以下、本発明の歪みセンサ付き布帛及び被服の実施の形態を、適宜図面を参照しつつ詳説する。
[歪みセンサ付き布帛]
まず、本発明の歪みセンサ付き布帛の実施形態について説明する。
<第一実施形態>
図1の歪みセンサ付き布帛1は、布帛2及び歪みセンサとしてのCNTセンサ3を備える。また、布帛2は、複合層4及び繊維層5を有する。この複合層4は布帛2のCNTセンサ3が積層される領域の表層に位置する。布帛2のうち、複合層4以外の部分は繊維層5である。
(布帛)
前記布帛2は、伸縮可能なシート状である。布帛2としては組織内部に接着剤等の樹脂が含浸できるものであれば特に限定されないが、例えば不織布、一方向(例えばシート本体の一辺方向と平行)に引き揃えられた縦糸とこの一方向に交差(直交)する方向に引き揃えられ縦糸に絡み合うよう配設された横糸とからなる織物、及び一本(又は数本)の糸により多数のループを形成し多数のループが絡み合うように編まれた編物が挙げられる。これらの中で、伸縮性の観点から編物が好ましい。
布帛2の平均厚さの下限としては200μmが好ましく、300μmがより好ましい。布帛2の平均厚さが前記下限未満である場合は、布帛2の表層のみに複合層4を含浸させることが困難になるおそれがある。布帛2の平均厚さの上限としては1mmが好ましく、800μmがより好ましい。布帛2の平均厚さが前記上限を超える場合は、布帛2の剛性が高くなり、センサ感度が低下するおそれがある。
布帛2の目付の下限としては、100g/m2が好ましく、150g/m2がより好ましい。布帛2の目付が前記下限未満である場合は、布帛2の表層のみに複合層4を含浸させることが困難になるおそれがある。布帛2の目付の上限としては、300g/m2が好ましく、250g/m2がより好ましい。布帛2の目付が前記上限を超える場合は、布帛2の剛性が高くなり、センサ感度が低下するおそれがある。
(複合層)
複合層4は、布帛2の一方の面側の繊維の空隙に樹脂が含浸したものであり、布帛2の一方の面とCNTセンサ3とを接着する。図1に示すように、複合層4を形成する樹脂は布帛2のCNTセンサ3が積層される領域の表層のみに含浸している。なお、複合層4を形成する樹脂は図1に示すようにその全てが布帛2の表層に含浸するほか、その一部が布帛2に含浸せず、布帛2の表面に留まっていてもよい。また、複合層4を形成する樹脂が含浸する領域は平面視でCNTセンサ3と同形である。
前記複合層4を形成する樹脂としては、接着剤が挙げられる。この接着剤は、弾性を有するものが好ましい。このような接着剤としては、例えば、シリル化ウレタン系接着剤、ゴム系接着剤、ウレタン系接着剤等の無溶剤型接着剤や、ウレタン系ホットメルト型接着剤、アクリル系ホットメルト型接着剤、合成ゴム系ホットメルト型接着剤、EVA樹脂系ホットメルト型接着剤、スチレン系ホットメルト型接着剤、シリコーン系ホットメルト型接着剤等のホットメルト型接着剤や、ウレタン系溶剤型接着剤、アクリル系溶剤型接着剤、合成ゴム系溶剤型接着剤、EVA樹脂系溶剤型接着剤、スチレン系溶剤型接着剤、シリコーン系溶剤型接着剤等の溶剤型接着剤などが挙げられる。これらの中で、無溶剤型接着剤が好ましく、ウレタン系接着剤がより好ましい。
複合層4を形成する接着剤の布帛2とCNTセンサ3とを接着する時の粘度の下限としては50,000mPa・sが好ましく、80,000mPa・sがより好ましい。接着剤の粘度が前記下限未満だと接着剤が布帛2の中層まで含浸するおそれがある。接着剤の布帛2とCNTセンサ3とを接着する時の粘度の上限としては200,000mPa・sが好ましく、150,000mPa・sがより好ましい。接着剤の粘度が前記上限を超えると接着剤含浸後の布帛2の剛性が高くなり、当該歪みセンサ付き布帛1のセンサ感度が低下するおそれがある。なお、接着剤の粘度はB型粘度計(例えば、東機産業(株)社の「TVB−10型粘度計」)により、回転数12rpmの条件下で測定される値である。
複合層4を形成する接着剤の硬化後のヤング率の上限としては5MPaが好ましい。硬化後のヤング率の下限としては1MPa又は布帛2のヤング率の50%のいずれか低い方が好ましい。接着剤の硬化後のヤング率が前記上限を超えると、複合層4によって布帛2の伸縮が阻害されるおそれがある。一方、硬化後のヤング率が前記下限未満であると、布帛2の伸縮が複合層4で吸収されてしまい、CNTセンサ3に的確に伝達されないおそれがある。
複合層4の平均厚さ(複合層4を形成する接着剤の布帛2への平均含浸厚さ)の下限としては、布帛2の平均厚さに対して5%が好ましく、10%がより好ましい。前記平均厚さが前記下限未満だと、十分な接着力が得られず、CNTセンサ3が布帛2から剥離するおそれがある。前記平均厚さの上限としては、布帛2の平均厚さに対して40%が好ましく、30%がより好ましい。平均厚さが前記上限を超えると、布帛2の剛性が上昇し、当該歪みセンサ付き布帛1のセンサ感度が低下するおそれがある。
(繊維層)
繊維層5は、布帛2のうち複合層4を形成する樹脂が含浸していない層である。図1に示すように布帛2の表面側の表層より裏面側(中層及び裏面側の表層)は繊維層5を形成する。繊維層5は布帛2の一部であり内部に空隙を有している。ここで、「中層」とは、布帛の表面及び裏面の間に位置し、着用者等に直接接触しない層をいう。
(CNTセンサ)
CNTセンサ3は布帛2の表面に積層されている。具体的には、CNTセンサ3は、伸縮性を有する布帛2の表面に一体的に配設されることで、布帛2の平面方向の伸縮に伴ってCNTセンサ3が伸縮するよう設けられている。
CNTセンサ3は、図2に示すように、前記布帛2に貼着される基板3aと、この基板3aの表面側に設けられる複数のCNT繊維を有するCNT膜3bと、このCNT膜3bの端部にそれぞれ配設される一対の電極3cを主に備える。
前記基板3aは柔軟性を有する板状体である。この基板3aのサイズとしては特に限定されず、例えば厚みが10μm以上5mm以下、幅が1mm以上5cm以下、長さが1cm以上20cm以下とすることができる。
基板3aの材質としては、柔軟性を有する限り特に限定されず、例えば合成樹脂、ゴム、不織布、変形可能な形状又は材質の金属や金属化合物等を挙げることができる。基板3aは絶縁体又は抵抗値の高い材質であればよいが、金属等の抵抗値の低い材料を用いる場合はその表面に絶縁層又は抵抗値の高い材料をコーティングすればよい。これらの中でも、合成樹脂及びゴムが好ましく、ゴムがさらに好ましい。ゴムを用いることで、基板3aの柔軟性をより高めることができる。
前記合成樹脂としては、例えばフェノール樹脂(PF)、エポキシ樹脂(EP)、メラミン樹脂(MF)、尿素樹脂(ユリア樹脂、UF)、不飽和ポリエステル樹脂(UP)、アルキド樹脂、ポリウレタン(PUR)、熱硬化性ポリイミド(PI)、ポリエチレン(PE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、ポリプロピレン(PP)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン(PS)、ポリ酢酸ビニル(PVAc)、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂(ABS)、アクリロニトリルスチレン樹脂(AS)、ポリメチルメタアクリル樹脂(PMMA)、ポリアミド(PA)、ポリアセタール(POM)、ポリカーボネート(PC)、変性ポリフェニレンエーテル(m−PPE)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、環状ポリオレフィン(COP)等を挙げることができる。
前記ゴムとしては、例えば天然ゴム(NR)、ブチルゴム(IIR)、イソプレンゴム(IR)、エチレン・プロピレンゴム(EPDM)、ブタジエンゴム(BR)、ウレタンゴム(U)、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、シリコーンゴム(Q)、クロロプレンゴム(CR)、クロロスルフォン化ポリエチレンゴム(CSM)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、塩素化ポリエチレン(CM)、アクリルゴム(ACM)、エピクロルヒドリンゴム(CO,ECO)、フッ素ゴム(FKM)、PDMS等を挙げることができる。これらのゴムの中でも強度等の点から天然ゴムが好ましい。
前記一対の電極3cは、基板3aの表面側の長手方向A(CNT繊維の配向方向)の両端部分に配設されている。具体的には、各電極3cは、基板3aの表面の長手方向Aの両端部分に離間して配設される一対の導電層3dの表面にそれぞれ配設されている。
各導電層3dは、電極3cとCNT膜3bとの電気的な接続性を高めている。導電層3dを形成する材料としては、導電性を有する限り特に限定されず、例えば導電性ゴム系接着剤等を用いることができる。導電層3dとしてこのように接着剤を用いることで、基板3a、電極3c、及びCNT膜3bの両端の固着性を高め、前記CNTセンサ3の持続性を高めることができる。
電極3cは、帯状形状を有している。一対の電極3cは、基板3aの幅方向に、互いに平行に配設されている。電極3cを形成する材料としては、特に限定されず、例えば銅、銀、アルミニウム等の金属、カーボン系導電材料等を用いることができる。
前記電極3cの形状としては、例えば膜状、板状、メッシュ状等とすることができるが、メッシュ状とすることが好ましい。このようにメッシュ状の電極3cを用いることで、導電層3dとの密着性及び固着性を高めることができる。このようなメッシュ状の電極3cとしては、金属メッシュや、不織布に金属を蒸着又はスパッタさせたもの等を用いることができる。なお、電極3cとしては、導電性接着剤の塗布等によって形成したものであってもよい。
前記CNT膜3bは、一方向に配向する複数のCNT繊維からなる複数のCNT繊維束3e及びこの複数のCNT繊維束3eの周面を被覆するCNT膜樹脂層3fを有する。つまり、CNT繊維束3eは複数のCNT繊維から構成され、このCNT繊維束3eの周囲をCNT膜樹脂層3fが被覆している。また、CNT膜3bは平面視矩形形状を有し、CNT膜3bの長手方向Aの両端部分がそれぞれ導電層3dを介して電極3cと接続されている。
CNT膜3bは、一方向(一対の電極3cの対向方向A)に配向する複数のCNT繊維束3eを有する。CNT繊維束3eがこのように配向していることにより一対の電極3cが離れる方向(前記方向A)へ歪みが加わった場合に、CNT繊維束3eを構成するCNT繊維の切断、離間、CNT繊維束3eの切断空間(ギャップ)の伸縮等によって当該CNTセンサ3をして抵抗変化を得ることができる。より具体的には、CNT繊維束3eは、CNT繊維からなるバンドル構造となっており、CNT繊維束3eの任意の横断面においては、切断されないCNT繊維と、CNT繊維が切断、離間したギャップの両方が存在することになる。CNT繊維のギャップが広がると、残された切断されないCNT繊維は伸びることになり、それによっても抵抗変化が発生する。
各CNT繊維束3eは、複数のCNT繊維からなる。ここで、CNT繊維とは、1本の長尺のCNTをいう。また、CNT繊維束3eは、CNT繊維の端部同士が連結する連結部を有する。CNT繊維同士は、これらのCNT繊維の長手方向に連結している。このようにCNT膜3bにおいて、CNT繊維同士がその長手方向に連結してなるCNT繊維束3eを用いることで、CNT繊維束3eの配向方向長さの大きいCNT膜3bを形成することができ、前記CNTセンサ3の長手方向長さを大きくし、感度を向上させることができる。
また、複数のCNT繊維束3eは、図3に示すように長手方向Aに切断個所Pを有するとよい。この切断個所Pは、例えばCNT膜3bを基板3aに積層後、長手方向Aに伸張することで形成することができる。この切断個所Pは各CNT繊維束3eのランダムな個所に形成されていることが好ましい。切断個所Pがランダムに形成されることで、切断個所Pの間隔(ギャップ)が複数同じタイミングで変化(伸縮)することが防止されるため、抵抗変化の急激な変動を防止しリニアリティを向上させることができる。なお、この切断個所PにはCNT繊維が断片的に存在していて導通が保たれていることが好ましい。また、1つのCNT繊維束3eに複数の切断個所Pが形成されていてもよい。
静置時における前記切断個所Pの間隔の下限としては、5μmが好ましく、10μmがより好ましい。切断個所Pの間隔が前記下限未満の場合、CNT膜3bの伸縮時の抵抗変化のリニアリティが十分得られないおそれがある。一方、静置時における前記切断個所Pの間隔の上限としては、50μmが好ましく、40μmがより好ましい。切断個所Pの間隔が前記上限を超える場合、前記CNTセンサ3の抵抗が必要以上に高くなるおそれがある。
また、複数のCNT繊維束3eは前記連結部等により網目状に連結又は接触しているとよい。この際、連結部において、3つ以上のCNT繊維の端部が結合していてもよいし、2つのCNT繊維の端部と他のCNT繊維の中間部とが結合していてもよい。複数のCNT繊維束3eがこのような網目構造を形成することで、CNT繊維束3e同士が密接し、CNT膜3bの抵抗を下げることができる。さらに、前記CNT繊維束3eの連結部が主な基点となって、隣り合うCNT繊維束3e間に限らず、何本か飛び越えた場所のCNT繊維束3eと連結又は接触してもよい。このように、複雑な網目状のCNT繊維束3eからなるCNT膜3bであれば、より抵抗値が低くなり、CNT繊維束3eと垂直な方向に剛性の強いセンサとすることができる。なお、CNT繊維束3e同士の連結とは前記連結部等とCNT繊維束3eが電気的に繋がることであり、CNT繊維束3eの連結部ではない部分同士が電気的に繋がった場合も連結に含まれる。CNT繊維束3e同士の接触とは前記連結部等とCNT繊維束3eが触れているが電気的に繋がっていないことであり、CNT繊維束3eの連結部ではない部分同士が触れているが電気的に繋がっていない場合も接触に含まれる。
なお、CNT繊維束3eは、各CNT繊維が実質的にCNT繊維束3eの長手方向Aに配向され、撚糸されていない状態のものである。このようなCNT繊維束3eを用いることで、CNT膜3bの均一性を高め、歪みを測定するセンサとしてのリニアリティを高めることができる。
なお、前記連結部において、各CNT繊維同士は分子間力により結合している。このため、複数のCNT繊維束3eが連結部により網目状に連結した場合においても、連結部の存在による抵抗の上昇が抑えられる。
なお、CNT膜3bは、CNT繊維束3eを平面状に略平行に配置した単層構造からなってもよいし、多層構造からなってもよい。ただし、ある程度の導電性を確保するためには、多層構造とすることが好ましい。
CNT繊維(CNT)としては、単層のシングルウォールナノチューブ(SWNT)や、多層のマルチウォールナノチューブ(MWNT)のいずれも用いることができるが、導電性及び熱容量等の点から、MWNTが好ましく、直径1.5nm以上100nm以下のMWNTがさらに好ましい。
前記CNT繊維(CNT)は、公知の方法で製造することができ、例えばCVD法、アーク法、レーザーアブレーション法、DIPS法、CoMoCAT法等により製造することができる。これらの中でも、所望するサイズのCNT(MWNT)を効率的に得ることができる点から、鉄を触媒とし、エチレンガスを用いたCVD法により製造することが好ましい。この場合、石英ガラス基板や酸化膜付きシリコン基板等の基板に、触媒となる鉄あるいはニッケル薄膜を成膜した上に、垂直配向成長した所望する長さのCNTの結晶を得ることができる。
前記CNT膜樹脂層3fは樹脂を主成分とし、複数のCNT繊維束3eの周面を被覆する層である。この樹脂としては、基板3aの材料として例示した合成樹脂やゴム等を挙げることができ、これらの中でもゴムが好ましい。ゴムを用いることで、大きな歪みに対しても十分な保護機能を発揮することができる。
CNT膜樹脂層3fは、水性エマルジョンから形成されていることが好ましい。水性エマルジョンとは、分散媒の主成分が水であるエマルジョンをいう。CNTは疎水性が高い。そのため、前記CNT膜樹脂層3fを水性エマルジョンから形成すると、例えば塗工や浸漬によりこのCNT膜樹脂層3fを設けることで、CNT膜樹脂層3fがCNT繊維束3eの内部に含浸せずにCNT繊維束3eの周囲に充填された状態とすることができる。このようにすることで、CNT膜樹脂層3fを形成する樹脂がCNT繊維束3eにしみ込んで、CNT膜3bの抵抗変化に影響を及ぼすことを抑制し、CNT膜樹脂層3fの存在によるCNT膜3bの歪み感度の低下を抑えることができる。なお、水性エマルジョンは乾燥工程を経ることによって、より安定したCNT膜樹脂層3fとすることができる。
また、CNT繊維束3eは複数のCNT繊維からなるバンドル構造を有する。具体的には、CNT繊維束3eの中に複数のCNT繊維がお互いにオーバーラップしながら、長いCNT繊維束3eを形成する。この場合、複数のCNT繊維が繋がっていくことによって、電流パスを備える長いCNT繊維束3eを形成することになる。これはCNT繊維が長手方向に切断されても電流パスを失わない理由でもある。CNT膜樹脂層3fは最低限バンドル構造体を形成している複数のCNT繊維中まで含浸しなければ、CNT繊維束3eの中へ含浸しても問題ない。CNT繊維束3eを構成する小さな径のバンドル構造体は、CNT繊維束3eの中の小さな径の束と考えられる。逆にCNT繊維束3e内部のCNT繊維の表面にまで絶縁物であるCNT膜樹脂層3fが含浸してCNT繊維の表面をCNT膜樹脂層3fが被覆すると、歪みの印加によって長手に切断された複数のCNT繊維が隣のCNT繊維に接触することができなくなり、導電パスを失い、急激に抵抗が増大する。その結果、リニアリティが低下したり、歪みによる抵抗変化が鈍化することになるため好ましくない。
CNT繊維束3eを構成するCNT繊維には、一対の電極3cが離れる方向(方向A)へ歪みが加わることによって切断、離間されてギャップが形成されるが、その横断面においては、CNT繊維が減ることによって前記A方向に部分的に伸縮し易くなる。この部分では前記CNT膜樹脂層3fも伸縮し易くなるため、CNT膜3bが前記A方向に剛性の変化を発生させながら伸縮できるようになる。その剛性の変化具合をより細かくすることで当該センサのリニアリティをより高めることができる。
前記水性エマルジョンの分散媒の主成分は、水であるが、その他の例えばアルコール等の親水性分散媒が含有されていてもよい。前記エマルジョンの分散質としては、通常樹脂であり、前述したゴム、特には天然ゴムが好ましい。また、分散質としてポリウレタンを用いてもよい。この好ましいエマルジョンは、分散媒を水とし、ゴムを分散質とするいわゆるラテックスが挙げられ、天然ゴムラテックスが好ましい。天然ゴムラテックスを用いることで、薄くかつ強度のある保護膜を形成することができる。
また、CNT膜樹脂層3fはカップリング剤を含有しているとよい。CNT膜樹脂層3fがカップリング剤を含有することで、CNT膜樹脂層3fとCNT繊維束3eとを架橋し、CNT膜樹脂層3fとCNT繊維束3eとの接合力を向上させることができる。
前記カップリング剤としては、例えばアミノシランカップリング剤、アミノチタンカップリング剤、アミノアルミニウムカップリング剤等のアミノカップリング剤やシランカップリング剤などを用いることができる。
カップリング剤のCNT膜樹脂層3fのマトリックス樹脂100質量部に対する含有量の下限としては、0.1質量部が好ましく、0.5質量部がより好ましい。一方、カップリング剤の樹脂層7のマトリックス樹脂100質量部に対する含有量の上限としては、10質量部が好ましく、5質量部がより好ましい。カップリング剤の含有量が前記下限未満の場合、CNT繊維束3eとCNT膜樹脂層3fとの架橋構造の形成が不十分となるおそれがある。逆に、カップリング剤の含有量が前記上限を超える場合、架橋構造を形成しない残留アミン等が増加し、前記CNTセンサ3の品質が低下するおそれがある。
また、CNT膜樹脂層3fはCNT繊維束3eに対する吸着性を有する分散剤を含有することが好ましい。このような吸着性を有する分散剤としては、吸着基部分が塩構造になっているもの(例えばアルキルアンモニウム塩等)や、CNT繊維束3eの疎水性の基(例えばアルキル鎖や芳香族リング等)と相互作用できる親水性の基(例えばポリエーテル等)を分子中に有するもの等を用いることができる。
前記分散剤のCNT膜樹脂層3fのマトリックス樹脂100質量部に対する含有量の下限としては、0.1質量部が好ましく、1質量部がより好ましい。一方、分散剤の樹脂層7のマトリックス樹脂100質量部に対する含有量の上限としては、5質量部が好ましく、3質量部がより好ましい。分散剤の含有量が前記下限未満の場合、CNT繊維束3eとCNT膜樹脂層3fとの接合力が不十分となるおそれがある。逆に、分散剤の含有量が前記上限を超える場合、CNT繊維束3eとの接合に寄与しない分散剤が増加し、前記CNTセンサ3の品質が低下するおそれがある。
CNT膜3bの平均幅の下限としては、1mmが好ましく、3mmがより好ましい。一方、CNT膜3bの平均幅の上限としては、10cmが好ましく、5cmがより好ましい。このようにCNT膜3bの平均幅を比較的大きくすることで、前述のようにCNT膜3bの抵抗値を下げ、かつ、この抵抗値のバラツキも低減することができる。
CNT膜3bの平均厚みとしては、特に限定されない。例えば、CNT膜3bの平均厚みの下限としては、1μmが好ましく、10μmがさらに好ましい。一方、CNT膜3bの平均厚みの上限としては、5mmが好ましく、1mmがさらに好ましい。CNT膜3bの平均厚みが前記下限未満の場合は、このような薄膜の形成が困難になるおそれや、抵抗が上昇しすぎるおそれがある。逆に、CNT膜3bの平均厚みが前記上限を超える場合は、歪みに対する感度が低下するおそれがある。
CNT膜3bにおけるCNT繊維束3eの密度の下限としては、1.0g/cm3が好ましく、0.8g/cm3がより好ましい。一方、CNT膜3bにおけるCNT繊維束3eの密度の上限としては、1.8g/cm3が好ましく、1.5g/cm3がより好ましい。CNT膜3bにおけるCNT繊維束3eの密度が前記下限未満の場合、CNT膜3bの抵抗値が高くなるおそれがある。逆に、CNT膜3bにおけるCNT繊維束3eの密度が前記上限を超える場合、十分な抵抗変化が得られないおそれがある。
CNTセンサ3はCNT膜3bの周面を被覆する膜状の保護層3gを備える。具体的には図2に示すように、保護層3gは、CNT膜3b及び導電層3dの表面の一部を被覆している。なお、導電層3dの一部は、保護層3gに被覆されず、露出している部分を有する。このように保護層3gを積層することで、前記保護層3gはCNT繊維表面の少なくとも一部と接触し、CNT膜3bを保護している。これにより、不意の接触等によるCNT膜3bの破損、CNT繊維間の隙間への異物混入、又は湿気や浮遊ガス等のCNT繊維への付着等を抑えることができる。
保護層3gは、樹脂製である。この樹脂としては、CNT膜樹脂層3fの材料として例示した合成樹脂やゴム等を挙げることができ、これらの中でもゴムが好ましい。ゴムを用いることで、大きな歪みに対しても十分な保護機能を発揮することができる。
保護層3gは、水性エマルジョンから形成されていることが好ましい。CNTは疎水性が高い。そのため、保護層3gを水性エマルジョンから形成すると、例えば塗工や浸漬によりこの保護層3gを設けた場合、保護層3gがCNT膜3bに含浸せずにCNT膜3b表面に積層された状態とすることができる。水性エマルジョンは乾燥工程を経ることによって、より安定した保護層3gとすることができる。
前記水性エマルジョンの分散媒、分散質及び好ましいエマルジョンとしては、前記CNT膜樹脂層3fとして例示したものと同様のものが挙げられる。
保護層3gの平均厚みとしては、特に限定されず、例えば10μm以上3mm以下とすることができる。
(利点)
当該歪みセンサ付き布帛1は、布帛2とCNTセンサ3とが複合層4により接着され、複合層4は布帛2の表面側の表層のみに含浸し、布帛2は中層及び裏面側の表層に接着剤が含浸していない繊維層5を有する。そのため、この繊維層5が布帛2の柔軟性を保ち、当該歪みセンサ付き布帛1の剛性は従来のものに比べて低くなる。従って、当該歪みセンサ付き布帛1はより高いセンサ感度を有し、着用感にも優れる。
また、当該歪みセンサ付き布帛1は、歪みセンサとしてCNTセンサ3を用いている。このCNTセンサ3に用いられる抵抗体であるCNT膜3bは、金属等の抵抗体と比べ遙かに大きな変形が可能であり、またリニアリティ特性にも優れる。このため、布帛2へ含浸する樹脂量を減らすことと相まって、CNTセンサ3は100%以上の伸長が可能である。従って、当該歪みセンサ付き布帛1は、人体の動きのような大きな変形の検出に適する。
(歪みセンサ付き布帛の製造方法)
当該歪みセンサ付き布帛1の製造方法としては、特に限定されないが、例えば以下の製造工程で製造することができる。
まず、布帛2及びCNTセンサ3を用意する。布帛2及びCNTセンサ3は、公知の方法により製造することができるのでこれらの製造方法については省略する。
次に、複合層4を形成するとともに、布帛2とCNTセンサ3とを接着する。複合層4を形成する接着剤としては前記の無溶剤型接着剤、ホットメルト型接着剤、溶剤型接着剤等を用いることができる。
複合層4を形成する接着剤として無溶剤型接着剤又は溶剤型接着剤を用いる場合、接着剤の粘度が50,000〜200,000mPa・sとなるように調整する。この接着剤を布帛2又はCNTセンサ3に塗布し、布帛2とCNTセンサ3とを貼り合わせ、接着剤が硬化するまで固定する。この際、接着剤が布帛2の表層に留まり中層に含浸しないように、塗布する接着剤の層の厚さ及び固定時の圧力等を適宜調整する。
複合層4を形成する接着剤としてホットメルト型接着剤を用いる場合は、ペースト状又はシート状の接着剤を布帛2又はCNTセンサ3に塗布又は貼付し、布帛2とCNTセンサ3とを貼り合わせた後、布帛2を裏面側から加熱することにより布帛2とCNTセンサ3とを接着する。この際、接着剤が布帛2の表層に留まり中層に含浸しないように、塗布又は貼付する接着剤の層の厚さ、加熱温度及び加熱時間を適宜調整する。
なお、本実施形態の表裏は歪みセンサ付き布帛の使用方法の表裏を決定するものではない。つまり、布帛2の表面が人体に接する側の面(以下、「着用者側面」ともいう。)であってもよく、布帛2の裏面が着用者側面であってもよい。布帛2の表面が着用者側面である場合は、CNTセンサ3が人体に触れることによって効率よく着用者の動きを検出できる。布帛2の裏面が着用者側面である場合は、接着剤が含浸していない繊維層5が人体に触れるため通常の衣服と同じ装着感を得られる。
<第二実施形態>
図4の歪みセンサ付き布帛11は、複合層12及び繊維層5を有する布帛2並びにCNTセンサ3を備える。布帛2、CNTセンサ3及び繊維層5は、前記第一実施形態の歪みセンサ付き布帛1と同様であるので、同一符号を付して説明を省略する。
複合層12は、布帛2の繊維の空隙に樹脂が含浸したものであり、布帛2とCNTセンサ3を接着するものである。複合層12は、図4(a)に示すようにCNTセンサ3の外縁部のみに平面視帯状に積層され、布帛2のCNTセンサ3が積層される領域の外縁部の表層のみに複合層12を形成する接着剤が含浸している。複合層12を形成する接着剤としては、例えば前記第一実施形態の複合層4を形成する接着剤として例示したものと同様の接着剤が挙げられる。また、接着剤が硬化した後のヤング率、接着時の粘度及び接着剤が布帛に含浸する割合についても、第一実施形態の複合層4と同様である。
複合層12の平面視における平均帯幅の下限としては、CNTセンサ3の幅に対して10%が好ましく、15%がより好ましい。複合層12の平均帯幅が前記下限未満だと十分な接着力が得られず、CNTセンサ3が布帛2から剥離するおそれがある。複合層12の平面視における平均帯幅の上限は、CNTセンサ3の幅に対して30%が好ましく、25%がより好ましい。複合層12の平均帯幅が前記上限を超えると、布帛2の表面側の表層における樹脂の含浸領域が前記第一実施形態の歪みセンサ付き布帛1と比べてあまり減少せず、当該歪みセンサ付き布帛11のセンサ感度及び着用感がより向上しないおそれがある。
当該歪みセンサ付き布帛11は、複合層がCNTセンサ3の外縁部のみに帯状に積層される。よって、図4(b)に示すように布帛2の表面側の表層における樹脂の含浸領域が最低限に抑えられる。そのため、前記第一実施形態の歪みセンサ付き布帛1と比べて布帛2の柔軟性がさらに保たれ、当該歪みセンサ付き布帛11の剛性はさらに低くなる。従って、当該歪みセンサ付き布帛11はより高いセンサ感度を有し、着用感にも優れる。
<第三実施形態>
図5の歪みセンサ付き布帛21は、複合層22及び繊維層5を有する布帛2、CNTセンサ3並びに接着剤層23を備える。布帛2、CNTセンサ3及び繊維層5は、前記第一実施形態の歪みセンサ付き布帛1と同様であるので、同一符号を付して説明を省略する。
複合層22は、布帛2の繊維の空隙に樹脂が含浸したものであり、布帛2とCNTセンサ3とを接着剤層23を介して間接的に接着するものである。複合層22を形成する接着剤としては、例えば前記第一実施形態の複合層4を形成する接着剤として例示したものと同様の接着剤が挙げられる。また、接着剤が硬化した後のヤング率、接着時の粘度及び接着剤が布帛に含浸する割合についても、第一実施形態の複合層4と同様である。これらに加え、接着性を有しない樹脂等も複合層22の樹脂として使用できる。また、複合層22を形成する樹脂が含浸する領域は平面視でCNTセンサ3の面積より大きい。
(接着剤層)
接着剤層23は、複合層22とCNTセンサ3との間に積層され、複合層22とCNTセンサ3とを接着するものである。これにより布帛2とCNTセンサ3とが接着される。接着剤層23は接着剤を主成分とする。接着剤層23を形成する接着剤は、硬化後のヤング率が一定範囲内のものであれば特に限定しないが、前記第一実施形態の複合層4において例示したものと同様の接着剤が使用できる。硬化後のヤング率の好適範囲についても、前記第一実施形態の複合層4と同様である。ただし、接着剤層23は複合層22の表面に積層され布帛2に含浸しないため、接着時の粘度が低い接着剤も採用できる。また、接着剤層23が積層される領域は平面視でCNTセンサ3と同形である。
接着剤層23の平均厚さの下限としては、0.5μmが好ましく、1μmがより好ましく、5μmがさらに好ましい。接着剤層23の平均厚さが前記下限未満だと十分な接着力が得られず、CNTセンサ3が布帛2から剥離するおそれがある。接着剤層23の平均厚さの上限としては、200μmが好ましく、100μmがより好ましく、50μmがさらに好ましい。接着剤層23の平均厚さが前記上限を超えると、布帛2の剛性が上昇し、センサ感度の低下及び着用感の劣化を招くおそれがある。
当該歪みセンサ付き布帛21は、前記第一実施形態の歪みセンサ付き布帛1及び第二実施形態の歪みセンサ付き布帛11と同様に、複合層22による布帛2の剛性上昇が抑制される。よって、当該歪みセンサ付き布帛21の剛性は従来のものに比べて低くなる。従って、当該歪みセンサ付き布帛21は高いセンサ感度を有し、着用感にも優れる。また、接着剤層23は複合層22の表面に積層され、布帛2に含浸しない。よって、接着剤層23を積層する際に布帛2の中層に樹脂が含浸しないように各種条件を調整する手間が軽減される。加えて、複合層22は接着剤層23より平面視で面積が大きいため、前記手間がさらに軽減される。従って、当該歪みセンサ付き布帛21は前記第一実施形態の歪みセンサ付き布帛1及び前記第二実施形態の歪みセンサ付き布帛11と比べて容易に製造できる。
[被服]
次に、本発明の被服の実施形態について説明する。
図6の被服31は、当該歪みセンサ付き布帛から構成される領域を備えるアームカバーである。当該歪みセンサ付き布帛は、複合層4及び繊維層5を有する布帛2、CNTセンサ3並びに滑り止め層32を備える。このアームカバーは伸縮性を有し、着用者の動きに追従する。布帛2、CNTセンサ3、複合層4及び繊維層5は、図1のものと同様であるので、同一符号を付して説明を省略する。また、滑り止め層32はタック性又は投錨性を備えており、布帛2の表面及び裏面のうち少なくともCNTセンサ3が存在しない領域に配設される。ここで、布帛2の表面とはCNTセンサ3が積層される側の面をいい、布帛2の裏面とはCNTセンサ3が積層されない側の面をいう。なお、図6(a)は、アームカバーの内面(着用者側面)を示している。図6(b)においては図の上側がアームカバーの内面(着用者側面)である。また、本実施形態ではアームカバーの内面(着用者側面)が布帛2の裏面であり、滑り止め層32が布帛2の裏面に配設されている。
(滑り止め層)
滑り止め層32は、着用者の肌等と布帛2とが接触する着用者側面(布帛2の裏面)に配設される。滑り止め層32は、タック性又は投錨性を有する樹脂を布帛2の着用者側面の表層に直接含浸させることにより形成されてもよく、タック性又は投錨性を有する布帛等を布帛2の着用者側面に接着又は縫合することにより形成されてもよい。本実施形態では、滑り止め層32及びCNTセンサ3は布帛2の異なる面に配設されるが、滑り止め層32及びCNTセンサ3を共に着用者側面に配設してもよい。この場合、滑り止め層32が配設されるのは布帛2の表面である。このように、滑り止め層32とCNTセンサ3とが着用者側面に配設されることで、CNTセンサ3が着用者の肌等に直接接触し、かつ滑り止め層32が着用者の肌等に密着するため、当該歪みセンサ付き布帛がより着用者の動きに追従し、センサ感度をより高めることができる。
前記タック性又は投錨性を有する樹脂を布帛2の着用者側面の表層に直接含浸させることにより滑り止め層32を形成する場合、タック性又は投錨性を有する樹脂は、硬化後のヤング率が一定範囲内のものであれば特に限定されない。このタック性又は投錨性を有する樹脂としては、例えばアクリル系樹脂、シリコーン樹脂、ゴム系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂等が挙げられる。
前記タック性又は投錨性を有する樹脂の硬化後のヤング率の上限としては5MPaが好ましい。硬化後のヤング率の下限としては1MPa又は布帛2のヤング率の50%のいずれか低い方が好ましい。この樹脂の硬化後のヤング率が前記上限を超えると、硬化した樹脂を含む層によって布帛2の伸縮が阻害されるおそれがある。一方、前記ヤング率が前記下限未満であると、布帛2の伸縮が硬化した樹脂を含む層で吸収されてしまい、CNTセンサ3に的確に伝達されないおそれがある。
タック性又は投錨性を有する樹脂が布帛2に含浸する割合の下限としては、布帛2の平均厚さに対して1%が好ましく、3%がより好ましい。含浸する割合が前記下限未満だと、十分なタック性又は投錨性が得られず、滑り止め層32が着用者の肌等に十分に密着しないおそれがある。タック性又は投錨性を有する樹脂が布帛2に含浸する割合の上限としては、布帛2の平均厚さに対して20%が好ましく、15%がより好ましい。含浸する割合が前記上限を超えると、布帛2の剛性が上昇し、センサ感度が低下するおそれがある。
また、タック性又は投錨性を有する樹脂を布帛2に含浸させる際の樹脂の塗布形状としては、平面視で面状、線状及びドット状等の様々な形状を採用できる。
前記タック性又は投錨性を有する布帛等を布帛2に接着又は縫合することにより滑り止め層32を形成する場合、タック性又は投錨性を有する布帛等は、マイクロファイバー、糸状ゴム、絨毛、起毛等を備えることにより高い摩擦係数を有する布帛であってもよく、前記タック性を有する樹脂を含浸させた布帛であってもよい。本実施形態では、図6に示すように帯状の布帛を円環状にしてCNTセンサ3を囲むように配設し、布帛2に縫合又は接着することで滑り止め層32を形成している。
タック性又は投錨性を有する布帛等を布帛2に接着する場合は、接着に用いる接着剤は複合層4と同様に布帛2の表層のみに含浸される。この際に用いられる接着剤の種類及び接着方法としては、前記第一実施形態の歪みセンサ付き布帛1において例示したものと同様の種類及び方法をとることが可能である。
当該被服31はCNTセンサ3の周囲に滑り止め層32を有し、この滑り止め層32は着用者の腕に密着する。このため、着用者の動きにCNTセンサ3がより追従する。従って、被服31はより高いセンサ感度を有し、着用感にも優れる。
<その他の実施形態>
本発明の歪みセンサは前記実施形態に限定されるものではない。前記CNTセンサにおいては、CNT膜が有するCNT繊維束の配向方向と電極配設方向とが略同一方向であるものを例にとり説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、CNT繊維束と電極配設方向とが略垂直方向であるもの等も採用できる。
また、前記CNTセンサが基板を備えず、CNT膜及び電極が直接布帛に積層されていてもよい。このような構成とすることで、CNTセンサの厚さ及び剛性がさらに低下するため、当該歪みセンサ付き布帛の剛性をさらに低くできる。
さらに、前記の実施形態では、CNT繊維束がCNT膜樹脂層により被覆され、CNT繊維束同士の間の空隙の全体にCNT膜樹脂層が含浸しているCNTセンサを例にとり説明したが、CNT膜樹脂層はCNT繊維束同士の間の空隙の一部のみに含浸していてもよい。また、CNT膜がCNT膜樹脂層を有さず、CNT繊維束のみを有していてもよい。さらに、CNTセンサが保護層を備えず、CNT膜が表面に露出していてもよい。このように、CNTセンサが有する樹脂の量を減少させることで、CNTセンサの厚み及び剛性がさらに低下する。
CNTセンサの積層箇所も被服の外側の面に限定されず、内側の面(着用者側面)であってもよい。また、複数のCNTセンサを布帛又は被服に積層することも可能である。
また、当該歪みセンサ付き布帛に用いる歪みセンサはCNTセンサに限定されるものではなく、抵抗体として弾性樹脂と導電性材料とを混ぜたもの等を備える歪みセンサも使用できる。前記弾性樹脂としては、前記基板3aの材料として例示した合成樹脂等を挙げることができる。前記導電性材料としては、例えば銀粉末、銀ナノファイバー、カーボンブラック、低融点金属(GaIn共晶液体金属等)等を挙げることができる。
前記第一実施形態では、複合層4が布帛2に含浸する領域は平面視でCNTセンサ3と同形であったが、前記領域は、歪みセンサの抵抗変化に寄与する部分が布帛に固定されていれば、歪みセンサより平面視で大きくても小さくてもよい。前記領域を歪みセンサより平面視で大きくすることにより、歪みセンサ接着時に正確に位置を合わせる必要がなく、より簡便に当該歪みセンサ付き布帛を製造することができる。一方、前記領域を歪みセンサより平面視で小さくすることにより、布帛の剛性を低くでき、センサ感度及び着用感を向上させることができる。
また、前記第二実施形態では布帛2の表層のみに複合層が形成されているが、このように歪みセンサの外縁部のみに複合層を形成する場合は、布帛2の裏面側の表層まで複合層が形成されていてもよい。この場合は、布帛の裏面まで接着剤が含浸していてもよいため、第一実施形態の布帛2よりも薄い布帛や目付が小さい布帛も使用できる。さらに、複合層を形成する接着剤については、第一実施形態のものよりも接着時の粘度が低くてもよく、接着剤が布帛に含浸する割合が高くてもよい。このため、布帛及び接着剤についてより多様なものを使用できる。この場合も、布帛の剛性を低くでき、センサ感度及び着用感を向上させることができる。
さらに、前記第二実施形態ではCNTセンサ3の外縁部の全てに複合層12を積層しているが、これに限定されず、複合層を歪みセンサ外縁部の一部に積層してもよい。具体的には歪みセンサの延伸方向の外縁部に部分的に帯状又は島状に複合層を積層することで、歪みセンサ付き布帛の剛性をさらに低くすることができる。さらに、歪みセンサの布帛への固定力を補うために、帯状又は島状の複合層を歪みセンサの外縁部の内側に任意に積層してもよい。
当該歪みセンサ付き布帛が接着剤層を備える場合、複合層が形成される範囲は、図5に示すように布帛の歪みセンサが積層される領域より布帛の平面方向に大きいものとするほか、前記積層される領域と平面視同形とすることも可能である。また、歪みセンサの外縁部のみに複合層を帯状に積層してもよい。このように複合層の平面視での面積を小さくすることで、接着剤層を積層する際の各種条件を調整する手間を軽減するとともに、布帛の剛性をより低くでき、センサ感度及び着用感をより向上させることができる。
接着剤層は、平面視で複合層が含浸している領域内であれば、歪みセンサの外縁部のみに積層する等任意に積層できる。このように接着剤層の積層領域を小さくすることで、布帛の剛性をさらに低くできる。
また、前記被服の実施形態では前記滑り止め層32として帯状の布帛を円環状にしたものを用いCNTセンサ周囲に配設したが、図7に示すように、滑り止め層32として帯状の布帛を用いて直線状に配設してもよい。図7の被服41は、図6の被服31と同様にCNTセンサ3と滑り止め層42とが布帛2に配設されたアームカバーである。布帛2及びCNTセンサ3は、図1のものと同様であるので、同一符号を付して説明を省略する。図7は、アームカバーの内面(着用者側面)を示している。このように、滑り止め層42とCNTセンサ3とを布帛2を挟んで積層することでも、CNTセンサ3が着用者の動きにより追従するため、当該歪みセンサ付き布帛のセンサ感度をより高めることができる。
さらに、当該歪みセンサ付き布帛を被服に取り付ける方法についても、前記実施形態に限定されるものではなく、歪みセンサ付き布帛を用いて被服を製造してもよく、歪みセンサ付き布帛及び被服を別途製造した後に、被服の上から歪みセンサ付き布帛を接着、縫合等してもよい。
前記被服として、腕部位に着用されるアームカバーを例にとり説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば関節部に着用されるサポータ、手に着用される手袋、上半身又は下半身に着用されるコンプレッションウェア又はスポーツウェア等に本発明を採用することも可能である。
また、当該歪みセンサ付き布帛は人体の動きの検出のみに用いられるものではない。当該歪みセンサ付き布帛を機械等に装着し、機械等の動作を検出することも可能である。
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
<実施例1>
CNTセンサの裏面全体に接着剤を積層し、接着剤を布帛の表層のみに含浸させて布帛にCNTセンサを接着した。条件を以下に示す。
布帛原糸として、ポリウレタン弾性繊維であるスパンデックス(暁星社の「PE(CD)56T36十字断面生糸(商品名「エアロクール(登録商標)」)81.4%及びポリエステル原糸(暁星社の「PU44T(商品名「クレオラ(登録商標)」)18.6%を用いて、目付200g/m2、厚さ500μmのハーフトリコット編みの布帛を製造した。この布帛を幅20mm、長さ50mmに裁断し、CNTセンサ(幅5mm、長さ30mm、厚さ150μm)を前述のように接着した。接着剤としてシリル化ウレタン系接着剤(スリーボンド社の「1530」)を用い、接着剤の初期粘度は10,000mPa・sとした。
<実施例2>
接着剤としてシリル化ウレタン系接着剤(セメダイン社の「スーパーXハイパーワイド」)を用いた以外は実施例1と同様にして布帛にCNTセンサを接着した。
<実施例3>
接着剤としてシリル化ウレタン系接着剤(コニシ社の「ボンドSUプレミアムソフト」)を用いた以外は実施例1と同様にして布帛にCNTセンサを接着した。
<比較例1>
接着剤を布帛の厚み方向の全体に含浸させた以外は実施例1と同様にして布帛にCNTセンサを接着した。
(ヤング率の評価)
歪みセンサ付き布帛の剛性の指標として、実施例1〜3、比較例1及びCNTセンサを接着していない布帛(以下、「生布帛」ともいう。)のヤング率を、インストロン万能試験機を用いて測定した。引張速度は10mm/secとし、引張荷重を測定した。結果を図8に示す。
図8に示すように、実施例1〜3においては、生布帛と比較した場合のヤング率の上昇が小幅に抑えられている。これに対し、比較例ではヤング率が大幅に上昇している。
<実施例4>
実施例1の歪みセンサ付き布帛を用いて、CNTセンサが膝関節部に配設された下半身用のコンプレッションインナーを製造した。
<実施例5>
接着剤をCNTセンサの外縁部のみに積層させて布帛にCNTセンサを接着した以外は実施例4と同様にしてコンプレッションインナーを製造した。
<実施例6>
布帛の表面側の表層に接着剤を含浸して複合層を形成し、複合層が硬化した後にその表面へ接着剤層として接着剤を塗布し、布帛にCNTセンサを接着した。布帛、CNTセンサ及び接着剤は実施例4と同じものを用いた。この歪みセンサ付き布帛を用いて実施例4と同様にコンプレッションインナーを製造した。
<比較例2>
接着剤を布帛の厚み方向の全体に含浸させて布帛にCNTセンサを接着した以外は実施例4と同様にコンプレッションインナーを製造した。
(運動追従性及び着用感の評価)
被験者3名が前記実施例4〜6及び比較例2のコンプレッションインナーを着用し、歪みセンサを備えないコンプレッションインナーを基準とした下記の評価基準に基づいて運動追従性及び着用感について官能評価した。結果を下記表1に示す。
(運動追従性の評価基準)
○:歪みセンサの存在が運動の妨げにならない。
×:歪みセンサにより運動が妨げられる。
(着用感の評価基準)
○:歪みセンサを備えないコンプレッションインナーと比較しても着用時に不快感がない。
×:歪みセンサを備えないコンプレッションインナーと比較すると着用時に不快感がある。
表1に示すように、実施例4〜6においては、着用者の運動は歪みセンサの存在によって妨げられず、着用時の不快感もなかった。これに対し、比較例2においては、着用者の運動が歪みセンサの存在により妨げられ、着用時に不快感があった。