JP6100708B2 - 引上式連続鋳造装置 - Google Patents

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本発明は引上式連続鋳造装置に関する。
特許文献1には、鋳型を必要としない自由鋳造方法(引上式連続鋳造方法)に関する技術が開示されている。特許文献1に開示されている自由鋳造方法では、溶融金属(溶湯)の表面(すなわち湯面)にスタータを浸漬させた後、当該スタータを引き上げて溶湯を導出している。このとき、湯面近傍に設置された形状規定部材を介して溶湯を導出し、導出された溶湯を冷却することにより、所望の断面形状を有する鋳物を連続鋳造している。
特開2012−61518号公報
背景技術で説明したように、特許文献1に開示されている引上式連続鋳造装置では、保持炉から引き上げられた溶湯が、形状規定部材に設けられている溶湯通過部(開口部)を通過することで、鋳物の断面形状が規定される。このように、引上式連続鋳造装置では、形状規定部材と溶湯とを接触させて鋳物の断面形状を規定している。このため、形状規定部材として溶湯に対する接触角(つまり、濡れ性)が適切な材料を使用しないと、製造された鋳物の寸法精度が悪化するという問題がある。
具体的には、形状規定部材の溶湯に対する接触角が小さすぎると、形状規定部材に対して溶湯が濡れやすいため、溶湯が溶湯通過部を通過する際に、当該溶湯が溶湯通過部以外の部分に広がる場合がある(図7参照)。また、形状規定部材の溶湯に対する接触角が大きすぎると、形状規定部材11に対して溶湯が濡れにくいため、溶湯が溶湯通過部を通過する際に、当該溶湯が溶湯通過部の側面で撥かれる場合がある(図8参照)。このように、溶湯が溶湯通過部を通過する際に、溶湯が溶湯通過部以外の部分に広がったり、溶湯が溶湯通過部の側面で撥かれたりすると、製造された鋳物の寸法精度が悪化するという問題がある。
上記課題に鑑み本発明の目的は、製造された鋳物の寸法精度を向上させることができる引上式連続鋳造装置を提供することである。
本発明にかかる引上式連続鋳造装置は、溶湯を引き上げて所定の形状を備えた鋳物を形成する引上式連続鋳造装置であって、前記溶湯を保持する保持炉と、前記保持炉から引き上げられた溶湯が通過する溶湯通過部を有し、前記鋳物の断面形状を規定する形状規定部材と、を備える。前記保持炉から引き上げられた溶湯に対する前記形状規定部材の接触角は100度以上155度以下である。
本発明にかかる引上式連続鋳造装置では、保持炉から引き上げられた溶湯に対する形状規定部材の接触角が100度以上155度以下となるようにしている。このように形状規定部材の溶湯に対する接触角を当該範囲とすることで、保持炉から引き上げられた溶湯が溶湯通過部を通過する際に、当該溶湯が溶湯通過部以外の部分に広がること、及び当該溶湯が溶湯通過部の側面で撥かれることを抑制することができる。よって、製造された鋳物の寸法精度を向上させることができる。
本発明により、製造された鋳物の寸法精度を向上させることができる引上式連続鋳造装置を提供することができる。
実施の形態にかかる引上式連続鋳造装置を示す断面図である。 実施の形態にかかる引上式連続鋳造装置が備える形状規定部材の一例を示す上面図である。 図2に示す形状規定部材のIII−IIIにおける断面図である。 実施の形態にかかる引上式連続鋳造装置が備える形状規定部材の一例を示す底面図である。 実施の形態にかかる引上式連続鋳造装置を示す断面図である(形状規定部材を水平方向に変位させた場合)。 本発明のメカニズムを説明するための断面図である(形状規定部材の接触角が適切な場合)。 本発明のメカニズムを説明するための断面図である(形状規定部材の接触角が小さい場合)。 本発明のメカニズムを説明するための断面図である(形状規定部材の接触角が大きい場合)。 形状規定部材の接触角と製造された鋳物の断面の肉厚との関係を示すグラフである。 接触角が各々異なる形状規定部材を用いて製造した鋳物の肉厚を示すグラフである。
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
図1は、本実施の形態にかかる引上式連続鋳造装置を示す断面図である。本実施の形態にかかる引上式連続鋳造装置は、溶湯を引き上げて所定の形状を備えた鋳物を形成する引上式連続鋳造装置である。図1に示すように、本実施の形態にかかる引上式連続鋳造装置は、保持炉10、形状規定部材11、支持部材12、スタータ13、駆動部14、及び冷却部15を備える。
保持炉10は溶湯M1を保持している。溶湯M1は、例えばアルミニウムやその合金などの溶融金属である。保持炉10は、溶湯M1を構成している材料の融点以上の温度で溶湯M1を保持している。なお、溶湯M1を構成する材料はアルミニウム以外の金属や合金であってもよい。
形状規定部材11は、鋳物の断面形状を規定する部材である。形状規定部材11の下側の主面(下面)は、溶湯M1の湯面と接触するように配置されている。形状規定部材11は溶湯通過部25を備えており、保持炉10から引き上げられた溶湯M2が溶湯通過部25を通過することで、鋳物M3の断面形状が規定される。
形状規定部材11は、支持部材12を用いて支持されている。支持部材12は、鋳物を製造する際に形状規定部材11が鋳物の断面方向(つまり、溶湯M1の湯面と平行な方向(水平方向))において変位するように形状規定部材11を支持してもよい。このように鋳物の断面方向において形状規定部材11を変位させることで、鋳物の形状を任意かつ連続的に変更することができる。
なお、図1では、形状規定部材11と溶湯M1の湯面とが接触するように配置している場合を示しているが、形状規定部材11が溶湯M1の湯面と離間するように(つまり接触しないように)に配置してもよい。
形状規定部材11は、鋳造する鋳物M3の断面形状を規定するとともに、溶湯M1の表面に形成される酸化膜や溶湯M1の表面に浮遊する異物の鋳物M3への混入を抑制する機能も備える。
図2〜図4は、本実施の形態にかかる引上式連続鋳造装置が備える形状規定部材11の一例を示す図であり、図2は形状規定部材11の上面図、図3は図2に示す形状規定部材のIII−IIIにおける断面図、図4は形状規定部材11の底面図である。図2〜図4に示すように、形状規定部材11は、板状部材21、板状部材22、及び連結部材23_1〜23_4を備える。
板状部材21は、中心部に開口部を備える円盤状の部材である。板状部材22は、円盤状の部材である。板状部材21および板状部材22は、板状部材21および板状部材22の下面側において、連結部材23_1〜23_4を介して連結されている。つまり、連結部材23_1〜23_4の各々の一端は板状部材21の下面に接合されており、連結部材23_1〜23_4の各々の他端は板状部材22の下面に接合されている。これにより、板状部材22は、板状部材21の中心部に形成されている開口部に配置された状態となり、板状部材21と板状部材22との間には、円形状の溶湯通過部25が形成される。なお、図1では、図面を簡略化するために、連結部23_1、23_2の図示を省略している。
このように、形状規定部材11は円形状の溶湯通過部25を備えているので、保持炉10から引き上げられた溶湯M2が溶湯通過部25を通過することで形成される鋳物の断面形状は、円形状(つまり、溶湯通過部25と同一の形状)となる。したがって、図2〜図4に示す形状規定部材11を用いた場合は、中空部を備えるパイプ状の鋳物が形成される。
図1に示す駆動部14は、スタータ13を介して鋳物M3を引き上げることができるように構成されている。つまり、駆動部14は、スタータ13を上下方向(溶湯M1の湯面と垂直な方向)に移動可能に構成されている。また、駆動部14は、スタータ13を溶湯M1の湯面と平行な方向(水平方向)に移動可能に構成されていてもよい。更に、駆動部14は、スタータ13を溶湯M1の湯面に対して斜め方向に移動させてもよい。
溶湯M1にスタータ13を浸漬させた後、駆動部14がスタータ13を引き上げると、スタータ13と共に溶湯M2が引き上げられる。そしてこの溶湯M2が冷却されると鋳物M3が形成される。つまり、駆動部14がスタータ13を連続的に引き上げることで、鋳物M3が連続的に形成される。駆動部14によるスタータ13の引上速度を速くすると凝固界面(固液界面)SIFの位置を上げることができ、引上速度を遅くすると凝固界面SIFの位置を下げることができる。
このとき、図5に示すように、形状規定部材11を水平方向に変位させることで、鋳物M3の形状を任意かつ連続的に変更することができる。なお、図5では、形状規定部材11を水平方向に変位させて鋳物M3の形状を変更した場合について示したが、形状規定部材11を固定した状態で駆動部14を水平方向に変位させて鋳物M3の形状を変更してもよい。更に、形状規定部材11および駆動部14の両方を水平方向に変位させて、鋳物M3の形状を変更してもよい。
冷却部(冷却ノズル)15は、冷却ガス供給部(不図示)から供給される冷却ガス(空気、窒素、アルゴンなど)を鋳物M3に吹き付けて冷却する冷却手段である。冷却ガスの流量を増やすと凝固界面SIFの位置が下がり、冷却ガスの流量を減らすと凝固界面SIFの位置が上がる。ここで、溶湯M2は凝固していないため、溶湯M2に直接冷却ガスを吹き付けると溶湯M2が冷却ガスによって揺動して、鋳物の寸法精度や表面品質が劣化してしまう。このため、冷却部15は、凝固した直後の鋳物M3に冷却ガスを吹き付けて、間接的に溶湯M2を冷却するようにすることが好ましい。なお、溶湯M2を冷却することができるのであれば、冷却部14は必ずしも設ける必要はない。
駆動部14の動作および冷却部15から放出される冷却ガスの流量は、制御装置(不図示)を用いて制御される。
本実施の形態にかかる引上式連続鋳造装置では、保持炉から引き上げられた溶湯M2に対する形状規定部材11の接触角を所定の範囲内としていることを1つの特徴としている。以下、詳細に説明する。
本実施の形態にかかる引上式連続鋳造装置では、保持炉10から引き上げられた溶湯M2に対する形状規定部材11の接触角を100度以上155度以下、より好ましくは120度以上150度以下、更に好ましくは130度以上150度以下としている。形状規定部材11の溶湯M2に対する接触角を当該範囲とすることで、製造された鋳物M3の寸法精度を向上させることができる。
図6〜図8は、本発明のメカニズムを説明するための断面図であり、図6は形状規定部材11(以下では、板状部材21、22を総称して形状規定部材11と記載する)の接触角が適切な場合、図7は形状規定部材11の接触角が小さい場合、図8は形状規定部材11の接触角が大きい場合を示している。なお、図6〜図8は、図5の形状規定部材11付近の拡大図であり、図5と同一の構成要素には同一の符号を付している。また、図6〜図8では、説明のために形状規定部材11の厚さを厚く記載しているが、形状規定部材11の実際の厚さは1mm〜7mm程度である。
図6に示すように、本実施の形態にかかる引上式連続鋳造装置では、保持炉10から引き上げられた溶湯M2が溶湯通過部25を通過することで、鋳物M3の断面形状が規定される。このとき、形状規定部材11を水平方向に変位させることで、鋳物M3の形状を変更することができる。図6に示す場合は、形状規定部材11を右方向に変位させて、鋳物M3を屈曲させている例を示している。この場合、鋳物M3の肉厚t1は、溶湯通過部25の幅t0(つまり、板状部材21と板状部材22との間隔)に対応した肉厚となる。
図6に示す場合は、溶湯M2に対する形状規定部材11の接触角が適切な範囲(100度以上155度以下)であるので、鋳物M3の肉厚t1は、溶湯通過部25の幅t0(設計値)に対して所定の誤差δの範囲内の肉厚となる(つまり、t1=t0±δ)。
一方、溶湯M2に対する形状規定部材11の接触角が小さい場合は、図7に示すように、形状規定部材11を水平方向に変位させた際、溶湯M2が板状部材21の上面31の一部にはみ出す。つまり、溶湯M2に対する形状規定部材11の接触角が小さい場合は、形状規定部材11に対して溶湯M2が濡れやすいため、板状部材21の上面31に溶湯M2が広がる。このため、鋳物M3の肉厚t2は、溶湯通過部25の幅t0(設計値)よりも大きな値となる(つまり、t2>t0+δ)。
また、溶湯M2に対する形状規定部材11の接触角が大きい場合は、図8に示すように、形状規定部材11を水平方向に変位させた際、溶湯M2が溶湯通過部25の側面32で撥かれる。つまり、溶湯M2に対する形状規定部材11の接触角が大きい場合は、形状規定部材11に対して溶湯M2が濡れにくいため、溶湯M2に板状部材22から離れる方向の力が働くと、溶湯M2が溶湯通過部25の側面32からはがれる。このため、鋳物M3の肉厚t3は、溶湯通過部25の幅t0(設計値)よりも小さな値となる(つまり、t3<t0−δ)。
以上で説明した理由から、本実施の形態にかかる引上式連続鋳造装置では、形状規定部材11の溶湯に対する接触角を100度以上155度以下としている。これにより、保持炉10から引き上げられた溶湯M2が溶湯通過部25を通過する際に、当該溶湯M2が溶湯通過部25以外の部分(上面31)に広がること(図7参照)、及び当該溶湯M2が溶湯通過部25の側面32で撥かれること(図8参照)を抑制することができる。よって、製造された鋳物M3の寸法精度を向上させることができる。
例えば、形状規定部材11は、上記所定の接触角を有する材料で構成してもよく、また上記所定の接触角を有する材料で形状規定部材(本体)の表面をコーティングして構成してもよい。例えば、溶湯M2がアルミニウム合金(6063合金)である場合、溶湯M2に対する接触角が120度以上150度以下である材料として酸化アルミニウム、黒鉛、ムライト、二酸化ケイ素、窒化アルミニウムを、溶湯M2に対する接触角が130度以上150度以下である材料として窒化ホウ素(h−BN、c−BN)を用いることができる。また、六方晶系の窒化ホウ素(h−BN)を90%以上含む焼結体を用いて形状規定部材11を構成してもよい。
特に、窒化ホウ素はアルミニウムやアルミニウム合金と反応しにくい。このため、形状規定部材11を構成している材料、又は形状規定部材11の表面をコーティングしている材料に窒化ホウ素を用いた場合は、形状規定部材11が溶湯(アルミニウム)中に溶出することを抑制することができる。また、窒化ホウ素はアルミニウムやアルミニウム合金に対して濡れ性が悪いため、溶湯(アルミニウム)による形状規定部材11の焼き付きを抑制することができ、引上式連続鋳造装置のメンテナンス性を向上させることができる。
また、窒化ホウ素は線膨張係数が小さいので、窒化ホウ素を用いて形状規定部材11を構成した場合は、鋳造時(高温時)における形状規定部材11の変形を抑制することができる。よって、製造された鋳物の寸法精度の悪化を抑制することができる。
なお、上記で説明した材料は一例であり、形状規定部材11を構成する材料、又は形状規定部材11の表面をコーティングする材料は、使用する溶湯M2の材料に応じて適宜、選択することができる。つまり、形状規定部材11を構成する材料は、溶湯M2に対する接触角が100度以上155度以下となる材料であればどのような材料であってもよく、使用する溶湯M2の材料に応じて任意に選択することができる。
また、上記所定の接触角を有する材料で形状規定部材(本体)の表面をコーティングする場合は、形状規定部材11の上面(図7の上面31参照)および溶湯通過部25の側面(図8の側面32参照)を少なくともコーティングすればよい。形状規定部材11の上面をコーティングする場合は、少なくとも溶湯通過部25の近傍をコーティングすればよく、形状規定部材11の上面全てをコーティングする必要はない。換言すると、形状規定部材11の表面のうち、保持炉10から引き上げられた溶湯M2が接触する部分およびその近傍(つまり、溶湯M2が接触する可能性がある部分)を少なくともコーティングすればよい。
一方、形状規定部材11の耐久性の向上等を考慮すると、形状規定部材の表面全体を上記所定の接触角を有する材料でコーティングしてもよい。
例えば、図2〜図4に示した形状規定部材11の場合は、板状部材21および板状部材22を構成する材料に上記所定の接触角を有する材料を用いてもよく、又は板状部材21および板状部材22の表面を上記所定の接触角を有する材料を用いてコーティングしてもよい。一方、板状部材21および板状部材22を連結している連結部材23_1〜23_4については、必ずしも上記所定の接触角を有する材料を用いなくてもよい。勿論、連結部材23_1〜23_4を構成する材料として、上記所定の接触角を有する材料を使用してもよい。
なお、板状部材21および板状部材22については、上記所定の接触角を有する材料であれば、これらを同一の材料を用いて構成してもよく、また異なる材料を用いて構成してもよい。また、図2〜図4に示した形状規定部材11は一例であり、本実施の形態にかかる引上式連続鋳造装置では、これ以外の構造を有する形状規定部材を用いてもよい。例えば、形状規定部材は1枚の板状部材を用いて構成してもよく、この場合は連結部材を用いる必要はない。また、複数枚の板状部材を用いて形状規定部材を構成した場合であっても、各々の板状部材を独立して支持することができるのであれば、各々の板状部材を連結部材を用いて連結する必要はない。
以上で説明した本実施の形態にかかる発明により、製造された鋳物の寸法精度を向上させることができる引上式連続鋳造装置を提供することができる。
<変形例>
以下、本実施の形態かかる引上式連続鋳造装置の変形例について説明する。引上式連続鋳造装置では、形状規定部材11と溶湯M2とを接触させて鋳物M3の断面形状を規定している。このため、形状規定部材11を構成する材料として適切な材料を使用しないと、製造された鋳物に鋳造欠陥が発生するという問題がある。
つまり、形状規定部材11の熱伝導率が大きいと、形状規定部材11の下部に位置する溶湯M1から形状規定部材11の上部に位置する空気への伝熱が促進され、形状規定部材11の下部に位置する溶湯M1の温度が低下する。このように、溶湯M1の温度が低下すると、溶湯M1の過凝固に起因して凝固片が発生し、この凝固片が製造された鋳物中に入り込み鋳造欠陥となる場合がある。
特に、冷却部15から冷却ガスを鋳物M3に吹き付けた場合は、冷却ガスの一部が形状規定部材11の上面に吹き付けられ、形状規定部材11の上面の冷却も促進される。このため、形状規定部材11の下部に位置する溶湯M1の温度が低下するという問題が顕著になる。更にこの問題は、形状規定部材11の下面が溶湯M1の湯面と接触している場合に顕著になる。
この点を考慮して、本実施の形態にかかる引上式連続鋳造装置では、形状規定部材11の接触角を上記所定の接触角とすること加えて、形状規定部材11を構成する材料の熱伝導率を27[W/(m・K)]以下、より好ましくは17[W/(m・K)]以下としてもよい。このように、形状規定部材11を構成する材料として熱伝導率が小さい材料を使用することで、形状規定部材11の下部に位置する溶湯M1から形状規定部材11の上部に位置する空気への伝熱を抑制でき、形状規定部材11の下部に位置する溶湯M1の温度が低下することを抑制することができる。よって、溶湯M1の過凝固に起因する凝固片の発生を抑制することができるので、製造された鋳物に鋳造欠陥が発生することを抑制することができる。
また、形状規定部材11の線膨張係数が大きいと、鋳造時(高温時)に形状規定部材11の形状が変形し、製造する鋳物の寸法精度が悪化するという問題がある。特にこの問題は、形状規定部材11を構成する材料の厚さが5mm以下の場合に特に顕著にあらわれる。
この点を考慮して、本実施の形態にかかる引上式連続鋳造装置では、形状規定部材11の接触角を上記所定の接触角とすることに加えて、形状規定部材11を構成する材料の線膨張係数を13×10−6(/K)以下、より好ましくは11×10−6(/K)以下となるようにしてもよい。このように、形状規定部材11を構成する材料として線膨張係数が小さい材料を使用することで、鋳造時(高温時)における形状規定部材11の変形を抑制することができるので、製造された鋳物M3の寸法精度の悪化を抑制することができる。
例えば、上記熱伝導率および上記線膨張係数を有する材料として、チタン合金(Ti−6Al−4V等)、フェライト系ステンレス鋼(SUS329、SUS430等)、チタン(Ti)、ニッケル合金(インコネル600等)、合金工具鋼(SKD61等)が挙げられる。本実施の形態では、例えば上記熱伝導率および上記線膨張係数の少なくとも一方を有する材料で形状規定部材11を構成し、更に、この形状規定部材11の表面を上記所定の接触角を有する材料でコーティングするようにしてもよい。
次に、本発明の実施例について説明する。図9は、形状規定部材11の接触角と、製造された鋳物の断面の肉厚(図6〜図8に示す鋳物M3の肉厚t1〜t3に対応)との関係を示すグラフである。図9に示す結果は、形状規定部材11を水平方向に変位させた際に形成される鋳物(図6〜図8参照)のシミュレーション結果である。本実施例では、溶湯M1として720℃のアルミニウム合金(6063合金)を使用し、形状規定部材11の溶湯通過部25の幅t0を2mmとした場合についてシミュレーションを行った。
図9に示すように、溶湯M2に対する形状規定部材11の接触角が95度よりも小さい場合は、鋳物M3の断面の肉厚が2.3mmよりも厚くなった。つまり、この場合は、図7に示すように、形状規定部材11に対して溶湯M2が濡れやすいため、板状部材21の上面31に溶湯M2が広がる。このため、鋳物M3の肉厚t2は、溶湯通過部25の幅t0(設計値)よりも大きな値となった。
また、図9に示すように、溶湯M2に対する形状規定部材11の接触角が160度よりも大きい場合は、鋳物M3の断面の肉厚が1.7mmよりも薄くなった。つまり、この場合は、図8に示すように、形状規定部材11に対して溶湯M2が濡れにくいため、溶湯M2に板状部材22から離れる方向の力が働くと、溶湯M2が溶湯通過部25の側面32で撥かれる。このため、鋳物M3の肉厚t3は、溶湯通過部25の幅t0(設計値)よりも小さな値となった。
一方、図9に示すように、保持炉から引き上げられた溶湯M2に対する形状規定部材11の接触角が100度以上155度以下である場合は、鋳物M3の断面の肉厚が、設計値の肉厚2mmに対して±0.3mmの範囲内となった。つまり、溶湯M2に対する形状規定部材11の接触角が適切な範囲(100度以上155度以下)である場合は、保持炉10から引き上げられた溶湯M2が溶湯通過部25を通過する際に、当該溶湯M2が溶湯通過部25以外の部分(上面31)に広がること(図7参照)、及び当該溶湯M2が溶湯通過部の側面32で撥かれること(図8参照)を抑制することができる。よって、製造された鋳物M3の寸法精度が向上した。
更に本実施例では、図2〜図4に示した形状規定部材11を用いて鋳物を製造し、当該製造した鋳物の寸法精度について調べた。鋳物を製造する際は、図1に示した引上式連続鋳造装置を用いた。この際、溶湯M1として720℃のアルミニウム合金(6063合金)を使用し、形状規定部材11の溶湯通過部25の幅を3mmとした。
形状規定部材11には、(A)六方晶系の窒化ホウ素(h−BN)を99%以上含む焼結体で構成した形状規定部材(形状規定部材Aとする)、(B)ステンレス鋼(SUS304)で構成した形状規定部材の表面に、h−BNを99%以上含む粉末を塗布した形状規定部材(形状規定部材Bとする)、(C)ステンレス鋼(SUS304)で構成した形状規定部材の表面に、h−BNを99%以上含む粉末を塗布し、その後、h−BNをはがした形状規定部材(形状規定部材Cとする)、(D)ステンレス鋼(SUS304)で構成した形状規定部材(表面コーティングなし。形状規定部材Dとする)を用いた。形状規定部材A、B、C、Dを用いて製造された鋳物をそれぞれ、サンプルA、B、C、Dとする。なお、六方晶系の窒化ホウ素(h−BN)のアルミニウムに対する接触角は、1173Kにおいて143度、1273Kにおいて135度、1373Kにおいて132度である。
図10に示すように、形状規定部材Aを用いて作製したサンプルAでは肉厚が2.95mmとなった。また、形状規定部材Bを用いて作製したサンプルBでは肉厚が3.05mmとなった。よって、h−BNを99%以上含む焼結体を用いて構成した形状規定部材A、および形状規定部材の表面にh−BNを99%以上含む粉末を塗布した形状規定部材B(つまり、h−BNをコーティングした形状規定部材)を用いた場合は、形状規定部材の溶湯に対する接触角を適切な範囲(100度以上155度以下)とすることができ、サンプルAおよびサンプルBの肉厚が設計値(3mm)の誤差範囲内に収まった。
一方、形状規定部材Cを用いて作製したサンプルCでは肉厚が3.46mmとなった。また、形状規定部材Dを用いて作製したサンプルDでは肉厚が3.55mmとなった。よって、h−BNを塗布した後、h−BNをはがした形状規定部材C、および表面がステンレス鋼(SUS304)である形状規定部材Dを用いた場合は、形状規定部材の溶湯に対する接触角が適切ではなかったため(つまり、接触角が小さすぎたため)、サンプルCおよびサンプルDの肉厚が設計値(3mm)よりも大幅に厚くなった。
このように、形状規定部材の溶湯に対する接触角を適切な範囲とすることで、製造された鋳物の寸法精度を向上させることができた。
以上、本発明を上記実施の形態および実施例に即して説明したが、本発明は上記実施の形態および実施例の構成にのみ限定されるものではなく、本願特許請求の範囲の請求項の発明の範囲内で当業者であればなし得る各種変形、修正、組み合わせを含むことは勿論である。
10 保持炉
11 形状規定部材
12 支持部材
13 スタータ
14 駆動部
15 冷却部
21、22 板状部材
23_1〜23_4 連結部材
25 溶湯通過部

Claims (6)

  1. 溶湯を引き上げて所定の形状を備えた鋳物を形成する引上式連続鋳造装置であって、
    前記溶湯を保持する保持炉と、
    前記保持炉から引き上げられた溶湯が通過する溶湯通過部を有し、前記鋳物の断面形状を規定する形状規定部材と、を備え、
    前記保持炉から引き上げられた溶湯に対する前記形状規定部材の接触角は100度以上155度以下である、
    引上式連続鋳造装置。
  2. 前記保持炉から引き上げられた溶湯に対する前記形状規定部材の接触角が120度以上150度以下である、請求項1に記載の引上式連続鋳造装置。
  3. 前記保持炉から引き上げられた溶湯に対する前記形状規定部材の接触角が130度以上150度以下である、請求項1に記載の引上式連続鋳造装置。
  4. 前記形状規定部材を構成している材料、又は前記形状規定部材の表面をコーティングしている材料が、酸化アルミニウム、黒鉛、ムライト、二酸化ケイ素、窒化アルミニウムのいずれかである、請求項2に記載の引上式連続鋳造装置。
  5. 前記形状規定部材を構成している材料、又は前記形状規定部材の表面をコーティングしている材料が窒化ホウ素である、請求項3に記載の引上式連続鋳造装置。
  6. 前記形状規定部材を構成している材料が、六方晶系の窒化ホウ素を90%以上含む焼結体である、請求項3に記載の引上式連続鋳造装置。
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