以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態を詳細に説明する。図1に示す油圧回路は、車両の駆動系に油圧を供給するためのものであり、本実施形態による可変容量型オイルポンプ1やPH制御弁(PH REG VLV)21を備えている。可変容量型オイルポンプ1は、吸入通路INや吐出通路OUTを有しており、その詳細な説明については後述する。吸入通路INはリザーバRに、吐出通路OUTはPH制御弁21に、それぞれ接続されており、可変容量型オイルポンプ1は、リザーバRに貯留されたオイル(作動油)を吸入通路INから吸入し、吐出通路OUTを介してPH制御弁21に吐出する。
PH制御弁21は、スプール弁で構成されており、複数の油路を介して、DR油室31、DN油室32、LC油室33、FWD油室34及びRVS油室35に接続されている。可変容量型オイルポンプ1から吐出される油圧は、PH制御弁21によって目標吐出圧PHOBJになるように調整される。この目標吐出圧PHOBJは、後述するECU2によって設定される。
DR油室31及びDN油室32は、ベルト式の無段変速機の入力側及び出力側のプーリ(いずれも図示せず)にそれぞれ設けられている。この無段変速機は、車両に動力源として搭載されたエンジンの動力を無段階に変速して車両の駆動輪(いずれも図示せず)に伝達するためのものであり、エンジンと駆動輪の間に設けられている。DR油室31への油圧の供給により入力側のプーリの有効径が、DN油室32への油圧の供給により出力側のプーリの有効径が、それぞれ変化し、ひいては、無段変速機の変速比が変更される。
PH制御弁21とDR油室31を接続する油路の途中には、DR調圧弁(DR REG VLV)22が、PH制御弁21とDN油室32を接続する油路の途中には、DN調圧弁(DN REG VLV)23が、それぞれ設けられている。これらのDR調圧弁22及びDN調圧弁23は、スプール弁で構成されており、PH制御弁21から供給される油圧によって駆動される。PH制御弁21からDR調圧弁22及びDN調圧弁23に供給される油圧は、第1電磁弁(LS-DR )SV1及び第2電磁弁(LS-DN )SV2によってそれぞれ変更される。これにより、DR調圧弁22及びDN調圧弁23の開度がそれぞれ変更されることによって、PH制御弁21からDR油室31及びDN油室32に供給される油圧がそれぞれ変化し、ひいては、無段変速機の変速比が制御される。
LC油室33は、トルクコンバータのロックアップクラッチに設けられている(いずれも図示せず)。トルクコンバータは、上述したエンジンから入力されたトルクを変換して駆動輪に伝達するためのものであり、エンジンと無段変速機の間に設けられている。ロックアップクラッチの締結度合は、LC油室33への油圧の供給によって変更される。
PH制御弁21とLC油室33を接続する油路の途中には、LC制御弁(LC CTL VLV)24が設けられている。このLC制御弁24は、スプール弁で構成されており、PH制御弁21から供給される油圧によって駆動される。PH制御弁21からLC制御弁24に供給される油圧は、第3電磁弁(LS-LCC)SV3によって変更される。これにより、LC制御弁24の開度が変更されることによって、PH制御弁21からLC油室33に供給される油圧が変化し、ひいては、ロックアップクラッチの締結度合が制御される。
FWD油室34及びRVS油室35は、前後進切換機構の前進クラッチ及び後進ブレーキ(いずれも図示せず)にそれぞれ設けられている。前後進切換機構は、エンジンから駆動輪に伝達される動力の回転方向を変更するためのものであり、上述したトルクコンバータと無段変速機の間に設けられている。前進クラッチの締結及び後進ブレーキの解放によって、エンジンの動力は、その回転方向が変更されずに駆動輪に伝達され、それにより、車両が前進する。また、前進クラッチの解放及び後進ブレーキの締結によって、エンジンの動力は、その回転方向が逆転方向に変更された状態で駆動輪に伝達され、それにより、車両が後進する。
PH制御弁21とFWD油室34及びRVS油室35とを接続する油路の途中には、上流側から順に、第4電磁弁(LS-CPC)SV4及びマニュアル弁(MAN VLV )25が設けられている。マニュアル弁25は、スプール弁で構成され、油圧の供給先として、車両の運転者に操作されるシフトレバー(図示せず)のシフト位置がドライブ、スポーツ又はローにあるときには、FWD油室34を選択し、リバースにあるときには、RVS油室35を選択する。PH制御弁21からFWD油室34及びRVS油室35に供給される油圧は、第4電磁弁SV4によってそれぞれ変更され、ひいては、前進クラッチ及び後進ブレーキの締結・解放がそれぞれ制御される。
図2に示すように、第1〜第4電磁弁SV1〜SV4は、ECU2に接続されており、ECU2によって第1〜第4電磁弁SV1〜SV4の開度が制御される。
次に、図3を参照しながら、可変容量型オイルポンプ1について説明する。以下、図3の上側を「上」、下側を「下」、左側を「左」、右側を「右」、手前側を「前」、奥側を「後」として説明する。可変容量型オイルポンプ1は、エンジンを動力源としており、図3に示すように、ハウジング4と、ハウジング4に収容されたスライダーガイド5、アウターロータ6及びインナーロータ7を備えている。
ハウジング4には、スライダーガイド5などを収容するための収容室4aが設けられている。収容室4aを画成する後壁には、吸入ポート4b及び吐出ポート4cが形成されており、前者4bは後壁の下部に、後者4cは後壁の上部に、それぞれ位置している。吸入ポート4b及び吐出ポート4cは、スライダーガイド5の後述する収容孔5aで画成される空間に連通するとともに、吸入ポート4bは前述した吸入通路INに、吐出ポート4cは吐出通路OUTに、それぞれ連通している。
また、収容室4aは、スライダーガイド5によって、第1油圧室4d及び第2油圧室4eに区分されており、両油室4d、4eには、スライダーガイド5を駆動するための油圧が供給される。第1油圧室4dは、収容室4aの右端部及び上端部の右部に位置しており、第2油圧室4eは、収容室4aの左端部に位置している。図3に示すように、第1油圧室4dは、ハウジング4のうちの吐出ポート4c側の部位に配置されており、第2油圧室4eは、スライダーガイド5を間にして、ハウジング4のうちの第1油圧室4dと反対側の部位に配置されている。さらに、第2油圧室4eには、スライダーガイド5を第1油圧室4d側に付勢する復帰ばね8が設けられている。また、スライダーガイド5は、後壁に沿って、収容室4a内を左右方向に移動自在である。さらに、スライダーガイド5には、アウターロータ6を収容するための断面円形の収容孔5aが形成されており、収容孔5aは前後方向に延びている。
また、第1及び第2油圧室4d、4eは、油路(図示せず)を介して、吐出通路OUTに連通しており、第1油圧室4dと吐出通路OUTを連通させる油路には第1制御弁11が、第2油圧室4eと吐出通路OUTを連通させる油路には第2制御弁12が、それぞれ設けられている。これらの第1及び第2制御弁11、12は、リニアソレノイド弁で構成されており、ECU2に接続されている(図2参照)。第1及び第2制御弁11、12の開度はECU2によって制御され、それにより、吐出ポート4cから吐出通路OUTなどを介して第1及び第2油圧室4d、4eに供給される油圧が制御される。
アウターロータ6は、円筒状に形成されており、スライダーガイド5の収容孔5aよりも短い長さで前後方向に延びている。また、アウターロータ6は、その外周面が収容孔5aの内周面に摺接しており、スライダーガイド5とともにハウジング4に対して左右方向に移動自在であり、また、ハウジング4及びスライダーガイド5に対して回転自在である。アウターロータ6の内周面には、6つのベーン係合凹部6aが形成されており、これらのベーン係合凹部6aは、周方向に等間隔に配置されている。
インナーロータ7は、円柱状に形成されており、アウターロータ6の内側に、アウターロータ6に対して偏心した状態で設けられている。インナーロータ7の外周面には、放射状に延びる6つのベーン収容凹部7aが形成されており、これらのベーン収容凹部7aは周方向に等間隔に配置されている。各ベーン収容凹部7aには、板状のベーン9が径方向に出没自在に設けられており、ベーン9の外端部は、アウターロータ6のベーン係合凹部6aに回動自在に係合している。インナーロータ7とアウターロータ6の間には、油室OCが画成されている。
また、インナーロータ7は、ハウジング4に回転自在に支持された入力軸10に同軸状に固定されており、ハウジング4、スライダーガイド5及びアウターロータ6に対して、入力軸10と一体に回転自在である。なお、図3では、便宜上、ベーン係合凹部6a、ベーン収容凹部7a及びベーン9の一部の符号と、ベーン9のハッチングを省略している。また、ベーン係合凹部6a、ベーン収容凹部7a及びベーン9の数は、6つに限らず、任意である。
また、上記の入力軸10は、エンジンのクランク軸(図示せず)に連結されており、エンジンの運転中、図3に矢印付きの太い線で示すように、インナーロータ7とともに時計回りに回転する。これにより、上記の油室OCのうちの吸入ポート4b側の部分の容積が増大することによって、吸入ポート4bから油室OCに、オイルが吸入されるとともに、吐出ポート4c側の部分の容積が減少することによって、吸入されたオイルが吐出ポート4cに吐出される。この吸入ポート4bからのオイルの吸入動作と、吐出ポート4cへのオイルの吐出動作は、入力軸10の回転中に繰り返し行われる。
また、図2に示すように、ECU2には、エンジン回転数センサ41からエンジンの回転数NEを表す検出信号が、出力される。さらに、ECU2には、スロットル弁開度センサ42から、エンジンのスロットル弁(図示せず)の開度(以下「スロットル弁開度」という)THを表す検出信号が、第1回転数センサ43から、前述した無段変速機の入力側のプーリの回転数を表す検出信号が、第2回転数センサ44から、出力側のプーリの回転数を表す検出信号が、それぞれ出力される。ECU2は、検出されたスロットル弁開度THに基づいて、スロットル弁開度変化率ΔTHを算出する。このスロットル弁開度変化率ΔTHは、スロットル弁開度THの変化率(単位時間当たりのスロットル弁開度THの変化量)である。また、ECU2は、検出された出力側のプーリの回転数に対する入力側のプーリの回転数の比を、無段変速機の変速比RATIOとして算出する。
ECU2にはさらに、吐出量センサ45から、吐出ポート4cに吐出されるオイルの吐出量(以下「実オイル吐出量」)QACTを表す検出信号が、アクセル開度センサ46から、車両のアクセルペダル(図示せず)の操作量(以下「アクセル開度」という)APを表す検出信号が、車速センサ47から、車両の速度である車速VPを表す検出信号が、それぞれ出力される。
ECU2は、I/Oインターフェース、CPU、RAM及びROMなどから成るマイクロコンピュータで構成されている。ECU2は、上述した各種のセンサ41〜47からの検出信号に応じ、ROMに記憶された制御プログラムに従って、エンジン、第1〜第4電磁弁SV1〜SV4の開度、第1及び第2制御弁11、12の開度を制御する。
具体的には、ECU2は、検出されたアクセル開度APに応じ、スロットル弁開度THを制御することによって、エンジンの出力を制御する。また、検出された車速VP及びスロットル弁開度THに応じ、所定のマップ(図示せず)を検索することによって、目標変速比を算出するとともに、算出された目標変速比に、算出された変速比RATIOがなるように、第1及び第2電磁弁SV1、SV2の開度を制御する。さらに、ECU2は、無段変速機の変速比RATIOの変化度合が大きいほど、前述したDR油室31やDN油室32にオイルをより多く供給するために、目標吐出圧PHOBJをより大きな値に設定する。
また、可変容量型オイルポンプ1のオイルの吐出量が目標吐出量QOBJになるように、第1及び第2制御弁11、12の開度を制御する。これにより、前述した第1及び第2油圧室4d、4eに供給される油圧が制御されることによって、スライダーガイド5が駆動され、アウターロータ6とともにハウジング4内を左右方向に移動する結果、アウターロータ6に対するインナーロータ7の偏心量ECが変化し(図3及び図4参照)、ひいては、オイルの吐出量が目標吐出量QOBJに制御される。目標吐出量QOBJの算出手法については後述する。
図5は、ECU2によって実行される制御処理を示している。本処理は、可変容量型オイルポンプ1のオイルの吐出量及び吐出圧を増大させるときに、所定時間(例えば100msec)ごとに繰り返し実行される。まず、ステップ1(「S1」と図示。以下同じ)では、変速比RATIO及び算出されたスロットル弁開度変化率ΔTHに応じ、所定のマップ(図示せず)を検索することによって、吐出圧変化率パラメータΔPHを算出する。
この吐出圧変化率パラメータΔPHは、吐出ポート4cに吐出されるオイルの吐出圧の変化率(単位時間当たりの油圧の変化量)であり、吐出圧の増大中には正値になり、減少中には負値になる。また、上記のマップでは、吐出圧変化率パラメータΔPHは、スロットル弁開度変化率ΔTHが大きいほど、より大きな値に設定されており、また、無段変速機のシフトダウン時には変速比RATIOが大きいほど、シフトアップ時には変速比RATIOが所定の中間レシオから離れるほど、より大きな値に設定されている。これは、可変容量型オイルポンプ1がエンジンを動力源として駆動されることと、スロットル弁開度変化率ΔTHが大きいほど、エンジンの出力の増加度合がより大きくなるためである。また、無段変速機の変速時には、入力側又は出力側のプーリの有効径を変更するために、DR油室31又はDN油室32に供給される油圧が大きくなるためである。
上記ステップ1に続くステップ2では、算出された吐出圧変化率パラメータΔPHに基づき、図6に示すマップを検索することによって、係数KPを算出する。このマップでは、後述する理由により、係数KPは、吐出圧変化率パラメータΔPHが大きいほど、より大きな値に設定されており、吐出圧変化率パラメータΔPHが比較的大きな所定の範囲では、値1よりも大きな最大値KPMAXに設定されている。
次いで、目標吐出圧PHOBJを取得する(ステップ3)。この目標吐出圧PHOBJは、前述したように吐出ポート4cに吐出されるオイルの吐出圧の目標値である。次に、上記ステップ2で算出された係数KPを、上記ステップ3で取得された目標吐出圧PHOBJに乗算することによって、第1目標油圧PHNを算出する(ステップ4)。この第1目標油圧PHNは、第1油圧室4dに供給される油圧(以下「第1油圧室供給油圧」という)の目標値である。以上のステップ1〜4の処理は、本処理を開始した最初のループでのみ実行され、それにより、第1目標油圧PHNは、本処理の実行中、本処理を開始した最初のループで得られた吐出圧変化率パラメータΔPH及び目標吐出圧PHOBJに応じて算出された値に保持される。
上記ステップ4に続くステップ5では、算出された第1目標油圧PHNに基づいて、第1制御弁11の開度を制御する。これにより、第1油圧室供給油圧(第1油圧室4dに供給される油圧)が、第1目標油圧PHNに制御される。以上のステップ2〜5の実行内容から明らかなように、前述した係数KPの設定によって、第1油圧室供給油圧は、吐出圧変化率パラメータΔPHが大きいほど、また、目標吐出圧PHOBJが大きいほど、より大きな値に制御される。また、吐出圧変化率パラメータΔPHが比較的大きいときには、係数KPを最大値KPMAXに保持することによって、第1油圧室供給油圧の過大化が防止される。
次いで、前述した目標変速比(無段変速機の変速比RATIOの目標値)に応じ、所定のマップ(図示せず)を検索することによって、前述した目標吐出量QOBJを算出する(ステップ6)。次に、算出された目標吐出量QOBJ及び検出された実オイル吐出量QACTに応じて、目標吐出量変化率ΔQOBJを算出する(ステップ7)。
この目標吐出量変化率ΔQOBJは、オイルの吐出量の変化率の目標値であり、具体的には、目標吐出量QOBJと実オイル吐出量QACTとの偏差に応じ、所定のマップ(図示せず)を検索することによって算出される。このマップでは、目標吐出量変化率ΔQOBJは、目標吐出量QOBJと実オイル吐出量QACTとの偏差が大きいほど(QOBJがQACTよりも大きいほど)、オイルの吐出量をより大きく増大させるために、より大きな値に設定されており、QOBJとQACTとの偏差が非常に小さい領域では、値0に設定されている。
ステップ7に続くステップ8では、目標吐出圧PHOBJ、算出された目標吐出量変化率ΔQOBJ、及び前記ステップ4で算出された第1目標油圧PHNに応じて、第2目標油圧PLNを算出する。この第2目標油圧PLNは、第2油圧室4eに供給される油圧(以下「第2油圧室供給油圧」という)の目標値であり、その算出手法については後述する。
次いで、算出された第2目標油圧PLNに基づいて、第2制御弁12の開度を制御し(ステップ9)、本処理を終了する。このステップ9の実行により、第2油圧室供給油圧が第2目標油圧PLNに制御される。
次に、上記ステップ8による第2目標油圧PLNの算出手法について説明する。すなわち、まず、目標吐出圧PHOBJ及び目標吐出量変化率ΔQOBJに応じ、図7に示すPHN−PLNマップを検索することによって、第1目標油圧PHNと第2目標油圧PLNの偏差PHN−PLN(以下「目標油圧偏差」という)を算出する。
このPHN−PLNマップでは、目標油圧偏差PHN−PLNは、互いに異なる目標吐出圧PHOBJの所定値である第1目標吐出圧PHOBJ1、第2目標吐出圧PHOBJ2及び第3目標吐出圧PHOBJ3(PHOBJ1>PHOBJ2>PHOBJ3)に対して設定されており、目標吐出圧PHOBJが第1〜第3目標吐出圧PHOBJ1〜PHOBJ3のいずれでもないときには、補間演算によって算出される。そして、算出された目標油圧偏差PHN−PLNを、前記ステップ4で算出された第1目標油圧PHNから減算することによって(PHN−(PHN−PLN))、第2目標油圧PLNが算出される。
また、PHN−PLNマップでは、目標油圧偏差PHN−PLNは、目標吐出圧PHOBJが高いほど、また、目標吐出量変化率ΔQOBJが大きいほど、より大きな値に設定されている。これは、前述したように、目標吐出圧PHOBJが高いほど、無段変速機の変速比RATIOを大きく変化させるために、より多量のオイルが必要とされるので、目標油圧偏差PHN−PLNをより大きな値に設定することによって、スライダーガイド5を迅速に移動させることで、オイルの吐出量を目標吐出量QOBJに迅速に変化させるためである。また、目標吐出量変化率ΔQOBJが大きいほど、それに応じて、オイルの吐出量を目標吐出量QOBJに迅速に変化させるためである。
さらに、前記ステップ5及び9による第1及び第2制御弁11、12の制御が繰り返し行われることにより、実オイル吐出量QACTが目標吐出量QOBJに近づき、両者の偏差(QOBJ−QACT)が小さくなることによって、この偏差に応じて前記ステップ7で述べたようにして算出される目標吐出量変化率ΔQOBJは小さくなり、最終的には値0になる。そして、図7に示すように、目標吐出量変化率ΔQOBJが値0になると、目標油圧偏差PHN−PLNは、目標差圧DPOBJに設定される。この目標差圧DPOBJは、目標吐出量QOBJに基づいて、目標吐出量QOBJが得られるような値に算出される。
以上の第1及び第2制御弁11、12の制御により、第1及び第2油圧室供給油圧が制御されることによって、アウターロータ6に対するインナーロータ7の偏心量ECが変化し、オイルの吐出量が目標吐出量QOBJに制御される。
なお、算出された目標油圧偏差PHN−PLNを第1目標油圧PHNから減算することによって、第2目標油圧PLNを算出しているが、この算出を次のようにして行ってもよい。すなわち、目標油圧偏差PHN−PLNを算出せずに、目標吐出圧PHOBJ、目標吐出量変化率ΔQOBJ及び第1目標油圧PHNに応じて、第2目標油圧PLNを算出するためのマップを設定するとともに、このマップを検索することにより、第2目標油圧PLNを算出してもよい。
また、本実施形態における各種の要素と、本発明における各種の要素との対応関係は、次のとおりである。すなわち、本実施形態における第1及び第2制御弁11、12が、本発明における油圧制御手段に相当するとともに、本実施形態におけるスロットル弁開度センサ、42、第1及び第2回転数センサ43、44が、本発明における吐出圧変化率パラメータ検出手段に相当する。また、本実施形態におけるECU2が、本発明における吐出圧取得手段、油圧制御手段、目標吐出圧取得手段、目標吐出量変化率算出手段、及び吐出圧変化率パラメータ検出手段に相当する。
以上のように、本実施形態によれば、インナーロータ7の回転により、アウターロータ6との間に画成された油室OCの容積が増減することによって、吸入ポート4bからオイルが吸入されるとともに、吸入されたオイルが吐出ポート4cに吐出される。吐出ポート4cへのオイルの吐出に伴い、オイルの吐出圧が、アウターロータ6を、吐出ポート4cから径方向の外方に押圧するように、すなわち、スライダーガイド5に押し付けるように作用する。以下、このオイルの吐出圧に起因する押圧力を「外方押圧力」という。
本実施形態によれば、スライダーガイド5を駆動するための油圧が供給される第1油圧室4dが、ハウジング4のうちの吐出ポート4c側の部位に配置されており、第1油圧室供給油圧(第1油圧室4dに供給される油圧)が、オイルの吐出圧の目標値である目標吐出圧PHOBJに応じて制御される(ステップ3〜5)。この場合、目標吐出圧PHOBJが大きいほど、第1油圧室供給油圧の目標値である第1目標油圧PHNがより大きな値に算出される(ステップ4)ので、それにより第1油圧室供給油圧を増大させることで、第1油圧室4dからオイルを漏れ出させ、スライダーガイド5とアウターロータ6の間の隙間のうちの上述した外方押圧力が作用する部分(以下「被押圧隙間部」という)に供給することができる。
被押圧隙間部に供給されたオイルの圧力は、アウターロータ6を、径方向の内方に押圧するように、すなわち外方押圧力と反対側に押圧するように作用する。したがって、第1油圧室供給油圧を上述したように制御することによって、オイルの吐出圧の大小に応じて被押圧隙間部にオイルを適切に供給でき、それにより、アウターロータ6をスライダーガイド5に押し付ける力(以下「ロータ押付け力」という)を小さくすることができる。したがって、アウターロータ6とスライダーガイド5の間の摺動部分の発熱や摩耗を抑制でき、ひいては、可変容量型オイルポンプ1の寿命を延ばすことができる。同じ理由により、アウターロータ6とスライダーガイド5の間の摺動部分の摩擦を抑制でき、ひいては、可変容量型オイルポンプ1の効率を向上させることができる。
また、第1油圧室供給油圧は、スライダーガイド5を駆動するためのものであるので、この第1油圧室供給油圧を上述したように増大制御すると、それにより、スライダーガイド5が不意に駆動されることで、アウターロータ6に対するインナーロータ7の偏心量ECが変更されることによって、可変容量型オイルポンプ1のオイルの所望の吐出量が得られなくなる可能性がある。
本実施形態によれば、第2油圧室2eが、スライダーガイド5を間にして、ハウジング4のうちの第1油圧室4dと反対側の部位に配置されているので、第2油圧室供給油圧(第2油圧室4eに供給される油圧)の押圧力は、スライダーガイド5に対して、第1油圧室供給油圧の押圧力に抗するように作用する。これにより、上述した第1油圧室供給油圧の増大制御でスライダーガイド5が不意に駆動されるのを防止できるため、第1油圧室供給油圧を積極的に増大させ、それにより第1油圧室4dから前述した被押圧隙間部へのオイルの供給をより適切に行うことが可能になる。したがって、前述した効果、すなわち、アウターロータ6とスライダーガイド5の間の摺動部分の発熱や摩耗を抑制できるという効果を、適切に得ることができる。
また、第1油圧室供給油圧の目標値である第1目標油圧PHNに応じて、第2油圧室供給油圧が制御される(ステップ8、9及び図7)。具体的には、第1目標油圧PHNと、第2油圧室供給油圧の目標値である第2目標油圧PLNとの偏差である目標油圧偏差PHN−PLNを算出し、この目標油圧偏差PHN−PLNを第1目標油圧PHNから減算することによって、第2目標油圧PLNが算出される。これにより、第2油圧室供給油圧を、前述したように増大制御された第1油圧室供給油圧に見合うように制御できるので、上述した効果、すなわち、第1油圧室供給油圧の増大制御でスライダーガイド5が不意に駆動されるのを防止できるという効果を、適切に得ることができる。この場合、第2油圧室供給油圧の制御用のパラメータとして、第1油圧室供給油圧の検出値ではなく、第1目標油圧PHNを用いるので、今回の第1油圧室供給油圧に応じて、第2油圧室供給油圧を制御することができる。
さらに、取得された目標吐出圧PHOBJに応じて、第2油圧室供給油圧を制御する(ステップ8、9及び図7)ので、オイルの吐出量を、目標吐出圧PHOBJに応じて変化させることができる。この場合、目標油圧偏差PHN−PLNを、目標吐出圧PHOBJが高いほど、より大きな値に算出するので、目標吐出圧PHOBJが高いとき、すなわち、無段変速機の変速比RATIOを大きく変化させるために、より多量のオイルが必要とされるときに、スライダーガイド5を迅速に移動させ、オイルの吐出量を目標吐出量QOBJに迅速に増大させることができる。
また、オイルの吐出量の変化率の目標値である目標吐出量変化率ΔQOBJを算出する(ステップ7)とともに、算出された目標吐出量変化率ΔQOBJに応じて、第2油圧室供給油圧を制御する(ステップ8、9及び図7)ので、オイルの吐出量を所望の速さで変化させることができる。この場合、目標吐出量変化率ΔQOBJを、目標吐出量QOBJが実オイル吐出量QACTよりも大きいほど、より大きな値に算出するとともに、目標油圧偏差PHN−PLNを、目標吐出量変化率ΔQOBJが大きいほど、より大きな値に算出するので、目標吐出量QOBJに対する実オイル吐出量QACTの隔たりが大きいときに、スライダーガイド5を迅速に移動させ、オイルの吐出量を目標吐出量QOBJに迅速に増大させることができる。
さらに、前述したようにアウターロータ6とその内側のインナーロータ7との間の油室OCの容積を減少させることによって吐出ポート4cにオイルを吐出するという構成上、吐出されたオイルの一部は、スライダーガイド5の内周面とアウターロータ6の外周面の間の隙間に回り込み、アウターロータ6を径方向の内方に押圧するように作用する。
可変容量型オイルポンプ1が定常運転状態にあるときには、オイルの吐出圧が一定であるため、図8に示すように、前述した外方押圧力(オイルの吐出圧に起因する径方向の外方への押圧力)OFと、アウターロータ6の外周面に回り込んだオイルに起因する径方向の内方への押圧力(以下「内方押圧力」という)IFが、互いにほぼ釣り合う。このため、この場合には、前述したロータ押付け力(アウターロータ6をスライダーガイド5に押し付ける力)が比較的小さく、それにより、両者5、6の間の摺動部分における発熱や摩耗がほとんど発生しない。
また、上記の外方押圧力OFは、オイルの吐出圧に起因するものであるのに対して、内方押圧力IFは、アウターロータ6の外周面に回り込んだオイルの圧力に起因するものである。このため、可変容量型オイルポンプ1が過渡運転状態にあり、オイルの吐出圧が急増したときには、外方押圧力OFが内方押圧力IFよりも大きくなり、それによりロータ押付け力が大きくなることによって、アウターロータ6とスライダーガイド5の間の摺動部分の発熱量や摩耗が大きくなる。この場合、オイルの吐出圧の増大度合が大きいほど、外方押圧力OFが内方押圧力IFに対してより大きくなり、それによりロータ押付け力がより大きくなるため、ロータ押付け力を小さくするのに必要な被押圧隙間部へのオイルの供給量は、より大きくなる。
本実施形態によれば、吐出ポート4cに吐出されたオイルの一部を第1油圧室4dに供給するとともに、算出された吐出圧変化率パラメータΔPHに応じて、吐出圧変化率パラメータΔPHが大きいほど、第1油圧室供給油圧がより大きな値に制御される(ステップ2、4、5及び図6)。これにより、吐出ポート4cから第1油圧室4dを介して前述した被押圧隙間部に供給されるオイルの供給量を、オイルの吐出圧の変化状態に応じて制御できるので、吐出されたオイルの一部を被押圧隙間部に無駄なく適切に供給することができる。これにより、前述した効果、すなわち、可変容量型オイルポンプ1の寿命を延ばすことができるとともに、効率を向上させることができるという効果を、有効に得ることができる。
なお、本発明は、説明した実施形態に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。例えば、実施形態では、吐出圧変化率パラメータΔPHは、吐出される油圧の変化率(単位時間当たりの油圧の変化量)であるが、吐出される油圧の変化率を表す他の適当なパラメータ、例えば吐出された油圧の前回値に対する今回値の比でもよい。また、実施形態では、油圧変化率パラメータΔPHを、変速比RATIO及びスロットル弁開度変化率ΔTHに応じて算出(推定)しているが、吐出ポート4cや吐出通路OUTなどのオイルが吐出される部位における油圧をセンサで検出するとともに、その検出値に基づいて算出してもよい。
さらに、実施形では、第1目標油圧PHNの算出用のパラメータとして、目標吐出圧PHOBJ及び吐出圧変化率パラメータΔPHを用いているが、オイルポンプ1に吸入されるオイルの温度をセンサなどで検出するとともに、検出されたオイルの温度をさらに用いてもよい。この場合、第1目標油圧PHNは、オイルの温度が高いほど、より小さくなるように算出される。これは、オイルの温度が高いほど、オイルの粘性が低く、それにより、吐出されたオイルの一部がアウターロータ6の外周面に回り込みやすくなることによって、内方押圧力がより大きくなるので、その分、被押圧隙間部にオイルを供給しなくてもよくなるためである。
また、実施形態では、第1油圧室供給油圧の制御用のパラメータとして、目標吐出圧PHOBJを用いているが、吐出ポート4cや吐出通路OUTなどのオイルが吐出される部位における油圧をセンサなどで検出するとともに、その検出値を用いてもよい。さらに、実施形態では、第2油圧室供給油圧の制御用のパラメータとして、第1目標油圧PHNを用いているが、第1油圧室4dに供給される油圧をセンサなどで検出するとともに、その検出値を用いてもよい。また、実施形態では、第1及び第2制御弁11、12は、リニアソレノイド弁であるが、開度を複数段階に調整可能な電磁弁でもよい。
さらに、実施形態は、第2油圧室4eを有する可変容量型オイルポンプ1に本発明を適用した例であるが、本発明はこれに限らず、第2油圧室4eが省略され、第1油圧室のみを有する可変容量型オイルポンプにも適用可能である。また、実施形態は、ベーン式の可変容量型オイルポンプ1に本発明を適用した例であるが、本発明はこれに限らず、アウタロータ及びインナーロータを有する他の適当な可変容量型オイルポンプ、例えばトロコイド式の可変容量型オイルポンプにも適用可能である。さらに、これまでに述べたバリエーションを適宜、組み合わせてもよいことは、もちろんである。その他、本発明の趣旨の範囲内で、細部の構成を適宜、変更することが可能である。