JP6214875B2 - スクロール圧縮機およびそのスクロールの加工方法 - Google Patents

Description

本発明は、互いに接触して摺動される固定スクロールおよび旋回スクロールの渦巻き状ラップの側面からの冷媒漏れを低減できるスクロール圧縮機およびそのスクロールの加工方法に関するものである。

スクロール圧縮機の圧縮室は、一対の固定スクロールおよび旋回スクロールの噛み合わせることによって形成される。一例では、端板の一面に渦巻き状ラップが立設された一対の固定スクロールおよび旋回スクロールを、１８０度位相をずらし、中心を旋回半径分だけずらして噛み合わせ、各々の渦巻き状ラップの歯先面と相手方スクロールの歯底面との間を、チップシール等を介してシールするとともに、固定スクロールの渦巻き状ラップの側面と旋回スクロールの渦巻き状ラップの側面との間を、従動クランク機構等を介して押圧接触させることによりシールし、密閉された一対の圧縮室を形成するようにしている。この圧縮室は、旋回スクロールの公転旋回に伴い、容積を減少しながら外周側から中心側へと移動し、冷媒を圧縮する。

このようなスクロール圧縮機にあって、渦巻き状ラップの側面シールは、上記の如く従動クランク機構を介して、渦巻き状ラップの側面同士を積極的に接触させることにより達成しているが、接触による摺動損失が少なからず発生し、若干の効率低下を招いている。
一方、圧縮機構の各種構成部材のスラスト摺動面に多数の微細ディンプルを設け、その微細ディンプルに油を保持させることによって、摺動面の潤滑性を改善して摩擦、摩耗を防止するとともに、作動流体の内部漏れを低減するようにしたものが、特許文献１，２等により提示されている。

特開平５−３３２２７２号公報 特開２０１１−２１５９７号公報

上記特許文献１，２には、圧縮機構を構成する各種構成部材のスラスト摺動面に多数の微細ディンプルを設けたものが示されているが、渦巻き状ラップの曲線により形成される側面に微細ディンプルを設けたものではない。スラスト摺動面に微細ディンプルを設ける場合、一般にショットピーニングによっており、摺動面に球状の粒子を投射し、ランダムにディンプルを形成している。これでもディンプルに油を保持することにより、摺動損失を低減するとともに、耐摩耗性を向上できると考えられる。しかしながら、渦巻き状ラップ側面の接触摺動のように、シールを主目的にするものでは、ランダムに設けられるディンプルの場合、安定したシール効果が期待し得ない虞があることから、ディンプルを設けるという発想には至らなかったものと推測される。

一方、近年、ＣＯ２冷媒のような高圧冷媒を用いたヒートポンプ等が増えている。この場合、圧縮する冷媒の圧力差が大きくなることから、圧縮時の内部漏れに対する対策が益々重要性を帯びており、渦巻き状ラップの側面シールが課題となる。渦巻き状ラップの側面シールの向上策としては、従来から、従動クランク機構による押圧力の調整、側面への馴染性の高い被膜のコーティング等が考えられていたが、押圧力を増すことによる摺動損失の増大や被膜の摩耗粉の発生等の問題があり、実機への採用には至っていなかった。

本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、互いに接触摺動する渦巻き状ラップの側面シールを向上し、漏れの低減と摺動損失の低減の両方を同時に満たすことにより、一層の効率向上を図ることができるスクロール圧縮機およびそのスクロールの加工方法を提供することを目的とする。

上記した課題を解決するために、本発明のスクロール圧縮機およびそのスクロールの加工方法は、以下の手段を採用する。
すなわち、本発明にかかるスクロール圧縮機は、端板の一面に渦巻き状ラップが立設された一対の固定スクロールおよび旋回スクロールを噛み合わせることによって構成される圧縮機構を備えたスクロール圧縮機において、互いに接触して摺動する前記固定スクロールの渦巻き状ラップの側面または前記旋回スクロールの渦巻き状ラップの側面のいずれか一方または双方に、多数の微細凹部が設けられ、前記微細凹部は、冷媒ガスと共に圧縮室内に吸い込まれた油を保持するとともに、前記渦巻き状ラップの高さ方向に沿って複数列に千鳥配列されていることを特徴とする。

本発明によれば、圧縮機構を構成している一対の固定スクロールおよび旋回スクロールの互いに接触して摺動する固定スクロールの渦巻き状ラップの側面または旋回スクロールの渦巻き状ラップの側面のいずれか一方または双方に、多数の微細凹部が設けられているため、圧縮運転時、冷媒ガスと共に圧縮室内に吸い込まれた油を、互いに接触摺動する渦巻き状ラップの側面に設けられている多数の微細凹部を介して保持することによって、その油で接触摺動面をシールすることができるとともに、接触による摺動摩擦係数を低減することができる。従って、冷媒ガスの漏れを低減して再圧縮損失を低減することができるとともに、摺動摩擦係数を低下して摺動損失を低減し、スクロール圧縮機の圧縮効率を一段と向上することができる。

さらに、本発明のスクロール圧縮機は、上記のスクロール圧縮機において、前記微細凹部は、前記旋回スクロールが前記固定スクロールの周りを公転旋回駆動される際の摺動方向に沿って長くされたディンプルとされていることを特徴とする。

本発明によれば、微細凹部が、旋回スクロールが固定スクロールの周りを公転旋回駆動される際の摺動方向に沿って長くされたディンプルとされているため、摺動方向に長くされているディンプルで油を保持することによって、旋回スクロールの旋回駆動に伴って移動する接触摺動面をより長くシールし、潤滑することができる。従って、再圧縮損失および摺動損失の低減効果をより向上することができる。

さらに、本発明のスクロール圧縮機は、上述のいずれかのスクロール圧縮機において、前記微細凹部は、前記渦巻き状ラップの高さ方向に沿って複数列に千鳥配列されていることを特徴とする。

本発明によれば、微細凹部が、渦巻き状ラップの高さ方向に沿って複数列に千鳥配列されているため、複数列に千鳥配列されている多数の微細凹部によって、互いに接触して摺動する渦巻き状ラップの側面全域に略均一に油を保持することができる。従って、再圧縮損失および摺動損失の低減効果を更に向上することができる。

さらに、本発明のスクロール圧縮機は、上述のいずれかのスクロール圧縮機において、前記固定スクロールおよび旋回スクロールは、前記渦巻き状ラップの歯先面および歯底面にそれぞれ段部が設けられ、前記渦巻き状ラップの高さが前記段部よりも外周側において高く、内周側において低くされた構成とされており、前記段部の接触摺動面にも前記微細凹部が設けられていることを特徴とする。

本発明によれば、固定スクロールおよび旋回スクロールが、いわゆる段付きスクロールとされており、その段部の接触摺動面にも微細凹部が設けられているため、段部にて形成される接触摺動面に微細凹部を設けて油を保持することにより、段部の接触摺動面をも油でシールすることができる。従って、構造的に冷媒漏れが発生し易いとされる段部での冷媒漏れを効果的に低減し、いわゆる段付きスクロール圧縮機の効率を一層向上することができる。

さらに、本発明のスクロール圧縮機は、上述のいずれかのスクロール圧縮機において、前記スクロール圧縮機が、ＣＯ２冷媒を用いた超臨界サイクルに適用されるＣＯ２冷媒用圧縮機とされていることを特徴とする。

本発明によれば、スクロール圧縮機が、ＣＯ２冷媒を用いた超臨界サイクルに適用されるＣＯ２冷媒用圧縮機とされているため、ＨＦＣ冷媒よりも高圧冷媒であって圧縮時の圧力差が大きくなるＣＯ２冷媒用のスクロール圧縮機に適用しても、上述の如く冷媒漏れを効果的に低減することができる。従って、ＣＯ２冷媒用スクロール圧縮機を一段と高性能化し、それを用いた超臨界サイクルの空調機、冷凍機およびヒートポンプ等のＣＯＰを向上することができる。

さらに、本発明にかかるスクロールの加工方法は、スクロール圧縮機を構成する固定スクロールおよび／または旋回スクロールの渦巻き状ラップの側面に多数の微細凹部を加工するスクロールの加工方法において、前記微細凹部は、冷媒ガスと共に圧縮室内に吸い込まれた油を保持するとともに、前記渦巻き状ラップの高さ方向に沿って複数列に千鳥配列され、前記渦巻き状ラップの側面に対して、外周面に振動しながら転動する多数の転動体を保持したバニシング工具を押し付けて回動させ、加工表面を押し潰すように変形させることにより前記渦巻き状ラップの側面に多数の前記微細凹部を加工することを特徴とする。

本発明によれば、固定スクロールおよび／または旋回スクロールの渦巻き状ラップの側面に対して、外周面に振動しながら転動する多数の転動体を保持したバニシング工具を押し付けて回動させ、加工表面を押し潰すように変形させることにより渦巻き状ラップの側面に多数の微細凹部を加工することができるため、バニシング工具を渦巻き状ラップの側面に押し付けて転動させるだけで、簡易に所望の形状、サイズの多数の微細凹部を規則的に配列加工することができ、そして、その微細凹部を油保持用とすることにより、スクロール圧縮機の冷媒ガス漏れを低減して再圧縮損失を低減することができるとともに、摺動摩擦係数を低下して摺動損失を低減し、圧縮効率の向上を図ることができる。また、この加工は、表面硬度、面粗さ等を向上させる塑性加工の一種であり、該加工によって渦巻き状ラップの耐久性、耐摩耗性等をも向上させることができる。

本発明のスクロール圧縮機によると、圧縮運転時、冷媒ガスと共に圧縮室内に吸い込まれた油を、互いに接触摺動する渦巻き状ラップの側面に設けられている多数の微細凹部を介して保持することにより、その油で接触摺動面をシールすることができるとともに、接触による摺動摩擦係数を低減することができるため、冷媒ガスの漏れを低減して再圧縮損失を低減することができるとともに、摺動摩擦係数を低下して摺動損失を低減し、スクロール圧縮機の圧縮効率を一段と向上することができる。

本発明のスクロールの加工方法によると、バニシング工具を渦巻き状ラップの側面に押し付けて転動させるだけで、簡易に所望の形状、サイズの多数の微細凹部を規則的に配列加工することができるため、その微細凹部を油保持用とすることによって、スクロール圧縮機の冷媒ガス漏れを低減して再圧縮損失を低減することができるとともに、摺動摩擦係数を低下して摺動損失を低減し、圧縮効率の向上を図ることができる。また、このバニシング加工は、表面硬度、面粗さ等を向上させる塑性加工の一種であり、該加工によって渦巻き状ラップの耐久性、耐摩耗性等をも向上させることができる。

本発明の第１実施形態に係るスクロール圧縮機全体の縦断面図である。 図１に示すスクロール圧縮機の固定または旋回スクロールを渦巻き状ラップ側から見た平面図である。 図２に示す固定または旋回スクロールの縦断面図である。 図３に示す固定または旋回スクロールの渦巻き状ラップ側面の部分拡大図（Ａ）とその断面図（Ｂ）である。 本発明の第２実施形態に固定または旋回スクロールの斜視図である。

以下に、本発明にかかる実施形態について、図面を参照して説明する。
［第１実施形態］
以下、本発明の第１実施形態について、図１ないし図４を用いて説明する。
図１には、本発明の第１実施形態に係るスクロール圧縮機全体の縦断面図が示され、図２には、固定または旋回スクロールを渦巻き状ラップ側から見た平面図、図３には、その断面図が示されている。なお、本実施形態では、ＣＯ２冷媒用の密閉型電動スクロール圧縮機の例について説明するが、本発明は、これに限定されるものではない。
スクロール圧縮機１は、上下方向に長い筒状の有底の鋼板製密閉ハウジング２を備えている。この密閉ハウジング２内の上方部位には、スクロール圧縮機構（圧縮機構）３が設置され、その下方部位には、電動モータ４が設置されている。

密閉ハウジング２内は、スクロール圧縮機構３よりも上部側が、スクロール圧縮機構３により圧縮された高圧ガスが吐出される吐出チャンバー５とされ、吐出パイプ６が接続されている。また、スクロール圧縮機構３よりも下部側が、低圧の吸入ガスが吸込まれる吸入チャンバー７とされ、吸入パイプ８が接続されている。吸入チャンバー７側には、固定子９および回転子１０から構成される電動モータ４が、密閉ハウジング２内に圧入等によって設置されており、該電動モータ４の回転子１０に結合されているクランク軸１１が上下方向に延長されている。

クランク軸１１の下端部は、密閉ハウジング２内に設けられている下部軸受１２によって支持されており、その下端部と下部軸受１２との間に設けられている公知の給油ポンプ１３を介して、密閉ハウジング２の底部に充填されている潤滑油１４を、クランク軸１１内に設けられている給油孔（図示省略）を通してスクロール圧縮機構３および上部軸受部材１５の所要潤滑部位に給油し、それらの部位を潤滑可能な構成とされている。

スクロール圧縮機構３は、上部軸受部材１５を介して密閉ハウジング２内に設置されている。該スクロール圧縮機構３は、上部軸受部材１５上に固定設置されている固定スクロール１６と、上部軸受部材１５上に固定スクロール１６の周りに公転旋回可能に支持されている旋回スクロール２０とから構成されており、固定スクロール１６は、固定端板１７とその一面に立設されている固定渦巻き状ラップ１８とを備え、固定端板１７の中心部に吐出ポート１９が設けられた構成とされている。

また、旋回スクロール２０は、旋回端板２１とその一面に立設されている旋回渦巻き状ラップ２２とを備え、旋回端板２１の背面側に旋回ボス部２３が一体に設けられた構成とされている。この固定スクロール１６と旋回スクロール２０は、固定渦巻き状ラップ１８と旋回渦巻き状ラップ２２とが１８０度位相をずらし、公知の如く噛み合わされることによって、両スクロール１６，２０間に一対の圧縮室２４が形成されるようになっている。この一対の圧縮室２４は、旋回スクロール２０が公転旋回されることにより、外周位置から中心部へと容積が減少されながら移動され、圧縮作用をなすように構成されている。

旋回スクロール２０は、旋回端板２１の背面が上部軸受部材１５のスラスト軸受部１５Ａ上に支持され、その旋回ボス部２３にクランク軸１１の上端に設けられているクランクピン部１１Ａが、公知の従動クランク機構を構成するドライブブッシュ２５および旋回ベアリング２６を介して連結されることにより、旋回半径が可変されるように、固定スクロール１６の周りを公転旋回駆動可能な構成とされている。旋回スクロール２０の旋回端板２１の背面と上部軸受部材１５のスラスト軸受部１５Ａとの間には、旋回スクロール２０の自転を阻止するオルダムリング等からなる自転防止手段２７が組み込まれている。

なお、クランク軸１１の上方部は、上部軸受部材１５のジャーナル軸受部１５Ｂに回転自在に支持されている。また、固定スクロール１６の固定端板１７には、その背面側にディスチャージカバー２８が設けられるとともに、吐出ポート１９を開閉するリード弁タイプの吐出弁２９が設けられている。更に、固定スクロール１６の固定端板１７には、中心部に設けられている吐出ポート１９に対して、その外周側の固定渦巻き状ラップ１８の渦巻き方向に沿う異なる旋回角位置の複数箇所に、圧縮室２４と吐出チャンバー５とを連通する複数の孔群からなる複数対のリリーフポート３０と、該ポート３０を開閉するリリーフ弁３１が設けられている。

本実施形態では、さらに、上記のスクロール圧縮機１にあって、図２ないし図４に示されるように、互いに接触して摺動する固定スクロール１６および旋回スクロール２２の渦巻き状ラップ１８，２２の側面、すなわち固定スクロール１６の渦巻き状ラップ１８の腹側側面１８Ａまたは旋回スクロール２０の渦巻き状ラップ２２の背側側面２２Ａのいずれか一方または双方、および固定スクロール１６の渦巻き状ラップ１８の背側側面１８Ｂまたは旋回スクロール２０の渦巻き状ラップ２２の腹側側面２２Ｂのいずれか一方または双方に対して、図４に示すように、多数の微細凹部（ディンプル）３２を設けた構成を採用している。この微細凹部３２は、ラップ高さ方向に沿って規則的に複数列に千鳥配列された構成とされており、その形状は、図４に示す如く、摺動方向（矢印方向）に沿って長くされた略楕円形状とされている。

微細凹部３２は、図２および図３に示されるように、渦巻き状ラップ１８，２２の側面に対して、外周面に振動しながら転動する多数の転動体（ボール）４１を保持しているバニシング工具４０を押し付け、それを回動しながら渦巻き状ラップ１８，２２の側面に沿って転動させることにより加工することができる。本実施例では、ラップ高さを４５ｍｍとした渦巻き状ラップ１８，２２に対して、長さ方向に沿って１２個の転動体４１を配列した転動体列を外周面の周方向に複数列設けたバニシング工具４０を、転動体１個当たり１０ｎｔ程度の押し込み力をかけて転動し、設定深さおよびサイズの微細凹部（ディンプル）３２を加工している。なお、バニシング工具４０としては、特許第４５７５８９９号公報等に示されたものが知られている。

以上に説明の構成により、本実施形態によれば、以下の作用効果を奏する。
上記スクロール圧縮機１において、電動モータ４が駆動されると、吸入パイプ８を介して密閉ハウジング２内に低圧の冷媒ガス（ＣＯ２冷媒）が吸い込まれ、この冷媒ガスが上部軸受部材１５等に設けられている冷媒流路を経てスクロール圧縮機構３の圧縮室２４に吸い込まれる。圧縮室２４に吸い込まれた冷媒ガスは、旋回スクロール２０が固定スクロール１６の周りに公転旋回駆動され、圧縮室２４が外周位置から中心側へと容積を減少しながら移動される間に高温高圧ガスに圧縮される。

この圧縮ガスは、固定スクロール１６の中心部に設けられている吐出ポート１９および吐出弁２９を介して吐出チャンバー５内に吐出され、該吐出チャンバー５に接続されている吐出パイプ６を経て圧縮機外部へと送り出される。この圧縮過程において、運転条件により過圧縮状態となったり、液圧縮により圧縮室２４内の圧力が異常上昇したりする場合がある。この場合、圧縮室２４が吐出ポート１９に連通するまでの途中段階で、リリーフ弁３１が開かれることによってリリーフポート３０が吐出チャンバー５に連通し、高圧のガスまたは液がそのリリーフポート３０を経て吐出チャンバー５内にリリーフされる。

一方、電動モータ４の駆動によってクランク軸１１が回転されると、給油ポンプ１３を介して密閉ハウジング２の底部に充填されている潤滑油１４が、スクロール圧縮機構３および上部軸受部材１５等の所要潤滑箇所に給油され、その部位を潤滑する。この潤滑油の一部が冷媒ガスと共に圧縮室２４内に吸い込まれ、圧縮室２４のシールに供される。圧縮室２４は、渦巻き状ラップ１８，２２の歯先面と相手方スクロールの歯底面とが図示省略のチップシールを介して接触されることによりシールされている。

また、両スクロール１６，２０の渦巻き状ラップ１８，２２の側面、すなわち固定スクロール１６の渦巻き状ラップ１８の腹側側面１８Ａと旋回スクロール２０の渦巻き状ラップ２２の背側側面２２Ａ、および固定スクロール１６の渦巻き状ラップ１８の背側側面１８Ｂと旋回スクロール２０の渦巻き状ラップ２２の腹側側面２２Ｂとが、従動クランク機構を介して圧縮反力や遠心力等により旋回スクロール２０の渦巻き状ラップ２２が固定スクロール１６の渦巻き状ラップ１８に押し付けられ、互いに接触摺動することによってシールされており、圧縮ガスの漏れが抑えられるようになっている。

この際、固定スクロール１６の渦巻き状ラップ１８の腹側側面１８Ａまたは旋回スクロール２０の渦巻き状ラップ２２の背側側面２２Ａのいずれか一方または双方、および固定スクロール１６の渦巻き状ラップ１８の背側側面１８Ｂまたは旋回スクロール２０の渦巻き状ラップ２２の腹側側面２２Ｂのいずれか一方または双方に、それぞれ多数の微細凹部３２が設けられているため、上記の如く、冷媒ガスと共に圧縮室２４内に吸い込まれた潤滑油１４を、互いに接触摺動する渦巻き状ラップ１８，２２の腹側側面１８Ａ，２２Ｂおよび／または背側側面１８Ｂ，２２Ａに設けられている多数の微細凹部３２を介して保持することにより、その油１４で互いの接触摺動面をシールし、同時に接触による摺動摩擦係数を低減することができる。

斯くして、本実施形態によると、冷媒ガスの圧縮時の内部漏れを低減して再圧縮損失を低減することができるとともに、摺動摩擦係数を低下して摺動損失を低減し、スクロール圧縮機１の圧縮効率を一段と向上することができる。

また、微細凹部３２が、旋回スクロール２０が固定スクロール１６の周りを公転旋回駆動される際の摺動方向に沿って長くされたディンプルとされている。このように、摺動方向に長くされているディンプルで油を保持することにより、旋回スクロール２０の旋回駆動に伴って移動する渦巻き状ラップ１８，２２の接触摺動面をより長くシールし、潤滑することができる。このため、再圧縮損失および摺動損失の低減効果をより向上することができる。

さらに、微細凹部３２が、渦巻き状ラップ１８，２２の高さ方向に沿って複数列に千鳥配列されている。この複数列に千鳥配列されている多数の微細凹部３２によって、互いに接触して摺動する渦巻き状ラップ１８，２２の腹側側面１８Ａおよび背側側面２２Ａの全域に略均一に油を保持することができる。その結果、再圧縮損失および摺動損失の低減効果を更に向上することができる。

また、ＣＯ２冷媒を用いた超臨界サイクル用のスクロール圧縮機は、ＣＯ２冷媒がＨＦＣ冷媒よりも高圧冷媒であって圧縮時の圧力差が大きくなることから、冷媒漏れが発生し易くなるが、このようなＣＯ２冷媒用圧縮機に適用しても、上記の如く冷媒漏れを効果的に低減することができるため、ＣＯ２冷媒用スクロール圧縮機を一段と高性能化し、それを用いた超臨界サイクルの空調機、冷凍機およびヒートポンプ等のＣＯＰを向上することができる。

さらに、上記固定スクロール１６および／または旋回スクロール２０の渦巻き状ラップ１８，２２の側面に設けられる多数の微細凹部３２を、外周面に振動しながら転動する多数の転動体４１を保持したバニシング工具４０を押し付けながら回動させ、加工表面を押し潰すように変形させることにより渦巻き状ラップ１８，２２の腹側側面１８Ａ，２２Ｂおよび／または背側側面１８Ｂ，２２Ａに加工することができる。このため、バニシング工具４０を渦巻き状ラップ１８，２２の側面に押し付けて転動させるだけで、簡易に所望の形状、サイズの多数の微細凹部３２を規則的に配列加工することができる。

そして、その微細凹部３２を上記の如く油保持用とすることにより、スクロール圧縮機１の冷媒ガス漏れを低減して再圧縮損失を低減することができるとともに、摺動摩擦係数を低下して摺動損失を低減し、圧縮効率の向上を図ることができる。また、このバニシング加工は、表面硬度、面粗さ等を向上させる塑性加工の一種であり、該加工によって渦巻き状ラップの耐久性、耐摩耗性等をも向上させることができる。

［第２実施形態］
次に、本発明の第２実施形態について、図５を用いて説明する。
本実施形態は、上記した第１実施形態に対して、固定スクロール１６および旋回スクロール２０を段付きスクロールとしている点が異なる。その他の点については、第１実施形態と同様であるので説明は省略する。
本実施形態では、図５に示されるように、固定スクロール１６および旋回スクロール２０の渦巻き状ラップ１８，２２の渦巻き方向における任意の位置において、その歯先面および歯底面にそれぞれ段部３３，３４を設け、該段部３３，３４よりも外周側のラップ高さを内周側のラップ高さよりも高くした構成としている。

上記段部３３，３４を備えた段付きスクロール圧縮機では、冷媒を周方向に圧縮するだけでなく、ラップ高さ方向にも圧縮できることから、三次元圧縮が可能であり、通常のスクロール圧縮機に比べ圧縮比を高くできるため、小型高性能化することができるが、構造的に段部において冷媒漏れが発生し易い。本実施形態では、第１実施形態の如く、渦巻き状ラップ１８，２２の腹側側面１８Ａ，２２Ｂおよび／または背側側面１８Ｂ，２２Ａに微細凹部３２を設けるだけでなく、段部３３，３４における接触摺動面にも、図４に示す如く微細凹部３２を設けた構成としたものである。

このように、固定スクロール１６および旋回スクロール２０が、いわゆる段付きスクロールとされている段付きスクロール圧縮機にあって、渦巻き状ラップ１８，２２の腹側側面１８Ａ，２２Ｂおよび／または背側側面１８Ｂ，２２Ａだけでなく、各段部３３，３４の接触摺動面にも微細凹部３２を設け、その微細凹部３２により油を保持することによって、段部３３，３４の接触摺動面をも油でシールすることができる。従って、構造的に冷媒漏れが発生し易いとされる段部３３，３４での冷媒漏れを効果的に低減し、いわゆる段付きスクロール圧縮機の効率を一層向上することができる。

なお、本発明は、上記実施形態にかかる発明に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において、適宜変形が可能である。例えば、上記実施形態では、密閉型電動スクロール圧縮機に適用した例について説明したが、動力源が外部に設けられている開放型のスクロール圧縮機にも同様に適用できることはもちろんである。また、上記実施形態では、ＣＯ２冷媒用のスクロール圧縮機について説明したが、ＨＦＣ冷媒等、他の冷媒用圧縮機に適用してもよいことは云うまでもない。更に、多段圧縮機等にも適用でき、その場合、複数の圧縮機構の中の１つがスクロール圧縮機構であるものであれば、本発明に包含されるものとする。

１ スクロール圧縮機
３ スクロール圧縮機構（圧縮機構）
１６ 固定スクロール
１７ 固定端板
１８ 固定渦巻き状ラップ
１８Ａ 固定渦巻き状ラップの腹側側面
１８Ｂ 固定渦巻き状ラップの背側側面
２０ 旋回スクロール
２１ 旋回端板
２２ 旋回渦巻き状ラップ
２２Ａ 回渦巻き状ラップの背側側面
２２Ｂ 回渦巻き状ラップの腹側側面
３２ 微細凹部（ディンプル）
３３，３４ 段部
４０ バニシング工具
４１ 転動体（ボール）

Claims (5)

1. 端板の一面に渦巻き状ラップが立設された一対の固定スクロールおよび旋回スクロールを噛み合わせることによって構成される圧縮機構を備えたスクロール圧縮機において、
   互いに接触して摺動する前記固定スクロールの渦巻き状ラップの側面または前記旋回スクロールの渦巻き状ラップの側面のいずれか一方または双方に、多数の微細凹部が設けられ、
   前記微細凹部は、冷媒ガスと共に圧縮室内に吸い込まれた油を保持するとともに、前記渦巻き状ラップの高さ方向に沿って複数列に千鳥配列されていることを特徴とするスクロール圧縮機。
2. 前記微細凹部は、前記旋回スクロールが前記固定スクロールの周りを公転旋回駆動される際の摺動方向に沿って長くされたディンプルとされていることを特徴とする請求項１に記載のスクロール圧縮機。
3. 前記固定スクロールおよび旋回スクロールは、前記渦巻き状ラップの歯先面および歯底面にそれぞれ段部が設けられ、前記渦巻き状ラップの高さが前記段部よりも外周側において高く、内周側において低くされた構成とされており、
   前記段部の接触摺動面にも前記微細凹部が設けられていることを特徴とする請求項１又は２に記載のスクロール圧縮機。
4. 前記スクロール圧縮機が、ＣＯ２冷媒を用いた超臨界サイクルに適用されるＣＯ２冷媒用圧縮機とされていることを特徴とする請求項１ないし３のいずれかに記載のスクロール圧縮機。
5. スクロール圧縮機を構成する固定スクロールおよび／または旋回スクロールの渦巻き状ラップの側面に多数の微細凹部を加工するスクロールの加工方法において、
   前記微細凹部は、冷媒ガスと共に圧縮室内に吸い込まれた油を保持するとともに、前記渦巻き状ラップの高さ方向に沿って複数列に千鳥配列され、
   前記渦巻き状ラップの側面に対して、外周面に振動しながら転動する多数の転動体を保持したバニシング工具を押し付けて回動させ、加工表面を押し潰すように変形させることにより前記渦巻き状ラップの側面に多数の前記微細凹部を加工することを特徴とするスクロールの加工方法。

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