JP6213959B2 - 質量分析装置 - Google Patents
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Description
特許文献1としての特開2000−346829号公報には、分析計として四重極質量分析計を使用した昇温脱離分析装置において、質量分析計の感度の個体差を無くすために、検出感度の補正情報として、脱離ガスの質量の2次関数を使用して、検出感度の補正を行う技術が記載されている。特許文献1に記載の技術では、工場出荷の際や修理保守を行う際に、較正用試料を用いて測定を行っている。
それらに加えて、二次電子増倍管やチャネルトロンの検出器は感度が質量電荷比の1/2乗に比例する事が非特許文献1などに報告されている。更には、四重極電極両端での電界の乱れなどの影響も加わり、感度の質量電荷比に対する依存性はより複雑なものになることが非特許文献2などにも報告されている。
更に、非特許文献3で報告されているように、四重極質量分析計の検出器として用いられるファラデーカップは安定性が悪く感度が日常的に変動し、二次電子増倍管やチャネルトロンも日常的な変動に加えて長期的に劣化していくという問題も知られている。
また、本発明者らの研究の結果、特許文献1に記載の2次関数を使用した検出感度の補正では、感度の補正精度が極めて悪いことがわかり、分析の精度が低いことが確認された。
内部が真空状態に排気される真空室と、
前記真空室に配置された試料を昇温させる昇温装置と、
昇温された前記試料から脱離したガスの質量分析を行う四重極質量分析計と、
前記四重極質量分析計で検出されるイオン電流強度と真空度との比の、質量電荷比に対する依存性であって、前記質量電荷比の累乗関数により構成された前記依存性を記憶する記憶手段と、
前記四重極質量分析計で測定された測定値を、前記依存性に基づいて補正する補正手段と、
前記依存性の校正が行われる時期になった場合に、予め設定されたガス種における前記四重極質量分析計で測定された測定値に基づいて、前記依存性を校正する依存性の校正手段と、
を備えたことを特徴とする。
水素を含む3種類以上の異なるガス種により構成された前記予め設定されたガス種を使用して、前記依存性の校正を行う前記依存性の校正手段、
を備えたことを特徴とする。
水素、ネオンおよびアルゴンにより構成された前記予め設定されたガス種、
を備えたことを特徴とする。
予め設定された量の水素、ネオンおよびアルゴンがシリコンにイオン注入された試料を使用して、前記水素、ネオンおよびアルゴンの脱離する量に基づいて、前記依存性の校正を行う前記依存性の校正手段、
を備えたことを特徴とする。
前記累乗関数のグラフにおいて、前記累乗関数が描く曲線が、水素ガスに対するイオン電流強度と真空度との比の質量電荷比の値を通過するように、前記依存性を校正する前記依存性の校正手段、
を備えたことを特徴とする。
水素ガスに対するイオン電流強度の流量感度を校正する手段、
を備えたことを特徴とする。
イオン化効率と排気速度とイオン透過率とが既知の複数のガス種に基づいて、前記依存性の校正を行う前記依存性の校正手段、
を備えたことを特徴とする。
前記測定値に加え、フラグメントイオンに基づくフラグメンテーション係数に応じて、前記依存性の校正を行う前記依存性の校正手段、
を備えたことを特徴とする。
請求項2に記載の発明によれば、水素を含む3種類以上のガス種を使用して、累乗関数を導出することができる。
請求項3に記載の発明によれば、水素、ネオン、アルゴンを使用して累乗関数を導出することができる。
請求項4に記載の発明によれば、総脱離量を演算することができ、ガスを微量導入する装置を使用しなくても、依存性を校正することができる。
請求項6に記載の発明によれば、検出器の感度の劣化や変動の影響を抑えて、脱離ガスの定量測定を行うことができる。
請求項7に記載の発明によれば、イオン化効率等が未知のガス種を使用する場合に比べて、簡便に依存性の校正を行うことができる。
請求項8に記載の発明によれば、フラグメンテーション係数を使用しない場合に比べて、分析の精度を向上させることができる。
なお、以下の図面を使用した説明において、理解の容易のために説明に必要な部材以外の図示は適宜省略されている。
図1において、実施例1の質量分析装置の一例としての昇温脱離分析装置(TDS:Thermal Desorption Spectrometer)1は、真空室2を有する。真空室2の内部には、試料ステージ3が設置されている。試料ステージ3の上面には、試料Sを保持可能に構成されている。試料ステージ3上の試料Sには、試料加熱部の一例としての赤外光源4から赤外光が照射可能に構成されている。
排気系6には、ターボ分子ポンプ7よりも上流側に、測定部の一例としての質量分析計11が接続されている。実施例1の質量分析計11は、四重極質量分析計、いわゆるQMS(quadrupole mass spectrometer)により構成されている。
また、排気系6には、圧力計(真空計)の一例としてのイオンゲージ12が設置されている。
図2において、実施例1のコンピュータ本体13aには、キーボード13cやマウス13d、質量分析計11やイオンゲージ12等の信号出力要素から、出力信号が入力されている。
また、実施例1のコンピュータ本体13aは、被制御要素の一例としてのディスプレイ13b等へ制御信号を出力している。
コンピュータ本体13aは、信号出力要素からの入力信号に応じた処理を実行して、前記各制御要素に制御信号を出力する機能を有している。すなわち、コンピュータ本体13aは次の機能を有している。
21:測定値の取得手段
測定値の取得手段21は、質量分析計11およびイオンゲージ12で測定された測定値を取得する。
22:補正関数の記憶手段
補正関数の記憶手段22は、或るガス種iに対するQMS11で検出される基準ピークの質量電荷比をM m/zとし、そのイオン電流強度IMとそのガス種に対する圧力Pとの比、すなわち、圧力に対するイオン電流の感度(IM/P)の、種々のガス種に対する比の質量電荷比(m/z)に対する依存性の一例としての補正関数であって、質量電荷比(m/z)の累乗関数により構成された補正関数を記憶する。実施例1の補正関数の記憶手段22は、補正関数fとして、図3に示すように、係数をC2とし、べき数をx2とし、質量電荷比をM=m/zとおいた場合に、補正関数f(M)=C2×M-x2を記憶する。
測定値の補正手段23は、質量分析計11で測定された測定値を、補正関数の記憶手段22に記憶された補正関数に基づいて補正する。実施例1の測定値の補正手段23は、測定値の取得手段21で取得した測定値であるイオン電流強度IMについて、ガス種i毎に補正された脱離速度Qiを演算する。実施例1では、具体的には、測定値であるイオン強度IMから、以下の式(1)を使用して、ガス種毎に補正された脱離速度Qiを演算する。
Qi=(IM/Ei)(QH2/(I2/EH2))(Si/SH2)/f(M)
= (IM/Ei)(QH2/(I2/EH2))(Si/SH2)/(C2M-x 2) …式(1)
ここで、SiとEiは、ガス種iの排気速度とイオン化効率であり、QH2、I2、SH2、EH2は、質量数2の水素(H2)の脱離速度、イオン電流強度、排気速度、イオン化効率である。なお、QH2/I2は、後述する測定値の校正手段25で導出され、SiおよびSH2は、排気装置の開口面積や排気性能、実験等から予め設定されている。
したがって、例えば、水(H20)の脱離速度QH2Oは、QMS11で検出されるその基準ピークの質量電荷比M-=18m/zのイオン電流強度I18とイオン化効率EH2Oから、以下の式(1′)で導出される。
QH2O= (I18/EH2O)(QH2/(I2/EH2))(SH2O/SH2)/f(M)
= (I18/EH2O)(QH2/(I2/EH2))(SH2O/SH2)/(C2M-x 2) …式(1′)
表示手段24は、質量分析の結果をディスプレイ13bに表示する。実施例1の表示手段24は、測定値の補正手段23で導出された脱離速度Qiを、質量分析結果として表示する。なお、実施例1の表示手段24は、脱離速度Qiに加え、測定値であるイオン電流強度IMや、イオンゲージ12で測定された測定値P等も表示する。
測定値の校正手段25は、既知の脱離(リーク)速度QH2の水素ガスを導入したときに、質量分析計11で測定された質量数2m/zのイオン電流強度I2との比である水素に対する質量分析計11の流量感度の逆数QH2/I2を演算し、記憶する。具体的には、実施例1の測定値の校正手段25では、予め設定された校正時期の一例として、毎朝のTDS1の起動時に、TDS1に接続された図示しない水素ガスを導入する市販の装置により、予め設定された単位時間当たりの流量QH2の水素ガスを導入しながら、水素(質量数2m/z)のイオン電流強度I2を測定して、QH2/I2を演算し、記憶する。なお、記憶されたQH2/I2は、式(1′)の演算において使用される。
よって、TDS1では、TDS1の起動時に演算されたQH2/I2を使用して、式(1′)で測定値の補正が行われる。すなわち、QH2/I2は、TDS1の起動時に毎回校正されることに相当しており、検出器の日常的な変動や劣化すなわち同一のQH2に対するI2の変化が校正される。
なお、校正時期は、実施例1では、一例として、毎日の昇温脱離分析装置1の起動時が設定されているが、週に一度等、任意の時期に変更可能であるが、校正の頻度は高い方が望ましい。また、既知の脱離速度の水素ガスの導入方法として、水素ガスを導入する装置を接続する方法に限定されず、既知の量の水素ガスが注入された校正用の試料を使用することも可能である。
依存性の校正手段の一例としての補正関数の最適化手段26は、依存性の一例としての補正関数の最適化が行われる時期になった場合に、予め設定された補正用のガス種におけるQMS11で測定された測定値に基づいて、補正関数fの最適化をして、更新する。実施例1の補正関数の最適化手段26は、キーボード13cまたはマウス13dから、依存性の補正を行う入力がされた場合に、補正関数の最適化(依存性の更新)が行われる時期になったと判別する。なお、依存性の補正が行われる時期は、一例として、昇温脱離分析装置1の出荷時や、分解能の調整後等が挙げられるが、これらに限定されない。例えば、ユーザーの入力に応じた時期だけでなく、予め設定されたスケジュールに応じて補正関数の最適化を行う構成とすることも可能である。
図4は実施例1の昇温脱離分析装置における制御処理のフローチャートである。
次に、本発明の実施例1の昇温脱離分析装置1の各処理の流れを流れ図、いわゆる、フローチャートを使用して説明する。
図4のフローチャートの各ST:ステップの処理は、コンピュータ本体13aの記憶装置等に記憶されたプログラムに従って行われる。また、この処理はパーソナルコンピュータ13の他の各種処理と並行してマルチタスクで実行される。
図4に示すフローチャートは電源オンにより開始される。
ST2において、測定値IMを取得する。そして、ST3に進む。
ST3において、補正関数fを使用して、測定値IMを補正する。具体的には、式(1)に基づいて補正を行う。そして、ST4に進む。
ST4において、補正されたデータQiをディスプレイ13bに表示する。そして、ST1に戻る。
ST6において、水素、ネオン、アルゴンのQMS11で検出される基準ピークの質量電荷比に相当するイオン電流強度I2,I20,I40および圧力PH2,PNe,PArの測定値を取得する。ここで、便宜上PH2=P2、PNe=P20、PAr=P40と表す。そして、ST7に進む。
ST7において、(IM/P)/(I2/P2)=C2×M-x2を満たすC2,x2を最小二乗法で導出する。そして、ST8に進む。
ST8において、導出されたC2,x2に補正関数fを更新する。そして、ST1に戻る。
前記構成を備えた実施例1の昇温脱離分析装置1では、質量分析が行われる場合、ステージ3にセットされた試料Sが加熱される。加熱された試料Sから脱離したガスは、QMS11でイオン強度IMが測定される。また、このとき、イオンゲージ12で圧力Pが測定される。そして、補正関数fが使用されて、イオン強度IMが補正され、感度に対する補正がされたデータとしての脱離速度Qiが分析結果として表示される。
従来の昇温脱離分析装置では、QMSの検出器として使用されるファラデーカップの安定性が悪く感度が日常的に変動したり、二次電子増倍管等の日常的な変動や長期的な劣化、個体差のため、イオン電流強度IMの測定結果が変動する問題があった。すなわち、例えば、別の日に同じ試料を測定したり、異なる装置で同じ試料を測定しても、イオン電流強度IMの測定結果が異なるといった感度の問題があった。これに対して、実施例1では、測定されたイオン電流強度IMに基づいて、補正関数f(M)を使用して、感度に対する補正がされた脱離速度Qiが導出される。更に、検出器の感度の変動があっても、水素に対する感度を前記QH2/I2により校正するだけで、水素以外の多くのガスに対して精度の高い測定が可能である。
また、補正関数f(M)は、キーボード13c等の入力に応じて、最適化が開始される。そして、補正は、水素、ネオン、アルゴンの3種の測定値に基づいて、補正関数fの最適化が行われる。したがって、多数のガス種毎に測定を行う場合に比べて、3種類のガスのみで補正が可能であり、補正が簡便である。
次に、実施例1の昇温脱離分析装置1の効果を確認するための実験および原理について説明する。
この実験では、特許文献2に記載の基準微小ガス流量導入装置を用いて、その一実施例に従って、H2(2m/z)、He(4m/z)、H2O(18m/z)、Ne(20m/z)、CO(28m/z)、N2(28m/z)、Ar(40m/z)、CO2(44m/z)の8種類の純ガスを昇温脱離分析装置1に1種類づつ導入し、それぞれのガスに対するイオンゲージ12により計測された圧力Pと質量分析計11の基準ピークの質量電荷比のイオン電流強度IMが一定値になる定常状態において、それぞれのガスに対する圧力とイオン電流強度の流量に対する感度P/Q、IM/Qを求めた。ここで、Qは導入したガス流量である。Qを10-7-10-5Pam3/s程度に渡って5-6水準の微小ガス流量を流した。また、前記()内はそれぞれのガスの基準ピークの質量電荷比である。尚、以下、1価のイオンを仮定し、質量電荷比m/zはそのイオンの質量数m(=M)として記述した。
この領域でそれぞれ良い線形応答性を示し、P/Q(図5A参照)とIm/Q(図5B参照)はほぼ一定の値を示した。それらの平均値として各ガス種に対する流量感度を算出した。その結果をそれぞれ図5に示す。図5では、参考のため、それぞれN2に対する相対感度も表に纏めてある。
なお、イオンゲージはB-A型、質量分析計は70eVの電子線照射のクロスビーム型イオン源とチャネルトロン検出器を用いたものを使用した。尚、図1の昇温脱離分析装置は排気速度0.34m3/sのターボ分子ポンプを使用した。
図6Aには、それぞれのガスについて、(Im/Q)/(P/Q)を基準ピークの質量電荷比m/z(質量数m)に関してプロットした結果を示す。ここで、非特許文献1によれば、ガス種iの分圧Piはイオン電流Iiに比例し、Pi=Ii/(EiTiGiSB 0)で与えられる。EiとTiはそれぞれN2に対する相対イオン化効率と四重極マスフィルタの透過率である。また、Giは検出器のファラデーカップに対する増倍率、SB 0はファラデーカップの感度である。分圧をN2換算圧力で評価すると、Pi=P/Eiになることから、P=Ii/(TiGiSB 0)と記述できる。イオン電流Iiをガス種iの基準ピークの質量電荷比m/z(質量数m)のイオン電流Imとすると、図6Aの縦軸、(Im/Q)/(P/Q)=Im/P、は圧力に対する感度(圧力感度)として以下の式(2)のように、イオン化効率を含まず、透過率と検出器の検出効率との積で記述される。
(Im/Q)/(P/Q)=Im/P=TmGmSB 0=C1m-x 1 …式(2)
Q=S(Im/Ei)/(TmGmSB 0)= S(Im/Ei)/(C1m-x 1) …式(3)
或いは、分圧Piも次の式(4)から求められる。
Pi=(Im/Ei)/(TmGmSB 0)= (Im/Ei)/(C1m-x 1) …(4)
Q=S(Im/Ei)/(TmGmSB 0) …式(5)
ここで、実験例では、H2、Ne、Arの3つのガスに対する感度特性から圧力感度の質量電荷比に対する依存性を補正する近似式(補正関数f(M))を予め作成しておく。また、質量分析計11の感度自体の変動や劣化を校正するため、前記基準微小ガス流量導入装置などにより1種類のガスについて感度係数を評価する。例えば、H2ガスについて微小流量を流し校正すると以下の式(6)が得られる。
QH2=SH2(I2/EH2)/(T2G2SB 0) …式(6)
TmGmSB 0/T2G2SB 0=C2m-x 2 …式(7)
図6Bより、この補正曲線が、H2、Ne、Ar以外のガスについても比較的良く一致することが判る。
Qi=Im(QH2/I2)(EH2/Ei)(Si/S H2)/(TmGmSB 0/T2G2SB 0)
=Im(QH2/I2)(EH2/Ei)(Si/S H2)/(C2m-x 2) …式(8)
或いは、非特許文献4に示されているようにTm=28/mであることを利用して、式(7)より、脱離速度Qiは次の式(9)からでも求められる。
Qi=Im(QH2/I2)(EH2/Ei)(Si/S H2)(T2/Tm)/(Gm/G2)
=Im(QH2/I2)(EH2/Ei)(Si/S H2)(T2/Tm)(2C2 -1m-1+x 2) …式(9)
以上説明してきた補正関数fは検出器の長期的な劣化や検出器に印加する電圧に依存しないことが判っている。すなわち、ファラデーカップの感度に関連して変動するSB 0や、二次電子増倍管等の劣化に関連して変動するGm、G2が、式(8)、式(9)には含まれていない。したがって、予め、関数f(M)を決めておけば、上記H2ガスのように1種類のガスに対する感度、実際には式(8)、式(9)中のQH2/I2である感度の逆数を校正すれば、他の多くのガス種についても検出器の劣化や変動の影響を受けずに定量的に評価することが可能になる。
式(5)をH2、Ne、Arについて時間積分することより、以下の式(10)〜式(12)から補正係数が求められる。
I2/P2=T2G2SB 0= SH2∫I2(t)dt/∫QH2(t)dt …式(10)
I20/P20=T20G20SB 0= S Ne∫I20(t)dt/∫QNe(t)dt …式(11)
I40/P40=T40G40SB 0= S Ar∫I40(t)dt/∫QAr(t)dt …式(12)
前述したように、これらの値を質量電荷比(m/z値)の累乗関数で近似することにより、補正関数fが得られる。したがって、昇温脱離装置1では基準微小ガス流量導入装置などを用いる必要なく補正関数fを求めることも可能である。
また、水素等のイオン注入量が既知の補正及び校正用の試料S′を使用した場合、質量分析計を有する真空装置において、その校正用に多数のガス種を微量流量導入する装置を接続する必要がなく、簡単な1種類のガス導入デバイスのみ付加することで多くのガスの定量化が可能になる。
Qi=SiIm/( EiTmGmSB 0) …式(13)
GmSB 0を求めることによりQMSのガス種iに対する感度校正が可能になる。
同様に、水素に対しても、式(6)と同様にして、以下の式(14)が成り立つ。
QH2=SH2I2 /( EH2T2 G2 SB 0) …式(14)
ここで、QH2、SH2は昇温脱離分析装置1に導入する水素の流量とその排気速度であり、I2は水素ガスから形成された質量数2m/z のH2 +のイオン電流強度である。また、T2とG2は、それぞれ質量数2m/z のH2 +の透過率と検出器のファラデーカップに対する増幅率である。
Qi=(QH2/I2)・(EH2T2/ SH2) /(EiTm/Si)・(G2/Gm)・Im …式(15)
ここで、Tm=28/mで与えられ、 EiとSiは比較的多くのガスで判っている。これらのガスに対してG2/Gmの補正係数が判れば、Imから定量的なQiを算出することが可能になる。
補正係数は式(15)から、以下の式(16)により求められる。
G2/Gm=(Qi /Im)/(QH2/I2)・(EiTm/Si)/ (EH2T2/ SH2) …式(16)
例えば、H2、He、H2O、Ne、CO、N2、Ar、CO2については、イオン化効率も排気速度も透過率も既知であることから、前述した特許文献2に記載の基準微小ガス流量導入装置を用いてこれらのガスを導入して式(16)に従って各ガスに対するG2/Gmを求めることが可能である。
図7に補正係数G2/Gmを質量数mの関数としてプロットしたものを示す。尚、図7には、H2、Ne、Arから得られた補正係数値を質量数の累乗関数を用いて最小二乗近似した結果を実線で示すが、全てのガスに対する測定データと良く一致することが判る。従って、式(16)の補正係数はこれら3種類のガスから以下の式(17)のように近似できる。
G2/Gm=C3m-x3 …式(17)
Qi=(QH2/I2)・(EH2T2/ SH2) /(EiTm/Si)・(C3m-x3)・Im …式(18)
なお、式(18)と式(9)との関係では、式(9)において、(2C2 -1m-1+x 2)の項のx2が、0.4〜0.6程度であることが多く、2C2 -1=C3、-1+x2=-x3に対応し、(2C2 -1m-1+x 2)=(C3m-x3)に対応する。
よって、式(17)から、イオン化効率、排気速度および透過率が既知の複数のガスを導入して、補正関数f′を演算でき、導出された補正関数f′を使用することで、式(18)から、任意のガスの脱離量Qiを算出することができる。
したがって、QMSのイオン化によって、形成された主要なフラグメントイオンを考慮して補正関数を求め、任意のガス種に対する発生量を算出することも可能である。
FFi m=Im/(ΣnIn) …式(19)
なお、ΣnInは、引数nが0から∞までの各フラグメントイオン電流強度Inの総和である。
なお、H2のフラグメントイオンの中の質量電荷比2m/zのイオン電流強度の全フラグメントイオン電流強度に対する比率は、以下の式(19′)で表される。
FFH2 2=I2/(I1+I2) …式(19′)
Pi=Σn In/(EiTnGnSB 0)≒(Im/FFi m)/(EiTmGmSB 0) …式(20)
なお、相対イオン化効率Eiは、ガス種iで固定であり、フラグメントイオンの質量数nに対して不変であるが、透過率Tnおよび増倍率Gnは、フラグメントイオンの質量数nごとに異なるため、上記式(20)となる。
G2/Gm=(Qi /Im)/(QH2/I2)・(FFi mEiTm/Si)/ (FFH2 2EH2T2/ SH2) …式(16′)
G2/Gm=C4m-x4 …式(17′)
したがって、この補正関数、式(17′)を用いると、任意のガスに対する発生量(微小リーク流量もしくは脱離量)Qiは次式(18′)から近似的にその量を算出することができる。
Qi=(QH2/I2)・(FFH2 2EH2T2/ SH2) /(FFi mEiTm/Si)・(C3m-x3)・Im …式(18′)
よって、式(17′)や式(18′)により、フラグメントイオンも考慮した補正関数や発生量Qiを導出することもでき、フラグメントイオンを考慮しない場合に比べて、さらに精度の高い分析が可能となる。
例えば、補正関数の最適化用の脱離ガスとして、水素、ネオン、アルゴンを使用することが望ましいが、これに限定されず、その他の任意の脱離ガスを使用することが可能である。さらに、補正関数fのカーブが、水素の値を通過するように構成することが望ましいが、通過しないように構成することも可能である。また、3種類の脱離ガスを使用する構成を例示したが、これに限定されず、4種類以上とすることも可能である。なお、2つの係数C2,x2を導出する構成から、脱離ガスの数は3種類以上とすることが望ましい。
また、実施例1では、依存性として、c2,x2を使用する補正関数を使用する構成とすることが望ましいが、例えば、c1,x1、c3,x3、c4,x4を使用する構成とすることも可能である。
また、質量分析計を用いた真空中の残留ガスの分析や分圧測定、半導体パッケージ内包ガスや材料中の気泡やブローホール、ふくれなどに含まれるガスの組成分析などに容易に適用が可能である。
2…真空室、
4…昇温装置、
11…四重極質量分析計、
22…記憶手段、
23…補正手段、
26…依存性の校正手段、
f…依存性、
Im…イオン電流強度、
m/z…質量電荷比、
Pm…真空度、
S,S′…試料。
Claims (8)
- 内部が真空状態に排気される真空室と、
前記真空室に配置された試料を昇温させる昇温装置と、
昇温された前記試料から脱離したガスの質量分析を行う四重極質量分析計と、
前記四重極質量分析計で検出されるイオン電流強度と真空度との比の、質量電荷比に対する依存性であって、前記質量電荷比の累乗関数により構成された前記依存性を記憶する記憶手段と、
前記四重極質量分析計で測定された測定値を、前記依存性に基づいて補正する補正手段と、
前記依存性の校正が行われる時期になった場合に、予め設定されたガス種における前記四重極質量分析計で測定された測定値に基づいて、前記依存性を校正する依存性の校正手段と、
を備えたことを特徴とする質量分析装置。 - 水素を含む3種類以上の異なるガス種により構成された前記予め設定されたガス種を使用して、前記依存性の校正を行う前記依存性の校正手段、
を備えたことを特徴とする請求項1に記載の質量分析装置。 - 水素、ネオンおよびアルゴンにより構成された前記予め設定されたガス種、
を備えたことを特徴とする請求項2に記載の質量分析装置。 - 予め設定された量の水素、ネオンおよびアルゴンがシリコンにイオン注入された試料を使用して、前記水素、ネオンおよびアルゴンの脱離する量に基づいて、前記依存性の校正を行う前記依存性の校正手段、
を備えたことを特徴とする請求項3に記載の質量分析装置。 - 前記累乗関数のグラフにおいて、前記累乗関数が描く曲線が、水素ガスに対するイオン電流強度と真空度との比の質量電荷比の値を通過するように、前記依存性を校正する前記依存性の校正手段、
を備えたことを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の質量分析装置。 - 水素ガスに対するイオン電流強度の流量感度を校正する手段、
を備えたことを特徴とする請求項5に記載の質量分析装置。 - イオン化効率と排気速度とイオン透過率とが既知の複数のガス種に基づいて、前記依存性の校正を行う前記依存性の校正手段、
を備えたことを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載の質量分析装置。 - 前記測定値に加え、フラグメントイオンに基づくフラグメンテーション係数に応じて、前記依存性の校正を行う前記依存性の校正手段、
を備えたことを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載の質量分析装置。
Priority Applications (1)
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JP2013224362A JP6213959B2 (ja) | 2013-06-12 | 2013-10-29 | 質量分析装置 |
Applications Claiming Priority (3)
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JP2013123745 | 2013-06-12 | ||
JP2013123745 | 2013-06-12 | ||
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Publications (2)
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Family
ID=52439595
Family Applications (1)
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JP2013224362A Active JP6213959B2 (ja) | 2013-06-12 | 2013-10-29 | 質量分析装置 |
Country Status (1)
Country | Link |
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JP (1) | JP6213959B2 (ja) |
Families Citing this family (1)
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GB2502243B (en) * | 2011-05-12 | 2018-01-03 | Thermo Fisher Scient (Bremen) Gmbh | Ion detection |
-
2013
- 2013-10-29 JP JP2013224362A patent/JP6213959B2/ja active Active
Also Published As
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