(実施形態1)
図1は、本発明の一実施形態に係る微粉炭火力発電設備(プラント)の概略構成を示す図である。図1に示すように、微粉炭火力発電設備Iは、粉砕機1と、ボイラ2と、発電設備3と、ガス処理設備4とを備える。
粉砕機1は、貯炭場(図示なし)から供給される所定量の石炭を粉砕して所定の大きさの微粉炭を製造する。ここで、微粉炭とは、積算質量50%における短径と長径の平均値(Dp50)が0.5mm以下の粒子からなる石炭をいう。このような微粉炭を用いることで、空気搬送を可能にすると共に燃焼性を向上させることができる。
粉砕機1には、ボイラ2と連通して微粉炭を搬送する微粉炭搬送路11が設けられている。かかる微粉炭搬送路11には、微粉炭を搬送する際に、図示しない空気供給口から燃焼用空気が供給される。
ボイラ2は、微粉炭バーナ21を有する。微粉炭バーナ21には微粉炭搬送路11が接続されており、粉砕機1で製造された微粉炭が、空気供給口からの燃焼用空気により、微粉炭搬送路11を通って、この微粉炭バーナ21からボイラ2に噴出する。
ボイラ2は、噴出された微粉炭を、空気や酸素で燃焼させることができるように構成されている。ボイラ2において微粉炭を燃焼させることにより、その熱を利用して水を沸騰させて水蒸気を発生させる。発生した水蒸気は、ボイラ2に設けられた配管22を介して蒸気タービン31に導入される。
発電設備3を構成する蒸気タービン31はボイラ2において発生した水蒸気により回転駆動される。蒸気タービン31には発電機32が接続され、蒸気タービン31の回転駆動力により発電機32が駆動されて発電する。また、蒸気タービン31には復水器33が設けられ、蒸気タービン31を通過した蒸気はこの復水器33で復水され、給水ポンプ(図示なし)を介してボイラ2に戻される。
他方、ボイラ2に残った微粉炭の未燃分と不燃の灰分は、微粉炭の燃焼により生じたガスと共にガス処理設備4に排出され、除去される。
ガス処理設備4は、脱硝装置41と、空気予熱器42と、脱塵装置43と、脱硫装置44と、煙突45とから構成される。脱硝装置41は、ボイラ2に第1排出路23を介して接続されている。また、脱硝装置41と、空気予熱器42と、脱塵装置43と、脱硫装置44とはそれぞれ排出路46を介して接続されている。
ボイラ2で生じたガスは、例えば酸化マグネシウムを有効成分とするガス処理剤が設けられている第1排出路23を介して、脱硝装置41に導入される。脱硝装置41では、脱硝装置41に設けられた触媒により、ガス中の窒素酸化物(NOx)が除去される。
そして、脱硝装置41に導入されたガスは、排出路46を介して空気予熱器42に導入される。この空気予熱器42では、ガスの熱が回収される。空気予熱器42に導入され、その熱が回収されたガスは、排出路46を介して脱塵装置43へ導入される。脱塵装置43は、ガスに含まれる固体状の不純物をサイクロンやフィルター等で除去する装置であり、脱塵装置43に導入されたガスから石炭灰等の固体状の不純物が除去される。脱塵装置43としては、具体的には、電気集塵機、固定床フィルター、移動床フィルター等が挙げられる。
そして、脱塵装置43に導入されたガスは、排出路46を介して脱硫装置44に導入されて脱硫される。本実施形態では、脱硫装置44は、硫黄酸化物(SOx)を石灰石に吸収させて石膏として固定化する湿式脱硫装置とした。脱硫装置44で脱硫された排ガスは煙突45から排出される。
本実施形態に係る微粉炭火力発電設備Iの運転システムは、上述した微粉炭火力発電設備Iで発生する様々な事象に対するプラント運転者の中でも高度の技術を有する者、つまり、一定の能力を有する熟練者のノウハウに基づいた対応を予め記録しておく。そして、現在発生している事象(現事象)について、この記録されている熟練者の対応の中から、現事象に対する熟練者の対応を抽出し、抽出された熟練者の対応で微粉炭火力発電設備Iの運転を行うものである。以後、過去にプラントで発生した事象を表した情報を「事象情報」と称する。そして、現在発生している現事象を表した情報を「現事象情報」と称する。
以下、本実施形態に係る微粉炭火力発電設備Iの運転システムについて説明する。図2は、かかる運転システムのブロック図である。本実施形態では、排煙に関する事象を対象とする。
微粉炭火力発電設備Iの運転システム10は、事象情報形成手段101と、対応情報形成手段102と、記憶手段103と、現事象情報形成手段104と、対応情報選択手段105と、報知手段106とを備える。具体的には、運転システム10は、特に図示しないCPUやメモリ、ハードディスク等の記憶装置、キーボード、マウスやディスプレイ等の入出力装置、ネットワークインタフェース等の情報送受信手段を有する一般的なコンピュータを備えている。また、運転システム10は、上述した各手段を、当該コンピュータで実行可能なプログラムとして有している。
事象情報形成手段101は、微粉炭火力発電設備I(プラント)で発生した事象を表す事象情報を形成するものである。微粉炭火力発電設備Iで発生した事象とは、微粉炭火力発電設備Iを構成する各装置で発生した事象(例えば、発電機の故障など)や、排煙状態などの微粉炭火力発電設備Iで発生した事象を示す。
事象情報は、事象を各種の観測装置などを用いて測定したデータやそのデータを分析して得られた情報をいう。事象情報形成手段101は、例えば次のようにして事象から事象情報を形成する。
事象情報形成手段101は、第1の画像取得手段101Aと、第1の温度取得手段101Bと、第1の分析手段101Cとから構成される。
第1の画像取得手段101Aは、微粉炭火力発電設備Iで発生した事象の画像を取得する。第1の画像取得手段101Aは、具体的には、微粉炭火力発電設備Iに複数設置された撮影手段である。これらの撮影手段は微粉炭火力発電設備Iの各地点での画像を取得する。第1の温度取得手段101Bは、温度を取得する。具体的には、微粉炭火力発電設備Iに複数設置された温度センサーである。これらの温度センサーは微粉炭火力発電設備Iの各地点での温度を取得する。第1の分析手段101Cは、第1の画像取得手段101Aにより取得された画像を分析し、この画像から把握される事象の状態(例えば、事象の規模、範囲、色など)を抽出する。例えば、煙突周辺を撮像した画像について、白煙を表す領域の面積が予め定めた大きさ以上であれば「白煙が多い」という事象情報を形成し、白煙を表す領域の面積が予め定めた大きさ未満であれば「白煙が少ない」という事象情報を形成する。このようにして、事象情報形成手段101は、事象から画像、温度及び画像の分析結果を事象情報として形成する。
対応情報形成手段102は、熟練者が事象に対して行った対応を表す対応情報を形成するものである。熟練者が事象に対して行った対応は、微粉炭火力発電設備Iの各装置を調整、修理、保守することなどが挙げられる。
対応情報は、熟練者が実施した対応を表した文書、音声及び動画像などの情報である。この対応情報は、後に同様の事象があった際に、非熟練者が実施すべき対応を把握するために参照される。
対応情報形成手段102は、熟練者自ら、又はオペレータがコンピュータの入出力装置等を用いて入力した対応内容を文書、音声、動画像等の所定の形式で保存することにより対応情報の形成を行う。
また、対応情報は、予め記憶しておいた運転マニュアル情報にはないものである場合に限り形成するようにしてもよい。運転マニュアル情報とは、プラントで発生した事象に対して行う対応として予め定めた情報をいう。このように運転マニュアル情報にはない対応情報を形成することで、運転マニュアルに示されていない対応情報のみを形成することができる。
記憶手段103は、事象情報形成手段101により形成された事象情報と、対応情報形成手段102により形成された対応情報を関連づけて記憶するものである。具体的にはコンピュータのハードディスクなどの記憶装置や、検索機能を備えたデータベースシステムである。記憶手段103に事象情報と対応情報とが関連づけて記憶されることで、特定の事象情報に関連づけられた対応情報を得ることができる。
現事象情報形成手段104は、微粉炭火力発電設備Iで現在発生している現事象を表す現事象情報を形成するものである。微粉炭火力発電設備Iで現在発生している現事象とは、微粉炭火力発電設備Iを構成する各装置で現在発生している事象(例えば、発電機の故障など)や、排煙状態などの微粉炭火力発電設備Iで現在発生している事象を示す。記憶手段103に記録された事象が過去の事象であるのに対して、現事象情報形成手段104により抽出された事象は、現在の事象である。
現事象情報は、現事象を各種の観測装置などを用いて測定したデータやそのデータを分析して得られた情報をいう。現事象情報形成手段104は、例えば次のようにして現事象から現事象情報を形成する。
本実施形態に係る現事象情報形成手段104は、第2の画像取得手段104Aと、第2の温度取得手段104Bと、第2の分析手段104Cとから構成される。
第2の画像取得手段104Aは、微粉炭火力発電設備Iで発生した現事象の画像を取得する。第2の温度取得手段104Bは、微粉炭火力発電設備Iの各地点での温度を取得する。第2の分析手段104Cは、第2の画像取得手段104Aにより取得された現画像を分析し、この画像から把握される現事象の状態(例えば、事象の規模、範囲、色など)を抽出する。このようにして、現事象情報形成手段104は、現事象から画像、温度及び画像の分析結果を現事象情報として形成する。
対応情報選択手段105は、記憶手段103から現事象情報と一致する内容の事象情報を検索し、当該事象情報に関連づけられた対応情報を選択するものである。本実施形態では、記憶手段103に記憶されている事象情報の中から、現事象情報として形成された画像と、この画像の分析によりさらに形成された現事象の状態と、現事象の周囲温度と一致する事象を選択する。
報知手段106は、対応情報選択手段105により選択された事象情報に対して行った対応情報、すなわち、熟練者のノウハウに基づいた対応を表す対応情報を報知する。報知手段106としては、熟練者の対応をコンピュータの画面上に文字や画像で表示する、記録紙などの記録媒体上に印刷して示す、または音声で指示するなどが挙げられる。これにより、運転者は、微粉炭火力発電設備Iで発生した各種事象に対し、熟練者のノウハウに基づいた対応が必要なものがある場合に熟練者のノウハウに基づいた対応を行うことができる。
上述したように、本実施形態に係る運転システム10は、微粉炭火力発電設備Iで発生した各種事象を表す事象情報と、熟練者のノウハウに基づいた対応情報とが予め記憶手段103に記録される。そして、本実施形態に係る運転システム10は、現事象情報を形成し、当該現事象に対応する事象情報を検索するとともに、その事象情報に関連づけられた対応情報を報知する。すなわち、運転システム10は、自動的に現事象情報を形成し、それと同じ事象の際に行った対応を対応情報として報知する。これにより、熟練者が行った対応情報を得たい非熟練者にとっては、現在の事象をどの様に認識するかといった熟練者特有のノウハウを要求されることなく、その現在の事象に適した熟練者の対応情報を得ることができる。そして非熟練者は、熟練者のノウハウに基づく対応情報を参照して、実際の微粉炭火力発電設備Iを調整するなどして運転を行う。このようにして、本実施形態に係る運転システム10は、熟練者のノウハウに基づいた対応情報のうち、そのときの現事象に適したものを非熟練者に提示するので、非熟練者(運転者)による運転業務を補助することができる。
次に、上述した微粉炭火力発電設備Iの運転システム10において、「煙突45からの白煙が上方に広がっている。」という運転マニュアルに示されていない事象Xが発生した場合を例にして説明する。
まず、事象Xから事象情報が事象情報形成手段101により形成され、記憶手段103により記憶されるまでを説明する。
煙突45からの白煙は環境条件(温度、湿度など)により広がり方が異なる。図1の点線に示すように、「煙突45からの白煙が上方に広がっている。」という事象Xが発生した場合、事象情報形成手段101の第1の画像取得手段101Aは、事象Xの画像を取得し、第1の温度取得手段101Bは、「煙突の白煙付近の温度はD℃、地上の温度はE℃である。」などの事象の周囲温度を取得する。第1の分析手段101Cは、第1の画像取得手段101Aにより抽出された事象Xの画像を分析し、「白煙は、幅約Fm、長さ約Gmで上方に広がっており、白煙が占める体積は約Hm3、色は薄い灰色である。」などの画像から把握される事象Xの状態を抽出する。そして、事象情報形成手段101は、第1の分析手段101Cにより抽出された事象Xの状態と、第1の温度取得手段101Bにより取得された事象Xの周囲温度とを表す事象情報を形成する。
熟練者は、事象Xに対して自らがノウハウに基づいて行った対応、すなわち、「煙突下部のダンパーを開け、空気をJm3/sで煙突に導入する。」という対応を微粉炭火力発電設備Iの運転システム10に入力する。具体的には、対応情報形成手段102は、「煙突下部のダンパーを開け、空気をJm3/sで煙突に導入する。」という熟練者の対応を文書などの対応情報として形成する。
記憶手段103は、事象情報形成手段101により形成された事象情報と、この事象情報に対する熟練者のノウハウに基づいた対応を表す対応情報とを関連付けて記録する。本実施形態では、事象Xと、熟練者のノウハウに基づいた対応が、運転システム10の記憶手段103に関連付けられ記録される。
次に、事象Xと同一の現事象X′が発生した場合に、現事象X′を表す現事象情報が現事象情報形成手段104により形成され、現事象X′に対する熟練者の対応が対応情報として報知手段106により報知されるまでを説明する。
事象Xと同一の現事象X′が発生した場合、現事象情報形成手段104の第2の画像取得手段104Aは、現事象X′の画像を取得し、第2の温度取得手段104Bは、「煙突の白煙付近の温度はD′℃、地上の温度はE′℃である。」などの現事象X′の周囲温度を取得する。第2の分析手段104Cは、第2の画像取得手段104Aにより取得された現事象X′の画像を分析し、「白煙は、幅約F′m、長さ約G′mで上方に広がっており、白煙が占める体積は約H′m3、色は薄い灰色である。」などの画像から把握される現事象X′の状態を抽出する。そして、現事象情報形成手段104は、第2の分析手段104Cにより抽出された現事象X′の状態と、第2の温度取得手段104Bにより取得された現事象X′の周囲温度とを表す現事象情報を形成する。
対応情報選択手段105は、記憶手段103から現事象X′を表す現事象情報と一致する内容の事象情報を検索する。具体的には、記憶手段103に記憶されている複数の事象情報の中から、現事象情報の具体例である現事象X′の画像、現事象X′の状態及び現事象X′の周囲温度と一致する事象情報を検索する。そして、その事象情報に関連づけられた対応情報を選択する。
報知手段106は、対応情報選択手段105により選択された対応情報に対し、熟練者がノウハウに基づいて行った対応をコンピュータ画面上に表示する。本実施形態の例であれば、選択された事象情報に対する熟練者の対応情報は、「煙突下部のダンパーを開け、空気をJm3/sで煙突に導入する。」である。
以上に説明した本実施形態の微粉炭火力発電設備Iの運転システム10によれば、微粉炭火力発電設備Iで発生している現事象に対し、熟練者のノウハウに基づいた対応を行うことができる。これにより、微粉炭火力発電設備Iを安全に、且つ安心して稼働することができ、微粉炭火力発電設備Iで起こり得る各種設備の故障などを未然に防止することができる。また、熟練者のノウハウに基づいた対応が記憶手段103に記憶されていくため、熟練者が退職や転職などで不在になった場合でも、熟練者のノウハウが失われない。
なお、本実施形態では、画像取得手段、温度取得手段及び分析手段を事象情報形成手段101用と、現事象情報形成手段104用に分けたが、これらは兼用してもよい。また、事象情報形成手段101及び現事象情報形成手段104の構成を、第1と第2の画像取得手段101A,104A、第1と第2の温度取得手段101B,104B及び第1と第2の分析手段101C,104Cとしたが勿論これらに限定されず、例えば、別途、湿度取得手段、風速取得手段、風向き取得手段などの事象の状態を取得するための取得手段を設けてもよい。また、事象を画像から取得せず、音声、騒音及び臭いなどから取得してもよい。この場合、音声、騒音及び臭いは、それぞれ音声取得手段、騒音取得手段、臭気取得手段などから取得する。
また、対応情報形成手段102による対応情報の形成方法については限定されない。例えば、熟練者以外の者が運転システム10に熟練者の対応を入力することにより対応情報が形成されてもよい。また、マイクを用いた音声による対応情報の形成、記録紙への記録による対応情報の形成などであってもよい。
さらに、対応情報選択手段105において、記憶手段103の中から現事象情報と一致する事象情報を選択する際、事象情報と完全一致するものに限定されない。例えば、実質的に同一でもよい。
なお、実施形態1では、「白煙の広がり方」に関する事象Xを例示し、この事象Xに対する熟練者のノウハウに基づいた対応として「煙突下部のダンパーを開け、空気をJm3/sで煙突に導入する。」を例示したが、熟練者の対応は、勿論これに限定されない。また、本実施形態の運転システム10が適用される熟練者のノウハウに基づいて対応すべき事象としては、「白煙の広がり方」の他に、例えば、「ボイラの火炎の広がり方」に関する事象などが挙げられる。
(実施形態2)
実施形態2は、実施形態1の微粉炭火力発電設備Iの運転システム10の変形例である。図3は、実施形態2の運転システムのブロック図である。実施形態2では、臭気に関する事象を対象とする。なお、実施形態1と同一のものには同一符号を付し、重複する説明は省略する。
本実施形態に係る運転システム20は、事象情報形成手段201及び現事象情報形成手段204が画像取得手段及び温度取得手段の代わりに、第1と第2の臭気取得手段201A,204Aを備える点で実施形態1と相違する。また、運転システム20は、さらに第1の感覚情報形成手段207と、情報取得手段208とを備える点で実施形態1と相違する。また、本実施形態に係る運転システム20においても、各手段はコンピュータにより実行されるプログラムとして実装されている。
事象情報形成手段201は、実施形態1と同様に、微粉炭火力発電設備I(プラント)で発生した事象を表す事象情報を形成するものである。本実施形態の事象情報形成手段201は、第1の臭気取得手段201Aと、第1の分析手段201Bとから構成される。第1の臭気取得手段201Aは、微粉炭火力発電設備Iで発生した事象の臭気を取得する。第1の臭気取得手段201Aは、具体的には、微粉炭火力発電設備Iに複数設置された臭気センサーである。これらの臭気センサーは、微粉炭火力発電設備Iの各地点での臭気を取得する。第1の分析手段201Bは、第1の臭気取得手段201Aにより取得された臭気を分析し、この臭気から把握される事象の状態(例えば、臭気に含まれる成分、臭気の強さなど)を抽出する。このようにして、事象情報形成手段201は、事象から臭気の分析結果を事象情報として形成する。
第1の感覚情報形成手段207は、熟練者が微粉炭火力発電設備Iで発生した事象に対応した際に、熟練者が感知した微粉炭火力発電設備I周囲の環境の状態を数値化した感覚情報を形成するものである。
すなわち、感覚情報は、微粉炭火力発電設備I周囲の環境の状態をどのように感じたかを数値化した情報である。環境の状態とは、微粉炭火力発電設備Iが設置された場所での気温や湿度、微粉炭火力発電設備Iから発せられる臭いなどである。熟練者は温熱感覚や嗅覚を通じてそのような環境の状態を感得し、第1の感覚情報形成手段207は例えば次のようにして感覚情報を形成する。
本実施形態の第1の感覚情報形成手段207は、第1の音声取得手段207Aと、第1の音声分析手段207Bとから構成される。第1の音声取得手段207Aは、「寒い」、「暑い」、「臭い」など、熟練者が発した音声を取得する。具体的には、微粉炭火力発電設備Iに複数設置された音声取得装置である。これらの音声取得装置は、微粉炭火力発電設備Iの各地点での熟練者の音声を取得する。第1の音声分析手段207Bは、音声取得装置により取得された熟練者の音声を分析する。具体的には、第1の音声分析手段207Bは、取得した音声から熟練者の感覚に関する音声、例えば「寒い」「暑い」「臭い」などのように発声した音声を得る。そして、このような音声として得られた熟練者の感覚を所定の複数のレベルに分ける。所定の複数のレベルとしては、「寒い」に対しては「10℃以下」、「暑い」に対しては「25℃以上」、「臭い」に対しては「微粉炭火力発電設備Iで臭いの原因と考えられる物質の濃度がXppm以上」などが挙げられる。これらの感覚に対応する数値的な範囲は予め定めて記憶手段203に記憶しておく。第1の音声分析手段207Bは、その数値範囲を参照して、分析した音声に対応する数値を感覚情報とする。
このようにして、熟練者は感覚を通じて感得した微粉炭火力発電設備Iの周囲の環境の状態を言葉として発声し、第1の感覚情報形成手段207はその言葉が表す環境の状態を数値化して感覚情報として形成する。つまり、感覚情報は、センサーなどにより得た環境の状態を表すのではなく、熟練者の感覚を通じた環境の状態を表すものとなる。
情報取得手段208は、微粉炭火力発電設備Iの状態を計測して計測値を取得するものである。計測値は、微粉炭火力発電設備Iの周囲の環境の温度、湿度、風速などの天候に関するものである。本実施形態の情報取得手段208は、事象の周囲温度を取得する温度センサーとした。温度センサーにより取得された計測値は、後述する対応情報形成手段202により参照される。対応情報形成手段202は、実施形態1と同様に、熟練者がノウハウに基づいて行った対応を自ら又はオペレータがコンピュータの入出力装置等を用いて入力した対応内容を文書などの所定の形式で保存することにより対応情報の形成を行う。
記憶手段203は、事象情報形成手段201により形成された事象情報と、対応情報形成手段202により形成された対応情報と、第1の感覚情報形成手段207により分析された感覚情報とを関連付けて記録する。記憶手段203に事象情報、対応情報及び感覚情報が関連づけて記憶されることで、特定の事象情報及び感覚情報に関連づけられた対応情報を得ることができる。
本実施形態に係る現事象情報形成手段204は、第2の臭気取得手段204Aと、第2の分析手段204Bとから構成される。第2の臭気取得手段204Aは、微粉炭火力発電設備Iで現在発生している現事象の臭気を取得する。第2の分析手段204Bは、第2の臭気取得手段204Aにより取得された臭気を分析し、この臭気から把握される現事象の状態(例えば、臭気に含まれる成分、臭気の強さなど)を抽出する。このようにして、現事象情報形成手段204は、現事象から画像、温度及び画像の分析結果を現事象情報として形成する。
対応情報選択手段205は、記憶手段203から現事象情報と一致する事象情報を検索するとともに計測値に一致する感覚情報を検索し、それらの検索された事象情報及び感覚情報に関連づけられた対応情報を選択する。すなわち、現事象情報及び計測値を2つの検索キーとし、これらに一致する事象情報及び感覚情報に関連づけられた対応情報を検索結果として選択する。
対応情報選択手段205は、例えば、現事象情報が画像解析の結果として「白煙を上げている」というものであれば、これに一致する事象情報を検索する。そして計測値が「26℃」であれば、当該計測値を範囲とする感覚情報を検索する。このようにして、現事象情報及び計測値の双方に該当する事象情報及び感覚情報が得られる。事象情報及び感覚情報には対応情報が関連づけられているので、対応情報選択手段205は、当該対応情報を選択する。
実施形態1では現事象情報を検索キーとしたが、これに加えて計測値を検索キーとする。そして、その計測値に該当する感覚情報に関連づけられた対応情報が選択される。このようにして得られた対応情報は、ある事象の下において、熟練者が微粉炭火力発電設備Iの周囲の環境の状態に基づいて実施した対応を表す情報となる。
このように対応情報選択手段205が現事象情報及び計測値に基づいて自動的に最適な対応情報を出力するので、非熟練者であっても、熟練者が過去に同様の事象の下に行ったノウハウを含む対応情報に基づいて微粉炭火力発電設備Iを運転することができる。
報知手段206は、対応情報選択手段205により選択された対応情報を報知する。
以上に説明した微粉炭火力発電設備Iの運転システム20において、「臭気センサーが煙突45出口付近からの臭気を検知している。」という事象Yが発生し、運転マニュアルでは、この事象Yに対する対応は不必要と記載されている場合を例にして説明する。
まず、事象Yが事象情報形成手段201により形成され、記憶手段203により記憶されるまでを説明する。
事象情報形成手段201の第1の臭気取得手段201Aは、事象Yの臭気を取得する。第1の分析手段201Bは、事象Yの臭気を分析し、臭気から把握される事象Yの状態(例えば、臭気に含まれる成分、臭気の強さなど)を抽出する。
第1の感覚情報形成手段207の第1の音声取得手段207Aは、熟練者が「暑すぎる」と発した音声を取得する。第1の音声分析手段207Bは、「暑すぎる」という音声を分析し、熟練者の感覚を「気温は高い」(例えば、レベル5)と分ける。
情報取得手段208、即ち、温度センサーは、計測値として事象Yの周囲温度を取得する(例えば、35℃)。取得された事象Yの周囲温度は、対応情報形成手段202により参照される。
熟練者は、事象Yに対して自らがノウハウに基づいて行った対応、すなわち、「排ガスダンパーの開度調整による外部空気を導入し、臭気を希釈する。」という対応を微粉炭火力発電設備Iの運転システム20に入力する。ここで、本実施形態における事象Yとは、第1の臭気取得手段201A、すなわち、臭気センサーが煙突45出口付近からの臭気を検知しており、運転マニュアルでは、対応が不必要と記載されている事象である。しかしながら、熟練者は、「暑すぎる」という事象Yに対する自らの感覚から、今後臭気が強く感じるようになることを予測して、前もって臭気を抑える対応を行い、このノウハウに基づいて行った対応を微粉炭火力発電設備Iのシステムに入力する。
記憶手段203は、事象情報形成手段201により形成された事象情報(事象Yに基づくもの)と、この事象情報に対する熟練者のノウハウに基づいた対応を表す対応情報と、第1の感覚情報形成手段207で形成された感覚情報とを関連付けて記録する。
次に、事象Yと同一の現事象Y′が発生した場合に、現事象Y′を表す現事象情報が現事象情報形成手段204により形成され、現事象Y′に対する熟練者の対応が対応情報として報知手段206により報知されるまでを説明する。
事象Yと同一の現事象Y′が発生した場合、第2の臭気取得手段204Aは、現事象Y′の臭気を取得する。第2の分析手段204Bは、現事象Y′の臭気を分析し、この臭気から把握される現事象Y′の状態(例えば、臭気に含まれる成分、臭気の強さなど)を抽出する。そして、情報取得手段208、即ち、温度センサーは、計測値として現事象Y′の周囲温度を取得する。取得された現事象Y′の周囲温度は、現事象情報形成手段204により参照される。このようにして、現事象情報形成手段204は、現事象Y′から臭気、臭気の分析結果及び現事象Y′の周囲温度を現事象情報として形成する。
対応情報選択手段205は、記憶手段203から現事象Y′を表す現事象情報と一致する内容の事象情報を検索する。本実施形態では現事象Y′の臭気、現事象Y′の状態及び現事象Y′の周囲温度と一致する事象情報を検索する。さらに対応情報選択手段205は、記憶手段203から計測値に該当する感覚情報を検索する。そして得られた事象情報及び感覚情報に関連づけられた対応情報を選択する。
報知手段206は、対応情報選択手段205により選択された対応情報に対し、熟練者がノウハウに基づいて行った対応をコンピュータ画面上などに表示する。選択された事象情報に対する熟練者のノウハウに基づいた対応情報は、「排ガスダンパーの開度調整による外部空気を導入し、臭気を希釈する。」である。
このような運転システム20では、本来対応を必要としない事象Yに対しても、熟練者の感覚に基づき、今後起こり得る事象を先取りしてノウハウに基づいた対応を行うことができる。
以上に説明した本実施形態の微粉炭火力発電設備Iの運転システム20によれば、微粉炭火力発電設備Iで発生している現事象に対し、熟練者の感覚を取り入れつつ、熟練者のノウハウに基づいた対応を行うことができる。従って、本実施形態による運転システム20による対応は、実施形態1よりも精密な制御に基づいたものとなる。この結果、微粉炭火力発電設備Iで起こり得る多くの事象に対し、精密な制御で熟練者のノウハウに基づいた対応が行われる。
本実施形態の運転システム20では、熟練者の感覚を記憶手段203に記憶させる場合に熟練者の感覚を入力することができるが、現事象に対応する熟練者の対応を抽出する場合には、熟練者が退職等で不在となることも考えられるので、熟練者の感覚を別の情報に代替させている。これにより、微粉炭火力発電設備Iで起こる多くの事象に対し、熟練者のノウハウが失われず熟練者のノウハウに基づいた対応が行われる。
なお、事象情報形成手段201及び現事象情報形成手段204における第1と第2の臭気取得手段201A,204Aおよび第1と第2の分析手段201B,204Bは併用してもよい。また、事象をガスの色など、画像から把握できる場合は、実施形態1と同様に画像取得手段から取得してもよい。また、本実施形態では、熟練者の感覚を第1の音声取得手段207Aにより取得したが、熟練者自らが感覚を入力することにより取得してもよい。
(実施形態3)
実施形態3は、実施形態2の微粉炭火力発電設備Iの運転システム20の変形例であり、実施形態2と同一のものには同一符号を付し、重複する説明は省略する。図4は、実施形態3の運転システム30のブロック図である。
本実施形態の運転システム30は、実施形態2の運転システム20における熟練者の感覚をこの周辺住民の感覚で代替して、熟練者のノウハウに基づいた対応を行うものである。
本実施形態の運転システム30は、熟練者の感覚情報を形成する第1の感覚情報形成手段207の代わりに、周辺住民の感覚情報を形成する第2の感覚情報形成手段309を備える点で実施形態2と相違する。周辺住民とは、微粉炭火力発電設備Iの周辺に住居を構えて定住している者をいう。
また、運転システム30は、事象情報形成手段301および現事象情報形成手段304が第1と第2の騒音取得手段301A,304Aを備える点で実施形態2と相違する。第1と第2の騒音取得手段301A,304Aは、微粉炭火力発電設備Iで発生した事象(現事象)の騒音を取得する。第1と第2の騒音取得手段301A,304Aは、具体的には、微粉炭火力発電設備Iに複数設置された騒音センサーである。これらの騒音センサーは、微粉炭火力発電設備Iの各地点での騒音を取得する。第1と第2の分析手段301B,304Bは、第1と第2の騒音取得手段301A,304Aにより取得された騒音を分析し、この騒音から把握される事象の状態(例えば、騒音の強さなど)を抽出する。例えば、微粉炭火力発電設備Iの騒音が予め定めた大きさ以上であれば「騒音が大きい」という事象情報を形成し、騒音が予め定めた大きさ未満であれば「騒音が少ない」という事象情報を形成する。このようにして、事象情報形成手段301は、事象から騒音に関する事象情報を形成する。
第2の感覚情報形成手段309は、熟練者が微粉炭火力発電設備Iで発生した事象に対応した際に、周辺住民が感知した微粉炭火力発電設備I周囲の環境の状態を数値化した感覚情報を形成するものである。第2の感覚情報形成手段309は、実施形態2と同様に、周辺住民の音声を取得することにより感覚情報の形成を行う。
本実施形態では、周辺住民の感覚情報は、図5に示すようにマップ化されて、記憶手段203に記録されている。即ち、記憶手段203には、事象情報αに対する熟練者の対応情報βの場合における複数の周辺住民の感覚が、図5に示すような感覚情報の集団γ1としてマップ化されて記憶されている。詳細に説明すると、図5では、横軸が感覚A(例えば温度に対する感覚)、縦軸が感覚B(例えば湿度に関する感覚)である。第2の感覚情報形成手段309により例えば音声などから抽出された複数の周辺住民の感覚(a1、b1)、(a2、b2)・・・(an、bn)がマップ化されて、感覚情報の集団γ1となって記憶手段203に記憶されている。
このように、本実施形態では、複数の周辺住民の感覚情報を形成し、これをマップ化し集団とする。そして、記憶手段203には、この周辺住民の感覚情報である集団γ1と、事象情報αと対応する熟練者の対応情報βとが関連づけられて記録される。
したがって、本実施形態の運転システム30では、事象情報を形成すると共に、周辺住民の感覚情報を形成し、これらに対応する対応情報を記憶手段203に記録する。そして、計測値及び感覚情報に対応する対応情報を選択することができる。従って、本実施形態の微粉炭火力発電設備Iの運転システム30によれば、さらに周辺住民の感覚を取り入れて熟練者のノウハウに基づいた対応を行うことができる。これにより、本実施形態の運転システム30では、実施形態2と同様に、実施形態1よりも精密な制御に基づいたものとなり、周辺住民の感覚に合った適切なものとなる。この結果、微粉炭火力発電設備Iで起こる多くの事象に対し、周辺住民の感覚に合った熟練者のノウハウに基づいた対応を行うことができる。
(実施形態4)
実施形態4は、実施形態3の微粉炭火力発電設備Iの運転システム30の変形例であり、実施形態3と同一のものには同一符号を付し、重複する説明は省略する。図6は、実施形態4の運転システム40のブロック図である。
周辺住民の感覚は、例えば微粉炭火力発電設備Iの周辺に多くの住民が引っ越してきた場合に変化することもある。特に、感覚として音に対する感覚を抽出している場合には、新たに住民が引っ越してきた場合、以前よりも騒音に対してうるさく感じる場合などがある。そうすると、実施形態3の運転システムでは、周辺住民の感覚に基づいて熟練者の対応を抽出していることから、この周辺住民の感覚が変化すると、好ましい熟練者の対応を運転システムが抽出することができないことも考えられる。
そこで、本実施形態では、この周辺住民の感覚が変化した場合には、その変化に応じて好ましい熟練者の対応を運転システム40が抽出することができるように構成している。
具体的には、本実施形態では、運転システム40は感覚情報修正手段410を有している。感覚情報修正手段410は、記憶手段203に記憶された感覚情報(感覚の集団)のうち、修正が必要な感覚情報(感覚の集団)があればこれを修正する。この修正が必要な感覚情報について、図7を用いて説明する。
実施形態3と同様に、記憶手段203には、事象情報αに対する熟練者の対応情報βの場合における複数の住民の感覚が、図7に示すような感覚情報の集団γ1としてマップ化されて記憶されている。
そして、感覚情報修正手段410は、第2の感覚情報形成手段309により抽出された感覚情報の集団γ1を常に監視している。そして、この第2の感覚情報形成手段309が、事象情報αに対する熟練者の対応情報βの場合における複数の住民の感覚が、集団γ1から徐々に集団γ2へ移動しているのを検出すると、感覚情報修正手段410は、事象情報αに対する熟練者の対応情報βの場合における複数の住民の感覚情報をγ2へ変更する。即ち、感覚情報修正手段410は、この住民の感覚をγ1からγ2へ書き換える。具体的には、記憶手段103に、記憶対象として、事象情報α及び対応情報βに関連付けられた感覚情報の集団γ2に修正されるとする。この場合、事象情報α及び対応情報βを記憶手段203から検索する。記憶手段203には、事象情報α及び対応情報βに関連づけられた感覚情報の集団γ1が記憶されているので、これを感覚情報の集団γ2に書き換える。
このような周辺住民の感覚情報の修正によれば、記憶手段203には、事象情報αと感覚情報の集団γ1と熟練者の対応情報βとが最初は関連づけられて記憶されているが、周辺住民の感覚の変化により、事象情報αと感覚情報の集団γ2と熟練者の対応情報βとが関連づけられて記憶される。これにより、周辺住民の感覚の変化後は、事象情報αと感覚情報の集団γ2とが一致するような事象が生じた場合に、熟練者の対応情報βが初めて報知されることとなる。
本実施形態の運転システム40によれば、このように構成されることで、周辺住民の感覚が変化したとしても、熟練者のノウハウに基づいた対応をすることができる。
以上に説明した本実施形態の微粉炭火力発電設備Iの運転システム40によれば、周辺住民の事象に対する感覚が変化していった場合でも、現在の周辺住民の感覚を取り入れながら熟練者のノウハウに基づいた対応を行うことができる。このような熟練者のノウハウに基づいた対応は、現在の周辺住民の感覚が反映されたものであり、現在の周辺住民の感覚に合った適切なものとなる。この結果、微粉炭火力発電設備Iで起こり得る多くの事象に対し、現在の周辺住民の感覚に合った熟練者のノウハウに基づいた対応が行われる。
(他の実施形態)
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲であれば、様々な変更が可能である。上記実施形態で説明したプラントの運転システムは、発電プラントだけでなく、例えば、化学プラントやゴミ処理プラントなどの複数の設備を備えたプラント全般に広く適用することができる。