以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態を詳細に説明する。図1に示す車両の駆動系は、車両の動力源としての内燃機関(以下「エンジン」という)3と、このエンジン3の駆動力を車両の左右の駆動輪DW(右駆動輪のみ図示)に伝達するための動力伝達装置Tを備えている。エンジン3は、ガソリンエンジンであり、駆動力を出力するためのクランク軸3aを有している。また、動力伝達装置Tは、トルクコンバータ4、前後進切換機構5及び無段変速機6を有している。
トルクコンバータ4は、ポンプインペラ4a、タービンランナ4b及びロックアップクラッチ(以下「LUクラッチ」という)4cなどで構成されている。ポンプインペラ4aはクランク軸3aに、タービンランナ4bは後述する入力軸14に、それぞれ連結されており、両者4a、4bの間には、作動油が充填されている。エンジン3の駆動力(以下「エンジン駆動力」という)は、基本的には、ポンプインペラ4a、作動油及びタービンランナ4bを介して、入力軸14に伝達される。
LUクラッチ4cは油圧式のものであり、LUクラッチ4cには、第1LU油室4d及び第2LU油室4eが設けられている(図2参照)。LUクラッチ4cは、油圧が第1LU油室4dに供給されるとともに、第2LU油室4eから油圧(作動油)が排出されることによって、締結状態になり、これとは逆に、油圧が第2LU油室4eに供給されるとともに、第1LU油室4dから作動油が排出されることによって、解放状態になる。このLUクラッチ4cの締結によって、エンジン3のクランク軸3aと入力軸14の間が直結状態になる。また、LUクラッチ4cの締結度合は、第1又は第2LU油室4d、4eに供給される油圧(作動油の量)に応じて、変化する。
前後進切換機構5は、遊星歯車装置11、前進クラッチ12及び後進ブレーキ13を有している。遊星歯車装置11は、シングルピニオン型のものであり、サンギヤ11aと、リングギヤ11bと、両ギヤ11a、11bに噛み合う複数のプラネタリギヤ11c(2つのみ図示)と、これらのプラネタリギヤ11cを回転可能に支持するキャリア11dで構成されている。サンギヤ11aは、入力軸14に一体に設けられている。
前進クラッチ12は、油圧式のものであり、そのインナが、入力軸14に一体に取り付けられており、前進クラッチ12のアウタは、リングギヤ11b及び主軸21に一体に取り付けられている。この主軸21は、中空状に形成されており、その内側には、入力軸14が回転可能に配置されている。前進クラッチ12の締結によって、入力軸14が主軸21に直結され、前進クラッチ12の解放によって、入力軸14と主軸21の間の差回転が許容される。また、後進ブレーキ13は、油圧式のクラッチなどで構成され、キャリア11dに取り付けられており、締結状態にあるときにキャリア11dを回転不能に保持し、解放状態にあるときにキャリア11dの回転を許容する。
また、前進クラッチ12は、FWD油室12aを有しており(図2参照)、FWD油室12aへの油圧の供給によって、締結状態になり、当該油圧の供給の停止によって、解放状態になる。後進ブレーキ13は、RVS油室13aを有しており(図2参照)、RVS油室13aへの油圧の供給によって、締結状態になり、当該油圧の供給の停止によって、解放状態になる。前進クラッチ12及び後進ブレーキ13の締結度合はそれぞれ、FWD油室12a及びRVS油室13aに供給される油圧(作動油の量)に応じて、変化する。
以上の構成の前後進切換機構5では、車両の前進時には、前進クラッチ12が締結されるとともに、後進ブレーキ13が解放される。これにより、主軸21が、入力軸14と同方向に同じ回転数で回転する。一方、車両の後進時には、前進クラッチ12が解放されるとともに、後進ブレーキ13が締結される。これにより、主軸21が、入力軸14と反対方向に回転する。
無段変速機6は、ベルト式のものであり、上記主軸21、駆動プーリ22、従動プーリ23、伝達ベルト24及び副軸25を備えている。駆動プーリ22は、互いに対向する可動部22a及び固定部22bを有している。可動部22aは、主軸21に、その軸線方向に移動可能でかつ相対的に回転不能に取り付けられており、固定部22bは、主軸21に固定されている。両者22a、22bの間には、伝達ベルト24を巻き掛けるためのV字状のベルト溝が形成されている。また、可動部22aには、DR油室22cが設けられており(図2参照)、このDR油室22cに油圧が供給されることにより、可動部22aが軸線方向に移動することによって、駆動プーリ22のプーリ幅が変更され、その有効径が変化する。
従動プーリ23は、上記駆動プーリ22と同様に構成されており、その可動部23aが、副軸25に、その軸線方向に移動可能にかつ回転不能に取り付けられており、固定部23bが、副軸25に固定されている。両者23a、23bの間には、V字状のベルト溝が形成されている。また、可動部23aには、DN油室23c(図2参照)と、リターンスプリング23dが設けられている。このDN油室23cに油圧が供給されることにより、可動部23aが軸線方向に移動することによって、従動プーリ23のプーリ幅が変更され、その有効径が変化する。さらに、リターンスプリング23dは、可動部23aを、固定部23b側に付勢している。伝達ベルト24は、両プーリ22,23のベルト溝に嵌った状態で両プーリ22,23に巻き掛けられている。
以上のように、無段変速機6では、駆動プーリ22のDR油室22c及び従動プーリ23のDN油室23cへの油圧の供給によって、両プーリ22、23の有効径が無段階に変更され、それにより、その変速比が無段階に制御される。この変速比は、駆動プーリ22の回転数と従動プーリ23の回転数との比である。
また、副軸25には、ギヤ25aが固定されており、このギヤ25aは、アイドラ軸ISに一体に設けられた大小のアイドラギヤIG1、IG2を介して、差動ギヤ機構DFのギヤGに噛み合っている。差動ギヤ機構DFは、左右の駆動輪DWに連結されている。
以上の構成の駆動系では、エンジン駆動力は、トルクコンバータ4や、前後進切換機構5、無段変速機6、差動ギヤ機構DFを介して、左右の駆動輪DWに伝達される。その際、前後進切換機構5により、伝達される駆動力の回転方向が正転方向と逆転方向の間で切り換えられることによって、車両の前進・後進が行われる。また、エンジン駆動力は、無段変速機6により無段階に変速された状態で、駆動輪DWに伝達される。
次に、図2を参照しながら、前述したLUクラッチ4cの第1及び第2LU油室4d、4e、前進クラッチ12のFWD油室12a、後進ブレーキ13のRVS油室13a、並びに、無段変速機6のDR油室22c及びDN油室23cに作動用の油圧を供給する油圧供給装置について説明する。以下、LUクラッチ4c、前進クラッチ12、後進ブレーキ13及び無段変速機6を総称して適宜、「油圧供給対象」という。
油圧供給装置は、油圧ポンプ31と、第1及び第2LU油室4d、4eに油圧を供給するためのLU油圧ラインLULと、FWD油室12a及びRVS油室13aに油圧を供給するためのクラッチ油圧ラインCLLと、DR油室22c及びDN油室23cに油圧を供給するためのプーリ油圧ラインPULを備えている。
油圧ポンプ31は、エンジン3を駆動源とするギヤポンプであり、クランク軸3aに連結されている。油圧ポンプ31は、PH調圧弁(PH REG VLV)32に油路を介して接続されており、リザーバRに貯留された作動油を、PH調圧弁32に圧送する。PH調圧弁32は、機械式のスプール弁で構成されており、油圧ポンプ31の運転中、油圧ポンプ31からの油圧を調整した状態で、上記のLU油圧ラインLUL、クラッチ油圧ラインCLL及びプーリ油圧ラインPULに供給する。
LU油圧ラインLULは、PH調圧弁32に油路を介して接続されたTC調圧弁(TC REG VLV)33と、TC調圧弁33に油路を介して接続されたLU制御弁(LU CTL VLV)34と、LU制御弁34、LUクラッチ4cの第1及び第2LU油室4d、4eに油路を介して接続されたLU切換弁(LU SFT VLV)35などで構成されている。これらのTC調圧弁33、LU制御弁34及びLU切換弁35は、スプール弁で構成されている。油圧ポンプ31の運転中、PH調圧弁32からの油圧は、TC調圧弁33、LU制御弁34及びLU切換弁35などを介して、LUクラッチ4cの第1又は第2LU油室4d、4eに供給される。
また、LU制御弁34には、後述する減圧弁(CR VLV)42からの油圧が、第1電磁弁(LS-LCC)SV1により調圧した状態で供給される。これにより、LU制御弁34が駆動されることによって、第1又は第2LU油室4d、4eに供給される油圧(作動油の量)が変化し、ひいては、LUクラッチ4cの締結度合が変更される。このように、第1電磁弁SV1の開度を変化させることによって、LUクラッチ4cの締結度合が変更される。第1電磁弁SV1の開度は、後述するECU2により制御される(図3参照)。
また、LU切換弁35には、第2電磁弁(SOL-A )SV2が接続されている。第2電磁弁SV2の励磁・非励磁によってLU切換弁35が駆動され、それにより、LU制御弁34からの油圧の供給先が、第1又は第2LU油室4d、4eに切り換えられる。これにより、前述したように油圧が第1LU油室4dに供給されるとともに、第2LU油室4eから作動油が排出されることによって、締結状態になり、これとは逆に、油圧が第2LU油室4eに供給されるとともに、第1LU油室4dから作動油が排出されることによって、解放状態になる。第2電磁弁SV2の励磁・非励磁は、ECU2により制御される(図3参照)。
前記クラッチ油圧ラインCLLは、分岐油路41、減圧弁42、CLメイン油路43、第3電磁弁(LS-CPC)SV3及びマニュアル弁(MAN VLV )44などで構成されている。分岐油路41の一端部は、後述するPUメイン油路51に接続され、他端部は減圧弁42に接続されている。PUメイン油路51はPH調圧弁32に接続されており、油圧ポンプ31の運転中、PH調圧弁32からの油圧は、PUメイン油路51及び分岐油路41を介して、減圧弁42に供給される。
減圧弁42は、機械式のスプール弁で構成されており、CLメイン油路43を介して、マニュアル弁44に接続されており、CLメイン油路43の途中に、これを開閉するための第3電磁弁SV3が設けられている。油圧ポンプ31の運転中、PH調圧弁32から減圧弁42に供給された油圧は、減圧弁42により減圧され、さらに第3電磁弁SV3により調圧された状態で、CLメイン油路43を介して、マニュアル弁44に供給される。
マニュアル弁44は、スプール弁で構成され、FWD油室12a及びRVS油室13aに、油路を介して接続されている。また、マニュアル弁44は、第3電磁弁SV3からの油圧の供給先として、車両の運転者に操作されるシフトレバー(図示せず)のシフト位置がドライブ位置、スポーツ位置又はロー位置にあるときには、FWD油室12aを選択し、リバース位置にあるときには、RVS油室13aを選択する。これにより、前述した前後進切換機構5による駆動力の回転方向の切換が行われる。この場合、第3電磁弁SV3の開度を変化させることにより、FWD油室12a又はRVS油室13aに供給される油圧を調整することによって、前進クラッチ12又は後進ブレーキ13の締結度合が変更される。第3電磁弁SV3の開度は、ECU2により制御される(図3参照)。
前記プーリ油圧ラインPULは、PUメイン油路51、DR調圧弁(DR REG VLV)52及びDN調圧弁(DN REG VLV)53などで構成されている。PUメイン油路51は、その一端部がPH調圧弁32に接続されており、その途中の分岐部51cで、第1PUメイン油路51aと、第2PUメイン油路51bとに二股に分岐している。また、DR調圧弁52及びDN調圧弁53は、いずれもスプール弁で構成されており、第1及び第2PUメイン油路51a、51bの途中にそれぞれ設けられている。前述したクラッチ油圧ラインCLLの分岐通路41は、PUメイン油路51の分岐部51cよりもPH調圧弁32側の部分から、分岐している。油圧ポンプ31の運転中、PH調圧弁32からの油圧は、PUメイン油路51、第1及び第2PUメイン油路51a、51b、並びにDR調圧弁52及びDN調圧弁53を介して、DR油室22c及びDN油室23cにそれぞれ供給される。
また、DR調圧弁52には、減圧弁42からの油圧が、第4電磁弁(LS-DR )SV4により調圧した状態で供給される。これにより、DR調圧弁52が駆動されることによって、DR油室22cに供給される油圧(作動油の量)が変化し、ひいては、駆動プーリ22の有効径が変更される。このように、第4電磁弁SV4の開度を変化させることによって、駆動プーリ22の有効径が変更される。第4電磁弁SV4の開度は、ECU2により制御される(図3参照)。
DN調圧弁53には、減圧弁42からの油圧が、第5電磁弁(LS-DN )SV5により調圧した状態で供給される。これにより、DN調圧弁53が駆動されることによって、DN油室23cに供給される油圧(作動油の量)が変化し、ひいては、従動プーリ23の有効径が変更される。このように、第5電磁弁SV5の開度を変化させることによって、従動プーリ23の有効径が変更される。第5電磁弁SV5の開度は、ECU2により制御される(図3参照)。
また、第2PUメイン油路51bのDN調圧弁53よりも下流側の部分には、油圧センサ71が、油路を介して接続されている。油圧センサ71は、後述する電源2aからの電力の供給により作動する歪みゲージ式のものであり、第2PUメイン油路51bのDN調圧弁53よりも下流側の部分の油圧(以下「PU油圧」という)を検出し、その検出信号をECU2に出力する。以下、油圧センサ71で検出されたPU油圧を「検出PU油圧POD」という。
さらに、油圧供給装置には、第3電磁弁SV3の故障時に前進クラッチ12及び後進ブレーキ13への油圧の供給を確保するためのバックアップ弁(B/U VLV )BVが設けられている。このバックアップ弁BVは、前述したCLメイン油路43の第3電磁弁SV3よりもマニュアル弁44側の部分に設けられており、CLメイン油路43と並列に設けられた油路OLを介して、減圧弁42に接続されている。油路OLは、CLメイン油路43における減圧弁42よりも下流側で、かつ第3電磁弁SV3よりも上流側の部分に接続されている。また、バックアップ弁BVは、油路を介して、LU切換弁35及びDR調圧弁52に接続されている。
第3電磁弁SV3の故障時、バックアップ弁BVには、減圧弁42からの油圧が、前述した第4電磁弁SV4により比較的高圧に調整された状態で供給される。これにより、バックアップ弁BVが駆動されることによって、減圧弁42から上記の油路OLを介してバックアップ弁BVに供給された油圧が、各種の要素に次のようにして供給される。すなわち、バックアップ弁BVに供給された油圧の一部は、CLメイン油路43のバックアップ弁BVよりも下流側の部分及びマニュアル弁44を介して、FWD油室12a又はRVS油室13aに供給され、それにより前進クラッチ12又は後進ブレーキ13が締結される。また、バックアップ弁BVに供給された油圧の残りは、その一部がLU切換弁35に供給されるとともに、その残りがDR調圧弁52を介してDR油室22cに供給される。これにより、LUクラッチ4cが解放状態に制御されるとともに、駆動プーリ22の有効径が固定される。
なお、これまでの説明から明らかなように、第4電磁弁SV4は、DR調圧弁52及びバックアップ弁BVの駆動用の電磁弁として兼用されているので、第3電磁弁SV3の正常時、第4電磁弁SV4からの油圧は、DR調圧弁52及びバックアップ弁BVの双方に供給される。バックアップ弁BVには、リターンスプリング(図示せず)が設けられており、バックアップ弁BVは、このリターンスプリングの付勢力によって、第3電磁弁SV3の正常時に供給される低い油圧によっては駆動されず、故障時に供給されるより高い油圧によってのみ駆動される。これにより、第3電磁弁SV3の正常時には、上述した故障時における動作が行われることはない。
また、油圧供給装置には、蓄圧装置61が設けられている。図4に示すように、蓄圧装置61は、サブライン62、メインアキュムレータ63、遮断弁64、及びサブアキュムレータ65を備えている。サブライン62の一端部は、上述したCLメイン油路43における減圧弁42よりも下流側で、かつ油路OLとの接続部分よりも上流側の部分に接続されており、他端部は、メインアキュムレータ63に接続されている。
メインアキュムレータ63は、シリンダ63aと、シリンダ63a内に摺動可能に設けられたピストン63bと、圧縮コイルばねで構成されたスプリング63cを有している。シリンダ63aとピストン63bの間には、蓄圧室63dが画成されており、ピストン63bは、スプリング63cによって、蓄圧室63d側に付勢されている。上述したサブライン62は、蓄圧室63dに連通している。以上のように、蓄圧室63dは、前述した前進クラッチ12などの油圧供給対象及び油圧ポンプ31に連通している。スプリング63cの付勢力(ばね定数)は、蓄圧室63dに蓄積される油圧が例えば0.3〜0.5MPaになるように、設定されている。
遮断弁64は、強制的に開弁される開弁モードと、逆止弁として機能する逆止弁モードとに選択的に制御可能な電磁弁で構成されており、サブライン62の途中に設けられている。具体的には、遮断弁64は、図4に示す開弁位置と、後述する図6に示す閉弁位置との間で移動可能な弁体64aと、弁体64aを閉弁位置に保持するように付勢する復帰ばね64bと、弁体64aを駆動するためのソレノイド64cなどで構成されている。ソレノイド64cは、プランジャ64dを有しており、ECU2に接続されている(図3参照)。遮断弁64を開弁モードで制御する場合には、ECU2からソレノイド64cに、駆動信号ASOが入力される。この開弁モード中、プランジャ64dが、復帰ばね64bの付勢力に抗して弁体64aを押圧することにより、弁体64aが開弁位置に保持される。すなわち、開弁モード中、遮断弁64が強制的に開弁状態に保持される。
一方、遮断弁64を逆止弁モードで制御する場合には、ECU2からソレノイド64cへの駆動信号ASOの入力が停止される。逆止弁モード中、プランジャ64dが弁体64aから離れた状態に保持され、それにより、遮断弁64は逆止弁として機能する。また、逆止弁モード中、サブライン62における遮断弁64よりもメインアキュムレータ63側の部分の油圧が、遮断弁64よりもCLメイン油路43側の部分の油圧よりも低いときには、当該油圧の作用によって、弁体64aが、復帰ばね64bの付勢力に抗して自動的に開弁位置に移動し、それにより、CLメイン油路43側の部分からメインアキュムレータ63側の部分への作動油の流入が許容される。
さらに、逆止弁モード中、上記とは逆に、サブライン62における遮断弁64よりもメインアキュムレータ63側の部分の油圧が、遮断弁64よりもCLメイン油路43側の部分の油圧よりも高いときには、当該油圧の作用と復帰ばね64bによる付勢とによって、弁体64aが自動的に閉弁位置に移動し、それにより、メインアキュムレータ63側の部分からCLメイン油路43側の部分への作動油の流入が阻止される。
サブアキュムレータ65は、メインアキュムレータ63よりも小型のものであり、シリンダ65aと、シリンダ65a内に摺動可能に設けられたピストン65bと、圧縮コイルばねで構成されたスプリング65cを有している。シリンダ65a内は、ピストン65bによって、蓄圧室65dと背面室65eに分割されている。また、ピストン65bの背面室65e側の部分には、凹部65fが形成されており、この凹部65fの内側の空間は、上記の背面室65eの一部を構成している。スプリング65cは、背面室65eに設けられており、その一部が凹部65fに収容されている。ピストン65bは、スプリング65cにより、後述する弁体65hを介して蓄圧室65d側に付勢されている。スプリング65cの付勢力(ばね定数)の設定については、後述する。また、スプリング65cの縮み量の最大値は、ピストン65bのストロークよりも大きい。
さらに、ピストン65bの蓄圧室65d側の部分には、蓄圧室65dと背面室65eが互いに連通するように、断面円形の連通孔65gが形成されている。また、ピストン65bとスプリング65cの間には、連通孔65gを開閉するための弁体65hが設けられている。弁体65hは、球状に形成されるとともに、連通孔65gよりも大きな径を有しており、凹部65fに収容されている。弁体65h、連通孔65g及びスプリング65cは、同心状に設けられている。
また、弁体65hは、図4に示す閉鎖位置と、後述する図7に示す開放位置との間で移動可能であり、スプリング65cによって閉鎖位置に保持されるように付勢されている。弁体65hは、閉鎖位置に位置しているときには、連通孔65gの背面室65e側の縁部に当接し、それにより連通孔65gを閉鎖する一方、開放位置に位置しているときには、連通孔65gの背面室65e側の縁部から離れ、それにより連通孔65gを開放する。連通孔65gの背面室65e側の縁部には、弾性体で構成された、リング状のバルブシート(図示せず)が同心状に設けられている。
また、サブアキュムレータ65は、第1油路66及び第2油路67を介して遮断弁64をバイパスするように、サブライン62に接続されている。これにより、サブアキュムレータ65の背面室65eは、第1油路66を介してサブライン62に連通しており、蓄圧室65dは、第2油路67を介してサブライン62に連通している。以上のように、蓄圧室65dは、遮断弁64を介して、油圧供給対象(前進クラッチ12など)及び油圧ポンプ31に連通しており、背面室65eは、遮断弁64を介さずに、油圧供給対象及び油圧ポンプ31に連通している。このため、油圧ポンプ31の運転中、ピストン65bの背面室65e側の端面には、サブライン62及び第1油路66を介して、CLメイン油路43からの油圧が背圧として作用する。また、蓄圧室65dは、第2油路67及びサブライン62を介して、遮断弁64を介さずに、メインアキュムレータ63の蓄圧室63dに連通している。
なお、蓄圧室65dを第1アキュムレータ63の蓄圧室63dに、第2油路67及びサブライン62を介して連通させているが、第2油路67のみを介して連通させてもよい。また、背面室65eをCLメイン油路43に、第1油路66及びサブライン62を介して連通させているが、第1油路66のみを介して連通させてもよい。
また、図3に示すように、ECU2には、エンジン回転数センサ72からエンジン3の回転数(以下「エンジン回転数」という)NEを表す検出信号が、出力される。さらに、ECU2には、アクセル開度センサ73から、車両のアクセルペダル(図示せず)の操作量(以下「アクセル開度」という)APを表す検出信号が、車速センサ74から車両の車速VPを表す検出信号が、出力される。
また、ECU2には、車両のイグニッションスイッチ(以下「IG・SW」という)75及びブレーキスイッチ(以下「BR・SW」という)76が接続されている。IG・SW75は、運転者によるイグニッションキー(図示せず)の操作によってON/OFFされ、そのON/OFF信号をECU2に出力する。この場合、エンジン3の停止中にIG・SW75がオンされると、それによりスタータ(図示せず)が作動することなどによって、エンジン3が始動される。また、エンジン3の運転中にIG・SW75がオフされると、それによりエンジン3が停止(手動停止)される。また、BR・SW76は、車両のブレーキペダル(図示せず)が踏み込まれているときにはON信号を、踏み込まれていないときにはOFF信号を、ECU2に出力する。
ECU2は、I/Oインターフェース、CPU、RAM及びROMなどから成るマイクロコンピュータで構成されている。CPUは、上述した各種のセンサ71〜74からの検出信号並びにIG・SW75及びBR・SW76からのON/OFF信号に応じ、ROMに記憶された制御プログラムに従って、エンジン3、第1〜第5電磁弁SV1〜SV5及び遮断弁64の動作を制御する。また、ECU2には、その電力供給用の電源2aが設けられており、そのON/OFFがCPUによって制御される。以上のように、電源2aは、ECU2及び前述した油圧センサ71の電源として共用されている。
次に、図5を参照しながら、CPUによって実行される処理について説明する。図5は、前述した遮断弁64などの各種の弁の動作を制御するための処理を示しており、本処理は、所定の制御周期(例えば100msec)で繰り返し実行される。まず、図5のステップ1(「S1」と図示。以下同じ)では、IG・SW75からON信号が出力されているか否かを判別する。この答がYESで、IG・SW75からON信号が出力されているときには、アイドルストップフラグF_IDLESTPが「1」であるか否かを判別する(ステップ2)。
このアイドルストップフラグF_IDLESTPは、エンジン3の自動停止中であることを「1」で表すものであり、エンジン3の自動停止は、例えば次の所定の条件A〜Dを含む所定の複数の停止条件がいずれも成立しているときに、実行される。エンジン3の自動停止は、エンジン3への燃料供給を停止することなどによって、実行される。
A:IG・SW75からON信号が出力されていること
B:検出された車速VPが所定値VPREF以下であること
C:検出されたアクセル開度APが所定値APREF以下であること
D:BR・SW76からON信号が出力されていること
また、エンジン3の自動停止中、例えば次の所定の条件E及びFを含む所定の複数の再始動条件の少なくとも1つが成立したときには、エンジン3が自動的に再始動される。エンジン3の再始動は、スタータやエンジン3への燃料供給を制御することなどによって、実行される。
E:アクセルペダルの踏み込みによって、アクセル開度APが所定値APREFを超えたこと
F:ブレーキペダルの踏み込みの解除によって、BR・SW76からOFF信号が出力されたこと
前記ステップ2の答がNO(F_IDLESTP=0)のとき、すなわち、エンジン3の自動停止中でないときには、アイドルストップフラグの前回値F_IDLESTPZが「1」であるか否かを判別する(ステップ3)。この答がNO(F_IDLESTPZ=0)のとき、すなわち、エンジン3の運転中であるときには、運転時用制御モードにより遮断弁64などの各種の弁を制御するために、ステップ4において、運転時用制御フラグF_OPECOを「1」に設定するとともに、再始動時用制御フラグF_RESCO、自動停止時用制御フラグF_ASTCO、及び手動停止時用制御フラグF_MSTCOをいずれも「0」に設定し、本処理を終了する。
この運転時用制御モードでは、検出されたエンジン回転数NEなどのエンジン3の運転状態や、車速VP、アクセル開度APに応じて、第1〜第5電磁弁SV1〜SV5の開度が制御され、それにより、LUクラッチ4cや、前進クラッチ12、無段変速機6などが制御される。また、第5電磁弁SV5の開度が、検出された検出PU油圧PODにさらに応じて制御され、それにより、従動プーリ23の有効径や側圧(従動プーリ23が伝達ベルト24を挟み込む圧力)が制御される。また、遮断弁64への前述した駆動信号ASOの入力が停止され、それにより遮断弁64が、前述したように逆止弁モードで制御されることによって、逆止弁として機能する。
一方、前記ステップ2の答がYES(F_IDLESTP=1)で、エンジン3の自動停止中であるときには、自動停止時用制御モードにより各種の弁を制御するために、ステップ5において、自動停止時用制御フラグF_ASTCOを「1」に設定するとともに、運転時用制御フラグF_OPECO、再始動時用制御フラグF_RESCO、及び手動停止時用制御フラグF_MSTCOをいずれも「0」に設定し、本処理を終了する。この自動停止時用制御モードでは、第1〜第5電磁弁SV1〜SV5が、エンジン3の自動停止直前の状態に制御される。また、エンジン3の自動停止に伴って油圧ポンプ31が停止されることにより、前述したFWD油室12aやDR油室22cなどの各油室への油圧の供給が停止される。さらに、上述した運転時用制御モードの場合と同様、遮断弁64への駆動信号ASOの入力が停止されることによって、遮断弁64が逆止弁モードで制御される。
なお、エンジン3の自動停止中、油圧供給装置の蓄圧装置61以外の要素、すなわち、第1及び第2LU油室4d、4eや、FWD油室12a、RVS油室13a、DR油室22c、DN油室23c、LU油圧ラインLUL、クラッチ油圧ラインCLL、プーリ油圧ラインPUL内の作動油は、ドレン管(図示せず)を介して、リザーバRに排出(ドレン)される。
一方、前記ステップ3の答がYES(F_IDLESTPZ=1)のとき、すなわち、エンジン3の自動停止からの再始動時であるときには、再始動時用制御モードにより各種の弁を制御するために、ステップ6において、再始動時用制御フラグF_RESCOを「1」に設定するとともに、運転時用制御フラグF_OPECO、自動停止時用制御フラグF_ASTCO、及び手動停止時用制御フラグF_MSTCOをいずれも「0」に設定し、本処理を終了する。この再始動時用制御モードでは、運転時用制御モードの場合と同様、エンジン3の運転状態などに応じて、第1〜第5電磁弁SV1〜SV5の開度が制御される。また、駆動信号ASOを遮断弁64に入力することにより、遮断弁64が、前述した開弁モードで制御されることによって、強制的に開弁状態に保持される。さらに、再始動時用制御モードは、その開始から油圧ポンプ31の油圧が十分に立ち上がったと判定されるまで継続され、当該判定は、エンジン回転数NEに基づいて行われる。
一方、前記ステップ1の答がNOで、IG・SW75からOFF信号が出力されているとき、すなわち、エンジン3の手動停止中であるときには、エンジン回転数NEが値0であるか否かを判別する(ステップ7)。この答がNOで、エンジン回転数NEが値0よりも大きいときには、そのまま本処理を終了する。
一方、上記ステップ7の答がYESになり、エンジン回転数NEが値0になったときには、エンジン3の手動停止中においてエンジン3を動力源とする油圧ポンプ31が停止したと判定する。また、手動停止時用制御モードにより各種の弁を制御するために、ステップ8において、手動停止時用制御フラグF_MSTCOを「1」に設定するとともに、運転時用制御フラグF_OPECO、再始動時用制御フラグF_RESCO、及び自動停止時用制御フラグF_ASTCOをいずれも「0」に設定し、本処理を終了する。
この手動停止時用制御モードでは、第3電磁弁SV3が全閉状態に制御され、LU制御弁34及びDR調圧弁52が全閉状態になるように、第1及び第4電磁弁SV1、SV4がそれぞれ制御されるとともに、DN調圧弁53が全開状態になるように、第5電磁弁SV5が制御される。また、再始動時用制御モードと同様、駆動信号ASOを遮断弁64に入力することによって、遮断弁64が、開弁モードで制御され、開弁状態に保持される。
ちなみに、エンジン3の手動停止中、エンジン3の自動停止中の場合と同様、油圧供給装置の蓄圧装置61以外の要素における作動油は、リザーバRに排出(ドレン)される。また、手動停止時用制御モードは、その開始から所定時間が経過するまで継続され、その間、電源2aは、ON状態に保持され、手動停止時用制御モードが終了されるのに伴って、OFF状態に制御される。
なお、前述したように、IG・SW75がオフされてから、エンジン回転数NEが値0になるのを待って(ステップ7の答がYESになるのを待って)、手動停止時用制御モードを開始しているが、ステップ7を省略し、IG・SW75がオフされた時点で開始してもよい。この場合、手動停止時用制御モードは、その開始から、エンジン回転数NEが値0になるまで、すなわち、油圧ポンプ31が完全に停止するまで、継続される。
次に、図4、図6〜図8を参照しながら、エンジン3の運転中(図4)、自動停止中(図6、図7)及び自動停止からの再始動時(図8)における蓄圧装置61の動作について、順に説明する。
[エンジン3の運転中]
図5を参照して説明したように、エンジン3の運転中(図5のステップ1:YES、ステップ2:NO)、すなわち油圧ポンプ31の運転中には、運転時用制御モードが実行される(ステップ4)。運転時用制御モードの実行中、遮断弁64が、逆止弁モードで制御されることによって、CLメイン油路43側からメインアキュムレータ63側への作動油の流入のみを許容する逆止弁として機能する。この場合、油圧ポンプ31からCLメイン油路43に供給される油圧がメインアキュムレータ63の油圧よりも高いため、当該油圧の作用によって、遮断弁64が自動的に開弁し、それによりメインアキュムレータ63とCLメイン油路43の間が連通する。
これにより、図4に示すように、CLメイン油路43からの油圧が、サブライン62を介して、メインアキュムレータ63の蓄圧室63dに供給され、ピストン63bを押圧することによって、ピストン63bが、スプリング63cの付勢力に抗して蓄圧室63dと反対側に移動する(図4に中抜きの矢印で図示)。その結果、油圧がメインアキュムレータ63に蓄積される。
また、サブアキュムレータ65の背面室65e側の端面には、サブライン62及び第1油路66を介して、CLメイン油路43からの油圧が背圧として作用する。スプリング65cの付勢力は、油圧ポンプ31の運転中、スプリング65cの付勢力と上記の背圧の和が、サブライン62、メインアキュムレータ63及び第2油路67を含む回路内の油圧よりも大きくなるように、設定されている。これにより、図4に示すように、油圧ポンプ31の運転中、ピストン65bの蓄圧室65d側の端面がシリンダ65aの内壁に当接した状態に保持されるとともに、弁体65hがその閉鎖位置に保持されるので、油圧ポンプ31からの油圧を、サブアキュムレータ65にほとんど蓄積せずに、メインアキュムレータ63に適切に蓄積することができる。
[エンジン3の自動停止中]
エンジン3の自動停止中(図5のステップ1:YES、ステップ2:YES)には、自動停止時用制御モードが実行される(ステップ5)。自動停止時用制御モードの実行中、遮断弁64が、運転時用制御モードの場合と同様に、逆止弁モードで制御され、逆止弁として機能する。この場合、エンジン3の自動停止に伴い、油圧ポンプ31からCLメイン油路43への油圧の供給が停止されることと、CLメイン油路43内の作動油が前述したようにリザーバRに排出されることから、サブライン62における遮断弁64よりもメインアキュムレータ63側の部分の油圧が、遮断弁64よりもCLメイン油路43側の部分の油圧よりも高くなるため、遮断弁64が自動的に閉弁する。これにより、図6に示すように、CLメイン油路43とメインアキュムレータ63の間が遮断されることによって、それまでにメインアキュムレータ63に蓄積された油圧が保持される。また、遮断弁64の閉弁によって、サブライン62、メインアキュムレータ63及び第2油路67を含む閉回路が形成される。
また、油圧ポンプ31が停止されると、それに伴ってCLメイン油路43からの背圧が作用しなくなることと、背面室65eが遮断弁64を介さずに油圧ポンプ31に連通していることから、サブアキュムレータ65のピストン65bを蓄圧室65d側に押圧する押圧力として、スプリング65cの付勢力のみが作用する。さらに、蓄圧室65dは、第2油路67及びサブライン62を介して、遮断弁64を介さずに、メインアキュムレータ63の蓄圧室63dに連通している。以上により、油圧ポンプ31の停止に伴い、サブアキュムレータ65のピストン65bは、遮断弁64で閉鎖された閉回路内に蓄積された油圧で押圧されることによって、背面室65e側に移動する(図6に中抜きの矢印で図示)。それに伴い、閉回路内の油圧(作動油)の一部が、サブアキュムレータ65の蓄圧室65dに供給され、蓄積される。したがって、閉回路内の油圧を、その余剰分だけ低下させることができる。
また、図6は、エンジン3の自動停止中における蓄圧装置61などを、メインアキュムレータ63などの閉回路内の油圧が所定の上限値(例えば2.54MPa)よりも小さい場合について示している。この場合、図6に示すように、サブアキュムレータ65の弁体65hは、スプリング65cによる付勢により閉鎖位置に保持されており、それにより、ピストン65bの連通孔65gは、弁体65hによって閉鎖されている。
一方、図7は、エンジン3の自動停止中における蓄圧装置61などを、閉回路内の油圧が上記の上限値に達した場合について示している。同図に示すように、ピストン65bの背面室65e側の端面がシリンダ65aの内壁に当接しており、それ以上背面室65e側に移動できないことと、閉回路内の油圧が弁体65hを背面室65e側に押圧するように作用することとによって、弁体65hは、スプリング65cの付勢力に抗して、閉鎖位置から開放位置に移動する(図7に中抜きの矢印で図示)。これにより、連通孔65gが開放されることで、蓄圧室65dと背面室65eが連通孔65gを介して互いに連通することにより、閉回路内の油圧の過剰分が、背面室65eを介して、第1油路66や、サブライン62、CLメイン油路43などに逃がされる。したがって、閉回路内の油圧の過大化を防止でき、ひいては、メインアキュムレータ63、サブアキュムレータ65、サブライン62、第2油路67、及び遮断弁64の破損を回避することができる。スプリング65cの付勢力は、上述した作用・効果が得られるように、設定されている。
[エンジン3の自動停止からの再始動時]
エンジン3の自動停止からの再始動時(図5のステップ1:YES、ステップ2:NO、ステップ3:YES)には、再始動時用制御モードが実行される(ステップ6)。再始動時用制御モードの実行中、遮断弁64が、開弁モードで制御されることで開弁状態に保持され、それにより、メインアキュムレータ63とCLメイン油路43の間が連通する。それに伴い、図8に示すように、メインアキュムレータ63のピストン63bがスプリング63cの付勢力により蓄圧室63d側に移動する(同図に中抜きの矢印で図示)。以上により、上述したメインアキュムレータ63などの閉回路内に蓄積された油圧が、サブライン62及びCLメイン油路43を介して、FWD油室12aに供給されるとともに、さらに分岐油路41及びPUメイン油路51を介して、DR油室22c及びDN油室23cに供給される。そして、油圧ポンプ31の油圧が十分に立ち上がると、閉回路からの油圧に加え、油圧ポンプ31からの油圧が、DR油室22cや、DN油室23c、FWD油室12aに供給される。したがって、本実施形態によれば、エンジン3の自動停止からの再始動時、無段変速機6や前進クラッチ12に、油圧を迅速かつ十分に供給することができる。
なお、図8は、エンジン3の再始動に伴う油圧ポンプ31の運転の再開直後の状態を示しており、この状態では、油圧ポンプ31による油圧がまだ十分に立ち上がっておらず、閉回路内の油圧のほうが高いので、同図に示すように、CLメイン油路43のサブライン62との接続部よりも油圧ポンプ31側の部分では、作動油が、油圧ポンプ31側に流れる。
また、上述した遮断弁64の開弁に伴い、サブアキュムレータ65のピストン65bを蓄圧室65d側に押圧する押圧力として、再度、背圧とスプリング65cの付勢力の双方から成る押圧力が作用する。これにより、ピストン65bが蓄圧室65d側に移動する(図8に中抜きの矢印で図示)ことによって、それまでにサブアキュムレータ65に蓄積されていた油圧(作動油)は、第2油路67、サブライン62及びPUメイン油路51を介して、メインアキュムレータ63からの油圧とともに、DR油室22cや、DN油室23c、FWD油室12aに供給される。したがって、本実施形態によれば、油圧ポンプ31の運転の再開時、その停止中にサブアキュムレータ65に蓄積された油圧(作動油)を、無段変速機6や前進クラッチ12に無駄なく供給することができる。
また、図9は、エンジン3の運転中から自動停止が実行され、この自動停止中に再始動が実行された場合における油圧供給装置の動作例を示している。図9では、駆動信号ASOが遮断弁64に入力されていることを「1」で、入力されていないことを「0」で、それぞれ示している。また、同図において、PACは、メインアキュムレータ63に蓄積された油圧(以下「メインアキュムレータ油圧」という)であり、PFWDは、FWD油室12a内の油圧(以下「FWD油圧」という)である。
図9に示すように、エンジン3の運転中で、かつ、車速VPが前記所定値VPREFよりも高く、前述した停止条件が成立していないとき(時点t0〜t1直前、図5のステップ1:YES、ステップ2、3:NO)には、運転時用制御フラグF_OPECOが「1」に、再始動時用制御フラグF_RESCO及び自動停止時用制御フラグF_ASTCOが「0」に、それぞれ設定され(ステップ4)、運転時用制御モードが実行される。
運転時用制御モードの実行中、駆動信号ASOが遮断弁64に入力されないことにより、遮断弁64が逆止弁モードで制御される。これにより、CLメイン油路43からメインアキュムレータ63への作動油の流入が許容され、メインアキュムレータ63からCLメイン油路43への作動油の流出が阻止されるため、メインアキュムレータ油圧PACが、ほぼ一定の状態で推移する。なお、この動作例では、車両の減速走行中であるため、前進クラッチ12に要求される締結度合が小さいので、FWD油圧PFWDは、メインアキュムレータ油圧PACよりも低くなっている。
そして、車速VPが値0になり、停止条件が成立すると(時点t1)、エンジン3が自動停止され、それに伴ってエンジン回転数NEが急激に低下し、値0になる。また、油圧ポンプ31がエンジン3を駆動源としていることと、油圧ポンプ31からの油圧がFWD油室12aに供給されることから、FWD油圧PFWDは、エンジン回転数NEの低下に伴って急激に低下し、値0になる。
さらに、停止条件の成立(図5のステップ1、2:YES)に伴い、自動停止時用制御フラグF_ASTCOが「1」に、運転時用制御フラグF_OPECO及び再始動時用制御フラグF_RESCOが「0」に、それぞれ設定され(ステップ5)、自動停止時用制御モードが実行される。自動停止時用制御モードの実行中、運転時用制御モードの場合と同様、駆動信号ASOが遮断弁64に入力されず、遮断弁64が逆止弁モードで制御される。また、図6を用いて前述したように、遮断弁64が自動的に閉弁することによって、メインアキュムレータ63を含む閉回路が形成されるとともに、閉回路内の油圧の一部が、サブアキュムレータ65に供給され、蓄積される。以上により、メインアキュムレータ油圧PACは、その余剰分が低下した後、一定の状態で推移する。
そして、アクセルペダルが踏み込まれることなどにより前述した再始動条件が成立すると(時点t2)、エンジン3が再始動され、それに伴ってエンジン回転数NEが上昇するとともに、車速VPが徐々に上昇する。なお、再始動条件の成立後すぐに、エンジン回転数NEが上昇しないのは、スタータの応答遅れのためである。
また、再始動条件の成立(図5のステップ1:YES、ステップ2:NO、ステップ3:YES)に伴い、再始動時用制御フラグF_RESCOが「1」に、運転時用制御フラグF_OPECO及び自動停止時用制御フラグF_ASTCOが「0」に、それぞれ設定され(ステップ6)、再始動時用制御モードが実行される。再始動時用制御モードの実行中、駆動信号ASOが遮断弁64に入力されることによって、遮断弁64が、開弁モードで制御され、強制的に開弁状態に保持される。これにより、図8を用いて前述したように、メインアキュムレータ63などの閉回路内に蓄積された油圧がFWD油室12aなどに供給されるので、メインアキュムレータ油圧PACが急激に低下するとともに、FWD油圧PFWDが急激に上昇する。
図9において、PUPは、閉回路からFWD油室12aへの油圧の供給によって上昇したFWD油圧PFWDの上昇分を示している。この場合、この上昇分PUPが、再始動時用制御モードの開始時におけるアキュムレータ油圧PACよりも低いのは、閉回路内の油圧がすべてFWD油室12aに供給されるのではなく、DR油室22cなどにも供給されるためである。
また、再始動時用制御モードの実行中、エンジン3の始動によりエンジン回転数NEが上昇するのに伴い、メインアキュムレータ油圧PACの低下度合が小さくなるとともに、FWD油圧PFWDが徐々に上昇する。そして、エンジン3の初爆が行われると、油圧ポンプ31からの油圧がメインアキュムレータ63やFWD油室12aに供給されることによって、メインアキュムレータ油圧PAC及びFWD油圧PFWDの双方が上昇する。この場合、車両の発進時であるため、前進クラッチ12に要求される締結度合が大きいので、FWD油圧PFWDは、メインアキュムレータ油圧PACとほぼ同じ大きさで、上昇する。
そして、前述したように、再始動時用制御モードの開始後、エンジン回転数NEに基づいて油圧ポンプ31の油圧が十分に立ち上がったと判定されると(時点t3)、再始動時用制御モードが終了される。それに伴い、運転時用制御フラグF_OPECOが「1」に、自動停止時用制御フラグF_ASTCO及び再始動時用制御フラグF_RESCOが「0」に、それぞれ設定され、運転時用制御モードが実行される。これにより、駆動信号ASOが遮断弁64に入力されないことにより、遮断弁64が逆止弁モードで制御される。
また、本実施形態における各種の要素と、本発明における各種の要素との対応関係は、次のとおりである。すなわち、本実施形態におけるLUクラッチ4c、前進クラッチ12、後進ブレーキ13及び無段変速機6が、本発明における油圧供給対象に相当し、本実施形態におけるサブアキュムレータ65及び蓄圧室65dが、本発明における第1アキュムレータ及び第1蓄圧室にそれぞれ相当するとともに、本実施形態におけるスプリング65cが、本発明における第1付勢手段、第2付勢手段及び付勢材に相当する。また、本実施形態におけるエンジン3が、本発明における車両の動力源に相当するとともに、本実施形態におけるメインアキュムレータ63及び蓄圧室63dが、本発明における第2アキュムレータ及び第2蓄圧室にそれぞれ相当する。
以上のように、本実施形態によれば、メインアキュムレータ63の蓄圧室63dが、エンジン3を駆動源とする油圧ポンプ31及びFWD油室12aなどの油圧供給対象に連通しており、油圧ポンプ31からの油圧を蓄積可能になっている。さらに、遮断弁64によって、油圧供給対象及び油圧ポンプ31と蓄圧室63dとの間が連通/遮断される。図4を参照して説明したように、この遮断弁64による連通によって、油圧ポンプ31からの油圧を蓄圧室63dに蓄積することができる。また、図6を参照して説明したように、遮断弁64による遮断により、蓄圧室63dを閉鎖することによって、蓄圧室63dに蓄積された油圧を保持することができる。さらに、図8を参照して説明したように、蓄圧室63dに蓄積した油圧を、遮断弁64による連通によって、油圧供給対象に供給することができる。
また、サブアキュムレータ65の蓄圧室65dが、遮断弁64を介して、油圧供給対象及び油圧ポンプ31に連通しているので、上述した遮断弁64による遮断によって、メインアキュムレータ63の蓄圧室63dに加え、蓄圧室65dも閉鎖することができ、したがって、両蓄圧室63d、65dに蓄積された油圧を保持することができる。さらに、蓄圧室65dが遮断弁64を介さずに蓄圧室63dに連通しているので、図7を参照して説明したように、遮断弁64による遮断により閉鎖された両蓄圧室63d、65dを含む閉回路内の油圧(作動油)の過大化を、連通孔65g、弁体65h及びスプリング65cから成るリリーフ機構によって防止でき、したがって、第1及び第2アキュムレータ63、65などの破損を回避することができる。
また、連通孔65g、弁体65h及びスプリング65cがいずれも、サブアキュムレータ65と別個に設けられるのではなく、サブアキュムレータ65のシリンダ65a内に設けられているので、油圧供給装置を小型化することができる。
さらに、遮断弁64が、逆止弁モードと開弁モードに選択的に制御可能に構成されており、逆止弁モード中、油圧供給対象及び油圧ポンプ31と蓄圧室63dとの間を、蓄圧室63d側の油圧が油圧供給対象及び油圧ポンプ31側の油圧よりも低いときには連通させ、高いときには遮断する。これにより、上述した効果、すなわち、油圧ポンプ31からの油圧を蓄圧室63dに蓄積できるとともに、蓄積した油圧を保持できるという効果を、有効に得ることができる。また、逆止弁モード中、遮断弁64の開閉を切り換えるための特別な制御動作は不要であるので、蓄圧室63dへの油圧の蓄積・保持を簡易に行うことができる。
さらに、本発明における第1及び第2付勢手段が互いに共通の単一のスプリング65cにより構成されているので、その分、部品点数を削減することができる。また、このスプリング65cにより、弁体65hが閉鎖位置側に付勢されるとともに、ピストン65bが、弁体65hを介して蓄圧室65d側に付勢されるので、閉鎖位置への弁体65hの保持と、サブアキュムレータ65による油圧の蓄積を適切に行うことができる。
さらに、弁体65hが連通孔65gの縁部に当接することによって、連通孔65gが閉鎖される。また、弁体65hが球状に形成されているので、連通孔65gの縁部への片当たりを抑え、弁体65hで連通孔65gを適切に閉鎖することができる。
さらに、背面室65eが遮断弁64を介さずに油圧ポンプ31及び油圧供給対象に連通しているので、図4を参照して説明したように、油圧ポンプ31の運転中、油圧ポンプ31からの油圧を、蓄圧室65dにほとんど蓄積せずに、メインアキュムレータ63の蓄圧室63dに適切に蓄積することができる。また、図6を参照して説明したように、油圧ポンプ31の停止中、メインアキュムレータ63を含む閉回路内の油圧を、その余剰分だけ低下させることができる。これにより、遮断弁64として耐圧性の比較的低い小型のものを採用でき、したがって、油圧供給装置の製造コストの削減を図ることができる。さらに、図8を参照して説明したように、油圧ポンプ31の運転の再開時、油圧ポンプ31の停止中に蓄圧室65dに蓄積された油圧(作動油)を、メインアキュムレータ63の蓄圧室63dからの油圧とともに、油圧供給対象に無駄なく供給することができる。
また、油圧ポンプ31の運転の再開時に、蓄圧室65dに蓄積された作動油を排出できるので、再度、油圧ポンプ31が停止したときに、閉回路内の油圧の一部を蓄圧室65dに適切に蓄積することができる。したがって、油圧ポンプ31の運転/停止が繰り返し行われた場合でも、上述した効果を有効に得ることができる。
さらに、背面室65eが油圧供給対象及び油圧ポンプ31に連通しているので、リリーフ機構(連通孔65g・弁体65h・スプリング65c)により背面室65eに逃がした油圧をさらに、油圧供給対象及び油圧ポンプ31側に逃がすことができ、したがって、前述した効果、すなわち、メインアキュムレータ63及びサブアキュムレータ65などの破損を回避できるという効果を、有効に得ることができる。
なお、本発明は、説明した実施形態に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。例えば、実施形態では、油圧ポンプ31は、ギヤポンプであるが、トロコイドポンプや、ベーンポンプなどでもよい。また、実施形態では、スプリング65cを、圧縮コイルバネで構成するとともに、背面室65cに設けているが、引張ばねで構成するとともに、蓄圧室65dに設けてもよい。さらに、実施形態では、スプリング65cを、本発明における第1及び第2付勢手段として兼用しているが、両付勢手段を別個に設けてもよい。この場合、第1及び第2付勢手段を、スプリング以外の他の適当な付勢手段、例えばゴムなどで構成してもよい。
また、実施形態では、連通孔65gを、断面円形に形成しているが、例えば断面矩形など、他の適当な形状に形成してもよい。さらに、実施形態では、弁体65hを球状に形成しているが、例えば円錐状など、連通孔の形状に合わせて、他の適当な形状に形成してもよい。この場合、弁体65hを、いわゆるバタフライ弁として構成してもよく、その場合、弁体は、板状に形成されるとともに、連通孔に回動自在に設けられ、弁体を付勢する第1付勢手段は、例えばねじりばねで構成されるとともに、連通孔に設けられる。
また、実施形態では、メインアキュムレータ63及びサブアキュムレータ65を、クラッチ油圧ラインCLLのCLメイン油路43に接続しているが、他の油路、例えばプーリ油圧ラインPULのPUメイン油路51に接続してもよい。さらに、実施形態では、メインアキュムレータ63は、ピストン型のアキュムレータであるが、ブラダ型のアキュムレータなどでもよい。また、実施形態では、サブアキュムレータ65の背面室65eを、油圧供給対象及び油圧ポンプ31に連通させているが、連通させなくてもよく、その場合には、サブアキュムレータは、前述した実施形態と異なり、メインアキュムレータ63と同様、油圧ポンプからの油圧の蓄積用のアキュムレータとして用いられる。また、この場合、メインアキュムレータ63及び遮断弁64の少なくとも一方を省略してもよい。さらに、メインアキュムレータ63及びサブアキュムレータ65の数は、複数でもよい。
また、実施形態では、遮断弁64を、逆止弁モード及び開弁モードで制御可能な電磁弁で構成しているが、励磁/非励磁により閉弁/開弁(又は開弁/閉弁)がそれぞれ制御される、一般的な電磁弁で構成してもよく、あるいは、油圧式の弁で構成してもよい。さらに、実施形態では、本発明における車両の動力源として、ガソリンエンジンであるエンジン3を用いているが、ディーゼルエンジンや、LPGエンジンなどを用いてもよい。
また、実施形態では、本発明における油圧供給対象は、LUクラッチ4c、無段変速機6、前進クラッチ12及び後進ブレーキ13であるが、作動用の油圧が供給される他の適当な機構、例えば、内燃機関の吸気弁及び排気弁の少なくとも一方のリフトを変更可能なリフト可変機構や、吸気弁及び排気弁をそれぞれ駆動する吸気カム及び排気カムの少なくとも一方のクランクシャフトに対する位相であるカム位相を変更可能なカム位相可変機構などでもよい。あるいは、車両以外の船舶や航空機などに用いられる油圧供給対象でもよい。その他、本発明の趣旨の範囲内で、細部の構成を適宜、変更することが可能である。