JP6278932B2 - 燃料電池用膜−電極接合体及び固体高分子形燃料電池 - Google Patents
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Description
この触媒層は触媒粒子及び高分子電解質を含み、また、ガス拡散層はカーボンペーパーやカーボンクロスなどでなる。このような触媒層及びガス拡散層は、両者間の接着性を高め、触媒層の剥離やクラックを生じさせないようにしなくてはならない。
このような要請に応えるための技術も既に種々提案されている。即ち、ガス拡散層上に増粘剤を含む結着材層(バッファ層)を設け、この結着材層(バッファ層)上に触媒粒子及び高分子電解質を含む電極触媒層を積層するという提案がある(例えば、特許文献1参照)。
ところが、このようなバッファ層はガス拡散層の細孔を潰すため、ガス拡散性や排水性といった膜−電極接合体の重要な特性を悪化させるという課題を生じる。
電解質膜に亀裂が生じるとガスのクロスリークが生じて、発電機能が損なわれる。
しかしながら、特許文献2に開示の技術では、この問題を十分に解決し得ない。
(1)電解質膜(例えば、後述するPEM10)と、前記電解質膜に対応して設けられた触媒層(例えば、後述のアノード触媒層11a、カソード触媒層12a)を有する電極(例えば、後述するアノード電極11、カソード電極12)と、
を備えた燃料電池用膜−電極接合体(例えば、後述する膜−電極接合体110)であって、
前記触媒層は、補強部材を備えることなく、その面方向のヤング率が、前記電解質膜の面方向のヤング率よりも高いことを特徴とする燃料電池用膜−電極接合体。
前記一対の触媒層のうち一方の触媒層(例えば、後述するカソード触媒層12a)は、その面積が、自層に対応するガス拡散層(例えば、後述するカソード拡散層12b)の面積よりも広く、且つ、その面方向のヤング率が、前記電解質膜の面方向のヤング率よりも高いことを特徴とする上記(1)の燃料電池用膜−電極接合体。
このような構成を採ることによって、背後に自層を支持する拡散層がない特異な部分が生じる前記一方の触媒層をよりリジッドにして、上記特異な部分においても電解質膜の膨潤等に抗し得るようにする一方、前記他方の触媒層側に変形による応力を逃がして、結果的に電解質膜の変形を適切に抑制することが可能になる。
このような構成を採ることによって、背後に自層を支持する拡散層がない特異な部分が生じる前記一方の触媒層の剛性を高め、上記特異な部分においても電解質膜の膨潤等に抗し得るようにする。
このような構成を採ることによって、電解質膜の膨潤等による応力を複合層の収縮で吸収する一方、相対的にリジッドな触媒層によって電解質膜の変形を効果的に抑止することができる。
図1は、本発明の一実施形態としての燃料電池用膜−電極接合体を断面視して概略的に示し作用と共に説明する図である。
図1の(a)部は、本発明の一実施形態としての燃料電池用膜−電極接合体を示し、図1の(b)部は、本発明の技術を適用しない場合に発生するおそれがある問題を示している。上記(a)部及び(b)部において、対応する部位には同一の符号を附してある。
図1の(a)部の燃料電池用膜−電極接合体は、電解質膜である固体高分子電解質膜(Proton Exchange Membrane、以下PEMと称する)10の一方の主面側(図では上側)にアノード電極11が設けられ、他方の主面側(図では下側)にカソード電極12が設けられている。アノード電極11はPEM10一方の主面に接するアノード触媒層11aとこのアノード触媒層11aに対応して設けられたアノード拡散層11bとを含んで構成される。また、カソード電極12はPEM10の他方の主面に接するカソード触媒層12aとこのカソード触媒層12aに対応して設けられたカソード拡散層12bとを含んで構成される。
この実施形態では、アノード拡散層11b及びカソード拡散層12bはカーボンペーパーやカーボンクロスなどでなるガス拡散層である。
第1セパレータ110aには燃料ガス(水素)を流通させるための流路となる複数の流路溝111,111が設けられ、第2セパレータ110bには酸化剤(空気)を流通させるための流路となる複数の流路溝112,112が設けられている。
従って、図示のように、PEM10に対して、アノード側(図では上側)とカソード側(図では下側)とでは、図における左端側で各層状体の端縁が不揃いになっている。
このため、本実施形態では、第1セパレータ110a及び第2セパレータ110bを図における左端側でも端縁が揃うようにすると共に、上述のように各層状体の端縁が不揃いになっている部分を含んで膜−電極接合体110の端部をカバーするようにシール部材130を設けてある。
なお、このシール部材130に替えて、或いは、このシール部材130と共に、第1セパレータ110a及び第2セパレータ110b間にそれらの外周部位を回らせるようにしてシリコン系液状シール材(機能的には枠材)を塗布してもよい。
また、ガス拡散層(アノード拡散層11b及びカソード拡散層12b)としては、例えば、カーボン粒子を含む下地層が形成されたカーボンペーパを用いることができる。
また、触媒層(アノード触媒層11a及びカソード触媒層12a)としては、例えば、白金合金が担持された多孔質カーボン粒子からなる触媒粒子と、上述の高分子電解質と、を含む触媒層を用いることができる。
そして、本実施形態では、特に、アノード触媒層11a及びカソード触媒層12aの面方向のヤング率がPEM10の面方向のヤング率よりも高い。
図1の(b)部に示された例では、アノード電極11がカソード電極12よりも全周(不図示)に亘って大きな主面をなす、所謂段差MEAを構成している。アノード電極11側に流通する反応ガスの圧力は、カソード電極12側に流通する反応ガスの圧力よりも大きい。このため、PEM10の膨潤や両主面にかかる圧力に差圧が生じて、PEM10にたわみを生じる。
尚、カソード触媒層12aがフラットな部分では、PEM10がカソード触媒層12aに陥没することはない。即ち、円C2の部位や円C3の部位はカソード触媒層12aと特定の位置関係にある部位である。
このため、相対的に面方向のヤング率が高くリジッドなアノード触媒層11a及びカソード触媒層12aによって、PEM10はその変形が抑制される。そしてこの場合、バッファ層などによってガス拡散層(アノード拡散層11b、カソード拡散層12b)の細孔が潰されることがないため、ガス拡散性や排水性といった膜−電極接合体の重要な特性が損なわれるおそれがない。
質量比で4:6の導電性粒子であるカーボンブラック及び撥水剤であるポリテトラフルオロエチレン(PTFE)粒子を溶媒であるエチレングリコールに均一に分散させてなるスラリーをカーボンペーパーの片面に塗布し、乾燥させて下地層を形成し、カーボンペーパーと下地層からなるガス拡散層を作製した。
得られたガス拡散層の下地層上に触媒ペーストをスクリーン印刷し、減圧乾燥してアノード極とカソード極を作製した。触媒ペーストはカーボンブラック(ファーネスブラック)に白金粒子を白金/カーボンの質量比が1:1になるように担持して触媒粒子とし、プロトン伝導成分としてナフィオン(デュポン社商品名)を使用し、ナフィオンの溶液中に触媒粒子を均一に混合して作製した。
以上のようにして作製したCCM100における触媒層とフッ素系のPEM10の面方向のヤング率について検証した結果を図2に示す。
図2から容易に理解されるとおり、温度が摂氏マイナス40度から摂氏100度まで、及び、相対湿度が乾燥状態から95パーセントまでの領域において、触媒層の面方向のヤング率はPEM10の面方向のヤング率を上回っている。
この結果から、本実施形態の膜−電極接合体では、温度及び湿度に関する広範囲な領域で、相対的にリジッドな触媒層によってPEM10はその変形が抑制されることが分る。
(1)PEM10については、面方向に応力を加えて、このときの歪み量を測定し、応力と歪みとに基づいてヤング率を割り出す。
(2)カソード触媒層12a等の触媒層については、面方向のヤング率を直接的に測定することが困難である。このため、PEM10と触媒層との合計のヤング率を測定し、計算によりヤング率を割り出す。この計算では、PEM10と触媒層とを並列のバネとみなす等価モデルを想定して目的とするヤング率を算出する。
図示のようにPEM10単体での試験結果では、摂氏70度、相対湿度95パーセント、及び、摂氏マイナス35度、ドライ状態の環境下では、寸法変化率は5パーセント以上となる。
これに対し、本実施形態のCCM100では、寸法変化率が±2パーセント以内に抑制された。即ち、この値は、触媒層の破断歪限界である±5パーセント以内にある。これはPEM10よりもヤング率の高い触媒層が接合されたことにより、CCM100ではPEM10単体におけるよりも寸法変化率が効果的に抑制されることを裏付けるものである。
このような固体高分子形燃料電池は、膜−電極接合体110(そのCCM100)について上述したような特徴を有する。
尚、電解質膜としてナフィオン(デュポン社商品名)を適用した場合、組織上及び構造上の補強策を講じた補強層の態様やナフィオン(デュポン社商品名)自体の成分に応じて、ヤング率は種々の値をとり、一意的には定まらない。
このような構成を採ることによって、背後に支持部材がない特異な部分(カソード拡散層12bの外側の部分)が生じる前記一方の触媒層であるカソード触媒層12aをよりリジッドにして、上記特異な部分においてもPEM10の膨潤等に抗し得るようにする一方、前記他方の触媒層であるアノード触媒層11a側に変形による応力を逃がして、結果的に電解質膜の変形を適切に抑制することが可能になる。
このような構成を採ることによって、背後に自層を支持する拡散層がない特異な部分が生じる一方の触媒層(カソード触媒層12a)の剛性を高め、上記特異な部分においても電解質膜の膨潤等に抗し得るようにして、効果的に電解質膜の変形を抑止することができる。
図4は、本発明の他の実施形態としての燃料電池用膜−電極接合体とその等価モデルを示す図である。
図4の(A)部は、本発明の他の実施形態としての燃料電池用膜−電極接合体を断面視して概略的に示す図である。
図4の(A)部において、既述の図1との対応部には同一の符号を附してある。
図4の(A)部の燃料電池用膜−電極接合体(MEA)110mは、PEM10の一方の主面側(図では上側)にアノード電極11が設けられ、他方の主面側(図では下側)にカソード電極12が設けられている。
アノード電極11はPEM10一方の主面に接するアノード触媒層11aとこのアノード触媒層11aに対応して設けられたアノード側複合層11cを含んで構成される。このアノード側複合層11cは、アノード触媒層11aに接する微細多孔質層11b1と、この微細多孔質層11b1の外側に接するアノード拡散層11b2とにより構成される。
また、カソード電極12はPEM10他方の主面に接するカソード触媒層12aとこのカソード触媒層12aに対応して設けられたカソード側複合層12cを含んで構成される。このカソード側複合層12cは、カソード触媒層12aに接する微細多孔質層12b1と、この微細多孔質層12b1の外側に接するカソード拡散層12b2とにより構成される。
尚、アノード側複合層11c及びカソード側複合層12cにおける微細多孔質層(11b1、12b1)は、下地層とも称される。
即ち、上述のアノード側複合層11c及びカソード側複合層12cをそれぞれ一つのバネ(11c、12c)に対応させ、これら両者のバネ(11c、12c)間に、中央位置のPEM10に対応するバネ(10)、及び、このバネ(10)の一端と他端に各接続されたアノード触媒層11aに対応するバネ(11a)とカソード触媒層12aに対応するバネ(12a)が接続されて、図示のようなバネの直列接続体が構成されている。
具体的には次のように制御する。即ち、複合層(11c、12c)の厚さ方向のヤング率をPEM10の厚さ方向のヤング率よりも小さなるように、且つ、触媒層(アノード触媒層11a、カソード触媒層12a)の厚さ方向のヤング率をPEM10の厚さ方向のヤング率よりも大きくなるように制御する。
図5は、図4の(B)部の燃料電池用膜−電極接合体の等価モデルによるヤング率のシミュレーション結果を表す図である。
図5において、横軸は上述の複合層(アノード側複合層11c或いはカソード側複合層12c)のヤング率(圧縮弾性率:MPa)、縦軸は触媒層(アノード触媒層11a或いはカソード触媒層12a)にクラックが生じている場合にPEM10にかかる応力の上昇率を表している。即ち、この縦軸では、変化しないときの値である基準値を100%として、この値からの上昇(下降)度合いを%にて表記している。
図示のように、応力σの上昇と共にひずみγが上昇する。応力σとひずみγは必ずしも直線的関係にはない。ひずみγは50%以下で使用するのが好ましい。
図7、図9、及び、図10において、既述の図4の(A)部及び図1との対応部には同一の符号を附してある。
図7、図9、及び、図10の燃料電池用膜−電極接合体(MEA)110mは、PEM10の一方の主面側(図では上側)にアノード電極11が設けられ、他方の主面側(図では下側)にカソード電極12が設けられている。
アノード電極11はPEM10一方の主面に接するアノード触媒層11aとこのアノード触媒層11aに対応して設けられたアノード側複合層11cを含んで構成される。このアノード側複合層11cは、図4の(A)部を参照して既述のものと同様のものである。
また、カソード電極12はPEM10他方の主面に接するカソード触媒層12aとこのカソード触媒層12aに対応して設けられたカソード側複合層12cを含んで構成される。このカソード側複合層12cも、図4の(A)部を参照して既述のものと同様のものである。
カソード側複合層12cの外側には、図1を参照して既述のものと同様の第2セパレータ110bが設けられる。
この条件で、アノード側複合層11c及びカソード側複合層12cの圧縮弾性率(ヤング率)が0.1MPaから35MPaの範囲内である場合には、アノード側複合層11c及びカソード側複合層12cが、圧縮応力P1、P2に対応して適度に収縮して、PEM10の膨潤による応力集中を効果的に抑制することができる。
図10では、この条件で、アノード側複合層11c及びカソード側複合層12cの圧縮弾性率(ヤング率)が35MPaよりも大きい場合を仮定している。アノード側複合層11c及びカソード側複合層12cの圧縮弾性率(ヤング率)が35MPaよりも大きい場合には、アノード側複合層11c及びカソード側複合層12cが、圧縮応力P1、P2に対応して収縮しないため、クラックの部位(破線のサークルSCで示した部位)にPEM10の膨潤した膜が入り込み応力集中が発生する。
11…アノード電極
11a…アノード触媒層
11b、11b2…アノード拡散層
11b1…微細多孔質層
11c…アノード側複合層
12…カソード電極
12a…カソード触媒層
12b、12b2…カソード拡散層
12b1…微細多孔質層
12c…カソード側複合層
100…CCM(触媒層形成電解質膜)
110、110m…MEA(膜−電極接合体)
110a…第1セパレータ
110b…第2セパレータ
Claims (10)
- 電解質膜と、
前記電解質膜上に形成された触媒層を有する電極と、
を備えた燃料電池用膜−電極接合体であって、
前記触媒層は、補強部材を備えることなく、その面方向のヤング率が、前記電解質膜の面方向のヤング率よりも高く、前記触媒層と電解質膜の面方向のヤング率の差の下限を50MPaとすることを特徴とする燃料電池用膜−電極接合体。 - 前記触媒層は、前記電解質膜の両主面に各対応するように一対設けられ、且つ、該一対の触媒層にはそれぞれ対応するガス拡散層が設けられ、
前記一対の触媒層のうち一方の触媒層は、その面積が、自層に対応するガス拡散層の面積よりも広く、且つ、その面方向のヤング率が、前記電解質膜の面方向のヤング率よりも高いことを特徴とする請求項1に記載の燃料電池用膜−電極接合体。 - 前記一対の触媒層のうち他方の触媒層は、その面積が、自層に対応するガス拡散層の面積と等しく、且つ、その面方向のヤング率が、前記一方の触媒層の面方向のヤング率よりも低いことを特徴とする請求項2に記載の燃料電池用膜−電極接合体。
- 前記触媒層は、その面方向のヤング率が、温度及び湿度に依らず、前記電解質膜の面方向のヤング率よりも高いことを特徴とする請求項1に記載の燃料電池用膜−電極接合体。
- 前記一対の触媒層のうち前記一方の触媒層は、その面積が、自層に対応するガス拡散層の面積よりも大きく、且つ、その面方向のヤング率が、他方の触媒層の面方向のヤング率よりも高いことを特徴とする請求項2に記載の燃料電池用膜−電極接合体。
- 前記一対の触媒層のうち前記一方の触媒層は、その厚さが、前記他方の触媒層の厚さよりも厚いことを特徴とする請求項5に記載の燃料電池用膜−電極接合体。
- 前記触媒層は何れも前記電解質膜との面方向のヤング率の差が50MPaから200MPaの範囲内であることを特徴とする請求項2から5のいずれか一項に記載の燃料電池用膜−電極接合体。
- 前記触媒層は、前記電解質膜の両主面に各対応するように一対設けられ、該一対の触媒層にはそれぞれ対応する微細多孔質層を介してガス拡散層が設けられ、且つ、前記微細多孔質層と前記ガス拡散層とで複合層を成し、前記複合層の厚さ方向のヤング率は前記電解質膜の厚さ方向のヤング率よりも小さく、前記触媒層の厚さ方向のヤング率は前記電解質膜の厚さ方向のヤング率よりも大きいことを特徴とする請求項1に記載の燃料電池用膜−電極接合体。
- 前記複合層の厚さ方向のヤング率は0.1MPaから35MPaの範囲内にあることを特徴とする請求項8に記載の燃料電池用膜−電極接合体。
- 請求項1から9の何れか1項に記載の燃料電池用膜−電極接合体を有することを特徴とする固体高分子形燃料電池。
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