JP6124558B2 - 新規微生物および、鉄シアノ錯体またはニッケルシアノ錯体の分解方法 - Google Patents
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Description
汚染土壌の処理の実態としては、土地所有者の心理的要因や、不動産取引における経済的側面を考慮して、完全浄化を目的とした掘削除去を選択することが多い。特に重金属類は、鉛やカドミウム等のようにそれ以上の分解は不可能であり、掘削除去による対策費用は5万円/m3以上の高コストであるにも関わらず、第二種特定有害物質の超過事例の83%で掘削除去が採用されている(「土対法事例結果」による)。掘削除去の比率が、83%と非常に高いのは、原位置浄化技術が確立されていないことも大きな理由である。特に、シアン化合物については、原位置浄化技術が適用できる範囲が限られている。不溶化処理は、長期的なモニタリングを必要とし、開発の際には土地造成が制限される。薬剤添加処理(フェントン法)やオゾン注入処理は、安定なフェロシアン(鉄とシアンの錯体)には適用できないなど、一部の金属シアノ錯体化合物に限られる。掘削除去の場合は、別途掘削土壌の無害化処理が必要であり、セメント原料化を代表とする熱処理や、化学処理である不溶化処理、薬剤添加処理、オゾン分解処理、物理処理である分級洗浄処理がある。前述のように、金属シアノ錯体は分解が容易でなく、熱処理が採用されることが多い。また、その熱処理についても、セメント原料化の場合での受入基準は厳しいものとなっており、専用の熱処理施設に処理を委ねるしか手段がない。したがって、金属シアノ錯体の処理費は、通常の重金属処理費に比べても高価なものになっており、より低コストな処理方法として原位置浄化技術の適用が求められている。
<1>比較的分解の容易な遊離シアンや銅シアノ錯体の汚染土壌である、なおかつ、
<2>注入工法に適した地層条件(透水性が良く、注入物質の移動が容易に行なわれる飽和層)
といった場合において浄化を確認した実証研究段階にとどまっている。
シアン化合物はその形態が多岐にわたり、特に鉄シアノ錯体は非常に安定な物質である。製鉄業やガス事業で問題になっている石炭ガス由来のシアン化合物汚染土壌に含まれるシアン化合物は、ほとんどが鉄シアノ錯体であることが知られている。また、メッキ工場でのシアン汚染土壌は、メッキ浴に使用した重金属による銅シアノ錯体であるが、土壌中には鉄が多く含まれるため、地中に浸透拡散したシアン化合物は鉄シアノ錯体としても存在しており、環境基準達成のためには難分解な鉄シアノ錯体の分解が必要である。
上記目的を解決するために本発明は、鉄シアノ錯体分解能力を有する新規クロストリジウムER−CL−1株を提供するものである。
本発明者らは、金属シアノ錯体化合物の中でもより微生物によって分解されやすいニッケルシアノ錯体を基質として、一般土壌を分離源として嫌気的に集積培養を行い、ニッケルシアノ錯体を嫌気的に分解する嫌気性微生物のコンソーシアムを得た。
また、この嫌気性微生物のコンソーシアムが、絶対嫌気性微生物であるクロストリジウム属微生物と通性嫌気性微生物であるクレブシエラ属微生物またはエンテロバクター属微生物の混合物であることを見いだした。
経験的に、嫌気性微生物コンソーシアムは絶対嫌気性微生物と通性嫌気性微生物の混合物であることが多い。
これら嫌気性微生物コンソーシアムの培養においては、これらの微生物は互いに共生関係にあり分離培養が難しい場合がある。特に、絶対嫌気性微生物は酸素が存在しても増殖できる通性嫌気性微生物と共存することによって、酸素の暴露による死滅から守られている場合がある。
水田、もしくは河川敷の土壌から下記ニッケルシアノ錯体培地1〜4を用いて金属シアノ錯体分解微生物の集積培養を行った。
Na2HPO4 ・・・0.1 %
KH2PO4 ・・・0.05 %
NaCl ・・・0.05 %
MgSO4 ・・・1 mM
FeCl3 ・・・0.02 mM
CaCl2 ・・・0.1 mM
グルコース・・・10 mM
pH 7.0
ペプトン・・・5 g/L
Yeast Extract・・・2.5 g/L
グルコース・・・1 g/L
pH 7.0
嫌気性菌用NSバイオアクティ(新日鉄住金エンジニアリング社製)・・・1 %
pH 7.0
基本合成培地
K2[Ni(CN)4]・・・0.5 mM
pH 7.0
嫌気性菌用NSバイオアクティ培地
K2[Ni(CN)4]・・・0.5 mM
pH 7.0
基本合成培地
塩化アンモニウム・・・20 mM
K2[Ni(CN)4]・・・0.5 mM
pH 7.0
基本合成培地
グルタミン酸ナトリウム・・・20 mM
K2[Ni(CN)4]・・・0.5 mM
pH 7.0
嫌気性菌用NSバイオアクティ・・・1 %
フェロシアン化カリウム・・・・0.5mM
pH 7.0
STD
KCN・・・0.5 mM
STD
K2[Ni(CN)4]・・・0.5 mM
STD
フェロシアン化カリウム・・・・0.5mM
(1).1gの土壌を20ml培地で1週間培養する。
(2).(1)で得られた培養液0.2mlを新しい培地20mlに植継ぎ1週間培養する。
(3).(1)、(2)を繰り返し植継ぎを6回繰り返す。
6回目の集積培養液を寒天培地にひろげ、出てきたコロニーについて各ニッケルシアノ錯体培地で培養し、増殖がみられたコロニーについて16SrRNAの配列を調べた。
上記コロニーの液体培養による継代培養中の培養液500μlからExtrap Soil DNA Kit Plus ver. 2(J−Bio 21)を用いてDNAを抽出、このDNAを鋳型として16SrDNAユニバーサルプライマー(27F/Bac1392R)を用いて16SrDNAをPCR増幅した。次に、TOPO TAクローニングキット(インビトロジェン)を用いてこのPCR産物をクローニングした。
24個のクローンに対しベクター特異的プライマーで挿入配列をPCR増幅し、PCR産物を制限酵素HaeIIIを用いたRFLP解析によりグループ分けした。それぞれのグループについてシーケンス解析とBlast解析により近縁種の検索を行った。
・コンソーシアム1(con1)
大阪府北部の水田より採取した土壌からK2[Ni(CN)4]を唯一の窒素源として集積培養したもの
・コンソーシアム2(con2)
大阪府の淀川の河川敷より採取した土壌からK2[Ni(CN)4]を唯一の窒素源として集積培養したもの
各コンソーシアムによるシアン分解活性を調べた。
(培養条件)
コンソーシアム1(100μl)+ニッケルシアノ錯体培地1(20ml)
コンソーシアム2(100μl)+ニッケルシアノ錯体培地1(20ml)
コンソーシアム1(100μl)+ニッケルシアノ錯体培地2(20ml)
コンソーシアム2(100μl)+ニッケルシアノ錯体培地2(20ml)
コンソーシアム1(100μl)+ニッケルシアノ錯体培地3(20ml)
コンソーシアム2(100μl)+ニッケルシアノ錯体培地3(20ml)
コンソーシアム1(100μl)+ニッケルシアノ錯体培地4(20ml)
コンソーシアム2(100μl)+ニッケルシアノ錯体培地4(20ml)
コンソーシアム1(100μl)+(ANS+フェロシアン)(20ml)
コンソーシアム2(100μl)+(ANS+フェロシアン)(20ml)
ER−CL−1株(100μl)+(STD+シアン化カリウム培地)(20ml)
ER−CL−1株(100μl)+(STD+ニッケルシアノ錯体培地)(20ml)
ER−CL−1株(100μl)+(STD+フェロシアン化カリウム培地)(20ml)
いずれも、嫌気条件、30℃、振騰培養
図1に、コンソーシアムのニッケルシアノ錯体分解能力(栄養剤の影響)を示す。また、図2に、コンソーシアムのニッケルシアノ錯体分解能力(窒素源の影響)を、図3に、コンソーシアムの鉄シアノ錯体分解能力を、図4に、ER−CL−1株のシアン化カリウム分解能力を、図5に、ER−CL−1株のニッケルシアノ錯体分解能力を、図6に、ER−CL−1株の鉄シアノ錯体分解能力をそれぞれ示す。(図4〜6においてER−CL−1株をCL1と表記している)
ニッケルシアノ錯体以外の窒素源が含まれていない場合は、両コンソーシアムともすみやかにニッケルシアノ錯体中のシアンを分解して増殖した。
また、ニッケルシアノ錯体以外の窒素源が含まれている場合は、コンソーシアム1は最後までニッケルシアノ錯体中のシアンを分解できるが、コンソーシアム2は分解が停止した。
また、図4,5に示すように、ER−CL−1株単独であっても同様のシアン分解能力を発揮することが確認された。
また、図6より、ER−CL−1株は、鉄シアノ錯体含有の栄養培地でも、単独で増殖し鉄シアノ錯体を分解することがわかった。
(1)分離源が異なっても、ニッケルシアノ錯体で集積培養すると互いによく似た菌相に収斂する。
(2)これらの菌相内の金属シアノ錯体分解微生物は微妙に違い、コンソーシアムの金属シアノ錯体分解活性は互いに異なる。
(3)上記コンソーシアムによると、鉄シアノ錯体を基質としても全シアンの分解傾向が認められた。さらに、鉄シアノ錯体から遊離シアンの生成を促進する栄養剤との併用で鉄シアノ錯体の分解が促進されると考えられる。
(4)新規クロストリジウムER−CL−1株は通常の栄養培地で増殖できるが、アンモニアやニッケルシアノ錯体を唯一のN源とする培地では単独では増殖できず、増殖には、クレブシエラ属微生物またはエンテロバクター属微生物から選ばれる少なくとも一種の通性嫌気性微生物とともに培養する必要がある。
(5)一方、クレブシエラ属微生物またはエンテロバクター属微生物から選ばれる少なくとも一種の通性嫌気性微生物は、ニッケルシアノ錯体を唯一のN源とする培地では単独で増殖できず、増殖には、逆に(金属シアノ錯体分解性の)クロストリジウム属微生物の添加を必要とする。
(6)新規クロストリジウムER−CL−1株をニッケルシアノ錯体含有の栄養培地で培養すると、単独で増殖しニッケルシアノ錯体を分解する。
(7)新規クロストリジウムER−CL−1株を鉄シアノ錯体含有の栄養培地で培養した場合にも、単独で増殖し鉄シアノ錯体を分解する。
下記YPG寒天培地によって上記コンソーシアムを培養することで、クロストリジウム属微生物をコンソーシアムから単離することができた。
Yeast Extract・・・0.5 g/L
ポリペプトン・・・1 g/L
グルコース・・・0.2 g/L
寒天末・・・15 g/L
Claims (2)
- 鉄シアノ錯体分解能力を有する新規微生物クロストリジウムクロモレダクタンス(Clostridium chromoreductans)ER−CL−1株(寄託番号NITE P−1434)。
- 請求項1記載の新規微生物を、クレブシエラ属微生物およびエンテロバクター属微生物から選ばれる少なくとも一種の通性嫌気性微生物とともに鉄シアノ錯体またはニッケルシアノ錯体含有培地で培養する鉄シアノ錯体またはニッケルシアノ錯体の分解方法。
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