JP6104651B2 - リン酸カルシウム系化合物 - Google Patents

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Description

本発明は、従来のリン酸カルシウム系化合物にはみられない特異な性状変化、具体的にはバルク体状態と、湿潤化状態と、スラリー状態との間で可逆的な変化を示す、新規なリン酸カルシウム系化合物に関する。
リン酸カルシウム系化合物とは、少なくともカルシウムイオン(Ca2+)とリン酸イオン(PO4 3‐)または二リン酸イオン(P27 4‐)とからなる化合物である。リン酸カルシウム系化合物は、安全性が高く、生体親和性、表面吸着性、イオン交換性、および自己硬化性に優れている。そのため、医療・歯科分野から環境分野まで幅広く応用され、その利用用途は多種多様であり、あらゆる可能性を秘めた物質である。天然には、燐灰石としてフッ化物あるいは塩化物との複塩の形で存在し、土壌中に広く存在する。また、動物の歯や骨は、リン酸カルシウム系複合材料の一種であるヒドロキシアパタイト(Ca10(PO(OH))が主成分(歯ではエナメル質の95%、骨では65%を占める)であり、非常に身近な化合物である。人工的に合成したリン酸カルシウム系複合材料は、リンとカルシウムのモル比(Ca/P)によって表1に示すような様々な化合物があり、主に粉末状として存在する。
リン酸カルシウム系化合物の用途は様々であり、その用途や組成等に応じて粉末状、顆粒状、ブロック体(バルク体)、および多孔体といった様々な形状のセラミックス製のものが作製されている。さらに、リン酸カルシウム系化合物同士の複合化により、単体よりも性能を高めたリン酸カルシウム複合材料が研究されている。例えば、水酸化アパタイトとβ−リン酸三カルシウムの混合体が焼結材料として生体材料に用いられている(非特許文献1)。また、α−TCPの水和硬化を利用してリン酸カルシウム系複合材料をペースト状にする研究も進められている(非特許文献2)。
また、カルシウム塩とリン酸塩とをCaとPとのモル比(Ca/P)に換算して0.8〜3.0の範囲となる量にて含む水溶液を、尿素の存在下にて70℃以上90℃未満の温度で加熱して、リン酸八カルシウムとリン酸水素カルシウムとの混合物からなる繊維状物を生成させ、次いで、この繊維状物を90〜180℃の温度で加熱して、リン酸八カルシウムとリン酸水素カルシウムの全量が加水分解しないうちに加熱を止めることによって、リン酸八カルシウム、リン酸水素カルシウム及び水酸アパタイトの混合物からなる繊維状リン酸カルシウムを生成させる工程と、得られた繊維状リン酸カルシウムを1200〜1500℃の温度にて焼成することによりα−リン酸三カルシウムを生成させる工程とを経て得られた繊維状リン酸カルシウムが、特許文献1に開示されている。
また、粒子の90重量%が300ミクロン未満、粒子の90重量%が10ミクロンを超える粒径を有する、ブルッシャイトリン酸カルシウムの懸濁液を、塩基性溶液を用いてpHを7.0〜10.0の間に維持するとともに、反応温度が60〜90℃で処理し、ブルッシャイトリン酸カルシウムのヒドロキシアパタイトリン酸カルシウムへの変換を可能にするのに十分な時間の間、pHを7.0以上に維持し、この処理を経た水溶液から固形物を分離乾燥することによって、顆粒形状のリン酸カルシウムを得ることが、特許文献2に開示されている。その他にも、リン酸カルシウム系化合物の研究が種々行われている。
土井豊、「<総説>バイオセラミックス」、岐阜歯科学会雑誌、2002年、28(3)、p281−290 門間英毅、金澤孝文、「α−燐酸カルシウムの水和」、窯業協会誌、1976年、84(968)、p53−57
特許第4764985号公報 特許第4854507号公報
しかしながら、これまでのリン酸カルシウム系化合物は、一旦粉末やバルク体等として作製されると他の状態へ変化するものはなく、ましてや雰囲気に応じて可逆的に性状変化するものは存在しなかった。これに対し本発明者らは、従来のリン酸カルシウム系化合物にはみられない特異な性状変化、具体的には、環境雰囲気に応じてバルク体状態と、湿潤化状態と、スラリー状態との間で可逆的な性状変化を示す、全く新規なリン酸カルシウム系化合物を得ることに成功した。
すなわち、本発明は、従来のリン酸カルシウム系化合物にはみられない特異な性状変化を示す、新規なリン酸カルシウム系化合物を提供することを目的とする。
そのための手段として、本発明に係るリン酸カルシウム系化合物の製造方法は、リン(P)とカルシウム(Ca)のモル比(Ca/P)が1.6〜1.7となる範囲で、1.9〜2.1Mの硝酸カルシウム四水和物と、1.1〜1.3Mのリン酸二水素アンモニウムとを含む水溶液を、80〜100℃に加熱して合成する。なお、(Ca/P)が1.67のヒドロキシアパタイトは焼成により得られるが、本発明のリン酸カルシウム系化合物は焼成を行わない。
当該製造方法によって得られたリン酸カルシウム系化合物は、硝酸カルシウム、硝酸アンモニウム、リン酸二水素カルシウム、及びリン酸水素カルシウムを含む複合材料であって、35℃未満ではバルク体状であり、多湿雰囲気下では湿潤状態化し、40℃以上に加熱するとスラリー状となり、これらバルク体状、湿潤状態、スラリー状の各状態が雰囲気に応じて可逆的に変化する。このリン酸カルシウム系化合物は、硝酸カルシウムの中にリン酸カルシウム系粒子が分布する構造を持つ。
なお、本発明において、「M」は「mol/L」を意味する。また、数値範囲を示す「○○〜××」とは、特に明示しない限り「○○以上××以下」を意味する。
本発明によれば、雰囲気に応じてバルク体状、湿潤状態、スラリー状の各状態へ可逆的に性状変化する、従来にはなかった全く新規なリン酸カルシウム系化合物を得ることができる。
リン酸カルシウム系化合物の性状変化を示す写真である。 XRDによって得られた試料の回折結果である。 フーリエ変換赤外分光装置により得られた試料のFT−IRスペクトルである。 試料の熱分析結果である。 試料のln(Tp 2/h)と1/Tpの関係を示すグラフである。 300℃で焼成した試料のSEM写真である。 400℃で焼成した試料のSEM写真である。 500℃で焼成した試料のSEM写真である。 600℃で焼成した試料のSEM写真である。 試料断面のFE−SEM画像である。 EDSによる試料断面の酸素分布である。 EDSによる試料断面のカルシウム分布である。 EDSによる試料断面のリン分布である。 EDSによる試料断面の窒素分布である。
以下、本発明について詳しく説明する。本発明のリン酸カルシウム系化合物は、硝酸カルシウム四水和物(Ca(NO32・4H2O)とリン酸二水素アンモニウム(NH42PO4)とを湿式法によって合成することで得られる。
硝酸カルシウム四水和物とリン酸二水素アンモニウムとは、リンとカルシウムのモル比(Ca/P)が1.6〜1.7となる範囲で混合する。このとき、硝酸カルシウム四水和物は1.9〜2.1Mとし、リン酸二水素アンモニウムは1.1〜1.3Mとする。これらの範囲から外れると、リン酸カルシウム系化合物を合成することはできるとしても、雰囲気に応じて可逆的に性状変化するリン酸カルシウム系化合物は得られなくなる。
硝酸カルシウム四水和物及びリン酸二水素アンモニウムは、それぞれ上記所定のモル濃度で含む水溶液として、純水(蒸留水)へ同量滴下し混合水溶液とする。滴下速度は特に限定されないが、凡そ0.1〜3mL/minとすればよい。そして、硝酸カルシウム四水和物及びリン酸二水素アンモニウムを含む混合水溶液を加熱することで合成する。このときの加熱温度は、80〜100℃とする。加熱温度が80℃未満では、合成が不充分となったり、合成時間も長くなる。加熱時間(合成時間)は、10〜36時間程度、好ましくは12〜28時間程度とする。また、加熱合成中は、合成を促進させるために撹拌することが好ましい。
最後に、合成により生じた固形物を乾燥することで、リン酸カルシウム系化合物を得ることができる。乾燥は、水溶液の水分が蒸発により消失するまで加熱を継続して、合成と乾燥とを連続して行うと効率的である。なお、一般的に人工骨補填材として使用される(Ca/P)が1.67のヒドロキシアパタイトは焼成により得られるが、本発明のリン酸カルシウム系化合物は焼成を行わない。
これにより得られたリン酸カルシウム系化合物は、実際には硝酸カルシウム(Ca(NO32)、硝酸アンモニウム(NH4NO3)、リン酸二水素カルシウム(Ca(H2PO42)、及びリン酸水素カルシウム(CaHPO4)を含む複合材料となっており、硝酸カルシウムの中にリン酸カルシウム系粒子が分布する構造を持つ。そして、通常の雰囲気下、具体的には35℃未満では、一定の形状と硬度を維持するバルク体状(ブロック体状ないし固体状)となっている(図1(a)参照)。一方、多湿(例えば湿度50%以上)な雰囲気(湿潤雰囲気)下では、硝酸カルシウムの潮解性により湿潤状態(空気中の水分を吸収して形が若干崩れ、湿った状態)となる(図1(b)参照)。なお、高温(例えば35℃以上40℃未満)多湿雰囲気であれば、より湿潤状態となり易い。さらに、40℃以上に加熱すると、流動性及び粘性を有するスラリー状となる(図1(c)参照)。しかも、これらの各状態は、図1に示すように、その環境雰囲気に応じて可逆的に変化するという特異な性状を示す。すなわち、湿潤状態となったものでも乾燥すればバルク体状へ戻り、40℃以上に加熱してスラリー状となっても、これが冷めることで再度バルク体状へ戻る。
≪試料の作製≫
試薬としてCa(NO32・4H2O(和光純薬工業製、試薬特級)とNH42PO4(和光純薬工業製、試薬特級)を使用し、カルシウムとリンのモル比(Ca/P)が1.67となるように、2.0MのCa(NO32・4H2O水溶液20mlと、1.2MのNH42PO水溶液20mlを、それぞれ160mlの蒸留水中に1ml/minの速度で、蒸留水を撹拌しながら同時に滴下した。次に、ホットスターラーを用いて、混合溶液を撹拌しながら12〜16時間100℃で加熱及び乾燥し、スラリー状の試料(図1(c)参照)を得た。スラリー状の試料を湿気の少ない場所で冷ますと、34℃程度から固化し始め、30℃程度で完全に固まって、図1(a)に示すようにバルク体となった。
これにより得られたバルク体状の試料を室温にて湿度60%の多湿雰囲気下に曝すと、徐々に潮解して図1(b)に示すように湿潤状態となった。これを室内雰囲気に戻して乾燥させると、再度固化してバルク体となった。さらに、ホットスターラーを用いてバルク体状の試料を加熱していくと、40℃以上で図1(c)に示すようにスラリー状となった。加熱を止めると、これが冷めることで再度固化してバルク体となった。
<硬度測定>
次に、デュロメータ(テクロック製、GS−720H タイプD)を用いて、バルク体試料の硬度を次のように測定した。平らな面に置いた試料の平面に、両手でしっかりと保持したデュロメータの加圧面(押針面)を真上から一定速度で垂直に押しつけ、密着後ただちに指示した最大値を硬さとして読み取り、ISO−7619に基づき5点中央値を結果とした。測定結果の数値はD0〜D100で表される。
上記により測定したバルク体試料の硬度はD60であり、その際にデュロメータにかかるバネの力は26700mNであった。モース硬度で換算すると、モース硬度5に相当し、天然に存在するリン酸カルシウムの一種である燐灰石と同等の硬度を示した。
<試料の同定>
続いて、粉末X線回折装置(理学製、MiniFlex、XRD)を用いて、以下の条件で試料を同定した。X線の管球にはCuを用いた。フィルタにはKβフィルタを用いた。スリットは発散スリットVariable、散乱スリット4.2deg、受光スリット0.3mmとし、ゴニオメータの走査速度は2.0°/minで、サンプリング幅0.01°、走査範囲を10.0〜50.0°とした。
当該XRDによって得られた試料の回折結果を図2に示す。新規リン酸カルシウム系化合物のX線回折パターンは、リン酸二水素カルシウム(Ca(H2PO4)、リン酸水素カルシウム(CaHPO4)、硝酸カルシウム(Ca(NO32)、硝酸アンモニウム(NH4NO3)と一致した。リン酸カルシウム系化合物の他に、硝酸カルシウム及び硝酸アンモニウムが確認されたため、本発明のリン酸カルシウム系化合物は複合材料であることが確認できる。
また、フーリエ変換赤外分光法(Varian製Varian7000、FT−IR)による試料の分析を、以下の条件で行った。光源は高輝度セラミックス、検知器はDTGS(重水素化硫酸トリグリシン)、パージは窒素ガス、分解能は4cm-1,積算回数は128回で測定した。試料は潮解性を持っているため、ATR法により測定を行った。付属装置は、一回反射型ATR測定付属装置(GoldenGate、Specac社製)、ATR結晶(IRE:Internal Reflection Element)Ge、入射角45°である。測定は、試料を任意にサンプリングした2箇所について行った。
フーリエ変換赤外分光装置により得られたFT−IRスペクトル(IRE:Ge、入射角:45°、表示波数:1800〜600cm-1)のまとめを図3に示す。この結果からも、試料にはリン酸二水素カルシウム、リン酸水素カルシウム、硝酸カルシウム、及び硝酸アンモニウムを含む複合材料であることが確認された。リン酸二水素カルシウムは、純粋なものは潮解性がないが、多く微量のリン酸を含むため潮解性を有することもある。硝酸カルシウムは、四水和物では潮解性を有し、130℃で吸湿性の無水物となる。硝酸アンモニウムは、きわめて吸湿性である。これらの性質から、試料の性状変化には、硝酸カルシウムおよび硝酸アンモニウムが関係していると考えられる。特に、硝酸カルシウムは無水物と水和物において性質が異なるため、深く関係していると考えられる。
<熱分析>
そこで、試料の熱分析結果から性状変化の原因を検討した。まず、差動型示差熱天秤を用いて、熱重量分析(TGA)および示差熱分析(DTA)を行った。TGAとDTAを同時に行い、温度変化による試料の反応を分析した。本試験では、基準物質としてAlを使用し、室温〜1000℃まで2℃/minで温度上昇させた。
熱分析結果を図4に示す。図4の結果から、熱重量変化は600℃までに−58.34%であった。600℃以降は重量変化が見られなかった。
(a)60℃付近に大きな吸熱ピークが見られた。これは、硝酸塩が結晶水に溶けたため、吸熱反応が起こったと考えられる。結晶水は250℃までに放出された(6.1式参照)。
Ca(NO3)2・4H2O→Ca(NO3)2+4H2O (6.1)
(b)80℃から170℃の間でNHNOが転移した。NHNOの温度上昇による変化は、次の通りである。
α−斜方晶←84.2℃→正方晶←125℃→立方晶←169.5℃→液相
(c)160℃付近に吸熱ピークが見られた。これは、NHNOが液相に転移したと考えられる。
(d)NHNOは142℃付近から分解した(6.2式参照)。
NH4NO3→N2O+2H2O (6.2)
(e)290℃付近にNHNOが分解したときの発熱ピークが見られた。
(f)Ca(NO32の融点は561℃である。融点に相当する吸熱ピークは520℃付近に見られた。また、500℃付近からCa(NO32は分解し始めた(6.3式参照)。
Ca(NO3)2→CaO+NO3 (6.3)
また、試料の結晶化に必要なコストを求めるため、活性化エネルギーを求めた。測定には、差動型示差熱天秤(理学電機製、TG8120)を用いて,昇温速度を2℃/min、5℃/min、10℃/minで測定した。昇温速度を変化させたDTA曲線の発熱ピーク温度から、Kissingerの式(2.1式)を用いて試料の結晶化の活性化エネルギーを求めた。
ln(Tp 2/h)=Ec/RTp+constant (2.1)
なお、2.1式においてhは昇温速度、Tpは発熱ピークの温度(K),Rは気体定数(8.314J/mol・K)、Ecは活性化エネルギー(kJ/mol)である。
図5は、ln(Tp 2/h)と1/Tpの関係である。この結果から、試料の活性化エネルギーは139kJ/molであった。ヒドロキシアパタイトの活性化エネルギー435.1kJ/molに比べて、活性化エネルギーは68%程度小さかった。このことから、本発明のリン酸カルシウム系化合物は、結晶化に必要な活性化エネルギーが小さく、必要なコストも低くなることが確認できた。
<焼成試験>
熱分析の結果を踏まえて、試料を300℃、400℃、500℃、600℃でそれぞれ2時間焼成し、これらの表面観察を行った。表面観察には走査型電子顕微鏡(日立製作所製、S−2600N、SEM)を使用し、測定条件は加速電圧15kV、ビーム50である。
各温度で焼成した試料のSEM画像結果を図6〜9に示す。これらの粒径は50〜100μmで、凝集している箇所も見られた。300℃で焼成した試料のSEM画像(図6)から,100μmほどの球状の粒子が一部見られた。焼成温度が高くなるにつれてこの球状は崩れていった。図7,8の結果から、400〜500℃の間で形状が大きく変化し、500℃で焼成した試料には2〜4μmほどの穴や凹みが確認できた。これは、熱分析の結果から、結合水の放出や窒化物の分解が原因だと考えられる。図9の結果から、600℃で焼成した試料は、500℃以下で焼成した試料とは違い、細かい凹凸が確認できた。これは、硝酸カルシウムなどの窒化物が完全に放出したことで、リン酸カルシウム系化合物本来の固体の状態、すなわちヒドロキシアパタイトになったものだと考えられる。
また、600℃で焼成した試料に含まれる元素について,蛍光X線分析装置(理学電機工業製、RIX3001、XRF)を用いて以下の条件で定性分析を行った.分析手法はSFPバルク、フラックス成分はLi、希釈率は10.0000とした。この結果、CaOは59.0409(mass%)、Pは40.8751(mass%)であった。よって、600℃で焼成した場合、窒素は完全に放出したと言える。すなわち、600℃で焼成した試料には、硝酸カルシウムを含む窒化物が完全に放出しており、本発明のリン酸カルシウム系化合物の性状変化の原因は、硝酸カルシウムであることがわかった。
この結果を踏まえて、300℃、400℃、500℃で焼成した試料について、加熱と冷却による性状変化を観察した。試料は50℃程度で加熱した。300℃と400℃で焼成した試料は、スラリー状へと性状変化を示したが、500℃で焼成した試料はほとんど変化が見られなかった。よって、硝酸カルシウムの分解が始まる500℃では、性状変化が起こらないことがわかった。
次に、試料の含有元素を分析するため、次の方法で試料断面の分析を行った。300℃で焼成した試料をカーボンペーストによって固化させ、断面試料作製装置(日本電子製、IB−09010CP)を用いてアルゴンイオンにより研磨し、断面試料を作製した。そして、その断面を電界放出形ナノ解析電子顕微鏡(日本電子製、JEM−2100、FE−SEM)により断面観察を行った。測定条件は、加速電圧10kVとした。その結果を図10に示す。図10の結果から、中央に粒子を確認できた。
そのうえで、試料から出てくるX線を付属のエネルギー分散型分光器(EDS)によって検出し、試料断面の構成元素とその量(分布)を測定した。その結果を図11〜図14に示す。図11(OK)は、酸素の原子%(分布)を示す。図12(CaK)は、カルシウムの原子%(分布)を示す。図13(PK)は、リンの原子%(分布)を示す。図14(NK)は、窒素の原子%(分布)を示す。
図11〜図14の結果から、OおよびCaは画像全体に分布しており、Oは濃度が高く、Caは濃度が低いことがわかった。粒子にはP,O,Caが分布していた。一方、粒子の周りにはN,O,Caが分布していた。すなわち、粒子状にリンが存在する部分があり、その周りを窒素が存在する部分が取り囲むように別々に分布していることが確認できた。これにより、硝酸カルシウムの中にリン酸カルシウム系粒子が分布する構造を持つことが確認された。
≪比較例≫
試料の性状変化の原因が硝酸カルシウムなどの窒素化合物である可能性が高いため、リン酸カルシウム系化合物に硝酸カルシウムを混合した場合について検討した。具体的には、リン酸カルシウムニ水和物(Ca3(PO2・2H2O、和光純薬工業製 試薬特級)2.0Mと硝酸カルシウム四水和物(和光純薬工業製 試薬特級)1.2Mとを、実施例と同様に滴下、加熱・乾燥を行って試料(比較例)を得た。しかし、これにより得られた化合物では、特異な性状変化は起こらなかった。
本発明のリン酸カルシウム系化合物は、温度や湿度の変化で容易に状態変化することを利用して、自由度が高く混練操作の必要がない理想的な自己硬化型骨補填材への応用が期待できる。また、湿潤化し溶ける特性を利用して、長時間潤いを保つ口紅などの化粧品への応用が期待できる。さらには、空気中から水分を吸着し同時にリン肥料としての役割を果たす自動保水型肥料への応用や砂漠の緑化など、医療・生活・環境といった様々な分野への応用が期待される。

Claims (4)

  1. リンとカルシウムのモル比(Ca/P)が1.6〜1.7となる範囲で、1.9〜2.1Mの硝酸カルシウム四水和物と、1.1〜1.3Mのリン酸二水素アンモニウムとを含む水溶液を、80〜100℃に加熱して合成する、硝酸カルシウム及び硝酸アンモニウムを含むリン酸カルシウム系化合物の製造方法。
  2. 35℃未満ではバルク体状であり、多湿雰囲気下では湿潤状態化し、40℃以上に加熱するとスラリー状となり、これらの各状態が雰囲気に応じて可逆的に変化する、硝酸カルシウム及び硝酸アンモニウムを含むリン酸カルシウム系化合物。
  3. 硝酸カルシウム、硝酸アンモニウム、リン酸二水素カルシウム、及びリン酸水素カルシウムを含む複合材料となっている、請求項2に記載のリン酸カルシウム系化合物。
  4. 硝酸カルシウムの中にリン酸カルシウム系粒子が分布する構造を持つ、請求項2または請求項3に記載の硝酸カルシウム及び硝酸アンモニウムを含むリン酸カルシウム系化合物。

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