JP6112550B2 - 胃組織細胞の作製方法 - Google Patents

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Description

本発明は、胃の組織細胞の作製方法と作製した胃の組織細胞に関する。
わが国において、胃癌は癌での死亡率が第2位の疾患である。癌治療のため胃切除手術を行うと、消化・吸収不良、ダンピング症候群、逆流性食道炎、貧血など様々な症状が起こり、患者のQOLを低下させている。これまでに外科手術による胃の再建手法については様々なものが検討されているが、幹細胞の胃組織細胞への分化方法や幹細胞を用いた胃の再生医療については殆ど検討されていない。また、そもそも胃の発生過程の理解も他の臓器に比べて大きく解析が遅れており、胃の組織細胞を規定する制御因子や分化制御のしくみについてもあまり分かっていない(非特許文献1、2)。
ES細胞やiPS細胞等の幹細胞を用いて特定の組織細胞を分化させ作り出そうという研究は世界的に進められている。これまでに、様々な種類の神経細胞、心筋などの中胚葉組織に加えて、膵臓β細胞や肝臓実質細胞などの内胚葉組織を作り出そうとする研究は広く試みられている(非特許文献3,4)。マウスES細胞を用いた研究では、胚様体形成法を用いた腸管組織細胞を作製する方法が2006年に報告されたが、同じ消化管由来の組織である胃の組織分化誘導技術については、その発生過程のメカニズムに関しても知見が非常に限定的でありほとんど研究が進んでいない。この2006年の腸管様組織の報告では、腸のマーカーであるCdx2や5-ヒドロキシトリプタミン陽性の組織細胞への分化は観察されたが、胃の特異的マーカーH+/K+ATPaseは検出されず、胃組織細胞への分化は確認されていない(非特許文献5)。ヒト細胞に関しては、ヒトES細胞とヒトiPS細胞を用いて2010年に腸管様組織の作製が報告され、in vitroで作製した腸組織細胞を用いた腸疾患モデルとして使用可能であることが示されたが(非特許文献6)、胃の組織細胞の分化方法については報告がない。
胃の組織細胞特異的マーカーとしては、胃の間葉組織で特異的に発現する転写因子Barx1が知られているが、胃の上皮細胞でのみ特異的に発現するマーカーはほとんど存在しない。Sox2は胃の上皮細胞で発現するが、食道の上皮細胞でも発現するマーカーであり、内胚葉由来の組織のみならず神経組織でも発現する。また、EpCAMは胃の上皮細胞で発現するが、内胚葉由来の肝臓以外の上皮細胞で幅広く発現し、その特異性は高くはない。我々は以前にマウス胎児のマイクロアレイ解析とin situ hybridizationによる検証を行い、新たな胃の前駆細胞で特異的に発現する表面マーカーAdra2a、Fzd5、及びTrpv6を同定し報告し、マウス胎児でその特異性を検証した(非特許文献7、特許文献1)。
成体の小腸や大腸においてはWntターゲット遺伝子であるLgr5陽性細胞が腸の前駆細胞としてマウスで報告されている(非特許文献8)。
最近、Lgr5は成体マウスの胃の幽門部の基底部付近でも限定的に発現し、Lgr5陽性細胞を分離しin vitroで培養することが出来ると報告されている。新生児ではより前方の胃体部でもLgr5陽性細胞が存在するが、成長に伴い発現が消失する(非特許文献9)。
実際にイヌの胃を部分的に切除し、生体適合性の材料で覆い、胃の組織の再生を検討した報告もあるが、胃の内側を覆う内胚葉組織は再生が観察されたが、外側を取り巻く間葉系組織の再生は見られないことが報告されている(非特許文献10)。
発生学的にも胃は上皮と間葉組織が互いに相互作用を及ぼしながら形成されるものであり、上皮と間葉組織の両者の細胞を生きた状態で適切に評価しうるin vitro組織細胞を作り出す方法はこれまで存在しなかった。胃切除後の患者のQOLを高めるためにも胃の組織の再生医療への期待は高まっており、また、薬剤の胃毒性評価についても、in vitroで安価に行える新たな毒性試験法が望まれていた。
特願2011−210478号公報 特開2003−9854号公報
Zorn,A.M.,et al,Annu. Rev. Cell Dev. Biol. (2009) 25,221-251. Fukuda,K.,et al,Dev. Growth Differ. (2005) 47,375-382. D’Amour,et al,Nature Biotech. (2006) 24,1392-1401. Soto-Gutierrez A,et al,Nat Biotechnol. (2006) 24,1412-1419. Torihashi S,et al,Stem Cells. (2006) 12,2618-26 Spence JR,et al,Nature (2010) 470,105-109. Noguchi TA,et al,Gene Expr Patterns. In press. Baker N,et al,Nature (2007) 449,1003-1007. Baker N,et al,Cell Stem Cell,(2010) 6,25-36. 合川 公康ら、日消外会誌,(2009) 42,139. Keller,G M. Curr. Opin. Cell Biol. (1995) 7,862-869. Kubo,A. Development (2004) 131,1651-1662.
胃では他の臓器に比べて、幹細胞から胃の組織細胞を分化させるために重要な初期発生メカニズムの知見は、大きく解析が遅れている。また、幹細胞から胃の組織細胞を正確に分化させる方法もこれまで報告がない。特に、再生医療での応用が期待されるES細胞やiPS細胞を用いて段階的かつ選択的に正しい3次元構造を保持した胃の組織を分化させる方法については一切報告が無く、胃の再生医療についてほとんど議論しうる段階に至っていない。また、薬剤の胃での毒性試験は小動物を用いるコストのかかる試験方法を使用している現状である。本発明は、このような技術背景を踏まえ、胃の組織細胞の分化方法と、その分化方法を用いて作製した胃の組織細胞を提供しようとするものである。
本発明者らは、マウスES細胞を用いた胚様体形成法で腸管様組織を分化誘導し、さらにその後、胃の発生過程で関与が示唆されていた複数の細胞増殖因子や制御因子を組み合わせて培養し、各種臓器特異的マーカーの遺伝子発現を指標に、胃組織細胞への特異的分化誘導条件の最適化方法を検討した。その結果、これまで報告されていた腸管組織をより前方化させることで胃の組織細胞を特異的に分化させる方法を発明した。本法を用いることで、ATPase、Muc5AC,Gastrin,Pepsinogenなどの胃の機能的終末分化マーカータンパク質が発現する胃の組織細胞を試験管内で特異的に分化させることができる。さらに、本法で分化させた胃の組織細胞は内胚葉上皮細胞と多層の間質細胞の構造を持つ3次元構造を構築しており、さらに3次元培養することにより成体の胃の組織と構造的にも類似の組織細胞へと成熟させることができる方法である。このような知見をもとに、これまでにない胃の組織細胞の分化方法とこの分化方法によって作製した胃の組織細胞に係る本発明を完成させた。
すなわち、本発明は以下の通りである。
〔1〕 幹細胞から胃の組織細胞を分化させる方法であって、血清を含有する消化管分化誘導培地での培養工程において、Shhシグナルを亢進させると共に、Wntシグナルを抑制する工程を設けることを特徴とする、胃の組織細胞への分化方法。
〔2〕 Shhシグナルを亢進させると共に、Wntシグナルを抑制する工程が、Shhペプチド及びDKK-1ペプチドを添加した消化管分化誘導培地中で培養する工程である、前記〔1〕に記載の胃の組織細胞への分化方法。
〔3〕 幹細胞を、血清を含有する消化管分化誘導培地で培養して胚様体を形成させ、次いで、Shhシグナルを亢進させ、かつWntシグナルを抑制しながら培養する工程を設けることを特徴とする、胃の組織細胞の製造方法。
〔4〕 Shhシグナルを亢進させ、Wntシグナルを抑制しながら培養する工程が、Shhペプチド及びDKK-1ペプチドを添加した消化管分化誘導培地中で培養する工程である、前記〔3〕に記載の胃の組織細胞の製造方法。
〔5〕 前記〔3〕又は〔4〕に記載の製造方法により製造された胃の組織細胞。
〔6〕 被検物質を、前記〔5〕で製造された胃の組織細胞を含有する細胞試料に対して接触させる工程を含むことを特徴とする、被検物質の胃の組織細胞に対する毒性の検出又は判定方法。
〔7〕 前記〔5〕に記載の胃の組織細胞を含有する、胃組織細胞移植用組成物。
本発明により、幹細胞から試験管内で終末分化マーカーを発現する胃の組織細胞を特異的に作製することができた。このようにして作製した胃の組織細胞は、薬剤の胃の組織細胞に対する細胞毒性を試験管内で評価するための細胞評価キットとして応用できる。また、幹細胞から胃の組織細胞を試験管内で分化させるための分化アッセイキットとしても利用できる。
胚様体形成法による分化培養により作製した腸管様細胞: A.マウスES細胞を試験管内で胚様体を形成させた後、接着培養すると2週間ぐらいで腸管様のドーム構造体が出現する。 B.腸管様構造は内胚葉マーカーであるEpCAM陽性である。 C.胚様体培養時の各種臓器特異的マーカー発現のRT-PCRによる解析。この条件では胃の特異的分化は観察されていない。Barx1:胃特異的遺伝子マーカー、Cdx2:腸特異的遺伝子マーカー、Pax9:咽頭特異的遺伝子マーカー、Nkx2.1:肺特異的遺伝子マーカー 試験管内で作製した腸管様組織とマウス胎児の各種臓器の遺伝子マーカーの発現の比較: A.マウスE11.5日胚における各種臓器遺伝子マーカーの発現。 B.マウスES細胞を胚様体形成法により試験管内で16日間培養して分化させた腸管様細胞における遺伝子マーカーの発現。各遺伝子発現は定量PCRにより比較し、その相対値をグラフ化した。 胃の組織細胞の分化誘導条件の検討: A.マウスES細胞から胚様体を形成させた後、接着培養条件下での培地添加物の検討条件。 B-F.各分化条件で培養した際の臓器特異的遺伝子マーカーの発現。Wnt抑制因子であるDkk1と細胞増殖因子Shhを同時に添加した場合に特異的に、それまで優位な発現を示していた腸管マーカーCdx2の発現が顕著に抑制されて胃のマーカーの発現が選択的に上昇する様子が検出された。B:胃間葉マーカー、C:小腸上皮マーカー、D:食道、胃上皮マーカー、E:咽頭マーカー、F:肺上皮マーカー。 マウスES細胞から分化させた胃組織細胞の構造: A.マウスES細胞から接着培養により分化させた胃組織細胞のBarx1とEpCAMの免疫蛍光染色像。 B.マウス胎児E13.5日胚におけるBarx1とEpCAMのin situ hybridization。 上:消化管全体のwhole mount in situ hybridization。下:胃の断面の切片 in situ hybridization。 マウスES細胞から接着培養により分化させた胃組織細胞における胃の終末分化マーカーの発現: A.マウスES細胞からin vitroで分化させた胃の組織細胞におけるGastrin, Muc5AC,PGC, ATPaseの終末分化マーカーの遺伝子発現。 B.上記Aの条件で培養した胃の組織細胞のGastrin,Muc5AC, PGC, ATPaseの発現の免疫蛍光染色法による検出。 マウスES細胞から接着培養により分化させた後、さらにマトリゲル中で培養して成熟させた胃組織細胞の構造 EpCAM抗体を用いて上皮部分を免疫蛍光染色して可視化して示している。
1.本発明の胃の組織細胞の作製方法
本発明において、「幹細胞」というとき、多能性を有する胚性幹細胞(ES細胞)又はiPS細胞のみならず、胃を含む消化管に分化することのできる中内胚葉由来の体性組織幹細胞も含まれる。
また、幹細胞から、各種体細胞への分化機構はヒト、マウスを含めて哺乳類動物一般で共通した機構を有しており、消化管から胃組織への分化機構も、その際に関与する遺伝子群も共通している。したがって、以下本発明の胃組織細胞への分化誘導、及び胃組織の製造方法については、主にマウスの実験系を用いて説明するが、本発明の方法は、マウス、ラットなど齧歯類動物に限られるものではなく、ヒトを含めた哺乳動物一般に適用可能である。
まず、ES細胞など幹細胞を解離させた後、消化管系細胞に分化させるのだが、その際の消化管系細胞分化の手法は従来から周知の方法が適用できる。典型的な手法として、in vitroでES細胞を培養し、凝集させて胚様体と呼ばれる細胞塊を形成させた後、血清やKSR(KnockOut(商標)Serum Replacement)などの血清代替物を含む培地に必要に応じてアクチビンやBMPなどの細胞増殖因子やレチノイン酸などの化合物を添加して培養することで分化誘導する手法が従来から広く行われている(非特許文献11〜12、特許文献2)。この分化誘導は胚様体を作る方法に限定するものではなく、単層培養でもよい。消化管系細胞の分化の場合には、細胞集団(胚様体)を血清条件下で細胞増殖因子や化合物の添加なしでしばらく培養すると、腸管様構造体を分化誘導することができる(非特許文献5)。しかし、この手法で得られるのは、あくまで腸管様構造体であり、成熟させても機能的な胃の組織細胞へは分化せず、主にCdx2陽性の小腸方向へと分化する(図1、図2)。
本発明における胃の組織細胞の作製法は、ES細胞を解離再集合させて胚様体を形成させ、KSR(KnockOut(商標)Serum Replacement)を含む培地で培養する非特許文献5などにおける消化管誘導法を利用しつつ、分化の方向性を機能的な胃の組織細胞形成の方向に向かわせようというものである。具体的には、分化段階での腸構造の形成途中から胃領域への選択的な運命決定を行うため、マウス発生過程において胃領域への分化を制御する細胞増殖因子であるShhシグナルの亢進、Wntシグナルの抑制の条件下で培養することを特徴とする培養方法である。
Shhシグナルを亢進させる方法は当業者にとって周知であり、例えば、ヒト、マウス、ラット、ウシ、ニワトリなどのShh組換えタンパク質やその活性を代替するHh-Ag1.5やpurmorphamineなどの化合物の培地への添加、さらには、Shh遺伝子をコードするDNAやRNAなどを遺伝子導入することにより細胞内でShhを発現させて分泌させる方法などがある。Hh-Ag1.5などの化合物に関しては、「Shhシグナルの亢進化合物」などとしてフナコシなどから販売されている。また、Wntシグナルを阻害する方法も同様に周知であり、例えば、Dkk-1などのWntシグナル阻害タンパク質やFH535などの化合物の培地への添加、さらには、Dkk-1遺伝子をコードするDNAやRNAなどを遺伝子導入することにより細胞内でShhを発現させて分泌させる方法やWntファミリー遺伝子群やWntシグナル伝達因子のsiRNA、shRNA、miRNAなどによるノックダウンなどの方法を用いることができる。「Wntシグナルの阻害化合物」もカルビオケム社などから市販されている。
幹細胞から消化管への分化誘導時に胃の組織細胞を分化させる際のShh活性及びWnt活性の制御方法としては、以下の3通りがある。
(1)化合物を用いたShh活性及びWnt活性の制御方法、
(2)タンパク質やペプチドなどを用いたShh活性及びWnt活性の制御方法、
(3)核酸を用いたShh活性及びWnt活性の制御方法、
具体的には、以下の通りである。
(1)化合物を用いた制御方法について
ShhやWntシグナルを制御するHh-Ag1.5やpurmorphamine、FH535などの化合物を1pg/mlから100mg/ml、好ましくは0.1ng/mlから1mg/mlの濃度で添加して分化コントロールすることができる。
(2)タンパク質やペプチドなどを用いた制御方法について
ShhやWntシグナルを制御する遺伝子でコードされるタンパク質やペプチドを1pg/mlから100mg/ml、好ましくは10ng/mlから1mg/mlの濃度で添加して分化コントロールすることができる。
(3)核酸を用いた制御方法について
ShhやWntシグナルを制御する遺伝子をクローニングした誘導可能な発現プラスミドを用いてリポフェクション、エレクトロポレーション、リン酸カルシウム法、レトロウイルス法レンチウイルス法、アデノウイルス法などの様々な遺伝子導入方法で細胞に遺伝子導入したり、同様の方法でmRNAを細胞に導入することでも制御できる。DNA及びmRNAの使用濃度としては、1pg/mlから10mg/ml、好ましくは10ng/mlから100μg/mlの濃度で上記遺伝子導入法を用いてあらかじめ幹細胞に導入しておき、胚様体を形成したタイミングで発現誘導することで、分化コントロールすることができる。
本発明においては、1日間から10日間、好ましくは、3日間から8日間の浮遊培養による胚様体形成後、さらに2日間から30日間、好ましくは、4日間から20日間の接着培養により腸管構造の形成が見られるまでの間、ShhとWntシグナルを適切にコントロールする、上述のShh活性及びWnt活性制御方法により、高い特異性で胃間葉マーカーであるBarx1、胃上皮マーカーであるSox2の発現を上昇させ、腸上皮・間葉マーカーのCdx2の発現を減少させることができる(図3)。
さらにこの条件では、もともと発現の低い肺特異的上皮細胞マーカーNkx2.1、咽頭マーカーPax9の発現を上昇させることなく、選択的に胃を分化誘導できる。
このようにして作製した胃の組織細胞は、EpCAM陽性の内胚葉由来の上皮細胞と数層の胃の組織特異的な間葉組織マーカーBarx1陽性の間葉組織細胞から成る特徴的な3次元構造を形成する(図4)。
2.本発明の胃組織への成熟分化誘導方法
上記の方法で作製した胃の組織細胞は、2日間から1か月間、好ましくは1週間から3週間の分化培養後にマトリゲルや、コラーゲンゲル、アガロースゲル、メチルセルロースなどのマトリックスに包埋して3次元培養する方法(非特許文献9)などを用いることにより、胃組織の構造を保ったまま成熟した胃組織の構造を構築させることができる。この状態でさらに2日間から1か月間、好ましくは1週間から3週間ほど培養することにより、胃の成熟マーカーである胃酸分泌のためのH+/K+ATPase、さらにはガストリン(Gastrin)、ペプシノーゲン(PGC)を発現する胃の成熟組織細胞へと分化させることができる(図5)。さらに培養を続けると、10日間から3か月間、好ましくは1週間から6週間の培養後には、成熟した胃で見られるクリプト構造と扁平上皮構造が見られる胃構造が構築できる(図6)。
3.幹細胞から作製した胃の組織細胞の用途
本発明で作製した胃の組織細胞作製方法は、ES細胞やiPS細胞などの幹細胞から胚様体を介した方法や単層培養法などで様々な細胞分化因子や薬剤を組み合わせて試験管内で胃の組織細胞を分化させる際の培養試薬を検討する際の有用な評価系として利用することができる。すなわち、幹細胞から胃の細胞を分化させる際の培養試薬を正確に評価するための胃の組織細胞分化アッセイキットとして用いることができる。
また、本発明で得られる胃の組織細胞は、薬剤の胃での毒性検査を試験管内で行う際に有用なアッセイキットとして利用することができる。
さらに、得られた胃前駆細胞は、生体親和性の高い3次元マトリックスなどを用いて移植しやすい形状に整えた後、通常の細胞移植技術を応用することで、胃組織の損傷部位などに対する胃細胞の移植治療に供することができる。特に、同じ齧歯類のマウス、ラット、モルモット、ウサギなどの各種愛玩動物、実験動物用の胃細胞の移植に適用することが好ましい。
以下、実施例に則して本発明を更に詳しく説明する。なお、本発明の技術的範囲はこれらの記載によって何等制限されるものではない。本発明におけるその他の用語や概念は、当該分野において慣用的に使用される用語の意味に基づくものであり、本発明を実施するために使用する様々な技術は、特にその出典を明示した技術を除いては、公知の文献等に基づいて当業者であれば容易かつ確実に実施可能である。また、各種の分析などは、使用した分析機器又は試薬、キットの取り扱い説明書、カタログなどに記載の方法を準用して行った。
また、本明細書中で引用される技術文献の内容は、本明細書の開示内容の一部と見なされる。
(実施例1)腸管様組織の分化誘導
非特許文献5に記載の方法に従って、マウスES細胞をトリプシン/EDTAで解離した後、DMEM培地に10%KSR(KnockOut(商標)Serum Replacement)を含む培地中で浮遊培養させて胚様体を形成させ、数日間培養した。その後、ゼラチンコートしたディッシュでさらに2週間程度接着培養した。(図1A)。その結果、培養後14日後ぐらいからEpCAM陽性の内胚葉の細胞層が内腔に形成された腸管様構造が出現した(図1B)。
この分化誘導された腸管様構造物をRT-PCRにて胃、腸、咽頭、肺などの発生期の臓器特異的マーカーの発現を確認したところ、胃のマーカーBarx1も発現が確認されたが、この培養条件では、分化誘導の特異性が低いことが判明した(図1C)。RNAの調製方法については、RNeasy micro kit(QIAGEN)を用いてキットの説明書に従ってRNAを精製した。
さらに、Prime Script First strand cDNA Synthesis Kit(Takara)を用いてcDNAを合成し、Ex Taq(Takara)を用いて、PCR反応を行った。PCR反応は、95℃ 1min,55-58℃ 1min,72℃ 1minの条件で行った。
本実験のためのPCRに用いたマーカーの検出のために使用したプライマー配列は以下のとおりである。
Barx1 fw :agcccagcgaccgaaattg (配列番号1)
Barx1 Rv :aaacggcatggacgcggaa (配列番号2)
Cdx2 fw :gagtcctgtgacctccttgc (配列番号3)
Cdx2 Rv :agatgctgttcgtgggtagg (配列番号4)
Sox2 fw :atgggctctgtggtcaagtc (配列番号5)
Sox2 Rv :ctctccccttctccagttcg (配列番号6)
Pax9 fw :ttaccctacaccagcccaag (配列番号7)
Pax9 Rv :ctaggagggaagaccggaag (配列番号8)
Nkx2.1 fw:gccaggtctccagcctatc (配列番号9)
Nkx2.1 Rv:agtcgtccagcagtttggtc (配列番号10)
Gapdh fw :aacagcaactcccactcgtc (配列番号11)
Gapdh Rv :tgtgagggagatgctcagtg (配列番号12)
(実施例2)分化誘導した腸管様組織の特異性の検証
上記(実施例1)で分化誘導した腸管様組織の特異性について、定量的RT-PCRにより検証を行った。具体的には、上記(実施例1)で作製したcDNAを用いてTHUNDERBIRD SYBR qPCR Mix(Toyobo)のプロトコルに従い解析した。サーマルサイクラーはCFX96(BioRad)を使用した。本実施例において、記載のマーカーの検出のために使用したプライマー配列は上記(実施例1)と同じである。
その結果、腸のマーカーであるCdx2の高い発現が観察されたが、胃のマーカーであるBarx1の発現は限定的であり、咽頭や肺のマーカーの発現も非常に低いことが観察された(図2)。
すなわち、本方法で作製した腸管様組織は後方化しており、より前方の組織である胃はあまり分化していないことが示唆された。
(実施例3)胃の組織細胞への分化制御方法
(3−1)胃の組織細胞への特異的分化因子の同定
上記(実施例1、2)で分化誘導される腸管様組織を、早い段階でより前方の胃の組織細胞へと特異的に分化させるため、発生学的に重要性が示唆されていた因子を系統的に数種類選択し、試験管内分化系に適用して検討した(図3A)。
具体的には、マウスES細胞をトリプシン/EDTAで解離後、胚様体形成させた後6日後から腸管構造の形成が見られるDay10までの間、各種の消化管分化関連因子をKSR(KnockOut(商標)Serum Replacement)含有消化管分化誘導培地に添加して培養した。
これら因子のうち、単独で胃のマーカーであるBarx1やSox2を強力に発現誘導する因子はなかったが、Dkk-1、Noggin、及びShh因子が、胃のマーカー(Barx1、Sox2)の発現誘導作用は示さないものの、腸のマーカーであるCdx2の発現を顕著に抑制する作用を有していることに着目した。
そこで、これら因子を様々に組み合わせて検討した結果、Dkk-1とShhを組み合わせて処理した場合に、これら胃特異的マーカー(Barx1、Sox2)の発現を著しく発現上昇させることを見出した(図3B−D)。
一方、元々発現の低い肺や咽頭マーカーについては、本処理でも優位な発現変動は観察されなかった(図3E,F)。
(3−2)胃の組織細胞特異的な分化誘導
上述のように、本発明においては、幹細胞から消化管への分化誘導の際に、Shhシグナルを亢進させると共に、Wntシグナルを抑制することで、幹細胞から消化管への分化誘導の方向性を、腸管形成方向から胃管形成方向に転換させる。本実施例では、具体例として、Shh組換えタンパク質と、Wntアンタゴニスト作用を有する組換えDkk-1タンパク質の培地への添加の例を示した。
すなわち、マウスES細胞を(実施例1)の方法と同様に、トリプシン/EDTAで解離後、KSR(KnockOut(商標)Serum Replacement)含有消化管分化誘導培地で培養して6日後に胚様体が形成された後、腸管構造の形成が見られるDay10までの間、Shh(R&D社製)とWntアンタゴニストであるDkk1(R&D社製)を培地に100ng/mlの濃度で添加して培養して、胃組織細胞を分化させた。
(実施例4)幹細胞から分化させて作製した胃の組織の構造
マウスES細胞から(実施例3)の方法で分化させた胃組織細胞をさらに3日間無血清培養を続け、Barx1とEpCAMの特異的抗体を用いて免疫蛍光染色し、共焦点顕微鏡でその免疫蛍光染色像を取得した。共焦点顕微鏡はOlympus FV1000を使用した。
その結果、腸管様構造の内腔側でEpCAM陽性の内胚葉由来の上皮細胞の層が観察された。その外側には胃の間葉特異的マーカーBarx1陽性の胃の間葉組織が数層にわたって裏打ちしている様子が観察され(図4A)、発生期の胃と類似の構造が観察された(図4B)。
(実施例5)成熟した胃組織細胞における終末分化マーカーの発現
Day13にて回収した発生期の胃組織をマトリゲル包埋して3次元培養することで、胃組織の構造を保ったまま成熟した胃組織の構造の構築を試みた。
3次元培養後5日目のDay21でRT-PCRしたところ、胃の成熟マーカーである胃酸分泌のためのH+/K+ATPase、さらにはガストリン(Gastrin)、ペプシノーゲン(PGC)を発現することがわかった(図5A)。
また、各種特異的抗体を用いて免疫蛍光染色法により分化組織細胞を観察したところ、これらのマーカーがタンパクレベルで発現していることが確認された(図5B)。
(実施例6)成熟した胃組織の構造
さらに、上述の(実施例5)における3次元培養後28日目のDay28では、成熟した胃で見られるクリプト構造と扁平上皮構造が見られる胃構造が構築できた。この構造体は出生直前のマウスE18.5の胃の構造と高い類似性を持つものであることが確認できた(図6)。

Claims (4)

  1. 幹細胞から胃組織の構造を形成する細胞群を分化させる方法であって、KnockOut(商標)Serum Replacementを含有する消化管分化誘導培地での培養工程において、Shhシグナルを亢進させると共に、Wntシグナルを抑制する工程を設けることを特徴とする、胃組織の構造を形成する細胞群への分化方法。
  2. Shhシグナルを亢進させると共に、Wntシグナルを抑制する工程が、Shhペプチド及びDKK-1ペプチドを添加した消化管分化誘導培地中で培養する工程である、請求項1に記載の胃組織の構造を形成する細胞群への分化方法。
  3. 幹細胞を、KnockOut(商標)Serum Replacementを含有する消化管分化誘導培地で培養して胚様体を形成させ、次いで、Shhシグナルを亢進させ、かつWntシグナルを抑制しながら培養する工程を設けることを特徴とする、胃組織の構造を形成する細胞群の製造方法。
  4. Shhシグナルを亢進させ、Wntシグナルを抑制しながら培養する工程が、Shhペプチド及びDKK-1ペプチドを添加した消化管分化誘導培地中で培養する工程である、請求項3に記載の胃組織の構造を形成する細胞群の製造方法。
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