JP6132350B2 - 人工生物発光酵素 - Google Patents

人工生物発光酵素 Download PDF

Info

Publication number
JP6132350B2
JP6132350B2 JP2013193508A JP2013193508A JP6132350B2 JP 6132350 B2 JP6132350 B2 JP 6132350B2 JP 2013193508 A JP2013193508 A JP 2013193508A JP 2013193508 A JP2013193508 A JP 2013193508A JP 6132350 B2 JP6132350 B2 JP 6132350B2
Authority
JP
Japan
Prior art keywords
amino acid
seq
acid sequence
protein
luminescent
Prior art date
Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
Active
Application number
JP2013193508A
Other languages
English (en)
Other versions
JP2014100137A (ja
Inventor
誠培 金
誠培 金
鳥村 政基
政基 鳥村
田尾 博明
博明 田尾
Current Assignee (The listed assignees may be inaccurate. Google has not performed a legal analysis and makes no representation or warranty as to the accuracy of the list.)
National Institute of Advanced Industrial Science and Technology AIST
Original Assignee
National Institute of Advanced Industrial Science and Technology AIST
Priority date (The priority date is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the date listed.)
Filing date
Publication date
Application filed by National Institute of Advanced Industrial Science and Technology AIST filed Critical National Institute of Advanced Industrial Science and Technology AIST
Priority to JP2013193508A priority Critical patent/JP6132350B2/ja
Publication of JP2014100137A publication Critical patent/JP2014100137A/ja
Application granted granted Critical
Publication of JP6132350B2 publication Critical patent/JP6132350B2/ja
Active legal-status Critical Current
Anticipated expiration legal-status Critical

Links

Landscapes

  • Enzymes And Modification Thereof (AREA)
  • Measuring Or Testing Involving Enzymes Or Micro-Organisms (AREA)
  • Micro-Organisms Or Cultivation Processes Thereof (AREA)
  • Peptides Or Proteins (AREA)
  • Investigating Or Analysing Biological Materials (AREA)

Description

本発明は、海洋動物由来の生物発光酵素における共通遺伝情報を基に、高輝度で安定的な生物発光を示す人工生物発光酵素の創生に関するものである。
生物発光酵素(ルシフェラーゼ)に関する最近において多数の新規生物発光酵素の樹立が報告されている。例えば、プロメガ社によって深海海老由来の新規発光酵素の樹立が報告された(非特許文献1)。この酵素は従来のウミシイタケ由来の発光酵素(Renilla luciferase;RLuc)に比べて1/2の分子量(19kD)であり、100倍の発光輝度を示す。また、茂里らによって11種類のプランクトン由来の生物発光酵素が報告された(非特許文献20)。これらの一部の発光酵素は、RLuc同様の輝度を示していると評価された。
また、以前からAugaptiloidea superfamilyに属する深海発光動物が発見されてきた(非特許文献2)。他にMetridinidae familyに属するGaussia princeps由来の発光酵素(GLuc)やMetridia longa由来の発光酵素(MLuc)、Metridia pacifica由来の発光酵素類(MpLuc1,MpLuc2)が発見された(非特許文献15,19,21)。
一方で、これらの発光酵素の輝度や発光安定性を向上させるための研究も進められてきた。LoeningらはRLucにアミノ酸変異を導入する方法で、高輝度で安定的なRLuc変異体を樹立した(非特許文献14)。この研究では、変異の導入箇所を特定するために、“consensus sequence-driven mutagenesis strategy”を用いた(非特許文献13)。更に本研究者らは、親水性アミノ酸分布図を基に酵素活性部位を想定し変異を導入する手法で深海発光動物由来の発光酵素であるGLuc,MpLuc1及びMLucの高輝度化・高発光安定化に成功した(非特許文献11)。ところが、まだまだ様々なバイオアッセイに利用できるには不十分で、更なる輝度の増加など、発光特性の改良が求められていた。
本発明者らは、以前一つの発光酵素の配列を2つに分けて前と後の配列を、類似アミノ酸を中心に整列することによって、その発光特性に関わるヒントを得ようとするアプローチ(single sequence alignment;SSA)により熱力学的に安定な発光酵素配列を作り上げる提案を行った(非特許文献3)。この手法は、海洋動物由来の発光酵素には2つの酵素活性部位が存在するという前提に基づいている。この2つの酵素活性部位を、類似アミノ酸を中心に整列することによって前後の酵素活性部位の類似性を簡便に比較できる。前述したようにアミノ酸の頻度が熱力学的安定性に繋がるという仮説があることから、この前後の配列間の類似性を高めることによって熱力学的に安定的な発光酵素配列を作り上げようとするものである。
一方、前述した生物発光酵素を「レポーター」として用いる様々な応用法も開発されてきた。Niuらは、このような生物発光酵素を「レポーター」とするバイオアッセイを“basic”、“inducible”,“activatable”の3つの類に分類した(非特許文献16)。この分類は、レポータージーンの特性による分類である。まず、“basic”と“inducible”の違いは、レポーターの発現がプロモーターによって制御され尚且つ発現量の違いがあるかないかによる違いである。後で詳述する生物発光酵素をつけた抗体はBasicに該当し、bioluminescence resonance energy transfer(BRET)法やツーハイブリットアッセイは“inducible”の類に属する。一方、“activatable”の類に属するレポータージーンプローブは、レポーター自体がリガンド刺激に能動的に反応して発光することを特徴とする。後で詳述するprotein complentation assay(PCA),protein splicing assay(PSA)や一分子型生物発光プローブ、発光カプセルなどは、“activatable”の類に属する。
これらの生物発光酵素を「レポーター」とするバイオアッセイ(以下、単に「レポーター分析法」ともいう。)のうち発光プローブについては、前述した新規発光酵素を基盤に様々な発光プローブの開発が活発に行われてきた。本発明者らは、従来から独自の分子設計技術を利用した生物発光イメージングに関する研究開発を行っている。具体的には、転写因子の核内移行や細胞質内非ゲノム的な蛋白質−蛋白質間相互作用を、蛋白質スプライシング法を用いて計測する手法を開発し(非特許文献7,8)、一つの分子内に、信号認識と生物発光に必要なすべての要素を集積した形態の一分子型生物発光プローブを開発した(非特許文献4,6)。その後、このプローブをマルチカラー化し、複数の信号伝達過程を同時にイメージングできるように発展させた(非特許文献12)。さらに、生物発光プローブそのもののリガンド感受性を高める手法として、円順列置換(非特許文献9)や低分子量の発光酵素を用いた分子設計技術(非特許文献12)を開発した。これらの研究は、いずれも細胞・非細胞系における分子現象を効率よく計測する手段として使われてきた。
細胞内及び細胞外の分子現象を探索する主な方法で、発光イメージング以上に広く使用されている方法として、蛍光イメージングがある。しかし、蛍光蛋白質は、自家蛍光(autoluminescence)のためバックグラウンドが高く、外部光源を必要とし、蛍光顕微鏡のような大きな装置と精密なフィルターシステムを必要とする。また蛍光発色団が成熟するまでに短くても数時間から数日がかかる問題点があった。また蛍光顕微鏡を使う場合、一回に観察できる細胞数に限界があり、定量性に問題があった(非特許文献8)。
これに対して、生物発光酵素を用いる発光イメージングの場合、多くの長所にも関らず、蛍光イメージングに比べて使用されにくい最大の原因は、生物発光酵素の低輝度にあった。生物発光酵素が低輝度であるために、高感度の計測装置を必要とし、単一細胞イメージングや細胞小器官の探索などには不向きであるとされていた。
また、蛍光蛋白質については、多色蛍光蛋白質の研究が十分進んでおり、その発色原理に関する知見が多く得られているため、これらの研究成果を利用して多様な蛍光特質を持つ蛍光蛋白質が多く開発されているのに対して、生物発光酵素については、多様な色の生物発光を示す酵素そのものの数が乏しい。発光の多色化の利点として、(i)マルチ信号の同時計測、(ii)長波長発光の生体組織透過性のよさが取り上げられるにもかかわらず、今まで生物発光酵素に関しては、その発光原理に基づいた体系的な多色化研究がほとんどなされてこなかった。
これらのことから、高性能生物発光酵素の新規樹立、高輝度化及び発光強度の安定化、耐熱性、耐塩性が強く望まれていた。また、同時に発光色を長波長側へシフトさせるための体系的な研究も急務の課題であった。
米国特許第8124424号明細書 米国特許第8043827号明細書 米国公開番号US-2009-0269781(A1) 国際公開WO2008/084869(国際出願番号PCT/JP2008/050370)
Hall,M. P.,Unch,J.,Binkowski,B. F.,et al. ACS Chem. Biol. 7 2012 1848. Herring,P. J.,Latz,M. I.,Bannister,N. J.,et al. Marine Ecology-Progress Series,94 1993 297. Kim,S. B. Protein Engineering Design & Selection,25 2012 261. Kim,S. B.,Awais,M.,Sato,M.,et al. Anal. Chem.,79 2007 1874. Kim,S. B.,Kanno,A.,Ozawa,T.,et al. ACS Chem. Biol.,2 2007 484. Kim,S. B.,Otani,Y.,Umezawa,Y.,et al. Anal. Chem.,79 2007 4820. Kim,S. B.,Ozawa,T.,Umezawa,Y. Anal. Chem.,77 2005 6588. Kim,S. B.,Ozawa,T.,Watanabe,S.,et al. Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A.,101 2004 11542. Kim,S. B.,Sato,M.,Tao,H. Bioconjugate Chem.,19 2008 2480. Kim,S. B.,Sato,M.,Tao,H. Anal. Chem.,81 2009 67. Kim,S. B.,Suzuki,H.,Sato,M.,et al. Anal. Chem.,83 2011 8732. Kim,S. B.,Umezawa,Y.,Kanno,K. A.,et al. ACS Chem. Biol.,3 2008 359. Lehmann,M.,Loch,C.,Middendorf,A.,et al. Protein Eng.,15 2002 403. Loening,A. M.,Wu,A. M.,Gambhir,S. S. Nat. Methods,4 2007 641. Markova,S. V.,Golz,S.,Frank,L. A.,et al. J. Biol. Chem.,279 2004 3212. Niu,G.,Chen,X. Y. Theranostics,2 2012 413. Okita,K.,Ichisaka,T.,Yamanaka,S. Nature,448 2007 313. Papworth,C.,Bauer,J. C.,Braman,J.,et al. Strategies,9 1996 3. Takenaka,Y.,Masuda,H.,Yamaguchi,A.,et al. Gene,425 2008 28. Takenaka,Y.,Yamaguchi,A.,Tsuruoka,N.,et al. Molecular Biology and Evolution,29 2012 1669. Verhaegent,M.,Christopoulos,T. K. Anal. Chem.,74 2002 4378.
本発明は、多数の生物発光酵素のアミノ酸配列のアミノ酸類似性に基づく整列と頻度の高いアミノ酸配列を抽出することによって、高輝度で安定的でありながら長波長発光する新規人工生物発光酵素(ALuc)を提供することを主な目的とする。また、当該ALucを用いた各種「レポーター分析法」の確立も目的とする。
本発明者らは、新規人工生物発光酵素(ALuc)を提供するために、海洋動物由来の生物発光酵素に注目した。
生物発光酵素全体の中で海洋動物由来の生物発光酵素に限ってみれば、配列の類似性が比較的に高く、同じ又は類似基質(coelenterazine)で発光する共通点を持つ。本研究者らは、以前親水性領域検索(hydrophilicity search)による変異部位(mutation region)特定法を見出した(非特許文献11)が、当該手法は、(1)大まかな変異部位を推定する方法に過ぎず、精度の高い変異箇所を特定するには不向きであった。また、(2)親水性領域検索によって、複数の親水性領域がみられるものであるため、果たしてどの領域が変異を導入すべき領域かに関する見解も示されなかった。そして、(3)この研究を踏まえて、点変異法(point mutation)を適用し、高輝度の新規発光酵素を開発したが、これら新規酵素には、基質の消費(turn-over rateともいう)が激しい欠点があり、発光プローブなどに応用した場合には、輝度の面においても2から5倍程度の改善に過ぎなかったため、依然としてバイオアッセイへの応用のための輝度問題を解決できなかった。(4)また、反応バッファーの成分によって発光特性が大きく変わる問題点もあった。例えば、Promega製の反応バッファーでは輝度の増加が見られても、New England Biolabs(NEB)製の反応バッファーや培地などではそれほどの輝度や安定性の増加が見られなかった。
また上記新規酵素開発の際に主なる改変手段として用いた点変異法(point mutation)は極めて時間と労働力を消費する手法であった。例えば、200個のアミノ酸(amino acid;AA)配列で構成されている発光酵素の場合、1つの変異が当たる確率は1/4000に過ぎない(200個AA×20種類のAA)。このような非効率性を打開するための格段の発想の転換も求められていた。
そこで本発明者は前記の研究背景に拘らず、各海洋動物発光酵素における従来からの知見を精査することで、全く新しい人工生物発光酵素の樹立が可能であると着想した。その方法は以下の4つに要約できる:
(1)まず公的データベース(NCBI)上の多年間蓄積された海洋生物発光酵素に関するアミノ酸配列は、長年進化の過程で勝ち残った賜物である考え方を下に以下の作業を行った。まずNCBI上の海洋生物発光酵素配列を、類似したアミノ酸を中心に整列し、その整列から独自の思想で頻度の高いアミノ酸を抽出した。このことによって、従来に全く存在しなかった新しい人工生物発光酵素(ALuc)配列を多数作り上げた。以前からアミノ酸整列を行った報告は多数存在するものの、このような従来におけるアミノ酸整列の目的は、変異箇所の探索であった。このため、当該手法はconsensus sequence-driven mutagenesis strategyと呼ばれてきた(非特許文献13)。一方、本発明者らは、このアミノ酸配列の整列を独自に解釈し詳細に検討した。その結果、アミノ酸配列の整列によって従来になかった人工発光酵素のアミノ酸配列群を樹立できるのではないか、という独自の発想に思い至った。
(2)更に以下の工夫を行った。まず、本発明者らは以前に1つの生物発光酵素の酵素活性部位が2つ存在するという見解を示したことがあり、その証しとして2つのドメインを重ねて整列させたことがあった(非特許文献3)。本発明者らは、この考え方を更に発展させて、一つのアミノ酸配列を2つに分けて単純に整列するだけでなく、人工発光酵素のアミノ酸配列の新規樹立の際に利用する方向で発想の転換を行った。まずNCBIから得た発光カイアシ由来の全ての生物発光酵素のアミノ酸配列を、任意の位置で2つに分けた。前と後ろのドメインを重ねて整列させた後、アミノ酸配列の中で互いに対応するアミノ酸を比較し、類似性を高める方向でアミノ酸配列を決定した。このやり方で、新規人工発光酵素になりうる多数のアミノ酸配列を決定した。
(3)また、前記人工発光酵素のアミノ酸配列を決定する際、配列の一定間隔に制限酵素サイトを導入するために意図的に配列間類似性の原則にあわないアミノ酸をいれ、今後の遺伝子組み替えをしやすいように工夫した。
(4)人工的に作り上げたN末側の配列特性をPSORTIIで調べることによって、in silicoで局在化予測ができる。このような配列の挙動を予測する公的ソフトを利用することによって配列が有効に作動する確率を向上させた。
このような人工生物発光酵素の新規合成によって従来にない高輝度、長波長側へのシフト及び発光安定性、耐熱性、耐塩性を持つ新種の樹立を目指した。
具体的には、NCBIや文献などに公表されたプランクトン由来の発光酵素のアミノ酸配列を、アミノ酸類似性に基づいて整列し共通のアミノ酸を中心に一連の新規アミノ酸配列を決定した(実施例1−1)。この配列に基づいて、遺伝子コドンをマウス由来の動物培養細胞に発現しやすくするために、マウス遺伝子によくみられるコドンに当てはめて人工遺伝子の合成を行い、この人工遺伝子を哺乳動物細胞発現ベクター(pcDNA3.1(+))に挿入して、一連の新規発現ベクターを合成した。この一連のベクターをそれぞれアフリカミドリサル腎臓由来のCOS-7細胞に導入してその輝度、発光安定性、長波長側シフト度を調べた結果、一部の人工合成遺伝子によって極めて高輝度で、安定的であり、耐熱性を持ち、長波長側シフトした発光スペクトルを示す発光酵素を合成できることが確認できた。
合成した一連の人工生物発光酵素(ALuc)の相対的な輝度を市販の基質キットで確認し(実施例1−2)、輝度の高いALuc類についての発光安定性を発光強度の経時変化を指標に確認した(実施例1−3)。更に輝度と発光安定性のよいALuc類の耐熱性と細胞外分泌能を調べ(実施例1−4)、特に有力なALuc類についての発光スペクトルを測定し、長波長側シフトの度合いを確認した(実施例1−5)。本発明で提供できたALuc類と既存の発光酵素との類似性を比較したところ、いずれも既存の発光酵素と比べて、最大でも83%の同一性しかない全く異なる新規な人工生物発光酵素であることを確認した(実施例1−6)。
また、前記発光検証過程で得られた一連の高性能人工生物発光酵素(ALuc)をレポーター蛋白とする各種「レポーター分析法」を検討する中で、「発光カプセル」という新しい概念の生物発光可視化プローブを開発した。このプローブは普段細胞膜の内側に局在し、基質と酸素の供給が円滑であるため、他のいずれの細胞小器官に局在させるよりも高輝度発光イメージングが可能である。また細胞膜に局在することによって、外部の毒性物質に速やかに応答して発光値を変化させることができる(実施例1−7と実施例1−8)。このプローブが成功的に作動する理由としてALucそのものが本来持つ性質(小胞体を経由して細胞膜に移行させる分泌シグナル(secretion peptide;SP))を好適に活用したことによるものであった。またこのプローブは、その内部に貨物となる蛋白質(ペプチド)を挿入することができるため、どんな蛋白質(ペプチド)でも細胞膜に運ぶことが可能である。更にこの発光カプセル遺伝子を導入した形質変換細胞を用いて化学物質毒性評価を行うために、新規発光デバイスを試作した(実施例1−11)。このデバイスは分光フィルター、マイクロスライドホルダー、ミラーキャップ、光電子増倍管(photomultiplier tube;PMT)などを備えているものであり、新規合成遺伝子(ALuc)を導入した形質変換細胞を化学物質に暴露し、その際に発する光をこのデバイスを用いて測定することにより、効率よく毒性評価ができた(実施例1−11、実施例1−12、実施例1−13)。
次いで、前記新規合成発光酵素(ALuc)をレポーター蛋白として、真核細胞ツーハイブリッド・アッセイ(mammalian two-hybrid assay)システムに搭載することによって、従来のものより高輝度で高安定性の新規バイオアッセイ系を構築することができた(実施例1−9)。
更に前記人工生物発光酵素(ALuc)をレポーター蛋白とする「レポーター分析法」のうちで「一分子型生物発光プローブ」に適用した。このプローブでは、(非特許文献9)の方法に従い、ALuc遺伝子を2分割し円順列置換でN末とC末断片を前後させ、その外側にストレスホルモン受容体とLXXLLモチーフを繋げた。このプローブは、ストレスホルモン(cortisol)有り無しの条件で高いシグナル対ノイズ(S/N)比を示した(実施例1−10)。また、このプローブからストレスホルモンを測定する際に、前記発光デバイスと併用することによって、輝度の増加、標準エラー率の減少などの効果が得られた(実施例1−14)。
このように、本発明のALucは様々な「レポーター分析法」において、高輝度かつ安定なレポーター蛋白質として、極めて優れていることが実証できた。
以上の知見を得たことで、本発明を完成することができた。
すなわち、本発明は、具体的には以下の態様を包含する。
〔1〕 下記の(i)又は(ii)に記載のアミノ酸配列を含み、かつカイアシ類ルシフェラーゼ活性を有するポリペプチド;
(i)配列番号38に示されたアミノ酸配列、又は、
(ii)配列番号38に示されたアミノ酸配列のうち、1-31位、又は217-221位の少なくともいずれかの領域において、1個以上のアミノ酸が欠損しているアミノ酸配列。
〔1−1〕 下記の(i)又は(ii)に記載のアミノ酸配列を含み、かつカイアシ類ルシフェラーゼ活性を有するポリペプチド;
(i)配列番号37に示されたアミノ酸配列、又は、
(ii)配列番号37に示されたアミノ酸配列のうち、1-29位、又は217-221位の少なくともいずれかの領域において、1個以上のアミノ酸が欠損しているアミノ酸配列。
〔2〕 下記の(iii)〜(v)のいずれかに記載のアミノ酸配列を含む、前記〔1〕又は〔1−1〕に記載のポリペプチド;
(iii)配列番号11〜17または24〜36のいずれかに示されたアミノ酸配列、
(iv)配列番号11〜17または24〜36のいずれかに示されたアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は付加されたアミノ酸配列、
なお、ここで数個とは、1〜20個、好ましくは1〜10個、より好ましくは1〜5個を表す。
(v)配列番号11〜17または24〜36のいずれかに示されたアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列。
〔3〕 下記の(vi)又は(vii)のに記載のアミノ酸配列を含む、前記〔1〕又は〔1−1〕に記載のポリペプチド;
(vi)配列番号22に示されたアミノ酸配列、又は、
(vii)配列番号22に示されたアミノ酸配列のうち、1-29位、又は211-215位の少なくともいずれかの領域において、1個以上のアミノ酸が欠損しているアミノ酸配列。
〔4〕 配列番号38に示されたアミノ酸配列のうち1-71位の領域が、配列番号39に示すアミノ酸配列である、前記〔1〕に記載のポリペプチド。
〔4−1〕 配列番号37に示されたアミノ酸配列のうち1-69位の領域が、配列番号39に示すアミノ酸配列である、前記〔1−1〕に記載のポリペプチド。
〔5〕 配列番号38に示されたアミノ酸配列のうち1-157位の領域が、配列番号40に示すアミノ酸配列である、前記〔1〕に記載のポリペプチド。
〔5−1〕 配列番号37に示されたアミノ酸配列のうち1-155位の領域が、配列番号40に示すアミノ酸配列である、前記〔1−1〕に記載のポリペプチド。
〔6〕 配列番号38に示されたアミノ酸配列のうち20-31位の領域が抗体認識部位である、前記〔1〕に記載のポリペプチド。
〔6−1〕 配列番号37に示されたアミノ酸配列のうち20-29位の領域が抗体認識部位である、前記〔1−1〕に記載のポリペプチド。
〔7〕前記〔1〕〜〔6−1〕のいずれか1項に記載のポリペプチドをコードする核酸。
〔8〕前記〔7〕に記載の核酸が発現可能に挿入された発現ベクター。
〔9〕 前記〔7〕に記載の核酸が発現可能に導入された形質転換細胞。
〔10〕 前記〔1〕〜〔6−1〕のいずれか1項に記載のポリペプチドからなることを特徴とするレポーター蛋白質であって、レポーター分析法に用いるためのレポーター蛋白質。
〔11〕 前記〔10〕に記載のレポーター蛋白質と共に、標的蛋白質又は標的蛋白質を認識するペプチドを含む融合蛋白質を含む発光性融合蛋白質。
〔12〕 レポーター蛋白質のC末端側には膜局在シグナル(MLS)が結合されており、標的ポリペプチドが両者の間に貨物として挿入されていることを特徴とする、前記〔11〕に記載の発光性融合蛋白質。
〔13〕 前記挿入された標的ポリペプチドが、蛍光蛋白質又はルシフェラーゼであることを特徴とする、前記〔12〕に記載の発光性融合蛋白質。
〔14〕 前記挿入された標的ポリペプチドが、細胞膜の形態を変化させるポリペプチド又は当該ポリペプチドが認識するアミノ酸配列を含むポリペプチドであることを特徴とする、前記〔12〕に記載の発光性融合蛋白質。
〔15〕 前記〔11〕〜〔14〕のいずれか1項に記載の発光性融合蛋白質をコードするレポーター遺伝子を含む発現ベクター。
〔16〕 前記〔15〕記載の発現ベクターが導入された形質転換細胞。
〔17〕 前記〔16〕に記載の形質転換細胞を用いることを特徴とする、外部刺激に応じた細胞内での標的遺伝子の発現の位置、発現時期又は発現量を解析するためのレポーター分析法。
〔18〕 前記分析法が、レポータージーンアッセイ法又はツーハイブリットアッセイ法である、前記〔17〕に記載の分析法。
〔19〕 リガンド結合性の蛋白質のリガンド活性を測定するための生物発光プローブであって、
N末端側及びC末端側に2分割された前記〔10〕に記載のレポーター蛋白質と共に、リガンド結合性の標的蛋白質及び標的蛋白質にリガンドが結合した場合の立体構造変化を認識するポリペプチドを含む融合蛋白質からなる生物発光プローブ。
〔20〕 リガンド結合性の蛋白質のリガンド活性を測定するための発現ベクターであって、前記〔19〕に記載の生物発光プローブをコードする核酸が、当該核酸を細胞内で発現可能とする制御配列の制御下にあることを特徴とする、発現ベクター。
〔21〕 前記〔20〕に記載の発現ベクターが導入された形質転換細胞。
〔22〕 前記形質転換細胞が、幹細胞である前記〔16〕に記載の形質転換細胞。
〔23〕 前記〔20〕に記載の発現ベクターを用いることを特徴とする、被検細胞内におけるリガンド結合性の蛋白質のリガンド活性の検出方法。
〔24〕 前記〔20〕に記載の発現ベクターを用いて被検細胞内におけるリガンド結合性の蛋白質のリガンド活性を観察することを特徴とする、生物発光イメージング法。
本発明においては、広く知られている海洋動物由来の多数の発光酵素配列から新たな人工生物発光酵素配列を抽出する方法により一連の新規人工生物発光酵素(ALuc)群を樹立した。この中で一部の酵素群は、超高輝度で長波長側シフトしながら耐熱性に優れ、安定的に発光するものであった。
公的データベース(NCBI)から入手した生物発光酵素のアミノ酸配列を先頭部、前半部、後半部に分けて、前半部と後半部をアミノ酸類似性に基づいて整列することによって類似性を高める方向への新規人工生物発光酵素アミノ酸配列の決定。点線ボクスは、この新規人工生物発光酵素の鋳型を示す。下部に酵素活性部位が2回反復される。矢印は相同性を高める方向でアミノ酸を選択したことを示す。 本人工生物発光酵素のN末端(先頭部)の決定。公的アミノ酸配列予測ソフト(SORTII)と従来発光酵素の配列を基に新規配列を構成するアミノ酸候補を選択した。 本人工生物発光酵素のC末端(先頭部)の決定。 本発明の人工生物発光酵素の配列の一例。図中、“x”はどのアミノ酸でも良いことを意味する。小文字の“y”は疎水性アミノ酸であることを意味する。“z”は親水性アミノ酸であることを意味する。 本発明の人工生物発光酵素の配列の一例。「ALucCM」は配列番号37に示されたアミノ酸配列を示す。図中、“x”はどのアミノ酸でも良いことを意味する(ブランク(空欄)でも良い)。“o”は疎水性のアミノ酸であること、“j”は親水性のアミノ酸であること、“.”は低分子量脂肪族のアミノ酸であること、“@”は高分子量脂肪族アミノ酸であること、“+”は正電荷を有するアミノ酸であること、“-”は負電荷を有するアミノ酸であることをそれぞれ意味する。 本発明の人工生物発光酵素の配列の一例。「ALucCM」は配列番号38に示されたアミノ酸配列を示す。図中、“x”はどのアミノ酸でも良いことを意味する(ブランク(空欄)でも良い)。“o”は疎水性のアミノ酸であること、“j”は親水性のアミノ酸であること、“.”は低分子量脂肪族のアミノ酸であること、“@”は高分子量脂肪族アミノ酸であること、“+”は正電荷を有するアミノ酸であること、“-”は負電荷を有するアミノ酸であることをそれぞれ意味する。 人工生物発光酵素(ALuc)の発光輝度の比較。96ウェル上の発光輝度を従来のイメージ分析器(LAS-4000;FujiFilm)で測定した。発光輝度を赤(高輝度)から青(低輝度)までの擬似色で表示した。黄色はその中間輝度を示す。GLuc,MpLuc4,RLuc8.6-535は何れも従来の最高輝度生物発光として評価されてきた発光酵素である。 本人工生物発光酵素(ALuc)の発光安定性の比較。(A)基質導入後、発光輝度の経時変化。ALuc15とALuc16の場合、基質導入後25分経過時点でも最初より6割の発光輝度を維持した。右の挿入図はその発光イメージを示す。(B)それぞれの人工生物発光酵素(ALuc)の基質導入後0分(黒バー)と6分(灰色バー)時点での発光輝度の比較。ALuc24は、発光安定性は優れている反面、発光輝度はやや弱かった。ALuc22の場合、6分後には最初より約半分の発光輝度を示した。(C)それぞれの人工生物発光酵素(ALuc)の基質導入後0分(黒バー)と20分(灰色バー)時点での発光輝度の比較。 本人工生物発光酵素(ALuc)の耐熱性および細胞外分泌度比較。(A)80度で10分間加熱後の生物発光酵素の輝度比較。ALuc22は著しい輝度の低下が見られた。右の挿入図は加熱前後の発光イメージを示す。(B)培地に分泌された発光酵素量の比較。ALuc16は、他の人工生物発光酵素に比べて細胞外分泌量が多かった。(C)培地に分泌された発光酵素量の比較。ALuc16とALuc23は、他の人工生物発光酵素に比べて細胞外分泌量が多かった。 本人工生物発光酵素類の生物発光スペクトルの比較。(A)ALuc2からALuc16までの人工生物発光酵素の発光スペクトル。(B)ALuc16からALuc24までの人工生物発光酵素の発光スペクトル。従来の生物発光酵素に比べて極めて明るく長波長側シフトした発光スペクトルを示した。 既存の発光生物由来の発光酵素のアミノ酸配列と新規人工生物発光酵素(ALuc)のアミノ酸配列との相同性、類似性の比較。(A)CLUSTALW 2.1を用いた両者間の配列相同性の比較。(B)NCBI Blastを基にした両者間の配列類似性の比較。両方の調べで何れもMpLuc1と83%と72%の最大類似性を示した。他にMoLuc1とは74%の類似性を示しその次を占めた。 本人工生物発光酵素(ALuc)を骨格とした“発光カプセル”プローブの構築。(A)本発光カプセルの分子構造。 細胞外分泌シグナル(SP)、ALuc本体、適当な貨物蛋白質(ペプチド)、膜局在化シグナルで構成されている。(B)一般化した発光カプセルの分子構造。どのような貨物蛋白質でも挿入できるように設計されている。(C)本発光カプセルの発光安定性の比較。(D)ALuc16を搭載した発光カプセルの発光反応速度の比較。膜局在の場合、より高反応速度を示した。(E)STS刺激有り無しの条件での発光カプセルの発光反応速度。(F)Microplate readerによる発光カプセルの発光安定性の比較。 STS刺激前後における細胞映像の比較。(A)本発光カプセルの分子構造。(B)STS刺激前後における本発光カプセルの作動原理。(C)STS刺激前に比べて、STS刺激後の発光映像の比較。STS刺激後細胞質全体が光っていることから、発光カプセルの分解が起こったことを示す。 本人工生物発光酵素(ALuc)を発光レポーターとした哺乳動物ツーハイブリットアッセイシステムの構築。(A)前記ツーハイブリットアッセイシステムを構成するプラスミドの内訳。(B)各レポーターの違いによる発光輝度の比較。ALuc16をレポーターとして搭載した場合、同一条件で最も高輝度を示した。 本発明の発光測定デバイスを用いて測定した実施例1−10を説明する図。一分子型生物発光プローブと本発明の発光測定デバイスを用いたストレスホルモン活性の可視化イメージング。(A)本実施例で用いた生物発光プローブの遺伝子構造(上段)と作動原理(下段)。ストレスホルモン(cortisol)有りの条件で分子構造が折り畳まれて発光する。(B)人工生物発光酵素(ALuc)の切断位置によるS/N比の比較。cSimgr8の場合はS/N比がよい反面、絶対値発光強度が低かった。一方、cSimgr13の場合、S/N比はやや落ちるが、絶対値発光強度が高かった。 本発明の発光測定デバイスを用いて測定した実施例1−11を説明する図。(A)は本発光デバイスを従来のルミノメーターに装着した写真。下の入れ図は本実験で使われた分子プローブの構造を表す。(B)は毒性評価の概念図。毒性物質によってプローブの分解が起こり一時的に発光値が増加する。(C)は本発光測定デバイスで測定した化学物質の毒性評価。化学物質の「毒性」によって発光値の増加が認められた。SPは分泌シグナル(secretion peptide)を示す。ALucは本発明者の人工生物発光遺伝子(Artificial luciferase)を示す。MLSは細胞膜局在化シグナル(membrane localization signal)を意味する。(D)本研究のために作られた生物発光高精度計測デバイス。マイクロスライド(microslide)を中心にミラーキャップ、光学フィルター、スライドホルダーなどで構成されており、発光信号を効率よく集光できるように設計している。 本発明の発光測定デバイスを用いて発光スペクトルの測定による化学物質の有害性評価を示す実施例1−12の説明図。(A)本測定デバイスを従来のスペクトルメーターに装着した写真。下図は本実験で使われた分子プローブの構造を表す。(B)実際の測定結果を示すスペクトル。 本発明の発光測定デバイスを用いて測定した実施例1−13を説明する図。(A)本発明の生物発光高精度計測デバイスの集光原理。(B)は本細胞毒性検出プローブの作動原理。毒性物質(例、STS)によって生細胞内caspase-3の活性が上がりDEVD配列を切断する。右図はSTSに応答した発光イメージング。STS無しに比べて有りの条件でより強い生物発光が観察できた。 発光測定デバイスを用いたストレスホルモンの測定。(A)本実施例で用いた生物発光プローブの遺伝子構造(上段)と作動原理(下段)。ストレスホルモン(cortisol)有りの条件で分子構造が折り畳まれて発光する。(B)ミラーキャップありなしの条件で発光集光能の比較。ミラーキャップを付けた方がより強い発光値を示したことから、ミラーキャップの良さを示している。(C)同じサンプルに対して、発光デバイス有り無しでの標準偏差(SD)の比較。同じサンプルであっても発光デバイス有りの方が1/3以下の少ない標準偏差(SD)を示したことから、発光デバイスによる精度の増加を示している。(D)本マイクロスライドの発光イメージ。ストレスホルモン有り(右3チャンネル)の場合により強く発光した。 ALuc16付のscFv抗体(scFv-ALuc16)と西洋ワサビペルオキシダーゼ(horseradish peroxidase;HRP)付き抗マウス抗体(GE Healthcare)との発光輝度比較実験。(A)scFv-ALuc16の分子構造。(B)LAS-4000で測定した発光強度のイメージ図。(C)両者間の発光輝度の経時変化。(D)標準化した両者間の発光輝度の経時変化。 ALuc16付のscFv抗体(scFv-ALuc16)と西洋ワサビペルオキシダーゼ(horseradish peroxidase;HRP)付き抗マウス抗体(GE Healthcare)との発光スペクトルの比較実験。(A)scFv-ALuc16の分子構造。(B)LAS-4000で測定した発光強度のイメージ図。(C)両者発光スペクトルの絶対値の比較。(D)標準化した両者発光スペクトル。 胚性幹細胞(ES細胞)に安定発現するcSimgr13 (一分子型生物発光プローブ;single-chain probe)を用いたストレスホルモン活性の可視化。左の2チャンネルに比べて、ストレスホルモン刺激を行った右2チャンネルの生物発光強度がより強かった。 機能性人工生物発光酵素の樹立。(A)新規生物発光酵素(ALuc30)の分子構造。配列の中にHisタグの配列(抗原認識部位)があり、培地に分泌された後、カラム精製や抗体で可視化することができる。 機能性人工生物発光酵素の樹立。(B)前記機能性生物発光酵素の作動メカニズム。レポーターとしてALucが発現されたときに、分泌され、他の手法で確認できることを描写している。 機能性人工生物発光酵素の樹立。(C)機能性人工生物発光酵素の相対的な輝度の比較。ALuc25, ALuc30, ALuc31が相対的に高輝度を示す。 ALuc25から29までの生物発光スペクトルを示す。 タグを内包する人工生物発光酵素のウェスタンブロットによる発現の確認とカラム精製による機能確認。各人工生物発光酵素は、細胞からそれぞれ培地側に分泌される。各々の培地をNi-NTA アフィニティカラムで精製した場合、Hisタグを含有するALuc30が選択的に抽出されることが分かった。挿入図は、専用の抗体を用いたウェスタンブロットの結果である。それぞれの培地内に各々の人工生物発光酵素(ALuc30, ALuc33, ALuc34)が分泌され、タグとして機能したことを意味する。 人工生物発光酵素(ALuc)活性の長時間安定性。(A)細胞培地に分泌されたALucの発光活性安定性。25日後に測定したところ、ALuc16の場合は当初の2割まで活性が落ちる反面、ALuc30やALuc25は当初の5-6割まで活性を維持できることが分かった。(B)長期保存(25日)したALuc活性の経時変化。ALuc23とALuc30は、セレンテラジン点滴後の12分頃に最大発光値を示した。ALuc24は6分後に急激な発光値の現象が観察された。 当該人工生物発光酵素を用いた生細胞イメージングと発光プロファイル。(A)マイクロスライド上に培養したCOS-7細胞の発光イメージ。ALuc(A16)を発現する生細胞のみに強い発光画像が観測できた。(B)マイクロスライド上に培養したCOS-7細胞ライセットの発光イメージ(左)と発光プロファイル(右)。 さらなる機能性人工生物発光酵素(ALuc30-34)の樹立。機能性アミノ酸配列(抗原認識部位(epitope)やアフィニティカラム認識配列)を含有する一連の人工生物発光酵素の樹立と相対的な発光輝度の比較。(A)各機能性アミノ酸配列を馴染み込ませる最適位置の検索。(B)本研究で樹立された発光酵素の相対的な発光輝度。分泌された後の発光輝度をそれぞれPromega製アッセイキットで比較した。 新規機能性人工生物発光酵素の発光反応特性。前記実施例(図21)で樹立された機能性人工生物発光酵素の発光反応特性を比較した。その結果、ALuc33やALuc34などが比較的に強い発光輝度を示し、また、基質導入後徐々に発光輝度が増加し6-12分の間に最高輝度に達することが分かった。
1.本発明の人工ルシフェラーゼ(ALuc)群について
(1−1)カイアシ類ルシフェラーゼについて:
発光性の海洋動物としては、Metridia okhotensis、Pleuromamma abdominalis、Lucicutia ovaliformis、Heterorhabdus tanneri、Heterostylites major、Gaussia princeps、Renilla reniformis(ウミシイタケ)、Metridia pacifica、Lucicutia grandis、Lucicutia bicormuta、Pleuromamma xiphias、Pleuromamma scutullata、Haloptilus pseudooxycephalus、Candacia longimana、Candacia columbiae、Candacia bipinnata、Calanus jashnovi、Neocalanus cristatus、Neocalanus flemingeri、Neocalanus plumchrus、Scaphocalanus magnus、Spinocalanus spinipes、Euchaeta marina、Undeuchaeta plumose、Undeuchaeta major、Xanthocalanus kurilensis、Scaphocalanus magnus Gaidius variabilis、Euchirella amoena、Cypridina (ウミホタル;CLuc)、オベリン(Obelin)、アクアリン(aqualine)、Oplophorus由来の海洋生物が生物発光酵素(ルシフェラーゼ)を産生していることが知られている。
本発明において、「カイアシ類ルシフェラーゼ」というとき、これら「発光性の海洋動物」のうち、カイアシ類と呼ばれる発光性プランクトンとして生活する微小な甲殻類が産生する発光酵素(ルシフェラーゼ)を指す。具体的には、MoLuc1、MoLuc2、PaLuc1、PaLuc2、LoLuc、HtLuc1、HtLuc2、HmLuc1、HmLuc2、ガウシアルシフェラーゼ(GLuc)、ウミシイタケルシフェラーゼ(RLuc)、カイアシルシフェラーゼ(MLuc、MpLuc1、MpLuc2)、ウミホタルルシフェラーゼ(CLuc)などが含まれる。「カイアシ類ルシフェラーゼ」は、基質特異性としては、「セレンテラジン」を特異的に酸化させる。一般的に深海環境、即ち、至適pH約7.5〜8、至適温度約4〜10℃で発光反応を触媒する酵素的特性を有しているが、この範囲に以外の条件でも広く発光を触媒する。以下、本発明で「カイアシ類ルシフェラーゼ」というとき、既知のカイアシ類に由来するルシフェラーゼと共通した酵素活性上及び構造上の特徴を有するルシフェラーゼをいう。具体的には、至適pH約5〜8、至適温度約4〜25℃を有し、「セレンテラジン」を基質として発光反応を触媒する酵素活性を有するルシフェラーゼであって、構造的には2つの酵素活性ドメインを有し、N末端に分泌シグナルを有し、分子量が20kD程度(18kD−28kD)で他の発光酵素と比較して最も小さい分子量を有するルシフェラーゼであることを意味する。「カイアシ類ルシフェラーゼ」間では、アミノ酸配列上の相同性も約50%以上有り、親水性・疎水性パターンや酵素活性領域の位置などアミノ酸配列上の構成も類似しており、他の海洋生物由来のルシフェラーゼと比較すれば、発光強度の高いルシフェラーゼであるといえる。
本明細書において、「セレンテラジン」とは、天然型のセレンテラジン(Native CTZ)に限定されるものではなく、天然型のセレンテラジンの各種誘導体も包含する。すなわち、「セレンテラジン」は、「セレンテラジン類」と換言することもできる。セレンテラジンの具体例として、天然型のセレンテラジン(Native CTZ)、セレンテラジンip(CTZ ip)、セレンテラジンi(CTZ i)、セレンテラジンhcp(CTZ hcp)、セレンテラジン400A(CTZ 400A)、セレンテラジンfcp(CTZ fcp)、セレンテラジンcp(CTZ cp)、セレンテラジンf(CTZ f)、セレンテラジンh(CTZ h)、セレンテラジンn(CTZ n)などが例示される。
(1−2)本発明の人工ルシフェラーゼ(ALuc)群について
本発明の新規な人工ルシフェラーゼ(ALuc)は、これらの「カイアシ類ルシフェラーゼ」群のアミノ酸配列をもとに創製されているので、前記基質特異性や至適pHなど「カイアシ類ルシフェラーゼ」の基本的な酵素としての特性は保持しており、さらに発光強度、長波長の発光、発光の安定性などの発光特性において、顕著に優れた特性を獲得した画期的な人工ルシフェラーゼである。
本発明における典型的な人工ルシフェラーゼ(ALuc)は、ALuc10(配列番号11),ALuc15(配列番号12),ALuc16(配列番号13),ALuc17(配列番号24),ALuc18(配列番号14),ALuc19(配列番号25),ALuc21(配列番号26),ALuc22(配列番号15),ALuc23(配列番号16),Luc24(配列番号27),ALuc25(配列番号17),ALuc26(配列番号28),ALuc27(配列番号29,ALuc28(配列番号30),ALuc29(配列番号31),ALuc30(配列番号32),ALuc31(配列番号33),ALuc32(配列番号34),ALuc33(配列番号35)及びALuc34(配列番号36)である。本発明の人工ルシフェラーゼ(ALuc)は、以下の(i)〜(iii)のいずれかに記載のアミノ酸配列を含み、カイアシルシフェラーゼ活性を有するポリペプチドである、と表現することができる。
(i)配列番号11〜17または24〜36のいずれかに示されたアミノ酸配列、
(ii)配列番号11〜17または24〜36のいずれかに示されたアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は付加されたアミノ酸配列、
なお、ここで数個とは、1〜20個、好ましくは1〜10個、より好ましくは1〜5個を表す。
(iii)配列番号11〜17または24〜36のいずれかに示されたアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列、
ここで、例えば、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、99.5%以上の同一性を有するアミノ酸配列であればさらに好ましい。
また、本発明の人工ルシフェラーゼ(ALuc)のアミノ酸配列はいずれも図1C、図1D、図1Eで表されるような共通の基本骨格を有する。これらの基本骨格を有する限り、他の位置のアミノ酸は任意のアミノ酸であっても同等の高性能のカイアシルシフェラーゼ活性を有する。したがって、本発明の人工ルシフェラーゼ(ALuc)は、以下の(iv)〜又は(vii)に記載のアミノ酸配列を含み、カイアシルシフェラーゼ活性を有するポリペプチドである、と表現することもできる。
(iv)配列番号37に示されたアミノ酸配列、又は、
(v)配列番号37に示されたアミノ酸配列のうち、1-29位、又は214-218位の少なくともいずれかの領域において、1個以上のアミノ酸が欠損しているアミノ酸配列。
(iv)配列番号38に示されたアミノ酸配列、又は、
(v)配列番号38に示されたアミノ酸配列のうち、1-31位、又は217-221位の少なくともいずれかの領域において、1個以上のアミノ酸が欠損しているアミノ酸配列。
(vi)配列番号22に示されたアミノ酸配列、又は、
(vii)配列番号22に示されたアミノ酸配列のうち、1-29位、又は211-215位の少なくともいずれかの領域において、1個以上のアミノ酸が欠損しているアミノ酸配列。
ここで、配列番号22に示されたアミノ酸配列のうち、N末端側の1-20位までのアミノ酸は分泌シグナル(secretion peptide;SP)であり、また、C末側の211-215位のペプチドはGlycineリッチなリンカー性のペプチド(通称、GSリンカーという)であるため、いずれの領域の一部又は全部のアミノ酸が欠損しても良い。配列番号37に示されたアミノ酸配列のうち、N末端側の1-20位及びC末側の214-218位、並びに、配列番号38に示されたアミノ酸配列のうち、N末端側の1-20位及びC末側の217-221位についても同様である。分泌シグナルに関しては、例えば、カイアシ類発光酵素であるMetridia pacifica luciferase 1(MpLuc1)の場合は1-18位、pleuromamma luciferaseの場合は1-19位のアミノ酸に該当し、何れも欠損してもよいことが分かっている。
また、後述の実施例1−21等で実証されるように、配列番号22に示されたアミノ酸配列のうち20-29位(配列番号37に示されたアミノ酸配列のうち、20-29位、及び、配列番号38に示されたアミノ酸配列のうち、20-31位の領域に相当する。)を、機能性アミノ酸配列(例えば、抗原認識部位、アフィニティカラム認識部位、局在シグナルなど。)に置換しても、人工発行酵素の機能は著しく阻害されない。従って、当該領域の一部又は全部のアミノ酸が欠損しても良い。
配列番号22、配列番号37及び配列番号38に示されたアミノ酸配列のうち、Xaaで表されるアミノ酸について、以下に詳細に説明する。
配列番号37中のXaaで表されるアミノ酸のうち、3,20-27,29,30,33,35,62-64,67,74,75,83,84,87,88,127,137-145,147, 156,158,185,188,199,203位のアミノ酸はどのようなアミノ酸であってもよい。このうち、74-75,137-140位は欠失していてもよい。好ましくは、3位がE又はGであり、20-27位がPTENKDDI配列(配列番号41),ATINEEDI配列(配列番号42),ATINENFE配列(配列番号43)、HHHHHHHH配列(配列番号44),EKLISEE配列(配列番号45),MMYPYDVP配列(配列番号46)又はMMDYKDDD配列(配列番号47)であり、29位がI,L,Y又はKであり、30位がV,D又はAであり、33位がE,G又はAであり、35位がK,S又はGであり、62-64位がANS配列又はDAN配列であり、67位がD又はGであり、75-76位がGG配列若しくはK(1残基欠失)であるか又は欠失していてもよく、83-84位がLE,KA又はKE配列であり、87-88位がKE配列,IE配列,LE配列又はKI配列であり、127位がE,G又はAであり、137-145位がIGEA配列(4残基欠失、配列番号48),IVGA配列(4残基欠失、配列番号49),ITEEE配列(3残基欠失、配列番号50)又はIGGPIVD配列(配列番号51)であり、147位がD又はLであり、156位がD,E,N,F,Y又はWであり、158位がE又はLであり、185位がK,F,Y又はWであり、188位がD,A,N,F,Y又はWであり、199位がA又はKであり、203位はS,D,N,F,Y又はWである。
また、同13,16,36,148,171,215位のアミノ酸は疎水性アミノ酸(例えば、V,F,A,L。)であって、好ましくは、13位がV又はFであり、16位がV又はAであり、36位がF又はGであり、148位がI又はGであり、168位がV又はAであり、215位がA又はLである。
同5,65,73,99,117,211位は親水性アミノ酸(例えばQ,K,D,R,H,E,T。)であって、好ましくは、5位がQ又はKであり、65位がD又はRであり、73位がK,H,R又はEであり、99位がT又はHであり、117位がK,E又はQであり、211位がK又はTである。
同4,6,7,10,11,15,31,32,37-39,61,66,72,76,81,136,157,200位は、脂肪族アミノ酸である。好ましくは、4,6,7,10,11,15,32,61,76,81,157位が高分子量脂肪族アミノ酸(例えば、I,V,L,M。)であり、より好ましくは、4位がI又はVであり、6位がV又はLであり、7位がL又はIであり、10位がL又はVであり、11位がI又はLであり、15位がL又はVであり、32位がI又はVであり、61位がL又はVであり、76位がL又はMであり、81位がL又はMであり、157位がL又はMである。また、好ましくは、31,34,37-39,66,72,136,200位が低分子量脂肪族アミノ酸(例えば、A,G,T,L)であり、より好ましくは、31位がG,L又はAであり、34位がG又はIであり、37位がG,A,S又はFであり、38位がT又はFであり、39位がT又はAであり、66位がA又はGであり、72位がGであるか又は欠失していてもよく、136位がG又はAであり、200位がT又はGである。
70,71,95,108位は正電荷を有するアミノ酸(塩基性アミノ酸。例えば、K,R,H。)であり、好ましくは、70位及び71位がRであるか又は欠失していてもよく、95位がK又はRであり、108位がH又はKである。
60位及び208位は負電荷を有するアミノ酸(酸性アミノ酸。例えば、N,D,Q,E。)であり、好ましくは、60位がN又はDであり、208位がQ又はEである。
配列番号38中のXaaで表されるアミノ酸のうち、3,20-29,31,32,35,37,64-66,69,76-77,85-86,89-90,129,140-144,148-151,159,161,188,191,202,206位のアミノ酸はどのようなアミノ酸であってもよい。このうち、22-23,39-40,76-77,140,148-151位は欠失していてもよい。好ましくは、3位がE又はGであり、20-29位がPTENKDDI配列(2残基欠失、配列番号52),ATINEEDI配列(2残基欠失、配列番号53),ATINENFEDI配列(配列番号54)、HHHHHHHH配列(2残基欠失、配列番号55),EKLISEE配列(2残基欠失、配列番号56),MMYPYDVP配列(2残基欠失、配列番号57)又はMMDYKDDD配列(2残基欠失、配列番号58)であり、31位がI,L,Y又はKであり、32位がV又はAであり、35位がE又はGであり、37位がK又はSであり、64-66位がANS配列又はDAN配列であり、69位がD又はGであり、76-77位がGG配列若しくはK(1残基欠失)であるか又は欠失していてもよく、85-86位がLE,KA又はKE配列であり、89-90位がKE配列,IE配列,LE配列又はKI配列であり、129位がE,G又はAであり、140-144位がTEEET配列(配列番号59),GEAI配列(1残基欠失、配列番号60)又はVGAI配列(1残基欠失、配列番号61)であり、148-151位がGVLG配列(配列番号62)であるか又はI(3残基欠失)若しくはすべて欠失してもよく、159位がD,E,N,F,Y又はWであり、161位がE又はLであり、188位がK,F,Y又はWであり、191位がD,A,N,F,Y又はWであり、202位がA又はKであり、206位はS,D,N,F,Y又はWである。
同13,16,174,218位のアミノ酸は疎水性アミノ酸(例えば、V,F,A,L。)であって、好ましくは、13位がV又はFであり、16位がV又はAであり、174位がV又はAであり、218位がA又はLである。
同5,67,75,101,119,214位は親水性アミノ酸(例えばQ,K,D,R,H,E,T。)であって、好ましくは、5位がQ又はKであり、67位がD又はRであり、75位がK,H,R又はEであり、101位がT又はHであり、119位がK,E又はQであり、211位がK又はTである。
同4,6,7,10,11,15,33,34,39-41,63,68,77,78,83,138,160,203位は、脂肪族アミノ酸である。ただし、39,40,70位は、欠失していてもよい。好ましくは、4,6,7,10,11,15,34,63,78,83,160位が高分子量脂肪族アミノ酸(例えば、I,V,L,M。)が好ましいが、低頻度の低分子量脂肪族アミノ酸が入る場合もある。より好ましくは、4位がI又はVであり、6位がV又はLであり、7位がL又はIであり、10位がL又はVであり、11位がI又はLであり、15位がL又はVであり、34位がI又はVであり、63位がL又はVであり、78位がL又はMであり、83位がL又はMであり、160位がL又はMである。また、好ましくは、33,39-41,68,74,137,203位が低分子量脂肪族アミノ酸(例えば、A,G,T)が好ましいが、低頻度の高分子量脂肪族アミノ酸が入る場合もある。より好ましくは、33位がG,L又はAであり、39位がG若しくはAであるかか又は欠失していてもよく,S又はFであり、40位がTであるか又は欠失していてもよく、41位がT又はAであり、68位がA又はGであり、74位がGであるか又は欠失していてもよく、137位がG又はAであり、203位がT又はGである。
72,73,97,110位は正電荷を有するアミノ酸(塩基性アミノ酸。例えば、K,R,H。)である。ただし、72位及び73位は、欠失していてもよい。好ましくは、72位及び73位がRであるか又は欠失していてもよく、97位がK又はRであり、110位がH又はKである。
62位及び211位は負電荷を有するアミノ酸(酸性アミノ酸。例えば、N,D,Q,E。)であり、好ましくは、62位がN又はDであり、211位がQ又はEである。
配列番号22中のXaaで表されるアミノ酸のうち、3,22,26,27,30,33,35,37-39,62,63,67,71-75,87,127,138,140-142,155,185,197位のアミノ酸はどのようなアミノ酸であってもよく、そのうちの71−75位、140-142位のアミノ酸はその一部又は全部欠失していてもよい。親水性アミノ酸のうちで好ましい場合は、3位、22位、27位、33位、127位、140位、141位、155位はEであり、26位、30位、62位、67位、185位はDであり、35位、87位はKであり、37位はSであり、38位、39位、138位、142位、197位はTであり、63位はNであり、71位はRであり、そして73位はD又はHである。疎水性アミノ酸のうちで好ましい場合は、3位、37位、67位、72位、74位、75位、138位、197位はGであり、22位、27位、141位はIであり、30位はVであり、33位、39位、62位、63位、127位、140位、155位、185位はAであり、87位はLであり、そして26位、38位はFである。
また、同4,6,7,10,11,13,15,16,20,31,34,36,61,66,81,168位のアミノ酸は疎水性アミノ酸であって、好ましくは、4位がI又はVであり、6位がV又はLであり、7位がI又はLであり、10位がV又はLであり、11位がI又はLであり、13位がV又はFであり、15位がV又はLであり、16位がV又はAであり、20位がA又はPであり、31位がL又はGであり、34位はI又はGであり36位はF又はGであり、61位はV又はLであり、66位はA又はGであり、81位はL又はMであり、そして168位はV又はAである。
同5,24,25,60,64,65,70,95,108,153,200,208位のアミノ酸は親水性アミノ酸であって、好ましくは、5位がQ又はKであり、24位がK又はEであり、25位がD又はNであり、60位がD又はNであり、64位がN又はSであり、65位がD又はRであり、70位がK又はRであり、95位がK又はRであり、108位がK又はHであり、153位がE又はDであり200位がD又はSであり、そして208位がK,H又はTである。
配列番号22に示されたアミノ酸配列の典型例として、ALuc10,ALuc15,ALuc16,ALuc18,ALuc22,ALuc23及びALuc25挙げられる。
本発明の人工ルシフェラーゼの1つの態様においては、配列番号38に示されたアミノ酸配列のうち1-71位の領域(配列番号37に示されたアミノ酸配列のうち1-69位の領域、及び、配列番号22に示されたアミノ酸配列のうち1-69位の領域にも該当する。)として、配列番号39に示すアミノ酸配列を有する。典型例として、ALuc15,ALuc16,ALuc17,ALuc18,ALuc24が挙げられる。
本発明の人工ルシフェラーゼの別の態様においては、配列番号38に示されたアミノ酸配列のうち1-157位の領域(配列番号37に示されたアミノ酸配列のうち1-155位の領域、及び、配列番号22に示されたアミノ酸配列のうち1-152位の領域にも該当する。)として、配列番号40に示すアミノ酸配列を有する。典型例として、ALuc22,ALuc25,ALuc26,ALuc27,ALuc28,ALuc29が挙げられる。
本発明の人工ルシフェラーゼのまた別の態様においては、抗体認識部位(epitope配列)を内部に有する。「抗体認識部位」もしくは「epitope配列」は、「抗原サイト」と換言することができる。典型的には、ALuc30, ALuc31, ALuc32及びALuc34が該当する。
具体的には、抗体認識部位(epitope配列)を内部に有する人工ルシフェラーゼは、配列番号38中20-29位又は配列番号37中20-31位の領域が抗体認識部位(epitope配列)を含む。抗体認識部位(epitope配列)の好ましい例としては、His-tag(HHHHHH) (配列番号5)、FLAG-tag(DYKDDDDK) (配列番号6)、Myc-tag(EQKLISEEDL) (配列番号7)、HA-tag(YPYDVPDYA) (配列番号8)が挙げられるが、これに限定されるものではない。
His-tagを内部に有する人工ルシフェラーゼの一例においては、配列番号38中20-29位又は配列番号37中20-31位のアミノ酸が全てH(His x 8配列)である。典型例としては、ALuc30及びALuc31が挙げられる。
c-Myc-tagを内部に有する人工ルシフェラーゼの一例においては、配列番号38中20-29位又は配列番号37中20-31位の領域の配列がEQKLISEEDL(Myc-tag配列、配列番号7)である。典型例としては、ALuc32が挙げられる。
HA-tagを内部に有する人工ルシフェラーゼの一例においては配列番号38中20-29位又は配列番号37中20-31位のアミノ酸がYPYDVPDYA(HA-tag配列、配列番号8)である。典型例としては、ALuc33が挙げられる。
FLAG-tagを内部に有する人工ルシフェラーゼの一例においては、配列番号38中20-29位又は配列番号37中20-31位のアミノ酸がDYKDDDDK(FLAG-tag配列、配列番号6)である。典型例としては、ALuc34が挙げられる。
2.本発明の新規人工ルシフェラーゼ(ALuc)の樹立について
(2−1)本発明の新規ルシフェラーゼ(ALuc)に求められる発光特性について
カイアシ類ルシフェラーゼに求められる発光特性としては、具体的には高輝度発光強度と共に長波長側にシフトした発光スペクトル、高い発光安定性、耐熱性や耐塩性が取り上げられる。発光のスペクトルが長波長側にシフトすることによって、皮膚組織や臓器などにおける発光の組織透過性が増すため、長波長発光スペクトルも、バイオアッセイや診断プローブ用発光酵素として用いるレポーター蛋白質として重要な発光特性である。また、発光強度が強ければ、様々なバイオアッセイにおいて少数の発光分子でも検出できる効果が期待できる。また経時的な発光安定性が保たれていれば、発光信号の信頼性が高くなり、分子イメージングの際、退色性の緩和が見込まれる。また耐熱性や耐塩性があることによって様々なバイオアッセイ環境下でも確実に発光信号を見込まれる利点がある。本発明においても人工ルシフェラーゼ(ALuc)を見比べるときに、このような性質の有無を中心に比較をしてよりよい人工ルシフェラーゼ(ALuc)の樹立を目指した。
(2−2)新規ルシフェラーゼの樹立法について:
従来の新規ルシフェラーゼを樹立するための方法は、1つは、種々のカイアシ類の体液から直接mRNAを抽出し、逆転写酵素を用いてDNA化して発現ベクター(例、pcDNA3.1(+))に挿入し、発現させて評価することで新規ルシフェラーゼを発見する方法である。もう一つの方法は、既に樹立されたルシフェラーゼに変異を導入することによって新たな性質を生み出し強化する方法であり、新たな変異体の樹立方法として一般的に用いられてきた。この際、塩基の変異方法は部位突然変異法(クイックチェンジ法ともいう)など周知の方法を適宜用いることができる(非特許文献18)。
ところが、前記いずれの方法も高性能の人工ルシフェラーゼの樹立方法を担保するものではない。例えば、今まで発光動物から多くの新種ルシフェラーゼが樹立されたが、すぐ産業化できるほどの良い性質を持っていた事例は極めて稀で、殆どの場合には実用化されないまま忘れられている。ごく一部には、変異導入によって性質を改変した事例もあったが、一般的に変異導入法は成功率が低く、よい結果をもたらした変異導入例は極めて少ない。すなわち、200個のアミノ酸を持つ蛋白質に対して任意に一つの変異を入れる場合、それか当たる確率は1/4000(200AA×20AA(アミノ酸種類))になることから、2つ、3つなどアミノ酸変異の数が増えるにつれ、天文学的な数字の変異導入が必要であるため、とても現実的で方法とはいえない。
そこで本発明者らは以下の着目点を根拠に一連の新規人工ルシフェラーゼ(ALuc)を樹立した。
(2−3)本発明の人工ルシフェラーゼの樹立のためのストラテジー
着目点1:まず、従来の蛋白質配列の理解法の一つとして、“consensus sequence-driven mutagenesis strategy”という方法が提案されている(非特許文献13)。この方法は、既存のデータベース上にある類似したアミノ酸配列を整列して、配列間で頻度の高いアミノ酸が熱力学的にも最も安定化効果の高いアミノ酸であるだろうという前提で配列を解析する方法である。ただし、このアミノ酸類似性に基づいた整列方法は、人間の偏見やデータベース内の類似配列の数によって結果が大きく左右される短所がある。本研究者はこの点に留意しながら実施例1−1に示すアミノ酸配列の類似性整列を行った。
着目点2:また、一つのルシフェラーゼの配列を2つに分けて前と後の配列を整列することによって、その発光特性に関わるヒントを得ようとするアプローチ(single sequence alignment;SSA)が以前提案されている(非特許文献3)。この手法は、カイアシ類発光動物由来のルシフェラーゼには2つの酵素活性部位が存在するという前提に基づいている。この2つの酵素活性部位を、アミノ酸類似性に基づいて整列することによって前後の酵素活性部位の類似性を簡便に比較できる。前述したようにアミノ酸の頻度が熱力学的安定性に繋がるという仮説があることから、この前後の配列間の類似性を高めることによって熱力学的に安定的なルシフェラーゼ配列を作り上げようとした。
着目点3:また今まで見つけられた多くのカイアシ類由来のルシフェラーゼは、中心部とC末側はお互いに類似している反面、N末側は極めて多様であることが判明されている。またプランクトン由来のルシフェラーゼの場合にはN末側の約17個のアミノ酸が分泌シグナルであることが知られている。そこで、効率的に従来にないN末側配列を決定してALucの全体を完成するために、(1)前述した既存のデータベース上にある類似したアミノ酸配列を、アミノ酸類似性に基づいて整列してそこから頻度の高いアミノ酸を抽出する方法と(2)そこで抽出したアミノ酸配列の特質を調べる公的ソフト(PSORTII)による配列分析を併用して最終的に一連の候補N末側ALuc配列群を多数決定した。
例えば、人工的に作り上げたN末側の配列特性をPSORTIIで調べた結果、以下の局在化予測が示された(一部例)。
ALuc2のN末側
0%:extracellular
22.2%:cytosol
33.3%:ER
ALuc3のN末側
67%:extracellular
11.1%:cyto
11.1%:ER
SP1の場合
44.4%:endoplasmic reticulum
33.3%:mitochondrial
11.1%:Golgi
11.1%:nuclear
SP2の場合
33.3%:extracellular,including cell wall
22.2%:vacuolar
22.2%:cytoplasmic
22.2%:endoplasmic reticulum
SP4の場合
55.6%:extracellular,including cell wall
22.2%:endoplasmic reticulum
11.1%:cytoplasmic
11.1%:vacuolar
着目点4:従来に樹立されたカイアシ類由来のルシフェラーゼのアミノ酸配列の長さはまちまちであり、分子量も20-36kDまでと多様であるが、その多様性は、主に変化に富んでいるN末側の配列に起因している。そこで、本発明では、N末側の配列を決定する際、頻度の高いアミノ酸を抽出する大原則の下で、N末側のアミノ酸配列を比較的に短い群(ALuc5-7)と長い群(ALuc2-3及びALuc8-25)に分けて構築し、人工ルシフェラーゼ(ALuc)群のアミノ酸配列の全体図を決定した。
(2−4)本発明の人工ルシフェラーゼ(ALuc)群の合成
前述した着目点1〜4のストラテジーに従ったアミノ酸配列決定作業を行い、多数の新たな候補配列を作り上げることができた。当該アミノ酸配列群を実際の発現に移すために、遺伝子コドン(codon)表に基づいて各アミノ酸に対応する遺伝子コドンを当てはめた。この際に哺乳類動物細胞に有利に発現できるように、マウス細胞で最適に発現できるように一連のコドンを決定した。その1例についての塩基配列を、配列番号23として示す。
この一連の遺伝子配列に複数の制限酵素サイトを導入した上で遺伝子合成の専門メーカー(Operon社)に合成依頼し、任意のベクターに挿入された形で入手した人工ルシフェラーゼ(ALuc)をコードする合成遺伝子群を用い、Invitrogen社のpcDNA3.1(+)に挿入した一連のsubcloneベクター群を作成した。このベクターをアフリカミドリザル腎臓由来のCOS-7細胞に導入し、得られた人工ルシフェラーゼ(ALuc)群の発光特性を様々な分光器(例、Luminometer(GloMax 20/20n;Promega)、Spectrophotometer(AB-1850;ATTO)、Image analyzer(LAS-4000;FujiFilm)、Microplate reader(Corona))で計測し、下記(3−1)の方法により酵素活性を評価し、アミノ酸配列にフィードバックすることで、本発明の新規人工ルシフェラーゼ(ALuc)群を樹立する。
3.本発明の人工ルシフェラーゼ(ALuc)の酵素活性
(3−1)酵素活性の確認方法
ALucの酵素活性は、例えば、以下の方法で検証することができる。
まず、公知の遺伝子導入用脂質試薬を用いて、ALucをコードする発現ベクターをアフリカ猿由来のCOS-7細胞に導入し、比較のために変異を含まない従来のGLucを持つ発現ベクターも、同法で細胞に導入する。ベクターを導入してから一定時間(10〜20時間、例えば16時間)が経過した後、既知の細胞溶解試薬を使って細胞溶解液を作製する。
その後、細胞溶解液とセレンテラジンを含む既知の基質溶液とを混合して発色強度や発光の経時安定性などを測定する。
発光強度は、従来の発光分光光度計を用い、周知の基質添加後に測定する方法で特定の波長での強度を計測すればよく、毎分計測することで発光の経時的変化からその安定性が評価できる。長波長側へのシフトを測定するには、全波長スキャンする。
(3−2)本発明の人工ルシフェラーゼ(ALuc)の酵素活性の特徴
本発明における典型的な人工ルシフェラーゼ(ALuc)は、ALuc10(配列番号11),ALuc15(配列番号12),ALuc16(配列番号13),ALuc17(配列番号24),ALuc18(配列番号14),ALuc19(配列番号25),ALuc21(配列番号26),ALuc22(配列番号15),ALuc23(配列番号16),Luc24(配列番号27),ALuc25(配列番号17),ALuc26(配列番号28),ALuc27(配列番号29,ALuc28(配列番号30),ALuc29(配列番号31),ALuc30(配列番号32),ALuc31(配列番号33),ALuc32(配列番号34),ALuc33(配列番号35)及びALuc34(配列番号36)である。
従来のカイアシ類ルシフェラーゼで観察される共通の酵素活性の特徴として、
(1)一過性の強い光を示す特徴があり発光安定性が乏しい点、
(2)N末端に分泌シグナルを有する点、
(3)発光酵素の大きさが他の発光酵素より小さい点、
(4)共通して青色(480 nm)を出す点があった。
本発明のALucシリーズは、いずれも(2)と(3)の特徴はそのまま保持しているが、(1)の発光安定性については、従来のカイアシ類ルシフェラーゼと比較して格段に高い。特に、ALuc15,ALuc16,ALuc17,ALuc18,ALuc19,ALuc20,ALuc21,ALuc22,ALuc23,ALuc24,ALuc25,ALuc26,ALuc27,ALuc28,ALuc29,ALuc30,ALuc31,ALuc32,ALuc33,ALuc34は、極めて安定性の高い発光シグナルを示した。また、(4)の発光色についても、ALuc15,ALuc16,ALuc17,ALuc18,ALuc19,ALuc20,ALuc21,ALuc22,ALuc23,ALuc24,ALuc25,ALuc26,ALuc27,ALuc28,ALuc29,ALuc30,ALuc31,ALuc32,ALuc33,ALuc34のいずれもが長波長シフトした発光スペクトルを示した(緑や黄色)。
以上のように、本発明によって従来のカイアシ類ルシフェラーゼの良い点を保持したまま共通の問題点を克服した、極めて有望な人工発光群であることが確認できた。
4.本発明の人工ルシフェラーゼ(ALuc)の機能向上について
本発明の人工ルシフェラーゼ(ALuc)の用途については、典型的には、従来の生物発光プローブにおける発光酵素の要素として用いることの他に、きわめて高輝度な安定的な発光シグナルを発するため生体内の各種の蛍光イメージング用レポーター遺伝子の代替として用いることなどが挙げられる。いずれにしても、主要な用途は、ヒトをはじめ哺乳動物の生体内で、又は試験管内の哺乳動物細胞で用いる場合である。
このため、他の機能向上のための改変としては、各アミノ酸に対応するコドンを各宿主生物種に適したコドンに変更して発現しやすいコドンにする改変、ならびに間接的な機能向上のために発現プロモーターの性能を改良することが有効である。更に、本人工生物発光酵素(ALuc)のN末端やC末端に機能性ペプチドをつけることによって様々な付加機能が期待できる。例えば、N末端やC末端に細胞膜局在化シグナル(membrane localization signal;MLS)をつけることによってALuc本体を細胞膜に局在させることができる。この場合、ALuc由来のN末側の分泌シグナル(1-20位又はその1部配列)はあってもなくてもよいが、当該分泌シグナルが存在することで小胞体を経由するため、ALucを含む融合蛋白質に対してもフォールディング効率を上げられる場合がある。なお、本発明において、特に明記していない場合でも、シグナルペプチドを含め2種類以上のペプチドを結合する場合には、適宜周知のリンカーを用いてその長さ、読み枠などを調節している。ALucが細胞膜に局在することによって外部からの基質や酸素の供給が円滑になり、ALucを基盤とした発光プローブ(例、発光カプセル)の場合には、外部の信号に速やかに反応できる利点がある(実施例1−8参考)。本発明においても必要に応じて適宜採用する。このような機能向上用の改変ストラテジーについて、以下に具体的に示すがこれらの手法に限定されない。
5.本発明ルシフェラーゼ(ALuc)の「レポーター分析法」への応用
(5−1)本発明の「レポーター分析法」について
本発明のALuc及びその遺伝子は、各種「レポーター分析法」における「レポーター蛋白質」又は「レポーター遺伝子」として好適に用いることができる。
本発明で「レポーター蛋白質」又は「レポーター遺伝子」というとき、外部刺激に応じた細胞内での標的蛋白質又は標的遺伝子の挙動を調べるために用いる発光標識を意味する。また、本発明において「レポーター分析法」というとき、外部刺激に応じて細胞内における標的蛋白質又は標的遺伝子の挙動を、本発明のALuc及びその遺伝子を「レポーター蛋白質」又は「レポーター遺伝子」として用いることで、ALucによる発光の有無もしくは発光量、発光時期又はその発光位置に置き換えて観察する分析法であり、具体的には、標的遺伝子の発現位置、発現時期、又は発現量を、レポーター蛋白質のALucの発光位置、発光時期、又は発光量として定性的又は定量的に測定する方法であるということもできる。
具体的には、レポーター蛋白質を、標的蛋白質のN末端やC末端に融合して融合蛋白として用いられる場合が典型的であるが、N末端とC末端に2分割したレポーター蛋白質と標的蛋白質とが直接又は他のペプチド配列を介して融合される場合もある。レポーター遺伝子の典型的な使い方としては、標的遺伝子の5’や3’末端に繋ぎキメラ遺伝子を作ることによって発現後の標的蛋白質の挙動を調べるために用いられる。同様にレポーター遺伝子を2分割しそれぞれ標的遺伝子の5’末端と3’末端、もしくは標的遺伝子の中に挿入して使うこともできる。
本発明のレポーター蛋白質は、上記ALucの定義を用いて、以下のように記載することができる。
下記の(i)〜(vii)のいずれかに記載のアミノ酸配列を含み、かつカイアシ類ルシフェラーゼ活性を有するポリペプチドからなるレポーター蛋白質;
(i)配列番号11〜17または24〜36のいずれかに示されたアミノ酸配列、
(ii)配列番号11〜17または24〜36のいずれかに示されたアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は付加されたアミノ酸配列、
なお、ここで数個とは、1〜20個、好ましくは1〜10個、より好ましくは1〜5個を表す。
(iii)配列番号11〜17または24〜36のいずれかに示されたアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列、
(iv)配列番号37に示されたアミノ酸配列、
(v)配列番号37に示されたアミノ酸配列のうち、1-29位、又は214-218位の少なくともいずれかの領域において、1個以上のアミノ酸が欠損しているアミノ酸配列、
(vi)配列番号38に示されたアミノ酸配列、
(vii)配列番号38に示されたアミノ酸配列のうち、1-31位、又は217-221位の少なくともいずれかの領域において、1個以上のアミノ酸が欠損しているアミノ酸配列、
(viii)配列番号22に示されたアミノ酸配列、又は、
(ix)配列番号22に示されたアミノ酸配列のうち、1-29位、又は211-215位の少なくともいずれかの領域において、1個以上のアミノ酸が欠損しているアミノ酸配列。
本発明のレポーター蛋白質は、生体内などin vivo条件下で用いる場合には、上記(i)〜(ix)に示されたアミノ酸配列をコードする核酸からなる「レポーター遺伝子」を、標的遺伝子に繋いでベクターなどに組み込み、ターゲットとなる細胞内に導入される。
以下、本発明の「レポーター分析法」を、Niuらにより非特許文献16において示された3つの分類である“basic”、“inducible”及び“activatable”の3種類に分けて、本発明のALucのそれぞれの分析法への適用について説明する。ここで、“basic”法とは、もっとも単純なレポーター分析系であって、各種の被検蛋白質に対して単にALucを繋いで標識しただけのレポーター分析系であるともいえる。典型的なものとしては、抗体に繋げた生物発光酵素融合蛋白質(即ち、生物発光酵素標識抗体)があげられる。“inducible”法は、“basic”法と比較してレポーターの発現がプロモーターによって制御されている点が異なる。典型的には、生物発光共鳴エネルギー移動(BRET)法の他、いわゆるレポータージーンアッセイやツーハイブリットアッセイ(刺激に依存してレポーターを発現する)があげられる。また、“activatable”法は、レポーター自体がリガンド刺激に能動的に反応して発光することを利用するレポーター分析法であり、典型的には、一分子型生物発光プローブ、発光カプセルがあげられ、他にprotein complentation assay(PCA),protein splicing assay(PSA)などに適用できる。
(5−2)“basic”法について
本発明のALucをレポーター蛋白質として「basic法」に適用する場合、ALucを単純に標的蛋白質に繋げた融合蛋白質を作ればよい。この際に非制御型プロモーターで発現する点が他のレポーター分析法とは異なる。
なお、本明細書において「融合蛋白質」とは、(i)ALucであるレポーター蛋白質と標的蛋白質又は標的蛋白質を認識するペプチドとを含む融合蛋白質をコードする遺伝子から一体として発現させたもの、(ii)ALucであるレポーター蛋白質及び標的蛋白質又は標的蛋白質を認識するペプチドを別々に発現させ、これを化学反応により連結させたものなどを包含する。別々に発現させた蛋白質等を化学反応により連結させる手段としては、例えば、クロスリンカーによる連結、アビジン‐ビオチンの結合能を利用した連結、アミノ酸残基の化学反応性を利用した結合などが例示される。
典型的な抗体と結合させた生物発光融合蛋白質の場合について説明すると、抗体の単鎖可変領域フラグメント(scFv)のcDNAの上流や下流にALucの遺伝子を繋げたキメラDNAを作成し、適当な発現ベクターに挿入することで完成できる。この形態のレポーター分析法は、本明細書の実施例1−15や1−16に示す。
(5−3)“inducible”法について
生物発光酵素をレポーター蛋白質として「inducible法」に適用することは、組換えDNA技術によって組換え蛋白質が作製される際の遺伝子発現の時期及び発現量の解析のために従来から用いられており、特に外部刺激に応答した発現時期及び発現量変化を示す指標として広く用いられている。「inducible法」に含まれる分析システムとしては、レポータージーンアッセイ(reporter gene assay)、Yeast Two-hybrid assay、Mammalian Two-hybrid assay、protein splicing assay(PSA)、protein complementation assay(PCA)、circular permutation assay、bioluminescence resonance energy transfer assay(BRET)等があるが、これらの分析システムに必須のレポーター遺伝子として本発明のALucを用いることで、アッセイの計測性能を飛躍的に向上できる。この形態のレポーター分析法は、本明細書の実施例1−9に示す。
以下、典型的な「inducible法」分析システムである、レポータージーンアッセイ、及びツーハイブリッド・アッセイについて詳細に説明する。
(i)レポータージーンアッセイ
レポータージーンアッセイ法は、外部刺激による転写因子の活性化及び遺伝子の発現調節の解析手段として繁用されているが、典型的には核内受容体を介したシグナル伝達を攪乱する内分泌攪乱物質(環境ホルモン)の検出に用いられている。核内受容体を介したシグナル伝達に関連した標的遺伝子(例えば、ホルモン応答性遺伝子)の発現は、リガンドと受容体の複合体が当該遺伝子の転写調節するシス領域(ホルモン応答配列;hormone response element)に結合することで引き起こされる。この各種ホルモン応答性遺伝子のシス領域の下流にルシフェラーゼなどのレポーター遺伝子を組み込んだプラスミドを細胞内に導入し、リガンドとなり得るホルモン分子又は内分泌攪乱物質量を生物発光量などで検出するアッセイ法である。
その際の宿主細胞としては、一般的な遺伝子組換えに用いられる哺乳動物細胞のCOS細胞、CHO-K1細胞、HeLa細胞、HEK293細胞、NIH3T3細胞などが好ましく用いられるが、酵母細胞、大腸菌など細菌細胞、昆虫細胞などでも良いが、主要な用途としては、ヒトをはじめ哺乳動物の生体内で、又はインビトロの哺乳動物細胞内で用いる場合が多い。
レポータージーンアッセイ法において、従来から広く用いられていたホタルルシフェラーゼの場合、[1]分子量が大きくて発現までに時間がかかるので、宿主細胞に大きな負担をかけることになり、[2]発光強度が低いため、十分ルシフェラーゼ(レポーター)量が蓄積するまでに、通常刺激後1〜2日の時間を待つ必要がある、という欠点があったが、本発明のALucをレポーター蛋白質として選択することでこれらの問題点が解消される。
本発明のALucをレポーター蛋白質として使用すれば、レポーターの発光強度が極めて高いため、刺激後にごく短時間で測定ができる利点がある。そのため、従来のレポーター蛋白質より大幅に計測時間を短縮でき、かつ経時的な発光の安定性も高いことから、遺伝子導入効率の悪い細胞株においても発光測定ができる。また、長波長側にシフトしているので、細胞膜、皮膚を通しての透過性が高まっているため、バックグラウンド値が下がり測定精度も高い。
具体的に、本発明のALucをこれらのレポータージーンアッセイに適用するためには、上流に特殊なプロモーターを搭載している既知の真核細胞発現ベクターに当該発光酵素を繋いで、真核細胞に導入し、一定時間が過ぎた後、信号(刺激)有り無しの条件で測定に用いればよい(非特許文献20)。当該ALucを搭載できる、レポータージーンアッセイ用の発現ベクターとしては、公知のpTransLucentベクターを利用し、既知の方法を使って簡単に搭載させることができる。
(ii)ツー・ハイブリッド法
ツー・ハイブリッド法(Two-hybrid法)は蛋白質間の相互作用を調べる手法の1つであり、1989年に酵母(Saccharomyces cerevisiae)を用いたyeast two-hybrid(Y2H)システムがまず構築された。転写活性化因子であるGAL4蛋白質のDNA結合ドメイン(GAL4 DBD)と転写活性化ドメインが分離可能であることを利用して、GAL4 DBDと任意の蛋白質A(bait)を融合蛋白質として発現させ、同時に細胞内で発現させた転写活性化ドメイン(TA)と融合蛋白質とした蛋白質B(prey)と相互作用をするかどうかを判定できる。前記蛋白質AとBが結合する場合にはDBDとTAが近接してDNA結合ドメイン(DBD)が、「UASG」塩基配列に結合するのでその下流に連結したレポーター遺伝子発現を促すことになる。レポーター遺伝子がルシフェラーゼであれば、その特異的な基質存在下で生物発光をモニターすれば、A,B両蛋白質の親和性が測定でき、蛋白質A(bait)と相互作用をする蛋白質、ペプチドのスクリーニングができる。その際の蛋白質B(prey)は発現ライブラリーによって提供させることもできる。
宿主細胞としては、酵母細胞に限らず、大腸菌など細菌類や、哺乳動物細胞、昆虫細胞も用いられる。その際、酵母由来の転写活性化因子であるGAL4 DBD以外に、大腸菌由来のリプレッサー蛋白質の「LexA」等を用いることもできる。これらをコードするDNAと、リガンド応答性転写調節因子のリガンド結合領域などbait蛋白質(即ち、前記の任意の蛋白質A)をコードするDNAとを連結し、宿主細胞内で機能可能なプロモーターの下流に連結する。一方、「転写活性化因子の転写活性化領域」としては、例えば、GAL4の転写活性化領域、大腸菌由来のB42酸性転写活性化領域、ヘルペス単純ウイルスVP16の転写活性化領域等を用いることができる。これら転写活性化領域をコードするDNAと、prey蛋白質(即ち、前記の任意の蛋白質B)をコードするDNAとを連結し、宿主細胞内で機能可能なプロモーターの下流に連結する。
具体的には、転写調節因子GAL4のDNA結合領域をコードするDNAを有し、出芽酵母を宿主細胞において利用可能なベクターとして、プラスミドpGBT9(Clontech社製)等をあげることができ、GAL4の転写活性化領域をコードするDNAを有し、出芽酵母において利用可能なベクターとして、プラスミドpGAD424(Clontech社製)等をあげることができる。また、GAL4のDNA結合領域をコードするDNAを有し、哺乳類動物細胞において利用可能なベクターとして、pM(Clontech社製)、pBIND(Promega社製)等をあげることができ、単純ヘルペスウィルスVP16の転写活性化領域をコードするDNAを有し、哺乳類動物細胞において利用可能なベクターとして、pVP16(Clontech社製)、pACT(Promega社製)等をあげることができる。また、LexAのDNA結合領域をコードするDNAを有し、哺乳類動物細胞において利用可能なベクターとして、pLexA(Clontech社製)等をあげることができ、B42をコードするDNAを有し、哺乳類動物細胞において利用可能なベクターとして、pB42AD(Clontech社製)等をあげることができる。
その際、例えば、本発明のALuc遺伝子を、GAL4が結合する領域(「UASG」)などの下流にレポーター遺伝子として挿入したベクターを構築すればよく、哺乳動物宿主の場合であれば、市販のpG5Lucベクター(Promega)やpFR-Lucベクター(Stratagene)を利用し、当該ベクターに搭載されているホタルルシフェラーゼの代わりに周知の方法で簡単に本発明のルシフェラーゼ(ALuc)を搭載して使用することができる。また、市販のpG5CATベクター(Clontech)のChloramphenicol acetyltransferase(CAT)の代わりに用いることもできる。
(5−4)“activatable”法について
生物発光酵素を“activatable”法のレポーター蛋白質として搭載する分析システムも、従来から本発明者らが「生物酵素発光プローブ」技術として研究開発し、発展させてきた。以下、典型的な“activatable”法の例として、本発明のALucの「生物酵素発光プローブ」への適用例、及びそれを用いた「細胞内イメージング法」について述べるが、それに先立ち、まず、本発明ではじめて開発した「発光性融合蛋白質(発光カプセル)」について述べる。その他、本発明のALucは、“activatable”法に含まれるprotein complentation assay(PCA),protein splicing assay (PSA)におけるレポーター蛋白質として好適に適用できる。
(i)発光性融合蛋白質(発光カプセル)の製造
本発明のALucのC末端側に膜局在シグナル(MLS)を結合することで、ALuc本体を細胞膜に局在させることができるが、このように細胞膜に局在する分子設計を行うことによって、基質と酸素の供給が円滑になるため、極めて高輝度で安定的な生物発光可視化が可能になる。その際、ALuc本体とシグナルペプチドをコードする核酸の間に任意のポリペプチドや蛋白質の遺伝子をカーゴ(貨物という)として挿入することが可能である。こうすることによってカーゴとなる蛋白質を細胞膜表面に効率的に運ぶことができ、しかも運ばれた場所が光るように仕掛けたことになる。典型的な例としては、各蛋白質の繋ぎ目に、細胞死に応答するDEVD配列やIETD配列を入れ込んだ場合では、細胞死の際caspase-3やcaspase-8の活性を信号として能動的に応答し、可視化するシステムとして働く。本発明者はこの構造の発光性融合蛋白質を「発光カプセル」と名付けた。
この発光カプセルは、従来の発光プローブと比較し、極めて高輝度で安定な発光特質を示し、細胞膜を透過できない検体に対しても応答する利点を持つ。この発光カプセルは「発光酵素本体のC末端」に「膜局在シグナル(MLS)」をつけた構造を基本骨格とする。このままで、又は本発明の発光酵素をタンデムに繋いで発光量を増強した場合でも、細胞死を誘発する化合物など細胞表面の形態変化を引き起こす化合物の作用を、細胞膜表面の形態変化として可視化できるから、観察が容易になる。好ましくは、発光酵素本体のC末端とMLSとの間に、細胞膜表面の形態変化を引き起こすポリペプチドもしくはその一部認識配列、具体的には、例えば、G-protein coupled receptor(GPCR)やc-Srcなどの全長もしくは一部認識配列を挿入することが可能である。また、発光酵素本体のC末端とMLSとの間に細胞死を誘発するポリペプチド、もしくはその認識配列を貨物として挿入することで、細胞死の可視化が可能である。より具体的には、各種caspaseやプロテアーゼ(セリンプロティアーゼ、システインプロティアーゼなど)、消化酵素(トリプシン、アミラーゼなど)によって認識されるペプチド配列(通常20アミノ酸以下、好ましくは10アミノ酸以下)、例えば、実施例1−7で用いた「DEVD」又は「IETD」を含むアミノ酸配列を貨物として挿入した場合、Caspase-3活性による細胞死の可視化が可能である。更に発光酵素本体とMLSとの間に蛍光蛋白質もしくは他の発光酵素を貨物としてつなげることによって、本発明の発光酵素をタンデムで繋いだ場合と同様に、細胞膜表面での光発生量が強力となるため、より細胞膜の形態観察が容易となり、細胞膜を透過できないリガンドに対しても応答するため、幅広い刺激物に対するスクリーニングが可能である。
即ち本発明の発光カプセルは、本発明のALucのC末端側と膜局在シグナル(MLS)との間に、細胞膜表面で発現させたい任意の蛋白質又はポリペプチドが挿入された発光性融合蛋白質であり、典型的には、
(a)本発明のALucのC末端側と膜局在シグナル(MLS)との間に、蛍光蛋白質又はルシフェラーゼが挿入された発光性融合蛋白質、(なお、ルシフェラーゼとしては本発明の他のALucであってもよい。
(b)本発明のALucのC末端側と膜局在シグナル(MLS)との間に、細胞膜の形態を変化させるポリペプチド又は当該ポリペプチドが認識する20アミノ酸以下の、好ましくは10アミノ酸以下のポリペプチドが挿入された発光性融合蛋白質。ここで、特に、細胞膜の形態を変化させるポリペプチドとして、細胞死を誘発するポリペプチドが好ましく、Caspase及びその認識配列である「DEVD」又は「IETD」を含む20アミノ酸以下のポリペプチドが特に好ましい。
(ii)発光プローブへの応用
また、本発明のALucを、本発明者らが既に特許出願している発明に係る一分子型発光プローブ(非特許文献4,6,9,10、特許文献1−4)、又は二分子型発光プローブ(非特許文献5,8)に組み込むことによって、リガンドの有無、リガンドの活性強度を高輝度で観測できる。当該プローブの構成要素として、[1]2つに分割された当該発光酵素(NとC末側断片)の近傍に、[2]標的リガンドに応答するリガンド結合蛋白質と、[3]リガンド結合蛋白質にリガンドが結合したことを認識する認識蛋白質を繋げた形態で高性能の発光プローブを構成できる。この発光プローブ中、前記リガンド結合蛋白質にリガンドが結合したことを前記認識蛋白質が認識した場合に、2つに分割された前記酵素断片が相補して酵素活性を変化させることができる。この時、当該分割酵素の高輝度と安定性のため、検出限界の向上と信頼性の高い計測が可能となる。
本発明において、「一分子型発光プローブ」というとき、可視化イメージングするために用いられる全構成要素を単一融合分子内に集積したことを特徴とする、公知の生物発光プローブの一つである(特許文献1−2)。例えば、本発明のALucを2分割したNとC末側断片を、リガンド結合蛋白質及びリガンド結合蛋白質の認識蛋白質を基本構成要素として含む融合蛋白質である。同様に「二分子型発光プローブ」というときは、本発明のALucのN末側断片とC末側断片を、リガンド結合蛋白質を含む融合蛋白質、及び認識蛋白質を含む融合蛋白質内にそれぞれ存在させたタイプの生物発光プローブを指す(本発明の実施例1−10参照)。
これらの生物発光プローブにおいて本発明のALucを用いる場合には、N末側断片とC末側断片とに2分割する必要があるが、その分割位置は、本発明の実施例1−10に示している分割位置またはそれに相当する他のALuc酵素の切断位置が適用される。
本発明の高輝度発光酵素を一分子型発光プローブとして用いる際の具体的な手法は、(特許文献1−4)に詳細に記載された手法に従う。具体的には、本発明のルシフェラーゼ(ALuc)を2分割し、リガンド結合性の蛋白質及び当該蛋白質にリガンドが結合した場合の立体構造変化を認識するペプチド配列とを直線上に結合させた発光プローブをコードするキメラDNAを設計する。一般には、そのキメラDNAを発現させたい細胞に適したベクター内にサブクローンし、当該ベクターを細胞内に導入して、細胞内で発現させるが、キメラDNAの上流に制御配列を繋いで細胞内に直接導入することもできる。ここで、対象の細胞としては、ヒトを含めた哺乳動物由来の細胞が好ましく、生体内に存在する状態の細胞であっても、細胞本来の機能を維持した状態の培養細胞であってもよい。酵母細胞、昆虫細胞の他、大腸菌などの原核細胞であってもよい。ベクターの具体的な種類も特に限定されず、発現に用いる宿主中で発現可能なベクターが適宜選択され得る。細胞内への導入法としては、マイクロインジェクション法やエレクトロポーレーション法等の公知のトランスフェクション法を用いることができる。あるいは脂質による細胞内導入法(BioPORTER(Gene Therapy Systems社)、Chariot(Active Motif社)等)を採用することもできる。
本発明の高輝度発光酵素を用いた生物発光プローブは、キメラDNAとして細胞内に導入された後に細胞内で融合蛋白質として発現されるため、当該形質転換細胞に対してリガンド刺激を行った後、当該細胞からの発光量の変化を測定することによって、リガンドの性質、活性の程度等を評価することができる。
本発明の高輝度ルシフェラーゼ(ALuc)を生物発光プローブ内に構成する際、当該ALucと共に搭載できる「リガンド結合蛋白質」としては、そのリガンド結合部位にリガンドが結合する蛋白質が意図される。リガンド結合蛋白質は、例えば、リガンドが結合することによって立体構造が変化するか、リン酸化を起こすか、蛋白質間相互作用を促すものであり得る。このようなリガンド結合蛋白質としては、例えば、ホルモン、化学物質又は信号伝達蛋白質をリガンドとする核内受容体(NR)、サイトカイン受容体、あるいは各種蛋白質キナーゼが用いられる。リガンド結合蛋白質は、対象とするリガンドによって適宜選択される。リガンド結合蛋白質に結合するリガンドとしては、リガンド結合蛋白質に結合するものであれば特に限定されず、細胞外から細胞内に取り込まれる細胞外リガンドであってもよく、細胞外からの刺激により細胞内で産生される細胞内リガンドであってもよい。例えば、受容体蛋白質(例えば核内受容体、G蛋白質結合型受容体等)に対するアゴニスト又はアンタゴニストであり得る。また、細胞内の情報伝達に関与する蛋白質に特異的に結合するサイトカイン、ケモカイン、インシュリン等の信号伝達蛋白質、細胞内セカンドメッセンジャー、脂質セカンドメッセンジャー、リン酸化アミノ酸残基、G蛋白質結合型受容体リガンド等であり得る。
例えば、リガンドとして細胞内セカンドメッセンジャー、脂質セカンドメッセンジャー等を対象とする場合には、リガンド結合蛋白質として、各セカンドメッセンジャーの結合ドメインを使用することができる。セカンドメッセンジャーとは、ホルモン、神経伝達物質等の細胞外情報伝達物質が細胞膜に存在する受容体と結合することによって、細胞内で新たに生成される別種の細胞内情報伝達物質を意図している。このセカンドメッセンジャーとして、例えば、cGMP、AMP、PIP、PIP2、PIP3、イノシトール3リン酸(IP3:inositol triphosphate)、IP4、Ca2+、diacylglycerol、arachidonic achid等が挙げられる。例えば、セカンドメッセンジャーのCa2+に対しては、リガンド結合蛋白質としてカルモジュリン(CaM)を用いることができる。
(iii)細胞内イメージング
また、当該ALucをコードする遺伝子を用いることで、様々な細胞株に安定的に導入できる。一例として、胚内未分化細胞、ES細胞や新型万能細胞(iPS)に当該ALucを安定的に導入できる。前記細胞そのものは、光らないため内部で起こる分子現象、組織特異性を探索するのは大変困難であった。この困難を克服するために、まず、体細胞に当該ALucを含む分子プローブを導入してから胚を作成し、様々な臓器組織に分化させる。すると、各臓器ごとに起こる特異的な分子現象を高感度に計測できる。
その際には、山中らの手法に従う(非特許文献17)。
また、本ALucに適選のシグナルペプチドを繋げることによって、各細胞小器官の高輝度イメージングに使用できる。例えば、GAP-43由来の「MLCCMRRTKQV配列」(配列番号1)をALucのN又はC末に付けることによって、細胞膜に局在化できる。また、細胞質局在のために「GRKKRRQRRR配列」(配列番号2)を付ける。また、小胞体(ER)と細胞核に局在化させるためには、それぞれ「KDEL」(配列番号3)と「DPKKKRKV配列」(配列番号4)を繋げることによって可能となる。他に、HIS-tag(HHHHHH) (配列番号5)、FLAG-tag(DYKDDDDK) (配列番号6)、Myc-tag(EQKLISEEDL)(配列番号7)、HA-tag(YPYDVPDYA)(配列番号8)、V5-tag(GKPIPNPLLGLDST)(配列番号9)、T7-tag(MASMTGGQQMG)(配列番号10)などの抗原サイトをつけることによって、非細胞系における免疫染色、分離精製に利用できる。その際には、周知の免疫染色法、immunocytochemistry等の手法が適用できる。
6.その他
本発明におけるその他の用語や概念は、発明の実施形態の説明や実施例において詳しく規定する。なお、用語は基本的にはIUPAC-IUB Commission on Biochemical Nomenclatureによるものであり、あるいは当該分野において慣用的に使用される用語の意味に基づくものである。また発明を実施するために使用する様々な技術は、特にその出典を明示した技術を除いては、公知の文献等に基づいて当業者であれば容易かつ確実に実施可能である。例えば、遺伝子工学および分子生物学的技術はJ.Sambrook,E.F.Fritsch & T.Maniatis,"Molecular Cloning: A Laboratory Manual (2nd edition)",Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,New York(1989);D.M.Glover et al.ed.,"DNA Cloning",2nd ed.,Vol.1 to 4,(The Practical Approach Series),IRL Press,Oxford University Press(1995);Ausubel,F.M.et al.,Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley & Sons,New York,N.Y,1995;日本生化学会編、「続生化学実験講座1、遺伝子研究法II」、東京化学同人(1986);日本生化学会編、「新生化学実験講座2、核酸III(組換えDNA技術)」、東京化学同人(1992);R.Wu ed.,"Methods in Enzymology",Vol.68(Recombinant DNA),Academic Press,New York(1980);R.Wu et al.ed.,"Methods in Enzymology",Vol.100(Recombinant DNA,Part B) & 101(Recombinant DNA,Part C),Academic Press,New York(1983);R.Wu et al.ed.,"Methods in Enzymology",Vol.153(Recombinant DNA,Part D),154(Recombinant DNA,Part E) & 155(Recombinant DNA,Part F),Academic Press,New York(1987)などに記載の方法あるいはそこで引用された文献記載の方法またはそれらと実質的に同様な方法や改変法により行うことができる。また、本発明で使用する各種蛋白質やペプチド、あるいはそれらをコードするDNAについては、既存のデータベース(URL:http://www.ncbi.nlm.nih.gov/等)から入手することができる。
以下、実施例を示して本発明をさらに詳細かつ具体的に説明するが、本発明は以下の例に限定されるものではない。
本発明におけるその他の用語や概念は、当該分野において慣用的に使用される用語の意味に基づくものであり、本発明を実施するために使用する様々な技術は、特にその出典を明示した技術を除いては、公知の文献等に基づいて当業者であれば容易かつ確実に実施可能である。また、各種の分析などは、使用した分析機器又は試薬、キットの取り扱い説明書、カタログなどに記載の方法を準用して行った。
なお、本明細書中に引用した技術文献、特許公報及び特許出願明細書中の記載内容は、本発明の記載内容として参照されるものとする。
〔実施例1−1〕人工ルシフェラーゼ(ALuc)群のアミノ酸配列の抽出
公開の生物情報データベース(NCBI)等からカイアシ類ルシフェラーゼ配列を、アミノ酸類似性に基づいて整列することによって頻度の高いアミノ酸を中心に新規人工ルシフェラーゼ(ALuc)の原型を作りあげた(図1A)。更に前記データベース上のルシフェラーゼ配列を前頭部、前半部、後半部に分けて前頭部の配列の類似性整列からは頻度の高いアミノ酸配列を抽出した(図1B)。また前半部と後半部を重ねることによって頻度の高いアミノ酸のみならず、配列の前半と後半間の相同性の高いアミノ酸配列を抽出し、約23個の人工的なルシフェラーゼ配列を作り出す作業を行った。
前記類似性整列から得た多数の人工的なルシフェラーゼ(ALuc)配列を基に、マウス細胞に最適化された遺伝子コドンを適選に当てはめて同数の人工的な遺伝子配列を構築した。この遺伝子配列を基に、人工遺伝子合成を行う外部専門業者(Operon社)に発注して実際の人工遺伝子を獲得した。
〔実施例1−2〕人工ルシフェラーゼ(ALuc)群の輝度、発光安定性、長波長側シフト度の比較
前記過程を通じて合成された人工ルシフェラーゼ(ALuc)遺伝子群を哺乳細胞発現ベクター(pcDNA3.1(+))にsubcloneした。この個々の発現ベクターをアフリカミドリサル腎臓由来のCOS-7細胞にトランスフェクションして、各人工ルシフェラーゼ(ALuc)の輝度、発光安定性、長波長側シフト度を比較した(図2〜図5)。
まず、各人工ルシフェラーゼ(ALuc)間の輝度を比較した(図2)。このために各発光酵素をコードするベクターを導入したCOS-7細胞をovernight培養した後、その相対的な発光強度をPromega製の細胞溶解溶液と基質混合のアッセイ溶液、発光イメージ分析器(LAS-4000)を用いて測定した。
その結果、ALuc2,ALuc9,ALuc10,ALuc15,ALuc16,ALuc18,ALuc22,ALuc 23,ALuc25などが比較的に高輝度を示すことが分かった。また、これらの発光輝度は従来のガウシア由来のルシフェラーゼ(GLuc)やウミシイタケ由来のルシフェラーゼ(Renilla luciferase)、Metridia pacifica由来のルシフェラーゼ(MpLuc4)に比べて50倍程度高輝度であることが発光イメージ分析器(analyzer)による輝度測定で確認できた。
〔実施例1−3〕人工ルシフェラーゼ(ALuc)群の発光安定性の検証
本発明の人工ルシフェラーゼALuc)の発光安定性を様々な側面で検証した(図3)。それぞれのルシフェラーゼの遺伝子を導入したCOS-7細胞を9時間培養し、Promega製の細胞溶解溶液で20分処理し、更にPromega製の基質入りの反応溶液を添加してからのそれぞれの発光酵素の輝度の経時変化を5分刻みで観察した(図3A)。その結果、従来のGLucやALuc2の場合、基質導入後、急激な発光減光現象が見えたが、ALuc15とALuc16は25分が経過しても最初より6割の発光輝度が維持できた。
更にこの実験をALuc16からALuc25に至る人工ルシフェラーゼ(ALuc)にまで拡大した(図3BC)。その結果、当初の発光輝度においては、ALuc16,ALuc22,ALuc23,ALuc25などが有利であることが分かった。またALuc24の場合には輝度は比較的に低いものの、その発光持続性は、他の人工ルシフェラーゼ(ALuc)に比べて抜群に高いことが確認できた。一方、従来のルシフェラーゼ類(GLuc,RLuc8.6-535)は何れも発光輝度が極めて弱く、発光持続性もよくなかった。
〔実施例1−4〕人工ルシフェラーゼ(ALuc)群の耐熱性、細胞外分泌度
本発明の人工生物発光酵素の耐熱性、細胞外分泌度をそれぞれ測定した(図4)。まず、耐熱性を測定するために、それぞれの生物発光酵素を導入したCOS-7細胞をPromega製の細胞溶解溶液でLysateを作った後、同一サンプルに対して、そのまま室温放置した場合と80℃で10分間加熱した場合において発光強度の変化をPromega製の反応溶液(基質入り)をもって比較した(図4A)。
その結果、ALuc22は過熱によって輝度が4割程度低下することが確認できた。一方、他の発光酵素(ALuc16,ALuc23,ALuc25)は過熱の影響と見られる著しい発光輝度の低下は観察されなかった。
また、各ルシフェラーゼ(ALuc)をCOS-7細胞に導入し、overnight培養した後、細胞から分泌されたルシフェラーゼ(ALuc)の量を培地の発光輝度を指標に測定した(図4B)。その結果、ALuc16とALuc23が比較的細胞外分泌量が多いことが確認された。一方、ALuc22やALuc25などは強い発光にも関わらず、細胞外分泌量は少なく、培地からの発光輝度も弱かった。
〔実施例1−5〕本発明の人工ルシフェラーゼ(ALuc)群の生物発光の長波長側シフト度
本人工ルシフェラーゼ(ALuc)の発光スペクトルを指標に生物発光の長波長側シフト度を測定した(図5)。まず、COS-7細胞にそれぞれの人工ルシフェラーゼ(ALuc)を導入しovernight培養した。その後、Promega製の細胞溶解液で20分間処理し、5μL(図5A)や2μL(図5B)のLysateにPromega製の基質入りの反応溶液を添加して直ちにspectrophotometer (AB-1850,ATTO)でスペクトルを測定した。その結果、本発明の人工ルシフェラーゼ(ALuc)類の多くは長波長側シフトした発光スペクトルを示しており、その程度は従来のカイアシ類ルシフェラーゼの一般的なスペクトル頂点(470-480nm)と比べて50-80 nmも長波長側シフトしたスペクトルを示した(例、ALuc15,ALuc16,ALuc23など)。
この結果は、生体イメージングに本ALucを適用した場合、信号となる生物発光が極めて高い組織透過性を示すものであることを示している。
〔実施例1−6〕本発明の人工ルシフェラーゼ(ALuc)類と既存の発光生物由来ルシフェラーゼとの相関性、類似性
前記実施例1−1〜1−5に示す新規合成の人工ルシフェラーゼ(ALuc)類のアミノ酸配列を基に、既存の発光生物由来のルシフェラーゼのアミノ酸配列との相関性、類似性を比較した(図6)。
まず、CLUSTALW2.1で他の発光酵素との類似性を調べたところ、最も近縁性の高いのはMpLuc1であり、他にMoLuc1やMLucなどが特性できた。また、NCBI Blastによる蛋白質配列比較によれば、ALuc23の場合、MpLuc1と83%の類似性を示しており、MoLuc1に対しては74%の類似性を示した。同様のアミノ酸類似性測定で、ALuc25の場合、最も類似性が高いのはMpLuc1であり、その相同性は72%に至った。
〔実施例1−7〕本発明の人工ルシフェラーゼ(ALuc)を骨格とした“発光カプセル”プローブの構築
本発明の人工ルシフェラーゼ(ALuc)を骨格とした“発光カプセル”プローブを開発した(図7)。本発光カプセルの基本的な分子構造は、細胞外分泌シグナル(SP)、ALuc本体、適当な貨物蛋白質(ペプチド)、膜局在化シグナルで構成されている。このプローブはSPのため最初に小胞体に移行され小胞体から細胞膜にまで移送される。このプローブはMLSの働きによって細胞膜に最終的に局在するように設計されている(図7AB)。
この発光カプセルは蛍光蛋白質(mPlum)や他のルシフェラーゼ(RLuc8.6-535)、ペプチド(DEVD配列など)を細胞膜に局在させる能力を持つ。発光カプセルに蛍光蛋白質のmPlumやペプチドのDEVD(caspase-3の基質)を挿入した場合、優れた発光安定性を示すことが確認できた(図7C)。一方、発光カプセル構造ではないA16-KDELの場合(配列番号18)、小胞体に局在するものであり、同一のALuc16を搭載しているにも関わらず発光輝度が弱かった。この結果は、発光カプセルが細胞膜に局在することによって基質と酸素の供給が円滑であったことが、前記発光安定性と高輝度発光に繋がった。基質導入後の発光反応速度も発光カプセルが他の分子より速かった(図7D)。また、DEVD配列を有する発光カプセルの場合(配列番号19)、細胞死誘発化学物質(STS)の有無に応じて発光反応速度が変化することが確認できた(図7E)。更に発光測定用Microplate readerによっても発光カプセルの発光安定性が確認できた(図7F)。
〔実施例1−8〕本発明の発光カプセルの作用
前記実施例1−7に示した発光カプセルの作用を蛍光顕微鏡(Leica)で測定した(図8)。まず、従来の蛍光蛋白質であるmPlumを挿入した発光カプセル(配列番号20)をCOS-7細胞に導入しovernight培養した。STS刺激を行った場合と対象群としてSTS刺激を行っていない場合における細胞映像を比較した(図8C)。その結果、発光カプセルがSTS刺激以前は細胞膜に、STS刺激後は細胞質に主に局在していることが確認できた。この結果は、当該発光カプセルが細胞死のような細胞内信号伝達過程を高感度で計測できることを意味する。
〔実施例1−9〕本発明の人工ルシフェラーゼ(ALuc)によるツーハイブリットアッセイ
本発明の人工ルシフェラーゼ(ALuc)の発光レポーターとしての利点を示すために、従来の哺乳動物ツーハイブリットアッセイシステムのレポーターとしてALucを使用してみた。まず、既知の遺伝子工学技術を用いて、市販のレポーター発現ベクター(pG5)にMpLuc4やALuc16をコードする遺伝子を挿入した新規レポーター発現ベクターを構築した。更に本研究者の以前の研究結果物であるpG5-GLucもともに準備した(図9A)。
前記3種類のレポーター発現ベクターのいずれか一つに加えて筋分化制御因子(MyoD)を発現するベクター(pACT-MyoD)と転写調節因子(ID)を発現するベクター(pBIND-ID)をCOS-7細胞にcotransfectionした。細胞培養機で一晩培養した後、Promegaが提供する細胞溶解溶液と基質溶液を用いて発光反応を引き起こし、それぞれレポーターの違いによる発光強度の相違を比較した。その結果、同一条件で比較した限り、ALuc発現ベクターを導入した細胞溶解液(lysate)から最も強い生物発光が観察できた(図9B)。
この測定に並行して細胞培養時の上澄み(培地)からの発光値も同時に測定した。その結果、ALuc16とGLucを導入した場合においてやや強い生物発光が観察された。この結果は、当該ルシフェラーゼの一部が細胞膜外に分泌されたことを意味する。
〔実施例1−10〕ALucを骨格にした一分子型生物発光プローブの開発
ALucの利点を示すために、ALucを骨格にする、一連の一分子型生物発光プローブを開発した(図10)。図10Aは、その遺伝子骨格を示す。まず、ALucを2分割して前後して配置させる。更にその外側にストレスホルモン受容体(glucocorticoid receptor ligand binding domain;GR HLBD)とその結合ペプチド(LXXLLモチーフ)をそれぞれつなげた。このプローブの作動原理は、図10Aの下段に示すように、リガンド有りの条件で分子が折畳まれ、発光輝度が回復するものである。
このALuc16を2分割する際、2分割部位によって、その名前をcSimgr8(配列番号21)からcSimgr14にまで名づけた。そのそれぞれ対応する切断位置は以下のとおりであった:cSimgr8(125/126)、cSimgr9(129/130)、cSimgr10(133/134)、cSimgr11(137/138)、cSimgr12(137/138;接続部に変異あり)、cSimgr13(141/142)、cSimgr14(146/147)。
その結果、輝度の絶対値においてはcSimgr13,cSimgr14が良くて、S/N比においてはcSingr8などがよかった。
〔実施例1−11〕本発明の発光測定デバイスを用いた、細胞毒性物質(STS)の毒性の測定
細胞毒性検出実験を行うために新たな生物発光測定デバイスを開発した(図11D)。その構造は以下に説明する。
まず、市販の細胞培養や顕微鏡観察用のマイクロスライド(6チャンネル、ibidi社製)がフィットするようにマイクロスライドホルダーを、アルミで加工した。このマイクロスライドホルダーがはめられるように例えばプラスチック材でプラットフォームを製作した。このマイクロスライドホルダーが一定間隔毎にプラットフォームを滑り止るようにスライドホルダーの横または下に一定間隔で溝を作り、この溝に係合するようにプラットフォームに係合部材(例えばスプリングボール等)をとりつけた。
細胞培養用のマイクロスライドの上部には蜂の巣のようなキャップを被らせることによって、マイクロスライドの各チャンネル間の光干渉を遮断した。このキャップの表面は光反射ができるように鏡状に表面加工を施した。なおキャップは、マイクロスライドの各チャンネル間の光干渉を遮断できる形状であればよく、蜂の巣の形状に限定されない。
プラットフォームの下部には3つの光学フィルターを入れるフィルターホルダー(例えば金属製)を取り付け、3つの光学フィルターのそれぞれに対応する位置にスライド式に滑り止るように加工した。
フィルターホルダーの下には例えば金属製の支持台を設けて、上部の重さに耐えるようにした。またその内部は丸く穴を空けてからその表面は鏡状にメッキ加工をした。これによって上部から来る発光が光損失なく下部の検出部まで通るように配慮した。本発明の発光測定デバイスのこの支持台部分をルミノメーター又は分光光度計のディッシュ載置箇所に載置すれば、従来のルミノメーター又は分光光度計を用いてマイクロスライドによる測定が簡便に実現できる。
(図11D)では、6チャンネルのマイクロスライドを採用しているが、同様な概念でチャンネル数を増やすことによってより多くのサンプル測定が可能である。
前記発光測定デバイスを用いて、細胞死誘発化学物質(STS)の毒性を測定した(図11参照)。まず市販の細胞培養用のマイクロスライド(ibidi社製)にサル腎臓由来のCOS-7細胞を植え、マイクロスライド面積の9割が細胞に埋まるまで細胞を培養した。その細胞に生物発光プローブをコードするプラスミドを遺伝子導入し、更に24時間培養した。前記マイクロスライドに培養した細胞にSTS(最終濃度:1μM)有り無しの条件で10分間刺激を行った(図11B)。
発光測定は以下の手順で行った。マイクロスライドを1回HBSSバッファーで洗浄し、基質入りのHBSSバッファー100μLをマイクロスライドの各チャンネルに同時に導入して、直ちに前記発光測定デバイスに固定した。このデバイスにミラーキャップを被らせたのち、このデバイスを従来のルミノメーター(GloMax 20/20n;Promega)に搭載した。発光値を、各チャンネルと各フィルターを交換しながら測定した(3秒間集光、n=3、図11C参照)。
前記STSによって活性化されたCaspase-3によって膜に局在する発光プローブが分解され、発光強度を増した(図11B)。その結果、発光強度が7.5割程度増加しており、青色、黄色、赤色領域の光を効率よく分別できた上、非常に小さいエラーバーを示したことから、当該計測デバイスはSTSの細胞毒性を高速で精度よく測定する上で便利であることが確認できた。
〔実施例1−12〕本発明の発光測定デバイスを用いた、発光スペクトルの変化による細胞死誘発化学物質(STS)の毒性の測定(測定例1)
本発明の発光測定デバイスを用いて、細胞死誘発化学物質(STS)の毒性を発光スペクトルの変化を基に測定した(図12参照)。まず市販の細胞培養用のマイクロスライド(ibidi社製)にサル腎臓由来のCOS-7細胞を植え、マイクロスライド面積の9割が細胞に埋まるまで細胞を培養した。その細胞に生物発光プローブをコードするプラスミドを遺伝子導入し、更に24時間培養した。前記マイクロスライドに培養した細胞にSTS(最終濃度:1μM)有り無しの条件で10分間刺激を行った。
発光測定は、以下の手順で行った。マイクロスライドを1回HBSSバッファーで洗浄したのち、基質入りのHBSSバッファー100μLをスライドの各チャンネルに同時に入れ、前記測定デバイスに装着した。このデバイスにミラーキャップを被らせたのち、このデバイスを更に従来のスペクトルメーター(AB-1850;ATTO)に挿入した(図12A)。各チャンネルからの発光スペクトルをそれぞれ測定した(2分間集光、n=3、図12B)。
その結果、1μM STSなしに比べてSTS刺激ありの場合、全波長における発光強度の増加が認められた。スペクトルの最高発光波長(λmax)は580nmであった。全光量の約26%がいわゆる「Optical Window」に該当する600nm以上の光であった。この結果は、このプローブや装置を用いて動物イメージングをする際、優れた組織透過性が見込まれることを意味する。
〔実施例1−13〕ALuc16を骨格に作った生物発光カプセルを用いた細胞毒性の計測(測定例2)
ALuc16を骨格に作った生物発光カプセル(配列番号19)を用いて化学物質の細胞毒性を測定した(図13)。まずCOS-7細胞を6-チャンネルマイクロスライドに培養し、前記「配列番号19」をコードする遺伝子を細胞に導入し、更に16時間培養を続けた。その後、細胞毒性物質(STS)有り無しの条件で細胞を2分刺激し、基質入りの溶液下で生物発光輝度の違いを示す発光イメージをLAS-4000(FujiFilm)で測定した。
その結果、左2チャンネルに比べて、右2チャンネルの発光強度が2倍以上高かった。この結果は、細胞毒性を本発光カプセルで感度よく測定できることを意味する。
〔実施例1−14〕ストレスホルモンの測定
本発明の発光測定デバイスを用いて、ストレスホルモンを測定した(図14参照)。まずアフリカ緑サル腎臓由来のCOS-7細胞を6-チャンネルのマイクロスライド(2.5×7.5cm,μ-Slide VI0.4;ibidi社製)に蒔き90%の底体積を被るまで培養した。このスライド上の細胞に図14Aに示すような一分子型生物発光プローブ(cSimgr13等)を、遺伝子導入用脂質試薬(TransIT-LT1)を用いて導入し16時間培養した。このマイクロスライドに左3チャンネルにはそれぞれコントロール溶液入りの培地で刺激した。一方、右の3チャンネルにはストレスホルモンの標準溶液(10-5M)を投与し20分間インキュベートした。その後、マイクロスライド内の溶液を全部除去しHBSSバッファーで一回洗浄した。その後、Promega社が提供するライシス溶液を用いて細胞溶解液を作成し、同じPromega社が提供するnCTZ入りのアッセイ溶液を添加した。このスライドを本発明の発光測定デバイスに搭載し、この発光測定デバイスは更にルミノメーター(GloMax 20/20n,Promega社製)に乗せてミラーキャップの有り無しの条件で発光値を測定した。
その結果、同じサンプルにも関わらず、ミラーキャップの無い条件に比べて、ミラーキャップのあった場合に28%(ストレスホルモン有り)から42%(ストレスホルモン無し)の発光値の増加が認められた(図14B)。この結果は、ミラーキャップによって効率的な集光ができたことを意味する。
また同じ発光サンプルに対して、ストレスホルモンを測定する際、発光デバイス有りの条件が無いまま発光値を測定した場合に比べて、標準偏差(SD)が少ないことが図14Cの結果解析で確認できた。具体的には、同じサンプルでも発光デバイスを付けて測定した場合に標準偏差(SD)が1/3以下の高い精度(28%(ストレスホルモン有り)から29%(ストレスホルモン無し)で測定できた。図14Dは、LAS-4000で撮った本マイクロスライドの発光イメージを示している。
〔実施例1−15〕人工ルシフェラーゼ(ALuc)を繋いだ新規一本鎖抗体(scFv-ALuc16)
本発明の人工生物発光酵素(ALuc)の発光色素としての利点を示すために、GSTタグ抗体の可変領域フラグメントにALucを繋げた新規一本鎖抗体(single chain variable fragment;scFv)を試作した(図15)。
この試作は、GSTタグ抗体の可変領域フラグメントとALuc16をGGGGSリンカーを介して遺伝子工学的に繋げ、大腸菌発現ベクターに挿入したものである(図15A)。大腸菌内で発現させた後、できたALuc16付のscFv抗体(scFv-ALuc16)を用いて以下の発光輝度比較実験を行った。
市販の西洋ワサビペルオキシダーゼ(horseradish peroxidase;HRP)を付けた抗マウス抗体(anti-mouse IgG;GE Healthcare)を購入し、HRPの濃度が1μg/mLになるように調製した。このHRP付の抗マウス抗体と同量のscFv-ALuc16を調製し、それぞれの溶液10μLを96穴マイクロプレートの各ウェルに並べた。
HRP付の抗マウス抗体のための基質溶液は市販のImmunoStar LD(Wako)を調製した。一方、scFv-ALuc16のための基質溶液は、プロメガ製のRenilla luciferase assay kitを調整した。前記抗体入りの96穴マイクロプレートにそれぞれ調製した基質溶液90μLずつを、8チャンネルマイクロピペットを用いて同時にInjectし、発光輝度とその経時変化を発光イメージ分析器(LAS-4000,FujiFilm)で測定した。
その結果、HRP付の抗マウス抗体の方が3割程度強い発光輝度を示した(図15B)。また、scFv-ALuc16は基質導入後5分までに発光値の減少がやや著しかった(図15CD)。この輝度の違いにも関わらず、本発明のscFv-ALuc16は、従来のHRPに準じる強い生物発光を示していることが確認できた。
〔実施例1−16〕新規一本鎖抗体(scFv-ALuc16)と従来のHRPの発光スペクトルの比較
scFv-ALuc16と従来のHRPの発光スペクトルを比較するために以下のスペクトル測定を行った(図16)。まず実施例1−15に示した手法と同様に0.1μg/mLのscFv-ALuc16とHRP付の抗マウス抗体を調製した。この溶液25μLを96穴マイクロプレートの各ウェルに入れた。更に実施例1−15に示したのと同様に調製したそれぞれの基質溶液75μLを、8チャンネルマイクロピペットを用いて同時に前記各ウェルにInjectし、発光スペクトルを発光専用の高感度分光機(AB-1850,ATTO)で測定した。
その結果、HRP付の抗マウス抗体に比べて、scFv-ALuc16はより長波長側シフトした発光スペクトルを示した(図16CD):それぞれ、λmax=504nmと526nmであった。600nm以上の波長領域における発光の割合はそれぞれ6%と15%であった。この結果は、scFv-ALuc16の輝度がやや落ちるものの、HRPに比べてより近赤外線領域の発光を出すことを示している。即ち、この性質は、この抗体やALuc16を生体イメージングに用いた場合、組織透過性の高い発光信号が期待できることを意味する。
〔実施例1−17〕本ルシフェラーゼ(ALuc)に基づく発光プローブのES細胞への応用
実施例10に示したALucを骨格とする一分子型生物発光プローブであるcSimgr13を発現する新たなES細胞を樹立し、ストレスホルモン感受性を可視化した(図17)。まず、フィーダーフリーの胚性幹細胞(ES)であるEB3細胞を10センチディッシュに培養した後、cSimgr13をコードするpcDNA3.1(+)ベクターをEB3細胞に導入し、G418存在下で、cSimgr13を安定的に発現する形質変換細胞を樹立した。
前記形質変換細胞をマイクロスライドに継代してから1日後に、各ウェルにある細胞をコントロール(0.1%DMSO)または10-5Mストレスホルモン(cortisol)で20分間刺激した。その後、Promega製の発光アッセイキットのプロトコール通りに、細胞溶解後基質入りのアッセイバッファーで発光させた。その輝度をLAS-4000で測定した。その結果、コントロールに比べて、ストレスホルモンによって刺激された場合がより強い発光を示した。この結果は、本ルシフェラーゼ(ALuc)に基づいた発光プローブが胚性幹細胞(ES)においても適用可能であり、ホルモン認識能を失わないことを示している。
〔実施例1−18〕さらなる人工生物発光酵素ALuc25〜ALuc32の作製
前記研究開発結果を踏まえ、更なる機能性人工生物発光酵素の開発を行った。ALuc25を基に、より親水性アミノ酸の割合が多い配列と少ない配列を作り、ALuc26, ALuc27, ALuc28, ALuc29と名付けた。また、配列の中で抗原認識部位(epitope, 例:Hisタグ、Mycタグ等)を有する一連の人工生物発光酵素を開発し、それぞれALuc30 (配列中にHisタグ含有), ALuc31 (配列中にHisタグ含有), ALuc32 (配列中にMycタグ含有)と名付けた(図18)。
前記酵素配列をコードする遺伝子を哺乳動物発現ベクター(pcDNA3.1(+))に挿入した後、それぞれのプラスミドをCOS-7細胞に導入した。この細胞の形質変換によりそれぞれの発光酵素が発現され、その一部は細胞外に分泌され、一部は細胞内に留まる。前記プラスミド導入20時間後に、細胞の培地をサンプリングし、残る細胞は溶解バッファーで溶解した(ライセット作り)。それぞれ用意された培地5μL又はライセット5μLにアッセイ溶液(基質入り)50μLを同時に添加してから直ちに発光値を発光分析装置(LAS-4000;FujiFilm)で測定した(n=3)(図18(C))。
その結果、従来のGLucやMpLuc4より極めて高い発光値がALuc25, ALuc30, ALuc31のライセット(細胞溶解液)から観測できた。また細胞培地の部では、ALuc30やALuc31を有する細胞の培地から強い生物発光が観察できた。この結果は、ライセットにおいても、培地においても強い生物発光を望むばらば、ALuc30やALuc31の方が良いということを意味する。また、ALuc30とALuc31は配列内部にHisタグを含むため(図18(A))、Hisタグカラムによる精製やHisタグ配列を抗原認識部位とする抗体の使用が可能ななど、光標識として広いバイオアッセイ分野に利用できる(図18(B))。
ALuc25から29までの生物発光スペクトルを図18(D)に示す。
また、タグを内包する当該人工生物発光酵素の発現後の特性を従来のウェスタンブロットとアフィニティカラムで計測した(図18(E))。
まず、ALuc30から34までの発光酵素の発現ベクターをそれぞれCOS-7細胞に導入した。発現誘導してから一晩後、細胞培地を回収し、分泌の有無、発現された発光酵素の分子量をそれぞれアフィニティカラムとウェスタンブロット(図18(E)挿入図)で確認した。
その結果、各々の培地をNi-NTA アフィニティカラムで精製した場合、Hisタグを含有するALuc30が選択的に抽出されることが分かった。また、専用の抗体(Hisタグ抗体、HAタグ抗体、Flagタグ抗体)を用いたウェスタンブロットを行った結果、それぞれの培地内には各々の人工生物発光酵素(ALuc30, ALuc33, ALuc34)が分泌され、それぞれのタグが機能していることが、バンドの位置(分子量を示す)、バンドの濃さ(発現量を示す)で確認できた。
〔実施例1−19〕人工生物発光酵素の長時間安定性
本発明で開発した人工生物発光酵素(ALuc)活性の長時間安定性を調べた。まずCOS-7細胞にそれぞれの人工生物発光酵素(ALuc16, ALuc22, ALuc23, ALuc24, ALuc25, ALuc30)(図中、それぞれをA16, A22, A23, A24, A25, A30と表す。)を発現するプラスミドを導入した後、24時間さらに培養を続けた。この培養により人工生物発光酵素が培地に分泌される。この培地中に分泌された人工生物発光酵素を取り、それぞれ同一条件での酵素活性の相違を以下の要領で測定した。初日(0 day)に5μLの培地に50μLのアッセイ溶液(ネイティブセレンテラジン入りのプロメガ製)を添加して、発光値(酵素活性)をLAS-4000 (FujiFilm)で測定した。同じ要領で8日目、16日目、25日目の発光値をそれぞれ測定に初日の数値と見比べた(図19(A))。その結果、ALuc16とALuc22の場合、著しい酵素活性の低下がみられたが、ALuc24, ALuc25, ALuc30などは安定的な酵素活性を25日まで維持できた。特にALuc30の場合、初日の6割程度の酵素活性を長く維持できることが分かった。
また、発現から25日経過した培地サンプルに対して、基質添加後の輝度の経時変化を以下の要領で観測した(図19(B))。発現から25日経過した5μLの培地に50μLのアッセイ溶液(ネイティブセレンテラジン入りのプロメガ製)を添加して、発光値(酵素活性)をLAS-4000 (FujiFilm)で測定した。その結果、発光値が徐々に増加する現象が何れの人工生物発光酵素にも観察できた。とりわけ、ALuc23とALuc30は添加時の発光輝度より数倍の発光輝度が12分後に観測できた。
これらの結果は、当該人工生物発光酵素が25日間の冷蔵保存によっても著しい失活現象が見られないことから、長期保存性において優れていることを意味する。
〔実施例1−20〕本ALucを用いた生細胞イメージング
本発明で樹立された人工生物発光酵素の生細胞イメージング能を検討するために以下の実験を行った(図20)。
まずCOS-7細胞をibidi製のマイクロスライドに培養し、一定水準に生えた後、それぞれのチャンネルにある細胞に以下の遺伝子導入を行った:1チャンネル群は、ウミシイタケ由来の発光酵素(RLuc8.6-535)をコードする遺伝子を有するpcDNA3.1プラスミド、2チャンネル群は、A16-KDELをコードする遺伝子を有するpcDNA3.1プラスミド、3チャンネル群は、ALuc16に基づいた発光カプセル(即ち、A16-MLS)をコードする遺伝子を有するpcDNA3.1プラスミド。
前記遺伝子導入後、更に16時間培養を行った。イメージング直前に培地を基質を有するHBSSバッファーに置換して、その後の発光イメージを、LAS−4000(FujiFilm)を用いて測定した。
その結果、RLuc8.6-535を発現するチャンネルの場合は殆どの発光画像が取れなかったが、A16-KDELやA16-MLSを発現するチャンネルにおいては強い発光画像が観測できた(図20A)。この結果は、本発明の人工生物発光酵素が生細胞イメージングにおいて、従来の発光標識より優れていることを意味する。この理由として人工生物発光酵素の輝度が強いことが考えられる。そのため、少量の人工生物発光酵素であっても細胞イメージングには有利であることを意味する。
同様にCOS-7細胞をibidi製のマイクロスライドに培養し、一定水準に生えた後、それぞれのチャンネルにある細胞に以下の遺伝子導入を行った:1チャンネル目は、ホタルルシフェラーゼをコードする遺伝子を有するpcDNA3.1プラスミド、2チャンネル目は、A16-KDELをコードする遺伝子を有するpcDNA3.1プラスミド、3チャンネル目は、A16に基づいた発光カプセル(即ち、A16-MLS)をコードする遺伝子を有するpcDNA3.1プラスミド。
前記遺伝子導入後、更に16時間培養を行った。イメージング20分前に、プロメガ製のライセットバッファー40μLを加え、20分間放置した。更に各チャンネルに培地を基質を有するPromega製のアッセイバッファーを加え、その後の発光イメージを、LAS−4000(FujiFilm)を用いて測定した。
その結果、A16-KDELやA16-MLSのチャンネルのみに強い発光が観測できた(図20B左)。この発光輝度の相違は、発光輝度プロファイルでも明らかに確認できた(図20B右)。
〔実施例1−21〕抗原認識部位(epitope)を有する機能性人工生物発光酵素(ALuc30-34)の樹立
人工生物発光酵素(ALuc)に機能性(抗原認識能、アフィニティカラム精製能)を付与することは、発光酵素の汎用性に欠かせない要素である。この目的を達成するために、本発明で樹立された人工生物発光酵素の配列の一部に、従来の所謂「タグ」を含有した一連の人工生物発光酵素を樹立した。この発光酵素類の特徴は、その配列の中のある最適位置に抗原認識部位(アフィニティカラム精製用にも使える)を有する点である。
本実施例では、まず、「タグ」が馴染みこめる最適位置を調べるために、公知のアミノ酸配列整列ツールであるCLUSTALW(http://www.genome.jp/tools/clustalw/)を用いてどの位置にタグを馴染み込ませることにより、酵素そのものの発光活性を阻害しないつつ、想定したタグの性能を100%発揮できるかを検討した(図21(A))。その結果、人工生物発光酵素の最初から約20アミノ酸位置に、タグを馴染み込ませることが最適であることを見出した。この結果を基に、この位置にHis-tag, c-Myc-tag, HA-tag, Flag-tagを有する新たな人工生物発光酵素を樹立し、それぞれ、ALuc30, ALuc32, ALuc33, ALuc34と名付けた。即ち、His-tagを有するものをALuc30, ALuc31 (その類似体)と称した。また、c-Myc-tagを含有するものをALuc32と名付けた。またHA-tagを含有したものをALuc33と言い、Flag-tagを含有するものをALuc34と名付けた。
この新規発光酵素類の輝度を比較するために、実施例1−2と同様の条件での比較実験を行った(COS-7細胞、1日培養、Promega製アッセイキットを用いる)(図21(B))。最後に、培地に分泌された各発光酵素の輝度をPromega製アッセイキット(ネイティブセレンテラジン(nCTZ)含有)を用いて比較した。その結果、ALuc30, ALuc33, ALuc34が非常に有力な人工生物発光酵素であり、比較的に高い輝度を示した。この結果は、機能性アミノ酸配列(抗原認識部位、アフィニティカラム認識部位、局在シグナル)を当該人工生物発光酵素の中に含ませても、酵素そのものの性質を著しく阻害せずに細胞外に分泌でき、発光活性も優れていることが分かった。
〔実施例1−22〕抗原認識部位(epitope)を有する機能性人工生物発光酵素の安定性
前記実施例(1−21)で樹立した新規機能性人工生物発光酵素(抗体認識部位(epitope配列)などを有する)の発光特性を調べた。
この発光酵素類の相対的な発光輝度を比較するために以下に実験を行った。まず、各生物発光酵素をコードする遺伝子を真核細胞発現ベクターであるpcDNA3.1(+)にsubcloneしそれぞれのベクターをCOS-7細胞に導入した。遺伝子導入2日後にそれぞれの培地に分泌された発光酵素の相対的な輝度を、Promega製発光試薬を用いて比較した。
その結果、興味深いことに、一部の生物酵素が基質添加後に徐々に輝度が上がる現象が確認できた(図22)。例えば、基質添加後約6分―12分経過した時点で、最高輝度を示す発光酵素が多数あった。例えば、ALuc33やALuc34は基質添加後凡そ6分―12分経過した時点で最も強い発光を示し、その後は徐々に輝度が減少する傾向が観察された。一方、ALuc32(c-Myc含有)の場合は、比較的に発光輝度が弱かったことから、ALuc32に含有されたc-Mycの配列の一部が、酵素活性を阻害したと予測する。
本実験結果は、今回の抗体認識部位を含有する生物発光酵素類が、抗体認識部位により酵素活性の喪失現象無しに生体系で発光標識として機能できることを示している。
従来から広く用いられているレポータージーンアッセイ法をベースとしたリガンド計測、又は従来の生物発光プローブなどにおけるルシフェラーゼに代替して用いることで、アッセイの計測性能を飛躍的に向上できるため、基礎生物学研究、医学、薬学、分析化学における診断試薬開発等の広範な用途に用いることができる。

Claims (24)

  1. 下記の(i)又は(ii)に記載のアミノ酸配列を含み、かつカイアシ類ルシフェラーゼ活性を有するポリペプチド;
    (i)配列番号38に示されたアミノ酸配列、又は、
    (ii)配列番号38に示されたアミノ酸配列のうち、1-31位、又は217-221位の少なくともいずれかの領域において、1個以上のアミノ酸が欠損しているアミノ酸配列。
  2. 下記の(iii)〜(v)のいずれかに記載のアミノ酸配列を含む、請求項1に記載のポリペプチド;
    (iii)配列番号11〜17または24〜36のいずれかに示されたアミノ酸配列、
    (iv)配列番号11〜17または24〜36のいずれかに示されたアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は付加されたアミノ酸配列、
    (v)配列番号11〜17または24〜36のいずれかに示されたアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列。
  3. 下記の(vi)又は(vii)記載のアミノ酸配列を含む、請求項1に記載のポリペプチド;
    (vi)配列番号22に示されたアミノ酸配列、又は、
    (vii)配列番号22に示されたアミノ酸配列のうち、1-29位、又は211-215位の少なくともいずれかの領域において、1個以上のアミノ酸が欠損しているアミノ酸配列。
  4. 配列番号38に示されたアミノ酸配列のうち1-71位の領域が、配列番号39に示すアミノ酸配列である、請求項1に記載のポリペプチド。
  5. 配列番号38に示されたアミノ酸配列のうち1-157位の領域が、配列番号40に示すアミノ酸配列である、請求項1に記載のポリペプチド。
  6. 配列番号38に示されたアミノ酸配列のうち20-31位の領域が抗体認識部位である、請求項1に記載のポリペプチド。
  7. 請求項1〜6のいずれか1項に記載のポリペプチドをコードする核酸。
  8. 請求項7に記載の核酸が発現可能に挿入された発現ベクター。
  9. 請求項7に記載の核酸が発現可能に導入された形質転換細胞。
  10. 請求項1〜6のいずれか1項に記載のポリペプチドからなることを特徴とするレポーター蛋白質であって、レポーター分析法に用いるためのレポーター蛋白質。
  11. 請求項10に記載のレポーター蛋白質と共に、標的蛋白質又は標的蛋白質を認識するペプチドを含む融合蛋白質を含む発光性融合蛋白質。
  12. レポーター蛋白質のC末端側には膜局在シグナル(MLS)が結合されており、標的ポリペプチドが両者の間に貨物として挿入されていることを特徴とする、請求項11に記載の発光性融合蛋白質。
  13. 前記挿入された標的ポリペプチドが、蛍光蛋白質又はルシフェラーゼであることを特徴とする、請求項12に記載の発光性融合蛋白質。
  14. 前記挿入された標的ポリペプチドが、細胞膜の形態を変化させるポリペプチド又は当該ポリペプチドが認識するアミノ酸配列を含むポリペプチドであることを特徴とする、請求項12に記載の発光性融合蛋白質。
  15. 請求項11〜14のいずれか1項に記載の発光性融合蛋白質をコードするレポーター遺伝子を含む発現ベクター。
  16. 請求項15記載の発現ベクターが導入された形質転換細胞。
  17. 請求項16に記載の形質転換細胞を用いることを特徴とする、外部刺激に応じた細胞内での標的遺伝子の発現の位置、発現時期又は発現量を解析するためのレポーター分析法。
  18. 前記分析法が、レポータージーンアッセイ法又はツーハイブリットアッセイ法である、請求項17に記載の分析法。
  19. リガンド結合性の蛋白質のリガンド活性を測定するための生物発光プローブであって、N末端側及びC末端側に2分割された請求項10に記載のレポーター蛋白質と共に、リガンド結合性の標的蛋白質及び標的蛋白質にリガンドが結合した場合の立体構造変化を認識するポリペプチドを含む融合蛋白質からなる生物発光プローブ。
  20. リガンド結合性の蛋白質のリガンド活性を測定するための発現ベクターであって、請求項19に記載の生物発光プローブをコードする核酸が、当該核酸を細胞内で発現可能とする制御配列の制御下にあることを特徴とする、発現ベクター。
  21. 請求項20に記載の発現ベクターが導入された形質転換細胞。
  22. 前記形質転換細胞が、幹細胞である請求項16に記載の形質転換細胞。
  23. 請求項20に記載の発現ベクターを用いることを特徴とする、被検細胞内におけるリガンド結合性の蛋白質のリガンド活性の検出方法。
  24. 請求項20に記載の発現ベクターを用いて被検細胞内におけるリガンド結合性の蛋白質のリガンド活性を観察することを特徴とする、生物発光イメージング法。
JP2013193508A 2012-10-26 2013-09-18 人工生物発光酵素 Active JP6132350B2 (ja)

Priority Applications (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2013193508A JP6132350B2 (ja) 2012-10-26 2013-09-18 人工生物発光酵素

Applications Claiming Priority (3)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2012237043 2012-10-26
JP2012237043 2012-10-26
JP2013193508A JP6132350B2 (ja) 2012-10-26 2013-09-18 人工生物発光酵素

Publications (2)

Publication Number Publication Date
JP2014100137A JP2014100137A (ja) 2014-06-05
JP6132350B2 true JP6132350B2 (ja) 2017-05-24

Family

ID=51023289

Family Applications (1)

Application Number Title Priority Date Filing Date
JP2013193508A Active JP6132350B2 (ja) 2012-10-26 2013-09-18 人工生物発光酵素

Country Status (1)

Country Link
JP (1) JP6132350B2 (ja)

Families Citing this family (2)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JP6785008B2 (ja) 2015-09-30 2020-11-18 国立研究開発法人産業技術総合研究所 新規人工生物発光酵素群
US11827908B2 (en) 2021-02-12 2023-11-28 Shimadzu Corporation Polypeptide having luciferase activity

Family Cites Families (7)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
DE10058091A1 (de) * 2000-11-23 2002-06-06 Bayer Ag Isolierte Luziferasen Lu164, LuAL und Lu22, sowie deren Verwendung
US7871803B2 (en) * 2004-12-09 2011-01-18 Nec Soft, Ltd. Gene encoding novel luciferase
JP5110573B2 (ja) * 2007-08-02 2012-12-26 独立行政法人産業技術総合研究所 多色生物発光可視化プローブセット、又は一分子型多色生物発光可視化プローブ
EP2420573A1 (en) * 2009-04-17 2012-02-22 National Institute of Advanced Industrial Science And Technology Stable artificial bioluminescent enzyme having super-high brightness
WO2011005978A2 (en) * 2009-07-08 2011-01-13 Duke University Methods of manipulating cell signaling
WO2011102178A1 (ja) * 2010-02-19 2011-08-25 独立行政法人産業技術総合研究所 改良されたレポーター遺伝子を用いる分析システム
JP6147669B2 (ja) * 2010-12-03 2017-06-14 ジーン・ストリーム・ピーティワイ・リミテッド 改良光放射分子

Also Published As

Publication number Publication date
JP2014100137A (ja) 2014-06-05

Similar Documents

Publication Publication Date Title
WO2014065047A1 (ja) 人工生物発光酵素
Ozawa et al. Advances in fluorescence and bioluminescence imaging
Chudakov et al. Fluorescent proteins as a toolkit for in vivo imaging
Andresen et al. Short tetracysteine tags to β-tubulin demonstrate the significance of small labels for live cell imaging
Wehr et al. Split protein biosensor assays in molecular pharmacological studies
WO2010119721A1 (ja) 超高輝度で安定な人工生物発光酵素
Sun et al. In vivo analysis of protein–protein interactions with bioluminescence resonance energy transfer (BRET): progress and prospects
US20030203404A1 (en) Bioluminescence resonance energy transfer( bret) system with broad spectral resolution between donor and acceptor emission wavelengths and its use
WO2001046694A2 (en) A bioluminescence resonance energy transfer (bret) fusion molecule and method of use
EP1088233A2 (en) A bioluminescence resonance energy transfer (bret) system and its use
US20130344591A1 (en) Modified Fluorescent Proteins and Methods for Using Same
EP1571448A1 (en) Fluorescent indicator using fret
EP1565559B1 (en) Fluorescent proteins and chromoproteins from non-aequorea hydrozoa species and methods for using same
JP6132350B2 (ja) 人工生物発光酵素
JP5110573B2 (ja) 多色生物発光可視化プローブセット、又は一分子型多色生物発光可視化プローブ
Awais et al. Illuminating intracellular signaling and molecules for single cell analysis
JP6153140B2 (ja) 人工生物発光酵素に用いるための発光基質
WO2011102178A1 (ja) 改良されたレポーター遺伝子を用いる分析システム
Kumar et al. Green fluorescent protein and their applications in advance research
EP2685260A1 (en) Direct and quantitative detection of targets in living cells
De et al. Engineering aspects of bioluminescence resonance energy transfer systems
KR20200005645A (ko) 유전자 코딩 칼륨 이온 표지자
JP6785008B2 (ja) 新規人工生物発光酵素群
WO2013163681A1 (en) Fluorescent proteins and uses thereof
WO2013087921A1 (en) Engineered fluorescent proteins for enhanced fret and uses thereof

Legal Events

Date Code Title Description
A621 Written request for application examination

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A621

Effective date: 20160328

A131 Notification of reasons for refusal

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A131

Effective date: 20170124

A521 Request for written amendment filed

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A523

Effective date: 20170316

TRDD Decision of grant or rejection written
A01 Written decision to grant a patent or to grant a registration (utility model)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A01

Effective date: 20170404

A61 First payment of annual fees (during grant procedure)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A61

Effective date: 20170413

R150 Certificate of patent or registration of utility model

Ref document number: 6132350

Country of ref document: JP

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R150

R250 Receipt of annual fees

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250

R250 Receipt of annual fees

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250

R250 Receipt of annual fees

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250

R250 Receipt of annual fees

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250

R250 Receipt of annual fees

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250