以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。
(第1の実施形態)
図1を参照して、本実施形態に係る石炭装入処理について説明する。図1は、コークス炉1の石炭装入口付近の構造を示す図である。コークス炉1は、図1の紙面直交方向である炉団長方向に、壁で仕切られた炭化室2が複数並んだ炉である。コークス炉1は炭化室2と、炭化室2を加熱するための燃焼室とが炉団長方向に交互に並んでいる。炭化室2の上方には、石炭を炭化室2内に装入するための複数の石炭装入口4が形成されている。石炭装入口4は、コークス炉1の炉幅方向に並んで形成される。
また、コークス炉1の炭化室2の炉幅方向の端の上方には、乾留時に発生したガスを回収する上昇管6が垂直に立設されている。上昇管6に集められたガスは、上昇管6からドライメーンに吸引される。
コークス炉1はさらに、各炭化室2の各石炭装入口4から石炭を装入するための設備を有する装炭車10を備える。装炭車10は、炭化室2の石炭装入口4の上方に設置されており、コークス炉1の炉団長方向に移動する。装炭車10は、炉団長方向に移動して石炭を装入する対象の炭化室2の上方に移動し、石炭を必要な分量炭化室内に装入することができる。装炭車10は、採炭ホッパー12と、フィダー14と、ダンパー16と、給炭ホッパー18と、レベル測定装置20などを、各石炭装入口4に対応する位置にそれぞれ備える。つまり装炭車10は、採炭ホッパー12、フィダー14、ダンパー16、給炭ホッパー18、レベル測定装置20などを含む石炭供給設備一式を、それぞれの石炭装入口14に対応する位置に備える。図1では一例として5つの石炭装入口4を備えるコークス炉1であるので、装炭車10としては5組の供給設備を備えるものを示している。
装炭車10は、採炭ホッパー12から石炭をフィダー14によって切り出して送り、給炭ホッパー18から石炭装入口4に石炭を装入することで、炭化室内に石炭を装入する。フィダー14は、たとえばテーブルフィダーやスクリューフィダーやロータリーフィダーでよい。
レベル測定装置20は、対応する位置の石炭の装入レベルを測定する。本実施形態においてレベル測定装置20は、各給炭ホッパー18の上方に設置されており、対応する石炭装入口4を介して、各石炭装入口4の下方の位置における石炭の装入レベルを測定する。レベル測定装置20としては、石炭の装入レベルを測定できればどのような測定装置を用いてもよいが、たとえばマイクロ波式のレベル測定装置を用いてよい。なお、レベル測定装置20は各石炭装入口4における石炭装入レベルを測定できれば、どの位置に配置されてもよい。
コークス炉1は、さらに、装炭制御部50と、レベル測定制御部60とを備える。装炭制御部50は、採炭ホッパー12やフィダー14や給炭ホッパー18等を制御して各給炭ホッパー18からの石炭の装入処理を制御する。レベル測定制御部60は、レベル測定装置20を制御して、石炭の装入レベルを測定する処理を行う。装炭制御部50やレベル測定制御部60としては、コンピュータを用いることができる。装炭制御部50やレベル測定制御部60が実行する処理は、コンピュータに記憶されるプログラムを実行して実現してもよいし、専用の処理回路によって実現されてもよい。装炭制御部50やレベル測定制御部60によって実行される石炭の装入レベル制御処理の詳細は後述する。
次に、本実施形態のコークス炉1に装入する石炭の事前処理を行う事前設備について説明する。図2はコークス炉1に装入する石炭の事前処理の流れを示すフロー図である。図2には、コークス炉1に石炭を供給する事前処理設備として利用される複数種類の設備を示しており、(1)は既設DAPS炭設備であり、(2)は高温DAPS炭設備であり、(3)はSCOPE炭設備である。コークス炉1は事前設備としてこれらの設備を全て備え、操業する事前設備を切り替えて利用してもよいし、(1)と(2)を備えて切り替えて利用してもよいし、(1)と(3)を備えて切り替えて利用してもよいし、(2)と(3)を備えて切り替えて利用してもよい。
ここで、まずDAPS(Development of Dry-cleaned and Agglomerated Precompaction System、微粉炭塊成化)は、流動床乾燥分級機によって原料炭を粗粒炭と微粉炭に分級する。そして微粉炭については塊成機で造粒して塊成炭とし、最終的に粗粒炭と塊成炭からなるコークス炉装入用の装入炭を製造する工程である。
SCOPEは次世代コークス炉技術であるSCOPE21(Super Coke Oven for Productivity and Environmental enhancement toward the 21th century)のことである。本実施形態に係るSCOPE炭設備は、SCOPE技術のうち、コークス炉に装入する石炭の事前処理を行う設備のことを指す。
(1)の既設DAPS炭設備は、このDAPS処理によって水分量約10%の原料炭から水分量約2%で温度が70℃程度の装入炭を製造することができる。(1)既設DAPS炭設備は、流動層乾燥分級機100と、塊成機102と、を備える。なお、上記既設DAPS炭設備によって生産される石炭の温度である70℃は、事前設備から装炭車10に供給される際の温度であり、具体的には後述の炭槽110の切出口の温度計Tによって測定される温度である。
流動床乾燥分級機100は、ガス室に導入されたガスを、分散板を介して噴出させることにより乾燥分級室内の分散板上に流動層を形成し、石炭を乾燥すると同時に乾燥により発生する石炭中の微粉炭を風力分級し、粗粒炭と微粉炭に分級する装置である。
塊成機102は、流動層乾燥分級機100によって分離された微粉炭を造粒して塊成炭とする。本実施形態の塊成機102は、加圧成形型の装置であることが好ましいが、その他の方式の塊成機でもよい。
次に、(2)の高温DAPS炭設備と(3)のSCOPE炭設備については、微粉炭と粗粒炭に分級する点は(1)と同様であるが、いずれも最終的に得られる石炭の温度が(1)既設DAPS炭設備で得られる石炭の温度よりも高い。より具体的には(2)高温DAPS炭設備は、流動床乾燥分級機104と、塊成機106とを備える。一方、(3)SCOPE炭設備は、流動床乾燥分級機104と、塊成機106と、さらに気流加熱塔108と、を備える。従って、図2のフローでは(2)高温DAPS炭設備の場合、分級された粗粒炭は気流加熱塔108を通らないフローであり、(3)SCOPE炭設備の場合は、粗粒炭が気流加熱塔108で加熱されるフローである。
(2)高温DAPS炭設備は、水分量約10%の原料炭から水分量0%で120℃〜200℃の石炭を製造することができる。(3)SCOPE炭設備は、同じく水分量約10%の原料炭から水分量0%で180℃〜200℃の装入炭を製造することができる。
(3)SCOPE炭設備の気流加熱塔108は、熱風炉から供給される熱風(上昇流)により、下部から供給された粗粒炭を上方に向けて浮上させながら、粗粒炭を200℃〜350℃程度まで加熱する。(2)および(3)の流動床乾燥分級機104と塊成機106は(1)既設DAPS炭設備における装置と同様である。なお、上記(2)高温DAPS炭設備および(3)SCOPE炭設備によって生産される石炭の上述の温度は、装炭車10に供給される際の温度であり、具体的には後述の炭槽110の切出口において温度計Tによって測定される温度である。
炭槽110は、上述のような事前設備から供給された石炭を一時的に保管しておく設備である。炭槽110から装炭車10の各採炭ホッパー12に石炭が供給される。炭槽110の容量は特に限定されないが、たとえば1つの炭化室2に対する1回の石炭の装入量の15倍程度の容量を有するものである。基本的にはコークス炉1の操業中は常時、事前設備で処理された石炭が炭槽110に対して送られ、炭槽110からは10分に1回程度のペースで石炭が切り出されて装炭車10の採炭ホッパー12に供給される。炭槽110は、炭槽110から装炭車10に対して石炭を切り出す切出部に温度計Tを備えることができる。温度計Tを備える場合には、炭槽110から採炭ホッパー12に供給される直前の石炭の温度を監視することができる。
次に、本実施形態のコークス炉1における石炭のレベル制御処理について説明する。本実施形態の装入レベル制御処理は、上述の(3)SCOPE炭設備や(2)高温DAPS炭設備といった、高温の石炭を生産する事前設備からコークス炉1に石炭が供給されている場合に行うと効果的である。
なお、本実施形態において、(2)高温DAPS炭設備および(3)SCOPE炭設備によって生産される石炭は、装炭車に供給される際の石炭の温度が120℃以上であり、これらの120℃以上に予熱された石炭を高温石炭とする。なお、高温DAPS炭設備によって生産される石炭を高温DAPS炭、SCOPE炭設備によって生産される石炭をSCOPE炭とも呼ぶ。また、(1)既設DAPS炭設備などによって生産され、装炭車に供給される際の温度が120℃未満の石炭を低温石炭とする。低温石炭は、120℃未満の温度に予熱された石炭でもよいし、予熱されていない120℃未満の石炭でもよい。なお、既設DAPS炭設備によって生産される石炭を既設DAPS炭とも呼ぶ。
本実施形態では、これから石炭を装入しようとする装入対象の炭化室2の各石炭装入口4から装入する石炭の装入量の設定値(設定装入量)を、過去N回(Nは1以上の自然数)の石炭の装入レベルの実績値や装入量の設定値の平均値に基づき決定する。具体的には設定装入量は下記式(1)によって求められる。
(設定装入量)=(過去N回の設定装入量の平均値)÷(過去N回の実績装入レベルの平均値)×(設定装入レベル) ・・・式(1)
ここで、「過去N回の設定装入量の平均値」は、設定装入量を求める対象の給炭ホッパー18における過去N回の装入量として設定された設定値の平均値(相加平均)である。つまり、過去N回のそれぞれの装入において、給炭ホッパー18から装入する石炭の、実際の装入量ではなく、目標値としてこれまでに上記式(1)によって算出されて設定された設定値の平均値である。たとえば、図1の最も左の給炭ホッパー18等の石炭供給設備において、N=10として過去10回の設定装入量(×10−2[t])が、712、717、713、716、709、714、714、718、713、715であった場合には、この給炭ホッパー18における過去10回の設定装入量はこれらの値の相加平均値である714(×10−2[t])となる。
「実績装入レベル」は、1回石炭が装入された場合に、実際に装入された石炭の量を炭化室2の底面からのレベル(高さ)で示した値である。たとえば、図1において最も左の石炭装入口4の位置における実績装入レベルは、空の炭化室2に石炭が装入された後の当該石炭装入口4の位置における石炭表面の実際のレベル(高さ)である。
「過去N回の実績装入レベルの平均値」は、各石炭装入口4の位置における、過去N回の石炭装入後の実績装入レベルの平均値である。たとえば、各炭化室2の一番左の石炭装入口4に対応する位置における過去10回の実績装入レベル(mm)が、6364、6180、6097、6223、6246、6149、6355、6243、6340、6349であった場合には、過去10回の実績装入レベルはこれらの相加平均値である6255(mm)となる。
「設定装入レベル」は、石炭装入口4ごとに設定されている石炭装入後の石炭のレベルの目標値である。設定装入レベルは、コークス炉1の構造や形状等に応じて最適な装入レベルを求めて設定される。具体的には設定装入レベルは、ガス道を確保したり、コークス炉1の炉壁にカーボンが付着することを抑制するのに適したレベルに設定される。たとえば、ガス道確保の観点では、通常は石炭の上面と炭化室2の天井(炭化室天井煉瓦)の下面2aとの間にガスの流れるガス道を確保する。そして、ガス道としては、石炭表面から天井の下面2aとの距離は400mm程度確保されることが好ましい。そのため、たとえば400mm確保できるレベルを設定装入レベルとすることができる。また、炉壁へのカーボン付着量を減らす観点では、石炭の装入レベルが低すぎると石炭の上面と炭化室天井煉瓦の下面との間の空間(ガス道を形成する炉頂空間)の温度が上昇しカーボン付着量が増大する。炉壁へのカーボン付着量が多いと、炉壁表面に凹凸が生じ、コークスを押出す際の抵抗となり、押大負荷が増大するので好ましくない。一方で、装入レベルが高すぎるとコークスを押し出す際にコークスが炭化室2の天井に接触し、押出負荷が増大する可能性もある。カーボン付着の抑制という観点からもこのような事情を考慮して最適な設定レベルを求めてもよい。ガス道確保の観点とカーボン付着量の観点の両方を総合して装入レベルを設定してもよい。石炭装入後のレベルは、通常は炭化室2内においてバラつきがより小さい方が好ましいので、設定装入レベルはすべての石炭装入口4に対応する位置において同等のレベルであることが好ましい。
なお過去N回の設定装入量および過去N回の実績装入レベルにおける、過去N回の平均値は、過去N回分のデータの移動平均であればよい。つまり、設定装入量の場合は、各給炭ホッパー18における過去N回分の石炭の設定装入量の平均値であればよい。実績装入レベルの場合は、各石炭装入口4に対応する位置における過去N回分の実績装入レベルの平均値であればよい。
そして次の石炭装入処理におけるそれぞれの給炭ホッパー18における設定装入量を上記式(1)により求める場合には、N個のデータのうち最も古い設定装入量や実績装入レベルのデータを除外するとともに、最も新しい直近の回の設定装入量や実績装入レベルのデータを、平均値算出のためのデータとして新たに加えて平均値を求めればよい。また、過去N回分の設定装入量や実績装入レベル等のデータは、過去の複数の石炭装入処理の中の任意のN回分のデータでもよいが、直近N回のデータであるのが好ましい。直近N回のデータであればこれから装入する石炭の性状により近い石炭の平均値を用いて設定装入量が算出されるので、より適正な装入量を設定できるためである。
平均値を求める際のデータの数であるNは、各石炭層入口4において、あらかじめ設定される設定装入レベルにおいて複数回石炭を装入した場合に測定される実際の装入レベルの複数のデータの標準偏差を求めた場合に、標準偏差が所望の値以下となる最小のデータ数(L)(Lは1以上の自然数。)以上とするのがよい。特に、NとしてLを用いる(つまり式(1)においてN=Lとする)のがより好ましい。これは、通常、安定操業時のデータであれば、N数が多いほど装入レベルの標準偏差が小さくなることが期待できる。その一方で、N数が大きくなると操業状況の異なるデータの混入の影響もあって、必ずしも標準偏差が小さくならない場合もあるためである。
平均値を求める際のデータの数であるNは、(3)SCOPE炭設備や(2)高温DAPS炭設備で事前処理された石炭を用いる場合には、下記のように、N≧10で実際の装入レベルのバラつき(標準偏差)が小さくなり安定するので(つまり、所望の値以下となるので)、L=10とするのが好ましい。
ここで、図3には既設DAPS炭と同等の温度である70℃の石炭と、SCOPE炭あるいは高温DAPS炭と同等の温度である200℃の石炭について、複数回の石炭装入を行い、実際の装入レベルの標準偏差と装入レベルのデータ数であるN数との関係を示したグラフを示す。図3に示すように、N≧10でバラつきが安定していることが分かる。なお、図3では所定の設定レベルにおいて装入を行った場合の実際の装入レベルの標準偏差よりN数を定めたが、装入量の実績値と設定装入量との差分の標準偏差においてもN数との関係は同様であるので、その差分の標準偏差からN数を定めてもよい。
次に、実績装入レベルや設定装入量についてデータを示して、本実施形態の設定装入量の算出処理についてさらに具体的に説明する。表1は、図1に示すような5組の給炭ホッパー18等の設備を有する装炭車10を備え、石炭装入口4を5つ備えるコークス炉1において、平均値のデータ数NをN=10として設定装入量を求めるために必要な種類のデータ例である。具体的には、N=10、つまり過去10回分の装入処理における設定装入量および実績装入レベル、それらの平均値、装入レベルの設定値(目標値)と、これらのデータと式(1)を用いて求められる次の石炭装入時の設定装入量(目標値)のデータ例を示す。
表1において石炭装入口番号は、図1の5つの石炭装入口4を指しており、たとえば左から順に1〜5とする。また、過去10回分データとして、コークス炉2が備える多数の炭化室2のうち、N−1からN−10の計10個の炭化室2に対する石炭装入処理時のデータを過去10回のデータとして示している。
実績装入レベルは、各石炭装入口4に対応する位置の石炭装入後の石炭レベル(高さ)である。実績装入レベルは、上述の通り本実施形態において各給炭ホッパー18の上方に設置されるレベル測定値20でそれぞれ測定される値である。また、設定装入量は、1回の石炭装入処理において各石炭装入口4に対応する位置の給炭ホッパー18から供給する石炭量として設定された量(目標値)である。
また、表1の実績装入レベルの過去10回の平均値は、各石炭装入口4に対応する位置における過去10回の石炭装入後のレベルの平均値である。設定装入量の過去10回の平均値は、各給炭ホッパー18からの装入量として設定された過去10回の設定装入量の平均値である。
また、各炭化室番号における実績装入レベルの平均値(表1の中央付近の縦列の数値)は、各炭化室番号の炭化室2への装入処理後のレベルの平均値である。たとえば、N−10の炭化室2への石炭装入処理後の石炭のレベル(mm)は、石炭装入口番号1〜5の順に6364、6327、6179、6181、6360であり、これらのレベルの平均値が6268mmである。
また、設定装入量の合計装入量は、それぞれの炭化室2について、各給炭ホッパー18等の供給設備において設定された設定装入量の合計値である。たとえばN−9の炭化室2であれば、1〜5の石炭装入口4に対応する各給炭ホッパー18等の供給設備について設定された設定装入量(10−2t)は717、705、734、671、586であり、設定値の合計装入量は3413×10−2tとなる。
表1の最下段の設定値は、装入レベルについては、炭化室2における石炭装入後の石炭のレベル(高さ)の目標値として設定されている値である。上述のようにいずれの石炭装入口4に対応する位置においても石炭のレベルは同等であることが好ましく、表1の例では6279mmに設定されている。また、この装入レベルの設定値は、上述のようにガス道を十分に確保できるように設定される値である。また、設定装入量の設定値は、表1のデータを用いて式1によって求められる、次の石炭装入時の装入量の設定値である。
これらのデータに基づき、次の回の各給炭ホッパー18から装入する石炭の設定装入量が求められる。たとえば、次の石炭装入時に石炭装入口番号1の石炭装入口4に対応する給炭ホッパー18から装入する石炭の設定装入量は次のように求められる。
(石炭装入口番号1の次回の石炭装入時の設定装入量)
=(過去10回の設定装入量の平均値)÷(過去10回の実績装入レベルの平均値)×(設定装入レベル)
=714÷6255×6279
=717(×10−2t)
他の石炭装入口からの次の石炭装入の設定装入量についても、同様の算出処理によって求めることができる。
以上の本実施形態のコークス炉1における石炭の装入レベル制御処理は、上述のように装炭制御部50やレベル測定制御部60によって実行される。そして、表1に示した実績装入レベルや設定装入量などの過去のデータや、設定装入量を求めるための式(1)などについては、装炭制御部50やレベル測定制御部60を実現するコンピュータの記憶媒体に保存されていてもよいし、ネットワーク等で接続される他の記憶媒体等に記憶されていてもよい。
以上の本実施形態のコークス炉1への石炭の装入処理によれば、装炭車10の各給炭ホッパー18から各石炭装入口4を介して供給する石炭の装入量の設定値を、過去N回(本実施形態ではN=L=10)の装入レベルの実績値や装入量の設定値(目標値)に基づいて算出して設定することができる。従って、高温DAPS炭設備やSCOPE炭設備によって供給される高温の石炭をコークス炉1に供給してコークスを生成する場合にも、適切な量の石炭をコークス炉1に供給することができる。つまり、より高温の石炭を用いた場合に石炭の流動性が高くなり石炭装入量の実績値と設定値に差が生じてしまう(流れ込み量が大きくなる)場合であっても、その差が考慮された適正な量の石炭をコークス炉1の各炭化室2に供給することができる。そして、石炭装入口4ごとに石炭装入量の実績値と設定値のずれに応じた装入量が設定されるので、各炭化室2内においても石炭のレベルのバラつきが少ない装入処理を達成することができる。
(第2の実施形態)
次に第2の実施形態について説明する。本実施形態は、複数の事前設備を備え、コークス炉1に石炭を供給する事前設備を切り替えて操業する場合に、事前設備の切り替え時に性状の異なる石炭が装入されることになっても適切な装入が行われるように設定装入量を算出して石炭装入を行う点を特徴とする。以下、本実施形態を具体的に説明する。
まず、上述のようにコークス炉1に供給する石炭を事前処理する設備としては、図2に示すように、たとえば(1)既設DAPS炭設備と、(2)高温DAPS炭設備と、(3)SCOPE炭設備の3種類の設備がある。そしてコークス炉1は、これらのいずれか2つ、あるいは3つを事前設備として備え、状況に応じて操業する事前設備を切り替える。
たとえば、(1)から(3)の3種類の事前設備を備える場合であって、通常は(3)SCOPE炭設備を利用している場合について説明する。この場合は基本的には(3)SCOPE炭設備を操業して石炭を事前処理し、コークス炉1に石炭を供給する。具体的には第1の実施形態で説明したように流動床乾燥分級機104で粗粒炭と微粉炭に分級し、粗粒炭については気流加熱塔108で加熱し、微粉炭については塊成機106で造粒する。そしてこれらが混ざった石炭(SCOPE炭)が炭槽110に送られる。
この操業状態においてたとえば、気流加熱塔108でトラブルが生じた場合や、コークスの製骸量を減らしたい場合などに、操業する事前設備を(3)SCOPE炭設備から(2)高温DAPS設備に切り替えることができる。(3)から(2)あるいは(2)から(3)に切り替わる場合には、事前処理された石炭の性状が比較的近いため、いずれも第1の実施形態で示した過去N回(たとえばN=Lであり、第1の実施形態で示した例であれば、L=10でよい。)の装入処理のデータの平均値(実績装入レベルや設定装入量の平均値)を用いて次の石炭装入時の設定装入量を算出し、石炭の装入を行うことができる。
一方、(3)SCOPE炭設備から(1)既設DAPS炭設備に切り替える、あるいは(2)高温DAPS炭設備から(1)既設DAPS炭設備に切り替えた場合(つまり、装炭車10に供給される際の温度が120℃以上の高温石炭から120℃未満の低温石炭に切り替えられた場合)には、上記Nの数をより小さい数に変更して(1)既設DAPS炭設備から供給される石炭についての設定装入量を算出する処理を行うことが好ましい。また、逆に低温石炭から高温石炭に切り替える場合も同様である。具体的には、石炭供給元をSCOPE炭設備や高温DAPS炭設備から既設DAPS炭設備に切り替えた後、再びSCOPE炭設備などの高温石炭を供給する設備に切り替える場合や、もともと既設DAPS炭設備から低温石炭を供給している状態からSCOPE炭設備や高温DAPS炭設備に切り替える場合である。これは、高温石炭と低温石炭との流動性が大きく異なり、同一の石炭装入時の切り出し制御では前者の高温石炭の方が装入量が多くなることによる。
本実施形態では、たとえば(3)SCOPE炭設備または(2)高温DAPS炭設備の際のNをN=L(たとえば、L=10)として、(3)または(2)から(1)既設DAPS炭設備に事前設備が切り替わった場合には、NをLより小さい数字S(SはLより小さい1以上の自然数。)に、たとえばL=10であればS=3程度に変更することが好ましい。以下、理由を説明する。
まず、石炭を供給する事前設備が切り替わった場合、炭槽110内に貯蔵される石炭も切り替わる。具体的には、切り替わる前の事前設備によって供給された石炭が装炭車10に供給されて減っていき、切り替えた後の事前設備によって供給された石炭に切り替わっていく。たとえば(3)SCOPE炭設備から(1)既設DAPS炭設備に切り替わった場合には、温度が180℃から200℃程度の高温石炭(SCOPE炭)から、70℃程度の低温石炭(既設DAPS炭)に切り替わる。なお、これらの石炭の温度は炭槽110の切出部において温度計Tによって測定される温度である。
この場合において、N=Lのまま設定装入量の算出を続けると、移動平均に用いる過去L個のデータは、順番にSCOPE炭のデータから1つずつ既設DAPS炭のデータに置き換わっていく。しかし既設DAPS炭のデータに全て置き換わるまでは、既設DAPS炭の設定装入量の算出に全部あるいは一部SCOPE炭のデータを用いることになる。N=Lの場合、既設DAPS炭の設定装入量の算出にSCOPE炭使用時のデータの影響が長期間(具体的にはたとえば約10回の石炭の装入)及ぶことになるので好ましくない。
これに対して本実施形態では、Nの数を、事前設備を切り替える前のN数よりも少ない数となるS個(N=Lとした場合には、Lよりも小さいS個)に減らして事前設備切り替え後の設定装入量の算出を行う。たとえばSを3とする場合には、実際に給炭ホッパー18から既設DAPS炭が供給され始めてから、3回程度の石炭装入が行われれば、設定装入量を求めるための過去のデータ(実績装入レベルや設定装入量)は既設DAPS炭のデータに置き換わる。よって、事前設備の切り替えの際に、切り替え前の石炭のデータを設定装入量の算出基礎からより早く除外することができる。従って、事前設備を切り替えて異なる性状の石炭が供給されることによる影響を抑えられ、事前設備の切り替えがされてもより適正な設定装入量が算出される。
本実施形態において、事前設備が切り替わったか否かの判定は、炭槽110の切出部の温度計Tによって測定される石炭の温度に基づいて行うことが好ましい。具体的には、装炭制御部50が温度計Tによって炭槽110の切出部における石炭の温度を測定する。そして、石炭の温度が、SCOPE炭や高温DAPS炭に対応する温度から既設DAPS炭に対応する温度に変化したと判断できる基準温度以下に低下した場合に、装炭制御部50は事前設備が切り替わったと判断することができる。また、低温石炭から高温石炭に切り替わる場合には、基準温度を超えた際に同様に装炭制御部50が事前設備が切り替わったと判断することができる。
基準温度は石炭の種類や事前設備の具体的な構成等に応じて適宜設定されればよい。上述の通り高温DAPS炭は切出部における温度が120〜200℃程度であり、SCOPE炭は切出部における温度が200〜350℃であり、既設DAPS炭は70℃程度である。そのため、基準温度はたとえば50℃以上95℃以下の範囲で適切な値が設定されればよい。たとえば、80℃を基準温度とした場合には、装炭制御部50が温度計Tからの温度情報に基づき炭槽110の切出部における石炭の温度が80℃超から80℃以下に変化したか否かを判定し、80℃以下になった場合に石炭が既設DAPS炭に切り替わったと判断することができる。低温石炭から高温石炭に切り替わる場合は、たとえば石炭の温度が80℃以下から80℃を超えたと判定した際に、既設DAPS炭からSCOPE炭あるいは高温DAPS炭に切り替わったと判断できる。
次に、(2)高温DAPS炭設備または(3)SCOPE炭設備から、(1)既設DAPS炭設備に切り替わった場合の、設定装入量を求めるための平均値のデータ数(N数)の変更処理の流れを説明する。図4は、N数の変更処理の流れを示すフローチャートである。図4のフローチャートでは例として、(3)SCOPE炭設備と(1)既設DAPS炭設備とで操業を切り替える場合について説明するが、(3)の代わりに(2)高温DAPS炭設備を用いる場合も同様の処理でよい。
また、(3)SCOPE炭設備が生産した石炭をコークス炉1に装入している状態における、設定装入量を求めるための平均値のデータ数NはL=10とし、(1)既設DAPS炭設備に切り替えられた場合のデータ数NはS=3とする。
まず、(3)SCOPE炭設備によって石炭が供給されているので、装炭制御部50が平均値のデータ数をN=10と設定し、各炭化室2におけるそれぞれの給炭ホッパー18から装入する石炭の設定装入量を算出し、その設定装入量に基づき各石炭装入口4を介して炭化室2に石炭を装入する(Step101)。設定装入量の算出方法は第1の実施形態で説明した通りである。
次に、装炭制御部50は、炭槽110の切出部における温度計Tから温度情報を取得し、温度計Tの温度が基準温度以下になったか否かを判定する(Step102)。
切出部における温度が基準温度より高ければ(Step102のNo)、まだ(3)SCOPE炭設備から供給された炭素が炭槽110に残っているので、N=10のままStep102に戻り、判定を繰り返す。この状態ではまだ平均値のデータ数Nは、N=10である。
一方、装炭制御部50が、切出部における温度が基準温度以下であると判定した場合には(Step102のYes)、装炭制御部50は石炭の事前設備が(3)SCOPE炭設備から(1)既設DAPS炭に切り替わったと判断し、平均値のデータ数NをN=10からN=3に変更する(Step103)。
次に、装炭制御部50は、既設DAPS炭設備によって供給された石炭が各炭化室2に装入された回数が10回を超えたか否かを判定する(Step104)。10回を超えている場合には(Step104のYes)、(1)既設DAPS炭設備から石炭を供給する場合の設定装入量をN=10に戻し、N=10として式(1)で算出した設定装入量で石炭の装入を行う(Step105)。
一方、装入回数が10回を超えていない場合には(Step104のNo)、装炭処理を繰り返し、装入回数が10回を超えるまでStep104の判断を繰り返す。
以上が、本実施形態の設定装入量の算出処理の流れである。なお、以上のフローのStep104およびStep105は行わなくてもよい。既設DAPS炭の場合には図3に示したようにもともと実際の装入量と設定装入量とのバラつきが小さいので、N=3のまま設定装入量を求めて石炭を装入してもよい。
また、上述の例ではSCOPE炭などの高温炭から既設DAPS炭などのより温度の低い石炭に切り替わる場合について説明したが、温度の低い石炭から高温炭に切り替わる場合も同様の処理が適用できる。つまり、低温の石炭から高温の石炭に切り替わったと装炭制御部50が判断した場合に、Nの数を小さくして低温炭のデータの影響を抑え、高温の石炭でのデータが10回以上蓄積されたらN=10での設定装入量の算出処理に戻せばよい。
以上の本実施形態によれば、事前設備を複数有する場合のコークス炉1において事前設備の操業が切り替わった場合に、設定装入量を算出するための平均値(実績装入レベルや設定装入量)のデータ数Nを小さくして設定装入量を求めることができる。これにより、事前設備が切り替わって石炭の性状が大きく変化したとしても、切り替わる前の石炭のデータが切り替わった後の石炭についての設定装入量の算出に用いられることを抑えることができる。従って、事前設備が切り替わっても、設定装入量の算出に与える影響を抑えることができ、より適切な設定装入量を各炭化室において設定して石炭の装入を行うことができる。
(第3の実施形態)
次に第3の実施形態について説明する。本実施形態は第1の実施形態や第2の実施形態で示したレベル制御処理に加えて、設定装入量や実績装入レベルの値に異常値がある場合に、それらの値に対して処理を行うことで、より適切なレベル制御を行うものである。具体的にはまず、算出される設定装入量が所定の上下限値の範囲を超えている場合に設定装入量を補正する処理を行う点を特徴とする。また、もう一つの処理として、石炭装入後の実績装入レベルの値が、所定の上下限値の範囲を超えている場合にも、その値がその後の実績装入レベルの平均値の算出に用いられないようにデータを除外する処理を行う点を特徴とする。以下、本実施形態を具体的に説明する。
まず、算出された設定装入量の補正処理について説明する。設定装入量は第1の実施形態で説明したように、過去N回のデータの平均値に基づいて算出される数値であり、基本的には石炭の流れ込みも考慮された適正な装入量が算出される。それでも異常な値が算出されてしまった場合にそのような設定装入量を補正して、異常な設定装入量で石炭の装入が行われることを防ぐことができる。本実施形態では、過去の設定装入量と実績装入レベルのデータに基づき、石炭装入後のレベルが目標とするレベルから所定範囲内に収まるように設定装入量を補正する。
ここで、目標とするレベルはコークス炉1の構造等に応じて適宜設定できるが、たとえば炭化室2における石炭の表面から炭化室2の天井(炭化室天井煉瓦)の下面2aまでの空間(いわゆる、ガス道)の高さを400mm程度確保できるレベルでよい。そして、上下限値もコークス炉1の構造等に応じて適宜設定できるが、たとえばガス道を400mm確保する目標レベルの位置の上下200mmとすることができる。このような上下限値範囲内となるような、設定装入量の上限値および下限値は以下の式(2)および(3)によって求められる。
(設定装入量の上限値)
=(設定装入量の過去N回の平均値)÷(実績装入レベルの過去N回の平均値)×(目標装入レベル+200) ・・・式(2)
(設定装入量の下限値)
=(設定装入量の過去N回の平均値)÷(実績装入レベルの過去N回の平均値)×(目標装入レベル−200) ・・・式(3)
たとえば、表1に示すデータにおいて、石炭装入口番号1番の石炭装入口の場合であれば、設定装入量の上限値は、
(設定装入量の上限値)
=(設定装入量の過去N回の平均値)÷(実績装入レベルの過去N回の平均値)×(目標装入レベル+200)
=714÷6255×(6279+200)=739.6(×10−2t)
となり、下限値は、
(設定装入量の下限値)
=(設定装入量の過去N回の平均値)÷(実績装入レベルの過去N回の平均値)×(目標装入レベル−200)
=714÷6255×(6279−200)=693.9(×10−2t)
となる。
装炭制御部50は、第1の実施形態で説明した処理によって求めた設定装入量が、この上限値を上回ったり下限値を下回った場合には、その算出された設定装入量を補正する。具体的には、算出された設定装入量が上限値を上回った場合には、算出された設定装入量の値を捨てて上限値の値を設定装入量として採用する。また算出された設定装入量が下限値を下回った場合には、算出された設定装入量の値を捨てて下限値の値を設定装入量として採用する。
たとえば、上述の1番石炭装入口の値を用いて算出した上限値、下限値が上下限値として設定され、算出された設定装入量が750mmであった場合には、上限値(739.6(×10−2t))を上回る。この場合、装炭制御部50は算出された設定装入量(750(×10−2t))は採用せず、上限値である739.6(×10−2t)を次の石炭装入処理における設定装入量として採用する。また、算出された設定装入量が680(×10−2t)であった場合には、下限値(693.9(×10−2t))を下回っている。この場合、装炭制御部50は算出された設定装入量(680(×10−2t))は採用せず、下限値である693.9(×10−2t)を次の石炭装入処理における設定装入量として採用する。
以上のような処理により、設定装入量が過剰になったり過少になったりすることを防止できる。設定装入量が過剰になることが防止されることで、ガス道が狭くなりすぎてガスが石炭装入口などから噴出することなどを防ぐことができる。また設定装入量が過少になることが防止されることで、炭化室2の上部空間温度が上昇して炉壁へのカーボン付着やコークスの生産量の低下などを防ぐことができる。なお、カーボン付着はコークスを炭化室2から押し出す際の押出負荷が増大して好ましくない。
次に、実績装入レベルのデータに対する処理について説明する。石炭装入後の実績装入レベルが、目標レベルに対して設定される上限値および下限値の範囲をこえるレベルであった場合には、装炭制御部50は、その実績装入レベルの値は以降の平均値の算出の際には採用しないようにする処理を行う。たとえば、5番の石炭装入口のN−1の炭化室2の実績装入レベルは6614mmであるが、この装入後の石炭のレベルが上限値を超えていた場合には、装炭制御部50は、この6614mmのデータを設定装入量の算出処理用のデータから除外する。
装炭制御部50は、このような処理によって実績装入レベルのデータを除外した場合には、5番石炭装入口の実績装入レベルとして記憶されているデータの中から、さかのぼってもう一つ古い過去のデータを記憶媒体から読み出し、平均値の算出のデータに加える。これにより、補正処理によってデータが除外された場合でも、N個(たとえば10個)のデータでの平均値を求めることができる。
なお、石炭装入後のレベルが目標レベルの上下限値の範囲内であるか否かは、レベル測定制御部60がレベル測定装置20を制御して石炭装入後のレベルを測定し、そのレベルが上下限値の範囲内であるか否かを判断すればよい。たとえば、目標レベルの上下200mmを上下限値とする場合には、目標レベルと上下限値を予め設定しておき、石炭装入後の石炭表面のレベルがその上下限値の範囲内であるか否かをレベル測定制御部60あるいは装炭制御部50が判定すればよい。
以上の処理によって、石炭装入後の石炭の表面の位置が上下限値の範囲外となる位置であった場合に、その実績装入レベルは異常値であるとして除外することができる。異常値を用いることなく適切な値を用いて設定装入量が算出されるので、より適切な石炭装入処理を行うことができる。
なお、算出された設定装入量の補正処理と実績装入レベルのデータに対する処理とは、両方行われなくてもよく、いずれか一方の補正処理だけ行ってもよい。いずれか一方だけ行う場合でも、より適正な設定装入量を算出できるという効果が得られる。