以下に添付図面を参照して、液滴吐出装置、および液滴吐出装置の制御方法の実施の形態を詳細に説明する。
まず、図1は、実施の形態のオンデマンド方式のライン走査型インクジェット記録装置の全体的な概略構成図である。この図1に示すように、インクジェット記録装置14は、用紙供給部2と用紙回収部13との間に配置されている。用紙供給部2からは、連続した用紙1が高速で搬送される。インクジェット記録装置14は、高速で搬送される用紙1に、所望のカラー画像を印刷する。用紙回収部13は、カラー画像が印刷された用紙1を巻き取って回収する。
インクジェット記録装置14内の用紙搬送装置は、用紙供給部2から供給された用紙1の幅方向の位置決めを行う規制ガイド3、および従動ローラと駆動ローラで構成されたインフィード部4を有している。また、用紙搬送装置は、用紙1の張力に対応して上下して位置信号を出力するダンサローラ5、および用紙1の蛇行を制御するEPC(Edge Position Control)6を有している。また、用紙搬送装置は、蛇行量のフィードバックに使用する蛇行量検出器7、および用紙1を設定された速度で搬送するために一定速度で回転する従動ローラと駆動ローラからなるアウトフィード部11を有している。また、用紙搬送装置は、用紙1を装置外に排紙する駆動ローラと従動ローラからなるプラー12等を有している。この用紙搬送装置は、ダンサローラ5の位置検出を行い、インフィード部4の回転を制御して搬送中の用紙1の張力を一定に保つ張力制御型の搬送装置である。
インクジェット記録装置14内には、このような用紙搬送装置の他、インクジェット記録ヘッド8(以下、単に記録ヘッドという)と、その記録ヘッド8と対向するように設けられたプラテン9と、乾燥手段10が設けられている。記録ヘッド8は、ノズルを印刷幅全域に配置したライン状の記録ヘッドを有する。カラー印刷は、クロ(K)、シアン(C)、マゼンダ(M)、イエロー(Y)の各記録ヘッドにより行われる。各記録ヘッドのノズル面は、プラテン9上に所定の隙間を保って支持されている。記録ヘッド8が、用紙1の搬送速度に同期してインク滴吐出を行うことで、用紙1上にカラー画像が形成される。
なお、インクジェット記録ヘッド8が、液滴吐出手段の一例となっている。
乾燥手段10は、非接触の乾燥装置となっている。乾燥手段10は、記録ヘッド8により印刷されたインクが他の部分へ付着することを防止するために、インクの乾燥および定着を行う。この実施の形態では、乾燥手段10として、非接触の乾燥装置を用いているが、接触式の乾燥装置を用いてもよい。
次に、インクジェット記録装置14は、いわゆるライン走査型インクジェット記録装置となっている。図2に、記録ヘッド8の拡大平面図を示す。この図2に示すように、記録ヘッド8は、用紙1の用紙送り方向に対して直交する方向である、用紙1の幅方向に沿って、用紙1の幅長に対応する列状に複数のノズルが並設されるように複数のヘッド部15が設けられている。
記録ヘッド8は、クロ用ヘッドアレー8K、シアン用ヘッドアレー8C、マゼンダ用ヘッドアレー8M、およびイエロー用ヘッドアレー8Yの集合体となっている。各ヘッドアレー8K,8C,8M,8Yは、用紙1の搬送方向(矢印方向)と直交する方向に延びる略長方形状を有している。各ヘッドアレー8K,8C,8M,8Yは、それぞれ複数のヘッド部15を有している。この図2に示す例は、上段および下段にそれぞれ3つずつヘッド部15を並べ、上段および下段の各ヘッド部15を互い違いに配置して、各ヘッドアレー8K,8C,8M,8Yを形成した例である。すなわち、この図2に示す例は、いわゆる千鳥状にヘッド部15を配置して、各ヘッドアレー8K,8C,8M,8Yを形成した例である。このようにヘッド部15をアレー化して記録ヘッド8を形成することにより、広い印刷幅での印刷を可能としている。
図3に、ヘッド部15の拡大平面図を示す。この図3に示すように、ヘッド部15は、上段および下段に配列された多数のノズル16を有している。この図3に示す例は、上段および下段にそれぞれ32個ずつノズル16を並べ、上段および下段の各ノズル16を互い違いに配置(=千鳥状に配置)した例を示している。このように多数のノズル16を千鳥状に配置することにより、印刷物の高解像度化を図ることができる。
図4に、ヘッド部15の分解斜視図を示す。この図4に示すように、ヘッド部15は、ノズルプレート17、圧力室プレート19、リストリクタプレート21、およびダイアフラムプレート24を、ハウジング26上に順に積層して形成されている。ノズルプレート17には、上述のように多数個のノズル16が千鳥状に配置されている。圧力室プレート19には、各ノズル16に対応する圧力室18が形成されている。リストリクタプレート21は、圧力室18へのインク流量を制御するリストリクタ20を有している。ダイアフラムプレート24は、振動板22およびフィルタ23を有している。各プレート17〜24は、順に積層され、位置決めされたうえで接合されることで、ヘッド部15の流路基板を構成している。
ハウジング26の略中央には、ハウジング26の幅方向(=各プレート17〜24の積層方向)に貫通する挿入開口部30が設けられている。また、ハウジング26には、挿入開口部30の周囲を取り囲むように、例えば略コの字状の溝部である共通インク流路25が設けられている。この共通インク流路25は、ハウジング26外から貫入されたインク導入パイプ31と直結している。共通インク流路25には、インク導入パイプ31を介して供給されたインクが流入するようになっている。ハウジング26の挿入開口部30には、圧電素子ユニット27が挿入されるかたちで設けられる。圧電素子ユニット27は、支持基板29上に圧電素子28を多数個配列して形成されている。
なお、圧電素子28は、ノズル駆動手段の一例となっている。
ヘッド部15を組み立てる場合、ダイアフラムプレート24のフィルタ23が共通インク流路25と対向するように、各プレート17〜24を順に積層してなる流路基板をハウジング26に接合する。そして、圧電素子ユニット27をハウジング26の挿入開口部30に挿入し、各圧電素子28の自由端をダイアフラムプレート24の振動板22に接着固定する。これにより、ヘッド部15が組み立てられる。なお、図4においては、図面の簡略化のために、ノズル16、圧力室18、リストリクタ20、圧電素子28等の数を減らして図示している。
次に、図5Aに、記録ヘッド8を駆動する駆動パルスの種類を示す。この図5Aの時間T1の駆動パルスは、以下に説明する微駆動パルスのパルス波形を示している。また、図5Aの時間T2の駆動パルスは、第1パルスのパルス波形を、時間T3の駆動パルスは、第2パルスのパルス波形を、時間T4の駆動パルスは、第3パルスのパルス波形を、それぞれ示している。
また、図5Bは、大サイズのドットを印刷する場合に記録ヘッド8に印加する駆動パルスを、図5Cは、中サイズのドットを印刷する場合に記録ヘッド8に印加する駆動パルスを示している。さらに、図5Dは、小サイズのドットを印刷する場合に記録ヘッド8に印加する駆動パルスを、図5Eは、インクのメニスカスを微振動させてインクを攪拌するための微駆動パルスを示している。
印刷の際には、入力された印字データに対応するように、図示しない制御テーブルを用いてスイッチのスイッチング制御が行われ、いずれかの駆動パルスが選択的に記録ヘッド8に供給される。駆動パルスは、例えばヘッド単位やノズル列単位等の所定の単位で共通の駆動パルスが供給される。すなわち、記録ヘッド8には、所定数のノズル16毎に、同じ駆動パルスが供給される。これにより、印字データの吐出滴サイズに合わせて、所定数のノズル単位で圧電素子28を駆動して、印刷を行うことができる。
具体的には、大サイズのドットを印刷する場合、図5Aに示す時間T2、時間T3および時間T4の間、例えば「H」レベルとなる印字データを、各圧電素子28にそれぞれ駆動パルスを供給するスイッチに供給する。このスイッチは、例えば図9のスイッチSW1,スイッチSW2・・・である。これにより、時間T2、時間T3および時間T4の間、各圧電素子28に対して、図5Bに示す第1パルス、第2パルスおよび第3パルスが順に供給され、各圧電素子28がアクティブとなり、大サイズのドットが印刷される。なお、以下の説明において、第1パルス、第2パルスおよび第3パルスからなる大サイズのドット印刷用の駆動パルスを「大滴用駆動パルス」という。
同様に、中サイズのドットを印刷する場合、図5Aに示す時間T3および時間T4の間、例えば「H」レベルとなる印字データを、スイッチSW1,スイッチSW2・・・に供給する。これにより、時間T3および時間T4の間、各圧電素子28に対して、図5Cに示す第2パルスおよび第3パルスが順に供給され、各圧電素子28がアクティブとなり、中サイズのドットが印刷される。なお、以下の説明において、第2パルスおよび第3パルスからなる中サイズのドット印刷用の駆動パルスを「中滴用駆動パルス」という。
同様に、小サイズのドットを印刷する場合、図5Aに示す時間T4の間、例えば「H」レベルとなる印字データを、スイッチSW1,スイッチSW2・・・に供給する。これにより、時間T4の間、各圧電素子28に対して、図5Dに示す第3パルスが供給され、各圧電素子28がアクティブとなり、小サイズのドットが印刷される。なお、以下の説明において、第3パルスからなる小サイズのドット印刷用の駆動パルスを「小滴用駆動パルス」という。
また、インク滴を吐出させずに、インク滴のメニスカスを微振動させてインクを攪拌する場合、図5Eに示す時間T1の間にアクティブとなる印字データを、スイッチSW1,スイッチSW2・・・に供給する。これにより、時間T1の間、図5Eに示すように、他の駆動パルスと比較して振幅の小さい微駆動パルスが各圧電素子28に供給される。そして、微駆動パルスが供給された各圧電素子28に対応するインク滴のメニスカスが微振動し、インクが攪拌される。
次に、図6Aは、図3に示したノズル列単位で駆動パルスを供給する場合において、1列の全ノズル16の各圧電素子28に対して、大滴用駆動パルスを供給した場合の各波形を示している。この図6Aにおいて、細線の実線の波形は、1列の全ノズル16の各圧電素子28に供給される第1パルス、第2パルスおよび第3パルスの入力波形を示している。また、図6Aにおいて、点線の波形は、各パルスが供給される圧電素子28の電位の波形(圧電素子電位波形)を示している。また、図6Aにおいて、一点鎖線の波形は、圧電素子28を流れる駆動電流の波形(駆動電流波形)を示している。また、図6Aにおいて、太線の実線の波形は、圧電素子28に流れる駆動電流を積分処理した波形(電流積分波形)を示している。なお、駆動電流は、圧電素子28の電位が高くなる方に駆動される側を正側としている。
一方、図6Bは、1列の全ノズル16を、例えば1/4ずつ選択し、この選択した1/4の数のノズル16の各圧電素子28に、微駆動パルス、小滴用駆動パルス、中滴用駆動パルスおよび大滴用駆動パルスを供給して駆動した場合の各波形を示している。この図6Bにおいて、細線の実線の波形は、微駆動パルス、第1パルス、第2パルスおよび第3パルスの入力波形を示している。また、図6Bにおいて、点線の波形は、各パルスが供給される圧電素子28の圧電素子電位波形を示している。また、図6Bにおいて、一点鎖線の波形は、圧電素子28の駆動電流波形を示している。また、図6Bにおいて、太線の実線の波形は、圧電素子28の電流積分波形を示している。なお、駆動電流は、圧電素子28の電位が高くなる方に駆動される側を正側としている。
圧電素子28は、キャパシタンス成分を持っており、実際の圧電素子28の電位は、図6Aおよび図6Bに点線の波形で示すように、駆動するノズル16の数に応じた時定数により、実線で示す各駆動パルスの入力波形に対して鈍った波形となる。具体的には、図7に示すように微駆動パルスは微駆動のみで使用され、第1パルスは大サイズのドット印刷時のみに使用される。これに対して、第2パルスは大サイズおよび中サイズの両方のドット印刷時に使用される。また、第3パルスは大サイズ、中サイズおよび小サイズのドット印刷時に使用される。このため、微駆動パルスおよび第1パルスよりも第2パルスの方が、駆動に用いられるノズル数が多くなる。すなわち、例えば1列(32個)の全ノズル16を1/4ずつ選択して駆動する吐出タイミングにおける本例では、微駆動パルスおよび第1パルスよりも第2パルスの方が、供給されるノズル数(=駆動ノズル数)が多くなる。さらに、第2パルスよりも第3パルスの方が、供給されるノズル数が多くなる。そして、駆動ノズル数が多くなるほど、各駆動パルスの波形鈍りが大きくなる。このような鈍りが生じた各パルスの波形を補正するには、圧電素子28の電位を検出してフィードバックする必要がある。
一方、圧電素子28に流れる電流は、駆動するノズル16の数に応じて増加する。このため、図6Bに一点鎖線で示すように、駆動するノズル16の数が多くなる順である、第1パルス→第2パルス→第3パルスの順に、圧電素子28に流れる電流の電流量は多くなる。
ここで、圧電素子28はキャパシタンス成分を持つ。このため、圧電素子28に流れる電流を時間積分することで、圧電素子28の電位の波形と等価の波形が得られるはずである。すなわち、圧電素子28の電位の波形と等価の波形となる時間積分波形が得られるはずである。そして、圧電素子28の電位の波形と等価の波形となる時間積分波形に対応する積分信号で、圧電素子28の駆動パルスを補正することで、駆動パルスを適正に補正できる。しかし、オンデマンド方式のインクジェット記録装置の場合、上述のようにノズル16等を選択的に駆動することで階調表現を行う。このため、単純に圧電素子28に流れる電流を時間積分しただけでは、圧電素子28の電位の波形と等価の波形となる時間積分波形は得られない。
具体的に説明すると、例えば1列の全ノズル16の各圧電素子28を大滴用駆動パルスで駆動した場合、図6Aに太線の実線で示す電流積分波形と、図6Aに点線で示す圧電素子28の電位の波形とは、略々同じ波形となることがわかる。これに対して、上述のように1列の全ノズル16のうち、所定数のノズル16を選択的に駆動した場合、図6Bに点線で示す圧電素子28の電位の波形と、図6Bに太線の実線で示す電流積分波形を見比べてわかるように、単純に圧電素子28に流れる電流を時間積分しただけでは、電流積分波形と圧電素子28の電位の波形は等しくはならない。
後述するが、実施の形態のオンデマンド方式のライン走査型インクジェット記録装置は、図9に示す積分器40の前段に設けられた駆動電流検出増幅器39の増幅率(=可変抵抗R8の抵抗値)を、各駆動パルスで駆動するノズル16の数に応じて切り替える。これにより、各駆動パルスで駆動するノズル16の数が変化して圧電素子28の電位の波形鈍りが大きくなった場合でも、例えば図6Cに示すように、太線の実線で示す電流積分波形と、点線で示す圧電素子28の電位の波形を略々同じ波形とすることができる。
一例であるが、微駆動パルス、小滴用駆動パルス、中滴用駆動パルスおよび大滴用駆動パルスを、それぞれノズル列のノズル数に対して1/4ずつ選択して駆動する場合、以下のように、駆動電流検出増幅器39の増幅率を設定する。すなわち、図5Aに示す時間T1の間は、1/4の数のノズル16の各圧電素子28が微駆動パルスでのみ駆動され、ノズル列の1/4のノズル16が駆動されている状態であるため、駆動電流検出増幅器39の増幅率は4倍に設定される。第1パルスが出力される時間T2の間は、1/4の数のノズル16の各圧電素子28が大滴用駆動パルスでのみ駆動され、ノズル列の1/4のノズル16が駆動されている状態であるため、駆動電流検出増幅器39の増幅率は4倍に設定される。
第2パルスが出力される時間T3の間は、1/4の数のノズル16の各圧電素子28が大滴用駆動パルスで駆動されると共に、他の1/4の数のノズル16の各圧電素子28が中滴用駆動パルスで駆動される。この場合、ノズル列の1/2のノズル16が駆動されている状態であるため、駆動電流検出増幅器39の増幅率は2倍に設定される。第3パルスが出力される時間T4の間は、1/4の数のノズル16の各圧電素子28が大滴用駆動パルスで駆動され、他の1/4の数のノズル16の各圧電素子28が中滴用駆動パルスで駆動され、さらに他の1/4の数のノズル16の各圧電素子28が小滴用駆動パルスで駆動される。この場合、ノズル列の3/4のノズル16が駆動されている状態であるため、駆動電流検出増幅器39の増幅率は4/3倍に設定される。このように、実施の形態のオンデマンド方式のライン走査型インクジェット記録装置は、各駆動パルスにおける駆動ノズル数に応じて、駆動電流検出増幅器39の増幅率を設定する。
次に、図8に、実施の形態のオンデマンド方式のライン走査型インクジェット記録装置のインク滴の吐出制御部のブロック図を示す。この吐出制御部は、マスタコントローラ32と、用紙搬送エンコーダ33と、ヘッド制御部41とを有している。ヘッド制御部41は、一度に駆動する複数のノズル16毎に一つ設けられている。この例においては、図3に示す1列単位でノズル16が駆動される。そして、一つのヘッド部15には、2列分のノズル16が並設されている。このため、この例においては、一つのヘッド部15に対して、1列目のノズル16用および2列目のノズル16用の、計2つのヘッド制御部41が設けられている。
ヘッド制御部41は、スレーブコントローラ35と、メモリ34と、D/Aコンバータ36と、電圧増幅器37と、電流増幅器38と、駆動電流検出増幅器39と、積分器40を有している。マスタコントローラ32からは、各スレーブコントローラ35に対し、駆動パルスの波形を示す駆動波形データと、インク滴の吐出タイミング信号と、各ノズル16のインク滴サイズを示す印字データが供給される。なお、インク滴サイズは、例えば大サイズ,中サイズ,小サイズ等の、印刷するドットのドットサイズである。
ここで、吐出タイミング信号および駆動波形データについて説明をする。吐出タイミング信号は、用紙搬送エンコーダ信号に基づいて設定される。用紙搬送エンコーダ33は、例えばインク滴を付着させる用紙1の移動距離を等位置間隔で検出し、等位置間隔で検出した周期の信号である用紙搬送エンコーダ信号を出力する。用紙搬送エンコーダ33は、例えば用紙搬送エンコーダディスク(不図示)と用紙搬送エンコーダセンサ(不図示)とを有する。用紙搬送エンコーダセンサは、用紙1の移動に伴い、用紙搬送エンコーダディスクの円周方向に配列された複数のスリットを光学的に検出する。そして、用紙搬送エンコーダセンサは、これらのスリットの周期に対応した用紙搬送エンコーダ信号を出力する。
マスタコントローラ32は、上述の用紙搬送エンコーダ信号に基づいて、インク滴の吐出タイミングの周期を設定する。そして、マスタコントローラ32は、吐出タイミングの周期を示す吐出タイミング信号、および圧電素子28を駆動する駆動パルスの駆動波形を示す駆動波形データを、各スレーブコントローラ35に供給する。駆動波形データは、インクの温度や記録ヘッド8の特性に応じてマトリックス的に選択される。
スレーブコントローラ35は、マスタコントローラ32から受信した吐出タイミング信号および駆動波形データを、一度、メモリ34に格納する。そして、スレーブコントローラ35は、メモリ34に格納した駆動波形データで示される駆動波形の駆動パルスを生成し、この駆動パルスを、吐出タイミング信号で示される周期で、駆動波形生成部42のD/Aコンバータ36に供給する。
また、スレーブコントローラ35は、インク滴のドットサイズに応じた駆動パルスのパルス選択タイミングに合わせて、駆動電流検出増幅器39の増幅率の切り替え信号を出力する。すなわち、スレーブコントローラ35は、マスタコントローラ32から受信した印字データを用いて、各駆動パルスで駆動されるノズル16の数(インク滴のドットサイズ毎の駆動数)を計数する。そして、スレーブコントローラ35は、計数結果に対応する増幅率の切り替え信号を、駆動電流検出増幅器39に供給する。
次に、駆動波形生成部42のD/Aコンバータ36は、受信した駆動パルスをアナログ信号である駆動信号に変換し、電圧増幅器37に供給する。電圧増幅器37は、駆動信号の電圧を所定の利得で増幅し、電流増幅器38に供給する。電流増幅器38は、電圧増幅された駆動信号を電流増幅し、ヘッド部15に供給する。ヘッド部15は、この駆動信号により、圧電素子28を駆動する。
なお、D/Aコンバータ36から電圧増幅器37に供給される駆動信号が、入力信号の一例となっている。また、電圧増幅器37が、駆動信号生成手段の一例となっている。
ここで、駆動電流検出増幅器39は、ヘッド部15の各圧電素子28に供給される駆動信号を検出して増幅し、これを積分器40に供給する。この駆動信号の増幅率は、1列のノズル16のうち、駆動するノズル16の数に応じて、スレーブコントローラ35が切り替え制御する。積分器40は、この増幅率で増幅された駆動信号を時間積分して電圧増幅器37にフィードバックする。
なお、駆動電流検出増幅器39は、レベル検出手段および増幅手段の一例となっている。また、積分器40は、積分手段の一例となっている。また、電圧増幅器37は、補正手段の一例となっている。
メモリ34、スレーブコントローラ35、D/Aコンバータ36、電圧増幅器37、電流増幅器38、駆動電流検出増幅器39、および積分器40を有するヘッド制御部41は、上述のように駆動単位毎(この例ではノズル列単位毎)に設けられている。この実施の形態の場合、図3に示したように、1つのヘッド部15にノズル列が2列設けられているため、2つのヘッド制御部41が設けられている。
すなわち、ヘッド部15の1つのノズル列に対して、1つのヘッド制御部41から共通の駆動パルスを供給する構成になっている。従って、図2に示す各ヘッドアレー8K,8C,8M,8Yの場合、設けられているヘッド部15の数に「2(=ヘッド制御部41の数)」を乗じた数分のヘッド制御部41を有することになる。すなわち、各ヘッドアレー8K,8C,8M,8Yに、ヘッド部15が6個ずつ設けられていた場合、ヘッド部15の総数は、6個×4ヘッドアレー=24個となる。そして、各ヘッド部15は、2列のノズル列が設けられており、各ノズル列は、2つのヘッド制御部41でそれぞれ駆動される。このため、ヘッド制御部41の総数は、24ヘッド部×2=48個となる。
次に、図9に、ヘッド制御部41およびヘッド部15の一部の回路図を示す。この図9においては、ヘッド部15に設けられている複数のノズル16に対し、それぞれの圧電素子28をPZT1,PZT2・・・と表記している。また、各圧電素子28に接続されたスイッチをSW1,SW2・・・と表記している。また、図3に例示したヘッド部15の場合、ノズル16は1列あたり64個設けられているが、この図9においては、一部のノズルに対応する圧電素子28およびスイッチSWのみ、図示している。
スイッチSWは、印字データによってオンオフ制御される。スイッチSWのオンオフ制御により、圧電素子28に対する駆動信号の供給および非供給を制御して階調表現を行っている。D/Aコンバータ36(IC1)は、駆動波形データで示される駆動波形の駆動パルスをアナログ信号(駆動信号)に変換している。オペアンプIC2を有する電圧増幅器37は、アナログ変換により生成された駆動信号を、後述するフィードバック信号で差動増幅する。
電流増幅器38は、トランジスタTR1およびトランジスタTR2を正負対称に接続した、いわゆるプッシュプル回路となっている。電圧増幅器37で差動増幅された駆動信号は、各トランジスタTR1,TR2のベースに供給され、いずれかのトランジスタTR1またはトランジスタTR2を動作させる。駆動信号は、電流増幅器38により電流増幅され、ヘッド部15に供給される。
一方、駆動電流検出増幅器39は、電流検出抵抗R3の両端の電位差を検出することで、ヘッド部15の各圧電素子28に供給されている駆動信号の電流値の総和を電圧として検出する。この電圧として検出する電流検出信号は、オペアンプIC3で増幅され、オペアンプIC4の非反転入力端子(+)に供給される。
なお、電流検出抵抗R3は、レベル検出手段の一例となっている。
オペアンプIC4の反転入力端子(−)には、オペアンプIC4の出力電圧が帰還されている。オペアンプIC4の反転入力端子(−)に対する出力電圧の帰還量は、可変抵抗R8の抵抗値を可変して調整される。オペアンプIC4は、非反転入力端子に供給される電流検出信号と、反転入力端子に帰還される出力電圧との差分に対応する増幅率で、非反転入力端子に供給される電流検出信号を増幅して出力する。すなわち、オペアンプIC4は、可変抵抗R8の抵抗値を可変して調整する増幅率で、非反転入力端子に供給される電流検出信号を増幅して出力する。この電流検出信号は、積分器40に反転入力される。
ここで、電流検出抵抗R3の両端電位差をヘッド側が高い場合を正としてVsとし、抵抗R4〜抵抗R7の各抵抗値R4〜R7を、R4=R6、R5=R7としたとき、駆動電流検出増幅器39の出力電圧Viは、以下の式(1)で表される。なお、R8は、可変抵抗R8の抵抗値である。また、R9は、オペアンプIC4に、オペアンプIC4の出力を帰還させるラインに直列に接続された抵抗R9の抵抗値である。
Vi=−Vs×R5/R4×(1+R9/R8)・・・(1)
出力電圧Viは、後述する積分器40で反転されるため、ここでは負の値をとるようにする。スレーブコントローラ35は、各駆動パルスによる駆動ノズル数に応じて、増幅率調整用の可変抵抗R8の抵抗値を制御する。具体的には、スレーブコントローラ35は、以下の式(2)で示す演算を行うことで、可変抵抗R8の抵抗値を算出する。なお、スレーブコントローラ35は、増幅率変更手段の一例である。また、以下の式(2)において、「N」は、ヘッド制御部41が駆動する総ノズル数、「M」は、現在の駆動パルスで駆動する駆動ノズル数である。また、「R8」は、可変抵抗R8の抵抗値であり、「R9」は、抵抗R9の抵抗値、「k」は、駆動ノズル数がNとなった時の増幅率である。
R8=M×R9/(kN−M)・・・(2)
駆動ノズル数が「0」であるときは、式(2)の演算を行うと増幅率が無限大となり、誤差が発生しやすい状況になる。この場合は、駆動ノズル数が1であるときと同じ抵抗値に可変抵抗R8を設定するのが好ましいであろう。
また、オペアンプIC3、オペアンプIC4、および後述のオペアンプIC5のダイナミックレンジを越えないように各抵抗値R8,R9を選定する。オペアンプIC3やオペアンプIC4は、正負両方の出力を持つため、両電源のオペアンプにて構成する。なお、オペアンプIC3とその周辺回路は専用の電流検出アンプを用いても同様に構成できる。また、電流検出抵抗R3は、伝送路で駆動信号のレベルが低下することを防止するために、ヘッド制御部41に設け、極力小さな抵抗値とする。
次に、オペアンプIC5を有する積分器40は、駆動電流検出増幅器39から電流検出信号を時間積分する。積分器40に供給される電流検出信号の電圧を「Vi」、コンデンサC1の容量値を「C1」、抵抗R10の抵抗値を「R10」とすると、積分器40の出力電圧(積分電圧)「Vo」は、以下の式(3)の演算結果として得られる。
Vo=−(∫Vidt)/(C1×R10)・・・(3)
積分器40から出力される電流検出信号を積分した電圧である積分信号は、電圧増幅器37の分圧抵抗R1および分圧抵抗R2で分圧され、オペアンプIC2の反転入力端子に供給される。オペアンプIC2は、各圧電素子28に供給する駆動信号と、電流検出抵抗R3で検出された電流検出信号の積分信号との差分で駆動信号を増幅する。電流増幅器38は、電圧増幅器37で差動増幅された駆動信号でプッシュプル動作することで、駆動信号の電流増幅を図り、ヘッド部15の各圧電素子28に供給する。なお、各圧電素子28に供給される駆動信号の電流値は、上述のように電流検出抵抗R3により電圧値として検出され、電圧増幅器37にフィードバックされる。
この実施の形態のライン走査型インクジェット記録装置は、各圧電素子28に供給している駆動信号の電流値を、電流検出抵抗R3で検出し、この電流検出信号を、各駆動パルスによる駆動ノズル数に応じた増幅率で増幅する。これにより、1列の全ノズル16のうち所定数のノズル16を選択的に駆動した場合でも、各圧電素子28に供給される駆動信号の電流量を、1列の全ノズル16を駆動したときと等価な電流量とすることができる。
また、この実施の形態のライン走査型インクジェット記録装置は、駆動ノズル数に応じた増幅率で増幅した電流検出信号を、積分器40で積分処理する。これにより、駆動されている圧電素子28の現在の電荷量である圧電素子28の電位と等価な積分信号を得ることができる。換言すると、駆動ノズル数に応じた増幅率で増幅した電流検出信号を、積分器40で積分処理することで、図6Cに太線で示すように電流検出信号の積分波形を、図6Cに点線で示す圧電素子28の電位の波形と略々同じ波形とすることができる。
この実施の形態のライン走査型インクジェット記録装置は、駆動ノズル数に応じた増幅率で増幅した電流検出信号の積分信号を電圧増幅器37にフィードバックし、この積分信号で、各ノズル16の圧電素子28に供給する駆動信号を補正する。換言すると、D/Aコンバータ36からの駆動信号と同じ波形の駆動信号が、電流増幅器38から各圧電素子28に供給されるように、電圧増幅器37は、D/Aコンバータ36からの駆動信号を上述の積分信号で補正して、電流増幅器38に供給する。
さらに換言すると、D/Aコンバータ36から電圧増幅器37に入力される駆動信号を「入力信号」とし、電圧増幅器37から出力され、各ノズル16の圧電素子28に供給される出力信号を「駆動信号」とする。電圧増幅器37は、上述の入力信号に対して劣化した上述の駆動信号と上述の入力信号との差分を補うように、D/Aコンバータ36からの入力信号を上述の積分信号で補正して、電流増幅器38に供給する。これにより、圧電素子28の現在の電位と等価な電位を有する積分信号で駆動信号を適切に補正することができる。
なお、積分器40はフィルタ回路としても機能するので、ノイズ除去のフィルタとして用いてもよい。積分器40でフィルタ回路を構成する場合、遮断周波数fpは、以下の式(4)で表される。式(4)において、「C1」はコンデンサC1の容量値を示し、「R11」は抵抗R11の抵抗値を示している。
fp=1/(2×π×C1×R11)・・・(4)
また、この実施の形態においては、オペアンプを用いた回路でアナログ的な制御を行っているが、デジタル的な制御とすることも可能である。この場合、例えばヘッド部15に供給する駆動信号をD/Aコンバータによりデジタル化して駆動データに変換し、この駆動データに、各駆動パルスに対応する駆動ノズル数に応じた倍数を乗ずる構成とする。これにより、駆動電流検出増幅器39の機能をデジタル化することができる。また、積分器40として、デジタルデータの積分を行う積分器を設けてもよい。この場合、デジタルデータの積分を行う積分器からの出力である積分データを、スレーブコントローラ35でフィードバック制御することもできる。また、この実施の形態においては、電流検出抵抗R3を用いてヘッド部15に供給されている駆動信号の電流値に対応する電圧を検出することとしたが、専用のICまたはセンサを用いて駆動信号の電圧または電流を検出してもよい。
さらに、この実施の形態では、ヘッド部15の駆動信号のフィードバック制御を行うことを前提としている。しかし、フィードバック制御を行う代わりに、圧電素子28の電荷容量または応答速度等を定期的に検出して記憶しておき、現在の圧電素子28の電荷容量または応答速度等と比較してもよい。これにより、圧電素子28の追従性の経時的な変化等を検出することができ、圧電素子28の経時劣化の検出および異常検出を行うことができる。
次に、図10は、駆動電流検出増幅器39の増幅率設定動作の流れを示すフローチャートである。このフローチャートにおいて、印刷開始時となると、スレーブコントローラ35はマスタコントローラ32からマトリックス上の駆動波形データを受信し(ステップS1)、受信した駆動波形データをメモリ34に記憶する(ステップS2)。
次に、スレーブコントローラ35は、1ライン目の印字データをマスタコントローラ32から受信すると同時に、受信した印字データをインク滴のドットサイズ毎に分類することで、各駆動パルスによる駆動ノズル数を計数する(ステップS3〜ステップS6)。
次に、スレーブコントローラ35は、マスタコントローラ32から吐出タイミング信号を受信する(ステップS7)。また、スレーブコントローラ35は、nライン目(nは自然数:1,2,3・・・)で使用する駆動波形データを、温度やインク種等の情報を元に、マトリックス上に記憶されたメモリ34から読み込む(ステップS8)。そして、スレーブコントローラ35は、微駆動パルスを出力するタイミング(図5Aの時間T1)に合わせて、微駆動パルス用の増幅率を駆動電流検出増幅器39にセットする(ステップS9、およびステップS10)。
同様に、スレーブコントローラ35は、第1パルスを出力するタイミング(図5Aの時間T2)に合わせて、第1パルス用の増幅率を駆動電流検出増幅器39にセットする(ステップS13およびステップS14)。また、スレーブコントローラ35は、第2パルスを出力するタイミング(図5Aの時間T3)に合わせて、第2パルス用の増幅率を駆動電流検出増幅器39にセットする(ステップS15およびステップS16)。さらに、スレーブコントローラ35は、第3パルスを出力するタイミング(図5Aの時間T4)に合わせて、第3パルス用の増幅率を駆動電流検出増幅器39にセットする(ステップS17およびステップS18)。
一方、スレーブコントローラ35は、n+1ライン目の印字データの受信を開始すると(ステップS11)、受信した印字データをインク滴のドットサイズ毎に分類し、各駆動波形の駆動パルスによる駆動ノズル数の計数を開始する(ステップS12)。スレーブコントローラ35は、ステップS19でn+1ライン目の印字データの受信を終了するまで、駆動ノズル数の計数を続ける。スレーブコントローラ35は、ステップS20で計数が終了すると、ステップS21で印刷が終了したか、継続中であるかを判別する。スレーブコントローラ35は、印刷が終了したものと判別した場合(ステップS21:Yes)、図10のフローチャートの処理を終了する。
また、スレーブコントローラ35は、印刷が継続中であるものと判別した場合(ステップS21:No)、処理をステップS7に戻す。スレーブコントローラ35は、処理をステップS7に戻すと、マスタコントローラ32から吐出タイミング信号を受信する。そして、スレーブコントローラ35は、各パルスを出力するタイミングに合わせて、各パルス用の増幅率を駆動電流検出増幅器39にセットする上述の動作を繰り返し行う。
以上の説明から明らかなように、この実施の形態のオンデマンド方式のライン走査型インクジェット記録装置は、各圧電素子28に供給している駆動信号の電流値を、電流検出抵抗R3で検出する。そして、この電流検出信号を、各駆動パルスによる駆動ノズル数に応じた増幅率で増幅し、積分器40で積分処理する。これにより、駆動されている圧電素子28の現在の電荷量である圧電素子28の電位と等価な積分信号を得ることができ、この積分信号で、各ノズル16の圧電素子28に供給する駆動信号を補正する。これにより、圧電素子28の電位と等価な電位を有する積分信号で駆動信号を適切に補正することができる。
圧電素子28に駆動信号を供給する伝送路、および圧電素子28に供給している駆動信号の電流値を検出した電流検出信号をフィードバックする伝送路等には、抵抗成分、キャパシタンス成分、およびインダクタンス成分が含まれている。これらの成分は、伝送路が短い場合には無視できるのであるが、伝送路が長くなると交流信号に歪を発生させる。特に、ライン走査型インクジェット記録装置の場合、ヘッド制御部41と記録ヘッド8が離されて設けられることがある。この場合、電流検出信号が長い伝送路を介してフィードバックされることで、電流検出信号が劣化する。劣化した電流検出信号を用いて補正しても、インクの吐出滴速度や吐出滴量が変化し、さらにはサテライトの発生が増大し、精度の良い補正は期待できない。
しかし、この実施の形態のライン走査型インクジェット記録装置は、上述のように各駆動パルスによる駆動ノズル数に応じた増幅率で電流検出信号を増幅して積分処理し、この積分信号で各ノズル16の圧電素子28に供給する駆動信号を補正する。これにより、伝送路の長短に関係なく、圧電素子28の電位と等価な電位を有する積分信号を生成して駆動信号を適切に補正することができる。このため、インクの吐出滴速度や吐出滴量を安定させることができ、また、サテライトの発生を防止することができる。
なお、上述の実施の形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。この新規な実施の形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。この実施の形態およびその変形は、発明の範囲および要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。