JP6204716B2 - 保定用ワイヤー - Google Patents

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Description

本発明は歯列の矯正、特に矯正された歯列を保定するため口腔内に装着される保定用具のワイヤー部分に関する。
歯科矯正治療は偏位した歯を口腔内の所望の位置に移動させるものである。歯科矯正治療は特に歯並びが著しく悪い場合または顎が互いにずれている場合、患者の顔の外見を改善することができる。歯科矯正治療は又、咀嚼中の咬合を良好にすることによって、歯の働きを向上させることができる。
歯科矯正治療の一つの一般的形式はブラケットとして知られるごく小さなスロット付きの装具を使用することを含む。そのブラケットは患者の歯に固定され、各ブラケットのスロット内にアーチワイヤが配置される。そのアーチワイヤは歯の移動を所望の位置に導く軌道を形成する。
歯科矯正アーチワイヤの端部は、しばしば、バッカルチューブとして知られる小さな装具に連結され、その装具は患者の臼歯に固定される。多くの場合、一組のブラケット、バッカルチューブおよびアーチワイヤが、患者の上歯列弓および下歯列弓のそれぞれに対して設けられる。ブラケット、バッカルチューブおよびアーチワイヤは一般に、総じて「ブレース」と呼ばれている。
多数の種類の歯科矯正技法において、装具を歯に正確に配置することは歯がその意図される最終的な位置に移動するようにするための重要な要素である。例えば、ある一般的な種類の歯科矯正治療法は「ストレートワイヤ」法として知られており、その治療法において、アーチワイヤは治療が終わる際には水平面内に位置する。結果的に、ブラケットが、歯の咬合部または外側先端部に近すぎる場所で歯に取り付けられた場合、ストレートワイヤ法を用いる矯正歯科医はおそらくは最終的な位置にある歯が不適切に干渉されているのを見出すことになろう。これに反して、ブラケットが、歯肉に近すぎる場所で歯に取り付けられた場合、その歯の最終的な位置はおそらくは望ましい程度よりもさらに突き出ているであろう。
一般に、患者の歯に接着剤で結合されるように適合された歯科矯正装具が、2つの技法、即ち、ダイレクトボンディング法またはインダイレクトボンディング法のいずれか一方によって配置され、歯に連結される。ダイレクトボンディング法では装具および接着剤は一組のピンセットまたは他の手用器具で把持され、施術者によって歯の表面上のほぼ所望の場所に配置される。次に、装具は必要に応じて、施術者がその位置に満足するまで、歯の表面に沿って移動される。装具が、的確で且つ意図した場所に位置すると、装具は歯にしっかりと押し付けられ、接着剤の中に案内される。装具の基部に隣接した領域内の過剰な接着剤が除去され、次いで、その接着剤が硬化し、装具を定位置にしっかりと固定する。
歯の移動は、矯正装置によって力をかけられた歯の周りの骨(歯槽骨)が溶け、その溶けてできた隙間に新しい骨ができることを繰り返して起こる。
このため、歯の移動が終了した後も、歯の周りの骨は、しっかり詰まっているわけではなく、不安定な状態である。また、歯と歯ぐきとを結んでいる繊維の形は簡単には変わらないため、新しい歯の位置から、もともとあった位置に引き戻す力を歯に加えている。
つまり、矯正装置をはずしたあとの歯の周りの骨とハグキの繊維は、矯正治療をする前の元に位置に戻ろうとしているため、とても不安定な状態である。このため矯正装置を外した後は、リテーナーと呼ばれる保定用器材でしっかりと保定して、正しい位置に歯を固定しておく必要がある。
それを防ぐための操作が必要であり、それが保定であり、そのための保定材、保定具、乃至は保定装置が各種知られているが、大きく分けて、取り外し出来ない固定式と取り外し可能な可撤式に分類される。通常、その装着期間は約2年〜3年が目安とされている。
フィックスリテーナー(ワイヤーボンディング、G-Archなど)は細くて丈夫なワイヤーを歯の裏側に接着し、歯を強固にとめておくものである。使用方法は主に、前歯部の裏側に接着し固定するので、患者本人が取り外すことはできないが保定性に優れている。取り外し式のリテーナーよりも装置が小さく目立ちにくいのとの特性を有する。
フィックスリテーナーのみで保定することもあるが、たいていは床装置型リテーナー、クリアリテーナーと呼ばれる取り外し式の保定装置と併用する。通常は矯正のエッジワイズ装置の撤去と同時に、上下顎前歯部の裏側につけるが、噛み合わせが深い場合は下顎前歯が噛みこむ可能性があり、上顎前歯部に使いにくい場合がある。
下顎前歯部につけた場合、歯石がつきやすく、数ヶ月に一度、医院で除去する必要がある。
装着期間は約2年〜3年で、外すと後戻りが予想される場合はさらに、長期間つけておくこともある。
床装置型リテーナー(ベッグタイプリテーナー、ホーレータイプリテーナーなど)は同じく保定装置の一種だが、取り外し可能なタイプである。各種のタイプがあり、使用目的は違うがどれも床装置に分類されるものである。使用方法はエッジワイズ装置撤去後すぐは後戻りしやすいため、食事や歯磨き以外、出来るだけ長時間使用するものである。その後、使用時間を徐々に減らしていき、寝ているときのみの使用となる。
フィックスリテーナーと呼ばれる保定装置と併用する場合が多く、その場合は使用時間を夜間だけにすることが出来る。エッジワイズ装置の撤去と同時に、リテーナーの使用を開始する。
取り外しが可能なため、虫歯などの可能性が無く、簡単で利便性が高い反面、装着時間が短かったり、紛失などが重なると、戻ってしまうこともある。
装着期間は約2年〜3年だが、安定度が悪い場合はさらに、長期間つけておくこともある。
スプリングリテーナーはベッグタイプリテーナー等と同じく取り外し式の装置で、主に、下顎前歯部に使用する。
スプリングリテーナーは単に元の形をとどめておくだけでなく、復元力もあるため、軽度の後戻り症例の治療にも利用される。使用方法はエッジワイズ装置撤去後すぐは後戻りしやすいため、食事や歯磨き以外、出来るだけ長時間使用できる。その後、使用時間を徐々に減らしていき、寝ているときのみの使用となる。
フィックスリテーナーと呼ばれる保定装置との併用はできないが、フィックスリテーナー撤去後の保定装置として使用することがある。エッジワイズ装置の撤去と同時に、スプリングリテーナーの使用を開始する。
取り外しが可能なため、虫歯などの可能性が無く、簡単で利便性が高い反面、装着時間が短かったり、紛失などが重なると、戻ってしまうこともある。
取り外し式の装置の中で最も小さいので、紛失しないよう注意する必要がある。
装着期間は約2年〜3年だが、安定度が悪い場合はさらに、長期間つけておくこともある。
クリアリテーナー(インビジブルタイプ、マウスピースなど)は取り外し可能な、透明のマウスピース型保定装置である。その素材、厚みなどが工夫され、各種開発されている。部分的な保定ではなく、全体的な安定が得られる。使用方法はエッジワイズ装置撤去後すぐは後戻りしやすいため、食事や歯磨き以外、出来るだけ長時間使用できる。その後、使用時間を徐々に減らしていき、寝ているときのみの使用となる。
フィックスリテーナーと呼ばれる保定装置と併用することで、より効果を高める場合もある。エッジワイズ装置の撤去と同時に、クリアリテーナーの使用を開始する。取り外しが可能なため、虫歯などの可能性が無く、簡単で利便性が高い反面、装着時間が短かったり、紛失などが重なると、戻ってしまうこともある。透明の装置なので、紛失しないよう注意が必要である。
歯が噛み合う面にも装置が覆っているため、穴が開いて破損しやすい。そのため、時々作り直しが必要となることがある。装着期間は約2年〜3年だが、安定度が悪い場合はさらに、長期間装着しておくこともある。
これらの中で審美性が良好なのは舌側のみに保定装置が配置されるフィックスリテーナーである。また、これは歯面への密着度が高いので口腔内での違和感が少なく、接着材で永続的に保定されるので、大きな保定効果が期待されるものである。
しかしながら従来の歯科用保定はたとえ舌側のワイヤー線であっても、見えてしまうこともあるので、やはり外観上の審美性が悪く、歯科用保定による矯正歯の保定期間中、患者に対し負担がかかっていた。
この審美性に関しては特許文献1(実用新案登録第3098699号公報)の通り、床装置型リテーナーの分野ではあるが、金属ワイヤーの外周部分に合成樹脂等よりなる外装部材で覆うことにより解決を図る試みも見られる。
しかしながら、特許文献1のような金属ワイヤーの外周部分に合成樹脂等よりなる外装部材で覆う手法ではその被覆に余分の材料と加工コストが必要である。その上、このようなワイヤーは材料力学的には金属を主体とする材質であるため、ワイヤーを歯面に正確に沿って変形配置させる場合には、金属は硬いので、施術者の多大な労力や、患者に負担となる長い作業時間を要するものであった。さらに線材として容易に利用可能な樹脂は接着性が悪いので、ワイヤーを接着固定する場合には有効な保定効果が発現されるか大きな疑問が持たれ、このような場合に用いることは何ら試みられて来なかった。
実用新案登録第3098699号公報。
本発明では審美性の問題を低コストにて解決し、ワイヤーを歯面に正確に沿って変形配置させる際の労力や所要時間を大幅に削減できる保定用ワイヤーを提供することを目的としている。
本発明の保持用ワイヤーは塑性変形性を有する樹脂からなることを特徴としている。ここで塑性変形性とは、使用するワイヤーについて90度折曲げ試験を行った際の戻り角が20度以下であることを意味する。
本発明で使用するワイヤーの平均太さは通常は0.2〜1.5mm、好ましくは0.2〜1.2mmである。
また、本発明の保定用ワイヤーは、硬化性樹脂により固定する保定技法にて用いられるものであることが好ましい。
さらに、本発明の保定用ワイヤーは、前記樹脂の主要成分である樹脂として、密度が950kg/m3以上、重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)が5〜15、炭素数3〜6のα−オレフィン含量が2重量%未満であるエチレン単独重合体を50重量%以上の量で含有し、
前記ワイヤーが、一端を固定端とし、他端を自由端とし、固定端から自由端までのスパン長30cmとし、水平片持ち梁状態にセットした場合に、その自由端の水平位置から、自由端の下方へ160mm以下の撓み量を有するものであることが好ましい。但し、撓み量測定時のワイヤーの断面形状は丸形、ワイヤーの太さは直径:0.66mm、撓み量を測定するためにワイヤーに作用させた荷重は無荷重である。
また、本発明の保定用ワイヤーは、断面に凹部を有することが好ましい。
本発明では歯列の矯正、特に保定するため口腔内に装着される保定用具のワイヤー部材として、金属に代えて樹脂を用いることにより、歯質に対する見た目の違和感が減少して審美性が顕著に向上できる。また、金属と異なり樹脂は柔らかいので、歯質を傷つける虞が格段に低下するだけでなく、変形が容易なため、歯面に正確に沿って変形配置させる操作が大変容易となるものである。また、ガラスファイバー製のものは審美性は向上するが作製が難しく、また、破損すると凶器となり周囲に刺さる危険なものであった。その点、本発明は破損しても周囲を傷つける可能性が少なく安全である。
図1は、本発明の一実施例を示す断面図である。 図2は、歯間ブラシの撓み測定の説明図である。 図3は、歪んだ試料の撓み測定の説明図である。 図4は、折り曲げ戻り角の測定方法の説明図である。 図5は、形態保持樹脂材料の構造を模式的に示す図である。 図6は、コモンベーステクニックを説明する図である。
次に本発明の実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
本発明の保定用ワイヤーは塑性変形性樹脂からなる。
本発明の保定用ワイヤーには単繊維保定用ワイヤーと撚糸保定用ワイヤーとがある。
本発明の保定用ワイヤーの内、単繊維保定用ワイヤーは、単独の繊維からなり、その繊維の平均直径は0.6〜1.5mm、好ましくは0.65〜1.2mm、特に好ましくは0.7〜1.0mmである。
本発明の保定用ワイヤーが撚糸保定用ワイヤーである場合は、この撚糸保定用ワイヤーは通常は2〜10本、好ましくは3〜8本のフィラメントを撚り合わせて形成されており、個々のフィラメントの平均直径は通常は0.02〜1mm、好ましくは0.06〜0.6mm、特に好ましくは0.1〜0.3mmの範囲内にある。本発明の撚糸保定用ワイヤーは上記のようなフィラメントを撚り合わせて形成されており、この撚糸保定用ワイヤーの平均直径は0.2〜1.5mm、好ましくは0.3〜1.2mm、特に好ましくは0.35〜1.0mmである。
本発明の保定用ワイヤーの平均直径が前記数値範囲の下限値を下回ると充分な強度を維持することが困難となり、一方、上限値を上回ると口腔内での異物感が顕著となる虞がある。なお、本発明のワイヤーは種々の断面形状を有するので、本発明において直径は断面における測定直径の算術平均値である。
歯科矯正における保定用ワイヤーにおいては、硬化性樹脂に対する接着性が良好でない樹脂で構成されたワイヤー状の線材ではかかる硬化性樹脂を用いる保定では保定効果を発揮することが困難であり、樹脂ワイヤーは、この分野には不向きと考えられてきたが、ワイヤーが複雑な歯列面に密着して配置される場合には硬化した樹脂とワイヤーが複雑に噛み合う嵌合効果により、予想外に、金属材とほぼ同等の保定効果が発現するとの知見が得られた。
従って、本発明の保定用ワイヤーの断面1aの形状は、略円形、楕円形、多角形等であっても良いが、前記嵌合効果を高めるためには、長軸周りに自由回転し難い非真円形であることが好ましい。さらには表面に凹面を有することがより好ましい。凹面とは例えば、図1に示すように、前記断面形状に対して充分長い直線2(断面形状の長径より長い仮想直線)にどのように接触させても、当該線とは、0を超える距離にて隔てて、接触できない領域(不可触領域3)が断面表面に存在することである。なお、各不可触領域はそれぞれ、接触が可能の領域(可触領域4、4')にて隔てられている。各不可触領域中において充分長い直線2が最接近した際に当該直線から最も遠い最奥部5と当該直線との最短距離を当該領域の最奥距離6とする。
最奥距離6は好ましくは0μmを超え350μm以下であり、より好ましくは20〜300μm、さらに好ましくは35〜250μmである。前記数値範囲の下限値を下回る(膨れる)と円形に近づき嵌合効果が低下し回転しやすくなることとなり、一方、上限値を上回ると凸部分が尖りすぎて強度不足となり易く、本発明の保定用ワイヤーを安定に固定することができない。
前記不可触領域の個数は好ましくは3〜10個、より好ましくは4〜8個、さらに好ましくは5〜6個である。前記数値範囲の下限値を下回ると板状となり、一方、上限値を上回ると形状が複雑すぎる。
また、各不可触領域の長さ7は0.1〜1.1mm、より好ましくは0.2〜0.8mm、さらに好ましくは0.3〜0.6mmである。前記数値範囲の下限値を下回ると応力に対する保持力の低下となり、一方、上限値を上回るとバイオフィルム付着が顕著となり、何れも好ましくない。なお、各不可触領域の長さ7は直線が最接近した際の最短の接点8,8'間距離とする。
図1の例では均等な形状の6芒星(ダビデの星)であるが、何らこれに限定されるものではなく、星型形状ならば、好ましくは3〜10芒星、より好ましくは4〜8芒星、さらに好ましくは5〜6芒星である。また、図1のように均等な形状に限定されるわけでなく、多少不均一な形状であっても良い。突端部は角を丸めているが、別段鋭角に角張っていても良い。一方、図1では最奥部5は角が丸められていないが、丸められていても良い。
なお、長さ方向について、金太郎飴の如く何処を切っても同じ断面になるものでも良いし、形状や大きさ等が変化しても良い。
他方、撚糸保定用ワイヤーの場合には、撚りがかかった糸のであるから長さ方向に進むにつれて、断面が徐々に回転するように、向きが変化する。
ところで、長径や短径の定義については、種々の考え方があるが、推奨される方法としては、対象断面に接するように2本の平行線で挟んだ際に、前記平行線の間隔の最大値を当該対象断面の長径とし、最小値を短径とするものである。又、非真円形の平均径は、当該対象断面と同面積である真円の直径を平均径とするのが妥当である。なお、前記の通りに長径、短径、平均径が定義された場合には、平均径よりも短径の方が長いという一見奇妙に見える場合もありえることは、幾何学的乃至は数学的に明白であり、言うまでもない。
本発明は塑性変形性樹脂からなるものである。
勿論、100%樹脂であっても良いが、樹脂を主要成分とする限り、特に限定されるものではないが、本発明のワイヤーは樹脂が好ましくは50重量%以上、より好ましくは70重量%以上、さらに好ましくは95重量%以上含まれている。前記数値範囲を満たさないワイヤーは強度が低下したり、変形に要する力が大きくなる虞がある。なお、本発明のワイヤーにおいて樹脂が主要成分であるならば、ワイヤーには樹脂以外の素材を含有させてもよい。例えばワイヤーの弾性あるいは強度等の力学的特性を改善したり、抗菌性等の物理化学的機能を付与するための成分を配合してもよい。例えば、炭素繊維や金属繊維などの高強度繊維を樹脂中に分散させたり、軸部の芯部に金属細線を通して、形態保持性を高めても良い。あるいは銀、銅乃至はそれらの化合物を樹脂マトリクスに練り込んだり、ドメインを形成させて、抗菌性を発現させても良い。しかしながら、ミクロンオーダーの金属などの高硬度材料が、軸部表面に露出すると、歯肉や歯牙を傷つける虞がある。
ワイヤーに、アルミニウム、鉄、銅、ニッケル、クロム、チタン、白金、パラジウム等の金属、合金乃至は化合物のような高硬度の材料よりなる部材が含まれる場合、特にワイヤーの略全長に渡って連続している形状の場合には、これらの高硬度の材料の直径が好ましくは0.28mm以下、より好ましくは0.1mm以下、さらに好ましくは0.02mm以下であり、ワイヤーにおいてはこれらの高硬度の材料が存する場所のワイヤー表面からの深さは好ましくは0.11mm以上、より好ましくは0.2mm以上、さらに好ましくは0.28mm以上である。なお、高硬度の材料の直径が小さいほど軸中において存在してもよい表面からの深さは浅くなる傾向がある。例えば、軸中に含まれる高硬度の材料よりなる材料の直径が0.015mm以下ならば、表面からの深さは0.005mm以上であれば問題ない。
本発明のワイヤーはその形状を保てる程度の剛性を有することが好ましい。このワイヤーの剛性について、図2に示した撓み測定の説明図を参照しながら説明する。
ワイヤーの剛性は撓み量として表わすことができる。即ち、図2に示すように、スパン長30cmの水平片持ち梁状態に換算して自由端の下方への撓みが好ましくは160mm以下、より好ましくは80mm以下、さらに好ましくは40mm以下である。このようなワイヤーの撓み量はワイヤーの一端を長軸が水平になるように固定して、前記固定端から固定されていない自由端までの長さが30cmとなるように、水平片持ち梁状態に設定する。この際、スパン全長に亘り、単位長さ当たりの重量が不均一となる要素が無いものとする。また、前記換算とはスパン長を30cmに調製不可能な際には異なるスパン長で撓みを測定して、その撓みを、スパン長30cmではどれぐらいの撓み量になるかを算定することにより求めることができる。通常、スパン長方向に、形状、重量が均質ならば、前記撓みはスパン長の3乗に比例していることが知られており、容易に換算することが可能である。
また、正確に測定するためには図3に示す歪んだ試料の撓み測定の説明図に示すように、予め、測定すべきワイヤーに残存している曲がりなどを除去して、一旦直線上にしてから計測すべきであるが、それが困難な場合には一旦撓みを測定してから長軸を中心として180度回転させて、もう一度測定し、両者の平均値を撓みとして採用することが奨められる。必要ならば、90度毎や45度毎等測定数を増やして撓み量を求めても良い。また、水平片持ち梁状態にしてから撓みを測定するまでの間の緩和時間は1〜3600秒の範囲で、充分実用的な精度の測定が可能である。
本発明のワイヤーには形態保持樹脂材が含まれることが好ましい。形態保持樹脂材とは形態保持性を有する樹脂材であり、前記形態保持性とは折曲げたり捻ったりした場合に元の形状に戻らない塑性変形性(塑性変形が可能であること)のことである。なお、後述の通り、本発明において好適である形態保持樹脂材は単なる化学物質だけの問題ではなく、電子顕微鏡的サイズレベルの構造形態を有することにより、初めてその効果を奏するものがあるので、そのような構造形態も包含する場合もあるという意味で、樹脂ではなく、樹脂材という用語を用いるものである。
本発明のワイヤーに用いられる形態保持樹脂材としては特に限定されるものではないが、ワイヤーを形成した際の標準的には使用しようとするワイヤーについて、その塑性変形性が、90度折曲げによる戻り角度が、20度以下、好ましくは15度以下、さらに好ましくは10度以下である。そして、この形態保持樹脂材を有する本発明のワイヤーもこの程度の物性を有することが好ましい。
すなわち、本発明の保持用ワイヤーにおける塑性変形性とは、使用しようとするワイヤーについて直線状の軸部材料に負荷を掛けて該軸部材料を90度に折り曲げてから負荷を解除したときに、その材料が元の状態に復帰しようとする樹脂の物性(角度)を意味する。
前記塑性変形性は図4に示す折り曲げの戻り角の測定方法に従って測定することができる。具体的には図4に示すように、材料を90度に折曲げて5分間保持して解放後、10分経過後の折曲げ戻り角度θで評価する。180度および90度折曲げ時の折曲げ戻り角度θのいずれか一方、特に180度折曲げ戻り角度θが前記角度を超えると、充分な塑性変形性、従って充分な自在形状保持性が得られない。
前記形態保持樹脂材としては特に限定されるものではないが、図5に示すように、樹脂材料の断面方向における延伸倍率が中心から外側に向かって段階的に大きくなるようにし、その結果断面方向に重なる階層的な剪断面が軸方向に生じているように形成することが好ましい。このような樹脂材料の作成方法とその効果が奏する機構は以下の通りである。即ち、一般に樹脂の延伸性は延伸温度により相違するから、温度勾配があると、延伸の効果に差が生じ、そのため構造に差が出る。そこで、延伸操作の際に、延伸される樹脂材料が有る程度太ければ、樹脂材料の表面層と芯部との温度差は充分大きく、温度勾配が断面方向に生じる。このため、表面層と芯部との間で延伸性に差が生じ、延伸倍率を上げるに従って芯部から表面層に向かって徐々に剪断破壊が進行して、樹脂材料の断面方向に重なる剪断面が階層的に生じると考えられる。そして、このような樹脂材料を曲げた時、剪断面間でずれが生じ、その間での摩擦抵抗で曲げ状態を保持するものと考えられる。前記剪断破壊は分子間の滑りおよび結晶ラメラ間を結ぶタイポリマーの一部切断およびラメラ自体の部分的破壊が進むことによるものと推定される。剪断破壊の進行と共に、白化も進行し、延伸糸に塑性変形性が発現する。この塑性変形性の有無自体は実際に小角X線散乱によって確認できる。即ち、分子中に結晶ラメラが存在するX線散乱パターンが表示され、塑性変形性を発現させたポリエチレン延伸糸の場合は分子中に結晶ラメラがないX線散乱パターンが表示される。なお、塑性変形性を発現させた延伸糸の場合、結晶ラメラが現れないのは延伸によって結晶ラメラが破壊されるからである。
このような樹脂材料としては例えば、極限粘度数[η]が3.5dl/g未満のポリエチレンの溶融固化物または前記ポリエチレンと他のポリオレフィンとの混合溶融固化物を延伸して塑性変形性が付与された延伸物が挙げられる。前記延伸物は延伸により結晶化されていて、その断面方向における延伸倍率が中心から外側に向って徐々に大きく、その結果断面方向に重なる階層的な剪断面が軸方向に生じている。
極限粘度数[η]が3.5dl/g未満のポリエチレンの溶融固化物または前記ポリエチレンと他のポリオレフィンとの混合溶融固化物を延伸して塑性変形性が付与された延伸物、特に糸状または帯状の場合の製造方法としては以下のような態様が挙げられる。
原料として使用されるポリエチレンは高密度ポリエチレンのような極限粘度数[η]が3.5dl/g未満、好ましくは1dl/g以上3.5dl/g未満のものである。極限粘度数[η]が3.5dl/g以上のポリエチレンでは押出機1台から1本の延伸糸しか得られないか、あるいは製造工程が増加し、生産性が低下する。
本発明では極限粘度[η]が3.5dl/g未満のポリエチレンは単独で使用しても、あるいはポリプロピレン等の他のポリオレフィンと混合して使用しても、或は樹脂用として通常使用されている各種無機充填剤を添加して使用してもよい。特に充填剤を添加した場合はポリエチレンの剪断破壊を誘発し、塑性変形を容易にすることができる。
このような充填剤の例としては、ガラス繊維、ガラスビーズ、タルク、シリカ、マイカ、炭酸カルシウム、水酸化マグネシウム、アルミナ、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、シリカアルミナ、酸化チタン、酸化カルシウム、ケイ酸カルシウム、硫化モリブデン、酸化アンチモン、クレー、ケイソウ土、硫酸カルシウム、亜硫酸カルシウム、アスベスト、酸化鉄、硫酸バリウム、炭酸マグネシウム、塩基性炭酸マグネシウム、ドロマイト、モンモリロナイト、ベントナイト、鉄粉、鉛粉、亜鉛粉、アルミニウム粉、ボロン繊維、炭化ケイ素繊維、炭素繊維、および、カーボンブラック等を挙げることができる。
前記ポリエチレンまたはこのポリエチレンと他のポリオレフィンとの混合物は公知の押出機、例えば円周上に複数個のノズルを有するトーピード付円形ダイを備えたスクリュー押出機、Tダイ(先端に複数個のノズルを付けていてもよい)を備えたシート押出成形機、インフレーションダイを備えたインフレーションフィルム押出成形機、リップ部分に円形、楕円形、長方形、多角形等、所望の断面形状を持ったダイを備えた異形押出成形機等で溶融後、それぞれのダイから押し出して、最大厚み部の厚さ(断面が略楕円形の場合は短径)が1mm以上の原糸または原帯(原糸または原帯の本数はノズルの数によって決まる)とする。なお、押出機の種類によってチューブ、シート等の形状で得られる場合はダイに直接、切口や回転刃を付けるなどして、押出時に、所望形状の原糸または原帯に切断する。また、原糸はモノフィラメントでもよいし、複数本のモノフィラメントが互いに横方向に一体的につながった連糸等でもよい。
次にこの原糸または原帯を、必要ならば冷却後、通常は60℃以上ポリエチレンの融点未満の温度、好ましくは60〜120℃に保持した延伸槽中で所望の塑性変形性が生じるまで延伸する。この場合、2つの延伸槽を用いて延伸を2回に分けて行ってもよい。この場合の原糸または原帯に対する延伸倍率および伸度(%)は原糸または原帯の最大厚み部の厚さおよび得られる延伸製品の最大厚み部の所望厚さによって大幅に変化するが、一般に延伸倍率は7〜16倍、伸度は50%未満である。延伸倍率が7倍未満では伸度が50%未満でも所望の塑性変形性が得られないことがあり、また延伸倍率が16倍を超えると、伸度が50%未満でも延伸物の強度が低下するか切断する虞がある。また、伸度が50%以上では延伸倍率が7〜16倍の範囲でも、所望の塑性変形性が得られないことがある。
さらに、前記樹脂よりも形態保持性が優れた樹脂材料としては密度が950kg/m3以上、重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)が5〜15、炭素数3〜6のα−オレフィン含量が2重量%未満であるエチレン単独重合体またはエチレン・α−オレフィン共重合体からなる繊維状または帯状の成形体が例示できる。この材料においては密度は好ましくは955〜970kg/m3、特に好ましくは960〜970kg/m3、ゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)に基づく分子量分布(重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn))は好ましくは6〜14、炭素数3〜6のα−オレフィン含量は好ましくは0.05〜1.5重量%のものである。すなわち原料素材の成形加工性の点から、エチレン単独重合体よりエチレン・α−オレフィン共重合体の使用が好ましい。また、このようなエチレン単独重合体またはエチレン・α−オレフィン共重合体としては、190℃、2160g荷重に基づくメルトフローレートが0.1〜1.0g/10分、特に0.2〜0.5g/10分のものであることが好ましい。さらに上記共重合体としては重合構成成分であるα−オレフィンとしてはプロピレンを含むものが好ましい。かかる高密度で適当な分子量分布を有するエチレン単独重合体またはエチレン・α−オレフィン共重合体を使用することにより、塑性変形性、寸法安定性、形状保持性が優れた形状保持材料を容易に得ることができ、また結束強度の大きい結束材として使用することができる。このようなエチレン単独重合体またはエチレン・α−オレフィン共重合体は中低圧法において、触媒、重合温度、分子量調節剤の使用量などの重合条件を適宜選択することによって1段階で製造するか、あるいは条件を異にして各段で分子量の異なる重合体を多段階で製造することによって得ることができる。
また、生産性や樹脂材料のコストの面に難点はあるが、以下のような材料を用いることもできる。即ち、特開昭61−282416号公報に記載されている超高分子量の塑性変形性ポリエチレンワイヤーがあり、その製造方法として、極限粘度数[η]が4dl/g以上の超高分子量ポリエチレンを特殊なスクリュー押出機で溶融し、特定L/D比の円筒ダイ(押出ノズルは1つ)から押し出し、徐冷して1本の原糸とし、これを特定の延伸比で延伸するものである。また、特開平2−293407号公報に記載されている極限粘度数[η]が3.5dl/g以上の超高分子量ポリオレフィンを用いた偏平状の塑性変形性ポリオレフィンワイヤーがあり、このポリオレフィンワイヤーの製造方法は前記ポリオレフィンを特殊なスクリュー押出機で溶融し、特定L/D比のチューブダイ(押出ノズルは1つ)から押し出し、徐冷して1本のチューブに成形した後、これを圧縮ロールで圧縮しながら、特定延伸比で延伸するか、あるいは長尺方向に沿って複数本に切断、分割して原糸としてから同様に延伸するものである。
本発明のワイヤーが、前記形態保持樹脂材と同等の形態保持性を発揮できるならば、当該軸部における形態保持樹脂材の配合形態については何ら限定されるものではなく、前記形態保持樹脂材の繊維自体が軸部全スパンに亘って連続したものであっても良いし、その表面に適当な被覆(植毛を接合するための接着剤、抗菌コーティング、防汚層、防臭剤層、フッ素徐放剤層、着色材、易滑層、耐劣化層など)を有していても良いし、また、形態保持樹脂材乃至はその他の樹脂の繊維や線材の複数本が平行して結束、接合、若しくは配向していても良い。
本発明のワイヤーにおいて、形態保持樹脂材の繊維が、その物性を効果的に発揮するためには長軸方向に略平行に配向していることが好ましい。あるいは形態保持樹脂材の階層的剪断面が長軸方向に略平行に配向している等、形態保持樹脂材の形態保持性がより効果的にワイヤーにおいて発現されるように配置されていることが好ましい。さらに形態保持樹脂材は長軸方向に連続している樹脂繊維であることが好ましい。例えば、軸部の一端から他端にかけて当該樹脂繊維が切れ目無く連続していることが好ましい。
次に、本発明のワイヤーが保定用ワイヤーとして適用される好適な例を以下に示す。
保定は審美性を考慮すると目立ちにくい歯面の舌側に取り付けることが好ましい。また、口腔中での違和感を極力緩和し、食べ滓や歯垢の付着を可能な限り低減させるために、保定用ワイヤーはできるだけ歯面に沿って配置することが好ましい。これらの要求を満たすようにワイヤーを歯面に配置するためにはワイヤーの材質としては歯面形状に沿って簡単に変形可能な柔軟性と、その変形させた形状が元に戻りにくい低弾性と、自重程度では変形しない程度の剛性を有することが必要である。
本発明のワイヤーはこれらの性能を満たすことが可能ではあるが、それでも、実際の口腔内で、保定やそのワイヤーを設置することは技術を要するだけでなく、長い作業時間を必要として患者への負担は軽くないものである。そこで実際には以下の通りのコモンベーステクニックを用いることが好ましい。
まず、図6に示されるように、矯正された歯列の形状・大きさが正確な模型9を取る。通常は硬化性樹脂にてネガの歯型を取り、固まった所で、そこに石膏などを流して固め、ポジの歯型を取ることにより、前記模型9が得られるが特に限定されるものではない。
次に、得られた模型9の所定の設置箇所に本発明のワイヤー1bをインスツルメント等を押さえつけるなどして歯列に沿わせるように形状変形させる。この際、ワイヤーの歯面側と歯面(乃至はその模型)との距離は、好ましくは0.5mm、より好ましくは0.3mm、更に好ましくは0.1mm以下である。あるいは、ワイヤーの歯面と反対側と歯面(乃至はその模型)との距離は、好ましくは1.5mm、より好ましくは1.2mm、更に好ましくは1.0mm以下である。前記数値範囲外では、適合不良乃至は舌感不良となる虞がある。なお、石膏模型の場合は予めソーピングしておくことが好ましい。ソーピングしない場合は石膏模型にレジン分離材を塗布、乾燥させておく。
また、次の処理に移る前にワイヤーにボンディング処理を施しておくと、レジン10との馴染みが良い。これは低粘度のボンディング材がワイヤーの微細な凹凸に速やかに浸透してレジンの親和性が改善されることによると推定される。
前記ワイヤーを模型に密着させた状態にて、ワイヤーと当該歯面を、硬化性樹脂で覆うように塗布して、光照射してレジンを硬化させる。この際、歯面の舌側面全面を覆うように塗布するとワイヤーの違和感や歯石の付着が低減されるので好ましい(コモンベーステクニック)。なお、この塗布と光照射による硬化を一歯ずつ行うと、ワイヤーが固定されて作業を安定して進められるので好ましい。なお、前記硬化性樹脂としては、歯科充填用コンポジットレジンのフロアブルレジン等が好ましい。
上記のようにしてワイヤーが固定されたら、ワイヤーを硬化したレジン10ごと、模型から剥離する。
最後に型の元となった口腔内の歯列面に、前記ワイヤーと硬化レジンの一体物を、歯科用接着材等にて、接着固定する。なお、本発明のワイヤーは金属ではなく、特定の樹脂なので、接着の際に多少の形状の誤差は小さな力で容易に修正することができる。なお、前記歯科用接着材としては、エナメルをエッチングするものと重合させることができる高分子材料であれば良い。例えばエッチング剤とフロアブルレジンの組合せも可能であるし、エッチング剤とフィッシャーシーラントとの組み合わせでも可能である。歯科用レジンセメントで接着しても良い。
次に本発明の実施例を示して、本発明のワイヤーについて具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
本発明のワイヤーの実施形態を以下に説明する。
(ワイヤーの調製)
プロピレン含有量0.15重量%の低圧法エチレン・プロピレン共重合体(MFR=0.35g/10分、Mw/Mn=9、密度964kg/m3)を用い、下記条件にて溶融紡糸して得られた繊維状物の延伸を行った。
押出機:30mmφ(L/D=28、圧縮比2.3)
ダイ開口:6mmφ×10穴成形温度:290℃
冷却槽:1400mm引取り速度:2.6m/分
延伸槽:95℃水槽巻取り速度:39m/分
延伸倍率:15倍
延伸倍率15倍にて繊維状形状保持材料を得た。
なお、断面形状は長径:0.85mm、短径:0.76mm、平均直径:0.76mmである、図1のようなほぼ均等な6芒星形(向かい合う凸部頂上差し渡し0.85mm、向かい合う凹部最低部差し渡し0.67mm)であり、計6つの各不可触領域の長さは335μm、最奥距離は42μmであった。図2に示した撓み測定の説明図の要領にて、スパン長30cmの水平片持ち梁状態にて、自由端の下方への撓みが25mmであった。90度折り曲げ後、5分間保持してから10分間静置後の戻り角度θを測定したところ、9度であった。
(保定材の準備)
矯正した患者の歯型石膏模型(ソーピング済)の所定の設置箇所に適切な長さにカットした本発明ワイヤーを練成充填器等で押さえつけるなどして歯列に沿わせるように形状変形させた。
変形させたワイヤーにボンディング材(オパールシール:Opal社製)を塗布しエアブローする(コモンベーステクニック)。
本法(コモンベーステクニック)を用いる場合では、保定材の準備において、さらに以下の処理を行った。
前記ワイヤーを模型に密着させた状態にて、一歯ずつ、ワイヤーと当該歯面を、フロアブルレジン(コモンベースレジンLV,HV:GC ORTHOLY社製)で歯面の裏面の全面を覆うように塗布して、歯科用光重合器にてメーカー指定の秒数光照射して前記レジンを硬化させた。
(歯面への接着固定)
ワイヤー(コモンベーステクニック併用の場合には、硬化したレジンと一緒に)を、模型から剥離した。
最後に型の元となった口腔内の歯列面にリン酸エッチング(35%リン酸エッチングジェル:テルメックス社)50秒後水洗し、ボンディング材(オパールシール)を塗布、エアブローし、前記ワイヤー(コモンベーステクニック併用の場合には、ワイヤーと硬化レジンの一体物)の内面にもボンディング材(オパールシール)を塗布、エアブローし、その後、リテーナーにフィッシャーシーラント材(Protect liner F:クラレメディカル(株)製)を塗布、圧接し、歯科用光重合器にてメーカー指定の秒数光照射して接着固定した。
〔実施例1〕
歯列矯正した患者(33歳:男性)の下顎前歯(左側犬歯から右側犬歯)に対して、前記保定材(リテーナー)を前記コモンベーステクニックを併用した方法にて接着固定した。
保定材設置の際、形状の若干の補正が必要であったが、何ら器具を用いず素手にて歯面に接面することで容易に調整することができた。5ヶ月間保定を行った。保定期間中破損や後戻り等の問題は認められなかった。また、保定終了後歯並びや噛み合わせが安定しているか(咬合、サイドシフト、3番ガイド)を確認したが問題なかった。
〔実施例2〕
歯列矯正した患者(19歳:女性)の下顎前歯(左側犬歯から右側犬歯)に対して、前記保定材(リテーナー)を前記コモンベーステクニックを併用した方法にて接着固定した。
保定材設置の際、形状の若干の補正が必要であったが、何ら器具を用いず素手にて歯面に接面することで容易に調整することができた。約13ヶ月間保定を行った。保定期間中破損や後戻り等の問題は認められなかった。また、保定終了後歯並びや噛み合わせが安定しているか(咬合、サイドシフト、3番ガイド)を確認したが問題なかった。
〔実施例3〕
歯列矯正した患者(41歳:男性)の下顎前歯およびその両外側歯である下顎第一小臼歯に対して、前記保定材(リテーナー)を前記コモンベーステクニックを併用した方法にて接着固定した。
ここでは本発明のワイヤーが星型ではなく約0.4mmφの円形断面の下記に示す特性を有する延伸繊維を3本ツイスト(撚りピッチは1cmに4回)したもの(ツイスト後の平均直径0.8mm)を用いた。
それ以外にボンディング材はOrtho Solo(Omco社製)、フロアブルレジンはユニフィルフロー ハイフロー/ローフロー(GC社製)を用いた。約17ヶ月間保定を行った。保定期間中破損や後戻り等の問題は認められなかった。また、保定終了後歯並びや噛み合わせが安定しているか(咬合、サイドシフト、3番ガイド)を確認したが問題なかった。
撚糸保定用ワイヤーの製造
プロピレン含有量0.15重量%の低圧法エチレン・プロピレン共重合体(MFR=0.35g/10分、Mw/Mn=9、密度964kg/m3)を用い、下記条件にて溶融紡糸して得られた繊維状物の延伸を行った。
押出機:30mmφ(L/D=28、圧縮比2.3)
ダイ開口:6mmφ×10穴成形温度:290℃
冷却槽:1400mm引取り速度:2.6m/分
延伸槽:95℃水槽巻取り速度:39m/分
延伸倍率:15倍
延伸倍率15倍にて繊維状形状保持材料を得た。
この延伸フィラメントを三本合わせて1cmで四回撚り合わせて撚糸保定用ワイヤーを製造した。
なお、この撚糸保定用ワイヤーの断面形状は長径:0.44mm、短径:0.41mm、平均直径0.38mmである。この撚糸保定用ワイヤーは、三本の直径0.22mmの糸が撚り合わされた断面にて3糸の中心が正三角形に配列された形状を有しており、この撚糸保定用ワイヤーの各不可触領域の長さは439μm、最奥距離は219μmであった。図2に示した撓み測定の説明図の要領にて、スパン長30cmの水平片持ち梁状態にて、自由端の下方への撓みが25mmであった。90度折り曲げ後、5分間保持してから10分間静置後の戻り角度θを測定したところ、9度であった。
〔実施例4〕
歯列矯正した患者(20歳:女性)の下顎前歯およびその両外側歯である下顎第二小臼歯(第一小臼歯を便宜抜去し歯列矯正したため)に対して実施例3で用いた3本ツイストの本発明ワイヤーを用い、口腔内で直接屈曲および接着した(直接法。コモンベーステクニック不使用)。
操作方法は、所定の設置箇所に本発明のワイヤーを練成充填器等で押さえつけるなどして歯列に沿わせるように形状変形させる。この時に少なくとも最初に接着を行う歯面(多くの場合は最端部になる)には合うように調節しておく。次にアングルワイダーを用いて簡易防湿を行い、歯面をエナメルエッチング(表面処理剤レッド:サンメディカル(株)製)50秒後水洗し、エアブローして乾燥させた。
屈曲した本発明ワイヤーを中央部にフロスを用いて仮固定し、最端部から歯科用レジンセメント(スーパーボンド:サンメディカル(株)製)(筆積み法)にて接着を開始した。
最初の接着がある程度硬化したら(位置ズレが起きない程度、餅状期程度)次の歯面への接着を行った。この際、練成充填器等の器具を用いて歯面に合うように屈曲や圧接を行った。これを一歯ずつ反対側の最端部まで行い接着を完了した。
18ヶ月保定中に三度破損。その都度破損部位を切り取り修正した。このような破損部位を取り替えることは、金属ワイヤーおよびグラスファイバーでは不可能であり、全部取替になる。
5ヶ月後に1度目の破損。破損部を切り取り、切り取った部位の隣の歯から重なるように本発明ワイヤーを設置し、上記直接法にて接着した。
7ヶ月後(開始から12ヶ月後)に2度目の破損。破損部を切り取り、切り取った部位の隣の歯から重なるように本発明ワイヤーを設置し、歯科用象牙質接着材(ハイブリットコート:サンメディカル(株)製)および歯科充填用コンポジットレジン(ユニフィルMIフロー:GC)にて接着固定した。
3ヶ月後(開始から15ヶ月後)に3度目の破損。破損部位を切り取り、印象採得、石膏模型作製し、実施例1,2の方法で破損部分のみを作製、接着した。
3ヶ月後(開始から18ヶ月後)、保定終了した。保定終了後、歯並びや噛み合わせが安定しているか(咬合、サイドシフト、3番ガイド)を確認したが問題なかった。
〔比較例1〕
歯列矯正した患者(32歳:男性)の下顎前歯(左側犬歯から右側犬歯)に対してグラスファイバーを用いて直接法にて重合・接着固定した。操作方法は、口腔内の歯列面にリン酸エッチング(35%リン酸エッチングジェル:テルメックス社)50秒後水洗し、ボンディング材(Ortho Solo:Omco社製)を塗布し、グラスファイバー(光重合性レジン浸漬)を一番端の歯の舌側面に圧接後、歯科用光重合器にて重合。その隣の歯に同じように圧接して重合、これを反対の端の歯まで繰り返す。最後に全体にフロアブルレジン(ユニフィルフロー:GC社)を塗布し光重合して補強した後、形態修正を行った。
18ヶ月後破損(グラスファイバーは破損すると凶器になり危険)したので、全て取り外し、同材料でやり直した。
6ヶ月後(開始から24ヶ月後)保定終了した。保定終了後歯並びや噛み合わせが安定しているか(咬合、サイドシフト、3番ガイド)を確認したが問題なかった。
1a、1b;ワイヤーの断面
2;充分長い直線
3;不可触領域
4、4';可触領域
5;最奥部
6;最奥距離
7;不可触領域の長さ
8、8';接点
9;模型
10;レジン

Claims (5)

  1. 塑性変形性を有する樹脂材からなる保定用ワイヤーであって、使用しようとするワイヤーについて90度折曲げ試験を行った際の戻り角が20度以下であり、
    前記樹脂材の主要成分である樹脂として、密度が950kg/m 3 以上、重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)が5〜15、炭素数3〜6のα−オレフィン含量が2重量%未満であるエチレン単独重合体またはエチレン・α−オレフィン共重合体を50重量%以上の量で含有す
    ことを特徴とする保定用ワイヤー。
  2. 上記使用するワイヤーの平均直径が0.6〜1.5mmの範囲内にあることを特徴とする請求項1に記載の保定用ワイヤー。
  3. 前記保定用ワイヤーが、硬化性樹脂により固定する保定技法にて用いられること特徴とする請求項1に記載の保定用ワイヤー。
  4. 記ワイヤーが、90度折曲げによる戻り角度が20度以下の塑性変形性(直線状の軸部材料に負荷を掛けて該軸部材料を90度に折り曲げてから負荷を解除したときに、その材料が元の状態に復帰しようとする物性)を有し、
    前記ワイヤーが、一端を固定端とし、他端を自由端とし、固定端から自由端までのスパン長30cmとし、水平片持ち梁状態にセットした場合に、その自由端の水平位置から、自由端の下方へ160mm以下の撓み量を有する(但し、撓み量測定時のワイヤーの形状は丸形、ワイヤーの太さは直径:0.66mm、撓み量を測定するためにワイヤーに作用させた荷重は無荷重である。)
    ことを特徴とする請求項1に記載の保定用ワイヤー。
  5. 断面に凹部を有することを特徴とする請求項1に記載の保定用ワイヤー。
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