最初に、図1を参照して、本発明の実施例に係るショベルについて説明する。なお、図1は、実施例に係るショベルの側面図である。図1に示すショベルの下部走行体1には、旋回機構2を介して上部旋回体3が搭載されている。上部旋回体3には、作業アタッチメントが取り付けられている。作業アタッチメントは、例えば、ブーム4、アーム5、及びバケット6を含む。具体的には、上部旋回体3には、ブーム4が取り付けられ、ブーム4の先端には、アーム5が取り付けられ、アーム5の先端にはバケット6が取り付けられている。ブーム4、アーム5、及びバケット6は、ブームシリンダ7、アームシリンダ8、及びバケットシリンダ9によりそれぞれ油圧駆動される。上部旋回体3には、キャビン10が設けられ、且つエンジン11等の動力源が搭載される。
図2は、図1のショベルに搭載される駆動系の構成例を示すブロック図であり、機械的動力系、高圧油圧ライン、パイロットライン、及び電気制御系をそれぞれ二重線、実線、破線、及び一点鎖線で示す。
ショベルの駆動系は、主に、エンジン11、レギュレータ13、メインポンプ14、コントロールバルブ17、操作装置26a、26b、ゲートロックレバー27、コントローラ30、エンジンコントローラ35、及び排気系50を含む。
エンジン11は、ショベルの駆動源であり、例えば、内燃機関としてのディーゼルエンジンである。また、エンジン11は、エンジンコントローラ35によって所定の回転数を維持するように制御される。また、エンジン11の出力軸は、メインポンプ14の入力軸に接続される。なお、本実施例では、エンジン11には、回転数センサ11a、ブースト圧センサ11b、大気圧センサ11c、及び水温センサ11dが取り付けられる。
回転数センサ11aは、エンジン11の回転数を検出するセンサであり、検出した値をエンジンコントローラ35に対して出力する。
ブースト圧センサ11bは、エンジン11のブースト圧を検出するセンサであり、検出した値をエンジンコントローラ35に対して出力する。
大気圧センサ11cは、エンジン11の周辺の大気圧を検出するセンサであり、検出した値をエンジンコントローラ35に対して出力する。
水温センサ11dは、エンジン11の冷却水の温度を検出するセンサであり、検出した値をエンジンコントローラ35に対して出力する。
レギュレータ13は、メインポンプ14の吐出量を制御するための装置であり、例えば、メインポンプ14の吐出圧、又はコントローラ30からの制御信号等に応じてメインポンプ14の斜板傾転角を調節することによって、メインポンプ14の吐出量を制御する。
メインポンプ14は、高圧油圧ラインを介して作動油をコントロールバルブ17に供給するための装置であり、例えば、斜板式可変容量型油圧ポンプである。
吐出圧センサ14aは、メインポンプ14の吐出圧を検出する圧力センサである。本実施例では、吐出圧センサ14aは、メインポンプ14の下流側において高圧油圧ラインの作動油の圧力を検出し、検出した値をコントローラ30に対して出力する。
コントロールバルブ17は、ショベルにおける油圧システムを制御する油圧制御装置である。コントロールバルブ17は、例えば、ブームシリンダ7、アームシリンダ8、バケットシリンダ9、走行用油圧モータ(図示せず。)、及び旋回用油圧モータ(図示せず。)のうちの1又は複数のものに対しメインポンプ14が吐出する作動油を選択的に供給する。図2では、コントロールバルブ17は、ブームシリンダ7に対する作動油の給排を制御するブーム用切換弁17a、アームシリンダ8に対する作動油の給排を制御するアーム用切換弁17b、及び、バケットシリンダ9に対する作動油の給排を制御するバケット用切換弁17cを含む。なお、図2は、明瞭化のため、走行用油圧モータ及び旋回用油圧モータのそれぞれに対応する切換弁の図示を省略する。また、以下では、ブームシリンダ7、アームシリンダ8、バケットシリンダ9、走行用油圧モータ、及び旋回用油圧モータを集合的に「油圧アクチュエータ」と称する。
また、コントロールバルブ17の下流側には、ネガティブコントロール(メインポンプ14の吐出量の制御方式であり、以下、「ネガコン」とする。)のためのネガコン絞り18が設置される。そして、ネガコン絞り18の上流側の作動油の圧力であるネガコン圧は、ネガコン用パイロットライン19を介して、レギュレータ13に導入される。この構成により、メインポンプ14の吐出量は、ネガコン圧が低下するにつれて増大し、油圧アクチュエータの操作量が増大するように制御される。また、メインポンプ14の吐出量は、ネガコン圧が所定圧力以上となった場合、すなわち、何れの油圧アクチュエータも操作されていない場合、所定量(例えば最小流量である。)に制限される。なお、弁20aは、ネガコン絞り18に並列に接続されるリリーフ弁であり、ネガコン圧が過度に上昇した場合に開いてネガコン絞り18の上流側にある作動油をタンクに排出する。また、弁20bは、コントロールバルブ17の上流側に接続されるリリーフ弁であり、メインポンプ14の吐出圧が過度に上昇した場合に開いてメインポンプ14が吐出する作動油の一部をタンクに排出する。
操作装置26a、26bは、操作者が油圧アクチュエータの操作のために用いる装置である。本実施例では、操作装置26a、26bにおける操作の内容は、切換弁ラインを介してそれぞれに対応する切換弁に伝達される。具体的には、操作装置26aは、ブームシリンダ7及びバケットシリンダ9を操作するための操作レバーであり、操作装置26bは、アームシリンダ8を操作するための操作レバーである。
ゲートロックレバー27は、ショベルの状態を切り換える装置である。本実施例では、ゲートロックレバー27は、ショベルを作業不可状態とするロック状態と、ショベルを作業可能状態とするロック解除状態とを有する。なお、「作業可能状態」は、操作者がショベルを操作できる状態を意味し、「作業不可状態」は、操作者がショベルを操作できない状態を意味する。
コントローラ30は、ショベルを制御するための制御部であり、油圧系異常検出部30a及び燃料良否判定部30b等の下位制御部を有する。
エンジンコントローラ35は、エンジン11を制御するための制御部であり、内燃機関系(エンジン系)異常検出部35a等の下位制御部を有する。
排気系50は、エンジン11の排気ガスを外部に排出するためのシステムである。本実施例では、排気系50は、主に、排気管50a、DPF50b、差圧センサ50cを含む。排気管50aは、エンジン11の排気口に接続され、エンジン11が排出する排気ガスを外部に排出する。DPF50bは、排気管50aを流れる排気ガス中のPMを捕集するフィルタである。差圧センサ50cは、DPF50bの上流側の圧力と下流側の圧力との間の差圧(以下、「DPF差圧」とする。)を検出し、検出した値をエンジンコントローラ35に対して出力する。なお、差圧センサ50cは、DPF50bの上流側及び下流側のそれぞれの圧力を検出する2つの圧力センサで構成されてもよい。
本実施例では、コントローラ30は、吐出圧センサ14a、ゲートロックレバー27、エンジンコントローラ35等の出力に基づいて油圧系異常検出部30a及び燃料良否判定部30bのそれぞれによる処理を実行する。その後、コントローラ30は、油圧系異常検出部30a及び燃料良否判定部30bのそれぞれの処理結果に応じた制御信号を適宜に表示部31等に対して出力する。
また、エンジンコントローラ35は、回転数センサ11a、ブースト圧センサ11b、大気圧センサ11c、水温センサ11d、差圧センサ50c等の出力に基づいてエンジン系異常検出部35aによる処理を実行する。その後、エンジンコントローラ35は、エンジン系異常検出部35aの処理結果に応じた制御信号を適宜にコントローラ30等に対して出力する。また、エンジンコントローラ35は、差圧センサ50cの検出値をコントローラ30に転送する。なお、差圧センサ50cは、検出値をコントローラ30に直接出力してもよい。
また、エンジンコントローラ35は、所定条件が満たされた場合に、DPF50bの再生処理を実行する。本実施例では、エンジンコントローラ35は、ショベルの稼働時間が所定時間(例えば8時間)に達する毎に、DPF50bの再生処理を自動的に実行する。また、エンジンコントローラ35は、ショベルの稼働時間が所定時間に達していなくとも、差圧センサ50cの検出値であるDPF差圧が所定圧力以上となった場合に、DPF50bの再生処理を自動的に実行する。また、エンジンコントローラ35は、図示しない入力部を介した操作者の入力に応じて再生処理を実行してもよい。
次に、コントローラ30における油圧系異常検出部30a及び燃料良否判定部30b、並びにエンジンコントローラ35におけるエンジン系異常検出部35aの詳細について説明する。
油圧系異常検出部30aは、油圧系の異常の有無を判定する機能要素である。本実施例では、油圧系異常検出部30aは、例えば、吐出圧センサ14a等の出力に基づいてメインポンプ14の吐出量のハンチングを検出した場合に、油圧系に異常があると判定する。メインポンプ14の吐出量がハンチングすると、エンジン負荷もハンチングし、エンジン11がエンジン負荷の上下変動に応じて燃料を噴射して黒煙(煤)を排出し易くなるためである。また、黒煙(煤)の排出量が増加することによってDPFが詰まり易くなるためである。そして、油圧系異常検出部30aは、油圧系に異常があると判定した場合に、その旨を操作者に伝える警告メッセージを表示部31に表示させる。具体的には、油圧系異常検出部30aは、メインポンプ14の吐出量のハンチングを検出した場合に、メインポンプ14の不具合を知らせる警告メッセージを表示部31に表示させる。また、油圧系異常検出部30aは、通信を介して警告メッセージを外部に送信してもよい。メインポンプ14の点検をショベルの操作者、管理者、所有者等(以下、「操作者等」とする。)に促すためである。また、油圧系異常検出部30aは、その判定結果をコントローラ30に参照可能に記憶する。
エンジン系異常検出部35aは、エンジン系の異常の有無を判定する機能要素である。本実施例では、エンジン系異常検出部35aは、例えば、大気圧センサ11cの出力に基づいて大気圧センサ11cの異常を検出した場合に、エンジン系に異常があると判定する。大気圧センサ11cが故障すると、エンジン11は、大気圧センサ11cの出力を利用できず、大気圧が所定圧力であるとの前提で燃料の噴射タイミングを決定せざるを得ないためである。すなわち、エンジン11は、最適な噴射タイミングで燃料を噴射できず、黒煙(煤)を排出し易くなるためである。また、黒煙(煤)の排出量が増加することによってDPFが詰まり易くなるためである。そして、エンジン系異常検出部35aは、エンジン系に異常があると判定した場合に、その旨を操作者に伝える警告メッセージを表示部31に表示させる。具体的には、エンジン系異常検出部35aは、大気圧センサ11cの異常を検出した場合に、大気圧センサ11cの異常を知らせる警告メッセージを表示部31に表示させる。また、エンジン系異常検出部35aは、通信を介して警告メッセージを外部に送信してもよい。大気圧センサ11cの点検を操作者等に促すためである。また、エンジン系異常検出部35aは、その判定結果をコントローラ30に参照可能に記憶する。
燃料良否判定部30bは、エンジン11で使用される燃料の良否を判定する機能要素である。本実施例では、燃料良否判定部30bは、エンジン系異常検出部35a及び差圧センサ50c等の出力に基づいて燃料の良否(燃料の異常の有無)を判定する。そして、燃料良否判定部30bは、燃料に異常があると判定し、且つ、エンジン系異常検出部35aの判定結果に基づいてエンジン系に異常がないことを確認した場合に、燃料に異常がある旨を操作者等に通知する。
ここで、図3を参照して、燃料良否判定部30bが燃料の良否を判定する処理(以下、「燃料良否判定処理」とする。)について説明する。なお、図3は、燃料良否判定処理の流れを示すフローチャートの一例であり、燃料良否判定部30bは、例えば、DPF50bの再生処理が実行される度にこの燃料良否判定処理を実行する。
最初に、燃料良否判定部30bは、DPF50bが目詰まりを起こしたか否かを判定する(ステップST1)。本実施例では、燃料良否判定部30bは、差圧センサ50c等の出力に基づいてDPF50bが目詰まりを起こしたか否かを判定する。なお、DPF50bが目詰まりを起こしたか否かの判定方法の詳細は後述する。
DPF50bにて目詰まりを起こしたと判定した場合(ステップST1のYES)、燃料良否判定部30bは、エンジンコントローラ35におけるエンジン系異常検出部35aの判定結果に基づいてエンジン系の異常の有無を確認する(ステップST2)。
エンジン系異常検出部35aの判定結果がエンジン系異常有りの場合(ステップST2のYES)、燃料良否判定部30bは、燃料が粗悪燃料ではなくエンジン系に異常があると判断し、エンジン系に異常がある旨を操作者等に通知する(ステップST3)。本実施例では、燃料良否判定部30bは、エンジン系に異常がある旨を表す警告メッセージを表示部31に表示させる。また、燃料良否判定部30bは、通信を介して警告メッセージを外部の管理装置へ送信してもよい。例えば、DPF50bの目詰まりの原因の1つである黒煙(煤)の排出量の増加は、上述のように大気圧センサ11cの異常及び粗悪燃料の使用の何れによっても起こり得るためである。また、大気圧センサ11cの異常が検出されている以上、大気圧センサ11cの点検を最優先とすべきだからである。この際、DPF50bも目詰まりを起こしているので、DPF50bが目詰まりを起こした旨の警告メッセージを表示部31に表示させ、DPFの点検を操作者へ促す。
一方、エンジン系異常検出部35aの判定結果がエンジン系異常無しの場合(ステップST2のNO)、燃料良否判定部30bは、燃料が粗悪燃料であると判断し、DPF50bが目詰まりを起こした旨を操作者等に通知する(ステップST4)。本実施例では、燃料良否判定部30bは、DPF50bが目詰まりを起こした旨を表す警告メッセージを表示部31に表示させる。また、燃料良否判定部30bは、通信を介して警告メッセージを外部の管理装置へ送信してもよい。この際、DPF50bの目詰まりが粗悪燃料に起因するものである可能性が高いと判断できるため、燃料に異常がある旨の警告メッセージを表示部31に表示させるようにし、操作者に燃料の点検を促すようにしてもよい。
なお、DPF50bが目詰まりを起こしていないと判定した場合(ステップST1のNO)、燃料良否判定部30bは、何らの情報を操作者等に通知することなく、今回の燃料良否判定処理を終了する。そして、燃料良否判定部30bは、この燃料良否判定処理を所定の制御周期で繰り返す。
このように、燃料良否判定部30bは、DPF50bが目詰まりを起こしたと判定し、且つ、エンジン系異常検出部35aの判定結果に基づいてエンジン系に異常がないことを確認した場合に、燃料に異常があると判定する。そのため、燃料の異常の有無を信頼性高く判定することができる。
次に、図4を参照して、燃料良否判定処理の別の実施例について説明する。なお、図4は、本実施例に係る燃料良否判定処理の流れを示すフローチャートの一例であり、燃料良否判定部30bは、例えば、DPF50bの再生処理が実行される度にこの燃料良否判定処理を実行する。また、図4のフローチャートは、油圧系異常検出部30aの判定結果に基づいて油圧系の異常の有無を確認するステップST12を有する点で図3のフローチャートと相違するがその他の点で共通する。そのため、共通点の説明を省略し、相違点を詳細に説明する。
DPF50bが目詰まりを起こしたと判定した場合(ステップST11のYES)、燃料良否判定部30bは、油圧系の異常の有無を確認する(ステップST12)。本実施例では、燃料良否判定部30bは、油圧系異常検出部30aの判定結果を参照して油圧系の異常の有無を確認する。
油圧系異常検出部30aの判定結果が油圧系異常有りの場合(ステップST12のYES)、燃料良否判定部30bは、燃料が粗悪燃料ではなく油圧系に異常があると判断し、油圧系に異常がある旨を操作者等に通知する(ステップST13)。本実施例では、燃料良否判定部30bは、油圧系に異常がある旨を表す警告メッセージを表示部31に表示させる。また、燃料良否判定部30bは、通信を介して警告メッセージを外部の管理装置へ送信してもよい。例えば、DPF50bの目詰まりの原因の1つである黒煙(煤)の排出量の増加は、上述のようにメインポンプ14のハンチング及び粗悪燃料の使用の何れによっても起こり得るためである。また、メインポンプ14の異常が検出されている以上、メインポンプ14の点検を最優先とすべきだからである。この際、DPF50bも目詰まりを起こしているので、DPF50bが目詰まりを起こした旨の警告メッセージを表示部31に表示させ、DPFの点検を操作者へ促す。
一方、油圧系異常検出部30aの判定結果が油圧系異常無しの場合(ステップST12のNO)、燃料良否判定部30bは、エンジン系異常検出部35aの判定結果に基づいてエンジン系の異常の有無を確認する(ステップST14)。なお、ステップST14以降の工程は、図3のステップST2以降の工程と同じであるためその説明を省略する。
また、本実施例では、燃料良否判定部30bは、油圧系に異常が無いことを確認した後でエンジン系の異常の有無を確認している。しかしながら、本発明はこの構成に限定されるものではない。例えば、燃料良否判定部30bは、エンジン系に異常が無いことを確認した後で油圧系の異常の有無を確認してもよく、油圧系の異常の有無とエンジン系の異常の有無とを同時に確認してもよい。
また、本実施例では、燃料良否判定部30bは、油圧系異常検出部30aの判定結果に基づいて油圧系に異常があることを確認した場合には、エンジン系の異常の有無を確認していない。しかしながら、本発明はこの構成に限定されるものではない。例えば、燃料良否判定部30bは、油圧系異常検出部30aの判定結果に基づいて油圧系に異常があることを確認した後で、エンジン系異常検出部35aの判定結果に基づいてエンジン系の異常の有無を確認してもよい。
このように、燃料良否判定部30bは、DPF50bが目詰まりを起こしたと判定し、且つ、油圧系にもエンジン系にも異常がないことを確認した場合に、燃料に異常があると判定する。そのため、燃料の異常の有無を信頼性高く判定することができる。
次に、図5〜図10を参照して、燃料良否判定部30bにより判定処理されるDPF50bの目詰まり判定方法について説明する。なお、図5は、ショベルの稼働時間とDPF差圧との関係を示す概略図である。図5において、実線の三角波状の推移TCは、粗悪燃料を使用した場合のDPF差圧の時間的推移を表し、破線の三角波状の推移TC1は、良質燃料を使用した場合のDPF差圧の時間的推移を表す。また、実線の右上がりの推移BCは、粗悪燃料を使用した場合の基準DPF差圧の時間的推移を表し、破線の右上がりの推移BC1は、良質燃料を使用した場合の基準DPF差圧の時間的推移を表す。なお、「基準DPF差圧」は、稼働時間から導き出される再生処理後のDPF差圧の推定値を意味する。
上述のように、DPF50bは、ショベルの稼働時間が所定時間(例えば8時間)に達する毎に再生処理が自動的に施される。そのため、図5に示すように、DPF差圧が所定圧力Pth(点線参照。)を上回るまでは、粗悪燃料及び良質燃料の何れを使用した場合であっても、DPF差圧は三角波状に推移する。すなわち、DPF差圧は、再生処理の後、次の再生処理が行われるまで、ショベルの稼働時間が増大するにつれて徐々に増大し、その後の再生処理によって低減される。この場合、粗悪燃料を使用した場合の再生処理の実行間隔Ta、及び良質燃料を使用した場合の再生処理の実行間隔Ta1は何れも所定時間に等しい時間となる。
また、DPF50bは、差圧センサ50cが出力するDPF差圧が所定圧力Pthを上回ると、前回の再生処理後のショベルの稼働時間が所定時間未満であっても再生処理が自動的に施される。なお、図5の点線円は、DPF差圧が所定圧力Pthを上回った状態を示す。この場合、良質燃料を使用した場合の再生処理の実行間隔Tb1が所定時間に等しい時間であるのに対し、粗悪燃料を使用した場合の再生処理の実行間隔Tbは所定時間未満となる。
また、推移BC1で表されるように、良質燃料を使用した場合の基準DPF差圧は、初めのうちは比較的高い上昇率で上昇するものの、ショベルの累積稼働時間がある程度の時間に達するとほぼ横ばいに推移する。初めのうちは、再生処理によって除去できないDPF50bの周縁部分にPMが堆積するためである。また、ショベルの累積稼働時間がある程度の時間に達した後は、再生処理によって除去可能な部分に堆積したPMが再生処理によって繰り返し燃焼除去されるためである。
一方、推移BCで表されるように、粗悪燃料を使用した場合の基準DPF差圧は、ショベルの累積稼働時間がある程度の時間に達した後も、良質燃料を使用した場合に比べて高い上昇率で上昇し続ける。再生処理によって除去できないアッシュ等のPMが徐々にDPF50b内に堆積していくためである。
また、連続する2回の再生処理の間のDPF差圧の平均上昇率は、良質燃料を使用した場合に比べ、粗悪燃料を使用した場合に高くなる。粗悪燃料を使用した場合、良質燃料を使用した場合に比べ、黒煙(煤)等のPMの排出量が多いためである。
そこで、燃料良否判定部30bは、粗悪燃料を用いた場合の推移TCと良質燃料を用いた場合の推移TC1との間に存在する上述のような違いに基づく判定条件を用いてDPF50bの詰まり具合を判断する。本実施例では、燃料良否判定部30bは、以下に示すような判定条件を用いてDPF50bが目詰まりを起こしたか否かを判定する。
図6〜図10はそれぞれ判定条件の説明図であり、図5に示すような粗悪燃料を使用した場合のDPF差圧の時間的推移TCの一部を拡大した図である。なお、図6〜図10のそれぞれにおける黒色のブロック矢印は、再生処理が実行されたことを表す。
図6は、再生処理の実行間隔が所定回数続けて所定時間を下回ったか否かという判定条件(以下、「第1判定条件」とする。)の説明図である。
具体的には、図6は、DPF差圧が所定圧力Pthを上回ったために、所定時間Tthの経過を待たずして再生処理R3及びR4が開始されたことを示す。この場合、再生処理R2と再生処理R3との間の実行間隔T2、及び、再生処理R3と再生処理R4との間の実行間隔T3は何れも所定時間Tthを下回る。
その結果、燃料良否判定部30bは、再生処理の実行間隔が2回続けて所定時間を下回ったとし、DPF50bが目詰まりを起こしたと判定する。
図7は、再生処理の実行間隔が所定回数続けて短くなったか否かという判定条件(以下、「第2判定条件」とする。)の説明図である。
具体的には、図7は、DPF差圧が所定圧力Pthを上回ったために、所定時間Tthの経過を待たずして再生処理R3、R4、及びR5が開始されたことを示す。この場合、再生処理R2と再生処理R3との間の実行間隔T2、再生処理R3と再生処理R4との間の実行間隔T3、及び、再生処理R3と再生処理R4との間の実行間隔T4は何れも所定時間Tthを下回る。また、本実施例では、DPF50b内に堆積する燃焼困難なPMが時間の経過と共に増加するため、再生処理R1〜R4のそれぞれによって減少するDPF差圧の減少幅が徐々に小さくなり、実行間隔T1〜T4も徐々に短くなる。
その結果、燃料良否判定部30bは、再生処理の実行間隔が3回続けて短くなったとし、DPF50bが目詰まりを起こしたと判定する。
図8は、前回の再生処理の実行後と今回の再生処理の実行前との間のDPF差圧の平均上昇率が所定値を上回ったか否かという判定条件(以下、「第3判定条件」とする。)の説明図である。
具体的には、図8は、再生処理R2の実行後と再生処理R3の実行前との間のDPF差圧の平均上昇率α2が、再生処理R1の実行後と再生処理R2の実行前との間のDPF差圧の平均上昇率α1より大きいことを示す。DPF50b内に堆積する燃焼困難なPMが時間の経過と共に増加し、DPF差圧が上昇し易くなるためである。また、図8は、点線円で囲んだ部分拡大図において、平均上昇率α2が所定値αthより大きいことを示す。
その結果、燃料良否判定部30bは、再生処理R2の実行後と再生処理R3の実行前との間のDPF差圧の平均上昇率α2が所定値αthを上回ったとし、DPF50bが目詰まりを起こしたと判定する。なお、燃料良否判定部30bは、平均上昇率α1と平均上昇率α2とを比較し、平均上昇率が増加している(α1<α2)と判断した場合に、DPF50bが目詰まりを起こしたと判定してもよい。
図9は、今回の再生処理によって減少したDPF差圧の減少幅と、前回の再生処理によって減少したDPF差圧の減少幅との差が所定値を上回ったか否かという判定条件(以下、「第4判定条件」とする。)の説明図である。
具体的には、図9は、再生処理R1によって減少したDPF差圧の減少幅D1が、再生処理R2によって減少したDPF差圧の減少幅D2より大きいことを示す。DPF50b内に堆積する燃焼困難なPMが時間の経過と共に増加し、DPF差圧が上昇し易くなるためである。また、図9は、点線円で囲んだ部分拡大図において、減少幅D1と減少幅D2との差V1が所定値Vthより大きいことを示す。
その結果、燃料良否判定部30bは、再生処理R1によって減少したDPF差圧の減少幅D1と再生処理R2によって減少したDPF差圧の減少幅D2との差V1が所定値Vthを上回ったとし、DPF50bが目詰まりを起こしたと判定する。
図10は、再生処理の実行後のDPF差圧が基準DPF差圧まで減少しなかった回数が所定回数を上回ったか否かという判定条件(以下、「第5判定条件」とする。)の説明図である。なお、図10は、再生処理の実行後のDPF差圧を黒丸で表し、再生処理の実行後の基準DPF差圧を白丸で表す。
具体的には、図10は、再生処理R1の実行後のDPF差圧P1が基準DPF差圧Q1に等しく、再生処理R2の実行後のDPF差圧P2が基準DPF差圧Q2より大きいことを示す。また、図10は、再生処理R3の実行後のDPF差圧P3が基準DPF差圧Q3より大きく、再生処理R4の実行後のDPF差圧P4が基準DPF差圧Q4に等しく、再生処理R5の実行後のDPF差圧P5が基準DPF差圧Q5より大きいことを示す。この場合、図10は、5回の再生処理R1〜R5のうち3回の再生処理R2、R3、及びR5において、再生処理の実行後のDPF差圧が基準DPF差圧より大きかったことを示す。
その結果、燃料良否判定部30bは、再生処理R5が終了した時点で、再生処理の実行後のDPF差圧が基準DPF差圧まで減少しなかった回数が2回を上回ったとし、DPF50bが目詰まりを起こしたと判定する。
また、燃料良否判定部30bは、再生処理の実行が手動により開始されたか否かという判定条件(以下、「第6判定条件」とする。)を用いてDPF50bの詰まり具合を判断してもよい。具体的には、燃料良否判定部30bは、再生処理の実行が手動により開始された場合にDPF50bが目詰まりを起こしたと判定する。なお、手動による再生処理は、ショベルを作業不可状態とした上で実行される。具体的には、エンジンに加わる負荷が小さいため、排気温度が高温にならない場合には、手動再生がメッセージ表示等により促される。手動による再生処理は、例えば、ゲートロックレバー27をロック状態とし、ショベルを作業不可状態とした上で実行される。また、手動による再生処理は、例えば、ゲートロックレバー27がロック解除状態とされ、ショベルが作業可能状態とされた場合に中断される。
このように、燃料良否判定部30bは、第1〜第6判定条件のうちの少なくとも1つを用いてDPF50bの詰まり具合を判断する。具体的には、燃料良否判定部30bは、第1〜第6判定条件のうちの少なくとも1つを用いてDPF50bが目詰まりを起こしたか否かを判定する。
また、燃料良否判定部30bは、エンジン11の負荷率とDPF差圧とを追加的に考慮して燃料の良否を判定してもよい。具体的には、燃料良否判定部30bは、吐出圧センサ14a、エンジンコントローラ35等の出力に基づいてエンジン11の負荷率を算出する。エンジン11の負荷率は、例えば、エンジン11の出力馬力に対するメインポンプ14の吸収馬力の比として算出される。また、現在の噴射量とエンジン回転数毎に定められる定格出力時の噴射量との比に基づいて算出されてもよい。負荷率に基づいて判断する場合、燃料良否判定部30bは、所定時間におけるエンジン11の負荷率の平均値が所定値を上回ったにもかかわらず、DPF差圧が所定値を上回る場合に、燃料に異常があると仮判定する。良質燃料を使用した場合には、エンジン11の負荷率の平均値が高いとDPF50bが高温になり、自己再生によってDPF50b内のPMが燃焼除去され、DPF差圧が低下するはずだからである。換言すれば、粗悪燃料を使用した場合には、エンジン11の高い平均負荷率によりDPF50bが高温になったとしても、DPF50b内に堆積する燃焼困難なPMが燃焼除去されず、DPF差圧が低下しないためである。
その上で、燃料良否判定部30bは、DPF50bの詰まり具合と、エンジン系異常検出部35aの出力とに基づいて燃料の良否を判定する。この場合、燃料良否判定部30bは、DPF50bの詰まり具合と、エンジン系異常検出部35aの出力とに基づいて燃料に異常があると判定できる場合であっても、エンジン11の負荷率とDPF差圧とに基づいて燃料に異常がないと仮判定した場合には、燃料に異常がないと最終判定してもよい。DPF50bの詰まり具合と、油圧系異常検出部30aの出力と、エンジン系異常検出部35aの出力とに基づいて燃料の良否を判定する場合についても同様である。
以上の構成により、コントローラ30は、DPF50bが目詰まりを起こしたと判定し、且つ、エンジン系に異常がないことを確認した場合に、燃料に異常があると判定する。或いは、コントローラ30は、DPF50bが目詰まりを起こしたと判定し、且つ、油圧系にもエンジン系にも異常がないことを確認した場合に、燃料に異常があると判定する。そのため、燃料の異常の有無を信頼性高く判定することができる。また、燃料の異常の有無を早期に判定することができ、インジェクタ、排気ガス再循環システム、過給機等のエンジン11の他の部品に悪影響が及ぶのを防止できる。
また、コントローラ30は、エンジンコントローラ35から独立した構成要素として機能し、DPF50bの詰まり具合及び燃料の良否を判定する。そのため、判定結果の信頼性を向上させることができる。但し、コントローラ30とエンジンコントローラ35とは一体的に構成されてもよい。
また、コントローラ30は、上述の第1〜第6判定条件のうちの少なくとも1つを用いてDPF50bの詰まり具合を判断する。具体的には、コントローラ30は、上述の第1〜第6判定条件の任意の組み合わせを用いてDPF50bの詰まり具合を判断する。そのため、DPF50bが目詰まりを起こしたか否かを信頼性高く判定することができる。
また、コントローラ30は、エンジン11の負荷率とDPF差圧とを追加的に考慮して燃料の異常の有無を判定する。そのため、燃料の異常の有無をより信頼性高く判定することができる。
以上、本発明の好ましい実施例について詳説したが、本発明は、上述した実施例に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなしに上述した実施例に種々の変形及び置換を加えることができる。
例えば、コントローラ30は、新品のDPFの使用を開始した後或いはDPFを交換した後のショベルの累積稼働時間に応じて、上述の第1〜第6判定条件のうちの何れを用いるか、或いは、上述の第1〜第6判定条件のうちの何れの組み合わせを用いるかを決定してもよい。例えば、コントローラ30は、ショベルの累積稼働時間が所定時間未満の場合に第1判定条件を用い、ショベルの累積稼働時間が所定時間以上の場合に第2判定条件と第3判定条件との組み合わせを用いてDPF50bの目詰まりの有無を判定してもよい。
また、コントローラ30は、天候、気温、湿度、大気圧等の周囲環境に応じて、採用する判定条件又は判定条件の組み合わせを決定してもよい。
また、コントローラ30は、三角波状に推移するDPF差圧の繰り返しパターン(再生処理の開始によって減少した後で次の再生処理が開始されるまで増大するDPF差圧が描くパターン)に基づいてDPF50bの目詰まりの有無を判定してもよい。例えば、コントローラ30は、今回の繰り返しパターンが前回の繰り返しパターンに比べて所定の度合を超えて変化した場合に、DPF50bが目詰まりを起こしたと判定してもよい。なお、所定の度合いは、例えば、DPF差圧の減少幅、DPF差圧の平均上昇率、再生処理実行直後のDPF差圧の極小値、再生処理実行直前のDPF差圧の極大値等に基づいて定められる。
また、上述の実施例では、エンジン11で使用される燃料の良否は、コントローラ30の燃料良否判定部30bで判定される。しかしながら、本発明は、この構成に限定されるものではない。例えば、エンジン11で使用される燃料の良否は、ショベルの外部にある管理装置で判定されてもよい。この場合、管理装置は、燃料の良否を判定する判定処理部と、その判定処理部による判定結果を表示する表示部とを有する。そして、判定処理部は、ショベルから送信される、圧力センサの出力に基づくDPF50bの詰まり具合と、エンジン系異常検出部35aの判定結果とに基づいて燃料の良否を判定する。また、判定処理部は、ショベルから送信される、圧力センサの出力に基づくDPF50bの詰まり具合と、エンジン系異常検出部35aの判定結果と、油圧系異常検出部30aの判定結果とに基づいて燃料の良否を判定してもよい。