本発明は、前述した問題に対処するためになされたもので、その目的は、船舶の航行制御モードを通常制御モードから微速制御モードに切り換えたときに、レバー操作の直後からレバー操作に応じた航行が実行される航行状態変更機能を備えた船舶を提供することである。なお、下記本発明の各構成要件の記載においては、本発明の理解を容易にするために、実施形態の対応箇所の符号を括弧内に記載しているが、本発明の構成要件は、実施形態の符号によって示された対応箇所の構成に限定解釈されるべきものではない。
前述した目的を達成するため、本発明に係る航行状態変更機能を備えた船舶の構成上の特徴は、レバー(12b,32b,36,37)の操作位置に応じてシフトを前進、中立または後進に切換えるシフト切換装置(22)を備えた推進装置(20)と、航行制御モードを、船舶(10)をレバーの操作位置に応じて通常航行させる通常制御モードと、船舶を自動的に微速航行させる微速制御モードとに切り換える制御モード切換手段(12e,36,SF,SR)と、前進と中立とのシフト切換えまたは後進と中立とのシフト切換えをレバーの操作位置に応じて設定された設定時間ごとに繰り返し実行させるための微速航行指示データ(a,b,c,d)と、航行制御モードが微速制御モードになっているときに、微速航行指示データに基づいて推進装置を制御することにより船舶を微速航行させる制御装置(30)とを備え、航行制御モードが微速制御モードのときにレバーを操作し、微速航行指示データにおける前進、中立または後進のシフトうちのいずれかのシフトを初期のシフトとして選択する際に、レバーの操作に対応するシフトを選択するようにしたことにある。
本発明では、航行制御モードが微速制御モードに切り換わっているときのレバーの操作に対応して、制御装置が、微速航行指示データにおける前進、後進または中立のいずれかのシフトをレバー操作後の初期のシフトとして選択して推進装置を制御するようにしている。したがって、航行制御モードが微速制御モードに切り換わっているときのレバーの操作がそのまま直後の船舶の航行状態に反映されるようになる。このため、操船者は、レバーの操作による速度制御の反応を敏感に感じることができ、操船感覚が良好なものになる。なお、本発明において、前進と中立または後進と中立を設定時間ごとに繰り返し実行させるとは、シフトの切換制御が、例えば、12秒の中立と2秒の前進との作動を交互に繰り返えしたり、12秒の中立と2秒の後進との作動を交互に繰り返えしたりする制御である。そして、この12秒や2秒の設定時間はレバーの操作位置に応じて適宜設定されるものである。
また、本発明においては、微速航行指示データを、設定時間が異なる時間にそれぞれ設定された複数の微速航行指示データで構成し、制御装置が推進装置を制御する際に、レバーの操作位置に応じて複数の微速航行指示データから一つの微速航行指示データを選択するようにすることもできる。これによると、レバーの操作位置に応じた適正な微速航行が可能になる。この場合、レバーの操作位置に変化がなく一定であれば、同じ微速航行指示データに基づいて推進装置は制御され、レバーの操作位置に変化が生じたときには、その操作位置に応じた微速航行指示データが選択される。このため、レバーの操作位置に、例えば、レバーの傾斜角度等の数値を表示しておき、その各傾斜角度に応じた複数の微速航行指示データを揃えておくことが好ましい。
本発明に係る航行状態変更機能を備えた船舶の他の構成上の特徴は、航行制御モードが微速制御モードのときにレバー(12b,32b,37)を加速側に操作した場合には、微速航行指示データにおけるレバーの操作に対応する前進(a)または後進(c)のシフトを初期のシフトとして選択し、航行制御モードが微速制御モードのときにレバーを減速側に操作した場合には、微速航行指示データにおける中立(b,d)のシフトを初期のシフトとして選択するようにしたことにある。
本発明によると、航行制御モードが微速制御モードに切り換わっているときのレバーの操作が前進または後進の加速側への操作であれば、レバー操作後の最初のシフトは前進または後進になるため、操船者は速度制御が遅いと感じることはない。また、航行制御モードが微速制御モードに切り換わっているときのレバーの操作が前進または後進の減速側への操作であれば、レバー操作後の最初のシフトは中立になるため、操船者は速度制御が遅いと感じることはない。このため、操船者が、レバーを過度に加速側または減速側に移動させることを防止できる。
本発明に係る航行状態変更機能を備えた船舶のさらに他の構成上の特徴は、航行制御モードが微速制御モードのときにレバーを加速側に操作した場合に、レバーの操作量が設定された操作量を越えていれば、レバーの操作量に応じて設定された加速プログラムを実施したのちに、微速航行指示データにおけるレバーの操作に対応する前進または後進のシフトを初期のシフトとして選択し、航行制御モードが微速制御モードのときにレバーを減速側に操作した場合に、レバーの操作量が設定された操作量を越えていれば、レバーの操作量に応じて設定された加速プログラムを実施したのちに、微速航行指示データにおける中立のシフトを初期のシフトとして選択するようにしたことにある。
本発明に係る加速プログラムとしては、例えば、設定された予備時間、レバーの操作に対応する前進または後進のシフトイン、または半クラッチ状態にしたり、設定された予備時間、船舶の進行方向と反対の前進または後進のシフトイン、または半クラッチ状態にしたりするプログラムとすることができる。本発明では、航行制御モードが微速制御モードのときに、レバーが加速側に操作されそのレバーの操作量が設定された操作量を越えていれば、微速航行指示データに基づいて船舶を間欠駆動させる前に、前進を増速させる処理を行い、レバーが減速側に操作されそのレバーの操作量が設定された操作量を越えていれば、微速航行指示データに基づいて船舶を間欠駆動させる前に、後進を増速させる処理を行うようにしている。このため、レバーの操作による速度制御の反応がさらに早くなる。
この場合、船舶が前進しているときに、航行制御モードが微速制御モードになり、さらにレバーが設定された操作量を越えて加速操作された場合には、予備時間、前進に増速したのちに微速航行指示データに基づいた制御が行われる。また、船舶が前進しているときに、航行制御モードが微速制御モードになり、さらにレバーが設定された操作量を越えて減速操作された場合には、予備時間、後進したのちに微速航行指示データに基づいた制御が行われる。船舶が後進している場合も同様の処理が行われる。
本発明に係る航行状態変更機能を備えた船舶のさらに他の構成上の特徴は、制御装置(30)が微速航行指示データに基づいた推進装置の制御をする際に、設定時間ごとに繰り返し実行される前進と中立または後進と中立のシフトのうちの選択された初期のシフトの始めから設定時間をカウントして推進装置の制御が行われるようにしたことにある。
本発明によると、例えば、航行制御モードが微速制御モードに切り換わっているときのレバーの操作が前進加速側への操作であって、設定時間ごとに繰り返されるシフトの切換制御が、12秒の中立と2秒の前進との作動が交互に繰り返されるものであれば、まず、前進の制御が2秒行われその後、中立の制御が12秒行われる。その後、2秒の前進と12秒の中立との制御が交互に繰り返される。
また、航行制御モードが微速制御モードに切り換わっているときのレバーの操作が前進減速側への操作であれば、まず、中立の制御が12秒行われその後、前進の制御が2秒行われる。その後、12秒の中立と2秒の前進との制御が交互に繰り返される。このため、レバーの操作後の最初のシフトの制御が早めに切り上げられて、レバーの操作と異なるシフトの制御がすぐに実行されたり、異なるシフトの制御が開始されたりすることがなくなる。例えば、レバーの操作後に、レバーの操作前に実行されていたシフトによる制御が引き続き実行されてそのシフトに設定された時間の残り時間が費やされた場合には、操船者は速度制御が遅いと感じるが、本発明によるとこのようなことは生じない。このため、操船者が、一度行ったレバー操作に続いて再度同じ操作を繰り返すといったことが防止される。
本発明に係る航行状態変更機能を備えた船舶の構成上の特徴は、レバー(44a,45a)の操作位置に応じてシフトを前進、中立または後進に切換えるクラッチ式のシフト切換装置(42)を備えた推進装置と、航行制御モードを、船舶をレバーの操作位置に応じて通常航行させる通常制御モードと、船舶(40)を自動的に微速航行させる微速制御モードとに切り換える制御モード切換手段(44a)と、シフト切換装置の直結、滑り率が異なる連結および非連結の状態の間における直結側状態と非連結側状態とでの状態切換えをレバー(45a)の操作位置に応じて設定された設定時間ごとに繰り返し実行させるための微速航行指示データと、航行制御モードが微速制御モードになっているときに、微速航行指示データに基づいて推進装置を制御することにより船舶を微速航行させる制御装置(45c)とを備え、航行制御モードが微速制御モードのときにレバーを操作し、微速航行指示データにおけるシフト切換装置の各状態のうちのいずれかの状態を初期の状態として選択する際に、レバーの操作に対応する直結側または非連結側の状態を選択するようにしたことにある。
本発明では、シフト切換装置として、連結状態を滑り率が異なる半クラッチ状態にすることのできるクラッチ式のシフト切換装置を用いている。このため、シフト切換装置の連結を、直結状態と非連結状態の他、滑り率の異なる半クラッチ状態にできるようになり、船舶の航行状態により変化を持たせることができる。また、微速航行時に制御装置が実行する微速航行指示データは、シフト切換装置の直結、滑り率が異なる連結および非連結の状態の間における直結側状態と非連結側状態とでの状態切換えをレバーの操作位置に応じて設定された設定時間ごとに繰り返し実行するように設定されている。
そして、航行制御モードが微速制御モードに切り換わっているときのレバー操作後のシフト切換装置の状態を、レバーの操作に対応したものにしている。すなわち、レバーが加速側に操作されたものであれば、シフト切換装置の状態としては直結側の状態が選択され、レバーが減速側に操作されたものであれば、シフト切換装置の状態としては非連結側の状態が選択される。この場合、シフト切換装置の状態は複数段階に設定することが好ましく、レバーが加速側に操作されていれば操作前よりも1段階直結側に移行し、レバーが減速側に操作されていれば操作前よりも1段階非連結側に移行するようにする。
したがって、航行制御モードが微速制御モードに切り換わっているときのレバーの操作がそのまま直後の船舶の航行状態に反映されるようになる。このため、操船者は、レバーの操作による速度制御の反応を敏感に感じることができ、操船感覚が良好なものになる。なお、本発明では、レバーは通常航行用と微速航行用との2つのレバーで構成してもよいし、1つのレバーを用いて制御モード手段の切換えにより、通常航行と微速航行とに切り換えるようにしてもよい。また、本発明における直結側状態と非連結側状態とは、2つの状態間での相対的な位置を示しており、直結側状態と非連結側状態とは、ともに直結側にあってもよいし、非連結側にあってもよい。また、シフト切換装置のクラッチは、油圧式のものであってもよいし、電磁式のものであってもよい。
本発明に係る航行状態変更機能を備えた船舶の他の構成上の特徴は、航行制御モードが微速制御モードのときにレバーを加速側に操作した場合には、微速航行指示データにおけるレバーの操作に対応する直結側の状態を初期の状態として選択し、航行制御モードが微速制御モードのときにレバーを減速側に操作した場合には、微速航行指示データにおける非連結側の状態を初期の状態として選択するようにしたことにある。
本発明によると、航行制御モードが微速制御モードに切り換わっているときのレバーの操作が前進または後進の加速側への操作であれば、微速航行指示データにおけるレバー操作後の最初の状態は直結側の状態になるため、操船者は速度制御が遅いと感じることはない。また、航行制御モードが微速制御モードに切り換わっているときのレバーの操作が前進または後進の減速側への操作であれば、微速航行指示データにおけるレバー操作後の最初の状態は非連結側の状態になるため、操船者は速度制御が遅いと感じることはない。このため、操船者が、レバーを過度に加速側または減速側に移動させることを防止できる。
本発明に係る航行状態変更機能を備えた船舶のさらに他の構成上の特徴は、航行制御モードが微速制御モードのときにレバーを加速側に操作した場合に、レバーの操作量が設定された操作量を越えていれば、レバーの操作量に応じて設定された加速プログラムを実施したのちに、微速航行指示データにおけるレバーの操作に対応する直結側の状態を初期の状態として選択し、航行制御モードが微速制御モードのときにレバーを減速側に操作した場合に、レバーの操作量が設定された操作量を越えていれば、レバーの操作量に応じて設定された加速プログラムを実施したのちに、微速航行指示データにおける非連結側の状態を初期の状態として選択するようにしたことにある。
本発明に係る加速プログラムとしては、例えば、設定された予備時間、レバーの操作に対応する前進または後進のシフトイン、または半クラッチ状態にしたり、設定された予備時間、船舶の進行方向と反対の前進または後進のシフトイン、または半クラッチ状態にしたりするプログラムとすることができる。本発明では、航行制御モードが微速制御モードのときに、レバーが加速側に操作されそのレバーの操作量が設定された操作量を越えていれば、微速航行指示データに基づいて船舶を間欠駆動させる前に、前進を増速させる処理を行い、レバーが減速側に操作されそのレバーの操作量が設定された操作量を越えていれば、微速航行指示データに基づいて船舶を間欠駆動させる前に、後進を増速させる処理を行うようにしている。このため、レバーの操作による速度制御の反応がさらに早くなる。
この場合、船舶が前進しているときに、航行制御モードが微速制御モードになり、さらにレバーが設定された操作量を越えて加速操作された場合には、予備時間、前進に増速したのちに微速航行指示データに基づいた制御が行われる。また、船舶が前進しているときに、航行制御モードが微速制御モードになり、さらにレバーが設定された操作量を越えて減速操作された場合には、予備時間、後進したのちに微速航行指示データに基づいた制御が行われる。船舶が後進している場合も同様の処理が行われる。
本発明に係る航行状態変更機能を備えた船舶のさらに他の構成上の特徴は、制御装置が微速航行指示データに基づいた推進装置の制御をする際に、設定時間ごとに繰り返し実行されるシフト切換装置の状態のうちの選択された初期の状態の始めから設定時間をカウントして推進装置の制御が行われるようにしたことにある。本発明によると、レバーの操作後に、速度制御が適切でないと感じることが無くなるため、操船者が、一度行ったレバー操作に続いて再度同じ操作を繰り返すといったことが防止される。
本発明に係る航行状態変更機能を備えた船舶のさらに他の構成上の特徴は、微速航行指示データが、シフト切換装置の状態を連結と非連結との間で切換えるためのデータであることにある。
本発明によると、航行制御モードが微速制御モードになっているときに、制御装置の制御によって、シフト切換装置が連結状態と非連結状態とを繰り返すことにより、前進と停止または後進と停止の速度切換えが所定の設定時間ごとに繰り返えされるようになる。この場合のシフト切換装置における連結と非連結との切換えは、前進と中立または後進と中立のシフト切換えを所定の設定時間ごとに繰り返えすことによって行ってもよいし、クラッチの滑り率を所定の設定時間ごとに繰り返えし変化させることによって行ってもよい。本発明によると、船舶の微速航行における速度制御が容易になる。
本発明に係る航行状態変更機能を備えた船舶の他の構成上の特徴は、微速航行指示データが、シフト切換装置の状態を滑り率が異なる連結状態の間で切換えるためのデータであることにある。
本発明によると、前進または後進であるシフトインの状態のなかで、シフト切換装置のクラッチの滑り率だけが変更される。このため、速度を変更しながら前進または後進が小刻みにできるようになり、船舶が航行する海や川の流速に応じた速度制御が容易になる。
本発明に係る航行状態変更機能を備えた船舶のさらに他の構成上の特徴は、航行制御モードが微速制御モードで、シフトが前進または後進に設定されているときに、シフト切換装置(42)が直結または所定の滑り率を備えた連結の状態になるようにしたことにある。
この場合、シフト切換装置の滑り率は、駆動力が100%近く伝達されるようにした0−70%に設定されていることが好ましい。本発明によると、シフトインの状態で船舶を微速航行させると、シフト切換装置は、直結状態または半クラッチ状態になるとともに、半クラッチ状態では、直結に近い状態から非連結に近い状態までの変更が可能になる。このため、船舶の航行状態にさらに変化を持たせることができる。
本発明に係る航行状態変更機能を備えた船舶のさらに他の構成上の特徴は、制御モード切換手段が、操作部(12e)を備えたモード切換装置(12e,30e)で構成されており、操作部を操作することにより、航行制御モードが通常制御モードまたは微速制御モードに切り換わるようにしたことにある。
本発明によると、レバーを操作して前進、中立または後進にシフトを変更させながら船舶を通常航行させることができ、その状態で、モード切換装置の操作部を操作することにより、同じレバーの操作で自動的に微速航行指示データに基づいて船舶を微速航行させることができる。この場合、操作部の操作により、航行制御モードが微速制御モードになったのちのレバーの操作は、前進と中立または後進と中立のシフトの切換えを繰り返えしたり、前進と停止または後進と停止の作動を繰り返えしたりするときのそれぞれの実行時間を変更するための操作になる。なお、本発明においては、航行制御モードが微速制御モードのときに、再度操作部を操作すると、航行制御モードは通常制御モードに切り換わる。
本発明に係る航行状態変更機能を備えた船舶のさらに他の構成上の特徴は、レバー(32b)の操作範囲に微速領域が設定されており、レバーの操作位置が微速領域にあるときに、航行制御モードが微速制御モードになり、レバーの操作位置が微速領域外にあるときに、航行制御モードが通常制御モードになるようにしたことにある。
本発明によると、レバーを微速領域外で操作することにより前進、中立または後進にシフトを変更させながら船舶を通常航行させることができ、同じレバーを微速領域内で操作することにより、自動的に微速航行指示データに基づいた状態にシフトを変更させながら船舶を微速航行させることができる。この場合、微速領域内でのレバーの操作は、前進と中立または後進と中立のシフトの切換えを繰り返えしたり、前進と停止または後進と停止の作動を繰り返えしたりするときのそれぞれの実行時間を変更するための操作になる。本発明においては、微速領域の内部と外部との境界で、制御モード切換手段が構成される。
本発明に係る航行状態変更機能を備えた船舶のさらに他の構成上の特徴は、レバーが、通常制御レバー(36,44a)と、微速制御レバー(37,45a)とで構成され、通常制御レバーの操作により通常航行が行われ、微速制御レバーの操作により微速航行が行われるようにしたことにある。
本発明によると、通常制御レバーを操作することにより前進、中立または後進にシフトを変更させながら船舶を通常航行させることができ、微速制御レバーを操作することにより、自動的に微速航行指示データに基づいた状態で船舶を微速航行させることができる。この場合、微速制御レバーの操作は、前進と中立または後進と中立のシフトの切換えを繰り返えしたり、前進と停止または後進と停止の作動を繰り返えしたりするときのそれぞれの実行時間を変更するための操作になる。
また、通常制御レバーの操作範囲に微速領域を設けて、通常制御レバーが微速領域に位置したときに、微速制御レバーの操作が有効になるようにすることもできる。この場合、通常制御レバーを微速領域外に移動させると航行制御モードは通常制御モードになり、微速制御レバーの位置がどのような位置になっていても、船舶の航行に影響しなくなる。本発明によると、通常航行は通常制御レバーの操作で行い、微速航行は微速制御レバーの操作で行うようになるため、操作を誤ることを防止できる。
(第1実施形態)
以下、本発明の第1実施形態を図面を用いて説明する。図1は、同実施形態に係る航行状態変更機能を備えた船舶10を示している。この船舶10は、船舶本体10aと、船舶本体10aの船尾に取り付けられた本発明の推進装置としての船外機20とで構成されており、船舶本体10aの中央には操縦室11が設けられている。この操縦室11には、船舶10を航行させるためのリモコン操作部12や、ステアリング操作部13等が設けられている。リモコン操作部12は、図2に示したように、リモコン本体12aに、本発明のレバーとしてのリモコンレバー12bを回転操作可能に取り付けて構成されており、リモコン本体12aの内部には、ポジションセンサ12cと、リモコン側制御部12dとが内蔵されている。また、リモコン本体12aの側面にはモード切換スイッチ12eが設けられている。
リモコンレバー12bは、リモコン本体12aに連結された基端部(図2の状態で下端部)を中心として円弧を描くように前後(図2では左が前で右が後)に回転可能になっており、直立した位置が中立位置N(ニュートラル)に設定されている。そして、中立位置Nから前方に傾斜した位置が前進位置Fに設定され、中立位置Nから後方に傾斜した位置が後進位置Rに設定されている。前進位置F内においては、リモコンレバー12bが中立位置Nに近い位置にあるときほど減速され前方に傾斜していくほど加速されていく。同様に、後進位置R内においては、リモコンレバー12bが中立位置Nに近い位置にあるときほど減速され後方に傾斜していくほど加速されていく。
また、ポジションセンサ12cは、リモコンレバー12bの位置(角度)を検出し、その検出値を信号としてリモコン側制御部12dに送信する。そして、リモコン側制御部12dは、ポジションセンサ12cから受信した信号を目標シフト位置および目標エンジン回転速度を示す信号として、後述する船外機側制御装置30(図3,4参照)に送信する。そして、船外機側制御装置30は、リモコン側制御部12dから受信した信号に応じて、後述するシフト切換装置22およびスロットルバルブ23を制御する。
すなわち、船外機20には、図3に示したように、船外機側制御装置30と、シフト切換装置22と、スロットルバルブ23とが設けられており、さらに、シフト切換装置22を制御するシフトアクチュエータ24およびスロットルバルブ23を制御するスロットルアクチュエータ25が設けられている。そして、リモコンレバー12bの操作に応じたシフトアクチュエータ24の制御によりシフト切換装置22のシフト切換えが行われ、リモコンレバー12bの操作に応じたスロットルアクチュエータ25の制御により、スロットルバルブ23のスロットル開度の制御が行われる。
この船舶10では、リモコン操作部12と、船外機側制御装置30とが配線14によって電気的に結線され、船外機側制御装置30と、シフトアクチュエータ24およびスロットルアクチュエータ25とがそれぞれ配線(図示せず)によって電気的に結線されている。このため、リモコンレバー12bの操作に応じて、前進、中立および後進のシフト切換えと、加速および減速の速度制御とが行われる。
また、モード切換スイッチ12eは、船舶10の航行状態を通常航行と微速航行との一方に選択するための操作部である。この船舶10は、リモコンレバー12bの操作に応じて、シフト切換えと速度制御とをしながら航行する通常航行と、シフトイン(前進または後進)と中立(ニュートラル)とを所定時間ずつ交互に繰り返しながら自動的に低速で航行する微速航行とを行うことができる。そして、通常航行しているときに、モード切換スイッチ12eを押すと微速航行に切り換わり、再度、モード切換スイッチ12eを押すと通常航行に切り換わる。微速航行時における制御もリモコンレバー12bの操作位置に対応して行われる。
ステアリング操作部13の本体には、後方に延びる回転軸13aが軸周り方向に回転可能に設けられ、回転軸13aの前端にステアリングホイール13bが取り付けられている。また、ステアリング操作部13の本体の内部には、回転軸13aの回転角を検出する操舵角センサ13c(図4参照)と、ステアリング側制御部13dとが内蔵されている。操舵角センサ13cは、回転軸13aを介してステアリングホイール13bの回転角度を検出し、その検出値を信号としてステアリング側制御部13dに送信する。そして、ステアリング側制御部13dは、操舵角センサ13cから受信した信号を目標操舵角を示す信号として、船外機側制御装置30に送信する。船外機側制御装置30は、ステアリング側制御部13dから受信した信号に応じて、船外機20の近傍に設けられた操舵アクチュエータ15を制御する。
本実施形態の要旨とは異なるため、詳しい説明は省略するが、船外機20には、垂直方向に配置された操舵軸15aを含む操舵機構が設けられており、操舵アクチュエータ15は、この操舵機構を作動させて船外機20を操舵軸15aの軸周り方向に回転させることができる。また、ステアリング操作部13と船外機側制御装置30とは、配線14aによって電気的に結線され、船外機側制御装置30と、操舵アクチュエータ15とは配線(図示せず)によって電気的に結線されている。このため、ステアリングホイール13bの操作に応じて、操舵アクチュエータ15は、船外機20を操舵軸15aを中心として回転させる。これによって、船舶10は進行方向を左右に変更する。
船外機20は、スイベルブラケット16aとクランプブラケット16bとからなるブラケット16によって、操舵およびチルトが可能な状態で船舶本体10aの船尾に取り付けられている。この船外機20は、シフト切換装置22および推進機26が設けられたロアケース21aの上部にドライブシャフト27が設けられたアッパーケース21bを連結し、アッパーケース21bの上部にエンジン28が設けられたカウリング21cを連結して構成されている。推進機26は、略水平に向けて配置されたプロペラシャフト26aの後端にプロペラ26bを取り付けて構成され、プロペラシャフト26aの前端側に組み付けられたシフト切換装置22を介してドライブシャフト27の下端部に連結されている。
シフト切換装置22は、ドライブシャフト27の下端に取り付けられた駆動ギア22aと、プロペラシャフト26aの外周面前部側に回転可能に取り付けられた前進ギア22bと、プロペラシャフト26aの外周面における前進ギア22bの後方に前進ギア22bと対向して回転可能に取り付けられた後進ギア22cと、前進ギア22bと後進ギア22cとの間に配置されたドッグクラッチ22dとを備えている。駆動ギア22a、前進ギア22bおよび後進ギア22cはそれぞれべベルギアからなっており、前進ギア22bは、前方から駆動ギア22aに歯合し、後進ギア22cは後方から駆動ギア22aに歯合している。このため、ドライブシャフト27の軸周り方向の回転により、前進ギア22bと後進ギア22cとはプロペラシャフト26aの軸周りで互いに反対方向に回転する。
また、ドッグクラッチ22dは、ばね(図示せず)によって前方に付勢された状態で、プロペラシャフト26aの外周面にスプライン連結されており、プロペラシャフト26aの軸方向に移動できるが、軸周り方向には回転できなくなっている。このため、ドッグクラッチ22dは、プロペラシャフト26aとともにプロペラシャフト26aの軸周り方向に回転する。さらに、ドッグクラッチ22dの前端には、前進ギア22bの内部を貫通して前方に延びる突起が設けられている。また、船外機20内におけるドライブシャフト27の前方には、ドライブシャフト27と平行して上下に延びるシフトシャフト29が設置されており、このシフトシャフト29の下端には、偏心した駆動ピン29aが設けられている。
そして、シフトシャフト29が軸周りの一方向に回転すると、ドッグクラッチ22dは駆動ピン29aに押されて後方に移動し、その状態からシフトシャフト29が軸周りの他方向に回転すると、ドッグクラッチ22dは前方に移動する。ドッグクラッチ22dが前方に位置したときには、前進ギア22bと歯合して、ドライブシャフト27の駆動力は、駆動ギア22a、前進ギア22bおよびドッグクラッチ22dを介してプロペラシャフト26aに伝達される。これにより、船舶10は前進する。また、ドッグクラッチ22dが後方に位置したときには、後進ギア22cと歯合して、ドライブシャフト27の駆動力は、駆動ギア22a、後進ギア22cおよびドッグクラッチ22dを介してプロペラシャフト26aに伝達される。これにより、船舶10は後進する。
そして、ドッグクラッチ22dが、前進ギア22bと後進ギア22cのどちらにも歯合していないときには、ドライブシャフト27の駆動力は、プロペラシャフト26aに伝達されない。これにより、船舶10は、前方にも後方にも加速されないニュートラルの状態になる。シフトシャフト29の上端は、シフトアクチュエータ24に連結されており、リモコンレバー12bを操作すると、その操作に応じたシフトアクチュエータ24の制御によりシフトシャフト29が回転してシフト切換装置22のシフト切換えが行われる。
また、エンジン28に連結されたクランク軸(図示せず)の下端部は、ドライブシャフト27の上端部に連結されている。したがって、エンジン28が駆動すると、その駆動力はクランク軸、ドライブシャフト27、シフト切換装置22およびプロペラシャフト26aを介してプロペラ26bに伝達され、プロペラ26bが回転して推進力が発生する。エンジン28の回転数はスロットルバルブ23の開度に応じて決定される。このため、リモコンレバー12bを操作すると、その操作に応じたスロットルアクチュエータ25の制御により、スロットルバルブ23のスロットル制御が行われる
船外機側制御装置30は、本発明に係る制御装置を構成するもので、図4に示したように、CPU30a、ROM30b、RAM30c、タイマ30dおよび切換部30eなどを有するマイクロコンピュータによって構成されている。ROM30bには、船舶10を通常航行または微速航行させるときに、操舵アクチュエータ15、シフトアクチュエータ24およびスロットルアクチュエータ25の作動を制御するためのプログラムや各種のデータ等が記憶されている。RAM30cには、ポジションセンサ12cや操舵角センサ13cが検出した検出値等の各種のデータが一時的に記憶される。
そして、CPU30aは、ROM30bやRAM30cに記憶されたデータを用いてROM30bに記憶されたプログラムを実行し、タイマ30dは、CPU30aによってプログラムが実行される時間を計測する。また、切換部30eは、制御回路で構成されており、モード切換スイッチ12eの操作に応じて、CPU30aが実行するプログラムを変更することにより、船舶10の航行状態を通常航行と微速航行との間で切り換える。
ROM30bには、図5(a),(b)に示したグラフデータや、図7に示したプログラムが記憶されている。図5(a)に示したグラフは、船舶10を前進で微速航行させるときの、リモコンレバー12bの角度に対する前進と中立との作動時間の関係を示している。図5(a)において、横軸はリモコンレバー12bの角度(レバー角)を示し、縦軸は作動時間(秒)を示している。リモコンレバー12bの角度が「0」のときにリモコンレバー12bは垂直に向いた中立位置Nにあり、リモコンレバー12bの角度が「70」のときにリモコンレバー12bは垂直から前方に70度傾いた状態になる。
そして、四角形の印を線で繋いだ曲線aは前進の作動を示し、円形の印を線で繋いだ曲線bは中立の作動を示している。図5(a)によると、リモコンレバー12bの角度が10度のときには、前進1秒、中立25秒となっており、リモコンレバー12bの角度が10度に維持されている間は、1秒の前進と25秒の中立との作動が繰り返し実行される。
また、図5(b)においては、横軸はリモコンレバー12bの角度を示し、縦軸は作動時間(秒)を示しており、リモコンレバー12bの角度が0度のときにリモコンレバー12bは垂直に向いた中立位置Nにあるが、リモコンレバー12bの角度が45のときにはリモコンレバー12bは垂直から後方に45度傾いた状態になる。そして、四角形の印を線で繋いだ曲線cは後進の作動を示し、円形の印を線で繋いだ曲線dは中立の作動を示している。図5(b)においては、リモコンレバー12bの角度が10度のときには、後進1秒、中立15秒となっており、リモコンレバー12bの角度が40度のときには、後進10秒、中立3秒となっている。
また、図6には、船舶10が図5(a),(b)に示したデータにしたがって微速航行しているときに、リモコンレバー12bを移動させて速度を変更した場合、次に作動する初期のシフトがどのようになるかを示している。船舶10が微速航行しているときに、リモコンレバー12bを操作せず、リモコンレバー12bが一定位置に静止しているときには、図5(a),(b)に示したように、リモコンレバー12bの角度に応じて設定された設定時間にしたがって前進と中立または後進と中立の作動が繰り返し行われる。そして、操船者の操作により、リモコンレバー12bが移動して角度が変更すると、その変更された角度にしたがって設定時間も変更される。
図6では、上下に示した3つのタイムチャートのうちの中央のタイムチャートAは現在のリモコンレバー12bの角度に対応したものとしている。上方のタイムチャートBは、現在のリモコンレバー12bを増やす側(加速側)に移動させた場合のリモコンレバー12bの角度に対応したものであり、下方のタイムチャートCは、現在のリモコンレバー12bを減らす側(減速側)に移動した場合のリモコンレバー12bの角度に対応したものである。また、各タイムチャートA,B,Cにおける色が薄い部分はシフトイン(前進または後進)の作動時間を示し、色が濃い部分は中立の作動時間を示しており、各部分の1枠は1秒を表わしている。
タイムチャートAは、2秒のシフトインと12秒の中立とを繰り返すようになっており、これは、図5(a)におけるレバー角が30度のときに相当する。このように、レバー角が30度として設定された時間で前進と中立との作動を繰り返しているときに、加速側にリモコンレバー12bを操作すると、レバー角が40度として設定されたデータ、すなわち、3秒の前進と10秒の中立とが繰り返されるデータにしたがって作動するようになる。このとき、タイムチャートAで実行されているシフトが中立であっても、タイムチャートBに移行する際には、中立でなく前進のシフトから作動するようになり、さらに前進のシフトの初期から作動するようにしている。
また、レバー角が30度として設定された時間で前進と中立との作動を繰り返しているときに、減速側にリモコンレバー12bを操作すると、レバー角が20度として設定されたデータ、すなわち、1秒の前進と15秒の中立とが繰り返されるデータにしたがって作動するようになる。このとき、タイムチャートAで実行されているシフトが中立の途中であっても、タイムチャートCに移行する際には、中立の途中でなく中立の初期から作動するようにしている。後進側で操作する場合も同様になる。このように、船舶10では、微速航行中にリモコンレバー12bが加速側に操作されたときには、つぎのデータのシフトインの初期から作動が実行され、リモコンレバー12bが減速側に操作されたときには、つぎのデータの中立の初期から作動が実行される。
つぎに、以上のように構成した本実施形態の動作を図7のフローチャートを用いて説明する。このプログラムは、運転者の操作によりキースイッチ17(図1参照)がオン状態にされたのちに、所定の短時間、例えば100msごとに繰り返し実行される。このプログラムの実行は、ステップ100から開始され、船外機側制御装置30のCPU30aは、ステップ102において、ポジションセンサ12cが検出するリモコンレバー12bの操作位量であるレバー角r(t)を読み込む。すなわち、船外機側制御装置30は、リモコンレバー12bの前後方向のレバー角r(t)を入力し、RAM30cに記憶させる。
つぎに、プログラムはステップ104に進み、微速領域であるか否かを判定する。ここでは、モード切換スイッチ12eによって設定される航行制御モードが通常航行時の通常制御モードであるか微速航行時の微速制御モードであるかが判定される。ここで、モード切換スイッチ12eが通常制御モードに設定されていれば、「no」と判定してステップ106に進む。ステップ106では、タイマ30dがカウントする時間TMをクリアして、ステップ152に進む。つぎに、ステップ152において、ステップ102で記憶したレバー角r(t)を前回のレバー位置r(t−1)として更新したのちに、ステップ154に進んでプログラムは一旦終了する。
そして、プログラムは再度ステップ100から開始され、ステップ104において「yes」と判定されるまで、前述した処理が繰り返される。この間、レバー角r(t)は新たな値に更新されていく。また、船舶10は、リモコンレバー12bの操作に応じて通常航行するが、この場合、時間TMのカウントは行われない。ステップ104において「yes」と判定すると、ステップ108に進み、前回のレバー角と今回のレバー角との差であるr(t−1)―r(t)が、増減操作しきい値(−)Aよりも小さいか否かが判定される。増減操作しきい値Aは、リモコンレバー12bが実際に操作がされて検出されたものであるか、揺れ等による誤差によるものであるかを判別するための境界の値として設定されるもので、例えば、0.7度とする。
ここでは、リモコンレバー12bが、図5(a),(b)に示したグラフにおける「0」方向、すなわちリモコン操作部12における中立位置N側に操作されたか否かが判定される。ここで、リモコンレバー12bが「0」方向に操作されていれば「yes」と判定して、ステップ110に進む。ステップ110では、オフ出力の処理(図5(a),(b)の曲線b、dに対応する出力を行うための処理)が行われる。ついで、ステップ112において、フラグが「1」であるか否かの判定が行われる。
このフラグは「1」のときに、オフ出力の状態にあることを示し、「0」のときに、オン出力(「0」方向と反対で、図5(a),(b)の曲線a、cに対応する出力)の状態にあることを示すものである。初期の状態では、フラグは「0」に設定されているものとする。このため、ステップ112においては、「no」と判定してステップ114に進み、ステップ114において、フラグを「1」にする処理が行われる。そして、ステップ116において、カウントした時間TMをクリアする処理が行われる。
ついで、プログラムはステップ150に進み、時間TMのカウントを開始したのちに、ステップ152において、ステップ102で記憶した今回のレバー角r(t)を前回のレバー位置r(t−1)として更新する。そして、ステップ154に進んでプログラムは一旦終了する。プログラムは再度ステップ100から開始され、ステップ104,108において「yes」と判定される間は、オフ出力の処理が繰り返される。この間、レバー角r(t)は新たな値に更新されていく。また、船舶10は、リモコンレバー12bが中立位置Nに近づく減速の状態に維持される。この間、リモコンレバー12bは「0」側への操作が継続されているため時間TMのカウントは行わない。また、この間、ステップ114の処理も省略される。
また、リモコンレバー12bが「0」方向に操作されてなく、ステップ108において「no」と判定すると、プログラムはステップ118に進む。ステップ118においては、前回のレバー角と今回のレバー角との差であるr(t−1)―r(t)が、増減操作しきい値(+)Aよりも大きいか否かが判定される。ここでは、リモコンレバー12bが「0」と反対の方向、すなわち、図5(a),(b)の曲線a、cに対応するシフトインである前進または後進に操作されたか否かが判定される。ここで、リモコンレバー12bが「0」と反対の方向に操作されていれば「yes」と判定して、ステップ120に進む。ステップ120では、オン出力の処理が行われる。
ついで、ステップ122において、フラグが0であるか否かの判定が行われる。前回のプログラムの処理で、フラグは、「1」に設定されているため、ステップ122においては、「no」と判定してステップ124に進み、フラグを「0」にする処理が行われる。そして、ステップ126において、時間TMをクリアする処理が行われる。つぎに、プログラムはステップ150に進み、時間TMのカウントを開始したのちに、ステップ152において、ステップ102で記憶した今回のレバー角r(t)を前回のレバー位置r(t−1)として更新する。そして、ステップ154に進んでプログラムは一旦終了する。
プログラムは再度ステップ100から開始され、ステップ104において「yes」と判定され、ステップ108において「no」と判定され、ステップ118において「yes」と判定される間は、オン出力の処理が繰り返される。この間も、レバー角r(t)は新たな値に更新されていく。また、船舶10は、前進または後進のシフトインの状態に継続される。この間、リモコンレバー12bは「0」と反対側への操作が継続されているため時間TMのカウントは行わない。また、ステップ124の処理も省略される。
リモコンレバー12bが「0」方向にも「0」と反対の方向にも操作されてなく、ステップ118において「no」と判定すると、プログラムはステップ128に進む。この場合は、リモコンレバー12bが操作されてなく静止またはそれに近い状態にあるため、以後、図5(a),(b)に示したグラフにおけるリモコンレバー12bの角度に基づいた間欠駆動が行われる。この場合、まず、ステップ128において、フラグが「1」であるか否かが判定される。この繰り返し実行されるプログラムの直前の処理がリモコンレバー12bが「0」方向に操作されるときの処理であれば、ここではフラグは「1」に設定されているため、ステップ128では、「yes」と判定される。このため、プログラムはステップ130に進む。ここでの処理は、前述した図6において、タイムチャートAからタイムチャートCに移行するときの処理に対応する。
ステップ130においては、カウントされた時間TMが、設定されたオフ出力の保持時間よりも短いか否かが判定される。ここでは、リモコンレバー12bの角度に対応する設定時間が図5(a),(b)の中から選択される。また、今回のプログラムの処理は、リモコンレバー12bが「0」方向に操作されたのちの処理であるため、最初のシフトは中立になる。ここで、カウントされた時間TMが、オフ出力の設定時間よりも短ければ「yes」と判定してプログラムはステップ132に進む。ステップ132ではオフ出力の処理が行われる。そして、前述したステップ150,152の処理を行ったのちにステップ154に進んで、プログラムは一旦終了する。
プログラムは再度ステップ100から開始され、ステップ104において「yes」と判定され、ステップ108,118において「no」と判定され、ステップ128において「yes」と判定される間は、オフ出力の処理が繰り返され、これは、カウントされた時間TMがオフ出力の設定時間になるまで継続される。そして、カウントされた時間TMがオフ出力の設定時間に到達して、ステップ130において「no」と判定すると、プログラムはステップ134に進む。ステップ134では、カウントされた時間TMがオフ出力の設定時間とオン出力の設定時間との合計よりも短いか否かが判定される。ここで、カウント時間TMが短ければ、ステップ136に進んでオン出力の処理が行われる。
そして、この状態で、リモコンレバー12bが操作されなければ、カウントされた時間TMがオフ出力の設定時間とオン出力の設定時間との合計値に到達するまで、ステップ136におけるオン出力の処理が繰り返される。カウントされた時間TMがオフ出力の設定時間とオン出力の設定時間との合計値に到達して、ステップ134において「no」と判定すると、プログラムはステップ138に進む。ステップ138においては、カウントされた時間TMがクリアされ、その後、ステップ150,152の処理を行い、ステップ154に進んでプログラムは終了する。そして、その後も、リモコンレバー12bが操作されなければ、ステップ128〜138の処理が繰り返される。これによって、オフ出力とオン出力とがそれぞれ設定された時間で交互に実行される。
また、ステップ128においてフラグの状態を判定する際に、繰り返し実行されるプログラムの直前の処理がリモコンレバー12bが「0」と反対の方向に操作される処理であれば、フラグは「0」に設定されているため、ステップ128では、「no」と判定して、プログラムはステップ140に進む。ここでの処理は、前述した図6において、タイムチャートAからタイムチャートBに移行するときの処理に対応する。
ステップ140においては、カウントされた時間TMが、オン出力の設定時間よりも短いか否かが判定される。ここでも、リモコンレバー12bの角度に対応する設定時間が、図5(a),(b)の中から選択される。また、今回のプログラムの処理は、リモコンレバー12bが「0」と反対の方向に操作されたのちの処理であるため、最初のシフトはシフトインである前進または後進になる。ここで、カウントされた時間TMがオン出力の設定時間よりも短ければ「yes」と判定してステップ142に進む。プログラム142ではオン出力の処理が行われる。そして、前述したステップ150,152の処理を行ったのちにステップ154に進んで、プログラムは一旦終了する。
プログラムは再度ステップ100から開始され、ステップ104において「yes」と判定され、ステップ108,118,128において「no」と判定される間は、ステップ142におけるオン出力の処理が繰り返され、これは、カウントされた時間TMがオン出力の設定時間に達するまで継続される。そして、カウントされた時間TMがオン出力の設定時間に達して、ステップ140において「no」と判定すると、プログラムはステップ144に進む。ステップ144では、カウントされた時間TMがオン出力の設定時間とオフ出力の設定時間との合計値よりも短いか否かが判定される。ここで、カウント時間TMが短ければ、ステップ146においてオフ出力の処理が行われる。
そして、この状態で、リモコンレバー12bが操作されなければ、カウントされた時間TMがオン出力の設定時間とオフ出力の設定時間との合計値に達するまで、オフ出力の処理が繰り返される。カウントされた時間TMがオン出力の設定時間とオフ出力の設定時間との合計値に到達して、ステップ144において「no」と判定すると、プログラムはステップ148に進む。ステップ148においては、カウントされた時間TMがクリアされ、そののち、ステップ150,152の処理を行い、ステップ154に進んでプログラムは終了する。その後も、リモコンレバー12bが操作されなければ、ステップ140〜148の処理が繰り返えされる。これによって、オン出力とオフ出力とがそれぞれ設定された時間で交互に実行される。
その後もリモコンレバー12bの操作にしたがって前述したプログラムが実行される。なお、このプログラムが開始され、モード切換スイッチ12eの操作により微速領域に入ったときに、リモコンレバー12bが操作されてなく静止している場合には、フラグは「0」に設定されているため、ステップ128からステップ140に進み、最初のシフトはオン出力側になるが、これはフラグの設定によって、最初のシフトがオフ出力側になるようにしてもよい。
また、図7に示したフローチャートでは、オフ出力とオン出力との設定時間をカウントするために、シフトが切り換わるごとに経過時間TMをクリアにする処理が行われるが、ROM30bには、航行制御モードが微速制御モードになっているときの全体の経過時間をカウントするためのフローチャートも記憶されている。図示は省略するが、このフローチャートでは、モード切換スイッチ12eの操作により微速領域に入ったときに、カウントが開始され、再度のモード切換スイッチ12eの操作により微速領域外になったときにカウントされた時間がクリアされる。
以上のように、本実施形態に係る船舶10では、モード切換スイッチ12eの操作により微速領域内に入って、航行制御モードが微速制御モードになっているときには、リモコンレバー12bの操作に対応して、前進、後進のシフトインまたは中立のいずれかのシフトをリモコンレバー12b操作後の初期のシフトとして選択するようにしている。したがって、リモコンレバー12bの操作がそのまま直後の船舶10の航行状態に反映されるようになる。このため、操船者は、速度制御の反応を敏感に感じることができ、操船感覚が良好なものになる。
また、リモコンレバー12bの操作後の初期のシフトによる制御を実行する際に、選択されたシフトの始めから設定時間をカウントするようにしている。このため、リモコンレバー12bの操作に基づいた最初のシフトによる制御が早めに切り上げられて、リモコンレバー12bの操作と異なるシフトの制御がすぐに実行されることがなくなる。このため、操船者が、リモコンレバー12bの操作による制御が実行されていないと思い、一度行ったレバー操作に続いて再度同じ操作を繰り返すといったことが防止される。また、モード切換スイッチ12eを押圧操作することにより、航行状態を通常航行と微速航行とに変更できるようにしたため、航行状態の変更を簡単かつ確実に行える。
(第2実施形態)
図8は、本発明の第2実施形態に係る船舶に備わったリモコン操作部32を示している。このリモコン操作部32では、モード切換スイッチが設けられてなく、リモコンレバー32bの操作範囲の中に微速領域SF、SRが設定されている。リモコンレバー32bは、直立した位置が中立位置N(ニュートラル)に設定されている。そして、中立位置Nから前方に所定角度、例えば、30度傾斜した位置までが微速領域SFに設定され、中立位置Nから後方に所定角度、例えば、30度傾斜した位置までが微速領域SRに設定されている。
そして、微速領域SFからさらに前方に傾斜した位置が前進位置Fに設定され、微速領域SRからさらに後方に傾斜した位置が後進位置Rに設定されている。微速領域SF、SR内においては、リモコンレバー32bが中立位置Nに近い位置にあるときほど減速され前方または後方に傾斜していくほど加速されていく。すなわち、リモコンレバー32bが中立位置Nに近い位置にあるときほどシフトインの時間が短く中立の時間が長くなり、前方または後方に傾斜していくほどシフトインの時間が長く中立の時間が短くなる。同様に、前進位置F内、後進位置R内においても、リモコンレバー32bが中立位置Nに近い位置にあるときほど減速され前方または後方に傾斜していくほど加速されていく。
このリモコン操作部32を備えた船舶のそれ以外の部分の構成については、前述した船舶10と同一である。したがって、図8における同一部分に同一符号を記して説明は省略する。本実施形態では、リモコンレバー32bが操作により前進位置Fから境界を越えて微速領域SF内に入っているときと、リモコンレバー32bが操作により後進位置Rから境界を越えて微速領域SR内に入っているときとに、前述したプログラムのステップ104において微速領域内にあると判定される。
本実施形態によると、操船者が船舶を通常航行と微速航行とで航行させる際のシフト切換えと速度制御とをリモコンレバー32bの操作だけで行えるため、操作が容易になる。この実施形態のそれ以外の作用効果については、前述した船舶10と同様である。なお、本実施形態においては、ダイヤル式の操作部を設けて、リモコンレバー32bが微速領域SF、SR内に位置しているときに、操作部を回転操作することにより段階的に間欠駆動する際の時間を変更できるようにすることもできる。これによると、微速領域SF、SRをより狭い範囲(角度)に設定することができる。
(第3実施形態)
図9は、本発明の第3実施形態に係る船舶に備わったリモコン操作部35を示している。このリモコン操作部35は、箱形のリモコン本体35aの左右両側面に、通常制御レバー36と、微速制御レバー37とを回転操作可能に取り付けて構成されている。なお、図9では、左が前方で、右が後方になっており、手前が左側面で、奥側が右側面になっている。通常制御レバー36は、リモコン本体35aの右側面に配置されており、リモコン本体35aに連結された基端部を中心として円弧を描くように前後に回転可能になっている。
そして、この通常制御レバー36は、前述したリモコン操作部32のリモコンレバー32bと同様、操作範囲の中における通常制御レバー36が直立した位置に中立位置Nが設定され、中立位置Nの前後に微速領域が設定されている。この微速領域は、中立位置Nから前後にそれぞれ所定角度、例えば、10度傾斜した位置までの間に設定されている。そして、微速領域からさらに前方に傾斜した位置が前進位置Fに設定され、微速領域からさらに後方に傾斜した位置が後進位置Rに設定されている。微速領域内は不感帯になっている。また、前進位置F内および後進位置R内においては、通常制御レバー36が中立位置Nに近い位置にあるときほど減速され前方または後方に傾斜していくほど加速される。
微速制御レバー37は、通常制御レバー36に対向して、リモコン本体35aの左側面に配置されており、リモコン本体35aに連結された基端部を中心として円弧を描くように前後に回転可能になっている。この微速制御レバー37は、通常制御レバー36が微速領域内に位置しているときに、操作が有効になって船舶を微速航行させる。すなわち、微速制御レバー37の操作範囲においては、微速制御レバー37が直立した位置を境にして前方の部分が、前進で微速航行させるための制御を行うために設定され、後方の部分が、後進で微速航行させるための制御を行うために設定されている。
このため、微速制御レバー37の操作範囲における前方側の各角度は、図5(a)に示したグラフに対応しており、微速制御レバー37の操作範囲における後方側の各角度は、図5(b)に示したグラフに対応している。また、図示は省略するが、リモコン本体35aの内部には、それぞれ通常制御レバー36と微速制御レバー37とに対応するポジションセンサと、リモコン側制御部とが内蔵されている。このリモコン操作部35を備えた船舶のそれ以外の部分の構成については、前述した船舶10と同一である。
このように構成したため、通常制御レバー36を操作することにより前進、中立または後進にシフトを変更させながら船舶を通常航行させることができ、通常制御レバー36を微速領域に位置させた状態で、微速制御レバー37を操作することにより、自動的に前進と中立または後進と中立にシフトを変更させながら船舶を微速航行させることができる。また、微速航行の際に、通常制御レバー36を微速領域外に移動させると航行制御モードは通常制御モードになり、この場合、微速制御レバー37の操作は無効になる。
本実施形態では、通常制御レバー36の操作範囲に設けた微速領域で制御モード切換手段が構成され、通常制御レバー36が操作により前進位置Fから境界を越えて微速領域内に入っているときと、通常制御レバー36が操作により後進位置Rから境界を越えて微速領域内に入っているときとに、前述したプログラムのステップ104において微速領域内にあると判定される。また、本実施形態によると、通常航行は通常制御レバー36の操作で行い、微速航行は微速制御レバー37の操作で行うようになるため、操作を誤ることを防止できる。この実施形態のそれ以外の作用効果については、前述した船舶10と同様である。
(第4実施形態)
図10は、本発明の第4実施形態に係る船舶40(図14参照)の要部を示した概略構成図である。この船舶40では、エンジン41にドライブシャフト41aを介して減速機42が連結されており、さらに、減速機42にプロペラシャフト43を介してプロペラ43aが連結されている。また、減速機42には、切換弁42aとクラッチスリップ装置42bとが設けられており、切換弁42aには通常制御操作部44が接続され、クラッチスリップ装置42bには微速制御操作部45が接続されている。通常制御操作部44と微速制御操作部45とは、前述した第3実施形態のリモコン操作部35と同様の形状に形成されており、通常制御レバー44aと、微速制御レバー45aとを備えている。
通常制御レバー44aは、前進、中立、後進のシフト切換えと加減速の制御とを行うために用いられ、通常制御操作部44には、通常制御レバー44aの他、コントロールユニット44bやアクチュエータ44cなどが備わっている。コントロールユニット44bは、通常制御レバー44aの操作量に応じてアクチュエータ44cを作動させることにより、エンジン41のスロットルバルブ(図示せず)の開度を制御するとともに、切換弁42aの切換制御を行う。これによって、船舶40は通常制御レバー44aの操作に応じて通常航行する。また、通常制御レバー44aの移動範囲の一部には、航行制御モードを通常制御モードから微速制御モードに切り換えるための微速領域が設定されている。
微速制御レバー45aは、航行制御モードが微速制御モードになっているときに、操作が有効になり、船舶40を微速航行させるための操作に用いられる。この微速制御レバー45aの本体には、微速制御レバー45aの操作量を電気的特性値として検出する検出器45bが内蔵されている。また、微速制御操作部45には、検出器45bが検出する微速制御レバー45aの操作量に応じてクラッチスリップ装置42bの作動を制御するコントロールユニット45cも備わっている。これによって、船舶40は微速制御レバー45aの操作に応じて微速航行する。
減速機42は、本発明に係る油圧クラッチ式のシフト切換装置を構成するもので、一部が図11に示した多板油圧クラッチ機構46で構成されている。この多板油圧クラッチ機構46は、減速機42に備わった前進ギア(図示せず)の前方と、後進ギア(図示せず)の後方とにそれぞれ設置されている。図11には、前進ギア側の多板油圧クラッチ機構46を示している。また、多板油圧クラッチ機構46は、ドライブシャフト41aの駆動力により回転する筒状の外郭部46aの内部に、油圧ピストン46b、スプリング46cおよび外側摩擦板47aと内側摩擦板47bとからなる多板式クラッチ47を組み込んで構成されている。外郭部46aの一方(図11の左)には油圧室(図示せず)に連通する油圧路46dが形成されており、油圧室内の油は油圧ポンプ(図示せず)の作動によって油圧路46dに送られる。
油圧ピストン46bは、リング状の板の周縁部から油圧路46dと反対の方向に押圧用突部を突出させて構成されており、外郭部46aの内面に対して摺動可能に配置されている。そして、油圧ピストン46bは、外郭部46a内の油圧路46d側に軸方向に配置された支持部46eを内部に通し、支持部46eに支持されたスプリング46cによって油圧路46d側に付勢されている。多板式クラッチ47の外側摩擦板47aと内側摩擦板47bとは交互に配置されたリング状の板部材で構成されており、外側摩擦板47aの外周部は外郭部46aの内周面に組み付けられ、内側摩擦板47bの内周部はプロペラシャフト43に連結された連結部材43bの外周面に組み付けられている。
このため、油圧ポンプの作動により油が油圧路46dを介して外郭部46a内に送られて、高油圧によって油圧ピストン46bがスプリング46cの弾性力に抗して多板式クラッチ47側に移動すると、外側摩擦板47aと内側摩擦板47bとが互いに押し付けられる。これによって、外側摩擦板47aと内側摩擦板47bとは一体となって回転可能な状態になり、ドライブシャフト41aの駆動力がプロペラシャフト43に伝達される。また、外郭部46a内の油圧が低く、外側摩擦板47aと内側摩擦板47bとが互いに押し付けられないときには、非連結状態になって、ドライブシャフト41aの駆動力はプロペラシャフト43に伝達されない。
そして、外郭部46a内の油圧が、スプリング46cの弾性力を油圧ピストン46bの面積で除した値よりも大きくなってはいるが、外側摩擦板47aと内側摩擦板47bとを強固に押し付けるほど大きくなっていない場合には、多板油圧クラッチ機構46は半クラッチ状態になる。この場合、外側摩擦板47aと内側摩擦板47bとの間に滑りが発生し、その滑り率は外郭部46a内の油圧に応じて変化する。この、外側摩擦板47aと内側摩擦板47bとの間の滑り率の変更は、コントロールユニット45cが、クラッチスリップ装置42bを介して油圧ポンプの作動を制御することにより行われる。すなわち、クラッチスリップ装置42bは、多板油圧クラッチ機構46に組み込まれて、多板式クラッチ47を半クラッチ状態に維持する。
このように構成された本実施形態に係る船舶40では、微速制御レバー45aの操作量に対するクラッチスリップ装置42bへの入力で表される運転領域が、図12に示したように4段階になるように設定されている。図12において、横軸は、検出器45bが検出する微速制御レバー45aの操作量に対応する電気特性変換値V(r)を示し、縦軸は、コントロールユニット45cが演算することによって求められる演算変換特性値M(V(r))を示している。この演算変換特性値M(V(r))は、コントロールユニット45cが、電気特性変換値V(r)と、後述するプリセット値M1、M2とに基づいて演算して求めた値であり、入力特性値Mとして、クラッチスリップ装置42bに入力される。
図12においては、微速制御レバー45aの操作範囲における最小値V(rmin)と、最大値V(rmax)との間に、V0,V1,V2の3点を定め、各点を境界として、演算変換特性値M(V(r))を特定する制御マップを区切っている。図12に示した領域(1)は、直結運転領域であり、領域(2)は、直結未満から所定のスリップ水準までのスリップ運転領域である。また、領域(3)は、領域(2)の所定のスリップ水準と、その値未満に設定されたもう一つの水準との間で交互に繰り返し運転する領域であり、領域(4)は、非連結で完全にスリップする領域である。
プリセット値M1は、前述した領域(2),(3)の境界に位置する所定のスリップ水準に対応する演算変換特性値M(V(r))であり、プリセット値M2は、前述した領域(3)のもう一つの水準に対応する演算変換特性値M(V(r))である。すなわち、プリセット値M1、M2を任意の値に設定することにより、図12における領域(3)の位置を適宜変更することができる。クラッチスリップ装置42bは、このようにして求められる入力特性値Mに応じて、減速機42を作動させて、プロペラシャフト43を回転させる。
つぎに、プリセット値M1、M2の双方を、プロペラシャフト43に駆動力を伝達可能なスリップ水準に設定した場合のプロペラシャフト43の作動を、図13を用いて説明する。図13は、微速制御レバー45aを、一方(左の直結側)から他方(右の非連結側)にゆっくりと移動させていったときに得られるプロペラシャフト43の回転Npの時間推移を示している。この場合、微速制御レバー45aの操作量が最小のrminからr0までの間は、図12の領域(1)に対応する直結運転領域であり、操作量がr0からr1までの間は、図12の領域(2)に対応するスリップ運転領域である。
直結運転領域では、ドライブシャフト41aの駆動力はプロペラシャフト43に100%伝達され、スリップ運転領域では、操作量が増えるほど多板式クラッチ47の滑り率が徐々に大きくなり、操作量がr1のときには、滑り率は、例えば60%程度になる。また、微速制御レバー45aの操作量がr1からr2までの間は、図12の領域(3)に対応する2つの2つのスリップ水準の間で交互に繰り返し運転する領域であり、操作量がr2からrmaxまでの間は、図12の領域(4)に対応する非連結運転領域である。繰り返し運転領域では、プロペラシャフト43は回転Np1と、それよりも遅い回転Np2とを繰り返す。また、非連結運転領域では、多板式クラッチ47の滑り率は100%近くになり、ドライブシャフト41aの駆動力はプロペラシャフト43に伝達されなくなる。
なお、操作量がr1からr2の間の所定の位置で微速制御レバー45aを停止させた場合には、その位置に対応する設定時間の間隔で、プロペラシャフト43は回転Np1と、回転Np2との作動を繰り返すようになる。このため、操作量がr1に近い位置に微速制御レバー45aを停止させたときほど船舶40の速度は速くなり、操作量がr2に近い位置に微速制御レバー45aを停止させたときほど船舶40の速度は遅くなる。すなわち、操作量がr1に近い位置に微速制御レバー45aを停止させたときほど回転Np1で作動する時間が回転Np2で作動する時間よりも長くなり、操作量がr2に近い位置に微速制御レバー45aを停止させたときほど回転Np1で作動する時間が回転Np2で作動する時間よりも短くなる。
図13に示した制御を行った場合、微速制御レバー45aの操作量がr1からr2までの間は、スリップ水準によるスリップ運転が2段階で交互に実行されるようになる。このため、図14に示したように、船舶40から多数の餌針48を縄48aに繋げて牽引する「延縄漁」を行う場合、餌針48が所定の時間ごとに、上方にしゃくられるように動作するため餌針48の沈み位置が上下に変化するようになる。これによって、魚49が餌針48に食いつき易くなるという効果が期待できる。
つぎに、プリセット値M1を、プロペラシャフト43に駆動力を伝達可能なスリップ水準に設定し、プリセット値M2を、プロペラシャフト43に駆動力を伝達不可能な水準に設定した場合のプロペラシャフト43の作動を、図15を用いて説明する。図15では、図13に示した場合と同様、直結運転領域では、ドライブシャフト41aの駆動力はプロペラシャフト43に100%伝達される。また、スリップ運転領域では、操作量が増えるほど多板式クラッチ47の滑り率が徐々に大きくなり、操作量がr1のときには、滑り率は、例えば70%程度になる。
そして、微速制御レバー45aの操作量がr1からr2までの間では、プロペラシャフト43は回転Np1と、回転Np2との作動を繰り返すが、このときのNp2は「ゼロ」に設定されている。このため、滑り率が大きな状態でのスリップ運転と、非連結の状態とが交互に繰り返されるようになる。また、図13に示した場合と同様、非連結運転領域では、多板式クラッチ47の滑り率は100%近くになり、ドライブシャフト41aの駆動力はプロペラシャフト43に伝達されなくなる。
図15に示した制御を行った場合、微速制御レバー45aの操作量がr1からr2までの間は、滑り率が大きな状態でのスリップ運転と、非連結の停止状態との間の極低速領域での運転が2段階で交互に実行されるようになる。このため、間欠運転特有の不快な振動を感じることなく、船舶40を微速航行させることができる。また、微速制御レバー45aの操作を、直結運転、スリップ運転、低速での間欠運転、非連結運転と船速が早い方から停止状態に連続して行えるため、直感的で簡便な操作が可能になる。
本実施形態では、図13および図15に示した制御以外の方法でも作動できるように、適宜、プリセット値M1、M2を設定することができ、これにより、種々の方法で、船舶40を微速航行させることができる。また、本実施形態でも、図7に示したフローチャートにしたがった制御を行うことにより、航行制御モードが微速制御モードに切り換わっているときの微速制御レバー45aの操作に対応するシフトを微速制御レバー45aの操作後の初期のシフトとして選択して推進装置を制御するようにしている。
この場合、微速制御レバー45aの操作量がr0側からr1を超えたときが、ステップ104で[yes]と判定したときに相当する。また、回転Np1がオン出力に相当し、回転Np2がオフ出力に相当する。したがって、航行制御モードが微速制御モードに切り換わっているときの微速制御レバー45aの操作がそのまま直後の船舶40の航行状態に反映されるようになる。このため、操船者は、微速制御レバー45aの操作による速度制御の反応を敏感に感じることができ、操船感覚が良好なものになる。
なお、本実施形態では、通常制御レバー44aと、微速制御レバー45aとを用いているが、どちらか一方を省略するとともに、モード切換スイッチを設けて、モード切換スイッチの切換えにより、1つのレバーの操作で通常航行と微速航行との制御が行えるようにしてもよい。また、モード切換スイッチを設けずに、レバーの操作範囲に広い微速領域を設定してその範囲内で微速航行の制御をするようにしてもよい。さらに、多板油圧クラッチ機構46に替えて電磁式のクラッチを用いてもよい。
また、前述した各実施形態では、航行制御モードが微速制御モードになっているときに、リモコンレバー12b等を操作し、その後リモコンレバー12b等が停止すると、その直後から間欠駆動が開始するようにしているが、本発明の他の実施形態として、間欠駆動が開始される前に、船舶10等を増速させたり減速させたりする処理を加えることができる。例えば、リモコンレバー12b等の設定操作量を、5度に設定し、操作量が5度未満であれば、前述した各実施形態と同じ制御を行い、操作量が5度以上であれば、増速プログラムまたは減速プログラムに基づいた処理を行うようにする。
増速プログラムとしては、例えば、船舶10等が前進しているときに、リモコンレバー12b等を前進側に増速操作していた場合、操作量が5度以上10度未満であればシフトインを2秒実施、操作量が10度以上15度未満であればシフトインを3秒実施、操作量が15度以上20度未満であればシフトインを4秒実施、操作量が20度以上であればシフトインを5秒実施のように設定したものとする。そして、この増速プログラムの実行が終了したのちに、経過時間をクリアして、シフトインの状態から前述した各実施形態と同じ制御による間欠駆動を開始する。同様に、船舶10等が後進しているときに、リモコンレバー12b等を後進側に増速操作した場合にも、この増速プログラムを実行する。
また、減速プログラムとしては、例えば、船舶10等が前進しているときに、リモコンレバー12b等を減速側に操作していた場合、操作量が5度以上10度未満であれば後進を2秒実施、操作量が10度以上15度未満であれば後進を3秒実施、操作量が15度以上20度未満であれば後進を4秒実施、操作量が20度以上であれば後進を5秒実施のように設定したものとする。そして、この減速プログラムの実行が終了したのちに、経過時間をクリアして、シフトインの状態から前述した各実施形態と同じ制御による間欠駆動を開始する。同様に、船舶10等が後進しているときに、リモコンレバー12b等を減速側に操作した場合には、後進を前進に代えてこの減速プログラムを実行する。
すなわち、この実施形態は、図7に示したフローチャートにおけるステップ108−150の処理を繰り返したときに、リモコンレバー12b等の操作量が設定された操作量を越えていれば、ステップ128に進む前に、前述した処理を行うというものである。この実施形態によると、間欠駆動が開始される前に、リモコンレバー12b等の操作に応じた制御が設定された予備時間行われるため、リモコンレバー12b等の操作による速度制御の反応がさらに早くなる。この実施形態のそれ以外の作用効果は、前述した実施形態と同様である。なお、本発明は、前述した各実施形態に限定するものでなく、本発明の技術的範囲内で適宜変更して実施できるものである。例えば、各実施形態に備わっている各構成を組み合わせを代えて実施することができる。