JP6213959B2 - 質量分析装置 - Google Patents

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本発明は、質量分析を行う質量分析装置に関し、特に、四重極質量分析計を有する質量分析装置に関する。
質量分析を行う質量分析装置において、真空中で試料を赤外線等で加熱して、試料から脱離したガスを検出して質量分析を行う昇温脱離分析装置に関し、下記の特許文献1に記載の技術が従来公知である。
特許文献1としての特開2000−346829号公報には、分析計として四重極質量分析計を使用した昇温脱離分析装置において、質量分析計の感度の個体差を無くすために、検出感度の補正情報として、脱離ガスの質量の2次関数を使用して、検出感度の補正を行う技術が記載されている。特許文献1に記載の技術では、工場出荷の際や修理保守を行う際に、較正用試料を用いて測定を行っている。
特開2000−346829号公報(「0011」、「0015」、「0016」、図6) 特開2012−154720号公報
Noreen R. Reagan、他2名,"Mass-dependent effects of channelelectron multipliers in residual gas analyzers", J. Vac. Sci. Technol. A, Vol.5, No.4, 2389-2392(1987) 酒井 正,"最近のマスフィルタとその応用"、「真空」誌、日本真空学会、1974年、第17巻、第3号、p71−p80 吉田 肇,"分圧真空標準に関する調査研究"、産総研計量標準報告、2006年5月、Vol.5, No.1、p67-p80 Karl Jousten, "Handbook of Vacuum Technology", Wiley-VCH, 2008年, p647 広畑 優子,"TDS法による微小片試料のガス放出評価法"、「真空」誌、日本真空学会、1990年、第33巻、第5号、p488−p495
特許文献1に記載されている四重極質量分析計を使用して行われる昇温脱離分析では、高真空に真空排気しながら試料を加熱し、発生するガス(脱離したガス)の一部が質量分析計に導入され、計測される。脱離した中性ガス種は電子衝撃などの手法によりイオン化された後、加速され、四重極マスフィルタ内に入る。四重極マスフィルタは、四重極電極の二対の対向電極に正負の直流電圧と高周波電圧の重畳したものを印加する。その電圧に応じて、特定の質量電荷比すなわちm/zを有する狭い範囲のイオンのみが、或る所定の時間内に通過することを可能にする。マスフィルタを出て行くイオン電流は、ファラデーカップもしくはより高感度には二次電子増倍管やチャネルトロンのような検出器により検出される。脱離した種々のガス種は、ガス種毎に異なる特定のm/z値に相当するイオン電流値として計測される。
しかしながら、四重極質量分析計では、特許文献1に記載されているように、質量電荷比に対して感度が一様ではなく、得られるイオン電流強度が種類の異なるガス種間で単純に比較できない。イオン化効率がガス種毎に異なっていたり、マスフィルタの透過率が質量電荷比によって異なっていることが主な原因になっている。
それらに加えて、二次電子増倍管やチャネルトロンの検出器は感度が質量電荷比の1/2乗に比例する事が非特許文献1などに報告されている。更には、四重極電極両端での電界の乱れなどの影響も加わり、感度の質量電荷比に対する依存性はより複雑なものになることが非特許文献2などにも報告されている。
また、この質量電荷比依存性は、四重極電極の組立精度に依存したり、質量分解能の微調整によって変化することから、四重極マスフィルタ毎に個体差があることが知られている。このため、異なる装置間のデータの互換性が得られなかったり、質量分析計の交換に伴いデータの連続性が得られないという問題点もある。
更に、非特許文献3で報告されているように、四重極質量分析計の検出器として用いられるファラデーカップは安定性が悪く感度が日常的に変動し、二次電子増倍管やチャネルトロンも日常的な変動に加えて長期的に劣化していくという問題も知られている。
以上のように、従来の四重極質量分析計では感度の質量電荷比に対する依存性が一様でないために、定量的な評価を行うためには対象とするガス種毎に感度の校正を行う必要があった。このような校正は、長時間を要するだけでなく、日常的な変動や劣化という前記理由から、特許文献1に記載の技術のような頻度では足りず、頻繁に行う必要があり、利用者にとって非常に不便であった。
また、本発明者らの研究の結果、特許文献1に記載の2次関数を使用した検出感度の補正では、感度の補正精度が極めて悪いことがわかり、分析の精度が低いことが確認された。
本発明は、感度の質量電荷比に対する依存性を補正するための簡便且つ高精度な方法を提供することを技術的課題とする。
前記技術的課題を解決するために、請求項1に記載の発明の質量分析装置は、
内部が真空状態に排気される真空室と、
前記真空室に配置された試料を昇温させる昇温装置と、
昇温された前記試料から脱離したガスの質量分析を行う四重極質量分析計と、
前記四重極質量分析計で検出されるイオン電流強度と真空度との比の、質量電荷比に対する依存性であって、前記質量電荷比の累乗関数により構成された前記依存性を記憶する記憶手段と、
前記四重極質量分析計で測定された測定値を、前記依存性に基づいて補正する補正手段と、
前記依存性の校正が行われる時期になった場合に、予め設定されたガス種における前記四重極質量分析計で測定された測定値に基づいて、前記依存性を校正する依存性の校正手段と、
を備えたことを特徴とする。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の質量分析装置において、
水素を含む3種類以上の異なるガス種により構成された前記予め設定されたガス種を使用して、前記依存性の校正を行う前記依存性の校正手段、
を備えたことを特徴とする。
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の質量分析装置において、
水素、ネオンおよびアルゴンにより構成された前記予め設定されたガス種、
を備えたことを特徴とする。
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の質量分析装置において、
予め設定された量の水素、ネオンおよびアルゴンがシリコンにイオン注入された試料を使用して、前記水素、ネオンおよびアルゴンの脱離する量に基づいて、前記依存性の校正を行う前記依存性の校正手段、
を備えたことを特徴とする。
請求項5に記載の発明は、請求項1ないし4のいずれかに記載の質量分析装置において、
前記累乗関数のグラフにおいて、前記累乗関数が描く曲線が、水素ガスに対するイオン電流強度と真空度との比の質量電荷比の値を通過するように、前記依存性を校正する前記依存性の校正手段、
を備えたことを特徴とする。
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の質量分析装置において、
水素ガスに対するイオン電流強度の流量感度を校正する手段、
を備えたことを特徴とする。
請求項7に記載の発明は、請求項1ないし6のいずれかに記載の質量分析装置において、
イオン化効率と排気速度とイオン透過率とが既知の複数のガス種に基づいて、前記依存性の校正を行う前記依存性の校正手段、
を備えたことを特徴とする。
請求項8に記載の発明は、請求項1ないし7のいずれかに記載の質量分析装置において、
前記測定値に加え、フラグメントイオンに基づくフラグメンテーション係数に応じて、前記依存性の校正を行う前記依存性の校正手段、
を備えたことを特徴とする。
請求項1に記載の発明によれば、感度の質量電荷比に対する依存性を補正するための簡便且つ高精度な方法を提供することができる。
請求項2に記載の発明によれば、水素を含む3種類以上のガス種を使用して、累乗関数を導出することができる。
請求項3に記載の発明によれば、水素、ネオン、アルゴンを使用して累乗関数を導出することができる。
請求項4に記載の発明によれば、総脱離量を演算することができ、ガスを微量導入する装置を使用しなくても、依存性を校正することができる。
請求項5に記載の発明によれば、水素の定量測定を行う際の精度を向上させることができる。
請求項6に記載の発明によれば、検出器の感度の劣化や変動の影響を抑えて、脱離ガスの定量測定を行うことができる。
請求項7に記載の発明によれば、イオン化効率等が未知のガス種を使用する場合に比べて、簡便に依存性の校正を行うことができる。
請求項8に記載の発明によれば、フラグメンテーション係数を使用しない場合に比べて、分析の精度を向上させることができる。
図1は実施例1の昇温脱離分析装置の全体説明図である。 図2は実施例1のコンピュータ本体の機能を示す機能ブロック図である。 図3は実施例1の補正関数の一例の説明図である。 図4は実施例1の昇温脱離分析装置における制御処理のフローチャートである。 図5は実験例の実験結果の説明図であり、図5Aは各ガス種における真空度の流量に対する感度の一覧表、図5Bは各ガス種におけるイオン電流強度の流量に対する感度の一覧表である。 図6は実験例の質量電荷比に対する依存性の説明図であり、図6Aは縦軸にイオン電流強度に対する真空度の比を取り且つ横軸に質量電荷比を取ったグラフ、図6Bは縦軸にイオン電流強度に対する真空度の比の水素のそれに対する比を取り且つ横軸に質量電荷比を取ったグラフである。 図7は、補正関数の説明図であり、横軸に質量電荷比(質量数)を取り、縦軸にG2/Gmを取ったグラフである。
次に図面を参照しながら、本発明の実施の形態の具体例(以下、実施例と記載する)を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
なお、以下の図面を使用した説明において、理解の容易のために説明に必要な部材以外の図示は適宜省略されている。
図1は実施例1の昇温脱離分析装置の全体説明図である。
図1において、実施例1の質量分析装置の一例としての昇温脱離分析装置(TDS:Thermal Desorption Spectrometer)1は、真空室2を有する。真空室2の内部には、試料ステージ3が設置されている。試料ステージ3の上面には、試料Sを保持可能に構成されている。試料ステージ3上の試料Sには、試料加熱部の一例としての赤外光源4から赤外光が照射可能に構成されている。
真空室2には、排気系6が接続されている。排気系6の下流端には、排気装置の一例としてのターボ分子ポンプ(TMP:Turbo molecular pump)7と、ロータリポンプ(RP:Rotary Pump)8とが直列に接続されている。したがって、実施例1の昇温脱離分析装置1は、各ポンプ7,8により、真空室2は、高真空状態に排気可能に構成されている。
排気系6には、ターボ分子ポンプ7よりも上流側に、測定部の一例としての質量分析計11が接続されている。実施例1の質量分析計11は、四重極質量分析計、いわゆるQMS(quadrupole mass spectrometer)により構成されている。
また、排気系6には、圧力計(真空計)の一例としてのイオンゲージ12が設置されている。
前記質量分析計11には、情報処理装置の一例としてのパーソナルコンピュータ13が電気的に接続されている。パーソナルコンピュータ13は、コンピュータ本体13aと、表示部の一例としてのディスプレイ13bと、入力部の一例としてのキーボード13cおよびマウス13dと、を有する。コンピュータ本体13aは、外部との信号の入出力、および、入出力信号レベルの調節等を行うI/O、必要な処理を実行するためのプログラムおよびデータ等が記憶されたROMやハードディスク等の記憶装置、必要なデータを一時的に記憶するためのRAM、前記ROMやRAMに記憶されたプログラムに応じた処理を行うCPU、ならびにクロック発振器等を有する。コンピュータ本体13aは、記憶装置に記憶されたプログラムをRAM上に移して実行することにより種々の機能を実現することができる。
図2は実施例1のコンピュータ本体の機能を示す機能ブロック図である。
図2において、実施例1のコンピュータ本体13aには、キーボード13cやマウス13d、質量分析計11やイオンゲージ12等の信号出力要素から、出力信号が入力されている。
また、実施例1のコンピュータ本体13aは、被制御要素の一例としてのディスプレイ13b等へ制御信号を出力している。
(コンピュータ本体13aの機能)
コンピュータ本体13aは、信号出力要素からの入力信号に応じた処理を実行して、前記各制御要素に制御信号を出力する機能を有している。すなわち、コンピュータ本体13aは次の機能を有している。
21:測定値の取得手段
測定値の取得手段21は、質量分析計11およびイオンゲージ12で測定された測定値を取得する。
図3は実施例1の補正関数の一例の説明図である。
22:補正関数の記憶手段
補正関数の記憶手段22は、或るガス種iに対するQMS11で検出される基準ピークの質量電荷比をM m/zとし、そのイオン電流強度IMとそのガス種に対する圧力Pとの比、すなわち、圧力に対するイオン電流の感度(IM/P)の、種々のガス種に対する比の質量電荷比(m/z)に対する依存性の一例としての補正関数であって、質量電荷比(m/z)の累乗関数により構成された補正関数を記憶する。実施例1の補正関数の記憶手段22は、補正関数fとして、図3に示すように、係数をC2とし、べき数をx2とし、質量電荷比をM=m/zとおいた場合に、補正関数f(M)=C2×M-x2を記憶する。
23:測定値の補正手段
測定値の補正手段23は、質量分析計11で測定された測定値を、補正関数の記憶手段22に記憶された補正関数に基づいて補正する。実施例1の測定値の補正手段23は、測定値の取得手段21で取得した測定値であるイオン電流強度IMについて、ガス種i毎に補正された脱離速度Qiを演算する。実施例1では、具体的には、測定値であるイオン強度IMから、以下の式(1)を使用して、ガス種毎に補正された脱離速度Qiを演算する。
Qi=(IM/Ei)(QH2/(I2/EH2))(Si/SH2)/f(M)
= (IM/Ei)(QH2/(I2/EH2))(Si/SH2)/(C2M-x 2) …式(1)
ここで、SiとEiは、ガス種iの排気速度とイオン化効率であり、QH2、I2、SH2、EH2は、質量数2の水素(H2)の脱離速度、イオン電流強度、排気速度、イオン化効率である。なお、QH2/I2は、後述する測定値の校正手段25で導出され、SiおよびSH2は、排気装置の開口面積や排気性能、実験等から予め設定されている。
したがって、例えば、水(H20)の脱離速度QH2Oは、QMS11で検出されるその基準ピークの質量電荷比M-=18m/zのイオン電流強度I18とイオン化効率EH2Oから、以下の式(1′)で導出される。
QH2O= (I18/EH2O)(QH2/(I2/EH2))(SH2O/SH2)/f(M)
= (I18/EH2O)(QH2/(I2/EH2))(SH2O/SH2)/(C2M-x 2) …式(1′)
24:表示手段
表示手段24は、質量分析の結果をディスプレイ13bに表示する。実施例1の表示手段24は、測定値の補正手段23で導出された脱離速度Qiを、質量分析結果として表示する。なお、実施例1の表示手段24は、脱離速度Qiに加え、測定値であるイオン電流強度IMや、イオンゲージ12で測定された測定値P等も表示する。
25:測定値の校正手段(検出器の校正手段)
測定値の校正手段25は、既知の脱離(リーク)速度QH2の水素ガスを導入したときに、質量分析計11で測定された質量数2m/zのイオン電流強度I2との比である水素に対する質量分析計11の流量感度の逆数QH2/I2を演算し、記憶する。具体的には、実施例1の測定値の校正手段25では、予め設定された校正時期の一例として、毎朝のTDS1の起動時に、TDS1に接続された図示しない水素ガスを導入する市販の装置により、予め設定された単位時間当たりの流量QH2の水素ガスを導入しながら、水素(質量数2m/z)のイオン電流強度I2を測定して、QH2/I2を演算し、記憶する。なお、記憶されたQH2/I2は、式(1′)の演算において使用される。
よって、TDS1では、TDS1の起動時に演算されたQH2/I2を使用して、式(1′)で測定値の補正が行われる。すなわち、QH2/I2は、TDS1の起動時に毎回校正されることに相当しており、検出器の日常的な変動や劣化すなわち同一のQH2に対するI2の変化が校正される。
なお、校正時期は、実施例1では、一例として、毎日の昇温脱離分析装置1の起動時が設定されているが、週に一度等、任意の時期に変更可能であるが、校正の頻度は高い方が望ましい。また、既知の脱離速度の水素ガスの導入方法として、水素ガスを導入する装置を接続する方法に限定されず、既知の量の水素ガスが注入された校正用の試料を使用することも可能である。
26:補正関数の最適化手段
依存性の校正手段の一例としての補正関数の最適化手段26は、依存性の一例としての補正関数の最適化が行われる時期になった場合に、予め設定された補正用のガス種におけるQMS11で測定された測定値に基づいて、補正関数fの最適化をして、更新する。実施例1の補正関数の最適化手段26は、キーボード13cまたはマウス13dから、依存性の補正を行う入力がされた場合に、補正関数の最適化(依存性の更新)が行われる時期になったと判別する。なお、依存性の補正が行われる時期は、一例として、昇温脱離分析装置1の出荷時や、分解能の調整後等が挙げられるが、これらに限定されない。例えば、ユーザーの入力に応じた時期だけでなく、予め設定されたスケジュールに応じて補正関数の最適化を行う構成とすることも可能である。
また、実施例1の補正関数の最適化手段26は、水素を含む3種類以上のガス種を使用して依存性の一例としての補正関数fの最適化を行う。実施例1では、一例として、水素(H2)、ネオン(Ne)、アルゴン(Ar)の3種類を使用する。具体的には、予め設定された量の水素、ネオンおよびアルゴンがシリコンにイオン注入された補正用の試料S′を使用して、水素、ネオンおよびアルゴンの脱離する量に基づいて補正関数の最適化を行う。そして、実施例1では、水素、ネオン、アルゴンの3種の測定値に基づいて、補正関数fの係数C2とべき数x2を、最小二乗法により導出する。なお、このとき、実施例1では、横軸を質量電荷比とし、縦軸をイオン電流強度と圧力との比とした補正関数fのグラフにおいて、補正関数fが描く曲線が、水素の値を通過するように、補正関数fの係数C2とべき数x2の最適化を二乗誤差が最小となるように行う。そして、導出された補正関数fが、補正関数の記憶手段22に記憶されて、更新される。
(実施例1の流れ図の説明)
図4は実施例1の昇温脱離分析装置における制御処理のフローチャートである。
次に、本発明の実施例1の昇温脱離分析装置1の各処理の流れを流れ図、いわゆる、フローチャートを使用して説明する。
図4のフローチャートの各ST:ステップの処理は、コンピュータ本体13aの記憶装置等に記憶されたプログラムに従って行われる。また、この処理はパーソナルコンピュータ13の他の各種処理と並行してマルチタスクで実行される。
図4に示すフローチャートは電源オンにより開始される。
図4のST1において、分析開始の入力がされたか否かを判別する。イエス(Y)の場合はST2に進み、ノー(N)の場合はST5に進む。
ST2において、測定値IMを取得する。そして、ST3に進む。
ST3において、補正関数fを使用して、測定値IMを補正する。具体的には、式(1)に基づいて補正を行う。そして、ST4に進む。
ST4において、補正されたデータQiをディスプレイ13bに表示する。そして、ST1に戻る。
ST5において、依存性の更新を開始する時期になったか否かを判別する。具体的には、補正関数の最適化を開始する入力がされたか否かを判別する。イエス(Y)の場合はST6に進み、ノー(N)の場合はST1に戻る。
ST6において、水素、ネオン、アルゴンのQMS11で検出される基準ピークの質量電荷比に相当するイオン電流強度I2,I20,I40および圧力PH2,PNe,PArの測定値を取得する。ここで、便宜上PH2=P2、PNe=P20、PAr=P40と表す。そして、ST7に進む。
ST7において、(IM/P)/(I2/P2)=C2×M-x2を満たすC2,x2を最小二乗法で導出する。そして、ST8に進む。
ST8において、導出されたC2,x2に補正関数fを更新する。そして、ST1に戻る。
(実施例1の作用)
前記構成を備えた実施例1の昇温脱離分析装置1では、質量分析が行われる場合、ステージ3にセットされた試料Sが加熱される。加熱された試料Sから脱離したガスは、QMS11でイオン強度IMが測定される。また、このとき、イオンゲージ12で圧力Pが測定される。そして、補正関数fが使用されて、イオン強度IMが補正され、感度に対する補正がされたデータとしての脱離速度Qiが分析結果として表示される。
従来の昇温脱離分析装置では、QMSの検出器として使用されるファラデーカップの安定性が悪く感度が日常的に変動したり、二次電子増倍管等の日常的な変動や長期的な劣化、個体差のため、イオン電流強度IMの測定結果が変動する問題があった。すなわち、例えば、別の日に同じ試料を測定したり、異なる装置で同じ試料を測定しても、イオン電流強度IMの測定結果が異なるといった感度の問題があった。これに対して、実施例1では、測定されたイオン電流強度IMに基づいて、補正関数f(M)を使用して、感度に対する補正がされた脱離速度Qiが導出される。更に、検出器の感度の変動があっても、水素に対する感度を前記QH2/I2により校正するだけで、水素以外の多くのガスに対して精度の高い測定が可能である。
また、実施例1では、質量電荷比(M)に対する補正関数f(M)を使用しており、ガス種毎に補正値を実験等で導出したり、所定の頻度でガス種毎の補正値を校正したりする必要がない。よって、ガス種毎に補正値を導出、校正して記憶しておく場合に比べて、補正の処理が簡便に行われる。また、実施例1では、補正関数f(M)により、実験が行われていないガスの感度を近似的に補正することができ、定量的な評価や分圧の測定が簡便に可能になる。また、異なる質量分析計毎に同一ガス種に対する感度の校正を行う事なく、質量分析計の個体差に依らない互換性の高い定量値が得られる。
また、補正関数f(M)は、キーボード13c等の入力に応じて、最適化が開始される。そして、補正は、水素、ネオン、アルゴンの3種の測定値に基づいて、補正関数fの最適化が行われる。したがって、多数のガス種毎に測定を行う場合に比べて、3種類のガスのみで補正が可能であり、補正が簡便である。
さらに、現在の分析技術では、昇温脱離分析は、水素脆性に関与する水素の検査等、水素の定量分析を行う方法として最も広く採用され、他の分析方法に比べて精度が高い。ここで、実施例1では、補正関数f(M)は、補正関数が水素の値を通過する。すなわち、補正関数f(M)は、補正用の試料S′における測定値に対する誤差が無くなるように補正される。一般に、3種類の脱離ガスに対して、補正関数f(M)を一般的な最小二乗法で導出した場合には、水素について、測定値と、補正関数f(M)とがずれる。これに対して、実施例1の補正関数f(M)は、水素の値を通過するため、水素の分析を行う際には、補正時の誤差を抑えることができる。したがって、昇温脱離分析における水素の定量分析の精度を維持できると共に、水素以外の脱離ガスについて、2次関数で補正を行う場合に比べて、定量分析の精度を向上させることができる。
(実験例および原理的な検討)
次に、実施例1の昇温脱離分析装置1の効果を確認するための実験および原理について説明する。
この実験では、特許文献2に記載の基準微小ガス流量導入装置を用いて、その一実施例に従って、H2(2m/z)、He(4m/z)、H2O(18m/z)、Ne(20m/z)、CO(28m/z)、N2(28m/z)、Ar(40m/z)、CO2(44m/z)の8種類の純ガスを昇温脱離分析装置1に1種類づつ導入し、それぞれのガスに対するイオンゲージ12により計測された圧力Pと質量分析計11の基準ピークの質量電荷比のイオン電流強度IMが一定値になる定常状態において、それぞれのガスに対する圧力とイオン電流強度の流量に対する感度P/Q、IM/Qを求めた。ここで、Qは導入したガス流量である。Qを10-7-10-5Pam3/s程度に渡って5-6水準の微小ガス流量を流した。また、前記()内はそれぞれのガスの基準ピークの質量電荷比である。尚、以下、1価のイオンを仮定し、質量電荷比m/zはそのイオンの質量数m(=M)として記述した。
図5は実験例の実験結果の説明図であり、図5Aは各ガス種における圧力の流量に対する感度の一覧表、図5Bは各ガス種におけるイオン電流強度の流量に対する感度の一覧表である。
この領域でそれぞれ良い線形応答性を示し、P/Q(図5A参照)とIm/Q(図5B参照)はほぼ一定の値を示した。それらの平均値として各ガス種に対する流量感度を算出した。その結果をそれぞれ図5に示す。図5では、参考のため、それぞれN2に対する相対感度も表に纏めてある。
なお、イオンゲージはB-A型、質量分析計は70eVの電子線照射のクロスビーム型イオン源とチャネルトロン検出器を用いたものを使用した。尚、図1の昇温脱離分析装置は排気速度0.34m3/sのターボ分子ポンプを使用した。
図6は実験例の質量電荷比に対する依存性の説明図であり、図6Aは縦軸にイオン電流強度に対する圧力の比を取り且つ横軸に質量電荷比を取ったグラフ、図6Bは縦軸にイオン電流強度に対する圧力の比の水素のそれに対する比を取り且つ横軸に質量電荷比を取ったグラフである。
図6Aには、それぞれのガスについて、(Im/Q)/(P/Q)を基準ピークの質量電荷比m/z(質量数m)に関してプロットした結果を示す。ここで、非特許文献1によれば、ガス種iの分圧Piはイオン電流Iiに比例し、Pi=Ii/(EiTiGiSB 0)で与えられる。EiとTiはそれぞれN2に対する相対イオン化効率と四重極マスフィルタの透過率である。また、Giは検出器のファラデーカップに対する増倍率、SB 0はファラデーカップの感度である。分圧をN2換算圧力で評価すると、Pi=P/Eiになることから、P=Ii/(TiGiSB 0)と記述できる。イオン電流Iiをガス種iの基準ピークの質量電荷比m/z(質量数m)のイオン電流Imとすると、図6Aの縦軸、(Im/Q)/(P/Q)=Im/P、は圧力に対する感度(圧力感度)として以下の式(2)のように、イオン化効率を含まず、透過率と検出器の検出効率との積で記述される。
(Im/Q)/(P/Q)=Im/P=TmGmSB 0=C1m-x 1 …式(2)
なお、図6Aには、質量電荷比の累乗関数を用いて最小二乗近似した結果を実線で示すが、全ての測定データと良く一致することから、式(2)は更に質量電荷比の累乗関数で近似できる。式(2)において、比例定数C1と質量電荷比(質量数m)のべき乗値x1の最適値を求めておけば、定常状態での真空排気速度をS m3/sとすると、Q=PiSであるから、次の式(3)が得られる。
Q=S(Im/Ei)/(TmGmSB 0)= S(Im/Ei)/(C1m-x 1) …式(3)
或いは、分圧Piも次の式(4)から求められる。
Pi=(Im/Ei)/(TmGmSB 0)= (Im/Ei)/(C1m-x 1) …(4)
四重極質量分析計の上記圧力感度Im/Pは、ガス種毎に異なるイオン化効率を含まず、単純にマスフィルタの透過率と検出器の検出効率に比例する。非特許文献4に依れば、Tm=28/mの依存性を持つ。また、二次電子増倍管もしくはチャネルトロンを検出器に用いると、その効率はm1/2に比例することが非特許文献1で報告されている。従って、TmGmSB 0∝m-1/2になることが期待されるが、前述したように四重極電極端の電界の乱れなどの影響を受け、この値とは異なるべき乗値で近似できる。また、この累乗関数で表される補正関数は、質量分析計毎に比例定数C1と質量電荷比(質量数m)のべき乗値x1は異なるが、チャネルトロンに印加する電圧を変えて検出器の増幅率を変えても、検出器の感度の変動や劣化などによっても殆ど変わらない。したがって、一旦、近似補正関数を求めておけば、 式(3)に従って、異なるガスのリーク流量(昇温脱離測定では脱離速度)を定量的に求めることが可能になる。また、式(4)に従って、残留ガスなどの分圧換算を行うことができる。
図1に示した昇温脱離分析装置の検出器として図6Aに示した感度特性を持った質量分析計11を使用した場合、非特許文献5によると、ガスの脱離速度Qより排気速度Sが圧倒的に大きな昇温脱離分析では、Q=PiSとなることから、ガスの脱離速度Qに対して式(3)と同様な以下の式(5)が成り立つ。
Q=S(Im/Ei)/(TmGmSB 0) …式(5)
ここで、実験例では、H2、Ne、Arの3つのガスに対する感度特性から圧力感度の質量電荷比に対する依存性を補正する近似式(補正関数f(M))を予め作成しておく。また、質量分析計11の感度自体の変動や劣化を校正するため、前記基準微小ガス流量導入装置などにより1種類のガスについて感度係数を評価する。例えば、H2ガスについて微小流量を流し校正すると以下の式(6)が得られる。
QH2=SH2(I2/EH2)/(T2G2SB 0) …式(6)
H2ガスについて校正を行った場合には、圧力感度の質量電荷比依存性は、H2に対する相対感度として、図6Bに示すように補正係数を求めておく。図6Bには、図6Aに示した測定結果をH2に対する相対感度として再プロットする。実線はH2、Ne、Arの3つのガスに対する相対感度から質量電荷比(質量数m)の累乗近似した補正関数となり、次の式(7)のように表される。
TmGmSB 0/T2G2SB 0=C2m-x 2 …式(7)
図6Bより、この補正曲線が、H2、Ne、Ar以外のガスについても比較的良く一致することが判る。
したがって、或るガス種iの脱離速度Qiは、式(5)〜式(7)より、次の式(8)(=式(1))によって求められる。
Qi=Im(QH2/I2)(EH2/Ei)(Si/S H2)/(TmGmSB 0/T2G2SB 0)
=Im(QH2/I2)(EH2/Ei)(Si/S H2)/(C2m-x 2) …式(8)
或いは、非特許文献4に示されているようにTm=28/mであることを利用して、式(7)より、脱離速度Qiは次の式(9)からでも求められる。
Qi=Im(QH2/I2)(EH2/Ei)(Si/S H2)(T2/Tm)/(Gm/G2)
=Im(QH2/I2)(EH2/Ei)(Si/S H2)(T2/Tm)(2C2 -1m-1+x 2) …式(9)
ここで、式(8)、式(9)の右辺の最終項の補正係数は、何れも質量電荷比(m/z値)の累乗関数で近似できる。
以上説明してきた補正関数fは検出器の長期的な劣化や検出器に印加する電圧に依存しないことが判っている。すなわち、ファラデーカップの感度に関連して変動するSB 0や、二次電子増倍管等の劣化に関連して変動するGm、G2が、式(8)、式(9)には含まれていない。したがって、予め、関数f(M)を決めておけば、上記H2ガスのように1種類のガスに対する感度、実際には式(8)、式(9)中のQH2/I2である感度の逆数を校正すれば、他の多くのガス種についても検出器の劣化や変動の影響を受けずに定量的に評価することが可能になる。
実施例1の補正用の試料S′を使用した場合、昇温脱離分析では、試料を加熱したときに各温度で得られる脱離速度QiすなわちImを時間積分することにより、総脱離量をもとめることができる。従って、例えば、H+やNe+、Ar+をSiなどにイオン注入した試料からの脱離量が校正された試料を標準試料として補正関数fを求めることも可能である。
式(5)をH2、Ne、Arについて時間積分することより、以下の式(10)〜式(12)から補正係数が求められる。
I2/P2=T2G2SB 0= SH2∫I2(t)dt/∫QH2(t)dt …式(10)
I20/P20=T20G20SB 0= S Ne∫I20(t)dt/∫QNe(t)dt …式(11)
I40/P40=T40G40SB 0= S Ar∫I40(t)dt/∫QAr(t)dt …式(12)
前述したように、これらの値を質量電荷比(m/z値)の累乗関数で近似することにより、補正関数fが得られる。したがって、昇温脱離装置1では基準微小ガス流量導入装置などを用いる必要なく補正関数fを求めることも可能である。
このように、昇温脱離分析装置1では、3種類のガス種を用いて質量分析計の圧力感度の質量電荷比に対する依存性を累乗近似関数fにより予め作成することと、感度自体の校正を行うことにより、それらのガス種以外の多くのガスについても、感度校正を行う事なく、定量性のある評価や質量分析計毎の互換性の高い評価が容易に可能になる。このように、補正係数C2,x2を質量電荷比(イオンの質量数)に関する関数形で表すことにより、より多くのガス種に対する定量的評価が可能になる。なお、大気成分ガスなどの特定ガス種などについては、補正係数を数値化してテーブルベースとして持つ方法も容易に展開が可能である。
したがって、本発明のように、累乗関数形の補正関数fを使用することにより、質量分析計の感度の校正並びに感度の質量電荷比依存性の補正が簡便に実施することが可能になる。このため、多くのガス種の校正に必要な時間を大幅に短縮できる。
また、水素等のイオン注入量が既知の補正及び校正用の試料S′を使用した場合、質量分析計を有する真空装置において、その校正用に多数のガス種を微量流量導入する装置を接続する必要がなく、簡単な1種類のガス導入デバイスのみ付加することで多くのガスの定量化が可能になる。
上記実施例1の昇温脱離分析装置1の効果を確認するための実験例および原理的な検討では、イオン化効率Eiを用いることなく感度の質量数依存性の補正係数の関数形を求め脱離速度を算出したが、特定のガスについてはイオン化効率Eiが或る程度の精度で判っていることが多い。この場合には、Eiを用いて補正係数の関数形は以下のように求めることが可能である。
前記実験と同様に、例えば、特許文献2に記載の基準微小ガス流量導入装置を用いてQMSの感度を校正する。昇温脱離分析装置1にガス種iを一定流量QiPam3/s導入すると、装置内の圧力は一定になり、そのガス種iの分圧Piとなる。装置のガス種iの排気速度をSiとすると、Qi=PiSiとなり、PiはQMSのイオン電流Ii に比例し、Pi=Ii/(EiTiGiSB 0)で与えられる。ここで、ガス種iの親イオンの質量電荷比M m/z(質量数m)のイオン電流をImとし、Tm、Gm、はその質量電荷比のイオンに対する透過率、検出器のファラデーカップに対する増幅率とする。また、SB 0はファラデーカップの感度とすると、式(3)と同様にして、以下の式(13)が成り立つ。
Qi=SiIm/( EiTmGmSB 0) …式(13)
GmSB 0を求めることによりQMSのガス種iに対する感度校正が可能になる。
同様に、水素に対しても、式(6)と同様にして、以下の式(14)が成り立つ。
QH2=SH2I2 /( EH2T2 G2 SB 0) …式(14)
ここで、QH2、SH2は昇温脱離分析装置1に導入する水素の流量とその排気速度であり、I2は水素ガスから形成された質量数2m/z のH2 +のイオン電流強度である。また、T2とG2は、それぞれ質量数2m/z のH2 +の透過率と検出器のファラデーカップに対する増幅率である。
前と同様に、QMS感度の質量数依存性をH2に対する相対感度として補正すると、式(13)、(14)から、Qiは、以下の式(15)で表される。
Qi=(QH2/I2)・(EH2T2/ SH2) /(EiTm/Si)・(G2/Gm)・Im …式(15)
ここで、Tm=28/mで与えられ、 EiとSiは比較的多くのガスで判っている。これらのガスに対してG2/Gmの補正係数が判れば、Imから定量的なQiを算出することが可能になる。
補正係数は式(15)から、以下の式(16)により求められる。
G2/Gm=(Qi /Im)/(QH2/I2)・(EiTm/Si)/ (EH2T2/ SH2) …式(16)
例えば、H2、He、H2O、Ne、CO、N2、Ar、CO2については、イオン化効率も排気速度も透過率も既知であることから、前述した特許文献2に記載の基準微小ガス流量導入装置を用いてこれらのガスを導入して式(16)に従って各ガスに対するG2/Gmを求めることが可能である。
図7は、補正関数の説明図であり、横軸に質量電荷比(質量数)を取り、縦軸にG2/Gmを取ったグラフである。
図7に補正係数G2/Gmを質量数mの関数としてプロットしたものを示す。尚、図7には、H2、Ne、Arから得られた補正係数値を質量数の累乗関数を用いて最小二乗近似した結果を実線で示すが、全てのガスに対する測定データと良く一致することが判る。従って、式(16)の補正係数はこれら3種類のガスから以下の式(17)のように近似できる。
G2/Gm=C3m-x3 …式(17)
この補正関数f′(=(G2/Gm)=(Tm/T2)/f(M))を用いることにより、上記3種類以外のガスに対する発生量(微小リーク流量もしくは脱離量)Qiは以下の式(18)から近似的にその量を算出することができる。
Qi=(QH2/I2)・(EH2T2/ SH2) /(EiTm/Si)・(C3m-x3)・Im …式(18)
なお、式(18)と式(9)との関係では、式(9)において、(2C2 -1m-1+x 2)の項のx2が、0.4〜0.6程度であることが多く、2C2 -1=C3、-1+x2=-x3に対応し、(2C2 -1m-1+x 2)=(C3m-x3)に対応する。
よって、式(17)から、イオン化効率、排気速度および透過率が既知の複数のガスを導入して、補正関数f′を演算でき、導出された補正関数f′を使用することで、式(18)から、任意のガスの脱離量Qiを算出することができる。
尚、ここでは上記3種類のガスに対する親イオンのイオン電流だけを考慮していたが、QMSのイオン化によって、親イオンだけでなく、フラグメントイオンも発生する。例えば、水素分子H2の場合には、質量電荷比が2m/zの親イオン(基準ピーク)だけでなく、1m/zのフラグメントイオンも発生する。このとき、2m/zの親イオンのイオン電流強度を100とすると、1m/zのフラグメントイオンのイオン電流強度は3程度であると報告されている。他にも、メタンガスCH4であれば、基準ピークは16m/zとなり、その強度I16=100とすると、I16=86、I16=16、I16=8、I16=2、I16=1と報告されている。
したがって、QMSのイオン化によって、形成された主要なフラグメントイオンを考慮して補正関数を求め、任意のガス種に対する発生量を算出することも可能である。
ここで、ガス種iのフラグメントイオンの中の質量電荷比m/z(質量数m)のイオン電流強度の全フラグメントイオン電流強度に対する比率をフラグメンテーション係数FFi mとした場合、FFi mは、以下の式(19)で表される。
FFi m=Im/(ΣnIn) …式(19)
なお、ΣnInは、引数nが0から∞までの各フラグメントイオン電流強度Inの総和である。
なお、H2のフラグメントイオンの中の質量電荷比2m/zのイオン電流強度の全フラグメントイオン電流強度に対する比率は、以下の式(19′)で表される。
FFH2 2=I2/(I1+I2) …式(19′)
式(4)において、ガス種iの全てのフラグメントイオンを考慮し、さらにその比率となる式(19)を用いると、以下の近似式(20)が演算される。
Pin In/(EiTnGnSB 0)≒(Im/FFi m)/(EiTmGmSB 0) …式(20)
なお、相対イオン化効率Eiは、ガス種iで固定であり、フラグメントイオンの質量数nに対して不変であるが、透過率Tnおよび増倍率Gnは、フラグメントイオンの質量数nごとに異なるため、上記式(20)となる。
したがって、式(19)、式(19′)、式(20)を使用して、式(16)、式(17)は、以下の式(16′)、(17′)のように近似できる。
G2/Gm=(Qi /Im)/(QH2/I2)・(FFi mEiTm/Si)/ (FFH2 2EH2T2/ SH2) …式(16′)
G2/Gm=C4m-x4 …式(17′)
したがって、この補正関数、式(17′)を用いると、任意のガスに対する発生量(微小リーク流量もしくは脱離量)Qiは次式(18′)から近似的にその量を算出することができる。
Qi=(QH2/I2)・(FFH2 2EH2T2/ SH2) /(FFi mEiTm/Si)・(C3m-x3)・Im …式(18′)
よって、式(17′)や式(18′)により、フラグメントイオンも考慮した補正関数や発生量Qiを導出することもでき、フラグメントイオンを考慮しない場合に比べて、さらに精度の高い分析が可能となる。
以上、本発明の実施例を詳述したが、本発明は、前記実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内で、種々の変更を行うことが可能である。
例えば、補正関数の最適化用の脱離ガスとして、水素、ネオン、アルゴンを使用することが望ましいが、これに限定されず、その他の任意の脱離ガスを使用することが可能である。さらに、補正関数fのカーブが、水素の値を通過するように構成することが望ましいが、通過しないように構成することも可能である。また、3種類の脱離ガスを使用する構成を例示したが、これに限定されず、4種類以上とすることも可能である。なお、2つの係数C2,x2を導出する構成から、脱離ガスの数は3種類以上とすることが望ましい。
さらに、累乗関数を導出する場合に、最小二乗法を使用する方法を例示したが、これに限定されず、任意の導出方法を採用可能である。
また、実施例1では、依存性として、c2,x2を使用する補正関数を使用する構成とすることが望ましいが、例えば、c1,x1、c3,x3、c4,x4を使用する構成とすることも可能である。
本発明の試料分析方法、試料分析装置は、例えば、鉄鋼分野における水素脆化問題の分析や、非鉄金属材料分野における水素脆化問題の分析、燃料電池の水素吸蔵材料の研究開発、半導体、フラットパネルディスプレイの研究開発や故障解析等の分野において好適に使用可能である。
また、質量分析計を用いた真空中の残留ガスの分析や分圧測定、半導体パッケージ内包ガスや材料中の気泡やブローホール、ふくれなどに含まれるガスの組成分析などに容易に適用が可能である。
1…質量分析装置、
2…真空室、
4…昇温装置、
11…四重極質量分析計、
22…記憶手段、
23…補正手段、
26…依存性の校正手段、
f…依存性、
Im…イオン電流強度、
m/z…質量電荷比、
Pm…真空度、
S,S′…試料。

Claims (8)

  1. 内部が真空状態に排気される真空室と、
    前記真空室に配置された試料を昇温させる昇温装置と、
    昇温された前記試料から脱離したガスの質量分析を行う四重極質量分析計と、
    前記四重極質量分析計で検出されるイオン電流強度と真空度との比の、質量電荷比に対する依存性であって、前記質量電荷比の累乗関数により構成された前記依存性を記憶する記憶手段と、
    前記四重極質量分析計で測定された測定値を、前記依存性に基づいて補正する補正手段と、
    前記依存性の校正が行われる時期になった場合に、予め設定されたガス種における前記四重極質量分析計で測定された測定値に基づいて、前記依存性を校正する依存性の校正手段と、
    を備えたことを特徴とする質量分析装置。
  2. 水素を含む3種類以上の異なるガス種により構成された前記予め設定されたガス種を使用して、前記依存性の校正を行う前記依存性の校正手段、
    を備えたことを特徴とする請求項1に記載の質量分析装置。
  3. 水素、ネオンおよびアルゴンにより構成された前記予め設定されたガス種、
    を備えたことを特徴とする請求項2に記載の質量分析装置。
  4. 予め設定された量の水素、ネオンおよびアルゴンがシリコンにイオン注入された試料を使用して、前記水素、ネオンおよびアルゴンの脱離する量に基づいて、前記依存性の校正を行う前記依存性の校正手段、
    を備えたことを特徴とする請求項3に記載の質量分析装置。
  5. 前記累乗関数のグラフにおいて、前記累乗関数が描く曲線が、水素ガスに対するイオン電流強度と真空度との比の質量電荷比の値を通過するように、前記依存性を校正する前記依存性の校正手段、
    を備えたことを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の質量分析装置。
  6. 水素ガスに対するイオン電流強度の流量感度を校正する手段、
    を備えたことを特徴とする請求項5に記載の質量分析装置。
  7. イオン化効率と排気速度とイオン透過率とが既知の複数のガス種に基づいて、前記依存性の校正を行う前記依存性の校正手段、
    を備えたことを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載の質量分析装置。
  8. 前記測定値に加え、フラグメントイオンに基づくフラグメンテーション係数に応じて、前記依存性の校正を行う前記依存性の校正手段、
    を備えたことを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載の質量分析装置。
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