上記電子写真用部材は、電子写真装置に用いられる部材である。電子写真装置としては、具体的には、帯電像を用いる電子写真方式を採用する複写機、プリンター、ファクシミリ、複合機、オンデマンド印刷機等の画像形成装置を例示することができる。
上記電子写真用部材は、トナー存在下において、電子写真装置に用いられる他の相手部材をポリマー層表面に接触させた状態で使用することができる。相手部材としては、例えば、上記電子写真用部材の周囲に配設されるブレード部材やロール部材等が挙げられる。この場合は、ポリマー層表面の滑り性に優れるので、相手部材の摺動を安定させることができる。また、ポリマー層表面のトナー離型性に優れるので、ポリマー層表面にトナーが付着したままとなり難い。とりわけ、電子写真装置が画像形成装置である場合には、良好な画像形成を行いやすくなる利点がある。また、相手部材がブレード部材である場合には、ブレード部材がめくれる不具合も抑制しやすくなり、良好な画像形成を行う上で有利である。
上記電子写真用部材は、具体的には、電子写真方式の画像形成装置に組み込まれる現像部材、帯電部材、転写部材、または、クリーニング部材とすることができる。なお、転写部材としては、具体的には、中間転写部材を例示することができる。中間転写部材は、感光体に担持されたトナー像を当該部材に一次転写した後、このトナー像を当該部材から用紙等の転写材へ二次転写するためのものである。
上記電子写真用部材が現像部材として使用される場合は、トナーフィルミング、トナーの固着を抑制しやすくなるため、電子写真装置の耐久性向上を図りやすくなる。また、カブリ画像を抑制しやすくなるため、電子写真装置における画像品質の向上とトナー消費量の低減とを図りやすくなる。上記電子写真用部材が帯電部材として使用される場合は、トナーフィルミング、トナーの固着を抑制しやすくなるため、電子写真装置の耐久性向上を図りやすくなる。また、汚れの原因となる未転写のトナーを負に帯電させやすくなるので、トナーフィルミングの抑制に有利である。上記電子写真用部材が転写部材として使用される場合は、感光体表面にあるトナーの負電荷を高めることができるので、転写効率が向上し、電子写真装置における画像品質の向上とトナー消費量の低減とを図りやすくなる。上記電子写真用部材がクリーニング部材として使用される場合は、クリーニング時にすり抜けてしまうトナーを負に帯電させやすくなるので、すり抜けトナーによって帯電部材表面が汚れ難くなる。
上記電子写真用部材は、具体的には、例えば、(1)軸体と、軸体の外周面に沿って形成された弾性層と、弾性層の外周面に沿って形成されたポリマー層とを有する構成、(2)軸体と、軸体の外周に沿って形成されたポリマー層とを有する構成、(3)筒状に形成された基層と、基層の外周面に沿って形成されたポリマー層とを有する構成、(4)筒状に形成された基層と、基層の外周面に沿って形成された弾性層と、弾性層の外周面に沿って形成されたポリマー層とを有する構成、(5)筒状に形成されたポリマー層を有する構成、(6)ブレード本体と、ブレード本体表面の一部または全部を被覆するポリマー層と、ブレード本体を保持する保持部とを有する構成、(7)ブレード状に形成されたポリマー層と、ポリマー層を保持する保持部とを有する構成などとすることができる。構成(1)、(2)は現像部材や帯電部材、構成(3)〜(5)は転写部材、構成(6)、(7)はクリーニング部材の形態として好適である。
ここで、上記電子写真用部材におけるポリマー層は、ポリマー層の骨格を形成するマトリックスポリマーと、マトリックスポリマー中に含有された第1表面改質剤および第2表面改質剤とを有している。あるいは、上記電子写真用部材におけるポリマー層は、ポリマー層の骨格を形成するマトリックスポリマーと、マトリックスポリマー中に含有された第1表面改質剤および第3表面改質剤とを有している。
マトリックスポリマーは、ポリマー層の基本的な骨格を形づくるポリマー成分として重要な役割を果たす。マトリックスポリマーは、上記役割を果たすことができれば、各種の樹脂やゴム(ゴムにはエラストマーも含まれる、以下省略)を用いることができる。これらは1種または2種以上併用することができ、電子写真用部材の用途等に応じて最適な材料を選択することができる。
上記樹脂としては、例えば、各種の熱可塑性樹脂や、熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂との混合ポリマーなどを用いることができる。上記樹脂としては、具体的には、例えば、ウレタン樹脂;ウレタンシリコーン樹脂;ウレタンフッ素樹脂;ポリアミド樹脂;ポリイミド樹脂;(メタ)アクリル樹脂;(メタ)アクリルシリコーン樹脂;(メタ)アクリルフッ素樹脂;フッ素樹脂;アセタール樹脂;アルキド樹脂;ポリエステル樹脂;ポリエーテル樹脂;カーボネート樹脂;フェノール樹脂;エポキシ樹脂;ポリビニルアルコール;ポリビニルピロリドン;カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等のセルロース系樹脂;ポリアクリルアミド;ポリエチレンオキサイド;ポリエチレングリコール;ポリプロピレングリコール;ポリビニルメチルエーテル;ポリアミン;ポリエチレンイミン;カゼイン、ゼラチン、澱粉およびこれらの共重合体;ポリエチレン、ポリプロピレンおよび他のオレフィン系単量体との共重合樹脂等のオレフィン系樹脂;塩化ビニル系樹脂;ポリスチレンやアクリロニトリル−スチレン共重合樹脂等のスチレン系樹脂;塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂;ポリビニルブチラール樹脂等のポリビニルアセタール系樹脂およびこれらの誘導体または変性体;ポリイソブチレン;ポリテトラヒドロフラン;ポリアニリン;アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂);ポリイソプレン;ポリブタジエン等のポリジエン類;ポリジメチルシロキサン等のポリシロキサン類;ポリスルホン類;ポリイミン類;ポリ無水酢酸類;ポリ尿素類;ポリスルフィド類;ポリフォスファゼン類;ポリケトン類;ポリフェニレン類;ポリハロオレフィン類およびこれらの誘導体;メラミン樹脂;UV硬化性(メタ)アクリル樹脂などを例示することができる。これらのうち、好ましくは、ポリマー層の柔軟性向上、耐摩耗性向上などの観点から、ウレタン樹脂、ウレタンシリコーン樹脂、ウレタンフッ素樹脂などを用いることができる。
また、上記ゴムとしては、具体的には、例えば、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR、HNBR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、ブチルゴム(IIR)、クロロプレンゴム(CR)、ヒドリンゴム(ECO、CO)、イソプレンゴム(IR)、ウレタンゴム(U)、シリコーンゴム(Q)、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)、天然ゴム(NR)、これらの変成体などを例示することができる。これらのうち、好ましくは、ポリマー層の柔軟性向上、耐摩耗性向上などの観点から、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR、HNBR)、ウレタンゴム(U)、これらの変成体などを用いることができる。
一方、マトリックスポリマー中に添加された各表面改質剤は、ポリマー層の表面近傍に主に存在し、各表面改質剤の組み合わせ効果により、ポリマー層表面にトナー離型性、滑り性およびトナー荷電性を付与する成分として重要な役割を果たす。第1表面改質剤は、第1重合単位と第2重合単位とを含む共重合体より構成されている。第2表面改質剤は、第2重合単位と第3重合単位とを含む共重合体より構成されている。第3表面改質剤は、第1重合単位と第3重合単位とを含む共重合体より構成されている。但し、第1重合単位は、フッ素含有基を有する(メタ)アクリレートに基づく重合単位である。第2重合単位は、シリコーン基を有する(メタ)アクリレートに基づく重合単位である。第3重合単位は、アミノ基を有する(メタ)アクリルアミドまたはアミノ基を有する(メタ)アクリレートに基づく重合単位である。なお、「フッ素含有基」とは、フッ素原子を含有する基をいい、−Fを含む。また、本願において(メタ)アクリレートは、アクリレート、メタクリレートの両方を包含する意味である。同様に、(メタ)アクリルは、アクリル、メタクリルの両方を包含する意味である。
第1表面改質剤は、1種または2種以上の第1重合単位、1種または2種以上の第2重合単位を含むことができる。第2表面改質剤は、1種または2種以上の第2重合単位、1種または2種以上の第3重合単位を含むことができる。第3表面改質剤は、1種または2種以上の第1重合単位、1種または2種以上の第3重合単位を含むことができる。また、各表面改質剤は、それぞれ1種または2種以上併用することができる。
各表面改質剤は、ランダム共重合体であっても、ブロック共重合体であってもよい。好ましくは、各表面改質剤は、ランダム共重合体であるとよい。この場合は、各表面改質剤が有する各重合単位に基づく官能基を、ポリマー層表面近傍にランダムに存在させやすくなる。そのため、この場合は、ポリマー層表面に付与されるトナー離型性、滑り性およびトナー荷電性のムラが生じ難くなる利点がある。また、各表面改質剤は、例えば、直鎖状、分岐状等のポリマー構造とすることができる。
第1重合単位において、フッ素含有基を有する(メタ)アクリレートは、1種または2種以上のフッ素含有基を有することができる。フッ素含有基は、具体的には、例えば、フルオロアルキル基、フルオロアルキルアルキレンオキシド基、フルオロアルケニル基、−Fなどから構成することができる。
これらのうち、フッ素含有基としては、トナー離型性、フッ素含有基を有する(メタ)アクリレートの入手容易性等の観点から、フルオロアルキル基、好ましくは、炭素数4〜12程度のフルオロアルキル基を好適に用いることができる。フルオロアルキル基は、アルキル基の全ての水素原子がフッ素化されていてもよいし、一部にフッ素化されていない箇所を含んでいてもよい。前者は、全フッ素化であり、後者は、部分フッ素化である。特に好ましくは、フルオロアルキル基は、パーフルオロアルキル基であるとよい。パーフルオロアルキル基は構造的な安定性が高いので、トナーを寄せ付けたままとし難く、ポリマー層表面のトナー離型性を向上させやすいからである。
フルオロアルキル基としては、具体的には、例えば、トリフルオロメチル、トリフルオロエチル、トリフルオロブチル、ペンタフルオロプロピル、パーフルオロブチル、パーフルオロヘキシル、パーフルオロオクチル、パーフルオロデシル、パーフルオロ−3−メチルブチル、パーフルオロ−5−メチルヘキシル、パーフルオロ−7−メチルオクチル、オクタフルオロペンチル、ドデカフルオロヘプチル、ヘキサデカフルオロノニルなどを例示することができる。
フッ素含有基を有する(メタ)アクリレートは、より具体的には、下記式4にて示される化合物とすることができる。
上記式4にて示される化合物は、比較的準備が容易であるので、第1表面改質剤、第3表面改質剤を比較的容易に合成することができる。そのため、この場合は、上記作用効果を奏する電子写真用部材を得やすくなる。
第2重合単位において、シリコーン基を有する(メタ)アクリレートは、1種または2種以上のシリコーン基を有することができる。シリコーン基は、具体的には、例えば、ジメチルシロキサン単位の繰り返しから構成されるポリジメチルシロキサン骨格を含むことができる。この場合は、比較的簡易な分子構造のポリジメチルシロキサン骨格にてシリコーン基の分子量を大きくすることができるので、ポリマー層表面の滑り性を確保しやすくなる。
上記ポリジメチルシロキサン骨格は、ポリマー層表面の滑り性向上などの観点から、重量平均分子量を、好ましくは275以上、より好ましくは350以上、さらにより好ましくは420以上とすることができる。また、上記ポリジメチルシロキサン骨格は、第1表面改質剤および第2表面改質剤の合成時における(メタ)アクリル基の反応性、ポリマー層形成用材料の溶媒への溶解性などの観点から、重量平均分子量を、好ましくは20000以下、より好ましくは15000以下、さらにより好ましくは12000以下とすることができる。なお、上記重量平均分子量は、ゲル透過クロマトグラフ(GPC)により測定することができる。
第2重合単位において、シリコーン基を有する(メタ)アクリレートは、より具体的には、下記式5にて示される化合物とすることができる。
上記式5中、R21は、第1表面改質剤および第2表面改質剤の合成時における(メタ)アクリル基の反応性などの観点から、好ましくは、炭素数1〜10のアルキル基、より好ましくは、メチル基、エチル基、プロピル基またはブチル基、さらに好ましくは、メチル基であるとよい。R22は、具体的には、2価の飽和炭化水素基とすることができる。2価の飽和炭化水素基は、第1表面改質剤および第2表面改質剤の合成時における(メタ)アクリル基の反応性などの観点から、好ましくは、炭素数1〜10の飽和炭化水素基、より好ましくは、−(CH2)−、−(CH2)2−、−(CH2)3−、または、−(CH2)4−であるとよい。また、R22は、具体的には、エステル結合、ウレタン結合、ウレア結合およびアミド結合からなる群より選択される1種の結合を含む2価の飽和炭化水素基とすることもできる。上記結合を含む2価の飽和炭化水素基は、具体的には、−R23−X−R24−であるとよい。但し、Xは、エステル結合、ウレタン結合、ウレア結合およびアミド結合からなる群より選択される1種である。R23、R24は、第1表面改質剤および第2表面改質剤の合成時における(メタ)アクリル基の反応性などの観点から、好ましくは、炭素数1〜10の飽和炭化水素基、より好ましくは、−(CH2)−、−(CH2)2−、−(CH2)3−、または、−(CH2)4−であるとよい。Xは、アクリル酸またはアクリル酸変成体に対しシラノール基を有するジメチルシロキサンまたはその他のジメチルシロキサン変成体を付加させる(合成する)場合の反応性などの観点から、好ましくはウレタン結合などであるとよい。なお、上記アクリル酸変成体は、例えば、アクリル酸に反応性の高い官能基を付加したもの等である。また、上記ジメチルシロキサン変成体は、例えば、シラノール基を有するジメチルシロキサンがアクリル酸末端と反応性を持つように変性されたもの等である。nは、第1表面改質剤および第2表面改質剤における(メタ)アクリル基の反応性、滑り性などの観点から、好ましくは2〜270の整数、より好ましくは5〜160の整数であるとよい。
上記式5にて示される化合物は、比較的準備が容易であるので、第1表面改質剤および第2表面改質剤を比較的容易に合成することができる。そのため、この場合は、上記作用効果を奏する電子写真用部材を得やすくなる。
第3重合単位において、アミノ基を有する(メタ)アクリルアミドは、より具体的には、下記式6にて示される化合物とすることができる。また、第3重合単位において、アミノ基を有する(メタ)アクリレートは、より具体的には、下記式7にて示される化合物とすることができる。
上記式6および式7中、R31は、第2表面改質剤、第3表面改質剤の硬度低減などの観点から、好ましくは、−(CH2)m−(mは1〜4)、より好ましくは、−(CH2)3−であるとよい。また、R32、R33は、いずれも、第2表面改質剤、第3表面改質剤の硬度低減、マトリックスポリマーとの相溶性などの観点から、好ましくは、メチル基、エチル基、プロピル基またはブチル基、より好ましくは、メチル基であるとよい。
第1表面改質剤は、第1重合単位を0.01〜60mol%、第2重合単位を0.01〜60mol%含むことができる。第2表面改質剤は、第2重合単位を0.01〜60mol%、第3重合単位を5〜95mol%含むことができる。第3表面改質剤は、第1重合単位を0.01〜60mol%、第3重合単位を5〜95mol%含むことができる。これらの場合には、ポリマー層表面のトナー離型性、滑り性およびトナー荷電性を確実なものとすることが可能になる。また、各表面改質剤の各重合単位の割合を上記範囲内で調節することにより、各特性のバランスを制御しやすくなる。なお、第1重合単位、第2重合単位、第3重合単位の割合は、後述する他の重合単位を含む場合にはその重合単位を含めた各重合単位の合計の割合が、各表面改質剤において100mol%となるように選択することができる。なお、各重合単位の割合は、熱分解GC/MS分析、NMR分析などにより測定することができる。
第1表面改質剤、第3表面改質剤において、第1重合単位の割合は、十分なトナー離型性を得る観点から、好ましくは0.05mol%以上、より好ましくは0.1mol%以上、さらに好ましくは0.3mol%以上とすることができる。また、第1重合単位の割合は、マトリックスポリマーや希釈溶媒への溶解性などの観点から、好ましくは50mol%以下、より好ましくは35mol%以下、さらに好ましくは20mol%以下とすることができる。
第1表面改質剤、第2表面改質剤において、第2重合単位の割合は、十分な滑り性を得る観点から、好ましくは0.05mol%以上、より好ましくは0.1mol%以上、さらに好ましくは0.3mol%以上とすることができる。また、第2重合単位の割合は、マトリックスポリマーや希釈溶媒への溶解性などの観点から、好ましくは50mol%以下、より好ましくは45mol%以下、さらに好ましくは40mol%以下とすることができる。
第2表面改質剤、第3表面改質剤において、第3重合単位の割合は、十分なトナー荷電性を得る観点から、好ましくは10mol%以上、より好ましくは30mol%以上、さらに好ましくは40mol%以上、さらにより好ましくは50mol%以上とすることができる。また、第3重合単位の割合は、マトリックスポリマーや希釈溶媒への溶解性などの観点から、好ましくは93mol%以下、より好ましくは90mol%以下、さらに好ましくは85mol%以下、さらにより好ましくは80mol%以下とすることができる。
第1表面改質剤は、第1重合単位、第2重合単位以外にも、他の(メタ)アクリレートに基づく重合単位を必要に応じて1種または2種以上含むことができる。同様に、第2表面改質剤は、第2重合単位、第3重合単位以外にも、他の(メタ)アクリレートに基づく重合単位を必要に応じて1種または2種以上含むことができる。第3表面改質剤は、第1重合単位、第3重合単位以外にも、他の(メタ)アクリレートに基づく重合単位を必要に応じて1種または2種以上含むことができる。
例えば、各表面改質剤は、いずれも、アルキル基を有する(メタ)アクリレートに基づく第4重合単位をさらに含むことができる。なお、各表面改質剤は、いずれも、1種または2種以上の第4重合単位を含むことができる。
この場合には、第4重合単位に含まれるアルキル基により、マトリックスポリマーと各表面改質剤との相溶性を向上させることができる。そのため、ポリマー層の耐久性を向上させることが可能になる。
第4重合単位において、アルキル基を有する(メタ)アクリレートは、具体的には、アルキル(メタ)アクリレートを好適に用いることができ、1種または2種以上のアルキル基を有することができる。上記アルキル基としては、具体的には、例えば、マトリックスポリマーとの相溶性向上などの観点から、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基などを例示することができる。これらのうち、上記アルキル基は、各表面改質剤の合成時における(メタ)アクリル基の反応性などの観点から、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基が好ましい。アルキル基を有する(メタ)アクリレートは、好ましくは、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチルなどを例示することができる。この場合は、各表面改質剤の合成時に他の重合単位と共重合させやすい上、マトリックスポリマーと各表面改質剤との相溶性を向上させやすく、上記作用効果を得やすくなる。
また例えば、各表面改質剤は、いずれも、水酸基を有する(メタ)アクリレートまたは水酸基を有する(メタ)アクリルアミドに基づく第5重合単位をさらに含むことができる。なお、各表面改質剤は、いずれも、1種または2種以上の第5重合単位を含むことができる。
この場合には、第5重合単位に含まれる水酸基により、マトリックスポリマーと各表面改質剤との相溶性を向上させることができる。そのため、ポリマー層の耐久性を向上させることが可能になる。とりわけ、マトリックスポリマーが熱硬化性ポリウレタンを含む場合には、水酸基がマトリックスポリマーと反応するため、上記効果が大きくなる。また、この水酸基をきっかけに他の官能基を修飾することにより、上記熱硬化性ポリウレタン以外のマトリックスポリマーについても上記効果を大きくすることができる。
第5重合単位において、水酸基を有する(メタ)アクリレートは、具体的には、例えば、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性(メタ)アクリレートなどを例示することができる。水酸基を有する(メタ)アクリルアミドは、具体的には、例えば、ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミドなどを例示することができる。水酸基を有する(メタ)アクリレート、水酸基を有する(メタ)アクリルアミドは、より具体的には、例えば、各表面改質剤の合成時における(メタ)アクリル基の反応性、マトリックスポリマーに対する相溶性などの観点から、下記式8にて示される化合物、下記式9にて示される化合物とすることができる。
上記式8および式9中、R51は、具体的には、2価の飽和炭化水素基、アリール基、アラルキル基などとすることができる。2価の飽和炭化水素基は、各表面改質剤の合成時における(メタ)アクリル基の反応性などの観点から、好ましくは、炭素数1〜10の飽和炭化水素基、より好ましくは、−(CH2)−、−(CH2)2−、−(CH2)3−、または、−(CH2)4−、さらに好ましくは、−(CH2)2−であるとよい。アリール基は、各表面改質剤の合成時における(メタ)アクリル基の反応性、マトリックスポリマーに対する相溶性などの観点から、好ましくはフェニル基またはベンジル基であるとよい。アラルキル基は、各表面改質剤の合成時における(メタ)アクリル基の反応性、マトリックスポリマーに対する相溶性などの観点から、好ましくはベンジル基またはフェネチル基であるとよい。
各表面改質剤は、第4重合単位を0〜95mol%、第5重合単位を0〜95mol%含むことができる。第4重合単位の割合は、マトリックスポリマーとの相溶性を確保しやすくなるなどの観点から、好ましくは0.1mol%以上、より好ましくは1mol%以上、さらに好ましくは5mol%以上、さらにより好ましくは10mol%以上とすることができる。また、第4重合単位の割合は、効果発現のために各表面改質剤において必須となる所定の重合単位の割合を確保するなどの観点から、好ましくは94mol%以下、より好ましくは93mol%以下、さらに好ましくは90mol%以下とすることができる。一方、第5重合単位の割合は、マトリックスポリマーとの相溶性を確保しやすくなるなどの観点から、好ましくは5mol%以上、より好ましくは10mol%以上、さらに好ましくは15mol%以上とすることができる。また、第5重合単位の割合は、効果発現のために各表面改質剤において必須となる所定の重合単位の割合を確保するなどの観点から、好ましくは94mol%以下、より好ましくは93mol%以下、さらに好ましくは90mol%以下とすることができる。
第1表面改質剤は、より具体的には、下記式1にて示される分子構造を有する共重合体とすることができる。第2表面改質剤は、より具体的には、下記式2にて示される分子構造を有する共重合体とすることができる。第3表面改質剤は、より具体的には、下記式3にて示される分子構造を有する共重合体とすることができる。
式1、式2において、R21は、第1表面改質剤および第2表面改質剤の合成時における(メタ)アクリル基の反応性などの観点から、好ましくは、炭素数1〜10のアルキル基、より好ましくはメチル基、エチル基、プロピル基またはブチル基、さらに好ましくはメチル基であるとよい。式1、式2、式3において、R41は、各表面改質剤の合成時における(メタ)アクリル基の反応性などの観点から、好ましくは、炭素数1〜10のアルキル基、より好ましくはメチル基、エチル基、プロピル基またはブチル基、さらに好ましくはメチル基であるとよい。
また、上述した理由により、上記式中において、モル%でpは、0.01以上、好ましくは0.05以上、より好ましくは0.1以上、さらに好ましくは0.3以上とすることができる。モル%でpは、60以下、好ましくは50以下、より好ましくは35以下、さらに好ましくは20以下とすることができる。また、モル%でqは、0.01以上、好ましくは0.05以上、より好ましくは0.1以上、さらに好ましくは0.3以上とすることができる。モル%でqは、60以下、好ましくは50以下、より好ましくは45以下、さらに好ましくは40以下とすることができる。また、モル%でrは、5以上、好ましくは10以上、より好ましくは30以上、さらに好ましくは40以上、さらにより好ましくは50以上とすることができる。モル%でrは、95以下、好ましくは93以下、より好ましくは90以下、さらに好ましくは85以下、さらにより好ましくは80以下とすることができる。また、モル%でsは、0以上、好ましくは0.1以上、より好ましくは1以上、さらに好ましくは5以上、さらにより好ましくは10以上とすることができる。モル%でsは、95以下、好ましくは94以下、より好ましくは93以下、さらに好ましくは90以下とすることができる。また、モル%でtは、0以上、好ましくは5以上、より好ましくは10以上、さらに好ましくは15以上とすることができる。モル%でtは、95以下、好ましくは94以下、より好ましくは93以下、さらに好ましくは90以下とすることができる。なお、上述したように、各重合単位の割合であるp、q、r、s、tは、式1ではp、q、s、tの合計、式2ではq、r、s、tの合計、式3ではp、r、s、tの合計でそれぞれ100モル%となるように選択される。また、nは、好ましくは2〜270の整数、より好ましくは5〜160の整数であるとよい。
上記電子写真用部材において、ポリマー層表面には、F原子、Si原子、および、N原子が存在していることが好ましい。F原子は、第1重合単位に由来するものであり、Si原子は、第2重合単位に由来するものであり、N原子は、第3重合単位に由来するものである。つまり、この場合には、アミノ基がポリマー層の内部に偏在することなく、フッ素含有基とシリコーン基とアミノ基とが、部材表面であるポリマー層表面に強制的に存在することが確実なものとなる。それ故、この場合には、部材表面におけるトナー離型性、滑り性、および、トナー荷電性を同時に満たす電子写真用部材を確実に得ることができる。なお、ポリマー層表面に、F原子、Si原子、および、N原子が存在していることは、TOF−SIMS(飛行時間型二次イオン質量分析法)によるポリマー層表面の分析により確認することができる。
ポリマー層において、第1表面改質剤の含有量は、マトリックスポリマー100質量部に対し0.1〜10質量部の範囲内とすることができる。この場合には、第2表面改質剤の含有量、あるいは、第3表面改質剤の含有量を適宜調節することにより、部材表面であるポリマー層表面のトナー離型性、滑り性、および、トナー荷電性を確実なものとすることができる。
第1表面改質剤の含有量は、添加による十分な効果を得るなどの観点から、好ましくは0.15質量部以上、より好ましくは0.2質量部以上、さらに好ましくは0.25質量部以上とすることができる。また、第1表面改質剤の含有量は、表面硬度の上昇抑制、トナー荷電性への悪影響の低減などの観点から、好ましくは10質量部以下、より好ましくは8質量部以下、さらに好ましくは7質量部以下、さらにより好ましくは5質量部以下、さらにより一層好ましくは3質量部以下とすることができる。
ポリマー層において、第2表面改質剤の含有量は、第1表面改質剤の含有量の1〜120倍の範囲内とされているとよい。また、第3表面改質剤の含有量は、第1表面改質剤の含有量の1〜120倍の範囲内とされているとよい。この場合には、部材表面であるポリマー層表面のトナー離型性、滑り性、および、トナー荷電性を確実なものとすることができる。
第2表面改質剤の含有量、第3表面改質剤の含有量は、添加による十分な効果を得るなどの観点から、いずれも、好ましくは、第1表面改質剤の含有量の1.5倍以上、より好ましくは、1.8倍以上、さらに好ましくは、2倍以上とすることができる。第2表面改質剤の含有量、第3表面改質剤の含有量は、表面硬度の上昇抑制、トナー荷電性の向上などの観点から、いずれも、好ましくは、第1表面改質剤の含有量の100倍以下、より好ましくは、50倍以下、さらに好ましくは、30倍以下、さらにより好ましくは、10倍以下とすることができる。なお、各表面改質剤の含有量は、溶剤による抽出後、抽出物を熱分解GC/MS分析、NMR分析して各表面改質剤の構造を特定した後、材料全体を熱分解GC/MS分析することなどによって測定することができる。
ポリマー層は、マトリックスポリマー中に、他にも、導電剤を含有することができる。導電剤としては、具体的には、例えば、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、グラファイト等の炭素系導電材料、チタン酸バリウム、c−TiO2、c−ZnO、c−SnO2(c−は導電性を意味する。)等の導電性の金属酸化物や金属ナノ粒子などといった電子導電剤、ポリアニリン、ポリピロールなどといった導電ポリマー、第四級アンモニウム塩、ホウ酸塩、過塩素酸塩、イオン液体などといったイオン導電剤などを例示することができる。
ポリマー層は、マトリックスポリマー中に、他にも、必要に応じて、反応触媒、フィラー(無機系、有機系)、カップリング剤、分散剤、レベリング剤、架橋剤、架橋助剤、可塑剤、難燃剤、消泡剤、粗さ形成用粒子などの各種添加剤を含有することができる。これらは1種または2種以上併用することができる。
ポリマー層の厚みは、特に限定されるものではなく、耐摩耗性、柔軟性などを考慮して最適な厚みとすることができる。ポリマー層の厚みは、例えば、1〜100μm程度とすることができる。
なお、上述した各構成は、上述した各作用効果等を得るなどのために必要に応じて任意に組み合わせることができる。
実施例に係る電子写真用部材について、図面を用いて具体的に説明する。
(実施例1)
実施例1に係る電子写真用部材の概略構成を図1、図2を用いて説明する。図1、図2に示すように、電子写真用部材Rは、電子写真装置に用いられるものである。本例の電子写真用部材は、具体的には、電子写真方式の画像形成装置に組み込まれるロール状の導電性部材であり、現像部材としての現像ロールまたは帯電部材としての帯電ロールとして用いることができる。
電子写真用部材Rは、ポリマー層1を有している。ポリマー層1は、電子写真用部材Rの部材表面を含んでいる。つまり、ポリマー層1の表面は、部材表面と一致している。本例の電子写真用部材Rは、具体的には、芯金よりなる軸体2と、軸体2の外周面に沿って形成された導電性を有するゴム弾性体よりなる弾性層3とをさらに有している。但し、軸体2の両端部は、弾性層3の両端面から突出した状態とされている。そして、電子写真用部材Rは、この弾性層3の外周面に沿ってポリマー層1が形成されている。
電子写真用部材Rは、現像部材として用いる場合には、例えば、摺擦によりトナーを帯電させたり一定厚みのトナーを形成したりするためのブレード部材を、ポリマー層1表面に接触させた状態で使用することができる。また、電子写真用部材Rは、帯電部材として用いる場合には、例えば、用紙へトナー像を定着させる定着工程の後に表面に残存するトナーを除去するためのブレード部材を、ポリマー層1表面に接触させた状態で使用することができる。
ポリマー層1は、ポリマー層1の骨格を形成するマトリックスポリマーと、マトリックスポリマー中に含有された第1表面改質剤と、マトリックスポリマー中に含有された第2表面改質剤とを有している。あるいは、ポリマー層1は、ポリマー層1の骨格を形成するマトリックスポリマーと、マトリックスポリマー中に含有された第1表面改質剤と、マトリックスポリマー中に含有された第3表面改質剤とを有している。
マトリックスポリマーは、具体的には、熱可塑性ポリウレタンと熱硬化性ポリウレタンとの混合ポリマーよりなる。第1表面改質剤は、第1重合単位と第2重合単位とを含む共重合体より構成されている。第2表面改質剤は、第2重合単位と第3重合単位とを含む共重合体より構成されている。第3表面改質剤は、第1重合単位と第3重合単位とを含む共重合体より構成されている。ここで、第1重合単位は、フッ素含有基を有する(メタ)アクリレートに基づく重合単位である。第2重合単位は、シリコーン基を有する(メタ)アクリレートに基づく重合単位である。第3重合単位は、アミノ基を有する(メタ)アクリルアミドまたはアミノ基を有する(メタ)アクリレートに基づく重合単位である。なお、ポリマー層1には、導電性を付与するために電子導電剤が添加されている。
(実施例2)
実施例2に係る電子写真用部材の概略構成を図3、図4を用いて説明する。図3、図4に示すように、電子写真用部材Bは、電子写真装置に用いられるものである。本例の電子写真用部材Bは、具体的には、電子写真方式の画像形成装置に組み込まれる無端ベルト状の導電性部材であり、転写部材(中間転写ベルト)として用いることができる。
電子写真用部材Bは、ポリマー層4を有している。本例の電子写真用部材Bは、具体的には、導電性を有する樹脂材料より形成された筒状の基層5をさらに有している。そして、この基層5の外周面に沿ってポリマー層4が形成されている。電子写真用部材Bは、例えば、用紙へトナー像を二次転写した後に表面に残存するトナーを除去するためのブレード部材を、ポリマー層4表面に接触させた状態で使用することができる。
ポリマー層4は、実施例1と同様に、マトリックスポリマー中に、第1表面改質剤および第2表面改質剤、あるいは、第1表面改質剤および第3表面改質剤を含有している。
マトリックスポリマーは、具体的には、ゴムを主成分とする。したがって、ポリマー層4はゴム弾性を有している。各表面改質剤の詳細については、実施例1と同様であるため説明を省略する。なお、ポリマー層4には、導電性を付与するためにイオン導電剤が添加されている。
以下、電子写真用部材としての導電性ロール試料を作製し、評価を行った。その実験例について説明する。
(実験例)
<表面改質剤の準備>
ポリマー層のマトリックスポリマー中に添加する各表面改質剤を以下のようにして準備した。
・第1表面改質剤
100mLの反応フラスコに、2−(パーフルオロヘキシル)エチルアクリレート(ダイキン工業社製、「R−1620」)5.61g(13mmol)と、(メタ)アクリレート変性シリコーン化合物(信越化学工業社製、「X−22−174DX」)1.66g(0.36mmol)と、メタクリル酸メチル(純正化学工業社製)7.37g(73.64mmol)と、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル(東京化成工業社製)1.69g(13mmol)と、ジメチル1,1’−アゾビス(1−シクロヘキサンカルボキシレート)(和光純薬工業社製、「VE−73」)1.24g(4mmol)と、メチルイソブチルケトン(MIBK)17.6gとを仕込み、撹拌しながら5分間窒素によるバブリングを行った後、内液の温度80℃にて7時間重合させた。なお、上記(メタ)アクリレート変性シリコーン化合物は、上記式5にて示される化合物であり、式5中、R2およびR21は、いずれもメチル基である。また、R22は、−(CH2)3−である。また、シリコーン基は、ジメチルシロキサン単位の繰り返しからなるポリジメチルシロキサン骨格を含んでおり、その重量平均分子量は、4200である。
次いで、MIBK23.4gを仕込み、固形分で30%の第1表面改質剤を含有する溶液を得た。
上記第1表面改質剤は、フッ素含有基を有する(メタ)アクリレートに基づく第1重合単位と、シリコーン基を有する(メタ)アクリレートに基づく第2重合単位と、アルキル基を有する(メタ)アクリレートに基づく第4重合単位と、水酸基を有する(メタ)アクリレートに基づく第5重合単位とを含む直鎖状の共重合体である。より具体的には、上記第1表面改質剤は、式1にて示される分子構造を有する共重合体(第1重合単位におけるR1は、H、第2重合単位におけるR2およびR21は、いずれもメチル基、第4重合単位におけるR4およびR41は、いずれもメチル基、第5重合単位におけるR5は、メチル基、モル%でp=13、q=0.4、s=73.6、t=13)である。つまり、本例の第1表面改質剤は、フッ素含有基とシリコーン基とを同時に有するフッ素・シリコーン系の表面改質剤である。
・第2表面改質剤
100mLの反応フラスコに、上記(メタ)アクリレート変性シリコーン化合物1.66g(0.36mmol)と、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド(DMAPAA)(KOHJIN社製)11.50g(73.64mmol)と、上記メタクリル酸メチル1.30g(13mmol)と、上記メタクリル酸2−ヒドロキシエチル1.69g(13mmol)と、上記ジメチル1,1’−アゾビス(1−シクロヘキサンカルボキシレート)1.24g(4mmol)と、メチルイソブチルケトン(MIBK)17.4gとを仕込み、撹拌しながら5分間窒素によるバブリングを行った後、内液の温度80℃にて7時間重合させた。
次いで、MIBK23.2gを仕込み、固形分で30%の第2表面改質剤を含有する溶液を得た。
上記第2表面改質剤は、シリコーン基を有する(メタ)アクリレートに基づく第2重合単位と、アミノ基を有する(メタ)アクリルアミドに基づく第3重合単位と、アルキル基を有する(メタ)アクリレートに基づく第4重合単位と、水酸基を有する(メタ)アクリレートに基づく第5重合単位とを含む直鎖状の共重合体である。より具体的には、上記第2表面改質剤は、式2にて示される分子構造を有する共重合体(第2重合単位におけるR2およびR21は、いずれもメチル基、第3重合単位におけるR3は、H、第4重合単位におけるR4およびR41は、いずれもメチル基、第5重合単位におけるR5は、メチル基、モル%でq=0.4、r=73.6、s=13、t=13)である。つまり、本例の第2表面改質剤は、シリコーン基とアミノ基とを同時に有するシリコーン・アミン系の表面改質剤である。
・第3表面改質剤
100mLの反応フラスコに、上記2−(パーフルオロヘキシル)エチルアクリレート5.61g(13mmol)と、上記ジメチルアミノプロピルアクリルアミド(DMAPAA)11.50g(73.64mmol)と、上記メタクリル酸メチル0.04g(0.36mmol)と、上記メタクリル酸2−ヒドロキシエチル1.69g(13mmol)と、上記ジメチル1,1’−アゾビス(1−シクロヘキサンカルボキシレート)1.24g(4mmol)と、メチルイソブチルケトン(MIBK)20.1gとを仕込み、撹拌しながら5分間窒素によるバブリングを行った後、内液の温度80℃にて7時間重合させた。
次いで、MIBK26.8gを仕込み、固形分で30%の第3表面改質剤を含有する溶液を得た。
上記第3表面改質剤は、フッ素含有基を有する(メタ)アクリレートに基づく第1重合単位と、アミノ基を有する(メタ)アクリルアミドに基づく第3重合単位と、アルキル基を有する(メタ)アクリレートに基づく第4重合単位と、水酸基を有する(メタ)アクリレートに基づく第5重合単位とを含む直鎖状の共重合体である。より具体的には、上記第3表面改質剤は、式3て示される分子構造を有する共重合体(第1重合単位におけるR1は、H、第3重合単位におけるR3は、H、第4重合単位におけるR4およびR41は、いずれもメチル基、第5重合単位におけるR5は、メチル基、モル%でp=13、r=73.6、s=0.4、t=13)である。つまり、本例の第3表面改質剤は、フッ素含有基とアミノ基とを同時に有するフッ素・アミン系の表面改質剤である。
・比較用表面改質剤
100mLの反応フラスコに、上記2−(パーフルオロヘキシル)エチルアクリレート5.61g(13mmol)と、上記(メタ)アクリレート変性シリコーン化合物1.66g(0.36mmol)と、上記ジメチルアミノプロピルアクリルアミド(DMAPAA)11.50g(73.64mmol)と、上記メタクリル酸2−ヒドロキシエチル1.69g(13mmol)と、上記ジメチル1,1’−アゾビス(1−シクロヘキサンカルボキシレート)1.24g(4mmol)と、メチルイソブチルケトン(MIBK)21.7gとを仕込み、撹拌しながら5分間窒素によるバブリングを行った後、内液の温度80℃にて7時間重合させた。
次いで、MIBK28.9gを仕込み、固形分で30%の比較用表面改質剤を含有する溶液を得た。
上記比較用表面改質剤は、フッ素含有基を有する(メタ)アクリレートに基づく第1重合単位と、シリコーン基を有する(メタ)アクリレートに基づく第2重合単位と、アミノ基を有する(メタ)アクリルアミドに基づく第3重合単位と、水酸基を有する(メタ)アクリレートに基づく第5重合単位とを含む直鎖状の共重合体である。つまり、比較用表面改質剤は、フッ素含有基とシリコーン基とアミノ基とを同時に有するフッ素・シリコーン・アミン系の表面改質剤である。
以下、上記各表面改質剤の合成における各重合成分の仕込み量をまとめて表1に示す。
<ポリマー層形成用材料の調製>
表2に示すように、熱可塑性ポリウレタン(日本ポリウレタン工業社製、「ニッポラン5199」)10質量部と、ポリエーテルジオール(3官能ポリプロピレングリコール)(ADEKA社製、「アデカポリエーテルP−1000」)60質量部と、ポリイソシアネート(HDI型ブロックイソシアヌレート)(日本ポリウレタン工業社製、「コロネートL」)30質量部と、電子導電剤(カーボンブラック)(ライオン社製、「ケッチェンEC300J」)3質量部と、表2に示す所定の種類かつ所定の配合量の各表面改質剤とを、濃度20質量%となるようにMEKに溶解し、三本ロールを用いて十分に混合、分散させた。これにより、導電性ロール試料1〜13の作製に用いる各ポリマー層形成用材料を調製した。
<導電性ロール試料の作製>
導電性シリコーンゴム(信越化学工業社製、「X−34−264A/B、混合質量比A/B=1/1」)をスタティックミキサーにて混合することにより、弾性層形成用材料を調製した。
軸体として、直径6mmの中実円柱状の鉄棒を準備し、外周面に接着剤を塗布した。この軸体をロール成形用金型の中空空間にセットした後、上記調製した弾性層形成用材料を中空空間内に注入し、190℃で30分間加熱して硬化させ、脱型した。これにより、軸体の外周面に沿って導電性シリコーンゴムよりなるロール状の弾性層(厚み3mm)を形成した。
次いで、上記弾性層の外周面に、ロールコート法により、上記調製した各ポリマー層形成用材料を塗工した後、120℃で60分間加熱して硬化させ、ポリマー層(厚み15μm)を形成した。これにより、上記弾性層の外周面に沿ってポリマー層を有する二層構造の導電性ロール試料1〜13を作製した。ポリマー層は、ポリマー層の骨格を形成する熱可塑性ポリウレタンと熱硬化性ポリウレタンとの混合ポリマー中に、添加剤として表2に示す各表面改質剤を含有している。
<TOF−SIMS(飛行時間型二次イオン質量分析法)によるポリマー層表面の分析>
各導電性ロール試料について、TOF−SIMS(飛行時間型二次イオン質量分析法)によるポリマー層表面の分析を行った。分析装置には、飛行時間型二次イオン質量分析装置(アルバック・ファイ社製、「PHI TRIFT V nanoTOF」)を用いた。データ取得方法は、スペクトルの取得とスパッタとを交互に繰り返すデプスプロファイル方式とした。スペクトルの取得条件は、一次イオン:30kV、Au3++、イオン電流:DC2nA、ラスター:20μm角、測定時間:0.4分/サイクルとした。スパッタの条件は、一次イオン:10kV、Au2500+、イオン電流:DC4nA、ラスター:500μm角、スパッタ時間:2秒/サイクルとした。スペクトルの取得とスパッタとを2サイクル目まで行い、ポリマー層表面由来の表面スペクトルとした。上記表面スペクトルにおいて、負イオンのF(19)をフッ素含有基のシグナル、正イオンのC3H9Si(73)をシリコーン基のシグナル、正イオンのC3H8N(58)をアミノ基のシグナルとした。各シグナルについて、それぞれ検出できた場合を「○」、検出できなかった場合を「×」とした。
上記条件によるスパッタ速度は、約1/3nm/sであった。そのため、2サイクルのスパッタによる表面スペクトルは、1nm以下の表面状態を示しているといえる。
<トナー離型性>
上記調製した各ポリマー層形成用材料を、上記ポリマー層形成時と同じ条件で加熱、硬化させ、シート状の各試験片(厚み15μm)を作製した。次いで、電子写真方式を採用するデジタルフルカラー複合機(富士ゼロックス社製、「DocuCentre−IV C2260」)のカートリッジのトナーを、各試験片の表面に定量散布した。次いで、このトナーを散布した各試験片を遠心分離機にセットし、12000Gを付加した後のトナーの残存量を画像処理にて評価した。画像中のトナーの残存面積が3割未満であった場合をトナー離型性に優れるとして「A」、画像中のトナーの残存面積が3割以上5割未満であった場合をトナー離型性を有するとして「B」、画像中のトナーの残存面積が5割超であった場合をトナー離型性を有さないとして「C」とした。
<滑り性>
静・動摩擦係数測定器(協和界面科学社製、「Triboster500」)のステージ上に固定した導電性ロール試料の表面、つまり、ポリマー層表面に、接触子(直径3mmの鋼球製)による垂直荷重W50gを加えた。この状態でステージを移動速度7.5mm/秒で水平方向に1cm移動させた。これにより導電性ロール試料と接触子との間に生じた摩擦力Fから、導電性ロール試料のポリマー層表面における初期の動摩擦係数μk(F/W)を算出した。
上記動摩擦係数μkが1.5以下であった場合を、ポリマー層表面の滑り性に優れるとして「A」とした。上記動摩擦係数μkが1.5超2以下であった場合を、ポリマー層表面の滑り性が良好であるとして「B」とした。上記動摩擦係数μkが2超であった場合を、ポリマー層表面の摩擦力が大きく、滑り性に劣るとして「C」とした。
<トナー荷電性>
各導電性ロール試料を、現像ロールとして市販のカラープリンター(日本ヒューレット・パッカード社製、「Color Laser Jet Pro 400 Color M451dn」)に組み込み、25℃×50%RHの環境下にてベタ画像を出力した。この出力時の初期段階において、現像ロールのポリマー層表面のトナー(スチレン−アクリル系トナー)を金属円筒管と円筒フィルターを用いて吸引収集し、その際、金属円筒管を通じてコンデンサーに蓄えられた荷電量(負)の絶対値Q(μC)、吸引収集したトナーの全質量M(g)を測定した。そして、単位質量あたりのトナー荷電量Q/M(μC/g)を算出した。
トナーの荷電不足により発生するカブリ画像を抑制しやすい観点から、トナー荷電量Q/Mが18(μC/g)以上であった場合を、トナー荷電性に優れるとして「A」とした。また、トナーの荷電不足によりカブリ画像をほぼ抑制できる観点から、トナー荷電量Q/Mが12(μC/g)以上18(μC/g)未満であった場合を、トナー荷電性が良好であるとして「B」とした。トナーの荷電不足によりカブリ画像が発生しやすくなる観点から、トナー荷電量Q/Mが12(μC/g)未満であった場合を、トナー荷電性に劣るとして「C」とした。
なお、吸引した面積A(cm2)も併せて測定し、単位面積あたりのトナー搬送量M/A(mg/cm2)も算出したところ、いずれの導電性ロール試料もトナー搬送量M/Aは0.5(mg/cm2)程度であった。したがって、いずれも現像ロールとして機能するのに問題ないトナー搬送性を備えているといえる。
以下、各現像ロール試料の詳細な構成と評価結果をまとめて表2に示す。
表2によれば、以下のことがわかる。
試料1の導電性ロールは、フッ素・シリコーン系の第1表面改質剤のみがポリマー層に添加されている。そのため、試料1の導電性ロールは、ポリマー層の表面にアミノ基がなく、トナー荷電性に劣っていた。
試料2の導電性ロールは、シリコーン・アミン系の第2表面改質剤のみがポリマー層に添加されている。そのため、試料2の導電性ロールは、ポリマー層の表面にフッ素含有基がなく、ポリマー層表面がトナー離型性を発揮することができなかった。
試料3の導電性ロールは、フッ素・アミン系の第3表面改質剤のみがポリマー層に添加されている。そのため、試料3の導電性ロールは、ポリマー層の表面にシリコーン基がなく、ポリマー層表面の摩擦力が大きくなり、滑り性に劣っていた。
試料4の導電性ロールは、フッ素・シリコーン・アミン系の比較用表面改質剤のみがポリマー層に添加されている。そのため、試料4の導電性ロールは、トナー荷電性に劣っていた。これは、TOF−SIMSによるポリマー層表面の分析結果に示されるように、試料4の導電性ロールは、比較用表面改質剤におけるアミノ基がポリマー層の内部に偏在し、ポリマー層表面にアミノ基が実質的に存在しない表面形態となったためである。したがって、この結果から、フッ素・シリコーン・アミン系の表面改質剤を用いた場合には、部材表面であるポリマー層表面におけるトナー離型性、滑り性、および、トナー荷電性を同時に満たすことが難しいことが分かる。
試料5〜試料7の導電性ロールは、シリコーン・アミン系の第2表面改質剤とフッ素・アミン系の第3表面改質剤とが組み合わされてポリマー層に添加されている。しかしながら、上記組み合わせでは、ポリマー層における第2表面改質剤と第3表面改質剤との含有比率を変化させても、部材表面であるポリマー層の表面にフッ素含有基とシリコーン基とアミノ基とを強制的に存在させることが困難であった。そのため、これらの場合も、ポリマー層表面におけるトナー離型性、滑り性、および、トナー荷電性を同時に満たすことが難しいことが分かる。
これらに対し、試料8〜試料12の導電性ロールは、フッ素・シリコーン系の第1表面改質剤とシリコーン・アミン系の第2表面改質剤とが組み合わされてポリマー層に添加されている。また、試料13の導電性ロールは、フッ素・シリコーン系の第1表面改質剤とフッ素・アミン系の第3表面改質剤とが組み合わされてポリマー層に添加されている。
そのため、試料8〜試料13の導電性ロールは、TOF−SIMSによるポリマー層表面の分析結果に示されるように、アミノ基がポリマー層の内部に偏在することなく、比較的容易に、フッ素含有基とシリコーン基とアミノ基とを、部材表面であるポリマー層の表面に強制的に存在させることができた。その結果、試料8〜試料13の導電性ロールは、フッ素含有基により、部材表面であるポリマー層表面にトナー離型性が付与され、シリコーン基により、ポリマー層表面に滑り性が付与され、アミノ基により、ポリマー層表面にトナー荷電性が付与された。さらに、試料8〜試料12の導電性ロールは、第1表面改質剤に対する第2表面改質剤の割合を変えた場合でも、比較的安定して、部材表面におけるトナー離型性、滑り性、および、トナー荷電性を同時に満たすことができた。そのため、試料8〜試料12の導電性ロールは、ポリマー層表面におけるフッ素含有基、シリコーン基およびアミノ基の存在比率を調整しやすいといえる。したがって、試料8〜試料12の導電性ロールは、上記存在比率を適宜調整することにより、トナー離型性、滑り性、および、トナー荷電性のバランスを比較的自由に調整しやすいといえる。なお、フッ素・シリコーン系の第1表面改質剤とフッ素・アミン系の第3表面改質剤とが組み合わされて用いられた場合も、同様の効果を有するといえる。
以上、本発明の実施例について詳細に説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲内で種々の変更が可能である。