することができる。
次に、光ファイバ11の接点が移動可能な構造と固定されている構造の一例について、図8と共に説明する。図8中、(a)は光ファイバ11の接点が移動可能な場合を模式的に示し、(b)は光ファイバ11の接点が固定されている場合を模式的に示す。センシングシート10−1の収縮が発生すると、光ファイバ11に外力が働くが、この外力により捲回部111−i,111−i+1の周辺に微小曲げが発生するか否かは、光ファイバ11の接点が自由に移動できるか否かによる。
図8において、捲回部111−i,111−i+1は最小曲げ半径を有し、光ファイバ11の接点が固定されておらず移動可能な場合、光ファイバ11の第1の粘着剤14への固定部に到達するまでは、(a)の左側部分から右側部分に実線で示すように、矢印で示す方向へ移動する2つの捲回部111−i,111−i+1を包絡するように光ファイバ11が移動する。最小曲げ半径は、光ファイバ11が伝送損失を生じることなく、円形に曲げられる限界の半径を表す。つまり、センシングシート10−1の収縮により、光ファイバ11に最小曲げ半径以下の微小曲げが発生されることは無い。これに対し、光ファイバ11の接点が固定されていると、矢印で示す方向へ移動する2つの捲回部111−i,111−i+1間の光ファイバ11に空間的な逃げ場があれば、図8中(b)の左側部分に示すように、円弧になるように光ファイバ11は逃げることができる。しかし、矢印で示す方向へ移動する2つの捲回部111−i,111−i+1間の光ファイバ11が第1の粘着剤14で固定された部分に挟まれて逃げ場がない状態では、図8中(b)の右側部分にx2で示すように、最小曲げ半径以下の微小曲げの発生は避けられない。
次に、光ファイバ11の接点が移動可能な構造と固定されている構造の他の例について、図9と共に説明する。図9中、(a)は光ファイバ11の接点が移動可能な場合を模式的に示し、(b)は光ファイバ11の接点が固定されている場合を模式的に示す。図9中、図8と同一部分には同一符号を付し、その説明は省略する。
図9において、捲回部111−i,111−i+1は最小曲げ半径を有し、光ファイバ11の接点が固定されておらず移動可能な場合、光ファイバ11の第1の粘着剤14への固定部に到達するまでは、(a)の左側部分から右側部分に実線で示すように、矢印で示す方向へ移動する2つの捲回部111−i,111−i+1間の光ファイバ11は伝送損失を生じることなく、移動することができる。しかし、図9中(b)の右側部分に示すように、光ファイバ11の接点が固定されて光ファイバ11が自由に移動できない場合、光ファイバ11は捲回部111−i,111−i+1間の膨張により、張力を受けて、伝送損失を生じる。さらに捲回部111−i,111−i+1間の膨張が進んだ場合は最悪の場合、光ファイバ11が図9中(b)の右側部分にx3で示すように断線する。取付面が曲面形状であり、センシングシート10−1が取付面に取り付けられた際に捲回部111−i,111−i+1間が膨張した場合などは、このようなことが起こりうる。図9は、捲回部111−i,111−i+1を形成する光ファイバ11の移動方向が図8の例とは逆の場合の例である。
本実施例では、図5に示すように、例えば捲回部111−2,111−3間の光ファイバ11を横断するように第1の粘着剤14が配置されるが、この場合も捲回部111−2,111−3における光ファイバ11の接点が固定されないように光ファイバ11が部分的に第1の粘着剤14に接着される。図10は、捲回部間の光ファイバの固定方法の違いを模式的に示す図である。図10中、(a)の上部に示すように捲回部間の光ファイバ11が第1の粘着剤14により部分的に固定されている場合には、(a)の下部に示すように捲回部間の光ファイバ11にかかる外力が小さくなるように光ファイバ11が移動する。このため、つり合いの取れた位置では光ファイバ11にかかる外力が小さくなるため、つり合いが取れるように光ファイバ11が移動し、光ファイバ11自体の歪も小さいので、上記の微小曲げは発生しない。他方、図10中、(b)の上部に示すように捲回部間の光ファイバ11が略全て第1の粘着剤14により固定されている場合には、(b)の下部に示すように収縮時に光ファイバ11が移動できないため、光ファイバ11が受ける外力に対するつり合いのために、光ファイバ11に大きな歪が発生し、上記の微小曲げの発生は避けられない。
光ファイバ11を横切る第1の粘着剤14、即ち、固定部の幅は、センシングシート10−1同士や光ファイバ11の固定力が十分であれば、狭い程望ましい。そこで、光ファイバ11の固定部間の距離については、例えば次のように決定しても良い。
図11及び図12は、光ファイバ11の固定部間の距離の決定方法を説明する図である。図11は決定方法の手順を説明するフローチャートであり、図12は図11の決定方法を説明する模式図である。この例では、光ファイバ11が断線寸前でなければ光ファイバ11を曲げても元の形状に戻ることから弾性体とみなし、固定部間の収縮に伴う光ファイバ11の変形がサインカーブ形状になると仮定して、光ファイバ11の固定部間の最小距離を決定する。
図11において、ステップS1では、設計者がセンシングシート10−1を取付面に取り付けた際に外側となる第1の可撓性シートの一例である第1の紡績布12の収縮率を求める。収縮率は、測定により求めても、第1の紡績布12の仕様から求めても良い。ステップS2では、設計者が光ファイバ11を横切る第1の粘着剤14、即ち、固定部間の距離を例えば図12中(a)に示す距離に決定する。ステップS3では、図12中(b)に示すように、設計者がセンシングシート10−1の収縮率分だけ固定部間の距離が短くなり、且つ、光ファイバ11がサインカーブを描くと仮定して、この場合のサインカーブの中央(最小)曲率半径を求める。ステップS4では、設計者がステップS3で求めた最小半径が光ファイバ11の最小曲げ半径より大きいか否かを判定し、判定結果がNOであると処理はステップS2へ戻り固定部間の距離を増加させる。一方、ステップS4の判定結果がYESであると、ステップS5では、設計者がステップS2で求めた固定部間の距離を、光ファイバ11の固定部間の最小距離に決定する。
図13及び図14は、図11の決定方法により光ファイバ11の固定部間の最小距離を決定した場合の初期応力収縮率と最小曲率半径の関係を示す図である。この例で用いた光ファイバ11は、例えば直径0.05mmのコア径を有し直径0.125mmのGI(Graded-Index)型のマルチモードファイバに数10nmのカーボンと数10μmのポリイミドが被覆されて直径が約0.15mmの耐熱素線で形成されている。図13は、捲回部間の間隔が最小曲げ直径と略同じ34mmの場合を示し、2.5%程度の収縮率までならば最小曲げ半径より小さい曲げは発生しないことが確認できる。図14は、捲回部間の間隔が最小曲げ直径より大きい45mmの場合を示し、4%を多少超えた収縮率まで最小曲げ半径より小さい曲げが発生しないことが確認できる。
本実施例では、前述のとおり、第1及び第2の可撓性シートとして第1及び第2の紡績布12,13を用いている。第1及び第2の紡績布12、13は、樹脂などのシートではなく、例えばガラス繊維またはシリカ、アルミナ繊維などの無機繊維を用いて作成された織物である。これは、樹脂製シートの使用が不可能な300℃程度以上で使用するためや高温でのガスの発生を避けるためといった場面のほかに、測定対象に室温と200℃以上の高温間のヒートサイクルがあり、室温で設置した場合に、高温に変化した際の膨張に対応するため、という場面もあるからである。
これにより、例えば取付面が膨張しても、第1及び第2の紡績布12,13の織目が拡がることで対応できる。さらに、捲回部間の光ファイバ11及び粘着剤14間の光ファイバ11の経路は、最短距離で結ぶよりもわずかに長くなっている。つまり、捲回部間の光ファイバ11の長さは近似円の接点間の長さよりも長くなっている。これは、センシングシート10−1を取り付ける取付面の膨張率を設計項目として、その分光ファイバ11に余長を持たせておくためである。なお、測定対象のヒートサイクルに応じて、紡績布12,13の代わりに樹脂などのシートを使用しても良いことは言うまでもない。
第1及び第2の紡績布12,13がガラスクロス製である場合なども、400℃以上では4%以上の初期応力収縮率も発生するが、第1、第2及び第3の粘着剤14,15,16に用いられるシリコーン両面テープなどが粘着性を保持できる300℃以下では2%以下程度であるので、この場合、捲回部間は最小曲げ直径以上離して配置すれば良い。捲回部間が例えば200mm以上の間隔を有する場合、微小曲げは発生しないので、室温〜200℃以上のヒートサイクルに対して伝送損失が発生しない。
本実施例では、捲回部111−iのうち、最小の曲率半径は、捲回部111−iにおける光ファイバ11の最小曲げ半径をr、光ファイバ11の固定面の初期応力収縮率をcで表すと、r÷(1−c)よりも大きいことが好ましい。光ファイバ11の固定面の応力収縮率とは、第1の(外側の)紡績布12とその上の第1の粘着剤14が所定のヒートサイクルを経る前の所定の位置における長さを1としたときに、1回以上のヒートサイクルを経た後の長さをPとすれば、(1−P)×100(%)で決まる値である。初期応力収縮率は数%程度であり、収縮率による縮小は曲げ半径の縮小と等しいとみなせるので、これにより捲回部は最小曲げ半径よりも大きな値を確保できる。
図15は、第2実施例におけるセンシングシートの一例を示す図である。本実施例でも、第1実施例と同様に第1、第2、第3及び第4の固定部材として粘着剤を用いているが、例えば第1、第2及び第4の固定部材は可撓性と耐熱性のある紡績紐を第1もしくは第2の可撓性シートに編み込んだものでも良く、また第3の固定部材としては磁性体紐などでも構わないことは第1実施例と同様である。図15中、図5と同一部分には同一符号を付し、その詳細な説明は省略する。図5に示す第1実施例では、各捲回部が第1の粘着剤14の1本のストライプと接着しているが、第2実施例では、各捲回部が第1の粘着剤14の2本のストライプと接着している。第1実施例と同様に、第1及び第2の可撓性シートとしては、紡績布を用いているが、樹脂シートを用いても構わないのは第1実施例と同様である。
センシングシート10−2では、第1の紡績布12上の第1の粘着剤14が図15中横方向に伸びるストライプ形状を有する。また、光ファイバ11の各捲回部111−1〜111−21(便宜上、捲回部111−1,111−7,111−8,111−14,111−15,111−21の符号のみを図16に示す)は、図7の例のように、第1の粘着剤14の隣接する2本のストライプに接着されている。さらに、第2の紡績布13の第1の紡績布12側の面の外周縁部分には、第2の粘着剤15が配置されている。第3の粘着剤16は、第1及び第2の紡績布12,13の平面図上で光ファイバ11の経路を避けて配置されている。この例では、第3の粘着剤16は、捲回部111−1〜111−21の列と平行に、平面図上でこれらの列と重ならないように配置されている。
本実施例では、第1の(外側の)紡績布12は厚さが0.3mmで400℃以上の耐熱温度を持つ難燃の綾織ガラスクロスであり、第2の(内側の)紡績布13は厚さが0.11mmで400℃以上の耐熱温度を持つ難燃の平織ガラスクロスである。第1及び第2の紡績布12,13を形成するガラスクロスは、夫々例えば1360mm×600mmの大きさに切断されている。第1の粘着剤14は、例えばシリコーン基材で260℃の連続耐熱性を持つ厚さが0.05mmで幅が20mm程度の両面粘着テープである。第2の粘着剤15は、例えば第1の粘着剤14と同様の組成で幅が10mm程度の両面粘着テープである。
光ファイバ11は、例えば直径0.05mmのコア径を有し直径0.125mmのGI(Graded-Index)型のマルチモードファイバに数10nmのカーボンと数10μmのポリイミドが被覆されて直径が約0.15mmの耐熱素線で形成されている。光ファイバ11の最小曲げ半径は、約17mmである。各捲回部111−1〜111−21の直径は100mmであり、光ファイバ11が6周巻かれている。各捲回部111−1〜111−21と第1の粘着剤14の位置関係は、1つの捲回部の横方向上の両側への接続端側がこの捲回部の縁から例えば8mmオフセットした場所に第1の粘着剤14の縁があり、接続部がない側はこの捲回部と第1の粘着剤14の縁は一致している。
この例では、光ファイバ11の捲回部111−1〜111−7が上側の列に配置され、捲回部111−8〜111−14が中央の列に配置され、捲回部111−15〜111−21が下側の列に配置されている。上側の列に対応する第1の粘着剤14の隣接する2本のストライプのうち、下側のストライプは捲回部111−7の中央部分までしか延びていない。また、中央の列に対応する第1の粘着剤14の隣接する2本のストライプのうち、上側のストライプは111−8の左側の捲回部までしか延びていない。これは、捲回部111−7,111−8の円を結ぶ接線のうち、光ファイバ11の接続経路と重なる側の接点が移動できるようにするためである。同様に、中央の列に対応する第1の粘着剤14の隣接する2本のストライプのうち、下側のストライプは捲回部111−14の中央部分までしか延びていない。また、下側の列に対応する第1の粘着剤14の隣接する2本のストライプのうち、上側のストライプは111−15の中央部分までしか延びていない。これは、捲回部111−14,111−15の円を結ぶ接線のうち、光ファイバ11の接続経路と重なる側の接点が移動できるようにするためである。
なお、図15では、各捲回部間(例えば捲回部111−1とその右側の捲回部の間)はほぼ最短距離の光ファイバ11で接続されているように見えるが、実際はセンシングシート10−2を取り付ける取付面の膨張収縮に対応できる程度に余長を保持して接続されている。
この例では、第2の紡績布13の光ファイバ11とは反対側の面に第3の粘着剤16が配置されている。第3の粘着剤16は、センシングシート10−2の平面図上、捲回部111−1〜111−7の上側の列と捲回部111−8〜111−14の中央の列の間と、捲回部111−8〜111−14の中央の列と捲回部111−15〜111−21の下側の列の間に、第2の粘着剤15のストライプと平行に配置されている。第3の粘着剤16は、例えば第1の粘着剤14と同様の組成で幅が20mm程度の両面粘着テープである。
捲回部111−1の始点(入口または出口)と捲回部111−21の終点(出口または入口)は、例えば夫々別のセンシングシートと接続されたり、他の経路へ敷設するための接続用光ファイバ21と接続される。接続用光ファイバ21と、光ファイバ11より太い径の被覆で接続用光ファイバ21を保護する保護部材22は、耐熱ファイバを形成する。光ファイバ11と接続用光ファイバ21は、融着接続部23において融着接続される。外部からの引張力に耐えられるように、保護部材22及び融着接続部23は、第4の粘着剤24により第1及び第2の紡績布12,13の少なくとも一方に接着する。この例では、第4の粘着剤24は、第1の紡績布12上の、第1の粘着剤14が配置される面と同じ面に配置されている。第4の粘着剤24は、例えば第1の粘着剤14と同様の組成で幅が10mm程度の両面粘着テープである。第4の粘着剤24は、第1及び第2の粘着剤14,15のうち少なくとも一方と同じ粘着材料により一体的に設けられていても良い。
補強部材18は、例えば厚さが0.1mm未満で幅が10mm程度のポリイミドテープで形成され、第2の紡績布13の取付面側の外周縁部分に設けられて第2の紡績布13の外周縁部分でのほつれを防止する。補強部材18は、例えば第3の粘着剤16と同様の粘着材料で形成することにより、センシングシート10−2の取付面への取付に用いる粘着剤の機能を備えても良い。なお、補強部材18と同様の補強部材を、第1の紡績布12の外側(光ファイバ11が設けられる側とは反対側)の面の外周縁部分に設けて第1の紡績布12の外周縁部分でのほつれを防止するようにしても良い。
第1実施例では第1及び第3の粘着剤14,16が平面図上で直交する配置を有するが、本実施例では第1及び第3の粘着剤14,16が平面図上で平行な配置を有する。図15に示す例では、第1及び第2の紡績布12,13が横長の矩形形状を有するが、縦長の矩形形状を有しても良い。また、第1及び第2の紡績布12,13の形状は矩形に限定されるものではなく、センシングシート10−2が取り付けられる取付面に応じて適宜選定可能である。
図16は、第3実施例におけるセンシングシートの一例を示す図である。本実施例でも、第1実施例及び第2実施例と同様に、第1及び第2の可撓性シートとしては、紡績布を用いているが、樹脂シートを用いても構わないのは第1実施例及び第2実施例と同様である。また本実施例でも、第1及び2実施例と同様に第1、第2、第3及び第4の固定部材として粘着剤を用いているが、例えば第1、第2、第4の固定部材は可撓性と耐熱性のある紡績紐を第1もしくは第2の可撓性シートに編み込んだものでも良く、また第3の固定部材としては磁性体紐などでも構わないことは第1及び第2実施例と同様である。図16中、図15と同一部分には同一符号を付し、その詳細な説明は省略する。
図16に示すセンシングシート10−3において、第1の紡績布12の中央部分には開口部12Aが設けられ、第2の紡績布13の中央部分には開口部13Aが設けられている。開口部12A,13Aは、いずれも例えば一辺が200mmの矩形形状を有し、第1及び第2の紡績布12,13が接着された状態で一致する位置に配置されている。第1の紡績布12上の第2の粘着剤15は、開口部12Aの周囲にも配置されている。同様に、第2の紡績布13上の補強部材18は、開口部13Aの周囲にも配置されている。なお、開口部12A,13Aの形状は、矩形に限定されるものではなく、例えば円形でも良く、センシングシート10−3が取り付けられる取付面に応じて適宜選定可能である。例えば取付面の中央部分に突起物が設けられている場合、開口部12A,13Aは突起物が貫通しやすい形状で、センシングシート10−3を貫通できる位置に配置される。突起物は、取付面の幾何学的形状の他、例えば配管、機械的または電気的センサ、ネジ、ボルトなどを含む。また、開口部12A,13Aの数は、特に限定されず、センシングシート10−3を取り付ける取付面の形状などに応じた数を設ければ良い。
図16では、開口部12A,13Aが設けられているため、中央の列の捲回部111−10,111−11は設けられていない。このため、光ファイバ11は、中央の列の捲回部111−9から下側の列の捲回部111−19,111−18を包絡するように通過して、中央の列の捲回部111−12に接続される。光ファイバ11は、下側の列では捲回部111−18,111−19を再度通過して捲回部111−21に接続される。この例では、光ファイバ11の接点が増えるため、第1の粘着剤14が捲回部(例えば、捲回部111−17など)を横切るように配置された箇所と、第1の粘着剤14が捲回部(例えば、111−9,111−18など)の中間までしか延びていない箇所が、図15の場合とは異なる。
また、図16では、光ファイバ11の左上端の長さと、光ファイバ11の右下端の長さが、夫々図15における接続用光ファイバ21の分だけ長く形成されており、保護部材22により被覆されている。
図15及び図16において、第1及び第2の紡績布12,13は、光ファイバ11の捲回部111−1〜111−21を接続する接続経路及びこれらの捲回部111−1〜111−21を跨ぐように図示を省略する糸で縫い付けられていても良い。この場合、糸にはガラス繊維またはシリカ、アルミナファイバなどを用いた撚糸、編組などを用いても良い。このように第1及び第2の紡績布12,13を糸で縫い付けることにより、例えば第1及び第2の粘着剤14,15が高温で劣化して接着性能が低下した場合でも、センシングシート10−2,10−3は安定した測定を続けることができる。
ところで、上記の各実施例において、センシングシートは、第1及び第2の可撓性シートの一例である第1及び第2の紡績布のうち、一方のみを有しても良い。この場合、光ファイバは、例えば第1の可撓性シート(または、第2の可撓性シート)の第1の面に、第1の固定部材の一例である第1の粘着材、もしくは第1の面に編み込む、或いは、縫い付ける糸、もしくは第1粘着剤と糸との組み合わせにより固定される。また、第1の面とは反対側の第2の面に第3の固定部材の一例である第3の粘着材を設ければ、センシングシートを第3の固定部材を介して取付面に接着することができる。この場合、光ファイバを設けられた第1の可撓性シート(または、第2の可撓性シート)の第1の面は、露出された状態となるが、第1の面に第2の可撓性シート(または、第1の可撓性シート)を接着する代わりに、例えば保護用のコーティングなどを施しても良い。また、センシングシートを取付面に接着した後に、第1の可撓性シート(または、第2の可撓性シート)の露出された第1の面に保護シートなどを接着しても良い。この場合、保護シートは、例えば第1の可撓性シート(または、第2の可撓性シート)と同様の材料で形成されていても良い。
次に、センシングシートを用いる測定システムについて説明する。図17は、一実施例におけるセンシングシートを用いる測定システムの一例を示すブロック図である。図17に示す測定システム30は、光源の一例であるレーザダイオード31、レンズ系32、光分離手段の一例であるビームスプリッタ33、切り替え手段の一例である光スイッチ34、波長分離部35、光検出部の一例であるフォトダイオード36、及び測定装置37を有する。図17において、フォトダイオード36と測定装置37との間の経路は電気的な配線経路であるが、その他の経路は光学的な経路である。
例えば3枚のセンシングシートが直列に接続されている場合、一端のセンシングシートの保護部材22で保護された開放端の接続用光ファイバ21が光スイッチ34に接続されると共に、他端のセンシングシートの保護部材22で保護された開放端の接続用光ファイバ21が光スイッチ34に接続される。
レーザダイオード31から出射されたレーザ光(または、レーザビーム)は、レンズ系32及びビームスプリッタ33を介して光スイッチ34に供給される。光スイッチ34は、周知の方法で、例えば一定間隔で2本の接続用光ファイバ21を交互に切り替えることで、一方の接続用光ファイバ21から出射されたレーザ光の各センシングシート内の光ファイバ11における後方散乱光を受光する第1のモードと、他方の接続用光ファイバ21から出射されたレーザ光の各センシングシート内の光ファイバ11における後方散乱光を受光する第2のモードを交互に繰り返す。
光スイッチ34が受光した後方散乱光は、ビームスプリッタ33により波長分離部35の方へ偏向される。波長分離部35は、周知の方法で、後方散乱光を測定に用いるラマン散乱光、ブルリアン散乱光などの波長成分に分離する。波長分離部35が後方散乱光を分離する波長成分は、検出するべき温度、歪みなどの状態情報に応じて設定すれば良い。波長分離部35は、例えばビームスプリッタ、光学フィルタ、及び集光レンズなどの組み合わせにより形成可能である。フォトダイオード36は、波長分離部35により分離された、測定に用いる波長成分を検出し、検出波長成分を測定装置37に出力する。測定に用いる波長成分には、ラマン散乱光、ブルリアン散乱光、レイリー(Rayleigh)散乱光などが含まれる。
測定装置37は、例えばプロセッサの一例であるCPU(Central Processing Unit)371、CPU371が実行するプログラムやデータを格納する記憶手段の一例であるメモリ372と、測定結果を出力する出力手段の一例である表示部373を有する。CPU371は、メモリ372に格納されたプログラムを実行することで、フォトダイオード36からの検出波長成分に応じて温度、歪みなどの状態情報を算出して測定結果を求める。測定結果は、表示部373に表示される。表示部373に表示される測定結果は、温度、歪みなどの状態情報に応じて警告を含んでも良い。
図17において、光スイッチ34は複数のセンシングシートの光ファイバ11に対する光の送受信を切り替えるために設けられており、例えば直列に接続されている3枚のセンシングシートにより光ファイバ11がループ状に光スイッチ34に接続される。しかし、測定システム30に例えば直列に接続されている3枚のセンシングシートの一端だけを接続し、これらの直列に接続されている3枚のセンシングシートの他端が開放される場合には、光スイッチ34は省略可能である。また、1枚のセンシングシートの光ファイバ11の両端を直接、或いは、接続用光ファイバ21を介して、ループ状に光スイッチ34に接続しても良い。
図18は、溶融炉に適用した測定システムの一例を説明する図である。図18は、溶融炉41の所定の高さ位置における外壁の温度を測定する例を示す。図18において、溶融炉41は概ね円筒形状を有しているため、例えば赤外線サーモグラフィカメラによる監視の場合、溶融炉41の大きさにもよるが、溶融炉41の一周に渡って外壁を監視するには例えば6台の赤外線サーモグラフィカメラを設置する必要がある。また、溶融炉41の外壁との接触によるやけどを防止する柵を設けると、赤外線サーモグラフィカメラによる監視画像が柵により部分的に遮られてしまう。
これに対し、センシングシートによる監視の場合、単一のセンシングシート、或いは、複数の直列接続されたセンシングシートを溶融炉41の所定の高さ位置における外壁に、溶融炉41の一周に渡って接着すれば良い。また、溶融炉41の外壁との接触によるやけどを防止する柵を設けても、センシングシートを用いた温度測定は柵の影響を受けない。図18の例では、3枚のセンシングシート101〜103が直列接続されて取付面の一例である溶融炉41の外壁に接着されているが、接着するセンシングシートの数は3枚に限定されるものではない。また、各センシングシート101〜103は、上記各実施例におけるセンシングシート10−1,10−2,10−3のいずれの構成を有していても、これらの構成を適宜組み合わせた構成を有していても良い。
図19は、センシングシート101〜103を用いて測定した、図18の溶融炉41の外壁の温度分布の一例を示す図である。図19中、縦軸は溶融炉41の高さ位置を任意単位で示し、横軸は溶融炉41の外壁の方位(360度中の角度位置)、即ち、外周位置を任意単位で示す。この例では、図17の測定装置37は、フォトダイオード36が出力するラマン散乱光の検出波長成分に含まれる、振動数がセンシングシート101〜103の光ファイバ11への入射光より低いストークス光成分と高いアンチストークス光成分の強度比に基づいて、周知の方法で溶融炉41の外壁の温度分布を求める。2次元温度分布は、例えば各光ファイバ11のサンプリング点を用いてドロネー三角形分割(Delaunay Triangulation)を行い、各頂点3つの温度分布から直線的に勾配を付与していくことで生成しても良い。図19において、T1はセンシングシート101の測定範囲における温度分布、T2はセンシングシート102の測定範囲における温度分布、T3はセンシングシート103の測定範囲における温度分布を示す。この例では、図19中、白い領域は約50℃であり、領域が暗くなるにつれて温度が上昇しており、黒い領域は約250℃である。このように、微妙な温度変化を連続的に、赤外線サーモグラフィカメラを用いた場合と同様の2次元的な温度分布として測定できるため、溶融炉41内部で使用されている耐火煉瓦の劣化、水分含有量の多い塊、異常発熱をしている塊などが発生している場合に、速やかに警告することもできる。
図20は、配管に適用した測定システムの一例を説明する図である。図20は、配管51の所定の直線部位における温度を測定する例を示す。図20の例では、1枚のセンシングシート10が取付面の一例である配管51の直線部位の外壁に接着されているが、接着するセンシングシートの数は1枚に限定されるものではない。また、センシングシート10は、上記各実施例におけるセンシングシート10−1,10−2,10−3のいずれの構成を有していても、これらの構成を適宜組み合わせた構成を有していても良い。
図21は、センシングシート10を用いて測定した、図20の配管51の外壁の温度分布の一例を示す図である。図21中、縦軸は配管51の動径を任意単位で示し、横軸は配管51の長手位置(即ち、長手方向上の位置)を任意単位で示す。この例では、図17の測定装置37は、フォトダイオード36が出力するラマン散乱光の検出波長成分に含まれる、振動数がセンシングシート10の光ファイバ11への入射光より低いストークス光成分と高いアンチストークス光成分の強度比に基づいて、周知の方法で配管51の直線部位の外壁の温度分布を求める。この例では、図21中、白い領域は約50℃であり、領域が暗くなるにつれて温度が上昇しており、黒い領域は約250℃である。従って、図22の例では、温度分布が非対称になっているため、配管51の測定部位で減肉が発生していることがわかる。このように、微妙な温度変化を連続的に2次元的な温度分布として測定できるため、温度分布の非対称性から配管51の減肉の有無を検知することができ、減肉が発生している場合に速やかに警告することもできる。具体的には、温度分布の非対称性から配管51の減肉の程度を検知することができるので、減肉の程度が閾値を超えた場合に減肉の発生を検知できる。
一般的に、配管の減肉は、渦電流または交流磁界を用いて観察する専門の業者に依頼することが多い。しかし、このような配管の観察には時間がかかる。また、配管の外周に保温材などが設けられている場合には、保温材を一旦取り外して配管を観察の後、再度保温材を配管の外周に取り付ける必要があり、さらに時間と手間がかかる。
これに対し、センシングシート10による観察の場合、単一のセンシングシート10、或いは、複数の直列接続されたセンシングシート10を配管51の外壁に、配管51の一周に渡って接着すれば良いので、配管の観察に専門の業者に依頼する必要はなく、配管の観察に時間がかかることもない。さらに、配管51の外周に保温材などが設けられる場合であっても、予め一または複数のセンシングシート10を配管51の外周に接着した上に保温材を設ければ良く、配管51の観察のために保温材の取り外し及び取り付けの手間と時間を要することもない。従って、配管51の温度分布を簡単、且つ、短時間で測定することができ、温度分布に基づき配管51の減肉の有無(または、減肉の程度)を簡単、且つ、短時間で検知することができる。
図22は、配管に適用した測定システムの他の例を説明する図である。図22は、配管52の所定の曲線部位における温度を測定する例を示す。図22の例では、1枚のセンシングシート10が取付面の一例である配管52の曲線部位の外壁に接着されているが、接着するセンシングシートの数は1枚に限定されるものではない。また、センシングシート10は、上記各実施例におけるセンシングシート10−1,10−2,10−3のいずれの構成を有していても、これらの構成を適宜組み合わせた構成を有していても良い。
図23は、センシングシート10を用いて測定した、図22の配管52の外壁の温度分布の一例を示す図である。図23中、縦軸は配管52の動径を任意単位で示し、横軸は配管52の長手位置を任意単位で示す。配管52は曲がっているので、曲線部位の長手位置とは、例えば配管52の曲率の中心点から配管52の曲線部位を等角度間隔で放射状に区切った位置に相当する。この例では、図17の測定装置37は、フォトダイオード36が出力するラマン散乱光の検出波長成分に含まれる、振動数がセンシングシート10の光ファイバ11への入射光より低いストークス光成分と高いアンチストークス光成分の強度比に基づいて、周知の方法で配管52の曲線部位の外壁の温度分布を求める。この例では、図23中、白い領域は約50℃であり、領域が暗くなるにつれて温度が上昇しており、黒い領域は約250℃である。従って、図23の例では、温度分布が非対称になっているため、配管52の測定部位で減肉が発生していることがわかる。このように、微妙な温度変化を連続的に2次元的な温度分布として測定できるため、温度分布の非対称性から配管52の減肉の有無を検知することができ、減肉が発生している場合に速やかに警告することもできる。具体的には、温度分布の非対称性から配管52の減肉の程度を検知することができるので、減肉の程度が閾値を超えた場合に減肉の発生を検知できる。
図20及び図22の例において、例えば配管51の直線部位または配管52の曲線部位に継ぎ手などの突起物が設けられていても、例えば図16に示す如き開口部12A,13Aを有するセンシングシート10−3を用い、突起が開口部12A,13Aを貫通するように配置することで、取り付け面上の凹凸などにも対応できる。これは、図18の例において溶融炉41の外壁に凹凸がある場合も同様である。
図24は、配管に適用した測定システムの一例を説明する図である。図24は、配管53の内の所定部位における温度を測定する例を示す。配管53内には、液体または気体が流される。図24の例では、4枚の直列接続されたセンシングシート101〜104が互いに一定間隔を保つ状態で配管53内で図示を省略する吊しワイヤなどにより配管53の内壁に取り付けられているが、例えば上下のセンシングシート101,104は配管53の内壁面に取り付け、中央のセンシングシート102,103は吊しワイヤなどにより間隔を保った状態で上下のセンシングシート101,104に取り付けられていても良い。配管53の内に配置するセンシングシートの数は4枚に限定されるものではなく、センシングシート101〜104は、上記各実施例におけるセンシングシート10−1,10−2,10−3のいずれの構成を有していても、これらの構成を適宜組み合わせた構成を有していても良い。
図25は、センシングシート101〜104を用いて測定した、図24の配管53内の温度分布の一例を示す図である。図25中、x,y,z軸は、夫々図24中のx,y,z軸に対応する。この例では、図17の測定装置37は、フォトダイオード36が出力するラマン散乱光の検出波長成分に含まれる、振動数がセンシングシート101〜104の光ファイバ11への入射光より低いストークス光成分と高いアンチストークス光成分の強度比に基づいて、周知の方法で配管53の所定部位の内部の温度分布を求める。配管53の任意の断面でドロネー三角形分割を用いれば、2次元的な温度分布の一例である断面グラデーションが生成でき、ドロネー四面体分割を用いれば、ドロネー三角形分割の場合と同様に、4面体の頂点の温度分布から勾配を付けてくことで3次元的な温度分布を生成することができる。この例では、図25中、白い領域は約50℃であり、領域が暗くなるにつれて温度が上昇しており、黒い領域は約250℃である。このように、複数のセンシングシートの配置に応じて、2次元的な状態情報だけではなく、3次元的な状態情報を測定することができる。図25の例では、微妙な温度変化を連続的に3次元的な温度分布として測定できるため、配管53内を流れる液体または気体の温度分布を検知することができ、液体または気体に閾値以上の温度変化などが発生している場合に速やかに警告することもできる。
図26及び図27は、測定対象の適用した測定システムの一例を説明する図である。図26及び図27は、測定対象の一例である壁面61の所定部位における温度を測定する例を示し、図26は正面図、図27は側面図を示す。図26及び図27は、壁面61の所定の高さ位置における温度を測定する例を示す。
この例では、図26及び図27に示すように、壁面61に2枚のセンシングシート10が接着されており、2枚のセンシングシート10はベント管201、光コネクタ202、及び光アダプタ203を介して接続されている。各センシングシート10の一端から光コネクタ202までは、光ファイバ11または接続用光ファイバ21と保護部材22(図示せず)がベント管201により被覆されている。保護管の一例であるベント管201のセンシングシート10側の端部は、例えば第4の粘着剤24及び/または第2の粘着剤15によりセンシングシート10に接着されている。ベント管201の他端は、粘着剤などにより光コネクタ202に接着されている。ベント管201は、例えばポリエーテルエーテルケトン(PEEK:Polyetheretherketone)、PFAなどの樹脂で形成されており、外径が5mm、内径が2mm、曲げ半径が100mm以上である。ベント管201に用いる樹脂は、光ファイバ11または接続用光ファイバ21への付加を軽減すると共に、壁面61の温度が高い場合の影響を受けにくくするために、軽量で耐熱性であることが好ましい。
この例では、光コネクタ202が同じ形状を有するので2つの光コネクタ202を光アダプタ203により接続しているが、例えば1枚のセンシングシート10の一端の光コネクタ202が雄側の形状を有し、他端が光コネクタ202が雌側の形状を有する場合であれば、光アダプタ203は省略可能である。
一般的な光コネクタ202は、例えば−20℃〜70℃の温度範囲で使用される。このため、ベント管201の耐熱温度が200℃を超えるものであっても、光コネクタ202及び光アダプタ203が壁面61に接触していると、光コネクタ202及び光アダプタ203が高温の影響を受けて性能が低下する可能性がある。そこで、光コネクタ202及び光アダプタ203の耐熱温度にもよるが、図27に示すように光コネクタ202及び光アダプタ203を壁面61から一定距離離して配置することで、壁面61の温度の影響を受けにくくすることができる。
図28は、コネクタ部分の一例を説明する図である。測定対象の壁面61の温度が例えば200℃まで上昇し放熱量が0.2の場合、図27に示すように光コネクタ202及び光アダプタ203を壁面61から一定距離離して配置しても、放射熱により光コネクタ202及び光アダプタ203の温度が約50℃まで上昇する場合がある。そこで、図28に示す例では、光コネクタ202及び光アダプタ203の部分に高耐熱の保護テープ205を巻いて放射熱から保護している。また、保護テープ205をベント管201と光コネクタ202の接続部分まで巻くことで、埃などの異物が光コネクタ202の接続部分に混入することを防止することもできる。さらに、保護テープ205を巻くことで、光コネクタ202の接続部分の機械的な強度を向上することもできる。保護テープ205の材質は特に限定されないが、例えばポリイミドテープ、ガラスクロステープなどを用いることができる。
図29及び図30は、測定対象の適用した測定システムの他の例を説明する図である。図26及び図27は、測定対象の一例である壁面61の所定部位における温度を測定する例を示し、図26は正面図、図27は側面図を示す。図26及び図27は、壁面61の所定の高さ位置における温度を測定する例を示す。
この例では、図29及び図30に示すように、壁面61に2枚のセンシングシート10が接着されており、2枚のセンシングシート10は編組コード211、光コネクタ212、及び光アダプタ213を介して接続されている。各センシングシート10の一端から光コネクタ212までは、光ファイバ11または接続用光ファイバ21と保護部材22(図示せず)が編組コード211により被覆されている。保護管の一例である編組コード211のセンシングシート10側の端部は、例えば第4の粘着剤24及び/または第2の粘着剤15によりセンシングシート10に接着されている。編組コード211の他端は、粘着剤などにより光コネクタ212に接着されている。編組コード221は、例えば耐熱性のガラス繊維で形成されており、外径が5mm、内径が2mm、曲げ半径が100mm以上である。
この例では、光コネクタ212が同じ形状を有するので2つの光コネクタ212を光アダプタ213により接続しているが、例えば1枚のセンシングシート10の一端の光コネクタ212が雄側の形状を有し、他端が光コネクタ212が雌側の形状を有する場合であれば、光アダプタ213は省略可能である。
一般的な光コネクタ212は、例えば−20℃〜70℃の温度範囲で使用される。このため、編組コード211の耐熱温度が200℃を超えるものであっても、光コネクタ212及び光アダプタ213が壁面61に接触していると、光コネクタ212及び光アダプタ213が高温の影響を受けて性能が低下する可能性がある。そこで、光コネクタ212及び光アダプタ213の耐熱温度にもよるが、図29及び図30に示すように光コネクタ212及び光アダプタ213を壁面61から一定距離離した配置を確実に維持するためのスペーサ216を設け、壁面61の温度の影響を受けにくくすることができる。スペーサ216は、例えばアルミニウムのテープ214により壁面61に固定されている。また、図29に示すように、編組コード212は、保護テープ217によりスペーサ216に接着して、光コネクタ212及び光アダプタ213の壁面61から一定距離離した配置をより確実に維持するようにしても良い。スペーサ216の材質は特に限定されないが、壁面61の温度にかかわらず変形しにくい高耐熱を有する材料であることが好ましい。また、保護テープ217の材質は特に限定されないが、例えば上記の保護テープ205と同様の材料で形成可能である。
図31は、コネクタ部分の一例を説明する図である。測定対象の壁面61の温度が例えば200℃まで上昇し放熱量が0.2の場合、図30に示すように光コネクタ212及び光アダプタ213を壁面61から一定距離離して配置しても、放射熱により光コネクタ212及び光アダプタ213の温度が約50℃まで上昇する場合がある。そこで、図31に示す例では、光コネクタ212及び光アダプタ213の部分に高耐熱の保護テープ215を巻いて放射熱から保護している。また、保護テープ215を編組コード211と光コネクタ212の接続部分まで巻くことで、埃などの異物が光コネクタ212の接続部分に混入することを防止することもできる。さらに、保護テープ215を巻くことで、光コネクタ212の接続部分の機械的な強度を向上することもできる。保護テープ212の材質は特に限定されないが、例えば上記の保護テープ205と同様の材料で形成可能である。
なお、2枚のセンシングシートをベント管または編組コード、光コネクタ、及び光アダプタを用いて接続する代わりに、例えば光融着スリーブを用いて2枚のセンシングシートの光ファイバまたは接続用光ファイバを融着しても良い。この場合、光融着スリーブの耐熱性能または機械的強度に応じて、上記の如き保護テープを光融着スリーブに巻いて保護しても良い。
図26及び図27、または、図29または図30に示す2枚のセンシングシート10を用いて測定した壁面61の温度分布は、図18及び図19と共に説明した溶融炉41の外壁の温度分布を測定する場合と同様に、図17の測定装置37より測定することができる。従って、測定装置37により壁面61の2次元的な温度分布を求めることができる。
ところで、上記の各実施例において、光ファイバの後方散乱を用いて測定する状態情報は温度であるが、例えば状態情報の一例である歪みを測定するようにしても良い。
図32は、センシングシート101〜103を用いて測定した、図18の溶融炉の外壁の温度と歪みの分布の一例を示す図である。図32中、縦軸は溶融炉41の高さ位置を任意単位で示し、横軸は溶融炉41の外壁の方位(360度中の角度位置)、即ち、外周位置を任意単位で示す。
この例では、図17の測定装置37は、フォトダイオード36が出力するブリルアン散乱光の検出波長成分に基づいて、周知の方法で溶融炉41の外壁の温度と歪みの合算値の分布を求める。ブリルアン散乱光を用いた測定では、温度の変化と歪みの変化が合算されて出力されるが、例えば溶融炉41の内部の耐火煉瓦の劣化を判断することが目的である場合、温度の異常により耐火煉瓦が劣化されると金属などで形成された外壁が変形するので、温度と歪みを分けて測定する必要はない。従って、このような場合には、測定された外壁の温度と歪みの合算値に基づいて溶融炉41の内部の耐火煉瓦の劣化を判断すれば良い。
図32において、TD1はセンシングシート101の測定範囲における温度と歪みの合算値の分布、TD2はセンシングシート102の測定範囲における温度と歪みの合算値の分布、TD3はセンシングシート103の測定範囲における温度と歪みの合算値の分布を示す。この例では、図32中、白い領域は合算値が約20の領域であり、領域が暗くなるにつれて合算値が上昇しており、黒い領域は合算値が約100の領域である。この例では、合算値が約80〜約100であるA1で示す領域で合算値の分布に異常が発生しており、溶融炉41の内部の対応する箇所で歪みが異常値を示し耐火煉瓦が劣化していると判断できる。
このように、温度と歪みの合算値の微妙な変化を連続的に、2次元的な温度と歪みの分布として測定できるため、溶融炉41の内部で使用されている耐火煉瓦の劣化、水分含有量の多い塊、異常発熱をしている塊、耐火煉瓦の過大な歪みなどが発生している場合に、速やかに警告することもできる。
なお、上記の如きブリルアン散乱光を用いた測定は、図20、図22、及び図24に示す配管51,52,53の所定部位における歪みの分布を求める場合にも同様に用いることができ、さらに、図27及び図28、または、図29及び図30に示す壁面61の所定部位における歪みの分布を求める場合にも同様に用いることができる。また、図24に示す配管63の所定部位における歪みの分布を求める場合には、温度の分布を求める場合と同様に、3次元的な分布を得ることができる。
上記の各実施例において、光ファイバの後方散乱を用いて測定する状態情報は温度または歪みであるが、例えば状態情報の一例である振動を測定するようにしても良い。
図33は、エンジンに適用した測定システムの一例を説明する図である。図33に示すエンジン81は、例えば船舶などで用いるディーゼルエンジンである。エンジン81の所定部位には、センシングシート10が接着されている。この例では、説明の便宜上、エンジン81の正面に設けられた1枚のセンシングシート10と、エンジン81の側面に設けられた1枚のセンシングシート10が直列接続されており、測定システム70に接続されている。
図34は、他の実施例におけるセンシングシートを用いる測定システムの一例を示すブロック図である。図34に示す測定システム70は、サニャック(Sagnac)干渉式の周知の振動測定方法を採用する。測定システム70は、レーザダイオード31、レンズ系71、カプラ72、偏光子73、カプラ74、位相変調器75、レンズ系76、フォトダイオード36、及び測定装置37を有する。図34において、フォトダイオード36と測定装置37との間の経路は電気的な配線経路であるが、その他の経路は光学的な経路である。
例えば2枚のセンシングシート10が直列に接続されている場合、一方のセンシングシート10の保護部材22で保護された開放端の接続用光ファイバ21がカプラ74に接続されると共に、他方のセンシングシート10の保護部材22で保護された開放端の接続用光ファイバ21が位相変調器75に接続される。また、位相変調器75は、カプラ74に接続されている。
レーザダイオード31が出射したレーザ光は、レンズ系71及びカプラ72を介して偏光子73に入射され、偏光子73において光ファイバ11への入射時の偏光方向が決定され、カプラ74を介して一方のセンシングシート10の光ファイバ11に入射される。他方のセンシングシート10の光ファイバ11から出射されるレーザ光は、位相変調器75に入射され、位相変調器75が検出するべき振動成分(例えば、縦方向成分、横方向成分、進行方向成分など)に応じて偏光子73の偏光方向(透過する光量)をカプラ74を介して変化させる。偏光方向が変化したレーザ光は、カプラ72及びレンズ系76を介してフォトダイオード36により受光される。光ファイバ11を通るレーザ光の偏光方向は、エンジン81から光ファイバ11に加わる振動または衝撃に応じて変化(即ち、回転する)ので、フォトダイオード36が受光する光量は、エンジン81から光ファイバ11に加わった振動または衝撃に応じて変化する。従って、測定装置37は、フォトダイオード36からの検出光量成分に基づいて、光ファイバ11に加わった振動または衝撃、即ち、エンジン81の振動を測定することができる。具体的には、測定装置37のCPU371は、メモリ372に格納されたプログラムを実行することで、フォトダイオード36からの検出光量成分に応じて振動、衝撃などの状態情報を算出して測定結果を求める。測定結果は、表示部373に表示される。表示部373に表示される測定結果は、振動、衝撃などの状態情報に応じて警告を含んでも良い。
図35は、図33のエンジンの出力分布の一例を示す図である。図35中、左側の縦軸はエンジン81のエンジン出力Eoを任意単位で示し、右側の縦軸はエンジン81の振動の平均振幅Evを任意単位で示し、横軸は時間を任意単位で示す。この例では、A2で示す範囲において振動の平均振幅Evが閾値を超えるので、エンジン出力Eoと振動の平均振幅Evの相関などからエンジン81の効率的な稼働、エンジン81のメンテナンス時期などを判断することができる。例えば周知の方法で算出したエンジン出力Eoを図34の測定装置37に入力することで、図35に示す如きエンジン出力Eoと振動の平均振幅Evを表示部373に表示することができる。
また、エンジン81の複数の測定対象部位をカバーするように1枚のセンシングシート10または複数の直列接続されたセンシングシート10を配置することで、複雑な配線などを設けることなく、エンジン81の様々な部位における振動、衝撃などを測定できる。さらに、上記の実施例のように、図17の測定システム30を用いることで、エンジン81の測定対象部位の温度、歪みなどを測定することも可能である。
なお、光ファイバ及び接続用光ファイバは、例えばFGB(Faber Bragg Grating)と呼ばれる周期的な回折格子をコア内に設けられたものであっても良い。この場合、FBGによる反射光を用いた周知の測定方法を採用することで、測定対象の温度、歪み、変位、振動、圧力などの状態情報を算出して測定結果を求めることができる。このように、センシングシートが有する光ファイバは、使用する光を透過するものであれば、特に限定されない。
上記の各実施例によれば、センシングシートは設置環境によらず光ファイバの破損を防止できる。また、センシングシートは、柔軟性を有し、耐熱性を持たせることができるので、取付面が例えば曲面や凹凸を有する場合や、取付面で例えば200℃以上の高温と室温以下のヒートサイクルが発生する場合であっても、取付面に接着して接着状態を確実に維持することができる。
以上の実施例を含む実施形態に関し、更に以下の付記を開示する。
(付記1)
光ファイバと、
第1の可撓性シートと、
前記光ファイバを部分的に前記第1の可撓性シートに固定する第1の固定部材を備え、
前記光ファイバは、前記光ファイバが半周以上巻かれた捲回部を複数有し、
前記第1の固定部材は、1つの捲回部を表す円もしくは楕円、長円、円弧状の曲線と隣接する別の捲回部を表す円もしくは楕円、長円、円弧状の曲線を結ぶ接線のうち、前記光ファイバの接続経路と最も平行に近い接線と前記2つの曲線との各接点のどちらも通過しないように配置されていることを特徴とする、センシングシート。
(付記2)
前記光ファイバの前記捲回部の最小の曲率半径は、前記光ファイバの最小曲げ半径をr、前記光ファイバの固定面の初期応力収縮率をcで表すと、r÷(1−c)よりも大きいことを特徴とする、付記1記載のセンシングシート。
(付記3)
前記1つの捲回部と前記別の捲回部との間の前記第1の固定部材同士の間隔は、前記光ファイバの最小曲げ直径以上離れていることを特徴とする、付記1または2記載のセンシングシート。
(付記4)
前記第1の可撓性シートとの間に前記光ファイバを挟む第2の可撓性シートと、
前記第1及び第2の可撓性シートを前記光ファイバを除く位置において部分的に固定する第2の固定部材をさらに備えたことを特徴とする、付記1乃至3のいずれか1項記載のセンシングシート。
(付記5)
前記光ファイバの前記1つの捲回部と前記別の捲回部との間の接続部において、前記光ファイバは前記1つの捲回部及び前記別の捲回部との間の最短距離よりも長くなるように少なくとも前記第1の可撓性シートに固定されている、付記1乃至4のいずれか1項記載のセンシングシート。
(付記6)
前記第1及び第2の可撓性シートのうち一方の前記光ファイバとは反対側の面に配置された第3の固定部材をさらに備え、
前記第3の固定部材は前記第1及び第2の可撓性シートの平面図上で前記光ファイバの経路を避けて配置されていることを特徴とする、付記4記載のセンシングシート。
(付記7)
前記第1の固定部材は、少なくとも前記第1の可撓性シートにストライプ形状に配置され、
前記複数の捲回部は、前記ストライプ形状のうち1本のストライプで固定されていることを特徴とする、付記6記載のセンシングシート。
(付記8)
前記第1の固定部材は、少なくとも前記第1の可撓性シートにストライプ形状に配置され、
前記複数の捲回部は、前記ストライプ形状のうち隣接する2本のストライプで固定されていることを特徴とする、付記6記載のセンシングシート。
(付記9)
前記第1の固定部材は、少なくとも前記第1の可撓性シートにストライプ形状に配置され、
前記複数の捲回部は、前記ストライプ形状のうち1本のストライプで固定されている捲回部と、隣接する2本のストライプで固定されている捲回部を含むことを特徴とする、付記6記載のセンシングシート。
(付記10)
前記光ファイバの始点及び終点において前記光ファイバに融着接続された接続用光ファイバと、
前記光ファイバよりも太い被覆で前記接続用光ファイバを保護する保護部材と、
前記接続用光ファイバ及び前記保護部材を少なくとも前記第1の可撓性シートに固定する第4の固定部材をさらに備えたことを特徴とする、付記1乃至7のいずれか1項記載のセンシングシート。
(付記11)
前記第1の可撓性シートは、ガラス繊維または無機材料から作成された織物であることを特徴とする、付記1乃至10のいずれか1項記載のセンシングシート。
(付記12)
前記第1の可撓性シートは、前記光ファイバの2つの隣接する捲回部を接続する接続経路及び前記捲回部を跨ぐように糸で縫い付けられていることを特徴とする、付記1乃至11のいずれか1項記載のセンシングシート。
(付記13)
前記第1の可撓性シートは、前記光ファイバを除く位置に設けられた開口部を有することを特徴とする、付記1乃至12のいずれか1項記載のセンシングシート。
(付記14)
測定対象に固定された、少なくとも1枚の請求項1乃至13のいずれか1項記載のセンシングシートの前記光ファイバに光を出射する光源と、
前記センシングシートの前記光ファイバからの光を受光して、前記測定対象の状態情報を測定するための光成分を検出する光検出部と、
前記光検出部が検出した前記光成分に基づいて前記状態情報を算出する測定装置
を備えたことを特徴とする、測定システム。
(付記15)
前記光検出部は、前記光ファイバからの後方散乱光を検出し、
前記測定装置は、前記後方散乱光に基づき前記測定対象の温度または歪みを算出することを特徴とする、付記14記載の測定システム。
(付記16)
偏光子と、
前記光ファイバからのレーザ光を受光し、検出するべき振動成分に応じて前記偏光子の偏光方向を変化させる位相変調器をさらに備え、
前記偏光方向の変化したレーザ光を前記偏光子を介して受光し、前記測定対象の振動に応じて変化する光量成分を検出し、
前記測定装置は、前記受光部からの光量成分に基づいて前記測定対象の振動を算出することを特徴とする、付記14記載の測定システム。
(付記17)
前記測定装置は、
前記状態情報の2次元的な分布または3次元的な分布を算出し、
前記2次元的な分布または3次元的な分布を表示する表示部をさらに備えたことを特徴とする、付記14乃至16のいずれか1項記載の測定システム。
(付記18)
光源からの光を測定対象に固定された少なくとも1枚の請求項1乃至13のいずれか1項記載のセンシングシートの前記光ファイバに出射し、
前記センシングシートの前記光ファイバからの光を光検出部により受光して、前記測定対象の状態情報を測定するための光成分を検出し、
前記光検出部が検出した前記光成分に基づいて測定装置により前記状態情報を算出し、前記状態情報の分布を求めることを特徴とする、測定方法。
以上、開示のセンシングシート及び測定システムを実施例により説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々の変形及び改良が可能であることは言うまでもない。