無線LAN、WiMAX、UMTS等の3Gセルラー携帯電話網あるいはLTE網などの様々な無線通信サービスは、複数の異なる無線アクセス技術(RAT(Radio Access Technology))にそれぞれ対応する。そして、無線ベアラは、これら様々な無線通信サービスに接続して利用者無線端末(UE)からアクセスするための無線接続手段を提供するものである。
UMTS網やLTE網などのセルラー無線網は、地理的に広範囲にわたって単一の通信事業者網により、ユーザに無線網接続サービスを提供している。その反面、セルラー無線網に対する無線アクセスは、多くの場合、当該セルラー無線網が提供する通信サービスに加入しているユーザの無線端末だけに限定され、無料で提供されている場合も多い無線LANサービスよりも通信料金が一般に高額である。他方、一般公衆が利用可能な無線LANサービスは、通信料金が安価であり、通信速度が比較的安定している反面、良好に通信可能な範囲が限られた狭い地域内に限定される。
近年の無線端末の利用態様として、利用する無線アクセス網を、セルラー無線網と無線LANサービスとの間でユーザ自身により状況に応じて切り替えることが一般的である。無線端末のこのような利用態様を可能とするには、複数の異なるRAT(例えば、LTE、WiMAXおよび無線LANなど)にそれぞれ対応した複数の無線インターフェース回路を装備したマルチモード無線端末を使用してユーザが無線網アクセスを行うことが前提となる。この場合、マルチモード無線端末は、同時利用可能な複数の異なるRATのそれぞれに接続する複数の無線ベアラを確立し、当該複数の無線ベアラ上での同時並列無線伝送を実行することが可能であり、これはリンク・アグリゲーションとして知られている。また、別の態様として、マルチモード無線端末は、同時利用可能な複数の異なるRATの間で状況に応じて一の無線ベアラが接続するRATを選択的に切り替えて無線通信することも可能であり、これは異種RAT間接続切替と呼ばれる。上記のように異なるRATに接続する複数の無線ベアラ間で無線端末の通信トラフィックを配分制御することにより、無線帯域幅の集約、異種RAT間での通信負荷分散、弾力的なネットワーク利用可能性などの利点を達成することができる。
マルチモード無線端末が、無線網側のトラフィック負荷分散状況、輻輳状況あるいは実効通信スループットなどを考慮しながら、通信に使用すべき最適なRATを取捨選択するには、上述したポリシー制御の仕組みが必要となる。つまり、マルチモード無線端末が、通信に使用すべき最適なRATを取捨選択する際に、上述した無線帯域幅の集約、異種RAT間での通信負荷分散、弾力的なネットワーク利用可能性などの利点が無線網内部の稼働状況によって損なわれないようにするには、無線端末側でのRATの切り替えに適応する形で、無線アクセス網内やコア網内を通るエンド・ツー・エンド通信経路全体の最適化も必要となる。そして、このようなエンド・ツー・エンド通信経路全体の最適化のためには、無線網側からのポリシー制御の仕組みを導入することが有効である。
一方、マルチモード無線端末が、通信に使用すべき最適なRATを取捨選択する際に、上述した無線帯域幅の集約、異種RAT間での通信負荷分散、弾力的なネットワーク利用可能性などの利点が無線網内部の稼働状況によって損なわれないようにするには、無線網側からのポリシー制御に基づく通信経路の最適化だけでは充分ではない場合もある。具体的には、無線網側からのポリシー制御に基づく通信経路の最適化の結果として設定された各エンド・ツー・エンド通信経路内を流れるトラフィック・フローに対してフロー制御のようなトラフィック規制を適用することが必要となる。
このようなトラフィック規制を必要に応じて各通信経路を流れるトラフィックに適用しないと、無線網を構成するコア網や無線アクセス網内で予期せぬ輻輳状態が発生した場合に、この輻輳状態を軽減したり、抑制したりすることを無線網側の制御によって行うことが難しくなる。また例えば、ポリシー制御によって設定された各エンド・ツー・エンド通信経路内を流れるトラフィック・フローが、当該トラフィック・フローに割り当てられた通信リソースに見合った以上のトラフィック量を流そうとすると、以下に例示するような問題を生じる。第1に、あるトラフィック・フローが自身に割り当てられた通信リソースに見合った以上のトラフィック量を流すことにより、同一の通信経路を通る他のトラフィック・フローの通信リソースが横取りされる可能性がある。この場合における通信リソースの横取りは、上述した他のトラフィック・フローにおけるQoSを低下させるという問題を生じ得る。第2に、各通信経路を流れる各トラフィック・フローが、無線網側のポリシー制御によって事前に割り当てられた通信リソースに見合うトラフィック量を遵守しないことにより、無線網側のポリシー制御によって想定されていたコア網内のトラフィック負荷分散計画が崩れる可能性がある。このようなトラフィック負荷分散計画は、ネットワーク運用管理者側の知見に基づいて、無線網内で発生する可能性のある輻輳状態を適切に制御する意味からも重要である。
さらに、各トラフィック・フローに対して適用されるべき上述したトラフィック規制は、無線網内を流れる多数のトラフィック・フローの各々について、トラフィック・フロー固有のQoS要件を考慮して実施されるべきである。この場合、トラフィック・フロー固有のQoS要件は、各トラフィック・フローが関係する通信アプリケーション種別(VoIP、ビデオ・ストリーミング、ファイル転送等)によって特徴付けられる。従って、各トラフィック・フローに対して適用されるべき上述したトラフィック規制を実施する際には、トラフィック・フロー毎のトラフィック規制の度合いに関してアプリケーション種別毎に異なった調整がなされなくてはならない。
そこで、本実施の形態は、互いに異なるRATに接続し、無線端末から同時使用可能な複数の無線ベアラ間で通信を切り替える際に、各無線ベアラが接続する通信経路に対して無線網側から適用されているトラフィック規制の度合いに応じて、通信に使用する無線ベアラを切り替える仕組みを開示する。同時に、本実施の形態は、マルチモード無線端末が当該ポリシー制御動作と連携しながら、異なるRATに対応する複数の無線ベアラ間で、通信に使用する無線ベアラを切り替える仕組みを開示する。
以下の説明においては、まず、本実施の形態が実現される無線通信システム全体のネットワーク構成と当該無線通信システム内においてユーザが使用する無線端末のハードウェア構成を図1および図2を使用して説明する。続いて、図1に示すネットワーク構成および図2に示す無線端末の装置構成を前提として本実施の形態が実現するポリシー制御の概要を、従来技術におけるポリシー制御との間の相違点を中心に説明する。続いて、図3を使用して、本実施の形態に係るポリシー制御の仕組みを図1に示すネットワーク構成と図2に示す無線端末の上でそれぞれ実現するための機能モジュール構成を説明する。続いて、図3〜図8を参照しながら、本実施の形態に係るポリシー制御の動作の流れと共に、無線端末が当該ポリシー制御動作と連携しながら、異なるRATに対応する複数の無線ベアラ間で、各無線ベアラに対応する通信経路に適用されているトラフィック規制率に応じて、通信を切り替える制御を実現する仕組みを説明する。
<1>本実施の形態に係る無線通信システムのネットワーク構成
以下、図1を使用して、本実施の形態に係る無線通信システムのネットワーク構成を説明する。図1の無線通信システムは、UE10、一つ以上の無線アクセス網40A〜40C、無線アクセス網40A〜40Cとコア網ゲートウェイ61〜62を介して接続された一つ以上のコア網(CN: Core Network)51/52、コア網51/52とPDNゲートウェイ71/72を介して接続されたインターネット網80およびインターネット網80に接続されたサーバ20から構成される。
無線アクセス網40A〜40Cは、無線通信を介したコア網への無線アクセス経路をUE10に対して提供するネットワークであり、無線アクセス網40A〜40Cの各々は、互いに異なるRATに基づくことが可能である。例えば、無線アクセス網40Aは、3GPPが標準化を進めるE−UTRAN標準に基づいたLTE網とすることが出来、無線アクセス網40Bは、IEEE802.16e標準に基づいたWiMAX網とすることが出来、無線アクセス網40Cは、Wi−Fiのような無線LAN網とすることが出来る。なお、無線アクセス網40Cは、一つ以上の無線LANアクセスポイントとそれらを結ぶイーサネット・ハブ、ブロードバンド・ルータおよびケーブルモデム等から構成されることが可能である。
コア網51および52は、無線通信サービス提供事業者内において多数のルータ機器やネットワーク制御用サーバ機器を高速回線で接続することによって形成され、UEのインターネットへの接続(E−UTRANのコア網においてはP−GW(PDN-Gateway)の機能に相当する)、UEの端末モビリティ管理(E−UTRANのコア網においてはMMEの機能に相当する)またはUEの通信サービス認証(E−UTRANのコア網においてはHSSの機能に相当する)などの機能を実行する。例えば、コア網51は、無線アクセス網40Aおよびコア網ゲートウェイ61を介してUE10から無線アクセスが可能である。他方、コア網52は、無線アクセス網40Bおよびコア網ゲートウェイ62を介してUE10から無線アクセスが可能である。図2には示されていないが、2つ以上の異なる無線アクセス網を介して同一のコア網に無線アクセスすることも可能である。
ISP網53は、無線LAN網40Cをルータ網(PDN: Packet Data Network)54に接続するためのFTTH(Fiber-To-The-Home)回線、DSL(Digital Subscriber Line)回線、LAN間接続広域網、広域イーサネット等とすることが可能である。
PDNゲートウェイ71/72は、コア網51/52をルータ網(PDN: Packet Data Network)54にそれぞれ接続し、これにより、コア網51/52は、ルータ網(PDN: Packet Data Network)54を経由してインターネット網80との間でトラフィックを通信することが可能となる。コア網51がE−UTRAN標準に基づいて構成されている場合には、PDNゲートウェイ71は、P−GW(PDN-Gateway)とすることが可能である。
ルータ網(PDN: Packet Data Network)54は、コア網51/52とインターネット網80との間およびISP網53とインターネット網80との間に介在するパケット交換型のネットワークであり、無線通信事業者網間でのローミング・トラフィックの転送制御も提供する。なお、ルータ網54は、図1のネットワーク構成において、複数のコア網51/52をインターネット網80に接続する単一のネットワークとして描かれているが、複数のルータ網54が無線通信事業者毎に存在するような構成としてもよい。また、コア網51およびコア網52はそれぞれ異なるルータ網54を経由してインターネット網80と接続しても良い。
図1に示すネットワーク構成において、無線網内の通信に対するポリシー制御動作を管理するポリシー制御サーバをコア網51/52内、ルータ網(PDN: Packet Data Network)54内またはインターネット網80内に設置することが可能である。コア網51/52が3GPPリリース7の規定に従って構成されている場合、当該ポリシー制御サーバはコア網51/52内のP−GW(PDN-Gateway)の機能の一部として実装することが可能である。この場合、P−GW(PDN-Gateway)は図1のコア網51内に設置された外部接続ゲートウェイ71としても良い。なお、本実施の形態に係るポリシー制御サーバは特定のコア網や特定の無線アクセス網に限定されないポリシー制御を実行する。そのため、当該ポリシー制御サーバが例えば、コア網51内に設置されている場合であっても、当該ポリシー制御サーバは、インターネット網80を介して他のコア網内のネットワーク機器との間でポリシー制御に関する通信を実行することが可能である。また、当該ポリシー制御サーバがインターネット網80内に設置される場合、当該ポリシー制御サーバは、コア網51/52との間でポリシー情報を通信するためにTCP/IPプロトコル層構造と互換性を有するCOPS(Common Open Policy Service)プロトコルを使用しても良い。また、コア網51内に設置されたポリシー制御サーバがインターネット網80を介して他のコア網52内のネットワーク機器との間でポリシー情報を通信するために、TCP/IPプロトコル層構造と互換性を有するCOPS(Common Open Policy Service)プロトコルを使用しても良い。
図1において、無線ベアラ30Aは、UE10をLTE網である無線アクセス網40Aに接続する無線接続手段である。同様に、無線ベアラ30Bは、UE10をWiMAX網である無線アクセス網40Bに接続する無線接続手段である。無線ベアラ30Cは、UE10をWi−Fi網である無線アクセス網40Cに接続する無線接続手段である。
図1において、UE10は、無線ベアラ30A〜30Cのいずれか一つ以上を使用して、無線アクセス網40A〜40Cのいずれか一つ以上と無線接続する。続いて、UE10は、無線アクセス網、コア網51/52およびインターネット網80を経由してサーバ20との間でTCP/IPに基づくエンド・ツー・エンド通信を行う。
<2>本実施の形態において使用されるUEのハードウェア構成
以下、図2を使用して、本実施の形態に係る無線通信システム内において使用されるUE10のハードウェア構成を説明する。
図2において、UEは、無線信号を送受信するアンテナ101、アンテナ101と接続された無線インターフェース102a〜102n、メモリ103、制御プロセッサ104、制御プロセッサ104との間で入出力データをやり取りしながらユーザとUE10との間のユーザ・インターフェースを制御するユーザ入出力装置105、およびUE10の設定パラメータなどを記憶する永続的な記憶媒体であるストレージ106およびバス107から構成される。上述したメモリ103、制御プロセッサ104、ユーザ入出力装置105、およびストレージ106は、バス107を介して相互に接続されている。
無線インターフェース102a〜102nの各々は、受信したRF信号を周波数ダウンコンバートしてデジタル化し、復調し、そして復号化することにより、デジタル情報に変換して後続の情報処理のために提供する。これとは逆に、無線インターフェース102a〜102nの各々は、UE10内で生成されたデジタル情報を、符号化し、変調し、そして周波数アップコンバートすることによりRF信号に変換して無線送信のためにアンテナ101に提供する。無線インターフェース102a〜102nの各々は、LTE、WiMAXまたは無線LANなどのような複数の異なる種類のRATに対応した信号処理を実行可能となるように構成されている。すなわち、無線インターフェース102a〜102nの各々は、n種類のRATの各々と一対一に対応する。例えば、無線インターフェース102aは、LTE網に対応した無線信号の送受信処理を実行可能に構成され、無線インターフェース102bは、WiMAX網に対応した無線信号の送受信処理を実行可能に構成され、無線インターフェース102cは、無線LAN網に対応した無線信号の送受信処理を実行可能に構成されている。
メモリ103は、無線インターフェース102a〜102nが後述する制御プロセッサ104との間でやり取りするデジタル情報やUE10全体を制御するプログラムなどを記憶する。
制御プロセッサ104は、メモリ103からプログラムを読み出してUE10全体の制御、無線インターフェース102a〜102nを介してアンテナ101から送信されるデジタル情報の生成、無線インターフェース102a〜102nを介してアンテナ101から受信したデジタル情報の更なる処理などを実行する。
制御プロセッサ104は、無線インターフェース102a〜102nの中のいずれか一つ以上を選択的にイネーブルし、バス107を介して当該イネーブルされた無線インターフェースのみを介してデジタル情報をやり取りすることにより、特定のRATを選択的に使用して通信することが出来る。また、制御プロセッサ104は、無線インターフェース102a〜102nの全てをイネーブルし、バス107を介して全ての無線インターフェース102a〜102nを介してデジタル情報をやり取りすることにより、同時利用可能な全てのRAT(無線アクセス網)を同時に使用して通信することが出来る。
ユーザ入出力装置105は、UE10上に設けられた画面表示ディスプレイやキーパッドと制御プロセッサ104との間で入出力データのやり取りを行うと同時に、ユーザとUE10の間のユーザ・インターフェースの制御を行う。加えて、ユーザ入出力装置105は、UE10上に設けられた画面表示ディスプレイやキーパッドのデバイス状態や入出力ステータスが変化した際に、バス107を介して当該変化と関係付けられた割り込み処理を制御プロセッサ104に対して指示する。このような割り込み制御を可能とするために、ユーザ入出力装置105は、自身が管理する画面表示ディスプレイやキーパッドなどの入出力デバイス状態を電気的にモニタリングする機能を備えている。
<3>無線通信システム内における通信経路のポリシー制御の概要
(3−1)無線網内におけるポリシー制御の一般的な説明
ポリシー制御におけるポリシーは、運用ポリシーと機器設定ポリシーの2種類に大別される。運用ポリシーは無線網のネットワーク運用管理者が定めた網運用指針を記述するもの、無線網上で実行される個々の通信アプリケーション毎に、当該通信アプリケーションが要求する通信サービスの機能や品質を記述するもの等である。また運用ポリシーは、無線端末の通信制御機能の中でユーザが選択したい機能を記述するものであっても良い。他方、機器設定ポリシーは、運用ポリシーを無線網内の個々のネットワーク機器の動作に反映させるために、ポリシー制御の主体が運用ポリシーを解析した結果から生成するものであり、ポリシー制御主体によって個々のネットワーク機器に対して設定されるポリシーである。
無線端末が無線網を経由して通信するトラフィック・フローに対してポリシーに基づく通信経路制御を行う場合、ポリシー制御動作の各々は、判断段階と施行段階とに分けられる。判断段階は、無線端末側または無線網側からの要求によって開始され、無線端末側または無線網側から受信したトラフィック・フロー記述情報や無線網内のネットワーク機器の稼動情報に基づいて、当該トラフィック・フローに適用すべきポリシーの具体的内容を判断する。施行段階は、判断段階において決定されたポリシーの具体的内容を無線端末または無線網内のいずれか一つ以上のネットワーク機器に設定し、設定されたポリシーに従ってトラフィック・フローを転送するように、当該無線端末または当該ネットワーク機器に対して指示する。
上述したポリシー制御動作を無線網内において実装するためには、(1)ポリシー制御の対象となるネットワーク機器上において、外部から受信した機器設定ポリシーにより設定されたポリシー内容に従って、トラフィック・フローを転送するためのポリシー実施機能を実装し、さらに(2)無線網内において、ポリシー制御の対象となるネットワーク機器に対して設定すべき機器設定ポリシーを運用ポリシーの解析結果と状況に応じて判断し、当該ネットワーク機器に対して当該判断した機器設定ポリシーを設定するポリシー制御機構を実装することが必要となる。3GPPリリース7の規定によれば、3GPPコア網(図1のコア網51など)内において、ポリシー制御の対象となるネットワーク機器(図1のコア網ゲートウェイ61〜63など)に対して設定すべき機器設定ポリシーを運用ポリシーと状況に応じて判断する主体は、PCRF(ポリシーおよび課金ルール機能)であり、ネットワーク機器に対して当該判断した機器設定ポリシーを設定する主体は、PCEF(ポリシーおよび課金施行機能)である。PCRFおよびPCEFは、コア網(図1のコア網51など)内においてポリシー制御機構を実装するポリシー制御サーバ(図1の外部接続ゲートウェイ71/72など)の機能として実現することが出来る。
(3−2)本実施の形態が従来技術における通信経路ポリシー制御と相違する点
3GPPコア網内でのポリシー制御フレームワークであるPCCアーキテクチャを実装基盤として、無線端末が通信するトラフィック・フローの通信経路制御のために実行される特許文献1および特許文献2記載のポリシー制御は、本実施の形態とは以下の2つの点で異なっている。
(a)第1の相違点
本実施の形態においては、無線網内のポリシー制御機構から設定された機器設定ポリシーに従って通信経路制御の動作を調整するのは無線端末(図1および図2に示すUE10)のみである。これに対して、特許文献1および特許文献2を含む従来の通信経路ポリシー制御においては、無線網内のポリシー制御機構から設定された機器設定ポリシーに従って通信経路制御の動作を調整する対象となる機器は無線端末のみならず、無線端末の通信経路上に位置する無線網(図1のコア網51/コア網52など)内の全てのルータ機器やネットワーク機器(図1のコア網ゲートウェイ61〜63など)も含まれる。例えば、無線端末の通信経路上に位置する各ルータ機器は、ポリシー制御機構から異なる機器設定ポリシーを設定されることにより、同一の無線端末が通信するトラフィック・フローを異なる出力側網インターフェースにルーティングする場合がある。
(b)第2の相違点
また、本実施の形態においては、ポリシー制御フレームワークに基づく通信経路の制御とは、無線端末が異なるRATにそれぞれ接続するための複数の無線ベアラを無線端末上で切り替えたり同時使用したりする通信経路制御であり、無線アクセス網の先にあるコア網(図1のコア網51など)内での通信経路制御には関知しない。加えて、本実施の形態においては、無線端末上での複数の無線ベアラ間の切り替えや同時使用の設定変更動作は、無線網側のポリシー制御機構から一方的に指示されるものではなく、無線端末が当該ポリシー制御機構から受信したポリシーを参照しながら無線端末側の主導の下に実行される。従って、本実施の形態においては、通信経路制御に関する現在のポリシー設定状態は無線端末上でのみ管理すればよいので、本実施の形態に係るポリシー制御は端末主導型の通信経路ポリシー制御であると言える。
これに対して、特許文献1を含む従来の通信経路ポリシー制御においては、無線端末の通信経路上に位置するコア網(図1のコア網51など)内の全てのルータ機器やネットワーク機器(図1のコア網ゲートウェイ61〜63など)のルーティング動作が制御される。この場合、ルータ機器やネットワーク機器(図1のコア網ゲートウェイ61〜63など)に対するルーティング動作の設定変更は、無線網側のポリシー制御機構から一方的に指示されるものであり、ポリシー設定対象となるルータ機器やネットワーク機器(図1のコア網ゲートウェイ61〜63など)が自律的に判断するものではない。また、このような従来の通信経路ポリシー制御においては、無線端末が通信するトラフィック・フローに対して実行されるポリシー制御によってコア網(図1のコア網51など)内の通信経路自体が直接の制御対象とされる。その結果、ポリシー制御によってコア網内の通信経路が変更されると、当該変更を無線端末に対応するコア網(図1のコア網51など)内のモビリティ・アンカー(3GPPコア網においては、MMEまたはPDN−GWとして実装される)や無線ベアラ終端ノード(3GPPコア網においては、GGSNとして実装される)に反映させる必要が生じる。そのため、当該無線端末は、当該モビリティ・アンカーや当該無線ベアラ終端ノードとの間で、ポリシー設定変更に関する同期をとらなくてはならなくなる。言い換えれば、特許文献1を含む従来の通信経路ポリシー制御は、ポリシー設定変更をコア網全体で同期をとりながら管理する必要のあるネットワーク主導型のポリシー制御であると言える。
<4>本実施の形態に係るポリシー制御機能を実現する機能モジュール構成
以下、図3を参照しながら、図1に示すネットワーク構成と図2に示す無線端末の上で、本実施の形態に係るポリシー制御の仕組みを実現するための機能モジュール構成を説明する。
(4−1)全体構成の概観
図3において、上記(ii)で述べた無線網側のポリシー制御機構に相当するポリシー制御機構200は、外部ベアラ設定部210、外部情報取得部220およびオペレーション・システム(網運用管理システム)230の3つの機能モジュールから構成される。外部ベアラ設定部210および外部情報取得部220は、無線網内に設置されたポリシー制御サーバが、専用のサーバ・ソフトウェアを実行することにより実現される。図3に示すポリシー制御機構200は特定の無線コア網や特定の無線アクセス網に限定されない共通のポリシー制御の仕組みを、無線端末10から利用可能な全ての無線網に対して提供する。そのため、ポリシー制御機構200を実装するポリシー制御サーバはインターネット網80や特定の無線コア網から独立したルータ網(PDN(Packet Data Network))54の中に設置するのが好適である。ポリシー制御サーバが特定のコア網内に設置される場合は、当該ポリシー制御サーバは、他のコア網内のポリシー設定対象機器との間でCOPSプロトコルなどを使用してポリシー情報のやり取りをする。また、2つ以上のルータ網54が無線通信事業者毎に存在し、いずれか一つのルータ網54内にポリシー制御サーバを設置する場合、COPSプロトコルなどを使用して、全てのルータ網54内の網情報をポリシー制御サーバが設置されるルータ網54に集約することも可能である。その結果、このような複数ルータ網構成においても、図3に示すポリシー制御機構200を特定の無線コア網や特定の無線アクセス網に限定されない共通のポリシー制御の仕組みとして提供することが可能となる。
図3に示すとおり、ポリシー制御機構200は、無線ベアラ1、無線ベアラ2、…、無線ベアラNを介して無線端末10と接続されており、無線ベアラ1〜無線ベアラNを介したN本の無線通信経路は、それぞれN個の異なる無線アクセス網(第1のRAT〜第NのRAT)を経由し、さらにそれら無線アクセス網の背後にある一つ以上の無線コア網のいずれかを経由する。ポリシー制御機構200が特定の無線ベアラと関連した機器設定ポリシーを無線端末10に設定する際には、当該特定の無線ベアラを介して当該機器設定ポリシーを配信する。図3においては、無線ベアラ1〜無線ベアラNがそれぞれ接続する無線アクセス網を、それらの背後にある無線コア網とまとめた形で、無線網3001〜無線網300nとして図示している。
(4−2)無線網側のポリシー制御機構200の機能モジュール構成
次に、ポリシー制御機構200の機能モジュール構成を以下のとおりに説明する。
外部ベアラ設定部210は、異なるRATに接続する複数の無線ベアラを無線端末10が選択する動作をポリシーに基づいて制御するために、当該無線端末に対して所定の機器設定ポリシーを設定する。この時、当該無線端末に対する機器設定ポリシーの設定は、以下のようにして達成される。まず最初に、当該ポリシー制御サーバが当該無線端末に対してCOPSプロトコルなどのポリシー伝達プロトコルを使用して設定すべき機器設定ポリシーの内容を送信する。続いて、当該無線端末内のポリシー実施機構が、当該送信された機器設定ポリシーの内容に従って、自身の動作制御パラメータなどを設定変更する。
外部ベアラ設定部210は、取得情報分析部211とポリシー配信部212とから構成される。取得情報分析部211は、無線網のネットワーク運用管理者が手動で設定した運用ポリシーや無線網を構成する多数のネットワーク機器から収集したネットアーク機器情報を分析して個々の無線端末10に設定すべき機器設定ポリシーの内容を決定する。加えて、取得情報分析部211は、無線網を構成する多数のネットワーク機器から収集したネットアーク機器情報を分析して個々の無線端末10に送信すべきトラフィック規制情報を決定する。また、取得情報分析部211は、後述するとおり、無線ベアラ1〜無線ベアラNを介して無線網3001〜300nに接続する各無線端末から通知される(図3のP1で示す矢印)トラフィック規制情報を追加的に考慮して個々の無線端末10に送信すべきトラフィック規制情報を決定することも可能である。特に無線ベアラが接続するRATが無線LANである場合、無線LANは、セルラー無線網のように網側からトラフィック規制情報を無線端末10に供給する機能を持たないため、各無線端末から取得情報分析部211へのトラフィック規制情報の通知が必要となる。また、この場合、無線網側の取得情報分析部211が全ての無線端末からトラフィック規制情報の通知を一斉に受け付けると無線網側の負荷が高くなる。そこで、このような場合、同一セル内に在圏する複数の無線端末からトラフィック規制情報を当該セル内において代表端末として機能する無線端末に送信し、代表端末上で集約されたトラフィック規制情報を無線網側の取得情報分析部211に通知するようにしても良い。トラフィック規制情報が果たす役割とその具体的な構成については後述する。
簡単に言うと、トラフィック規制情報とは、無線端末10が無線トラフィック伝送のために同時使用可能な無線ベアラの各々についてのトラフィック規制率に関する情報を含む無線網側の運用状態情報である。トラフィック規制率とは、無線端末10から同時使用可能な無線ベアラの各々が接続するそれぞれの通信経路上において、無線端末10が通信するトラフィックの流量が規制される度合いを数値化したものである。この場合におけるトラフィック流量の規制は、無線ベアラ毎の各通信経路が経由する無線アクセス網やコア網によって実行される。トラフィック規制率が100%の状態とは、対応する通信経路上でのトラフィックの伝送が無線端末10に対して一切許可されない状態である。また、トラフィック規制率が0%の状態とは、対応する通信経路上での無線端末10によるトラフィック伝送が全く規制されない状態である。また、トラフィック規制率50%の状態とは、対応する通信経路上で無線端末10が通信しようとするトラフィック流量のうち、50%の流量だけが対応する通信経路上での伝送を許可されている状態である。
ポリシー配信部212は、無線ベアラ1〜無線ベアラNのいずれか一つ以上を介して無線端末10と接続される。ポリシー配信部212は、取得情報分析部211が決定した機器設定ポリシーをポリシー制御対象となる無線端末に設定するために、無線端末10に対して当該決定された機器設定ポリシーを、無線ベアラ1〜無線ベアラNのいずれか一つ以上を介して配信する。同時に、ポリシー配信部212は、取得情報分析部211が決定したトラフィック規制情報を無線端末10に対して伝達するために、当該トラフィック規制情報を無線ベアラ1〜無線ベアラNのいずれか一つ以上を介して配信する。
外部情報取得部220は、ネットワーク情報取得部221とオペレーター・ポリシー取得部222から構成される。ネットワーク情報取得部221は、無線網内の各ネットワーク機器からその機器の現在の稼動状態、現在の通信能力または機器構成に関するネットワーク機器情報を収集する。例えば、ネットワーク情報取得部221は、無線ベアラ1〜無線ベアラNがそれぞれ接続する無線網3001〜無線網300nを構成するルータ機器やネットワーク機器から、その機器の構成、機能、稼働状況および通信性能に関するネットワーク機器情報を収集する。オペレーター・ポリシー取得部222は、無線網のネットワーク運用管理者が手動で設定した運用ポリシーを取得する。外部情報取得部220は、ネットワーク情報取得部221とオペレーター・ポリシー取得部222がそれぞれ取得したネットワーク機器情報と運用ポリシーを取得情報分析部211に伝達する。
オペレーション・システム230は、個々の無線通信事業者網毎に設けられ、無線通信事業者網の個数分だけ存在する(図3の230A〜230N)。無線通信事業者網毎のオペレーション・システム230は、自身の管理下にある無線通信事業者網内の全てのネットワーク機器からそれらのネットワーク機器の構成、機能および稼動状態などを記述する情報である「ネットワーク機器情報」を収集し、外部情報取得部220内のネットワーク情報取得部221に報告する。一実施形態においては、n個の無線通信事業者網は、図3の無線網3001〜300nにそれぞれ対応しても良い。この場合、無線網3001を構成する全てのネットワーク機器の構成、機能、稼働状況および通信性能を記述するネットワーク機器情報は、図3のオペレーション・システム230Aによって収集され、無線網3002を構成する全てのネットワーク機器のネットワーク機器情報は、図3のオペレーション・システム230Bによって収集され、…、無線網300n内のネットワーク機器情報は、図3のオペレーション・システム230Nによって収集される。なお、個々のオペレーション・システム230は、個々の無線通信事業者網に設置されたネットワーク運用管理サーバによって実現されることが可能である。一実施例においては、当該ネットワーク運用管理サーバは、当該無線通信事業者網を構成する各ネットワーク機器のMIB(Module Information Base)をSNMPプロトコルでアクセスすることにより、各ネットワーク機器の構成、機能、稼働状況および通信性能を記述するネットワーク機器情報を収集することが可能である。オペレーション・システム230A〜230Nが収集した無線網3001〜300n内の全てのネットワーク機器に関するネットワーク機器情報は外部情報取得部220内のネットワーク情報取得部221によって収集される。
(4−3)無線端末10側の機能モジュール構成
次に、図3における無線端末10側の機能モジュール構成について説明する。この機能モジュール構成は、無線網側から供給されるポリシーを参照しながら、無線端末10上において異なるRATにそれぞれ接続する複数の無線ベアラの切り替えや同時並列アクセスを制御するための上記(i)の仕組みに相当する。無線端末10側の機能モジュール構成は、内部ベアラ設定部110および内部情報取得部120の2つの機能モジュールから構成される。無線端末10側の上述した機能モジュールは、無線端末10内の制御プロセッサ104が、ストレージ106からメモリ103上に読み込んだ専用のソフトウェア・プログラムを実行することによって実現される。
内部ベアラ設定部110は、無線端末10から同時利用可能な無線ベアラ1〜無線ベアラNの中から無線端末10が無線網に接続するために使用する一つ以上の無線ベアラを選択する機能を実行する。この際、無線端末10が無線網に接続するために、内部ベアラ設定部110により2つ以上の無線ベアラが選択された場合には、内部ベアラ設定部110はさらに、当該2つの無線ベアラ上で通信するトラフィック量を当該2つの無線ベアラの間で最適に配分する動作を実行する。この時、内部ベアラ設定部110が上述のとおり実行する無線ベアラの選択、および当該選択された無線ベアラ間でのトラフィック最適配分は、当該選択された各無線ベアラに対応する通信経路上でのトラフィック規制率に応じて実行される。
内部ベアラ設定部110は、まず最初に、ポリシー配信部212から配信されたトラフィック規制情報および機器設定ポリシーを受信する。続いて、内部ベアラ設定部110は、当該機器設定ポリシーと当該トラフィック規制情報とに基づいて各無線ベアラ上での通信トラフィック規制の度合いを無線ベアラ毎に評価する。すなわち、内部ベアラ設定部110は、当該機器設定ポリシーと当該トラフィック規制情報とに基づいて、無線端末10から同時利用可能な無線ベアラ1〜無線ベアラNの各々について、予想されるトラフィック規制の度合いを評価する。続いて、同時利用可能な無線ベアラ1〜無線ベアラNの中から無線端末10が通信に使用する無線ベアラを取捨選択する動作の実行を切替部111または同時通信処理部112のいずれか一方に実行させるため、内部ベアラ設定部110は、無線ベアラ毎に評価したトラフィック規制の度合いを切替部111または同時通信処理部112のいずれか一方に伝達する。無線ベアラを取捨選択する動作の実行を、内部ベアラ設定部110が切替部111または同時通信処理部112のいずれが実行すべきかは、後述するようにアクティベート部113によって決定される。
内部ベアラ設定部110は、切替部111、同時通信処理部112およびアクティベート部113から構成される。
アクティベート部113は、無線ベアラ1〜無線ベアラNの中から通信に使用する単一の無線ベアラを選択する機能を実行開始するタイミングを切替部111に対して指示する。代替的に、アクティベート部113は、無線ベアラ1〜無線ベアラNの中から通信に使用する一つ以上の無線ベアラの間でトラフィックの最適配分を実行開始するタイミングを同時通信処理部112に対して指示する。例えば、アクティベート部113は、切替部111または同時通信処理部112による無線ベアラ間の取捨選択動作の実行を一定時間間隔で周期的に指示することが可能であり、この場合、切替部111または同時通信処理部112による無線ベアラの取捨選択動作は一定時間間隔で周期的に起動される。また、別の実施態様として、アクティベート部113は、無線端末10内のソフトウェアまたはハードウェアにより生成される所定のイベント事象の発生を検出し、当該イベント事象の発生に応じて無線ベアラの取捨選択動作の実行を切替部111または同時通信処理部112に対して指示することが可能である。
また、アクティベート部113は、無線端末10が通信に使用する無線ベアラを取捨選択する動作を切替部111または同時通信処理部112のいずれに実行させるかを決定する。アクティベート部113は、無線端末10が同時使用可能な無線ベアラのうち、対応する通信経路上でのトラフィック規制率が100%である無線ベアラを除外した後に、除外されなかった無線ベアラが一つだけ有るか、または2つ以上有るかに応じて当該決定を行う。具体的には、除外されなかった無線ベアラが一つだけの場合、アクティベート部113は、上記取捨選択動作を切替部111に実行させるよう決定し、当該無線ベアラの上でユーザ・トラフィックの伝送を行うように切替部111に指示する。逆に、除外されなかった無線ベアラが2つ以上あれば、アクティベート部113上記取捨選択動作を同時通信処理112に実行させるよう決定し、当該2つ以上の無線ベアラ間でユーザ・トラフィックを最適配分するように同時通信処理部112に指示する。
切替部111は、対応する通信経路上で100%のトラフィック規制がされていない無線ベアラとしてアクティベート部113によって選択された無線ベアラを介して上りリンク信号を送信する。なお、切替部111は、無線ベアラ1〜無線ベアラNの中のいずれか一つを介して下りリンク信号を無線網側から受信する場合にも、上記と同様の制御を行う。その場合、切替部111によって選択される無線ベアラが下りリンクの場合と上りリンクの場合とで異なっていても良い。同時通信処理部112は、まず最初に、各無線ベアラとそれぞれ対応する各通信経路に対して適用されるトラフィック規制率に基づいて、無線ベアラ毎に伝送可能な情報信号のビット数を割り当てる。続いて、同時通信処理部112は、各無線ベアラを介して、各無線ベアラに割り当てたビット数だけ上りリンク信号を送信する。なお、同時通信処理部112は、無線ベアラ1〜無線ベアラNの一つ以上を介して下りリンク信号を無線網側から受信する場合にも、上記と同様の制御を行う。この時、無線ベアラ1〜無線ベアラNの中で、トラフィック規制率が100%である無線ベアラは、上りリンク信号または下りリンク信号の送受信のために選択されない。このような選択されない無線ベアラに関しては、同時通信処理部112は、伝送可能な情報信号のビット数として0ビットを割り当てることにより、当該無線ベアラを選択対象から外すことができる。以上のようにして、同時通信処理部112は、無線ベアラ毎のトラフィック規制率を考慮して、複数の無線ベアラ間での上りリンクおよび下りリンクのトラフィック配分を最適化する。なお、無線ベアラ毎のトラフィック規制率を考慮して、同時通信処理部112が複数の無線ベアラ間でのトラフィック配分を最適化する際、上りリンクと下りリンクでトラフィック配分が異なるようにトラフィック配分を決定しても良い。
即ち、切替部111は、トラフィックが全面的に規制されていない唯一の無線ベアラの上で選択的に通信するための無線ベアラ選択を実行する。一方、同時通信処理部112は、トラフィックが全面的ではないが部分的に規制されている2つ以上の無線ベアラの間で、無線ベアラ毎のトラフィック規制率を考慮してトラフィック最適配分を実行する。
内部情報取得部120は、無線端末10内部の通信性能、通信設定、および通信状態などを計測し、当該計測の結果を内部情報として内部に記憶しておき、当該記憶しておいた内部情報を内部ベアラ設定部110からの要求に応じて内部ベアラ設定部110に伝達する。内部情報取得部120が、無線端末10内部の通信性能、通信設定、および通信状態などを計測する動作は、以下のように実現することが出来る。例えば、無線端末10内において、内部情報取得部120を実行中の制御プロセッサ104(図3)が、メモリ103(図3)上に常駐するオペレーティング・システムによって提供される通信動作モニタリング用のAPIを呼び出して実行することにより上述した計測を行える。内部情報取得部120から内部ベアラ設定部110に伝達されたこの内部情報は、内部ベアラ設定部110がポリシー配信部212から配信された機器設定ポリシーを無線端末10内部の通信性能、通信設定、および通信状態などを勘案して修正するために使用される。この点に関する詳細は後述する。
また、内部情報取得部120は、無線端末10から同時使用可能な各無線ベアラが接続する通信経路毎に、無線端末10の上りリンク通信および下りリンク通信に対して適用されるトラフィック規制率に関する情報を知っている場合には、当該情報を無線網側にあるポリシー制御機構200内のネットワーク情報取得部221に通知する(図3のP1で示す矢印)。これにより、ポリシー制御機構200により機器設定ポリシーとトラフィック規制情報の配信対象とされる各無線端末は、無線網内の関連する通信経路上でのトラフィック規制に関して、自身が知っている情報をポリシー制御機構200に通知することが出来る。その結果、ポリシー制御機構200内の取得情報分析部211は、各オペレーション・システム230A〜230Nから収集した情報に加え、各無線端末から収集したトラフィック規制情報をも併せて考慮して、無線網3001〜無線網300n内の各通信経路に対するトラフィック規制方針を決定することが出来る。
<5>ポリシー制御動作の流れ
以下、図3〜図8を参照しながら、図3に示された無線網側と無線端末側の機能モジュール群が互いに連携してポリシー制御動作を実現する際の動作の流れを説明する。
(5−1)ポリシー制御機構200側の動作の流れ
以下の説明のために参照する図4は、ポリシー制御機構200から無線端末10に配信されるトラフィック規制情報の具体例を示す図であり、図5は、図3に示された無線網側と無線端末側の機能モジュール群の間での情報の流れを示すイベントフロー図である。
まず、最初に、外部ベアラ設定部210内のポリシー配信部212は、無線端末10に設定するために生成した機器設定ポリシーを無線ベアラ1〜無線ベアラNのいずれかを介して無線端末10に配信する(図5のステップS1000)。この時に無線端末10に配信される機器設定ポリシーの役割と情報内容に関しては後述する。続いて、オペレーション・システム230A〜230Nの各々は、自身の管理下にある無線網内の全てのネットワーク機器の構成や機能を記述する情報を収集する(図5のステップS1001)。例えば、オペレーション・システム230Aは、無線網3001を構成する全てのネットワーク機器のネットワーク機器情報を収集し、オペレーション・システム230Bは、無線網3002を構成する全てのネットワーク機器のネットワーク機器情報を収集し、…、オペレーション・システム230Nは、無線網300n内のネットワーク機器情報を収集する。続いて、外部情報取得部220内のネットワーク情報取得部221は、無線網3001〜300n内の全てのルータ機器やネットワーク機器のネットワーク機器情報をオペレーション・システム230A〜230Nから収集する(図5のステップS1002およびS1003)。図3の無線網3001は、LTE網などのセルラー無線網とその背後にある無線コア網やルータ網を一体的に図示するものであり、図3の無線網300nは、無線LANとその背後にある無線コア網やルータ網を一体的に図示するものである。
また、ネットワーク情報取得部221は、後述するとおり、無線ベアラ1〜無線ベアラNを介して無線網3001〜300nに接続する各無線端末から通知される(図3のP1で示す矢印)トラフィック規制情報を収集することも可能である。ネットワーク情報取得部221が各無線端末から収集するトラフィック規制情報とは、各無線端末が自身のトラフィック伝送に使用する通信経路に適用されるトラフィック規制に関して知っている局所的な情報であり、各無線端末からネットワーク情報取得部221に対して通知される情報である。具体的には、内部情報取得部120は、無線端末10から同時使用可能な各無線ベアラが接続する通信経路毎に、無線端末10の上りリンク通信および下りリンク通信に対して適用されるトラフィック規制率に関する情報を知っている場合には、当該情報を無線網側にあるポリシー制御機構200内のネットワーク情報取得部221に通知する(図3のP1で示す矢印)。
続いて、ネットワーク情報取得部221は、オペレーション・システム230から取得したネットワーク機器情報を外部ベアラ設定部210内の取得情報分析部211に送信する(図5のステップS1004)。
これと並行して、オペレーター・ポリシー取得部222は、ネットワーク運用管理者から無線網の運用ポリシーを手動で入力されると、当該入力された運用ポリシーを取得情報分析部211に送信する。
続いて、取得情報分析部211は、無線網3001〜300n内において各無線ベアラの通信経路上に位置するネットワーク機器から収集したネットワーク機器情報からトラフィック規制情報を生成する。トラフィック規制情報とは、無線網3001〜300n内に存在する基地局や無線アクセスポイントの各々において、無線端末10のトラフィックを伝送する通信経路に適用されるトラフィック規制率を表形式で列挙した情報である。なお、無線網3001〜300n内に存在する全ての基地局や無線アクセスポイントについてトラフィック規制情報を生成すると、トラフィック規制情報の情報量が膨大となる。そのため、取得情報分析部211は、無線端末10が位置する地理的位置を中心として所定の範囲内にある基地局や無線アクセスポイントのみについてトラフィック規制情報を生成することが可能である。それにより、無線端末10が近い将来接続する可能性のある基地局または無線アクセスポイントについてだけ、トラフィック規制情報が生成される。トラフィック規制情報の具体例を図4に示す。
以下、図1に示したネットワーク構成を前提として、図4に例示したトラフィック規制情報について説明する。無線端末10から無線ベアラ30Aにより接続可能なLTE網40Aは、それぞれがセルID=100、セルID=101、…となる複数個のLTE基地局(eNodeB)を備えており、図4の表中には上述したセルIDを有する複数のLTE基地局に対応する行が含まれている。図4の表中には上述したセルIDを有するLTE網のセル内にそれぞれ位置する複数の無線LANアクセスポイントに対応する行が含まれている。また、無線端末10から無線ベアラ30Cにより接続可能なWiMAX網40Bは、それぞれがセルID=125、…、セルID=130となる複数個のWiMAX基地局を備えており、図4の表中には上述したセルIDを有する複数のWiMAX基地局に対応する行が含まれている。無線網3001〜300n内において、各行に記載された各セルIDにそれぞれ対応する複数の基地局や無線アクセスポイントから伸びる通信経路の各々に対して適用されるトラフィック規制率は、図4の表中において「規制率」と示された列に対応する。図4の表において「規制アプリ」と示された列は、各行に記載されたセルIDにそれぞれ対応する通信経路内を流れる通信トラフィックが関係する通信アプリケーションの種別に対応する。すなわち、異なるセルIDに対応する各行における「規制アプリ」の欄の値は、各行に記載されたセルIDにそれぞれ対応する通信経路の上で無線端末10が通信するために、無線端末10が使用している通信アプリケーションの種別(VoIP、ビデオ・ストリーミング等)を表す。
例えば、セルID=100に対応する行内の「規制率」および「規制アプリ」の欄に記載された「100%」および「区別無し」は、セルID=100を有するLTE基地局において、無線端末10が通信に使用するアプリケーション種別とは無関係に、無線端末10が実行しようとする一切のトラフィック伝送が許可されていない状態を表す。図4の表中において、セルID=101およびセルID=102をそれぞれ有する2つのLTE基地局に関しても同様である。一方、セルID=103に対応する行内の「規制率」および「規制アプリ」の欄に記載された「80%」および「Streaming」は、セルID=103を有するLTE基地局において、無線端末10が通信に使用するアプリケーション種別が「ビデオ・ストリーミング」である場合に、無線端末10が伝送しようとするトラフィック量の80%が規制されている状態を表す。同様に、セルID=103に対応する行内の「規制率」および「規制アプリ」の欄に記載された「50%」および「FTP」は、セルID=103を有するLTE基地局において、無線端末10が通信に使用するアプリケーション種別が「ファイル転送」である場合に、無線端末10が伝送しようとするトラフィック量の50%が規制されている状態を表す。また、セルID=125に対応する行内の「規制率」および「規制アプリ」の欄に記載された「40%」および「VoIP」は、セルID=125を有するWiMAX基地局において、無線端末10が通信に使用するアプリケーション種別が「VoIP」である場合に、無線端末10が伝送しようとするトラフィック量の40%が規制されている状態を表す。また、セルID=130に対応する行内の「規制率」および「規制アプリ」の欄に記載された「60%」および「Streaming」は、セルID=130を有するWiMAX基地局において、無線端末10が通信に使用するアプリケーション種別が「Streaming」である場合に、無線端末10が伝送しようとするトラフィック量の60%が規制されている状態を表す。
また、別の実施形態として、トラフィック規制情報を表す図4の表中には、無線網側からのトラフィック規制の対象から外される規制対象外のアプリケーション種別を指定する欄を設けることも可能である。また、上述した実施例においては、トラフィック規制情報を表す図4の表中で、無線LANアクセスポイントに対応する各行を、当該無線LANアクセスポイントが地理的に位置するLTE網セルのセルIDで識別した。しかし、代替的な実施例においては、LTE網セルのセルIDの代わりに、各行が対応する無線LANアクセスポイントのMACアドレスを使用して各行を識別しても良い。
また、ポリシー制御機構200内の取得情報分析部211は、各オペレーション・システム230A〜230Nから収集した情報に加え、各無線端末上の内部情報取得部120から収集した(図3のP1で示す矢印)トラフィック規制情報をも併せて考慮して、無線網3001〜無線網300n内の各通信経路に対するトラフィック規制情報を決定することが出来る。
続いて、外部ベアラ設定部210内の取得情報分析部211は、ネットワーク情報取得部221から取得した無線網内のネットワーク機器のネットワーク機器情報およびオペレーター・ポリシー取得部222から取得した運用ポリシーに基づいて、各無線ベアラ(無線ベアラ1〜無線ベアラNの各々)についての無線端末10に設定すべき機器設定ポリシーを決定する。この場合の機器設定ポリシーとは、ユーザ・トラフィックの伝送のために無線端末10が選択可能な無線ベアラが2つ以上有る場合に、当該2つ以上の無線ベアラの間でどのようにして当該ユーザ・トラフィックを配分すべきかを規定するポリシーである。この機器設定ポリシーの具体例については、図6〜図8に関して後述する。なお、無線端末10が選択可能な無線ベアラとは、無線端末10が同時使用可能な一つ以上の無線ベアラのうち、対応する通信経路上でのトラフィック規制率が100%ではなく、無線端末10による当該通信経路上でのトラフィック伝送が全面的に禁止されていない無線ベアラを表す。また、取得情報分析部211は、上述した機器設定ポリシーを決定するに当たって、オペレーター・ポリシー取得部222から取得した運用ポリシーを加味して決定しても良い。
最後に、外部ベアラ設定部210内のポリシー配信部212は、無線端末10に設定するために生成した機器設定ポリシーと取得情報分析部211から受け取ったトラフィック規制情報を無線ベアラ1〜無線ベアラNのいずれかを介して無線端末10に配信する(図6のステップS1005)。無線端末10に配信されたトラフィック規制情報と機器設定ポリシーは、同時使用可能な複数の無線ベアラの中から無線端末10が通信に使用するものを取捨選択するために、無線端末10によって使用される(図5のステップS1006)。
(5−2)無線端末10側の動作の流れ
まず、内部ベアラ設定部110内において、アクティベート部113は、無線ベアラ1〜無線ベアラNの中から通信に使用する単一の無線ベアラを選択する機能を実行開始するタイミングを切替部111に対して指示する。代替的に、アクティベート部113は、無線ベアラ1〜無線ベアラNの中から通信に使用する一つ以上の無線ベアラの間でトラフィックの最適配分を実行開始するタイミングを同時通信処理部112に対して指示する。例えば、アクティベート部113は、切替部111または同時通信処理部112による無線ベアラ間の取捨選択動作の実行を一定時間間隔で周期的に指示することが可能であり、この場合、切替部111または同時通信処理部112による無線ベアラの取捨選択動作は一定時間間隔で周期的に起動される。また、別の実施態様として、アクティベート部113は、無線端末10内のソフトウェアまたはハードウェアにより生成される所定のイベント事象の発生を検出し、当該イベント事象の発生に応じて無線ベアラの取捨選択動作の実行を切替部111または同時通信処理部112に対して指示することが可能である。
また、アクティベート部113は、無線端末10の通信に使用される無線ベアラを取捨選択する動作を切替部111または同時通信処理部112のいずれに実行させるかを決定する。具体的には、アクティベート部113は、まず最初に、無線端末10が同時使用可能な無線ベアラのうち、対応する通信経路上でのトラフィック規制率が100%である無線ベアラを除外する。続いて、アクティベート部113は、除外されなかった無線ベアラが一つだけ有るか、または2つ以上有るかを判定する。除外されなかった無線ベアラが一つだけの場合、アクティベート部113は、上記取捨選択動作を切替部111に実行させるよう決定し、当該無線ベアラの上でユーザ・トラフィックの伝送を行うように切替部111に指示する。逆に、除外されなかった無線ベアラが2つ以上あれば、アクティベート部113は、上記取捨選択動作を同時通信処理112に実行させるよう決定し、当該2つ以上の無線ベアラ間でユーザ・トラフィックを最適配分するように同時通信処理部112に指示する。
続いて、内部ベアラ設定部110内において、アクティベート部113によって起動された切替部111または同時通信処理部112は、無線端末10が同時使用可能な一つ以上の無線ベアラの中から実際に通信に使用する無線ベアラを取捨選択する動作を実行する。具体的には、切替部111は、対応する通信経路上でのトラフィック規制率が100%ではないとして選択された無線ベアラを介して上りリンク信号を送信する。他方、同時通信処理部112は、まず最初に、各無線ベアラがそれぞれ接続する各通信経路に対して適用されるトラフィック規制率に基づいて、無線ベアラ毎に伝送可能な情報信号のビット数を割り当てる。続いて、同時通信処理部112は、各無線ベアラを介して、各無線ベアラに割り当てたビット数だけ上りリンク信号を送信する。それにより、同時通信処理部112は、各無線ベアラに対応する通信経路におけるトラフィック規制率に応じて、複数の無線ベアラ間での上りリンクおよび下りリンクのトラフィック配分を最適化する。
例えば、同時通信処理部112は、以下のいずれかの方法に従って、各無線ベアラ上でのユーザ・トラフィック伝送のために各無線ベアラに対して割り当てる伝送ビット数を決定する。
(a)対応するトラフィック規制率が相対的に低い無線ベアラには相対的に多くの伝送ビット数を割り当て、対応するトラフィック規制率が相対的に高い無線ベアラには相対的に少ない伝送ビット数を割り当てる。その結果、同時通信処理部112は、トラフィック規制率が低い、すなわち、トラフィック規制が緩い無線ベアラに優先的にトラフィックを配分するような態様で、複数の無線ベアラ間でトラフィック量を最適配分することが出来る。
(b)ベアラ選択集合に含まれるk個の無線ベアラの中で対応するトラフィック規制率が最も低い無線ベアラを選択し、当該選択された無線ベアラだけに全ての伝送ビット数を割り当てる。その結果、同時通信処理部112は、トラフィック規制が最も緩い無線ベアラだけを排他的に使用して無線端末10のユーザ・トラフィックを伝送することが出来る。
(c)無線ベアラ毎の達成可能な実効スループットを内部情報取得部120から取得した上で、ベアラ選択集合に含まれる無線ベアラの各々について対応するトラフィック規制率と実効スループットとの積を計算する。続いて、各無線ベアラについて対応する実効スループットから上述した積を減算すると、各無線ベアラの上でトラフィック規制を受けない実効スループットが得られる。このトラフィック規制を受けない実効スループットが最大となる無線ベアラを選択し、当該選択された無線ベアラだけに全ての伝送ビット数を割り当てる。その結果、同時通信処理部112は、トラフィック規制を受けない実効スループットが最大となる無線ベアラだけを排他的に使用して無線端末10のユーザ・トラフィックを伝送することが出来る。
(d)上述したトラフィック規制を受けない実効スループットが相対的に大きな無線ベアラには相対的に多くの伝送ビット数を割り当て、トラフィック規制を受けない実効スループットが相対的に小さな無線ベアラには相対的に少ない伝送ビット数を割り当てる。その結果、同時通信処理部112は、トラフィック規制率を受けない実効スループットが大きい無線ベアラに優先的にトラフィックを配分するような態様で、複数の無線ベアラ間でトラフィック量を最適配分することが出来る。
無線ベアラ毎の伝送ビット数の割り当てを上述した(a)〜(d)のいずれの方法に従って実行するかは、内部ベアラ設定部110がポリシー配信部212から配信された機器設定ポリシーに従って決定される。言い換えれば、ポリシ制御機構200がポリシー配信部212を介して無線端末10に設定する機器設定ポリシーは、無線端末10内の同時通信処理部112が、複数の無線ベアラ間で無線端末10の伝送トラフィック量を最適配分するための方法を上述した(a)〜(d)の中から選択させるためのものである。
切替部111または同時通信処理部112が無線ベアラを取捨選択する動作は、ポリシー配信部212から無線端末10の内部ベアラ設定部110に対して配信された機器設定ポリシーとトラフィック規制情報を使用して実行される。その結果、切替部111または同時通信処理部112は、無線網側でのトラフィック規制が緩い無線ベアラを優先的に使用して無線端末10が通信を行えるように無線ベアラの取捨選択を実行する。続いて、起動された切替部111または同時通信処理部112は、各無線ベアラについて、無線端末10内部の通信性能、通信設定、および通信状態などに関する計測値を、内部情報取得部120から取得する。内部情報取得部120から取得した各無線ベアラについての通信性能、通信設定、および通信状態などを表す情報には、(1)各無線ベアラ毎に通信バッファー内で伝送待ち状態となって滞留している下りリンク方向と上りリンク方向の伝送データの量、(2)各無線ベアラ毎の通信制御パラメータや通信モードの現在の設定内容、(3)各無線ベアラ毎の現在までの通信スループット達成値および(4)各無線ベアラ毎に達成されている通信サービス品質の度合い(通信遅延、ジッターおよび誤り再送頻度など)などが含まれる。
続いて、起動された切替部111または同時通信処理部112は、内部情報取得部120から取得した無線端末10内部の通信性能、通信設定、および通信状態などに関する計測値を加味して上述した無線ベアラ間の取捨選択動作をさらに調整することが可能である。例えば、同時通信処理部112は、トラフィック規制が緩いと評価される無線ベアラであっても、当該無線ベアラ上での通信サービス品質が著しく低い、または当該無線ベアラ上でのフレーム伝送に関する誤り再送頻度が著しく高い場合には、当該無線ベアラへのトラフィック配分を減らすことが可能である。
また、内部情報取得部120は、無線端末10から同時使用可能な各無線ベアラが接続する通信経路毎に、無線端末10の上りリンク通信および下りリンク通信に対して適用されるトラフィック規制率に関する情報を知っている場合には、当該情報を無線網側にあるポリシー制御機構200内のネットワーク情報取得部221に通知する(図3のP1で示す矢印)。内部情報取得部120が、各無線ベアラが接続する通信経路毎に、無線端末10の上りリンク通信および下りリンク通信に対して適用されるトラフィック規制率に関する情報を知ることが出来る例示的なシナリオとしては、以下のシナリオが考えられる。例えば、無線端末10が各無線ベアラを介してそれぞれ接続している各無線アクセス網が、無線端末10に対して対応する無線ベアラ上でのトラフィック量を規制する制御コマンドを、ポリシー制御機構200から配信されるトラフィック規制情報とは無関係に送ってきた場合などである。
これにより、ポリシー制御機構200により機器設定ポリシーとトラフィック規制情報の配信対象とされる各無線端末は、無線網内の関連する通信経路上でのトラフィック規制に関して、自身が知っている情報をポリシー制御機構200に通知することが出来る。その結果、ポリシー制御機構200内の取得情報分析部211は、各オペレーション・システム230A〜230Nから収集した情報に加え、各無線端末から収集したトラフィック規制情報をも併せて考慮して、無線網3001〜無線網300n内の各通信経路に対するトラフィック規制方針を決定することが出来る。
<6>切替部111による無線ベアラ選択動作
以下、無線端末10が同時使用可能な一つ以上の無線ベアラの中から、各無線ベアラに対応する通信経路上のトラフィック規制率を考慮してトラフィックを伝送する無線ベアラを取捨選択する方法について、図6のフローチャートに沿って説明する。処理はまずステップS2001に進み、内部ベアラ設定部110内のアクティベート部113は、無線端末10が同時使用可能な全ての(m個の)無線ベアラを識別する。同時に、無線網3001〜300nに属する基地局や無線アクセスポイントのうち、上記識別されたm個の無線ベアラの各々が直接的に接続する基地局や無線アクセスポイントをセルIDにより識別する。上記識別されたm個の無線ベアラとそれらが各々接続する基地局や無線アクセスポイントのセルIDは、図7に示すような表の形で対応付けられる。上記識別された無線ベアラとそれらが接続する基地局や無線アクセスポイントとの間の対応関係を示す図7の表は端末側通信条件と呼ばれる。内部ベアラ設定部110による無線ベアラの一回の選択動作において、無線端末10は、無線端末10が通信に使用するアプリケーション種別毎に端末側通信条件を識別する。図7の(A)と(B)は、無線端末10における無線ベアラ選択動作に関し、2つの異なるアプリケーション種別に対応する端末側通信条件を示す。
図7(A)の表は、アプリケーション種別がビデオ・ストリーミングであった場合の端末側通信条件を例示し、この場合、無線端末10から同時使用可能であるとして識別された無線ベアラの本数mは4である。図7(A)の表において、LTE網との接続に使用される一本の無線ベアラはセルID=105となるLTE基地局(eNodeB)に接続されていることがわかる。また、図7(A)の表において、無線LAN(WiFi)との接続に使用される2本の無線ベアラの一方は、セルID=115となる無線LANアクセスポイントに接続され、他方はセルID=125となる無線LANアクセスポイントに接続されていることがわかる。また、図7(A)の表において、WiMAX網との接続に使用される一本の無線ベアラはセルID=135となるWiMAX基地局に接続されていることがわかる。
図7(B)の表は、アプリケーション種別がVoIP音声通話であった場合の端末側通信条件を例示し、この場合、無線端末10から同時使用可能であるとして識別された無線ベアラの本数mは3である。図7(B)の表において、LTE網との接続に使用される一本の無線ベアラはセルID=110となるLTE基地局(eNodeB)に接続されていることがわかる。また、図7(B)の表において、無線LAN(WiFi)との接続に使用される一本の無線ベアラは、セルID=120となる無線LANアクセスポイントに接続されていることがわかる。また、図7(B)の表において、WiMAX網との接続に使用される無線ベアラはセルID=130となるWiMAX基地局に接続されていることがわかる。
続いて、処理はステップS2002に進み、アクティベート部113は、ポリシー配信部212から受信したトラフィック規制情報に含まれる図4の表を参照する。
続いて、処理はステップS2003に進み、アクティベート部113は、図7の(A)および(B)において列挙された基地局または無線アクセスポイントのセルIDを検索キーとして、当該トラフィック規制情報に含まれる図4の表を検索する。上記検索の結果から対応する通信経路上のトラフィック規制率が100%となる無線ベアラが端末側通信条件の中に含まれているか判定する。対応する通信経路上のトラフィック規制率が100%となる無線ベアラが端末側通信条件の中に含まれていれば、処理はステップS2004に進み、そうでなければ処理はステップS2005に進む。ステップS2004においては、アクティベート部113は、対応する通信経路上のトラフィック規制率が100%となる無線ベアラを端末側通信条件(図7の(A)または(B))の中に列挙された無線ベアラ集合から除外する。ステップS2005においては、アクティベート部113は、無線端末10の全ての端末側通信条件に関して、ステップS2003およびステップS2004の処理を実行したか否かを判定する。図7に示す実例に関しては、アクティベート部113は、図7の(A)および(B)に示す2つの端末側通信条件に関して、ステップS2003およびステップS2004の処理を実行したか否かを判定する。無線端末10の全ての端末側通信条件に関して、ステップS2003およびステップS2004の処理を実行したならば、処理はステップS2006に進み、そうでなければ、処理はステップS2003に戻る。
ステップS2006において、アクティベート部113は、トラフィック規制率が100%を下回るとしてステップS2004の処理において除外されなかった無線ベアラが一つ以上存在するか否かを判定する。この際、少なくとも一つの端末側通信条件(図7の(A)または(B)の少なくとも一方)内の少なくとも一つの無線ベアラに関してトラフィック規制率が100%を下回っていれば、除外されなかった無線ベアラが一つ以上存在すると判定される。ステップS2004の処理において全ての端末側通信条件(図7の(A)および(B)の両者)内の全ての無線ベアラが除外されていた場合には、無線端末10が同時使用可能な全ての無線ベアラの上でのトラフィック規制率が100%である。その場合、処理はステップS2007に進み、アクティベート部113は、無線端末10による通信が不可能と判断して処理を終える。これに対して、ステップS2004の処理において除外されなかった無線ベアラが一つ以上存在するならば、処理はステップS2008に進む。ステップS2008において、アクティベート部113は、トラフィック規制率が100%を下回るとしてステップS2004の処理において除外されなかった、無線ベアラが、複数個存在するか否かを判定する。この際、除外されなかった無線ベアラの個数は、全ての端末側通信条件(図7の(A)および(B)の両方)にわたって合計される。その結果、除外されなかった無線ベアラの個数、すなわち、トラフィック規制率が100%を下回る無線ベアラの個数が2つ以上の場合は、処理はステップS2010に進み、当該個数が1つだけの場合は、処理はステップS2009に進む。ステップS2009において、アクティベート部113は、トラフィック規制率が100%を下回るとしてステップS2004の処理において除外されなかった、唯一の無線ベアラを選択し、当該選択された無線ベアラの上でユーザ・トラフィックを伝送するように、切替部111に指示する。アクティベート部113から指示を受けた切替部111は、当該除外されなかった唯一の無線ベアラを選択し、当該選択された無線ベアラの上でユーザ・トラフィックを伝送する。ステップS2010において、アクティベート部113は、トラフィック規制率が100%を下回るとしてステップS2004の処理において除外されなかった2つ以上の無線ベアラを要素とする集合であるベアラ選択集合を構成する。続いて、処理はステップS2011に進み、アクティベート部113は、ベアラ選択集合内に含まれる無線ベアラ間で無線端末10のユーザ・トラフィックを最適に配分する処理を実行するように、同時通信処理部112に指示する。アクティベート部113から指示を受けた同時通信処理部112は、アクティベート部113からベアラ選択集合に関する情報を受信し、ベアラ選択集合内に含まれる無線ベアラ間で無線端末10のユーザ・トラフィックを最適に配分する処理を実行する。
<7>同時通信処理部112による無線ベアラの選択とトラフィック配分の動作
以下、無線端末10によって同時使用可能な複数の無線ベアラの中からユーザ・トラフィックの伝送に使用する2つ以上の無線ベアラを選択し、当該選択された2つ以上の無線ベアラの間でトラフィックを最適配分するために同時通信処理部112が実行する方法を、図8のフローチャートに沿って説明する。図8のフローチャートに沿って説明する以下の処理動作は、アクティベート部113が図6のフローチャートに沿って実行する処理のうち、ステップS2011において、同時通信処理部112が実行する処理動作である。具体的には、この処理動作は、図6のフローチャート内のステップS2011において、同時通信処理部112が、アクティベート部113からベアラ選択集合に関する情報を受信した後に、アクティベート部113からの指示に応じて実行する無線ベアラ間でのトラフィック最適配分処理である。
同時通信処理部112がアクティベート部113によって起動されると、同時通信処理部112はまずステップS4001に進み、ベアラ選択集合内に含まれる全ての(k個の)無線ベアラを識別する。同時に、同時通信処理部112は、図7(A)および(B)の表に示す端末側通信条件を参照し、k個の無線ベアラの各々が直接的に接続する基地局や無線アクセスポイントをセルIDにより識別する。
続いて、処理はステップS4002に進み、同時通信処理部112は、内部ベアラ設定部110がポリシー配信部212から受信した機器設定ポリシーおよびトラフィック規制情報を参照する。
続いて、処理はステップS4003に進み、同時通信処理部112は、図7に示す端末側通信条件およびトラフィック規制情報を使用して、ベアラ選択集合内に含まれる各無線ベアラ毎に、対応するトラフィック規制率を取得する。この際、トラフィック規制率の取得は、図7の表中において各無線ベアラと対応するセルIDを検索キーとしてトラフィック規制情報に含まれる図4の表を検索し、図4の表内で検索キーとマッチするセルIDを有する行に含まれるトラフィック規制率を取得することにより、実行される。
続いて、処理はステップS4004に進み、同時通信処理部112は、伝送待ちのために通信バッファー内に格納する送受信データの量を決定する。この送受信データ量は、内部情報取得部120から同時通信処理部112が取得した情報を考慮して決定される。例えば、同時通信処理112は、内部情報取得部120から取得した上りリンクの実効スループットまたは下りリンクの実効スループット、あるいは伝送信号品質や通信サービス品質を考慮して送受信データ量を決定する。
続いて、処理はステップS4005に進み、同時通信処理部112は、無線ベアラ毎に取得したトラフィック規制率に基づいて、各無線ベアラ上でのユーザ・トラフィック伝送のために各無線ベアラに対して割り当てる伝送ビット数を決定する。例えば、同時通信処理部112は、以下のいずれかの方法に従って、各無線ベアラ上でのユーザ・トラフィック伝送のために各無線ベアラに対して割り当てる伝送ビット数を決定する。
(a)対応するトラフィック規制率が相対的に低い無線ベアラには相対的に多くの伝送ビット数を割り当て、対応するトラフィック規制率が相対的に高い無線ベアラには相対的に少ない伝送ビット数を割り当てる。その結果、同時通信処理部112は、トラフィック規制率が低い、すなわち、トラフィック規制が緩い無線ベアラに優先的にトラフィックを配分するような態様で、複数の無線ベアラ間でトラフィック量を最適配分することが出来る。
(b)ベアラ選択集合に含まれるk個の無線ベアラの中で対応するトラフィック規制率が最も低い無線ベアラを選択し、当該選択された無線ベアラだけに全ての伝送ビット数を割り当てる。その結果、同時通信処理部112は、トラフィック規制が最も緩い無線ベアラだけを排他的に使用して無線端末10のユーザ・トラフィックを伝送することが出来る。
(c)無線ベアラ毎の達成可能な実効スループットを内部情報取得部120から取得した上で、ベアラ選択集合に含まれる無線ベアラの各々について対応するトラフィック規制率と実効スループットとの積を計算する。続いて、各無線ベアラについて対応する実効スループットから上述した積を減算すると、各無線ベアラの上でトラフィック規制を受けない実効スループットが得られる。このトラフィック規制を受けない実効スループットが最大となる無線ベアラを選択し、当該選択された無線ベアラだけに全ての伝送ビット数を割り当てる。その結果、同時通信処理部112は、トラフィック規制を受けない実効スループットが最大となる無線ベアラだけを排他的に使用して無線端末10のユーザ・トラフィックを伝送することが出来る。
(d)上述したトラフィック規制を受けない実効スループットが相対的に大きな無線ベアラには相対的に多くの伝送ビット数を割り当て、トラフィック規制を受けない実効スループットが相対的に小さな無線ベアラには相対的に少ない伝送ビット数を割り当てる。その結果、同時通信処理部112は、トラフィック規制率を受けない実効スループットが大きい無線ベアラに優先的にトラフィックを配分するような態様で、複数の無線ベアラ間でトラフィック量を最適配分することが出来る。
無線ベアラ毎の伝送ビット数の割り当てを上述した(a)〜(d)のいずれの方法に従って実行するかは、内部ベアラ設定部110がポリシー配信部212から配信された機器設定ポリシーに従って決定される。
上述したステップS4005の処理は、各無線ベアラ毎に実行されるので、上述したステップS4005の処理は、ステップS4001において識別された無線ベアラの本数(k本)と等しい回数だけ繰り返し実行される。
以上のようにして、同時通信処理部112が、複数の無線ベアラ間でトラフィック量を最適配分する結果、無線網側でのトラフック規制が緩い無線ベアラほど、送受信のために割り当てられる伝送ビット量が多くなる。
続いて、処理はステップS4006に進み、同時通信処理部112は、上りリンク伝送に関し、通信バッファー内に残っている伝送待ちデータの有無を調べる。続いて、ステップS4007において、同時通信処理部112は、各無線ベアラ毎に、伝送待ちデータが残っていれば、そのデータをステップS4005において決定された無線ベアラ間トラフィック配分比率に従って対応する無線ベアラ上で送信する。
同時に、ステップS4006において、同時通信処理部112は、下りリンク伝送に関し、通信バッファー内に空き容量が残っているか否かを調べる。続いて、ステップS4007において、同時通信処理部112は、各無線ベアラ毎に、通信バッファー内に十分な空き容量が残っていれば、ステップS4005において決定された無線ベアラ間トラフィック配分比率に従って下りリンクデータを対応する無線ベアラ上で受信する。
上述したステップS4006およびステップS4007の処理は、各無線ベアラ毎に実行されるので、上述したステップS4006およびステップS4007の処理は、ステップS4001において識別された無線ベアラの本数(k本)と等しい回数だけ繰り返し実行される。
<8>本実施の形態の効果
以上より、本実施の形態は、各通信経路を流れるトラフィック・フローに対して無線網側からの規制情報とポリシーに基づくトラフィック規制制御を適用する際に、無線網内で実行される個々の通信アプリケーションの機能に依存しないポリシー制御機構を実現することができる。加えて、本実施の形態は、無線網側から配信されるポリシーと規制情報に基づいて、無線網側からのトラフィック規制に応じた無線端末側の無線ベアラ切り替えを実行する際に、ドメイン単位よりも細かい基地局セル単位でアプリケーション種別毎にトラフィック規制の検出とそれに応じた無線ベアラ切り替えを実行する仕組みを実現することができる。加えて、本実施の形態は、上述した経路制御に関し、同一のポリシー制御ノードによって管理される無線網において、接続する無線端末の数およびポリシー制御動作の実行頻度が増大しても、無線網内の制御オーバーヘッドが増大しないようなポリシー制御を実現することができる。