JP6195338B2 - 高減衰組成物および粘弾性ダンパ - Google Patents
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Description
前記高減衰部材は、天然ゴム等をベースポリマとして含む高減衰組成物によって形成される。前記高減衰組成物には、振動が加えられた際のヒステリシスロスを大きくして前記振動のエネルギーを効率よく速やかに減衰する性能、すなわち減衰性能を高めるために、カーボンブラック、シリカ等の無機充てん剤(フィラー)や、あるいはロジン、石油樹脂等の粘着性付与剤等を配合するのが一般的である(例えば特許文献1〜3等参照)。
ところが、多量のフィラーや粘着性付与剤を配合した高減衰組成物は粘度が上昇し、加工性が低下して、所望の立体形状を有する高減衰部材を製造するために前記高減衰組成物を混練したり、前記立体形状に成形加工したりするのが容易でないという問題がある。
そこで、加工性を低下させずに減衰性能を向上するため、特許文献4では、シリカと、2以上の極性基を有する粘着性付与剤とを配合することが検討されている。
特許文献5では、極性側鎖を有しないベースポリマに、シリカと、2以上の極性基を有する粘着性付与剤等とを配合することが検討されている。かかる構成によれば、シリカを併用することで良好な減衰性能を維持しながら、ベースポリマとして極性基を有しないものを用いることで、室温付近での特性の温度依存性を小さくすることができる。
また、混練時の粘着性が高くなりすぎて、加工性が低下する。
特許文献6では、粘着性付与剤として特定の軟化点を有するロジン誘導体を用いることで、さらに減衰性能を向上することが検討されている。
しかし、前記のようにフィラーとしてシリカを配合した従来の高減衰組成物を用いて形成した高減衰部材は、大変形が加えられたあとの弾性率が大幅に低下するいわゆるマリンス効果(Mullins’ effect)を生じ易く、高減衰部材としての所期の性能を十分に発揮させることができないため、様々な問題を生じる場合がある。
発明者の検討によると、フィラーとしてシリカを配合した高減衰組成物からなる高減衰部材の弾性率が、前記マリンス効果によって大きく低下するのは、前記シリカが、ベースポリマ中に均一に分散されず凝集を生じることが原因である。すなわち高減衰部材に大変形が加えられると、前記シリカの凝集破壊が生じて、高減衰部材の弾性率が大きく低下する。
そのため、シリカとともに水酸化アルミニウムを配合することで前記シリカの凝集をできるだけ少なくして、当該シリカの凝集破壊による、高減衰部材に大変形が加えられたあとの弾性率の低下を生じにくくすることができる。
前記水酸化アルミニウムの配合割合が、前記ジエン系ゴム100質量部あたり1質量部以上、10質量部以下に限定されるのは、下記の理由による。
また通常は、水酸化アルミニウムの方がシリカより粒径が大きく、ゴム破壊の起点になりやすいことから、その配合割合が前記範囲を超えると、却って、高減衰部材に大変形が加えられたあとの弾性率の低下が大きくなる。
またシリカの配合割合が、前記ジエン系ゴム100質量部あたり90質量部以上、150質量部以下に限定されるのは、下記の理由による。
すなわち配合割合が前記範囲未満では、フィラーとしてシリカを配合することによる、高減衰部材に良好な減衰性能を付与する効果が十分に得られず、前記高減衰部材の減衰性能が低下する。
これに対し、シリカの配合割合を前記範囲内とすることで、高減衰部材に良好な減衰性能を付与しながら、前記高減衰部材に大変形が加えられたあとの弾性率の低下をより一層小さくすることができる。
かかる粘弾性ダンパは減衰性能に優れる上、地震の発生により大変形が加えられても弾性率が大きく低下しないため、前記地震のエネルギーが建築物に伝わるのを確実に防止することができる。またそのため、所期の性能を確保するための、制震用ダンパの設計を簡略化することもできる。
本発明の高減衰組成物は、ベースポリマとしてのジエン系ゴム、シリカ、および水酸化アルミニウムを含んでいる。
(ジエン系ゴム)
ジエン系ゴムとしては、高減衰部材のベースポリマとして機能しうる、従来公知の種々のジエン系ゴムがいずれも使用可能である。
前記ジエン系ゴムとしては、例えば天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム等の1種または2種以上が挙げられる。特に材料の入手のしやすさ等を考慮すると、ジエン系ゴムとしては天然ゴムを用いるのが好ましい。
シリカとしては、その製法によって分類される湿式法シリカ、乾式法シリカのいずれを用いてもよい。またシリカとしては、高減衰部材の減衰性能を向上する効果をさらに向上することを考慮すると、BET比表面積が100〜400m2/g、特に200〜250m2/gであるものを用いるのが好ましい。BET比表面積は、例えば柴田化学器械工業(株)製の迅速表面積測定装置SA−1000等を使用して、吸着気体として窒素ガスを用いる気相吸着法で測定した値でもって表すこととする。
前記シリカの配合割合は、ジエン系ゴム100質量部あたり90質量部以上、150質量部以下に限定される。
配合割合が前記範囲未満では、フィラーとしてシリカを配合することによる、高減衰部材に良好な減衰性能を付与する効果が十分に得られず、前記高減衰部材の減衰性能が低下する。
これに対し、シリカの配合割合を前記範囲内とすることで、高減衰部材に良好な減衰性能を付与しながら、前記高減衰部材に大変形が加えられたあとの弾性率の低下をより一層小さくすることができる。
〈水酸化アルミニウム〉
水酸化アルミニウムとしては、例えばバイヤー法等の従来公知の製造方法によって製造される種々の水酸化アルミニウムが使用可能である。
前記水酸化アルミニウムとしては、例えば住友化学(株)製のC−301N〔中心粒径:1.3μm〕等が挙げられる。
配合割合が前記範囲未満では、水酸化アルミニウムを配合することによる前記の効果が十分に得られず、高減衰部材に大変形が加えられたあとの弾性率の低下が大きくなる。
これに対し、水酸化アルミ二ウムの配合割合を前記範囲内とすることで、高減衰部材に大変形が加えられたあとの弾性率の低下をより一層小さくすることができる。
(その他の成分)
本発明の高減衰組成物には、前記シリカや水酸化アルミニウム以外の他の無機充てん剤、あるいはジエン系ゴムを架橋させるための架橋成分等を、適宜の割合で配合してもよい。
前記カーボンブラックとしては、その製造方法等によって分類される種々のカーボンブラックのうち、充てん剤として機能しうるカーボンブラックの1種または2種以上が使用可能である。
カーボンブラックの配合割合は特に限定されないが、ジエン系ゴム100質量部あたり1質量部以上、5質量部以下であるのが好ましい。
加硫促進剤としては、例えばスルフェンアミド系加硫促進剤、チウラム系加硫促進剤等が挙げられる。加硫促進剤は、種類によって加硫促進のメカニズムが異なるため2種以上を併用するのが好ましい。
加硫促進助剤としては例えば亜鉛華、ステアリン酸等が挙げられる。通常は両者を加硫促進助剤として併用するのが好ましい。
本発明の高減衰組成物には、さらに必要に応じてシラン化合物、軟化剤、粘着性付与剤、老化防止剤等の各種添加剤を、適宜の割合で配合してもよい。
このうちシラン化合物としては、式(a):
で表され、シランカップリング剤やシリル化剤等の、シリカの分散剤として機能しうる種々のシラン化合物が挙げられる。
前記シラン化合物としては、例えば信越化学工業(株)製のKBE−103(フェニルトリエトキシシラン)等が挙げられる。
シラン化合物の配合割合は特に限定されないが、シリカ100質量部あたり5質量部以上であるのが好ましく、25質量部以下であるのが好ましい。
このうち液状ポリイソプレンゴムが好ましい。前記液状ポリイソプレンゴムとしては、例えば(株)クラレ製のクラプレン(登録商標)LIR−30(数平均分子量:28000)、LIR−50(数平均分子量:54000)等が挙げられる。
配合割合が前記範囲未満では、当該液状ポリイソプレンゴムを配合することによる、高減衰部材の剛性を低下させる効果が十分に得られないおそれがある。一方、前記範囲を超える場合には高減衰部材の減衰性能が低下するおそれがある。
前記クマロンインデン樹脂としては、主にクマロンとインデンの重合物からなり、平均分子量1000以下程度の比較的低分子量であって、軟化剤として機能しうる種々のクマロンインデン樹脂が挙げられる。
前記クマロンインデン樹脂としては、例えば日塗化学(株)製のニットレジン(登録商標)クマロンG−90〔平均分子量:770、軟化点:90℃、酸価:1.0KOHmg/g以下、水酸基価:25KOHmg/g、臭素価9g/100g〕、G−100N〔平均分子量:730、軟化点:100℃、酸価:1.0KOHmg/g以下、水酸基価:25KOHmg/g、臭素価11g/100g〕、V−120〔平均分子量:960、軟化点:120℃、酸価:1.0KOHmg/g以下、水酸基価:30KOHmg/g、臭素価6g/100g〕、V−120S〔平均分子量:950、軟化点:120℃、酸価:1.0KOHmg/g以下、水酸基価:30KOHmg/g、臭素価7g/100g〕等の1種または2種以上が挙げられる。
粘着性付与剤としては、例えば石油樹脂等が挙げられる。また石油樹脂としては、例えば丸善石油化学(株)製のマルカレッツ(登録商標)M890A〔ジシクロペンタジエン系石油樹脂、軟化点:105℃〕等が好ましい。
老化防止剤としては、例えばベンズイミダゾール系、キノン系、ポリフェノール系、アミン系等の各種老化防止剤の1種または2種以上が挙げられる。特にベンズイミダゾール系老化防止剤とキノン系老化防止剤を併用するのが好ましい。
両老化防止剤の配合割合は特に限定されないが、ベンズイミダゾール系老化防止剤は、ジエン系ゴム100質量部あたり0.5質量部以上であるのが好ましく、5質量部以下であるのが好ましい。またキノン系老化防止剤は、ジエン系ゴム100質量部あたり0.5質量部以上であるのが好ましく、5質量部以下であるのが好ましい。
〈粘弾性ダンパ〉
特に本発明の高減衰組成物を形成材料として用いて、高減衰部材としての建築物の粘弾性ダンパの粘弾性体を形成した場合には、当該粘弾性体が高い減衰性能を有するため、前記粘弾性体を含む粘弾性ダンパの減衰性能を向上して、その全体を小型化したり、1つの建築物に組み込む数を減らしたりしても、従来と同等またはそれ以上の制震性能を得ることができる。
(高減衰組成物の調製)
天然ゴム〔SMR(Standard Malaysian Rubber)−CV60〕100質量部に、シリカ〔東ソー・シリカ(株)製のNipSil(ニップシール)KQ〕130質量部、および水酸化アルミニウム〔住友化学(株)製のC−301N、中心粒径:1.3μm〕5質量部と、下記表1に示す各成分とを配合し、密閉式混練機を用いて混練して高減衰組成物を調製した。なお表1中の質量部は、それぞれ天然ゴム100質量部あたりの質量部である。
シラン化合物:フェニルトリエトキシシラン、信越化学工業(株)製のKBE−103
液状ポリイソプレンゴム:(株)クラレ製のLIR−50、数平均分子量:54000
カーボンブラック:三菱化学(株)製のダイアブラック(登録商標)G
ベンズイミダゾール系老化防止剤:2−メルカプトベンズイミダゾール、大内新興化学工業(株)製のノクラックMB
キノン系老化防止剤:丸石化学品(株)製のアンチゲンFR
酸化亜鉛2種:三井金属鉱業(株)製
ステアリン酸:日油(株)製の「つばき」
ジシクロペンタジエン系石油樹脂:軟化点105℃、丸善石油化学(株)製のマルカレッツ(登録商標)M890A
クマロン樹脂:軟化点90℃、日塗化学(株)製のエスクロン(登録商標)G-90
5%オイル処理粉末硫黄:加硫剤、鶴見化学工業(株)製
スルフェンアミド系加硫促進剤:N−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、大内新興化学工業(株)製のノクセラー(登録商標)NS
チウラム系加硫促進剤:テトラブチルチウラムジスルフィド、大内新興化学工業(株)製のノクセラーTBT−N
〈比較例1〉
水酸化アルミニウムを配合しなかったこと以外は実施例1と同様にして高減衰組成物を調製した。
水酸化アルミニウムの配合割合を、天然ゴム100質量部あたり1質量部(実施例2)、および9質量部(実施例3)としたこと以外は実施例1と同様にして高減衰組成物を調製した。
〈実施例4、5〉
シリカの配合割合を、天然ゴム100質量部あたり90質量部(実施例4)、および150質量部(実施例5)としたこと以外は実施例1と同様にして高減衰組成物を調製した。
(試験体の作製)
実施例、比較例で調製した高減衰組成物をシート状に押出成形したのち打ち抜いて、図1に示すように円板1(厚み5mm×直径25mm)を作製し、前記円板1の表裏両面に、それぞれ加硫接着剤を介して厚み6mm×縦44mm×横44mmの矩形平板状の鋼板2を重ねて積層方向に加圧しながら150℃に加熱して円板1を形成する高減衰組成物を加硫させるとともに、前記円板1を2枚の鋼板2と加硫接着させて、高減衰部材のモデルとしての減衰特性評価用の試験体3を作製した。
図2(a)に示すように前記試験体3を2個用意し、前記2個の試験体3を、一方の鋼板2を介して1枚の中央固定治具4にボルトで固定するとともに、それぞれの試験体3の他方の鋼板2に、1枚ずつの左右固定治具5をボルトで固定した。そして中央固定治具4を、図示しない試験機の上側の固定アーム6に、ジョイント7を介してボルトで固定し、かつ2枚の左右固定治具5を、前記試験機の下側の可動盤8に、ジョイント9を介してボルトで固定した。
次いで、前記測定により求めた図3に示すヒステリシスループHのうち最大変位点と最小変位点とを結ぶ、図中に太線の実線で示す直線L1の傾きKeq(N/mm)を求め、前記傾きKeq(N/mm)と、円板1の厚みT(mm)と、円板1の断面積A(mm2)とから、式(1):
また図3中に斜線を付して示した、ヒステリシスループHの全表面積で表される吸収エネルギー量ΔWと、同図中に網線を付して示した、前記直線L1と、グラフの横軸と、直線L1とヒステリシスループHとの交点から前記横軸におろした垂線L2とで囲まれた領域の表面積で表される弾性歪みエネルギーWとから、式(2):
(大変形後の弾性率測定)
前記測定をして一定時間静置後に、前記と同じずれ量100%での等価せん断弾性率Geq(N/mm2)を求め、その直後にずれ量300%の大変形を3サイクル繰り返したのち、再びずれ量100%での等価せん断弾性率Geq′(N/mm2)を求めた。そして式(3):
以上の結果を表2に示す。
また実施例1〜3の結果より、前記効果を向上するためには、水酸化アルミニウムの配合割合が、天然ゴム100質量部あたり1質量部以上、10質量部以下である必要があり、特に3質量部以上、7質量部以下であるのが好ましいことが判った。
Claims (2)
- ジエン系ゴム、前記ジエン系ゴム100質量部あたり、90質量部以上、150質量部以下のシリカ、および1質量部以上、10質量部以下の水酸化アルミニウムを含むことを特徴とする高減衰組成物。
- 請求項1に記載の高減衰組成物を形成材料として用いて形成された粘弾性体を備えることを特徴とする建築物の粘弾性ダンパ。
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