以下、本発明の歪みセンサの実施の形態を適宜図面を参照しつつ詳説する。
<第一実施形態>
図1の歪みセンサ1は、基板2と、この基板2の表面側に設けられ、一方向に配向する複数のCNT繊維を有するCNT膜4と、このCNT膜4の前記CNT繊維の配向方向Aの両端に配設される一対の電極3とを主に備える。
(基板)
基板2は柔軟性を有する平面視矩形状の板状体である。基板2のサイズとしては特に限定されず、例えば平均厚みが10μm以上5mm以下、幅が1mm以上5cm以下、長さが1cm以上20cm以下とすることができる。
基板2の材質としては、柔軟性を有する限り特に限定されず、例えば合成樹脂、ゴム、不織布、変形可能な形状又は材質の金属や金属化合物等を挙げることができる。基板2は絶縁体又は抵抗値の高い材質であればよいが、金属等の抵抗値の低い材料を用いる場合はその表面に絶縁層又は抵抗値の高い材料をコーティングすればよい。これらの中でも、合成樹脂及びゴムが好ましく、ゴムがさらに好ましい。ゴムを用いることで、基板2の柔軟性をより高めることができる。後述の開裂惹起領域4aをレーザー照射で形成する場合、レーザー照射面に使用する合成樹脂は、そのレーザー波長に対して透過率が高いことが好ましく、この合成樹脂の具体的なレーザー透過率としては90%以上が好ましい。
前記合成樹脂としては、例えばフェノール樹脂(PF)、エポキシ樹脂(EP)、メラミン樹脂(MF)、尿素樹脂(ユリア樹脂、UF)、不飽和ポリエステル(UP)、アルキド樹脂、ポリウレタン(PUR)、熱硬化性ポリイミド(PI)、ポリエチレン(PE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、ポリプロピレン(PP)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン(PS)、ポリ酢酸ビニル(PVAc)、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂(ABS)、アクリロニトリルスチレン樹脂(AS)、ポリメチルメタアクリル(PMMA)、ポリアミド(PA)、ポリアセタール(POM)、ポリカーボネート(PC)、変性ポリフェニレンエーテル(m−PPE)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、環状ポリオレフィン(COP)等を挙げることができる。
前記ゴムとしては、例えば天然ゴム(NR)、ブチルゴム(IIR)、イソプレンゴム(IR)、エチレン・プロピレンゴム(EPDM)、ブタジエンゴム(BR)、ウレタンゴム(U)、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、シリコーンゴム(Q)、クロロプレンゴム(CR)、クロロスルフォン化ポリエチレンゴム(CSM)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、塩素化ポリエチレン(CM)、アクリルゴム(ACM)、エピクロルヒドリンゴム(CO,ECO)、フッ素ゴム(FKM)、PDMS等を挙げることができる。これらのゴムの中でも強度等の点から天然ゴムが好ましい。
(電極及び導電層)
一対の電極3は、基板2の表面側の長手方向A(CNT繊維の配向方向)の両端部分に配設されている。具体的には、各電極3は、基板2の表面の長手方向Aの両端部分に離間して配設される一対の導電層5の表面にそれぞれ配設されている。
各導電層5は、電極3とCNT膜4との電気的な接続性を高めている。導電層5を形成する材料としては、導電性を有する限り特に限定されず、例えば導電性ゴム系接着剤等を用いることができる。導電層5としてこのように接着剤を用いることで、基板2、電極3、及びCNT膜4の両端の固着性を高め、当該歪みセンサ1の持続性を高めることができる。
電極3は、帯状形状を有している。一対の電極3は、基板2の幅方向に、互いに平行に配設されている。電極3を形成する材料としては、特に限定されず、例えば銅、銀、アルミニウム等の金属等を用いることができる。
電極3の形状としては、特に限定されず、例えば膜状、板状、メッシュ状等とすることができるが、メッシュ状とすることが好ましい。このようにメッシュ状の電極3を用いることで、導電層5との密着性及び固着性を高めることができる。このようなメッシュ状の電極3としては、金属メッシュや、不織布に金属を蒸着又はスパッタさせたものを用いることができる。なお、電極3としては、導電性接着剤の塗布等によって形成したものであってもよい。
(CNT膜)
CNT膜4は、一方向に配向する複数のCNT繊維からなる複数のCNT繊維束6及びこの複数のCNT繊維束6の少なくとも周面を被覆する樹脂層7を有する。つまり、CNT繊維束6は複数のCNT繊維から構成され、このCNT繊維束6の周囲を樹脂層7が被覆している。また、CNT膜4は平面視矩形形状を有し、CNT膜4の長手方向Aの両端部分がそれぞれ導電層5を介して電極3と接続されている。
CNT膜4は、一方向(一対の電極3の対向方向A)に配向する複数のCNT繊維束6を有する。CNT繊維束6がこのように配向していることにより一対の電極3が離れる方向(前記方向A)へ歪みが加わった場合に、CNT繊維束6を構成するCNT繊維の切断、離間、CNT繊維束6の切断空間(ギャップ)の伸縮等によって当該歪みセンサ1をして抵抗変化を得ることができる。より具体的には、CNT繊維束6は、CNT繊維からなるバンドル構造となっており、CNT繊維束6の任意の横断面においては、切断されないCNT繊維と、CNT繊維が切断、離間したギャップの両方が存在することになる。またこのギャップ内の圧力は大気圧よりも低い(負圧である)と考えられ、当該歪みセンサ1の収縮時(歪の解放時)にはこのギャップの収縮力によって歪みセンサの収縮が付勢される。さらに、このギャップ内ではCNT繊維同士やCNT繊維と周囲の樹脂との摩擦が低減されるため、樹脂の残留応力等によってCNT繊維の動きが制限され難い。
各CNT繊維束6は、複数のCNT繊維からなる。ここで、CNT繊維とは、1本の長尺のCNTをいう。また、CNT繊維束6は、CNT繊維の端部同士が連結する連結部を有する。CNT繊維同士は、これらのCNT繊維の長手方向に連結している。このようにCNT膜4において、CNT繊維同士がその長手方向に連結してなるCNT繊維束6を用いることで、CNT繊維束6の配向方向長さの大きいCNT膜4を形成することができ、当該歪みセンサ1の長手方向長さを大きくし、感度を向上させることができる。
また、複数のCNT繊維束6は前記連結部等により網目状に連結又は接触しているとよい。この際、連結部において、3つ以上のCNT繊維の端部が結合していてもよいし、2つのCNT繊維の端部と他のCNT繊維の中間部とが結合していてもよい。複数のCNT繊維束6がこのような網目構造を形成することで、CNT繊維束6同士が密接し、CNT膜4の抵抗を下げることができる。さらに、当該CNT繊維束6の連結部が主な基点となって、隣り合うCNT繊維束6間に限らず、何本か飛び越えた場所のCNT繊維束6と連結又は接触してもよい。このように、複雑な網目状のCNT繊維束6からなるCNT膜4であれば、より抵抗値が低くなり、CNT繊維束6と垂直な方向に剛性の強い歪みセンサとすることができる。なお、CNT繊維束6同士の連結とは前記連結部等とCNT繊維束6とが電気的に繋がることであり、CNT繊維束6の連結部ではない部分同士が電気的に繋がった場合も連結に含まれる。CNT繊維束6同士の接触とは前記連結部等とCNT繊維束6とが触れているが電気的に繋がっていないことであり、CNT繊維束6の連結部ではない部分同士が触れているが電気的に繋がっていない場合も接触に含まれる。
なお、CNT繊維束6は、各CNT繊維が実質的にCNT繊維束6の長手方向Aに配向され、撚糸されていない状態のものである。このようなCNT繊維束6を用いることで、CNT膜4の均一性を高め、歪みセンサとしてのリニアリティを高めることができる。
なお、前記連結部において、各CNT繊維同士は分子間力により結合している。このため、複数のCNT繊維束6が連結部により網目状に連結した場合においても、連結部の存在による抵抗の上昇が抑えられる。なお、「略平行」とは、複数のCNT繊維束6の配向方向の成す角度が±5°以内であることを意味する。
なお、CNT膜4は、CNT繊維束6を平面状に略平行に配置した単層構造からなってもよいし、多層構造からなってもよい。ただし、ある程度の導電性を確保するためには、多層構造とすることが好ましい。
CNT繊維(CNT)としては、単層のシングルウォールナノチューブ(SWNT)や、多層のマルチウォールナノチューブ(MWNT)のいずれも用いることができるが、導電性及び熱容量等の点から、MWNTが好ましく、直径1.5nm以上100nm以下のMWNTがさらに好ましい。
前記CNT繊維(CNT)は、公知の方法で製造することができ、例えばCVD法、アーク法、レーザーアブレーション法、DIPS法、CoMoCAT法等により製造することができる。これらの中でも、所望するサイズのCNT(MWNT)を効率的に得ることができる点から、鉄を触媒とし、エチレンガスを用いたCVD法により製造することが好ましい。この場合、石英ガラス基板や酸化膜付きシリコン基板等の基板に、触媒となる鉄あるいはニッケル薄膜を成膜した上に、垂直配向成長した所望する長さのCNTの結晶を得ることができる。
樹脂層7は樹脂を主成分とし、複数のCNT繊維束6の少なくとも周面を被覆する層である。樹脂層7の主成分としては、基板2の材料として例示した合成樹脂やゴム等を挙げることができ、これらの中でもゴムが好ましい。ゴムを用いることで、大きな歪みに対してもCNT繊維の十分な保護機能を発揮することができる。なお、「CNT繊維束の周面」とは、CNT繊維束を形成する複数のCNT繊維のうち、最も径方向外側の複数のCNT繊維で形成される外面を意味する。
樹脂層7は、水性エマルジョンから形成されていることが好ましい。水性エマルジョンとは、分散媒の主成分が水であるエマルジョンをいう。CNTは疎水性が高い。そのため、樹脂層7を水性エマルジョンから形成すると、例えば塗工や浸漬によりこの樹脂層7を設けることで、樹脂層7がCNT繊維束6の内部全体に含浸せずにCNT繊維束6の周囲又は表層の一部に充填された状態とすることができる。このようにすることで、樹脂層7を形成する樹脂がCNT繊維束6内部全体にしみ込んで、CNT膜4の抵抗変化に影響を及ぼすことを抑制できる。なお、水性エマルジョンは乾燥工程を経ることによって、より安定した樹脂層7とすることができる。
当該歪みセンサ1は、樹脂層7がCNT繊維束6の表層の少なくとも一部に含浸していてもよい。つまり、CNT繊維束6の表層の少なくとも一部に樹脂層7が含浸することによって、CNT膜4と基板2との結合性及びCNT膜4の強度が向上し、CNT繊維束6が樹脂層7と共に伸縮し易くなる。一方で、CNT繊維束6の内部に樹脂層7の含浸部により径方向に囲繞される非含浸部を有することで、CNT繊維束6の配向方向に対する変形が樹脂によって阻害されることを防止できる。これらの結果、当該歪みセンサ1の感度及び抵抗変化のリニアリティをさらに高めることができる。さらに、CNT繊維束6の表層への樹脂層7の含浸程度により、CNT繊維束6の断裂を誘導でき、その面でも当該歪みセンサ1の応答性をさらに高めることができる。これらの作用によってCNT繊維束6の長手方向にCNT繊維の分布(濃淡)が発生し、この分布は光学式顕微鏡で確認することもできる。
なお、CNT繊維束6は複数のCNT繊維からなるバンドル構造を有する。具体的には、CNT繊維束6の中に複数のCNT繊維が互いにオーバーラップしながら、長いCNT繊維束6を形成する。この場合、複数のCNT繊維が繋がっていくことによって、電流パスを備える長いCNT繊維束6を形成することになる。これはCNT繊維が長手方向に切断されても電流パスを失わない理由でもある。樹脂層7は最低限バンドル構造体を形成している複数のCNT繊維中まで含浸しなければ、CNT繊維束6の中へ含浸しても問題ない。CNT繊維束6を構成する小さな径のバンドル構造体は、CNT繊維束6の中の小さな径の束と考えられる。
前記水性エマルジョンの分散媒の主成分は水であるが、その他の例えばアルコール等の親水性分散媒が含有されていてもよい。前記エマルジョンの分散質としては、通常樹脂であり、前述したゴム、特には天然ゴムが好ましい。また、分散質としてポリウレタンを用いてもよい。好ましいエマルジョンとしては、分散媒を水とし、ゴムを分散質とするいわゆるラテックスが挙げられ、天然ゴムラテックスがより好ましい。天然ゴムラテックスを用いることで、薄くかつ強度のある保護膜を形成することができる。
また、樹脂層7はカップリング剤を含有しているとよい。樹脂層7がカップリング剤を含有することで、樹脂層7とCNT繊維束6とを架橋し、樹脂層7とCNT繊維束6との接合力を向上させることができる。
前記カップリング剤としては、例えばアミノシランカップリング剤、アミノチタンカップリング剤、アミノアルミニウムカップリング剤等のアミノカップリング剤やシランカップリング剤などを用いることができる。
カップリング剤の樹脂層7のマトリックス樹脂100質量部に対する含有量の下限としては、0.1質量部が好ましく、0.5質量部がより好ましい。一方、カップリング剤の樹脂層7のマトリックス樹脂100質量部に対する含有量の上限としては、10質量部が好ましく、5質量部がより好ましい。カップリング剤の含有量が前記下限未満の場合、CNT繊維束6と樹脂層7との架橋構造の形成が不十分となるおそれがある。逆に、カップリング剤の含有量が前記上限を超える場合、架橋構造を形成しない残留アミン等が増加し、当該歪みセンサ1の品質が低下するおそれがある。
また、樹脂層7はCNT繊維束6に対する吸着性を有する分散剤を含有することが好ましい。このような吸着性を有する分散剤としては、吸着基部分が塩構造になっているもの(例えばアルキルアンモニウム塩等)や、CNT繊維束6の疎水性の基(例えばアルキル鎖や芳香族リング等)と相互作用できる親水性の基(例えばポリエーテル等)を分子中に有するもの等を用いることができる。
前記分散剤の樹脂層7のマトリックス樹脂100質量部に対する含有量の下限としては、0.1質量部が好ましく、1質量部がより好ましい。一方、分散剤の樹脂層7のマトリックス樹脂100質量部に対する含有量の上限としては、5質量部が好ましく、3質量部がより好ましい。分散剤の含有量が前記下限未満の場合、CNT繊維束6と樹脂層7との接合力が不十分となるおそれがある。逆に、分散剤の含有量が前記上限を超える場合、CNT繊維束6との接合に寄与しない分散剤が増加し、当該歪みセンサ1の品質が低下するおそれがある。
CNT膜4の幅の下限としては、1mmが好ましく、1cmがより好ましい。一方、CNT膜4の幅の上限としては、10cmが好ましく、5cmがより好ましい。このようにCNT膜4の幅を比較的大きくすることで、前述のようにCNT膜4の抵抗値を下げ、かつこの抵抗値のバラツキも低減することができる。
CNT膜4の平均厚みは0.1μm以上50μm以下が好ましい。すなわち、CNT膜4の平均厚みの下限としては、0.1μmが好ましく、1μmがより好ましく、3μmがさらに好ましい。一方、CNT膜4の平均厚みの上限としては、50μmが好ましく、10μmがより好ましく、5μmがさらに好ましい。CNT膜4の平均厚みが前記下限未満の場合、このような薄膜の形成が困難になるおそれや、CNT膜4の抵抗値が上昇しすぎるおそれがある。逆に、CNT膜4の平均厚みが前記上限を超える場合、樹脂層7が基板2の表面まで到達して接合されないので、CNT膜4が樹脂層7と共に剥がれるおそれがある。すなわち、CNT膜4の平均膜厚が50μm以下の場合には、基板2の表面に樹脂層7が到達して、基板2の表面と樹脂層7とが接合するので、樹脂層7の接合によってCNT膜4が基板2から剥がれるのを防止できる。
また、前述のように樹脂層7が基板2の表面に接合していることが好ましい。CNT膜4の平均厚みを50μm以下とすることで、樹脂層7を基板2の表面に到達させて容易かつ確実に樹脂層7を基板2に接合することができる。これにより、CNT膜4と基板2との接合強度を高め、CNT膜4の剥離を防止できる。なお、CNT膜4の膜厚をより大きくしたい場合は、予め基板2の表面に塗布等により樹脂層を形成しておき、その上にCNT膜4を配置した後にさらにその上から塗布等により樹脂層を形成してもよい。このように樹脂層7を基板2の表面に到達させることも可能である。
CNT膜4におけるCNT繊維束6の密度の下限としては、1.0g/cm3が好ましく、0.8g/cm3がより好ましい。一方、CNT膜4におけるCNT繊維束6の密度の上限としては、1.8g/cm3が好ましく、1.5g/cm3がより好ましい。CNT膜4におけるCNT繊維束6の密度が前記下限未満の場合、CNT膜4の抵抗値が高くなるおそれがある。逆に、CNT膜4におけるCNT繊維束6の密度が前記上限を超える場合、十分な抵抗変化が得られないおそれがある。
(開裂惹起領域)
CNT膜4は、平面視で規則的パターン状に配設された複数の開裂惹起領域4aを有する。具体的には、この開裂惹起領域4aは、CNT繊維束6が部分的に切除された領域であり、平面視円形でCNT膜4を厚さ方向に貫通する孔で構成される。複数の開裂惹起領域4aは、平面視で等間隔にCNT膜4に形成されている。また、開裂惹起領域4aでは基板2の表面に樹脂層7のみが積層されている。
複数の開裂惹起領域4aは、図2に示すようにCNT繊維束6が切除されている領域である。そのため、CNT膜4の長手方向Aの伸張によって複数の開裂惹起領域4aの周辺領域のCNT繊維が優先的に変形する。その結果、CNT膜4の抵抗変化が急激に変動することが防止されるため、抵抗変化のリニアリティを高めることができる。また、CNT膜4の伸張を繰り返した際のCNT繊維束6間の距離変化の再現性も高められ、センサの感度(計測精度)のバラツキを抑えて均質化することができる。
開裂惹起領域4aの大きさは、当該歪みセンサ1に求める感度やセンサの大きさに合わせて適宜設計することができる。例えば、センサ静置時(CNT膜4の非伸縮時)の開裂惹起領域4aの平均径の下限としては、0.1mmが好ましく、0.5mmがより好ましい。一方、開裂惹起領域4aの平均径の上限としては、3mmが好ましく、2mmがより好ましい。開裂惹起領域4aの平均径が前記下限未満の場合、CNT膜4の伸縮時の抵抗変化のリニアリティや再現性が十分得られないおそれがある。逆に、開裂惹起領域4aの平均径が前記上限を超える場合、当該歪みセンサ1の抵抗が必要以上に高くなるおそれがある。なお、「平均径」とは、開裂惹起領域4aの面積と等しい真円の直径の平均値を意味する。
また、センサ静置時(CNT膜4の非伸縮時)の開裂惹起領域4aの平均間隔の下限としては、0.2mmが好ましく、1mmがより好ましい。一方、開裂惹起領域4aの平均間隔の上限としては、6mmが好ましく、4mmがより好ましい。開裂惹起領域4aの平均間隔が前記下限未満の場合、当該歪みセンサ1の抵抗が必要以上に高くなるおそれがある。逆に、開裂惹起領域4aの平均間隔が前記上限を超える場合、CNT膜4の伸縮時の抵抗変化のリニアリティや再現性が十分得られないおそれがある。なお、「平均間隔」とは、隣接する開裂惹起領域4aの最小距離の平均値を意味する。
センサ静置時(CNT膜4の非伸縮時)の開裂惹起領域4aの面積占有率(CNT膜4の平面視面積(開裂惹起領域4aも含む)に対する複数の開裂惹起領域4aの合計面積の割合)の下限としては、5%が好ましく、10%がより好ましい。一方、開裂惹起領域4aの面積占有率の上限としては、30%が好ましく、20%がより好ましい。開裂惹起領域4aの面積占有率が前記下限未満の場合、CNT膜4の伸縮時の抵抗変化のリニアリティや再現性が十分得られないおそれがある。逆に、開裂惹起領域4aの面積占有率が前記上限を超える場合、当該歪みセンサ1の抵抗が必要以上に高くなるおそれがある。
なお、CNT膜4においてCNT繊維がCNT繊維束6を構成するため、開裂惹起領域4aにおいてCNT繊維を切除してもCNT繊維が飛散することが防止される。また、CNT繊維束6の切断面が樹脂層7の樹脂によってコーティングされ、この端面からの電流のリークを防止できるため、当該歪みセンサ1は抵抗変化の安定性に優れる。さらに、開裂惹起領域4aを構成する貫通孔には樹脂層7が充填され、樹脂層7が基板2に直接積層されるので、CNT膜4と基板2との接合強度が向上する。
(利点)
当該歪みセンサ1は、CNT膜4に平面視で規則的パターン状に配設された複数の開裂惹起領域4aを設けているため、CNT膜4の伸張時にこの開裂惹起領域4aの周辺領域で優先的にCNT繊維間の距離を変化させることができる。これにより、当該歪みセンサ1は、抵抗変化が大きい領域を容易かつ確実に制御して形成することができるため、抵抗変化のリニアリティを向上させることができると共に、センサの計測精度を一定に保つことができる。
また、当該歪みセンサ1は、CNT繊維の部分的な切除により開裂惹起領域4aを形成するため、容易かつ確実にCNT繊維の開裂個所を制御することができる。
(製造方法)
当該歪みセンサ1の製造方法としては、特に限定されないが、例えば以下の製造工程で製造することができる。
(1−1)図3(a)に示すように、基材Xの表面に複数のCNT繊維束6を配置する。具体的には、一方向に配向する複数のCNT繊維束6からなるCNTシート(フィルム)を基材Xの表面に配置する。このとき、後工程で積層される一対の電極3の対向方向(長手方向)にCNT繊維束6が配向するようにCNTシートの向きを調節する。なお、基材Xとしては例えば離型紙を用いることができる。
なお、前記CNTシートは、成長用基板上に触媒層を形成し、CVD法により一定の方向に配向した複数のCNT繊維を成長させ、図4のように撚糸せずにそのまま引き出し、他の板材又は筒材等に巻き付けた後に、必要な分のシート状のCNT繊維を取り出すことで得ることができる。このようにして得られたCNT繊維束6は、複数のCNT繊維からなり、このCNT繊維同士が長手方向に連結する連結部を有する構造となっている。
(1−2)図3(b)に示すように、前記基材XとCNT繊維束6との積層体に対し、厚み方向に複数の貫通孔Hを形成し、CNT繊維束6(CNT繊維)を部分的に切除する。これにより、CNT膜4の形成時に複数の開裂惹起領域4aとなる領域を形成する。なお、貫通孔Hの形成方法としては、特に限定されないが、例えばパンチングを用いることができる。貫通孔形成後、基材XからCNT繊維束6を剥離する。
(2−1)図3(c)に示すように、スライドガラス等の離型板上に基板2を形成する。具体的には、スライドガラスYをラテックスや樹脂溶液に浸漬し、その後乾燥させる。これにより、スライドガラスYの表面に樹脂製の基板2を形成することができる。なお、離型板としては、スライドガラス以外の他の板材を用いてもよい。
(2−2)図3(d)に示すように、基板2の表面に前述の手順で得た複数の貫通孔Hを有するCNT繊維束6を積層する。
(2−3)図3(e)に示すように、複数のCNT繊維束6の少なくとも周面に樹脂層7を被覆する。具体的には、スライドガラスYも含めた全体をラテックスに浸漬するか、あるいは複数のCNT繊維束6(CNTシート)の表面にラテックスを塗布することで樹脂層7を形成し、複数の開裂惹起領域4aを有するCNT膜4を完成させる。このラテックスは前述のとおり、親水性を有する水性エマルジョンを用いることが好ましい。
(2−4)図3(f)に示すように、この基板2の長手方向両端部分に導電性ゴム系接着剤を塗布し、導電層5を形成する。この際、CNT膜4の一部を導電層5が被覆するように導電層5を形成してもよい。
(2−5)図3(g)に示すように、各導電層5の表面に電極3を積層する。
(2−6)電極3の積層後、スライドガラスYの表面からこれらの積層体を切り出すことで、歪みセンサ1を得ることができる。スライドガラスYにおける幅方向両端部分は切り落としてもよい。また、長手方向に分断することで、1つの積層体から複数の歪みセンサ1を製造することもできる。
なお、CNT繊維を直接基板2に積層し、樹脂層7を形成してからレーザー照射等により貫通孔(開裂惹起領域4a)を形成してもよい。ただし、この場合は基板2に貫通孔が到達しないよう制御する必要があるため、前述した基材Xに積層した状態で貫通孔を形成する方法を用いる方が好ましい。また、CNT膜4の積層手順である前記(1−1)は以下のような手順とすることも可能である。
(1−1’)図5に示すように、CNT繊維束6を基材X上に巻き付ける。このようにすることで、一方向(一対の電極3の対向方向)に配向する複数のCNT繊維束6を得ることができる。この際、基材Xの両端を一対の支持具13で挟持し、基材Xの長手方向を軸に回転させることで、CNT繊維束6を巻き付けることができる。なお、基材Xの幅方向両端部分をマスキングテープ12等によりマスクしておいてもよい。
また、硬化前の樹脂層7を基材2の表面に積層してから、CNT繊維束6を樹脂層7の内部に配設してもよい。CNT膜4の厚さが小さい場合は、このような手順でもCNT繊維束6の周面を被覆する樹脂層7を形成することができる。
<第二実施形態>
図6の歪みセンサ11は、基板2と、この基板2の表面側に設けられ、一方向に配向する複数のCNT繊維を有するCNT膜14と、このCNT膜14の前記CNT繊維の配向方向Aの両端に配設される一対の電極3とを主に備える。CNT膜14以外は、前記第一実施形態の歪みセンサ1と同様であるため、同一符号を付して説明を省略する。
(CNT膜)
CNT膜14は、一方向に配向する複数のCNT繊維からなる複数のCNT繊維束6及びこの複数のCNT繊維束6の少なくとも周面を被覆する樹脂層7を有する。また、CNT膜14は、平面視で規則的パターン状に配設された複数の開裂惹起領域14aを有する。CNT繊維束6及び樹脂層7は、第一実施形態のCNT膜4と同様であるため、同一符号を付して説明を省略する。
(開裂惹起領域)
CNT膜14は、平面視で規則的パターン状に配設された複数の開裂惹起領域14aを有する。具体的には、この開裂惹起領域14aは、レーザー照射によりCNT膜14を構成するCNT繊維の一部を切断又は改質させた領域である。これら複数の開裂惹起領域14aは、平面視で等間隔にCNT膜14に形成されている。
複数の開裂惹起領域14aは、レーザー照射によりCNT膜14を構成するCNT繊維の一部が切断又は改質されているため、CNT膜14の伸張により、開裂惹起領域14aのCNT繊維が優先的に開裂する。その結果、CNT膜14の開裂間隔を開裂惹起領域14aの形成ピッチによって制御することが可能となり、抵抗変化のリニアリティを高めることができる。また、開裂惹起領域14aによって開裂したCNT膜14は繰り返し伸縮させた場合も同じ場所で開裂を繰り返すことになり、歪みセンサ1の再現性も高められ、センサの感度(計測精度)のバラツキを抑えて均質化することができる。ここで、レーザーによって改質されたCNT繊維とは、CNTの中の炭素原子の結合が部分的に切断されたもの、CNTの中の炭素原子の一部が二酸化炭素となったもの、CNTの中の一部がアモルファス化したもの等が考えられる。
CNT膜14の表面側からレーザーを照射するとレーザーが樹脂層7を透過するため、開裂惹起領域14aはCNT膜14の厚さ方向の一部に形成される。開裂惹起領域14aを形成するためのレーザーはCNT膜14の表面にフォーカス(焦点)が合うように設定されることが好ましい。これにより、開裂惹起領域14aをCNT膜14の表面側に形成することができる。
また、このレーザー照射に用いるレーザー光としてはCNT繊維を部分的に結晶改質できるものが好ましく、例えばガスレーザー、半導体レーザー、YAGレーザー等を用いることができる。また、レーザーの波長としては、赤外線波長や可視光波長とすることができる。
具体的なレーザー照射方法を以下に示す。レーザーの波長としては、1μm又は500nmを用いる。そして、例えばCNT膜14の伸縮方向のピッチ(インクリメントピッチ)を100μm、CNT膜14の伸縮方向と垂直方向のピッチ(パルスピッチ)を10μmとして、CNT膜14の表面にフォーカスが合うようにレーザーを照射する。レーザーのスポット径はフォーカスの合い具合によって変化するが、1μm以上5μm以下になると考えられる。また、点で照射するレーザーを用い、照射ポイントをライン状に配列させることで、ライン状の開裂惹起領域14aを形成することができる。このようにレーザー照射したCNT膜14表面の光学式顕微鏡での写真を図7に示す。図7においては、パルスピッチの方向にスジ(レーザー痕)が形成され、このスジが等ピッチでインクリメントピッチ方向に配列されていることが分かる。このように形成された開裂惹起領域14aを起点として、CNT膜14は樹脂層7と共に伸縮方向に開裂するようになる。この開裂惹起領域14aは、歪みセンサ1のリニアリティを良好に保ち、繰り返しの安定性にも寄与する。
なお、前記レーザー照射はCNT膜14を基板2に積層した後に行ってもよく、CNT膜14を離型紙等の表面に形成した状態でレーザー照射を行った後に基板2に積層してもよい。
当該歪みセンサ11は、CNT膜14の伸張時に開裂惹起領域14aでCNT繊維を優先的に開裂させることができる。これにより、当該歪みセンサ11は、抵抗変化が大きい領域を容易かつ確実に制御して形成することができるため、抵抗変化のリニアリティを向上させることができると共に、センサの計測精度を一定に保つことができる。
<その他の実施形態>
本発明の歪みセンサは前記実施形態に限定されるものではない。前記実施形態では複数の平面視円形の開裂惹起領域を有するCNT膜を説明したが、開裂惹起領域の形状はこれに限定されない。例えば図8(a)に示す歪みセンサ21のように、平面視でCNT膜24の伸張方向と平行な端部から中央側に突出する複数の開裂惹起領域24aを設けてもよい。この開裂惹起領域24aは、CNT膜24の伸張方向と平行な中心線を挟んで対称に設けられており、その平面形状は半円状である。また、図8(b)に示す歪みセンサ31のように、図8(a)の歪みセンサ21と同様の位置に、矩形状の複数の開裂惹起領域34aを有するCNT膜34を用いてもよい。さらに、図8(c)に示す歪みセンサ41のように、平面視でCNT膜44の伸張方向と平行な端部から中央側に突出する複数の開裂惹起領域44aを伸張方向に互い違いになるよう形成してもよい。この開裂惹起領域44aの平面形状は、例えばCNT膜44の端部を底辺とする三角形とすることができる。なお、図1の歪みセンサ1において、開裂惹起領域4aの平面形状を多角形としてもよい。
また、複数の開裂惹起領域は、ランダムパターン状に配設してもよい。ランダムパターン状に開裂惹起領域を形成することでも、歪みセンサの抵抗変化のリニアリティ及び再現性を高めることができる。
なお、前記第一実施形態のように開裂惹起領域をCNT繊維の切除により形成する場合、必ずしも図1のような貫通孔を形成する必要はない。例えば表層のみ、中層のみ、又は裏層のみでCNT繊維を切除してもよい。このような厚さ方向の部分的なCNT繊維の切除は、例えばレーザーを用いてそのフォーカスを調整することで実現できる。また、開裂惹起領域において、CNT繊維を完全に取り除かずに切断のみに留めても本発明の効果を奏することができる。
さらに、前記第二実施形態において、レーザー照射により改質したCNT繊維をさらに引張により分断して開裂惹起領域を形成してもよい。このように歪みセンサを使用する前に予め改質したCNT繊維を分断しておくことで、歪みセンサの抵抗変化のリニアリティ及び再現性をより確実に高めることができる。
また、レーザー照射によって形成される複数の開裂惹起領域は等間隔に配設されなくてもよい。例えば、歪みセンサの中央付近の伸縮方向のピッチ(インクリメントピッチ)を他の領域よりも大きくしてもよい。その場合には、歪みセンサの中央付近の感度が高まり、歪みセンサの中央付近を用いて歪みを検出したい対象物に対して有利である。逆に、歪みセンサの中央付近の伸縮方向のピッチを小さくし、歪みセンサの電極に近い部分の前記ピッチを大きくしてもよい。すなわち、歪みセンサの感度が低い領域である電極付近の前記ピッチを大きくすることで歪みセンサの感度を高め、歪みセンサ全体の感度を均一化することができる。なお、前記ピッチは不連続に変化してもよいし、徐々に変化するようにしてもよい。また、歪みセンサの伸縮方向と垂直方向のピッチ(パルスピッチ)を不等間隔としてもよい。その場合にはレーザーの照射するポイント数を調整することによってコスト削減をすることができる。このように不等間隔(不等ピッチ)の開裂惹起領域を備える歪みセンサも本発明の意図する範囲に含まれる。
なお、当該歪みセンサは、開裂惹起領域によって開裂個所を制御できればよいため、CNT繊維がCNT繊維束を構成しないものも本発明の意図する範囲内である。
また、当該歪みセンサにおいて、CNT膜の樹脂層の厚さは、CNT繊維の積層厚さよりも大きくてもよい。このように樹脂層をCNT繊維の積層厚さよりも厚くすることで、CNT膜内への異物混入等の発生を抑え、センサ機能の持続性を高める保護層を形成することができる。この保護層は、例えばCNT膜の樹脂層を形成する際に樹脂の塗布量を多くすることで容易かつ確実に形成できる。さらに、当該歪みセンサは、基板の裏面又はCNT膜の表面にそれぞれアシスト層を設けてもよい。このように歪みセンサの両面側にアシスト層を設けることで、計測対象物への貼付性、検出感度等をバランスよく高めることができる。
また、当該歪みセンサの基板は完全な直方体からなる板状体に限定されるものではなく、変形させて用いることもできる。例えば基板を筒状や波状とすることで、当該歪みセンサの用途を広げることができる。CNT繊維束としても、CNTを紡いで得られたCNTファイバー等を用いてもよい。さらには、CNT膜において、一対の電極の対向方向と垂直方向に対向するさらにもう一対の電極を設けてもよい。このように直交する2対の電極を設けることで、当該歪みセンサを二次元センサとして用いることもできる。また、当該歪みセンサの表面又は裏面を粘着性を有する樹脂で被覆することによって、人体、構造物等の歪みを検出したい場所へ簡易に貼り付けて用いることもできる。
なお、CNT膜の代わりに基板にレーザーを照射することで、基板に改質領域を形成し、基板に剛性分布を付与することができる。この基板の剛性分布によってCNT膜の開裂領域を制御することも可能である。