本発明にかかる標的物質の検出方法における、実施の形態について、図面を用いて、詳しく説明する。なお、全ての図面において、対応する構成要素には同じの符号を付し、適宜説明を省略する。
(第1の実施形態)
図3を用いて、第1の実施形態の標的物質の検出方法について、詳しく説明する。
第1の実施形態では、本発明に係る標的物質の検出方法および標的物質検出用の検査キットの一例を示す。
第1の実施形態の標的物質7の検出方法は、次の工程を含む。まず、複合体(ハイブリッド体)11を準備する。複合体(ハイブリッド体)11は、アプタマー1、第1の核酸断片2、および、光異性化分子3を具える。アプタマー1は、検体試料(検査対象物)中の標的物質7と特異的に結合する塩基配列を有する。第1の核酸断片2は、アプタマー1と相補的な塩基配列を有する。アプタマー1と第1の核酸断片2は、互いの相補的な塩基配列によって二本鎖を形成する二本鎖形成部位5を有している。光異性化分子3は、光エネルギーの照射によって、可逆的に異性化する。また、光異性化分子3は、第1の核酸断片2における二本鎖形成部位5の一部と、アプタマー1における二本鎖形成部位5の一部のいずれか一方、または、その両方に結合されている。次いで、光エネルギーの照射により、光異性化分子3を異性化し、二本鎖結合を不安定化する。次いで、標的物質7をアプタマー1に結合させ、標的物質7とアプタマー1からなる、標的物質/アプタマー複合体を形成させる。この後、標的物質/アプタマー複合体を構成しているアプタマー1から第1の核酸断片2が分離し、二本鎖が開裂する。次いで、再度、光異性化分子3の光異性化反応を生じさせ、複合体(ハイブリッド体)11中の二本鎖結合を安定化する。この後、二本鎖の開裂を検出する。
第1の実施形態において、「二本鎖が開裂する」とは、例えば、第1の核酸断片2がアプタマー1から分離し、二本鎖結合が消えることを意味する。
また、「光異性化分子3の光異性化により二本鎖結合を不安定化する」とは、例えば、光異性化に伴う、光異性化分子3の構造変化によって二本鎖構造の歪みを増大させることを意味する。「二本鎖構造の歪みの増大」に起因して、該二本鎖結合のメルト温度Tmeltingは、低下して、第一のメルト温度Tmelting-1となる。また、「光異性化分子3の光異性化により二本鎖結合を安定化する」とは、例えば、光異性化に伴う、光異性化分子3の構造変化により二本鎖構造の歪みを減少させることを意味する。「二本鎖構造の歪みの減少」に起因して、該二本鎖結合のメルト温度Tmeltingは、上昇して、第二のメルト温度Tmelting-2となる。
また、二本鎖の開裂を検出する手法としては、各種の公知の手段を用いることができ、具体的には後述する。
第1の実施形態において、複合体(ハイブリッド体)11を構成しているアプタマー1と第1の核酸断片2は、二本鎖形成部位5がハイブリダイズすることによって、二本鎖結合を形成する。さらに、この「二本鎖結合の安定性」は、二本鎖形成部位5に結合した光異性化分子3の光異性化よって、可逆的に変化させることができる。具体的には、該二本鎖結合のメルト温度Tmeltingは、第一のメルト温度Tmelting-1と第二のメルト温度Tmelting-2と間で、光異性化分子3の可逆的な光異性化よって、可逆的に変化させることができる。
これにより、光異性化分子3の光異性化反応によって、「二本鎖結合の安定性」を下げた状態で、標的物質7とアプタマー1を結合させることにより、標的物質7/アプタマー1複合体を形成させることができ、その結果、効率的に二本鎖を開裂させることができる。そのため、従来のように、「二本鎖開裂能の向上」を目的として、複合体(ハイブリッド体)11のメルト温度Tmeltingを低下するため、二本鎖形成部位5の塩基数を減少させる必要がなくなる。従って、アプタマー1の二本鎖形成部位5の設計は、「二本鎖維持能」に適合させることが可能となる。
また、二本鎖の開裂を検出する前に、該二本鎖結合のメルト温度Tmeltingを、第一のメルト温度Tmelting-1から第二のメルト温度Tmelting-2に変化させ、「二本鎖結合の安定性」を向上させることができる。そのため、検体中に標的物質7が含まれなかった場合は、複合体(ハイブリッド体)11について、効率的に二本鎖を維持することができる。そのため、標的物質7/アプタマー1複合体の形成に起因する「二本鎖の開裂」について、正確な検出が可能になる。
さらに、光異性化分子3の異性化に伴って、構造変化した光異性化分子3に起因する立体障害の影響は、光異性化分子3が存在する二本鎖形成部位5の近傍に限定される。従って、光異性化分子3の異性化により、二本鎖を不安定化させても、アプタマー1全体の立体構造が崩れることはない。特には、検出時の液温TLが、第一のメルト温度Tmelting-1よりも有意に高い場合(TL≫Tmelting-1)、検出時の液温TLでは、「二本鎖結合の不安定化」に起因して、アプタマー1と第1の核酸断片2の開裂が起きる。その際、光異性化分子3が第1の核酸断片2の二本鎖形成部位5に結合されている場合、解離したアプタマー1の一本鎖核酸分子が形成する立体構造は、光異性化分子3の異性化による影響を全く受けない。従って、標的物質7/アプタマー1複合体の解離平衡定数KDcomplex(TL)の変化に起因する、検出感度への悪影響が低減できる。また、液温TLを上昇させる操作を利用する従来の方法と比較し、液温TLの上昇量を低減でき、検出試料中に含まれる標的物質7が、例えば、熱に弱いタンパク質等である場合、熱変性や凝固に起因する、検体(標的物質7)へのダメージも少ない。そのため、標的物質7が、例えば、熱に弱いタンパク質等である場合、熱変性や凝固に起因する、検出感度への悪影響が低減でき、正確な検出が可能になる。
以上に説明するように、第1の実施形態において、「二本鎖開裂能」は、アプタマー1および第1の核酸断片2が有する二本鎖形成部位5の「塩基数、塩基配列の選択」とは別に、アプタマー1の一部や核酸断片2の一部に結合された光異性化分子3を光異性化することによって、複合体(ハイブリッド体)11のメルト温度Tmeltingを第一のメルト温度Tmelting-1に低下させることで実現される。言い換えると、「二本鎖開裂能」と「二本鎖維持能」という「相反する特性」を両立させるため、二本鎖形成部位5の「塩基数、塩基配列の選択」のみに依らず、「二本鎖開裂能」は、光異性化分子3の異性化に伴って、複合体(ハイブリッド体)11のメルト温度Tmeltingを第一のメルト温度Tmelting-1に低下させることで達成され、一方、「二本鎖維持能」は、二本鎖形成部位5の「塩基数、塩基配列の選択」によって達成される。これにより、「二本鎖開裂能」と「二本鎖維持能」という2つの機能の適正化を、二本鎖形成部位5に結合される、「光異性化分子3の結合数と部位」の選択と、二本鎖形成部位5の「塩基数、塩基配列」の選択に分配することが可能となる。さらに、光異性化分子3の構造変化に起因する、立体障害の影響は、二本鎖形成部位5の近傍のみに作用するため、「二本鎖開裂能」の付与が、標的物質7との結合に直接関与する、アプタマー1の立体構造に及ぼす悪影響を低減することができる。従って、第1の実施形態にかかる、複合体(ハイブリッド体)11の構成を利用することにより、従来の技術では、二本鎖形成部位5の「塩基数、塩基配列」の困難な設計を必要としていた、「互いに相反する特性」である「二本鎖開裂能」と「二本鎖維持能」の両立を、遥かに簡単に実現させることが可能となる。「二本鎖開裂能」と「二本鎖維持能」の両立がなされている複合体(ハイブリッド体)11を用いることにより、優れた検出感度で標的物質7の検出を実現することができる。
また、第1の実施形態の標的物質の検出方法は、下記の工程で構成される:
(工程1):
標的物質7に対して特異的に結合するアプタマー1と、アプタマー1と相補的な塩基配列を有する、第1の核酸断片2とが二本鎖形成部位5を有し、前記二本鎖形成部位5に光異性化分子3が配置された複合体(ハイブリッド体)11を調製する、複合体(ハイブリッド体)の調製工程;
(工程2):
第1の波長(λ1)の第一の照射光の照射による、光異性化分子3の光異性化反応によって、アプタマー1と第1の核酸断片2の二本鎖結合を不安定化し、第一のメルト温度Tmelting-1を有する、第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)に変換する、第1の光異性化工程;
(工程3):
液温TL1の液相中において、第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)と検体を接触させる、接触工程;
(工程4):
液温TL2の液相中において、第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)を構成しているアプタマー1に、検体中の標的物質7を作用させ、アプタマー1に標的物質7を結合させてなる、標的物質7/アプタマー1複合体を形成させる、結合工程;
(工程5):
液温TL3の液相中において、標的物質7/アプタマー1複合体の形成に伴い、該複合体を構成した、アプタマー1と第1の核酸断片2との間の二本鎖核酸部位が開裂し、標的物質7/アプタマー1複合体と、第1の核酸断片2とに分離される、開裂工程;
(工程6):
第2の波長(λ2)の第二の照射光の照射による、光異性化分子3の光異性化反応によって、第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)を構成している、アプタマー1と第1の核酸断片2の二本鎖結合を安定化し、第二のメルト温度Tmelting-2を有する、第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)に変換する、第2の光異性化工程;
(工程7):
第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)を構成している、アプタマー1と第1の核酸断片2の二本鎖核酸部位を検知して、第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)を検知する、検知工程。
以下に、第1の実施形態の標的物質の検出方法を構成する、各工程について、図3に例示する、第1の実施態様を参照して、より詳しく説明する。
「複合体(ハイブリッド体)の調製工程」
まず、複合体(ハイブリッド体)11を調製する。この複合体(ハイブリッド体)は、アプタマー1と、第1の核酸断片2と、光異性化分子3を有する(図3(a))。
第1の実施形態では、アプタマー1は、標的物質7との結合による、標的物質7/アプタマー1複合体の立体構造の形成に関与する塩基配列のうち、少なくとも一部が第1の核酸断片2と二本鎖結合の形成に関与する、二本鎖形成部位5に含まれている。また、第1の核酸断片2は、アプタマー1と二本鎖結合を形成可能な二本鎖形成部位5を有している。さらに、第1の核酸断片2の二本鎖形成部位5の一部とアプタマー1の二本鎖形成部位5の一部のいずれか一方、または、その両方に、光異性化分子3が結合されている。
また、アプタマー1の先端部と、第1の核酸断片2の先端部には、それぞれ、標識物質6が結合されている。アプタマー1の二本鎖形成部位5と第1の核酸断片2の二本鎖形成部位5は、互いに相補的な塩基配列によってハイブリダイズすることにより、二本鎖結合(または二本鎖核酸部位)を形成している。
「標的物質の検出工程」
続いて、調製された複合体(ハイブリッド体)11を用いて、標的物質7を検出する工程を、下記の「第1の工程」〜「第4の工程」に分けて、その構成を説明する。
「第1の工程」
第1の実施形態の「第1の工程」では、光異性化分子3の第1の光異性化反応によって、二本鎖結合を不安定化する(図3(b))。光異性化分子3の第1の光異性化反応は、第1の波長(λ1)の第一の照射光の照射により進行する。ここで、「光異性化分子3の第1の光異性化反応によって、二本鎖結合を不安定化する」とは、光異性化分子3の第1の光異性化によって、複合体(ハイブリッド体)11中の二本鎖核酸部位における、アプタマー1と第1の核酸断片2の結合強度を下げることができる限り、その不安定化の機構は限定されない。例えば、光異性化分子3の第1の光異性化反応に伴う、光異性化分子3の構造変化によって、光異性化分子3と二本鎖形成部位5の核酸塩基との間での立体障害を生じさせ、結合強度が低下することを意味する。例えば、生成された立体障害に因り、二本鎖形成部位5の構造が歪み、アプタマー1と核酸断片2の相補的な塩基対による水素結合が弱められる。その際、前記の二本鎖結合の不安定化に伴い、水素結合が消失し、二本鎖の開裂が可能な温度(メルト温度)は、第一のメルト温度Tmelting-1となる。
「不安定化した二本鎖結合」は、解離平衡反応に従って、二本鎖核酸部位の一部または全てが解離した状態を採ることができる。第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)の解離平衡定数KDhybrid-1(TL)=[相補鎖]・[アプタマー]/[不安定化したハイブリダイズ体]は、exp(−k・Tmelting-1/kTL)の温度依存性を示すため、第一のメルト温度Tmelting-1より高い液温TLとすると、二本鎖核酸部位の一部または全てが解離した状態を採ることができる。
「第2の工程」
続いて、第1の実施形態の「第2の工程」では、標的物質7がアプタマー1に結合する(図3(c))。複合体11において、アプタマー1は、標的物質との結合を形成可能な塩基配列の一部が二本鎖核酸部位を形成しているが、他の部位は一本鎖状態である。すなわち、アプタマー1の一本鎖部位の構造が自在に変形できる。言い換えると、アプタマー1は、第1の核酸断片2との二本鎖形成部位5を有するとともに、標的物質7との結合能を有する結合部位を有する。さらに、「第1の工程」により、二本鎖核酸部位が不安定化する結果、第一のメルト温度Tmelting-1より高い液温TLとすると、少なくとも、二本鎖核酸部位の一部が解離した状態となることにより、アプタマー1は標的物質7と結合可能な立体構造を容易に採ることができる。従って、アプタマー1は、検査対象物中の標的物質7と結合することができる。
「第3の工程」
続いて、第1の実施形態の「第3の工程」では、アプタマー1と第1の核酸断片2の間で形成されていた二本鎖結合部位の全てが解離した状態となり、標的物質7と結合したアプタマー1と第1の核酸断片2が開裂する。すなわち、「第2の工程」で、アプタマー1と標的物質7との結合が進行すると、二本鎖形成部位5の二本鎖結合が解消する。この「二本鎖結合の解消」は、標的物質7とアプタマー1の複合体における、標的物質7とアプタマー1との結合が、第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)における、アプタマー1と第1の核酸断片2の結合よりも強い場合に起こる。具体的には、標的物質7とアプタマー1の複合体の解離平衡定数KDcomplex(TL)=[標的物質]・[アプタマー]/[複合体]は、第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)の解離平衡定数KDhybrid-1(TL)と比較して、KDcomplex(TL)≪KDhybrid-1(TL)である場合に、「二本鎖結合の解消」は速やかに進行する。
第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)中において、アプタマー1と第1の核酸断片2の間で形成されていた二本鎖結合部位の全てが解離した状態を採り、二本鎖核酸部位が消滅すると、標的物質7とアプタマー1の複合体は、第1の核酸断片2から離れる(図3(d))。ここで、標的物質7が結合する、アプタマー1の結合部位を構成する塩基配列は、アプタマー1の二本鎖形成部位5の塩基配列の一部または全部と共通している。従って、標的物質7がアプタマー1に結合し、標的物質7とアプタマー1の複合体を形成すると、アプタマー1の二本鎖核酸部位における構造が変形する。また、標的物質7と複合体を形成したアプタマー1は、標的物質7の結合部位を具えた特定の立体構造を形成している。「第3の工程」における液温TLでは、該特定の立体構造を形成した状態は、立体構造を示さない一本鎖の状態より、熱的に安定である。そのため、標的物質7と複合体を形成したアプタマー1と、第1の核酸断片2との複合体(ハイブリッド体)の再形成が阻害され、開裂状態に維持される。
「第4の工程」
続いて、第1の実施形態の「第4の工程」では、第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)中において、アプタマー1と第1の核酸断片2の間で形成されている二本鎖結合を、第2の光異性化反応によって安定化する。ここで、第2の光異性化反応によって二本鎖結合を安定化するとは、第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)中の光異性化分子3に対して、第2の光異性化を施すことによって、アプタマー1と第1の核酸断片2の二本鎖核酸部位5における結合強度を上げることができる限り、限定されない。例えば、第1の光異性化反応で異性化した光異性化分子3に、第2の光異性化反応を施して、第1の光異性化前の構造に戻すことで、アプタマー1と第1の核酸断片2の二本鎖核酸部位5における結合強度を元に復することを意味する。
なお、「第3の工程」において、開裂により生成した、第1の核酸断片2中の、第1の光異性化反応で異性化した光異性化分子3も、第2の光異性化反応に伴って、第1の光異性化前の構造に戻る。ここで、検体中に標的物質7が存在する場合、標的物質7と複合体を形成したアプタマー1では、アプタマー1の二本鎖核酸部位における構造が変形しており、光異性化分子3が第1の光異性化前の構造に復している、第1の核酸断片2との複合体(ハイブリッド体)の再形成が阻害される。従って、第2の光異性化反応を施しても、標的物質7と複合体を形成したアプタマー1と、第1の核酸断片2とが開裂した状態は維持される(図3(e))。
一方、検体中に標的物質7が存在しない場合、「第1の工程」において、光異性化分子3の第1の光異性化反応によって、二本鎖結合を不安定化された、第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)は、第1の光異性化反応で異性化した光異性化分子3も、第2の光異性化反応に伴って、第1の光異性化前の構造に戻る結果、その二本鎖形成部位5は、再度安定した二本鎖結合を形成する。第2の光異性化処理を施し、安定化した該二本鎖結合のメルト温度Tmeltingは、第二のメルト温度Tmelting-2となる。液温TLに対して、第二のメルト温度Tmelting-2は、十分に高いため、安定化した該二本鎖結合の熱的解離は抑制される。
第2の光異性化反応によって、アプタマー1と第1の核酸断片2の間で形成されている二本鎖結合を安定化した後、アプタマー1と第1の核酸断片2の複合体(ハイブリッド体)中に存在している二本鎖核酸部位の開裂を検出する。二本鎖核酸部位の開裂を検出する手段は、複合体(ハイブリッド体)中に存在している二本鎖核酸部位における二本鎖結合の開裂によって生じる、物理的、化学的変化を検出できる限り限定されない。例えば、二本鎖結合の開裂によって生じる、光学的シグナル、電気的シグナル、色彩的シグナル等のシグナル変化を検出することを意味する。
検査対象物中にアプタマー1と結合する物質(標的物質7)が含まれる場合、「第3の工程」において、標的物質7とアプタマー1との複合体形成に伴って、第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)中の二本鎖結合が開裂する。一方で、アプタマー1と結合する物質(標的物質7)を含まない場合、第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)中の二本鎖結合の不安定化を行っても、開裂には至らない。
従って、「第4の工程」において、二本鎖結合を安定化した後、第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)中のアプタマー1と第1の核酸断片2との間で形成される、二本鎖核酸部位の開裂を検出することによって、検査対象物に標的物質7が含まれるか、否かを検知することができる。
ここで、第1の実施形態の標的物質の検出方法で利用される、検出機構の「効果作用」について、特許文献1および非特許文献1〜2に記載の従来技術(標的物質の検出方法)と比較しつつ、更に説明する。
上記特許文献1に開示される標的物質の検出方法において、二本鎖核酸部位を形成したアプタマーと核酸断片の複合体(ハイブリッド体)に、検知対象物を接触させて、標的物質を検出する間、複合体(ハイブリッド体)を形成するアプタマーと核酸断片との間の結合力(解離平衡定数KDhybrid(TL))は不変である。
その結果、複合体(ハイブリッド体)を形成するアプタマーと核酸断片との間の二本鎖核酸部位が、アプタマーと標的物質の結合を阻害する場合がある。複合体(ハイブリッド体)を形成する際、アプタマーの二本鎖核酸部位は二重らせん構造を採っており、標的物質と結合するために不可欠な立体構造の形成が阻害される。例えば、二本鎖核酸部位が長くなる(塩基数が多くなる)と、該二本鎖核酸部位のメルト温度Tmeltingが高くなる。そのため、該二本鎖核酸部位のメルト温度Tmeltingが液温TLより高い場合、標的物質と結合するために不可欠な立体構造への構造変化が阻害され、その結果、標的物質に対するアプタマーの結合能力が損なわれてしまうという問題が生じる。
そこで、アプタマー1の構造変化を許容するために、該二本鎖核酸部位のメルト温度Tmeltingを液温TLより低くするため、二本鎖核酸部位を形成する、相補な塩基数を過剰に少なくする必要がある。しかし、二本鎖核酸部位を形成する、相補な塩基数が少なくなりすぎると、標的物質が存在しないときであっても、解離平衡定数KDhybrid(TL)に応じて、二本鎖核酸部位を解消して、複合体(ハイブリッド体)の開裂が進行してしまう。従って、標的物質不在時であっても、二本鎖核酸部位を解消して、複合体(ハイブリッド体)が開裂してしまい、複合体(ハイブリッド体)の開裂に基づく、標的物質の検知の妨げとなる。
これに対して、第1の実施形態の標的物質の検出方法においては、「標的物質の検出工程」の「第一の工程」中、アプタマー1と第1の核酸断片2の複合体(ハイブリッド体)中、二本鎖形成部位5に存在する光異性化分子3に第1の光異性化処理を施すことにより、アプタマー1と第1の核酸断片2との間の二本鎖結合の結合力を低下させる。光異性化分子3に第1の光異性化処理を施して、アプタマー1と第1の核酸断片2との間の二本鎖結合の結合力を弱めることにより、不安定化した複合体(ハイブリッド体)の二本鎖核酸部位のメルト温度Tmelting-1を液温TLより低くすることが可能となる。その結果、「第2の工程」では、アプタマー1が標的物質7と結合するために不可欠な立体構造を形成する過程が促進され、該立体構造を形成したアプタマー1と標的物質7を結合させる際、標的物質7とアプタマー1との複合体形成に伴って、効率的に二本鎖核酸部位5の開裂が進行する。さらに、「第3の工程」において、アプタマー1と検知対象物を接触させ、標的物質7とアプタマー1との複合体形成を完了させた後、「第4の工程」では、光異性化分子3に第2の光異性化処理を施すことにより、アプタマー1と第1の核酸断片2との間の二本鎖結合の結合力を高める。その結果、標的物質7と結合していない、アプタマー1と第2の核酸断片2の複合体(ハイブリッド体)中、開裂していない二本鎖形成部位5は、再び安定な二本鎖結合を形成する。従って、「第4の工程」において、光異性化分子3に第2の光異性化処理を施す結果、標的物質7と結合していない、アプタマー1と第1の核酸断片2の複合体(ハイブリッド体)11においては、二本鎖核酸部位5の開裂が抑制される。なお、前記立体構造を形成したアプタマー1と標的物質7との結合により形成される、標的物質7とアプタマー1との複合体は安定である。すなわち、「第4の工程」における液温TLでは、アプタマー1は、標的物質7と結合するために不可欠な立体構造を形成し、標的物質7は、該立体構造を形成したアプタマー1中、特定の部分塩基配列からなる結合部位に結合した状態で、安定な複合体を構成している。また、「第4の工程」における液温TLでは、該立体構造を形成したアプタマー1は、立体構造を解消したアプタマー1(一本鎖状態)よりも、遥かに熱的に安定である。そのため、アプタマー1と第1の核酸断片2の複合体(ハイブリッド体)中、二本鎖形成部位5における、アプタマー1と第1の核酸断片2との間の二本鎖結合の結合力を高めた状態であっても、標的物質7とアプタマー1の複合体の解離平衡定数KDcomplex(TL)=[標的物質]・[アプタマー]/[複合体]は、第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)の解離平衡定数KDhybrid-2(TL)と比較して、少なくとも、KDcomplex(TL)≦KDhybrid-2(TL)の条件を満たしている。従って、標的物質7とアプタマー1の複合体に、一本鎖状態の第1の核酸断片2が作用し、標的物質7とアプタマー1の複合体を解離させ、アプタマー1と第1の核酸断片2の複合体(ハイブリッド体)の再形成が誘起されることはない。結果的に、「第3の工程」中、二本鎖結合の開裂により生成した、一本鎖状態の第1の核酸断片2は、「第4の工程」において、第2の光異性化処理を施した後も、開裂状態に維持される。このようにして、第1の実施形態の標的物質の検出方法によれば、アプタマー1及び第1の核酸断片2の間の二本鎖形成部位5に存在する光異性化分子3に対して、第1の光異性化処理を施すことにより、標的物質7に対する高い反応性を、標的物質7不在時の二本鎖結合の維持能力を両立することができ、検知精度に優れた標的物質の測定方法を実現することができる。
また、非特許文献1には、図1に模式的に示すように、標的物質ATP107と、相補鎖102と二本鎖核酸を形成したATPアプタマー101を混合した液を加熱した後、液を冷却することで、標的物質ATP107とATPアプタマー101との複合体の形成を行う、ATPの検出方法が開示されている。非特許文献1に開示する方法によれば、加熱によって、ATPアプタマー101と相補鎖102の二本鎖は一時的に不安定化し、一部が解離する。その際、その液温TLにおける、ATPアプタマー101と相補鎖102の複合体(ハイブリッド体)の解離平衡定数KDhybrid(TL)=[相補鎖]・[ATPアプタマー]/[ハイブリダイズ体]と、標的物質ATP107とATPアプタマー101の複合体の解離平衡定数KDcomplex(TL)=[ATP]・[ATPアプタマー]/[複合体]に従って、標的物質ATP107とATPアプタマー101の複合体の形成がなされる。その後、液温TLでは一時的に不安定化していたATPアプタマー101と相補鎖102の複合体(ハイブリッド体)においては、冷却することによって、二本鎖を再安定化することができると考えられる。
加熱による二本鎖の不安定化は、塩基対を構成する核酸塩基の熱運動の増加に伴う、塩基対間の水素結合の解離と、核酸主鎖に溶媒和している、溶媒の水分子との水素結合の解離とによってもたらされる。従って、塩基対間の水素結合が存在する二本鎖核酸部位だけではなく、ATPアプタマー101の一本鎖部分の構造も、加熱によって不安定化してしまう。従って、液温TLが必要以上に高い場合、ATPアプタマー101が標的物質ATP107と結合するための立体構造を採る効率(比率)が低下し、結果的に、標的物質ATP107に対する結合能力が損なわれる。そのため、加熱時の液温TLが必要以上に高い場合、標的物質ATP107とATPアプタマー101との複合体形成に基づく、標的物質ATP107の検出が阻害されてしまう恐れがある。
それに対し、第1の実施形態の標的物質の検出方法によれば、二本鎖結合の不安定化は、光異性化分子3の光異性化による立体障害に起因しており、その不安定化が及ぶ範囲は、光異性化分子3が隣接する塩基に限定される。すなわち、光異性化分子3の光異性化による、核酸鎖の立体構造に対する影響は、光異性化分子3が結合しているアプタマー1や第1の核酸断片2の二本鎖形成部位5の一部に限定される。従って、「標的物質の検出工程」では、液温TLを、不安定化した複合体(ハイブリッド体)の二本鎖核酸部位のメルト温度Tmelting-1より高く、再安定化した複合体(ハイブリッド体)の二本鎖核酸部位のメルト温度Tmelting-2より低く(Tmelting-2>TL>Tmelting-1)、選択する。そのため、アプタマー1の核酸一本鎖により構成される、標的物質7との結合に不可欠な立体構造の熱的な不安定化が生じる温度より、液温TLを十分に低い範囲に選択することが可能である。従って、第1の実施形態の標的物質の検出方法によれば、光異性化分子3に第1の光異性化処理を施し、該二本鎖核酸部位を一時的に不安定化し、解離させるため、液温TLをまで上昇させる加熱処理を採用する。しかし、第1の実施形態の標的物質の検出方法においては、液温TLを必要以上に高くすることに起因する、検出感度への悪影響は、顕著に低減できる。
また、非特許文献2には、図11に模式的に示す、標的物質のトロンビン134に結合するトロンビンアプタマー131と、該トロンビンアプタマー131の一部に対する相補鎖132と光異性化分子133を有する核酸プローブが記載されている。しかし、その核酸プローブの動作および効果は、第1の実施形態で利用する、アプタマー1と第2の核酸断片2の複合体(ハイブリッド体)の動作および効果と異なっている。第1の実施形態の標的物質の検出方法の検出工程に従って、アプタマー1と第2の核酸断片2の複合体(ハイブリッド体)に代えて、非特許文献2に開示される核酸プローブを、標的物質の検知に適用することはできない。
非特許文献2に開示される核酸プローブでは、トロンビンアプタマー131の延長上にアプタマーの一部と相補な塩基配列(相補鎖132)が追加され、この相補鎖132にはアゾベンゼン(光異性化分子133)が修飾されている(図11a)。非特許文献2によれば、アゾベンゼンに、紫外光を照射すると、アゾベンゼンがシス体に光異性化し、トロンビンアプタマー131と相補鎖132の二本鎖結合の形成が阻害される。すなわち、アゾベンゼン(光異性化分子133)がトランス体である場合、核酸プローブは、該二本鎖結合のメルト温度Tmelting-transより低い液温TLでは、二本鎖結合を形成した状態(「核酸プローブ−トランス体」)を維持できるが、アゾベンゼン(光異性化分子133)がシス体である場合、立体障害が生じ、液温TLでは、二本鎖結合は熱的に解消され、「一本鎖核酸プローブ−シス体」に変換される。その際、二本鎖結合を解消した、トロンビンアプタマー131は、液温TLにおいて、トロンビン134との結合に不可欠な立体構造を形成することが可能となる。形成される立体構造に存在する結合部位に対して、トロンビン134が結合する結果、トロンビン134と「一本鎖核酸プローブ−シス体」の複合体が形成される。液温TLにおける、トロンビン134と「一本鎖核酸プローブ−シス体」の複合体(「複合体−シス体」)の解離平衡定数KDcomplex-cis(TL)は、KDcomplex-cis(TL)=[トロンビン]・[一本鎖核酸プローブ−シス体]/[複合体−シス体]と表記される。
また、アゾベンゼンのシス体に、可視光を照射すると、アゾベンゼンのシス体は、トランス体に光異性化する。アゾベンゼン(光異性化分子133)がトランス体の場合、トロンビンアプタマー131と相補鎖132の二本鎖結合の形成は阻害されない。従って、液温TLの液中に存在している、「一本鎖核酸プローブ−トランス体」は、熱的により安定な「核酸プローブ−トランス体」に変換される。
一方、トロンビン134と「一本鎖核酸プローブ−シス体」の複合体も、アゾベンゼン(光異性化分子133)がシス体からトランス体に光異性化する結果、トロンビン134と「一本鎖核酸プローブ−シス体」の複合体(複合体−トランス体)に変換される。液温TLにおける、トロンビン134と「一本鎖核酸プローブ−トランス体」の複合体(「複合体−トランス体」)の解離平衡定数KDcomplex-trans(TL)は、KDcomplex-trans(TL)=[トロンビン]・[一本鎖核酸プローブ−トランス体]/[複合体−トランス体]と表記される。
アゾベンゼンのシス体を、トランス体に光異性化する処理を完了させると、液温TLの液中における、「一本鎖核酸プローブ−トランス体」の濃度[一本鎖核酸プローブ−トランス体]は、実質的に「0」となる。その結果、光異性化処理により生成した、トロンビン134と「一本鎖核酸プローブ−トランス体」の複合体(「複合体−トランス体」)は、解離平衡定数KDcomplex-trans(TL)に従って、解離して、「一本鎖核酸プローブ−トランス体」とトロンビンを生成するが、生成した「一本鎖核酸プローブ−トランス体」は、トロンビンアプタマー131と相補鎖132の二本鎖結合の形成を行って、熱的により安定な「核酸プローブ−トランス体」に変換される。
最終的に、光異性化処理により生成した、トロンビン134と「一本鎖核酸プローブ−トランス体」の複合体(「複合体−トランス体」)は、実質的に全て、解離して、液温TLの液中には、トロンビンと、トロンビンアプタマー131と相補鎖132の二本鎖結合の形成を行って、熱的により安定な「核酸プローブ−トランス体」のみが溶解している状態となる(図11b)。
見掛け上、紫外光照射によって、トロンビンアプタマー131とトロンビン134を結合させた後、可視光を照射すると、光異性化によってトロンビンアプタマー131との結合力が回復した相補鎖132が、トロンビン134を押し退け、アプタマー131と相補鎖132の二本鎖結合の形成を行う結果、トロンビン134がアプタマー131から解離されているように見える。
言い換えると、非特許文献2に開示される核酸プローブでは、アゾベンゼン(光異性化分子133)で修飾された相補鎖132は、紫外光照射による、アゾベンゼンのシス体への光異性化によって、アプタマー131との結合力が弱まることに伴い、アプタマー131の標的物質134に対する結合能力を発揮させ、また、その後、可視光照射による、アゾベンゼンのトランス体への光異性化によって、アプタマー131との結合力を強めることに伴い、アプタマー131の標的物質トロンビン134に対する結合能力を消失させる効果が得られることが、記載されている。従って、可視光照射による、アゾベンゼンのトランス体への光異性化処理を施すと、標的物質トロンビン134と核酸プローブとの複合体は、全て、解離するため、可視光照射による、アゾベンゼンのトランス体への光異性化処理を施した後に、アプタマー131と相補鎖132の二本鎖結合を検出することにより、標的物質トロンビン134と核酸プローブとの複合体の検出する手法を適用することは、原理的に不可能である。
それに対し、第1の実施形態の標的物質の検出方法は、第1の工程〜第4の工程を経た後に、アプタマー1と第1の核酸断片2の複合体(ハイブリッド体)の量を検出し、標的分子7とアプタマー1の複合体形成に伴う、複合体(ハイブリッド体)の量の減少に基づき、精度に優れた標的物質7の検出が可能であるという、新たな知見に基づいている。
第1の実施形態の標的物質の検出方法において、「第3の工程」で形成した、アプタマー1と標的物質7の複合体の解離平衡定数KDcomplex(TL)=[標的物質]・[立体構造を有するアプタマー]/[複合体]は、第1の光異性化処理済の不安定化された複合体(ハイブリッド体)の解離平衡定数KDhybrid-1(TL)=[第1の光異性化処理済相補鎖]・[一本鎖状のアプタマー]/[不安定化したハイブリダイズ体]に対して、「第3の工程」、「第4の工程」の液温TLでは、KDcomplex(TL)≪KDhybrid-1(TL)の条件を満たしている。また、第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)の解離平衡定数KDhybrid-2(TL)=[第2の光異性化処理済相補鎖]・[一本鎖状のアプタマー]/[再安定化したハイブリダイズ体]は、第1の光異性化処理済の不安定化された複合体(ハイブリッド体)の解離平衡定数KDhybrid-1(TL)に対して、「第4の工程」の液温TLでは、KDhybrid-2(TL)≪KDhybrid-1(TL)の条件を満たしている。
また、「第3の工程」、「第4の工程」の液温TLでは、「立体構造を有するアプタマー」が有する「標的物質7との結合に不可欠な立体構造」は、アプタマー1と第1の核酸断片2の複合体(ハイブリッド体)から解離される「一本鎖状のアプタマー」の一本鎖構造と比較して、熱的に安定である。液温TLにおいて、標的物質7とアプタマー1の複合体が形成されることは、「立体構造を有するアプタマー1」が有する「標的物質7との結合に不可欠な立体構造」は、標的物質7と結合することによって、更に、熱的な安定性を増すことを示している。
加えて、「第4の工程」の液温TLでは、標的物質7とアプタマー1の複合体の解離平衡定数KDcomplex(TL)は、第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)の解離平衡定数KDhybrid-2(TL)と比較して、少なくとも、KDcomplex(TL)≦KDhybrid-2(TL)の条件を満たすように、アプタマー1と第1の核酸断片2の複合体(ハイブリッド体)の二本鎖形成部位5を構成する塩基対の数を調整することが可能である。
一方、アプタマー1と第1の核酸断片2の複合体(ハイブリッド体)の二本鎖形成部位5を構成する塩基対の数が不必要に多い場合、「第4の工程」の液温TLでは、KDhybrid-2(TL)<KDcomplex(TL)≪KDhybrid-1(TL)となる。KDhybrid-2(TL)<KDcomplex(TL)の関係が存在する場合、第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)と比較して、アプタマー1と標的物質7の複合体の熱的安定性が劣っている。そのため、「第4の工程」の液温TLで長時間保持し、熱的に平衡した状態に移行させると、アプタマー1と標的物質7の複合体の濃度[複合体]は低下し、第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)の濃度[再安定化したハイブリダイズ体]は上昇する。
見掛け上、アプタマー1と結合している標的物質7は、「第4の工程」では、アプタマー1と第1の核酸断片2の結合力が回復することにより、標的物質7の一部がアプタマー1から離れ、「第3の工程」から「第4の工程」に移行する結果、「二本鎖結合の開裂」に起因する、「第1の核酸断片2」の濃度[第2の光異性化処理済相補鎖]が減少することが考えられる。しかし、標的物質7が結合している、アプタマー1の「立体構造」は、第2の光異性化処理済相補鎖の「第1の核酸断片2」とアプタマー1の間の「二本鎖結合形成」に適する「一本鎖構造」と相違している。勿論、標的物質7とアプタマー1の複合体に、「第1の核酸断片2」が直接作用し、「立体構造を有するアプタマー1」と「第1の核酸断片2」の間で、二本鎖結合を形成することは阻害されている。
従って、第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)を形成するには、標的物質7とアプタマー1の複合体の熱的解離、「立体構造を有するアプタマー1」から一本鎖構造のアプタマー1への熱変性、一本鎖構造のアプタマー1と「第1の核酸断片2」との間の二本鎖結合の形成、以上の三つのステップが必要である。「第4の工程」の液温TLでは、標的物質7とアプタマー1の複合体の熱的解離、「立体構造を有するアプタマー1」から一本鎖構造のアプタマー1への熱変性の二つのステップ、特に、標的物質7とアプタマー1の複合体の熱的解離のステップは速やかに進行しない。そのため、「二本鎖結合の開裂」に起因する「第1の核酸断片2」が、第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)の再形成を完了するには、相当の時間を要する。従って、「第3の工程」において、「二本鎖結合の開裂」に起因して生成する「第1の核酸断片2」の一部は、「第4の工程」の間も、引き続き、「開裂状態」に維持される。
一方、検体試料中に標的物質7が含まれていない場合、「第3の工程」において、標的物質7とアプタマー1の複合体は形成されない。従って、「二本鎖結合の開裂」に起因して生成するアプタマー1は、「立体構造を有するアプタマー1」と一本鎖構造のアプタマー1の混合物として液中に存在している。その際、「立体構造を有するアプタマー1」と一本鎖構造のアプタマー1は、熱的平衡状態にある。「第4の工程」では、一本鎖構造のアプタマー1が、第2の光異性化処理済相補鎖の「第1の核酸断片2」と二本鎖結合を形成する結果、第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)を生成すると、液中の一本鎖構造のアプタマー1の濃度[一本鎖状のアプタマー]が減少する。その際、熱的平衡状態にある「立体構造を有するアプタマー1」は、一本鎖構造のアプタマー1に熱変性される。第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)の生成速度は速いので、熱変性による、「立体構造を有するアプタマー1」から一本鎖構造のアプタマー1への変換も速やかに進行する。結果的に、検体試料中に標的物質7が含まれていない場合、「第3の工程」中、「二本鎖結合の開裂」に起因して生成するアプタマー1と「第1の核酸断片2」は、「第4の工程」において、ほぼ全てが、二本鎖結合を形成し、第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)に再生される。換言すると、検体試料中に標的物質7が含まれていない場合、「第4の工程」の進行中に、「二本鎖結合の開裂」に起因して生成する「第1の核酸断片2」のほとんどは、「開裂状態」に維持されない。
このように、「検体試料中に標的物質7の存在」時と「検体試料中に標的物質7の不在」時では、「第4の工程」を遂行した後、「二本鎖結合の開裂状態」に維持されている「比率」が明確に異なる。「二本鎖結合の開裂状態」に維持されている「比率」を、指標とすることで、検知精度に優れた「標的物質の検出方法」が実現できる。
一方、非特許文献2に開示される核酸プローブにおいて、可視光照射により、第2の光異性化処理を施し、核酸プローブを、「一本鎖核酸プローブ−シス体」から「一本鎖核酸プローブ−トランス体」に変換した際、液温TLにおいて、標的物質のトロンビン134と「一本鎖核酸プローブ−トランス体」の複合体(「複合体−トランス体」)を効果的に消失させるためには、液相に存在する「一本鎖核酸プローブ−トランス体」の濃度[一本鎖核酸プローブ−トランス体]を効率的に減少させる必要がある。すなわち、「一本鎖核酸プローブ−トランス体」を、「核酸プローブ−トランス体」に、効率的に変換する必要がある。
同時に、液相に存在する「一本鎖核酸プローブ−トランス体」の濃度[一本鎖核酸プローブ−トランス体]が減少した際、標的物質のトロンビン134と「一本鎖核酸プローブ−トランス体」の複合体(「複合体−トランス体」)の解離が、該「複合体−トランス体」の解離平衡定数KDcomplex-trans(TL)に従って、効率的に進行する必要がある。
液温TLにおいて、「一本鎖核酸プローブ−トランス体」と「核酸プローブ−トランス体」の熱的な平衡は、トロンビンアプタマー131と相補鎖132の間の二本鎖結合の解離反応の平衡定数KD-trans(TL)=[一本鎖核酸プローブ−トランス体]/[核酸プローブ−トランス体]により表記される。該平衡定数KD-trans(TL)は、「核酸プローブ−トランス体」における、トロンビンアプタマー131と、相補鎖132の間における二本鎖結合の形成に伴う、安定化エンネルギー:ΔEhybrid-transに依存している。
また、液温TLにおいて、標的物質のトロンビン134と「一本鎖核酸プローブ−トランス体」の複合体(「複合体−トランス体」)の解離平衡は、該「複合体−トランス体」の解離平衡定数KDcomplex-trans(TL)=[トロンビン]・[一本鎖核酸プローブ−トランス体]/[複合体−トランス体]により表記される。該「複合体−トランス体」の解離平衡定数KDcomplex-trans(TL)は、「複合体−トランス体」における、トロンビン134と「立体構造を有するトロンビンアプタマー131」の相互作用(分子間結合)に伴う、安定化エンネルギー:ΔEcomplex-transに依存している。
液温TLにおいて、「複合体−トランス体」の熱的な解離は進行し、一方、「核酸プローブ−トランス体」中の二本鎖結合の解離は進行しないためには、ΔEhybrid-trans≪ΔEcomplex-transであることが好ましいと考えられる。
しかしながら、前記の条件を採用すると、第1の光異性化処理により、形成された標的物質のトロンビン134と「一本鎖核酸プローブ−シス体」の複合体(「複合体−シス体」)は(図11a)、第2の光異性化処理により、標的物質のトロンビン134と、「核酸プローブ−トランス体」へと全て変換される(図11b)。従って、トロンビンアプタマー131と相補鎖132の間の二本鎖結合の「開裂状態」を指標とした、標的物質のトロンビン134の検出に適用するには不都合である。
検体試料中に標的物質のトロンビン134が存在する場合も、存在しない場合も、第2の光異性化処理を施すと、図11bに示すように、核酸プローブは全て、トロンビンアプタマー131と相補鎖132の間の二本鎖結合を再生して、「核酸プローブ−トランス体」へと全て変換されるため、「標的物質の有無」を検知できない。
第1の実施形態の標的物質の検出方法においては、アプタマー1と第1の核酸断片2の複合体(ハイブリッド体)の二本鎖形成部位5を構成する塩基対の数が不必要に多い場合、「第4の工程」の液温TLでは、KDhybrid-2(TL)<KDcomplex(TL)≪KDhybrid-1(TL)となる。KDhybrid-2(TL)<KDcomplex(TL)の関係が存在する場合、第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)と比較して、アプタマー1と標的物質7の複合体の熱的安定性が劣っている。そのため、「第4の工程」の液温TLで長時間保持し、熱的に平衡した状態に移行させると、アプタマー1と標的物質7の複合体の濃度[複合体]は低下し、第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)の濃度[再安定化したハイブリダイズ体]は上昇する。
前記の現象を回避するため、「第4の工程」の液温TLでは、標的物質7とアプタマー1の複合体の解離平衡定数KDcomplex(TL)は、第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)の解離平衡定数KDhybrid-2(TL)と比較して、少なくとも、KDcomplex(TL)≦KDhybrid-2(TL)の条件を満たすように、アプタマー1と第1の核酸断片2の複合体(ハイブリッド体)の二本鎖形成部位5を構成する塩基対の数を調整することが可能である。
第1の実施形態の標的物質の検出方法では、「第4の工程」の液温TLでは、標的物質7とアプタマー1の複合体の解離平衡定数KDcomplex(TL)は、第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)の解離平衡定数KDhybrid-2(TL)と比較して、少なくとも、KDcomplex(TL)≦KDhybrid-2(TL)の条件を選択する。そのため、「第4の工程」の液温TLでは、標的物質7とアプタマー1の複合体の解離を抑制でき、「第3の工程」において、「二本鎖結合の開裂」に起因して生成する「第1の核酸断片2」の一部は、「第4の工程」の間も、引き続き、「開裂状態」に維持される。
従って、先に説明した通り、「検体試料中に標的物質7の存在」時と「検体試料中に標的物質7の不在」時では、「第4の工程」を遂行した後、「二本鎖結合の開裂状態」に維持されている「比率」が明確に異なる。「二本鎖結合の開裂状態」に維持されている「比率」を、指標とすることで、検知精度に優れた「標的物質の検出方法」が実現できる。
また、非特許文献2に開示される核酸プローブを用いて、第1の光異性化処理を施し、「核酸プローブ−トランス体」の二本鎖形成部位に修飾されている、アゾベンゼン(光異性化分子133)をシス体に光異性化することで、熱的に不安定な「核酸プローブ−シス体」に変換し、「核酸プローブ−シス体」中の不安定化した二本鎖結合の解離により、「一本鎖核酸プローブ−シス体」を生成させ、「一本鎖核酸プローブ−シス体」に内在されるトロンビンアプタマー131を利用して、標的物質のトロンビン134と「一本鎖核酸プローブ−シス体」の複合体(「複合体−シス体」)を形成する(図11a)。その際、「複合体−シス体」を構成している、「一本鎖核酸プローブ−シス体」中に内在するトロンビンアプタマー131は、トロンビン134との結合に不可欠は立体構造を採っている。「核酸プローブ−シス体」中の不安定化した二本鎖結合の解離により生成する「一本鎖核酸プローブ−シス体」は、当初、そのトロンビンアプタマー131部分は、一本鎖構造を有しており、その後、熱的に安定な前記立体構造に変換される。
液温TLにおいて、一本鎖構造のトロンビンアプタマー131を内在する「一本鎖構造の一本鎖核酸プローブ−シス体」と、立体構造のトロンビンアプタマー131を内在する「立体構造を有する一本鎖核酸プローブ−シス体」の熱的な平衡は、トロンビンアプタマー131部分の「一本鎖構造」と「立体構造」の間の熱変性反応の平衡定数Kdenaturing-cis(TL)=[一本鎖構造の一本鎖核酸プローブ−シス体]/[立体構造を有する一本鎖核酸プローブ−シス体]により表記される。該平衡定数Kdenaturing-cis(TL)は、「一本鎖核酸プローブ−シス体」における、トロンビンアプタマー131部分の立体構造の形成に伴う、安定化エンネルギー:ΔE3D-form-cisに依存している。
液温TLにおいて、「一本鎖構造の一本鎖核酸プローブ−シス体」と「核酸プローブ−シス体」の熱的な平衡は、トロンビンアプタマー131と相補鎖132の間の不安定化した二本鎖結合の解離反応の平衡定数KD-cis(TL)=[一本鎖構造の一本鎖核酸プローブ−シス体]/[核酸プローブ−シス体]により表記される。該平衡定数KD-cis(TL)は、「核酸プローブ−シス体」における、トロンビンアプタマー131と、相補鎖132の間における不安定化した二本鎖結合の存在に伴う、安定化エンネルギー:ΔEhybrid-cisに依存している。
安定化エンネルギー:ΔE3D-form-cis、安定化エンネルギー:ΔEhybrid-cisは、相対的に小さいため、液温TLが僅かに変動すると、標的物質のトロンビン134と「一本鎖核酸プローブ−シス体」の複合体(「複合体−シス体」)、複合体を形成していない「立体構造を有する一本鎖核酸プローブ−シス体」、「一本鎖構造の一本鎖核酸プローブ−シス体」の濃度の総和が変動する。特に、複合体を形成していない「立体構造を有する一本鎖核酸プローブ−シス体」、「一本鎖構造の一本鎖核酸プローブ−シス体」の濃度の合計は、液温TLが僅かに変動すると、変動を示す。
検体試料中に標的物質のトロンビン134が存在する場合、第2の光異性化処理を施さず、標的物質のトロンビン134と「一本鎖核酸プローブ−シス体」の複合体(「複合体−シス体」)を、「核酸プローブ−シス体」中の不安定化した二本鎖結合の「開裂」に基づき検出し、標的物質のトロンビン134の検出法とする場合を考える。
標的物質のトロンビン134と「一本鎖核酸プローブ−シス体」の複合体(「複合体−シス体」)の濃度[複合体−シス体]は、検体試料中に存在する、標的物質のトロンビン134の濃度に対応する。一方、複合体を形成していない「立体構造を有する一本鎖核酸プローブ−シス体」の濃度[立体構造を有する一本鎖核酸プローブ−シス体]、「一本鎖構造の一本鎖核酸プローブ−シス体」の濃度[一本鎖構造の一本鎖核酸プローブ−シス体]の合計は、残余している「核酸プローブ−シス体」の濃度[核酸プローブ−シス体]に比例している。
標的物質のトロンビン134と「一本鎖核酸プローブ−シス体」の複合体(「複合体−シス体」)の濃度[複合体−シス体]を、「核酸プローブ−シス体」中の不安定化した二本鎖結合の「開裂」に基づき検出するため、[複合体−シス体]≫([立体構造を有する一本鎖核酸プローブ−シス体]+[一本鎖構造の一本鎖核酸プローブ−シス体])の条件を満たすように、測定条件の選択がなされる。
検体試料中に標的物質のトロンビン134が存在していない場合、複合体を形成していない「立体構造を有する一本鎖核酸プローブ−シス体」の濃度[立体構造を有する一本鎖核酸プローブ−シス体]、「一本鎖構造の一本鎖核酸プローブ−シス体」の濃度[一本鎖構造の一本鎖核酸プローブ−シス体]の合計は、勿論、当初の「核酸プローブ−シス体」の濃度[核酸プローブ−シス体]に比例している。その際、液温TLが僅かに上昇し、(TL+ΔT)となると、([立体構造を有する一本鎖核酸プローブ−シス体]+[一本鎖構造の一本鎖核酸プローブ−シス体])は上昇する。
「核酸プローブ−シス体」中の不安定化した二本鎖結合のメルト温度Tmelting-cisに対して、液温TLは、メルト温度Tmelting-cisより僅かに低い温度に設定されている場合、液温TLが僅かに上昇し、(TL+ΔT)となると、(TL+ΔT)>Tmelting-cis>TLとなる場合もある。その場合、上昇した([立体構造を有する一本鎖核酸プローブ−シス体]+[一本鎖構造の一本鎖核酸プローブ−シス体])の値は、検体試料中に標的物質のトロンビン134が低濃度で存在している場合に検出される、「複合体−シス体」の濃度[複合体−シス体]と、([立体構造を有する一本鎖核酸プローブ−シス体]+[一本鎖構造の一本鎖核酸プローブ−シス体])の総和と等しくなり、「検体試料中に標的物質のトロンビン134が低濃度で存在している」と誤検知される。
第1の実施形態の標的物質の検出方法では、検体試料中に標的物質7が存在していない場合、「第3工程」、「第4工程」の液温TLが僅かに上昇し、(TL+ΔT)となり、「第3工程」において、第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)の解離量が増加しても、「第4工程」では、第2の光異性化処理を施すと、第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)のメルト温度Tmelting-2は、(TL+ΔT)よりも十分に高いため、第2の光異性化処理済相補鎖の「第1の核酸断片2」とアプタマー1の間の「二本鎖結合形成」が進行し、「開裂状態1」を維持する、第2の光異性化処理済相補鎖の「第1の核酸断片2」の濃度は、実質的に「0」となる。従って、第1の実施形態の標的物質の検出方法では、検体試料中に標的物質7が存在していない場合、「第3工程」、「第4工程」の液温TLが僅かに変動しても、「検体試料中に標的物質7が低濃度で存在している」という「誤検知」を生じない。
このように、第1の実施形態の標的物質の検出方法において、「標的物質の検出精度を向上させる効果」を達成するためには、下記の(1)〜(3)の条件を満たす「第2の工程」〜「第4の工程」を連続的に実施することが必要である。
(1)第1の光異性化処理によって、光異性化分子3を光異性化し、アプタマー1と第1の核酸断片2の複合体(ハイブリッド体)中の二本鎖結合を不安定化すること;
(2)第2の光異性化処理によって、光異性化分子3を第1の光異性化処理前の構造に復することによって、不安定化されていた二本鎖結合を再安定化すること;さらに、
(3)第2の光異性化処理によって、光異性化分子3を第1の光異性化処理前の構造に復する結果、アプタマー1と第1の核酸断片2の複合体(ハイブリッド体)中の二本鎖結合が再安定化されても、標的物質7とアプタマー1の複合体が形成されている場合、標的物質7とアプタマー1の複合体の解離と、解離したアプタマー1と第1の核酸断片2が二本鎖結合を形成し、アプタマー1と第1の核酸断片2の複合体(ハイブリッド体)の再生は抑制され、標的物質7とアプタマー1の複合体の形成に伴い生成された、一本鎖状の第1の核酸断片2は、「開裂状態」に維持される。
非特許文献2に開示される核酸プローブにおいては、第2の光異性化処理を施し、アゾベンゼン(光異性化分子133)をトランス体に光異性化した際、図11bの状態となる条件が記載されている。しかしながら、図11bの状態に代えて、(3)の条件に相当する、標的物質のトロンビン134と「一本鎖核酸プローブ−トランス体」の複合体(「複合体−トランス体」)の解離と、解離した「一本鎖核酸プローブ−トランス体」を構成する、トロンビンアプタマー131と、相補鎖132が二本鎖結合を形成し、「核酸プローブ−トランス体(ハイブリッド構造)」の再生は抑制され、標的物質のトロンビン134と「一本鎖核酸プローブ−トランス体」の複合体(「複合体−トランス体」)が維持される「条件」、すなわち、「複合体−トランス体」中の二本鎖結合の解離平衡を決定する、トロンビンアプタマー131と、相補鎖132の間における再安定化した二本鎖結合の存在に伴う、安定化エンネルギー:ΔEhybrid-transと、標的物質のトロンビン134と「一本鎖核酸プローブ−トランス体」の複合体(「複合体−トランス体」)の解離平衡を決定する、トロンビン134と「一本鎖核酸プローブ−トランス体」の複合体形成に伴う、安定化エンネルギー:ΔEcomplex-transが、ΔEhybrid-trans<ΔEcomplex-transの条件を満たす、二本鎖結合を構成する「塩基対の数」の選択、ならびに、「核酸プローブ−トランス体(ハイブリッド構造)」中の二本鎖結合のメルト温度Tmelting-transに対する、液温TLの設定の基準に関して、非特許文献2中には、一切開示されていない。従って、非特許文献2の開示内容に基づき、(3)の条件を満たす「第2の光異性化処理」の工程を設けて、精度に優れた標的物質(トロンビン134)の検出をおこなうことは不可能である。
以上に説明したように、非特許文献2に開示される「アプタマーと相補鎖を連結してなる核酸プローブ」と、「光異性化分子」の可逆的な光異性化に伴う、二本鎖結合のメルト温度の可逆的な変化を利用する手法と比較して、第1の実施形態の標的物質の検出方法によれば、検体試料中の標的物質の有無に依り、アプタマー1と第1の核酸断片2の複合体(ハイブリッド体)の二本鎖結合の「開裂状態」が大きく異なり、検知精度に優れた標的物質の検出方法を実現できる。また、アプタマー1と第1の核酸断片2の複合体(ハイブリッド体)の二本鎖核酸部位5を構成する「塩基対の数とその塩基配列」の選択範囲に関して、検出時の液温TLに対して、該二本鎖核酸部位5に修飾する光異性化分子3の可逆的な光異性化を利用することで、第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)中の不安定化した二本鎖結合のメルト温度Tmelting-1と、第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)中の再安定化した二本鎖結合のメルト温度Tmelting-2は、Tmelting-1<TL<Tmelting-2の関係を満たす、「塩基対の数とその塩基配列」となり、該二本鎖核酸部位5の配列設計に対する制限が、大幅に緩和される。従って、多種多様なアプタマーの塩基配列に対して、前記の条件を満たす二本鎖核酸部位5の配列設計が容易になり、多種多様なアプタマーを利用する標的物質の検出に、第1の実施形態の標的物質の検出方法を適用することができる。
先に説明したように、第1の実施形態の標的物質の検出方法では、「第2の工程」〜「第4の工程」を実施した時点で、液中に、「開裂状態」に維持されている、一本鎖状の第1の核酸断片2の有無を検出することで、「検体溶液中に、標的物質が存在しているか、否か」を検出する。従って、検体溶液中に、標的物質7は存在していないが、アプタマー1と結合して、複合体を形成することが可能な、標的物質7に対する「競合物質」が存在すると、「検体溶液中に、標的物質7が存在しているか、否か」の検出を妨げる。換言すると、第1の実施形態の標的物質の検出方法で利用する、アプタマー1は、「標的物質と結合するアプタマー」のうちでも、標的物質7に対する「競合物質」が存在していないものを利用することが好ましい。すあわち、第1の実施形態の標的物質の検出方法で利用する、アプタマー1は、標的物質7と特異的に結合できるアプタマーであることが好ましい。
勿論、検体溶液中に、標的物質7に対する「競合物質」が存在していない場合には、標的物質7に加えて、「競合物質」に結合できるアプタマーを利用することができる。
以降の説明では、アプタマー1として、標的物質7と特異的に結合できるアプタマーを採用する形態を例に採り、第1の実施形態の標的物質の検出方法で利用される「検出原理」を説明する。
第1の実施形態の標的物質の検出方法において、アプタマー1は、標的物質7と特異的に結合できる、一本鎖核酸分子であり、第1の核酸断片2と相補的な塩基配列により二本鎖結合を形成可能な二本鎖核酸部位5を持っており、検出時の液温TLにおいて、標的物質7とアプタマー1の複合体に、第1の核酸断片2が直接作用して、前記二本鎖核酸部位5において、二本鎖結合を形成できないものであればよい。この一本鎖核酸分子である、アプタマー1は、検出時の液温TLにおいて、標的物質7との特異的な結合に不可欠な立体構造を構成できる限り、例えば、DNAであってもRNAであってもよいし、PNAのような人工核酸であってもよい。また、検出時の液温TLにおいて、標的物質7との特異的な結合に不可欠な立体構造を構成できる限り、一本鎖核酸分子であるアプタマー1を構成する、核酸の塩基は、例えば、核酸塩基がフッ素化されたものなど、人工的に合成されたものであっても良い。また、検出時の液温TLにおいて、標的物質7との特異的な結合に不可欠な立体構造を構成できる限り、核酸の糖も、例えば、リボースの2位のヒドロキシル基をフッ素で置き換えたものなど、人工的に合成されたものであっても良い。アプタマー1は、検出時の液温TLにおいて、標的物質7のエピトープとの特異的な結合に不可欠な立体構造を構成するが、一部に、前記標的物質7のエピトープとの特異的な結合に直接関与しない構造部分を有していてもよい。標的物質7と特異的に結合できるアプタマー1は、例えば、SELEX法等の公知のアプタマースクリーニング方法を用いて取得できる。例えば、SELEX法により選別されるアプタマー1は、一般に、標的物質7のエピトープとの特異的な結合に不可欠な立体構造を有しており、該立体構造を利用して、標的物質7のエピトープとの間で分子間結合を形成し、標的物質7とアプタマー1の複合体を構成する。例えば、SELEX法により選別されるアプタマー1は、一般に、一旦、一本鎖の核酸分子を熱変性させた後、冷却して、前記立体構造を形成させたものであり、アプタマー1の塩基配列中の特定部位の塩基相互が、鎖内において、塩基対を形成することで、該立体構造が安定化されている。また、必要に応じて、SELEX法等で取得された核酸配列に、所望の塩基配列を付加した、改変塩基配列を有する一本鎖核酸分子を合成しても良い。塩基配列を付加することにより、アプタマー1と相補鎖(第1の核酸断片2)の二本鎖核酸部位5を構成する塩基対の数を調節して、該二本鎖結合の結合力の強さ(メルト温度)を調節することができる。検出時の液温TLにおいて、標的物質7と複合体を構成していないが、前記立体構造を有しているアプタマー1が、第2の光異性化処理済の第1の核酸断片2と二本鎖結合を形成する結果、第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)を形成できる限り、アプタマー1の二本鎖形成部位5は、アプタマー1の任意の部分にあってもよく、例えば、アプタマー1の端部にあってもよいし、前記立体構造の形成に関与する、中央部にあってもよい。また、検出時の液温TLにおいて、標的物質7と複合体を構成していないが、前記立体構造を有しているアプタマー1が、第2の光異性化処理済の第1の核酸断片2と二本鎖結合を形成する結果、第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)を形成できる限り、アプタマー1の一本鎖核酸の全配列が二本鎖形成部位5であってもよい。但し、検出時の液温TLにおいて、標的物質7と複合体を構成している場合には、複合体を構成する立体構造を有しているアプタマー1中の二本鎖形成部位5に対して、第2の光異性化処理済の第1の核酸断片2が直接作用して、二本鎖結合を形成する現象を阻害する必要がある。従って、結合している標的物質7が、アプタマー1の二本鎖形成部位5と、第2の光異性化処理済の第1の核酸断片2の近接に対する「立体障害」として機能するように、標的物質7とアプタマー1が結合した際、結合している標的物質7との分子間結合部位の一部が、アプタマー1の二本鎖形成部位5に含まれることが好ましい。同時に、「第3の工程」において、標的物質7とアプタマー1が結合し、複合体を形成する際、アプタマー1に対して、標的物質7が作用し、分子間結合を形成することに伴い、第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)中の不安定化した二本鎖結合の開裂を促進する現象を生じ易くするためには、標的物質7とアプタマー1が結合した際、結合している標的物質7との分子間結合部位の一部が、アプタマー1の二本鎖形成部位5に含まれることが好ましい。その場合、標的物質7とアプタマー1が結合し、複合体を形成すると、少なくとも、アプタマー1の二本鎖形成部位5の一部と結合している標的物質7との間で分子間結合が形成され、第2の光異性化処理済の第1の核酸断片2中の二本鎖形成部位5とアプタマー1の二本鎖形成部位5との間にハイブリダイゼーションが阻害される。
なお、SELEX法を応用して選別される、標的物質7と結合するアプタマーには、標的物質7の存在下において、立体構造の構成に関与するステムの組換えが起こり、より安定な複合体の形成に適する立体構造へと構造変化を生じる「RNAスイッチ」を示すものも、多く報告されている(例えば、「遠藤ら 第38回 国際核酸シンポジウムプロシーディング 2011年 150ページ」:標的物質は、テオフィリンやテトラサイクリンである。)。前記の標的物質7との複合体形成時、「RNAスイッチ」を示すアプタマー1を採用すると、「第3の工程」において、標的物質7とアプタマー1が結合し、複合体を形成する際、アプタマー1に対して、標的物質7が作用し、分子間結合を形成することに伴い、第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)中の不安定化した二本鎖結合の開裂を促進する現象が期待される。
アプタマー1の二本鎖形成部位5の最適な塩基数は、検出時の液温TLにおける、使用するアプタマー1と標的物質7の結合力(アプタマー1と標的物質7の複合体の解離平衡定数KDcomplex(TL))、第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)中の不安定化した二本鎖結合の結合力(第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)の解離平衡定数KDhybrid-1(TL))、第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)中の不安定化した二本鎖結合の結合力(第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)の解離平衡定数KDhybrid-2(TL))に依存する。従って、標的物質7に特異的に結合する、アプタマー1の塩基配列、該アプタマー1の二本鎖形成部位5として利用する領域の部分塩基配列、ならびに、検出時の液温TLのセット毎に、適宜最適値を求めて設定することができる。一般に、第1の実施形態の標的物質の検出方法において、アプタマー1の二本鎖形成部位5の長さは、5〜20塩基であることが好ましく、より好ましくは、6〜15塩基であり、さらに好ましくは、7〜12塩基である。その際、「工程1」において、アプタマー1の二本鎖形成部位5と第1の核酸断片2の二本鎖形成部位5との間で選択的に二本鎖結合を形成している「アプタマー1と第1の核酸断片2の複合体(ハイブリッド体)」を調製する必要があるので、アプタマー1の二本鎖形成部位5の部分塩基配列と、全く同じ部分塩基配列を有する部位は、アプタマー1中に存在していないことも必要である。アプタマー1の二本鎖形成部位5が過度に短いと、アプタマー1の二本鎖形成部位5の部分塩基配列と、全く同じ部分塩基配列を有する部位が、アプタマー1中に存在する可能性が高くなる。加えて、アプタマー1の二本鎖形成部位5が過度に短いと、測定試料中に標的物質7が存在していない場合にも、検出時の液温TLに対して、第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)の中の不安定化した二本鎖結合のメルト温度Tmelting-1は、Tmelting-1≪TLとなり、第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)が全て開裂してしまい、また、第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)の再安定化した二本鎖結合のメルト温度Tmelting-2も、Tmelting-2<TLとなると、「第4の工程」中に、第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)の再形成が十分に完了しない。一方、アプタマー1の二本鎖形成部位5が過剰に長いと、第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)の中の不安定化した二本鎖結合のメルト温度Tmelting-1は、TL<Tmelting-1となると、検出時の液温TLにおいて、「第3の工程」中に、第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)の不安定化した二本鎖結合の開裂に伴う、一本鎖状のアプタマー1の生成が進行せず、その結果、標的物質7との結合に不可欠な立体構造を有する、「立体構造を有するアプタマー1」の形成が十分に進行しないため、アプタマー1と標的物質7の複合体の形成の遅延が引き起こされ、標的物質7の検出が妨害されてしまう。
また、第1の実施形態の標的物質の検出方法では、アプタマー1と第1の核酸断片2の複合体(ハイブリッド体)の二本鎖結合に光異性化分子3を修飾する際、通常、図3に例示するように、アプタマー1の二本鎖形成部位5に相補的な、第1の核酸断片2の二本鎖形成部位5に光異性化分子3を結合させる。光異性化分子3が第1の核酸断片2のみに存在することにより、第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)の不安定化した二本鎖結合の開裂が生じた際に、解離されるアプタマー1の一本鎖核酸分子中には、光異性化分子3は含まれていない。従って、アプタマー1が、一本鎖核酸分子から、標的物質7との結合に不可欠な立体構造を形成する「folding過程」において、光異性化分子3は、アプタマー1に対して、立体障害などの相互作用を有さない。従って、標的物質7との結合に不可欠な立体構造を有するアプタマー1の形成が十分に進行し、標的物質の検出が促進されるからである。
但し、第1のメルト温度Tmelting-1および第2のメルト温度Tmelting-2を、所望の値に調節する目的など、必要に応じて、第1の核酸断片2の二本鎖形成部位5に代えて、アプタマー1の二本鎖形成部位5の一部に、光異性化分子3を結合させる態様を選択しても良い。さらには、第1の核酸断片2の二本鎖形成部位5の一部と、アプタマー1の二本鎖形成部位5の一部の双方に、光異性化分子3を結合させる態様を選択しても良い。
例えば、アプタマー1の二本鎖形成部位5の一部に、光異性化分子3が結合されている場合、該「光異性化分子3を一部結合されているアプタマー1」においても、一本鎖核酸分子から、標的物質7との結合に不可欠な立体構造を形成する「folding過程」が十分に進行することが好ましい。
例えば、アプタマー1の二本鎖形成部位5の全部に、光異性化分子3が結合されている場合、該「光異性化分子3を結合されているアプタマー1」においても、一本鎖核酸分子から、標的物質7との結合に不可欠な立体構造を形成する「folding過程」が十分に進行することが好ましい。
また、「第4の工程」において、第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)の再安定化された二本鎖結合の再形成の検出を容易に行うため、必要に応じて、図3に例示するように、第1の核酸断片2に標識物質6を修飾するとともに、アプタマー1にも、標識物質6を修飾する態様を選択してもよい。
第1の実施形態の標的物質の検出方法において、第1の核酸断片2は、アプタマー1と二本鎖核酸部位105を形成し、複合体(ハイブリッド体)を構成するため、アプタマー1の二本鎖形成部位5に対して、相補な塩基配列である、第1の核酸断片2の二本鎖形成部位5を有している。第1の核酸断片2は、アプタマー1と第1の核酸断片2の複合体(ハイブリッド体)を形成可能な一本鎖核酸分子であり、例えば、DNA、RNA、PNA等を用いることができる。また、第1の核酸断片2は、その一部に、アプタマー1の二本鎖形成部位5と相補的な塩基配列に加えて、相補的でない塩基配列を有していてもよい。第1の核酸断片2には、標識物質6が修飾されるが、相補でない塩基配列を付加することにより、修飾される標識物質6と、二本鎖形成部位5とを離して、二本鎖核酸部位105における二本鎖結合を形成する際、修飾される標識物質6に因る立体障害を低減することができる。第1の核酸断片の二本鎖形成部位5は、第1の核酸断片2の任意の部分にあってもよく、例えば、端部にあってもよいし、中央部にあってもよい。
また、第1の実施形態の標的物質の検出方法において、通常、図3に例示するように、第1の核酸断片2の二本鎖形成部位5に光異性化分子3を結合させる。必要に応じて、第1の核酸断片2の二本鎖形成部位5に代えて、アプタマー1の二本鎖形成部位5の一部に、光異性化分子3を結合させる態様を選択しても良い。また、図3に例示するように、「第4の工程」において、第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)の再安定化された二本鎖結合の再形成の検出に利用する標識物質6で、第1の核酸断片2は、修飾される。
第1の実施形態の標的物質の検出方法において、二本鎖核酸部位105に修飾される、光異性化分子3には、第1の光異性化処理と、第2の光異性化処理により、可逆的な光異性化が可能なものが利用される。前記可逆的な光異性化によって、二本鎖結合の安定性を可逆的に調節することが可能なものであれば、その材料は特に限定されない。例えば、第1の光異性化処理によって、光異性化分子3と二本鎖核酸部位5を構成する核酸塩基との間の立体障害を生じさせ、該二本鎖結合を不安定化させ、一方、第2の光異性化処理によって、光異性化分子3と二本鎖核酸部位5を構成する核酸塩基との間の立体障害が解消され、該二本鎖結合を再安定化させるものが好適に利用される。具体的には、例えば、第1の光異性化処理と、第2の光異性化処理に伴って、シス型とトランス型に可逆的に光異性化するものが挙げられる。さらに具体的には、第1の光異性化処理と、第2の光異性化処理に伴って、シス型とトランス型に可逆的に光異性化するものとして、例えば、アゾベンゼンおよびその誘導体が挙げられる。
第1の光異性化処理と、第2の光異性化処理により、可逆的な光異性化が可能な光異性化分子3を、二本鎖核酸部位を構成する、第1の核酸断片2の二本鎖形成部位5あるいはアプタマー1の二本鎖形成部位5に結合させる。その結果、光異性化分子3の可逆的な光異性化を利用して、例えば、次のように、二本鎖核酸部位5の二本鎖結合の安定性を調節することができる。可逆的な光異性化によって、光異性化分子3の立体構造が変化すると、光異性化分子3とその近接する核酸塩基との間の立体障害が増減する。第1の核酸断片2の二本鎖形成部位5あるいはアプタマー1の二本鎖形成部位5に、光異性化分子3が結合している場合、第1の光異性化処理によって、光異性化分子3と隣接する核酸塩基の立体障害が増大する。その結果、二本鎖核酸部位5を構成する、相補的な核酸塩基同士が塩基対の形成に適する、距離および角度を有する配向を維持できなくなる。従って、相補的な核酸塩基間の水素結合による、二本鎖結合の安定性が低下する。また、第2の光異性化処理により、光異性化分子3が元の立体構造に復すると、光異性化分子3と隣接する核酸塩基の立体障害が低減(解消)する。その結果、相補的な核酸塩基間の水素結合による、二本鎖結合の安定性が回復する。
可逆的な光異性化が可能な光異性化分子3を二本鎖形成部位5に結合させた、第1の核酸断片2あるいはアプタマー1は、公知の核酸合成技術を応用して、調製することができる。一本鎖核酸分子を固相合成する際、例えば、光異性化分子3をホスホロアミダイト化合物としたもの、あるいは、光異性化分子3をヌクレオチドに修飾したものを、核酸合成の基質として用いる。その際、第1の核酸断片2の主鎖、あるいは、アプタマー1の主鎖に、光異性化分子3で修飾された基質分子を連結することで、二本鎖形成部位5に光異性化分子3を結合した一本鎖核酸分子とすることができる。それにより、二本鎖核酸部位を構成する、塩基間に光異性化分子3が挿入された、第1の核酸断片2あるいはアプタマー1を合成することができる。また、二本鎖形成部位5に、アミノ基などの反応性の官能基を有する修飾塩基を含む第1の核酸断片2あるいはアプタマー1を合成した後、前記修飾塩基に存在する、反応性の官能基に対して、光異性化分子3をカップリング反応させて、二本鎖形成部位5を光異性化分子3によって、修飾してもよい。第1の核酸断片2の二本鎖形成部位5あるいはアプタマー1の二本鎖形成部位5における、光異性化分子3の結合数は、特に限定されず、1つであっても複数であっても良い。光異性化分子3を多数結合させると、第1の光異性化処理によって、二本鎖結合をより不安定にすることができる。そのため、第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)の中の不安定化した二本鎖結合のメルト温度Tmelting-1はより低下し、検出時の液温TLにおいて、「第3の工程」中に、第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)の不安定化した二本鎖結合の開裂に伴う、一本鎖状のアプタマー1の生成がより進行する。従って、標的物質3との結合に不可欠な立体構造を有するアプタマー1の濃度がさらに増す。結果的に、検体試料中に含まれる、標的物質3の含有量が微量である場合、微量な標的物質3を、標的物質3とアプタマー1の複合体とする上で、有利である。
第1の実施形態の標的物質の検出方法においては、標的物質3とアプタマー1の複合体形成に伴う、アプタマー1と第1の核酸断片2の複合体(ハイブリッド体)の「開裂」の検出を妨害しない限り、光異性化分子3は、第1の核酸断片2あるいはアプタマー1のどの位置に結合されていてもよい。その際、光異性化分子3の可逆的な光異性化を利用して、二本鎖結合の安定性を効率的に調節するために、第1の核酸断片2の二本鎖形成部位5あるいはアプタマー1の二本鎖形成部位5であるヌクレオチド残基、および、二本鎖核酸部位5に隣接するヌクレオチド残基、および二本鎖形成部位5であるヌクレオチド残基とその隣接するヌクレオチド残基との間に連結して、光異性化分子3を結合することが好ましい。さらに、第1の核酸断片2の二本鎖形成部位5あるいはアプタマー1の二本鎖形成部位5のいずれか一方のみに、必要に応じて、第1の核酸断片2の二本鎖形成部位5とアプタマー1の二本鎖形成部位5アプタマー1の両方に、光異性化分子3を結合させることができるが、好ましくは、第1の核酸断片2の二本鎖形成部位5のみに、光異性化分子3を結合させ、アプタマー1の二本鎖形成部位5には光異性化分子3を結合させない態様を選択する。アプタマー1の二本鎖形成部位5には光異性化分子3を結合させない態様を選択する場合、「第3の工程」において、光異性化分子3に第1の光異性化処理を施した際、第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)の解離に伴って生成する、アプタマー1の立体構造に、第1の光異性化処理済の光異性化分子3は、何らの悪影響も与えない。従って、「第3の工程」において、該立体構造を有するアプタマー1は、標的物質7と効率的に結合し、標的物質3とアプタマー1の複合体を形成することができる。また、「第4の工程」において、光異性化分子3に第2の光異性化処理を施した際、標的物質3とアプタマー1の複合体を構成している、アプタマー1の立体構造に、第2の光異性化処理済の光異性化分子3は、何らの悪影響も与えない。従って、標的物質3とアプタマー1の複合体形成に伴う、アプタマー1と第1の核酸断片2の複合体(ハイブリッド体)の「開裂」の検出に基づき、標的物質7の検出が精度良く実施できる。
また、図3(b)に例示するように、検体試料中に標的物質7が存在していない場合、第1の光異性化処理を施した際、第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)中の不安定化された二本鎖結合は、検出時の液温TLにおいて、完全に解離することなく、二本鎖結合を維持している態様を採用することができる。一方、検体試料中に標的物質7が存在していない場合であっても、第1の光異性化処理を施した際、第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)中の不安定化した二本鎖結合は、検出時の液温TLにおいて、不安定化された二本鎖結合が完全に解離する態様を選択することができる。すなわち、検出時の液温TLに対して、第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)の中の不安定化した二本鎖結合のメルト温度Tmelting-1は、Tmelting-1≪TLとなる態様を選択することができる。「第4の工程」において、第2の光異性化処理を施した際、第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)の中の再安定化した二本鎖結合のメルト温度Tmelting-2は、検出時の液温TLに対して、TL<Tmelting-2となるので、アプタマー1と、第2の光異性化処理済の第1の核酸断片2は、二本鎖結合を再形成し、第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)となる。結果として、検体試料中に標的物質7が存在していない場合には、アプタマー1と第1の核酸断片2の複合体(ハイブリッド体)の「開裂」は、検出されない。
また、第1の実施形態の標的物質の検出方法においては、検出時の液温TLにおける、アプタマー1と標的物質7の複合体の解離平衡定数KDcomplex(TL)と、第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)の解離平衡定数KDhybrid-1(TL)は、KDcomplex(TL)≪KDhybrid-1(TL)に選択されており、検体試料中に標的物質7が存在している場合、「第1の工程」において、第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)中の不安定化した二本鎖結合が完全に解離する際、「第3の工程」において、標的物質7は、アプタマー1と結合し、標的物質3とアプタマー1の複合体を形成する。「第4の工程」において、第2の光異性化処理を施した際、第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)の中の再安定化した二本鎖結合のメルト温度Tmelting-2は、検出時の液温TLに対して、TL<Tmelting-2となるので、アプタマー1と標的物質7の複合体を構成していない、アプタマー1と、第2の光異性化処理済の第1の核酸断片2は、二本鎖結合を再形成し、第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)となる。その際、アプタマー1と標的物質7の複合体を構成している、アプタマー1は、第2の光異性化処理済の第1の核酸断片2は、二本鎖結合を再形成し、第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)を形成しないので、第2の光異性化処理済の第1の核酸断片2の一部は、「開裂」状態となっており、アプタマー1と第1の核酸断片2の複合体(ハイブリッド体)の「開裂」の検出に基づき、標的物質7の検出が実施できる。なお、「第1の工程」において、第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)が完全に解離すると、解離しているアプタマー1の濃度[アプタマー1]が増すので、「第2の工程」、「第3の工程」において、アプタマー1と標的物質7の複合体の形成がより速やかに進行する。特に、検体試料中に含まれる標的物質7の濃度が低い場合、検出時の液温TLにおける、アプタマー1と標的物質7の複合体の解離平衡定数KDcomplex(TL)に従って、アプタマー1と標的物質7の複合体を形成する、標的物質7の比率が向上し、結果として、標的物質7の検出感度が向上する。
「第1の工程」において、検出時の液温TLで、第1の光異性化処理を施した際、第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)中の不安定化した二本鎖結合が完全に解離する状況を達成するためには、検出時の液温TLに対して、第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)の中の不安定化した二本鎖結合のメルト温度Tmelting-1は、Tmelting-1≪TLとなることが必要である。二本鎖結合を形成する塩基対の数を減少させない場合でも、二本鎖形成部位5に結合している、光異性化分子3の個数を増やし、第1の光異性化処理に伴う、光異性化分子3の光異性化に起因する、立体障害を増すことで、第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)の中の不安定化した二本鎖結合のメルト温度Tmelting-1を低下させることができる。第1の実施形態の標的物質の検出方法においては、二本鎖形成部位5に結合している、光異性化分子3の個数を増やすことで、第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)の中の不安定化した二本鎖結合のメルト温度Tmelting-1を低下させ、検出時の液温TLに対して、第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)の中の不安定化した二本鎖結合のメルト温度Tmelting-1は、Tmelting-1≪TLの条件を達成することが望ましい。
また、「第1の工程」に先立ち、アプタマー1と第1の核酸断片2の複合体(ハイブリッド体)を調製する際、図3(a)に例示するように、二本鎖形成部位5に結合している、光異性化分子3は、複合体(ハイブリッド体)11中の二本鎖結合の安定性を高める構造をとっていることが好ましい。これにより、液温TLにおいて、複合体(ハイブリッド体)中の二本鎖結合を維持している、複合体(ハイブリッド体)11が効率的に形成できる。
また、第1の実施形態の標的物質の検出方法においては、複合体(ハイブリッド体)11を含有する液中に、検体試料を添加、混合する工程は、第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)に、検体試料中に含有される標的物質7を接触させることが可能である限り、「第4工程」において、第2の光異性化処理を施し、第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)の中の二本鎖結の再安定化を実施する前であればよい。例えば、複合体(ハイブリッド体)11を含有する液中に、検体試料を添加、混合した後に、「第1の工程」の第1の光異性化処理を実施してもよく、「第1の工程」を終えた後、「第2の工程」を実施するため、検体試料を添加、混合してもよく、さらには、「第1の工程」中に、検体試料の添加、混合と、第1の光異性化処理を併行して実施しても良い。
具体的には、第1の実施形態の標的物質の検出方法においては、「第4工程」において、第2の光異性化処理を施し、第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)の中の二本鎖結の再安定化を実施する前に、検体試料中に含有される標的物質7が、アプタマー1と標的物質7の複合体を構成する過程は完了していれば、第1の光異性化処理と、検体試料を添加、混合する操作の順序は任意に選択できる。複合体(ハイブリッド体)11を含有する液中に、検体試料を添加、混合した後に、「第1の工程」の第1の光異性化処理を実施してもよく、「第1の工程」を終えた後、「第2の工程」を実施するため、検体試料を添加、混合してもよく、さらには、「第1の工程」中に、検体試料の添加、混合と、第1の光異性化処理を併行して実施しても良い。さらには、予め第1の光異性化処理を施した、第1の光異性化処理済の第1の核酸断片2と、アプタマー1からなる、複合体(ハイブリッド体)を調製し、該複合体(ハイブリッド体)を第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)として利用し、検体試料を添加、混合して、「第2の工程」〜「第4の工程」の手順で、標的物質7の検出を行ってもよい。予め第1の光異性化処理を施した、第1の光異性化処理済の第1の核酸断片2と、アプタマー1からなる、複合体(ハイブリッド体)を調製し、該複合体(ハイブリッド体)を第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)として利用する態様を採用すると、検出操作が簡略化される。また、標的物質7の検出を行う際、「第1の工程」において、第1の光異性化処理を行うために使用する、「第1の波長(λ1)の第一の照射光」を生じさせるための光源を用意する必要がなくなり、後述の検出装置が簡略化される。
複数の光異性化分子3が二本鎖形成部位5に結合された第1の核酸断片2およびアプタマー1を使用し、さらに、複数の光異性化分子3が予め第1の光異性化処理を施された状態で提供された際、第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)の中の不安定化した二本鎖結合のメルト温度Tmelting-1が、Tmelting-1≪TLの条件を満たす場合、検出時の液温TLでは、アプタマー1と第1の光異性化処理済の第1の核酸断片2は二本鎖結合を形成していない。第1の実施形態の標的物質の検出方法においては、検出時の液温TLにおいて、前記「開裂状態」となっている、アプタマー1と第1の光異性化処理済の第1の核酸断片の混合物を、「第2の工程」〜「第4の工程」の操作に従って、標的物質7の検出に使用することができる。すなわち、第1の実施形態の標的物質の検出方法で利用する、複合体11は、検出時の液温TLにおいて、アプタマー1の二本鎖形成部位5と、相補的な塩基配列を有する二本鎖形成部位を具える、第1の核酸断片2が、検体試料中に標的物質7が含有されていない場合、第2の光異性化処理を施すことにより、アプタマー1と標的物質7の複合体を構成していない、アプタマー1の二本鎖形成部位5と、第2の光異性化処理済の第1の核酸断片2の二本鎖形成部位5が結合して、二本鎖核酸部位を形成し、第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)を構成可能な状態で提供されたものを意味する。従って、第1の光異性化処理済の、複数の光異性化分子3が二本鎖形成部位5に結合された第1の核酸断片2と、アプタマー1が、二本鎖核酸部位を形成していない状態で混合されている混合物を利用する態様も、第1の実施形態の標的物質の検出方法の技術的範囲に含まれる。また、複合体11の調製工程も、同様に、検出時の液温TLに対して、第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)の中の不安定化した二本鎖結合のメルト温度Tmelting-1が、Tmelting-1≪TLの条件を満たす場合、第1の核酸断片2とアプタマー1からなる複合体(ハイブリッド体)11の調製に代えて、二本鎖核酸部位を形成されていない状態の、第1の核酸断片2とアプタマー1の混合物を調製し、その後、「第1の工程」の第1の光異性化処理を施して、第1の光異性化処理済の、複数の光異性化分子3が二本鎖形成部位5に結合された第1の核酸断片2と、アプタマー1が、二本鎖核酸部位を形成していない状態で混合されている混合物とする態様も、第1の実施形態の標的物質の検出方法の技術的範囲に含まれる。
また、第1の実施形態の標的物質の検出方法は、「第1の工程」の第1の光異性化処理を施した後、「第2の工程」〜「第4の工程」における、標的物質7の検出時の液温TLを、第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)の中の不安定化した二本鎖結合のメルト温度Tmelting-1と、第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)の中の再安定化した二本鎖結合のメルト温度Tmelting-2が、Tmelting-1≪TL<Tmelting-2の条件を満たす、適切な温度範囲に選択し、アプタマー1と標的物質7の複合体の形成を行う限り、複合体11の調製用溶液の加熱と組み合わせて、複合体11の調製工程を実施しても良い。例えば、第1の核酸断片2とアプタマー1からなる複合体(ハイブリッド体)11の調製工程において、アプタマー1と第1の核酸断片2の混合液を、複合体(ハイブリッド体)11の二本鎖結合が解消するメルト温度Tmelting以上、例えば、第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)の中の再安定化した二本鎖結合のメルト温度Tmelting-2以上に加熱した後、常温(例えば、室温25℃)に戻し、その後、光異性化分子3に第2の光異性化処理を施し、第2の光異性化処理済の第1の核酸断片2とアプタマー1からなる複合体(ハイブリッド体)の調製し、二本鎖結合の安定性を増加させることができる。第2の光異性化処理済の第1の核酸断片2とアプタマー1からなる複合体(ハイブリッド体)を、複合体11として利用すると、検体試料中に標的物質7が含有されていない場合、「誤検出」を回避でき、結果的に、標的物質7の検出精度を向上させることができる。
また、第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)の中の不安定化した二本鎖結合のメルト温度Tmelting-1が、常温(例えば、室温25℃)より低い(Tmelting-1<25℃)場合、標的物質7の検出の「第1の工程」で、複合体11を含む溶液をメルト温度Tmelting以上、例えば、第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)の中の再安定化した二本鎖結合のメルト温度Tmelting-2以上に加熱し、複合体(ハイブリッド体)11中の二本鎖結合を予め解離させた後、第1の光異性化処理を施す。その後、溶液を、常温(例えば、室温25℃)に戻して、複合体(ハイブリッド体)11の解離により生成した「一本鎖状のアプタマー1」から、標的物質7との結合に不可欠な立体構造を有する「立体構造を有するアプタマー1」へと変換する。「第2の工程」において、「立体構造を有するアプタマー1」に、標的物質7を接触させ、標的物質7と「立体構造を有するアプタマー1」からなる複合体を形成させる。この手法を適用すると、「第1の工程」において、予め加熱により複合体(ハイブリッド体)11中の二本鎖結合を完全に解離した後、光異性化分子3に第1の光異性化処理を施すことで、第1の光異性化処理を完了した時点で、第1の光異性化処理済の第1の核酸断片2とアプタマー1からなる第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)は残余していない。一方、加熱を行うことなく、複合体(ハイブリッド体)11の二本鎖結合部位5を修飾する、光異性化分子3に第1の光異性化処理を施す場合、複合体(ハイブリッド体)11から変換された、第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)の相当部分は、第1の光異性化処理を完了した時点では、「未解離状態」で残余している。従って、加熱により、複合体(ハイブリッド体)11中の二本鎖結合を予め解離させた後、第1の光異性化処理を施す手法を採用すると、加熱を行うことなく、第1の光異性化処理を施す手法と比較し、第1の光異性化処理済の第1の核酸断片2と、「一本鎖状のアプタマー1」に解離させ、さらに、「一本鎖状のアプタマー1」から、標的物質7との結合に不可欠な立体構造を有する「立体構造を有するアプタマー1」へと変換が、より速やかに完了する。この手法を採用することにより、「第2の工程」において、「立体構造を有するアプタマー1」に、標的物質7を接触させ、標的物質7と「立体構造を有するアプタマー1」からなる複合体の形成がより効率的に進行するので、標的物質7の検出精度が向上する。なお、加熱により、複合体(ハイブリッド体)11中の二本鎖結合を予め解離させた後、第1の光異性化処理を施すのが好ましいが、第1の光異性化処理と同時に加熱を行う態様、第1の光異性化処理を施した後、加熱を行う態様を採用しても、加熱を行うことなく、第1の光異性化処理を施す手法と比較し、「一本鎖状のアプタマー1」から、標的物質7との結合に不可欠な立体構造を有する「立体構造を有するアプタマー1」へと変換が、より速やかに完了する。
また、標的物質7と「立体構造を有するアプタマー1」の複合体の解離平衡定数KDcomplex(TL)=[標的物質]・[立体構造を有するアプタマー1]/[複合体]は、第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)の解離平衡定数KDhybrid-1(TL)=[一本鎖状のアプタマー1]・[第1の光異性化処理済の第1の核酸断片2]/[第1の光異性化処理済の複合体]と比較して、通常、検出時の液温TLにおいて、KDcomplex(TL)<KDhybrid-1(TL)の関係を満たす。
第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)の中の不安定化した二本鎖結合のメルト温度Tmelting-1が、検出時の液温TLに対して、Tmelting-1<TLの条件を満たす場合、「第1の工程」において、検出時の液温TLに加熱して、第1の光異性化処理を施すと、測定溶液中には、第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)の解離により生成する、アプタマー1と、第1の光異性化処理済の第1の核酸断片2が溶解している。「第1の工程」を終えた該測定溶液中では、アプタマー1は、第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)を構成しているアプタマー1、「立体構造を有するアプタマー1」、「一本鎖状のアプタマー1」のいずれかの形状で存在している。また、第1の核酸断片2は、第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)を構成している、第1の光異性化処理済の第1の核酸断片2、「第1の光異性化処理済の第1の核酸断片2」のいずれかの形状で存在している。「第1の工程」を終えた該測定溶液中に含まれる、アプタマー1の合計[アプタマー1]と、第1の光異性化処理済の第1の核酸断片2の合計[第1の核酸断片2]との比率、[アプタマー1]/[第1の核酸断片2]を調節することにより、「第2の工程」において、標的物質7を接触させた際、第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)中の二本鎖核酸部位の形成効率、あるいは、二本鎖核酸部位の「開裂」比率を変化させることができる。従って、標的物質7とアプタマー1の複合体形成に伴う、第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)中の二本鎖核酸部位の「開裂」比率の変化、すなわち、第1の実施形態の標的物質の検出方法における、「応答特性」を変化させることができる。
例えば、「アプタマー1」に対する「第1の核酸断片2」の存在比率を高めた場合([アプタマー1]/[第1の核酸断片2]<1)、第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)の解離平衡定数KDhybrid-1(TL)=[一本鎖状のアプタマー1]・[第1の光異性化処理済の第1の核酸断片2]/[第1の光異性化処理済の複合体]に従って、濃度[一本鎖状のアプタマー1]は低下し、同時に、濃度[立体構造を有するアプタマー1]も低下している。標的物質7と「立体構造を有するアプタマー1」の複合体の解離平衡定数KDcomplex(TL)に従って、標的物質7とアプタマー1の複合体形成が進行すると、濃度[立体構造を有するアプタマー1]は急激に低下し、それに付随して、濃度[一本鎖状のアプタマー1]の急激な低下が引き起こされる。結果的に、標的物質7を、標的物質7と「立体構造を有するアプタマー1」の複合体への変換が完了するまで、第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)の解離が効率的に進行する。すなわち、標的物質7を「立体構造を有するアプタマー1」に接触させ、複合体形成させることで、第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)中の二本鎖核酸部位の「開裂」が速やかに進行する。その際、濃度[立体構造を有するアプタマー1]は、元々、低い水準にあるため、検体試料中に含有される標的物質7の濃度[標的物質7]が低濃度であっても、標的物質7と「立体構造を有するアプタマー1」の複合体形成に伴う、濃度[立体構造を有するアプタマー1]の減少率は高く、第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)中の二本鎖核酸部位の「開裂」が速やかに進行し、標的物質7の検出は、高い検出感度で実施できる。
一方、「アプタマー1」に対する「第1の核酸断片2」の存在比率を低めた場合([アプタマー1]/[第1の核酸断片2]>1)、第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)の解離平衡定数KDhybrid-1(TL)=[一本鎖状のアプタマー1]・[第1の光異性化処理済の第1の核酸断片2]/[第1の光異性化処理済の複合体]に従って、濃度[第1の光異性化処理済の第1の核酸断片2]は低下する。従って、「第1の光異性化処理済の第1の核酸断片2」のうち、「第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」を構成しているものの濃度[第1の光異性化処理済の複合体]と、「第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」を構成していないものの濃度[第1の光異性化処理済の第1の核酸断片2]の比率、[第1の光異性化処理済の複合体]/[第1の光異性化処理済の第1の核酸断片2]は、相対的に高くなる。標的物質7と「立体構造を有するアプタマー1」の複合体形成に伴う、濃度[立体構造を有するアプタマー1]の減少に起因して、第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)中の二本鎖核酸部位の「開裂」が進行し、「第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」を構成していないものの濃度[第1の光異性化処理済の第1の核酸断片2]が上昇する。その際、元々、「第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」を構成していないものの濃度[第1の光異性化処理済の第1の核酸断片2]は相対的に低いため、標的物質7と「立体構造を有するアプタマー1」の複合体形成に伴う、濃度[第1の光異性化処理済の第1の核酸断片2]の上昇率は、相対的に高くなる。従って、第1の核酸断片2に修飾した標識物質6を利用して、「複合体(ハイブリッド体)」を構成していない「第1の核酸断片2」の濃度上昇を検出する場合、「複合体(ハイブリッド体)」を構成していない「第1の核酸断片2」の濃度上昇率;「S/N比」を向上させることができる。
第1の実施形態の標的物質の検出方法において、測定溶液中における、「アプタマー1」に対する「第1の核酸断片2」の存在比率;[アプタマー1]/[第1の核酸断片2]は、特に限定されず、「アプタマー1」の塩基配列、測定溶液のイオン強度、検出時の液温TLなどに依存する、標的物質7と「立体構造を有するアプタマー1」の複合体の解離平衡定数KDcomplex(TL)=[標的物質]・[立体構造を有するアプタマー1]/[複合体]に応じて、適宜設定することができる。但し、上記の標的物質7と「立体構造を有するアプタマー1」の複合体形成に伴って、「第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」の二本鎖核酸部位の「開裂」の効率的な進行を利用する場合、「第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」の二本鎖核酸部位の存在量が少なくなり過ぎることを回避する。その点を考慮すると、測定溶液中における、「アプタマー1」に対する「第1の核酸断片2」の存在比率;[アプタマー1]/[第1の核酸断片2]は、モル比率として、0.05〜20(すなわち、1/20〜20/1)の範囲に選択することが好ましい。
第1の実施形態の標的物質の検出方法は、通常は、検査対象物、標的物質を含有する検体試料は、標的物質を含む溶液の形態である。その際、標的物質の検出の「第1の工程」〜「第4の工程」では、使用する溶液は、一般的な「ハイブリッド体形成」反応に利用可能な溶液でよい。また、標的物質の検出の「第1の工程」〜「第4の工程」の各工程を実施する際、該溶液の温度(TL)、pH、金属イオン濃度等の条件は、適切に設定する。但し、「第2の工程」〜「第4の工程」では、アプタマー1と標的物質7の複合体を形成し、また、アプタマー1と標的物質7の複合体を維持するため、標的物質7に対するアプアマー1の結合能力(アプアマー1の立体構造)が維持されるような、溶液の温度(TL)、pHを選択することが望ましい。また、「第4の工程」において、二本鎖核酸部位の「開裂」状態を検出する時は、「第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」の二本鎖核酸部位が維持できるような、溶液の温度(TL)、pHを選択することが望ましい。従って、「第4の工程」においては、「第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」の二本鎖核酸部位が維持でき、同時に、標的物質7に対するアプアマー1の結合能力(アプアマー1の立体構造)が維持されるような、溶液の温度(TL)、pHを選択することが望ましい。
第1の実施形態の標的物質の検出方法において、「第4の工程」において、アプタマー1の二本鎖形成部位5と、第2の光異性化処理済の第1の核酸断片2の二本鎖形成部位5が形成可能な二本鎖結合の「開裂」状態を検出する方法は、特に限定されず、二本鎖核酸部位の「開裂」によって生じる、一本鎖核酸分子自身、および該一本鎖核酸分子に付されている標識物質6の物理的・化学的変化を検出する手法を適用することができる。検出に利用可能な、一本鎖核酸分子自身あるいは、標識物質6に生じる、物理的・化学的変化とは、特に限定されないが、色彩変化、蛍光変化、誘電率変化、電子伝達効率変化、質量変化、粘性変化、熱変化などである。例えば、蛍光物質を標識したアプタマー1と、クエンチャーを標識した第1の核酸断片2を用いて、二本鎖核酸部位の「開裂」に伴って、蛍光物質とクエンチャーの間の「距離の増大」を、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)の測定によって検出することができる。また、二本鎖核酸部位にインターカレートして蛍光する、SYBR(登録商標) Green Iなどの二本鎖核酸指示薬を使用して、二本鎖結合の「開裂」を、「二本鎖結合の減少を介して、間接的に検出」する方法、などを用いることができる。
第1の実施形態の標的物質の検出方法において、二本鎖核酸部位の「開裂」の検出に利用される標識物質6は、上記二本鎖形成部位5の二本鎖結合の「開裂」によって生じる、「物理的・化学的変化を増幅しうるもの」であれば、限定されず、例えば、蛍光物質や、クエンチャー、誘電体、核酸、電気化学反応物質、極性分子、酵素、触媒、放射性物質、タンパク質、ペプチド、糖鎖、色素、ビーズ、磁性体、電磁波吸収体、電磁波放出体、電磁波反射体、電磁波干渉体などが挙げられる。
なお、二本鎖核酸部位の開裂によって生じた一本鎖核酸を、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって増幅して検出する場合などのように、検出に必要がない場合は、標識物質を省略しても良い。
また、標識物質6は、標的物質7の検出が可能である限り、第1の核酸断片2のみに修飾されていることが特に好ましい。これにより、アプタマー1が標的物質7と結合するための立体構造形成に対して、修飾される標識物質6に起因する、悪影響が低減でき、検出感度が向上する。また、標識物質6は、リンカーや相補的でない塩基配列などを間に介して、アプタマー1や第1の核酸断片2に修飾されることが好ましい。リンカーや相補的でない塩基配列を間に介して、標識物質6を修飾することにより、標識物質6に起因する立体障害が、アプタマー1と標的物質7の複合体形成や、アプタマー1の二本鎖形成部位5と、第2の光異性化処理済の第1の核酸断片2の二本鎖形成部位5の二本鎖結合形成を、阻害する可能性を低減できる。なお、リンカーは、アプタマー1や、第2の光異性化処理済の第1の核酸断片2に対して、その核酸鎖との間で分子間結合を形成しないものであれば特に限定されず、糖鎖、ポリペプチド、炭化水素鎖やオリゴエチレングリコールなど、一本鎖核酸分子に対する修飾に一般的に利用可能なものを用いることができる。
以下に、光異性化分子3として、アゾベンゼンを用い、標識物質6として、クエンチャーおよび蛍光分子を用いる態様を例にとり、標的物質6を利用する検出手法について、再度、図3を参照して、説明する。
図3(a)では、光異性化分子3として、第1の核酸断片2の二本鎖形成部位5に、アゾベンゼンが修飾されている。該修飾部位には、アゾベンゼンのトランス体が結合されており、アプタマー1の二本鎖形成部位5と、相補な塩基配列部分である、第1の核酸断片2の二本鎖形成部位5は、アプタマー1と第1の核酸断片2からなる「複合体(ハイブリッド体)」中の二本鎖結合を形成可能である。また、第1の核酸断片2の先端には、標識物質6として、クエンチャーが連結されている。アプタマー1の先端には、標識物質6として、蛍光色素が連結されている。アプタマー1と第1の核酸断片2が、相補的な塩基配列を有する、二本鎖形成部位5を利用してハイブリダイズし、複合体(ハイブリッド体)11を形成している。また、光異性化分子3として、第1の核酸断片2の二本鎖形成部位5に結合されている、アゾベンゼンは、予め波長400nm以上の可視紫色光/青色光(例えば、高圧水銀灯のH線(404.7nm),G線(435.8nm))を照射することにより、トランス型の構造を採っている。従って、トランス型アゾベンゼンが、ハイブリダイズした塩基対同士の層間にインターカレートすることにより、二本鎖結合は安定して維持される。
初めに、検査対象物の溶液に接触させる前に、標識物質6を先端に連結したアプタマー1と、標識物質6を先端に連結した第1の核酸断片2からなる「複合体(ハイブリッド体)11」を含む、測定溶液の蛍光測定をおこなう(図3(a))。この状態では、「複合体(ハイブリッド体)11」では、アプタマー1と第1の核酸断片2は、二本鎖結合を形成し、アプタマーの先端の蛍光物質と、第1の核酸断片2の先端のクエンチャーとが近接している。そのため、アプタマー1に修飾される標識物質6である、蛍光物質の発する蛍光は、第1の核酸断片2に修飾される標識物質6である、クエンチャーにより吸収され、FRETがなされる。従って、蛍光物質の励起波長の光を照射すると、FRETにより、蛍光物質の発する蛍光の多くは、クエンチャーにより吸収される結果、低い蛍光が観測される。
次に、測定溶液に第1の光異性化反応を生じさせる光を照射し、トランス型アゾベンゼンをシス型アゾベンゼンに光異性化した後、測定溶液に検査対象物(検体試料溶液)を添加する。なお、トランス型アゾベンゼンをシス型アゾベンゼンに第1の光異性化反応を生じさせる、第一の照射光(波長λ1)は、紫外光(例えば、高圧水銀灯のI線(365.4nm))である。紫外光を照射されたアゾベンゼンは、トランス型からシス型に光異性化し、二本鎖部位の塩基対と立体障害を生じる。アプタマー1と、第1の光異性化処理済の第1の核酸断片2からなる「第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」中の、二本鎖結合の安定性が低下する(図3(b))。続いて、検査対象物(検体試料溶液)中に標的物質7が含まれていた場合、アプタマー1に標的物質7が結合し(図3(c))、標的物質7とアプタマー1からなる複合体が形成される。複合体形成に伴う、溶液中のアプタマー1の濃度の低下は、第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)の解離平衡定数KDhybrid-1(TL)に従って、「第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」の解離を誘起し、アプタマー1と第1の光異性化処理済の第1の核酸断片2の二本鎖結合の「開裂」が進行する(図3(d))。
次に、測定溶液に第2の光異性化反応を生じさせる光を照射し、シス型アゾベンゼンをトランス型アゾベンゼンに光異性化させ、第1の光異性化処理済の第1の核酸断片2を第2の光異性化処理済の第1の核酸断片2に変換した後、蛍光測定をおこなう。なお、シス型アゾベンゼンに第2の光異性化反応を生じさせる、第二の照射光(波長λ2)は、波長400nm以上の可視紫色光/青色光(例えば、高圧水銀灯のH線(404.7nm),G線(435.8nm))である。可視光を照射されたシス型アゾベンゼンは、再びトランス型に光異性化し、隣接する塩基との立体障害が低下する。ここで、検体試料中に標的物質7が存在する場合、アプタマー1には標的物質7が結合して、複合体を形成している。標的物質7がアプタマー1の塩基に近接して結合していることにより、複合体を形成しているアプタマー1と、第2の光異性化処理済の第1の核酸断片2との再結合は阻害され、第2の光異性化処理済の第1の核酸断片2の「開裂した状態」が維持される(図3(e))。そのため、測定溶液に蛍光物質の励起波長の光を照射すると、蛍光物質とクエンチャーが離れているため、FRETが生じないため、強い蛍光が観測される。一方で、検体試料中に標的物質が存在しない場合、「第1の工程」で不安定化して、一部が開裂した、アプタマー1の二本鎖形成部位5と、第2の光異性化処理済の第1の核酸断片2の二本鎖形成部位5は、再度安定した二本鎖状態を形成する。そのため、「第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」では、蛍光物質とクエンチャーが近接しており、測定溶液に蛍光物質の励起波長の光を照射すると、FRETが起こる結果、低い蛍光が観察される。
以上の検出方法を用いて、検査対象物(検体試料溶液)を添加する前の測定溶液の蛍光強度と、「第4の工程」において、測定される蛍光強度を比較することによって、検体試料中の標的物質7の有無を調べることができる。
なお、検査対象物(検体試料溶液)を添加する前の測定溶液の蛍光強度が予め判っている場合や、無視できるほど小さい場合など、状況によっては、検査対象物(検体試料溶液)を添加する前の測定溶液の蛍光強度の測定は省略することができる。
また、第1の実施形態の検査キットは、上記複合体11を含む検査キットであり、第1の実施形態の標的物質の検出方法に基づき、標的物質7の検出に用いることができる。
すなわち、第1の実施形態の検査キットに含まれる、複合体11は、標的物質7が特異的に結合するアプタマー1と、アプタマー1と相補的な塩基配列を有する第1の核酸断片2と、光異性化分子3と、を具えており、アプタマー1は、第1の核酸断片2と二本鎖結合を形成する二本鎖形成部位5を有しており、第1の核酸断片2は、アプタマー1と二本鎖結合を形成する二本鎖形成部位5を有しており、光異性化分子3は、少なくとも、第1の核酸断片2における二本鎖形成部位5の一部、または、アプタマー1における二本鎖形成部位5の一部のいずれか一方、あるいは、その両方に結合している。
複合体11中、二本鎖形成部位5に結合される、光異性化分子3は、第1の実施形態の標的物質の検出方法で利用される、第1の光異性化処理と、第2の光異性化処理を施した際、可逆的な光異性化を起こす。第1の光異性化処理を施した際、第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)中の二本鎖結合は、第1の光異性化処理を受けた光異性化分子3により修飾されており、該第1の光異性化処理を受けた光異性化分子3は立体障害を誘起する結果、該二本鎖結合を不安定化する。その後、第2の光異性化処理を施した際、第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)中の二本鎖結合は、第2の光異性化処理を受けた光異性化分子3により修飾されており、該第2の光異性化処理を受けた光異性化分子3は、可逆的な光異性化のため、第1の光異性化処理前の立体構造に復する。その結果、第1の光異性化処理を受けた光異性化分子3により誘起された立体障害は解消され、該第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)中の二本鎖結合は、再安定化される。従って、第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)中の再安定化された二本鎖結合のメルト温度Tmelting-2と、第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)中の不安定化された二本鎖結合のメルト温度Tmelting-1は、Tmelting-1≪Tmelting-2の関係となっている。また、第1の実施形態の標的物質の検出方法を適用する際、検出時の液温TLを、Tmelting-1<TL<Tmelting-2の関係を満たすように、選択することができる。その際、検出時の液温TLにおける、第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)の解離平衡定数KDhybrid-2(TL)と、第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)の解離平衡定数KDhybrid-1(TL)は、KDhybrid-2(TL)≪KDhybrid-1(TL)となっており、同時に、標的物質7とアプタマー1の複合体の解離平衡定数KDcomplex(TL)に対して、KDcomplex(TL)≪KDhybrid-1(TL)となっている。
第1の実施形態の検査キットは、上記の複合体(ハイブリッド体)11を含むので、第1の実施形態の標的物質の検出方法を適用すると、「第1の工程」で、第1の光異性化処理を施し、「第2の工程」では、検出時の液温TLにおいて、検体試料中に含有される標的物質7と、アプタマー1との分子間結合の形成を進めると、標的物質7とアプタマー1の複合体形成に伴って、第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)の不安定化している二本鎖結合の「開裂」が促進される。標的物質7とアプタマー1の複合体形成を完了した後、「第4の工程」において、第2の光異性化処理を施すと、標的物質7とアプタマー1の複合体を構成していない、アプタマー1は、第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)を効率的に形成するので、複合体(ハイブリッド体)中の二本鎖結合の「開裂」状態の検出に基づき、検体試料中に含有される標的物質7の検出ができるという、本発明の第1の実施形態の効果を達成できる。
また、第1の実施形態の検査キットは、上記の複合体(ハイブリッド体)11を構成する、光異性化分子3が、予め第1の光異性化処理を施された、第1の光異性化処理済の光異性化分子となっているものであっても良い。光異性化分子3が、予め第1の光異性化処理を施されているので、第1の実施形態の標的物質の検出方法の「第1の工程」を省き、「第2の工程」〜「第4の工程」を実施することで、標的物質の検出を検査工程が簡略化され、検査を容易に実施することができる。
第1の実施形態の標的物質の検出方法の実施に適合する、第1の実施形態の標的物質の検出装置は、光異性化分子3に第1の光異性化処理を施すため、第1の光照射に使用する第1の光源(波長λ1)と、光異性化分子3に第2の光異性化処理を施すため、第2の光照射に使用する、第2の光源(波長λ2)と、アプタマー1に標的物質7を結合させる結合部と、複合体(ハイブリッド体)11中の二本鎖結合の開裂を検出する検出部と、を具える。結合部は、標的物質7を含む検査対象物(検体試料)と、第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)を含む液とを接触させ、アプタマー1に標的物質7を結合させる。言い換えると、結合部は、第1の光異性化処理を施した後、第1の実施形態の検査キットに、標的物質7を含む検査対象物(検体試料)を接触させてもよい。また、複合体(ハイブリッド体)11中の二本鎖結合の「開裂」を検出する検出部は、複合体(ハイブリッド体)11中の二本鎖結合の「開裂」に起因して生じる、物理的、化学的変化を検出できる限り限定されず、例えば、光学的シグナル、電気的シグナル、磁気的シグナル、重量変化、色彩的シグナル等のシグナル変化の検出が挙げられる。具体的には、二本鎖結合の「開裂」に起因して生じる、シグナル変化の検出に基づく、第1の実施形態の標的物質の検出装置においては、先に説明した、第1の実施形態の標的物質の検出方法を適用することにより、検査対象物(検体試料)中に含有される標的物質が低濃度の場合であっても、大きなシグナル変化が起こり、高い測定感度が得られる。また、検知したい標的物質に応じて、該標的物質を特異的に結合させるアプタマーを適宜変更した検査キットを用いることにより、様々な標的物質の検知に用いることができる。また、複数の異なる標的物質に対する検査キットを用いて、検体試料中の複数の標的物質の検出を行うことにより、検体試料中に含まれる成分分析に利用することができる。なお、第1の実施形態の検査キットは、上記の複合体(ハイブリッド体)11を構成する、光異性化分子3が、予め第1の光異性化処理を施された、第1の光異性化処理済の光異性化分子となっているものである場合、該検査キットを使用する、第1の実施形態の標的物質の検出装置は、光異性化分子3に第1の光異性化処理を施すため、第1の光照射に使用する第1の光源(波長λ1)を省略することができる。
(第2の実施形態)
第2の実施形態の標的物質の検出方法では、標的物質7の検出に利用する、複合体(ハイブリッド体)11は、アプタマー1の一部と、第1の核酸断片2の一部とを互いに連結する連結部を具えている。例えば、アプタマー1と、第1の核酸断片2とが、スペーサ9を介して、化学結合あるいは化学吸着により、連結されている。
第2の実施形態の標的物質の検出方法においては、アプタマー1と第1の核酸断片2が連結部を介して、互いに連結されることにより、第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)、ならびに、第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)に変換する際、アプタマー1と、第1の核酸断片2の結合状態を正確に制御することができるようになる。「アプタマー1と、第1の核酸断片2の結合状態の正確な制御」により、「第4の工程」における、二本鎖結合の「開裂」を検出する際、測定値のバックグラウンドが低減し、測定の信頼性や検出感度が向上する。
以下、第2の実施形態の標的物質の検出方法の「効果と作用」について、図4を参照して、具体的に説明する。
なお、第2の実施形態の標的物質の検出方法は、第1の実施形態の標的物質の検出方法で利用する「検出原理」の応用であるので、第1の実施形態の標的物質の検出方法と同様な点については、説明を省略する。
図4(a)は、第2の実施形態の標的物質の検出方法において、標的物質7の検出に利用する、複合体(ハイブリッド体)11の構成の一例を、模式的に示す図である。図4(b)は、第2の実施形態の標的物質の検出方法において、標的物質7の検出に利用する、複合体(ハイブリッド体)11の構成の別の一例を、模式的に示す図である。
第2の実施形態の標的物質の検出方法において、標的物質7の検出に利用する、図4(a)に例示する態様の複合体(ハイブリッド体)11は、アプタマー1と、一つの第1の核酸断片2とが、スペーサ9を介して、化学結合、または化学吸着により連結されている。図4(b)に例示する態様の複合体(ハイブリッド体)11は、アプタマー1と、二つの第1の核酸断片2とが、3分岐のスペーサ9を介して、化学結合、または化学吸着により連結されている。
第1の実施形態の標的物質の検出方法で利用する、図3に例示される複合体(ハイブリッド体)11と同様に、第2の実施形態の標的物質の検出方法で利用する、図4(a)に例示される複合体(ハイブリッド体)11でも、第1の核酸断片2の一部、または、アプタマー1の一部、あるいは、その両方には、光異性化分子3が結合されている。スペーサ9を介して、連結されている、アプタマー1の二本鎖形成部位5と、第1の核酸断片2の二本鎖形成部位5は、互いに、相補的な塩基配列を有しており、二本鎖結合を形成することで、複合体(ハイブリッド体)11が構成されている。
図4(a)、図4(b)に例示する、第1の核酸断片2の二本鎖形成部位5に光異性化分子3が結合され、スペーサ9を介して、連結されるアプタマー1と、二本鎖結合を形成している、複合体11(ハイブリッド体)は、第1の実施形態の標的物質の検出方法で利用する、図3に例示される複合体(ハイブリッド体)11と同様に、標的物質7とアプタマー1の複合体形成に伴う、複合体11(ハイブリッド体)中に二本鎖結合の「開裂」の有無を指標として、「検体試料中の標的物質7の有無」の検出に用いることができる。
第2の実施形態の標的物質の検出方法で利用する、図4(a)、図4(b)に例示される複合体(ハイブリッド体)11では、リンカー9を介して、アプタマー1と、第1の核酸断片2とが連結され、「連結体分子」となっているため、複合体11(ハイブリッド体)中に二本鎖結合の「開裂」がなされている間も、「連結体分子」に内在している、アプタマー1と第1の核酸断片2とは互いに近接した状態に維持される。
従って、標的物質7の検出プロセス中、「第4の工程」において、第2の光異性化処理を施した後、標的物質7とアプタマー1の複合体形成を行っていない、アプタマー1と、第2の光異性化処理済の第1の核酸断片2の間で、二本鎖結合を再生する際、リンカー9を介して、連結されている「連結体分子」中の、アプタマー1と、第2の光異性化処理済の第1の核酸断片2が、接触する頻度(分子内接触頻度)は、異なる「連結体分子」中の、アプタマー1と、第2の光異性化処理済の第1の核酸断片2が、接触する頻度(分子間接触頻度)と比較すると、「分子内接触頻度」は、「分子間接触頻度」よりも、格段に高い。従って、「連結体分子」中のアプタマー1が、標的物質7とアプタマー1の複合体形成を行っていない場合、「第4の工程」において、第2の光異性化処理を施した際、「連結体分子」中のアプタマー1と第2の光異性化処理済の第1の核酸断片2が、「連結体分子」内において、二本鎖結合を効率的に形成して、第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)を構成する。そのため、第2の実施形態の標的物質の検出方法では、検体試料中に標的物質7が含まれていない場合、第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)を構成せず、「開裂」状態に留まっている「連結体分子」に起因する、バックグラウンドが低減して、「検体試料中に標的物質7が含まれていない状態」の測定精度が向上する。
また、図4(a)、図4(b)に例示される複合体(ハイブリッド体)11においても、第1の核酸断片2の二本鎖形成部位5に結合される、光異性化分子3に第1の光異性化処理を施すと、第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)に変換される。一方、第1の核酸断片2の二本鎖形成部位5に結合される、光異性化分子3に第2の光異性化処理を施すと、第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)に変換される。その際、第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)中の再安定化された二本鎖結合のメルト温度Tmelting-2と、第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)中の不安定化された二本鎖結合のメルト温度Tmelting-1は、Tmelting-1≪Tmelting-2の関係となっている。また、第2の実施形態の標的物質の検出方法を適用する際、通常、検出時の液温TLを、Tmelting-1<TL<Tmelting-2の関係を満たすように選択する。そのため、「検体試料中に標的物質7が含まれていない状態」でも、「第2の工程」において、検出時の液温TLに維持される間に、第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)中の不安定化された二本鎖結合の「開裂」は進行する。その際、「連結体分子」中のアプタマー1と、第1の光異性化処理済の第1の核酸断片2は、リンカー9を介して、連結されているので、「第4の工程」において、第2の光異性化処理を施すと、「連結体分子」中のアプタマー1と、第2の光異性化処理済の第1の核酸断片2の間で、第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)に、速やかに変換される。そのため、アプタマー1が標的物質7と結合していない場合は、第2の光異性化処理を施すことによって、第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)中の再安定化された二本鎖結合を速やかに形成することができ、第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)を構成せず、「開裂」状態に留まっている「連結体分子」に起因する、バックグラウンドの低減ができる。
複合体11中、二本鎖形成部位5に結合される、光異性化分子3は、第2の実施形態の標的物質の検出方法で利用される、第1の光異性化処理と、第2の光異性化処理を施した際、可逆的な光異性化を起こす。第1の光異性化処理を施した際、第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)中の二本鎖結合は、第1の光異性化処理を受けた光異性化分子3により修飾されており、該第1の光異性化処理を受けた光異性化分子3は立体障害を誘起する結果、該二本鎖結合を不安定化する。その後、第2の光異性化処理を施した際、第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)中の二本鎖結合は、第2の光異性化処理を受けた光異性化分子3により修飾されており、該第2の光異性化処理を受けた光異性化分子3は、可逆的な光異性化のため、第1の光異性化処理前の立体構造に復する。その結果、第1の光異性化処理を受けた光異性化分子3により誘起された立体障害は解消され、該第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)中の二本鎖結合は、再安定化される。従って、第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)中の再安定化された二本鎖結合のメルト温度Tmelting-2と、第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)中の不安定化された二本鎖結合のメルト温度Tmelting-1は、Tmelting-1≪Tmelting-2の関係となっている。また、第2の実施形態の標的物質の検出方法を適用する際、検出時の液温TLを、Tmelting-1<TL<Tmelting-2の関係を満たすように、選択することができる。
また、「連結体分子」の製造条件の検討により、測定溶液中におけるアプタマー1に対する第1の核酸断片2の存在比率を正確に制御することができる。例えば、図4(a)に例示する態様では、スペーサ9の両端に、アプタマー1と第1の核酸断片2が連結された「連結体分子」とすることで、測定溶液中におけるアプタマー1に対する第1の核酸断片2の存在比率を正確に1:1にすることができる。一方、図4(b)に例示する態様では、3分岐のスペーサ9を用いることで、アプタマー1に対する第1の核酸断片2の存在比率を1:2にすることができる。
複合体(ハイブリッド体)の解離は、「連結体分子」の分子内の二本鎖結合の解離となっており、検出時の液温TLにおける、第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)中の二本鎖結合の解離平衡定数KDhybrid-2(TL)は、アプタマー1が標的物質7と結合してなく、第2の光異性化処理済「連結体分子」の濃度[第2の光異性化処理済の連結体分子]に依存し、KDhybrid-2(TL)=[第2の光異性化処理済の連結体分子]/[第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)]となる。第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)の安定性は、アプタマー1の二本鎖形成部位5と、第2の光異性化処理済の光異性化分子3が結合されている、第1の核酸断片2の二本鎖形成部位5との間で、二本鎖結合を形成することに伴う、安定化エンネルギー:ΔEhybrid-2に依存している。該安定化エンネルギー:ΔEhybrid-2は、「連結体分子」の分子内における、アプタマー1に対する第1の核酸断片2の存在比率を、1:1から、1:2に変更しても、本質的に等しい。すなわち、図4(a)に例示する態様の「連結体分子」、図4(b)に例示する態様の「連結体分子」のいずれの場合も、第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)中の再安定化された二本鎖結合のメルト温度Tmelting-2は、本質的に等しい。図4(a)に例示する態様の「連結体分子」、図4(b)に例示する態様の「連結体分子」のいずれの場合も、第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)中の二本鎖結合の解離平衡定数KDhybrid-2(TL)は、実質的に等しい。
また、検出時の液温TLにおける、第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)中の二本鎖結合の解離平衡定数KDhybrid-1(TL)は、アプタマー1が標的物質7と結合してなく、第1の光異性化処理済「連結体分子」の濃度[第1の光異性化処理済の連結体分子]に依存し、KDhybrid-1(TL)=[第1の光異性化処理済の連結体分子]/[第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)]となる。第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)の安定性は、アプタマー1の二本鎖形成部位5と、第1の光異性化処理済の光異性化分子3が結合されている、第1の核酸断片2の二本鎖形成部位5との間で、二本鎖結合を形成することに伴う、安定化エンネルギー:ΔEhybrid-1に依存している。該安定化エンネルギー:ΔEhybrid-1は、「連結体分子」の分子内における、アプタマー1に対する第1の核酸断片2の存在比率を、1:1から、1:2に変更しても、本質的に等しい。すなわち、図4(a)に例示する態様の「連結体分子」、図4(b)に例示する態様の「連結体分子」のいずれの場合も、第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)中の不安定化された二本鎖結合のメルト温度Tmelting-1は、本質的に等しい。図4(a)に例示する態様の「連結体分子」、図4(b)に例示する態様の「連結体分子」のいずれの場合も、第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)中の二本鎖結合の解離平衡定数KDhybrid-1(TL)は、実質的に等しい。
「連結体分子」を採用することにより、第2の実施形態の標的物質の検出方法では、二本鎖結合の安定性(メルト温度)ならびに、検出時の液温TLにおける、二本鎖結合の形成比率(解離平衡定数)の調節が容易であり、二本鎖結合の「開裂」状態の検出感度を向上させることができる。
第2の実施形態の標的物質の検出方法において、「連結体分子」の構成に使用する、アプタマー1、「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」は、第1の実施形態の標的物質の検出方法で利用する、アプタマー1、「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」と同様の塩基配列を有するものを用いることができる。「連結体分子」を形成するため、アプタマー1および「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」は、スペーサ9と結合を形成することが可能な官能基を有するものが適宜用いられる。アプタマー1および「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」に付与される官能基としては、使用される溶媒やpH条件などによって、スペーサ9との間で解離しない結合を形成可能なものであれば限定されず、カルボキシル基、アミノ基、チオール基、ジスルフィド基、スクシンイミジル基、マレイミド基、ビオチンなどの一般的なものを用いることができる。アプタマー1および「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」に付与される官能基は、一般的な核酸合成方法で、アプタマー1および「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」を作製する際、その端部に付与することができる。また、アプタマー1および「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」の核酸合成に使用する、原料の核酸分子に、市販のリンカーなどを修飾して形成したものを用いることができる。また、アプタマー1に付与される官能基は、アプタマー1と標的物質7の特異的な結合を妨げない限り、任意の部位に修飾されても良い。例えば、官能基による修飾部位は、アプタマー1および「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」の端部にあっても良いし、あるいは、中央部にあっても良い。また、アプタマー1や「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」とスペーサ9の連結の形成は、特に限定されず、一般的なクロスカップリング法を利用できる。また、市販されているホスホロアミダイト化したリンカーを用いるなどして、一般的な核酸合成法によって、アプタマー1と「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」の間に、スペーサ9を挿入したものを合成しても良い。このようなアプタマー1と「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」を、スペーサ9を介して連結してなる「連結体分子」を合成した後、HPLC精製等により、未反応のモノマー等の不要化合物を除去した後、「連結体分子」中の分子内二本鎖結合を形成し、複合体(ハイブリッド体)11として、使用することが好ましい。
第2の実施形態の標的物質の検出方法において、「連結体分子」の構成に使用するスペーサ9は、アプタマー1や「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」が、スペーサ9上に吸着したり、特異的な分子間結合を形成しないものであれば、特に限定されず、例えば、相補的な塩基配列でない核酸鎖や、糖鎖、ポリペプチド、炭化水素鎖やオリゴエチレングリコールなどの、一本鎖核酸分子相互に連結に利用可能な、一般的なリンカーを用いることができる。また、スペーサ9は、アプタマー1の二本鎖形成部位5と、「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」の二本鎖形成部位5との間で二本鎖結合を形成する際、両者の二本鎖形成部位5の配向を抑制する「立体障害」などを引き起こさないことが必要である。従って、図4(a)に例示する態様の「連結体分子」に利用する、スペーサ9の長さは、少なくとも3Å、またはそれ以上の範囲に選択することが好ましい。一方、スペーサ9が、不必要に長いと、二つの「連結体分子」の間において、アプタマー1の二本鎖形成部位5と、「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」の二本鎖形成部位5との間で二本鎖結合を形成し、二つの「連結体分子」が、分子間で二本鎖結合を形成し、二量体型の複合体(ハイブリッド体)を構成する可能性が増す。分子間で二本鎖結合を形成し、二量体型の複合体(ハイブリッド体)を構成する確率の増大を回避する上では、図4(a)に例示する態様の「連結体分子」に利用する、スペーサ9の長さは、少なくとも200Å、またはそれ以上の範囲に選択することが好ましい。
一般に、図4(a)に例示する態様の「連結体分子」に利用する、スペーサ9の長さは、10Å以上50Å以下の範囲に選択することが、さらに好ましい。
また、第2の実施形態の標的物質の検出方法において利用される、「連結体分子」から構成される複合体(ハイブリッド体)11は、検体試料中に標的物質7が含まれていない場合、「第4の工程」において、検出時の液温TLにおいて、光異性化分子3に第2の光異性化処理を施した際、「連結体分子」を構成する、アプタマー1の二本鎖形成部位5と、「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」の二本鎖形成部位5との間で、分子内二本鎖結合を形成し、全て、第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)に変換可能な状態であるものを意味する。従って、「検体試料中に標的物質7が含まれていない」状態の検出を行う際には、光異性化分子3に、予め第1の光異性化処理を施した、第1の光異性化処理済の「連結体分子」では、アプタマー1の二本鎖形成部位5と、第1の光異性化処理済「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」の二本鎖形成部位5との間では、分子内二本鎖結合が形成されていないものを使用することが可能である。また、検体試料中に標的物質7が含まれている場合も、分子内二本鎖結合が形成されていない「光異性化分子3に、予め第1の光異性化処理を施した、第1の光異性化処理済の連結体分子」を利用し、「第1の光異性化処理済の連結体分子」中に内在するアプタマー1と標的物質7との複合体の形成を進めることができる。検体試料中に含まれている、標的物質7が全て、アプタマー1と標的物質7との複合体を形成すると、測定溶液中には、複合体を形成していない標的物質7は実質的に存在しない状態となる。その後、「第4の工程」において、検出時の液温TLにおいて、光異性化分子3に第2の光異性化処理を施した際、第2の光異性化処理済「連結体分子」を構成する、アプタマー1の二本鎖形成部位5と、第2の光異性化処理済「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」の二本鎖形成部位5との間で、分子内二本鎖結合を形成し、残余していた「第1の光異性化処理済の連結体分子」全てを、第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)に変換可能である。
換言すると、第2の実施形態の標的物質の検出方法は、図4(a)、図4(b)に例示する態様の「連結体分子」から構成される複合体(ハイブリッド体)11、すなわち、検出時の液温TLにおいて、第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)の形態を有する、「連結体分子」から構成される複合体(ハイブリッド体)11に代えて、検出時の液温TLにおいて、アプタマー1の二本鎖形成部位5と、第1の光異性化処理済「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」の二本鎖形成部位5との間で、分子内二本鎖結合を形成していない、第1の光異性化処理済「連結体分子」を利用する態様を採用できる。その際、「連結体分子」から構成される複合体(ハイブリッド体)11の調製工程に代えて、アプタマー1と、第1の光異性化処理済「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」が、スペーサ9を介して連結されており、分子内二本鎖結合を形成していない、第1の光異性化処理済「連結体分子」を調製する工程を採用する態様を選択することができる。
(第3の実施形態)
第3の実施形態の標的物質の検出方法も、第1の実施形態の標的物質の検出方法で利用する「検出原理」、あるいは、第2の実施形態の標的物質の検出方法で利用する「検出原理」を応用する手法であるので、第1の実施形態の標的物質の検出方法、第2の実施形態の標的物質の検出方法と同様な点については、説明を省略する。
図5は、第3の実施形態の標的物質の検出方法で利用される、複合体(ハイブリッド体)11の形状と、「標的物質7の検出」の「第1の工程」〜「第4の工程」に相当する手順を、模式的に示す図である。
第3の実施形態の標的物質の検出方法で利用される、複合体(ハイブリッド体)11では、アプタマー1の二本鎖形成部位5と、「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」の二本鎖形成部位5は二本鎖結合を形成した、「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」の端部は、スペーサ9を介して、固定部材4に、化学結合または化学吸着により固定されている。加えて、「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」の他の端部には、標識物質6が修飾されている。
第3の実施形態の標的物質の検出方法では、アプタマー1と「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」からなる複合体(ハイブリッド体)11は、「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」は、スペーサ9を介して、固定部材4の表面に固定される。そのため、「第1の工程」〜「第4の工程」の実施に必要な一連の操作、例えば、複合体(ハイブリッド体)11に対する、加熱処理、第1の光異性化処理、検体試料中に含有される標的物質7を接触させる処理、第2の光異性化処理の一連の処理操作が容易となっている。
また、複合体(ハイブリッド体)11中の二本鎖結合の「開裂」状態の検出は、スペーサ9を介して、固定部材4の表面に固定される「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」の「開裂」状態の検出に適用可能な素子が利用できる。従って、前記素子と、固定部材4の表面に固定される、複合体(ハイブリッド体)11を利用して、第3の実施形態の標的物質の検出方法を適用して、標的物質の検出用のセンサを構成できる。
第3の実施形態の標的物質の検出方法について、図5を参照して、説明する。
まず、図5(a)に例示される、固定部材4上に固定化された複合体(ハイブリッド体)11の調製工程について、説明する、固定部材4上に固定化された複合体(ハイブリッド体)11は、アプタマー1、第1の核酸断片2、光異性化分子3、標識物質6、スペーサ9及び固定部材4を具える。第1の核酸断片2の二本鎖形成部位5に、光異性化分子3が結合されている。「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」の一端は、スペーサ9が連結され、他の一端に、標識物質6が修飾されている。光異性化分子3は、第1の実施形態の標的物質の検出方法、第2の実施形態の標的物質の検出方法で利用される、光異性化分子3と同様に、第1の光異性化処理、第2の光異性化処理を施すことにより、可逆的な光異性化を起こす。
図5(a)に例示される態様では、「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」は、その一端に連結される、スペーサ9を介して、化学結合、または化学吸着により、固定部材4の表面に固定されている。固定部材4の表面に固定された、「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」の二本鎖形成部位5と、アプタマー1の二本鎖形成部位5の間で、二本鎖結合を形成させ、固定部材4上に固定化された複合体(ハイブリッド体)11を構成する。
光異性化分子3に、第1の光異性化処理を施すと、第1の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」の二本鎖形成部位5と、アプタマー1の二本鎖形成部位5の間で形成される二本鎖結合の安定性が低下する。すなわち、第1の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」とアプタマー1で構成される「第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」中の不安定化された二本鎖結合のメルト温度Tmelting-1は、当初の複合体(ハイブリッド体)11中の二本鎖結合のメルト温度Tmeltingと比較して、Tmelting-1≪Tmeltingとなっている。第1の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」に、第2の光異性化処理を施すと、第2の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」に変換される。光異性化分子3は、第1の光異性化処理、第2の光異性化処理を施すことにより、可逆的な光異性化を起こすので、第2の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」の二本鎖形成部位5と、アプタマー1の二本鎖形成部位5の間で形成される二本鎖結合は、当初の複合体(ハイブリッド体)11中の二本鎖結合の安定性と同じ水準まで、再安定化する。すなわち、第2の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」とアプタマー1で構成される「第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」中の再安定化された二本鎖結合のメルト温度Tmelting-2は、当初の複合体(ハイブリッド体)11中の二本鎖結合のメルト温度Tmeltingと等しい。
従って、「第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」中の不安定化された二本鎖結合のメルト温度Tmelting-1、「第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」中の再安定化された二本鎖結合のメルト温度Tmelting-2と、当初の複合体(ハイブリッド体)11中の二本鎖結合のメルト温度Tmeltingは、Tmelting-1≪Tmelting=Tmelting-2の関係を満たす。液温TLに対して、TL<Tmelting-1の関係を満たす場合、「第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」中の不安定化された二本鎖結合の熱的な解離は進行しない。その際、図5(b)に例示するように、固定部材4の表面に、不安定化された二本鎖結合を保持した「第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」が固定化されている。
検出時の液温TLにおける、第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)の解離平衡定数KDhybrid-1(TL)=[一本鎖状のアプタマー1]・[第1の光異性化処理済の第1の核酸断片2]/[第1の光異性化処理済の複合体]、第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)の解離平衡定数KDhybrid-2(TL)=[一本鎖状のアプタマー1]・[第2の光異性化処理済の第1の核酸断片2]/[第2の光異性化処理済の複合体]、標的物質7とアプタマー1の複合体の解離平衡定数KDcomplex(TL)=[立体構造を有するアプタマー1]・[標的物質7]/[複合体]を比較すると、KDhybrid-2(TL)<KDcomplex(TL)≪KDhybrid-1(TL)となっている。また、「立体構造を有するアプタマー1」が有する立体構造が熱的に解消される温度、Taptamer-defoldingは、室温(25℃)より高く、Tmelting-2よりも十分に低い(25℃<Taptamer-defolding≪Tmelting-2)。25℃<TL<Taptamer-defoldingの範囲に、検出時の液温TLが選択されている場合、「一本鎖状のアプタマー1」と「立体構造を有するアプタマー1」の間の構造変化の平衡定数Kaptamer-defolding(TL)=[一本鎖状のアプタマー1]/[立体構造を有するアプタマー1]は、少なくとも、Kaptamer-defolding(TL)<1の関係である。
例えば、検出時の液温TLを、「第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」中の不安定化された二本鎖結合のメルト温度Tmelting-1よりも極く僅かに低く設定する(TL=Tmelting-1−δT)と、「第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」を構成している、アプタマー1に対して、標的物質7が接触し、アプタマー1の部分的な構造変化を誘起すると、「不安定化された二本鎖結合」に起因する、安定化エネルギー:ΔEhybrid-1は、僅かに減少して、結果的に、メルト温度Tmelting-1が若干(δT)低下し、(Tmelting-1−δT)となると、この検出時の液温TLでも、標的物質7の接触(摂動:δE)に伴って、「第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」の解離が誘起される。
その際、「第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」中の不安定化された二本鎖結合のメルト温度Tmelting-1よりも、検出時の液温TLは極く僅かに低くため、標的物質7の接触がなされない場合、「第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」の相当部分は、解離を起こさず、不安定化された二本鎖結合を維持している。
また、検出時の液温TLを、Tmelting-1<TL≪Tmelting-2の関係を満たす範囲に選択すると、該液温TLでは、「第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」中の不安定化された二本鎖結合の熱的な解離が進行する。熱的な解離により生成する「一本鎖状のアプタマー1」は、標的物質7との特異的な結合に不可欠な立体構造を有する「立体構造を有するアプタマー1」へと変換される。標的物質7は、「立体構造を有するアプタマー1」と結合し、標的物質7とアプタマー1の複合体を形成する。結果的に、検出時の液温TLを、Tmelting-1<TL≪Tmelting-2の関係を満たす範囲に選択する場合、「第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」中の不安定化された二本鎖結合は全て解離され、標的物質7は、全て、「立体構造を有するアプタマー1」と結合し、標的物質7とアプタマー1の複合体を形成する。標的物質7とアプタマー1の複合体を形成していない、「立体構造を有するアプタマー1」と「一本鎖状のアプタマー1」は、測定溶液中に溶解している。図5(c)に例示するように、「第1の光異性化処理済の第1の核酸断片2」は、固定部材4の表面に固定化されている。
次いで、「第4の工程」において、第2の光異性化処理を施すと、図5(d)に例示するように、固定部材4の表面に固定化されている「第1の光異性化処理済の第1の核酸断片2」は、全て、「第2の光異性化処理済の第1の核酸断片2」となる。測定溶液中に溶解している、標的物質7とアプタマー1の複合体を形成していない、「一本鎖状のアプタマー1」は、固定部材4の表面に固定化されている「第2の光異性化処理済の第1の核酸断片2」と、「第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」を形成する。結果的に、測定溶液中に溶解している、「一本鎖状のアプタマー1」の濃度が減少するため、「一本鎖状のアプタマー1」と「立体構造を有するアプタマー1」の間の構造変化の平衡定数Kaptamer-foldingに従って、「立体構造を有するアプタマー1」から「一本鎖状のアプタマー1」への構造変化が進行する。
検出時の液温TLを、Tmelting-1≦TL≪Tmelting-2の関係を満たす範囲に選択すると、標的物質7とアプタマー1の複合体を形成していない、「立体構造を有するアプタマー1」も、「一本鎖状のアプタマー1」に変換されて、固定部材4の表面に固定化されている「第2の光異性化処理済の第1の核酸断片2」と、「第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」を形成する。その結果、図5(d)に例示するように、固定部材4の表面には、標的物質7とアプタマー1の複合体の量と等しい量の「第2の光異性化処理済の第1の核酸断片2」は、「開裂」状態で残される。この「開裂」状態で残される、「第2の光異性化処理済の第1の核酸断片2」を検出して、標的物質7とアプタマー1の複合体の量、すなわち、検体試料中に含有されている標的物質7の量の検出がなされる。
勿論、検体試料中に標的物質7が含有されていない場合、標的物質7とアプタマー1の複合体は形成されないので、「開裂」状態で残される「第2の光異性化処理済の第1の核酸断片2」は、本来「零」となる。
検出時の液温TLにおいて、標的物質7とアプタマー1の複合体の解離平衡定数KDcomplex(TL)が、十分に小さい場合、標的物質7とアプタマー1の複合体の解離の進行は抑制される。従って、検体試料中に標的物質7が存在する場合、図5(d)に例示するように、「第3の工程」において形成される、標的物質7とアプタマー1の複合体は、「第4の工程」においも、その解離の進行は抑制されるため、「第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」を形成できず、「開裂」状態で残されている「第2の光異性化処理済の第1の核酸断片2」が存在している。検体試料中に標的物質7が存在していない場合、標的物質7とアプタマー1の複合体は存在していないので、「第4の工程」において、「第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」を形成できず、「開裂」状態で残されている「第2の光異性化処理済の第1の核酸断片2」は、実質的に存在しない。従って、「開裂」状態で残されている「第2の光異性化処理済の第1の核酸断片2」の有無を検知することにより、検査対象物(検体試料)中に標的物質7が存在しているか、存在していないかの判別を行うことができる。
第3の実施形態の標的物質の検出方法で利用される、複合体(ハイブリッド体)11は、固定部材4上に固定されているので、「調製工程」において、反応溶液から、複合体(ハイブリッド体)11を容易に回収することができる、また、「第4の工程」の後、液相中の標的物質7とアプタマー1の複合体と、「開裂」状態で残されている「第2の光異性化処理済の第1の核酸断片2」の分離を容易にできる等、固定部材4上に固定されている、複合体(ハイブリッド体)11、ならびに、第1の核酸断片2を液相と分離する操作は、固液分離法が利用でき、分離操作が容易となる。
また、複数種類の標的物質7に対して、それぞれ特異的に結合し、複合体形成可能な「アプタマー1」と相補的な「第1の核酸断片2」からなる「複合体(ハイブリッド体)11」複数種を、同じ固定部材4上に固定することができる。その際、「複合体(ハイブリッド体)11」複数種において、その構成に利用する、光異性化分子3に対する、第1の光異性化処理、第2の光異性化処理、標的物質7とアプタマー1の複合体形成、「第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」中の二本鎖結合の形成の各工程において、同一操作、条件が採用でき、また、各「アプタマー1」と相補的な「第1の核酸断片2」の「開裂」状態を独立して検出することが可能であれば、検体試料中に含まれる複数の成分(標的物質7)を一度に検出することができる。検体試料中に含まれる複数の成分(標的物質7)を一度に検出することが可能であれば、検査のスループットを向上させることができる。
図5(a)に例示する、固定部材4上に固定されている、複合体(ハイブリッド体)11は、第3の実施形態の標的物質の検出方法を適用する、標的物質7の検出用の検査キットとして使用することができる。
また、複合体(ハイブリッド体)11の固定化に使用される、固定部材4として、複合体(ハイブリッド体)11中の二本鎖結合の「開裂」を検出する能力を有する検出素子を用いることができる。前記の構成を有する検出素子は、後述するように、検体試料中に標的物質7が含有されているか、否かの検出を目的とする、標的物質検出用のセンサとして使用することができる。また、上述する、同一の固定部材4に固定した際、検体試料中に含まれる複数の成分(標的物質7)を一度に検出することが可能な、複数種類の標的物質7に対して、それぞれ特異的に結合し、複合体形成可能な「アプタマー1」と相補的な「第1の核酸断片2」からなる「複合体(ハイブリッド体)11」複数種を、該複数種の複合体(ハイブリッド体)11中の二本鎖結合の「開裂」を、独立に検出する能力を有する検出素子の表面に固定する構成を採用することもできる。前記の構成を有する検出素子は、複数種類の標的物質7に関して、検体試料中に、各成分(標的物質7)が含有されているか、否かの検出を一度に実施することを目的とする、検体試料中の成分分析用のセンサとして使用することができる。
第3の実施形態の標的物質の検出方法で使用する、複合体(ハイブリッド体)11において、「アプタマー1」と相補的な「第1の核酸断片2」は、第1の実施形態の検出方法で使用する、複合体(ハイブリッド体)11を構成する、「アプタマー1」と相補的な「第1の核酸断片2」と同様のものを用いることができる。図5(a)に例示される態様では、該「第1の核酸断片2」の二本鎖形成部5に、光異性化分子5が結合され、その一端は、スペーサ9に連結され、該スペーサ9を介して、固定部材4の表面に固定化される。また、該「第1の核酸断片2」の他の一端には、標識物質6が修飾されている。
スペーサ9との連結がなされる、該「第1の核酸断片2」の端部は、スペーサ9との連結に利用される官能基が付与される。スペーサ9との連結に利用される官能基は、使用される溶媒やpH条件などによって、スペーサ9との連結が解離しない結合を形成可能なものであれば限定されず、カルボキシル基、アミノ基、チオール基、ジスルフィド基、スクシンイミジル基、マレイミド基、ビオチンなど、一般的に、スペーサ9との連結に利用される官能基を用いることができる。
「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」に付与される官能基は、一般的な核酸合成方法で、「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」を作製する際、その端部に付与することができる。また、「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」の核酸合成に使用する、原料の核酸分子に、市販のリンカーなどを修飾して形成したものを用いることができる。
また、「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」に付与される官能基は、アプタマー1の二本鎖形成部5と、「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」の二本鎖形成部5による二本鎖結合の形成を妨げない限り、任意の部位に修飾されても良い。例えば、官能基による修飾部位は、「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」の端部にあっても良いし、あるいは、中央部にあっても良い。
「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」の二本鎖形成部5が位置する側の端部に、スペーサ9が連結される。スペーサ9の長さは、3Å以上、さらに好ましくは10Å以上であることが好ましい。スペーサ9を連結することにより、「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」の二本鎖形成部5と、アプタマー1の二本鎖形成部5による二本鎖結合の形成、特には、第2の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」の二本鎖形成部5と、アプタマー1の二本鎖形成部5による二本鎖結合の形成、すなわち、「第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」中の二本鎖結合の形成過程において、固定部材4と「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」の間で立体障害が生じ、二本鎖結合の形成効率を低下させることを回避する。
一方、複合体(ハイブリッド体)11の固定化に使用される、固定部材4として、複合体(ハイブリッド体)11中の二本鎖結合の「開裂」を検出する能力を有する検出素子を用いる場合、検出素子と、第2の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」の二本鎖形成部5との距離が長くなると、二本鎖結合の「開裂」の検出感度が損なわれる。二本鎖結合の「開裂」の検出感度を維持するため、スペーサ9の長さは、200Å以下であることが好ましい。さらに好ましくは、スペーサ9の長さは、10Å以上50Å以下の範囲に選択する。スペーサ9は、アプタマー1の核酸鎖、「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」の核酸鎖との間で分子間結合を形成しないものであれば特に限定されず、相補的な塩基配列でない核酸や、糖鎖、ポリペプチド、炭化水素鎖やオリゴエチレングリコールなどの一般的なリンカーを用いることができる。
第3の実施形態の標的物質の検出方法で使用する、複合体(ハイブリッド体)11の固定化に利用する固定部材4は、「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」を、スペーサ9を介して固定可能なもの、もしくは、スペーサ9を介する固定に利用可能な処理が可能なものであれば、固定部材4自体の材料は特に限定されない。固定部材4の表面に、核酸鎖を直接固定する方法としては、例えば、核酸鎖に導入された官能基(−COOH)と、固定部材4の表面に導入された官能基(−NH2)を利用して、ペプチド結合(−CO−NH−)を形成する方法や、固定部材4の表面に、金、白金、銀、パラジウムなどの被膜を設けた上で、その表面に、核酸鎖の末端に導入されたチオール基(−SH)を化学吸着させる方法や、固定部材4の表面に、アビジンを固定し、核酸鎖の末端に修飾したビオチンを作用させて、ビオチン−アビジン結合を形成する方法などがある。また、DNAチップなどで、広く利用される手法の一つとして、固定部材4の表面の官能基を起点として、固相合成法を利用して、目的の塩基配列の核酸鎖を順次合成する結果、固定部材4の表面に核酸鎖が固定化される方法がある。固定部材4の表面に、スペーサ9を介する固定化に利用可能な官能基を持たない場合は、固定部材4の表面を、チオールやシランカップリング剤などによる、表面処理を施すことで、所望の官能基を導入すればよい。固定部材4として、基板、ビーズ等の粒子、または、マイクロアレイチップ用の基板を用いても良い。固定部材4の形状は、特に限定されず、例えば、板状または球状または棒状などのいずれでもよい。固定部材4上に、「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」を予め固定した後、アプタマー1を含む溶液と接触させ、「ハイブリダイゼーション反応」を行うと、アプタマー1の二本鎖形成部位5と、「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」の二本鎖形成部位5は、互いに相補的な塩基配列を有しており、二本鎖結合を形成し、複合体(ハイブリッド体)11を構成する。なお、「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」は、第2の光異性化処理を施し、第2の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」に変換し、アプタマー1と、第2の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」に、アニール処理を施し、立体構造を解消した、一本鎖状の核酸鎖とした上で、「ハイブリダイゼーション反応」を行うと、「第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」を、固定部材4上に固定化できる。あるいは、端部にスペーサ9を連結した「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」と、アプタマー1を溶液中で混合し、「ハイブリダイゼーション反応」を行って、複合体(ハイブリッド体)11を形成した後、スペーサ9を介して、固定部材4上に固定化してもよい。その際、アニール処理と第2の光異性化処理を実施した後、「ハイブリダイゼーション反応」を行うことが好ましい。
図5(b)に例示するように、「第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」が、解離せず、固定部材4に固定されている温度範囲では、予め光異性化分子3に第1の光異性化処理を施した、「第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」を、スペーサ9を介して、固定部材4上に固定化してもよい。「第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」が、解離せず、固定部材4に固定されている温度範囲では、「第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」を、スペーサ9を介して、固定部材4上に固定化した後、予め光異性化分子3に第1の光異性化処理を施して、「第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」が、スペーサ9を介して、固定部材4上に固定化された状態に変換してもよい。
「第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」が、スペーサ9を介して、固定部材4上に固定化された状態の検査キットを使用すると、光異性化分子3に第1の光異性化処理を施す「第1の工程」を省略できる。従って、「第1の工程」を省き、「第2の工程」〜「第4の工程」を行うことで、検体試料中に標的物質7が含まれるか、否かの検査を、簡便に実施できる。
また、固定部材4は、第1の核酸断片2を固定した後に、ブロッキング処理を施しても良い。ブロッキング処理により、固定部材4の表面への非特異的な標的物質7の吸着を抑えることが可能となる。非特異的な標的物質7の吸着に起因する、標的物質7とアプタマー1の複合体形成効率の低減を回避でき、その結果、S/Nを向上させることができる。また、「第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」の解離により生成する「一本鎖状のアプタマー1」が、固定部材4の表面に非特異的な結合し、標的物質7との結合に不可欠な立体構造の形成が阻害される事態を回避することで、標的物質7とアプタマー1の結合効率の低下を回避することができる。また、標的物質7とアプタマー1の複合体の、固体部材4の表面への非特異的な結合も防止できる。ブロッキング処理には、ポリエチレングリコールやアクリルアミドなどの親水性高分子や、牛血清アルブミンなどのタンパク質、デキストリンなどの糖鎖、フォスファチジルコリンなどの脂質、メルカプトヘキサノールなどの親水性チオール、など、一般的なブロッキング剤を用いることができる。
第3の実施形態の標的物質の検出方法において、アプタマー1の二本鎖形成部位5、と第2の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」の二本鎖形成部位5の間で形成された二本鎖結合の「開裂」状態、すなわち、図5(d)に例示される、固定部材4の表面に固定化されている、第2の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」を検出する方法は、特に限定されず、第1の実施形態の標的物質の検出方法と同様に、「第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」中の二本鎖結合の「開裂」によって生じる、第2の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」の核酸鎖自身、およびその標識物質6の物理的・化学的変化を検出する手法を用いることができる。加えて、「第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」と、その二本鎖結合の「開裂」状態に相当する、第2の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」のみが、固定部材4の表面に固定化されているので、該二本鎖結合の「開裂」状態に因る、固定部材4の表面の物理的・化学的変化を検出する手法を用いることもできる。例えば、「第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」中の二本鎖結合の「開裂」状態に因る、固定部材4の「誘電率変化」を、表面プラズモン共鳴で検出したり、固定部材4の表面に固定化されている、「第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」と第2の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」の組成変化を、表面増強ラマン散乱によって検出しても良い。また、液相中に溶解する、標的物質7とアプタマー1の複合体を分離し、分離された標的物質7とアプタマー1の複合体を解離させ、遊離したアプタマー1を、DNAチップやPCR等のDNA検出方法によって検出しても良い。
また、固定部材4が二本鎖結合の「開裂」によって生じる、第2の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」、その標識物質6、あるいは固定部材4の表面の物理的・化学的変化を検出できる素子を、固定部材4として使用している場合、その表面に複合体(ハイブリッド体)11を固定している素子は、例えば、検体試料中に標的物質7が含有されているか、否かの検出を目的とする、標的物質7の検出用のセンサとして用いることができる。その表面に複合体(ハイブリッド体)11を固定し、検査素子を一体化している、標的物質7の検出用のセンサによって、例えば、検体試料中に標的物質7が含有されているか、否かの検出を、その場でかつ容易におこなうことが可能になる。
前記標的物質7の検出用のセンサに利用される素子は、上記二本鎖結合の「開裂」によって生じる、第2の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」、その標識物質6、あるいは固定部材4の表面の物理的・化学的変化を検出しうるものであれば限定されず、例えば、表面プラズモン共鳴(SPR)や、表面弾性波(SAW)や電界効果トランジスタ(FET)などの誘電率変化の検出に利用可能な素子や、水晶振動マイクロバランス(QCM)やカンチレバー等の力学的変化(質量変化)の検出に利用可能な素子や、標識物質6に起因する光学的シグナルの変化の検出に利用可能な光電子倍増管やフォトダイオードなどの光検出素子や、標識物質6により誘起される、電極反応の検出に利用可能な、電気化学測定用電極などの電気化学検出素子が挙げられる。
第3の実施形態の標的物質の検出方法において、「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」に修飾される標識物質6は、上記二本鎖結合の「開裂」によって生じる、物理的・化学的変化を「増幅しうるもの」であれば限定されず、第1の実施形態の標的物質の検出方法において、標識物質6として利用可能な物質の一例として挙げた各種物質を用いることができる。加えて、上記標的物質7の検出用のセンサの構成に利用される検出素子が、例えば、QCM素子やFET素子やSPR素子であるなど、二本鎖結合の「開裂」に伴って、固定部材4の表面に固定化されている「第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」と第2の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」の組成変化による「質量変化」や、「誘電率変化」を検出できる場合、標識物質6による修飾を省略しても良い。
第3の実施形態の標的物質の検出方法を適用して、電極反応物質を、標識物質6として用いる場合、「第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」中の二本鎖結合の「開裂」状態の検出例について、再度、図5を参照して説明する。
図5(a)に例示する態様では、固定部材4として、電気化学測定に利用される、三極型の電気化学セルの作用極を利用している。複合体(ハイブリッド体)11を構成する「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」は、前記作用極の表面に、スペーサ9を介して固定化されている。「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」の先端には、標識物質6として、電極反応物質が修飾されている。
図示しない対極および参照電極、ならびに、固定部材4として利用される作用極は、電気化学測定装置に接続されている。三極型の電気化学セルに所定の電位を印加する際、標識物質6として使用される、電極反応物質から、作用極への電子が伝達されると、電極反応物質の酸化(電極酸化反応)がなされる。逆に、電極反応物質に、作用極からの電子が伝達されると、電極反応物質の還元(電極還元反応)がなされる。使用する電極反応物質に応じて、作用極における電極反応(電気化学反応)の種類(電極酸化反応、または電極還元反応)が選択され、該作用極における電極反応に適合する電位が、作用極、対極、参照極に印加される。
標識物質6として、「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」の先端に修飾されている電極反応物質と、作用極間の電子移動過程の効率は、図5(a)に例示する、「第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」に修飾された状態、図5(b)に例示する、「第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」に修飾された状態、図5(c)に例示する、第1の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」に修飾された状態、図5(d)に例示する、第2の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」に修飾された状態に依存して、相違する。
検体試料中に標的物質7が含有されている場合、「第4の工程」において、第2の光異性化処理を施すと、「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」の先端に修飾されている電極反応物質は、「第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」に修飾された状態、あるいは、第2の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」に修飾された状態のいずれかとなっている。
検体試料中に標的物質7が含有されていない場合、「第4の工程」において、第2の光異性化処理を施すと、「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」の先端に修飾されている電極反応物質は、全て「第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」に修飾された状態となっている。「第1の工程」の第1の光異性化処理を施す前は、「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」の先端に修飾されている電極反応物質は、全て「第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」に修飾された状態となっている。
従って、検体試料中に標的物質7が含有されていない場合、「第1の工程」の第1の光異性化処理を施す前と、「第4の工程」において、第2の光異性化処理を施した後では、「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」の先端に修飾されている電極反応物質に対する電極反応に起因する電流値は、本質的に変化しない。
一方、検体試料中に標的物質7が含有されている場合、二本鎖結合の「開裂」状態に対応して、「第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」に修飾された状態から、第2の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」に修飾された状態への変化するため、「第1の工程」の第1の光異性化処理を施す前と、「第4の工程」において、第2の光異性化処理を施した後では、「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」の先端に修飾されている電極反応物質に対する電極反応に起因する電流値は、変化する。
すなわち、電気化学セルを用いて測定される、「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」の先端に修飾されている電極反応物質に対する電極反応に起因する電流値における、「第1の工程」の第1の光異性化処理を施す前と、「第4の工程」において、第2の光異性化処理を施した後の間の「電流値の変化」に基づき、二本鎖結合の「開裂」の状態を検出することができる。
標識物質6として、「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」の先端に修飾されている電極反応物質が、図5(a)に例示する、「第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」に修飾された状態の場合、「第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」中の二本鎖結合は、柔軟性が乏しい「二重螺旋構造」を有する。スペーサ9は、柔軟性を有するが、スペーサ9の長さを上記の範囲に選択すると、「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」の先端に修飾されている電極反応物質は、作用極として機能する固定部材4の表面に近接する配置を採る確率が低い。従って、「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」の先端に修飾されている電極反応物質と、作用極間の電子移動過程の効率は、低い状態となる。
標識物質6として、「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」の先端に修飾されている電極反応物質が、図5(d)に例示する、第2の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」に修飾された状態の場合、第2の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」の二本鎖形成部位5は、柔軟性を有する「一本鎖状の構造」を有する。スペーサ9も、柔軟性を有し、スペーサ9の長さを上記の範囲に選択すると、第2の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」の先端に修飾されている電極反応物質が、作用極として機能する固定部材4の表面に近接する配置を採る確率は、相対的に高くなる。従って、第2の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」の先端に修飾されている電極反応物質と、作用極間の電子移動過程の効率は、相対的に高くなる。
第3の実施形態の標的物質の検出方法では、「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」の先端に修飾する標識物質6として、電極反応物質を採用し、複合体(ハイブリッド体)11、特には、「第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」を固定化する固定部材4として、電気化学測定に利用される、三極型の電気化学セルの作用極を利用する態様を採用すると、「第1の工程」の第1の光異性化処理を施す前と、「第4の工程」において、第2の光異性化処理を施した後の間の「電流値の変化」に基づき、「第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」中の二本鎖結合の「開裂」の状態を検出することができる。すなわち、「第1の工程」の第1の光異性化処理を施す前と、「第4の工程」において、第2の光異性化処理を施した後の間の「電流値の変化」の有無に基づき、検査対象物(検体試料)中に標的物質7が含まれているか、否かの検査を行うことができる。「第1の工程」の第1の光異性化処理を施す前の、電気化学セルを用いて測定される、「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」の先端に修飾されている電極反応物質に対する電極反応に起因する電流値は、無視できるほど低い場合、あるいは、予め、その水準が判っている場合、必要に応じて、「第1の工程」の第1の光異性化処理を施す前の電流値の測定を省略することができる。
また、作用極の表面に固定化された複合体(ハイブリッド体)11、特には、「第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」を調製する工程後、必要に応じて、固定化されていない「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」を除くため、固定部材4(作用極)の表面を洗浄してもよい。あるいは、「第4の工程」において、第2の光異性化処理を施した後、必要に応じて、標的物質7とアプタマー1の複合体を除くため、固定部材4(作用極)の表面を洗浄してもよい。
また、複数種類の標的物質7に対して、それぞれ特異的に結合し、複合体形成可能な「アプタマー1」と相補的な「第1の核酸断片2」からなる「複合体(ハイブリッド体)11」複数種を、アレイ状に配置される、三極型の電気化学セル複数の作用極上に、それぞれ固定することができる。その際、「複合体(ハイブリッド体)11」複数種において、その構成に利用する、光異性化分子3に対する、第1の光異性化処理、第2の光異性化処理、標的物質7とアプタマー1の複合体形成、「第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」中の二本鎖結合の形成の各工程において、同一操作、条件が採用でき、また、各「アプタマー1」と相補的な「第1の核酸断片2」の「開裂」状態を、アレイ状に配置される、三極型の電気化学セル複数を利用して、独立して検出することが可能であれば、検体試料中に含まれる複数の成分(標的物質7)を一度に検出することができる。検体試料中に含まれる複数の成分(標的物質7)を一度に検出することが可能な「アレイ状に配置される、三極型の電気化学セル複数」は、検体試料中の複数の成分(標的物質7)の有無の検査の目的に適合する「マルチ成分センサ」として利用可能である。該「マルチ成分センサ」を利用すると、検体試料中に含まれる複数の成分(標的物質7)の有無を、容易にその場で検査することができる。
また、第3の実施形態の標的物質の検出方法で利用される、固定部材4の表面に固定された複合体(ハイブリッド体)11は、「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」は、その先端に標識物質6が修飾され、スペーサ9を介して、固定部材4の表面に固定化され、検体試料中に標的物質7が含有されていない場合、検出時の液温TLにおいて、「第4の工程」において、第2の光異性化処理を施した後、アプタマー1の二本鎖形成部位5と、第2の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」の二本鎖形成部位5の間で二本鎖結合を形成し、「第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」が固定部材4の表面に形成可能な状態であるものを意味する。例えば、検出時の液温TLにおいて、第1の光異性化処理を施した際、アプタマー1の二本鎖形成部位5と、第1の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」の二本鎖形成部位5の間で、二本鎖結合が形成されていない状態であってもよい。従って、予め第1の光異性化処理を施した、第1の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」が、スペーサ9を介して、固定部材4の表面に固定化され、一方、アプタマー1は、第1の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」と二本鎖結合を形成していない状態で混合されている形態を使用する態様も含む。すなわち、「複合体(ハイブリッド体)11の調製工程」において、予め第1の光異性化処理を施した、第1の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」が、スペーサ9を介して、固定部材4の表面に固定化され、一方、アプタマー1は、第1の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」と二本鎖結合を形成していない状態の混合物を調製する態様も含む。
(第4の実施形態)
第4の実施形態の標的物質の検出方法も、第1の実施形態の標的物質の検出方法〜第2の実施形態の標的物質の検出方法で利用する「検出原理」を応用する手法であるので、第1の実施形態の標的物質の検出方法〜第3の実施形態の標的物質の検出方法と同様な点については、説明を省略する。
図6は、第4の実施形態の標的物質の検出方法で利用される、複合体(ハイブリッド体)11の形状と、「標的物質7の検出」の「第1の工程」〜「第4の工程」に相当する手順を、模式的に示す図である。
第4の実施形態の標的物質の検出方法について、図6を参照して、説明する。
第4の実施形態の標的物質の検出方法で利用される、図6(a)に例示する態様の複合体(ハイブリッド体)11では、「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」の二本鎖形成部位5と、アプタマー1の二本鎖形成部位5とは二本鎖結合を形成し、アプタマー1の二本鎖形成部位5の端部は、スペーサ9を介して、固定部材4に、化学結合または化学吸着により固定されている。加えて、「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」の二本鎖形成部位5の端部には、標識物質6が修飾されている。その結果、複合体(ハイブリッド体)11を構成している間、「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」の二本鎖形成部位5の端部に修飾されている標識物質6は、固定部材4の表面に近接が可能である。
光異性化分子3に、第1の光異性化処理を施すと、第1の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」の二本鎖形成部位5と、アプタマー1の二本鎖形成部位5の間で形成される二本鎖結合の安定性が低下する。すなわち、第1の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」とアプタマー1で構成される「第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」中の不安定化された二本鎖結合のメルト温度Tmelting-1は、当初の複合体(ハイブリッド体)11中の二本鎖結合のメルト温度Tmeltingと比較して、Tmelting-1≪Tmeltingとなっている。第1の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」に、第2の光異性化処理を施すと、第2の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」に変換される。光異性化分子3は、第1の光異性化処理、第2の光異性化処理を施すことにより、可逆的な光異性化を起こすので、第2の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」の二本鎖形成部位5と、アプタマー1の二本鎖形成部位5の間で形成される二本鎖結合は、当初の複合体(ハイブリッド体)11中の二本鎖結合の安定性と同じ水準まで、再安定化する。すなわち、第2の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」とアプタマー1で構成される「第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」中の再安定化された二本鎖結合のメルト温度Tmelting-2は、当初の複合体(ハイブリッド体)11中の二本鎖結合のメルト温度Tmeltingと等しい。
従って、「第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」中の不安定化された二本鎖結合のメルト温度Tmelting-1、「第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」中の再安定化された二本鎖結合のメルト温度Tmelting-2と、当初の複合体(ハイブリッド体)11中の二本鎖結合のメルト温度Tmeltingは、Tmelting-1≪Tmelting=Tmelting-2の関係を満たす。液温TLに対して、TL<Tmelting-1の関係を満たす場合、「第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」中の不安定化された二本鎖結合の熱的な解離は進行しない。その際、図6(b)に例示するように、固定部材4の表面に、不安定化された二本鎖結合を保持した「第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」が固定化されている。
検出時の液温TLにおける、第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)の解離平衡定数KDhybrid-1(TL)=[一本鎖状のアプタマー1]・[第1の光異性化処理済の第1の核酸断片2]/[第1の光異性化処理済の複合体]、第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)の解離平衡定数KDhybrid-2(TL)=[一本鎖状のアプタマー1]・[第2の光異性化処理済の第1の核酸断片2]/[第2の光異性化処理済の複合体]、標的物質7とアプタマー1の複合体の解離平衡定数KDcomplex(TL)=[立体構造を有するアプタマー1]・[標的物質7]/[複合体]を比較すると、KDhybrid-2(TL)<KDcomplex(TL)≪KDhybrid-1(TL)となっている。また、「立体構造を有するアプタマー1」が有する立体構造が熱的に解消される温度、Taptamer-defoldingは、室温(25℃)より高く、Tmelting-2よりも十分に低い(25℃<Taptamer-defolding≪Tmelting-2)。25℃<TL<Taptamer-defoldingの範囲に、検出時の液温TLが選択されている場合、「一本鎖状のアプタマー1」と「立体構造を有するアプタマー1」の間の構造変化の平衡定数Kaptamer-defolding(TL)=[一本鎖状のアプタマー1]/[立体構造を有するアプタマー1]は、少なくとも、Kaptamer-defolding(TL)<1の関係である。
例えば、検出時の液温TLを、「第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」中の不安定化された二本鎖結合のメルト温度Tmelting-1よりも極く僅かに低く設定する(TL=Tmelting-1−δT)と、「第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」を構成している、アプタマー1に対して、標的物質7が接触し、アプタマー1の部分的な構造変化を誘起すると、「不安定化された二本鎖結合」に起因する、安定化エネルギー:ΔEhybrid-1は、僅かに減少して、結果的に、メルト温度Tmelting-1が若干(δT)低下し、(Tmelting-1−δT)となると、この検出時の液温TLでも、標的物質7の接触(摂動:δE)に伴って、「第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」の解離が誘起される。
その際、「第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」中の不安定化された二本鎖結合のメルト温度Tmelting-1よりも、検出時の液温TLは極く僅かに低くため、標的物質7の接触がなされない場合、「第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」の相当部分は、解離を起こさず、不安定化された二本鎖結合を維持している。
また、検出時の液温TLを、Tmelting-1<TL≪Tmelting-2の関係を満たす範囲に選択すると、該液温TLでは、「第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」中の不安定化された二本鎖結合の熱的な解離が進行する。熱的な解離により生成する「一本鎖状のアプタマー1」は、標的物質7との特異的な結合に不可欠な立体構造を有する「立体構造を有するアプタマー1」へと変換される。標的物質7は、「立体構造を有するアプタマー1」と結合し、標的物質7とアプタマー1の複合体を形成する。結果的に、検出時の液温TLを、Tmelting-1<TL≪Tmelting-2の関係を満たす範囲に選択する場合、「第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」中の不安定化された二本鎖結合は全て解離され、標的物質7は、全て、「立体構造を有するアプタマー1」と結合し、標的物質7とアプタマー1の複合体を形成する。
アプタマー1の二本鎖形成部位の端部は、スペーサ9を介して、固定部材4の表面に固定化されているため、図6(c)に例示する、標的物質7とアプタマー1の複合体に加えて、標的物質7とアプタマー1の複合体を形成していない、「立体構造を有するアプタマー1」と「一本鎖状のアプタマー1」も、固定部材4の表面に固定化されている。一方、「第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」中の不安定化された二本鎖結合の熱的な解離に伴って生成する、第1の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」は、液相中に溶解している。
次いで、「第4の工程」において、第2の光異性化処理を施すと、図6(d)に例示するように、測定溶液中に溶解している「第1の光異性化処理済の第1の核酸断片2」は、全て、「第2の光異性化処理済の第1の核酸断片2」となる。測定溶液中に溶解している、「第2の光異性化処理済の第1の核酸断片2」は、標的物質7とアプタマー1の複合体を形成していない、「一本鎖状のアプタマー1」と、「第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」を形成する。その際、「一本鎖状のアプタマー1」は固定部材4の表面に固定化されているため、形成される「第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」は、図6(a)に例示する、当初の「複合体(ハイブリッド体)」と同じ構造となる。結果的に、固定部材4の表面に固定化されている「一本鎖状のアプタマー1」の濃度が減少するため、「一本鎖状のアプタマー1」と「立体構造を有するアプタマー1」の間の構造変化の平衡定数Kaptamer-foldingに従って、固定部材4の表面に固定化されている「立体構造を有するアプタマー1」から、固定部材4の表面に固定化されている「一本鎖状のアプタマー1」への構造変化が進行する。
検出時の液温TLを、Tmelting-1≦TL≪Tmelting-2の関係を満たす範囲に選択すると、標的物質7とアプタマー1の複合体を形成していない、「立体構造を有するアプタマー1」も、「一本鎖状のアプタマー1」に変換されて、測定溶液中に溶解している「第2の光異性化処理済の第1の核酸断片2」と、「第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」を形成する。その結果、図6(d)に例示するように、固定部材4の表面に固定化されている、「標的物質7とアプタマー1の複合体」の量と等しい量の「第2の光異性化処理済の第1の核酸断片2」は、「開裂」状態で残される。この「開裂」状態で残される、「第2の光異性化処理済の第1の核酸断片2」を検出して、標的物質7とアプタマー1の複合体の量、すなわち、検体試料中に含有されている標的物質7の量の検出がなされる。
勿論、検体試料中に標的物質7が含有されていない場合、標的物質7とアプタマー1の複合体は形成されないので、「開裂」状態で残される「第2の光異性化処理済の第1の核酸断片2」は、本来「零」となる。
検出時の液温TLにおいて、「標的物質7とアプタマー1の複合体」の解離平衡定数KDcomplex(TL)が、十分に小さい場合、標的物質7とアプタマー1の複合体の解離の進行は抑制される。従って、検体試料中に標的物質7が存在する場合、図6(d)に例示するように、「第3の工程」において形成される、標的物質7とアプタマー1の複合体は、「第4の工程」においも、その解離の進行は抑制されるため、「第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」を形成できず、「開裂」状態で残されている「第2の光異性化処理済の第1の核酸断片2」が存在している。検体試料中に標的物質7が存在していない場合、「標的物質7とアプタマー1の複合体」は存在していないので、「第4の工程」において、「第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」を形成できず、「開裂」状態で残されている「第2の光異性化処理済の第1の核酸断片2」は、実質的に存在しない。従って、「開裂」状態で残されている「第2の光異性化処理済の第1の核酸断片2」の有無を検知することにより、検査対象物(検体試料)中に標的物質7が存在しているか、存在していないかの判別を行うことができる。
第4の実施形態の標的物質の検出方法では、アプタマー1と「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」からなる複合体(ハイブリッド体)11は、アプタマー1は、スペーサ9を介して、固定部材4の表面に固定される。そのため、「第1の工程」〜「第4の工程」の実施に必要な一連の操作、例えば、複合体(ハイブリッド体)11に対する、加熱処理、第1の光異性化処理、検体試料中に含有される標的物質7を接触させる処理、第2の光異性化処理の一連の処理操作が容易となっている。
特に、第4の実施形態の標的物質の検出方法で使用する、図6(a)に例示する複合体(ハイブリッド体)11は、第3の実施形態の標的物質の検出方法で使用する、図5(a)に例示する複合体(ハイブリッド体)11と同様に、固定部材4上に、「第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」を固定化し、また、標識物質6を修飾したものとなっている。従って、図5(a)に例示する複合体(ハイブリッド体)11が、第3の実施形態の標的物質の検出方法を適用する、標的物質の検査キットおよび標的物質の検出用のセンサとして使用できると同様に、図6(a)に例示する複合体(ハイブリッド体)11は、第3の実施形態の標的物質の検出方法を適用する、標的物質の検査キットおよび標的物質の検出用のセンサとして使用することができる。
第4の実施形態の標的物質の検出方法で使用する、複合体(ハイブリッド体)11において、「アプタマー1」は、第1の実施形態の標的物質の検出方法で使用する、複合体(ハイブリッド体)11を構成する、「アプタマー1」と同様のものを用いることができる。図6(a)に例示される態様では、該「アプタマー1」の二本鎖形成部位5の端部が、スペーサ9に連結され、該スペーサ9を介して、固定部材4の表面に固定化される。
「第1の核酸断片2」の二本鎖形成部位5に、光異性化分子5が結合され、二本鎖形成部位5の端部には、標識物質6が修飾されている。
スペーサ9との連結がなされる、該「アプタマー1」の二本鎖形成部位5の端部は、スペーサ9との連結に利用される官能基が付与される。スペーサ9との連結に利用される官能基は、使用される溶媒やpH条件などによって、スペーサ9との連結が解離しない結合を形成可能なものであれば限定されず、カルボキシル基、アミノ基、チオール基、ジスルフィド基、スクシンイミジル基、マレイミド基、ビオチンなど、一般的に、スペーサ9との連結に利用される官能基を用いることができる。
「アプタマー1」の二本鎖形成部位5の端部に付与される官能基は、一般的な核酸合成方法で、「アプタマー1」の塩基配列と、その二本鎖形成部位5の塩基配列を具える、一本鎖核酸分子を作製する際、その端部に付与することができる。また、「アプタマー1」の核酸鎖合成に使用する、原料の核酸分子に、市販のリンカーなどを修飾して形成したものを用いることができる。
また、「アプタマー1」に付与される官能基は、アプタマー1の二本鎖形成部位5と、「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」の二本鎖形成部位5による二本鎖結合の形成を妨げないことが望ましい。また、官能基は、「アプタマー1」と標的物質7の特異的結合を妨げない限り、任意の部位に修飾されても良く、例えば、「アプタマー1」の二本鎖形成部位5の端部にあっても良いし、中央部にあっても良い。
一本鎖核酸分子を、化学結合または化学吸着により、固定部材4に固定化する目的で利用可能な官能基は、使用される溶媒やpH条件などによって、固定部材4の表面との結合が解離しない結合を形成可能なものであれば限定されず、カルボキシル基、アミノ基、チオール基、ジスルフィド基、スクシンイミジル基、マレイミド基、ビオチンなどの一般的なものを用いることができる。これらの官能基は、一般的な核酸合成方法で作製したり、また、それらの核酸に市販のリンカーなどを修飾して形成したものを用いることができる。
また、「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」の二本鎖形成部位5との二本鎖結合の形成に利用される、アプタマー1の二本鎖形成部位5の端部が、スペーサ9に連結され、該スペーサ9を介して、固定部材4の表面に固定化される。該スペーサ9の長さは、3Å以上、さらに好ましくは10Å以上であることが好ましい。該スペーサ9の長さの選択により、固定部材4とアプタマー1の立体障害などにより、「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」の二本鎖形成部位5と、アプタマー1の二本鎖形成部位5との間で、二本鎖結合を形成する効率が落ちることを抑制することができる。
一方、スペーサ9の長さが過度に長いと、後述の標的物質の検出用センサにおいて、固定部材4上の検出器と、複合体(ハイブリッド体)11中の二本鎖結合との距離が離れることにより、二本鎖結合の「開裂」の検出感度が損なわれる。その点を考慮すると、スペーサ9の長さは、200Å以下であることが好ましい。
さらに好ましくは、スペーサ9の長さは、10Å以上50Å以下の範囲に選択する。スペーサ9は、アプタマー1や、「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」との間で、分子間結合を形成しないものであれば特に限定されず、相補的な塩基配列でない核酸や、糖鎖、ポリペプチド、炭化水素鎖やオリゴエチレングリコールなどの一般的なリンカーを用いることができる。
第4の実施形態の標的物質の検出方法において、固定部材4は、第3の実施形態の標的物質の検出方法で利用される、固定部材4と同様のものを、利用することができる。また、固定部材4上に、スペーサ9を介して、アプタマー1を固定する方法に関しては、第3の実施形態の標的物質の検出方法において、固定部材4上に、スペーサ9を介して、「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」を固定する際に、利用した方法を、「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」に代えて、アプタマー1に適用することができる。
第4の実施形態の標的物質の検出方法において、アプタマー1と「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」の間の二本鎖結合の「開裂」を検出する方法は、第3の実施形態の標的物質の検出方法において、アプタマー1と「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」の間の二本鎖結合の「開裂」を検出するために使用する方法と同様のものを用いることができる。すなわち、二本鎖結合の「開裂」に起因する、アプタマー1と標的物質7の複合体、「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」に修飾されている標識物質6、あるいは、固定部材4の表面の物理的・化学的変化を検出する手法を用いることができる。また、アプタマー1と標的物質7の複合体形成に伴って、液相中に遊離している、第2の光異性化処理済「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」を、DNAチップやPCR等のDNA検出方法によって検出しても良い。
また、固定部材4が、二本鎖結合の「開裂」に起因する、アプタマー1と標的物質7の複合体形成、「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」に修飾されている標識物質6や、固定部材4の物理的・化学的変化を検出できる素子である場合、該素子の表面に固定化されている複合体(ハイブリッド体)11は、検体試料中に標的物質7が含まれるか、否かの検出を目的とする、標的物質7の検出用のセンサとして用いることができる。
第4の実施形態の標的物質の検出方法では、アプタマー1が固定部材4上に固定されている場合について、アプタマー1と標的物質7の複合体形成に伴う、二本鎖結合の「開裂」状態を検出する方法を説明した。このように、固定部材4上に複合体(ハイブリッド体)11を固定する場合、第3の実施形態の標的物質の検出方法で利用した「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」の固定に限らず、第4の実施形態の標的物質の検出方法で利用する、アプタマー1の固定であっても良い。
なお、第3の実施形態の標的物質の検出方法、第4の実施形態の標的物質の検出方法は、アプタマー1または「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」の一方のみが固定部材4上に固定され、もう一方は、固定部材4上に固定されない形態である。本発明にかかる標的物質の検出方法では、固定部材上に固定化される複合体(ハイブリッド体)11はそれに限定されず、第3の実施形態の標的物質の検出方法で利用する、固定部材上に固定された「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」と、第4の実施形態の標的物質の検出方法で利用する、別の固定部材上に固定されたアプタマー1とが、複合体(ハイブリッド体)11を形成し、二つの固定部材を利用して、複合体(ハイブリッド体)11の固定化がなされていても良い。その場合も、第3の実施形態の標的物質の検出方法、第4の実施形態の標的物質の検出方法と同様に、アプタマー1と標的物質7の複合体形成に伴う、二本鎖結合の「開裂」状態を検出することで、標的物質7の検出を実施することができる。
また、第4の実施形態の標的物質の検出方法で利用される、固定部材4の表面に固定された複合体(ハイブリッド体)11は、「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」は、その先端に標識物質6が修飾され、一方、アプタマー1はスペーサ9を介して、固定部材4の表面に固定化され、検体試料中に標的物質7が含有されていない場合、検出時の液温TLにおいて、「第4の工程」において、第2の光異性化処理を施した後、アプタマー1の二本鎖形成部位5と、第2の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」の二本鎖形成部位5の間で二本鎖結合を形成し、「第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」が固定部材4の表面に形成可能な状態であるものを意味する。例えば、検出時の液温TLにおいて、第1の光異性化処理を施した際、アプタマー1の二本鎖形成部位5と、第1の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」の二本鎖形成部位5の間で、二本鎖結合が形成されていない状態であってもよい。従って、アプタマー1は、スペーサ9を介して、固定部材4の表面に固定化され、一方、予め第1の光異性化処理を施した、第1の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」は、アプタマー1と二本鎖結合を形成していない状態で混合されている形態を使用する態様も含む。すなわち、「複合体(ハイブリッド体)11の調製工程」において、アプタマー1は、スペーサ9を介して、固定部材4の表面に固定化され、一方、予め第1の光異性化処理を施した、第1の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」は、アプタマー1と二本鎖結合を形成していない状態の混合物を調製する態様も含む。
(第5の実施形態)
第5の実施形態の標的物質の検出方法も、第1の実施形態の標的物質の検出方法〜第4の実施形態の標的物質の検出方法で利用する「検出原理」を応用する手法であるので、第1の実施形態の標的物質の検出方法〜第4の実施形態の標的物質の検出方法と同様な点については、説明を省略する。
図7は、第5の実施形態の標的物質の検出方法で利用される、複合体(ハイブリッド体)11の形状と、「標的物質7の検出」の「第1の工程」〜「第4の工程」に相当する手順を、模式的に示す図である。
第5の実施形態の標的物質の検出方法について、図7を参照して説明する。
第5の実施形態の標的物質の検出方法で利用される、図7(a)に例示する態様の複合体(ハイブリッド体)11では、「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」の二本鎖形成部位5と、アプタマー1の二本鎖形成部位5とは二本鎖結合を形成し、アプタマー1の二本鎖形成部位5の端部は、スペーサ9を介して、固定部材4に、化学結合または化学吸着により固定されている。加えて、「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」の二本鎖形成部位5の端部も、スペーサ9を介して、固定部材4に、化学結合または化学吸着により固定されている。「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」の他の端部には、標識物質6が修飾されている。その結果、複合体(ハイブリッド体)11を構成している間、「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」の他の端部に修飾されている標識物質6は、固定部材4の表面に近接が不可能であるが、複合体(ハイブリッド体)11の二本鎖結合が「開裂」された状態となると、標識物質6は、固定部材4の表面に近接が可能となる。
光異性化分子3に、第1の光異性化処理を施すと、第1の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」の二本鎖形成部位5と、アプタマー1の二本鎖形成部位5の間で形成される二本鎖結合の安定性が低下する。すなわち、第1の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」とアプタマー1で構成される「第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」中の不安定化された二本鎖結合のメルト温度Tmelting-1は、当初の複合体(ハイブリッド体)11中の二本鎖結合のメルト温度Tmeltingと比較して、Tmelting-1≪Tmeltingとなっている。第1の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」に、第2の光異性化処理を施すと、第2の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」に変換される。光異性化分子3は、第1の光異性化処理、第2の光異性化処理を施すことにより、可逆的な光異性化を起こすので、第2の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」の二本鎖形成部位5と、アプタマー1の二本鎖形成部位5の間で形成される二本鎖結合は、当初の複合体(ハイブリッド体)11中の二本鎖結合の安定性と同じ水準まで、再安定化する。すなわち、第2の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」とアプタマー1で構成される「第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」中の再安定化された二本鎖結合のメルト温度Tmelting-2は、当初の複合体(ハイブリッド体)11中の二本鎖結合のメルト温度Tmeltingと等しい。
従って、「第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」中の不安定化された二本鎖結合のメルト温度Tmelting-1、「第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」中の再安定化された二本鎖結合のメルト温度Tmelting-2と、当初の複合体(ハイブリッド体)11中の二本鎖結合のメルト温度Tmeltingは、Tmelting-1≪Tmelting=Tmelting-2の関係を満たす。液温TLに対して、TL<Tmelting-1の関係を満たす場合、「第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」中の不安定化された二本鎖結合の熱的な解離は進行しない。その際、図7(b)に例示するように、固定部材4の表面に、不安定化された二本鎖結合を保持した「第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」が固定化されている。
検出時の液温TLにおける、第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)の解離平衡定数KDhybrid-1(TL)=[一本鎖状のアプタマー1]・[第1の光異性化処理済の第1の核酸断片2]/[第1の光異性化処理済の複合体]、第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)の解離平衡定数KDhybrid-2(TL)=[一本鎖状のアプタマー1]・[第2の光異性化処理済の第1の核酸断片2]/[第2の光異性化処理済の複合体]を比較すると、KDhybrid-2(TL)≪KDhybrid-1(TL)となっている。また、「立体構造を有するアプタマー1」が有する立体構造が熱的に解消される温度、Taptamer-defoldingは、室温(25℃)より高く、Tmelting-2よりも十分に低い(25℃<Taptamer-defolding≪Tmelting-2)。25℃<TL<Taptamer-defoldingの範囲に、検出時の液温TLが選択されている場合、「一本鎖状のアプタマー1」と「立体構造を有するアプタマー1」の間の構造変化の平衡定数Kaptamer-defolding(TL)=[一本鎖状のアプタマー1]/[立体構造を有するアプタマー1]は、少なくとも、Kaptamer-defolding(TL)<1の関係である。
例えば、検出時の液温TLを、「第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」中の不安定化された二本鎖結合のメルト温度Tmelting-1よりも極く僅かに低く設定する(TL=Tmelting-1−δT)と、「第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」を構成している、アプタマー1に対して、標的物質7が接触し、アプタマー1の部分的な構造変化を誘起すると、「不安定化された二本鎖結合」に起因する、安定化エネルギー:ΔEhybrid-1は、僅かに減少して、結果的に、メルト温度Tmelting-1が若干(δT)低下し、(Tmelting-1−δT)となると、この検出時の液温TLでも、標的物質7の接触(摂動:δE)に伴って、「第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」の解離が誘起される。
その際、「第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」中の不安定化された二本鎖結合のメルト温度Tmelting-1よりも、検出時の液温TLは極く僅かに低くため、標的物質7の接触がなされない場合、「第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」の相当部分は、解離を起こさず、不安定化された二本鎖結合を維持している。
また、検出時の液温TLを、Tmelting-1<TL≪Tmelting-2の関係を満たす範囲に選択すると、該液温TLでは、「第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」中の不安定化された二本鎖結合の熱的な解離が進行する。熱的な解離により生成する「一本鎖状のアプタマー1」は、標的物質7との特異的な結合に不可欠な立体構造を有する「立体構造を有するアプタマー1」へと変換される。標的物質7は、「立体構造を有するアプタマー1」と結合し、標的物質7とアプタマー1の複合体を形成する。結果的に、検出時の液温TLを、Tmelting-1<TL≪Tmelting-2の関係を満たす範囲に選択する場合、「第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」中の不安定化された二本鎖結合は全て解離され、標的物質7は、全て、「立体構造を有するアプタマー1」と結合し、標的物質7とアプタマー1の複合体を形成する。
アプタマー1の二本鎖形成部位5の端部は、スペーサ9を介して、固定部材4の表面に固定化されているため、図7(c)に例示する、標的物質7とアプタマー1の複合体に加えて、標的物質7とアプタマー1の複合体を形成していない、「立体構造を有するアプタマー1」と「一本鎖状のアプタマー1」も、固定部材4の表面に固定化されている。
また、「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」の二本鎖形成部位5の端部は、スペーサ9を介して、固定部材4の表面に固定化されている。従って、「第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」中の不安定化された二本鎖結合の熱的な解離に伴って生成する、第1の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」も、スペーサ9を介して、固定部材4の表面に固定化されている。
加えて、検出時の液温TLにおいて、標的物質7とアプタマー1の複合体の解離平衡定数KDcomplex(TL)=[立体構造を有するアプタマー1]・[標的物質7]/[複合体]が、KDcomplex(TL)≪1の関係を満たす場合には、図7(c)に例示する、標的物質7とアプタマー1の複合体を一旦形成した「立体構造を有するアプタマー1」は、標的物質7とアプタマー1の複合体の状態に留まる。
「第4の工程」において、第2の光異性化処理を施すと、光異性化分子3は光異性化し、第1の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」は、第2の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」に変換される。第2の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」も、スペーサ9を介して、固定部材4の表面に固定化されている。その際、固定化されている、該第2の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」と隣接して、スペーサ9を介して、固定部材4の表面に固定化されている、「立体構造を有するアプタマー1」は、標的物質7とアプタマー1の複合体の状態に留まっている。
すなわち、標的物質7とアプタマー1の複合体を一旦形成した「立体構造を有するアプタマー1」は、「一本鎖状のアプタマー1」に変換されない。そのため、標的物質7とアプタマー1の複合体を一旦形成した「立体構造を有するアプタマー1」と隣接して、スペーサ9を介して、固定部材4の表面に固定化されている、第2の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」は、「一本鎖状のアプタマー1」と「第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」を形成することができず、図7(d)に例示する、二本鎖結合を「開裂」した状態に保持される。
標的物質7とアプタマー1の複合体を形成していない、「立体構造を有するアプタマー1」は、検出時の液温TLにおける、平衡定数Kaptamer-defolding(TL)に従って、「一本鎖状のアプタマー1」へと熱的に構造変化すると、隣接して、固定化されている、第2の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」と、「第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」を形成する。
結果的に、検体試料中に含有される、標的物質7は、スペーサ9を介して、固定部材4の表面に固定化されている「立体構造を有するアプタマー1」と結合し、標的物質7とアプタマー1の複合体の形状で、固定部材4の表面に固定化される。該標的物質7とアプタマー1の複合体と隣接して、第2の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」が、二本鎖結合を「開裂」した状態で、スペーサ9を介して、固定部材4の表面に固定化されている。
一方、検体試料中に標的物質7が含有していない場合、標的物質7とアプタマー1の複合体は形成されない。従って、スペーサ9を介して、固定部材4の表面に固定化されている「立体構造を有するアプタマー1」から変換される「一本鎖状のアプタマー1」と、隣接して、固定化されている、第2の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」は、再安定化された二本鎖結合を形成して、「第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」を構成する。すなわち、当初、スペーサ9を介して、固定部材4の表面に固定化されている「複合体(ハイブリッド体)11」は、「第1の工程」において、第1の光異性化処理を施すと、「第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」に変換され、その際、検出時の液温TLを、Tmelting-1<TL≪Tmelting-2の関係を満たす範囲に選択すると、「第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」は、一旦、その不安定化された二本鎖結合を「開裂」して、解離する。その後、「第4の工程」において、第2の光異性化処理を施すと、光異性化分子3は可逆的な光異性化を行うため、隣接して固定化されている、第2の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」と、「一本鎖状のアプタマー1」は、第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)の解離平衡定数KDhybrid-2(TL)に従って、再安定化された二本鎖結合を再形成する。
図7(d)に例示する、二本鎖結合の「開裂」状態、すなわち、標的物質7とアプタマー1の複合体と隣接して、スペーサ9を介して、固定部材4の表面に固定化されている、第2の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」の有無を検知することにより、検体試料中に標的物質7が含有しているか、否かを検出することができる。
第5の実施形態の標的物質の検出方法で利用される、図7(a)に例示する態様の複合体(ハイブリッド体)11では、光異性化分子3は、第1の光異性化処理、第2の光異性化処理によって、可逆的な光異性化を行うので、当初の複合体(ハイブリッド体)11と、第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)は、何れも、アプタマー1と、第2の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」が、安定な二本鎖結合を形成し、スペーサ9を介して、固定部材4の表面に固定化されている。
図7(a)に例示する態様では、スペーサ9を介して、固定部材4の表面に固定化されている、複合体(ハイブリッド体)11における、アプタマー1と、「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」のモル比率;[アプタマー1]/[光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2]は、本質的に、1となっている。
また、当初、複合体(ハイブリッド体)11を構成していた、アプタマー1と、「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」は、一旦、二本鎖結合が「開裂」された後、再び、二本鎖結合を形成する際、当初のアプタマー1と、「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」の対間で、選択的に二本鎖結合を再形成する。従って、当初、複合体(ハイブリッド体)11を構成していた、アプタマー1と、「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」の間の二本鎖結合が「開裂」され、アプタマー1が、標的物質7とアプタマー1の複合体を形成した場合、「第4の工程」において、第2の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」が、他のアプタマー1と二本鎖結合を形成し、第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)を形成する確率は皆無である。従って、バックグラウンドが低減され、精度に優れた標的物質の検出が可能となる。
検体試料中に標的物質7が含有していない場合、「第1の工程」において、第1の光異性化処理を施すと、「第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」に変換され、その際、検出時の液温TLを、Tmelting-1<TL≪Tmelting-2の関係を満たす範囲に選択すると、一旦、不安定化された二本鎖結合は「開裂」されるが、「第4の工程」において、第2の光異性化処理を施すと、当初、複合体(ハイブリッド体)11を構成していた、アプタマー1と、第2の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」の対間で、選択的に二本鎖結合を再形成する。
アプタマー1の二本鎖形成部位5の塩基長は、検出時の液温TLに対して、「第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」のメルト温度Tmelting-1、「第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」のメルト温度Tmelting-2が、Tmelting-1<TL≪Tmelting-2の関係を満たす範囲に選択できる限り、アプタマー1の二本鎖形成部位5の塩基長を短くすることができる。
「第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」に変換された後、該「第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」を熱的に解離させ、「一本鎖状のアプタマー1」とする際、二本鎖形成部位5の塩基長を短くすることで、「第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」のメルト温度Tmelting-1をより低くすることが可能である。そのため、「一本鎖状のアプタマー1」から、標的物質7との結合に不可欠な立体構造を形成している「立体構造を有するアプタマー1」への変換を、より効率的に行うことが可能となる。また、「第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」のメルト温度Tmelting-1をより低くすると、検出時の液温TLを、Tmelting-1<TL≪Tmelting-2の関係を満たす範囲に選択する際、検出時の液温TLをより低くすることも可能となる。検出時の液温TLにおける、標的物質7とアプタマー1の複合体の解離平衡定数KDcomplex(TL)=[立体構造を有するアプタマー1]・[標的物質7]/[複合体]は、検出時の液温TLをより低くすると、さらに小さくでき、アプタマー1の標的物質7と結合能(解離平衡定数KDcomplex(TL))が相対的に改善される。従って、感度に優れた標的物質の検出が可能となる。
第5の実施形態の標的物質の検出方法では、「第1の工程」において、固定化されている「第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」に変換し、検出時の液温TLを、Tmelting-1<TL≪Tmelting-2の関係を満たす範囲に選択することで、一旦、固定化されている「第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」の不安定化した二本鎖結合を全て「開裂」させても、「第4の工程」において、第2の光異性化処理を施すと、再安定化した二本鎖結合を再形成させ、全て、固定化されている「第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」を再構成させることが可能である。従って、バックグラウンドのドリフトを抑えることができる。
第5の実施形態の標的物質の検出方法では、検出時の液温TLを、Tmelting-1<TL≪Tmelting-2の関係を満たす範囲に選択し、標的物質7とアプタマー1の複合体の解離平衡定数KDcomplex(TL)を適正な範囲とするように、アプタマー1の二本鎖形成部位5の塩基長、「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」の二本鎖形成部位5の塩基長、ならびに、当該部位に結合させる光異性化分子3の数を決定することができる。従って、「アプタマー1の二本鎖形成部位5の塩基長、「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」の二本鎖形成部位5の塩基長、ならびに、当該部位に結合させる光異性化分子3の数」に関する、「設計の自由度」が拡大している。
固定部材4上に固定化された複合体(ハイブリッド体)11を含む「検査キット」では、複合体(ハイブリッド体)11に第1の光異性化処理を施し、固定部材4上に固定化された「第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」に変換することもできる。さらには、固定部材4上に固定化された「第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」を一旦、「開裂」させ、アプタマー1と第1の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」の対が、固定部材4上に固定化された状態とすることもできる。
「第4の工程」において、第2の光異性化処理を施すと、標的物質7とアプタマー1の複合体を形成していないアプタマー1は、隣接して固定化されている第2の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」と、「第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」を再構成する。その段階で、測定溶液中に溶存している、標的物質7の濃度が低下すると、標的物質7とアプタマー1の複合体の解離平衡定数KDcomplex(TL)に従って、標的物質7とアプタマー1の複合体の一部が解離する。その解離により、生成するアプタマー1は、隣接して固定化されている第2の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」と、「第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」を構成する。結果的に、測定溶液中に溶存している、標的物質7の濃度の低下に伴って、標的物質7とアプタマー1の複合体を形成している「立体構造を有するアプタマー1」が減少し、それに隣接して、固定化され、「開裂」状態となっている、第2の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」も減少する。
「第4の工程」を終え、「第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」の再構成が完了した時点で、測定溶液中に溶存している、標的物質7の濃度が上昇した場合、「第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」を一旦構成した、アプタマー1は、再安定化された二本鎖結語を「開裂」させて、「立体構造を有するアプタマー1」に変換できない。従って、「第4の工程」の段階で、測定溶液中に溶存している、標的物質7の濃度が上昇した場合、標的物質7の濃度上昇を反映して、標的物質7とアプタマー1の複合体の濃度を上昇させることは、不可能である。
一方、「第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」に対して、第1の光異性化処理を施すと、「第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」に変換することが可能であり、その際、検出時の液温TLを、Tmelting-1<TL≪Tmelting-2の関係を満たす範囲に選択すると、「第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」の不安定化した二本鎖結合を「開裂」させて、「立体構造を有するアプタマー1」と、第1の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」に変換できる。この状態で、測定溶液中に溶存している、標的物質7の濃度が上昇した場合、生成した「立体構造を有するアプタマー1」は、標的物質7とアプタマー1の複合体の解離平衡定数KDcomplex(TL)に従って、標的物質7とアプタマー1の複合体を形成することができる。
すなわち、再度、図7(b)〜図7(d)に例示する、「第1の工程」〜「第4の工程」を繰り返すと、測定溶液中に溶存している、標的物質7の濃度が上昇した場合、ならびに、測定溶液中に溶存している、標的物質7の濃度が減少した場合のいずれでも、測定溶液中に溶存している、標的物質7の濃度に対応する、標的物質7とアプタマー1の複合体を形成させることが可能である。「第1の工程」〜「第4の工程」を繰り返して、二本鎖結合の「開裂」状態の検出を繰り返すと、測定溶液中に溶存している、標的物質7の濃度の経時的な変化を、「一定の時間間隔」でモニタリングすることが可能となる。
その他、「第4の工程」において測定を完了した後、測定溶液中に溶存している、標的物質7の濃度の「零」として、「洗浄」を行うと、標的物質7とアプタマー1の複合体を全て解離させ、固定部材4の表面には、「第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」のみが固定化されている状態、すなわち、図7(a)に例示する状態となる。換言すると、測定の終了後、標的物質7を含有していない「洗浄液」を用いて、「検査キット」の表面を洗浄すると、固定部材4の表面には、「第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」のみが固定化されている状態に「再生」でき、「再使用」することができる。
第5の実施形態の標的物質の検出方法では、固定部材4上に固定化された複合体(ハイブリッド体)11を使用する。その際、アプタマー1を、スペーサ9を介して、固定部材4上に固定化する手法は、第4の実施形態の標的物質の検出方法において、アプタマー1を、スペーサ9を介して、固定部材4上に固定化する際に利用した手段を利用できる。すなわち、アプタマー1は、標的物質7と特異的に結合する上で不可欠な立体構造の形成に適する塩基配列を具えており、第2の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」と安定な二本鎖結合の形成に利用する、二本鎖形成部位5は、「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」の二本鎖形成部位5と相補な塩基配列を有している。アプタマー1の二本鎖形成部位5の端部には、スペーサ9を介して、化学結合または化学吸着により固定部材4上に固定化する際、スペーサ9との連結に利用する官能基を有する。
第5の実施形態の標的物質の検出方法では、固定部材4上に固定化された複合体(ハイブリッド体)11を使用する。その際、「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」を、スペーサ9を介して、固定部材4上に固定化する手法は、第3の実施形態の標的物質の検出方法において、「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」を、スペーサ9を介して、固定部材4上に固定化する際に利用した手段を利用できる。アプタマー1の二本鎖形成部位5と、「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」の二本鎖形成部位5は、互いに相補的な塩基配列を有しており、その端部には、スペーサ9を介して、化学結合または化学吸着により固定部材4上に固定化する際、スペーサ9との連結に利用する官能基を有する。一方、「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」の他の端部には、標識物質6が修飾されている。
「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」の二本鎖形成部位5には、光異性化分子3が結合されている。この光異性化分子3は、第1の光異性化処理、第2の光異性化処理を施すと、可逆的な光異性化を起こすものが使用される。従って、固定部材4上に固定化された複合体(ハイブリッド体)11を構成している、「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」は、第2の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」と同じものである。
固定部材4上に固定化された複合体(ハイブリッド体)11では、アプタマー1と「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」は、複合体(ハイブリッド体)を形成した状態で、それぞれのスペーサ9を介して、固定部材4上に固定化される。アプタマー1のスペーサ9と、「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」のスペーサ9は、「第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」を解離した後、再度、「第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」を形成する際、アプタマー1の二本鎖形成部位5と、第2の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」の二本鎖形成部位5が、効率よく二本鎖結合を形成可能である限り、両者のスペーサ9の長さは、等しくなくとも良い。通常、両者のスペーサ9の長さを、等しくすると、効率よく二本鎖結合を形成することが可能である。
第5の実施形態の標的物質の検出方法では、固定部材4上に固定化された複合体(ハイブリッド体)11を利用して、標的分子7の検出を行う。その際、複合体(ハイブリッド体)11が固定されている固定部材4上には、複合体(ハイブリッド体)11を構成していないアプタマー1、あるいは、「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」がさらに固定化されていてもよい。従って、固定部材4上に固定化されている複合体(ハイブリッド体)11の量が所定の面密度である限り、固定部材4上に固定化されているアプタマー1と「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」の比率は、特に限定されず、アプタマー1の塩基配列や測定溶液のイオン強度や検出時の液温などに応じて適宜設定することができる。固定部材4上に固定化されている複合体(ハイブリッド体)11の面密度が所定の面密度の下限を超えるように、固定部材4上に固定化されているアプタマー1と「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」のモル比率は、0.05〜20の間であることが好ましい。
また、第5の実施形態の標的物質の検出方法で利用される、固定部材4の表面に固定された複合体(ハイブリッド体)11では、アプタマー1と「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」が隣接して、固定部材4の表面に固定化されていることを利用して、検出精度と検出感度に優れた検出を可能としている。また、「第1の工程」〜「第4の工程」を繰り返しで、「一定の時間間隔」で、二本鎖結合の「開裂」状態の検出を繰り返すことにより、測定溶液中に溶存している標的物質7の濃度の変化を、時間を追ってモニターすることが可能となる。固定部材4の表面に固定された複合体(ハイブリッド体)11からなる「検出キット」は、測定を終了した後、標的物質7を含まない「洗浄液」を利用して「洗浄」を行うと、容易に再生でき、再利用することができる。
第5の実施形態の標的物質の検出方法で利用される、固定部材4の表面に固定された複合体(ハイブリッド体)11は、検体試料中に標的物質7が含有されていない場合、検出時の液温TLにおいて、「第4の工程」において、第2の光異性化処理を施した後、アプタマー1の二本鎖形成部位5と、第2の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」の二本鎖形成部位5の間で二本鎖結合を形成し、「第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」が固定部材4の表面に形成可能な状態であるものを意味する。例えば、検出時の液温TLにおいて、第1の光異性化処理を施した際、アプタマー1の二本鎖形成部位5と、第1の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」の二本鎖形成部位5の間で、二本鎖結合が形成されていない状態であってもよい。従って、「複合体(ハイブリッド体)11の調製工程」において、アプタマー1は、スペーサ9を介して、固定部材4の表面に固定化され、一方、予め第1の光異性化処理を施した、第1の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」は、アプタマー1と二本鎖結合を形成していない状態で、隣接させて、スペーサ9を介して、固定部材4の表面に固定化されている態様も含む。
(第6の実施形態)
第6の実施形態の標的物質の検出方法も、第1の実施形態の標的物質の検出方法〜第5の実施形態の標的物質の検出方法で利用する「検出原理」を応用する手法であるので、第1の実施形態の標的物質の検出方法〜第5の実施形態の標的物質の検出方法と同様な点については、説明を省略する。
図8は、第6の実施形態の標的物質の検出方法で利用される、複合体(ハイブリッド体)11の形状に関して、代表的な二つの態様を、模式的に示す図である。
第6の実施形態の標的物質の検出方法について、図8を参照して説明する。
第6の実施形態の標的物質の検出方法では、図8(a)に例示する、複合体(ハイブリッド体)11は、アプタマー1の末端と「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」の末端は、3分岐型の連結部12を有するスペーサ9の二つの分岐に連結されており、該分岐型の連結部12を有するスペーサ9の一つの分岐は、化学結合あるいは化学吸着により、固定部材4上に固定されている。また、図8(b)に例示する、複合体(ハイブリッド体)11は、アプタマー1の末端と「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」の末端は、梯子段型の連結部12を有するスペーサ9の二つの分岐に連結されており、該梯子段型の連結部12を有するスペーサ9の二つの分岐は、化学結合あるいは化学吸着により、固定部材4上に固定されている。
図8(a)に例示する態様では、アプタマー1の二本鎖形成部位5の端部と、「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」の二本鎖形成部位5の端部は、3分岐型の連結部12を有するスペーサ9を介して、互いに連結された「連結体」を構成している。図8(b)に例示する態様では、アプタマー1の二本鎖形成部位5の端部と、「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」の二本鎖形成部位5の端部は、梯子段型の連結部12を有するスペーサ9を介して、互いに連結された「連結体」を構成している。
「連結体」を構成する、アプタマー1の二本鎖形成部位5と、「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」の二本鎖形成部位5は、互いに相互的な塩基配列を有し、「連結体」内において、二本鎖結合を形成することで、複合体(ハイブリッド体)11となっている。従って、複合体(ハイブリッド体)11中の二本鎖結合を一旦「開裂」させた後、再び、二本鎖結合を形成させる際、「連結体」を構成する、アプタマー1と「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」との間で選択的に二本鎖結合が形成され、「連結体」内の複合体(ハイブリッド体)11が形成される。
「連結体」に含まれる「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」の他の端部には、標識物質6が修飾されている。光異性化分子3は、該「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」の二本鎖形成部位5に結合されている。該光異性化分子3として、「第1の工程」における、第1の光異性化処理と、「第4の工程」における、第2の光異性化処理を施すと、可逆的な光異性化を起こすものを使用する。
「第1の工程」における、第1の光異性化処理を施すと、「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」中の光異性化分子3は光異性化を起こし、第1の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」に変換される。「連結体」内の複合体(ハイブリッド体)11は、第1の光異性化処理を施すと、アプタマー1の二本鎖形成部位5と、第1の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」の二本鎖形成部位5との間の二本鎖結合は不安定化される。すなわち、「連結体」中に含まれる、アプタマー1と、第1の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」で構成される、「第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」中の二本鎖結合は不安定化される。
第2の光異性化処理を施すと、「連結体」に含まれている、第1の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」中の光異性化分子3は、可逆的な光異性化し、第2の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」に変換される。該第2の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」中の光異性化分子3は、当初の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」中の光異性化分子3と同じ立体配置を有する。すなわち、「連結体」中に含まれる、アプタマー1と、第2の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」で構成される、「第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」中の二本鎖結合は、当初の「連結体」内の複合体(ハイブリッド体)11中の二本鎖結合と同じ安定性を示す。
従って、「連結体」内の「第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」中の不安定化された二本鎖結合のメルト温度Tmelting-1、「連結体」内の「第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」中の再安定化された二本鎖結合のメルト温度Tmelting-2と、当初の「連結体」内複合体(ハイブリッド体)11中の二本鎖結合のメルト温度Tmeltingは、Tmelting-1≪Tmelting=Tmelting-2の関係を満たす。
第6の実施形態の標的物質の検出方法では、例えば、図8(a)に例示する「連結体」内で形成される、複合体(ハイブリッド体)11は、アプタマー1の末端と「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」の末端は、3分岐型の連結部12を有するスペーサ9の二つに分岐の末端に化学結合により連結される。例えば、図8(b)に例示する「連結体」内で形成される、複合体(ハイブリッド体)11は、アプタマー1の末端と「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」の末端は、梯子段型の連結部12を有するスペーサ9の二つに分岐の末端に化学結合により連結される。
アプタマー1の末端と「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」の末端を、との間を連結する、3分岐型、あるいは、梯子段型の連結部12を有するスペーサ9の二つに分岐の末端間の長さは、第2の実施形態の標的物質の検出方法で利用される、図4(a)に例示する、「連結体」中のスペーサ9の長さと同様の基準に基づき選択することが好ましい。また、アプタマー1の末端と「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」の末端を、連結部12を有するスペーサ9の分岐末端に連結する手法として、第2の実施形態の標的物質の検出方法で利用される、図4(a)に例示する、「連結体」中のスペーサ9と、アプタマー1の末端と「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」の末端の連結と同様の手法を利用することが好ましい。
さらには、図8(a)に例示する「連結体」内で形成される、複合体(ハイブリッド体)11において、3分岐型の連結部12を有するスペーサ9の一つの分岐の末端を、化学結合または化学吸着により固定部材4に固定する手法として、第3の実施形態の標的物質の検出方法で利用される、図5(a)に例示する、複合体(ハイブリッド体)11、あるいは、第4の実施形態の標的物質の検出方法で利用される、図6(a)に例示する、複合体(ハイブリッド体)11において、スペーサ9末端を、化学結合または化学吸着により固定部材4に固定する際と同様の手法を利用することが好ましい。
図8(b)に例示する「連結体」内で形成される、複合体(ハイブリッド体)11において、梯子段型の連結部12を有するスペーサ9の二つの分岐の末端を、化学結合または化学吸着により固定部材4に固定する手法として、第5の実施形態の標的物質の検出方法で利用される、図7(a)に例示する、複合体(ハイブリッド体)11において、アプタマー1のスペーサ9末端、「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」のスペーサ9末端を、隣接させて、化学結合または化学吸着により固定部材4に固定する際と同様の手法を利用することが好ましい。
第6の実施形態の標的物質の検出方法では、「連結体」内で形成される、複合体(ハイブリッド体)11は、3分岐型の連結部12を有するスペーサ9、あるいは、梯子段型の連結部12を有するスペーサ9を介して、固定部材4上に固定されており、第5の実施形態の標的物質の検出方法で利用される、図7(a)に例示する複合体(ハイブリッド体)11と同様に、該複合体(ハイブリッド体)11を構成する、アプタマー1と「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」は、両者の二本鎖形成部位5の間で、選択的に二本鎖結合を再形成するに適する、「相対配置」に維持されている。従って、第6の実施形態の標的物質の検出方法では、固定部材4上に固定された、「連結体」内で形成される、複合体(ハイブリッド体)11を利用することで、第5の実施形態の標的物質の検出方法において、二つのスペーサ9を介して固定部材4上に固定された、複合体(ハイブリッド体)11の利用よる効果と同様効果が発揮される。第5の実施形態の標的物質の検出方法と同様に、第6の実施形態の標的物質の検出方法においても、複合体(ハイブリッド体)11中の二本鎖結合の「開裂」状態を検出する際、バックグラウンドが低減され、精度に優れた標的物質の検出が可能となる。また、感度に優れた標的物質の検出も可能となる。
第6の実施形態の標的物質の検出方法を適用する際、「検査キット」は、「連結体」内で形成される、複合体(ハイブリッド体)11は、連結部12を有するスペーサ9を介して、固定部材4に固定されている。その際、「連結体」を構成する、アプタマー1と、「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」の比率は、利用する連結部12を有するスペーサ9の形状によって、正確に制御される。すなわち、「検査キット」を構成する、固定部材4上に固定される、アプタマー1と、「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」の比率のバラツキは低減される。また、検出に利用する素子を、固定部材4とする、「センサチップ」は、該素子の表面に固定化される、アプタマー1と、「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」の比率のバラツキは低減され。従って、「センサチップ」の製造時のバラツキが低減し、歩留まりが向上する。
第6の実施形態の標的物質の検出方法で利用する、「連結体」は、図8(a)、図8(b)に例示する態様では、連結部12を有するスペーサ9に対して、一つのアプタマー1と、一つの「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」が連結されている。なお、第2の実施形態の標的物質の検出方法で利用される、図4(b)に例示される態様と同様に、「連結体」を、連結部12を有するスペーサ9に対して、一つのアプタマー1と、複数個の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」が連結され、複数個のいずれかと、アプタマー1が複合体(ハイブリッド体)11を構成して、連結部12を有するスペーサ9を介して、固定部材4に固定されている態様を採用することもできる。
第6の実施形態の標的物質の検出方法で利用する、図8(a)に例示する態様では、3分岐型の連結部12を有するスペーサ9を利用して、一つの分岐の末端で、固定部材4に固定されているが、3分岐型の連結部12を有するスペーサ9に代えて、多分岐型の連結部12を有するスペーサ9を採用し、複数の分岐の末端で、固定部材4に固定されている態様を採用することもできる。
第6の実施形態の標的物質の検出方法では、連結部12を有するスペーサ9の分岐の末端をその表面に固定する、固定部材4には、第3の実施形態の標的物質の検出方法〜第5の実施形態の標的物質の検出方法において、スペーサ9の末端の固定に利用した固定部材4と同様のものを使用することができる。必要に応じて、スペーサ9の末端の固定に利用される官能基を、固定部材4の表面に導入することもできる。
連結部12を有するスペーサ9の分岐の末端の固定部材4の表面への固定化は、固定部材4の表面への固定化に利用される、官能基を有するリンカーは、特に限定されず、市販される様々な試薬を用いることができる。例えば、Dithiol Phosphoramidite(Glen research製)などを用いることができる。
連結部12を有するスペーサ9の長さは特に限定されないが、アプタマー1と「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」との間の二本鎖結合の形成時、立体障害を引き起こすことを防ぐために、3Å以上であることが好ましい。一方、「連結体」を構成する、アプタマー1と「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」が隣接して、配向されている「濃縮効果」を損なわないために、200Å以下の範囲に選択することが好ましい。
第6の実施形態の標的物質の検出方法で利用される、固定部材4の表面に固定された、「連結体」内の複合体(ハイブリッド体)11は、検体試料中に標的物質7が含有されていない場合、検出時の液温TLにおいて、「第4の工程」において、第2の光異性化処理を施した後、アプタマー1の二本鎖形成部位5と、第2の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」の二本鎖形成部位5の間で二本鎖結合を形成し、「連結体」内の「第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」が固定部材4の表面に形成可能な状態であるものを意味する。例えば、検出時の液温TLにおいて、第1の光異性化処理を施した際、「連結体」内に含まれる、アプタマー1の二本鎖形成部位5と、第1の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」の二本鎖形成部位5の間で、二本鎖結合が形成されていない状態であってもよい。従って、「複合体(ハイブリッド体)11の調製工程」において、「連結体」内では、予め第1の光異性化処理を施した、第1の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」と、アプタマー1は、二本鎖結合を形成していない状態で、連結部12を有するスペーサ9を介して、固定部材4の表面に固定化されている態様も含む。
(第7の実施形態)
第7の実施形態の標的物質の検出方法も、第1の実施形態の標的物質の検出方法〜第6の実施形態の標的物質の検出方法で利用する「検出原理」を応用する手法であるので、第1の実施形態の標的物質の検出方法〜第6の実施形態の標的物質の検出方法と同様な点については、説明を省略する。
図9は、第7の実施形態の標的物質の検出方法で利用される、複合体(ハイブリッド体)11の形状と、「標的物質7の検出」の「第1の工程」〜「第4の工程」に相当する手順、ならびに、第2の核酸断片10を利用して、第2の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」を検出する手法を模式的に示す図である。
第7の実施形態の標的物質の検出方法について、図9を参照して説明する。
第7の実施形態の標的物質の検出方法で利用される、図9(a)に例示する態様の複合体(ハイブリッド体)11では、「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」の二本鎖形成部位5と、アプタマー1の二本鎖形成部位5とは二本鎖結合を形成し、アプタマー1の二本鎖形成部位5の端部は、スペーサ9を介して、固定部材4に、化学結合または化学吸着により固定されている。加えて、「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」の二本鎖形成部位5の端部も、スペーサ9を介して、固定部材4に、化学結合または化学吸着により固定されている。
光異性化分子3は、「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」の二本鎖形成部位5に結合されている。該光異性化分子3として、「第1の工程」における、第1の光異性化処理と、「第4の工程」における、第2の光異性化処理を施すと、可逆的な光異性化を起こすものを使用する。
光異性化分子3に、第1の光異性化処理を施すと、第1の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」の二本鎖形成部位5と、アプタマー1の二本鎖形成部位5の間で形成される二本鎖結合の安定性が低下する。すなわち、第1の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」とアプタマー1で構成される「第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」中の不安定化された二本鎖結合のメルト温度Tmelting-1は、当初の複合体(ハイブリッド体)11中の二本鎖結合のメルト温度Tmeltingと比較して、Tmelting-1≪Tmeltingとなっている。第1の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」に、第2の光異性化処理を施すと、第2の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」に変換される。光異性化分子3は、第1の光異性化処理、第2の光異性化処理を施すことにより、可逆的な光異性化を起こすので、第2の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」の二本鎖形成部位5と、アプタマー1の二本鎖形成部位5の間で形成される二本鎖結合は、当初の複合体(ハイブリッド体)11中の二本鎖結合の安定性と同じ水準まで、再安定化する。すなわち、第2の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」とアプタマー1で構成される「第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」中の再安定化された二本鎖結合のメルト温度Tmelting-2は、当初の複合体(ハイブリッド体)11中の二本鎖結合のメルト温度Tmeltingと等しい。
従って、「第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」中の不安定化された二本鎖結合のメルト温度Tmelting-1、「第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」中の再安定化された二本鎖結合のメルト温度Tmelting-2と、当初の複合体(ハイブリッド体)11中の二本鎖結合のメルト温度Tmeltingは、Tmelting-1≪Tmelting=Tmelting-2の関係を満たす。
第7の実施形態の標的物質の検出方法で利用する、固定部材4に固定化されている複合体(ハイブリッド体)11は、第5の実施形態の標的物質の検出方法で利用する、図7(a)に例示する、固定部材4に固定化されている複合体(ハイブリッド体)11と同様に、検出時の液温TLを、Tmelting-1<TL≪Tmelting-2の関係を満たす範囲に選択し、「第1の工程」〜「第4の工程」を実施すると、検出試料中に標的物質7が含まれる場合、アプタマー1と標的物質7の複合体が形成され、それに伴って、図9(b)に例示するように、二本鎖結合の「開裂」状態となった、固定部材4上に固定化されている、第2の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」が生成する。
第7の実施形態の標的物質の検出方法では、第2の核酸断片10を利用して、第2の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」を検出する。第2の核酸断片10は、「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」の二本鎖形成部位5と、相補的な塩基配列を有し、その端部に、標識物質6が修飾されている。すなわち、第2の核酸断片10は、アプタマー1の二本鎖形成部位5と同じ塩基配列を有しており、図9(c)に例示するように、第2の核酸断片10は、第2の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」の二本鎖形成部位5との間で安定な二本鎖結合を形成することができる。該第2の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」と第2の核酸断片10の複合体(ハイブリッド体)中の二本鎖結合のメルト温度Tmelting-3は、当初の複合体(ハイブリッド体)11中の二本鎖結合のメルト温度Tmeltingと等しい。また、第2の核酸断片10と、第1の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」の二本鎖形成部位5との間で形成される二本鎖結合は、「第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」中の二本鎖結合と同様に不安定化されている。従って、第1の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」と第2の核酸断片10の複合体(ハイブリッド体)中の不安定化されている二本鎖結合のメルト温度Tmelting-3は、「第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」中の不安定化された二本鎖結合のメルト温度Tmelting-1と等しい。従って、Tmelting-1=Tmelting-4≪Tmelting=Tmelting-3=Tmelting-2の関係を満たす。
検出時の液温TLにおける、第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)の解離平衡定数KDhybrid-1(TL)=[一本鎖状のアプタマー1]・[第1の光異性化処理済の第1の核酸断片2]/[第1の光異性化処理済の複合体]、第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)の解離平衡定数KDhybrid-2(TL)=[一本鎖状のアプタマー1]・[第2の光異性化処理済の第1の核酸断片2]/[第2の光異性化処理済の複合体]を比較すると、KDhybrid-2(TL)≪KDhybrid-1(TL)となっている。
検出時の液温TLにおける、第1の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」と第2の核酸断片10の複合体(ハイブリッド体)の解離平衡定数KDhybrid-4(TL)=[第2の核酸断片10]・[第1の光異性化処理済の第1の核酸断片2]/[第1の光異性化処理済の第1の核酸断片2と第2の核酸断片10の複合体]、第2の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」と第2の核酸断片10の複合体(ハイブリッド体)の解離平衡定数KDhybrid-3(TL)=[第2の核酸断片10]・[第2の光異性化処理済の第1の核酸断片2]/[第2の光異性化処理済の第1の核酸断片2と第2の核酸断片10の複合体]を比較すると、KDhybrid-3(TL)≪KDhybrid-4(TL)となっている。
検出時の液温TLにおいて、アプタマー1と標的物質7の複合体が形成されていない場合、固定部材4の表面に隣接して固定されている、「第2の光異性化処理済の第1の核酸断片2」と「一本鎖状のアプタマー1」の局所的な面密度、[第2の光異性化処理済の第1の核酸断片2]Sと[一本鎖状のアプタマー1]Sは、実質的に等しい。
検出時の液温TLにおいて、第2の核酸断片10は、液相中に均一に溶解しているので、固定部材4の表面に固定されている、「第2の光異性化処理済の第1の核酸断片2」の周囲における、「第2の核酸断片10」の局所的な面密度、[第2の核酸断片10]Sは、「一本鎖状のアプタマー1」の局所的な面密度[一本鎖状のアプタマー1]Sと比較すると、[第2の核酸断片10]S≪[一本鎖状のアプタマー1]Sとなっている。
検出時の液温TLにおいて、アプタマー1と標的物質7の複合体が形成されている箇所では、固定部材4の表面に隣接して固定されている、「第2の光異性化処理済の第1の核酸断片2」と複合体(ハイブリッド体)を再形成可能な、「一本鎖状のアプタマー1」の局所的な面密度は、[一本鎖状のアプタマー1]S=0である。従って、アプタマー1と標的物質7の複合体が形成されている箇所では、「第2の核酸断片10」の局所的な面密度、[第2の核酸断片10]Sは、「一本鎖状のアプタマー1」の局所的な面密度[一本鎖状のアプタマー1]Sと比較すると、0=[一本鎖状のアプタマー1]S≪[第2の核酸断片10]Sとなっている。
従って、検出時の液温TLにおいて、アプタマー1と標的物質7の複合体が形成されていない場合、固定部材4の表面に隣接して固定されている、「第2の光異性化処理済の第1の核酸断片2」と「一本鎖状のアプタマー1」との間で二本鎖結合が再形成され、「第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」が形成され、「第2の光異性化処理済の第1の核酸断片2」と「第2の核酸断片10」との間での二本鎖結合形成は競争阻害される。
一方、検出時の液温TLにおいて、アプタマー1と標的物質7の複合体が形成されている箇所では、「第2の光異性化処理済の第1の核酸断片2」と複合体(ハイブリッド体)を再形成可能な、「一本鎖状のアプタマー1」の局所的な面密度は、[一本鎖状のアプタマー1]S=0であり、競争阻害は生じないため、「第2の光異性化処理済の第1の核酸断片2」と「第2の核酸断片10」との間での二本鎖結合の形成が選択的に進行する。
結果的に、アプタマー1と標的物質7の複合体が形成されている箇所でのみ、第2の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」と第2の核酸断片10の複合体(ハイブリッド体)の形成が選択的に起こり、他方、アプタマー1と標的物質7の複合体が形成されていない箇所では、「第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」の形成のみが起こる。
第7の実施形態の標的物質の検出方法では、アプタマー1は固定部材4に固定化されているが、図9(b)に例示するように、標的物質7は、アプタマー1と標的物質7の複合体を形成している。従って、検出時の液温TLにおける、標的物質7とアプタマー1の複合体の解離平衡定数KDcomplex-S(TL)=[立体構造を有するアプタマー1]S・[標的物質7]/[複合体]Sは、KDcomplex-S(TL)≪[標的物質7]の条件を満たしている。そのため、検出時の液温TLにおいて、アプタマー1と標的物質7の複合体の熱的解離に伴い、「立体構造を有するアプタマー1」が生成し、さらに、「一本鎖状のアプタマー1」へと変換される確率は、実質的に皆無となっている。
すなわち、第7の実施形態の標的物質の検出方法では、アプタマー1と標的物質7の複合体形成に伴う、二本鎖結合の「開裂」状態の検出は、図9(c)に例示するように、第2の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」と第2の核酸断片10の複合体(ハイブリッド体)を形成した後、該複合体(ハイブリッド体)を構成している、第2の核酸断片10の端部に修飾されている標識物質6を利用して実施される。
検出時の液温TLが、Tmelting-1=Tmelting-4≪TL≪Tmelting=Tmelting-3=Tmelting-2の関係、ならびに、25℃<TL<Taptamer-defoldingの関係を満たす範囲に選択されると、「第1の工程」において、第1の光異性化処理を施す結果、生成する「第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」は、検出時の液温TLにおいては、不安定化された二本鎖結合が、熱的に「開裂」される。一旦、固定部材4の表面に隣接して固定されている、「一本鎖状のアプタマー1」と、第1の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」となる。固定部材4の表面に固定されている、「一本鎖状のアプタマー1」は、固定部材4の表面に固定されている、「立体構造を有するアプタマー1」に変換(folding)される。該検出時の液温TLでは、固定部材4の表面に固定されている、第1の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」と第2の核酸断片10の複合体(ハイブリッド体)中の不安定化された二本鎖結合も、熱的に「開裂」される。
「第4の工程」において、第2の光異性化処理を施すと、固定部材4の表面に固定されている、第1の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」は、第2の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」に変換される。検出時の液温TLでは、この段階に達すると、第2の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」と第2の核酸断片10の複合体(ハイブリッド体)の形成が可能となる。
換言すると、「第4の工程」において、第2の光異性化処理を施した後、標的物質7とアプタマー1の複合体を形成していない「立体構造を有するアプタマー1」が「一本鎖状のアプタマー1」に変換され、第2の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」と、「第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」を再形成した時点で、第2の核酸断片10を、測定溶液に添加すればよい。勿論、先に説明したように、第2の核酸断片10は、前記「第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」の再形成過程を、競争阻害しないので、「第1の工程」に先立ち、第2の核酸断片10を測定溶液に添加してもよい。
第7の実施形態の標的物質の検出方法で利用される、第2の核酸断片10は、図9(b)に例示するように、検出時の液温TLにおいては、第1の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」とは、複合体(ハイブリッド体)を形成せず、一方、第2の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」とは、複合体(ハイブリッド体)を形成可能である必要がある。
すなわち、第1の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」中の、第1の光異性化処理済の「光異性化分子3」が結合されている二本鎖形成部位5の塩基配列と、相補的な塩基配列を、第2の核酸断片10を有している。従って、第2の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」中の、第2の光異性化処理済の「光異性化分子3」が結合されている二本鎖形成部位5の塩基配列と、相補的な塩基配列を、第2の核酸断片10を有している。
仮に、第1の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」と第2の核酸断片10の間で複合体(ハイブリッド体)を形成した際、該複合体(ハイブリッド体)中、第1の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」の二本鎖形成部位5を使用して形成される二本鎖結合は、「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」の二本鎖形成部位5に結合されている、第1の光異性化処理済の「光異性化分子3」によって不安定化されており、該不安定化されている二本鎖結合のメルト温度Tmelting-4は、「第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」中の不安的化された二本鎖結合のメルト温度Tmelting-1と等しい(Tmelting-1=Tmelting-4)。従って、検出時の液温TLが、Tmelting-1=Tmelting-4≪TL≪Tmelting=Tmelting-3=Tmelting-2の関係、ならびに、25℃<TL<Taptamer-defoldingの関係を満たす範囲に選択されると、図9(b)に例示するように、第1の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」の二本鎖形成部位5と、第2の核酸断片10の間で二本鎖結合の形成は進行しない。
一方、第2の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」と第2の核酸断片10の間で複合体(ハイブリッド体)を形成した際、該複合体(ハイブリッド体)中、第2の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」の二本鎖形成部位5を使用して形成される二本鎖結合は、再安定化されるため、該再安定化されている二本鎖結合のメルト温度Tmelting-3は、「第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」中の再安的化された二本鎖結合のメルト温度Tmelting-2と等しい(Tmelting-2=Tmelting-3)。従って、検出時の液温TLが、Tmelting-1=Tmelting-4≪TL≪Tmelting=Tmelting-3=Tmelting-2の関係、ならびに、25℃<TL<Taptamer-defoldingの関係を満たす範囲に選択されると、標的物質7とアプタマー1の複合体を形成している「立体構造を有するアプタマー1」に隣接して、固定部材4の表面に固定化されている、第2の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」の二本鎖形成部位5と、第2の核酸断片10の間で二本鎖結合の形成が進行する。
図9(c)に例示するように、固定部材4の表面には、標的物質7とアプタマー1の複合体と隣接して、第2の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」と第2の核酸断片10とで構成される複合体(ハイブリッド体)が固定されている。第2の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」と第2の核酸断片10とで構成される複合体(ハイブリッド体)を検出することにより、アプタマー1と第2の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」との間の二本鎖結合の「開裂」状態を検出する。第7の実施形態の標的物質の検出手法では、固定部材4の表面に固定されている、第2の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」と第2の核酸断片10とで構成される複合体(ハイブリッド体)の検出に、第2の核酸断片10の端部に予め修飾されている標識物質6を利用する。その際、標識物質6を利用する検出は、第2の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」を介して固定部材4の表面に固定される、第2の核酸断片10の標識物質6によって生じる物理的、化学的変化を検出できる限り限定されず、例えば、光学的シグナル、電気的シグナル、色彩的シグナル等のシグナル変化を検出することを意味する。従って、第2の核酸断片10の端部には、標識物質6、例えば、蛍光物質や、クエンチャー、電気化学反応物質、極性物質、酵素、触媒などが修飾されている。
第7の実施形態の標的物質の検出方法において、第2の核酸断片10の端部に標識物質6を予め修飾する手法には、第1の実施形態の標的物質の検出方法〜第6の実施形態の標的物質の検出方法において、第1の核酸断片2の端部に標識物質6を予め修飾する際に利用した手法と同様の手法を採用することができる。従って、第1の実施形態の標的物質の検出方法〜第6の実施形態の標的物質の検出方法において、第1の核酸断片2の端部に予め修飾した標識物質6を、第7の実施形態の標的物質の検出方法でも、同様の手順で、第2の核酸断片10の端部に修飾することができる。
第3の実施形態の標的物質の検出方法〜第6の実施形態の標的物質の検出方法では、第2の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」が複合体(ハイブリッド体)を形成してなく、「一本鎖状」である際、その端部に修飾した標識物質6を利用する検出がなされている。一方、第7の実施形態の標的物質の検出方法では、第2の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」と第2の核酸断片10とが複合体(ハイブリッド体)を形成している状態で、該複合体(ハイブリッド体)の端部に修飾した標識物質6によって生じる物理的、化学的変化を検出できる限り、標識物質6は特に限定されない。従って、前記複合体(ハイブリッド体)の端部に修飾した標識物質6によって生じる物理的、化学的変化を検出できる限り、第3の実施形態の標的物質の検出方法〜第6の実施形態の標的物質の検出方法において、第2の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」が「一本鎖状」である際、その検出に利用された標識物質6と同様のもの、例えば、発色性物質、電気化学反応物質、触媒物質を利用することができる。
第2の核酸断片10の端部に予め修飾する標識物質6として、発色性物質を用いると、第2の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」と第2の核酸断片10の複合体(ハイブリッド体)を介して、発色性物質が、固定部材4の表面に固定される。その結果、発色性物質が固定された、固定部材4の表面は、該発色性物質に起因する色の変化を示す。固定部材4の表面で生じる、該発色性物質に起因する色の変化は、目視や簡単なイメージセンサによる検査で、容易に判別することができる。一本鎖核酸分子の端部に修飾可能な、発色性物質として、例えば、色素、色つきビーズ、金ナノ粒子などの表面プラズモンを生じる金属微粒子などが挙げられる。
第2の核酸断片10の端部に予め修飾する標識物質6として、電気化学反応物質を用いると、第2の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」と第2の核酸断片10の複合体(ハイブリッド体)を介して、電気化学反応物質が、固定部材4の表面に固定される。固定部材4上またはその近傍に導電性物質を設置し、該導電性物質を作用極として、電気化学セルを構成する。電気化学セルの電極に電位を印加した際、該複合体(ハイブリッド体)を介して、固定部材4の表面に固定される、電気化学反応物質が、前記作用極において電気化学反応を起こすと、その電気化学反応は、「電流変化」として検知できる。検知される「電流変化」は、簡易な装置によって、「電圧変化」の電気信号に変換することが可能である。一本鎖核酸分子の端部に修飾可能な、電気化学反応物質としては、例えば、金属、金属錯体、キノン類およびその誘導体、メチレンブルーおよびの誘導体、ピロール類やピリジンやビオロゲン等の複素環式化合物などが挙げられる。
第2の核酸断片10の端部に予め修飾する標識物質6として、触媒物質を用いると、第2の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」と第2の核酸断片10の複合体(ハイブリッド体)を介して、触媒物質が、固定部材4の表面に固定される。一本鎖核酸分子の端部に修飾可能な、触媒物質としては、例えば、グルコースオキシダーゼ、ビリルビンオキシダーゼなどの酸化酵素、グルコースデヒドロゲナーゼ等の脱水素酵素、ジアフォラーゼ等の補酵素酸化酵素、西洋ワサビペルオキシダーゼやカタラーゼ等の過酸化物還元酵素、Ptや酸化チタン等の金属触媒、リボザイムやデオキシリボザイム等の触媒性核酸、ヘミンアプタマー等の触媒活性物質に対する結合性があるアプタマー等が挙げられる。該複合体(ハイブリッド体)を介して、固定部材4の表面に固定される触媒物質の検出は、該触媒物質の触媒活性を、その触媒活性の発揮に利用される、基質や電子伝達メディエータを所定の濃度で液中に添加し、触媒活性により生成する反応生成物の量を検出することで検出される。触媒活性により生成する反応生成物は、発光や発色、あるいは、電気化学反応特性を示す場合、該発光や発色、あるいは、電気化学反応特性の変化を検出する。
触媒物質を利用すると、その触媒活性に因って、反応生成物が「連続的」に生成されると、所謂、「増幅」がなされ、触媒物質が微量であっても、反応生成物の検出を利用することよって、より高感度の検出が可能となる。
なお、第2の核酸断片10の端部に修飾する標識物質6として、触媒物質を使用する際には、第2の核酸断片10に対して、触媒物質は、定量的に修飾する。その際、触媒物質は、アミンカップリングや金−チオール反応や核酸伸長合成などの一般的な反応によって、第2の核酸断片10の端部に定量的に修飾することができる。
一方、第2の核酸断片10の端部に修飾する標識物質6を利用して、固定部材4の表面に固定されている、第2の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」と第2の核酸断片10の複合体(ハイブリッド体)を検出する際、図9(c)に例示するように、液中には、その端部に標識物質6が修飾されている第2の核酸断片10が溶存していない状態とする。例えば、第2の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」と第2の核酸断片10の複合体(ハイブリッド体)の形成を完了した後、固定部材4の表面を洗浄して、液中に残存する、標識物質6が修飾されている第2の核酸断片10の濃度を「零」とする。また、第2の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」と第2の核酸断片10の複合体(ハイブリッド体)を介することなく、固定部材4の表面に、標識物質6が修飾されている第2の核酸断片10が非選択的に付着することを防止する。例えば、固定部材4の表面に、ブロッキング処理を施すことによって、標識物質6が修飾されている第2の核酸断片10の非選択的な付着を防止する。
勿論、図9(a)に例示するように、検出時の液温TLにおいて、固定部材4の表面に固定化されている、「第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」に対して、標識物質6が修飾されている第2の核酸断片10が結合して、該「第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」との結合を介して、標識物質6が固定部材4の表面に固定化することは生じないように、第2の核酸断片10の塩基配列と、標識物質6の種類の選択がなされる。従って、第2の核酸断片10の塩基配列中には、「第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」を構成している、「一本鎖状のアプタマー1」の二本鎖形成部位5以外の領域の部分塩基配列に対して、検出時の液温TLにおいて、安定な二本鎖結合の形成が可能な相補的な塩基配列を含まれないように、第2の核酸断片10の塩基配列を選択する。あるいは、第2の核酸断片10自体が、検出時の液温TLにおいて、「第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」と複合体を形成可能なアプタマーとならないように、第2の核酸断片10の塩基配列を選択する。また、標識物質6には、検出時の液温TLにおいて、「第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」に対して、安定な分子間結合を形成して、複合体を形成することのない標識物質を採用する。検出時の液温TLにおいて、該「第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」を構成する、「一本鎖状のアプタマー1」の端部、あるいは、第2の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」の端部と、化学結合あるいは化学吸着によって、固定化を引き起こすことのない、標識物質を採用する。さらには、検出時の液温TLにおいて、「第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」中の二本鎖結合部分に対して、インターカレーションを起こし、分子間結合を起こすことのない、標識物質を採用する。加えて、核酸分子は、場合によっては、三本鎖結合を形成する可能性がある。従って、検出時の液温TLにおいて、第2の核酸断片10自体の塩基配列中に、「第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」中の二本鎖結合部分に対して、三本鎖結合を形成する部分塩基配列を内在していない、第2の核酸断片10を採用する。
勿論、検出時の液温TLにおいて、第2の核酸断片10自体の核酸鎖部分が、標識物質6と結合し、標識物質6が修飾されている第2の核酸断片10が二量体化を引き起こすことのないように、第2の核酸断片10の塩基配列と標識物質6の種類を選択する。さらには、第2の核酸断片10自体の核酸鎖部分に、互いに相補的な配列として機能する部位が存在し、検出時の液温TLにおいて、第2の核酸断片10自体の核酸鎖部分相互間で二本鎖結合を構成し、標識物質6が修飾されている第2の核酸断片10が二量体化を引き起こすことのないように、第2の核酸断片10の塩基配列を選択する。また、検出時の液温TLにおいて、第2の核酸断片10自体の核酸鎖部分が、立体構造を形成し(foldingを起こし)、第2の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」と第2の核酸断片10の複合体(ハイブリッド体)の形成を阻害することのないように、第2の核酸断片10の塩基配列を選択する。
例えば、標識物質6として、触媒物質を使用する際、検出時の液温TLにおいて、該触媒物資の触媒活性によって、「第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」に対する触媒反応が生じることのないように、使用する触媒物質の種類を選択する。
また、図9(b)に例示するように、検出時の液温TLにおいて、固定部材4の表面に固定化されている、「標的物質7とアプタマー1の複合体」に対して、標識物質6が修飾されている第2の核酸断片10が結合して、該「標的物質7とアプタマー1の複合体」との結合を介して、標識物質6が固定部材4の表面に固定化することは生じないように、第2の核酸断片10の塩基配列と、標識物質6の種類の選択がなされる。従って、標識物質6には、検出時の液温TLにおいて、標的物質7とアプタマー1の複合体に対して、安定な分子間結合を形成して、複合体を形成することのない標識物質を採用する。検出時の液温TLにおいて、標的物質7とアプタマー1の複合体を構成している、「立体構造を有するアプタマー1」中、標的物質7の結合部位と相違する部位を利用して、標識物質6と「立体構造を有するアプタマー1」との結合が生じることのない、標識物質6を採用する。
勿論、検出時の液温TLにおいて、標的物質7との結合に不可欠な「立体構造を有するアプタマー1」に対して、標的物質7の結合部位を利用して、標識物質6も結合可能であり、結果として、標的物質7に対して、競争阻害を引き起こすことのない、標識物質6を採用する。検出時の液温TLにおいて、液中に含有される標的物質7と標識物質6が分子間結合を形成する結果、標的物質7とアプタマー1の複合体形成を阻害することのない、標識物質6を採用する。また、検出時の液温TLにおいて、第2の核酸断片10自体の核酸鎖部分が、立体構造を形成し(foldingを起こし)、該「立体構造を有する第2の核酸断片10」は、液中に含有される標的物質7と分子間結合を形成する結果、標的物質7とアプタマー1の複合体形成を阻害することのない、第2の核酸断片10の塩基配列を選択する。
加えて、図9(b)に例示するように、検出時の液温TLにおいて、液中に標的物質7が存在する際、該標的物質7に対して、標識物質6が修飾されている第2の核酸断片10が結合して、「標識物質6が修飾されている第2の核酸断片10」と標的物質7との複合体を形成することはないように、第2の核酸断片10の塩基配列と、標識物質6の種類の選択がなされる。
さらには、図9(b)に例示するように、検出時の液温TLにおいて、「第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」中の二本鎖結合の「開裂」に伴って生成する、「一本鎖状のアプタマー1」あるいは「立体構造を有するアプタマー1」に対して、「標識物質6が修飾されている第2の核酸断片10」が結合して、該「一本鎖状のアプタマー1」あるいは「立体構造を有するアプタマー1」との結合を介して、標識物質6が固定部材4の表面に固定化することは生じないように、第2の核酸断片10の塩基配列と、標識物質6の種類の選択がなされる。
第7の実施形態の標的物質の検出方法において、二本鎖結合の「開裂」状態の検出は、例えば、図9(c)に例示するように、第2の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」と第2の核酸断片10とが複合体(ハイブリッド体)を形成している状態で、該複合体(ハイブリッド体)の端部に修飾した標識物質6を利用して行われる。第2の核酸断片10は、第2の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」の二本鎖形成部位5の部分の塩基配列と相補的な部分塩基配列を有しており、例えば、DNA、RNA、PNA等を用いることができる。また、第2の核酸断片10の塩基配列は、通常、前記「二本鎖形成部位5の部分の塩基配列と相補的な塩基配列」に加えて、「相補的でない塩基配列」を有していている。第2の核酸断片10の塩基配列中、「二本鎖形成部位5の部分の塩基配列と相補的な塩基配列」は、第2の核酸断片10の任意の部分にあってもよく、例えば、端部にあってもよいし、中央部にあってもよい。図9(c)に例示する、第2の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」と第2の核酸断片10の複合体(ハイブリッド体)では、「第1の核酸断片2」中の二本鎖形成部位5は、スペーサ9と連結され、第2の核酸断片10中の「相補的な塩基配列」は、端部に設け、他の端部に、標識物質6が修飾されている。
それに対して、第2の核酸断片10中の「相補的な塩基配列」は、端部に設け、その端部に標識物質6を修飾する構成を採用することも可能である。この構成では、第2の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」と第2の核酸断片10とが複合体(ハイブリッド体)を形成している状態で、標識物質6は、固定部材4の表面に近接する状態に保持される。
第7の実施形態の標的物質の検出方法では、図9(a)に例示するように、第2の核酸断片10は、「第1の工程」後、「第2の工程」を実施する前に添加される。そのため、「開裂」されている「一本鎖状態の第1の核酸断片2」と、第2の核酸断片10との複合体(ハイブリッド体)形成は、第1の光異性化処理を施した時点では、本質的に進行せず、第2の光異性化処理を施した時点で進行することが必要である。例えば、「第1の核酸断片2」には、光異性化分子3が結合されてなく、「アプタマー1」のみに光異性化分子3が結合されている場合、第1の光異性化処理を施した時点で、第2の光異性化処理を施さなくとも、「開裂」されている「一本鎖状態の第1の核酸断片2」と第2の核酸断片10との複合体(ハイブリッド体)形成が可能な状態となっている。従って、第7の実施形態の標的物質の検出方法においては、光異性化分子3が結合されてなく、「アプタマー1」のみに光異性化分子3が結合されている形態を採用することは避ける。少なくとも、「アプタマー1」に光異性化分子3が一部結合され、「第1の核酸断片2」に残る光異性化分子3が結合されている形態を選択する場合、第2の光異性化処理済の「光異性化分子3が部分的に結合されている第1の核酸断片2」と第2の核酸断片10の複合体(ハイブリッド体)中の、不安的化されている二本鎖結合のメルト温度Tmelting-partial-4は、検出時の液温TLに対して、Tmelting-partial-4<TLの条件を満たす必要がある。前記の条件Tmelting-partial-4<TLを満たすように、「光異性化分子3が部分的に結合されている第1の核酸断片2」における、結合される光異性化分子3の個数と、「第1の核酸断片2」中の二本鎖形成部位5内の光異性化分子3の修飾部位を選択することが必要である。勿論、図9(a)に例示する形態、すなわち、「アプタマー1」には光異性化分子3が結合されなく、「第1の核酸断片2」のみに光異性化分子3が結合されている形態を採用することがより好ましい。
第7の実施形態の標的物質の検出方法では、検査対象物(検体試料)中に標的物質7が含まれていない場合、標的物質7とアプタマー1の複合体の形成は生じないため、標的物質7とアプタマー1の複合体と隣接する、第2の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」と、第2の核酸断片10との間で、複合体(ハイブリッド体)を形成することは起きない。従って、第2の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」と第2の核酸断片10の複合体(ハイブリッド体)の有無を検出することによって、検査対象物(検体試料)中に標的物質7が含まれているか、否かの検知を行うことができる。
すなわち、第7の実施形態の標的物質の検出方法では、検査対象物(検体試料)中に標的物質7が含まれていない場合、第2の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」と、第2の核酸断片10との複合体(ハイブリッド体)を介して、標識物質6が固定部材4の表面に固定される現象を排除しているので、バックグラウンドレベルが低く、高いS/Nが得られる。その結果、第7の実施形態の標的物質の検出方法では、検査対象物(検体試料)中に標的物質7が含まれていないか、否かを、高感度で検知することができる。
具体的には、検出時の液温TLが、Tmelting-1=Tmelting-4≪TL≪Tmelting=Tmelting-3=Tmelting-2の関係、ならびに、25℃<TL<Taptamer-defoldingの関係を満たす範囲に選択されると、検査対象物(検体試料)中に標的物質7が含まれていない場合、第2の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」と、第2の核酸断片10との複合体(ハイブリッド体)の形成は、固定部材4の表面に固定されているアプタマー1との競合反応によって、効率的に阻害されている。
第1の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」とアプタマー1との複合体(ハイブリッド体)中の不安定化された二本鎖結合のメルト温度Tmelting-1、第1の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」と、第2の核酸断片10との複合体(ハイブリッド体)中の不安定化された二本鎖結合のメルト温度Tmelting-4に対して、検出時の液温TLが、Tmelting-1=Tmelting-4≪TLの範囲にあるため、検出時の液温TLでは、第1の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」とアプタマー1との複合体(ハイブリッド体)、第1の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」と、第2の核酸断片10との複合体(ハイブリッド体)は、いずれも、熱的に「開裂」された状態となる。従って、固定部材4の表面における、第1の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」の面密度は、第2の核酸断片10の実効的面密度と比較すると、格段(桁違い)に高い。その後、第2の光異性化処理を施すと、固定部材4の表面に固定されているアプタマー1は、隣接して固定されている、第2の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」と優先的に複合体(ハイブリッド体)を形成する。一方、液相中に溶解している、第2の核酸断片10は、固定部材4の表面に固定されている、アプタマー1による競争阻害の結果、検査対象物(検体試料)中に標的物質7が含まれていない場合、第2の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」と、第2の核酸断片10との複合体(ハイブリッド体)形成は、全く進行しない。
第2の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」と、第2の核酸断片10との複合体(ハイブリッド体)中の二本鎖結合を構成する塩基対の数が、「第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」中の二本鎖結合を構成する塩基対の数よりも多い場合、第2の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」と、第2の核酸断片10との複合体(ハイブリッド体)中の二本鎖結合のメルト温度Tmelting-3は、「第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」中の二本鎖結合のメルト温度Tmelting-2より有意に高くなる(Tmelting-2<Tmelting-3)。同様に、第1の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」と、第2の核酸断片10との複合体(ハイブリッド体)中の二本鎖結合を構成する塩基対の数が、「第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」中の二本鎖結合を構成する塩基対の数よりも多い場合、第1の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」と、第2の核酸断片10との複合体(ハイブリッド体)中の二本鎖結合のメルト温度Tmelting-4は、「第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」中の二本鎖結合のメルト温度Tmelting-1より有意に高くなる(Tmelting-1<Tmelting-4)。その結果、Tmelting-1<Tmelting-4<Tmelting-2<Tmelting-3の序列となる。
検出時の液温TLが、Tmelting-1<TL<Tmelting-4<Tmelting-2<Tmelting-3の関係となると、検出時の液温TLにおいては、第1の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」とアプタマー1との複合体(ハイブリッド体)中の不安定化された二本鎖結合は熱的に「開裂」しているは、第1の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」と第2の核酸断片10との複合体(ハイブリッド体)は、熱的に「開裂」していない状態となる。この状態で、第2の光異性化処理を施すと、熱的に「開裂」していない、第1の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」と第2の核酸断片10との複合体(ハイブリッド体)は、第2の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」と第2の核酸断片10との複合体(ハイブリッド体)に変換される。従って、検査対象物(検体試料)中に標的物質7が含まれていない場合であっても、第2の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」と第2の核酸断片10との複合体(ハイブリッド体)を介して、標識物質6が固定部材4の表面に固定される現象が生じる。
第7の実施形態の標的物質の検出方法では、検査対象物(検体試料)中に標的物質7が含まれていない場合であっても、第2の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」と第2の核酸断片10との複合体(ハイブリッド体)を介して、標識物質6が固定部材4の表面に固定される現象を防止するため、第2の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」と、第2の核酸断片10との複合体(ハイブリッド体)中の二本鎖結合を構成する塩基対の数が、「第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」中の二本鎖結合を構成する塩基対の数と等しい場合、第2の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」と、第2の核酸断片10との複合体(ハイブリッド体)中の二本鎖結合のメルト温度Tmelting-3は、「第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」中の二本鎖結合のメルト温度Tmelting-2と等しくでき(Tmelting-2=Tmelting-3)。第1の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」と、第2の核酸断片10との複合体(ハイブリッド体)中の二本鎖結合を構成する塩基対の数を、「第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」中の二本鎖結合を構成する塩基対の数と等しくして、第1の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」と、第2の核酸断片10との複合体(ハイブリッド体)中の二本鎖結合のメルト温度Tmelting-4は、「第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」中の二本鎖結合のメルト温度Tmelting-1と等しくする(Tmelting-4=Tmelting-1)。その結果、Tmelting-4=Tmelting-1<Tmelting-3=Tmelting-2の序列となる。
検出時の液温TLを、Tmelting-4=Tmelting-1<TL<Tmelting-3=Tmelting-2の関係を満たす範囲に選択すると、検査対象物(検体試料)中に標的物質7が含まれていない場合であっても、第2の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」と第2の核酸断片10との複合体(ハイブリッド体)を介して、標識物質6が固定部材4の表面に固定される現象の発生を、確実に防止することができる。
但し、第2の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」と、第2の核酸断片10との複合体(ハイブリッド体)中の二本鎖結合を構成する塩基対の数が、「第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」中の二本鎖結合を構成する塩基対の数より有意に少ない場合、第2の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」と、第2の核酸断片10との複合体(ハイブリッド体)中の二本鎖結合のメルト温度Tmelting-3は、「第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」中の二本鎖結合のメルト温度Tmelting-2よりも顕著に低くなる(Tmelting-3≪Tmelting-2)。同様に、第1の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」と、第2の核酸断片10との複合体(ハイブリッド体)中の二本鎖結合を構成する塩基対の数を、「第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」中の二本鎖結合を構成する塩基対の数より有意に少なくすると、第1の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」と、第2の核酸断片10との複合体(ハイブリッド体)中の二本鎖結合のメルト温度Tmelting-4は、「第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」中の二本鎖結合のメルト温度Tmelting-1よりも顕著に低くなる(Tmelting-4≪Tmelting-1)。その結果、Tmelting-4≪Tmelting-3<Tmelting-1≪Tmelting-2の序列となる場合もある。
その際、検出時の液温TLを、Tmelting-4≪Tmelting-3<Tmelting-1<TL≪Tmelting-2の関係を満たす範囲に選択すると、検出時の液温TLでは、第2の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」と、第2の核酸断片10との複合体(ハイブリッド体)の二本鎖結合は、熱的な「開裂」を起こす状態となる。
以上の点を考慮すると、第7の実施形態の標的物質の検出方法では、第2の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」と、第2の核酸断片10との複合体(ハイブリッド体)中の二本鎖結合を構成する塩基対の数を、「第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」中の二本鎖結合を構成する塩基対の数と等しいか、極僅かに少なくい範囲に選択する、より好ましくは、等しくする。
第2の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」と、第2の核酸断片10との複合体(ハイブリッド体)中の二本鎖結合を構成する塩基対の数は、アプタマー1と第1の核酸断片2の塩基配列および塩強度などによって変化する。通常、溶液中で安定に結合できる値の目安として、二本鎖結合を構成する塩基対の数(相補的な塩基数)は、8塩基以上である。「第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」中の二本鎖結合のメルト温度Tmelting-1、「第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」中の二本鎖結合のメルト温度Tmelting-2と、検出時の液温TLが、25℃<Tmelting-1<TL≪Tmelting-2の関係を満たすように、二本鎖結合を構成する塩基対の数を選択する。
(第8の実施形態)
第8の実施形態の標的物質の検出方法も、第1の実施形態の標的物質の検出方法〜第7の実施形態の標的物質の検出方法で利用する「検出原理」を応用する手法であるので、第1の実施形態の標的物質の検出方法〜第7の実施形態の標的物質の検出方法と同様な点については、説明を省略する。
図10は、第8の実施形態の標的物質の検出方法で利用される、複合体(ハイブリッド体)11の形状と、「標的物質7の検出」の「第1の工程」〜「第4の工程」に相当する手順、ならびに、第2の核酸断片10を利用して、第2の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」を検出する手法を模式的に示す図である。
第8の実施形態の標的物質の検出方法について、図10を参照して説明する。
第8の実施形態の標的物質の検出方法では、第2の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」の検出に利用される、第2の核酸断片10は、親溶媒性の固定部材4の表面に、化学結合または化学吸着により固定されている。図10(a)に例示する、親溶媒性の固定部材4は、二つの領域からなる親溶媒性部材21である。親溶媒性部材21の二つの領域の一つは、検出部13であり、検出部13の表面に、第2の核酸断片10が固定化されている。第2の核酸断片10の端部は、スペーサ9を介して、検出部13の表面に固定化されている。親溶媒性部材21の二つの領域の他の一つは、捕捉部14である。該捕捉部14は、溶媒との親和性が高く、図10(b)に例示するように、液滴中に含有されている複合体(ハイブリッド体)11と標的物質7は、該液滴を構成する溶媒とともに、捕捉部14の表面に浸透することにより、親溶媒性部材21の捕捉部14に捕捉される。捕捉部14に捕捉された後、溶媒とともに複合体(ハイブリッド体)11と標的物質7は、該捕捉部14の表面に沿って、浸透する結果、検出部13に到達する。捕捉部14に捕捉された後、該捕捉部14の表面に沿って、浸透を進め、検出部13に到達するまでの間に、「第1の工程」〜「第4の工程」を実施した上で、検出部13に到達した時点で、第2の核酸断片10を利用して、第2の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」を検出する。
一方、図10(b)に例示する、液滴中に含有されている、複合体(ハイブリッド体)11は、アプタマー1の二本鎖形成部位5と、「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」の二本鎖形成部位5が、スペーサ9に連結されている「連結体」となっている。「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」の他の端部には、標識物質6が修飾されている。該複合体(ハイブリッド体)11を構成する「連結体分子」中、「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」中の二本鎖形成部位5に結合される、光異性化分子3は、第1の光異性化処理、第2の光異性化処理を施すと、可逆的な光異性化を起こす。従って、図10(b)に例示する、液滴中に含有されている、複合体(ハイブリッド体)11は、「連結体分子」中に内在されている、アプタマー1と、第2の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」が二本鎖結合を形成している、「第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」に相当している。
図10(b)に例示する、液滴は、複合体(ハイブリッド体)11と検査対象物(検体試料)とを混合し、該液滴の溶媒中には、検査対象物(検体試料)中に含有される標的物質7と複合体(ハイブリッド体)11が溶解している。なお、検査対象物(検体試料)中に標的物質7が含有されていない場合、該液滴の溶媒中には、標的物質7は含まれず、複合体(ハイブリッド体)11が溶解している。
液滴を、親溶媒性部材21の捕捉部14の前段部の表面にスポット(滴下)すると、溶媒とともに、複合体(ハイブリッド体)11と標的物質7は、該液滴中の溶媒に対して親溶媒性を示す、捕捉部14の表面に沿って、スポット(滴下)点から、後段部に向かって浸透していく。
液滴を、親溶媒性部材21の捕捉部14の前段部の表面にスポット(滴下)した直後に、「第1の工程」の第1の光異性化処理を施す。また、親溶媒性部材21の温度を、検出時の液温(TL)に調整する。従って、親溶媒性部材21の捕捉部14の表面に浸透する、液滴は、検出時の液温(TL)に保持される。第8の実施形態の標的物質の検出方法では、スポット(滴下)される液滴中に、複合体(ハイブリッド体)11と標的物質7が均一に溶解されている状態とする。従って、捕捉部14の表面を浸透していく、液相中に含まれる、複合体(ハイブリッド体)11の濃度[複合体(ハイブリッド体)]CAP、標的物質7の濃度[標的物質]CAPは、それぞれ、該液滴中の複合体(ハイブリッド体)11の濃度[複合体(ハイブリッド体)]、標的物質7の濃度[標的物質]と等しい。
第1の光異性化処理を施すと、光異性化分子3は、第1の光異性化を起こすため、複合体(ハイブリッド体)11を構成している「連結体分子」中、「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」は、第1の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」に変換される。その際、当初の複合体(ハイブリッド体)11、すなわち、「第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」から、「連結体分子」中のスペーサ9により連結されている、第1の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」とアプタマー1が、二本鎖結合で結合されている「第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」に変換される。該「第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」中の不安的化されている二本鎖結合のメルト温度Tmelting-1と、当初の複合体(ハイブリッド体)11中の二本鎖結合のメルト温度Tmelting、すなわち、「第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」中の安的化されている二本鎖結合のメルト温度Tmelting-2を比較すると、Tmelting-1≪Tmelting=Tmelting-2となっている。
検出時の液温(TL)を、Tmelting-1<TL≪Tmelting=Tmelting-2の関係を満たすように選択すると、該検出時の液温(TL)においては、「第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」中の不安定化された二本鎖結合は、熱的に「開裂」し、一旦、「一本鎖状のアプタマー1」と、第1の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」が、スペーサ9によって連結されている、第1の光異性化処理済の「unfolding型連結体分子」となる。すなわち、検出時の液温(TL)における、「第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」と、第1の光異性化処理済の「unfolding型連結体分子」との平衡定数KD-hybride-1は、KD-hybride-1=[第1の光異性化処理済のunfolding型連結体分子]CAP/[第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)] CAPと表記され、KD-hybride-1>1である。
その後、「一本鎖状のアプタマー1」は、標的物質7との結合に不可欠な立体構造を形成し、「立体構造を有するアプタマー1」に変換される。すなわち、「一本鎖状のアプタマー1」から「立体構造を有するアプタマー1」に構造変化(folding)することで、熱的なエネルギーの安定化がなされる。すなわち、検出時の液温(TL)においては、第1の光異性化処理済の「unfolding型連結体分子」中の「一本鎖状のアプタマー1」部分が、「立体構造を有するアプタマー1」部分に変換された、第1の光異性化処理済の「folding型連結体分子」に変換される。検出時の液温(TL)における、第1の光異性化処理済の「unfolding型連結体分子」と、第1の光異性化処理済の「folding型連結体分子」の平衡定数Kaptamer-folding-1(TL)は、Kaptamer-folding-1(TL)=[第1の光異性化処理済のunfolding型連結体分子]CAP/[第1の光異性化処理済のfolding型連結体分子]CAPであり、Kaptamer-folding-1(TL)<1となっている。
図10(c)に例示されるように、液相中に、標的物質7が含有されている場合、第1の光異性化処理済の「folding型連結体分子」中の「立体構造を有するアプタマー1」部分に、標的物質7が結合して、第1の光異性化処理済の「folding型連結体分子」と標的物質7の複合体が形成される。検出時の液温(TL)における、第1の光異性化処理済の「folding型連結体分子」と標的物質7の複合体、第1の光異性化処理済の「folding型連結体分子・標的物質複合体」の解離平衡定数KD-complex-1(TL)は、KD-complex-1(TL)=[標的物質]CAP・[第1の光異性化処理済のfolding型連結体分子]CAP/[第1の光異性化処理済のfolding型連結体分子・標的物質複合体]CAPと表記される。検出時の液温(TL)における、該解離平衡定数KD-complex-1(TL)に従って、液滴中に含有される標的物質7は複合体を形成し、液相中に溶存している、標的物質7の濃度[標的物質]CAPは、浸透が進行するにつれ、指数関数的に低下する。該複合体の形成に伴い、「第1の光異性化処理済のfolding型連結体分子」は消費されるため、「第1の光異性化処理済のunfolding型連結体分子」は、平衡定数Kaptamer-folding-1(TL)に従って、「第1の光異性化処理済のfolding型連結体分子」へと急速に変換され、最終的に、「第1の光異性化処理済のunfolding型連結体分子」は、実質的に残存していない状態となる、すなわち、図10(c)に例示するように、滴下される液滴中に含有されている標的物質7は、実質的に全て、第1の光異性化処理済の「folding型連結体分子・標的物質複合体」し、複合体を形成していない、第1の光異性化処理済の「folding型連結体分子」とともに、捕捉部14の表面を浸透していく。
複合体の形成が完了する時点で、「第4の工程」の第2の光異性化処理を施すと、第1の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」部分は、第2の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」部分へと変換される。その結果、図10(d)に例示されるように、第1の光異性化処理済の「folding型連結体分子」は、第2の光異性化処理済の「folding型連結体分子」に変換され、第1の光異性化処理済の「folding型連結体分子・標的物質複合体」は、第2の光異性化処理済の「folding型連結体分子・標的物質複合体」に変換される。
検出時の液温(TL)における、第2の光異性化処理済の「unfolding型連結体分子」と、第2の光異性化処理済の「folding型連結体分子」の平衡定数Kaptamer-folding-2(TL)は、Kaptamer-folding-2(TL)=[第2の光異性化処理済のunfolding型連結体分子]CAP/[第2の光異性化処理済のfolding型連結体分子]CAPであり、Kaptamer-folding-2(TL)<1となっている。「アプタマー1」部分の、folding/defolding過程の平衡定数に相当するため、該平衡定数Kaptamer-folding-2(TL)は、上記の平衡定数Kaptamer-folding-1(TL)と本質的に等しい。
一方、第2の光異性化処理済の「unfolding型連結体分子」は、「一本鎖状のアプタマー1」中の二本鎖形成部位5と、第2の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」中の二本鎖形成部位5の間で、二本鎖結合を形成すると、「第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」を再形成する。検出時の液温(TL)における、該「第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」と、第2の光異性化処理済の「unfolding型連結体分子」との平衡定数KD-hybride-2は、KD-hybride-2=[第2の光異性化処理済のunfolding型連結体分子]CAP/[第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)] CAPと表記され、KD-hybride-2≪1である。
また、第1の光異性化処理済の「folding型連結体分子・標的物質複合体」は、第2の光異性化処理済の「folding型連結体分子・標的物質複合体」に変換される。検出時の液温(TL)における、第2の光異性化処理済の「folding型連結体分子」と標的物質7の複合体、第2の光異性化処理済の「folding型連結体分子・標的物質複合体」の解離平衡定数KD-complex-2(TL)は、KD-complex-2(TL)=[標的物質]CAP・[第2の光異性化処理済のfolding型連結体分子]CAP/[第2の光異性化処理済のfolding型連結体分子・標的物質複合体]CAPと表記される。「立体構造を有するアプタマー1」部分と複合体を形成している、標的物質7の解離平衡過程の平衡定数に相当するため、該解離平衡定数KD-complex-2(TL)は、上記の解離平衡定数KD-complex-1(TL)と本質的に等しい。
「第4の工程」の第2の光異性化処理を施す時点では、図10(d)に例示されるように、第1の光異性化処理済の「folding型連結体分子・標的物質複合体」と、残余している第1の光異性化処理済の「folding型連結体分子」は、溶媒とともに、親溶媒性部材21の捕捉部14の後段部に達している。その後、親溶媒性部材21の検出部13に達する際には、第2の光異性化処理を施すことで、第1の光異性化処理済の「folding型連結体分子」から変換された、第2の光異性化処理済の「folding型連結体分子」は、検出時の液温(TL)における、平衡定数Kaptamer-folding-2(TL)に従って、第2の光異性化処理済の「unfolding型連結体分子」に変換され、さらに、平衡定数KD-hybride-2に従って、二本鎖結合を再生する結果、「第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」となる。従って、液相中に残余していた、第2の光異性化処理済の「folding型連結体分子」は、「第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」となる。
一方、第1の光異性化処理済の「folding型連結体分子・標的物質複合体」から変換された、第2の光異性化処理済の「folding型連結体分子・標的物質複合体」は、液相中に残余している、第2の光異性化処理済の「folding型連結体分子」の濃度[第2の光異性化処理済のfolding型連結体分子]CAPが減少する結果、解離平衡定数KD-complex-2(TL)に従って、徐々に解離していく。但し、解離が進むと、液相中に溶存している「標的物質7」の濃度[標的物質]CAPは、相対的には、殆ど「零」の状態から、急激な上昇比率で増加するため、その解離速度は緩やかになる。
その結果、「第4の工程」の第2の光異性化処理を施す時点から、親溶媒性部材21の検出部13に達するまでに要する時間を不必要に長くしない限り、親溶媒性部材21の検出部13に達する段階で、液相中に含まれている、第2の光異性化処理済の「folding型連結体分子・標的物質複合体」の濃度[第2の光異性化処理済のfolding型連結体分子・標的物質複合体]CAPと、第2の光異性化処理済の「folding型連結体分子」の濃度[第2の光異性化処理済のfolding型連結体分子]CAPの合計は、第2の光異性化処理を施すことで、第1の光異性化処理済の「folding型連結体分子・標的物質複合体」から変換された、第2の光異性化処理済の「folding型連結体分子・標的物質複合体」の濃度[第2の光異性化処理済のfolding型連結体分子・標的物質複合体]CAP-0と、実質的に同じ程度とすることができる。
図10(e)に例示するように、親溶媒性部材21の検出部13の表面に固定化されている、第2の核酸断片10は、第2の光異性化処理済の「folding型連結体分子・標的物質複合体」中の、第2の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」中の二本鎖形成部位5とハイブリダイズして二本鎖結合を形成する。また、標識物質7が結合していない、第2の光異性化処理済の「folding型連結体分子」中の、第2の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」中の二本鎖形成部位5とも、第2の核酸断片10は、ハイブリダイズして二本鎖結合を形成することが可能である。
換言すると、親溶媒性部材21の検出部13に達する段階で、液相中に含まれている、第2の光異性化処理済の「folding型連結体分子・標的物質複合体」の濃度[第2の光異性化処理済のfolding型連結体分子・標的物質複合体]CAPと、第2の光異性化処理済の「folding型連結体分子」の濃度[第2の光異性化処理済のfolding型連結体分子]CAPの合計が、親溶媒性部材21の検出部13の表面に固定化されている、第2の核酸断片10とハイブリダイズして二本鎖結合を形成することが可能である。
なお、第2の光異性化処理を施すことで、第1の光異性化処理済の「folding型連結体分子・標的物質複合体」から変換された、第2の光異性化処理済の「folding型連結体分子・標的物質複合体」の全量が、親溶媒性部材21の検出部13の表面に固定化されている、第2の核酸断片10とハイブリダイズして二本鎖結合を形成することで固定化されたと仮定する。その時点では、固定化された第2の光異性化処理済の「folding型連結体分子・標的物質複合体」の面密度は、[第2の光異性化処理済のfolding型連結体分子]S-0である。この固定化された第2の光異性化処理済の「folding型連結体分子・標的物質複合体」は、固定化された第2の光異性化処理済の「folding型連結体分子」と「標的物質7」に解離することが可能であり、検出時の液温(TL)における、解離平衡定数KD-complex-2-S(TL)は、KD-complex-2-S(TL)=[標的物質]CAP・[固定化された第2の光異性化処理済のfolding型連結体分子]S/[固定化された第2の光異性化処理済のfolding型連結体分子・標的物質複合体]Sと表記される。解離平衡定数KD-complex-2-S(TL)も、「立体構造を有するアプタマー1」部分と複合体を形成している、標的物質7の解離平衡過程の平衡定数に相当するため、該解離平衡定数KD-complex-2-S(TL)は、上記、解離平衡定数KD-complex-2(TL)と本質的に等しい。
そのため、一旦、固定化された第2の光異性化処理済の「folding型連結体分子・標的物質複合体」の一部は、前記解離平衡定数KD-complex-2-S(TL)に従って、固定化された第2の光異性化処理済の「folding型連結体分子」と「標的物質7」に解離する。結果的に検出するものは、固定化された第2の光異性化処理済の「folding型連結体分子・標的物質複合体」の面密度[固定化された第2の光異性化処理済のfolding型連結体分子・標的物質複合体]Sと、固定化された第2の光異性化処理済の「folding型連結体分子」の面密度[固定化された第2の光異性化処理済のfolding型連結体分子]Sの合計となる。
第2の核酸断片10とハイブリダイズして二本鎖結合を形成することにより固定化される、第2の光異性化処理済の「folding型連結体分子・標的物質複合体」が、その後、その「立体構造を有するアプタマー1」部分と複合体を形成している、標的物質7が解離しても、第2の光異性化処理済の「folding型連結体分子」として、固定化されている。さらに、「立体構造を有するアプタマー1」部分は、熱的にdefoldingされ、「一本鎖状のアプタマー1」に変換されても、第2の光異性化処理済の「unfolding型連結体分子」として、固定化されている。第2の核酸断片10とハイブリダイズして二本鎖結合を形成している、第2の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」部分の端部に修飾する標識物質6を検出するため、上記のいずれの形態をとっても、親溶媒性部材21の検出部13に固定化されている標識物質6として検出される。
一方、親溶媒性部材21の検出部13には、再生された「第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」も到達し、検出部13の表面を覆う液相中に溶解している。該検出部13の表面に固定化されていない、「第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」中の第2の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」部分の端部には、標識物質6が修飾されている。そのため、親溶媒性部材21の検出部13に到達した、「第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」は、洗浄によって除去した後、第2の核酸断片10とハイブリダイズして二本鎖結合を形成している、第2の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」部分の端部に修飾する標識物質6のみを検出する。
親溶媒性部材21の検出部13に到達した、「第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」を、洗浄によって除去すると、検出部13の表面を覆う液相中に溶解している、標的物質7も、該洗浄によって除去される。第2の核酸断片10とハイブリダイズして二本鎖結合を形成することにより固定化されている、第2の光異性化処理済の「folding型連結体分子・標的物質複合体」から、検出時の液温(TL)における、解離平衡定数KD-complex-2-S(TL)に従って、標的物質7の解離が徐々に進行する。
従って、「第4の工程」の第2の光異性化処理を施す時点から、親溶媒性部材21の検出部13に達するまでに、所定の時間を要するが、この所要時間を適正な範囲に設定すると、液祖中に残余していた、第1の光異性化処理済の「folding型連結体分子」は、「第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」となる。その結果、第1の光異性化処理済の「folding型連結体分子」から変換された、第2の光異性化処理済の「folding型連結体分子」の一部が、親溶媒性部材21の検出部13に到達し、親溶媒性部材21の検出部13の表面に固定化されている、第2の核酸断片10とハイブリダイズして二本鎖結合を形成することによる「ノイズ」の発生を防止できる。
第8の実施形態の標的物質の検出方法では、検出時の液温(TL)において、「第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」に相当している、当初の「複合体(ハイブリッド体)」に、「第1の工程」の第1の光異性化処理を施し、該「複合体(ハイブリッド体)」中の二本鎖結合が不安定化させ、さらに熱的に「開裂」させ、第1の光異性化処理済の「unfolding型連結体分子」に変換する。引き続き、第1の光異性化処理済の「unfolding型連結体分子」を構成する「一本鎖状のアプタマー1」部分を、検出時の液温(TL)において、「folding/defoldingの平衡過程」を利用して、「立体構造を有するアプタマー1」部分に変換する結果、第1の光異性化処理済の「folding型連結体分子」とする。その際、スポットする液滴中には、標的物質7が含まれており、第1の光異性化処理済の「folding型連結体分子」中の「立体構造を有するアプタマー1」部分に標的物質7が結合して、第1の光異性化処理済の「folding型連結体分子・標的物質複合体」が速やかに形成される。
しかし、例えば、図10(b)に模式的に示すように、当初の「複合体(ハイブリッド体)」の濃度[複合体(ハイブリッド体)]と、標的物質7の濃度[標的物質]が等しい場合、図10(c)に模式的に示すように、第1の光異性化処理を施した後、ほぼ全量が、第1の光異性化処理済の「folding型連結体分子・標的物質複合体」の形成が完了するまでには、ある程度の時間が必要である。従って、「第1の工程」の第1の光異性化処理を終えた後、「第4の工程」の第2の光異性化処理を実施するまでの間に、「所定の時間(t1)」を置く必要がある。該「所定の時間(t1)」をおいて、「第1の工程」の第1の光異性化処理と、「第4の工程」の第2の光異性化処理を実施することを、図10(b)〜図10(d)に例示する、親溶媒性部材21の捕捉部14において、その表面に浸透する間の時間的経緯として、模式的に示している。
検出時の液温(TL)における、アプタマー1の「folding/defoldingの平衡過程」に依存する、平衡定数Kaptamer-folding-1(TL)=[第1の光異性化処理済のunfolding型連結体分子]CAP/[第1の光異性化処理済のfolding型連結体分子]CAPと、平衡定数Kaptamer-folding-2(TL)=[第2の光異性化処理済のunfolding型連結体分子]CAP/[第2の光異性化処理済のfolding型連結体分子]CAPは、本質的に等しく、Kaptamer-folding-1(TL)=Kaptamer-folding-2(TL)<1である。検出時の液温(TL)において、「第2の光異性化処理済のunfolding型連結体分子」と「第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」との間の平衡定数は、解離平衡定数KD-hybride-2=[第2の光異性化処理済のunfolding型連結体分子]CAP/[第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)] CAPと表記され、KD-hybride-2≪1である。但し、検出時の液温(TL)において、平衡状態にある「第1の光異性化処理済のfolding型連結体分子」と「第1の光異性化処理済のunfolding型連結体分子」の混合物が、全て、「第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」へと変換されるには、ある程度の時間が必要である。
従って、「第4の工程」の第2の光異性化処理を実施した後、親溶媒性部材21の検出部13に到達するまでの間に、「所定の時間(t2)」を置く必要がある。図10(d)と図10(3)に例示する、「第4の工程」の第2の光異性化処理を実施した後、「所定の時間(t2)」が経過した時点で、親溶媒性部材21の検出部13上、第2の核酸断片10が固定されている部位に達する、親溶媒性部材21の捕捉部14の後段部〜検出部13の領域の表面に浸透する間の時間的経緯として、模式的に示している。
以上に説明するように、第8の実施形態の標的物質の検出方法では、検出時の液温(TL)において、「第1の工程」〜「第4の工程」を実施する際、親溶媒性部材21の親溶媒性の領域(捕捉部14)を利用して、該捕捉部14の前段部の表面にスポット(滴下)する液滴中に、「連結体分子」からなる「複合体(ハイブリッド体)11」と「標的物質7」を予め含有させることで、スポット(滴下)した液滴中の溶媒ともに、「連結体分子」からなる「複合体(ハイブリッド体)11」と「標的物質7」を、親溶媒性を示す、該捕捉部14の表面に浸透することにより捕捉し、図10(b)〜図10(e)に例示するように、液滴のスポット(滴下)後、第1の光異性化処理、第2の光異性化処理、検出部13への到達の間に、「所定の時間(t1)」と「所定の時間(t2)」を設ける、時間的な経過を、高い再現性で設定(調節)できる点が、技術的な特徴となっている。
第8の実施形態の標的物質の検出方法において、検査対象物(検体試料)中に標的物質7が含まれていない場合、第1の光異性化処理済の「folding型連結体分子・標的物質複合体」は形成されないため、第2の光異性化処理済の「folding型連結体分子・標的物質複合体」は、親溶媒性部材21の検出部13において、第2の核酸断片10とハイブリダイズして二本鎖結合を形成することもない。一方、検査対象物(検体試料)中に標的物質7が含まれている場合、第1の光異性化処理済の「folding型連結体分子・標的物質複合体」が形成され、第2の光異性化処理を施すことで、第2の光異性化処理済の「folding型連結体分子・標的物質複合体」に変換され、親溶媒性部材21の検出部13において、第2の核酸断片10とハイブリダイズして二本鎖結合を形成する。
従って、親溶媒性部材21の検出部13において、第2の核酸断片10とハイブリダイズして二本鎖結合を形成する結果、該検出部13の表面に固定化される、第2の光異性化処理済の「folding型連結体分子・標的物質複合体」中の、第2の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」部分の端部に修飾する標識物質6の有無を検出することによって、検査対象物(検体試料)中に標的物質7が含まれているか、否かを検知することができる。
第8の実施形態の標的物質の検出方法においては、第2の核酸断片10とハイブリダイズして二本鎖結合を形成する結果、該検出部13の表面に固定化される、第2の光異性化処理済の「folding型連結体分子・標的物質複合体」中の、第2の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」部分の端部に修飾する標識物質6の有無を検出する際、該検出部13に到達した「第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」を洗浄により、除去する。従って、親溶媒性部材21の検出部13の表面に、非選択的に吸着する、「第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」と「標的物質7」も、該洗浄により除去される。従って、非選択的に吸着する「第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」中の、第2の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」部分の端部に修飾する標識物質6に起因する、バックグラウンドが低減された検出をおこなうことができ、結果として、「標的物質7の検出」の精度が向上する。
また、溶媒中に、「連結体分子」からなる「複合体(ハイブリッド体)11」を所定の濃度、検査対象物(検体試料)を所定の量予め溶解した測定溶液を調製したのち、該測定溶液の所定量の液滴を、親溶媒性部材21の親溶媒性の領域(捕捉部14)の前段部にスポットする。スポット後、液滴は、捕捉部14の表面に浸透して、検出時の液温(TL)において、上記の第1の光異性化処理、第2の光異性化処理、検出部13への到達、該検出部13の表面に固定化される、第2の核酸断片10とのハイブリダイズ反応の一連の操作を行うことができる。従って、検査対象物(検体試料)の取り扱いが容易になり、検査対象物(検体試料)中の標的物質7の有無の検知を簡便におこなうことができる。
第8の実施形態の標的物質の検出方法においては、図10(a)に例示する態様では、「連結体分子」からなる「複合体(ハイブリッド体)11」を利用しており、該「連結体分子」を構成する「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」部分の端部に標識物質6を修飾する態様を好適に採用できる。該「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」部分の端部に標識物質6を修飾することで、下記の「利点」が得られる。該「連結体分子」を構成する「アプタマー1」部分において、標的物質7との結合に不可欠な「立体構造」を形成する「folding」過程、該「立体構造」を解消して、「一本鎖状」に復する「defolding」過程、いずれの過程にも何らの影響を及ぼさない。また、「立体構造を有するアプタマー1」部分に対する、標的物質7の結合過程、あるいは、標的物質7の離脱過程、いずれの過程にも何らの影響を及ぼさない。また、第2の光異性化処理済の「folding型連結体分子」から「第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」を形成するハイブリダイズ反応を阻害しない。「第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」から第1の光異性化処理済の「unfolding型連結体分子」を生成する、熱的な解離過程を阻害しない。第2の光異性化処理済の「folding型連結体分子・標的物質複合体」中の、第2の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」と、第2の核酸断片10とのハイブリダイズ反応を阻害しない。
以上に列挙する、「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」部分の端部に標識物質6を修飾する際に得られる「利点」が損なわれない限り、標識物質6は、「連結体分子」のいずれの部位に修飾されていてもよい。すなわち、前記の「利点」が損なわれない限り、「連結体分子」を構成する、アプタマー1やスペーサ9に標識物質6を修飾してもよい。
第8の実施形態の標的物質の検出方法においては、図10(a)に例示する態様では、「連結体分子」からなる「複合体(ハイブリッド体)11」において、アプタマー1の二本鎖形成部位5と、第2の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」の二本鎖形成部位5とを連結するスペーサ9は、第3の実施形態の標的物質の検出方法において、図4(a)に例示する態様で利用するスペーサ9に相当している。従って、図4(a)に例示する態様で利用するスペーサ9と同様に、図10(a)に例示する態様で利用するスペーサ9を選択し、連結を行うことができる。
第8の実施形態の標的物質の検出方法においては、「連結体分子」からなる「複合体(ハイブリッド体)11」は、各「連結体分子」が独立して溶媒中に溶解し、標的物質7ととも、親溶媒性部材21の捕捉部14の表面に浸透して、捕捉部14の上のスポット位置から、親溶媒性部材21の検出部13に到達できる限り、例えば、第5の実施形態の標的物質の検出方法で使用される、図7(a)に例示される、固定部材4を含む態様、あるいは、第6の実施形態の標的物質の検出方法で使用される、図8(a)、図8(b)に例示される、固定部材4を含む態様を利用することもできる。固定部材4を含む「連結体分子」が独立して溶媒中に「分散」でき、同時に、捕捉部14の表面に浸透できる必要があり、その条件を満たす固定部材4として、溶媒中に分散可能な微小な固定部材、例えば、微小球体や微小ファイバー等の微粒子状の固定部材を利用することができる。
その際、各固定部材4に対して、各「連結体分子」が1分子固定化される形態とする、あるいは、各固定部材4に対して、「連結体分子」が複数分子固定化される場合、常に、固定化されている「連結体分子」の全てが、標的分子7と結合した状態を達成できることが好ましい。
第8の実施形態の標的物質の検出方法において、検査対象物(検体試料)中に標的物質7が含まれていない場合、第1の光異性化処理済の「folding型連結体分子・標的物質複合体」は形成されないため、第2の光異性化処理済の「folding型連結体分子・標的物質複合体」は、親溶媒性部材21の検出部13において、第2の核酸断片10とハイブリダイズして二本鎖結合を形成することもない。
従って、各固定部材4に対して、「連結体分子」が複数分子固定化される場合であっても、検査対象物(検体試料)中に標的物質7が含まれていないか、否かは、第8の実施形態の標的物質の検出方法を適用することで、簡単に検知することができる。
また、第8の実施形態の標的物質の検出方法では、図10(a)に例示する態様では、親溶媒性部材21の検出部13に第2の核酸断片10が固定化される。例えば、図10(e)に例示するように、第2の核酸断片10は、スペーサ9を介して、親溶媒性部材21の検出部13に、化学結合あるいは化学吸着により固定される。その際、第2の核酸断片10の端部には、スペーサ9との連結に利用する官能基を付加する。そのような官能基としては、使用される溶媒やpH条件などによって、スペーサ9との連結が解離しない結合を形成可能なものであれば限定されず、カルボキシル基、アミノ基、チオール基、ジスルフィド基、スクシンイミジル基、マレイミド基、ビオチンなどの一般的なものを用いることができる。これらの官能基は、一般的な核酸合成方法で作製したり、また、それらの核酸に市販のリンカーなどを修飾して形成したものを用いることができる。また、第2の核酸断片10中、スペーサ9との連結部位は、図10(e)に例示するように、第2の核酸断片10の端部を選択することが好ましい。その他、第2の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」の二本鎖形成部位5と、相補的な塩基配列を有する、第2の核酸断片10とのハイブリダイズ反応を妨げない限り、任意の部位に、スペーサ9との連結部位を設けることができる。前記の条件を満たす限り、第2の核酸断片10の端部に代えて、例えば、第2の核酸断片10の中央部にあっても良い。
第2の核酸断片10に連結するスペーサ9の長さは、3Å以上、さらに好ましくは10Å以上であることが好ましい。これにより、親溶媒性部材21と第2の核酸断片10の立体障害などによる、第2の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」の二本鎖形成部位5と、第2の核酸断片10と二本鎖結合の形成効率の低下を抑制することができる。さらに、スペーサ9の長さが過度に長いと、標識物質6と検出器の距離が過度に離れて、標識物質6を利用する、「開裂」状態の検出感度が下がることがある。そのため、スペーサ9の長さは、200Å以下の範囲に選択することが好ましい。さらに好ましくは、スペーサ9の長さは、10Å以上50Å以下の範囲に選択する。
第2の核酸断片10に連結するスペーサ9は、アプタマー1および第1の核酸断片2と結合を形成しないものであれば特に限定されず、相補的な塩基配列でない核酸や、糖鎖、ポリペプチド、炭化水素鎖やオリゴエチレングリコールなどの一般的なリンカーを用いることができる。
また、第8の実施形態の標的物質の検出方法では、図10(d)、図10(e)に例示する態様のように、第2の光異性化処理済の「folding型連結体分子・標的物質複合体」の全量を、第2の核酸断片10とハイブリダイズさせ、親溶媒性部材21の検出部13の表面に固定化することが好ましい。例えば、図10(a)〜図10(e)に例示する態様のように、スポットする液滴中に含有される、「連結体分子」からなる「複合体(ハイブリッド体)11」の全量が、第2の光異性化処理済の「folding型連結体分子・標的物質複合体」となる際にも、その全量を第2の核酸断片10とハイブリダイズさせ、親溶媒性部材21の検出部13の表面に固定化することが好ましい。その場合、親溶媒性部材21の検出部13の表面に固定化する、第2の核酸断片10の総分子数は、スポットする液滴中に含有される、「連結体分子」からなる「複合体(ハイブリッド体)11」の総分子数以上に選択することが好ましい。
一般に、スポットする液滴中に含有される、「連結体分子」からなる「複合体(ハイブリッド体)11」の総分子数は、スポットする液滴中に含有される、標的物質7の総分子数以上の範囲に選択することが好ましい。
通常、親溶媒性部材21の検出部13の表面に固定化する、第2の核酸断片10の総分子数を定め、それに対して、スポットする液滴中に含有される、「連結体分子」からなる「複合体(ハイブリッド体)11」の総分子数を、前記の条件を満たす範囲に選択した上で、該液滴中に含有される標的物質7の総分子数が、「連結体分子」からなる「複合体(ハイブリッド体)11」の総分子数を超えない範囲となるように、検査対象物(検体試料)の添加量を調節する。検査対象物(検体試料)中に含有される標的物質7の濃度範囲、特に、上限が判明している場合、その濃度上限の場合であっても、前記の条件を満たす範囲に、検査対象物(検体試料)の添加量を調節する。
検査対象物(検体試料)中に含有される標的物質7の濃度範囲が全く不明である場合には、検査対象物(検体試料)の希釈率が、例えば、100倍希釈、50倍希釈、10倍希釈、5倍希釈など複数の希釈レベルの二次試料を調製し、前記の条件を満たす範囲に、二次試料の添加量を調節する。
第8の実施形態の標的物質の検出方法では、図10(a)に例示する態様では、親溶媒性部材21に、捕捉部14と検出部13を設けている。利用する親溶媒性部材21は、図10(a)に例示するように、「連結体分子」からなる「複合体(ハイブリッド体)11」と標的物質7を溶媒中に溶解した測定溶液の液滴を、捕捉部14の前段部の表面にスポットした際、該液滴に含まれる溶媒に対して、親溶媒性の表面を有している。通常、溶媒に対して、親溶媒性の表面は、当該表面において、対象の溶媒との接触角が90度未満である状態であることを意味する。その際、当該表面を構成する材質自体、対象の溶媒との接触角が90度未満であることが好ましい。当該表面を構成する材質自体、対象の溶媒との接触角が90度未満である場合には、親溶媒性部材21の内部構造を多孔性とすると、毛細管現象により、スポットした液滴は、親溶媒性部材21の多孔性の表面への浸透が速やかに進行する。また、検出部においても、多孔性の表面は、見かけの表面積に対して、微視的な実際の表面積は格段に広いため、該多孔性の表面に固定化される、第2の核酸断片10の面密度を格段に増すことができる。換言すると、検出部13に固定化されている、第2の核酸断片10の総分子数が格段に増すので、スポットする液滴中に含有させる、「連結体分子」からなる「複合体(ハイブリッド体)11」の総分子数を相対的に増すことが可能である。換言すると、スポットする液滴中に含有させる、「連結体分子」からなる「複合体(ハイブリッド体)11」の濃度を相対的に増すことが可能であり、一般的に、検出の精度を向上させる効果が得られる。また、検出部13に固定化される、第2の核酸断片10の面密度を増すと、一般に、固定化される標識物質6の面密度も相対的に増すため、標識物質6の検出時、S/N比の向上の効果が得られる。
測定溶液は、水性溶媒を使用する溶液であり、その溶媒の水に対して、親溶媒性の多孔性の材料として、例えば、ガラス繊維、ニトロセルロース、セルロース、合成繊維、不織布等による多孔性フィルターなどが挙げられる。
親溶媒性部材21に設ける捕捉部14は、スボットした液滴が、該親溶媒性の表面に浸透して、検出部13に達する、「流路」として機能する。従って、この「流路」として機能する、限定された幅の領域は、親溶媒性の表面を有し、それ以外の領域は、非親溶媒性の表面を有する構成を採用できる。例えば、非親溶媒性の材質からなる基材の表面に、「流路」として機能する、限定された幅の溝形状の領域を形成し、該限定された幅の溝形状の領域の内部を、親溶媒性の多孔性の材料を利用して、親溶媒性の多孔性の表面を形成し、捕捉部14として利用することもできる。検出部13は、該「流路」として機能する、限定された幅の溝形状の領域の末端に、親溶媒性の多孔性の表面を有する「液溜り」の形状に形成することもできる。
第8の実施形態の標的物質の検出方法では、図10(a)に例示する態様では、親溶媒性部材21の検出部13の表面にのみ、第2の核酸断片10をスペーサ9を介して固定化している。第2の核酸断片10に連結されたスペーサ9を、検出部13の親溶媒性表面に、化学結合または化学吸着により固定する手法として、第3の実施形態の標的物質の検出方法〜第7の実施形態の標的物質の検出方法において、スペーサ9を、固定部材4の表面に、化学結合または化学吸着により固定する際に利用する手法が利用できる。例えば、検出部13の親溶媒性表面にのみ、スペーサ9の固定化に利用する官能基を導入し、該官能基を使用して、スペーサ9を固定化する。その際、検出部13の親溶媒性表面を除き、親溶媒性部材21の他の領域の表面にマスキングを施し、検出部13の親溶媒性表面のみに官能基を導入する手法が利用できる。あるいは、親溶媒性部材21の親溶媒性表面に官能基を導入した上で、スペーサ9を連結した第2の核酸断片10を含む反応液を検出部13の領域にのみスポッティングし、該スポッティング領域のみで、スペーサ9を固定化する反応を行う手法も利用できる。
図10(b)に例示する態様では、「連結体分子」からなる「複合体(ハイブリッド体)11」と標的物質7を溶媒中に溶解した測定溶液を予め調製し、測定溶液の液滴を親溶媒性部材21の捕捉部14の前段部にスポットする形態を採用している。
「連結体分子」からなる「複合体(ハイブリッド体)11」と標的物質7を溶媒中に溶解した測定溶液を予め調製し、測定溶液の液滴をスポットする操作に代えて、下記の操作を採用することもできる。
まず、所定量の「連結体分子」からなる「複合体(ハイブリッド体)11」を親溶媒性の部材中に予め含ませ、乾燥処理を施した「複合体保持部」を別途に作製する。溶媒中に所定量の検査対象物(検体試料)を溶解した、検査対象物(検体試料)の希釈溶液を調製する。検査対象物(検体試料)の希釈溶液の液滴を、「複合体保持部」の表面にスポットする。該検査対象物(検体試料)の希釈溶液が、「複合体保持部」に浸透する過程で、「複合体保持部」中に予め含ませてある、「連結体分子」からなる「複合体(ハイブリッド体)11」は、溶媒中に溶出する。最終的に、「複合体保持部」を浸透する溶液は、「連結体分子」からなる「複合体(ハイブリッド体)11」と標的物質7を溶媒中に溶解した測定溶液となる。
親溶媒性部材21の捕捉部14の前段部の表面に、前記「複合体保持部」を積層しておく。その場合、前記「複合体保持部」を浸透した溶液は、下層に位置する、親溶媒性部材21の捕捉部14の前段部の表面へと浸透していく。その結果、親溶媒性部材21の捕捉部14の前段部の表面に、「連結体分子」からなる「複合体(ハイブリッド体)11」と標的物質7を溶媒中に溶解した測定溶液が浸透した状態が達成される。
さらに、前記「複合体保持部」の表面にスポットする、検査対象物(検体試料)の希釈溶液の液滴が、前記「複合体保持部」の表面全体に均一に浸透する状態を達成させるため、前記検査対象物(検体試料)の希釈溶液を多量に吸収することができる「試料導入部」を、「複合体保持部」の表面上に積層する形態としてもよい。検査対象物(検体試料)の希釈溶液の液滴を、「試料導入部」上にスポットすると、液滴は、一旦「試料導入部」に吸収され、その後、「複合体保持部」の表面全体に均一に浸透を開始する。
「複合体保持部」、さらには、「試料導入部」を利用することで、「連結体分子」からなる「複合体(ハイブリッド体)11」と標的物質7を溶媒中に溶解した測定溶液を予め調製する操作と、測定溶液の液滴を親溶媒性部材21の捕捉部14の前段部にスポットする操作と実質的に同じ操作を、より簡便に行うことができる。
図10(a)に例示する態様では、親溶媒性部材21上、捕捉部14として機能する領域に引き続き、検出部13として使用する領域を設け、捕捉部14を浸透してきた測定溶液は、引き続き、検出部13へと浸透していく形態を採用している。従って、捕捉部14を浸透してきた測定溶液が、引き続き、検出部13へと浸透していく限り、捕捉部14として機能する領域と、検出部13として使用する領域とを別途に作製し、その後、二つの領域を連結する形態を採用することも可能である。その際、図10(a)に例示する形態と同様に、捕捉部14として機能する領域と、検出部13として使用する領域が、その端面で接する配置で連結する構成を採用でき、場合によっては、捕捉部14として機能する領域の末端部に、検出部13として使用する領域を積層する構成を採用することも可能である。
図10(b)、図10(c)に例示する態様では、「連結体分子」からなる「複合体(ハイブリッド体)11」と標的物質7を溶媒中に溶解した測定溶液を予め調製し、測定溶液の液滴を親溶媒性部材21の捕捉部14の前段部にスポットした後、検出時の液温(TL)において、親溶媒性部材21の捕捉部14の表面に浸透する測定溶液に第1の光異性化処理を施す形態を採用している。先に説明したように、第1の光異性化処理を施した後、検出時の液温(TL)に昇温する形態を採用することができる。
従って、「連結体分子」からなる「第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)11」と標的物質7を溶媒中に溶解した測定溶液を予め調製し、該測定溶液の液滴を親溶媒性部材21の捕捉部14の前段部にスポットした後、検出時の液温(TL)に昇温する形態を採用することもできる。
第8の実施形態の標的物質の検出方法では、図10(c)、図10(d)に例示するように、第2の光異性化処理を実施する前に、第1の光異性化処理済の「folding型連結体分子・標的物質複合体」の形成が完了している必要がある。「連結体分子」からなる「第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)11」と標的物質7を溶媒中に溶解した測定溶液を予め調製し、該測定溶液の液滴を親溶媒性部材21の捕捉部14の前段部にスポットした後、検出時の液温(TL)に昇温する形態を採用することで、第1の光異性化処理済の「folding型連結体分子・標的物質複合体」の形成をより確実に完了させることができる。さらには、親溶媒性部材21の捕捉部14の表面に浸透する測定溶液に対しては、第2の光異性化処理のみを実施する形態となり、当該部分の装置構成において、第1の光異性化処理後、第2の光異性化処理を実施するまでの「時間調整」の煩雑さがなくなる。
その際、図10(c)に例示するように、標的物質7の全てが、第1の光異性化処理済の「folding型連結体分子・標的物質複合体」を形成する状態とするため、余剰の第1の光異性化処理済の「folding型連結体分子」が、第1の光異性化処理済の「folding型連結体分子・標的物質複合体」とともに、親溶媒性部材21の捕捉部14の表面に浸透する必要がある。
また、第8の実施形態の標的物質の検出方法では、検査対象物(検体試料)中に標的物質7が含有されていない場合、第2の光異性化処理を施した後、検出部13に到達するまでの間に、当初の測定溶液中に含まれていた「連結体分子」からなる「複合体(ハイブリッド体)11」の全てが、「連結体分子」からなる「第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)11」の再形成が完了している必要がある。前記の必要条件を満たす限り、当初の測定溶液中に含有される、「連結体分子」からなる「複合体(ハイブリッド体)11」は、「連結体分子」からなる「第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)11」に代えて、「連結体分子」からなる「第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」、第1の光異性化処理済の「folding型連結体分子」または第1の光異性化処理済の「unfolding型連結体分子」を使用することも可能である。
また、「連結体分子」からなる「複合体(ハイブリッド体)11」を調製する工程でも、「連結体分子」からなる「第2の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)11」に代えて、「連結体分子」からなる「第1の光異性化処理済の複合体(ハイブリッド体)」、第1の光異性化処理済の「folding型連結体分子」または第1の光異性化処理済の「unfolding型連結体分子」を調製する形態を選択することもできる。
第8の実施形態の標的物質の検出方法において、標的物質の検査キットは、検出部13および捕捉部14を有する親溶媒性部材21と、「連結体分子」からなる「複合体(ハイブリッド体)11」と、第2の核酸断片10を有する。第2の核酸断片10は、親溶媒性部材21の検出部13に、スペーサ9を介して、化学結合または化学吸着により固定されている。標的物質の検査キットを用いることで、第8の実施形態の標的物質の検出方法に基づき、検査対象物(検体試料)中に標的物質7が含まれていないか、否かを、容易に、精度良く検査することが可能となる。
また、上記検査キットで利用する、親溶媒性部材21の検出部13が、第2の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」と第2の核酸断片10のハイブリダイズを、「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」の端部に修飾されている標識物質6を利用して検出する検出素子であるものは、標的物質検査用のセンサチップとして使用することができる。
第8の実施形態の標的物質の検出方法の実施に利用される、第8の実施形態の標的物質検出装置は、前記検査キット、およびセンサチップと検査対象物を含有する測定溶液を接触させる接触手段と、前記検査キット中に含まれる、「連結体分子」からなる「複合体(ハイブリッド体)11」中の光異性化分子に第2の光異性化処理を施すための光源と、「連結体分子」からなる「複合体(ハイブリッド体)11」中の二本鎖結合の開裂を検出する検出部と、を具える。言い換えると、「連結体分子」からなる「複合体(ハイブリッド体)11」中の二本鎖結合の開裂を検出する検出部は、検出部13に固定化される第2の核酸断片10と、第2の光異性化処理済の「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」とのハイブリダイズによって生じる、物理的、化学的変化を、「光異性化分子3が結合されている第1の核酸断片2」の端部に修飾されている標識物質6を利用して検出する。また、第8の実施形態の標的物質検出装置は、必要に応じて、「連結体分子」からなる「複合体(ハイブリッド体)11」中の光異性化分子に第2の光異性化処理を施すための光源を具えていても良い。
以上、実施形態(及び実施例)を参照して本願発明を説明したが、本願発明は上記実施形態(及び実施例)に限定されものではない。本願発明の構成や詳細には、本願発明のスコープ内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。
この出願は、2012年3 月28日に出願された日本出願特願2012−73255を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。