JP6127945B2 - エンジンのコネクティングロッドの設計支援方法及びその設計支援装置 - Google Patents
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Description
通常、燃焼起振力に関連する燃焼騒音は、燃料噴射特性や燃焼特性を変更する燃料制御に加え、シリンダブロックの構造変更によって騒音対策を図っている。
上側クランク軸受け部を備えたアッパブロックと、下側クランク軸受け部とシリンダブロックのスカート部とを一体化したロアブロックとにシリンダブロックとクランク軸受け部において上下2分割した構造に形成することにより、クランク軸受け部の剛性を増加し、燃焼騒音を抑制している。
そこで、エンジンの各構成部品を低廉で且つ効率よく生産するため、設計段階において、有限要素法(FEM)による数値解析を用いた設計支援方法が提案されている。
特許文献1の設計支援方法は、クランク軸の設計支援方法であるが、クランク軸とシリンダブロックに形成されたクランク軸受け部とコネクティングロッドとピストンとをモデル化し、クランク軸の基本モデルの機構振動をFEMによって振動解析すると共に変更可能な変数を変更したクランク軸の変更モデルの機構振動をFEMによって振動解析することを繰り返し、エンジン振動レベルの上限値の制約内で最も軽量になるクランク軸形状を探索している。
このバルジ振動は、燃焼起振力が作用するクランク軸を支持したシリンダブロックによる振動と燃焼起振力に対して直接的に線形の関係を有するコネクティングロッドの軸心方向の伸縮振動(運動)とが共振した結果、シリンダブロックのスカート部の振動がクランク室内外方向に増幅される。これにより、バルジ振動が最大振幅するバルジモード周波数のとき、バルジモード周波数に比例してエンジン騒音が発生する。
また、アッパブロックとロアブロックとに分割されたシリンダブロックでは、クランク軸受け部がボルトによって強く圧縮されるため、アッパブロックとロアブロックとに分割されていない通常のシリンダブロックよりもバルジ振動が大きくなる傾向がある。
即ち、燃焼騒音の抑制のためにクランク軸受け部の剛性を増加する程、クランク軸受け部の圧縮応力が増加し、これに伴ってバルジ振動が増大されるため、バルジ振動に起因した間接燃焼騒音が増加する虞がある。
しかし、特許文献1の設計支援方法はエンジン振動レベル全体を対象としていため、バルジ振動に起因したエンジン騒音の低減を十分に図ることができない虞がある。
また、クランク軸の基本モデルの設計変数は各変数の上限値、下限値、中間値を用いて実験計画に基づき経験的に選択されるに過ぎず、必ずしも、クランク軸の剛性を増加できるものではなく、それ故、クランク軸の剛性向上とエンジン騒音低減とを両立することができない虞がある。
請求項3の発明は、請求項2の発明において、前記形状変更工程において、前記歪エネルギ密度の高い部分の断面積を大きくすることを特徴としている。
請求項6の発明は、請求項5の発明において、前記形状変更手段において、前記歪エネルギ密度の高い部分の断面積を大きくすることを特徴としている。
請求項3の発明によれば、エンジン騒音低下を図りつつ、コネクティングロッドの剛性が低い部分を能率的に補強することができる。
請求項5の発明によれば、基本的に請求項2の発明と同様の効果を奏することができる。
請求項6の発明によれば、基本的に請求項3の発明と同様の効果を奏することができる。
始めに、設計対象であるコネクティングロッド(以下、コンロッドと略す)2及び、このコンロッド2を備えたエンジン1について説明する。
図1に示すように、エンジン1は、オイルパン3と、シリンダブロック4の下側部分を構成するロアブロック5と、シリンダブロック4の上側部分を構成するアッパブロック6と、シリンダヘッド7とを備えた4気筒直列エンジンである。
シリンダブロック4内には、燃焼室の底部を構成すると共にシリンダ内を昇降自在なピストン8と、このピストン8をピストンピン(図示略)を介して揺動自在に枢支するコンロッド2と、このコンロッド2をクランクピン(図示略)を介して軸支し且つ気筒列方向に延びるクランク軸9等が設けられている。
アッパブロック6は、ロアブロック5の上端部に固定され、クランク軸5の上半部を支持する上側クランク軸受け部を含みクランク軸直交方向に延びる3つの上側バルクヘッド6aと、クランク軸5に対して平行方向に延びる1対のスカート部6bとを備えている。
下側バルクヘッド5aは、クランク軸9をクランク軸直交方向に挟む1対のボルト(図示略)によって上側バルクヘッド6aの軸受けキャップに下側から夫々締結され、コンロッド2をコンロッドメタル及びジャーナル部(何れも図示略)を介して回転自在に枢支している。
図2に示すように、エンジン1のコンロッド2の設計支援装置10は、入力部11と、CAD(Computer Aided Design)装置12と、記憶部13と、出力部14と、制御部15とを備えている。
入力部11は、マウスやキーボード等のデータ入力機器、出力部14は、モデル形状等を表示する表示機器である。
図3に示すように、設計対象であるコンロッド2の設計項目として、8項目を設定し、焼付き、座屈・折損、分離、疲労について夫々の基準を設定している。
焼付きに関しては、コンロッド2に作用する慣性力とコンロッド大端部の変形量との相関関係に基づき、大端部圧縮剛性とクローズインについてコンロッドメタルとジャーナル部との焼付き限度が設定されている。座屈・折損に関しては、コンロッドI幹部に作用する圧縮荷重に起因した応力に基づき、I幹部座屈についてコンロッドI幹部の降伏点が設定されている。分離に関しては、コンロッド2に作用する慣性力によるコンロッド2とメタルキャップとの分離可否に基づき、分離荷重について合せ面及びボルトの摩耗・折損の限度が設定されている。疲労に関しては、コンロッド2に作用する慣性力によって小端部とノッチ部とコンロッド2全体に作用する応力に基づき、小端部圧縮剛性とノッチ部応力と全体疲労について各々の疲労限度が設定されている。尚、ASSY重量については、必要に応じて適宜設定を行う。
制御部15は、モデル作成部16と、第1解析部17(バルジモード周波数帯域解析部)と、第2解析部18(伸縮モード周波数解析部)と、形状変更部19とを備えている。
モデル作成部16は、コンロッド2とシリンダブロック4とクランク軸5とピストン8とを構成要素として含み、コンロッド2を伸縮させない状態でコンロッド2とピストン8とピストンピンとからなる剛体モデルMを含む機械振動学的なブロック系形状モデルM1を作成するように構成されている。
図4に示すように、シリンダブロック4相当の重量を有するモデルm4がシリンダブロック4の振動特性に相当するばね定数を備えた連結体k4を介して支持部に連結され、クランク軸5相当の重量を有するモデルm5がクランク軸5の振動特性に相当するばね定数を備えた連結体k5を介してモデルm4に連結され、コンロッド2とピストン8とピストンピンに相当する総重量を有するモデルm2が伸縮を拘束された連結体k2を介してモデルm5に連結されている。ここで、モデルm2と連結体k2とが剛体モデルMに相当している。
コンロッド形状モデルM2は、CAD装置12の図面情報に基づいて形成される。
図5に示すように、コンロッド形状モデルM2は、コンロッド2の形状を三角形形状の面を備えた複数のセル21(四面体要素)によって三次元的に要素分割し、有限要素である材料属性や拘束条件等の各種情報を有する複数のノード22(節点)によって構成され、大端部25と、小端部26と、大端部25と小端部26とを連結するI幹部27とを備えている。
第1解析部17では、図4に示すように、燃焼行程による燃焼起振力を矢印の方向に作用させて、質量行列や剛性行列や各ばね定数に基づく減衰行列を用いた振動方程式により時刻歴に沿って演算している。この振動方程式を所定の周波数帯域に亙って演算し、周波数と表面積分速度レベルとの相関関係を求めている。
バルジモード周波数F1は、燃焼起振力により、スカート部5b,6bがクランク軸受け部を含むバルクヘッド5a,6aを節としてクランク室内外方向に振幅動作する各々のバルジ振動が最大振幅したときの周波数であるため、この時点において放射パワー(騒音レベル)が高くなる。
第2解析部18では、有限要素法(FEM)により、図5に示すコンロッド形状モデルM2に燃焼行程による燃焼起振力を作用させて、各セル21のノード22に作用する応力やノード22の変位を演算し、各々のセル21の変位と剛性行列を用いて歪エネルギを演算している。尚、セル21は、体積や材料情報を有しているため、剛性行列及び質量行列を演算することが可能である。
図6(b)に示すように、第2解析部18では、周波数と表面積分速度レベルとの相関関係グラフから、バルジモード周波数帯域Zにおけるバルジモード周波数F1に対応したコンロッド形状モデルM2の伸縮モード周波数F2を検出している。
伸縮モード周波数F2は、燃焼起振力により、コンロッド形状モデルM2が最大伸長したときの周波数であるため、この時点において放射パワーが高くなる。
第2解析部18では、伸縮モード周波数F2の検出過程において、任意の位相における各セル21の歪エネルギに基づいて歪エネルギ密度を演算し、コンロッド形状モデルM2の歪エネルギ密度の分布状態を検出している(図10参照)。
シリンダブロック4の周波数f1(図6(a)参照)は、コンロッド2の周波数f2(図6(b)参照)とコンロッド2の影響を除いたブロック系の周波数f3(図6(c)参照)とが重合した共振によって構成されている。
バルジモード周波数F1と伸縮モード周波数F2とは同期するため、伸縮モード周波数F2をバルジモード周波数F1から所定周波数ずらすことで、エンジン騒音に関連するバルジモード周波数F1を下げることができる。特に、伸縮モード周波数F2を低周波側にずらした場合、ユーザが認識可能な低周波側に新たな周波数のピークが発生し、この周波数に起因したエンジン騒音が発生するため、伸縮モード周波数F2はユーザによる認識が容易ではない高周波側に移行することが好ましい。
伸縮モード周波数F2を高周波側に移行するため、コンロッド2の表面形状を設計変数としたノンパラメトリック最適化手法を用いている。このノンパラメトリック最適化では、目的関数、制約条件等の特定の物理量を組み合わせた評価値が最小となる様に形状を決定している。具体的には、目的関数値を制約条件下で最適化し、コンロッド2の表面形状を逐次変動させている。
f=(k/m)0.5/2π
座屈荷重を質量m、最小断面積をばね定数kと見做すことができるため、コンロッド形状モデルM2のI幹部27の最小断面積を増加させた場合、コンロッド2の周波数は増加する。以上により、本実施例では、ノンパラメトリック最適化手法を用いて、歪エネルギ密度が高いコンロッド形状モデルM2のI幹部部27の断面積を大きくすることで、重量増加を抑制しながら伸縮モード周波数F2を効率的に増加させている。
ユーザ領域Aでは、ユーザが設計領域としてのエンジン1のコンロッド2を指定し(A1)、処理実行を指令する(A2)。
C4で解析した断面積増加量に対応した変更情報をB2に送り、B3,B4で形状変更したブロック系形状モデルM1とコンロッド形状モデルM2とを新たに作成した後、FEM解析する(C1)。これらのループ処理を伸縮モード周波数F2が上限周波数Z1を超えるまで繰り返し、伸縮モード周波数F2が上限周波数Z1を超えたときのコンロッド形状モデルM2を取得し(A3)、コンロッド2の形状を決定する。
まず、各種製品設計情報を読み込み(S1)、ブロック系形状モデルM1を作成し(S2)、これに続けてコンロッド形状モデルM2を作成する(S3)。
次に、上限周波数Z1を求める(S4)。
S4では、周波数と表面積分速度レベルとの相関関係グラフから、バルジモード周波数F1が集中するバルジモード周波数帯域Zを検出し、バルジモード周波数帯域Zの上限値である上限周波数Z1を検出する。
S5では、周波数と表面積分速度レベルとの相関関係から、伸縮モード周波数F2を検出する。
S6では、伸縮モード周波数F2が上限周波数Z1を超えているか否か判定する。
判定の結果、伸縮モード周波数F2が上限周波数Z1以下の場合、バルジモード周波数F1が伸縮モード周波数F2によって共振されているため、S8に移行し、コンロッド2の形状を変更する。判定の結果、伸縮モード周波数F2が上限周波数Z1を超えている場合、バルジモード周波数F1が伸縮モード周波数F2によって共振されていないため、コンロッド2の形状を形状X3に決定して(S7)、終了する。
伸縮モード周波数F2が上限周波数Z1以下の場合、FEM解析過程で得られた図10に示す歪エネルギ密度状態に基づいて歪エネルギ密度の高いI幹部27を、I幹部27の断面積が所定量大きくなるように図11(a)に示す形状X1から図11(b)に示す形状X2にI幹部27の寸法を変更し、S2へ移行する。変更された形状寸法に基づきS2〜S5を再度実行して新たなブロック系形状モデルM1、コンロッド形状モデルM2、上限周波数Z1及び伸縮モード周波数F2を求め、伸縮モード周波数F2が上限周波数Z1を超えているか否か判定する。
図13に示すように、形状X1に対応した伸縮モード周波数F2を形状X3に対応した伸縮モード周波数F2に引き上げることができ、形状X1から形状X3に形状変更することによって、伸縮モード周波数F2をユーザの認識し難い高周波数側へ移行させることができる。また、歪エネルギ密度の高い部分に肉盛りしたため、コンロッド2の剛性が向上し、信頼性が高められている。しかも、I幹部27の断面積を増加させるため、質量増加量に対する周波数増加量の効率が高く、コンロッド2の質量増加量を最小限に抑制することができる。
即ち、図14に示すように、形状X1の伸縮モード周波数F2を形状X3の伸縮モード周波数F2に引き上げることにより、破線で示す実用域で騒音レベルが高いブロック系のバルジ振動F1を実線で示すバルジ振動F1に特性変更することができ、実用域においてユーザが認識し得るエンジン騒音を低減している。
この設計支援装置10によれば、コンロッド2の伸縮モード周波数F2をバルジモード周波数帯域Zの上限周波数Z1よりも高くするため、コンロッド2の伸縮振動による影響を除いたシリンダブロック系による振動とコンロッド2の伸縮振動との共振を防止し、バルジ振動の増幅を防止することができる。また、伸縮モード周波数F2をバルジモード周波数帯域Zよりも高くするため、コンロッド2の所定部分の断面積を増加することにより、コンロッド2の剛性を向上できる。それ故、バルジ振動に起因したエンジン1の騒音低下とコンロッド2の剛性向上とを両立することができる。
形状変更部19において、歪エネルギ密度の高い部分の断面積を大きくするため、エンジン騒音低下を図りつつ、コンロッド2の剛性が低い部分を能率的に補強することができる。
1〕前記実施例においては、コンロッド形状モデルの2殿形状変更によってコンロッド形状を決定した例を説明したが、伸縮モード周波数とバルジモード周波数帯域の上限周波数との関係によって、形状変更回数は決定される。最初の伸縮モード周波数とバルジモード周波数帯域の上限周波数との比較で、伸縮モード周波数が上限周波数よりも大きい場合、形状変更を行わない。また、形状変更工程におけるI幹部の断面積増加量は、予め実験値により設定しても良い。
2 コンロッド
4 シリンダブロック
8 ピストン
9 クランク軸
10 設計支援装置
15 制御部
16 モデル作成部
17 第1解析部
18 第2解析部
19 形状変更部
M 剛体モデル
M1 ブロック系形状モデル
M2 コンロッド形状モデル
F1 バルジモード周波数
F2 伸縮モード周波数
Z バルジモード周波数帯域
Claims (6)
- エンジンのコネクティングロッドの設計支援方法において、
シリンダブロックとクランク軸とコネクティングロッドとピストンとを含み且つ前記コネクティングロッドを伸縮させない剛体モデルを含むブロック系形状モデルと、前記コネクティングロッドの伸縮作動が許容されたコネクティングロッド形状モデルとを製品設計情報に基づいて作成するモデル作成工程と、
前記ブロック系形状モデルの振動解析により前記シリンダブロックのバルジモード周波数が集中するバルジモード周波数帯域を検出するバルジモード周波数帯域解析工程と、
前記コネクティングロッド形状モデルの振動解析により前記コネクティングロッドの伸縮モード周波数を検出する伸縮モード周波数解析工程と、
前記伸縮モード周波数が前記バルジモード周波数帯域よりも高くなるように前記コネクティングロッドの形状を変更する形状変更工程と、
を備えたことを特徴とするエンジンのコネクティングロッドの設計支援方法。 - 前記形状変更工程において、前記コネクティングロッドの歪エネルギ密度の分布状態を用いて重量増加を最小にするように前記コネクティングロッドの形状を変更することを特徴とする請求項1に記載のエンジンのコネクティングロッドの設計支援方法。
- 前記形状変更工程において、前記歪エネルギ密度の高い部分の断面積を大きくすることを特徴とする請求項2に記載のエンジンのコネクティングロッドの設計支援方法。
- エンジンのコネクティングロッドの設計支援装置において、
シリンダブロックとクランク軸とコネクティングロッドとピストンとを含み且つ前記コネクティングロッドの伸縮させない剛体モデルを含むブロック系形状モデルと、前記コネクティングロッドの伸縮作動が許容されたコネクティングロッド形状モデルとを製品設計情報に基づいて作成するモデル作成手段と、
前記ブロック系形状モデルの振動解析により前記シリンダブロックのバルジモード周波数が集中するバルジモード周波数帯域を検出するバルジモード周波数帯域解析手段と、
前記コネクティングロッド形状モデルの振動解析により前記コネクティングロッドの伸縮モード周波数を検出する伸縮モード周波数解析手段と、
前記伸縮モード周波数が前記バルジモード周波数帯域よりも高くなるように前記コネクティングロッドの形状を変更する形状変更手段と、
を備えたことを特徴とするエンジンのコネクティングロッドの設計支援装置。 - 前記形状変更手段において、前記コネクティングロッドの歪エネルギ密度の分布状態を用いて重量増加を最小にするように前記コネクティングロッドの形状を変更することを特徴とする請求項4に記載のエンジンのコネクティングロッドの設計支援装置。
- 前記形状変更手段において、前記歪エネルギ密度の高い部分の断面積を大きくすることを特徴とする請求項5に記載のエンジンのコネクティングロッドの設計支援装置。
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